説明

低乳化剤複合エマルジョン

【課題】安定な油と水の複合エマルジョンであって、従来の乳化剤、すなわち16−20のHLBを有する乳化剤を1%未満しか含有しないエマルジョンを提供する。
【解決手段】外相に主エマルジョンを含み、成分水相と成分油相を含み、該成分油相が極性部を有する油混和性ポリマーで増粘されており、該主エマルジョンの粘度と該外相の粘度を10%以内に合わせてある安定な複合エマルジョンであって、約16から約20のHLBを有する乳化剤を約1%以下しか含まない複合エマルジョン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化粧料及び医薬組成物に関する。より詳しくは、本発明は化粧料及び医薬品用エマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料及び医薬品用の最も一般的な基剤の1つは、エマルジョンである。エマルジョンは水中油型、あるいは油中水型エマルジョンとして製造されるため、任意の様々なタイプの活性成分を輸送できる。単一の油と水の製剤は、油溶性及び水溶性活性成分の両方の輸送に用いることができ、それにより、該製剤に単相系には匹敵し得ない広範な潜在的活性を与える。
【0003】
エマルジョンの明確な欠点は、配合された物質が本来適合するものではないということである。それゆえ、混合されたときに分離する油と水の自然な傾向は、分散した成分を共存させることを助ける、さらなる成分を製剤に加えることによって、補わなくてはならない。典型的には、安定な分散状態の維持には、かなりの量の乳化安定剤及び/又は乳化剤を必要とする。これらの物質を添加する必要性は、最終製品のコストを上げるだけでなく、エマルジョンの分離の仕方や皮膚での感じ方を変えることによって、最終製品の品質にも影響を与える。大量の乳化剤を使用することは特に好ましくない。というのは、多くの消費者はこれらの物質は潜在的に皮膚に悪いか刺激性であると信じているからである。
【0004】
望まれる製剤が複合エマルジョン、例えば水中油中水型又は油中水中油型であるとき、その問題はさらに大きくなる。そのようなエマルジョンは、もしできたとしたら、多目的な(少なくとも、熱、他の成分或いは望ましい溶剤の1つに対して様々な不適合性を有する、多数の異なる活性成分や他の化粧料成分を含有することを基本的に可能にする)製品を提供する。多相を通過する必要があるため、それはまた、皮膚上又は皮膚中に活性成分を徐放するために、有用な基剤である。しかしながら、実際には、その明確な価値にもかかわらず、そのようなエマルジョンはあまり使用されることはない。というのは、付加された相が安定性に関してさらなる問題をもたらし、それゆえ、乳化剤及び/又は乳化安定剤の非常に大量な使用を必要とすることが多いからである。さらに、いったん特定の系を確立したら、他の物質を安定なエマルジョンに加えることは、それを不安定化する傾向がある。しかしながら、本発明は低乳化剤複合エマルジョンの製造を改善するものである。
【発明の開示】
【0005】
発明の要約
本発明は、安定な油と水の複合エマルジョンであって、従来の乳化剤、すなわち16−20のHLBを有する乳化剤を約1%未満しか含有しないエマルジョンに関する。該複合エマルジョンは、標準的な2相エマルジョン(油中水型又は水中油型)及び単相(水又は油)の組合せから構成される。好ましくは、成分油相(principle oil phase)は極性部分を有する油混和性ポリマーの添加によって増粘される。好ましい態様、特に水中油中水型のエマルジョンにおいて、2成分、すなわち主エマルジョン(primary emulsion)と外相の粘度は、実質的に同じになるよう調整される。そのような態様では、成分水相(principle water phase)の粘度は少量の、好ましくは2%未満の乳化性のない水混和性増粘剤の添加によって調整される。こうして製造された複合エマルジョンは極めて安定であり、乳化剤が低量であるため、皮膚に非常にやさしい。
【0006】
本発明のエマルジョンは、他の複合エマルジョンを製造する方法とほぼ同様にして製造される。まず、油中水型又は水中油型のエマルジョンを標準的方法にしたがって製造する。標準的エマルジョンでは、水溶性成分は水性基剤中に配合され、油溶性成分は油性基剤中に配合され、2相は標準的ホモジナイザーで一体化される。本ケースでは、水及び油の成分としては、こうした目的に通常用いられる、任意の標準的成分を用いることができる。水相は、イオン交換水、又はフローラルウオーターのような、任意の化粧料に適合しうる水ベースの物質であってよい。油相は、化粧料或いは医薬品に適合しうる任意の油であってよく、そのような油は、いかなる医薬品又は化粧品にも適合しうる、実質的に水に不溶性の物質と明確に定義される。油は、組成物中で様々な機能を発揮し得るので、特定のものの選択はそれが意図される目的によって決定される。油は揮発性であっても不揮発性であっても、それらの混合であってもよい。例えば、適当な揮発性油としては、限定するものではないが、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンのような環状及び鎖状シリコーン;又はデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカンのような8−20の炭素原子を有する直鎖状又は分鎖状炭化水素、及びC8−20のイソパラフィンが挙げられる。
