説明

低温加工性を有する複合繊維、これを用いた不織布及び成形体

低温加工性を有し、かつ収縮が抑制されており、良好な熱接着性を有し、さらに不織布に加工する際のカード通過性の工程性に優れ、嵩高で地合の良好な不織布を得ることができる複合繊維を提供する。また、低温加工性に優れた、嵩高で、風合いの良好な不織布及び成形体を提供する。融点が70〜100℃のエチレン・α−オレフィン共重合体を少なくとも75質量%含む第1成分と、結晶性ポリプロピレンを含む第2成分が、並列型断面を構成してなる複合繊維であって、繊維軸に直角な繊維断面において、第1成分が、繊維外周の55〜90%を占め、第1成分と第2成分との境界線が、第1成分側に向かって凸状に湾曲する曲線を描いており、第1成分と第2成分との面積比率(第1成分/第2成分)が、70/30〜30/70の範囲であることを特徴とする複合繊維;上記複合繊維を不織布化処理して得られた不織布;上記複合繊維を用いて得られた成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱加工時における低温加工性を有し、かつ収縮を抑えて良好な熱接着性を有する複合繊維に関する。また、本発明は、当該複合繊維を用いた嵩高性と風合いに優れた不織布及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、低温加工性を有する複合繊維が種々提案されており、複合繊維を構成する成分として、融点を調整しやすいエチレン・α−オレフィン共重合体が使用されている。例えば、90〜125℃の低融点を有するポリエチレン系樹脂と120〜135℃の高融点を有するポリエチレン系樹脂の“混合物”を、複合成分の一成分として用いた、鞘芯型及び並列型の複合繊維が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、エチレン・α−オレフィン共重合体を含む成分とポリエステル樹脂を含む成分の“それぞれ”を、複合成分の一成分として用いた、潜在捲縮性複合繊維が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
しかしながら、従来の低温加工性を有する複合繊維は、実用上なお改善の余地を残すものである。例えば、特許文献1で提案された複合繊維は、90〜125℃の低融点を有するポリエチレン系樹脂を用いながら、生産性安定性のために120〜135℃の高融点を有するポリエチレン系樹脂を実質的に30質量%以上の範囲で“混合”し複合繊維の一成分として用いているために、低温加工性は損なわれて十分なものとは言えない。また、特許文献2は、エチレン・α−オレフィン共重合体を成分とする複合繊維が熱処理時に収縮しやすいという性質を利用した潜在捲縮性の複合繊維に関するものであるが、このような潜在捲縮性の複合繊維は、収縮が抑制された地合の良好な不織布を得るには適さない。
また、このような潜在捲縮性を持った複合繊維は、構成する複数の成分間の収縮性の違いを利用したものであって、そのような成分間では熱処理後に剥離が発生し易く、不織布に加工する際に、溶融する接着性成分と溶融しない他の成分が剥離してしまうと、不織布内においては、接着性成分でできた繊維と、溶融しない他の成分でできた繊維とを混綿した状態に近くなり、不織布強度に寄与しない部分が多く存在することで、不織布の強度が出ないといった不具合が生じる場合がある。
このように、これまでに低温加工性を有する繊維として提案されたものは、低温加工性や不織布の地合や強度の点でさらに改良を要するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第00/36200号パンフレット
【特許文献2】特開2006−233381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、低温加工性を有し、かつ収縮が抑制されており、良好な熱接着性を有し、さらに不織布に加工する際の、特にカード加工を行う場合において、そのカード通過性に優れ、嵩高で地合の良好な不織布を得ることができる複合繊維を提供することにある。本発明の目的はまた、低温加工性に優れた、嵩高で、風合いの良好な不織布及び成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、複合繊維の低温加工性に寄与する成分、即ち、熱処理される際に専ら軟化、溶融する、より低融点の成分として、特定のエチレン・α−オレフィン共重合体を特定量以上含むものとし、これを第1成分とし、かつ結晶性ポリプロピレンを含む成分を第2成分とする特定の並列型の断面を構成する複合繊維によって、上記課題が達成できることを見出した。
したがって、本発明は、融点が70〜100℃のエチレン・α−オレフィン共重合体を少なくとも75質量%含む第1成分と、結晶性ポリプロピレンを含む第2成分が、並列型断面を構成してなる複合繊維であって、繊維軸に直角な繊維断面において、第1成分が、繊維外周の55〜90%を占め、第1成分と第2成分との境界線が、第1成分側に向かって凸状に湾曲する曲線を描いており、第1成分と第2成分との面積比率(第1成分/第2成分)が、70/30〜30/70の範囲であることを特徴とする複合繊維である。
【0007】
本発明の実施態様において、使用するエチレン・α−オレフィン共重合体として、分子量分布(Mw/Mn)が1.5〜2.5で、密度が0.87〜0.91g/cm3、ASTM D−1238に準じて、温度190℃、荷重21.2Nの条件で測定したメルトインデックス(MI)が10〜35g/10minであるエチレン・α−オレフィン共重合体が挙げられる。
上記複合繊維は、100℃で5分間熱処理したときに50%以下の熱収縮率を示すことができる。
本発明の複合繊維を不織布化処理して、不織布を製造することができ、また、本発明の複合繊維を加工して、又は本発明の複合繊維から得られた不織布を加工して、成形体とすることができる。
従って、本発明はさらに、上記複合繊維を不織布化処理して得られた不織布、上記複合繊維を用いて得られた成形体、及び上記不織布を用いて得られた成形体にも向けられている。
上記不織布化処理の例として、熱風接着法、熱水接着法などが挙げられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合繊維は、融点が70〜100℃のエチレン・α−オレフィン共重合体を少なくとも75質量%含む成分を第1成分とし、繊維軸に直角な繊維断面において、この第1成分が、繊維外周の55〜90%を占め、第2成分との境界線が、第1成分側に向かって凸状に湾曲する曲線を描いており、第2成分との面積比率(第1成分/第2成分)が、70/30〜30/70の範囲であるように構成された並列型断面を有するものである。このエチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分が、主として繊維表面を被覆していることから、100℃以下という熱処理温度で良好な熱接着性を示す。即ち、良好な低温加工性を有する。また、結晶性ポリプロピレンを含む第2成分が繊維表面の一部に露出していることから、エチレン・α−オレフィン共重合体特有の表面摩擦の高さを低減することができ、滑剤等を添加しない若しくは少ない添加量でも、繊維製造工程での安定生産が可能で、特に、カード加工を行う場合に、そのカード工程での繊維通過性が良好となる。
【0009】
半月形状を組み合わせた一般的な2成分並列型の断面形状では、成分間の剥離が懸念される。本発明の複合繊維の並列型断面はエチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分が周面の長さの55〜90%を占め、第2成分との境界線が、第1成分側に向かって凸状に湾曲する曲線を描き、第2成分との面積比率(第1成分/第2成分)が、70/30〜30/70の範囲であるように構成されることで、成分間の剥離が起こりにくく、特にカード加工を行う場合に、カード工程での繊維通過性や不織布に加工した後の不織布強度を阻害することがなく、好ましい作業性が発揮される。また、半月形状を組み合わせた一般的な2成分並列型の断面形状では、熱処理による収縮が起こり易い点があるが、本発明の複合繊維は、特定のエチレン・α−オレフィン共重合体を第1成分として、特定の繊維断面形状を採用することによって効果的に収縮が抑制されると考えられる。
【0010】
