説明

位置測定装置および位置測定方法

【課題】 受信信号の帯域幅に影響されることなく、かつ回路規模の削減が可能で、さらに異なる発射源からの電波に対しても、それぞれの発射源位置を分離して測定することが可能な位置測定装置の提供。
【解決手段】 位置測定装置は、移動しながら電波発射源からの電波を受信する2つの移動体受信部1a,1bと、2つの移動体受信部1a,1bで受信される信号を取得してその周波数差を算出し、その周波数差の時間的変化から電波発射源の位置を測定する発射源位置測定部10とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置測定装置および位置測定方法に関し、特に電波監視等の目的で、位置が不明な電波発射源の位置を測定する位置測定装置および位置測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に関連する位置測定装置では、複数の移動体受信部で受信した受信信号間の周波数差及び到達時間差を同時に測定することにより発射源位置を測定していた。または、複数の異なる位置で電波の到来方位を測定しその方位測定結果を示す方位線の交点から発射源位置を求めていた。
【0003】
その具体例の一例として、一定周波数の電波を送信する地表面上に設置された発信源と、電波を1回の周回で3ヶ所以上の観測位置から受信する周回衛星と、周回衛星で受信された受信波からドップラ周波数を抽出し発信源の位置を標定する処理装置を備え、衛星の速度と観測相対速度から形成される等ドップラ面と地表面との交線である等ドップラ線同士の交点から発信源の位置を標定する位置標定装置が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、他の一例として、移動体より発射された電波を、少なくとも3つの観測点において受信し、受信信号間の周波数差を算出する電波監視装置が開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
また、他の一例として、複数のアンテナの中の2つのアンテナからなる組み合わせにおける2つのアンテナの受信信号を入力として、受信信号のドップラ周波数差を求める複数のドップラ周波数差計測手段と、上記組み合わせにおける2つのアンテナの受信信号を入力として、受信信号の到来時刻差を求める複数の信号到来時刻差計測手段と、上記ドップラ周波数差と上記到来時刻差とを入力して、上記信号線の位置および運動を推定する位置・運動推定手段とを備えるパッシブ位置標定装置が開示されている(特許文献3参照)。
【0006】
また、他の一例として、地表面上の発信源から発信される一定周波数の電波を衛星局によって複数の観測位置で受信し、衛星局によって受信された受信波のドップラ周波数に基づき発信源の位置を検出する位置検出装置が開示されている(特許文献4参照)。
【0007】
また、他の一例として、生体に対して超音波を送信し、生体からの反射波を受信して受信信号を出力し、送信信号と受信信号との周波数差を得、かつ送信周波数と対象組織からの受信周波数との差である周波数差信号の時間変化の様子を観測し、組織(生体)の深さ(位置)を求める超音波診断装置が開示されている(特許文献5参照)。
【0008】
また、他の一例として、2つの受信アンテナで、2つの衛星経由のダウンリンクを受信し、2系統での受信信号を同時にADサンプリングしてデジタルデータを取得し、相関処理部にて、到達時間差、ドップラ周波数差を算出するための相関処理を行うアップリンク干渉源位置特定装置が開示されている(特許文献6参照)。
【0009】
さらに、この装置では衛星位置算出処理部にて、電波を受信している2衛星の測定した時刻における位置を算出する。そして、発射源位置推定処理部にて、相関処理部で得た到達時間、ドップラシフト周波数差の情報と、衛星位置算出処理部で得た測定時刻における衛星位置、速度の情報を用いて、地上局の位置を推定する。
【0010】
また、他の一例として、一定周波数の電波を送信する地表面上に設置された発信源と、上記電波を1回の周回で3ヶ所以上の観測位置から受信する周回衛星と、上記周回衛星で受信された受信波からドップラ周波数を抽出し、発信源の位置を標定する処理装置とからなり、衛星の速度と観測相対速度から形成される等ドップラ面と地表面との関係から幾何学的手法を用いて発信源の位置を概算する処理手段と、地球の自転による位置ずれを補正する処理手段とを備えた位置標定装置が開示されている(特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−116819号公報
【特許文献2】特開2002−062346号公報
【特許文献3】特開2002−267732号公報
【特許文献4】特開2003−167041号公報
【特許文献5】特開2006−014916号公報
【特許文献6】特開2006−349470号公報
【特許文献7】特開平09−329662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記関連発明(特許文献1〜7)では、到達時間差を測定するに十分な受信信号の帯域幅が必要であり、帯域幅が狭いと誤差が大きくなり、無変調の搬送波だけの場合はまったく測定できないため、狭帯域の通信信号等は正確に測定できないという欠点があった。
