位置及び/又は時刻情報配信装置
【課題】屋内や地下においてGNSS対応の受信装置に位置及び/又は時刻情報を取得させるための信号を提供する安価な位置及び/又は時刻情報配信装置を提供する。
【解決手段】位置及び/又は時刻情報配信装置は、時刻情報を保持する手段と、受信装置に取得させる位置である装置提供位置を示す情報を保持する手段と、1つ以上の衛星の軌道情報を保持する手段と、時刻情報及び軌道情報に基づき、装置提供位置から見た衛星の速度及び装置提供位置と衛星との距離を求める手段と、前記速度及び前記距離に基づき、各衛星の擬似信号を時分割多重した信号を生成する手段とを備えており、衛星の擬似信号には、該衛星と装置提供位置との距離に対応する伝搬遅延と、装置提供位置から見た該衛星の速度により生じるドップラ・シフトが与えられている。
【解決手段】位置及び/又は時刻情報配信装置は、時刻情報を保持する手段と、受信装置に取得させる位置である装置提供位置を示す情報を保持する手段と、1つ以上の衛星の軌道情報を保持する手段と、時刻情報及び軌道情報に基づき、装置提供位置から見た衛星の速度及び装置提供位置と衛星との距離を求める手段と、前記速度及び前記距離に基づき、各衛星の擬似信号を時分割多重した信号を生成する手段とを備えており、衛星の擬似信号には、該衛星と装置提供位置との距離に対応する伝搬遅延と、装置提供位置から見た該衛星の速度により生じるドップラ・シフトが与えられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全地球測位システム(GPS:Global Positioning System)に代表される全地球衛星航法システム(GNSS:Global Navigation Satellite system)において衛星が送信する、測位及び/又は時刻同期のための信号を擬似的に生成する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、GPS衛星が送信する信号により位置情報を取得するGPS受信装置が広く利用されている。GPSにおいては、高精度な時刻情報を得ることもでき、移動通信網における無線基地局は、GPS受信装置により、世界協定時(UTC)に対してマイクロ秒の精度で同期した時刻情報を得ている。
【0003】
しかしながら、人工衛星からの信号は、屋内や地下においては受信できないことが多く、屋内や地下にあるGPS受信装置に、位置情報及び/又は時刻情報を取得させるためのシステムが必要とされている。
【0004】
このための方法として、屋外に設置したアンテナで受信したGPS信号を、屋内/地下に設置したアンテナから再送信することが考えられるが、GPS受信装置で測位した結果得られる位置が屋外のGPSアンテナの設置位置となり、実際のGPS受信装置の位置と、測定される位置とが大きく乖離するという問題がある。また屋外アンテナと屋内/地下アンテナ間のケーブル敷設に多大なコストを要する場合や、物理的に敷設が困難である場合もある。
【0005】
また、特許文献1から4に記載の、GPS衛星が送信する信号を生成する装置を利用することも考えることができる。しかしながら、特許文献1から4に記載の装置は、実際のGPS信号を忠実に再現することを目的としているために装置の構成が複雑であり、コスト高となる。また実際のGPSでは、10機前後のGPS衛星が上空に存在しているのに対し、装置の製造コストにより同時に模擬できるGPS衛星の数が限られることがあり、模擬する衛星の位置関係によっては十分な測位・時刻同期精度が得られない場合がある。
【0006】
さらに、屋内測位用途として考案された、特許文献5〜9、非特許文献1及び2に記載のスードライト(pseudolite)や、IMES(indoor messaging system)を利用することも考えることができる。しかしながら、広く普及しているGPS受信装置とは互換性がなく、専用の受信装置が必要となる。さらに、IMESではUTCに同期した時刻情報を得ることができず、例えば、無線基地局の様に、高精度な時刻情報が必要な場合には利用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−304900号公報
【特許文献2】特開2004−286494号公報
【特許文献3】特開2006−201151号公報
【特許文献4】特開2008−128934号公報
【特許文献5】特開平07−113860号公報
【特許文献6】特開平07−159508号公報
【特許文献7】特開2007−278756号公報
【特許文献8】特開2008−96452号公報
【特許文献9】特開2009−085928号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“Pseudolite:Ground−based Transmitter for GPS−Design and Implementation”、Proceedings of the 2003 SBMO/IEEE International Microwave and Optoelectronics Conference、vol.2、p.825−830
【非特許文献2】“準天頂衛星システムユーザインタフェース仕様書”、IS−QZSS1.2版ドラフト、宇宙航空研究開発機構
【非特許文献3】“Navstar GPS Space Segment/Navigation User Interfaces”、IS−GPS−200D、Navstar GPS Joint Program Office
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、屋内や地下において、GPSといったGNSS対応の受信装置に位置及び/又は時刻情報を取得させるための信号を提供する安価な位置及び/又は時刻情報配信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明における位置及び/又は時刻情報配信装置によれば、
時刻情報を保持する手段と、受信装置に取得させる位置である装置提供位置を示す情報を保持する手段と、1つ以上の衛星の軌道情報を保持する手段と、時刻情報及び軌道情報に基づき、装置提供位置から見た衛星の速度及び装置提供位置と衛星との距離を求める手段と、前記速度及び前記距離に基づき、各衛星の擬似信号を時分割多重した信号を生成する手段とを備えており、衛星の擬似信号には、該衛星と装置提供位置との距離に対応する伝搬遅延と、装置提供位置から見た該衛星の速度により生じるドップラ・シフトが与えられていることを特徴とする。
【0011】
本発明における位置及び/又は時刻情報配信装置の他の実施形態によれば、
前記1つ以上の衛星は、全地球衛星航法システムで実際に使用されている衛星以外の衛星を含んでいることも好ましい。
【0012】
また、本発明における位置及び/又は時刻情報配信装置の他の実施形態によれば、