本発明の複合繊維を用いて得られた不織布は、嵩高で柔らかく、熱処理の際の収縮が少ないため幅入り(不織布の流れ方向に対する幅の減少)がほとんど無く生産性、地合が良好なものである。また、本発明の複合繊維は融点が70〜100℃のエチレン・α−オレフィン共重合体を含む成分を有効成分としているために、100℃以下での熱処理加工が可能となる。従って、本発明の複合繊維の不織布化や成形加工の際に、蒸気や熱水などの媒体も使用することができるようになるため、用途、環境、状況に応じて、幅広い選択肢の中から、適切な不織布化条件や成形加工条件を選択することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の複合繊維の並列型断面の形状を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の複合繊維は、エチレン・α−オレフィン共重合体を含む成分を第1成分とする。このエチレン・α−オレフィン共重合体とは、エチレン及びα−オレフィンから成るものである。α−オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1などの直鎖状α−オレフィンを挙げることができる。これらのうち、ブテン−1、オクテン−1が好ましく、さらにはオクテン−1がより好ましい。エチレン・α−オレフィン共重合体中のα−オレフィン含有量として好ましくは30モル%以下で、さらに好ましくは20モル%以下である。α−オレフィン含有量は通常1モル%以上である。この場合の含有量は、((α−オレフィン)/(α−オレフィン+エチレン))のモル比百分率を言う。α−オレフィン含有量が多すぎると、繊維製造工程で固化が遅くなり、繊維間融着などを起こして生産性が損なわれる傾向がある。α−オレフィン含有量が30モル%以内であると、繊維の剛性が充分にあって、特に、カード加工をする場合には、カード工程での繊維通過性が良好である。
【0013】
使用するエチレン・α−オレフィン共重合体の融点は70〜100℃であり、好ましくは、80〜100℃である。70℃以上の融点により、繊維間融着などを防ぐことができ、例えば繊維製造工程で繊維表面に塗布した帯電防止剤等の処理剤を乾燥させる際に、繊維間融着などの不具合が起こりにくくなって、良好な生産性が発揮される。また、融点が100℃以下であることにより、繊維を不織布や成形体に加工する際の加工温度を100℃以下に設定することができ、熱処理の媒体として蒸気や熱水などを使用することが可能となり、比較的低温の媒体を用いる加工方法が選択できる。加えて、繊維を構成する本来溶融させない他の成分への影響を懸念する必要がなく、好ましい。
ここで言う融点とは、エチレン・α−オレフィン共重合体を示差走査熱量計(DSC)で測定した時の溶融ピーク温度である。複数の溶融ピークが確認される場合は、最も大きい溶融ピークの温度を融点とし、複数の大きさが似通った溶融ピークが確認される場合は、より低い側の溶融ピーク温度を融点とする。
【0014】
エチレン・α−オレフィン共重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)は、1.5〜2.5が好ましく、さらに好ましくは、1.7〜2.3である。分子量分布(Mw/Mn)が、1.5〜2.5の範囲内にあれば、繊維製造工程における紡糸性が良好となり、繊維物性面でも充分な強度を持った複合繊維が得られることから、好ましい。
【0015】
エチレン・α−オレフィン共重合体の密度は、0.87〜0.91g/cm3が好ましく、特に好ましくは0.88〜0.90g/cm3である。エチレン・α−オレフィン共重合体の密度が0.87g/cm3以上であると、該共重合体を繊維に加工する際の表面粘性が適度であって、繊維製造時に膠着が起こりにくく、繊維の構成成分として主体的に用いるのに適している。一方該密度が0.91g/cm3以下では、エチレン・α−オレフィン共重合体の融点が比較的低く100℃以下であって、本発明で用いるエチレン・α−オレフィン共重合体として適している。
【0016】
エチレン・α−オレフィン共重合体のメルトインデックス(MI)は繊維製造工程での安定生産を考慮すると、10〜35g/10minが好ましく、さらには15〜30g/10minの範囲がより好ましい。ここで言うMIとは、ASTM D−1238に準じて190℃、荷重21.2Nの条件で測定した値である。
【0017】
使用するエチレン・α−オレフィン共重合体は、1種単独であっても2種以上の混合物であってもよい。
本発明で使用するエチレン・α−オレフィン共重合体には、本発明の目的が損なわれない範囲で、各種添加剤を配合することができる。例えば、滑剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、着色剤などである。滑剤として好ましく用いられるのは、オレイン酸アミドやエルカ酸アミドなどの脂肪酸アミド、ステアリン酸ブチルなどの脂肪酸エステル、ポリエチレンワックスやポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス、ステアリン酸カルシウムなどの金属石けんなどがある。特に好ましく用いられるのは、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミドなどの脂肪酸アミドである。
【0018】
本発明の複合繊維における第1成分には、低温で熱接着に関与可能であるように、特に、不織布化や成形加工時の熱媒体に蒸気や熱水を使用できるように、上記エチレン・α−オレフィン共重合体が有効量含まれていることが必要である。このエチレン・α−オレフィン共重合体の含有量は、第1成分の質量基準で75%以上であって、好ましくは85%以上であり、樹脂原料としては100%を占めるのが特に好ましい。上記エチレン・α−オレフィン共重合体が第1成分において75質量%以上であると、エチレン・α−オレフィン共重合体の性能が主体的に発現できる点から好ましい。
上記のエチレン・α−オレフィン共重合体が、第1成分の質量基準で75%以上含まれるという条件のもとに、当該エチレン・α−オレフィン共重合体以外に、第1成分に含めてもよい樹脂原料としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン共重合体などを挙げることができる。これらは、樹脂の状態で予め均一に混合して用いる方法や、繊維製造工程においてエチレン・α−オレフィン共重合体を溶融させて押出す際に、押出機の途中のフィード口から投入するといった方法で混ぜ合わせることができる。
【0019】
本発明の複合繊維は結晶性ポリプロピレンを含む成分を第2成分とする。この結晶性ポリプロピレンとは、プロピレン単独重合体、もしくはプロピレンと少量の(通常2質量%以下の)α−オレフィンとの共重合体で、このような結晶性ポリプロピレンとしては、チーグラナッタ触媒やメタロセン触媒を用いて得られる汎用のポリプロピレンがある。
本発明における結晶性ポリプロピレンは、融点が150〜165℃、好ましくは155〜165℃で、メルトマスフローレイト(MFR=230℃、21.2N)が0.1〜80g/10min、さらは3〜40g/10minの範囲にあるものが好ましい。
本発明の複合繊維を構成する第2成分は、結晶性ポリプロピレンを含むものであり、効果を著しく損なわない限りにおいて、プロピレン・α−オレフィン共重合体との混合や、メルトマスフローレイト(MFR)や分子量分布(Mw/Mn)などの物性が異なる結晶性ポリプロピレン同士との混合などを好適に用いることができる。また、必要に応じて他の熱可塑性樹脂や、二酸化チタン、炭酸カルシウム及び水酸化マグネシウムなどの無機物や、各種添加剤(難燃剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、着色剤など)を配合しても差し支えない。本発明の複合繊維を構成する第2成分において、一般的に結晶性ポリプロピレンが少なくとも75質量%を占めることが適当である。
【0020】
本発明の複合繊維において、エチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分と、結晶性ポリプロピレンを含む第2成分とが特定構造の並列型断面を構成している。
繊維軸に直角な繊維断面において、繊維外周の55〜90%をエチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分が占め、45〜10%を結晶性ポリプロピレンを含む第2成分が占めるものである。特定のエチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分が、繊維外周の55%以上を占めることによって、100℃以下での熱処理加工が可能となり、結晶性ポリプロピレンを含む第2成分が、繊維外周の10%以上を占めることによって、繊維表面に結晶性ポリプロピレンが連続的に現われ、エチレン・α−オレフィン共重合体を繊維表面に用いた場合の繊維間摩擦や対金属摩擦、粘性を低減することができ、紡糸性や、カード加工を行う場合にはそのカード加工性が良好となる。特に、繊維軸に直角な繊維断面において、繊維外周の60〜80%をエチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分が占め、結晶性ポリプロピレンを含む第2成分が40〜20%を占めるのが好ましい。