【0013】
また、電波の到来方位を測定する上記関連発明では、電波の到来方位を測定するためには複数のアンテナ及び受信機が必要であり、誤差を小さくするためには多数のアンテナを配置しアンテナ配列の寸法を大きくする必要があり、回路規模及び寸法が大きくなるという欠点があった。
【0014】
さらに、同一周波数に複数の電波が混信している場合、混信する電波の数より多くの複数のアンテナで受信した信号から、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification) 等のアルゴリズムによって混信波の方位を分離測定することが出来るが、受信アンテナより混信波の数の方が多い場合、混信波を分離して方位測定できないため、位置を求めることが出来ないという欠点があった。よって、多くの混信波が存在する場合、混信波の数より多くのアンテナが必要となり、回路規模が大きく処理が複雑になるという欠点があった。
【0015】
そこで本発明の目的は、受信信号の帯域幅に影響されることなく、かつ回路規模の削減が可能で、さらに異なる発射源からの電波に対しても、それぞれの発射源位置を分離して測定することが可能な位置測定装置および位置測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するために、本発明による位置測定装置は、移動しながら電波発射源からの電波を受信する2つの移動体受信部と、前記2つの移動体受信部で受信される信号を取得してその周波数差を算出し、その周波数差の時間的変化から前記電波発射源の位置を測定する発射源位置測定部とを含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明による位置測定方法は、2つの移動体受信部で受信される電波発射源からの信号を取得してその周波数差を算出し、その周波数差の時間的変化から前記電波発射源の位置を測定する発射源位置測定ステップを含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明によるプログラムは、電波発射源の位置を測定する位置測定装置のコンピュータに、2つの移動体受信部で受信される電波発射源からの信号を取得してその周波数差を算出し、その周波数差の時間的変化から前記電波発射源の位置を測定する発射源位置測定ステップを実行させるためのものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、受信信号の帯域幅に影響されることなく、かつ回路規模の削減が可能で、さらに異なる発射源からの電波に対しても、それぞれの発射源位置を分離して測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】発明に係る位置測定装置の一例の動作原理を示す模式図である。
【図2】本発明に係る位置測定方法の一例の動作原理を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る位置測定装置の第1実施形態の構成図である。
【図4】2つの移動体受信部1a,1bと電波発射源8の位置関係の一例を示す図である。
【図5】移動体受信部の一例の構成図である。
【図6】周波数差検出部の一例の構成図である。
【図7】周波数差照合部の一例の構成図である。
【図8】第1実施形態の動作を示す模式図である。
【図9】移動体受信部で受信した4つの信号間の周波数差の時間変化の一例を示す図である。
【図10】第1実施形態における位置測定方法を示すフローチャートである。
【図11】第1実施形態における位置測定方法を示すフローチャートである。
【図12】本発明に係る位置測定装置の第2実施形態の構成図である。
【図13】本発明に係る位置測定装置の第3実施形態の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、実施の形態の説明に入る前に、本発明の動作原理について説明する。図1は本発明に係る位置測定装置の一例の動作原理を示す模式図、図2は本発明に係る位置測定方法の一例の動作原理を示すフローチャートである。本発明に係る位置測定装置および方法の一例は、移動体受信部1aおよび1bと、発射源位置測定部10とを含んで構成される(図1参照)。
【0022】
移動体受信部1aおよび1bは、それぞれ移動しながら図示しない電波発射源からの電波を受信する。発射源位置測定部10は、2つの移動体受信部1aおよび1bで受信される信号を取得してその周波数差を算出し(図2のステップS1参照)、その周波数差の時間的変化から電波発射源の位置を測定する(図2のステップS2参照)。
【0023】
このように、本発明は、2つの移動体受信部1aおよび1bで受信される信号の周波数差の時間的変化を発射源位置測定部10にて観察し、その時間的変化を基に電波発射源の位置を測定する構成である。
【0024】
したがって、本発明によれば、受信信号の帯域幅に影響されることなく、かつ回路規模の削減が可能で、さらに異なる発射源からの電波に対しても、それぞれの発射源位置を分離して測定することが可能となる。
【0025】