前記1つ以上の衛星のそれぞれに割り当てた符号分割多重のためのコードを保持する手段を備えており、前記信号を生成する手段は、衛星の前記伝搬遅延の変化の累積値が所定の閾値を超えているか否かを、前記コードの繰り返し周期単位で判定し、該所定の閾値を超えている場合には、該衛星の前記コード長の調整を行うことも好ましい。
【0013】
さらに、本発明における位置及び/又は時刻情報配信装置の他の実施形態によれば、
前記軌道情報の軌道補正項及び電離層の影響を補正するパラメータは零であることも好ましい。
【発明の効果】
【0014】
屋内や地下においても高精度な測位及び/又は時刻同期が可能となる。また、各衛星の擬似信号を並列して生成するのではなく時分割で処理することで、装置構成を簡略化でき、低コストで、位置及び/又は時刻情報配信装置を実現することができる。また、架空の衛星を使用することで、時刻同期・測位精度の劣化を抑えられるような衛星配置を実現することができ、生成する擬似信号の数を少なくすることができ、さらに、衛星の軌道に関するパラメータの内、軌道補正項や電離層の影響を補正するパラメータを省略することで、伝搬遅延時間に係る演算量を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による位置及び/又は時刻情報配信装置の概略的な構成図である。
【図2】擬似信号生成部の概略的な構成図である。
【図3】PRNコード長の調整を説明する図である。
【図4】ドップラ制御部及び変調部の一形態を示す図である。
【図5】架空の衛星配置での軌道を示す図である。
【図6】図5の衛星配置における受信衛星数の時間変化を示す図である。
【図7】図5の衛星配置における測位精度劣化指数の時間変化を示す図である。
【図8】実際のGPS衛星の所定期間の軌道を示す図である。
【図9】図8の衛星配置における受信衛星数の時間変化を示す図である。
【図10】図8の衛星配置における測位精度劣化指数の時間変化を示す図である。
【図11】図8の衛星配置における緯度及び経度方向の測位誤差を示す図である。
【図12】図8の衛星配置における高度方向測位誤差の時間変化を示す図である。
【図13】架空の衛星配置での軌道を示す図である。
【図14】図13の衛星配置における受信衛星数の時間変化を示す図である。
【図15】図13の衛星配置における測位精度劣化指数の時間変化を示す図である。
【図16】図13の衛星配置における緯度及び経度方向の測位誤差を示す図である。
【図17】図13の衛星配置における高度方向測位誤差の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態について、以下では図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明においては、GPS衛星(Navstar)が送信する信号の擬似信号を生成してGPS受信装置に配信する形態にて説明するが、本発明は、他のGNSS衛星の擬似信号生成にも適用できる。
【0017】
本発明による位置及び/又は時刻情報配信装置は、複数のGPS衛星の擬似信号を生成するものであるが、ある瞬間においては、1つのGPS衛星の擬似信号のみを送信する。つまり、ある規則に基づき、各GPS衛星の擬似信号を時分割で送信する。なお、この規則としては、一定周期で切り替える方法や、何らかの擬似雑音符号により制御する方法がある。
【0018】
図1は、本発明による位置及び/又は時刻情報配信装置の概略的な構成図である。図1に示す様に、位置及び/又は時刻情報配信装置は、衛星模擬部1と、擬似信号生成部2と、変調部3と、同期処理部4と、衛星情報保持部5とを備えている。
【0019】
衛星情報保持部5は、模擬する各衛星の情報、具体的には、衛星の軌道を特定する軌道情報と、符号分割多重を行うために当該衛星に割り当てられたPRNコードに関する情報を保持している。なお、軌道情報については、非特許文献3に詳細が記載されている。同期処理部4は、UTC等の基準時刻に同期した時刻情報を衛星模擬部1及び擬似信号生成部2に出力すると共に、当該時刻情報から得られるクロックに同期した搬送波を生成して変調部3に出力する。なお、同期処理部4は、例えば、NTP(Network Timing Protocol)や、IEEE1588で規定されるPTP(Precision Time Protocol)といった時刻同期プロトコルにより、基準時刻に高い精度で同期した時刻情報を図示しないネットワーク経由で取得する。
【0020】
衛星模擬部1は、GPS受信装置に取得させたい位置を示す情報を保持している。ここで、GPS受信装置に取得させたい位置とは、例えば、当該位置及び/又は時刻情報配信装置の設置位置や、屋内又は地下において、当該位置及び/又は時刻情報配信装置が設置されている階と同一階にある所定の位置等である。以後、GPS受信装置に取得させたい位置を、装置提供位置と呼ぶものとする。衛星模擬部1は、各衛星の擬似信号の送信期間において、当該衛星と装置提供位置との距離、及び、装置提供位置から見た当該衛星の速度を算出し、模擬している衛星を特定する情報、算出した当該衛星との距離及び当該衛星の速度を擬似信号生成部2に出力し、擬似信号生成部2は、当該衛星の衛星情報、速度及び装置提供位置との距離に基づき、当該衛星の擬似信号を生成する。
【0021】
なお、GPS衛星は、地球上を周回しているため、ある時間帯においては、装置提供位置からは見えず、よって、信号を受信することがないGPS衛星が存在する。本実施形態においても、各模擬対象のGPS衛星について、装置提供位置から見えない時間帯においては、そのGPS衛星の擬似信号の送信を省略し、装置提供位置から見えるGPS衛星の擬似信号のみを時分割で送信するものとする。なお、装置提供位置から見えるか否かについては、例えば、衛星模擬部1が、時刻情報、各模擬対象のGPS衛星の軌道情報及び装置提供位置から判定する。この場合、衛星模擬部1は、装置提供位置から見えるGPS衛星についての距離及び速度のみを擬似信号生成部2に出力する。しかしながら、装置提供位置から見えるか否かに係わらず、常に全模擬対象のGPS衛星の擬似信号を時分割で送信する形態であっても良い。
【0022】
図2は、擬似信号生成部2の概略的な構成図である。図2に示す様に、擬似信号生成部2は、PRNコード生成部21と、航法メッセージ生成部22と、排他的論理和演算(EXOR)部23と、遅延制御部24と、ドップラ制御部25とを備えている。
【0023】
PRNコード生成部21は、衛星情報に基づき模擬対象の衛星のPRNコードを、GPSにて決められたタイミングで生成し、航法メッセージ生成部22は、衛星情報に基づき模擬対象衛星の航法メッセージを生成する。よく知られている様に、PRNコードは、符号分割多重を行うためのものであり、GPS受信装置は、PRNコードに基づき当該衛星からの当該PRNコードの送信タイミングを取得し、航法メッセージにより当該衛星の位置情報及び当該PRNコードの送信時刻を取得し、例えば、4つ以上の衛星からの信号を受信することでUTCに同期した時刻情報と現在の位置情報を取得する。EXOR部23は、PRNコード生成部21が生成したPRNコードと、航法メッセージ生成部22が生成した衛星航法メッセージの排他的論理和の値、即ちC/Aコードを出力する。
