説明

低温充填ゼリー組成物とその製造方法

【課題】熱安定性や酸安定性の低い薬効成分を含有し、低温充填可能なゼリー組成物および該組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】ゲル化剤としてアルギン酸ナトリウム0.5〜3.0重量%、クエン酸カルシウム0.1〜1.5重量%含有し、液性がpH5.5〜7.0である低温充填ゼリー組成物。該組成物に、薬効成分、糖または糖アルコール、防腐剤、グリセリンが添加されていてもよい。該組成物は、アルギン酸又はアルギン酸ナトリウムの水溶液をpH5.5〜7.0に調整し、低温下で、アルカリ土類金属塩(特に、クエン酸カルシウム)の微細粉末を添加攪拌し、アルカリ土類金属塩の均一分散溶液を容器に充填し、容器中でゲル化させて製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬品製剤として、薬効成分と、アルギン酸ナトリウムと、アルカリ土類金属塩と、水とを用いることを特徴とする、経口用低温充填ゼリー組成物とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、優れた服用性を有する製剤として応用が盛んになされているゲル製剤がある。しかし、特許文献1にも示されるように、薬効成分とゲル化剤を加えて、60〜80℃あるいは80〜90℃に加熱溶解するなどし溶解して、その高温下で液状の調整液を所望の容器に充填し冷却しゲル化させパッケージングせねばならない。すなわち、ゲル製剤の充填に加熱溶解過程は不可避であり、そのため、熱的に不安定な薬効成分を用いてゲル製剤を作製することは難しいと考えられていた。
【0003】
しかし、ゲル製剤は、使用するゲル化剤によって、以下のように熱可逆性ゲルと、熱不可逆性ゲルの2つに大別され、最近では、熱不可逆性ゲルのアルギン酸塩を使用して、低温でのゲル化が検討されている。
(1)熱可逆性ゲル(ゲル化剤):カラギーナン、ファーセレラン、カードラン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ゼラチン、寒天、でんぷん等
(2)熱不可逆性ゲル(ゲル化剤/金属イオン):低メトキシ化ペクチン(LMペクチン)、ジェランガム、アルギン酸、アルギン酸塩、グルコマンナン等
熱不可逆性ゲルは通常ゲル化剤を金属イオンにより架橋してゲル化する原理であり、金属イオンの溶出速度をコントロールして液状で充填し、充填後に金属イオンが溶出しゲル化する方法である。すなわち、熱可塑性ゲルのように高温状態で液化したものを充填する必要はなく、むしろ 逆に金属イオンの溶出を押さえるためにも低温で充填する必要がある。
例えば、特許文献2では、アルギン酸、ジェランガム等の増粘多糖類を温水に溶解し、必要に応じて甘味料、色素等を添加した後、微細に粉砕した炭酸カルシウム等のカチオン素材を添加し、均一に分散させた分散溶液を作製している。そして、次に、分散溶液の液性を酸性側に下げることのできるジュース等を添加して、所望のゼリー食品を常温で製造することができると報告している。
【0004】
そのために使用されるカチオン素材として、中性ないしアルカリ性の溶液では不溶性であり、酸性の溶液では徐々に溶出しイオン化して、カチオンを放出する物質が望ましく、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウムカルシウム(ドロマイト)、クエン酸カルシウムが挙げられている。
そして、上記のように、カチオン素材が分散した分散溶液とジュース等の酸性溶液を混合し、混合液の液性を酸性として、分散したカチオンをイオン化させて、熱付加逆性のゼリーを調整している。このように混合溶液の反応とすることで、カチオンの溶出速度を揃え、混合溶液全体が同時にゲル化して、ゲル特性にむらのない均一なゼリーを作成することが可能になると記載されている。
【0005】
また、特許文献3では、同じ方法であるが、ゲル化速度を調整するために、カルシウムイオンのキレート剤を添加し、ゲルを形成するまでの時間設計を容易にする工夫が報告されている。そして、2〜15℃の範囲でゲル化を行うことが記載されている。
しかしながら、最終ゲル化物のpHは、添加したカルシウム塩が解離する状態にあることが望ましいとされており、望ましいものとしてpHとして3.0〜4.2が推奨されている。
【0006】
一方、特許文献4では、アジピン酸とリン酸二カリウム無水物との反応でカルシウムイオンを放出させ、アルギン酸ナトリウムとの反応で、冷水ゲルを作製することが開示されている。アジピン酸はゆっくり溶解して液性を酸性とするだけでなく、食品に用いられる酸の中で高い酸性を示すことから、アジピン酸の使用が推奨されている。
