説明

位置決め装置

【課題】高減速比を確保した上で半径方向および軸方向の両方向において小型化が可能な位置決め装置を提供することをその目的とする。
【解決手段】動力源の出力を減速機構で減速してねじ伝動機構に伝え、被位置決め部材を所定の位置に位置決めする位置決め装置において、上記減速機構は、動力源によって駆動される中空の入力軸と、該入力軸に形成した傾斜部において回転自在に支承された中空の回転体と、ねじ伝動機構に連携される出力軸とを備え、該回転体の軸方向端部に、ケースに固定された歯数n1の第1歯車に噛み合う歯数n2の第2歯車と、出力軸に形成された歯数n4の第4歯車に噛み合う歯数n3の第3歯車とを形成し、上記入力軸の回転により上記回転体が揺動運動しながら各歯車間の噛み合い位置を変える揺動型減速機として構成されている。ねじ伝動機構のナット部材は、減速機構の入力軸内周において同軸的に重合配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ軸とナット部材を備えたねじ伝動機構と、該ねじ軸と同軸的に配置された減速機構とを備え、減速機構から伝えられる回転運動をねじ伝動機構により直線運動に変換するように構成した位置決め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にこの種の位置決め装置は、工作機械のテーブル、自動車の操舵装置等の精密位置決め装置として用いられている。たとえば、特許文献1に示すように、自動車の低速走行時における小回り性および高速走行時における走行安定性を向上する目的で後輪操舵装置が用いられており、この後輪操舵装置には精密位置決め装置が用いられている。この位置決め装置は、動力源としての電動モータと、電動モータの出力を減速する減速機構と、減速機構の出力としての回転運動を直線運動に変換するねじ伝動機構によって構成されており、電動モータの出力がこれらの各機構を介してねじ伝動機構のねじ軸により直線変位量として伝えられ、ねじ軸の両端に連携されている車輪を所定の操舵角に精密に位置決め制御するように構成されている。
【特許文献1】特開平7−215226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に記載の位置決め装置は、電動モータ、減速機構およびねじ伝動機構が位置決め出力軸としてのねじ軸と同軸上に配置されているので、全体としてはコンパクトにまとまっているが、これらの各要素が軸方向に併設されているので、軸方向に長くなり、限られたスペース内への搭載性に課題がある。
【0004】
さらに特許文献1に記載の位置決め装置は、減速機構として遊星歯車を用い、しかも所定の減速比を得るにあたって2組の遊星歯車を用いるものであるため、軸方向の長さはより一層長くならざるを得ないものであった。そこで、軸方向長さを短縮するためには減速機構としての遊星歯車を1組にすることでその分の短縮化は可能であるが、必要減速比の確保と半径方向の小型化を両立することが困難となる。
【0005】
つまり、遊星歯車方式においては、減速比は基本的にサンギヤとリングギヤとの歯数比すなわちピッチ円の比率によって支配され、高減速比を得るためにはサンギヤ径を小さく、リングギヤ径を大きくする必要がある。サンギヤの径を小さくすると、その内周に位置する出力軸としてのねじ軸の軸径を小さくする必要があり、強度上問題がある。出力軸としてのねじ軸の軸径を大きくするためには、サンギヤの径を大きくする必要があり、その分、リングギヤの径も大きくなり、同軸型位置決め装置の最大の利点であるコンパクト性が損なわれ、限られたスペース内にレイアウトする際、多大な困難が伴う。
【0006】
したがって、特許文献1に記載の位置決め装置は、所定の高減速比を確保した上で、半径方向および軸方向の両方向において小型化を図ることができないものであった。
【0007】
本発明はかかる点に着目してなされたもので、高減速比を確保した上で半径方向および軸方向の両方向において小型化が可能な位置決め装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の請求項1に係わる手段は、ねじ軸とナット部材を備えたねじ伝動機構と、該ねじ軸と同軸的に配置された減速機構とを備え、動力源の出力を減速機構で減速してねじ伝動機構に伝え被位置決め部材を所定の位置に位置決めするように構成した位置決め装置において、