【0021】
本発明の複合繊維は、さらに、繊維軸に直角な繊維断面において、第1成分と第2成分との境界線が、第1成分側に向かって凸状に湾曲する曲線を描いている。この構造を有することによって、単に半月状の両成分が接合した一般的な並列断面構造の複合繊維に比べ、第1成分と第2成分との境界線の長さが増し、すなわち、両成分間の接合面積が増すとともに、さらに、第1成分が第2成分を包み込む構造をとることによって、当該複合繊維からの、第2成分の剥離が抑制される。
特に、繊維軸に直角な繊維断面において、第1成分側に向かって凸状に湾曲する曲線を描く第1成分と第2成分との境界線が繊維外周と交わる2つの交点をaとbとし、このaとbを結ぶ線分abを2等分する点cを通り、該線分abと直角する方向に伸びる直線が、第1成分と第2成分との境界線と交わる点をd、第2成分側の繊維外周と交わる点をeとしたとき、線分cdの長さと線分ceの長さの関係が、cd≧0.8ceの関係を充足するように、前記境界線が第1成分側に向かって凸状に湾曲する構造を有するのが好ましい。さらに好ましいのはcd≧ce、より好ましいのはcd≧1.5ce、特に好ましいのはcd≧2ceの関係を充足する場合に、複合成分間の剥離性と、熱処理時や成形加工時の熱収縮性が良好となる。
また、第1成分側に向かって凸状に湾曲する曲線を描く第1成分と第2成分との境界線を、第2成分の外周が描く円または楕円の外周の一部とみなしたとき、この境界線の長さ(g)が、第2成分によって描かれるべき円または楕円の全外周長(h)の50%を超えていることが好ましく、さらに好ましいのは、60%以上の場合である。特に、第2成分によって描かれるべき円または楕円の直径または長軸の両端が、該複合繊維の繊維軸に直角な繊維断面内に存在しており、その長さをfとした場合、第1成分と第2成分との境界線が繊維外周と交わる2つの交点a、bを結ぶ線分abの長さが、f>abの関係にある場合には、第2成分が、当該複合繊維の断面において、第1成分に対してアンカー機能を奏するような複合構造を形成することができるために、第2成分の剥離防止効果を極めて有効に高めることができるのである。
【0022】
本発明の複合繊維を構成する2つの成分は、繊維軸に直角な繊維断面における面積において第1成分/第2成分=70/30〜30/70の比率が、断面形状を保持する点や繊維製造時の安定性、不織布に加工した際の強度と伸度のバランスの点からも好ましく、60/40〜40/60の比率であることがさらに好ましい。
本発明の複合繊維は、従来の公知の並列型複合口金を用いて製造することが出来る。例えば、特開昭48−11417や特開昭52−74011に記載の並列型複合紡糸口金などを用いて製造することが出来る。
【0023】
当該並列型複合口金を用いて本発明の複合繊維の断面形状を形成するためには、エチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分と、結晶性ポリプロピレンを含む第2成分の溶融時の流動性(粘度など)のバランスをとることが必要で、2つの成分のメルトインデックス(MI)及びメルトマスフローレイト(MFR)などを考慮し、繊維製造時の条件で、これを調整する。例えば、エチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分について、190℃前後の温度における溶融時の流動性(粘度)を測定し、溶融流動性(溶融粘度)の変動から繊維製造が可能な流動性(粘度)になる温度範囲を選択し、繊維製造条件である押出温度とするが、同様に結晶性ポリプロピレンを含む第2成分について230℃前後の温度について流動性(粘度)を測定して押出温度を選択したとき、第1成分の溶融流動性(溶融粘度)が第2成分の溶融流動性(溶融粘度)よりも相対的に大きくなるような押出温度を選択した場合、各成分を等しい圧力で押し出すと、繊維断面において、繊維周面を覆う第1成分の割合が相対的に高まることになる。例えば、使用される樹脂によって溶融時の流動性(粘度)の温度依存性(上昇傾向)が異なるため一概には言えないものの、第1成分のメルトインデックス(MI)と第2成分のメルトマスフローレイト(MFR)の比率が、第2成分のメルトマスフローレイト(MFR)に対する第1成分のメルトインデックス(MI)の比が1.5〜3倍である場合、本発明の複合繊維の断面形状を形成することが容易となる。特に好ましいのは、この比が、1.8〜2.5の範囲である。この比が、高い程、第1成分が第2成分を包み込む構造に成り易いため、第2成分が繊維外周を占める割合が少なくなる。また、同じ押出温度、溶融粘度であっても、樹脂の吐出量比を変更することで、繊維断面における第1成分及び第2成分の繊維外周に対する割合を増減することが出来る。これは、前記の繊維軸に直角な繊維断面における面積比率を変更するということであって、例えば、同じ製造条件において、繊維軸に直角な繊維断面に占める第2成分の面積比率が相対的に高くなると、繊維外周に対する第2成分の占める割合が増加しやすくなる。
本発明の複合繊維を製造するには、上記のように押出温度や樹脂の吐出量を選択するほか、通常の溶融紡糸法を採用することができる。
【0024】
本発明の複合繊維の表面には、繊維製造時の工程安定性などを向上させる目的で処理剤が塗布されてもよい。処理剤は主として帯電防止剤で、その他には繊維表面の濡れ性をより向上させる親水剤があり、成分としては、アルキルリン酸塩やそのエチレンオキサイド付加物、ソルビタン脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン変性シリコーンなどが挙げられる。これら成分の単体あるいは任意の混合物が処理剤として用いられる。
【0025】
本発明の複合繊維は、100℃で5分間熱処理したときの熱収縮率が、50%以下であり、好ましくは30%以下で、特に好ましくは20%以下である。
ここで言う熱収縮率とは、本発明の複合繊維をステープルファイバーとしてカード機に投入し、カード出口で採取した繊維ウェブ(繊維が絡まった状態でシートとなったもの)を定形にカット後、100℃で5分間熱処理を行い、処理前後のサイズの違い(減少分)を百分率(%)で表したものである。
本発明において、該熱収縮率は、具体的には、本発明の複合繊維を30〜65mmの任意の長さにカットしてステープルファイバーとし、これをミニチュアカード機に投入して、目付200g/m2の繊維ウェブを作製する。同繊維ウェブを、250mm×250mmの型紙を用いて、繊維の流れ方向(MD)とその流れ方向に直角な方向(CD)において、型紙に沿うようにカットしたのち10分間放置し、熱処理を行う直前に、このカットした繊維ウェブのMD長さを測定した後、循環熱風式オーブンにより100℃で5分間熱処理を行う。熱処理後に再度MD長さを測定して、以下の式によって求めた値である。
熱収縮率(%)={(L0−L)/L0}×100
0:熱処理前のMDの長さ
L :熱処理後のMDの長さ
この数値が少ないほど不織布化する際の繊維ウェブの縮みが少なく、安定した加工が可能で、良好な地合の不織布を得ることができる。
なお、ここで示した熱収縮の測定条件は、本発明の複合繊維の加工条件、熱処理条件、不織布化条件、使用法等を何ら特定・限定するものではない。
【0026】
従来知られていた樹脂の組み合わせによる並列型断面構造を有する複合繊維は、繊維製造の際の熱処理工程においては、その断面構造及びそれらの樹脂構成に由来した捲縮が発現しやすく、その結果、繊維としての嵩高性向上効果を奏するものである。特に不織布化のための、所望の長さにカットした繊維の集合体である繊維ウェブのように、繊維の自由度が高まった状態で熱処理を施すと、繊維自体の収縮も発生しやすくなる。そのため、繊維ウェブの状態で嵩高だったものが、不織布加工後に大きく収縮し、せっかくの嵩高性を維持できないことが多かった。また、繊維ウェブにおいては、目付を均一にしようと様々な工夫が成されるが、目付斑が全く無くなるわけではなく、加えて、繊維ウェブ内の繊維の自由度に分布があり、その程度が若干異なることから、不織布化の際の熱処理時に、より自由度の高い部分から収縮が発生しやすくなる。そのため、より収縮しやすい部分は周辺の繊維を収束させて塊状になり、収束によって繊維が少なくなった部分は目付が低下することで、不織布全体で目付の斑が極めて顕著になって、均一な地合の不織布を得ることが難しかったのである。
【0027】
