説明

低圧アキュームレータを有する自動車ブレーキシステム

油圧配管4を有する自動車ブレーキシステム1であって、前記油圧配管を通して、ブレーキシリンダ8から車輪ブレーキモジュール6がブレーキ媒体によってブレーキ圧を加えられ、かつ低圧アキュームレータ13が、過剰なブレーキ媒体を一時的に受入れるために油圧配管に接続され、その際、前記低圧アキュームレータ13が、一時貯蔵されたブレーキ媒体を戻すために、リターンフロー配管12、および、リターンフロー配管12内に配設されたリターンポンプ14を介し前記油圧配管4に結合され、リターンポンプ14が、搬送性能の調整のために、各ブレーキサイクル中、搬送性能に対応するポンプ駆動の一期間に一度作動されるように周期的に制御される自動車ブレーキシステム1が、快適なペダル感覚で、特に高い稼動安全性を提供するものである。そのために、リターンフロー配管12内に配設されたリターンポンプ14に関連付けられた制御ユニット16が、ブレーキサイクル中のリターンポンプ14のポンプ駆動の回数に関する設定値を、所定の初期値から始めて、低圧アキュームレータ13内の充填状況を考慮し、および/または充填状況の時間微分を考慮して適宜適合させて提示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧配管を有する自動車ブレーキシステムであって、前記油圧配管を通し、ブレーキシリンダから車輪ブレーキモジュールがブレーキ媒体によってブレーキ圧を加えれることができ、かつ、前記低圧アキュームレータが過剰なブレーキ媒体を一時的に受入れるために前記油圧配管に接続されており、
その際、前記低圧アキュームレータが、一時貯蔵されたブレーキ媒体を戻すために、リターンフロー配管、および、このリターンフロー配管内に配設されたリターンポンプを介し前記油圧配管に結合されており、かつ、前記リターンポンプが、搬送性能の調整のために、各ブレーキサイクル中において、搬送性能に対応するポンプ駆動(Pumpentakt)の一期間に一回作動されるよう、周期的に制御される自動車ブレーキシステムとその稼動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
その種のブレーキシステムは、通常、ABSシステムの範囲において採用され、その際、その種のシステムにおいては、主に、リターンフロー配管内に配設された搬送ポンプが、いわゆる一次圧に依存して制御される。前記一次圧は、すなわちマスターブレーキシリンダと車輪ブレーキモジュールの進入弁との間にかかる圧力のことである。
【0003】
ここで、特許文献1から、自動車ブレーキ機構のマスターブレーキシリンダと車輪ブレーキシリンダの入口弁との間にわたる一次圧を推定するために、周期的に駆動されるポンプモータのラン・オン電圧(Nachlaufspannung)、および、アキュームレータチャンバ内で算出または測定されるアキュームレータチャンバ圧力を使用する方法が知られている。前記ポンプは、前記車輪ブレーキシリンダの出口側に配置されたアキュームレータチャンバからマスターブレーキシリンダ内にブレーキフルードを還送するために使用される。
【0004】
さらに、特許文献2が、マスターブレーキシリンダと車輪ブレーキシリンダの入口弁との間にわたる一次圧を決定するための方法を示す。この方法は、周期的に駆動されるポンプモータのラン・オン電圧の推移を考慮して、一次圧を特定する。前記ポンプは、低圧アキュームレータからマスターブレーキシリンダ内にブレーキフルードを還送するために使用される。その際、電圧推移のいくつかの特性量が測定され、それぞれ、一次圧値を決定するために参照される。さらに、様々な特性量から決定される一次圧値の平均化、および、ばらつきを抑えるための一次圧値の時間平均化が行われる。
【0005】
そのために、測定された特性値の質および/または信頼性の評価が行われ、測定された特性値の質および/または信頼性が低い場合には、特性値および/またはそこから決定される一次圧値のフィルタリングおよび/または選別が行われ、似通った大きさの圧力値のみが考慮対象とされる。
【0006】
当該自動車ブレーキシステムは、1つの低圧アキュームレータを備えることができるが、また複数の低圧アキュームレータを備えることもできる。好ましくは、2つの低圧アキュームレータが提供され、これらは稼動中に必ずしも同じ充填状況を有する必要はない。
【0007】
低圧アキュームレータの充填状況は、車輪シリンダ用の出口弁から低圧アキュームレータ内に送入される体積と、低圧アキュームレータを空にするポンプの搬送体積とから得られる。
