説明

位相差フィルム

【課題】シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた正のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムであって、位相差層と、透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを提供する。
【解決手段】シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板と、上記透明基板上に接するように形成され、重合性モノマーの重合物を含有し、さらに液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力を有する密着性配向層と、上記密着性配向層上に形成され、液晶材料を含有し、さらに面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立する位相差層と、を有する位相差フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置等に用いられる位相差フィルムに関するものであり、より詳しくはシクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた位相差フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、その省電力、軽量、薄型等といった特徴を有することから、従来のCRTディスプレイに替わり、近年急速に普及している。一般的な液晶表示装置としては、図3に示すように、入射側の偏光板102Aと、出射側の偏光板102Bと、液晶セル104とを有する液晶表示装置100を挙げることができる。偏光板102Aおよび102Bは、所定の振動方向の振動面を有する直線偏光(図中、矢印で模式的に図示)のみを選択的に透過させるように構成されたものであり、それぞれの振動方向が相互に直角の関係になるようにクロスニコル状態で対向して配置されている。また、液晶セル104は画素に対応する多数のセルを含むものであり、偏光板102Aと102Bとの間に配置されている。
【0003】
このような液晶表示装置は、上記液晶セルに用いられる液晶材料の配列形態により種々の駆動方式を用いたものが知られており、今日、普及している液晶表示装置の主たるものは、TN、STN、MVA、IPSおよびOCB等に分類される。なかでも今日においては、上記MVAおよびIPSの駆動方式を有するものが広く普及するに至っている。
【0004】
一方、液晶表示装置は、その特有の問題点として、液晶セルの屈折率異方性に起因する視野角依存性の問題点がある。この視野角依存性の問題は、液晶表示装置を正面から見た場合と、斜め方向から見た場合とで、視認される画像の色味やコントラストが変化してしまう問題である。このような視野角特性の問題は、近年の液晶表示装置の大画面化に伴って、さらにその問題の重大性が増している。
【0005】
このような視野角依存性の問題を改善するため、現在までに様々な技術が開発されており、その代表的な方法として位相差フィルムを用いる方法がある。このような位相差フィルムを用いる方法は、図3に示すように所定の光学特性を有する位相差フィルム30を、液晶セル104と偏光板102Bとの間に配置することにより、視野角依存性の問題を改善する方法である。この方法は位相差フィルム30を液晶表示装置に組み込むことのみで上記視野角依存性の問題点を改善できることから、簡便に視野角特性に優れた液晶表示装置を得ることが可能な方法として広く用いられるに至っている。
ここで、上記位相差フィルムとしては、例えば、透明基板上に、規則的に配列した液晶材料を含有する位相差層が形成された構成を有するものや、延伸フィルムからなるものが一般的に知られている。
なかでも、IPS(In−Plane Switching)方式の液晶表示装置には、液晶材料がホメオトロピック配向することにより、正のCプレートとしての性質を有する位相差層を有する位相差フィルムが用いられている。
【0006】
このような位相差フィルムを構成する透明基板としては従来セルローストリアセテートからなるフィルムが広く用いられてきた。セルローストリアセテートは複屈折性が小さく、光学的等方性に優れる材料であることから光学特性の設計が容易であり、また、天然材料であるセルロースを原材料とするものであるため、工業的に安価で入手可能である点において有用性が高いことがその主たる理由となっている。しかしながら、上記のような液晶表示装置等に用いられる位相差フィルムは、各種液晶表示装置の表示方式等に応じて、所望の複屈折性を備えることが求められるところ、上記セルローストリアセテートは耐熱性が低く、また、吸水性が高いため熱変形や吸湿変形しやすいという問題点があった。また、吸湿に伴う複屈折性の変動が大きいという問題点もあった。
【0007】
このような問題点に対し、特許文献1および特許文献2には上記セルローストリアセテートの替わりに、シクロオレフィン系樹脂を用いた位相差フィルムが開示されている。シクロオレフィン系樹脂は、分子設計によりガラス転移点や、吸湿率を好ましい範囲に制御することが可能であり、良好な耐熱性と適度な吸水性を実現することができるという利点を有する。このため、シクロオレフィン系樹脂を用いることにより、吸水による光学特性変化や寸法変化が少ない位相差フィルムを得ることが可能である。
【0008】
このようなシクロオレフィン系樹脂の利点を活かし、特許文献3には、シクロオレフィン系樹脂からなる基板上に、液晶材料がホメオトロピック配向した位相差層が形成され、IPS方式の液晶表示装置に好適に用いられる正のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムが開示されている。このような位相差フィルムは、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板を用いることで、従来トリアセチルセルロースからなるフィルムが用いられていた際に問題となっていた吸湿変形等を改善できるという利点がある。
しかしながら、上記シクロオレフィン系樹脂は、一般的に上記位相差層に用いられる液晶材料との接着性が低いため、特許文献3に記載されたような位相差フィルムは、位相差層と透明基板との密着性が低く、実用性に乏しいという問題点があった。
この点、特許文献4には、アクリル系樹脂等からなる粘着剤を用いて、ホメオトロピック配向した位相差層と、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板とを接着させる思想が開示されているが、このような粘着剤を用いてもなお位相差層と透明基板との接着性を十分なものとすることは困難であった。
【0009】
このようなことから、シクロオレフィン系樹脂が用いられた位相差フィルムは、上述したような利点を有するものの、実用性に欠けるという問題点があった。
【0010】
【特許文献1】特開2005−8698号公報
【特許文献2】特開2004−309979号公報
【特許文献3】特開2002−174725号公報
【特許文献4】特開2003−121853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた、正のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムであって、位相差層と透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板と、上記透明基板上に接するように形成され、重合性モノマーの重合物を含有し、さらに液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力を有する密着性配向層と、上記密着性配向層上に形成され、液晶材料を含有し、さらに面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立する位相差層と、を有する位相差フィルムであって、上記重合性モノマーが、下記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有するものであり、かつ、上記重合性モノマーを構成する炭素数Nを、上記重合性モノマーを構成する炭素および水素以外の元素数Mで除した値(N/M)(以下、単に「炭素含有比」と称する場合がある。)が3以上であることを特徴とする位相差フィルムを提供する。
【0013】
【化1】

【0014】
ここで、上記式においてR、R、Rは、メチル基または水素を表す。また、R4は、水素、メチル基またはエチル基を表す。
【0015】
本発明によれば、上記密着性配向層に上記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有し、かつ、炭素含有比が3以上である重合性モノマーの重合物が含まれることにより、上記密着性配向層と、上記シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板および液晶材料を含有する位相差層との密着性を向上することができる。このため、本発明によればシクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた位相差フィルムであって、上記位相差層と上記透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
また、上記位相差層が面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立するものであることにより、本発明の位相差フィルムに正のCプレートとしての性質を付与することができる。
このようなことから、本発明によればシクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた正のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムであって、位相差層と、透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0016】
本発明においては、上記密着性配向層に界面活性剤が含まれていることが好ましい。これにより、別途垂直配向層等を用いることなく、上記密着性配向層に液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力を付与することが可能だからである。
【0017】
また、上記課題を解決するために本発明は、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板と、上記透明基板上に接するように形成され、重合性モノマーの重合物を含有する密着機能層と、上記密着機能層上に形成され、ホメオトロピック配向性を有する液晶材料を含有し、さらに面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立する位相差層と、を有する位相差フィルムであって、上記重合性モノマーが、下記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有するものであり、かつ、上記重合性モノマーを構成する炭素数Nを、上記重合性モノマーを構成する炭素および水素以外の元素数Mで除した値(N/M)が3以上であることを特徴とする位相差フィルムを提供する。
【0018】
【化2】

