説明

位置推定システム

【構成】位置推定システムは中央コンピュータおよび複数の無線タグ読取機14を含む。検出時刻では受信電波強度情報に基づいて各読取機14の周囲の領域における無線タグ16の存在確率が算出される。また、タグ16の過去の履歴から予測される移動場所における当該タグ16の存在確率が算出される。さらに、人間関係を有しているタグ16らの重心座標に引力または斥力が作用するか否かに応じて予測された移動場所における当該タグ16の存在確率が算出される。さらに、タグ16の周囲の環境20に存在する影響物体24の座標に引力が作用するか否かに応じて予測された移動場所における当該タグ16の存在確率が算出される。そして、存在確率の最も高い場所の重心座標を算出し、当該検出時刻における当該タグ16の推定位置座標として記録する。
【効果】無線タグの位置をより正確に推定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は位置推定システムに関し、特にたとえば、所定空間において無線タグを装着した人間の位置を推定する位置推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば本件出願人による特許文献1には、無線タグから発せられる電波の受信強度を用いて単体の無線タグ読取機からその無線タグがどの程度はなれているかを検出する技術の一例が開示されている。
【0003】
また、複数の無線タグ読取機を用いれば、無線タグのおおまかな存在領域を把握することも可能であり、たとえば三角測量の手法によって無線タグのおおまかな存在場所を推定することもできる。
【特許文献1】特開2004−216513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さらに解像度を向上させるために、無線タグ読取機の台数を増やすことが考えられるが、回り込みや反射などの電波の特性上、誤差が大きいため実効が上がらない。たとえば複数の無線タグ読取機を10cm程度の極短い間隔で敷き詰めれば、精度よく無線タグの位置を推定することも可能になると考えられる。しかしながら、無線タグ読取機は非常に高価であり、また、空間内に多数の無線タグ読取機を設置することも困難であるため、実用に適さない。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、無線タグの位置を精度よく推定することができる、位置推定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、所定の空間における無線タグの位置を推定する位置推定システムであって、無線タグを検出する複数の読取機、複数の読取機の空間における座標を示す読取機座標データを記憶する読取機情報記憶手段、無線タグの移動に引力または斥力による影響を与える特定座標を示す特定座標データおよび特定座標による影響に関するパラメータを記憶する特定座標情報記憶手段、無線タグを検出した読取機ごとに、当該読取機で検出された受信電波強度情報と読取機座標データとに基づいて当該無線タグの存在が推定される第1領域における検出時刻における当該無線タグの存在確率を算出する第1算出手段、推定位置記憶手段に記憶されている無線タグの過去の推定位置座標データの座標と特定座標データの特定座標との距離、および当該特定座標に対応する影響に関するパラメータに基づいて推定される検出時刻での移動場所における、当該無線タグの存在確率を算出する第2算出手段、第1算出手段および第2算出手段によって算出された存在確率に基づいて検出時刻における無線タグの推定位置座標を算出する推定座標算出手段、および推定座標算出手段によって算出された検出時刻における無線タグの推定位置座標を示す推定位置座標データを推定位置記憶手段に記憶する推定位置記録手段を備える、位置推定システムである。
【0007】
請求項1の発明では、位置推定システムは、所定の空間における無線タグを検出するための複数の読取機を含む。読取機記憶手段には複数の読取機の座標データが記憶されている。また、特定座標情報記憶手段には、特定座標を示す特定座標データが記憶される。特定座標は、無線タグの移動に引力または斥力による影響を与える座標であり、実施例では、人間関係を有している無線タグらの重心座標や特定物体(影響物体)の座標である。さらに、この特定座標による影響に関するパラメータも記憶される。影響に関するパラメータは、たとえば、影響が作用するか否かの判定条件、影響の程度、影響の不確かさの程度などを決める各種パラメータを含む。実施例では、人間関係による影響パラメータとしての引力距離、斥力距離、力成分および誤差、または、影響物体による影響パラメータとしての影響半径、影響無効半径、力成分および誤差などを含む。検出された無線タグの受信電波強度情報から当該無線タグまでの距離情報を得ることができるので、この距離情報と読取機の座標とに基づいて、当該無線タグが存在すると推定される第1領域を算出できる。第1算出手段は、無線タグを検出した読取機ごとに、第1領域における検出時刻における当該無線タグの存在確率を算出する。無線タグの存在確率はたとえば第1領域に一様に分布するものとして算出される。また、このシステムでは、空間内の特定座標による無線タグの移動への影響を考慮して、検出時刻における無線タグの移動場所を予測する。無線タグの過去の推定位置座標と特定座標との距離、および影響に関するパラメータに基づいて、特定座標に無線タグが引き寄せられるか、遠ざけられるかなどを予測することによって、この移動場所を推定することができる。第2算出手段は、推定された移動場所における当該無線タグの存在確率を算出する。この無線タグの存在確率もたとえば移動場所に一様に分布するものとして算出される。推定座標算出手段は、第1算出手段および第2算出手段によって算出された存在確率に基づいて検出時刻における無線タグの推定位置座標を算出する。このように、検出時刻における読取機の検出情報に基づいて推定される第1領域における存在確率と、無線タグの移動に影響を及ぼす特定座標の影響を考慮して予測される移動場所における存在確率とを組み合わせて、当該無線タグの位置が推定される。実施例では、存在確率の最も高い場所の重心座標が算出されて、当該検出時刻における無線タグの推定位置座標とされる。推定位置記録手段は、算出された検出時刻における無線タグの推定位置座標を示す推定位置座標データを推定位置記憶手段に記憶する。
【0008】
請求項1の発明によれば、無線タグの移動に影響を与える特定座標の影響を考慮して無線タグの移動場所を予測し、読取機の検出情報による推定と組み合わせて、当該無線タグの位置を推定するようにしたので、無線タグの位置をより正確に推定することができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明に従属し、第2算出手段は、無線タグの過去の推定位置座標データの座標と特定座標データの特定座標との距離が影響に関するパラメータに含まれる影響を及ぼす範囲を示すデータの範囲内であるときに、過去の無線タグの座標に特定座標に対する引力または斥力を作用させることによって検出時刻で存在が推定される移動場所における、当該無線タグの存在確率を算出する。
【0010】
請求項2の発明では、無線タグの過去の推定位置座標データの座標と特定座標データの特定座標との距離が、影響を及ぼす範囲を示すデータの範囲内であるときに、当該特定座標の影響が考慮されて、移動場所が予測される。具体的には、第2算出手段は、過去の無線タグの座標に特定座標に対する引力または斥力を作用させることによって、検出時刻における当該無線タグの移動場所を推定し、当該移動場所における無線タグの存在確率を算出する。したがって、無線タグが特定座標の影響を受ける位置に存在するときに、無線タグに当該特定座標による影響としての引力または斥力を作用させることができ、当該無線タグの移動場所をその影響に基づいて予測することができるので、無線タグの位置をより正確に推定することができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2の発明に従属し、複数の無線タグがそれぞれ装着される複数の人間の人間関係を示す人間関係情報を記憶する人間関係情報記憶手段、および処理対象の無線タグとの間に人間関係を有している無線タグが検出されるとき、当該人間関係を有している全ての無線タグの過去の推定位置座標データから重心座標を算出して、当該重心座標を示す重心座標データを特定座標データとして特定座標情報記憶手段に記憶する重心算出手段をさらに備える。第2算出手段は、処理対象の無線タグの過去の推定位置座標データの座標と重心座標との距離、および影響に関するパラメータに含まれる当該人間関係に対応するパラメータに基づいて推定される検出時刻での第1移動場所における、当該無線タグの存在確率を算出する。