【0024】
ここで、各模擬対象の衛星の擬似信号には、装置提供位置と各模擬対象衛星との距離に応じた伝搬遅延を与える必要がある。このため、遅延制御部24は、各模擬対象衛星の速度及び位置情報に基づき、各模擬対象衛星の伝搬遅延量を求めて、それぞれ、PRNコード生成部21と、航法メッセージ生成部22に出力し、PRNコード生成部21及び航法メッセージ生成部22は、伝搬遅延量に基づき生成するPRNコード及び航法メッセージの位相を決定する。
【0025】
さらに、模擬対象の衛星と装置提供位置との距離は時間と共に変化するため、伝搬遅延量も時間と共に変化するが、これは、GPS受信装置からはPRNコードの長さの変化として認識される。つまり、GPS衛星が送信する信号を正確に模擬するためには、PRNコードの各チップの幅を、当該GPS衛星との距離の変動に応じて調整する必要がある。しかしながら、本願発明においては、PRNコードの各チップの幅を調整するのではなく、PRNコードの繰り返し周期である1ミリ秒毎に、伝搬遅延量の変化の累積値が所定の閾値を超えているか否かを判定し、超えている場合には、当該周期又は次の周期において伝搬遅延量の変化に対応するPRNコード長の調整を行う。
【0026】
例えば、GPSで使用されているPRNコードは、1023チップを1ミリ秒の周期で繰り返すものであるが、図3においては、PRNコード長の変化の累積値であるt1ミリ秒を、最後のチップにおいてまとめて調整している。一例として、PRNコード長を約9.775ナノ秒(1/102.3MHz)単位で調整するものとすると、PRNコード1周期における伝搬遅延の変化の最大値は凡そ3.1ナノ秒であるため、PRNコード長の調整を行う間隔は、最も短くてPRNコード3周期に1回となる。この様に、各チップ単位で伝搬遅延の変化量の調整を行うのではなく、閾値を超えた後にまとめて調整することで、装置の時間分解能を高めることなく模擬を行うことができる。なお、変化量の調整は、最後のチップ以外で調整することも可能である。なお、PRNコードの時間長を調整した場合には、航法メッセージ生成部22で生成する航法メッセージも、PRNコードに同期する様に併せて時間長の調整を行う。
【0027】
ドップラ制御部25は、模擬対象の衛星の速度に基づき、ドップラ効果により生じる周波数の変化量を求め、この変化量だけEXOR部23が出力する遅延量調整済みのC/Aコードの周波数を変化させる。即ち、模擬対象の衛星の擬似信号に、装置提供位置から見た当該模擬対象衛星の速度により生じるドップラ・シフトを与える。
【0028】
図1に戻り、変調部3は、搬送波を擬似信号生成部2の出力信号で変調し、その後、図示しないアンテナから無線信号として送信するか、あるいは同軸ケーブルを介して無線基地局等に内蔵されるGPS受信装置に直接入力する。
【0029】
図4は、ドップラ制御部25及び変調部3の一形態を示す図である。なお、図4の両移相部においてシフトさせる位相量は90°である。図4に示す様に、変調部3は、搬送波周波数fc(=1575.42MHz)で直交変調を行うものであり、ドップラ制御部25は、EXOR部23の出力信号を同相成分(I)と直交成分(Q)に分配した後、各成分に対して、ドップラ効果による周波数の変化量fdを与えている。なお、本実施形態においてはfdを連続的に変化させるのではなく、PRNコード1周期の間は同じ値とし、1周期が終るタイミングにてその値を変更するものとするが、その他のタイミングで変更する形態であっても、連続的に変化させる形態であっても良い。また、ドップラ効果によってGPS信号の搬送波だけでなくC/Aコードも変動するが、これは、前述したPRNコード及び航法メッセージに対する伝搬遅延量の変化分の調整により既に調整済みである。なお、実際のGPS衛星から送信される信号では、C/Aコードと搬送波との位相関係が保たれているが、ナビゲーションシステムや無線基地局で用いられている単独測位方式の受信装置において、この位相関係はGPSの受信処理に影響を与えないため、本願発明において、変調部3はこの位相関係を考慮しない。
【0030】
図1に示す衛星模擬部1及び擬似信号生成部2は、DSP及び/又はFPGAにより実現でき、装置の小型化および低廉化が可能である。なお、上記実施形態においては、擬似信号生成部2を、時分割的に使用、つまり、1つの擬似信号生成部2が、各衛星の擬似信号を順次生成していくものであった。しかしながら、模擬対象の衛星に対応する擬似信号生成部2をそれぞれ設け、各擬似信号生成部2が生成した各衛星の擬似信号を順に選択することにより、各衛星の擬似信号が時分割多重された信号を生成する方法であっても良い。
【0031】
以上、本発明による位置及び/又は時刻情報配信装置から無線信号を受信したGPS受信装置は、当該位置及び/又は時刻情報配信装置に設定された装置提供位置に相当する位置情報と、時刻情報を取得することになる。よって、本発明による位置及び/又は時刻情報配信装置を屋内に設置することで、屋内においてもGPS受信装置に位置情報及び/又は時刻情報を取得させることができる。
【0032】
なお、衛星情報保持部5には、実際のGPS衛星の軌道情報を設定し、これにより各衛星の擬似信号を時分割で送信する形態のみならず、架空の衛星の軌道を設定し、架空の衛星の擬似信号のみを時分割で、或いは、架空の衛星と実際の衛星の擬似信号を時分割で送信する形態であっても良い。架空の衛星を使用することで、例えば、時刻同期・測位精度の劣化を抑えられるような衛星配置を実現することができる。また、衛星の摂動(軌道補正項)や電離層の影響を補正するパラメータを用いずに、つまり、これらが零であるものとしてシミュレートすると、衛星−受信装置間の電波伝搬時間制御が簡略化でき、装置コストを低減できる。なお、各衛星の軌道に関する情報は、航法メッセージに含まれているため、架空の衛星を使用したとしてもGPS受信装置の動作には影響がない。
【0033】
図5は、24個の架空のGPS衛星の軌道を示す図である。なお、図5は、緯度及び経度が0度、高度0メートルの地点から見た図であり、点線及び実線はそれぞれ1つの軌道であり、各軌道上を、それぞれ、12個の衛星が周回している。図5に示す軌道となる各衛星のパラメータを以下の表に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
なお、軌道補正項、衛星の平均運動補正、楕円軌道離心率、近地点引数、周初時刻における昇交点赤径の変化率、軌道傾斜角の変化率は総ての衛星において零であり、楕円軌道半径の平方根は総ての衛星において5153.804420であり、エフェメリス・データ元期は、総ての衛星において週初時刻である。また、衛星時刻補正、電離層補正、UTC補正に係るパラメータ値も総て零である。
