説明

低有機物濃度排水の凝集沈殿処理方法及び装置

【課題】硝酸イオンや亜硝酸イオンを含む低有機物濃度排水や、無機凝集剤として鉄系凝集剤を用いる低有機物濃度排水の凝集沈殿処理におけるフロックの浮上や処理水の着色を防止して安定した凝集沈降効果で高水質の処理水を得る。
【解決手段】COD1000mg/L以下かつBOD200mg/L以下の低有機物濃度排水を凝集沈殿処理する方法において、該低有機物濃度排水に、亜塩素酸(塩)を200mg/L以下添加して凝集沈殿処理する。亜塩素酸(塩)を添加することにより、汚泥中の脱窒菌の活性を抑え、沈殿槽での窒素ガスの発生を抑制して汚泥の浮上、流出による処理水SSの悪化を防止することができる。また、汚泥の腐敗を抑制して鉄系凝集剤の還元による処理水の着色を防止して、清澄な処理水を安定に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COD(化学的酸素要求量)1000mg/L以下かつBOD(生物化学的酸素要求量)200mg/L以下の低有機物濃度排水を凝集沈殿処理する方法及び装置に係り、特にこの低有機物濃度排水の凝集沈殿処理における汚泥中の脱窒素菌を抑制すると共に腐敗を抑制して、安定した凝集沈降効果で良好な水質の処理水を得る方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種排水の凝集沈殿処理は、一般に排水に無機凝集剤を添加して急速攪拌することにより凝集処理した後、有機高分子凝集剤を添加して緩速攪拌し、その後沈殿槽で固液分離することにより行われている。無機凝集剤としては、鉄塩やアルミニウム塩が用いられ、無機凝集剤は排水中の懸濁物質、コロイダル成分や有機物質を凝集、凝結するために用いられる。有機高分子凝集剤は、無機凝集剤で凝結させた粒子を粗大化するための凝集補助剤として用いられる。
【0003】
しかし、このような従来の凝集沈殿処理法で、硝酸イオンや亜硝酸イオンを含む排水を処理すると、汚泥の浮上現象が発生し、沈殿槽で凝集フロックの一部または多くが浮上して処理水中に流出する。この結果、処理水の水質が悪化して処理水基準を満たさなくなる場合がある。また、後段に濾過器がある場合には、この濾過器の目詰まりが頻発するようになる。
【0004】
また、排水の種類にかかわらず、無機凝集剤として鉄系凝集剤を用いている場合には、休日の運転停止時後、休日明けの運転立ち上げ時に、処理水が着色(黄濁化)して一時的ではあるが水質が低下する。
【0005】
特許文献1には、汚泥の濃縮処理に当たり、汚泥の腐敗防止を目的として亜塩素酸又はその塩を添加することが提案されているが、低有機物濃度排水の凝集沈殿処理についての上記問題を解決するものではない。また、特許文献2には、動物し尿や焼酎廃水のような、通常の凝集処理が困難な濃厚廃水に対して、亜塩素酸ナトリウム等の酸化処理剤を高濃度に添加して臭気を低減すると共に凝集剤による凝集処理を可能とする方法が提案されているが、低有機物濃度排水における上記問題を解決するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−73720号公報
【特許文献2】特開2001−205273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、硝酸イオンや亜硝酸イオンを含む低有機物濃度排水や、無機凝集剤として鉄系凝集剤を用いる低有機物濃度排水の凝集沈殿処理における前述の問題を解決して、安定した凝集沈降効果で高水質の処理水を得る方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(請求項1)の低有機物濃度排水の凝集沈殿処理方法は、COD1000mg/L以下かつBOD200mg/L以下の低有機物濃度排水を凝集沈殿処理する方法において、該低有機物濃度排水に、亜塩素酸及び/又はその塩を有効成分量として200mg/L以下添加して凝集沈殿処理することを特徴とする。
【0009】
請求項2の低有機物濃度排水の凝集沈殿処理方法は、請求項1において、前記低有機物濃度排水が硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを5mg/L以上含むことを特徴とする。
【0010】
請求項3の低有機物濃度排水の凝集沈殿処理方法は、請求項1又は2において、前記低有機物濃度排水に鉄系無機凝集剤を添加して凝集処理することを特徴とする。
【0011】