【0012】
請求項3の発明では、人間情報記憶手段は、たとえば無線タグの識別情報に関連付けて、無線タグの装着される複数の人間の人間関係を示す情報を記憶している。重心算出手段は、処理対象の無線タグとの間に人間関係を有している無線タグが検出されるとき、人間関係を有する無線タグの過去の推定位置座標から重心座標を算出し、この重心座標を特定座標として特定座標記憶手段に記憶する。つまり、人間関係を有する人間が検出されるときは、人間関係を有する無線タグの重心座標が、無線タグの移動に影響を与える特定座標となる。第2算出手段は、処理対象の無線タグの過去の推定位置座標データの座標と重心座標との距離および人間関係に対応するパラメータに基づいて検出時刻における第1移動場所を予測し、当該第1移動場所における当該無線タグの存在確率を算出する。人間の移動はたとえば家族、恋人、友人などといった人間関係のある人の存在に影響を受けるので、この影響を考慮して無線タグの移動場所を予測することができる。したがって、人間関係を有している人間が存在する場合には、人間関係による移動の傾向に合うように移動場所を予測することができるので、位置推定の精度をより向上することができる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項2または3の発明に従属し、特定座標情報記憶手段は、空間内の所定の位置に配置される少なくとも1つの特定物体の座標を示す特定物体座標データを特定座標データとして記憶している。第2算出手段は、無線タグの過去の推定位置座標データの座標と特定物体の座標との距離、および影響に関するパラメータに含まれる当該特定物体に対応するパラメータに基づいて推定される検出時刻での第2移動場所における、当該無線タグの存在確率を算出する。
【0014】
請求項4の発明では、特定座標情報記憶手段は、特定座標データとして、空間内に配置される特定物体の座標データを記憶している。つまり、空間内に特定物体が存在するとき、当該特定物体の位置座標が人間の移動に影響を与える特定座標となる。第2算出手段は、無線タグの過去の推定位置座標データの座標と特定物体の座標との距離、および当該特定物体に対応するパラメータに基づいて検出時刻における第2移動場所を予測し、当該第2移動場所における当該無線タグの存在確率を算出する。人間の移動は、空間内の特定物体の存在に影響を受ける場合があるので、この影響を考慮して無線タグの移動場所を予測することができる。したがって、特定物体との距離が影響を及ぼす範囲内である場合には、特定物体に引き寄せられるか否かに応じて移動場所を予測することができるので、位置推定の精度をより向上することができる。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明に従属し、無線タグの過去の推定位置座標データの履歴に基づいて推定される検出時刻での第3移動場所における当該無線タグの存在確率を算出する第3算出手段をさらに備える。推定座標算出手段は、第1算出手段、第2算出手段および第3算出手段によって算出された存在確率に基づいて、検出時刻における当該無線タグの推定位置座標を算出する。
【0016】
請求項5の発明では、第3算出手段は、無線タグの過去の推定位置座標の履歴に基づいて予測される検出時刻での第3移動場所における当該無線タグの存在確率を算出する。推定座標算出手段は、算出された存在確率を組み合わせて検出時刻における当該無線タグの推定位置座標を算出する。したがって、無線タグの実際の移動履歴による影響を考慮して検出時刻における無線タグの第3移動場所を予測することができるので、位置推定の精度をより高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、無線タグの装着される人間の移動に影響を及ぼす空間内の特定座標の影響を考慮して当該無線タグの検出時刻における移動場所を予測するようにした。そして、読取機の検出情報による場所推定と移動予測による場所推定とを組み合わせて、当該無線タグの存在位置を推定するようにしたので、より正確な位置推定を行うことができる。
【0018】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1を参照して、この実施例の位置推定システム(以下、単に「システム」という。)10は、このシステム10を全体的に制御する中央コンピュータ12および環境ないし所定空間に設置される複数の無線タグ読取機(以下、単に「読取機」という。)14を含む。中央コンピュータ12の内部または外部には、無線タグ16の推定位置が格納される推定位置データベース(DB)18が設けられる。中央コンピュータ12には、たとえばRS232Cのような汎用インタフェースを介して複数の読取機14が接続される。なお、複数の読取機14は無線LANなどを介して中央コンピュータ12と接続されてもよい。
【0020】
さらに図2も参照して、このシステム10は、所定の空間ないし環境24における無線タグ16の位置を推定するためのものである。所定の空間20の一例として、博物館や科学館のような展示環境、娯楽施設、学校の教室など、様々な環境が考えられる。無線タグ16は空間20に存在するまたはこの空間20を訪問する人間22に取り付けられる。このシステム10は、換言すれば、空間20において自由に移動する人間22の位置を推定しようとするものでもある。また、この空間20の所定位置には1または複数の影響物体24が配置されている。影響物体24は、人間22の移動に影響を与える特定の物体である。人間22の移動に影響を与える影響物体24として、たとえば、展示物、案内ロボット、その他遊具、自動販売機、掲示物など、所定の空間20の種類に応じて様々な物体が設定され得る。
【0021】
複数の読取機14のそれぞれは、空間20内における無線タグ16を検出可能となるように、空間20内の所定の位置に固定的に配置される。望ましくは、無線タグ16が空間20内のどの位置に存在しても、少なくとも3つの読取機14で検出されるように、複数の読取機14は配置される。この場合、環境に設置された読取機14の検出情報に基づいて、三角測量の手法によって無線タグ16のおおまかな位置を推定することができる。この実施例では、環境に設置される読取機14の設置間隔は、場所にもよるが、およそ4m〜8m程度でよい。
【0022】
なお、無線タグ16としてはRFIDタグが使用される。RFID(Radio Frequency Identification)は、電磁波を利用した非接触ICタグによる自動認識技術のことである。RFIDタグは、識別情報用のメモリや通信用の制御回路等を備えるICチップおよびアンテナ等を含む。そのメモリには、タグ固有識別情報等が予め記憶され、その識別情報等が所定周波数の電磁波・電波等によってアンテナから所定の時間間隔で出力される。この実施例では、すべての無線タグ16の送信電波強度は同一に設定される。
【0023】
なお、伝送方式としては、この実施例では、空間20内における無線タグ16の位置を推定するので、たとえば、交信距離の比較的長いマイクロ波方式(最大5m程度)のものを使用することができる。また、電源の方式は、適切な交信距離領域を確保するため、電池内蔵の能動型を用いるのが望ましい。また、タグの形態ないし形状は任意であり、たとえばカード形、ラベル形、コイン形、スティック形などであってよい。
【0024】
読取機14は、この実施例ではRFIDタグからの出力情報を検出する。具体的には、読取機14はアンテナを含み、RFIDタグから送信される識別情報の重畳された電波をアンテナを介して受信する。そして、受信した電波信号を増幅し、当該電波信号から識別情報を分離し、当該情報を復調(デコード)する。
【0025】
この読取機14では、電波受信感度(アンテナ感度)を段階的に(この実施例では8段階で)調節することが可能になっている。これにより、無線タグ16の最大検出可能距離(感知範囲)をたとえば8段階で設定することができる。たとえば受信感度レベルLが8のときに最も広い感知範囲となり、受信感度レベルLが1のときに最も狭い感知範囲となる。そして、読取機14は、検出時刻において、電波受信感度(読み取り強度)の設定レベルLを自動的に変更しつつ無線タグ16の読み取りを行い、その検出時刻における全レベルでの読み取りの結果を出力することができる。
【0026】