ABS制御中の送入量は、既知のように、出口弁の動作時間と、車輪シリンダ圧力とに依存する。車輪シリンダ圧力は、圧力センサが存在しないとき、既知のようにモデルに従って計算することができ、通常はABS制御プログラムにおいてパラメータとして利用可能である。動作時間も同様に知られており、したがって、体積流入も同様に近似的に決定可能である。
低圧アキュームレータからの体積流入は、それ自体知られている様式で、ポンプの駆動電圧を考慮することによって得られる。
したがって、最後に、現存する情報から、低圧アキュームレータの充填状況をABS制御中に少なくともある程度近似的に計算することが可能である(低圧アキュームレータモデル)。
【0008】
ABS制御ブレーキシステムにおいて、車輪が停止に向かう傾向を示すとき、ブレーキフルードのフルード量が油圧ブレーキ回路内で減少されることによって、油圧ブレーキ回路内でのブレーキ圧が低下される。この抜き出されたブレーキフルードは、ある数の別個の低圧アキュームレータ内に一時貯蔵され、対応する要求に応じて簡単に再びブレーキ回路内に戻すことができる。
【0009】
測定された、または上記のモデル計算に基づいて推定された利用可能なブレーキフルードの量は、自動車のブレーキシステムにおいて、NDS内の状況評価のための主要な基準として使用される。その補完をするためと、かつ自動車システムの自己制御のために、自動車の車輪の挙動も同様に利用される。
【0010】
ABS制御ブレーキ行程全体が、必要最小限のブレーキ・ポンプ作動で済むべきである。そのために、以下の要件がブレーキシステムに課される。
1.ポンプができるだけ経済的に採用されるべきである。
2.ポンプ騒音ができるだけ大幅に減少されるべきである。
3.圧力上昇時に、比較的小さな振動しか生じないことを、ポンプ作動に依存して、保証すべきである。
4.ブレーキ・ペダルの反発ができるだけ大幅に低減されるべきである。
5.各時間に、余剰な圧力を受入れるために、LPRまたはNDS内で十分な空間が利用可能であるべきである。
6.上記の要件が全て、自動車のタイプ、ならびに稼動温度および他の条件に依存せずに実現可能であるべきである。
【0011】
ABS制御ブレーキ行程中、NDS内部のブレーキフルードの量は、二つの並行して進行するプロセスの結果である。
1.インフロー(Vin):ブレーキ回路から抜き出されるブレーキフルードの量が、ABSシステムによって引き起こされる圧力降下を特徴付ける。
2.アウトフロー(Vout):流出とは、いわゆるTHZループ内へのブレーキフルードのリターンフローを表す。THZは、いわゆるタンデムマスターシリンダをあらわし、すなわち、要求に応じてブレーキフルードの受入れおよび増圧を行うマスターブレーキシリンダをあらわす。
【0012】
したがって、NDS内で利用可能なブレーキフルードの量は、式VNDS=Vin−Voutから算出される。
【0013】
低圧アキュームレータは、知られているように、充填状況に依存する圧力推移を有する。充填状況が低い場合、低圧アキュームレータ内の圧力は小さい。充填状況が高くなるにつれて、低圧アキュームレータ内の圧力が大きくなる。
【0014】
低圧アキュームレータを有する自動車ブレーキシステム内に存在するリターンポンプは、原理的には常に最高性能で稼動させることができ、したがって低圧アキュームレータは常に空である。
【0015】
しかし、これは、エネルギー消費、騒音発生、およびペダル感覚の面から好適でなく、特に、ポンプ作動が頻繁すぎるとペダル感覚が損なわれる。
【0016】
さらに、それ自体知られるポンプ制御の方法は、例えば、その制御により現行値の車輪圧力を所定の目標値に導く制御である。これらは全ての走行状況で最適というわけではない。したがって、非常に低い摩擦係数でのブレーキ制御では、低圧アキュームレータが十分に空でないことがあり得る。
【0017】
この場合、油圧配管から車輪シリンダの出口弁を通して低圧アキュームレータ内にブレーキ媒体を排出することによりブレーキを適宜解除し、それにより車輪ブレーキモジュールにおける減圧を行うには、低圧アキュームレータ内の圧力が大きすぎる。それにより、システムの稼動安全性が損なわれる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】独国特許出願公開199 46 777 A1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開10 2005 041 556 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、本発明の目的は、快適なペダル感覚であり、特に高い稼動安全性を提供する上記種類の自動車ブレーキシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的は、本発明によれば、リターンポンプに備え付けられた制御ユニットの一つが、ブレーキサイクル中のリターンポンプのポンプ駆動の回数に関する設定値を、所定の初期値から始めて、低圧アキュームレータ内の充填状況、および/または、前記充填状況の時間微分を考慮して、適宜適合させて提示することにより解決される。
