説明

低温タンク及びその構築方法

【課題】 液化ガスの低温液体を貯蔵する低温タンクの施工において、コンクリート硬化時のコンクリート温度の上昇を、既存の設備、構造を用いて実現する。
【解決手段】 液化ガスの低温液体を貯蔵する低温タンク1の底版コンクリート5に、低温液体による周辺地盤の凍結防止用流体を通水させる循環冷媒管10を、底版コンクリート5の厚さ方向の中央部付近に埋設する。コンクリート打設時から循環冷媒管10内にコンクリート硬化熱冷却用流体を通水させる。これにより、底版コンクリート5の硬化熱発生時に、底版コンクリート5に発生する温度応力を低減させ、温度ひび割れの発生を防止する。完成後のタンク供用時には、循環冷媒管10内に凍結防止用流体を通水して周辺地盤の凍結を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低温タンク及びその構築方法に係り、特に液化ガスの低温液体を貯蔵する際に、周辺地盤の凍結を防止するために設置される循環冷媒管を、コンクリート硬化時のコンクリート温度の上昇防止のためのコンクリート冷却管として使用するようにした低温タンクと、その構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)などの低温の液化ガス(低温液体)を貯蔵する貯槽は、大規模となるため、主に地下タンク構造として構築される場合が多い。その場合、地下低温タンク周辺の地盤が凍結しないように、低温タンクの底版底部や側部にヒーター設備が設けられている。このうち、底部のヒーター設備は、底版コンクリ一トの下部にヒーター管を配管し、その配管内に所定温度のブライン液を循環することによって保温する形式が多い。
【0003】
この種の地下低温タンク構築において、タンク底版の下部または上部にヒーター管を配した技術として、出願人は、特許文献1,特許文献2を提案している。
特許文献1には、従来、低温液体貯蔵時におけるタンク底版に生じる凍結領域Spを考慮し、その凍結領域を避けた底版の下面側領域にヒーター18(8)を配管することで対応する発明が開示されている。
【0004】
一方、特許文献2では、タンク底版の上面側近くにヒーターを配管し、ヒーター内に加熱媒体を循環させて、底版の上面温度を凍結温度近くに保持させることで、底版に過大な温度応力が発生しないようにしている。
【特許文献1】特開平10−292301号公報参照。
【特許文献2】特開平11−182797号公報参照。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,特許文献2に開示されている低温タンクでは、上述したように、タンク内に低温液体を貯蔵する際の周辺地盤の凍結防止策としてのコンクリートの保温設備が開示されている。これらの設備は、低温タンクの供用時の維持設備であり、タンクの底版コンクリート等の硬化時における温度ひびわれの発生等の対策を意図しているものではない。従来、上述した低温タンクの底版厚は、低温液体貯留時の温度応力に対する構造設計上、そのタンク規模に応じて4〜10mにもなるため、マスコンクリートとして施工されている。一般にマスコンクリートの施工では、コンクリートの水和熱によるひび割れを防止するために、中庸熱セメントや低熱ポルトランドセメント等の低発熱性セメントを利用し、硬化時の温度上昇をおさえたり、打設後底版上面に保温マット等で覆い、底版の内外面温度差を小さくしたりして、硬化時の温度ひび割れを抑制している。また、マスコンクリートの水和熱を抑える付加的な仮設設備として、打設部位のコンクリート内にクーリングパイプを配管し、硬化過程のコンクリート内部からコンクリート温度を低下させる対策もとられている。しかし、LNG地下タンクのような大規模タンクでは、クーリングパイプの配管の総延長が大きくなり、仮設工事コストが高額になるため、底版コンクリートの打設のためには適用されていなかった。そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、タンク構築時においては、底版コンクリートの硬化時の温度抑制を行え、低温タンクとして低温液体を貯留する場合には、周辺地盤の凍結防止を図ることができるようにした低温タンク及びその構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は液化ガスの低温液体を貯蔵する低温タンクであって、該タンクの底版コンクリートの厚さ方向の中央部付近に配管された循環冷媒管に、底版コンクリートの硬化熱発生時にコンクリート冷却用流体を通水し、タンク完成後は、前記低温タンクに貯蔵された前記低温液体による周辺地盤の凍結防止用流体を通水させるようにしたことを特徴とする。