読取機14は、たとえば図3に示すような検出情報を中央コンピュータ12に出力する。検出情報には、自己の識別情報を示す読取機固有ID、検出時刻t、および検出された無線タグ16の情報が含まれる。検出された無線タグ16の情報は、全受信感度レベルでの読み取り結果であり、受信感度レベルLに関連付けてそのレベルLで検出された無線タグ16の固有IDが記憶されている。複数の無線タグ16が検出された場合には、複数のタグ固有IDが記憶される。また、無線タグ16が検出されなかった場合には、当該受信感度レベルLに関連付けてたとえば検出なしを示すデータが記述される。
【0027】
そして、この実施例では、すべての無線タグ16の送信電波強度は同一に設定されているので、このように読取機14で最大検出可能距離(感知範囲)を段階的に変更しつつ読み取りを行うことによって、無線タグ16が存在するものと仮定する領域を把握することが可能になる。たとえば受信感度レベルがLのときに検出されている無線タグ16が、1段階下のレベルL−1のときに検出されていない場合、その無線タグ16はレベルL−1での最大検出可能距離からレベルLでの最大検出可能距離までの間の領域に存在すると仮定することができる。この存在仮定領域については図6を参照して後述する。
【0028】
また、この電波受信感度の設定レベルLに基づいて、無線タグ16から出力された電波の受信強度(受信電波強度)を把握することが可能である。上述のようにすべての無線タグ16の送信電波強度は同一であるので、たとえば最も感度の高い設定レベル(L=8)すなわち最大の感知範囲になってはじめて検出される無線タグ16は、読取機14で検出される無線タグ16の中では当該読取機14から最も遠い範囲に存在しており、その受信電波強度は最も弱いものとなる。一方、最も感度の低い設定レベル(L=1)すなわち最小の感知範囲になっても検出される無線タグ16は、読取機14で検出される無線タグ16の中では当該読取機14に最も近い範囲に存在しており、その受信電波強度は最も強い。このように、電波受信感度の設定レベルLごとの無線タグ16の検出の有無に基づいて、無線タグ16の受信電波強度を段階的に(この実施例では8段階で)検出することが可能である。
【0029】
なお、読取機14の電波受信感度のレベルLに対応する最大検出可能距離は、個体差があるため、それぞれの読取機14ごとに実験によって予め計測されている。
【0030】
また、この実施例では、読取機14から検出時刻tを出力するようにしているが、他の実施例では、中央コンピュータ12にタイマを設けて検出時刻tをカウントするようにしてもよい。
【0031】
また、製品の一例として、無線タグ16にはRF Code社(http://www.rfcode.com/)の「SPIDER(商標)」タグを使用することができ、読取機14には同社の「SPIDER(商標)」リーダを使用することができる。これらは303.8MHzの極超短波帯の電波を使用している。
【0032】
中央コンピュータ12は、パーソナルコンピュータやワークステーションのようなコンピュータであり、CPUおよびメモリなどを含む。メモリはROM、HDDおよびRAMなどを含む。ROMないしHDDにはこのシステム10の全体的な動作を制御するために必要なプログラムおよびデータが記憶されていて、CPUはこのプログラムに従って処理を実行する。RAMはCPUの作業領域またはバッファ領域として使用され、CPUの処理によって生成されまたは取得されたデータが記憶される。また、CPUには、複数の読取機14が汎用インタフェース等を介して接続される。
【0033】
なお、図1では、複数の読取機14のすべてが1つの中央コンピュータ12に接続された場合を示したが、中央コンピュータ12は複数の読取機14を担当する複数のコンピュータによって構成されてもよい。この場合には、各コンピュータは、読取機14で検出した情報を含むデータを通信装置を介してメインとなる1つのコンピュータに送信し、このメインコンピュータは、受信したデータに基づいて位置推定のための処理を実行する。
【0034】
図4には、中央コンピュータ12のメモリに記憶されている読取機14に関する情報の内容の一例が示される。このデータには、読取機固有ID(IDR1〜IDRn)に関連付けて、各読取機14の空間20における設置位置の座標(XeN,YeN)、および電波受信感度レベルLごとの最大検出可能距離dNLが登録されている(N=1〜n)。なお、この図4において環境に設置される読取機14の数を示す所定値nは、図8においてユーザ数(タグ数)を示す所定値nとは無関係に設定されるものであり、両者の値が同一であることを意味するものではない。電波受信感度レベルLごとの最大検出可能距離は、すべての読取機14ごとに予め実験によって測定された値が登録される。
【0035】
読取機14から取得される検出情報には、上述のように、読取機固有IDと電波受信感度レベルLの情報が含まれるので、中央コンピュータ12は、このデータを参照することによって、その読取機14の設置位置の座標と各レベルLでの最大検出可能距離を把握できる。
【0036】
なお、所定空間20における位置データは、図2に示すようにXY2次元平面座標系で表され、この実施例では鉛直方向(Z軸)の座標は設定されない。また、この空間20の2次元XY平面の各座標(x,y)は任意に設定されてよいが、たとえば1cmを単位長さとして定められてよい。
【0037】
図5には、中央コンピュータ12で生成されるタグに関する情報の内容の一例が示される。中央コンピュータ12のCPUは、すべての読取機14の検出情報に基づいて、タグごとに、このタグに関する情報を生成する。このタグに関する情報には、無線タグ16のタグ固有IDに関連付けて、検出時刻t、および当該タグを検出した読取機の情報が記憶される。この読取機の情報には、当該タグを検出した読取機14の読取機固有IDに対応づけて、区分レベルが記憶される。
【0038】
この区分レベルは、当該無線タグ16の検出の有無を区分する電波受信感度レベルLである。上述のように、当該無線タグ16について、あるレベルLまでは検出されるがその1段階下のレベルL−1では検出されないような場合があるので、このような当該無線タグ16の検出の有無を分ける電波受信感度レベルLを検出して、当該電波受信感度レベルLを区分レベルLとして設定する。なお、電波受信感度レベルLが1のときでも当該無線タグ16が検出されている場合には、区分レベルは1とされる。
【0039】
図6には、区分レベルによって仮定できる無線タグ16の存在仮定領域が示される。ある読取機Nの検出情報から検出された区分レベルがLであった場合、つまり、受信感度レベルがLのときに検出されている無線タグ16が、1段階下のレベルL−1のときには検出されていない場合、その無線タグ16は、読取機Nの位置座標(XeN,YeN)からレベルL−1での最大検出可能距離dNL−1までの領域には存在しないが、その外側のレベルLでの最大検出可能距離dNLまでの領域には存在すると仮定することができる。つまり、その無線タグ16は、読取機Nの位置座標(XeN,YeN)を中心とし、長さdNLおよびdNL−1をそれぞれ半径とした2つの円の間の領域(斜線部分。図6の式(1)で示される。)に存在すると仮定できる。
【0040】
このように、区分レベルLによって、無線タグ16の存在仮定領域がどの範囲になるかが決まる。たとえば、区分レベルLが1であるときは、受信感度レベルLが1になっても無線タグ16が検出されるので、存在仮定領域は読取機Nに最も近い範囲となる。また、区分レベルLが8であるときは、受信感度レベルLが8になってはじめて無線タグが検出されるので、存在仮定領域は読取機Nに最も遠い範囲となる。
【0041】
また、区分レベルLは受信電波強度のレベルにも対応するものであるといえる。つまり、区分レベルLが1であるときは、無線タグ16は読取機Nに最も近い範囲に存在するので、その受信電波強度のレベルは最大であり、一方、区分レベルLが8であるときは、無線タグ16は読取機Nに最も遠い範囲に存在するので、その受信電波強度のレベルは最小である。このように、区分レベルLは、受信電波強度に関する情報を含んだものでもある。
【0042】
図7には、区分レベルLと存在仮定領域との関係の一例を示す。これらは実験によって得られた値である。また、上述のように読取機ごとに個体差があるので、図8の数値は一例に過ぎない。たとえば、区分レベルLが「4」であった場合、読取機14の位置座標からの距離が100cmから150cmまでの間の領域が存在仮定領域となる。
【0043】