【0007】
不揮発性油としては、限定するものではないが、ココナッツ油、ホホバ油、コーン油、ヒマワリ油、パーム油又はダイズ油のような植物油;ネオペンタン酸イソステアリル、オクタン酸セチル、リシノール酸セチル、パルミチン酸オクチル、リンゴ酸ジオクチル、ココ−カプリレート/カプレート、イソステアリン酸デシル又はミリスチン酸ミリスチルのようなカルボン酸エステル;ラノリン及びラノリン誘導体、獣脂、ミンク油又はコレステロールのような動物油;ステアリン酸グリセリル、ジオレイン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、リノール酸グリセリル又はミリスチン酸グリセリルのようなグリセリンエステル;ジメチコン、ジメチコノール、ジメチコンコポリオール、フェニルトリメチコン、メチコン又はシメチコンのようなシリコーン;イソパラフィン、スクワラン又はワセリンのような不揮発性炭化水素;が挙げられる。
【0008】
任意の油を用いることができ、様々なタイプの油の混合物を意図してもよいが、油相の基本成分はシリコーン油、特にジメチコン、シクロメチコン又はそれらの配合が、特に好ましい。最も好ましくは、エマルジョン中のシリコーン部は、シリコーン中水型エマルジョン全量中 約15−50%でなくてはならない。油相には、極性部を有する油混和性ポリマーが含まれる。該ポリマーはある程度の粘度を与え、また、極性部を有するために水相と油相の共存を助け、それゆえかなりのレベルの安定性を与える。この記載に合う任意のポリマーを用いることができる。この目的にとって特に好ましいポリマーは、特にシリコーン油ベースでは、ジメチコンコポリオール架橋ポリマーである。この種の物質は、KSG21という製品名で信越シリコンより購入することができる。有用な油相増粘剤の別な例としてラノリンがある。これは、非シリコーン油相により適したもので、厳密にはポリマーとはいえないが、高分子量と増粘性を備え、ポリマーとしての性質の多くを有する。それはまた、油混和性であるが、脂肪酸アルコール及びエステルの存在下では必須の極性基を有する。それゆえ、本明細書中では、“ポリマー”という語にはこの種の複合分子も含むものと理解される。絶対的意味で、該ポリマーは所望の粘度に適した量で用いられる。一般的にいえば、該ポリマーは、全複合エマルジョンの重量に対して、0より多いが5%を超えない量であって、好ましくは約3%、より好ましくは約2%、最も好ましくは約1%以下である。
【0009】
水中シリコーン(又は油)中水型エマルジョンを製造するために、複合エマルジョンの外相として用いられる水相に、単純なエマルジョンを添加する。エマルジョンと水相の割合は50:50まで可能だが、好ましくはエマルジョン:水が、約10−40:90−60の範囲であり、最も好ましくは約30−40:70−60である。安定性を向上させるために、外水相も任意の水混和性増粘剤で増粘させる、但し該増粘剤は乳化性をもっていてはならない。外水相の有用な増粘剤の例としては、キサンタンガムのようなガム、カーボマー、セルロース化合物、キトサン、デンプン等がある。外水相の特に好ましい増粘剤はアンモニウムポリ(アクリルジメチルタウラミド−コ−ビニルホルムアミド)であり、これはAMPS/VIFAコポリマーと称され、クラリアントコーポレーション、シャルロッテ、N.C.より、アリストロフレックスAVCOという商品名で市販されている。増粘剤の量は重要ではなく、この種のエマルジョンにおいて所望の粘度を得るのに十分な量で用いる。
【0010】