【0019】
ここで、上記式においてR、R、Rは、メチル基または水素を表す。また、R4は、水素、メチル基、または、エチル基を表す。
【0020】
本発明によれば、上記密着機能層に上記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有し、かつ、炭素含有比が3以上である重合性モノマーの重合物が含まれることにより、上記密着機能層と、上記シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板との密着性を向上することができる。このため、本発明によればシクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた位相差フィルムであって、上記位相差層と上記透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
また、上記位相差層が面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立するものであることにより、本発明の位相差フィルムに正のCプレートとしての性質を付与することができる。
このようなことから、本発明によればシクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた正のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムであって、位相差層と、透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた正のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムであって、位相差層と、透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の位相差フィルムについて説明する。なお、本発明の位相差フィルムはその構成の相違により2つの態様に分類することができる。したがって、以下、各態様に分けて、本発明の位相差フィルムについて説明する。
【0023】
A.第1態様の位相差フィルム
まず、本発明の第1態様の位相差フィルムについて説明する。本態様の位相差フィルムは、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板と、上記透明基板上に接するように形成され、重合性モノマーの重合物を含有し、さらに液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力を有する密着性配向層と、上記密着性配向層上に形成され、液晶材料を含有し、さらに面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立する位相差層と、を有するものであって、上記重合性モノマーが、上記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有し、かつ、炭素含有比が3以上であることを特徴とするものである。
【0024】
このような本態様の位相差フィルムについて図を参照しながら説明する。図1は本態様の位相差フィルムの一例を示す概略図である。図1に例示するように本態様の位相差フィルム10は、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板1と、上記透明基板1上に形成され、液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力を有する密着性配向層2と、上記密着性配向層2上に形成され、液晶材料を含有する位相差層3とを有するものである。
このような例において本態様の位相差フィルム10は、上記密着性配向層2に、上記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有し、かつ、炭素含有比が3以上である重合性モノマーの重合物が含まれるものであり、また、上記位相差層3が、面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立するものであることを特徴とするものである。
なお、本態様の位相差フィルム10においては、上記密着性配向層2が液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力を有するものであることから、この密着性配向層2の作用により、上記位相差層3に含有される液晶材料は、通常、ホメオトロピック配向を形成しているものとなる。
【0025】
本態様によれば、上記密着性配向層に上記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有し、かつ、炭素含有比が3以上である重合性モノマーの重合物が含まれることにより、上記密着性配向層と、上記シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板との密着性を向上することができる。このため、本態様によればシクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた位相差フィルムであって、上記位相差層と上記透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
ここで、上記密着性配向層に上記構造を有する重合性モノマーの重合物が含有されることにより、上記透明基板と上記密着性配向層との密着性を向上できるのは次のような理由に基づくと考えられる。
すなわち、シクロオレフィン系樹脂は一般的に位相差フィルム等に用いられる液晶材料等とは接着性が悪いという問題があったが、これはシクロオレフィン系樹脂が位相差フィルム用の透明基板に広く用いられてきたセルローストリアセテートよりも、分子の極性が低いことが主たる原因であったと考えられる。
この点、本態様の位相差フィルムにおいては上記密着性配向層に含有される重合性モノマーの重合物を構成する重合性モノマーが、上記式(I)、(II)、(III)、(IV)および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有するものであり、かつ、炭素含有比が3以上であるものであることにより、上記重合性モノマーの極性を上記シクロオレフィン系樹脂の極性に近似させることができる。このため、本態様に用いられる上記重合性モノマーの重合物は、シクロオレフィン系樹脂との密着性に優れたものとなるため、上記密着性配向層と上記透明基板との密着性を向上することができると考えられる。
【0026】
また、上記位相差層が面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立するものであることにより、本態様の位相差フィルムに正のCプレートとしての性質を付与することができる。
なお、本態様においては、上記密着性配向層が液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力を有するものであることから、上記位相差層に含有される液晶材料は、通常、上記密着性配向層の作用によりホメオトロピック配向を形成したものとなる。このため、本態様においては、このようなホメオトロピック配向を形成した液晶材料の複屈折性の寄与により、当然に上記位相差層を上記nx、ny、nzに上記関係が成立するものにすることができる。
このようなことから、本態様によればシクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた正のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムであって、位相差層と、透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0027】
本態様の位相差フィルムは、少なくとも、透明基板、密着性配向層、および、位相差層を有するものである。
以下、本態様の位相差フィルムに用いられる各構成について順に説明する。
【0028】
1.密着性配向層
まず、本態様に用いられる密着性配向層について説明する。本態様に用いられる密着性配向層は、上記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有し、かつ、炭素含有比が3以上である重合性モノマーの重合物を含有し、さらに液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力を有するものである。そして、本態様に用いられる密着性配向層は、後述する位相差層に含有される液晶材料をホメオトロピック配向させ、位相差層に正のCプレートとしての性質を付与する機能と、後述する透明基板および位相差層を接着する機能とを有するものである。
以下、このような密着性配向層について詳細に説明する。
【0029】
(1)重合性モノマー
まず、本態様に用いられる重合性モノマーについて説明する。本態様に用いられる重合性モノマーは、上記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有し、かつ、上記炭素含有比が3以上であるものである。本態様においては、重合性モノマーの炭素含有比が上記範囲であることにより、上記重合性モノマーの極性を、後述する透明基板を構成するシクロオレフィン系樹脂の極性に近似させることができるため、密着性配向層と後述する透明基板との密着性を向上することができるのである。
【0030】
本態様に用いられる重合性モノマーの炭素含有比は、本態様で規定する範囲内であれば特に限定されるものではなく、後述する透明基板を構成するシクロオレフィン系樹脂の種類等に応じて任意に決定することができる。なかでも本態様に用いられる重合性モノマーは、炭素含有比が3〜10の範囲内であるものが好ましく、特に3〜7の範囲内であるものが好ましく、さらには3〜5の範囲内であるものが好ましい。炭素含有比は、その値が大きいほど上記重合性モノマーの極性が小さいことを示すものであるため、炭素含有比が上記範囲よりも小さいと、重合性モノマーの極性が大きくなりすぎ、後述する透明基板を構成するシクロオレフィン系樹脂の極性との差が拡がる結果、後述する透明基板と密着性配向層との密着性が不十分となってしまう可能性があるからである。また、上記範囲よりも大きいと、重合性モノマーに含有される重合性官能基の割合が小さくなりすぎ、密着性配向層の耐溶剤性が損なわれてしまう場合があるからである。
【0031】
ここで、上述したように炭素含有比は、上記重合性モノマーを構成する炭素数Nを、上記重合性モノマーを構成する炭素および水素以外の元素数Mで除した値(N/M)であるが、上記「重合性モノマーを構成する炭素数N」とは、上記重合性モノマーを分子式で示した際に、表記される炭素の数を意味するものである。また、上記「重合性モノマーを構成する炭素および水素以外の元素数M」とは、上記重合性モノマーを分子式で示した際に、表記される炭素および水素以外の元素の数の総和を意味するものである。したがって、例えば、分子式がC1218である1,6−ヘキサンジオールジアクリレートの場合、上記重合性モノマーを構成する炭素数Nは12となり、上記重合性モノマーを構成する炭素および水素以外の元素数Mは4となるため、上記N/Mは3ということになる。また、分子式がC11NOであるアクリロイルモルホリンの場合、上記重合性モノマーを構成する炭素数Nは7となり、上記重合性モノマーを構成する炭素および水素以外の元素数Mは3(窒素+酸素)となるため、上記N/Mは2.3ということになる。
【0032】
本態様に用いられる重合性モノマーは、分子中に上記重合性官能基を1つ含有するものであっても良く、または、複数の重合性官能基を含有するものであっても良い。なかでも本態様においては、複数の重合性官能基を含有する重合性モノマーを用いることが好ましい。これにより、密着性配向層における重合性モノマーの重合物の架橋密度を密にできるため、耐溶剤性に優れた密着性配向層を得ることができるからである。
【0033】
なお、本態様に用いられる重合性モノマーが上記重合性官能基が複数結合してなるものである場合、上記重合性官能基はすべて同一であっても良く、または、それぞれ異なっていても良い。
【0034】
また、本態様に用いられる重合性モノマーは、脂肪族炭化水素を有するものであることが好ましい。脂肪族炭化水素を有することにより、炭素含有比を本態様で規定する範囲内とし、本態様に用いられる重合性モノマーの極性を、後述する透明基板に用いられるシクロオレフィン系樹脂の極性に近いものとすることが容易になるからである。
【0035】
本態様に用いられる上記脂肪族炭化水素としては、直鎖状のものであっても良く、分岐鎖状のものであっても良く、さらには、環状のものであっても良いが、なかでも直鎖状または環状のものが好ましい。上記炭化水素鎖が直鎖状または環状のものであることにより、上記重合性モノマーの分子構造を、後述する透明基板に用いられるシクロオレフィン系樹脂の分子構造により近似させることができるため、両者の極性をより近いものにすることが可能になる結果、より透明基板と密着性配向層との密着性に優れた位相差フィルムを得ることができるからである。
【0036】
また、本態様に用いられる重合性モノマーは、水酸基価が150mgKOH/g以下であることが好ましく、なかでも50mgKOH/g以下であることが好ましく、特に5mgKOH/g以下であることが好ましい。また、本態様に用いられる重合性モノマーは、酸価が150mgKOH/g以下であることが好ましく、なかでも50mgKOH/g以下であることが好ましく、特に5mgKOH/g以下であることが好ましい。
本態様に用いられる重合性モノマーが極性の大きい水酸基、酸性基(カルボン酸、リン酸、スルホン酸等)を有し、水酸基価および酸価のいずれかが150mgKOH/gより高いと、炭素含有比を本態様で規定する範囲内にしても、上記重合性モノマーの極性を後述するシクロオレフィン系樹脂の極性に近似されることが困難となり、密着性配向層と透明基板との密着性が低下する場合も想定されるからである。
ここで、上記水酸基価はJIS K0070に準拠した方法により測定することができる。また、上記酸価は、JIS K2501に準拠した方法により測定することができる。
【0037】
本態様に用いられる重合性モノマーの具体例としては、例えば、下記式(VI)、(VII)で表される重合性モノマーを例示することができる。
【0038】
【化3】