上記減速機構が、動力源によって駆動される中空の入力軸と、該入力軸に形成した傾斜部において回転自在に支承された中空の回転体と、上記ねじ伝動機構に連携される出力軸とを備え、該回転体の軸方向端部に、ケースに固定された歯数n1の第1歯車と噛み合う歯数n2の第2歯車と、出力軸に形成された歯数n4の第4歯車と噛み合う歯数n3の第3歯車とを形成し、上記入力軸の回転により上記回転体が揺動運動しながら各歯車間の噛み合い位置を変える揺動型減速機構として構成され、また、上記ねじ伝動機構のナット部材が、上記減速機構の入力軸内周において同軸的に重合配置されていることを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の発明は、減速機構としていわゆる揺動型減速機構を用い、この揺動型減速機構の構造的特徴を有効に活用すべく、中空回転体の中空部内において、ねじ伝動機構のナット部材と減速機構の入力軸とを同軸的に重合配置しているので、高減速比を確保しかつ必要軸径を確保した上で全体の小型化が可能となる。
【0010】
請求項2に係わる手段は、請求項1において、上記ナット部材の軸方向内端が、上記減速機構の第3歯車と第4歯車の噛み合い位置より軸方向内方に延設されていることを特徴とする。この構成によれば、入力軸とナット部材の重合長さを十分確保でき、その支持剛性を高めることができるので、装置全体の曲げ剛性を向上させることが可能となる。
【0011】
請求項3に係わる手段は、請求項1および2において上記動力源が、中空の電動モータであり上記減速機構と同軸上において軸方向に併設されていることを特徴とする。この構成によれば、動力源としての電動モータを含めて一つのユニットとしての位置決め装置の小型化が可能となる。
【0012】
請求項4に係わる手段は、請求項1ないし3の1つにおいて、上記減速機構の回転体を支承する軸受け手段が、ボールベアリングあるいはローラベアリングとして構成され、該ベアリングのボールあるいはローラがその内周あるいは外周のすくなくとも一方において上記入力軸の外周あるいは回転体の内面に直接位置決めされていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、軸受け部材としてのいわゆるベアリングのインナーレースあるいはアウターレースの少なくとも一方を省略することができるので、その分、回転体の半径方向の寸法を小さくすることができ、位置決め装置の小型化に貢献する。また、インナーレースなどの省略は、回転体内方の収容空間の拡大にもつながり、入力軸とナット部材の重合配置による半径方向の寸法拡大に対して寸法の吸収代として活用できる。
【0014】
請求項5に記載の手段は、請求項1ないし4の1つにおいて、上記出力軸を支承する軸受け手段が、ボールベアリングあるいはローラベアリングとして構成され、該ボールあるいはローラはその内周あるいは外周のすくなくとも一方において上記出力軸の外周あるいはケースの内面に直接位置決めされていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、上記と同様に軸受け部材としてのいわゆるベアリングのインナーレースあるいはアウターレースの少なくとも一方を省略することができるので、その分、ケースの外径寸法を小さくすることができ、位置決め装置の小型化に貢献する。また、インナーレースなどの省略は、その分、出力軸の外径寸法の拡大が可能となり、高出力仕様の際に有利となる。なお、インナーレースおよびアウターレースの両方を省略すれば、当然のことながら、一方のみに比べてより設計の自由度が拡大するが、組み付け性などを考慮した場合、一方のみのほうが有利になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の位置決め装置は以上のように構成されているので、高減速比および高強度を確保した上で位置決め装置の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。本発明に係わる位置決め装置では、そのケース1の軸心と同軸的に、電動モータ2、減速機構3およびねじ伝動機構4が配置されている。この位置決め装置の最終出力軸としてのねじ軸4aは、たとえば自動車の後輪操舵装置の操舵軸として用いられるものであり、電動モータ2の出力が減速機構3によって減速され、その回転運動がねじ伝動機構4によって直線運動に変換され、ねじ軸4aの両端に連携される左右の後輪(図示せず)に対し、後輪操舵量として伝えられることになる。この場合、電動モータ2の駆動方向の切り換えにより、操舵軸としてのねじ軸4aは軸方向の両方向に変位し、車輪を任意の方向に所定角度操舵するように構成されている。