図8には、中央コンピュータ12のメモリに記憶されるユーザ情報の内容の一例が示される。このデータには、ユーザID(IDU1〜IDUn)に関連付けて、そのユーザ22に取り付けられる無線タグ16の識別情報(無線タグ固有ID:IDT1〜IDTn)、およびそのユーザ名などのユーザに関する情報が登録される。中央コンピュータ12は、取得した無線タグ固有IDに基づいてこのデータを参照することによって、検出された人間22を特定することができる。
【0044】
さらに、ユーザ情報は、無線タグ14の装着される人間22の移動に影響を与える人間関係に関する情報を含む。ユーザ22と所定の人間関係を有する他のユーザ22とを関連付けるべく、所定の関係を有するユーザ22のユーザIDが予め記憶されている。この実施例では、このような移動に影響を与える人間関係として、たとえば親子関係、恋人関係、友人関係などが設定されている。図8の例では、ユーザIDU1と親子関係を有するユーザ22としてIDU4,5が登録され、ユーザIDU2と恋人関係を有するユーザ22としてIDU6が登録される。また、人間関係情報は、グループIDを用いて登録されてよい。図8の例では、ユーザIDU3の友人関係を有するユーザ22として、グループIDを用いて、IDGF1が登録されている。グループIDには、図9に示すように、人間関係を有するグループを形成する複数のユーザ22のユーザIDが登録され、この例では、IDU3、IDU7およびIDU8が登録されている。人間関係情報としてグループIDが登録されている場合、自己のIDを除く登録IDとの間に当該人間関係があることがわかる。
【0045】
図10には、中央コンピュータ12のメモリに記憶される人間関係による影響パラメータの内容の一例が示される。このデータは、人間関係に基づいてタグ16の存在場所を推定する際に使用される。具体的には、各人間関係に関連付けて、引力距離dist_fおよび斥力距離dist_s等が予め記憶される。図14で後述するように、引力距離dist_fは、人間関係を有するタグ16らの重心位置への引力をタグ16の位置の推定に考慮する閾値であり、斥力距離dist_sは、人間関係を有するタグ16らの重心位置との斥力をタグ16の位置の推定に考慮する閾値である。つまり、これら引力距離および斥力距離は、人間関係による影響が作用するか否かの判定条件である。
【0046】
図11には、中央コンピュータ12のメモリに記憶される影響物体情報の内容の一例が示される。このデータには、影響物体24の物体IDに対応付けて、名称、空間20における位置座標(e_X,e_Y)、および物体による影響パラメータ等が予め記憶される。影響物体24は、上述のように、環境20に配置されて人間22の移動に影響を与える特定の物体であり、図11の例では、展示物、ロボット、自動販売機などが登録されている。人間22は、特定物体24の近くに存在すると判定されたときに、当該特定物体24の影響を受ける。パラメータは、影響物体24に基づいてタグ16の存在場所を推定する際に使用され、影響半径e_rおよび影響無効半径e_d等を含む。図16で後述するように、影響半径e_rは、当該特定物体24の位置への引力をタグ16の位置の推定に考慮する閾値であり、影響無効半径e_dは、当該特定物体24の位置への引力を無効にする閾値である。つまり、これら影響半径および影響無効半径は、特定物体24による影響が作用するか否かの判定条件である。
【0047】
この実施例では、中央コンピュータ12は、たとえば1秒間隔等の一定周期で各読取機14から検出情報を取得して、その検出時刻における無線タグ16の位置を推定する。
【0048】
具体的に、無線タグ16の存在位置の推定手法について説明する。上述したように、読取機14で無線タグ16が検出され、区分レベルがLであったとき、その無線タグ16は、その検出時刻tにおいて、図6で斜線で示される領域(第1領域)に存在するものと仮定または推定される。具体的には、この読取機14における無線タグ16の存在仮定領域は、当該読取機14の位置座標(XeN,YeN)を中心とし、受信感度レベルLでの最大検出可能距離dNLおよび受信感度レベルL−1での最大検出可能距離dNL−1をそれぞれ半径とした2つの円の間の領域である。そして、この存在仮定領域において、無線タグ16の存在する確率は一様に分布するものと仮定する。つまり、この存在仮定領域内の各座標(x,y)の確率を総和すると1.0になるように、各座標(x,y)での存在確率が算出される。
【0049】
所定空間20内においては、1つの無線タグ16が、たとえば受信感度レベル3または4程度の所定のレベルで同時に複数の読取機14によって検出されるように、各読取機14が配置されている。つまり、複数の読取機14で1つの無線タグ16が検出されるとき、所定の区分レベルでの存在仮定領域が、他の読取機14の所定の区分レベルでの存在仮定領域と重なり合う状態になるようにして、複数の読取機14は配置されている。この場合には、無線タグ16の存在する確率は、当該無線タグ16を検出した複数の読取機14の存在仮定領域が最も多く重なり合う部分で最も高くなる。たとえば、図12に示すように、3つの読取機14で同時に無線タグ16が検出されたときには、その検出時刻tにおいて、当該無線タグ16の存在する確率は、3つの存在仮定領域の重なり合う部分(図12の格子線部分)で最も高くなる。また、2つの存在仮定領域の重なり合う部分の存在確率は、他と重ならない領域の部分の確率よりも高い。このようにして環境に設置された読取機14の検出情報のみから算出される推定位置は比較的おおまかなものである。
【0050】
発明者等の実験や研究によって、人間の移動は空間内の特定の座標に影響を受ける場合があることが見出された。そして、この特定座標の影響を考慮して無線タグ16すなわち人間22の検出時刻における移動場所ないし領域を予測することによって、推定位置の精度を向上できることがわかった。具体的には、人間22の移動は、人間関係を有している人達の位置に影響を受ける。また、人間22の移動は、周辺環境の特性、たとえば周囲の環境に存在する特定物体24の位置に影響を受ける。そこで、この実施例では、無線タグ16の装着された人間22の移動に影響を与える要因として、人間関係および周囲の環境の特性を考慮して検出時刻における存在場所を予測する。
【0051】
また、人間22の移動場所は、当該人間22の過去の移動の履歴にも影響を受けると考えられる。人間22の移動速度には上限があり、たとえば瞬時に遠い位置に移動することは不可能である。したがって、場所の推定には当該人間22の移動履歴(行動履歴)も考慮される。この行動履歴に基づく移動場所の予測によっても、位置推定の精度を向上することができる。
【0052】
まず、図13に示す行動履歴に基づく場所推定について説明する。人間22の位置は、過去の移動の仕方からある程度予測可能であるので、行動履歴を用いて移動場所を推定する。この処理では、処理対象の無線タグ16(ID=aとする)の過去の推定座標から算出される移動速度saに基づいて、現検出時刻tにおける存在場所を予測する。たとえば、過去一定時間(t−1,…,t−n)における推定座標((Xa(t−1),Ya(t−1)),…,(Xa(t−n),Ya(t−n)))の差分および差分平均を計算して移動速度saを計測する。算出に使用される過去の一定時間を決めるnの値はたとえば実験結果に基づいて所定値が設定される。
【0053】
この移動速度のX軸方向成分sa_xおよびY軸方向成分sa_yを、時刻(t−1)における推定座標(Xa(t−1),Ya(t−1))に加算する。これによって算出された座標(Xa(t−1)+sa_x,Ya(t−1)+sa_y)を中心とし、かつ誤差eaを半径とした円内の領域が、行動履歴に基づくタグaの推定移動場所になる。この推定移動場所は、図13では、ドットパターンが付された円内領域であり、同図中の式(2)で示される。
【0054】
誤差eaは、行動履歴に基づく移動推定の誤差すなわち不確かさの程度を示す。誤差eaは、検出時間間隔(サンプリング時間)と人間22の移動速度に依存するものであり、予め計測されて、中央コンピュータ12のメモリに記憶されている。たとえば、サンプリング間隔が1秒である場合には誤差eaは0.2m程度に設定される。サンプリング間隔が長くなれば人間22の移動量が大きくなって誤差eaも大きくなる。たとえば、サンプリング間隔が2秒である場合には誤差eaは0.4m程度に設定されてよい。サンプリング時間が計測中に変更されるような場合には、その変更に応じてこの誤差eaの値も変更される。あるいは、過去の速度から誤差eaの値を決定するようにしてもよい。
【0055】