【0039】
【化4】

【0040】
上記式において、X、X、および、Xはそれぞれ独立して上記式(I)、(II)、(III)、(IV)および、(V)のいずれかの重合性官能基を表す。また、Yは、‐C2m+1(mは4〜17の整数)で表される直鎖状または分岐鎖状の炭化水素、シクロヘキシル基、イソボルニル基、未置換またはアルキル基で置換されたフェニル基、または、ビフェニル基を表す。r、r、rおよびrは、それぞれ独立して0または1である。
さらに、Yは、‐C2n‐(nは1〜34の整数)で表される直鎖状、または、分岐鎖状の炭化水素、シクロヘキシル基、トリシクロデカンジメチル基、フェニル基、または、ビフェニル基を表す。
【0041】
本態様においては上記式(VI)、(VII)で表される上記重合性モノマーのなかでも次のような重合性モノマーを好適に用いることができる(以下、< >内の数値は、各化合物の炭素含有比を示す。)。
【0042】
上記式(I)で表される重合性官能基を有する重合性モノマー;シクロヘキシルアクリレート<4.5>、イソボルニルアクリレート<6.5>、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート<3>、1,9−ノナンジオールジアクリレート<3.75>、2−メチル−1,8−オクタンジオールジアクリレート<3.75>、2−ブチル−2−エチル−1,4−プロパンジオールジアクリレート<3.75>、1,10−デカンジオールジアクリレート<3.75>、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート<4.5>。
上記式(II)で表される重合性官能基を有する重合性モノマー;1,6−ヘキサンジオールジビニルエーテル<5>、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル<5>、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル<6>、ノナンジオールジビニルエーテル<6.5>、トリメチルプロパントリビニルエーテル<4>。
上記式(III)で表される重合性官能基を有する重合性モノマー;エチルヘキシルグリシジルエーテル<5.5>。
上記式(III)および(IV)で表される重合性官能基を有する重合性モノマー;ジペンテンジオキシド<5>。
上記式(V)で表される重合性官能基を有する重合性モノマー;3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン<7>、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル<4>。
上記式(I)および(V)で表される重合性官能基を有する重合性モノマー;3−エチル−3−オキセタニルメチルアクリレート<3>。
【0043】
なお、本態様における密着性配向層に上記重合性モノマーの重合物が含まれることは、例えば、NMR解析により明らかにすることができる。
【0044】
(2)重合性モノマーの重合物
次に、本態様に用いられる重合性モノマーの重合物について説明する。本態様に用いられる重合性モノマーの重合物は、上述した重合性モノマーが重合されてなるものである。
【0045】
本態様に用いられる重合性モノマーの重合物としては、上述した重合性モノマーを重合することにより得られるものであれば特に限定されるものではない。このような重合性モノマーの重合物の態様としては、同一の重合性モノマーのみが重合されてなる態様と、2種類以上の重合性モノマーが重合されてなる態様とを挙げることができる。本態様においてはいずれの態様の重合性モノマーの重合物であっても好適に用いることができるが、なかでも、同一の重合性モノマーのみが重合されてなる態様の重合性モノマーの重合物を用いることが好ましい。
【0046】
(3)密着性配向層
本態様における密着性配向層は、液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力(以下、単に「ホメオトロピック配向規制力」と称する場合がある。)を有するものであるが、本態様における密着性配向層がこのようなホメオトロピック配向規制力を有する態様としては、後述する位相差層中に含有される液晶材料を所定の程度にホメオトロピック配向させ、上記位相差層に所定の正のCプレートとしての性質を付与できる態様であれば特に限定されるものではない。このような態様としては、密着性配向層にホメオトロピック配向規制力を発現する配向制御化合物を含有する態様と、上記密着性配向層が、上記重合性モノマーの重合物を含有する密着層上に、上記ホメオトロピック配向規制力を備える配向層が積層された態様とを挙げることができる。本態様においては、これらのいずれの態様であっても好適に用いることができるが、なかでも前者の態様を用いることが好ましい。上記前者の態様によれば、密着性配向層に上記配向制御化合物を添加するのみで、簡便に密着性配向層に上記ホメオトロピック配向規制力を付与することができるからである。また、上記後者の態様では、本態様における密着性配向層を形成する際に、上記密着層を形成する工程と、上記配向層を形成する工程との2工程を必要とするが、上記前者の態様によれば1工程で密着性配向層を形成することができるため、本態様の位相差フィルムをより生産性に優れたものにできるからである。
【0047】
上記配向制御化合物としては、本態様における密着性配向層に所望のホメオトロピック配向規制力を付与できるものであれば特に限定されるものではない。なかでも本態様に用いられる配向制御化合物としては、界面活性剤を好適に用いることができる。界面活性剤は密着性配向層において、密着性配向層と後述する位相差層との境界に存在することができ、かつ、分子の特定の方向を上記位相差層側に向けて配列することができるため、本態様における密着性配向層に上記ホメオトロピック配向規制力を容易に付与することができるからである。
【0048】
本態様に用いられる上記界面活性剤としては、例えば、スルホネート界面活性剤を挙げることができ、特に、フッ化スルホネート界面活性剤が好適に用いられる。
【0049】
上記フッ化スルホネート界面活性剤の具体例としては、例えば、商品名 FC−4430、FC−4432(いずれも3M Company製)を挙げることができる。
【0050】
上記密着性配向層中における上記配向制御化合物の含有量としては、上記配向制御化合物の種類等に応じて、密着性配向層に所望のホメオトロピック配向規制力を付与できる範囲内であれば特に限定されるものではない。なかでも本態様における上記配向制御化合物の含有量は、上記密着性配向層に含有される重合性モノマーの重合物に対して0.01質量%〜20質量%の範囲内であることが好ましく、特に0.01質量%〜10質量%の範囲内であることが好ましい。
【0051】
なお、本態様における密着性配向層として、上記重合性モノマーの重合物を含有する密着層上に、上記ホメオトロピック配向規制力を備える配向層が積層された構成を有するものを用いる場合、上記配向層としては、例えば、ポリアミック酸、ポリイミドなどからなる液晶垂直配向膜を挙げることができる。このような配向層としては、例えば、特開2005−115231号公報等に記載されているものを用いることができる。