【0021】
本発明の有利な実施形態は、下位の請求項の主題である。
【0022】
本発明は、快適なペダル感覚のために、または一般には使用者の高い快適性のために、ポンプの作動回数、すなわちポンプ駆動の回数が特に少なく保たれるべきであるという考察から始まる。
【0023】
しかし、いずれにせよ特に高い稼動安全性を保証するために、ポンプの作動は、特に適宜に、したがって現行の稼動状態にあわせて開始されるべきである。そのために、事前に確定された変えることができないポンプモデルに従うポンプの作動の概念からは結果的に離れて、ポンプ制御に際して、個々の適切に選択されるパラメータを適切に考慮しながら車両状態および走行状況に基づかなければならない。
これらのパラメータとして、
−満杯の低圧アキュームレータ、
−低摩擦係数の状況、および、
−ポンプ停止状態またはほぼポンプ停止状態、
などの走行状況および稼動状態によって定義されるパラメータが挙げられる。
【0024】
その際、パラメータとして、特に、前記低圧アキュームレータ内の充填状況自体が提供される。しかし、代替または追加の形態としては、前記充填状況の時間微分または勾配を考慮することもでき、したがって、予測の形でのポンプ制御は、前記充填状況の算出時に算出される傾向にも依拠する。それにより、制御システムのポテンシャル(potenzialen(略してP−))特性から複合型の比例微分(differenziale proportional(略してPD−))特性への移行の様式で、勾配で修正されたポンプ動作が決定される。
【0025】
さらにまた、低圧システムの温度値または粘性値も、パラメータとして考慮することができる。
【0026】
そのときどきの走行状況の特に正確な評価を行うため、かつ、前記制御ユニットが設定値を算出できるようにするために、有利にはある特性値が提供されるが、この特性値は、車輪回転数、特に1つまたは複数の車輪のスリップから導き出される。前記設定値は、低圧アキュームレータからのブレーキフルードの放出に必要な情報を、適宜、すなわちその自動車特有の経験値から導出して、搬送ポンプに供給する。
【0027】
走行状況の判断およびポンプ作動の必要性の判断に必要な情報を制御ユニットに供給することができるように、電圧測定がおこなわれる。すなわちポンプのEMF(起電力)の確認が行われ、その際、前記ポンプは、ブレーキサイクル中、少なくとも1つの作動行程分を空転で作動し、このポンプの空転作動によりに生じる電圧により、低圧アキュームレータ内の圧力に打ち勝つ必要な力を導き出す。
【0028】
本発明によって達成される利点は、特に、低圧アキュームレータ内の充填状況を直接、かつ/または充填状況の時間微分と関連付けて考慮することによって、リターンポンプの動作時に、ポンプ性能およびその効率の動的認識を可能にすることである。その際、ブレーキシステムでの高すぎる圧力または低すぎる圧力など極端な状況は、影響をもって安全性および快適性に作用を及ぼすことがあるが、これをABS制御ブレーキ行程において適切に回避することができ、それにより、使用者に高い快適性を与えながら、自動車の稼動安全性を確実に保証することができる。
【0029】
ひとつのサイクル中、すなわちひとつのABS制御ブレーキ行程中のポンプの完全な制御、および、ポンプの作動の適応制御のために、3段階の制御を提供することができる。
1.監視外段階:
このステップは、ポンプが機能していなく、ABS制御ブレーキ行程のサイクル外にある時間範囲を特徴付けるために導入される。このステップは、ABS制御ブレーキ行程の分析に必要とされる全てのパラメータを元に戻す、いわゆるリセットを行う。
2.監視段階:
ABS制御ブレーキ行程の間、ポンプの時間間隔は、1〜11までの値を取ることができる。この値は、多くの条件に依存する。これらの条件は、以下に個別に列挙する。この非常に重要な段階が、ポンプの適応制御の中核となる。
3.最終監視段階:
この段階は、達成すべき2つの特別な目的を有する。
1.ABS制御ブレーキ行程の終了をスムーズにすること。すなわち、特にブレーキ・ペダルの位置および動きに関して、極端な状況を引き起こさない、または極端な状況に留まらないこと。
2.行われうる次のABS制御ブレーキ行程のための条件を整えること。
【0030】