【0018】
上記電動モータ2は、中空モータとして構成され、中空の駆動軸5と同軸に配置されており、ケース1に固定されたステータ2aと駆動軸5の外周に固定されるロータ2bとを備えている。本実施例では、コアとしての鉄心に巻き線を巻いた通常の電動モータを用いているが、巻き線が樹脂などにより固められてコアが省略された、いわゆるコアレスモータとして構成することもできる。コアレスモータを用いることで位置決め装置の半径方向の寸法を圧縮することが可能となる。
【0019】
この電動モータ2は、図示しない制御装置によって回転制御されるように構成されており、制御装置からの制御信号を受けてロータ2bが所定回転角、回転し、駆動軸5を駆動する。なお、駆動軸5は、ケース1に固定された固定筒8外周に嵌挿されており、軸端部に設けられた回転センサーとしてのエンコーダ6と電動モータ2との間においてベアリング7を介してケース1の内周に回転自在に支承されている。固定筒8には、ねじ軸4a外周に設けられた鍔状のストッパー9,10間において縮装された中立ばね11が介在されている。この中立ばね11は、電動モータ2の制御系が故障した場合、ねじ軸4aをばね力でもって中立位置に戻し、後輪を操舵位置から所期位置(直進位置)に強制的に戻すようになっている。
【0020】
また、エンコーダ6と電動モータ2との間には、駆動軸5に固定されたディスク12aと、電磁ソレノイド12bの作用によりディスク12aを圧接離間する摩擦板12cとを備えている電磁ブレーキ12が介在されており、被位置決め部材からの外力が位置決め装置に伝達されないように位置決め装置をロックするように構成されている。
【0021】
上記減速機構3は、動力源としての電動モータ2によって駆動される中空の入力軸3aと、該入力軸3aに形成した傾斜部3b上において回転自在に支承された中空の回転体3cと、上記ねじ伝動機構4に連携される出力軸3dとを備え、該回転体3cの軸方向端部に、ケース1に固定された歯数n1の第1歯車A1と噛み合う歯数n2の第2歯車A2と、出力軸3dに形成された歯数n4の第4歯車A4と噛み合う歯数n3の第3歯車A3とを形成し、上記入力軸の回転に伴う傾斜部3bの偏芯運動により上記回転体3cが揺動運動しながら各歯車間の噛み合い位置を変える揺動型減速機構として構成されている。
【0022】
入力軸3aはモータ出力軸としての駆動軸5の一部として構成され、その一端部には傾斜部3bが形成されている。傾斜部3bは、軸心Xと同軸の内周面と、軸心Xに対して所定角度傾斜した軸心Yの外周面とを備え、内周面においてニードルベアリング3e,3eを介してねじ伝動機構4のナット部材4b外周面に支承され、また、外周面において軸受け手段としてのボール3gを介して回転体3cを回転自在に支承している。つまり回転体3c、入力軸3aおよびねじ伝動機構4のナット部材4bの三者は、入力軸3aの傾斜部3bを中心にして半径方向に重合配置されることになる。
【0023】
上記回転体3cは、大きい内部空間を有する薄肉の中空リング状に形成され、その軸方向端面には、第2歯車A2および第3歯車A3としての傘歯車が形成されている。この第2歯車A2と第3歯車A3とは、それぞれ軸方向において対峙する固定歯車としての第1歯車A1と、出力歯車としての第4歯車A4と噛み合う。この第1および第4歯車も同様に傘歯車として形成される。これら第1ないし第4歯車の歯形は、所定の円弧で凹状に形成され、それぞれの噛み合い部の一方の凹状部にニードルローラとしてのコロ3qが介在され、このコロ3qを介して噛み合い伝達が行われるようになる。つまり、第1、第4歯車は凹部と凹部に位置するコロ3qとで凸状歯として構成され、第2、第3歯車は、上記凸状歯と噛み合う凹状歯として構成される。
【0024】
以上のように構成される揺動型減速機構は、以下のような原理で作動する。すなわち、傾斜部3bの回転に対し、回転体3cが揺動運動を行い、その端面に形成された第2歯車A2および第3歯車A3が第1歯車A1および第4歯車A4の軸心に対して面振り運動を行い、第1、第2歯車および第3、第4歯車の噛み合い位置が周方向に変位する。
【0025】