【0036】
位置及び/又は時刻情報配信装置に、上記架空の衛星と、装置提供位置として、緯度及び経度が0度、高度0メートルの赤道上を設定し、GPS受信装置の仰角マスクを10度、測位方式をオールインビュー方式としたときの、受信衛星数の時間変化を図6に、測位精度の指標として一般的な測位精度劣化指数(PDOP:Position Dilution Of Precision)の時間変化を図7に示す。なお、以下の各測定において使用した位置及び/又は時刻情報配信装置は、各模擬対象衛星に対応する擬似信号生成部2を設け、各擬似信号生成部2からの信号を順に選択することにより時分割多重信号を生成する構成であり、各擬似信号の選択周期は約4.9マイクロ秒とした。また、図の経過時間は、週初時刻からの経過時間である。同図より、5又は6機の衛星からの信号が常時受信でき、PDOPが常に1.8から2.6の範囲内と、変動幅が小さいことが確認できる。実際のGPSにおいて、上空に現れる衛星は通常10程度であることから、架空の衛星により、その半分程度の数で安定した時刻同期及び測位が可能であることが分かる。
【0037】
位置及び/又は時刻情報配信装置に、7個のGPS衛星と、装置提供位置として、緯度及び経度が0度、高度0メートルの赤道上を設定し、市販の12チャネル・オールインビュー方式のGPS受信装置により測位した結果を図9から12に示す。なお、図8は、7個の衛星の軌道を、緯度及び経度が0度、高度0メートルの地点から見た図であり、その実線部分が測定期間である。図8に示す軌道となる各衛星のパラメータを以下の表に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
なお、軌道補正項、衛星の平均運動補正、楕円軌道離心率、近地点引数、周初時刻における昇交点赤径の変化率、軌道傾斜角の変化率は総ての衛星において零であり、楕円軌道半径の平方根は総ての衛星において5153.81067887503であり、エフェメリス・データ元期は、総ての衛星において週初時刻である。また、衛星時刻補正、電離層補正、UTC補正に係るパラメータ値も総て零である。
【0040】
なお、この軌道は、週番号492(2009年1月25日の世界協定時0時を週初時刻とする週)における実際のGPS衛星軌道を基にしており、軌道の離心率や衛星の摂動を無視して簡略化したものである。
【0041】
なお、ドップラ効果による周波数変化の制御のステップは0.0238Hz、衛星を時分割多重する周期は4.90マイクロ秒とした。図9は受信衛星数の時間変化を、図10はPDOPの時間変化を、図11は緯度及び経度方向の測位誤差を、図12は高度方向測位誤差の時間変化を示している。図より、PDOPは2.4〜2.7で、測位精度は緯度・経度方向で3メートル、高さ方向で22メートルであることが確認できる。また時刻同期精度は130ナノ秒以内であることを確認した。
【0042】
さらに、位置及び/又は時刻情報配信装置に、図13に示す7個の架空のGPS衛星と、装置提供位置として、緯度及び経度が0度、高度0メートルの赤道上を設定し、市販の12チャネル・オールインビュー方式のGPS受信装置により測位した結果を図14から17に示す。なお、図13は、緯度及び経度が0度、高度0メートルの地点から見た図であり、各軌道には衛星が1つであり、その実線部分が測定期間である。図13は、架空の衛星を、静止衛星と、準天頂衛星高度の架空の軌道上に存在する衛星としたものである。図13に示す軌道となる各衛星のパラメータを以下の表に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
なお、軌道補正項、衛星の平均運動補正、楕円軌道離心率、近地点引数、周初時刻における昇交点赤径の変化率、軌道傾斜角の変化率は総ての衛星において零であり、楕円軌道半径の平方根は総ての衛星において6493.39456147553であり、エフェメリス・データ元期は、総ての衛星において週初時刻である。また、衛星時刻補正、電離層補正、UTC補正に係るパラメータ値も総て零である。
【0045】
また、ドップラ効果による周波数変化の制御のステップは0.0238Hz、衛星を時分割多重する周期は4.90マイクロ秒とした。図14は受信衛星数の時間変化を、図15はPDOPの時間変化を、図16は緯度及び経度方向の測位誤差を、図17は高度方向測位誤差の時間変化を示している。図より、PDOPは2.4で、測位精度は緯度・経度方向で2メートル、高さ方向で14メートルであることが確認できる。また時刻同期精度は140ナノ秒以内であることを確認した。
【0046】
以上、本発明による位置及び/又は時刻情報配信装置を使用することで、屋内や地下においても高精度な測位及び時刻同期が可能となる。また、各衛星の擬似信号を時分割で処理し、さらに、衛星の軌道に関するパラメータのうち、軌道補正項や電離層の影響を補正するパラメータを省略することで、位置及び/又は時刻情報配信装置を低コストで実現することができる。なお、上述した実施形態において、位置及び/又は時刻情報配信装置は、複数の衛星を模擬するものとしていた。しかしながら、移動通信網における無線基地局の様に、その設置位置が既知かつ固定的であり、時刻情報のみを必要とする場合には、1つの衛星からの擬似信号を受信するのみで良い。したがって、この様な場合において、装置提供位置から見えない衛星の擬似信号をも送信する場合には、例えば、静止軌道上の1つの衛星のみを模擬する形態とすることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 衛星模擬部
2 擬似信号生成部
3 変調部
4 同期処理部
5 衛星情報保持部
21 PRNコード生成部
22 航法メッセージ生成部
23 排他的論理和演算部
24 遅延制御部
25 ドップラ制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、全地球測位システム(GPS:Global Positioning System)に代表される全地球衛星航法システム(GNSS:Global Navigation Satellite system)において衛星が送信する、測位及び/又は時刻同期のための信号を擬似的に生成する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、GPS衛星が送信する信号により位置情報を取得するGPS受信装置が広く利用されている。GPSにおいては、高精度な時刻情報を得ることもでき、移動通信網における無線基地局は、GPS受信装置により、世界協定時(UTC)に対してマイクロ秒の精度で同期した時刻情報を得ている。
【0003】
しかしながら、人工衛星からの信号は、屋内や地下においては受信できないことが多く、屋内や地下にあるGPS受信装置に、位置情報及び/又は時刻情報を取得させるためのシステムが必要とされている。
【0004】