次に、本発明の特徴を述べる。図3において、2つの移動体受信部1a,1bは、移動しながら電波を受信すると共に、GPS(Global Positioning System) 等により自己位置情報を得ている。移動体受信部1a,1bで受信した受信信号および自己位置情報を基地局通信部2へ送り、2つの受信信号間の周波数差、移動体受信部1a,1bの位置および速度情報を測定結果として得る。
【0026】
2つの受信信号間の周波数差はドップラ周波数の差であり、移動体受信部1a,1bの位置、速度、発射源位置および電波の周波数により決定される。よって、2つの移動体受信部1a,1bが移動しながら受信した2つの受信信号間の周波数差を連続して検出すると、発射源位置によって異なる時間変化となって表れる。
【0027】
電波の周波数は受信した周波数から既知であるので、発射源位置を特定の位置に仮定すると、時刻によって変化する移動体受信部1a,1bの位置および速度の情報から、2つの受信信号間の周波数差がどのように時間変化するかが分かる。
【0028】
よって、2つの受信信号間の周波数差の信号を抽出し、発射源位置を仮定して得られた周波数差の時間変化と照合することにより、仮定した発射源位置から電波が発射されていたのかを判定することが出来る。
【0029】
従って、地図上の全ての位置について発射源位置を仮定し、2つの受信信号間の周波数差の時間変化と照合することにより、電波の発射源位置を示す地図情報を得ることが出来る。また、発射源位置が異なる場合、2つの受信信号間の周波数差の時間変化も異なるため、同一周波数に複数の電波が混信する場合も、それぞれの発射源位置を分離して求めることが出来る。
【0030】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。まず、第1実施形態について説明する。図3は本発明に係る位置測定装置の第1実施形態の構成図である。なお、図1と同様の構成部分には同一番号を付している。
【0031】
図3を参照すると、本発明に係る位置測定装置100は、移動体受信部1aおよび1bと、基地局通信部2と、周波数差検出部3と、位置情報処理部4と、周波数差演算部5と、周波数差照合部6と、地図情報作成部7とを含んで構成される。なお、基地局通信部2と、周波数差検出部3と、位置情報処理部4と、周波数差演算部5と、周波数差照合部6と、地図情報作成部7とを含んで発射源位置測定部10が構成される。
【0032】
本位置測定装置100は、2つの移動体受信部1aおよび1bが、特定の経路を特定の速度で移動しながら電波を受信すると共に、GPS等により自己位置情報を得ている。移動体受信部1aおよび1bで受信した2つの受信信号および自己位置情報は基地局通信部2へ送信される。そして、基地局通信部2からその2つの受信信号および自己位置情報が周波数差検出部3および位置情報処理部4へ出力される。
【0033】
周波数差検出部3では2つの受信信号から受信信号間の周波数差が検出される。位置情報処理部4では2つの移動体受信部1aおよび1bの位置情報の時間変化から信号受信時の移動体受信部の位置情報および速度情報が算出される。周波数差検出部3で検出された2つの受信信号間の周波数差は、移動体受信部1a,1bで受信した信号のドップラ周波数の差であり、移動体受信部1a,1bの位置、速度、発射源位置および電波の周波数により決定される。
【0034】
位置情報処理部4で算出された位置情報および速度情報は周波数差演算部5へ出力される。周波数差演算部5は、発射源位置を特定の位置に仮定し、時刻によって変化する移動体受信部1a,1bの位置および速度の情報から、2つの受信信号間の周波数差の時間変化を算出する。
【0035】
周波数差検出部3で検出された2つの受信信号間の周波数差は周波数差照合部6へ出力される。周波数差照合部6は、周波数差演算部5で発射源位置を特定の位置に仮定して算出された2つの受信信号間の周波数差の時間変化を、周波数差検出部3で検出された2つの受信信号間の周波数差と照合し、照合結果を出力する。
【0036】
この照合結果は、照合した2つの周波数差の時間変化が合致した場合に、そのとき周波数差演算部5で仮定した発射源位置に実際に発射源が存在することを表す。周波数差演算部5は、地図上のすべての位置について発射源位置を仮定し、周波数差の時間変化を算出する。
【0037】
周波数差照合部6は、周波数差演算部5で算出した、地図上のすべての位置に発射源位置を仮定した時のすべての周波数差の時間変化を、周波数差検出部3で検出した受信信号間の周波数差と照合し、照合結果を出力する。地図情報作成部7は、地図上のすべての位置について発射源位置を仮定したときの周波数差の時間変化と2つの受信信号間の周波数差との照合結果から、照合結果が合致している場合に実際に電波の発射源が存在することを表す、電波の発射源位置を示す地図情報を作成する。
【0038】
図4は2つの移動体受信部1a,1bと電波発射源8の位置関係の一例を示す図である。同図に示すように、2つの移動体受信部1a,1bは、それぞれ位置(X1,Y1)、(X2,Y2)を速度( Vx1,Vy1) 、(Vx2,Vy2)で移動しており、位置(X0,Y0)にある電波発射源8からの電波を受信しているものとする。このとき、電波発射源8と移動体受信部1aとの距離をR1、電波発射源8と移動体受信部1bとの距離をR2とすると、R1,R2はそれぞれ次の式で表される。
【0039】
【数1】