このとき、第1歯車A1と第2歯車A2間の周方向の相対変位は、第1歯車A1と第2歯車A2の歯数差に相当する値だけ、つまり、歯数差が1であれば回転体3cの一周期の面振り運動に対し一歯分ずれることになり、歯数差が2の場合には二歯ずれることになる。また、第3歯車A3と第4歯車A4との間においても同様の運動が行われる。
【0026】
したがって、減速機構として構成する場合には、減速比をR(入力軸3aが1回転したときの出力軸3dの回転数)とすると、R=1−(n1×n3)/(n2×n4)として表される。
【0027】
ここで、n1:第1歯車A1の歯数、n2:第2歯車A2の歯数、n3:第3歯車A3の歯数、n4:第4歯車A4の歯数として、n1=99,n2=100,n3=101,n4 =100とすると、減速比は、R=1/1万(正回転)となる。
【0028】
つまり、第1歯車A1の歯数が99、第2歯車A2の歯数が100であるので、入力軸3aが1回正回転すると、第1歯車A1に対して第2歯車A2は1/100だけ正回転する。第2歯車A2の運動は、第3歯車A3に直接伝わり、第3歯車A3と第4歯車A4との間でも、同様の噛み合いを行う。この場合、第3歯車A3の歯数が101、第4歯車A4の歯数が100とすると、第3歯車A3に対して第4歯車A4は1/100だけ逆回転する。よって、第3歯車A3と第4歯車A4との間でも、1段階の減速がなされる。すなわち、入力軸3aの回転運動が出力側に伝達される際に、第1、第2歯車A1,A2の間と、第3、第4歯車A3,A4の間とで、2段階の減速が行われることになる。
【0029】
また、第2歯車A2、第3歯車A3が揺動運動をしながら、第1歯車A1、第4歯車A4 とそれぞれ噛み合う際には、固定歯間の各噛み合いであれば噛み合い面には摺動を生ずる。この摺動により発生する騒音、振動および発熱による焼き付きを防止する為に、各歯車の噛み合い部には、上述のように、コロ3qが介在されている。
【0030】
したがって、図2に示すように、回転体3aが周方向に揺動運動を行うと、第1歯車A1と第2歯車A2の噛み合い位置(第3歯車A3と第4歯車A4の噛み合い位置)は周方向に移動し、各凹状歯と凸状歯とを噛み合わせていく。そして、各凹状歯と凸状歯との間に生ずる摺動を、コロ3qの回転で吸収している。したがって、バックラッシの設定を不要とするばかりか、各歯車間に予圧を付与して、精密な噛み合わせを行うことができる。(なお、この種の減速機のより詳細については、本発明者の発明による特公平7-56324号公報に記載されている)
上記第4歯車を備えた出力軸3dは、ケース1の内面において軸受け部材としてのボール3hを介して回転自在に支承されており、また一端において上記ねじ伝動機構4のナット部材4bにボルトにて一体に固定されている。したがって、減速機構3の回転出力は、位置決め装置の最終出力部材としてのねじ伝動機構4に伝えられ、ねじ軸4aに直線変位として伝達される。なお、ねじ伝動機構4は、ねじ軸4aとナット部材4bの間にボール4cが介在されるボールねじ伝動機構として構成される。
【0031】
また、ナット部材4bは減速機構3の出力軸3dの後端にボルトにて固定されるフランジ部4cとボール4dを収納する収納部が形成される筒状部4eを備え、この筒状部4eが、上記のように入力軸の内周において入力軸および回転体と重合するように軸方向内方に向かって延設されている。この筒状部4eはボール4dを介してねじ軸4aに連携するねじ部と被ねじ部とを備え、その内端は電動モータ内周部まで伸びている。
【0032】
以上のように構成される減速機構3の各構成要素は、軸受け部材としてのボール3f,3g,3hによってそれぞれ回転自在に支承されているが、このボール3f,3g,3hは、減速機構3の構成要素に直接形成された環状の位置決め溝3i,3j,3k,3l,3m,3nによってそれぞれ位置決めされ、この位置決め溝が形成される構成部材とボールとでいわゆるボールベアリングとして構成されている。外周部の構成要素がベアリングのアウターレースを兼ね、内周部の構成要素がベアリングのインナーレースを兼ねることになる。
【0033】