推定対象の無線タグaの存在確率Laは、この推定移動場所に一様に分布するものとして、算出される。つまり、この推定移動場所内の各座標(x,y)の確率を総和すると1.0になるように、各座標(x,y)での存在確率が算出される。
【0056】
次に、図14に示す人間関係に基づく場所推定について説明する。たとえば家族、恋人、友人などといった人間関係を有する人間が空間20内に存在している場合、人間22の移動は人間関係のある人の存在に影響を受ける。たとえば、親は離れた子を追いかけたり、恋人同士は寄り添って移動したり、友人同士はある程度固まって移動したりする。したがって、この人間関係を有する人達の移動の傾向に合わせて人間22の移動場所を推定する。
【0057】
具体的には、人間関係のある人達のそれぞれは、それらの重心座標との距離に応じて、重心座標に引き寄せられたり重心座標から離れたりする。つまり、人間関係のある人達の重心座標との距離に応じて当該重心に対して引力が作用したり斥力(反発力)が作用したりする。人間の移動はこのような重心に対する引力や斥力の影響を受ける。
【0058】
重心に引き寄せられるか否かは、直前の検出時刻t−1における重心座標との距離に基づいて決まる。時刻t−1における人間関係を有する人達の重心座標(Xa_c(t−1),Ya_c(t−1))は、時刻t−1における処理対象の無線タグaの推定座標と、当該タグaと人間関係を有する無線タグ16の推定座標から算出される。そして、時刻t−1におけるタグaの座標と重心座標とから距離dist_gが算出される。この距離dist_gの値に基づいて、特定の座標すなわち人間関係のある人達の重心座標にタグaが引き寄せられるか否かを予測して、存在場所(移動場所)を推定する。
【0059】
距離が離れている場合、人間関係のある人達は互いに引き寄せられる。この引力によって、時刻tにおける無線タグaの移動位置は重心座標の位置に近くなると推定される。したがって、算出距離dist_gが閾値(引力距離)dist_f以上であるときには、作用する力成分p_hとして引力(p_h=p_const1)が採用される。力成分p_hは人間関係に基づく影響の程度を示すパラメータであり、その値p_const1は定数であり、メモリに予め記憶されている。
【0060】
また、距離が非常に近い場合には、人間は互いに離れる傾向にある。この斥力によって、時刻tにおける無線タグaの移動位置は重心座標の位置から遠くなると推定される。したがって、算出距離dist_gが閾値(斥力距離)dist_sよりも小さいときには、作用する力成分p_hとして斥力(p_h=−p_const1)が採用される。
【0061】
さらに、距離dist_gが斥力距離dist_s以上でありかつ引力距離dist_fよりも小さい場合には、人間同士は適度な距離を保っているものとみなして、力が作用しないものとする(力成分p_h=0)。つまり、この場合には、時刻tにおける無線タグaの移動位置は重心座標との間の距離を保つと推定される。
【0062】
なお、dist_fおよびdist_sは、上述の図10に示したように、無線タグaの持つ人間関係によって変化し、メモリに予め記憶されている。たとえば、親子関係では、子は親の目の届く範囲では比較的自由に移動するので、引力距離dist_fは比較的大きな値に設定されてよい。また、恋人関係では、当該二人は寄り添って移動するので、斥力距離dist_sは非常に小さい値に設定されてよく、引力距離dist_fは比較的小さい値に設定されてよい。
【0063】
人間関係による推定移動場所の算出の概要が図15に示される。まず、無線タグaと人間関係のある無線タグらの重心座標の移動履歴から、時刻tにおける当該重心座標の移動位置を推定する。つまり、過去(t−1,…,t−n)におけるタグaと人間関係を持つタグ16らの重心座標((Xa_c(t−1),Ya_c(t−1)),…,(Xa_c(t−n),Xa_c(t−n)))の差分と平均から、重心座標の移動速度sa_cを算出する。続いて、過去(t−1)における重心座標(Xa_c(t−1),Ya_c(t−1))と移動速度sa_cから、時刻tにおける推定重心座標(Xa_ce(t),Ya_ce(t))を算出する。この算出では、図13の場合と同様に、重心座標Xa_c(t−1)およびYa_c(t−1)に、移動速度sa_cのX成分sa_cxおよびY成分sa_cyをそれぞれ加算する。そして、時刻tにおける推定重心座標(Xa_ce(t),Ya_ce(t))に、時刻t−1におけるタグaの座標と重心座標との距離dist_gのX成分xdおよびY成分ydをそれぞれ加算し、かつ、力のX成分(−p_hx)およびY成分(−p_hy)をそれぞれ加算する。なお、力p_hは、時刻t−1におけるタグaの座標と人間関係を有するタグ16らの重心座標とを結ぶ線に平行な方向に作用するものとするので、力のX軸方向成分(−p_hx)およびY方向成分(−p_hy)はそれぞれ次式から算出される:p_hx=xd/(xd+yd)×p_h,p_hy=yd/(xd+yd)×p_h。
【0064】
これによって算出された座標(Xa_ce(t)+xd−p_hx,Ya_ce(t)+yd−p_hy)を中心とし、かつ、誤差ea_hを半径とした円内の領域が、人間関係に基づくタグaの推定移動場所となる。この推定移動場所は、図15では、ドットパターンが付された円内領域であり、同図中の式(3)で示される。推定対象の無線タグaの存在確率Lbは、この推定移動場所に一様に分布するものとして、算出される。
【0065】
誤差ea_hは、人間関係に基づく移動推定の誤差すなわち不確かさの程度を示す。誤差ea_hは、上述の誤差eaと同様であり、検出時間間隔(サンプリング時間)と人間22の移動速度に依存するものである。誤差ea_hは、重心座標による影響に関するパラメータの1つであり、たとえば予め計測されて、中央コンピュータ12のメモリに記憶されている。誤差ea_hの値は人間関係の種類に応じて変更されてよい。
【0066】
続いて、図16に示す影響物体24に基づく場所推定について説明する。人間22の移動は、当該人間22の近くまたは周囲の環境に存在する特定の物体24の位置に影響を受ける。たとえば博物館等の展示環境においては、訪問者22は、展示物の近くに来たら、その展示物に近付くことが予期される。また、ロビーに配置される案内ロボット、自動販売機や掲示板などが近くに存在する場合にもそれらに近付く可能性がある。したがって、このような周囲の環境に配置された影響物体24の位置に基づいて人間22の移動場所を推定する。
【0067】
具体的には、推定対象の無線タグaは、影響物体24との距離に応じて当該影響物体24の位置に引き寄せられたり引き寄せられなかったりする。つまり、影響物体24との距離に応じて、当該位置に対して引力が作用したりしなかったりする。人間22の移動は、この影響物体24に対する引力に影響を受ける。
【0068】
引力が作用するか否かは、直前の検出時刻t−1におけるタグaと影響物体24との距離dist_eに基づいて決まる。距離dist_eは、時刻t−1におけるタグaの推定位置座標(Xa(t−1),Ya(t−1))と、影響物体24の座標(e_X,e_Y)とから算出される。
【0069】
距離dist_eが影響半径e_rよりも大きい場合には、つまり、タグaが影響物体24の近くに存在していないときには、タグaは影響物体24から影響を受けず力が作用しないものとする(力成分p_e=0)。つまり、この場合には、時刻tにおける無線タグaの移動位置は影響物体24との間の距離を保ったままであると推定される。
【0070】
また、距離dist_eが影響半径e_r以下でありかつ影響無効半径e_d以上であるとき、当該タグaに作用する力成分p_eとして引力(p_e=p_const2)が採用される。力成分p_eは影響物体に基づく影響の程度を示すパラメータであり、その値p_const2は定数であり、メモリに予め記憶されている。この引力によって、時刻tにおける無線タグaの移動位置は影響物体24の位置に近くなると推定される。
【0071】
また、距離dist_eが影響無効半径e_dよりも小さいときにも、タグaは影響物体24から影響を受けない(p_e=0)。人間22は影響物体24にある程度近付いたら、それ以上近付かなくても当該物体24を見たり触れたりできるからである。
【0072】
なお、影響物体24から斥力は作用しないものとしているが、距離dist_eが影響無効半径e_dよりも小さいときは、力成分が0である斥力が作用しているものとみなして、値が0である斥力が作用していると表現することも可能である。
【0073】