請求項4の低有機物濃度排水の凝集沈殿処理方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記低有機物濃度排水に無機凝集剤を添加して凝集処理する第1の凝集処理工程と、該第1の凝集処理工程の処理水に有機高分子凝集剤を添加して凝集処理する第2の凝集処理工程と、該第2の凝集処理工程の処理水を沈殿処理する固液分離工程とを有し、前記亜塩素酸及び/又はその塩が、該第1の凝集処理工程及び/又は第2の凝集処理工程で添加されることを特徴とする。
【0012】
本発明(請求項5)の低有機物濃度排水の凝集沈殿処理装置は、COD1000mg/L以下かつBOD200mg/L以下の低有機物濃度排水を凝集沈殿処理する装置において、凝集沈殿処理される該低有機物濃度排水に、亜塩素酸及び/又はその塩を有効成分量として200mg/L以下添加する薬注手段を有することを特徴とする。
【0013】
請求項6の低有機物濃度排水の凝集沈殿処理装置は、請求項5において、前記低有機物濃度排水が硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを5mg/L以上含むことを特徴とする。
【0014】
請求項7の低有機物濃度排水の凝集沈殿処理装置は、請求項5又は6において、前記低有機物濃度排水に鉄系無機凝集剤を添加して凝集処理することを特徴とする。
【0015】
請求項8の低有機物濃度排水の凝集沈殿処理装置は、請求項5ないし7のいずれか1項において、前記低有機物濃度排水に無機凝集剤を添加して凝集処理する第1の凝集処理槽と、該第1の凝集処理槽の流出液に有機高分子凝集剤を添加して凝集処理する第2の凝集処理槽と、該第2の凝集処理槽の流出液を沈殿処理する沈殿槽とを有し、前記薬注手段が、該第1の凝集処理槽及び/又は第2の凝集処理槽に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低有機物濃度排水の凝集沈殿処理に当たり、排水に亜塩素酸及び/又はその塩(以下「亜塩素酸(塩)」と称す場合がある。)を添加することにより、沈殿槽における汚泥の浮上及び流出を防止して、高水質の処理水を安定に得ることが可能となる。
【0017】
即ち、従来法により硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを含む排水を凝集沈殿処理する際に起こる汚泥の浮上、流出は、沈殿槽内で沈殿汚泥が堆積して嫌気状態になり腐敗現象が生じると、排水中に硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンが含まれているために脱窒菌による脱窒反応が生じ、この結果、窒素ガスが発生し、発生した窒素ガスが凝集フロックや沈殿汚泥に付着して浮上することによる。
【0018】
本発明によれば、排水に亜塩素酸(塩)を添加することにより、汚泥中の脱窒菌の活性を抑え、沈殿槽での窒素ガスの発生を抑制して汚泥の浮上を防止することができる。このため、浮上汚泥の流出による処理水SSの悪化を防止することができる。
【0019】
また、鉄系凝集剤を用いる場合の処理水の着色も、亜塩素酸(塩)の添加で有効に防止される。即ち、この鉄系凝集剤を用いる場合の処理水の着色は、休日などで沈殿槽内で長時間沈殿汚泥が堆積すると、堆積汚泥の腐敗で嫌気・還元状態となる結果、鉄系凝集剤の3価の鉄が2価に還元され、一部の鉄が溶出して処理水が黄濁化する現象によるものである。
【0020】
本発明によれば、亜塩素酸(塩)の添加で沈殿槽内の汚泥の腐敗を抑制して鉄系凝集剤の還元による処理水の着色を防止して、清澄な処理水を安定に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の低有機物濃度排水の凝集沈殿処理方法及び装置の実施の形態を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に図面を参照して本発明の低有機物濃度排水の凝集沈殿処理方法及び装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明の低有機物濃度排水の凝集沈殿処理方法及び装置の実施の形態を示す系統図である。
【0024】
図1の実施形態では、低有機物濃度排水(以下「原水」と称す場合がある。)を第1凝集反応槽1に導入して無機凝集剤を添加して急速攪拌することにより凝集処理し、第1凝集反応槽1の流出水に第2凝集反応槽2で有機高分子凝集剤を添加して緩速攪拌することにより凝集フロックを粗大化させ、第2凝集反応槽2の流出水を凝集沈殿槽3で沈降分離し、上澄水を処理水として取り出す。