【0007】
低温タンクの第1の構築方法として、液化ガスの低温液体を貯蔵する低温タンクの底版コンクリートに、前記低温液体による周辺地盤の凍結防止用流体を通水させる循環冷媒管を、底版コンクリートの厚さ方向の中央部付近に埋設し、該循環冷媒管内にコンクリート硬化熱冷却用流体を通水させ、底版コンクリート硬化熱発生時に、該底版コンクリートに発生する温度応力を低減するようにしたことを特徴とする。
【0008】
また、第2の構築方法として、前記第1の構築方法において、前記循環冷媒管内を通水された前記底版コンクリート冷却後の高温化した冷却用流体を、既設低温タンクの液化ガス気化設備から得られる低温排水で熱交換冷却し、再度前記循環冷媒管に戻して循環させ、コンクリート冷却を行うようにしたことを特徴とする低温タンクの構築方法。
【0009】
前記第2の構築方法において、前記低温排水を貯水した容器内に、前記冷却用流体が通水される冷媒管の熱交換用のコイル部を設け、該コイル部を通過する際に前記冷却用流体が温度平衡状態まで冷却されるようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
以上に述べたように、本発明によれば、低温タンクの供用時に貯蔵された前記低温液体による周辺地盤の凍結防止用流体を通水させる循環冷媒管を、コンクリート硬化時のコンクリート冷却に適用することにより、付加的な冷却設備を最小限にして底版コンクリートの冷却を効率よく行うことができ、これにより底版コンクリートに使用するセメント種類を低廉なものとすることができ、施工コストを削減しつつ、底版コンクリートの品質の確保を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の低温タンクの構築方法の実施するための最良の形態として、以下の実施例について添付図面を参照して説明する。
【実施例】
【0012】
本実施例による低温タンクの構造について、図1の横断面図と、図2の循環冷媒管の概略配管レイアウト図を参照して説明する。図1に示した低温タンク1は、タンク直径(内径)が74m、鋼製の円形屋根2で覆われた液体貯槽部3の深さが47mの円筒形状地下タンクである。この低温タンク1は、土留め壁として機能する地中連続壁4に囲まれた範囲を掘削した地下空間7に底版厚8mの底版コンクリート5が打設され、壁体の下端部が底版コンクリート5と構造上一体となる側壁コンクリート6とでタンク構造のコンクリート躯体が構成されている。構造部材であるコンクリート躯体の内面側には、さらに液化ガスの貯蔵のために、図示しない内装部材として、保冷機能を持つ保冷材(硬質ウレタンフォーム)と、その内側表面(液接触面)に液密・気密材としてのステンレス鋼板製メンブレンとが内張りされている。これらの構成により、極低温となる液化ガス(低温液体)の貯蔵時のコンクリート躯体、周辺地盤の温度低下の防止を図っている。
さらに底版コンクリート5内には、その底版厚さ方向のほぼ中央の高さにブライン液等の冷媒を循環させる流体管路13が配管されている。この流体管路13は、本実施例では図2に模式的に示したように、平面渦巻き状になっている。配管形状としてはこの他に半円状配管、平行配管の端部に折り返し部を設けた配管形状等が可能である。
【0013】
[底版コンクリート硬化時のコンクリート冷却]
図3(a)は、低温タンク1の地下空間7の掘削が完了し、その底版位置に所定版厚の底版コンクリート5を打設完了した時点を示した断面図である。図3(b)は、図3(a)に示した底版コンクリート5内の循環冷媒管10を示した部分拡大図である。同図に断面で示された各循環冷媒管10は、図2に示したような平面配管形状をなして底版コンクリート内に埋設され、その管内を冷却水が循環されるようになっている。コンクリート内を循環する循環冷媒管10内には、コンクリート硬化時の発熱抑制のために、水温20℃程度の冷却水を、地上に設置した冷却器(図示せず)を併設した循環ポンプ25等によって縦配管26,27を介して循環させることが好ましい。冷却後に温度上昇した管路内の戻り水はクーリングタワー等の冷却器や、海水等との熱交換機で冷却し、再び冷却水として循環させるか、そのまま海洋に排水する。海洋に排水する場合は、海洋排水として適正な水温まで冷却し、臨海部に設けられた図示しない排水口から海洋に排水することが好ましい。
【0014】