これに対し、本発明の複合繊維は、2つの成分からなる並列型断面構造を有しているにも拘らず、エチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分が、繊維軸に直角な繊維断面において繊維外周の55〜90%を占め、さらに、結晶性ポリプロピレンを含む第2成分を包み込むように配された断面形状を有しており、かつ、融点が70〜100℃のエチレン・α−オレフィン共重合体、好ましくは、分子量分布(Mw/Mn)が1.5〜2.5、密度が0.87〜0.91g/cm3、メルトインデックス(MI)が10〜35g/10minであるエチレン・α−オレフィン共重合体を用いることによって、並列型断面構造を採用することで付与される潜在捲縮による嵩高性向上効果の恩恵を維持しながら、熱処理加工時の収縮性を、安定して不織布化や成形加工できる範囲である50%以下に抑制することが可能となるのである。
特定の樹脂構成と特定の複合構造とが組み合わされた本発明の複合繊維が、なぜこのように優れた収縮抑制機構を発現しうるのかは不明である。上記の特定のエチレン・α−オレフィン共重合体を用い、これを結晶性ポリプロピレンと組み合わせ、さらに、特定の繊維断面形状を有する繊維とすることで、驚くべきことに収縮が抑制されながらも、その一方では一般に相反する性能と考えられている嵩高性に優れ、風合いが良く、かつ、100℃以下の低温での熱処理加工特性に優れた不織布が得られることは予期せぬことであった。
【0028】
本発明の複合繊維の繊度は特に限定されない。複合繊維を構成する成分の物性や製造時の工程安定性を考慮し、また、該複合繊維を不織布もしくは成形体へ加工するに適した繊度を選択すればよい。例えば、人肌に直接触れる化粧パフや薬剤塗布シートなどの用途では1〜5dtexの範囲で選択することが望ましく、また、プリンターのインクカートリッジなどに代表される液体保持材用途では、1〜10dtexの範囲が適しており、また、家庭用芳香剤の芳香芯のような液体揮発材用途では、1〜20dtexの範囲が適している。
本発明の複合繊維の長さは特に限定されず、長繊維もしくは短繊維でありうる。短繊維にカットする場合、そのカット長は、該複合繊維の繊度及び加工法や用途に応じて適宜選択することができる。ステープルファイバーとして、カード工程を経る場合には、20〜125mmとすることが好ましく、さらに良好なカード通過性や繊維ウェブの地合を得るためには、25〜75mmとすることが好ましい。また、本発明の複合繊維をエアレイド法で不織布化する場合には、エアレイド用チョップとして3〜25mmとすることが好ましい。
【0029】
本発明の複合繊維は、繊維束を開繊させ、嵩高な繊維ウェブや不織布を得るために、捲縮を有することが好ましい。付与される捲縮数や捲縮のタイプは、該複合繊維の繊度及びカット長、また、加工法や用途に応じて適宜選択することができる。例えば、3.3〜6.6dtexの繊度でカット長が38〜45mmの複合繊維(ステープルファイバー)をカーディング法にて繊維ウェブとする場合は、捲縮数10〜25山/25mmを付与することが好ましく、3.3〜6.6dtexの繊度でカット長が3〜6mmの複合繊維(エアレイド用チョップ)をエアレイド法にて繊維ウェブとする場合は、捲縮数5〜15山/25mmの範囲で付与することが好ましい。捲縮のタイプとしては、ジグザグ形状やスパイラル構造のものを例示できる。
【0030】
本発明の複合繊維を不織布に加工するためには、繊維ウェブを形成した後に、熱処理を行い、不織布化する手法を用いることが好ましい。繊維ウェブ形成法としてカード機を通過させるカーディング法、あるいは、スリットを設けた円柱状のドラムの中に繊維を投入し、このドラムを回転させてコンベア上に繊維を集積させるエアレイド法などを例示できるが、これらの方法に限定されない。これらの形成法を用いる場合、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、他の繊維を混綿することができる。混綿できる繊維として、例えば、保水性を向上させるためのレーヨンやコットン、不織布を更に嵩高にするためのポリエチレンテレフタレートを成分とする中空繊維などを挙げることができる。
これらの繊維ウェブ形成法で所望の目付の繊維ウェブを形成した後、繊維ウェブを熱処理して不織布化する場合には、熱処理を行う前に、水流や圧縮空気、ニードルによって繊維ウェブ中の繊維を交絡させるスパンレース法やニードルパンチ法を用いて、強度向上や風合いを変化させることができる。
熱処理法としては、熱風接着法、熱水接着法、熱ロール接着法、などの方法を例示できる。中でも、本発明の複合繊維を繊維ウェブに形成した後に行う熱処理法として、熱風接着法や熱水接着法が好ましい。
【0031】
熱風接着法は、加熱した空気を繊維ウェブ中に通して複合繊維の低融点成分を軟化、溶融させて繊維交絡部分を接着する方法であって、熱ロール接着法のように一定面積を押しつぶして嵩高さを損じる接着法ではないため、本発明の課題である嵩高で地合、風合いの良好な不織布を提供するのに適した接着法である。
この熱風接着法は、嵩高で風合いの良好な不織布を得るために適した接着法である。従来、特に、2つの成分で構成された一般的な半月形状組み合わせ型の並列断面を持つ短繊維のカットされた複合繊維ウェブを熱風接着法で熱処理すると、コンベア上での繊維ウェブの自由度が高いために、他の接着法に比べて収縮が大きくなりやすく、地合や風合いの良好な不織布が得られにくい。一方本発明の複合繊維は、不織布化のための熱処理による収縮が効果的に抑制されているために、特にこの熱風接着法において好適に用いることができるものであり、熱風接着法により本来的にもたらされる嵩高性という優位性を維持しつつ、風合いに優れた不織布の提供を可能とするものである。
【0032】
熱水接着法は、熱水や蒸気が繊維ウェブの中を通過することで複合繊維の低融点成分を軟化、溶融させ、繊維交絡部分を接着する方法である。本発明の複合繊維は、70℃〜100℃の融点を持つエチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分が繊維周面の過半を占めているために、本来的に100℃以下での熱処理となる熱水接着法の適用が可能となる。この接着法に用いられる媒体は、熱水や蒸気といった比較的安価で、特殊な設備を必要としないものであり、このような媒体で処理を行うことで、不織布化と同時に本発明の複合繊維の表面に塗布されている処理剤をほとんど洗い落とすことができる。繊維表面に塗布されている処理剤は、複合繊維(ステープルファイバー及びエアレイド用チョップ等)製造工程においては欠かせないものであるが、用途によっては、不織布化や成形加工の後に不必要、または障害となることがある。例えば、食品に直接触れる食品保護シートや包材やトレイ、化粧品を含侵させる化粧パフ、薬剤を患部に塗布するためのスティックなどである。繊維表面の処理剤を安全な食品添加物やそれに準じた成分で構成する手法や、不織布や成形体となった後で、洗浄工程を設けて処理剤を落とす手法もあるが、人体に安全な成分で処理剤を構成しても、化粧品や薬剤への影響が無くなるわけではなく、製品として安定した性能を保持するためには、不織布や成形体に処理剤ができるだけ残っていないことが望ましい。また、不織布や成形体に加工した後で更に洗浄工程を経るのは、設備や時間の追加であって、コスト面で不利である。
従って、上記のような用途に対し、嵩高であって、処理剤がほとんど付着していないか処理剤の付着量が前記不具合を引き起こさない程度に有効に軽減された不織布や成形体を低コストで効率よく提供できるという点において、熱水接着法を採用可能な本発明の複合繊維はその工業的意義が極めて大きいのである。本発明の複合繊維を用いて、熱水接着法によって不織布化、成形加工する、または、一旦熱風接着法で熱処理し不織布としたものを熱水接着法で成形加工するのがもっとも好ましい。
【0033】
本発明の複合繊維を不織布に加工した場合の不織布の目付は、使用目的によって適宜選ぶことができる。例えば、食品包材の用途では、20〜50g/m2の範囲で選択することが望ましく、化粧パフや薬剤含侵シートなどの用途では30〜150g/m2の範囲で選択することが望ましく、また、薬剤塗布用のスティックなどの用途では、50〜250g/m2の範囲が適している。
また、本発明の複合繊維を不織布に加工した場合の不織布の嵩高さは、比容積で算出して、20cm3/g以上のものが容易に得られ、30cm3/g以上のものも好適に得ることができる。
【0034】
本発明の複合繊維を不織布に加工した場合、目的に応じて、該不織布に他の不織布や繊維ウェブ、熱可塑性フィルム、シートなどを積層してもかまわない。低融点の通気性フィルム、開孔フィルムや開孔不織布との貼り合わせや、エラストマー、他のエチレン・α−オレフィン共重合体から成る伸縮性不織布との積層などを例示できる。
【0035】