【0052】
本態様における密着性配向層は上記重合性モノマーの重合物を含むものである。このため、本態様における密着性配向層の態様としては、上記重合性モノマーの重合物のみからなる態様と、上記重合性モノマーの重合物と、他の化合物とが含まれる態様とを挙げることができる。本態様においては、これらのいずれの態様であっても好適に用いることができるが、なかでも上記重合性モノマーの重合物以外に他の化合物が含まれる態様が好ましい。上記重合性モノマーの重合物以外に他の化合物が含まれることにより、本態様における密着性配向層に、本態様の位相差フィルムの用途に応じた機能性を付与することが可能になるからである。
【0053】
本態様に用いられる上記他の化合物としては、上記密着性配向層に所望の機能性を付与できるものであれば特に限定されるものではない。このような他の化合物としては、例えば、上述した配向制御化合物等を挙げることができる。
【0054】
2.位相差層
次に、本態様に用いられる位相差層について説明する。本態様に用いられる位相差層は、液晶材料を含有し、面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立するものである。
【0055】
ここで、本態様においては、上述した密着性配向層のホメオトロピック配向規制力が位相差層に含有される液晶材料のホメオトロピック配向形成に寄与するため、上記液晶材料は、通常、位相差層においてホメオトロピック配向を形成していることになる。そして、このような液晶材料のホメオトロピック配向により、本態様の位相差層は上記nx=ny<nzの関係が成立するものになるのである。
したがって、本態様に用いられる位相差層が上記nx=ny<nzの関係を有することは、位相差層において上記液晶材料がホメオトロピック配向を形成していることと同意であるといえる。
【0056】
以下、本態様に用いられる位相差層について説明する。
【0057】
(1)液晶材料
まず、上記液晶材料について説明する。本態様に用いられる液晶材料としては、位相差層の上記nx、ny、および、nzに上記関係が成立する位相差性を付与できるものであれば特に限定されるものではない。このような液晶材料としては、通常、ホメオトロピック配向させることが可能なホメオトロピック液晶材料が用いられる。
【0058】
本態様に用いられるホメオトロピック液晶材料は、重合性官能基を有するものであることが好ましい。このような液晶材料を用いることにより、重合性官能基を介して互いに重合させることができるため、本態様における位相差層の機械強度を向上することができるからである。また、位相差層中におけるホメオトロピック液晶材料の配向安定性も向上させることができるからである。
【0059】
上記重合性官能基としては、紫外線、電子線等の電離放射線、或いは熱の作用によって重合する各種重合性官能基が用いられる。これら重合性官能基の代表例としては、ラジカル重合性官能基、或いはカチオン重合性官能基等が挙げられる。さらにラジカル重合性官能基の代表例としては、少なくとも一つの付加重合可能なエチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が挙げられ、具体例としては、置換基を有するもしくは有さないビニル基、アクリレート基(アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基を包含する総称)等が挙げられる。又、カチオン重合性官能基の具体例としては、エポキシ基等が挙げられる。その他、重合性官能基としては、例えば、イソシアネート基、不飽和三重結合等が挙げられる。本態様においては、これらの重合性官能基のなかでもプロセス上の点から、エチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が好適に用いられる。
【0060】
なお、本態様に用いられるホメオトロピック液晶材料は、上記重合性官能基を複数有するものであっても良く、または、1つのみを有するものであっても良い。
【0061】
このようなホメオトロピック液晶材料としては、垂直配向膜を使用することなく、ホメオトロピック配向を形成できるホメオトロピック配向性を有するもの(第1のホメオトロピック液晶材料)と、単独ではホメオトロピック配向を形成することができないが、垂直配向膜を使用することによりホメオトロピック配向を形成できるもの(第2のホメオトロピック液晶材料)と、を挙げることができる。本態様の位相差フィルムは、上記密着性配向層がホメオトロピック配向規制力を有するものであるため、上記第1のホメオトロピック液晶材料はもちろんのこと、上記第2のホメオトロピック液晶材料であっても好適に用いることができる。
【0062】
上記第1のホメオトロピック液晶材料としては、垂直配向膜を使用することなくホメオトロピック配向を形成することができ、本態様における位相差層に所望の位相差性を付与できるものであれば特に限定されるものではない。このような第1のホメオトロピック液晶材料としては、正の屈折率異方性を有する液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニットと、非液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニットとを含有する側鎖型液晶ポリマーや、上記液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニットと脂環族環状構造を有する液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニットとを含有する側鎖型液晶ポリマー等の液晶ポリマーを挙げることができる。このような液晶ポリマーとしては、例えば、特開2003−121853号公報、特開2002−174725号公報、および、特開2005−70098号公報に記載されているような化合物を挙げることができる。
【0063】
一方、上記第2のホメオトロピック液晶材料としては、垂直配向膜を使用することによりホメオトロピック配向を形成することができ、本態様における位相差層に所望の位相差性を付与できるものであれば特に限定されるものではない。なかでも、本態様においては、ネマチック相を示すネマチック液晶材料が好適に用いられる。ネマチック液晶材料は、垂直配向膜を用いることにより、容易にホメオトロピック配向を形成することが可能だからである。
【0064】
本態様に用いられる上記第2のホメオトロピック液晶材料の具体例としては、例えば、特開平7−258638号公報や特表平10−508882号公報、特開2003−287623号公報に記載されているような化合物を挙げることができる。なかでも本態様においては、上記第2のホメオトロピック液晶材料として、以下の化学式で表される化合物を好適に用いることができる。
【0065】
【化5】

【0066】
また、上記第2のホメオトロピック液晶材料の具体例としては、例えば、特開平10−319408号公報に記載されているような化合物を挙げることができる。なかでも本態様においては、上記第2のホメオトロピック液晶材料として、以下の化学式で表される化合物を好適に用いることができる。
【0067】
【化6】