図17には、影響物体24による推定移動場所の算出の概要が示される。直前の時刻t−1における推定対象の無線タグaの推定座標(Xa(t−1),Ya(t−1))、タグaと影響物体24との距離dist_e、および力成分p_eに基づいて、現検出時刻tにおける存在場所が推定される。つまり、時刻t−1における推定座標(Xa(t−1),Ya(t−1))に、距離dist_eのX成分xdおよびY成分ydをそれぞれ加算し、かつ、力のX成分(−p_ex)およびY成分(−p_ey)を加算する。なお、力p_eは、時刻t−1におけるタグaの座標と影響物体24の座標とを結ぶ線に平行な方向に作用するものとするので、力のX軸方向成分(−p_ex)およびY方向成分(−p_ey)はそれぞれ次式から算出される:p_ex=xd/(xd+yd)×p_e,p_ey=yd/(xd+yd)×p_e。
【0074】
これによって算出された座標(Xa(t−1)+xd−p_ex,Ya(t−1)+yd−p_ey)を中心とし、かつ、誤差ea_eを半径とする円内の領域が影響物体24に基づくタグaの推定移動場所となる。この推定移動場所は、図17では、ドットパターンが付された円内領域であり、同図中の式(4)で示される。推定対象の無線タグaの存在確率Lcは、この推定移動場所に一様に分布するものとして、算出される。
【0075】
誤差ea_eは、影響物体に基づく移動推定の誤差すなわち不確かさの程度を示す。誤差ea_eは、上述の誤差ea、ea_hと同様であり、検出時間間隔(サンプリング時間)と人間22の移動速度に依存するものである。誤差ea_eは、特定物体24による影響に関するパラメータの1つであり、たとえば予め計測されて、中央コンピュータ12のメモリに記憶されている。
【0076】
そして、これら算出された存在確率を組み合わせることによって、当該検出時刻における当該無線タグaの位置を推定する。つまり、たとえば、読取機14の検出情報による存在確率、ならびに行動履歴、人間関係および周囲の環境に基づく推定移動場所における存在確率を組み合わせて、存在確率の最も高い場所を選択し、選択された場所の重心座標を時刻tにおけるタグaの推定位置座標として算出する。
【0077】
具体的に、推定位置座標を算出する際には、まず、時刻tにおけるタグaの存在確率を、すべての座標(x,y)で総和する。この実施例では、図6の読取機14ごとの存在仮定領域(式(1))におけるタグaの存在確率、図13の行動履歴に基づく推定移動場所(式(2))におけるタグaの存在確率La、図15の人間関係に基づく推定移動場所(式(3))におけるタグaの存在確率Lb、および図17の周囲環境に基づく推定移動場所(式(4))におけるタグaの存在確率Lcが算出されるので、これらの算出された確率を全ての座標(x,y)で足し合わせる。次に、全ての座標(x,y)の確率の総和が1.0になるように、検出時刻tにおけるタグaの存在確率P(t,a,x,y)を正規化する。
【0078】
続いて、タグaが存在する確率の最も高い場所を特定する。たとえば、確率値Pの最も高い座標(x,y)を検出し、検出した座標が上述の推定移動場所(2)から(4)のいずれに含まれるのかを検出する。各推定移動場所(2)、(3)、(4)がたとえば図18に示すような位置関係になった場合には、影響物体24に基づく推定移動場所(4)が2つの読取機14の存在仮定領域の重複部分(交差斜線部分)に存在しており、当該推定移動場所(4)内の重複部分の確率が最も高くなる。したがって、図18の場合には推定移動場所(4)が最も確率の高い場所であると特定される。
【0079】
そして、この確率の最も高い場所の重心座標を算出する。この重心座標は、たとえば当該場所に含まれる座標(x,y)と算出した確率P(t,a,x,y)とを用いて算出される。この算出された重心座標(Xa,Ya)が、時刻tにおける当該タグaの推定位置座標として推定位置座標DB18に記憶される。
【0080】
重心のx座標Xaおよびy座標Yaは、次の数1および数2で算出される。
【0081】
【数1】

【0082】
【数2】

【0083】
ここで、P(x,y)は、座標(x,y)における当該無線タグ(a)の検出時刻tにおける存在確率である。すなわち、重心の座標は、座標とその座標の持つ確率との積を、推定移動場所に含まれる全ての座標に対して行って、それらの総和をとり、この総和の値を全ての座標が持つ確率の総和で割ることによって、決定される。
【0084】
図19には、中央コンピュータ12のCPUの動作の一例が示される。処理を開始すると、まず、ステップS1で、オペレータによる停止命令が生じたか否かを判断する。ステップS1で“YES”であれば、つまり、マウスまたはキーボード等の入力装置から停止を指示するデータが入力された場合には、この処理を終了する。
【0085】
一方、ステップS1で“NO”であれば、ステップS3で、全ての読取機14から検出情報を取得してメモリのRAMに記憶する。このステップS3の検出情報の取得は、周期的に(たとえば1秒間隔のような所定間隔で)実行されてよいし、可変間隔で実行されてもよい。図3に示したように、検出情報には、当該読取機の固有ID,検出時刻t、電波受信感度レベルLごとの検出された各無線タグ16の固有ID等が含まれている。
【0086】
続いて、ステップS5で、取得した検出情報に基づいて、無線タグ16ごとに当該無線タグ16に関する情報を抜き出す。そして、図5に示したように、無線タグ固有IDに関連付けて、検出時刻t、検出した読取機の情報(読取機固有IDとその区分レベルL)を含むデータをRAMに作成する。区分レベルLは、上述のように、当該無線タグ16の検出の有無を分ける電波受信感度レベルLを検出することによって取得される。
【0087】
そして、ステップS7で、無線タグ16が所定空間20に存在するか否かを判断する。ステップS7で“NO”であれば、つまり、各読取機14からの検出情報に無線タグ固有IDが含まれていなかった場合には、処理はステップS1へ戻る。
【0088】
一方、ステップS7で“YES”であれば、ステップS9で無線タグ16ごとの位置推定処理を実行する。この位置推定処理の動作の一例が図20に詳細に示される。
【0089】
図20の最初のステップS31では、処理する無線タグa(a=固有ID)に関する情報をステップS5で生成したデータから取得する。無線タグaに関する情報は、図5に示したように、無線タグ固有IDに関連付けられた、検出時刻t、検出した読取機の情報(読取機固有IDとその区分レベルL)等を含む。複数の無線タグ16が検出された場合、処理するタグaの選択順序は任意であり、たとえばタグ固有IDの順に従って設定される。
【0090】
次に、ステップS33では、当該無線タグaを検出した読取機14ごとに、その存在仮定領域(図6で式(1)で示される)に、当該無線タグaが存在する確率を算出する。なお、各読取機14の位置座標は、読取機14に関する情報(図4)から取得される。また、各読取機14の存在仮定領域を規定する最大検出可能距離dNLおよびdNL−1は、各読取機の区分レベルL(受信感度レベルL)に基づいて、同じく読取機14に関する情報(図4)から取得される。したがって、存在仮定領域を図6の式(1)に従って算出することができる。
【0091】
続いて、ステップS35で、行動履歴による場所推定処理を実行する。この行動履歴による場所推定処理の動作の一例が図21に示される。
【0092】
図21の最初のステップS71では、過去(t−1,…,t−n)における処理対象タグaの推定座標(Xa(t−1),Ya(t−1)),…,(Xa(t−n),Ya(t−n))を推定位置DB18からRAMに取得する。次に、ステップS73で、取得したタグaの推定座標の差分と当該差分の平均を算出して、移動速度saを算出する。続いて、ステップS75で、時刻tにおいて推定移動場所(図13の式(2)で示される)における当該タグaが存在する確率Laを算出する。推定移動場所を決定するためのパラメータとしての誤差eaはメモリから取得される。したがって、行動履歴による移動場所を図13の式(2)に従って算出して推定することができる。確率Laは、当該推定移動場所の全座標(x,y)に一様に分布するものとして算出されて、メモリに記憶される。ステップS75を終了すると、この行動履歴による場所推定処理を終了して、図20のステップS37に戻る。
【0093】