【0007】
しかしながら、今までの低温ゲル化方法では、いずれも最終のゲル組成物のpHが3.5〜4.5の範囲に存在する。特許文献2〜4のゲル組成物は、医薬品とは異なるものであり、食品やそれ以外のものである。従って、薬効成分の保存安定性を考えた場合、ゲル組成物のpHがより中性に近いことが望ましいが、一方、ゲル化を考えると中性に近くなるほどゲル化させることが困難になる傾向が存在する。
従って、医薬品の薬効成分を含有する低温充填可能なゼリー製剤を作成するためには、ゲル組成物の好適なpH、ゲル化試剤の選択とゲル化の方法の選択等、まだまだ解決すべき課題が残されていた。
【0008】
【特許文献1】WO2002/064120
【特許文献2】特開2006−197822
【特許文献3】特開平8−154601
【特許文献4】特開2006−333803
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、新たな低温充填ゼリー組成物と共に、その製造方法を提供することを目的とする。更に詳しくは、熱安定性や酸安定性の良くない薬効成分を用いて、経口可能なゼリー製剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ゲル化剤としてアルギン酸またはアルギン酸ナトリウムを使用し、pHが約5.5〜7.0の範囲でアルカリ土類金属塩の微細粉末を加えて攪拌することにより、目的とする低温充填ゼリー組成物ができることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]アルギン酸ナトリウムが0.5〜3.0w/w%であり、クエン酸カルシウムが0.1〜1.5w/w%であり、液性がpH5.5〜7.0である、低温充填ゼリー組成物。
[2]薬効成分が添加されている、上記[1]記載の低温充填ゼリー組成物。
[3]糖又は糖アルコールが添加されている、上記[1]又は[2]記載の低温充填ゼリー組成物。
【0012】
[4]防腐剤が添加されている、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の低温充填ゼリー組成物。
[5]アルギン酸又はアルギン酸ナトリウムの水溶液をpH5.5〜7.0に調整し、低温下で、アルカリ土類金属塩の微細粉末を添加攪拌し、アルカリ土類金属塩の均一分散溶液を容器に充填し、容器中でゲル化させることを特徴とする、低温充填ゼリー組成物の製造方法。
[6]薬効成分が低温で、アルカリ土類金属塩の添加前に加えられていることを特徴とする、上記[5]記載の製造方法。
[7]アルカリ土類金属塩が親水性溶剤に分散して添加されている、上記[5]又は[6]記載の製造方法。
[8]親水性溶剤が濃グリセリンである、上記[5]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]アルカリ土類金属塩がカルシウム塩である、上記[5]〜[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]カルシウム塩がクエン酸カルシウムである、上記[5]〜[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]水溶液の液性が、pH5.8〜6.9である、上記[5]〜[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]アルギン酸ナトリウムを1重量部とすると、アルカリ土類金属塩が0.2重量部以上である、上記[5]〜[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]pH調節剤が添加されている、上記[5]〜[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14]糖又は糖アルコールが添加されている、上記[5]〜[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15]防腐剤が添加されている、上記[5]〜[14]のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
[16]アルギン酸又はアルギン酸ナトリウムと、糖又は糖アルコールと、pH調節剤と、防腐剤との水溶液に、低温で薬効成分の水溶液又は親水性溶剤溶液を加えて、pHを5.5〜7.0に調整し、低温下でアルカリ土類金属塩を加えて攪拌し、アルカリ土類金属塩の均一分散溶液を容器に充填し、容器中でゲル化させることを特徴とする、低温充填ゼリー組成物の製造方法。
[17]容器が、最内層がポリエチレンのアルミラミネートフィルム容器である、上記[5]又は[16]記載の製造方法。