ポンプ監視段階では、ブレーキ行程の導入から、(NDS内の)フルード量の制御までのいくつかの下位段階が挙げられる。自己制御のために、このポンプ監視段階は、車両車輪の状態の分析も同様に利用して、ポンプの時間間隔を調べてかつ調整する。
【0031】
この特別な行程は、並行して備えられた補助インターフェースによって監視されて行われる。
【0032】
重要なパラメータとして、例えばフルードの量が挙げられる。2つ以上の低圧アキュームレータ(NDS)が備えられる場合、これらのアキュームレータ内へのブレーキフルードの流入は、必ずしも同じでなく、または必ずしも同期して行われない。したがって、この状況では、全てのフルード状況の最大値を使用することが特に有利である。
【0033】
さらに、ポンプ性能が重要な因子である。供給性能が特定の一定値に事前設定される場合、最大のポンプ間隔のみが最高のモータ回転モーメントを提供する。
【0034】
モータのPWM制御(PWMは、パルス幅変調を表す)の場合、モータは、好ましくは固定PWM周波数で制御され、ここでPWMの「オン」時間、すなわちデューティサイクルは可変である。デジタル制御に基づいて、「オン」時間は、好ましくは、特定の最小時間幅でのみ制御させることができる。この時間幅は、例えば5msの長さを有する。例えばポンプが10msの「オン」時間で制御される場合、適当な内部値Lが値2に設定される。それに応じて、L=1は、5msのパルス持続時間「オン」に対応する。
【0035】
PWM制御の「オフ」段階では、それ自体知られている様式で、モータの発電機電圧を測定することができる。したがって、本発明によるブレーキシステムは、好ましくは、モータの発電機電圧の測定および分析のための機構も含む。評価によって、ポンプがある特定の動作性能の場合、例えばL=150の値で、多少なりとも搬送するかどうかを確認することができる。ポンプの性能が低すぎる場合、ポンプは稼動しない。これは、「オフ」段階で発電機電圧が生じないことによって確認することができる。
【0036】
ポンプは、ピストンにかかる大きな機械的力に対抗して作動しなければならないので、これが、ABS制御ブレーキ行程中の重要な基準となる。前記機械的力はタンデムマスターシリンダ(THZ)の圧力による。ポンプが特に高い負荷を受ける時点で、発生されたモータ回転モーメントがTHZの圧力に打ち勝つのに十分でないとき、ポンプは作動しない。これは、ABSシステム全体の機能に関して壊滅的な結果をもたらす可能性がある。
【0037】
ABSシステムの採用の前に、ポンプの前記したアウトフローと、THZの典型的な圧力を比較するべきである。そのような考察は、さらに、2つ連続するポンプ間隔の間での流量の差の計算/分析を可能にする。得られた経験値から、ポンプの作動を適応に導入するための参照パラメータを得ることができる。ABSシステムの作動によって、同様にポンプが作動される。ABS制御ブレーキ行程の始めにNDSをできるだけ完全に空にしなければならないので、特定されたタイミングでのポンプの作動は、特にクリティカルな時点となる。これは、例えば凍結または雪などの路面状態と、THZによって利用可能にされる使用圧力とに依存することがある。
【0038】
安全のために、ポンプ間隔の設定値は、ポンプの性能仕様を考慮に入れて事前設定することができる。性能仕様が分かっていない場合、安全上の理由から、ポンプ作動を値2で導入し、使用/推定されるTHZ圧力を監視すべきである。この圧力が、所定の値、例えば100バールを超える場合、ポンプ間隔は、それに従って増加されるべきである。
【0039】
主に、NDSは、移動するピストンによって2つの領域に区分される。アキュームレータ入口に対向する側で、この移動するピストンは圧縮ばねによって支持される。車輪と路面との摩擦係数が極端に低い場合、NDS内での数バールの残留圧力が、既に車輪ロックをもたらすことがある。車輪圧力減圧は、必要な場合0バール以下が求められるが、これは不可能だからである。
【0040】
この場合、NDSをできるだけ迅速に空にして、圧力をゼロに近い値まで減少するために、ポンプ間隔をすぐに大幅に増やすべきである。
【0041】
この状況を迅速に確実に打開するために、ポンプ間隔を少なくとも値「1」だけ増やすべきである。この状況がさらに続く場合、ポンプ間隔を新たに増やさなければならない。
【0042】
逆の場合、例えば1つ以上の車輪が加速する傾向を示すとき、ポンプ間隔は再び減少されるべきである。
【0043】
高いポンプ間隔の利用は、前述した要件に対応するように厳しく制限されるべきである。そのような状況は、しかしながら、いわゆる「ホイールロック体積(Wheel Blocking Volumes)」、すなわち1つの車輪/複数の車輪のロックをもたらすNDS内での最大フルード量の計算を可能にするので、そのような状況もまた特に興味深いものである。