図20のステップS37では、当該タグaの人間関係が登録されているか否かを、メモリに記憶されているユーザ情報(図8)を参照して判定する。ステップS37で“YES”であれば、つまり、当該タグaと人間関係を持つ人間22が所定の空間20内に存在している場合には、ステップS39で、検出された無線タグ16の固有IDとユーザ情報に登録されている人間関係のあるタグ固有IDとに基づいて、読取機14で検出された全ての無線タグ16の中から、当該タグaと人間関係を有する全ての無線タグ16のタグ固有IDを取得する。
【0094】
そして、ステップS41で人間関係による場所推定処理を実行する。この人間関係による場所推定処理の動作の一例が図22に示される。
【0095】
図22の最初のステップS91では、タグaの固有IDと取得された人間関係を有する全てのタグ16の固有IDとに基づいて、過去(t−1,…,t−n)におけるタグaと人間関係を有するタグ16らの推定座標を推定位置DB18からRAMに取得する。
【0096】
次に、ステップS93で、過去の各検出時刻における当該人間関係を有しているタグ16らの重心座標(Xa_c(t−1),Ya_c(t−1)),…,(Xa_c(t−n),Ya_c(t−n))を算出する。この人間関係を有するタグらの重心座標の算出には過去における当該タグaの推定座標も使用される。
【0097】
続いて、ステップS95で、当該タグ16らの重心座標(Xa_c(t−1),Ya_c(t−1)),…,(Xa_c(t−n),Ya_c(t−n))の差分と平均から、重心座標の移動速度sa_cを算出する。
【0098】
さらに、ステップS97で、当該タグ16らの重心座標(Xa_c(t−1),Ya_c(t−1)),…,(Xa_c(t−n),Ya_c(t−n))と、重心座標の移動速度sa_cから、検出時刻tにおける推定重心座標(Xa_ce(t),Ya_ce(t))を算出する。
【0099】
そして、ステップS99で、時刻tにおいて推定移動場所(図15の式(3)で示される)における当該タグaが存在する確率Lbを算出する。具体的には、人間関係に対応する影響パラメータ(図10参照)がメモリから取得される。また、誤差ea_hの値も取得される。力成分p_hの値は、時刻t−1におけるタグaの推定座標と人間関係を有するタグらの重心座標との距離dist_gの値とパラメータとの大小関係に応じて、メモリから所定の値が取得される。したがって、図15の式(3)に従って、人間関係による移動場所を算出して推定することができる。確率Lbは、推定移動場所の全座標(x,y)に一様に分布するものとして算出されてメモリに記憶される。ステップS99を終了すると、この人間関係による場所推定処理を終了して、図20のステップS43に戻る。
【0100】
なお、処理対象のタグaについて複数の種類の人間関係が検出される場合には、たとえば人間関係ごとに図22の処理を実行して人間関係ごとに確率Lbを算出する。
【0101】
また、図20のステップS37で“NO”であれば、つまり、タグaと人間関係を持っているタグ16が検出されず、またはタグaに人間関係が登録されていない場合等には、処理はステップS43に進む。
【0102】
ステップS43では、当該タグaの近くに影響物体24が存在するか否かを判定する。たとえば、直前の検出時刻t−1における当該タグaの推定位置座標と各影響物体24の座標との距離を算出し、算出した各距離が各影響物体24の影響半径e_r以下であるか否かを判断する。なお、時刻t−1における当該タグaの推定位置座標(Xa(t−1),Ya(t−1))は推定位置DB18から取得され、各影響物体24の座標(e_X,e_Y)、影響半径e_rはメモリの影響物体情報(図11参照)から取得される。
【0103】
ステップS43で“YES”であれば、ステップS45で、当該タグaの近くにあると判定された全ての影響物体24の物体IDを影響物体情報から取得する。
【0104】
そして、ステップS47で、影響物体による場所推定処理を実行する。この影響物体による場所推定処理の動作の一例が図23に示される。
【0105】
図23の最初のステップS111で、ステップS45で取得した全ての物体IDをカウントしてタグaの近くにある影響物体24の個数uを取得するとともに、当該全ての物体IDに対応する影響物体情報を取得する。
【0106】
次に、ステップS113で、タグaの近くに存在する全u個の影響物体について、場所推定処理が終了しているか否かを判断する。ステップS113で“NO”であれば、全u個の影響物体24のうち処理の対象とする影響物体vを決定して、ステップS115で、時刻tにおいて当該影響物体vの推定移動場所(図17の式(4)で示される)におけるタグaの存在する確率Lc(v=1〜u)を算出する。具体的には、誤差ea_eの値をメモリから取得する。力成分p_eの値は、時刻t−1におけるタグaの推定座標と影響物体vの位置座標との距離dist_eの値と影響パラメータ(影響半径e_rおよび影響無効半径e_d)との大小関係に応じて、メモリから所定の値が取得される。したがって、図17の式(4)に従って、当該特定物体24に基づく移動場所を算出し推定することができる。確率Lc(v)は、推定移動場所の全座標(x,y)に一様に分布するものとして算出されてメモリに記憶される。ステップS115を終了すると処理はステップS113に戻る。ステップS113で“YES”であれば、この影響物体による場所推定処理を終了して、図20のステップS49に戻る。
【0107】
また、図20のステップS43で“NO”であれば、つまり、タグaがいずれの影響物体24の影響範囲内にも存在していない場合には、処理はそのままステップS49へ進む。
【0108】
ステップS49では、時刻tにおけるタグaが存在する確率を全ての座標(x,y)で総和する。具体的には、ステップS33で読取機14ごとに算出された確率、ステップS75(図21)で算出された確率La、ステップS99(図22)で算出された確率Lb、ステップS115(図23)で算出された確率Lcに基づいて、全座標について当該座標における確率値を足し合わせる。
【0109】
なお、この実施例では、算出された存在確率のそれぞれを1対1の比率で加算するようにしているが、各存在確率を重み付けして加算するようにしてもよい。この場合の各存在確率の重み係数は実験結果に基づいて適宜な値に設定される。
【0110】
次に、ステップS51で、タグaが存在する確率P(t,a,x,y)を正規化する。たとえばステップS49で総和した確率を当該総和に用いた算出された存在確率の数で割ることによって正規化し、全座標の確率値の総和が1.0になるようにする。
【0111】
続いて、ステップS53で、ステップS51で算出した確率P(t,a,x,y)を用いて、タグaが存在する確率の最も高い場所を特定する。たとえば、確率値Pの最も高い座標(x,y)を検出し、検出した座標が、上述した行動履歴による推定移動場所(2)、人間関係による推定移動場所(3)、および影響物体による推定移動場所(4)のいずれに含まれるのかを検出する。
【0112】
そして、ステップS55で、タグaが存在する確率の最も高い場所の重心座標(Xa,Ya)を、上記数1および数2に従って算出する。この確率の最も高い場所の重心座標が当該時刻tにおけるタグaの推定位置座標である。ステップS55を終了すると、この位置推定処理を終了し、処理は図19のステップS11へ戻る。
【0113】
図19に戻って、ステップS11で、検出時刻tに関連付けて、処理対象であった無線タグaの固有ID,および算出された推定位置(Xa,Ya)をメモリから推定位置DB18に記録する。
【0114】
そして、ステップS13で、ステップS7で検出された全ての無線タグ16について処理したか否かを判断する。ただし、登録されている全無線タグ16に関して判断してもよい。ステップS13で“NO”であれば、ステップS9に戻る。こうして、全ての無線タグ16について位置推定処理を行って、推定位置座標をDB18に記録する。一方、ステップS11で“YES”であれば、次の検出時刻における計測を行うべく、ステップS1に戻る。
【0115】
この実施例によれば、無線タグ16の装着された人間22の移動に影響を及ぼす空間20内の特定の座標の影響を考慮して当該無線タグ16の移動場所を予測し、読取機14の検出情報による推定と組み合わせて、当該無線タグ16の位置を推定するようにしたので、より正確な位置推定を行うことができる。
【0116】
具体的には、無線タグ16の装着された人間22の人間関係による影響を考慮した。この場合、人間関係を有する人間22(無線タグ16)らの重心座標が、空間20において人間22の移動に影響を与える特定座標となる。この人間関係を有する無線タグ16らの重心座標と推定対象の無線タグ16の座標との距離に基づいて、当該無線タグ16が重心座標に対して引き寄せられるか否か(たとえば反発するか、もしくは影響無しかなど)を判定し、判定結果に応じた移動場所ないし領域を予測するようにしたので、位置推定の精度を向上することができる。