【0025】
<原水>
本発明において処理対象とする原水は、COD1000mg/L以下かつBOD200mg/L以下の低有機物濃度排水である。
【0026】
即ち、本発明は、従来、亜塩素酸(塩)の適用が全く検討されていなかった、このような低有機物濃度排水を処理対象排水とすることを特徴とする。
【0027】
原水のCOD,BODの下限については特に制限はないが、通常、本発明で処理対象とする排水は、COD100〜1000mg/L、BOD20〜200mg/L程度の自動車部品工場の塗装排水、電着排水、メッキ排水等である。
【0028】
なお、本発明は特に、硝酸イオンや亜硝酸イオンを5mg/L以上、例えば5〜200mg/L程度含む排水において、前述の脱窒菌の抑制効果で汚泥の浮上を防止するという効果において有効である。
【0029】
ただし、本発明の処理対象原水は、何ら硝酸イオンや亜硝酸イオンを含むものに限定されるものではない。
【0030】
<亜塩素酸(塩)>
原水に添加する亜塩素酸(塩)としては、亜塩素酸、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸のアルカリ金属塩等の亜塩素酸塩を用いることができる。これらの亜塩素酸(塩)は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0031】
原水への亜塩素酸(塩)の添加量は、原水の水質や用いる凝集剤の種類や凝集沈殿方式等によっても異なるが、原水に対して200mg/L以下であり、好ましくは20〜180mg/L、特に50〜150mg/Lである。
【0032】
即ち、本発明は前述のような低有機物濃度排水を処理対象とし、その目的は、沈殿槽における脱窒菌の抑制や汚泥の腐敗に起因する鉄系凝集剤の還元防止であるため、亜塩素酸(塩)の添加量は200mg/L以下で足り、亜塩素酸(塩)を必要以上に添加することは、残留亜塩素酸(塩)の処理のための還元剤を多量に必要として好ましくない。ただし、亜塩素酸(塩)の添加量が少な過ぎると、亜塩素酸(塩)を添加することによる本発明の効果を十分に得ることができないため、上記添加量の範囲とすることが好ましい。
【0033】
亜塩素酸(塩)の添加箇所は、原水の水質や凝集沈殿処理方式によっても異なるが、沈殿処理される前の原水に亜塩素酸(塩)が添加されることが好ましく、亜塩素酸(塩)の添加箇所としては、例えば、図1において、第1凝集反応槽1に導入される原水(添加箇所A)、第1凝集反応槽1内(添加箇所B)、第1凝集反応槽1の流出水(添加箇所C)、第2凝集反応槽2(添加箇所D)、第2凝集反応槽2の流出水(添加箇所E)が挙げられる。
【0034】
なお、亜塩素酸(塩)は2以上の複数箇所で添加しても良い。2以上の複数箇所で亜塩素酸(塩)を添加する場合は、合計の添加量が前述の亜塩素酸(塩)の添加量となるようにする。
【0035】
これらのうち、亜塩素酸(塩)は、特に第1凝集反応槽1に添加することが反応時間の確保により、亜塩素酸(塩)の添加効果を有効に得ることができ、好ましい。
【0036】
なお、亜塩素酸(塩)を第1凝集反応槽1に添加した場合、第1凝集反応槽1の流出液の残留塩素濃度は5〜50mg/L程度、第2凝集反応槽2の流出液の残留塩素濃度は2〜20mg/L程度、凝集沈殿槽3の流出液(凝集沈殿槽3の上澄水)の残留塩素濃度は1〜10mg/L程度となるように亜塩素酸(塩)添加量を調整することが、亜塩素酸(塩)の添加効果を有効に得る上で好ましい。
【0037】
<無機凝集剤>
第1凝集反応槽1に添加する無機凝集剤としては、特に制限はなく、従来、排水の凝集沈殿処理に用いられている無機凝集剤をいずれも用いることができる。
【0038】
具体的には、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄等の鉄系凝集剤、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等のアルミニウム系凝集剤等が挙げられる。
【0039】
これらの無機凝集剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0040】
本発明では、特に前述の鉄系凝集剤を用いた場合の着色の問題を解決し得ることから、無機凝集剤として鉄系凝集剤を用いる場合に、本発明の効果が有効に発揮されるが、何ら鉄系凝集剤に限定されるものではない。