【0044】
完全な周囲条件において、前記要件を満たすのにはフルード量を監視するだけで十分である。その例外は、簡単には予測することができない。したがって、この例外的状況において採用される特別なインターフェースの構想が練られる。以下、このインターフェースの説明を行う。
【0045】
NDS内のブレーキフルード量の変動により、ブレーキフルードの流量は、パラメータとして直接使用することができない。しかし、以下のように分析および計算することができる。
1.新たなポンプ間隔の導入の際、ブレーキフルードの量に関する参照値が記録される。
2.各過程で、NDS内での最大フルード量が測定されて記録される。
3.各PWMの終了後、個々の過程の平均量が計算され、平均流量と同様に、累積平均量が表される。これは、個々の過程の平均量と、ブレーキフルードの量に関する始めに記録された参照値との差から計算される。
【0046】
この計算の後、流量の値をパラメータとして使用することができる。初期ポンプ間隔の利用後、流量の監視をすることにより、ポンプ間隔および流量が、
−高すぎて、減少されなければならないか、
−これらの値を維持することができるようなものであるか、または、
−低すぎて、行程の数を増やさなければならないか、
を調べることができる。
【0047】
したがって、ポンプ制御のふさわしい適合またはアップデートにより、ポンプ制御は、適宜決められる。
【0048】
流量上昇は、第一に、路面の変化の際、例えばアスファルトから凍結面への移行の際におこり、すなわちNDSのいわゆるアウトフローが、いわゆるインフローよりも少ない。
【0049】
そのような場合になされる各決定は、一方では、累積平均量の値に基づき、他方では、2つの連続したポンプ間隔間の流量の差の値に基づく。
【0050】
例えば、累積平均量Qcumが、2つの連続したポンプ間隔間の流量の差dQよりも大きい場合、ポンプ間隔の増加が導入されるべきである。
【0051】
例えば、Qcum=150mmであり、dQ=120mmであるとき、ポンプ間隔は、値1だけ増やされる。
【0052】
cum=300mmであり、dQは先と同じであるとき、ポンプ間隔は、値2だけ増やされる。
【0053】
ポンプ間隔の増加は、ポンプ間隔が設定されうる最大動作可能値によって制限される。これと同様に、流量の減少の際の挙動は、逆向きに見ることができる。
【0054】
流量は、ポンプのいわゆるインフローを正確に補う。始めに使用されたポンプ間隔が維持されるべきである。累積流量は、NDS内で、1つまたは複数の車輪のロックをもたらす量に近付きすぎないようにすべきである。
【0055】
所定のポンプ間隔の間、NDS内のブレーキフルード量は、最低と最高との間で動く。そのようなサイクル中、一番高くまで達したフルード量が記録され、参照値として記される。
【0056】
各照会は、ポンプ間隔の増加の後にもう一度検査される。この時点で算出された量が、参照値によって成される限界値よりも下にあるとき、この照会は、ポンプ間隔の増加後に拒否される。それにより、一定のポンプ間隔が保証され、偽の変動が回避される。そうしないと、この偽の変動によりポンプ間隔に突然不必要な変化を引き起こすことになる。
【0057】
特別な監視段階が、各車両車輪の各予測不能な挙動に対処するように特別に開発されている。そのような予測不能な挙動を引き起こす可能性がある多くの様々な原因が存在する。そのような原因として、例えば、路面状態および別の前提の急激な変化が挙げられる。これは、ABS制御中に、とりわけ車輪速度の挙動に現れる。
【0058】
そのような事象の結果として生じる2つの可能性が考えられる。
−ポンプのあまりに緩慢な作動が観察される。安全上の理由から、ポンプ間隔の迅速な増加が導入される。
−この特別な監視段階でポンプがあまりに速く作動することが観察されるとき、快適性に鑑みて、ポンプ間隔の減少によってポンプ速度が低下される。
【0059】
別の結果は、NDS内のブレーキフルード量の測定、および/または、モデル推定/計算の質である。そのような場合に、APCが、誤った入力値に基づいて必然的にポンプ間隔に関する誤った値を計算するとき、有利には、上記の状況の1つが生じることによって、すなわちこの特別な監視段階でポンプがあまりに速く、またはあまりに緩慢に作動することが観察されることによって、調整が行われる。
【0060】
以下に列挙する技術を考慮して、あまりに緩慢に作動するポンプ、すなわちあまりに低いポンプ間隔を簡単に診断することができる。
【0061】
1つの車輪/複数の車輪と路面との間での極端に低い摩擦係数の状況と同様に、1つの車輪または複数の車輪のスリップ、すなわち例えば60%の値の空転を検出することができる。この空転の主な理由は、ABS制御ブレーキ行程に関して圧力減圧が必要とされるにも関わらずNDS内にある残留圧力である。この場合、ポンプ間隔は、大きく引き上げられる。