【0068】
上記式において、xは1〜12であり、Zは1,4−フェニレン基または1,4−シクロヘキシレン基であり、Rはハロゲンまたはシアノであるか、あるいは炭素原子1〜12個を有するアルキル基またはアルコキシ基であり、そしてLは、H、ハロゲンまたはCNであるか、あるいは炭素原子1〜7個を有するアルキル基、アルコキシ基またはアシル基である。
【0069】
なお、上記液晶材料として重合性官能基を有する化合物を用いた場合、本態様における位相差層に含有される液晶材料は、上記重合性官能基を介して重合された重合物となる。
【0070】
(2)位相差層
本態様における位相差層に含有される液晶材料は1種類でも良く、または、2種類以上であっても良い。また、2種類以上の液晶材料を用いる場合、上記第1のホメオトロピック液晶材料と、上記第2のホメオトロピック液晶材料とを混合して用いても良い。
【0071】
また、本態様における位相差層には、上記液晶材料以外の他の化合物が含まれていても良い。このような他の化合物としては、位相差層における上記液晶材料の配列状態や、位相差層の光学特性発現性を損なわないものであれば特に限定されるものではなく、本態様の位相差フィルムの用途等に応じて適宜選択して用いることができる。このような他の化合物としては、例えば、重合開始剤、重合禁止剤、可塑剤、界面活性剤、および、シランカップリング剤等を挙げることができる。なかでも本態様においては、上記液晶材料として上記重合性液晶材料を用いる場合、上記他の化合物として重合開始剤または重合禁止剤を用いることが好ましい。
【0072】
上記重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビス(ジメチルアミン)ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミン)ベンゾフェノン、α−アミノ・アセトフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、ベンジルメトキシエチルアセタール、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、β−クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンズスベロン、メチレンアントロン、4−アジドベンジルアセトフェノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)シクロヘキサン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン、2−フェニル−1,2−ブタジオン−2−(o−メトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1,3−ジフェニル−プロパントリオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−3−エトキシ−プロパントリオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム、ミヒラーケトン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、n−フェニルチオアクリドン、4,4−アゾビスイソブチロニトリル、ジフェニルジスルフィド、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホスフィン、カンファーキノン、アデカ社製N1717、四臭化炭素、トリブロモフェニルスルホン、過酸化ベンゾイン、エオシン、メチレンブルー等の光還元性色素とアスコルビン酸やトリエタノールアミンのような還元剤との組み合わせ等を例示できる。本態様では、これらの光重合開始剤を1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
さらに、上記光重合開始剤を用いる場合には、光重合開始助剤を併用することができる。このような光重合開始助剤としては、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン等の3級アミン類や、2−ジメチルアミノエチル安息香酸、4−ジメチルアミド安息香酸エチル等の安息香酸誘導体を例示することができるが、これらに限られるものではない。
【0074】
上記重合禁止剤としては、例えば、ジフェニルピクリルヒドラジド、トリ−p−ニトロフェニルメチル,p−ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール、ピクリン酸、塩化銅、メチルハイドロキノン、メトキノン、tert−ブチルハイドロキノン等の反応の重合禁止剤を用いることができるが、なかでも保存安定性の点からハイドロキノン系重合禁止剤が好ましく、メチルハイドロキノンを用いるのが特に好ましい。
【0075】
また上記界面活性剤は、位相差層において液晶材料のホメオトロピック配向を補助する機能を有するものであるが、このようなこのような界面活性剤については、上記「1.密着性配向層」の項において説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0076】
さらに、本態様における位相差層には、本態様の目的を損なわない範囲内で、下記に示すような化合物を添加することができる。添加できる化合物としては、例えば、多価アルコールと1塩基酸または多塩基酸を縮合して得られるポリエステルプレポリマーに、(メタ)アクリル酸を反応させて得られるポリエステル(メタ)アクリレート;ポリオール基と2個のイソシアネート基を持つ化合物を互いに反応させた後、その反応生成物に(メタ)アクリル酸を反応させて得られるポリウレタン(メタ)アクリレート;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリカルボン酸ポリグリシジルエステル、ポリオールポリグリシジルエーテル、脂肪族または脂環式エポキシ樹脂、アミノ基エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシベンゼン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂と、(メタ)アクリル酸を反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート等の光重合性化合物;アクリル基やメタクリル基を有する光重合性の液晶性化合物等が挙げられる。
【0077】
本態様における位相差層の厚みは、上記液晶材料の種類等に応じて、本態様に用いられる位相差フィルムに所望の光学特性を付与できる範囲内であれば特に限定されない。なかでも本態様においては0.5μm〜10μmの範囲内であることが好ましく、特に0.5μm〜5μmの範囲内であることが好ましく、さらに1μm〜3μmの範囲内であることが好ましい。
【0078】
本態様における位相差層は位相差性を示すものであるが、このような位相差性は、本態様の位相差フィルムの用途等に応じて任意に調整することができる。なかでも本態様における位相差層は、厚さ方向のレターデーション(Rth)が、−1000nm〜0nmの範囲内であることが好ましく、特に−300nm〜0nmの範囲内であることが好ましい。
ここで、上記厚さ方向レターデーション(以下、単に「Rth」と称する場合がある。)とは、面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率をそれぞれnx、ny、厚み方向の屈折率をnzとしたときに、Rth={(nx+ny)/2−nz}×dで表される量である。また、上記厚さ方向レターデーションは、例えば、王子計測機器株式会社製 KOBRA−WRを用い、平行ニコル回転法によって測定することができる。
【0079】
3.透明基板
次に、本態様に用いられる透明基板について説明する。本発明に用いられる透明基板はシクロオレフィン系樹脂からなるものである。
【0080】
ここで、本態様におけるシクロオレフィン系樹脂とは、環状オレフィン(シクロオレフィン)からなるモノマーのユニットを有する樹脂を意味するものである。また、上記環状オレフィンからなるモノマーとしては、例えば、ノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマー等を挙げることができる。
【0081】
本態様に用いられるシクロオレフィン系樹脂は上記環状オレフィンからなるモノマーの単独重合体であっても良く、または、共重合体であっても良い。
【0082】
本態様に用いられるシクロオレフィン系樹脂としては、所望の透明性を備える透明基板を得ることができるものであれば特に限定されるものではない。なかでも本態様に用いられるシクロオレフィン系樹脂は、23℃における飽和吸水率が1質量%以下であるもの好ましく、なかでも0.1質量%〜0.7質量%の範囲内であるものが好ましい。このようなシクロオレフィン系樹脂を用いることにより、本態様の位相差フィルムを吸水による光学特性の変化や寸法の変化がより生じにくいものとすることができるからである。
ここで、上記飽和吸水率は、上記吸水率は、ASTMD570に準拠し23℃の水中で1週間浸漬して増加重量を測定することにより求められる。
【0083】
また、本態様に用いられるシクロオレフィン系樹脂は、ガラス転移点が100℃〜200℃の範囲内であるものが好ましく、特に100℃〜180℃の範囲内であるものが好ましく、なかでも100℃〜150℃の範囲内であるものが好ましい。ガラス転移点が上記範囲内であることにより、本態様の位相差フィルムを耐熱性および加工適性により優れたものにできるからである。
【0084】
このようなシクロオレフィン系樹脂としては、例えば、下記式(a)、または、下記式(b)で表される構成単位を有するものを挙げることができる。
【0085】
【化7】