【0041】
これらの無機凝集剤の添加量は、無機凝集剤の種類や原水の性状により異なり、一概には言えないが、通常原水に対して50〜500mg/L程度である。
【0042】
なお、無機凝集剤を添加する凝集処理においては、当該無機凝集剤に好適なpH条件に調整することが好ましい。その場合、pH調整のために水酸化ナトリウム等のアルカリや塩酸等の酸を用いることができる。
【0043】
このような無機凝集剤による凝集処理においては、凝集反応槽を70〜200rpm程度に急速攪拌することが好ましい。
【0044】
<有機高分子凝集剤>
無機凝集剤による凝集処理で形成された凝集フロックの粗大化に用いる有機高分子凝集剤としては、特に限定はなく、排水の凝集処理で通常使用される有機高分子凝集剤であれば採用可能である。例えば、アニオン系であれば、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリルアミドの共重合物、及びそれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。ノニオン系であれば、ポリ(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。カチオン系であれば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートもしくはその4級アンモニウム塩やジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドもしくはその4級アンモニウム塩等のカチオン性モノマーからなるホモポリマー、あるいはそれらカチオン性モノマーと共重合可能なノニオン性モノマーとの共重合体等が挙げられる。これらの有機高分子凝集剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0045】
有機高分子凝集剤の添加量は、有機高分子凝集剤の種類や原水の性状に応じて適宜決定されるが、通常、原水に対して0.5〜5mg/L程度である。
【0046】
このような有機高分子凝集剤による凝集処理においては、凝集反応槽を30〜100rpm程度に緩速攪拌することが好ましい。
【0047】
<凝集沈殿処理>
図1において、第1凝集反応槽1で無機凝集剤による凝集処理がなされ、更に第2凝集反応槽2で有機高分子凝集剤による凝集処理がなされた凝集処理液を固液分離する凝集沈殿槽3としては特に制限はなく、円形のものや横流式のもの等任意のものを用いることができる。
【0048】
凝集沈殿槽3で得られた上澄水は処理水として取り出され、必要に応じて残留する亜塩素酸(塩)の還元処理及び/又はpH調整がなされた後、更なる高度処理に供されて回収、再利用されるか、放流される。
【0049】
ここで、残留亜塩素酸(塩)の還元に用いられる還元剤としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等を用いることができる。
【0050】
なお、図1は本発明の実施の形態の一例を示すものであって、本発明はその要旨を超えない限り、何ら図示のものに限定されるものではない。
【0051】
例えば、凝集反応槽は1槽のみとし、有機高分子凝集剤を凝集反応槽から凝集沈殿槽に凝集処理液を移送する配管に添加するようにしても良い。また、第1凝集反応槽の入口側で無機凝集剤を添加して、第1凝集反応槽においてはpH調整剤を添加し、第1凝集反応槽をpH調整槽として機能させることもできる。また、無機凝集剤と有機高分子凝集剤との併用に限らず、無機凝集剤又は有機高分子凝集剤のみを用いても良いが、凝集処理効果の面では、両者を併用することが好ましい。
【0052】
本発明においては、このような処理において、亜塩素酸(塩)の添加で凝集沈殿槽における汚泥の浮上や処理水の着色を防止して、例えば、SS20mg/L以下、COD500mg/L以下、BOD100mg/L以下の処理水を得ることが好ましい。
【実施例】
【0053】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0054】
[実施例1]
下記水質の自動車部品工場の塗装排水(硝酸ニッケル含有)を原水として図1に示す凝集沈殿処理装置により凝集沈殿処理を行った。
【0055】
<原水水質>
pH:4.0
SS:30mg/L
COD:880mg/L
BOD:150mg/L
硝酸イオン:100mg/L
亜硝酸イオン:20mg/L