また、約16−20の範囲のHLBを有する従来の乳化剤を、同様に比較的少量で、水相に添加する。このカテゴリーに含まれる乳化剤の多くはエトキシレートであり、非イオン性エトキシル化脂肪酸、エステル、ソルビタンエステル、油及びアルキルフェノールが最も頻繁に用いられる。しかしながら、HLB条件に合った任意のタイプの液体乳化剤を用いることができる。この種の他の乳化剤は、McCutcheonの1巻:Emulsifiers & Detergent(乳化剤と洗剤), 2000の中に見つけることができる。その内容は参照として本明細書中に取込むものとする。本発明の使用に、特に好ましいものは、約16.7のHLBを有する Tween 20(POE(20)モノラウリル酸ソルビタン)である。典型的な複合エマルジョンとは異なり、エマルジョンを維持するために、この標準的乳化剤はほんの少量しか必要とされない。全体として、複合エマルジョン中、どんな種類の乳化剤も合計2%以下しか通常含んでおらず、好ましくは、標準的なエトキシル化乳化剤を1%以下、より好ましくは0.5%以下(複合エマルジョンの重量に対して)しか含まない。高HLB乳化剤は、ゲル化後、油中水型主エマルジョンと配合する直前に、成分水相に添加される。その後、2つの成分を固定ミキシングにより合わせ、混合して均質化する。前述の系は、水中油中水型エマルジョンという言葉で記載した。しかしながら、この系は油中水中油型エマルジョンの製造にも用いることができる。本明細書中では、主水中油型エマルジョンは、好ましくは水相の薄いエマルジョンを製造するために、高剪断混合(ハイシアーミキシング)によって製造される。これについては、例えば、後記実施例2B、又は出願中の米国特許出願 09/580,743号中に記載されており、その内容は参照として本明細書中に取込むものとする。この主エマルジョンは、水中油中水型エマルジョンの水相について上述したように、適宜増粘される。次いで、主エマルジョンは油混和性吸収性ポリマー(好ましくはジメチコンコポリオール架橋ポリマー)で増粘された成分油相に添加され、水中油中水型エマルジョンで記載したように、固定ミキシングにより混合される。該油中水中油型エマルジョンは水中油中水型エマルジョンよりもかなり安定である;それゆえ、この複合エマルジョンは、実質的に従来の乳化剤を添加しなくてもよい。さらに、前記主エマルジョンは、広範囲(一般的にエマルジョン:外油相が約10−60:90−40)で、外相に添加することができる。しかしながら、その範囲が高レベルになると、外相のポリマーの量は適切な範囲の上限にしたがって増加する。
【0011】
同様に、同じ一般的方法を用いて4相エマルジョンを製造することが可能である。このタイプのエマルジョンを製造するためには、水中 薄い油相 中水型エマルジョンを前述したようにして調製し、最初に記載した3相エマルジョンの水相と同様に増粘させる。油混和型ポリマーで増粘させた油中水型エマルジョンを水中油型エマルジョンに添加し、固定ミキシングで均質になるよう混合する。
【0012】
上述のように調製されたエマルジョンは、非常に安定である。しかしながら、特に水中油中水型エマルジョンについては、主エマルジョンと外相の粘度をあわせることによってさらなる安定性を得ることができる。既に前記したように、製品の全体的な粘度は、製品が最終的に目的とする使用にしたがって、選択される問題である。しかしながら、その枠組みの中で、エマルジョンと外相の粘度(粘度はブルックフィールドの粘度計によりセンチポアーズで測定する)は、約10%以内に合わせることが望ましい。
【0013】
本発明のエマルジョンは、従来の複合エマルジョンを超える、多くの利点を有する。例えば、本発明のエマルジョンは最小量の乳化剤と増粘剤で製造されるが、これらの存在は最終製品における所望の洗練された感触や優しさに影響する。
その系は、複合エマルジョン中での主エマルジョンの高い濃度(10−50%)を可能とし、それゆえ多様な肌触りと、広範囲の消費者に対する広くアピールすることを可能にする。他の複合エマルジョンと同様に、最終製品の様々な相に分配された、多くの異なったタイプの活性成分の輸送に用いることが可能である。こうしたことは、互いに共存できない、あるいは同じ環境では最適活性を示せない、数個の活性成分を有する系で、特に重要である。複合エマルジョンは顔料の新しい輸送系としても使用しうる。その系では顔料はエマルジョンの内相に含まれ、皮膚に塗った後で発色する。該エマルジョンは、標準的エマルジョンがごく普通に用いられるどんなタイプの適用(例えば、スキンケア製品、医薬又は動物用の薬物輸送、サンスクリーン/self-tanners、洗い流すヘアコンディション、液体メーキャップ)にも使用できる。
【0014】
本発明を、さらに以下の非限定的な実施例によって説明する。
【実施例】
【0015】
実施例1
A.3相エマルジョンファンデーションのための主エマルジョンの調製
原料 重量%
I相
シクロメチコン/ジメチコン 5.00
フェニルトリメチコン 5.00
ジメチコン/ジメチコンコポリオール架橋ポリマー 7.00
シクロメチコン 1.00
ジメチコン 8.00
顔料 5.00
エレファック I−205 3.00
II相
キサンタンガム 0.20
ブチレングリコール 5.00
蒸留水 59.80
塩化ナトリウム 1.00
I相の原料を主容器中でスイープミキシング(掃引混合)しながら合わせた。キサンタンガムとブチレングリコールは副容器に入れ、プロペラミキシング下、均質になるまで混合した。II相の残りの原料を副容器に入れ、40℃に加熱し、プロペラミキシングで混合した。II相の原料をI相の原料に加え、次いで所望の粘度になるまで均質に混合した。