【0086】
【化8】

【0087】
ここで、上記式(a)において、tおよびuはそれぞれ独立に0または正の整数を表すが、tおよびuが同時に0である場合は除く。また、Aはエチレン基またはビニレン基を示し、R11〜R14は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数が1〜30の炭化水素基、または、−(CH)n−COOR(nは0〜5、Rは炭素数1〜12のアルキル基を示す。)を示す。
ここで、上記R11またはR12と、R13またはR14とは相互に結合して炭素環または複素環を形成しても良い。さらに、上記炭素環または複素環は単環構造であっても良く、または、多環構造であっても良い。
【0088】
また、上記式(b)において、Bはエチレン基またはビニレン基を示す。R15〜R18は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数が1〜30の炭化水素基を示す。さらに、R15およびR16、または、R17およびR18は一体化して2価の炭化水素基を形成しても良い。
【0089】
本態様に用いられる透明基板には上記シクロオレフィン系樹脂が1種類のみ用いられていても良く、または、2種類以上用いられていても良い。
【0090】
本態様に用いられる透明基板の透明度は、本態様の位相差フィルムの用途等に応じて任意に決定すればよいが、通常、可視光領域における透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。透過率が上記範囲であることにより、例えば、本態様の位相差フィルムを液晶表示装置の視野角補償フィルムに用いた場合に、液晶表示装置の表示輝度が低下すること等を防止することができるからである。
ここで、透明基板の透過率は、JIS K7361−1(プラスチックー透明材料の全光透過率の試験方法)により測定することができる。
【0091】
本態様に用いられる透明基板の厚みは、所望の自己支持性を備えることができる範囲内であれば特に限定されない。なかでも本態様においては25μm〜1000μmの範囲内であること好ましく、特に30μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。透明基板の厚みが上記の範囲よりも薄いと、本態様の透明基板に必要な自己支持性を付与することができない場合があるからである。また、厚みが上記の範囲よりも厚いと、例えば、本本態様の位相差フィルムを裁断加工する際に、加工屑が増加したり、裁断刃の磨耗が早くなってしまう場合があるからである。
【0092】
本態様における透明基板の構成は、単一の層からなる構成に限られるものではなく、複数の層が積層された構成を有してもよい。複数の層が積層された構成を有する場合は、同一組成の層が積層されてもよく、また、異なった組成を有する複数の層が積層されても良い。
【0093】
本態様に用いられる透明基板は位相差性を示すものであっても良い。このような位相差性としては、本態様の位相差フィルムの用途等に応じて、位相差フィルムに所望の屈折率異方性を付与できる範囲であれば特に限定されない。なかでも本態様に用いられる透明基板は、面内レターデーションが0nm〜1000nmの範囲内であるものが好ましく、特に0nm〜300nmの範囲内であるものが好ましい。
ここで、上記の面内レターデーション(以下、単に「Re」と称する場合がある。)とは、透明基板の面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内の進相軸方向の屈折率をny、および、透明基板の厚みをdとした場合に、Re=(nx−ny)×dで表されるものである。また、上記Reは、例えば、王子計測機器株式会社製 KOBRA−WRを用い、平行ニコル回転法によって測定することができる。
【0094】
本態様に用いられるシクロオレフィン系樹脂からなる透明基板の具体例としては、例えば、Ticona社製 Topas、ジェイエスアール社製 アートン、日本ゼオン社製 ZEONOR、日本ゼオン社製 ZEONEX、三井化学社製 アペル等を挙げることができる。
【0095】
4.位相差フィルム
本態様の位相差フィルムが示す位相差性は、本態様の位相差フィルムの用途等に応じて適宜決定することができるが、なかでも本態様の位相差フィルムは、Nzファクターが
1.0以下であることが好ましく、特に−1.5≦Nz<1.0の範囲内であることが好ましい。
ここで、上記Nzファクターは屈折率楕円体の形状を規定するパラメーターであり、面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとにより、以下の式で表されるものである。
Nz=(nx−nz)/(nx−ny)
なお、上記Nzファクターは、例えば、王子計測機器株式会社製 KOBRA−WRを用い、平行ニコル回転法によって上記nx、ny、および、nzを測定した後、上記式にしたがって算出することにより求めることができる。
【0096】
また、本態様の位相差フィルムのReの波長分散は、波長が短くなるほどRe値が小さくなる逆分散型であっても良く、波長が短くなるほどRe値が大きくなる正分散型であっても良く、または、Re値に波長依存性を有さないフラット型であっても良い。
【0097】
本態様の位相差フィルムの形態は特に限定されるものではなく、例えば、本態様の位相差フィルムを用いる液晶表示装置の画面サイズに合致したシート状であっても良く、または、長尺状であっても良い。
【0098】
5.位相差フィルムの用途
本態様の位相差フィルムは、液晶表示装置に用いられる視野角補償フィルム、楕円偏光板、輝度向上フィルム等として用いることができる。
【0099】
本態様の位相差フィルムを液晶表示装置の視野角補償フィルムとして用いる場合においては、本態様の位相差フィルムを単体で用いることも可能であり、また、本態様の位相差フィルムと他の光学機能フィルムと積層して用いることも可能である。さらに、本態様の位相差フィルムに用いられる基板の上記位相差層が形成された側とは反対面上に、他の位相差層を直接積層して用いることも可能である。
【0100】
本態様の位相差フィルムと、他の光学機能フィルムとを積層して用いる例としては、例えば、本態様の位相差フィルム上に、コレステリック配列した液晶分子を含有する液晶層を積層することにより、液晶表示装置用の輝度向上フィルムとして用いる例を挙げることができる。
【0101】
また、本態様の位相差フイルムは、偏光子と貼り合わせることにより、偏光板としての用途にも用いることができる。すなわち、偏光板は、通常、偏光子とその両表面に形成された偏光板保護フイルムとからなるものであるが、本態様においては、例えば、その一方の偏光板保護フイルムとして本態様の位相差フイルムを用いることにより、液晶表示装置の視野角補償機能を備える偏光板として用いることができる。
【0102】
6.位相差フィルムの製造方法
本態様の位相差フィルムの製造方法としては、上記構成を有する位相差フィルムを製造できる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては、例えば、上記透明基板を用い、上記透明基板上に密着性配向層を形成する密着性配向層形成工程と、上記密着性配向層上に位相差層を形成する位相差層形成工程とを用いる方法を挙げることができる。
以下、本態様の位相差フィルムの製造方法の一例として、このような方法について説明する。
【0103】
(1)密着性配向層形成工程
まず、上記密着性配向層形成工程について説明する。上記密着性配向層形成工程において、透明基板上に密着性配向層を形成する方法としては、上述した重合性モノマーの重合性モノマーの重合物を含有し、ホメオトロピック配向規制力を備える密着性配向層を形成できる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては、例えば、上記透明基板上に重合性モノマーおよび配向制御化合物を溶媒に溶解した密着性配向層形成用塗工液を塗布することによって密着性配向層形成用層を形成する密着性配向層形成用層形成工程と、上記重合性モノマーを重合することにより密着性配向層を形成する硬化処理工程とを用いる方法を挙げることができる。このような方法によれば、上記配向制御化合物によりホメオトロピック配向規制力が付与された密着性配向層を形成することができる。
【0104】
上記密着性配向層形成用層形成工程において上記密着性配向層形成用塗工液を透明基板上に塗工する塗布方法としては、所望の平面性を達成できる方法であれば特に限定されるものではない。このような塗布方法としては、例えば、グラビアコート法、リバースコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、ロールコート法、プリント法、カーテンコート法、ダイコート法、キャスティング法、バーコート法、エクストルージョンコート法、E型塗布方法等を挙げることができる。
【0105】
上記密着性配向層形成用塗工液の塗膜の乾燥方法は、加熱乾燥方法、減圧乾燥方法、ギャップ乾燥方法等、一般的に用いられる乾燥方法を用いることができる。また、本工程における乾燥方法は、単一の方法に限られず、例えば残留する溶媒量に応じて順次乾燥方式を変化させる等の態様により、複数の乾燥方式を採用してもよい。
【0106】
上記密着性配向層形成用塗工液に用いられる溶媒としては、上記重合性モノマーおよび上記配向制御化合物を所望の濃度に溶解できるものであれば特に限定されるものではない。このような溶媒としては、例えば、ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化アルキル系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、およびジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、シクロヘキサン等のアノン系溶媒、メタノール、エタノール、およびプロパノール等のアルコール系溶媒を例示することができる。また、本工程に用いられる溶媒は、1種類でもよく、2種類以上の溶媒の混合溶媒でも良い。
【0107】
なお、上記重合性モノマーおよび配向制御化合物については、上記「1.密着性配向層」の項において説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0108】
上記硬化処理工程において、上記重合性モノマーを重合する方法としては、上記密着性配向層形成用層中に含有される重合性モノマーの重合反応を誘起できる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法は、上記重合性モノマーの種類に依存するものであるが、一般的には、上記密着性配向層形成用層に紫外線を照射する方法や、上記密着性配向層形成用層を加熱する方法等が用いられる。
【0109】
上記紫外線としては、通常、波長が150nm〜500nmの範囲内のもの、より好ましくは250nm〜450nmの範囲内のものが用いられる。
【0110】
(2)位相差層形成工程
次に、上記位相差層形成工程について説明する。本工程において密着性配向層上に位相差層を形成する方法としては、所望の位相差性を有する位相差層を形成できる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては、例えば、密着性配向層上に、上述したホメオトロピック液晶材料を含有する位相差層形成用塗工液を塗工した後、上記ホメオトロピック液晶材料をホメオトロピック配向させる方法を挙げることができる。
【0111】
このような方法において上記位相差層形成用塗工液を上記密着性配向層上に塗布し、乾燥する方法としては特に限定されるものではなく、一般的に位相差フィルムに用いられる位相差層を形成する際に用いられる方法として公知の方法を用いることができる。このような塗布方法および乾燥方法としては、例えば、上記「(1)密着性配向層形成工程」の項において説明した密着性配向層形成用塗工液の塗布方法および乾燥方法を用いることができる。
【0112】
また、本工程において上記ホメオトロピック液晶材料をホメオトロピック配向させる方法としては、通常、上記ホメオトロピック液晶材料をホメオトロピック液晶相への転移温度以上に加温する方法が用いられる。
【0113】
また、上記ホメオトロピック液晶材料として重合性官能基を有する化合物を用いる場合は、ホメオトロピック液晶を配向させた後、紫外線照射等によって重合処理がなされることになる。
【0114】
なお、上記ホメオトロピック液晶材料については、上記「2.位相差層」の項において説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0115】
B.第2態様の位相差フィルム
次に、本態様の第2態様の位相差フィルムについて説明する。本態様の位相差フィルムは、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板と、上記透明基板上に接するように形成され、重合性モノマーの重合物を含有する密着機能層と、上記密着機能層上に形成され、ホメオトロピック配向性を有する液晶材料を含有し、さらに面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立する位相差層と、を有するものであって、上記重合性モノマーが、下記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有するものであり、かつ、上記重合性モノマーを構成する炭素数Nを、上記重合性モノマーを構成する炭素および水素以外の元素数Mで除した値(N/M)が3以上であることを特徴とするものである。
【0116】
【化9】