【発明の効果】
【0014】
本発明のゼリー組成物は、低温で薬効成分を混合して低温でゼリー化できるため、熱安定性がそれほど高くない薬効成分でも適用することが可能である。しかも、本発明のゼリー製剤はpHが中性に近い約5.5〜7であるため、酸安定性が高くない薬効成分にも適用することが可能となった。
また、本発明の製剤は、ゼリー状であるため、水を必要とせず、誤飲しやすい老齢の患者に対しての適切な経口製剤を提供できる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明において「アルギン酸」とは、海草からの抽出物を処理して製造される他糖類であり、通常の食品添加物として増粘剤やゲル化剤として使用されるものを言う。アルギン酸の分子量は、通常12,000〜190,000程度の範囲のものが中心であり、本発明においては特に限定されるものではない。なお、ゲル組成物の食感や操作上の視点から、分子量が80,000〜150,000程度であることが好ましい。分子量が大きいほどゲルの食感は硬くなり、溶解液の粘性も高くなる。逆に、分子量の小さいものは溶解液の粘性は低くなるが、ゲルの強度が弱くなる傾向にある。
また、アルギン酸の溶液濃度によっても、ゲル組成物の強度は影響を受ける。例えば、アルギン酸ナトリウムを用いた場合、アルギン酸ナトリウムの含量が、ゲル組成物中の0.5〜3.0重量%の範囲にあれば好適なゲル組成物ができる。これを超える量のアルギン酸ナトリウムが存在すれば、ゲルの食感が硬くなり、口当たりの良くないゲル組成物ができることになる。
【0016】
本発明において「アルカリ土類金属塩」とは、有機酸または無機酸のアルカリ土類金属塩を言う。アルギン酸ナトリウムの架橋のために使用できるものであれば特に限定されるものではないが、有機酸としては、例えば酢酸、蓚酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸等のものが挙げられる。無機酸としては、例えばリン酸、塩酸等のものが挙げられる。また、アルカリ土類金属とは、例えばマグネシウム、カルシウム、アルミニウム等が挙げられる。
アルギン酸ナトリウムは、カルシウムイオンと反応して急速にゲル化することが知られており、ゲル化速度を調整するための工夫が色々なされている。本発明では、ゲル化速度を制御するため、約6前後のpHで、ゆっくりと溶解するアルカリ土類金属塩を使用することが本発明の一つの特徴である。即ち、アルギン酸ナトリウム等が溶解したゲル・ベースに対して、アルカリ土類金属塩の微細粉末を固体で投入し、ゆっくりと溶解させる必要がある。従って、本発明で使用されるアルカリ土類金属塩は、ゲル・ベースの液性(pH5.5〜7.0)に応じて、ゆっくり溶解するものが望ましい。例えば、カルシウム塩の場合、pH6以上で水に難溶なカルシウム塩としては、クエン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム2水和物、硫酸カルシウム2水和物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムカルシウム(ドロマイト)が挙げられ、水に不溶性のカルシウム塩としては、無水リン酸1水素カルシウムを挙げることができる。
なお、水に可溶性のカルシウム塩を使用する場合、例えば塩化カルシウム6水和物、グルクロン酸カルシウム、乳酸カルシウム等を使用する場合には、キレート剤を添加して、ゲル化速度を調整することができる。
このように、本発明で使用可能なアルカリ土類金属塩は、上記の中から1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。アルカリ土類塩の選定については、ゲル・ベースの液性(pH)等に大きく影響を受けるので、液性にあったものを選択する必要がある。
本発明に用いられる好ましいアルカリ土類金属としては、例えばカルシウムを挙げることができ、好ましいアルカリ土類金属塩としては、有機酸アルカリ土類金属塩を挙げることができる。より好ましい有機アルカリ土類金属塩としては、例えばクエン酸カルシウムを挙げることができる。
【0017】
本発明において「微細粉末」とは、粒子径が1〜500μmのものを言う。このアルカリ土類金属塩の微細粉末は、粉体そのままで添加しても良いが、分散溶剤に分散させて添加しても良い。用いられる分散溶剤としては、親水性の油状溶剤が好ましく、例えば濃グリセリン、グリセリン、ポリビニルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。好ましくは濃グリセリン、ポリビニルアルコールを挙げることができる。
【0018】
本発明で使用されるアルカリ土類金属塩の量が増大するに従い、アルギン酸の溶液は流動性の低下を生じ、液体状、粘稠溶液、ゲル化、そして最後に沈殿が生じると言うように変化していく。例えば、アルギン酸ナトリウムの重量を1とすると、カルシウムイオンが0.072の量、存在すると化学量論的にはアルギン酸カルシウムになると考えられる。そして、ゲル化するには、0.022のカルシウムイオン量が必要であるとされている。しかし、現実には使用される溶液のアルギン酸ナトリウムの濃度にも影響されることから、アルギン酸ナトリウムの重量を1として、カルシウムイオンの量が、0.05〜0.50の量の範囲が好ましく、より好ましくは、0.08〜0.20の量である。
【0019】
本発明においてアルカリ土類金属塩を添加する前のゲル・ベースの液性は、pH5.5〜7.0であり、より好ましくはpHが5.8〜6.9である。また、アルカリ土類金属塩を添加した後に形成されるゼリー組成物の液性は、pHが約6〜7の範囲になることが好ましい。
なお、ゲル・ベース、最終ゲル組成物の液性は、pHメーター等の通常の液性測定機器で測定することができ、上記の液性になるよう調整することができる。