B.3相エマルジョンの調製
(i) 外水相
原料 重量%
蒸留水 49.70
グリセリン/グリセリルポリアクリレート 1.00
ヒアルロン酸ナトリウム(2%溶液) 10.00
ジメチコンコポリオール 0.50
グリセレス−26 2.00
1,3ブチレングリコール 5.00
Tween20 0.30
(ii) 増粘剤
AMPS/VIFAコポリマー** 1.50
(iii) 主エマルジョン
実施例1Aの組成物 30.00
全複合エマルジョン中
**アンモニウムポリ(アクリルジメチルタウラミド−コ−ビニルホルムアミド)−アリストフレックス AVCO、クラリアントコーポレーション
外水相の原料をあわせ、45℃に加熱し、プロペラミキシングした。固定ミキシングにより、増粘剤を水相に加え、透明なゲルが形成されるまで混合した。主エマルジョンを、前に合わせた原料に加え、固定ミキシングを続けながら完全に混合した。
実施例2
本発明の4相エマルジョンの調製
A.油中水型主エマルジョンを以下のようにして調製する:
原料 重量%
I相
シクロメチコン/ジメチコン 5.00
フェニルトリメチコン 5.00
ジメチコン/コポリオール架橋ポリマー 7.00
シクロメチコン 1.00
ジメチコン 8.00
II相
キサンタンガム 0.20
イオン交換水 64.30
塩化ナトリウム 1.00
ブチレングリコール 5.00
パラベン 0.50
油相成分を合わせ、水相成分を合わせた。次いで、水相をゆっくりと油相に加え、均一になるまでホモジナイズした。
B.外“水”相として使用する、薄い水相、低乳化剤エマルジョンを以下のようにして調製する:
原料 重量%
I相
イオン交換水 32.50
アルラトンバーサフレックスハイ
パーフォーマンス乳化安定剤 1.00
II相
イオン交換水 32.05
メチルパラベン 0.20
ブチレングリコール 3.00
フェノキシエタノール 0.40
III相
ベヘニルアルコール 0.75
テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル 30.00
ベータカロテン 0.10
*Uniqema
I相中に、乳化剤を80℃で加えた。II相成分をI相に80℃で加えた。III相成分を合わせて、I相及びII相成分と10,000rpmを超える速度でホモミキシングした。合わせた成分を16,000psiで3回 マイクロフルイダイザー(microfluidizer)に通して、薄い水相のエマルジョンを得た。
C.4相エマルジョン
原料 重量%
ポリソルベート 20 0.20
カーボポール 1.00
BのO/W型エマルジョン 78.80
AのW/O型エマルジョン 20.00
O/W型エマルジョンをカーボポールと固定ミキシングを用いて合わせた。次いで、ポリソルベート20を加えた。W/OエマルジョンをO/W相に固定ミキシングを用いて加えた。添加が完了したら、複合エマルジョンが均一になるまで、約5分間混合を続ける。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外相に主エマルジョンを含み、成分水相と成分油相を含み、該成分水相が水混和性増粘剤で増粘されており、該成分油相が極性部を有する油混和性ポリマーで増粘されており、該主エマルジョンの粘度と該外相の粘度を10%以内に合わせてある安定な複合エマルジョンであって、16から20のHLBを有する乳化剤を1%以下しか含まない複合エマルジョン。
【請求項2】
3相エマルジョンである、請求項1記載のエマルジョン。
【請求項3】
油中水中油型エマルジョンである、請求項2記載のエマルジョン。
【請求項4】
水中油中水型エマルジョンである、請求項2記載のエマルジョン。
【請求項5】
4相エマルジョンである、請求項1記載のエマルジョン。
【請求項6】
前記成分油相がシリコーンを含み、増粘剤がジメチコン/ジメチコンコポリオール架橋ポリマーである、請求項1記載のエマルジョン。
【請求項7】
前記水混和性増粘剤がガム、カーボマー、セルロース化合物、キトサン及びデンプンからなる群より選ばれる、請求項1記載のエマルジョン。

【公開番号】特開2007−45840(P2007−45840A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278202(P2006−278202)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【分割の表示】特願2001−587719(P2001−587719)の分割
【原出願日】平成13年5月24日(2001.5.24)
【出願人】(598173764)カラー アクセス,インコーポレイティド (14)
【Fターム(参考)】