Niイオン:50mg/L
【0056】
第1凝集反応槽1では、鉄系無機凝集剤として塩化第二鉄の38重量%水溶液を300mg/L添加した原水に、pH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpH11に調整して100rpmで急速攪拌した。第2凝集反応槽2では、第1凝集反応槽1の流出液にアニオン系有機高分子凝集剤としてクリフロックPA331(栗田工業(株)製)を2mg/L添加して60rpmで緩速攪拌した。第2凝集反応槽2の流出液は凝集沈殿槽3で凝集沈殿処理した。このような凝集沈殿処理において、亜塩素酸ナトリウム(25重量%水溶液)を、第1凝集反応槽1に亜塩素酸ナトリウム添加量として125mg/L添加した。このとき、第1凝集反応槽1の流出液中の亜塩素酸ナトリウム濃度は20mg/L、第2凝集反応槽2の流出液中の亜塩素酸ナトリウム濃度は15mg/L、凝集沈殿槽3の流出液の亜塩素酸ナトリウム濃度は8mg/Lであった。
【0057】
凝集沈殿槽3の上澄水は、塩酸を添加してpH7に中和すると共に、還元剤として亜硫酸ナトリウムを添加して残留亜塩素酸ナトリウムを分解して系外へ排出した。得られた処理水のCODは300〜400mg/L、BODは120〜150mg/L、SSは20mg/L以下であった。
【0058】
この凝集沈殿処理において、凝集沈殿槽3内に排水(第2凝集反応槽2の流出液)が流入してから凝集フロックの浮上が観察されるまでの時間(フロック浮上時間)を調べ、また、凝集フロックの外観を観察し、結果を表1に示した。
【0059】
[比較例1]
実施例1において、亜塩素酸ナトリウムを添加しないこと以外は同様にして凝集沈殿処理を行い、フロックの浮上時間とフロックの外観の観察結果を表1に示した。この比較例では、処理開始時の処理水のSSは20mg/L程度であったが、処理水SSは経時により上昇し、最終的に100mg/L以上となった。
【0060】
[比較例2]
実施例1において、亜塩素酸ナトリウムの代りに次亜塩素酸ナトリウム(12重量%水溶液)を次亜塩素酸ナトリウム添加量として240mg/L添加したこと以外は同様にして凝集沈殿処理を行い、フロックの浮上時間とフロックの外観の観察結果を表1に示した。この比較例でも、処理開始時の処理水SSは20mg/L程度であったが、処理水SSは経時により上昇し、最終的に100mg/L以上となった。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示すように、無薬注の比較例1では、排水流入後2時間でフロックが浮上して処理水へのSSリークが激しくなり、処理水のSSは100mg/L以上となった。
【0063】
次亜塩素酸ナトリウムを添加した比較例2でもこの現象を十分に改善することはできなかったが、亜塩素酸ナトリウムを添加した実施例1では、10時間の実験期間中フロックの浮上は全く見られず、処理水のSSは安定して20mg/L以下を維持した。
【0064】
[実施例2]
下記水質の自動車部品工場の塗装排水と電着排水の混合排水(リン酸ニッケル含有)を原水として図1に示す凝集沈殿処理装置により凝集沈殿処理を行った。
【0065】
<原水水質>
pH:6.5
SS:250mg/L
COD:150mg/L
BOD:80mg/L
T−P:20mg/L
【0066】
第1凝集反応槽1では、鉄系無機凝集剤としてポリ硫酸第二鉄を3500mg/L添加すると共に、pH調整剤として水酸化ナトリウムを添加してpH7に調整して150rpmで急速攪拌した。第2凝集反応槽2では、第凝集反応槽1の流出液にアニオン系有機高分子凝集剤としてクリフロックPA331(栗田工業(株)製)を2mg/L添加して60rpmで緩速攪拌した。第2凝集反応槽2の流出液は凝集沈殿槽3で凝集沈殿処理した。このような凝集沈殿処理において、亜塩素酸ナトリウム(25重量%水溶液)を、第1凝集反応槽1に亜塩素酸ナトリウム添加量として50mg/L添加した。このとき、第1凝集反応槽1の流出液中の亜塩素酸ナトリウム濃度は10mg/L、第2凝集反応槽2の流出液中の亜塩素酸ナトリウム濃度は5mg/L、凝集沈殿槽3の流出液の亜塩素酸ナトリウム濃度は2mg/Lであった。
【0067】
凝集沈殿槽3の上澄水は、還元剤として亜硫酸ナトリウムを添加して残留亜塩素酸ナトリウムを分解して系外へ排出した。
【0068】
この凝集沈殿処理において、処理開始直後の処理水(凝集沈殿槽の上澄水)の濁度と、一旦処理を停止し、48時間静置した後、処理を再開したときの処理水の濁度と外観を調べ、結果を表2に示した。