【0020】
本発明において添加されてもよいキレート剤としては、例えばクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、フマル酸等の有機酸、例えばクエン酸三ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム等の有機酸の塩類、例えばリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム等のリン酸塩、などから選択される1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
本発明において「薬効成分」とは、経口用に使用される薬剤であれば、特に限定されるものではない。例えば塩酸メトホルミン、メバロチン等の糖尿病、高脂血症治療剤、例えばリスペリドン、オランザピン等の精神病薬、例えばトラニラスト、ジルテック、エバステル、ケトチフェン等の抗アレルギー剤、風邪薬や例えばケトプロフェン、イブプロフェン、ロキソニン、アセトアミノフェン等の解熱鎮痛剤、塩酸ロペラミド等の止しゃ薬、塩酸ツロブテロール、塩酸プロカテロール等の気管支拡張薬、カルボシステイン、塩酸アンブロキソール等の去たん薬、鎮咳薬、駆虫薬等の有機低分子化合物が挙げられる。更にはトロンビン、カルシトニン、リパーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ等のたんぱく質、例えばII型コラーゲン上のT細胞抗原決定基を含むペプチド等のペプチド類、乳酸菌等を挙げることができる。好ましいものとしては、例えば酸と熱によって影響を受けやすい低分子化合物やたんぱく質、ペプチド類、乳酸菌等を挙げることができる。
薬効成分は、熱安定性にもよるが、通常は、均一溶液の冷却後、アルカリ土類金属塩を添加する前に、添加し溶解させておくことが望ましい。これらの薬効成分は、水に溶解性の高いものは、アルギン酸ナトリウムと共に溶解させてカルシウムイオンとの反応に使用することができる。水に溶解性が悪い薬効成分の場合には、親水性の溶剤に溶解して使用することができる。親水性溶剤で薬効成分を溶解できるものであれば、特に限定されるものではないが、経口用として使用可能なものを用いるとよい。例えば濃グリセリン、グリセリン、ポリビニルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。好ましくは濃グリセリン、ポリビニルアルコールを挙げることができる。
【0022】
本発明において「糖又は糖アルコール」とは、主に甘味料として使用されるものであり、その役割を担うものであれば特に限定されるものではない。なお、本明細書において「糖」とは、白糖、乳糖、ブドウ糖、液糖、果糖、果糖ブドウ糖液糖、カラメル、還元麦芽糖水アメ、黒砂糖、白糖、単シロップ、粉糖、水アメ、マルトース、粉末飴等を言うが、特に限定されるものではない。糖の種類に係わらず使用することができる。また、「糖アルコール」とは、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、グリセリン、エリスリトール等を言うが、特に限定されることはなく、糖アルコールの種類にかかわらず使用することができる。更には、いくつかの糖又は糖アルコールを混合して使用することもできる。
【0023】
本発明においては、更に目的に応じて適宜、サッカリンやアスパルテーム等の甘味料を添加することができ、また、pH調整剤、抗酸化剤、防腐剤等も添加することが出来る。
pH調整剤としては、例えば、クエン酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸等の有機酸とそれらのアルカリ金属塩からなる緩衝剤や例えば、リン酸等の無機酸とそれらのアルカリ金属塩の緩衝剤を挙げることができる。本発明のゼリー組成物の液性はpHが約5.8〜約6.9の範囲に調整されることが望ましい傾向にある。特に、pHが約6前後に調整されることがより好ましい。
【0024】
抗酸化剤としてはアスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、エリソルビン酸、酢酸トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピルなどが挙げられる。
防腐剤としては、例えば安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸、パラオキシ安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル(プロピルパラベン)、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸イソブチル、プロピオン酸、プロピオン酸ナトリウム等を挙げることができる。
これらの添加剤を均一に溶解させるために、適宜、溶解助剤を使用することができる。ここで使用される溶解助剤とは、水あるいは親水性の油状溶剤のことであり、例えば濃グリセリン、グリセリン、ポリビニルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。好ましくは濃グリセリン、ポリビニルアルコールを挙げることができる。
【0025】
本発明において「低温」とは、薬効成分が安定に存在し得る低温を言い、通常は室温もしくは氷冷下の温度範囲のことを言う。
本発明において「容器」とは、小分けして分包できる袋状のものを言い、例えば最内層がポリエチレンで被覆されたアルミラミネートフィルム容器等のものである。分注後は熔封圧着シールして保存する。従って、ゲル化は、それぞれの分注された容器の中で反応が進行する。ゲル化の速度はアルカリ土類金属塩の添加量と容器の温度によって影響される。