このための方法として、屋外に設置したアンテナで受信したGPS信号を、屋内/地下に設置したアンテナから再送信することが考えられるが、GPS受信装置で測位した結果得られる位置が屋外のGPSアンテナの設置位置となり、実際のGPS受信装置の位置と、測定される位置とが大きく乖離するという問題がある。また屋外アンテナと屋内/地下アンテナ間のケーブル敷設に多大なコストを要する場合や、物理的に敷設が困難である場合もある。
【0005】
また、特許文献1から4に記載の、GPS衛星が送信する信号を生成する装置を利用することも考えることができる。しかしながら、特許文献1から4に記載の装置は、実際のGPS信号を忠実に再現することを目的としているために装置の構成が複雑であり、コスト高となる。また実際のGPSでは、10機前後のGPS衛星が上空に存在しているのに対し、装置の製造コストにより同時に模擬できるGPS衛星の数が限られることがあり、模擬する衛星の位置関係によっては十分な測位・時刻同期精度が得られない場合がある。
【0006】
さらに、屋内測位用途として考案された、特許文献5〜9、非特許文献1及び2に記載のスードライト(pseudolite)や、IMES(indoor messaging system)を利用することも考えることができる。しかしながら、広く普及しているGPS受信装置とは互換性がなく、専用の受信装置が必要となる。さらに、IMESではUTCに同期した時刻情報を得ることができず、例えば、無線基地局の様に、高精度な時刻情報が必要な場合には利用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−304900号公報
【特許文献2】特開2004−286494号公報
【特許文献3】特開2006−201151号公報
【特許文献4】特開2008−128934号公報
【特許文献5】特開平07−113860号公報
【特許文献6】特開平07−159508号公報
【特許文献7】特開2007−278756号公報
【特許文献8】特開2008−96452号公報
【特許文献9】特開2009−085928号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“Pseudolite:Ground−based Transmitter for GPS−Design and Implementation”、Proceedings of the 2003 SBMO/IEEE International Microwave and Optoelectronics Conference、vol.2、p.825−830
【非特許文献2】“準天頂衛星システムユーザインタフェース仕様書”、IS−QZSS1.2版ドラフト、宇宙航空研究開発機構
【非特許文献3】“Navstar GPS Space Segment/Navigation User Interfaces”、IS−GPS−200D、Navstar GPS Joint Program Office
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、屋内や地下において、GPSといったGNSS対応の受信装置に位置及び/又は時刻情報を取得させるための信号を提供する安価な位置及び/又は時刻情報配信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明における位置及び/又は時刻情報配信装置によれば、
時刻情報を保持する手段と、受信装置に取得させる位置である装置提供位置を示す情報を保持する手段と、1つ以上の衛星の軌道情報を保持する手段と、時刻情報及び軌道情報に基づき、装置提供位置から見た衛星の速度及び装置提供位置と衛星との距離を求める手段と、前記速度及び前記距離に基づき、各衛星の擬似信号を時分割多重した信号を生成する手段とを備えており、衛星の擬似信号には、該衛星と装置提供位置との距離に対応する伝搬遅延と、装置提供位置から見た該衛星の速度により生じるドップラ・シフトが与えられていることを特徴とする。
【0011】
本発明における位置及び/又は時刻情報配信装置の他の実施形態によれば、
前記1つ以上の衛星は、全地球衛星航法システムで実際に使用されている衛星以外の衛星を含んでいることも好ましい。
【0012】
また、本発明における位置及び/又は時刻情報配信装置の他の実施形態によれば、
前記1つ以上の衛星のそれぞれに割り当てた符号分割多重のためのコードを保持する手段を備えており、前記信号を生成する手段は、衛星の前記伝搬遅延の変化の累積値が所定の閾値を超えているか否かを、前記コードの繰り返し周期単位で判定し、該所定の閾値を超えている場合には、該衛星の前記コード長の調整を行うことも好ましい。
【0013】
さらに、本発明における位置及び/又は時刻情報配信装置の他の実施形態によれば、
前記軌道情報の軌道補正項及び電離層の影響を補正するパラメータは零であることも好ましい。
【発明の効果】
【0014】
屋内や地下においても高精度な測位及び/又は時刻同期が可能となる。また、各衛星の擬似信号を並列して生成するのではなく時分割で処理することで、装置構成を簡略化でき、低コストで、位置及び/又は時刻情報配信装置を実現することができる。また、架空の衛星を使用することで、時刻同期・測位精度の劣化を抑えられるような衛星配置を実現することができ、生成する擬似信号の数を少なくすることができ、さらに、衛星の軌道に関するパラメータの内、軌道補正項や電離層の影響を補正するパラメータを省略することで、伝搬遅延時間に係る演算量を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による位置及び/又は時刻情報配信装置の概略的な構成図である。
【図2】擬似信号生成部の概略的な構成図である。
【図3】PRNコード長の調整を説明する図である。
【図4】ドップラ制御部及び変調部の一形態を示す図である。
【図5】架空の衛星配置での軌道を示す図である。
【図6】図5の衛星配置における受信衛星数の時間変化を示す図である。
【図7】図5の衛星配置における測位精度劣化指数の時間変化を示す図である。
【図8】実際のGPS衛星の所定期間の軌道を示す図である。
【図9】図8の衛星配置における受信衛星数の時間変化を示す図である。
【図10】図8の衛星配置における測位精度劣化指数の時間変化を示す図である。
【図11】図8の衛星配置における緯度及び経度方向の測位誤差を示す図である。
【図12】図8の衛星配置における高度方向測位誤差の時間変化を示す図である。
【図13】架空の衛星配置での軌道を示す図である。
【図14】図13の衛星配置における受信衛星数の時間変化を示す図である。
【図15】図13の衛星配置における測位精度劣化指数の時間変化を示す図である。
【図16】図13の衛星配置における緯度及び経度方向の測位誤差を示す図である。