【0040】
【数2】

【0041】
距離R1、R2の時間変化は、式(1)、(2)を微分することにより、次式で得られる。
【0042】
【数3】

【0043】
【数4】

【0044】
式(3)、(4)を、受信した電波の波長λで割り符号を反転させたものがドップラ周波数であるので、2つの移動体受信部1a,1bのドップラ周波数Δf1、Δf2は次式となる。
【0045】
【数5】

【0046】
【数6】

【0047】
よって、2つの移動体受信部1a,1b間の周波数差Δfは、次式で得られる。
【0048】
【数7】

【0049】
【数8】

【0050】
周波数差検出部3で検出した、2つの受信信号間の周波数差は、式(7a)および(7b)のΔfを表しており、時刻tによって変化する値となる。波長λは受信周波数によって決まり、移動体受信部1a,1bの位置(X1,Y1)、(X2,Y2)および速度(Vx1,Vy1)、(Vx2,Vy2)は、位置情報処理部4からの位置情報及び速度情報から得られるため、発射源位置(X0,Y0)だけが未知の値である。周波数差演算部5は、未知である発射源位置(X0,Y0)を仮定し、位置情報処理部4からの位置情報及び速度情報から、式(7a)および(7b)で表される周波数差の時間変化を算出する。
【0051】
図5は移動体受信部の一例の構成図である。同図を参照すると、移動体受信部1aおよび1bは、受信アンテナ11と、受信部12と、位置取得部13と、移動体通信部14とを含んで構成される。
【0052】
受信アンテナ11で受信した電波を受信部12で中間周波信号の受信信号に変換し、移動体通信部14へ出力する。位置取得部13はGPS等を使用し、移動体受信部1aおよび1bの位置を取得し移動体通信部14へ出力する。移動体通信部14は、無線回線等により図3の基地局通信部2と通信を行い、受信信号および位置情報を送信する。
【0053】
図6は周波数差検出部の一例の構成図である。同図を参照すると、周波数差検出部3は、IQ検波部31aおよび31bと、共役演算部32と、乗算部33とを含んで構成される。
【0054】
周波数差検出部3は、基地局通信部2からの2つの受信信号をIQ検波部31a,31bでそれぞれIQ検波を行い複素受信信号に変換し、IQ検波部31bから出力された複素受信信号を共役演算部32で複素共役受信信号に変換し、乗算部33で2つの信号間の乗算を行うことにより、受信信号間の位相差を示す信号が出力される。
【0055】
IQ検波部31aへの入力を、A1・cos(ω1t+φ1)、IQ検波部31bへの入力を、A2・cos(ω2t+φ2)とすると、IQ検波部31aは、A1・ej((ω1-ω0)t+φ1) を出力し、IQ検波部31bは、A2・ej((ω2-ω0)t+φ2) を出力する。共役演算部32にIQ検波部31bの出力を入力すると複素共役な信号A2・e-j((ω2-ω0)t+φ2)が出力される。IQ検波部31aの出力と共役演算部32の出力を乗算部33へ入力すると、A1・A2・ej((ω1-ω2)t+(φ1-φ2)) が出力され、2つの受信信号間の周波数差(ω1−ω2)の信号が得られる。
【0056】
図7は周波数差照合部の一例の構成図である。同図を参照すると、周波数差照合部6は、波形生成部61と、乗算部62と、低域通過フィルタ63とを含んで構成される。
【0057】
波形生成部61は、周波数差演算部5から出力された発射源位置を仮定することにより式7aおよび7bで得られた周波数差Δf用い、次の照合波形を生成する。
【0058】
【数9】