すなわち、入力軸3aを支承する軸受け部材としてのボール3fは、その内周において入力軸3aの外周に形成された位置決め溝3jにより位置決めされるとともに、その外周においてケース1の一部を構成する第1歯車A1のボス部の内周に形成された位置決め溝3iにより位置決めされている。入力軸側の位置決め溝3jは、ロックナット3oの外周の一部にまたがって形成されている。また、回転体3cを支承するボール3gは、その内周において入力軸3aの外周に形成された位置決め溝3lにより位置決めされるとともに、その外周において回転体3cの内周に形成された位置決め溝3kにより位置決めされている。この場合、環状の位置決め溝3l,3kは、傾斜部の軸心Yに対して直行する方向に形成されている。入力軸側の位置決め溝3lは、上記ボール3fの位置決め溝3jと同様にロックナット3pの外周の一部にまたがって形成されている。さらに、出力軸3dを支承するボール3hは、その内周において出力軸3dと、ナット部材4bのフランジ部4c外周にまたがって形成された位置決め溝3nにより位置決めされるとともにその外周においてケース1の内周に形成された位置決め溝3mにより位置決めされている。
【0034】
したがって、インナーレースおよびアウターレースの基本構成要素との兼用化による省略により、その分、小型化、強度アップなどの設計の自由度向上に寄与する。つまり、小型化については、インナーおよびアウターレースの肉厚分がそのまま寄与し、強度アップについては、ベアリングとしてのボール3f,3g,3hの大径化あるいは入力軸3a、出力軸3d、ねじ伝動機構4のナット部材4b、ねじ軸4a等の各構成軸の軸径の大径化が可能となる。なお、上記ボール4f,4g,4hはともにリテーナによって複数個が一体に連携されている。
【0035】
上記実施例に係わる位置決め装置は、以上のように構成されているので、以下のような特徴がある。
【0036】
揺動型減速機構3は、上記のように単に高減速比が得られるだけでなく、第1ないし第4歯車の噛み合い位置が半径方向外端においてそれぞれの歯車が軸方向に対峙して噛み合うように構成されているので、半径方向内方に十分な中空空間を確保することができ、位置決め装置としての基本構成要素の設計の自由度を拡大することを意味する。したがって、位置決め装置の出力部材としてのねじ伝動機構4を、必要径を保って減速機構3の入力軸3aと同軸的に重合配置でき、装置全体の小型化が可能となる。
【0037】
さらに揺動型減速機構の減速比は、第1、第2歯車間の歯数差および第3、第4歯車間の歯数差によって支配され、その間の歯数差が少ないほど減速比を大きくすることができるので、この点も小型化に大きく寄与する。つまり、各歯車のピッチ円の差が最小の状態で最大の減速比が得られることになるので、歯車構成部材の内部空間を確保できるだけでなく、外径寸法の圧縮も可能となる。
【0038】
また、伝動機構4のナット部材4bが、入力軸3aの内方において、装置の軸方向内方に向かって減速機構3の回転体3cを貫通して配置されているので、出力軸3dの回転を減速機構の半径方向内方のナット部材4bに伝えられるようになり、動力の伝達経路が極めてコンパクトになるだけでなく、その延設部は、電動モータ近くまで延設することができるので、ナット部材4bの支持剛性および減速機構の出力軸の支持剛性を十分確保することができる。
【0039】
また、軸受け部材としてのボール3f,3g,3hの内周および外周を減速機構3の構成要素でもって直接位置決めし、インナーおよびアウターレースを省略するように構成されているので、その分、介在する部品の点数を削減することができる。そして、単体としてのインナーおよびアウターレースがなくなった分だけ、減速機構各部の寸法設定の自由度が高まる。特に回転体内周の寸法設定の自由度の拡大は、ねじ伝動機構4の重合配置における自由度の拡大にも貢献する。
【0040】
以上のごとく、本発明に係わる位置決め装置は、高減速比および高強度を確保した上で位置決め装置の小型化を図ることができるので、自動車の後輪操舵装置の位置決め装置に適用することで以下のような特徴がある。
【0041】
まず、揺動型減速機構によって、高減速比の設定が可能でありアクチュエータとしての制御分解能を高めることができるので、特に高速走行時における微小な操舵角を高精度に位置決め制御することができ、走行安定性が極めて向上する。また、この微小な操舵角は、車輪からの外力によって変動が生じると走行安定性が損なわれるが、車輪からの外力に対しては電磁ブレーキの作動により位置決め装置がロックされて車輪からの伝達効率がゼロとなり、後輪は所定の微少操舵角に正確に維持される。本実施例においてはねじ伝動機構としてボールねじ式の伝動機構を用いているが、ボールを使用しないねじ伝動機構の使用も可能である。この場合は、電磁ブレーキを使用しなくても車輪からの伝達効率がゼロとなるように設定できる。