本発明において、「成形体」とは、本発明の複合繊維を用いて不織布化工程を経ずに加工し得られた加工品、及び、不織布化工程を経て加工し得られた加工品を言う。不織布化工程を経ずに加工される場合、カーディング法等で得られた所望の目付の繊維ウェブをスライバー状にして、特定の型に入れ、その状態で熱処理を行うことで、「成形体」を得ることができる。不織布化工程を経て加工する場合、本発明の複合繊維をカーディング法またはエアレイド法等により所望の目付の繊維ウェブにして、これを熱風接着法などで一旦不織布化し、得られた不織布を所望の目付や厚みになるように重ね合わせたり、カットして組み合わせた後に、さらに、熱風接着法や熱水接着法を用いて一体化させて「成形体」を得ることができる。また、本発明の複合繊維を用いて不織布化した後、所望の目付や厚みになるように不織布を重ね合わせたり、カットして組み合わせたものを特定の型に入れ、その状態で熱処理を行い、「成形体」を得ることもできる。
本発明の複合繊維を用いて得られた「成形体」は、その一部分をカットしたり、更に熱処理を行うなど、2次加工も容易にできる。
本発明の複合繊維は、化粧用パフや薬剤塗布シート、解熱シート、食品トレイ、クッション材、緩衝材、家庭用芳香剤等の芯材、加湿器等の保液材、育苗シート、ワイパー、などの用途に好適に使用できる。
【実施例】
【0036】
次に実施例と比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本明細書、特に実施例と比較例、及び以下の表1〜3において用いられる用語の定義及び測定方法は以下の通りである。
(1)メルトインデックス
MI:ASTM D−1238に準じて190℃、21.2Nの条件で測定を行った。
なお、表中に示した数値は、樹脂を測定したものである。(単位:g/min)
(2)密度
JIS K7112に準じて測定を行った。
なお、表中に示した数値は、樹脂を測定したものである。(単位:g/cm3
【0037】
(3)分子量分布(Mw/Mn)
重量平均分子量を数平均分子量との比であり、ゲルパーミエイションクロマトグラフ法によって求められる。Waters製「GPC−150C」を用いて測定した。(カラム:東ソー製TSKgel GMH6−HT 7.5cmI.D.×60cm 1本)
なお、表中の数値は原料樹脂について測定した値である。
(4)融点
樹脂が溶融する温度を示し、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定する。(単位:℃)
ティー・エイ・インスツルメント製のDSC「Q−10」を用いて測定した。樹脂を4.20〜4.80mgの質量になるようにカットし、これをサンプルパンに充填し、カバーした。N2パージ内で30℃〜200℃まで、10℃/minの昇温速度で測定し、溶融チャートを得た。チャートを解析し溶融ピーク温度を求めた。
(5)メルトマスフローレイト(MFR)
JIS K7210に準じて230℃、21.2Nの条件で測定を行った。
なお、表中に示した数値は、原料樹脂について測定した値である。(単位:g/min)
【0038】
(6)繊度、繊維径
繊維の太さを示し、単位長さ当たりの重量から算出される。(単位:dtex)
繊維の長さが60mmよりも充分に長い場合は、繊維の束を60mmにカットし、カットした繊維150本分の重量を島津製作所製電子天秤「AEL-40SM」を用いて計量した。その数値を1111倍して繊度とした。繊維の長さが充分でない場合は、走査型電子顕微鏡を用いて観察し、得られた画像から繊維100本を任意で選び、それらの直径を測定した。直径の平均値と繊維の比重から繊度を算出した。
【0039】
(7)繊維断面外周長に対する第1成分の占有率等、断面形状観察
繊維軸に直角な繊維断面の繊維外周長に対する、第1成分の占有率(%)や、繊維軸に直角な繊維断面において、第1成分側に向かって凸状に湾曲する曲線を描く第1成分と第2成分との境界線が繊維外周と交わる2つの交点をaとbとし、このaとbを結ぶ線分abを2等分する点cを通り、該線分abと直角する方向に伸びる直線が、第1成分と第2成分との境界線と交わる点をd、第2成分側の繊維外周と交わる点をeとしたときの、線分ceの長さに対する繊維cdの長さの比(cd/ce)、また、第1成分側に向かって凸状に湾曲する曲線を描く第1成分と第2成分との境界線を、第2成分の外周が描く円または楕円の外周の一部とみなしたとき、第2成分によって描かれるべき円または楕円の全外周長hに対するこの境界線の長さgの比(g/h)、さらに、第2成分によって描かれるべき円または楕円の直径または長軸の両端が、該複合繊維の繊維軸に直角な繊維断面内に存在している場合の当該直径または長軸の長さfと、線分abの長さの長短の関係については、複合繊維を長さ方向に対して直角にカットし、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡によって観察し求めた。
NIKON製光学顕微鏡または日本電子データム(株)製走査型電子顕微鏡「JSM−T220」を用いて観察を行った。得られた画像から各成分が繊維表面に露出している部分の長さを測定し、次式に当てはめて算出した。なお、繊維断面において第1成分と第2成分の区別は、繊維を長さ方向に対して直角にカットした状態で熱処理を行って確認できる。例えば、カット後の繊維を100℃のオーブンドライヤー内に放置し、第1成分を軟化、溶融させた後に光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡にて観察して、繊維断面のどの部分が第1成分であるかを確認する。
第1成分の周面の長さ(%)=(L1/L)×100
1:第1成分の周面の長さ
L:繊維断面の周面の全長
【0040】
(8)熱収縮率
繊維ウェブについて、熱処理前後の単位長さの変化(減少率)を示し、変化量と単位長さの比から算出する。(単位:%)
ミニチュアカード機を通過させて採取した繊維ウェブ200g/m2を、250mm×250mmの型紙を用いて、繊維の流れ方向(MD)とその流れ方向に直角な方向(CD)において、それぞれこの型紙に沿うようにカットした。10分放置後、次いで、カットした繊維ウェブを、クラフト紙(350mm×700mm)の上に置き、MDの長さを測定した。その後、クラフト紙を2つ折りにして繊維ウェブの上を軽く覆うようにした状態にし、そのまま SANYO製コンベクションオーブン(循環熱風式)に入れ、100℃、5分間熱処理を行った。処理終了後ドライヤーから出し、室温で5分間放冷して、再度MDの長さを測った。次式に当てはめて熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)={(L0−L)/L0}×100
0:熱処理前のMDの長さ
L:熱処理後のMDの長さ
【0041】
(9)目付
不織布及び繊維ウェブの単位当たりの質量を示し、一定面積で切り出された不織布または繊維ウェブの質量から算出される。(単位:g/m2
250mm×250mmに切り出した不織布を、A&D社製上皿電子天秤「HF-200」で軽量し、その数値を16倍して目付を算出した。
(10)嵩高さ(比容積)
不織布の単位体積当たりの重量を示し、目付測定と厚み測定から算出される。(単位:cm3/g)
不織布の厚みを、東洋精機製作所製「デジシックネステスター」を用いて、アンビル荷重2g/cm2、速度2mm/secの条件で測定し、その数値(mm)と目付(g/m2)から算出した。
(11)風合い
不織布の、見た目の地合と、手触りによる柔らかさ、こし、ふくらみなどを総合的に判断したもの。
パネラーによる官能試験によって判断した。「良好」、「普通」、「悪い」の3段階の基準で評価した。
【0042】
以下に実施例1〜6及び比較例1〜6を説明し、それらの結果を表1〜3にまとめる。
[実施例1]
第1成分は、メタロセン触媒を用いて重合されたエチレン・α−オレフィン共重合体で、α−オレフィンはオクテン−1であり、共重合体中に10モル%含有されていた。その密度は0.880、融点は72℃、メルトインデックス(MI)は18g/10min、分子量分布(Mw/Mn)は1.9である。第2成分は、メルトマスフローレイト(MFR)が8g/10minで融点が160℃の結晶性ポリプロピレンである。
これら2つの成分を構成成分として、並列型複合口金を用い、第1成分/第2成分=50/50の容積比で、第1成分側200℃、第2成分側260℃の押出温度(設定温度)の条件で溶融紡糸を行った。巻き取る際に、ソルビタン脂肪酸エステル及びラウリルホスフェートカリウム塩のエチレンオキサイド付加物を主成分とする帯電防止剤を付着させた。紡糸性は良好であった。得られた繊度6.5dtexの紡糸複合フィラメントを55℃の加熱ロールを備えた加熱装置を用いて1.7倍に延伸し、捲縮付与装置で捲縮を付与した後、38mmにカットして、繊度4.4dtex(繊維径25.2μm)の複合繊維(ステープルファイバー)を得た。
【0043】