【0069】
この実施例では、処理開始時においても、処理停止後の処理再開時においても、得られた処理水のCODは50〜60mg/L、BODは40〜60mg/L、SSは20mg/L以下であった。
【0070】
[比較例3]
実施例2において、亜塩素酸ナトリウムを添加しないこと以外は同様にして凝集沈殿処理を行い、処理水の濁度と外観の観察結果を表2に示した。
【0071】
[比較例4]
実施例2において、亜塩素酸ナトリウムの代りに次亜塩素酸ナトリウム(12重量%水溶液)を次亜塩素酸ナトリウム添加量として60mg/L添加したこと以外は同様にして凝集沈殿処理を行い、処理水の濁度と外観の観察結果を表2に示した。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示すように、無薬注の比較例2では静置後の処理水の水質が悪化した。次亜塩素酸ナトリウムを添加した比較例4でもこの現象を十分に改善することはできなかったが、亜塩素酸ナトリウムを添加した実施例2では、処理水の清澄性が維持された。
【符号の説明】
【0074】
1 第1凝集反応槽
2 第2凝集反応槽
3 凝集沈殿槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
COD1000mg/L以下かつBOD200mg/L以下の低有機物濃度排水を凝集沈殿処理する方法において、該低有機物濃度排水に、亜塩素酸及び/又はその塩を有効成分量として200mg/L以下添加して凝集沈殿処理することを特徴とする低有機物濃度排水の凝集沈殿処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記低有機物濃度排水が硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを5mg/L以上含むことを特徴とする低有機物濃度排水の凝集沈殿処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記低有機物濃度排水に鉄系無機凝集剤を添加して凝集処理することを特徴とする低有機物濃度排水の凝集沈殿処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記低有機物濃度排水に無機凝集剤を添加して凝集処理する第1の凝集処理工程と、該第1の凝集処理工程の処理水に有機高分子凝集剤を添加して凝集処理する第2の凝集処理工程と、該第2の凝集処理工程の処理水を沈殿処理する固液分離工程とを有し、
前記亜塩素酸及び/又はその塩が、該第1の凝集処理工程及び/又は第2の凝集処理工程で添加されることを特徴とする低有機物濃度排水の凝集沈殿処理方法。
【請求項5】
COD1000mg/L以下かつBOD200mg/L以下の低有機物濃度排水を凝集沈殿処理する装置において、凝集沈殿処理される該低有機物濃度排水に、亜塩素酸及び/又はその塩を有効成分量として200mg/L以下添加する薬注手段を有することを特徴とする低有機物濃度排水の凝集沈殿処理装置。
【請求項6】
請求項5において、前記低有機物濃度排水が硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンを5mg/L以上含むことを特徴とする低有機物濃度排水の凝集沈殿処理装置。
【請求項7】
請求項5又は6において、前記低有機物濃度排水に鉄系無機凝集剤を添加して凝集処理することを特徴とする低有機物濃度排水の凝集沈殿処理装置。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項において、前記低有機物濃度排水に無機凝集剤を添加して凝集処理する第1の凝集処理槽と、該第1の凝集処理槽の流出液に有機高分子凝集剤を添加して凝集処理する第2の凝集処理槽と、該第2の凝集処理槽の流出液を沈殿処理する沈殿槽とを有し、
前記薬注手段が、該第1の凝集処理槽及び/又は第2の凝集処理槽に設けられていることを特徴とする低有機物濃度排水の凝集沈殿処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−162493(P2010−162493A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7656(P2009−7656)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】