【0042】
また、位置決め装置各部の高強度設計が可能となるので、車輪からの過大な外力の作用に対しても十分な剛性強度を確保することができ、自動車の重要保安部品としての後輪操舵機構の信頼性の向上が可能となる。しかも、半径方向および軸方向の両方向においてのコンパクト化が可能であるので、限られたスペースの車体下方への搭載性に優れている。
【0043】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0044】
上記各実施例において、減速機構による減速作用は2段階減速の例について説明したが、第1ないし第4歯車の歯数設定、傾斜部と入力軸との傾斜角度の設定によって、第1、第2歯車間による1段階のみの減速作用に限定することもでき、必要に応じて任意に設定できる。
【0045】
また、上記実施例においては、減速機構の回転体の支承を1つの軸受け部材にておこなうように構成しているが、軸方向に複数個設けることも可能である。また軸受け部材としてのベアリングもボールベアリングに限られるものではなく、ローラベアリングであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係わる位置決め装置の断面図。
【図2】減速機構噛み合い部の説明図。
【符号の説明】
【0047】
1 ケース
2 電動モータ
3 減速機構
3a 入力軸
3b 傾斜部
3c 回転体
3d 出力軸
4 ねじ伝動機構
4a ねじ軸
4b ナット部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸とナット部材を備えたねじ伝動機構と、該ねじ軸と同軸的に配置された減速機構とを備え、動力源の出力を減速機構で減速してねじ伝動機構に伝え、被位置決め部材を所定の位置に位置決めするように構成した位置決め装置において、
上記減速機構が、動力源によって駆動される中空の入力軸と、該入力軸に形成した傾斜部において回転自在に支承された中空の回転体と、上記ねじ伝動機構に連携される出力軸とを備え、該回転体の軸方向端部に、ケースに固定された歯数n1の第1歯車と噛み合う歯数n2の第2歯車と、出力軸に形成された歯数n4の第4歯車と噛み合う歯数n3の第3歯車とを形成し、上記入力軸の回転により上記回転体が揺動運動しながら各歯車間の噛み合い位置を変える揺動型減速機構として構成され、
また、上記ねじ伝動機構のナット部材が上記減速機構の入力軸内周において同軸的に重合配置されていることを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
上記ナット部材軸方向内端が、上記減速機構の第3歯車と第4歯車の噛み合い位置より軸方向内方に延設されていることを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項3】
上記動力源は、中空の電動モータであり上記減速機構と同軸上において軸方向に併設されていることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の位置決め装置。
【請求項4】
上記減速機構の回転体を支承する軸受け手段は、ボールベアリングあるいはローラベアリングとして構成され、該ベアリングのボールあるいはローラはその内周あるいは外周の少なくとも一方において上記入力軸の外周あるいは回転体の内面に位置決めされていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の位置決め装置。
【請求項5】
上記出力軸を支承する軸受け手段は、ボールベアリングあるいはローラベアリングとして構成され、該ベアリングのボールあるいはローラはその内周あるいは外周の少なくとも一方において上記出力軸の外周あるいはケースの内面に位置決めされていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−120621(P2007−120621A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313611(P2005−313611)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(504294684)荻野工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】