【0062】
既述の学習段階およびポンプ間隔の大きな引上げの後、1つの車輪または複数の車輪のスリップが止まらないとき、ポンプ間隔はさらに増やされる。この警戒状況は、1つの車輪または複数の車輪のスリップが小さくなるまで、例えば30%未満に下がるまで続く。
【0063】
流量を測定することができないとき、あまりに低いポンプ間隔、したがってあまりに緩慢に作動するポンプを識別するための別の技法は、ポンプの電動機の性能の監視である。非常に低い性能値は、ロックされたモータを示唆する。この場合、ブレーキフルードが排出することができず、NDSがブレーキフルードで満杯になる危険が大きい。
【0064】
そのような場合、ポンプ間隔の増加によってポンプの性能を高めなければならない。通常、この問題を解消するために、小さなステップ、例えば値1のポンプ間隔の増加で十分である。このステップが成功しない場合、2倍の幅のステップ、すなわち値2のポンプ間隔の増加が行われる。
【0065】
流量は、非常に緩慢に増大することがあり得る。別の場合には、この増大が大きく急であり、総量が、1つの車輪または複数の車輪のロックに十分な量をはるかに超えるようになり、場合によってはNDSの限界に近付くようになる。これは、車両およびその乗客、ならびに周囲の道路交通の安全性に影響を及ぼす状況である。この場合、この大きく急な増大が処理されるまで、ポンプ間隔が大きく増やさなければならない。この目的の達成後、ポンプ間隔は、再びその初期値を取る。
【0066】
あまりに緩慢に作動するポンプと同様に、ポンプは、あまりに速く作動することもある。ただし、このとき安全上の問題はなく、単に、短期間にあまりに速く作動するポンプによって、快適性に影響が及ぼされる。ただし、ポンプのあまりに速い作動がより長い期間にわたって続く場合、ポンプの寿命が大きく損なわれる可能性がある。これは、主に、より高いポンプ間隔、したがってより高い流量をもたらす、NDS内の誤ったフルード量の結果またはフルード量に関する誤った報告の結果として生じる。
【0067】
あるいは、ポンプのピストンを継続的に機械的な負荷から解放するいわゆるTHZでの圧力の低下もあり得る。それによって、電動機の高い性能を達成することができる。
【0068】
そのような状況では、ポンプの搬送性能が、ポンプ間隔の減少によって低下されるべきである。これは、既述のステップと同様に、あまりに速く作動するポンプの場合には、ポンプ間隔が値1だけ減少されることによって小さなステップで行われる。この減少が成功しない場合、2倍のステップ、すなわち値2のポンプ間隔の減少が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明によるスリップ制御式の自動車ブレーキ機構のブレーキ回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
一実施形態を、図面に基づいてより詳細に説明する。ここで、図は、スリップ制御式の自動車ブレーキ機構1のブレーキ回路を例示的に示し、ここでは車輪ブレーキ回路のみが示されている。
【0071】
ブレーキ機構1は、マスターブレーキシリンダ2を有するブレーキ装置を備え、前記マスターブレーキシリンダ2は、油圧結合4、および、分配装置5を介し、車輪ブレーキ8に結合される。前記分配装置5は、油圧ユニット6および電気ユニット7を備える。
【0072】
前記油圧ユニット6は、油圧式および電気油圧式構成要素用の筐体、ならびに、各車輪ブレーキ8用の電磁気的に駆動可能な入口弁9および出口弁10を備える。
【0073】
前記油圧結合4において、前記車輪ブレーキ8用入口弁9の手前に、第2の車輪ブレーキ回路への分岐11がある。前記入口弁9は無電流時に開放状態である。
【0074】
前記車輪ブレーキ8から、リターンフロー接続12が、出口弁10を介し低圧アキュームレータ13まで延び、前記低圧アキュームレータ13は、ABS制御サイクルによって前記車輪ブレーキ8から排出された油圧フルードの体積を受け入れるよう設計される。前記出口弁10は無電流時に閉鎖状態である。
【0075】
前記低圧アキュームレータ13は、電動ポンプ14の吸入側への供給を行う。当該ポンプ14は、好ましくは、ラジアルピストンポンプとして構成され、弁(本明細書には図示せず)を備えている。前記弁として、それぞれ、吸入側にある吸入弁、および、圧力側にある圧力弁が挙げられる。
【0076】