【0059】
乗算部62は、周波数差検出部3から出力された2つの受信信号間の周波数差の信号と、波形生成部61からの照合波形との乗算結果を出力する。低域通過フィルタ63は、乗算部62からの乗算結果から高周波数成分を除去し、直流成分を抽出し照合結果として出力する。
【0060】
このとき、周波数差演算部5で仮定した発射源位置が実際の発射源位置と一致している場合、2つの受信信号間の周波数差による位相変化(ω1−ω2)・tと照合波形の位相変化の正負を反転したもの2π・∫Δfdtが同じになるため、周波数差と照合波形の乗算結果は直流成分となり、低域通過フィルタ63を通過する。よって、低域通過フィルタ63の出力である照合結果は、周波数差演算部5で仮定した発射源位置が実際の発射源位置と一致している場合に極大の値となる。
【0061】
また、仮定した発射源位置が実際の発射源位置と一致していない場合、2つの受信信号間の周波数差による位相変化(ω1−ω2)・tと照合波形の位相変化の正負を反転したもの、2π・∫Δfdtが同じにならないため、周波数差と照合波形の乗算結果は交流成分となり、低域通過フィルタ63で抑圧される。そのため、異なる位置に複数の発射源が存在し、同一周波数に混信している場合でも、複数の発射源位置を分離して照合結果として出力することが出来る。
【0062】
次に、第1実施形態の動作について説明する。図8は第1実施形態の動作を示す模式図である。同図は移動体受信部1aおよび1bが移動しながら複数の電波発射源8a〜8dからの電波を受信している状況を示している。同図では、2台の移動体受信部1a、1bがそれぞれ速度(Vx1,Vy1)、(Vx2,Vy2)で移動しており、4つの発射源8a、8b、8c、8dからの電波を受信しているものとする。このとき、4つの発射源8a、8b、8c、8dに対応した2台の移動体受信部で受信した信号間の周波数差の時間変化の一例を図9に示す。
【0063】
図9は移動体受信部で受信した4つの信号間の周波数差の時間変化の一例を示す図である。同図において、縦軸はドップラ周波数差(Hz)、横軸は時刻(sec)を表す。同図に示すように、2台の移動体受信部1aおよび1bで受信した信号間の周波数差は、異なる発射源位置から送信された信号の場合、異なる時間変動となるため、複数の発射源が混信する場合でも、それぞれの位置を分離して検出することが出来る。
【0064】
第1実施形態における位置測定方法について説明する。図10および図11は第1実施形態における位置測定方法を示すフローチャートである。図10を参照すると、周波数差演算部5は、周波数差の関係式(式7aおよび7b)に、移動体受信部1a、1bが現実に受信した(すなわち、既知の)波長、時刻、移動体受信部1a、1bの位置、速度および電波発射源の仮定の位置を代入する(ステップS11)。
【0065】
次に、周波数差検出部3で検出した2つの受信信号間の周波数差と、周波数差演算部5で演算された周波数差とが周波数差照合部6で照合される。そして、周波数差照合部6はその照合結果に基づき電波発射源の位置を測定する(ステップS12)。
【0066】