第1成分について、密度、融点、メルトインデックス(MI)、分子量分布(Mw/Mn)を、上記(1)〜(4)の測定方法に準拠して測定した。第2成分について、融点、メルトマスフローレイト(MFR)を、上記(4)、(5)の測定方法に準拠して測定した。それらの結果を表1の構成成分の項目に示す。得られた複合繊維(ステープルファイバー)の繊維物性を上記(6)、(7)の測定方法に準拠して測定を行った。それらの結果を繊維断面の概略図とともに表1の糸質の項目に示す。繊維軸と直角する方向の繊維断面において、成分間の剥離は見られなかった。さらに、cd/ce=7.5、f>abであり、g/h=0.80であった。
得られた複合繊維(ステープルファイバー)100gを、500mm幅のミニチュアカード機に投入して繊維ウェブを採取した。カード工程での繊維通過性は良好であった。この繊維ウェブについて熱収縮率を上記(8)の測定方法に準拠して測定を行った。その結果を表1の糸質の項目に示す。また、得られた複合繊維(ステープルファイバー)50gを500mm幅のミニチュアカード機に投入して繊維ウェブとした。この繊維ウェブを熱風循環式のスルーエア加工機を用いて、98℃の設定温度、熱風風速0.8m/sec、加工時間12secの条件で加工した。得られたスルーエア不織布の物性を上記(9)〜(11)の測定方法に準拠して測定及び評価を行った。それらの結果を表1の不織布物性の項目に示す。
得られた複合繊維(ステープルファイバー)を用いた繊維ウェブの熱収縮率は15%と低い数値になったため、熱風接着法での加工においても嵩高で、地合及び風合いの良好な不織布を得ることができた。
【0044】
[実施例2]
第1成分は、メタロセン触媒を用いて重合されたエチレン・α−オレフィン共重合体で、α−オレフィンはオクテン−1であり、共重合体中に9モル%含有されていた。その密度は0.885、融点は78℃、メルトインデックス(MI)は30g/10min、分子量分布(Mw/Mn)は2.0である。第2成分は、メルトマスフローレイト(MFR)が16g/10minで融点が160℃の結晶性ポリプロピレンである。
これら2つの成分を構成成分として、並列型複合口金を用い、第1成分/第2成分=50/50の容積比で、第1成分側200℃、第2成分側260℃の押出温度(設定温度)の条件で溶融紡糸を行った。巻き取る際に、ソルビタン脂肪酸エステル及びラウリルホスフェートカリウム塩のエチレンオキサイド付加物を主成分とする帯電防止剤を付着させた。紡糸性は良好であった。得られた繊度10.2dtexの紡糸複合フィラメントを60℃の加熱ロールを備えた加熱装置を用いて1.7倍に延伸し、捲縮付与装置で捲縮を付与した後、38mmにカットして、繊度7.0dtex(繊維径31.7μm)の複合繊維(ステープルファイバー)を得た。
【0045】
第1成分について、密度、融点、メルトインデックス(MI)、分子量分布(Mw/Mn)を、上記(1)〜(4)の測定方法に準拠して測定した。第2成分について、融点、メルトマスフローレイト(MFR)を、上記(4)、(5)の測定方法に準拠して測定した。それらの結果を表1の構成成分の項目に示す。得られた複合繊維(ステープルファイバー)の繊維物性を上記(6)、(7)の測定方法に準拠して測定を行った。それらの結果を繊維断面の概略図とともに表1の糸質の項目に示す。繊維軸と直角する方向の繊維断面において、成分間の剥離は見られなかった。さらに、cd/ce=6.0、f>abであり、g/h=0.75であった。
得られた複合繊維(ステープルファイバー)100gを、500mm幅のミニチュアカード機に投入して繊維ウェブを採取した。カード工程での繊維通過性は良好であった。この繊維ウェブについて熱収縮率を上記(8)の測定方法に準拠して測定を行った。その結果を表1の糸質の項目に示す。得られた複合繊維(ステープルファイバー)50gを500mm幅のミニチュアカード機に投入して繊維ウェブとし、これら繊維ウェブを熱風循環式のスルーエア加工機を用いて、98℃の設定温度、熱風風速0.8m/sec、加工時間12secの条件で加工した。得られたスルーエア不織布の物性を上記(9)〜(11)の測定方法に準拠して測定及び評価を行った。それらの結果を表1の不織布物性の項目に示す。
得られた複合繊維(ステープルファイバー)を用いた繊維ウェブの熱収縮率は17%と低い数値になったため、熱風接着法での加工においても嵩高で、地合及び風合いの良好な不織布を得ることができた。
【0046】
[実施例3]
第1成分は、メタロセン触媒を用いて重合されたエチレン・α−オレフィン共重合体で、α−オレフィンはオクテン−1であり、共重合体中に5モル%含有されていた。その密度は0.902、融点は98℃、メルトインデックス(MI)は30g/10min、分子量分布(Mw/Mn)は2.1である。第2成分は、メルトマスフローレイト(MFR)が16g/10minで融点が160℃の結晶性ポリプロピレンである。
これら2つの成分を構成成分として、並列型複合口金を用い、第1成分/第2成分=45/55の容積比で、第1成分側200℃、第2成分側260℃の押出温度(設定温度)の条件で溶融紡糸を行った。巻き取る際に、ソルビタン脂肪酸エステル及びラウリルホスフェートカリウム塩のエチレンオキサイド付加物を主成分とする帯電防止剤を付着させた。紡糸性は良好であった。得られた繊度10.0dtexの紡糸複合フィラメントを70℃の加熱ロールを備えた加熱装置を用いて2.6倍に延伸し、捲縮付与装置で捲縮を付与した後、38mmにカットして、繊度4.4dtex(繊維径25.0μm)の複合繊維(ステープルファイバー)を得た。
【0047】
第1成分について、密度、融点、メルトインデックス(MI)、分子量分布(Mw/Mn)を、上記(1)〜(4)の測定方法に準拠して測定した。第2成分について、融点、メルトマスフローレイト(MFR)を、上記(4)、(5)の測定方法に準拠して測定した。それらの結果を表1の構成成分の項目に示す。得られた複合繊維(ステープルファイバー)の繊維物性を上記(6)、(7)の測定方法に準拠して測定を行った。それらの結果を繊維断面の概略図とともに表1の糸質の項目に示す。繊維軸と直角する方向の繊維断面において、成分間の剥離は見られなかった。さらに、cd/ce=3.0、f>abであり、g/h=0.70であった。
得られた複合繊維(ステープルファイバー)100gを、500mm幅のミニチュアカード機に投入して繊維ウェブを採取した。カード工程での繊維通過性は良好であった。この繊維ウェブについて熱収縮率を上記(8)の測定方法に準拠して測定を行った。その結果を表1の糸質の項目に示す。得られた複合繊維(ステープルファイバー)50gを500mm幅のミニチュアカード機に投入して繊維ウェブとし、この繊維ウェブを熱風循環式のスルーエア加工機を用いて、98℃の設定温度、熱風風速0.8m/sec、加工時間12secの条件で加工した。得られたスルーエア不織布の物性を上記(9)〜(11)の測定方法に準拠して測定及び評価を行った。それらの結果を表1の不織布物性の項目に示す。
得られた複合繊維(ステープルファイバー)を用いた繊維ウェブの熱収縮率は28%と低い数値になったため、熱風接着法での加工においても嵩高で、地合及び風合いの良好な不織布を得ることができた。
【0048】
[実施例4]
実施例3と同じ成分構成で、同条件の紡糸と延伸を行い、捲縮付与装置で捲縮を付与した後、5mmにカットして、繊度4.4dtex(繊維径25.0μm)の複合繊維(エアレイド用チョップ)を得た。
得られた複合繊維(エアレイド用チョップ)200gを一対のフォーミングヘッドを一個有するエアレイド機に投入し、エアレイド法にて繊維ウェブとした。エアレイド機からの繊維排出性は良好であった。この繊維ウェブを熱風循環式のスルーエア加工機を用いて、98℃の設定温度、熱風風速0.38m/sec、加工時間14secの条件で熱風接着加工した。得られたスルーエア不織布の物性を上記(9)〜(11)の測定方法に準拠して測定及び評価を行った。それらの結果を表1の不織布物性の項目に示す。
得られた複合繊維を、エアレイド法で繊維ウェブにして熱風接着法で加工したところ、嵩高で、収縮が抑制され、地合及び風合いの良好な不織布を得ることができた。
【0049】
[比較例1]
第1成分は、エチレン・α−オレフィン共重合体で、α−オレフィンはオクテン−1であり、共重合体中に2モル%含有されていた。その密度は0.913、融点は107℃、メルトインデックス(MI)は30g/10min、分子量分布(Mw/Mn)は3.0である。第2成分は、メルトマスフローレイト(MFR)が16g/10minで融点が160℃の結晶性ポリプロピレンである。
これら2つの成分を構成成分として、並列型複合口金を用い、第1成分/第2成分=50/50の容積比で、第1成分側200℃、第2成分側260℃の押出温度(設定温度)の条件で溶融紡糸を行い、第1成分と第2成分の境界線が、第1成分側に向かって凸状に湾曲した曲線を描く繊維断面構造を持つ複合繊維を製造した。巻き取る際に、ソルビタン脂肪酸エステル及びラウリルホスフェートカリウム塩のエチレンオキサイド付加物を主成分とする帯電防止剤を付着させた。紡糸性は良好であった。得られた繊度11.5dtexの紡糸複合フィラメントを70℃の加熱ロールを備えた加熱装置を用いて3.3倍に延伸し、捲縮付与装置で捲縮を付与した後、38mmにカットして、繊度3.8dtex(繊維径23.2μm)の複合繊維(ステープルファイバー)を得た。