モータ15とポンプ14とは、好ましくは一つのユニット(モータポンプユニット)として構成され、前記マスターブレーキシリンダ2の方向へ、排出された油圧フルードの還送を可能にする。典型的な場合、当該ブレーキシステムは、さらなる機能、例えば駆動スリップ制御(ESP)などを備える。これは、前記入口弁9の上流に配設された遮断弁をさらに必要とする。前記遮断弁は、電磁気的に駆動可能であり、無電流時に開放状態である。
【0077】
ABS制御中、出口弁10を介する圧力減圧行程により、入口弁9で圧力差が生じる。車輪ブレーキ8から出た体積は、低圧アキュームレータ13内に達する。同時に、ポンプ14が作動され、排出された体積を、加えられている一次圧に反して、再びマスターブレーキシリンダ2の方向、かつ、入口弁9の前に戻す。
【0078】
ABSブレーキ行程中におけるポンプ14の搬送量の要求に応じた制御のために、ポンプ14の上流に制御ユニット16が配設される。当該制御ユニット16は、そのときどきの走行状況に特徴的な自動車の稼動量から、設定値を生成し、この設定値をポンプ14に伝達する。
【0079】
前記制御ユニット16は、データ入力側から情報を供給され、走行状況、および、ブレーキシステム1での稼動状況の評価に必要な稼動データを算出する。このパラメータに基づき、得られた参照データと関連付け、搬送ポンプ14の適応性能制御を可能にする。
【0080】
その際、各ブレーキサイクルは、いくつかのポンプ駆動に区分される。所定数のポンプ駆動が、ポンプ14を初期値に調整する役割を果たす。走行状況および稼動状態に応じて、この数は適宜適合されて、ポンプ14の搬送性能に影響を及ぼす。
【0081】
各ブレーキサイクルにおいて、少なくとも1つのポンプ駆動が、ポンプ14の惰力回転のために確保されるべきである。この間はポンプがモータ15によって駆動されない。このポンプ駆動では、前記ポンプ14は、駆動力がなくなったことによって可能となった空転状態であり、測定可能なある電圧を発生する。この電圧は、EMFの計算を可能にし、それに基づいて、ポンプ14がある高い圧力に反して、すなわち低圧アキュームレータ13内での高い充填状況において作動するかどうかを評価することができる。
【0082】
したがって、ポンプ14が駆動されないそのようなポンプ駆動は、設定値の算出に重要である。
【0083】
算出され、前記制御ユニット16に送信されるデータには、低圧アキュームレータ13内のブレーキフルード充填状況、自動車の車輪回転数、特にスリップに関する情報、およびポンプ空転中に発生する電圧が含まれる。前記車輪回転数に関する情報は、適切なセンサ17を通じ算出され、また、前記電圧はモータ15において測定される。
【0084】
これらのデータが、例えば低圧アキュームレータ13内でブレーキフルードの高い充填状況が得られたことを示唆する場合、制御ユニット16は、ポンプ駆動の回数を増加する。ここで低圧アキュームレータ13内の充填状況が低下している場合、ポンプ駆動の回数が減少され、ブレーキサイクル中のポンプ14の搬送性能を低下させる。制御ユニット16によってポンプ14に伝達されたポンプ駆動の回数に関する設定値において、充填状況が、自動車の安全な稼動を保証する所定のレベルに留まる場合、ポンプ駆動の回数は変わらない。
【0085】
自動車ブレーキシステムを利用するための方法が、低圧アキュームレータを空にする油圧ポンプの動作のためのアルゴリズムに関し改善される。
【0086】
以上により、低圧アキュームレータの充填状況が高すぎるか、またはポンプ作動が頻繁すぎるといった問題が低減される。とりわけ、温度変動、構成上の相違、およびポンプの消費電力は、充填状況制御の質にほとんど影響を及ぼさない。なぜなら、本明細書で提供されるポンプ性能制御は適宜行われるからである。
【0087】
さらに、ポンプのリターンフローにより引き起こされるブレーキ・ペダルに対する反作用は、ペダルの振動および/または反発として運転手に感じ取られるが、この反作用は、既知のブレーキシステムでは遥かに一般的である。これを、既知の方法に比べて明らかに低減することができることが示された。
【0088】
これは、ブレーキ行程中のポンプ制御中における、より静かで、一様な、各状況に適合されたポンプ作動行程によって得られる。
【0089】
ブレーキシステムは、1つまたは複数の低圧アキュームレータを備えることができる。好ましくは、2つの低圧アキュームレータが提供される。複数の低圧アキュームレータがある場合には、それらの低圧アキュームレータが同じ充填状況を有さないことがある。ポンプ制御に関するアルゴリズムでは、最高の充填状況を有する低圧アキュームレータの充填状況に基づくことが好適である。このようにすると、ポンプの搬送性能があまりに低く選択されることがなく、1つまたは複数の車輪のロックが回避されることを保証することができる。
【0090】