図11を参照すると、周波数差照合部6は周波数差検出部3で検出した2つの受信信号間の周波数差と、周波数差演算部5で演算された周波数差とを照合し(ステップS21)、両周波数差が一致した場合(ステップS22にて“Y”の場合)、仮定した電波発射源の位置を真の位置と判定する(ステップS23)。
【0067】
一方、ステップS22にて両周波数差が一致しない場合(ステップS22にて“N”の場合)、仮定した電波発射源の位置は真の位置ではないと判定する(ステップS24)。
【0068】
以上説明したように、本発明の第1実施形態では、受信信号間の周波数差及び到達時間差を用いる方式のように電波の到達時間差を使用しない。このため、到達時間差を測定するために必要な受信信号の帯域幅に影響されず、狭帯域信号に対しても精度を劣化させることなく電波発射源の位置を測定することが可能である。
【0069】
また、本発明の第1実施形態では、到来方位を測定する関連技術と比較し、到来方位測定のために必要な複数のアンテナおよび受信機を必要とせず、単一のアンテナおよび受信機で実現可能なため、回路規模を大幅に削減することが可能である。
【0070】
さらに、同一周波数に複数波が混信する場合も、発射源位置が異なると、2つの移動体受信部での受信信号間の周波数差の時間変動もまた異なるので、アンテナおよび受信機の数を増やすことなく、それぞれの発射源位置を分離して測定することが可能となる。
【0071】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態は周波数差検出部3の他の例に関するものである。図12は第2実施形態の構成図である。図3の周波数差検出部3は、図6の実施例ではIQ検波を行い複素信号に変換する方法について述べたが、図12の周波数差検出部21は、受信信号を特定の周波数信号に変換することにより複素信号に変換せず実信号のまま演算する。
【0072】
図12を参照すると、周波数差検出部21は乗算部34a,34bと、信号発生器35と、フィルタa36と、フィルタb37と、乗算部35cと、フィルタc38と、IQ検波部39とを含んで構成される。
【0073】
乗算部34a,34bは、外部からの入力信号と信号発生部35からのローカル信号との乗算を行い、入力信号とローカル信号との周波数の和の信号と周波数の差の信号とを出力する。フィルタa36、フィルタb37は、周波数の和の信号と周波数の差の信号のどちらか一方を抽出して出力する。
【0074】
乗算部35cは、フィルタa36とフィルタb37から抽出された信号間の乗算を行い、抽出された信号間の周波数の和の成分と周波数の差の成分を出力する。フィルタc38は、乗算部35Cの出力から周波数の差の成分だけを抽出することにより、外部からの入力信号間の周波数の差の成分を検出することが出来る。
【0075】
乗算部34a、34bに外部から入力される信号をそれぞれ、A1cos(ω1t+φ1)、A2cos(ω2t+φ2)とし、信号発生部35から乗算部34a、34bに入力されるローカル信号をそれぞれ、cos(ωL・t)、cos((ωL+ωo )t)とすると、乗算部34a、34bからはそれぞれ次の信号が出力される。
【0076】
【数10】