【図17】図13の衛星配置における高度方向測位誤差の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態について、以下では図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明においては、GPS衛星(Navstar)が送信する信号の擬似信号を生成してGPS受信装置に配信する形態にて説明するが、本発明は、他のGNSS衛星の擬似信号生成にも適用できる。
【0017】
本発明による位置及び/又は時刻情報配信装置は、複数のGPS衛星の擬似信号を生成するものであるが、ある瞬間においては、1つのGPS衛星の擬似信号のみを送信する。つまり、ある規則に基づき、各GPS衛星の擬似信号を時分割で送信する。なお、この規則としては、一定周期で切り替える方法や、何らかの擬似雑音符号により制御する方法がある。
【0018】
図1は、本発明による位置及び/又は時刻情報配信装置の概略的な構成図である。図1に示す様に、位置及び/又は時刻情報配信装置は、衛星模擬部1と、擬似信号生成部2と、変調部3と、同期処理部4と、衛星情報保持部5とを備えている。
【0019】
衛星情報保持部5は、模擬する各衛星の情報、具体的には、衛星の軌道を特定する軌道情報と、符号分割多重を行うために当該衛星に割り当てられたPRNコードに関する情報を保持している。なお、軌道情報については、非特許文献3に詳細が記載されている。同期処理部4は、UTC等の基準時刻に同期した時刻情報を衛星模擬部1及び擬似信号生成部2に出力すると共に、当該時刻情報から得られるクロックに同期した搬送波を生成して変調部3に出力する。なお、同期処理部4は、例えば、NTP(Network Timing Protocol)や、IEEE1588で規定されるPTP(Precision Time Protocol)といった時刻同期プロトコルにより、基準時刻に高い精度で同期した時刻情報を図示しないネットワーク経由で取得する。
【0020】
衛星模擬部1は、GPS受信装置に取得させたい位置を示す情報を保持している。ここで、GPS受信装置に取得させたい位置とは、例えば、当該位置及び/又は時刻情報配信装置の設置位置や、屋内又は地下において、当該位置及び/又は時刻情報配信装置が設置されている階と同一階にある所定の位置等である。以後、GPS受信装置に取得させたい位置を、装置提供位置と呼ぶものとする。衛星模擬部1は、各衛星の擬似信号の送信期間において、当該衛星と装置提供位置との距離、及び、装置提供位置から見た当該衛星の速度を算出し、模擬している衛星を特定する情報、算出した当該衛星との距離及び当該衛星の速度を擬似信号生成部2に出力し、擬似信号生成部2は、当該衛星の衛星情報、速度及び装置提供位置との距離に基づき、当該衛星の擬似信号を生成する。
【0021】
なお、GPS衛星は、地球上を周回しているため、ある時間帯においては、装置提供位置からは見えず、よって、信号を受信することがないGPS衛星が存在する。本実施形態においても、各模擬対象のGPS衛星について、装置提供位置から見えない時間帯においては、そのGPS衛星の擬似信号の送信を省略し、装置提供位置から見えるGPS衛星の擬似信号のみを時分割で送信するものとする。なお、装置提供位置から見えるか否かについては、例えば、衛星模擬部1が、時刻情報、各模擬対象のGPS衛星の軌道情報及び装置提供位置から判定する。この場合、衛星模擬部1は、装置提供位置から見えるGPS衛星についての距離及び速度のみを擬似信号生成部2に出力する。しかしながら、装置提供位置から見えるか否かに係わらず、常に全模擬対象のGPS衛星の擬似信号を時分割で送信する形態であっても良い。
【0022】
図2は、擬似信号生成部2の概略的な構成図である。図2に示す様に、擬似信号生成部2は、PRNコード生成部21と、航法メッセージ生成部22と、排他的論理和演算(EXOR)部23と、遅延制御部24と、ドップラ制御部25とを備えている。
【0023】
PRNコード生成部21は、衛星情報に基づき模擬対象の衛星のPRNコードを、GPSにて決められたタイミングで生成し、航法メッセージ生成部22は、衛星情報に基づき模擬対象衛星の航法メッセージを生成する。よく知られている様に、PRNコードは、符号分割多重を行うためのものであり、GPS受信装置は、PRNコードに基づき当該衛星からの当該PRNコードの送信タイミングを取得し、航法メッセージにより当該衛星の位置情報及び当該PRNコードの送信時刻を取得し、例えば、4つ以上の衛星からの信号を受信することでUTCに同期した時刻情報と現在の位置情報を取得する。EXOR部23は、PRNコード生成部21が生成したPRNコードと、航法メッセージ生成部22が生成した衛星航法メッセージの排他的論理和の値、即ちC/Aコードを出力する。
【0024】
ここで、各模擬対象の衛星の擬似信号には、装置提供位置と各模擬対象衛星との距離に応じた伝搬遅延を与える必要がある。このため、遅延制御部24は、各模擬対象衛星の速度及び位置情報に基づき、各模擬対象衛星の伝搬遅延量を求めて、それぞれ、PRNコード生成部21と、航法メッセージ生成部22に出力し、PRNコード生成部21及び航法メッセージ生成部22は、伝搬遅延量に基づき生成するPRNコード及び航法メッセージの位相を決定する。
【0025】
さらに、模擬対象の衛星と装置提供位置との距離は時間と共に変化するため、伝搬遅延量も時間と共に変化するが、これは、GPS受信装置からはPRNコードの長さの変化として認識される。つまり、GPS衛星が送信する信号を正確に模擬するためには、PRNコードの各チップの幅を、当該GPS衛星との距離の変動に応じて調整する必要がある。しかしながら、本願発明においては、PRNコードの各チップの幅を調整するのではなく、PRNコードの繰り返し周期である1ミリ秒毎に、伝搬遅延量の変化の累積値が所定の閾値を超えているか否かを判定し、超えている場合には、当該周期又は次の周期において伝搬遅延量の変化に対応するPRNコード長の調整を行う。
【0026】
例えば、GPSで使用されているPRNコードは、1023チップを1ミリ秒の周期で繰り返すものであるが、図3においては、PRNコード長の変化の累積値であるt1ミリ秒を、最後のチップにおいてまとめて調整している。一例として、PRNコード長を約9.775ナノ秒(1/102.3MHz)単位で調整するものとすると、PRNコード1周期における伝搬遅延の変化の最大値は凡そ3.1ナノ秒であるため、PRNコード長の調整を行う間隔は、最も短くてPRNコード3周期に1回となる。この様に、各チップ単位で伝搬遅延の変化量の調整を行うのではなく、閾値を超えた後にまとめて調整することで、装置の時間分解能を高めることなく模擬を行うことができる。なお、変化量の調整は、最後のチップ以外で調整することも可能である。なお、PRNコードの時間長を調整した場合には、航法メッセージ生成部22で生成する航法メッセージも、PRNコードに同期する様に併せて時間長の調整を行う。
【0027】
