説明

低温液化ガス供給装置及び方法

【課題】低温液化ガスの蒸発ロスを低減し、液化ガスポンプを迅速に再起動でき、キャビテーションも回避できる低温液化ガス供給装置及び方法を提供する。
【解決手段】ポンプ入口経路13を介して低温液化ガス貯槽11から抜出した低温液化ガスをサブマージドポンプ12で昇圧して液化ガス供給経路14から液化ガス供給先に供給するとともに、サブマージドポンプのケーシング12a内で蒸発したガスをベント経路15から低温液化ガス貯槽の上部に戻しながら低温液化ガスを供給するにあたり、サブマージドポンプの起動前に、液化ガス供給経路から上方に向けて分岐したガス回収経路16のガス回収弁16Vを開いて液化ガス供給経路内のガスを低温液化ガス貯槽に回収した後、サブマージドポンプの起動直前乃至起動後にガス回収弁を閉じて低温液化ガスの供給を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温液化ガス供給装置及び方法に関し、詳しくは、低温液化ガス貯槽に貯留された液体窒素、液体アルゴン、液化天然ガス等の低温液化ガスを液化ガスポンプであるサブマージドポンプで昇圧して供給する低温液化ガス供給装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、低温液化ガス貯槽に貯蔵した低温液化ガスを他の低温液化ガス貯槽やタンクローリーに移液したり、昇圧した低温液化ガスを蒸発させた後に高圧ガス容器に充填したりするため、低温液化ガス貯槽に貯蔵した低温液化ガスを貯槽下部からポンプ入口経路に抜き出し、液化ガスポンプで所定圧力に昇圧して液化ガス供給先に供給する低温液化ガス供給装置が用いられている。このような低温液化ガス供給装置における液化ガスポンプには、ポンプ部で蒸発したガスを低温液化ガス貯槽に戻すためのベント経路や、液化ガス供給経路の余剰な低温液化ガスを低温液化ガス貯槽に戻すためのバイパス経路、さらに、低温液化ガス貯槽内が一定圧力以上に上昇することを防止するための圧力調整弁等が設けられている。
【0003】
このような低温液化ガス供給装置では、低温液化ガスの供給を開始する前に、低温液化ガスが接触するポンプや配管等の機器をあらかじめ低温液化ガスの温度にまで冷却する予冷操作を行う必要がある。通常、この予冷操作は、ベント経路に設けられているベント弁やバイパス経路に設けられているバイパス弁を開いた後、ポンプ入口経路に設けられているポンプ入口弁を開いて低温液化ガス貯槽の下部から液化ガスポンプに低温液化ガスを導入し、ポンプ部や配管に接触して蒸発したガスをベント経路やバイパス経路を通して低温液化ガス貯槽の上部に回収することにより行われている。また、蒸発ガスの流入によって低温液化ガス貯槽内の圧力が設定圧力より上昇したときには、圧力調整弁が開いて貯槽内のガスを放出するようにしている。なお、低温液化ガス貯槽内の圧力が設定圧力より上昇したときに、蒸発したガスを再液化して低温液化ガス貯槽に戻すための再液化機が設置されている場合もある。また、予冷時に蒸発したガスを低温液化ガス貯槽に戻すことなく、大気中に放出することも行われていた。
【0004】
予冷操作が完了して液化ガスポンプから液化ガス供給弁の一次側まで低温液化ガスで満たされた後、液化ガスポンプを起動するとともに液化ガス供給弁を開くことにより、昇圧された低温液化ガスが液化ガス供給経路を通って液化ガス供給先に供給される。バイパス弁は、ポンプ運転中には常時開度調整されており、昇圧された低温液化ガスの余剰分がバイパス経路を通って低温液化ガス貯槽内に戻され、ポンプ部で蒸発したガスからなる気泡もベント経路を通って低温液化ガス貯槽内に回収される。
【0005】
低温液化ガスの供給を停止するときには、液化ガス供給弁を閉じるとともに液化ガスポンプを停止させ、ベント弁やバイパス弁、ポンプ入口弁は開いたままの待機状態としておくことにより、低温液化ガスの供給を再開するときに予冷操作を行わずに迅速に再起動できる。
【0006】
しかし、待機時間が長くなると、低温液化ガス貯槽に比べて断熱性能が低い配管部分等での外部からの熱侵入により、バイパス経路やベント経路、ポンプ入口経路で低温液化ガスが蒸発し、蒸発ガスがバイパス経路やベント経路を通って低温液化ガス貯槽内に流入するとともに、バイパス経路やベント経路における液面のバランスを保つために低温液化ガス貯槽内の低温液化ガスがポンプ入口経路を通ってこれらの経路内に流入する。これらの経路内に新たに流入した低温液化ガスも外部からの熱侵入によって蒸発するため、蒸発したガスが次々と低温液化ガス貯槽内に流入することになる。これにより、低温液化ガス貯槽内の圧力が次第に上昇し、貯槽内の圧力が所定圧力を超えると圧力調整弁が開いて貯槽内のガスを外部に放出することになるため、待機時間が長くなるのに伴って低温液化ガスの蒸発ロスが増加することになる。
【0007】