【0077】
【数11】

【0078】
フィルタa36、フィルタb37は、乗算部34a,34bの出力から、ここでは例として次の周波数差の成分だけを抽出するものとする。
【0079】
【数12】

【0080】
【数13】

【0081】
乗算部35cは、フィルタa36出力とフィルタb37出力との乗算を行い、次の信号を出力する。
【0082】
【数14】

【0083】
フィルタc38は、乗算部35c出力から、次の周波数差の成分だけを抽出する。
【0084】
【数15】

【0085】
IQ検波部39は、フィルタc38出力をIQ検波し、次の複素信号を出力する。
【0086】
【数16】

【0087】
よって、外部からの入力信号間の周波数の差( ω1−ω2) の成分を検出し出力することが出来る。
【0088】
ここでは、最後にIQ検波することによって複素信号に変換したが、IQ検波せずに式(14)の角周波数ωo を中心周波数とする実数信号を出力し、図3の周波数差演算部5及び周波数差照合部6も、図12の実施例と同様に複素信号ではなく特定の周波数を中心周波数とする実数信号として演算することによって、複素信号に変換することなく実現することも出来る。
【0089】
以上説明したように、本発明の第2実施形態によれば、周波数差検出部21は受信信号を特定の周波数信号に変換して周波数差を検出する構成であるため、複素信号に変換しないで実信号のまま演算を行うことが可能となる。
【0090】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態は位置測定装置における位置測定方法のプログラムに関するものである。図13は本発明に係る位置測定装置の第3実施形態の構成図である。なお、図1と同様の構成部分には同一番号を付し、その説明を省略する。
【0091】
同図を参照すると、第3実施形態では図1の構成に制御部15と、プログラム格納部16とが追加されている。制御部15は発射源位置測定部10の各部、すなわち基地局通信部2と、周波数差検出部3と、位置情報処理部4と、周波数差演算部5と、周波数差照合部6と、地図情報作成部7とを制御する(図3参照)。
【0092】
また、プログラム格納部16には図2、図10および図11にフローチャートで示す位置測定方法のプログラムが格納されている。
【0093】
制御部15(“コンピュータ”に相当する)は、プログラム格納部16から上記位置測定方法のプログラムを読み出し、そのプログラムに従って発射源位置測定部10の上記各部を制御する。その制御の内容については既に述べたので、ここでの説明は省略する。
【0094】
以上説明したように、本発明の第3実施形態によれば、受信信号の帯域幅に影響されることなく、かつ回路規模の削減が可能で、さらに異なる発射源からの電波に対しても、それぞれの発射源位置を分離して測定することが可能な位置測定装置における位置測定方法のプログラムが得られる。
【0095】
(付記1)2つの受信信号間の周波数差の時間変化を算出する周波数差演算部は地図上の全ての位置について電波発射源の位置を仮定し、周波数差の時間変化を算出することを特徴とする位置測定装置。
【0096】
(付記2)2つの移動体受信部は自己位置情報を取得する機能を有し、発射源位置測定ステップは、周波数差が、受信した電波の波長、時刻、各移動体受信部の位置、その位置から算出される各移動体受信部の速度および電波発射源の位置に基づき算出される関係式を有し、その関係式に既知の前記受信した電波の波長、時刻、各移動体受信部の位置、その位置から算出される各移動体受信部の速度および前記電波発射源の仮定の位置を代入し、その結果得られる前記周波数差の時間的変化に基づき前記電波発射源の位置を測定することを特徴とするプログラム。
【0097】
(付記3)前記発射源位置測定ステップは、受信した電波の周波数差の時間的変化と、前記電波発射源の仮定の位置を前記周波数差の関係式に代入して得られる周波数差の時間的変化とを照合し、双方の周波数差の時間的変化が一致した場合、前記電波発射源の仮定の位置を前記電波発射源の真の位置と判定することを特徴とする、付記2に記載のプログラム。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明を電波監視等の目的で、位置が不明な電波発射源について、受信した電波から発射源位置を測定するために用いることが可能である。また、移動体受信部は、車両、航空機または人工衛星等に搭載することにより実現が可能である。
【符号の説明】
【0099】
1a,1b 移動体受信部
2 基地局通信部
3,21 周波数差検出部
4 位置情報処理部
5 周波数差演算部
6 周波数差照合部
7 地図情報作成部
8 電波発射源
8a〜8d 電波発射源
10 発射源位置測定部
11 受信アンテナ
12 受信部
13 位置取得部
14 移動体通信部
31a,31b IQ検波部
32 共役演算部