ドップラ制御部25は、模擬対象の衛星の速度に基づき、ドップラ効果により生じる周波数の変化量を求め、この変化量だけEXOR部23が出力する遅延量調整済みのC/Aコードの周波数を変化させる。即ち、模擬対象の衛星の擬似信号に、装置提供位置から見た当該模擬対象衛星の速度により生じるドップラ・シフトを与える。
【0028】
図1に戻り、変調部3は、搬送波を擬似信号生成部2の出力信号で変調し、その後、図示しないアンテナから無線信号として送信するか、あるいは同軸ケーブルを介して無線基地局等に内蔵されるGPS受信装置に直接入力する。
【0029】
図4は、ドップラ制御部25及び変調部3の一形態を示す図である。なお、図4の両移相部においてシフトさせる位相量は90°である。図4に示す様に、変調部3は、搬送波周波数fc(=1575.42MHz)で直交変調を行うものであり、ドップラ制御部25は、EXOR部23の出力信号を同相成分(I)と直交成分(Q)に分配した後、各成分に対して、ドップラ効果による周波数の変化量fdを与えている。なお、本実施形態においてはfdを連続的に変化させるのではなく、PRNコード1周期の間は同じ値とし、1周期が終るタイミングにてその値を変更するものとするが、その他のタイミングで変更する形態であっても、連続的に変化させる形態であっても良い。また、ドップラ効果によってGPS信号の搬送波だけでなくC/Aコードも変動するが、これは、前述したPRNコード及び航法メッセージに対する伝搬遅延量の変化分の調整により既に調整済みである。なお、実際のGPS衛星から送信される信号では、C/Aコードと搬送波との位相関係が保たれているが、ナビゲーションシステムや無線基地局で用いられている単独測位方式の受信装置において、この位相関係はGPSの受信処理に影響を与えないため、本願発明において、変調部3はこの位相関係を考慮しない。
【0030】
図1に示す衛星模擬部1及び擬似信号生成部2は、DSP及び/又はFPGAにより実現でき、装置の小型化および低廉化が可能である。なお、上記実施形態においては、擬似信号生成部2を、時分割的に使用、つまり、1つの擬似信号生成部2が、各衛星の擬似信号を順次生成していくものであった。しかしながら、模擬対象の衛星に対応する擬似信号生成部2をそれぞれ設け、各擬似信号生成部2が生成した各衛星の擬似信号を順に選択することにより、各衛星の擬似信号が時分割多重された信号を生成する方法であっても良い。
【0031】
以上、本発明による位置及び/又は時刻情報配信装置から無線信号を受信したGPS受信装置は、当該位置及び/又は時刻情報配信装置に設定された装置提供位置に相当する位置情報と、時刻情報を取得することになる。よって、本発明による位置及び/又は時刻情報配信装置を屋内に設置することで、屋内においてもGPS受信装置に位置情報及び/又は時刻情報を取得させることができる。
【0032】
なお、衛星情報保持部5には、実際のGPS衛星の軌道情報を設定し、これにより各衛星の擬似信号を時分割で送信する形態のみならず、架空の衛星の軌道を設定し、架空の衛星の擬似信号のみを時分割で、或いは、架空の衛星と実際の衛星の擬似信号を時分割で送信する形態であっても良い。架空の衛星を使用することで、例えば、時刻同期・測位精度の劣化を抑えられるような衛星配置を実現することができる。また、衛星の摂動(軌道補正項)や電離層の影響を補正するパラメータを用いずに、つまり、これらが零であるものとしてシミュレートすると、衛星−受信装置間の電波伝搬時間制御が簡略化でき、装置コストを低減できる。なお、各衛星の軌道に関する情報は、航法メッセージに含まれているため、架空の衛星を使用したとしてもGPS受信装置の動作には影響がない。
【0033】
図5は、24個の架空のGPS衛星の軌道を示す図である。なお、図5は、緯度及び経度が0度、高度0メートルの地点から見た図であり、点線及び実線はそれぞれ1つの軌道であり、各軌道上を、それぞれ、12個の衛星が周回している。図5に示す軌道となる各衛星のパラメータを以下の表に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
なお、軌道補正項、衛星の平均運動補正、楕円軌道離心率、近地点引数、周初時刻における昇交点赤径の変化率、軌道傾斜角の変化率は総ての衛星において零であり、楕円軌道半径の平方根は総ての衛星において5153.804420であり、エフェメリス・データ元期は、総ての衛星において週初時刻である。また、衛星時刻補正、電離層補正、UTC補正に係るパラメータ値も総て零である。
【0036】
位置及び/又は時刻情報配信装置に、上記架空の衛星と、装置提供位置として、緯度及び経度が0度、高度0メートルの赤道上を設定し、GPS受信装置の仰角マスクを10度、測位方式をオールインビュー方式としたときの、受信衛星数の時間変化を図6に、測位精度の指標として一般的な測位精度劣化指数(PDOP:Position Dilution Of Precision)の時間変化を図7に示す。なお、以下の各測定において使用した位置及び/又は時刻情報配信装置は、各模擬対象衛星に対応する擬似信号生成部2を設け、各擬似信号生成部2からの信号を順に選択することにより時分割多重信号を生成する構成であり、各擬似信号の選択周期は約4.9マイクロ秒とした。また、図の経過時間は、週初時刻からの経過時間である。同図より、5又は6機の衛星からの信号が常時受信でき、PDOPが常に1.8から2.6の範囲内と、変動幅が小さいことが確認できる。実際のGPSにおいて、上空に現れる衛星は通常10程度であることから、架空の衛星により、その半分程度の数で安定した時刻同期及び測位が可能であることが分かる。
【0037】
位置及び/又は時刻情報配信装置に、7個のGPS衛星と、装置提供位置として、緯度及び経度が0度、高度0メートルの赤道上を設定し、市販の12チャネル・オールインビュー方式のGPS受信装置により測位した結果を図9から12に示す。なお、図8は、7個の衛星の軌道を、緯度及び経度が0度、高度0メートルの地点から見た図であり、その実線部分が測定期間である。図8に示す軌道となる各衛星のパラメータを以下の表に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
なお、軌道補正項、衛星の平均運動補正、楕円軌道離心率、近地点引数、周初時刻における昇交点赤径の変化率、軌道傾斜角の変化率は総ての衛星において零であり、楕円軌道半径の平方根は総ての衛星において5153.81067887503であり、エフェメリス・データ元期は、総ての衛星において週初時刻である。また、衛星時刻補正、電離層補正、UTC補正に係るパラメータ値も総て零である。
【0040】
なお、この軌道は、週番号492(2009年1月25日の世界協定時0時を週初時刻とする週)における実際のGPS衛星軌道を基にしており、軌道の離心率や衛星の摂動を無視して簡略化したものである。
【0041】