【0050】
第1成分について、密度、融点、メルトインデックス(MI)、分子量分布(Mw/Mn)を、上記(1)〜(4)の測定方法に準拠して測定した。第2成分について、融点、メルトマスフローレイト(MFR)を、上記(4)、(5)の測定方法に準拠して測定した。それらの結果を表2の構成成分の項目に示す。得られた複合繊維(ステープルファイバー)の繊維物性を上記(6)、(7)の測定方法に準拠して測定を行った。それらの結果を繊維断面の概略図とともに表2の糸質の項目に示す。さらに、繊維軸と直角する方向の繊維断面において、cd/ce=3.5、f>abであり、g/h=0.55であった。
得られた複合繊維(ステープルファイバー)100gを、500mm幅のミニチュアカード機に投入して繊維ウェブを採取した。カード工程における繊維通過性は良好であった。これらの繊維ウェブについて熱収縮率を上記(8)の測定方法に準拠して測定を行った。その結果を表2の糸質の項目に示す。得られた複合繊維(ステープルファイバー)50gを500mm幅のミニチュアカード機に投入して繊維ウェブとし、これら繊維ウェブを熱風循環式のスルーエア加工機を用いて、98℃の設定温度、熱風風速0.8m/sec、加工時間12secの条件で加工したが、第1成分であるエチレン・オクテン−1共重合体の融点が高いため、98℃の加工温度では繊維交絡点が溶融せず、不織布化ができなかった。このように、本比較例1は、主に融点が107℃である点などにおいて上記実施例3記載のものと大きく相違するほかは、およそこの実施例3記載のものと類似の方法で製造したものであるが、得られたものは、熱水接着法を採用できるほどの低温での不織布化処理や成形加工を可能ならしめる複合繊維ではなかった。よって、予定していた、低温加工を前提とした100℃での繊維ウェブの収縮率の評価も、もはやその測定の意味を失うものであった。
【0051】
[比較例2]
第1成分は、エチレン・α−オレフィン共重合体で、α−オレフィンはプロピレンとブテンであり、それぞれの含有量は、共重合体中で3モル%、および、3モル%であった。その密度は0.897、融点は81℃、メルトインデックス(MI)は4g/10min、分子量分布(Mw/Mn)は2.0である。第2成分は、メルトマスフローレイト(MFR)が8g/10minで融点が160℃の結晶性ポリプロピレンである。
これら2つの成分を構成成分として、並列型複合口金を用い、第1成分/第2成分=50/50の容積比で、第1成分側220℃、第2成分側260℃の押出温度(設定温度)の条件で溶融紡糸を行った。巻き取る際に、ソルビタン脂肪酸エステル及びラウリルホスフェートカリウム塩のエチレンオキサイド付加物を主成分とする帯電防止剤を付着させたが、巻き取った紡糸複合フィラメントを確認したところ、少し膠着が発生していた。膠着が見られたものの、得られた繊度9.8dtexの紡糸複合フィラメントを60℃の加熱ロールを備えた加熱装置を用いて1.7倍に延伸し、捲縮付与装置で捲縮を付与した後、38mmにカットして、繊度6.8dtex(繊維径31.1μm)の複合繊維(ステープルファイバー)を得た。
【0052】
第1成分について、密度、融点、メルトインデックス(MI)、分子量分布(Mw/Mn)を、上記(1)〜(4)の測定方法に準拠して測定した。第2成分について、融点、メルトマスフローレイト(MFR)を、上記(4)、(5)の測定方法に準拠して測定した。それらの結果を表2の構成成分の項目に示す。得られた複合繊維(ステープルファイバー)の繊維物性を上記(6)、(7)の測定方法に準拠して測定を行った。それらの結果を繊維断面の概略図とともに表2の糸質の項目に示す。第1成分のメルトインデックス(MI)が低いため、繊維軸と直角する方向の繊維断面において、第1成分と第2成分の境界線が、第2成分側に向かって凸状に湾曲する曲線を描くようになってしまった。そのため、cd/ceは測定出来ず、f、g/hも測定出来なかった。また、成分間での剥離が見られた。
得られた複合繊維(ステープルファイバー)100gを、500mm幅のミニチュアカード機に投入して繊維ウェブを採取した。カード工程での繊維通過性は、繊維排出性に斑が発生したため、良くなかった。この繊維ウェブについて熱収縮率を上記(8)の測定方法に準拠して測定を行った。それらの結果を表2の糸質の項目に示す。得られた複合繊維(ステープルファイバー)50gを500mm幅のミニチュアカード機に投入して繊維ウェブとし、これら繊維ウェブを熱風循環式のスルーエア加工機を用いて、98℃の設定温度、熱風風速0.8m/sec、加工時間12secの条件で加工したが、収縮が大きく、不織布強度が低く、地合、風合いの良好な不織布を得ることができなかった。得られた複合繊維を用いた繊維ウェブの熱収縮率は55%と高かった。
【0053】
[比較例3]
第1成分は、エチレン・α−オレフィン共重合体で、α−オレフィンはプロピレンであり、共重合体中に15モル%含有されていた。その密度は0.863、融点は50℃、メルトインデックス(MI)は21g/10min、分子量分布(Mw/Mn)は2.0である。第2成分は、メルトマスフローレイト(MFR)が16g/10minで融点が160℃の結晶性ポリプロピレンである。
これら2つの成分を構成成分として、並列型複合口金を用い、第1成分/第2成分=50/50の容積比で、第1成分側220℃、第2成分側260℃の押出温度(設定温度)の条件で溶融紡糸を行った。しかし、巻き取る際に、紡糸複合フィラメントが膠着を起こし、延伸を行えるような紡糸複合フィラメントが採取できなかった。当該比較例に関して、表2に記した繊維断面の模式図は、膠着した複合紡糸フィラメントから何とか採取して観察したものである。第1成分のメルトインデックス(MI)が第2成分のメルトマスフローレイト(MFR)に対して有意的に低いため、繊維軸と直角方向の繊維断面において、第1成分と第2成分の境界線が直線状、いわゆる両複合成分がともに半月状の複合断面となっていた。繊維軸と直角する方向の繊維断面において、cd/ce=0であって、複合成分間には剥離が見られた。
第1成分について、密度、融点、メルトインデックス(MI)、分子量分布(Mw/Mn)を、上記(1)〜(4)の測定方法に準拠して測定した。第2成分について、融点、メルトマスフローレイト(MFR)を、上記(4)、(5)の測定方法に準拠して測定した。それらの結果を表2の構成成分の項目に示す。
【0054】
[比較例4]
第1成分として、2つの樹脂をブレンドしたものを使用した。1つはエチレン・α−オレフィン共重合体で、α−オレフィンはプロペンであり、共重合体中に12モル%含有されていた。その密度は0.870、融点は75℃、メルトインデックス(MI)は1g/10min、分子量分布(Mw/Mn)は1.9である。もう1つは、プロピレン・α−オレフィン共重合体で、α−オレフィンはエチレンとブテン−1であり、それらの含有量は、共重合体中で共に1モル%であった。その融点は128℃、メルトマスフローレイト(MFR)は16g/10minである。この2つの樹脂を質量比20/80の割合でブレンドした。なお、表2には、より低融点の樹脂であるエチレン・プロペン共重合体の物性を記す。第2成分は、メルトマスフローレイト(MFR)が8g/10minで融点が160℃の結晶性ポリプロピレンである。
これら2つの成分を構成成分として、並列型複合口金を用い、第1成分/第2成分=50/50の容積比で、第1成分側200℃、第2成分側260℃の押出温度(設定温度)の条件で溶融紡糸を行い、第1成分と第2成分の境界線が、第1成分側に向かって凸状に湾曲した曲線を描く繊維断面構造を持つ複合繊維を製造した。巻き取る際に、ソルビタン脂肪酸エステル及びラウリルホスフェートカリウム塩のエチレンオキサイド付加物を主成分とする帯電防止剤を付着させた。紡糸性は良好であった。得られた繊度9.7dtexの紡糸複合フィラメントを60℃の加熱ロールを備えた加熱装置を用いて2.6倍に延伸し、捲縮付与装置で捲縮を付与した後、38mmにカットして、繊度4.4dtex(繊維径25.1μm)の複合繊維(ステープルファイバー)を得た。
【0055】
第1成分について、密度、融点、メルトインデックス(MI)、分子量分布(Mw/Mn)を、上記(1)〜(4)の測定方法に準拠して測定した。第2成分について、融点、メルトマスフローレイト(MFR)を、上記(4)、(5)の測定方法に準拠して測定した。それらの結果を表2の構成成分の項目に示す。得られた複合繊維(ステープルファイバー)の繊維物性を上記(6)、(7)の測定方法に準拠して測定を行った。それらの結果を繊維断面の概略図とともに表2の糸質の項目に示す。さらに、繊維軸と直角する方向の繊維断面において、cd/ce=0.2、g/h<0.5であった。