【0026】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0027】
(実施例1)低温充填ゼリー組成物の合成

以下の表1(表中の数値はg数を表す)の組成で各試剤を秤取する。まず、アルギン酸ナトリウム、ソルビトール液、濃グリセリン、精製水、ポリビニルアルコール、プロピルパラベン、クエン酸を混合し、80℃で30分間加熱攪拌して均一溶液とする。その後、溶液を室温に冷却して、微粉末のクエン酸カルシウムを添加して3分間攪拌した。その後、ガラス製の容器に分注して室温でゲル化を進行させ、ゼリー組成物を得た。
その結果を併せて表1に記載した。
【0028】
【表1】

[注記]
液性は、ゲル・ベース(クエン酸Caの添加前の溶液)のpH値、最終ゲル製剤のpH値を表す。

試料No.1〜4のいずれにおいても、しっかりした強度を持ったゼリー組成物が製造できた。

【0029】
(実施例2)ゼリー組成物に対する結晶セルロースまたは二酸化ケイ素の添加効果

以下の表2と表3(表中の数値はg数を表す)の組成で各試剤を秤取し、まず、アルギン酸ナトリウム、ソルビトール液、濃グリセリン、精製水、ポリビニルアルコール、プロピルパラベン、クエン酸を混合し、80℃で30分間加熱攪拌して均一溶液とする。更に、結晶セルロースまたは二酸化ケイ素を添加して80℃で30分間加熱攪拌する。その後、溶液を室温に冷却して、微粉末のクエン酸カルシウムを添加して3分間攪拌した。その後、ガラス製の容器に分注して室温でゲル化を進行させ、ゼリー組成物を得た。
【0030】
【表2】

[注記]
液性は、ゲル・ベース(クエン酸Caの添加前の溶液)のpH値、最終ゲル製剤のpH値を表す。

【0031】
【表3】

[注記]
液性は、ゲル・ベース(クエン酸Caの添加前の溶液)のpH値、最終ゲル製剤のpH値を表す。

この結果、固形添加物の如何に係らず、しっかりした強度のゼリー組成物が形成できた。

【0032】
(実施例3)カルシウム塩の添加量効果
ゼリー組成物に対するカルシウム塩の添加量効果を確認するために、以下の表4と表5(表中の数値はg数を表す)の組成で各試剤を秤取し、実施例1と同様にゼリー組成物を作成した。その結果を表4と表5に記載した。
【0033】
【表4】

【0034】
【表5】

[注記]
液性は、ゲル・ベース(クエン酸Caの添加前の溶液)のpH値、最終ゲル製剤のpH値を表す。

この結果、クエン酸Caは、アルギン酸Naの重量を1として、0.05ではゲル化が困難であることが分かった。また、0.2以上あるとゲル化することが示された。
【0035】
(実施例4)ゼリー組成物に対するステアリン酸の添加効果