「ブレーキ制御」という概念は、ABS制動中のブレーキ圧制御に加えて、駆動スリップ制御(ASR)、走行ダイナミクス制御(ESP)、車間距離制御(ACC)などで生じるブレーキ圧制御も包含する。
【符号の説明】
【0091】
1 ブレーキ機構
2 マスターブレーキシリンダ
4 油圧結合
5 分配装置
6 油圧ユニット
7 電気ユニット
8 車輪ブレーキ
9 入口弁
10 出口弁
11 分岐
12 リターンフロー接続
13 低圧アキュームレータ
14 ポンプ
15 モータ
16 制御ユニット
17 車輪回転数/スリップに関する算出ユニット
18 低圧アキュームレータ内のブレーキフルード量に関する算出ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧配管を有する自動車ブレーキシステムであって、
前記油圧配管を通し、ブレーキシリンダから車輪ブレーキモジュールがブレーキ媒体によってブレーキ圧を加えられることができ、かつ、前記油圧配管に、低圧アキュームレータが、過剰なブレーキ媒体を一時的に受入れるために接続されており、
その際、前記低圧アキュームレータが、一時貯蔵されたブレーキ媒体を戻すために、リターンフロー配管、および、前記リターンフロー配管内に配設されたリターンポンプを介し前記油圧配管に結合されており、かつ、前記リターンポンプが、搬送性能の調整のために、各ブレーキサイクル中、搬送性能に対応するポンプ駆動の一期間に一度作動されるよう、周期的に制御される自動車ブレーキシステムにおいて、
前記リターンポンプに備え付けられた制御ユニットが、ブレーキサイクル中のリターンポンプのポンプ駆動の回数に関する設定値を、所定の初期値から始め、前記低圧アキュームレータ内の充填状況を考慮し適宜適合させ、および/または前記充填状況の時間微分を考慮して算出するよう構成されていることを特徴とする自動車ブレーキシステム。
【請求項2】
前記制御ユニットが、車輪回転数から、または、一以上の車輪のスリップから導出される特性値を考慮して、前記設定値を算出するよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車ブレーキシステム。
【請求項3】
前記制御ユニットが、前記ポンプによって空転時に発生する電圧を考慮して、前記設定値を算出するよう構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車ブレーキシステム。
【請求項4】
前記ブレーキサイクル中の前記ポンプ駆動の回数に関する所定の初期値が、前記制御ユニットの学習段階の結果に適合されるよう構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステム。
【請求項5】
油圧配管を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の自動車ブレーキシステムを稼動するための方法であって、
前記油圧配管を通し、ブレーキシリンダから車輪ブレーキモジュールがブレーキ媒体によってブレーキ圧を加えられることができ、かつ、低圧アキュームレータが過剰なブレーキ媒体を一時的に受入れるために前記油圧配管に接続され、
その際、前記低圧アキュームレータが、一時貯蔵されたブレーキ媒体を戻すために、リターンフロー配管、および、前記リターンフロー配管内に配設されたリターンポンプとを介し油圧配管に結合されており、かつ、前記リターンポンプが、搬送性能の調整のために、各ブレーキサイクル中、搬送性能に対応するポンプ駆動の一期間に一度作動されるよう、周期的に制御され、
前記リターンポンプに関連付けられた制御ユニットが、ブレーキサイクル中のリターンポンプのポンプ駆動の回数に関する設定値を、所定の初期値から始め、前記低圧アキュームレータ内の充填状況を考慮し、および/または前記充填状況の時間微分を考慮して、適宜適合させて算出することを特徴とする方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−542521(P2009−542521A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518884(P2009−518884)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057079
【国際公開番号】WO2008/006845
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(399023800)コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフト (162)
【Fターム(参考)】