図3(c)は、底版コンクリート5の打設を打設している状態を示したタンク施工状態における断面図である。この場合、コンクリートはマスコンクリートとして地上に設置されたコンクリートポンプ20から縦シュート21を介して底版位置まで圧送され、底版位置に設置されたディストリビュータ22を用いて均一な層状に打設されるが、循環冷媒管10は、図3(c)に示したように、その配管レベルより上部位置を打設する際にも、コンクリート内部に冷却水を通水し、打設された下層コンクリートの硬化熱を上方から有効に冷却できる。このように、循環冷媒管10を底版コンクリート5の厚さ方向の中央部付近に配管することにより、底版コンクリート5の配管の下部および上部位置でのコンクリート打設において、ともに有効にコンクリート硬化熱の除去を行うことができ、硬化時における温度応力の発生を大幅に抑えることができる。これにより、マスコンクリートとして使用するセメント種類として、安価な普通ポルトランドセメントや高炉セメントを用いることができる。
【0015】
[タンク供用時の底版コンクリートの温度低下防止の構成]
上述のように、循環冷媒管10を用いることにより、底版コンクリート5の打設時から硬化時にかけて発生するコンクリートの硬化熱による温度応力の低減を図ることができる。さらに、タンク供用時に低温液体を貯蔵する場合には、循環冷媒管10内に水温(液温)20℃程度の冷媒を通水することで、貯蔵された低温液体による、底版コンクリート5における冷熱の影響範囲を、底版上面から循環冷媒管10より上側にとどめることができる。これにより、底版コンクリート5の上面と底面との温度差をより小さくすることができ、タンク供用時(低温液体貯蔵時)における底版コンクリート5に生じる温度応力を十分小さくすることができる。なお、冷媒としては水、エチレングリコール水溶液等を用いることができる。
【0016】
[コンクリート打設時における冷却配管の他の実施例]
図4は、循環冷媒管10を用いて、底版コンクリート5打設時におけるコンクリートの冷却を行う際に上述した循環冷媒管10に、補助冷却管16,17を付加して組み合わせたコンクリート冷却構造を有する底版コンクリート5の断面図である。図4(a)に示したように、本実施例では、全高が8m程度ある底版コンクリート5の厚さ方向の中央部付近に循環冷媒管10を配管し、上層、下層コンクリート内のそれぞれの中間高さ位置に補助冷却管16,17を埋設する。これらの補助冷却管16,17は、あらかじめ、温度解析により対象となる底版コンクリート5の硬化時の温度上昇量を把握しておき、その温度上昇を適正な範囲に抑える冷却効果が得られるような熱量が供給できるように配管設計とすることが好ましい。また、配管に送られる冷水の温度、流量もあらかじめ底版コンクリートの温度解析により、設定することが可能である。なお、これら補助冷却管16,17は、コンクリート硬化時のコンクリート温度上昇の抑制を目的として設置されるが、タンク供用後において、底版コンクリート5の凍結範囲の制御のために、ブライン液等の冷媒を循環させることをも可能とするものである。また、底版コンクリート厚さによっては、図4(b)に示したように、補助冷却管17のみをコンクリート表面と循環冷媒管10との間に設けることでコンクリート硬化時の温度応力を抑制することも可能である。
【0017】
[コンクリート冷却水の冷却設備]
コンクリート打設時にコンクリートを冷却するための冷却水等の冷媒用流体は、底版コンクリート5内の循環冷媒管10あるいは補助冷却管を通過してコンクリート内の配管を通過した直後には、水温が約60℃程度まで上昇することが知られている。そこで、この高温になった冷却水を冷却して排水するか、循環利用することが必要となってくる。本発明では、通常の冷却ポンプに加え、既設の低温タンク1の低温液体(液化ガス)を常温ガスに気化させる気化設備(ORV(オープンラックベーパライザ),(図示せず))に熱源として用いられている循環海水(低温排水)を利用して循環冷媒管10内の冷却水温度を15℃程度まで低下させることができる。この場合には、従来、設備されていた複数段の冷却水槽を設けたり、クーリングタワー等の冷却設備を設ける必要がなくなる。
【0018】