33 乗算部
34a,34b 乗算部
35 信号発生器
35c 乗算部
36 フィルタa
37 フィルタb
38 フィルタc
39 IQ検波部
61 波形生成部
62 乗算部
63 低域通過フィルタ
100 位置測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動しながら電波発射源からの電波を受信する2つの移動体受信部と、
前記2つの移動体受信部で受信される信号を取得してその周波数差を算出し、その周波数差の時間的変化から前記電波発射源の位置を測定する発射源位置測定部とを含むことを特徴とする位置測定装置。
【請求項2】
前記2つの移動体受信部は自己位置情報を取得する機能を有し、
前記発射源位置測定部は、前記周波数差が、受信した電波の波長、時刻、各移動体受信部の位置、その位置から算出される各移動体受信部の速度および前記電波発射源の位置に基づき算出される関係式を有し、その関係式に既知の前記受信した電波の波長、時刻、各移動体受信部の位置、その位置から算出される各移動体受信部の速度および前記電波発射源の仮定の位置を代入し、その結果得られる前記周波数差の時間的変化に基づき前記電波発射源の位置を測定することを特徴とする請求項1記載の位置測定装置。
【請求項3】
前記発射源位置測定部は、受信した電波の周波数差の時間的変化と、前記電波発射源の仮定の位置を前記周波数差の関係式に代入して得られる周波数差の時間的変化とを照合し、双方の周波数差の時間的変化が一致した場合、前記電波発射源の仮定の位置を前記電波発射源の真の位置と判定することを特徴とする請求項1または2記載の位置測定装置。
【請求項4】
前記発射源位置測定部は、前記2つの移動体受信部で受信される信号および自己位置情報を取得する基地局通信部と、
前記2つの受信信号から受信信号間の周波数差を検出する周波数差検出部と、
前記2つの自己位置情報の時間変化から信号受信時の前記移動体受信部の位置情報および速度情報を算出する位置情報処理部と、
前記電波発射源の位置を特定の位置に仮定し、時刻によって変化する前記移動体受信部の位置情報および速度情報から、前記2つの受信信号間の周波数差の時間変化を算出する周波数差演算部と、
前記周波数差演算部で算出された前記2つの受信信号間の周波数差の時間変化を、前記周波数差検出部で検出された2つの受信信号間の周波数差と照合し、照合結果を出力する周波数差照合部と、
前記周波数差照合部での照合結果に基づき前記電波発射源の位置を示す地図情報を作成する地図情報作成部とを含むことを特徴とする請求項2または3記載の位置測定装置。
【請求項5】
前記2つの移動体受信部で受信される電波の周波数の差の検出にIQ検波が用いられることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の位置測定装置。
【請求項6】
前記2つの移動体受信部で受信される電波の周波数の差の検出に各々の電波の周波数と、所定周波数信号との乗算値が用いられることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の位置測定装置。
【請求項7】
2つの移動体受信部で受信される電波発射源からの信号を取得してその周波数差を算出し、その周波数差の時間的変化から前記電波発射源の位置を測定する発射源位置測定ステップを含むことを特徴とする位置測定方法。
【請求項8】
前記2つの移動体受信部は自己位置情報を取得する機能を有し、
前記発射源位置測定ステップは、前記周波数差が、受信した電波の波長、時刻、各移動体受信部の位置、その位置から算出される各移動体受信部の速度および前記電波発射源の位置に基づき算出される関係式を有し、その関係式に既知の前記受信した電波の波長、時刻、各移動体受信部の位置、その位置から算出される各移動体受信部の速度および前記電波発射源の仮定の位置を代入し、その結果得られる前記周波数差の時間的変化に基づき前記電波発射源の位置を測定することを特徴とする請求項7記載の位置測定方法。
【請求項9】
前記発射源位置測定ステップは、受信した電波の周波数差の時間的変化と、前記電波発射源の仮定の位置を前記周波数差の関係式に代入して得られる周波数差の時間的変化とを照合し、双方の周波数差の時間的変化が一致した場合、前記電波発射源の仮定の位置を前記電波発射源の真の位置と判定することを特徴とする請求項7または8記載の位置測定方法。
【請求項10】
電波発射源の位置を測定する位置測定装置のコンピュータに、
2つの移動体受信部で受信される電波発射源からの信号を取得してその周波数差を算出し、その周波数差の時間的変化から前記電波発射源の位置を測定する発射源位置測定ステップを実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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