【0117】
ここで、上記式においてR、R、Rは、メチル基または水素を表す。また、R4は、水素、メチル基、または、エチル基を表す。
【0118】
このような本態様の位相差フィルムについて図を参照しながら説明する。図2は本態様の位相差フィルムの一例を示す概略図である。図2に例示するように、本態様の位相差フィルム20は、シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板21と、上記透明基板21上に形成された密着機能層22と、上記密着機能層に22上に形成され、液晶材料を含有する位相差層23とを有するものである。
このような例において本態様の位相差フィルム20は、上記密着機能層22に、上記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有し、かつ、炭素含有比が3以上である重合性モノマーの重合物が含まれるものであり、また、上記位相差層23が、面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立するものであることを特徴とするものである。
なお、本態様の位相差フィルム20においては、上記液晶材料がホメオトロピック配向性を有するものであることから、上記位相差層23に含有される液晶材料は、ホメオトロピック配向を形成しているものになる。
【0119】
本態様によれば、上記密着機能層に上記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有し、かつ、炭素含有比が3以上である重合性モノマーの重合物が含まれることにより、上記密着機能層と、上記シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板との密着性を向上することができる。このため、本態様によればシクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた位相差フィルムであって、上記位相差層と上記透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
また、上記位相差層が面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立するものであることにより、本態様の位相差フィルムに正のCプレートとしての性質を付与することができる。
このようなことから、本態様によればシクロオレフィン系樹脂からなる透明基板が用いられた正のCプレートとしての性質を有する位相差フィルムであって、位相差層と、透明基板との密着性に優れた位相差フィルムを得ることができる。
【0120】
なお、上記密着機能層に上記構造を有する重合性モノマーの重合物が含有されることにより、上記透明基板と上記密着機能層との密着性を向上できる理由については、上記「A.第1態様の位相差フィルム」の項において説明した理由と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0121】
本態様の位相差フィルムは、少なくとも、上記透明基板、上記密着機能層、および、上記位相差層を有するものであり、必要に応じて他の層を有しても良いものである。以下、本態様の位相差フィルムに用いられる各構成について順に説明する。
なお、本態様に用いられる透明基板については、上記「A.第1態様の位相差フィルム」の項において説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0122】
1.密着機能層
まず、本態様に用いられる密着機能層について説明する。本態様に用いられる密着機能層は、上記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有し、かつ、炭素含有比が3以上であることを特徴とする重合性モノマーの重合物を含有するものである。そして、本態様に用いられる密着機能層は、後述する位相差層および透明基板を密着する機能を有するものである。
【0123】
ここで、本態様に用いられる密着機能層は、液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力を有さないこと以外は、上記「A.第1態様の位相差フィルム」の項において説明した「密着性配向層」と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0124】
2.位相差層
次に、本態様に用いられる位相差層について説明する。本態様に用いられる位相差層は、ホメオトロピック配向性を有する液晶材料を含有し、面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立するものである。
【0125】
ここで、本態様においてに用いられる液晶材料は、ホメオトロピック配向性を有するものであるため、垂直配向膜を用いなくてもホメオトロピック配向を形成できる性質を有するものである。したがって、本態様における位相差層においては、通常、上記液晶材料が、ホメオトロピック配向を形成していることになる。そして、このように上記液晶材料がホメオトロピック配向を形成すると、上記nx=ny<nzの関係が成立するようになるため、本態様に用いられる位相差層が上記nx=ny<nzの関係を有するものであることは、上記液晶材料がホメオトロピック配向を形成していることと同意であるといえる。
【0126】
なお、本態様に用いられる位相差層は、上記「A.第1態様の位相差フィルム」において説明した、「第1のホメオトロピック液晶材料」が用いられていること以外は、上記「A.第1態様の位相差フィルム」の項において説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0127】
3.位相差フィルム
本態様の位相差フィルムが示す位相差性は、本態様の位相差フィルムの用途等に応じて適宜決定することができるが、なかでも本態様の位相差フィルムは、Nzファクターが
1.0以下であることが好ましく、特に−1.5≦Nz<1.0の範囲内であることが好ましい。
ここで、上記Nzファクターの定義、および、測定方法については、上記「A.第1態様の位相差フィルム」の項において説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0128】
また、本態様の位相差フィルムのReの波長分散は、波長が短くなるほどRe値が小さくなる逆分散型であっても良く、波長が短くなるほどRe値が大きくなる正分散型であっても良く、または、Re値に波長依存性を有さないフラット型であっても良い。
【0129】
本態様の位相差フィルムの形態は特に限定されるものではなく、例えば、本態様の位相差フィルムを用いる液晶表示装置の画面サイズに合致したシート状であっても良く、または、長尺状であっても良い。
【0130】
4.位相差フィルムの用途
本態様の位相差フィルムは、液晶表示装置に用いられる視野角補償フィルム、楕円偏光板、輝度向上フィルム等として用いることができる。このような用途の具体例については、上記「A.第1態様の位相差フィルム」の項において説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0131】
5.位相差フィルムの製造方法
次に、本態様の位相差フィルムの製造方法について説明する。本態様の位相差フィルムの製造方法としては、上記構成を有する位相差フィルムを製造できる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては、例えば、上記透明基板を用い、上記透明基板上に密着機能層を形成する密着機能層形成工程と、上記密着機能層上に位相差層を形成する位相差層形成工程とを用いる方法を挙げることができる。
【0132】
(1)密着機能層形成工程
まず、上記密着機能層形成工程について説明する。上記密着機能層形成工程において、透明基板上に密着機能層を形成する方法としては、上述した重合性モノマーの重合物を含有する密着機能層を形成できる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては、例えば、上記透明基板上に重合性モノマーを溶媒に溶解した密着機能層形成用塗工液を塗布することによって密着機能層形成用層を形成する密着機能層形成用層形成工程と、上記重合性モノマーを重合することにより密着機能層を形成する硬化処理工程とを用いる方法を挙げることができる。
【0133】
ここで、上記密着機能層形成用層形成工程において上記密着性配向層形成用塗工液を透明基板上に塗工する塗布方法および、塗工した塗膜の乾燥方法については、上記「A.第1態様の位相差フィルム」の項において説明した、密着性配向層形成用塗工液の塗工方法および塗膜の乾燥方法と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0134】
上記密着機能層形成用塗工液に用いられる溶媒としては、上記重合性モノマーおよび上記配向制御化合物を所望の濃度に溶解できるものであれば特に限定されるものではない。このような溶媒としては、上記「A.第1態様の位相差フィルム」の項において説明した、密着性配向層形成用塗工液に用いられる溶媒と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0135】
上記硬化処理工程において、上記重合性モノマーを重合する方法としては、重合性モノマーの重合反応を誘起できる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法は、例えば、上記「A.第1態様の位相差フィルム」の項において説明した方法と同様の方法を用いることができるため、ここでの説明は省略する。
【0136】
(2)位相差層形成工程
次に、上記位相差層形成工程について説明する。本工程において密着機能層上に位相差層を形成する方法としては、所望の位相差性を有する位相差層を形成できる方法であれば特に限定されるものではない。このような方法としては、例えば、上記「A.第1態様の位相差フィルム」の項において説明した方法と同様の方法を用いることができるため、ここでの説明は省略する。
【0137】
なお、本態様は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本態様の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本態様の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0138】
次に、実施例を示すことにより本態様についてさらに具体的に説明する。
【0139】
(1)実施例1
重合性モノマーとしてトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(炭素含有比=4.5)用い、当該重合性モノマーを固形分40質量%になるようにMEK(メチルエチルケトン)に溶解させ、さらに開始剤を添加した密着機能層形成用塗工液をノルボルネン系樹脂からなるRe=100nmの透明基板(ジェイエスアール社製 商品名:アートン)上に塗工した後、80℃の温風で2分間乾燥し、120mJ/cmのUVにて硬化させ厚み6μmになるように密着機能層を形成した。
【0140】
次に、化学式Aに示される側鎖型ポリマー50質量%と、下記式Bで示される光重合性液晶50質量%の液晶混合物、光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア907、光重合性化合物に対して5質量%)を、シクロヘキサノン溶液に固形分20%になるように溶解させ、更にレベリング剤を添加することにより位相差層形成用塗工液を得た。当該位相差層形成用塗工液を上記密着機能層上に塗工した後、100℃で1分間乾燥し、そのまま室温まで冷却することにより、上記液晶混合物をホメオトロピック配向させた。さらに100mJ/cmのUVにて硬化させ、上記密着機能層上に厚み1μmの位相差層を形成することにより、位相差フィルムを作製した。
【0141】
【化10】