図5は、このORVを用いた、循環冷媒管10内の冷却水の熱交換冷却システムを模式的に示した構成図である。低温タンク1の底版コンクリート5打設時において、地上のタンク縁部にはプール状の仮設冷却タンク30が設けられている。この仮設冷却タンク30内には、循環冷媒管10を巡って液温が高められた高温冷却水流出管27と、熱交換により冷却された低温の冷却水を底版コンクリート5内に供給す冷却水供給管26との境界部に位置する熱交換用コイル部28が設けられている。仮設冷却タンク30の近くには、ORV(図示せず)から排出された低温排水が流れる排水溝32が臨海排水口(図示せず)まで延設されている。この低温排水はORVで熱交換された結果、約15℃程度まで冷却されている。この低温排水を仮設冷却タンク30内にポンプ33で汲み上げ、仮設冷却タンク30内に貯水する。このとき、循環冷媒管10の高温冷却水流出管27からはコンクリートの冷却後、水温が約60℃程度まで上昇した冷却水(高温水)が熱交換用コイル部28に送られている。一方、冷却タンク内温度は15℃の低温排水で満たされているため、高温の冷却水が熱交換用コイル部28を通過すると、水温は約20℃程度まで低下し、タンク30内の貯留水も20℃程度に上昇し、温度平衡状態となる。そして、このタンク内貯留水をポンプ34で臨海排水口から沿岸に排水させる。一方、循環冷媒管10内で20℃に温度低下した冷却水(低温水)は、冷却水供給管26を通じて再び底版コンクリート5内の配管内に冷却に使われる。このように、ORVの低温排水と底版コンクリート5内を循環してコンクリートを冷却して暖められた高温水とを、仮設冷却タンク30内で熱交換することで、新たなエネルギーを使用せずに、低温の冷却水(低温水)を循環利用することができる。また、既設の低温タンク1のORVの運転中に排出された低温排水も、新たなエネルギーを使用せずに、採水時の温度近くに高めて海洋に排水したり、循環使用することができる。なお、上述した実施例において示した水温は打設コンクリートの条件により種々異なる。また平衡状態温度も排水規制条件等で適宜設定することができる。これらの実情に即した解析条件をもとにあらかじめ温度解析を行い、その結果を踏まえて循環冷媒管の設計、配管設計、冷媒の水温管理等を適正に行うことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】低温タンクの底版コンクリートに設けられた循環冷媒管の例を示した低温タンクの全体断面図。
【図2】底版部に配管された循環冷媒管の配管レイアウトを模式的に示した平面図。
【図3】低温タンクの底版コンクリート打設状態および配管例を示した説明図。
【図4】底版コンクリートにおける循環冷媒管及び補助冷却管の配管例を示した部分断面図。
【図5】底版コンクリートに配管された循環冷媒管の地上における熱交換工程を模式的に示した設備構成図。
【符号の説明】
【0020】
1 低温タンク
3 液体貯蔵部
5 底版コンクリート
6 側壁コンクリート
10 循環冷媒管
16,17 補助冷却管
28 熱交換用コイル部
30 仮設冷却タンク
32 低温排水排水溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスの低温液体を貯蔵する低温タンクであって、該タンクの底版コンクリートの厚さ方向の中央部付近に配管された循環冷媒管に、底版コンクリートの硬化熱発生時にコンクリート冷却用流体を通水し、タンク完成後は、前記低温タンクに貯蔵された前記低温液体による周辺地盤の凍結防止用流体を通水させるようにしたことを特徴とする低温タンク。
【請求項2】
液化ガスの低温液体を貯蔵する低温タンクの底版コンクリートに、前記低温液体による周辺地盤の凍結防止用流体を通水させる循環冷媒管を、底版コンクリートの厚さ方向の中央部付近に埋設し、該循環冷媒管内にコンクリート硬化熱冷却用流体を通水させ、底版コンクリート硬化熱発生時に、該底版コンクリートに発生する温度応力を低減するようにしたことを特徴とする低温タンクの構築方法。
【請求項3】
請求項2に記載された低温タンクの構築方法において、前記循環冷媒管内を通水された前記底版コンクリート冷却後の高温化した冷却用流体を、既設低温タンクの液化ガス気化設備から得られる低温排水で熱交換冷却し、再度前記循環冷媒管に戻して循環させ、コンクリート冷却を行うようにしたことを特徴とする低温タンクの構築方法。
【請求項4】
前記低温排水を貯水した容器内に、前記冷却用流体が通水される冷媒管の熱交換用のコイル部を設け、該コイル部を通過する際に前記冷却用流体が温度平衡状態まで冷却されるようにしたことを特徴とする請求項3に記載の低温タンクの構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−150409(P2009−150409A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326133(P2007−326133)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】