【0117】
また、空間20に配置された影響物体(特定物体)24による影響を考慮した。この場合、特定物体24の位置座標が、空間20において人間22の移動に影響を与える特定座標となる。この特定物体24の座標と推定対象の無線タグ16の座標との距離に基づいて、当該無線タグ16が特定物体24の座標に対して引き寄せられるか否か(影響無しか等)を判定し、判定結果に応じた移動場所ないし領域を推定するようにしたので、位置推定の精度を向上することができる。
【0118】
また、算出された推定位置座標のデータは推定位置DB18に記録される。各無線タグ16の推定位置は、たとえば周期的な検出時刻tに関連付けて記録されている。つまり、推定位置座標データは検出時刻の経過に沿った時系列データでもあり、各無線タグ16の移動軌跡を示している。したがって、このシステム10によれば、無線タグ16の移動の履歴すなわち無線タグ16の装着された人間22の行動履歴を、より正確に記録することができる。そして、このシステム10で記録される行動履歴データ(推定位置座標データ)は精度が高いので、人間22の行動をより正確に把握することができる。したがって、たとえば、この行動履歴データとともにコミュニケーションロボットなどを用いて、無線タグ16を装着した人間22に対して、行動履歴に基づいたより的確なコミュニケーションやサービスを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】この発明の一実施例の位置推定システムの一例を示すブロック図である。
【図2】図1実施例の位置推定システムの概要を示す図解図である。
【図3】無線タグ読取機から出力される検出情報の内容の一例を示す図解図である。
【図4】中央コンピュータのメモリに記憶される無線タグ読取機に関する情報の内容の一例を示す図解図である。
【図5】検出情報に基づいて無線タグごとに生成される無線タグに関する情報の内容の一例を示す図解図である。
【図6】無線タグ読取機で検出された無線タグの存在仮定領域を示す図解図である。
【図7】無線タグ検出の区分レベルと無線タグ読取機の存在仮定領域との関係の一例を示す図解図である。
【図8】中央コンピュータのメモリに記憶されるユーザ情報の内容の一例を示す図解図である。
【図9】ユーザ情報の人間関係情報に設定されるグループIDの内容の一例を示す図解図である。
【図10】中央コンピュータのメモリに記憶される人間関係パラメータの内容の一例を示す図解図である。
【図11】中央コンピュータのメモリに記憶される影響物体情報の内容の一例を示す図解図である。
【図12】無線タグ読取機の検出情報に基づく無線タグの位置推定を説明するための図解図である。
【図13】行動履歴に基づく推定移動場所を説明するための図解図である。
【図14】人間関係に基づく場所推定の概念を示す図解図である。
【図15】人間関係に基づく推定移動場所を説明するための図解図である。
【図16】影響物体に基づく場所推定の概念を示す図解図である。
【図17】影響物体に基づく推定移動場所を説明するための図解図である。
【図18】確率の最も高い場所の特定を説明するための図解図である。
【図19】中央コンピュータの動作の一例を示すフロー図である。
【図20】図19の位置推定処理の動作の一例を示すフロー図である。
【図21】図20の行動履歴による場所推定処理の動作の一例を示すフロー図である。
【図22】図20の人間関係による場所推定処理の動作の一例を示すフロー図である。
【図23】図20の影響物体による場所推定処理の動作の一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0120】
10 …位置推定システム
12 …中央コンピュータ
14 …無線タグ読取機
16 …無線タグ
18 …推定位置DB
20 …所定空間
22 …人間
24 …影響物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の空間における無線タグの位置を推定する位置推定システムであって、
前記無線タグを検出する複数の読取機、
前記複数の読取機の前記空間における座標を示す読取機座標データを記憶する読取機情報記憶手段、
前記無線タグの移動に引力または斥力による影響を与える特定座標を示す特定座標データおよび前記特定座標による影響に関するパラメータを記憶する特定座標情報記憶手段、
前記無線タグを検出した前記読取機ごとに、当該読取機で検出された受信電波強度情報と前記読取機座標データとに基づいて当該無線タグの存在が推定される第1領域における検出時刻における当該無線タグの存在確率を算出する第1算出手段、
推定位置記憶手段に記憶されている前記無線タグの過去の推定位置座標データの座標と前記特定座標データの特定座標との距離、および当該特定座標に対応する前記影響に関するパラメータに基づいて推定される前記検出時刻での移動場所における、当該無線タグの存在確率を算出する第2算出手段、
前記第1算出手段および前記第2算出手段によって算出された前記存在確率に基づいて前記検出時刻における前記無線タグの推定位置座標を算出する推定座標算出手段、および
前記推定座標算出手段によって算出された前記検出時刻における前記無線タグの前記推定位置座標を示す推定位置座標データを前記推定位置記憶手段に記憶する推定位置記録手段を備える、位置推定システム。
【請求項2】
前記第2算出手段は、前記無線タグの過去の推定位置座標データの座標と前記特定座標データの特定座標との前記距離が前記影響に関するパラメータに含まれる影響を及ぼす範囲を示すデータの範囲内であるときに、前記過去の前記無線タグの座標に前記特定座標に対する引力または斥力を作用させることによって推定される前記検出時刻での前記移動場所における、当該無線タグの存在確率を算出する、請求項1記載の位置推定システム。
【請求項3】
複数の前記無線タグがそれぞれ装着される複数の人間の人間関係を示す人間関係情報を記憶する人間関係情報記憶手段、および
処理対象の無線タグとの間に人間関係を有している無線タグが検出されるとき、当該人間関係を有している全ての前記無線タグの過去の前記推定位置座標データから重心座標を算出して、当該重心座標を示す重心座標データを前記特定座標データとして前記特定座標情報記憶手段に記憶する重心算出手段をさらに備え、
前記第2算出手段は、前記処理対象の無線タグの過去の前記推定位置座標データの座標と前記重心座標との距離、および前記影響に関するパラメータに含まれる当該人間関係に対応するパラメータに基づいて推定される前記検出時刻での第1移動場所における、当該無線タグの存在確率を算出する、請求項2記載の位置推定システム。
【請求項4】
前記特定座標情報記憶手段は、前記空間内の所定の位置に配置される少なくとも1つの特定物体の座標を示す特定物体座標データを前記特定座標データとして記憶していて、
前記第2算出手段は、前記無線タグの過去の推定位置座標データの座標と前記特定物体の座標との距離、および前記影響に関するパラメータに含まれる当該特定物体に対応するパラメータに基づいて推定される前記検出時刻での第2移動場所における、当該無線タグの存在確率を算出する、請求項2または3記載の位置推定システム。
【請求項5】
前記無線タグの過去の前記推定位置座標データの履歴に基づいて推定される前記検出時刻での第3移動場所における当該無線タグの存在確率を算出する第3算出手段をさらに備え、
前記推定座標算出手段は、前記第1算出手段、前記第2算出手段および前記第3算出手段によって算出された前記存在確率に基づいて、前記検出時刻における当該無線タグの推定位置座標を算出する、請求項1ないし4のいずれかに記載の位置推定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2006−258468(P2006−258468A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73127(P2005−73127)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年6月1日付け、支出負担行為担当官 総務省大臣官房会計課企画官、研究テーマ「ネットワーク・ヒューマン・インターフェースの総合的な研究開発(ネットワークロボットの技術)」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】