【0142】
(2)実施例2
上記重合性モノマーとして1,9−ノナンジオールジアクリレート(炭素含有比=3.75)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により位相差フィルムを作製した。
【0143】
(3)実施例3
重合性モノマーとしてトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(炭素含有比=4.5)用い、当該重合性モノマーに対して配向制御化合物(商品名 FC−4430:3M Company製)を0.05質量%添加した混合物を、固形分40質量%になるようにMEK(メチルエチルケトン)に溶解させ、さらに開始剤を添加することにより密着性配向層形成用塗工液を得た。次いで、当該密着性配向層形成用塗工液を、ノルボルネン系樹脂からなるRe=100nmの透明基板(ジェイエスアール社製 商品名:アートン)上に塗工した後、80℃の温風で2分間乾燥し、120mJ/cmのUVにて硬化させ厚み6μmになるように密着性配向層を形成した。
【0144】
次に、下記式C、D、および、Eに示される液晶材料を含有する液晶混合物、光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、イルガキュア907、液晶混合物に対して5質量%)を、シクロヘキサノン溶液に固形分20質量%になるように溶解させ、更にレベリング剤を添加することにより位相差層形成用塗工液を得た。次いで、当該位相差層形成用塗工液を上記密着性配向層上に塗工した後、60℃で2分間乾燥し、ホメオトロピック配向させた。さらに100mJ/cmのUVにて硬化させ、上記密着性配向層上に厚み1μmの位相差層を形成することにより、位相差フィルムを作製した。
【0145】
【化11】

【0146】
(4)実施例4
上記重合性モノマーとしてペンタエリスリトールトリアクリレート(炭素含有比=1.86)100重量部に対してトリシクロデカンジメタノールジアクリレート(炭素含有比=4.5)を30重量部混合したものを使用したこと以外は、実施例3と同様の方法により位相差フィルムを作製した。
ここで、上記ペンタエリスリトールトリアクリレートは、密着性配向層に配向性を付与配向制御化合物として用いた。
【0147】
(5)比較例1
上記重合性モノマーとしてペンタエリスリトールトリアクリレート(炭素含有比=1.86)を使用した以外は、実施例1と同様に位相差フィルムを作製した。
【0148】
(6)比較例2
上記重合性モノマーとしてネオペンチルグリコールジアクリレート(炭素含有比=1.86)を使用した以外は、実施例3と同様の方法により位相差フィルムを作製した。
【0149】
(7)評価
上記実施例および比較例において作製した位相差フィルムについて液晶配向性評価と、密着性評価を行った。上記液晶配向性評価は、自動複屈折測定装置KOBRAを用いて位相差フィルムのnx、ny、nzを算出し、nx>nz>nyとなっていれば正のCプレート機能が付与されたと判断した。
その結果、上記実施例および比較例において作製した位相差フィルムのいずれにおいても正のCプレート機能が付与されたことを確認した。
【0150】
また、上記密着性評価は、1mm角の切れ目を碁盤目状に入れ、接着テープ(ニチバン社製、商品名:セロテープ(登録商標))を位相差層の表面に貼り付けて、その後、接着テープを引き剥がし、目視により観察した。このとき、密着性を剥がれなかった部分のマス目数/テープを貼り付けた領域のマス目数で評価した。
その評価結果を表1に示す。
【0151】
【表1】

【0152】
表1に示すように、上記実施例において作製した位相差フィルムは密着性が良好であったが、上記比較例において作製した位相差フィルムは、密着性が実用性に耐え得るものではなかった。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】本発明の位相差フィルムの一例を示す概略図である。
【図2】本発明の位相差フィルムの他の例を示す概略図である。
【図3】一般的な液晶表示装置の一部を模式的に示す概略図である。
【符号の説明】
【0154】
1 … 透明基板
2 … 密着性配向層
3 … 位相差層
10、20 … 位相差フィルム
21 … 透明基板
22 … 密着機能層
23 … 位相差層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板と、
前記透明基板上に接するように形成され、重合性モノマーの重合物を含有し、さらに液晶材料をホメオトロピック配向させる配向規制力を有する密着性配向層と、
前記密着性配向層上に形成され、液晶材料を含有し、さらに面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立する位相差層と、を有する位相差フィルムであって、
前記重合性モノマーが、下記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有するものであり、かつ、前記重合性モノマーを構成する炭素数Nを、前記重合性モノマーを構成する炭素および水素以外の元素数Mで除した値(N/M)が3以上であることを特徴とする、位相差フィルム。
【化1】

(上記式においてR、R、Rは、メチル基または水素を表す。また、R4は、水素、メチル基、または、エチル基を表す。)
【請求項2】
前記密着性配向層に界面活性剤が含まれていることを特徴とする、請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
シクロオレフィン系樹脂からなる透明基板と、
前記透明基板上に接するように形成され、重合性モノマーの重合物を含有する密着機能層と、
前記密着機能層上に形成され、ホメオトロピック配向性を有する液晶材料を含有し、さらに面内方向において互いに直交する任意のx方向、y方向の屈折率nxおよびnyと、厚み方向の屈折率nzとの間に、nx=ny<nzの関係が成立する位相差層と、を有する位相差フィルムであって、
前記重合性モノマーが、下記式(I)、(II)、(III)、(IV)、および、(V)からなる群から選択される少なくとも1つの重合性官能基を有するものであり、かつ、前記重合性モノマーを構成する炭素数Nを、前記重合性モノマーを構成する炭素および水素以外の元素数Mで除した値(N/M)が3以上であることを特徴とする、位相差フィルム。
【化2】

(上記式においてR、R、Rは、メチル基または水素を表す。また、R4は、水素、メチル基、または、エチル基を表す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−9328(P2008−9328A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182406(P2006−182406)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】