得られた複合繊維(ステープルファイバー)100gを、500mm幅のミニチュアカード機に投入して繊維ウェブを採取した。カード工程での繊維通過性は良好であった。得られた繊維ウェブについて熱収縮率を上記(8)の測定方法に準拠して測定を行った。それらの結果を表2の糸質の項目に示す。得られた複合繊維(ステープルファイバー)50gを500mm幅のミニチュアカード機に投入して繊維ウェブとし、これら繊維ウェブを熱風循環式のスルーエア加工機を用いて、98℃の設定温度、熱風風速0.8m/sec、加工時間12secの条件で加工したが、収縮が大きく、地合、風合いの良好な不織布を得ることができなかった。得られた複合繊維を用いた繊維ウェブの熱収縮率は65%と高かった。
【0056】
[比較例5]
第1成分として、2つの樹脂をブレンドしたものを使用した。1つは低密度ポリエチレンである。その密度は0.918、融点は105℃、メルトインデックス(MI)は24g/10min、分子量分布が7.0である。もう1つは、エチレン・酢酸ビニル共重合体である。酢酸ビニル量は20質量%で、その密度は0.939、融点は92℃、メルトインデックス(MI)は20g/10min、分子量分布(Mw/Mn)は5.0である。この2つの樹脂を質量比75/25の割合でブレンドした。なお、表3には、より低融点の樹脂であるエチレン・酢酸ビニル共重合体の物性を記す。第2成分は、メルトマスフローレイト(MFR)が8g/10minで融点が160℃の結晶性ポリプロピレンである。
これら2つの成分を構成成分として、並列型複合口金を用い、第1成分/第2成分=50/50の容積比で、第1成分側200℃、第2成分側260℃の押出温度(設定温度)の条件で溶融紡糸を行い、第1成分と第2成分の境界線が、第1成分側に向かって凸状に湾曲した曲線を描く繊維断面構造を持つ複合繊維を製造した。巻き取る際に、ソルビタン脂肪酸エステル及びラウリルホスフェートカリウム塩のエチレンオキサイド付加物を主成分とする帯電防止剤を付着させた。紡糸の際に糸切れが多く発生した。得られた繊度9.7dtexの紡糸複合フィラメントを60℃の加熱ロールを備えた加熱装置を用いて2.6倍に延伸し、捲縮付与装置で捲縮を付与した後、38mmにカットして、繊度3.3dtex(繊維径21.5μm)の複合繊維(ステープルファイバー)を得た。
【0057】
第1成分について、密度、融点、メルトインデックス(MI)、分子量分布(Mw/Mn)を、上記(1)〜(4)の測定方法に準拠して測定した。第2成分について、融点、メルトマスフローレイト(MFR)を、上記(4)、(5)の測定方法に準拠して測定した。それらの結果を表3の構成成分の項目に示す。得られた複合繊維(ステープルファイバー)の繊維物性を上記(6)、(7)の測定方法に準拠して測定を行った。それらの結果を繊維断面の概略図とともに表3の糸質の項目に示す。さらに、繊維軸と直角する方向の繊維断面において、cd/ce=9.5、f>abであり、g/h=0.86であった。
得られた複合繊維(ステープルファイバー)100gを、500mm幅のミニチュアカード機に投入して繊維ウェブを採取した。カード工程における繊維通過性は、繊維の排出に斑が発生したため、良くなかった。得られた繊維ウェブについて熱収縮率を上記(8)の測定方法に準拠して測定を行った。それらの結果を表3の糸質の項目に示す。得られた複合繊維(ステープルファイバー)50gを500mm幅のミニチュアカード機に投入して繊維ウェブとし、これら繊維ウェブを熱風循環式のスルーエア加工機を用いて、98℃の設定温度、熱風風速0.8m/sec、加工時間12secの条件で加工したが、収縮が大きく、地合、風合いの良好な不織布を得ることができなかった。
得られた複合繊維を用いた繊維ウェブの熱収縮率は60%と高かった。
【0058】
[比較例6]
比較例5と同じ成分構成で、同条件の紡糸と延伸を行い、捲縮付与装置で捲縮を付与した後、5mmにカットして、繊度3.3dtex(繊維径21.5μm)の複合繊維(エアレイド用チョップ)を得た。
得られた複合繊維(エアレイド用チョップ)200gを一対のフォーミングヘッドを一個有するエアレイド機に投入し、エアレイド法にて繊維ウェブとしたが、エアレイド機からの繊維排出性は良くなかった。得られた繊維ウェブを熱風循環式のスルーエア加工機を用いて、98℃の設定温度、熱風風速0.38m/sec、加工時間14secの条件で熱風接着加工したが、当該98℃での熱風接着は可能であったものの、収縮が発生し、地合、風合いの良好な不織布を得ることができなかった。結果を表3に示す。
【0059】
[実施例5]
実施例3で得た複合繊維(ステープルファイバー)を、カーディング法にて繊維ウェブとし、この繊維ウェブを棒状のスライバーにした。スライバーにした繊維ウェブを、線径0.29mmの20メッシュの金網で出来た筒状の型(10mm×10mm×60mm)に充填し、その状態で循環式のスルーエア加工機を用いて、98℃の設定温度、熱風風速1.2m/sec、加工時間12secの条件で熱風接着加工して、直方体状の繊維成形体を得た。得られた繊維成形体は、クッション性に優れていた。
【0060】
[実施例6]
実施例4で得た複合繊維(エアレイド用チョップ)を用いて、エアレイド法にて目付50g/m2の繊維ウェブとし、この繊維ウェブを循環式のスルーエア加工機を用いて、98℃の設定温度、熱風風速0.38m/sec、加工時間14secの条件で熱風接着加工した。得られたスルーエア不織布を内径8mmのガラス管の中に充填し、その状態のまま沸騰水の中に入れ、2分間煮沸した。煮沸後、冷却させて、円柱状の繊維成形体を得た。得られた繊維成形体は、適度に柔軟で繊維密度のばらつきが少なく、液体の保液等に適したものであった。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の複合繊維は、特定の性質を持つエチレン・α−オレフィン共重合体を含む第1成分と結晶性プロピレンを含む第2成分とで並列型断面を構成しているものであって、低温加工性を持ち、熱収縮率が低いことから、100℃以下の熱処理温度で、嵩高で地合、風合いの良好な不織布及び成形体を製造するのに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が70〜100℃のエチレン・α−オレフィン共重合体を少なくとも75質量%含む第1成分と、結晶性ポリプロピレンを含む第2成分が、並列型断面を構成してなる複合繊維であって、繊維軸に直角な繊維断面において、第1成分が、繊維外周の55〜90%を占め、第1成分と第2成分との境界線が、第1成分側に向かって凸状に湾曲する曲線を描いており、第1成分と第2成分との面積比率(第1成分/第2成分)が、70/30〜30/70の範囲であることを特徴とする複合繊維。
【請求項2】
エチレン・α−オレフィン共重合体の分子量分布(Mw/Mn)が1.5〜2.5で、密度が0.87〜0.91g/cm3、ASTM D−1238に準じて、温度190℃、荷重21.2Nの条件で測定したメルトインデックス(MI)が10〜35g/10minである、請求項1に記載の複合繊維。
【請求項3】
100℃で5分間熱処理したときの熱収縮率が50%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合繊維。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の複合繊維を不織布化処理して得られた不織布。
【請求項5】
不織布化処理が、熱風接着法、又は熱水接着法である、請求項4に記載の不織布。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載の複合繊維を用いて得られた成形体。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の不織布を用いて得られた成形体。

【図1】
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【公表番号】特表2011−506778(P2011−506778A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523227(P2010−523227)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【国際出願番号】PCT/JP2008/073148
【国際公開番号】WO2009/078479
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】