以下の表6(表中の数値はg数を表す)の組成で各試剤を秤取し、まず、アルギン酸ナトリウム、ソルビトール液、濃グリセリン、精製水、ポリビニルアルコール、プロピルパラベン、クエン酸を混合し、80℃で30分間加熱攪拌して均一溶液とする。更に、ステアリン酸を添加して80℃で30分間加熱攪拌する。その後、溶液を室温に冷却して、微粉末のクエン酸カルシウムを添加して3分間攪拌した。その後、ガラス製の容器に分注して室温でゲル化を進行させ、ゼリー組成物を得た。
その結果を表6に記載した。
【0036】
【表6】

[注記]
液性は、ゲル・ベース(クエン酸Caの添加前の溶液)のpH値、最終ゲル製剤のpH値を表す。

この結果、ステアリン酸の添加量の増加があっても、ゲル形成にはあまり大きな影響がないことが示された。

【0037】
(実施例5)BSA(ウシ血清アルブミン)を含有する低温充填ゼリー組成物

以下の表7(表中の数値はg数を表す)の組成で各試剤を秤取し、まず、アルギン酸ナトリウム、κλカラギーナン、クエン酸、クエン酸Na、リン酸、リン酸水素ナトリウム、ポリビニルアルコール、プロピルパラベン、精製水を混合し、80℃で30分間攪拌した後、結晶セルロース、ステアリン酸を添加して80℃で30分間攪拌する。混合溶液を冷却して室温に下げた後、BSAと濃グリセリンを室温下で添加し攪拌した。その後、微粉末のクエン酸カルシウムを添加して3分間攪拌した。得られたクエン酸Caの均一分散溶液を、ガラス製の容器に分注して室温下でゲル化を進行させ、ゼリー組成物を得た。その結果を表7に記載した。
【0038】
【表7】

[注記]
液性は、ゲル・ベース(クエン酸Caの添加前の溶液)のpH値、最終ゲル製剤のpH値を表す。

得られたゲル組成物は、しっかりしたゲル強度を持つものであり、アルギン酸Naの濃度が3%であれば充分な強度のものであることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸ナトリウムが0.5〜3.0w/w%であり、クエン酸カルシウムが0.1〜1.5w/w%であり、液性がpH5.5〜7.0である、低温充填ゼリー組成物。
【請求項2】
薬効成分が添加されている、請求項1記載の低温充填ゼリー組成物。
【請求項3】
糖又は糖アルコールが添加されている、請求項1又は2記載の低温充填ゼリー組成物。
【請求項4】
防腐剤が添加されている、請求項1〜3のいずれかに記載の低温充填ゼリー組成物。
【請求項5】
アルギン酸又はアルギン酸ナトリウムの水溶液をpH5.5〜7.0に調整し、低温下で、アルカリ土類金属塩の微細粉末を添加攪拌し、アルカリ土類金属塩の均一分散溶液を容器に充填し、容器中でゲル化させることを特徴とする、低温充填ゼリー組成物の製造方法。
【請求項6】
薬効成分が低温で、アルカリ土類金属塩の添加前に加えられていることを特徴とする、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
アルカリ土類金属塩が親水性溶剤に分散して添加されている、請求項5又は6記載の製造方法。
【請求項8】
親水性溶剤が濃グリセリンである、請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
アルカリ土類金属塩がカルシウム塩である、請求項5〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
カルシウム塩がクエン酸カルシウムである、請求項5〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
水溶液の液性が、pH5.8〜6.9である、請求項5〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
アルギン酸ナトリウムを1重量部とすると、アルカリ土類金属塩が0.2重量部以上である、請求項5〜11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
pH調節剤が添加されている、請求項5〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
糖又は糖アルコールが添加されている、請求項5〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
防腐剤が添加されている、請求項5〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
アルギン酸又はアルギン酸ナトリウムと、糖又は糖アルコールと、pH調節剤と、防腐剤との水溶液に、低温で薬効成分の水溶液又は親水性溶剤溶液を加えて、pHを5.5〜7.0に調整し、低温下でアルカリ土類金属塩を加えて攪拌し、アルカリ土類金属塩の均一分散溶液を容器に充填し、容器中でゲル化させることを特徴とする、低温充填ゼリー組成物の製造方法。
【請求項17】
容器が、最内層がポリエチレンのアルミラミネートフィルム容器である、請求項5又は請求項16記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−184401(P2008−184401A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18003(P2007−18003)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(302005628)株式会社 メドレックス (35)
【Fターム(参考)】