なお、ドップラ効果による周波数変化の制御のステップは0.0238Hz、衛星を時分割多重する周期は4.90マイクロ秒とした。図9は受信衛星数の時間変化を、図10はPDOPの時間変化を、図11は緯度及び経度方向の測位誤差を、図12は高度方向測位誤差の時間変化を示している。図より、PDOPは2.4〜2.7で、測位精度は緯度・経度方向で3メートル、高さ方向で22メートルであることが確認できる。また時刻同期精度は130ナノ秒以内であることを確認した。
【0042】
さらに、位置及び/又は時刻情報配信装置に、図13に示す7個の架空のGPS衛星と、装置提供位置として、緯度及び経度が0度、高度0メートルの赤道上を設定し、市販の12チャネル・オールインビュー方式のGPS受信装置により測位した結果を図14から17に示す。なお、図13は、緯度及び経度が0度、高度0メートルの地点から見た図であり、各軌道には衛星が1つであり、その実線部分が測定期間である。図13は、架空の衛星を、静止衛星と、準天頂衛星高度の架空の軌道上に存在する衛星としたものである。図13に示す軌道となる各衛星のパラメータを以下の表に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
なお、軌道補正項、衛星の平均運動補正、楕円軌道離心率、近地点引数、周初時刻における昇交点赤径の変化率、軌道傾斜角の変化率は総ての衛星において零であり、楕円軌道半径の平方根は総ての衛星において6493.39456147553であり、エフェメリス・データ元期は、総ての衛星において週初時刻である。また、衛星時刻補正、電離層補正、UTC補正に係るパラメータ値も総て零である。
【0045】
また、ドップラ効果による周波数変化の制御のステップは0.0238Hz、衛星を時分割多重する周期は4.90マイクロ秒とした。図14は受信衛星数の時間変化を、図15はPDOPの時間変化を、図16は緯度及び経度方向の測位誤差を、図17は高度方向測位誤差の時間変化を示している。図より、PDOPは2.4で、測位精度は緯度・経度方向で2メートル、高さ方向で14メートルであることが確認できる。また時刻同期精度は140ナノ秒以内であることを確認した。
【0046】
以上、本発明による位置及び/又は時刻情報配信装置を使用することで、屋内や地下においても高精度な測位及び時刻同期が可能となる。また、各衛星の擬似信号を時分割で処理し、さらに、衛星の軌道に関するパラメータのうち、軌道補正項や電離層の影響を補正するパラメータを省略することで、位置及び/又は時刻情報配信装置を低コストで実現することができる。なお、上述した実施形態において、位置及び/又は時刻情報配信装置は、複数の衛星を模擬するものとしていた。しかしながら、移動通信網における無線基地局の様に、その設置位置が既知かつ固定的であり、時刻情報のみを必要とする場合には、1つの衛星からの擬似信号を受信するのみで良い。したがって、この様な場合において、装置提供位置から見えない衛星の擬似信号をも送信する場合には、例えば、静止軌道上の1つの衛星のみを模擬する形態とすることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 衛星模擬部
2 擬似信号生成部
3 変調部
4 同期処理部
5 衛星情報保持部
21 PRNコード生成部
22 航法メッセージ生成部
23 排他的論理和演算部
24 遅延制御部
25 ドップラ制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時刻情報を保持する手段と、
受信装置に取得させる位置である装置提供位置を示す情報を保持する手段と、
1つ以上の衛星の軌道情報を保持する手段と、
時刻情報及び軌道情報に基づき、装置提供位置から見た衛星の速度及び装置提供位置と衛星との距離を求める手段と、
前記速度及び前記距離に基づき、各衛星の擬似信号を時分割多重した信号を生成する手段と、
を備えており、
衛星の擬似信号には、該衛星と装置提供位置との距離に対応する伝搬遅延と、装置提供位置から見た該衛星の速度により生じるドップラ・シフトが与えられている、
位置情報配信装置。
【請求項2】
前記1つ以上の衛星は、全地球衛星航法システムで実際に使用されている衛星以外の衛星を含んでいる、
請求項1に記載の位置情報配信装置。
【請求項3】
前記1つ以上の衛星のそれぞれに割り当てた符号分割多重のためのコードを保持する手段を備えており、
前記信号を生成する手段は、衛星の前記伝搬遅延の変化の累積値が所定の閾値を超えているか否かを、前記コードの繰り返し周期単位で判定し、該所定の閾値を超えている場合には、該衛星の前記コード長の調整を行う、
請求項1又は2に記載の位置情報配信装置。
【請求項4】
前記軌道情報の軌道補正項及び電離層の影響を補正するパラメータは零である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の位置情報配信装置。
【請求項1】
時刻情報を保持する手段と、
受信装置に取得させる位置である装置提供位置を示す情報を保持する手段と、
1つ以上の衛星の軌道情報を保持する手段と、
時刻情報及び軌道情報に基づき、装置提供位置から見た衛星の速度及び装置提供位置と衛星との距離を求める手段と、
前記速度及び前記距離に基づき、各衛星の擬似信号を時分割多重した信号を生成する手段と、
を備えており、
衛星の擬似信号には、該衛星と装置提供位置との距離に対応する伝搬遅延と、装置提供位置から見た該衛星の速度により生じるドップラ・シフトが与えられている、
位置情報配信装置。
【請求項2】
前記1つ以上の衛星は、全地球衛星航法システムで実際に使用されている衛星以外の衛星を含んでいる、
請求項1に記載の位置情報配信装置。
【請求項3】
前記1つ以上の衛星のそれぞれに割り当てた符号分割多重のためのコードを保持する手段を備えており、
前記信号を生成する手段は、衛星の前記伝搬遅延の変化の累積値が所定の閾値を超えているか否かを、前記コードの繰り返し周期単位で判定し、該所定の閾値を超えている場合には、該衛星の前記コード長の調整を行う、
請求項1又は2に記載の位置情報配信装置。
【請求項4】
前記軌道情報の軌道補正項及び電離層の影響を補正するパラメータは零である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の位置情報配信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−242191(P2011−242191A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112882(P2010−112882)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【出願人】(000204424)大井電気株式会社 (25)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【出願人】(000204424)大井電気株式会社 (25)
【Fターム(参考)】
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