このため、先に本出願人は、ポンプ入口弁を閉じて低温液化ガス貯槽内の低温液化ガスが各経路内に新たに流入することを防止したり、待機中にポンプ入口弁を開いた状態のまま、ベント弁やバイパス弁を閉じてポンプ部や液化ガス供給経路等で蒸発したガスの圧力によってポンプ部及びその周辺の経路内の低温液化ガスを低温液化ガス貯槽内に逆流させたりすることにより、各経路等における低温液化ガスの蒸発ロスを低減することを提案している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−24166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ポンプ入口弁やベント弁等を閉じて待機する場合、蒸発ロスは低減できるものの、ポンプ部及びその周辺の経路から低温液化ガスが無くなってしまうと、これらの温度が上昇してしまうため、低温液化ガスの供給を再開するときに再び予冷操作を行わなければならず、ポンプを迅速に再起動することができないという問題があった。また、待機時間が短く、ポンプ部に低温液化ガスが残っていて温度上昇がほとんど無い場合でも、ポンプ部の周辺に蒸発ガスが存在すると、ポンプ起動時にキャビテーションが発生して吐出圧力が不安定になり、液化ガスポンプの部品が損傷するおそれがあるので、ポンプ付近の液化ガス供給経路にブロー弁を設け、ポンプ起動前に貴重な低温液化ガスを大気に放出することが行われていた。
【0009】
そこで本発明は、液化ガスポンプであるサブマージドポンプを停止させた待機状態のときに液化ガス供給経路で発生する蒸発ガスを効率よく液化ガス貯槽内へ回収することにより、低温液化ガスの蒸発ロスを低減できるとともに、液化ガスポンプの再起動を迅速に行うことができ、さらに、蒸発した低温液化ガスを大気中に放出せずにポンプ起動時のキャビテーションの発生も回避することができる低温液化ガス供給装置及び方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の低温液化ガス供給装置は、低温液化ガス貯槽と、低温液化ガスを昇圧するサブマージドポンプと、前記低温液化ガス貯槽の下部と前記サブマージドポンプのケーシングとをポンプ入口弁を介して接続するポンプ入口経路と、前記サブマージドポンプの吐出フランジと液化ガス供給先とを液化ガス供給弁を介して接続する液化ガス供給経路と、前記ケーシングのベントフランジと前記低温液化ガス貯槽の上部とをベント弁を介して接続するベント経路と、前記液化ガス供給経路における前記液化ガス供給弁の上流側と前記低温液化ガス貯槽の上部とをバイパス弁を介して接続するバイパス経路とを備えた低温液化ガス供給装置において、前記液化ガス供給経路から上方に向けて分岐したガス回収経路を設けるとともに、該ガス回収経路を、前記サブマージドポンプの起動前に開弁して起動直前乃至起動後に閉弁するガス回収弁を介して前記低温液化ガス貯槽の上部に接続したことを特徴とし、特に、前記ガス回収弁は、前記サブマージドポンプの起動後、該サブマージドポンプの定格回転数に達する時間の1/2の時間を経過した後に閉弁状態となることを特徴としている。
【0011】
また、本発明の低温液化ガス供給方法は、ポンプ入口弁を備えたポンプ入口経路を介して低温液化ガス貯槽の下部から抜出した低温液化ガスをサブマージドポンプのケーシング内に導入し、該サブマージドポンプで昇圧した低温液化ガスを該サブマージドポンプの吐出フランジに接続した液化ガス供給経路から液化ガス供給弁を介して液化ガス供給先に供給し、昇圧した液化ガスの過剰分を前記液化ガス供給経路における前記液化ガス供給弁の上流側で分岐したバイパス経路からバイパス弁を介して前記低温液化ガス貯槽の上部に戻すとともに、前記サブマージドポンプのケーシング内で蒸発したガスを該ケーシングのベントフランジに接続したベント経路からベント弁を介して前記低温液化ガス貯槽の上部に戻す低温液化ガス供給方法において、前記サブマージドポンプの起動前に、前記液化ガス供給経路から上方に向けて分岐して前記ベント経路又は前記低温液化ガス貯槽の上部に接続するガス回収経路に設けたガス回収弁を開弁して前記液化ガス供給経路内のガスをガス回収経路から前記低温液化ガス貯槽に直接又は前記ベント経路を介して回収した後、前記サブマージドポンプの起動直前乃至起動後に前記ガス回収弁を閉弁して前記液化ガス供給経路から液化ガス供給先への低温液化ガスの供給を開始することを特徴とし、特に、前記ガス回収弁は、前記サブマージドポンプの起動後、該サブマージドポンプの定格回転数に達する時間の1/2の時間を経過した後に閉弁させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、サブマージドポンプの起動前にガス回収弁を開弁することにより、サブマージドポンプのポンプ本体内部や液化ガス供給経路内に滞留している蒸発ガスを大気中に放出することなく低温液化ガス貯槽に回収し、これらの内部を低温液化ガスで満たすことができ、サブマージドポンプを迅速に起動できるとともに、残留ガスによるキャビテーションの発生も回避することができる。
【0013】
低温液化ガスの供給を停止する際には、液化ガス供給弁を閉じるとともに液化ガスポンプを停止させ、ポンプ入口弁及びベント弁を開弁状態に保ったまま、ガス回収弁及びバイパス弁を閉弁することにより、液化ガス供給経路内で蒸発したガスの圧力によって液化ガス供給経路内の低温液化ガスがサブマージドポンプのポンプ本体内に逆流して回収される。さらに、蒸発ガス量が多い場合は、蒸発ガスがポンプ本体内からケーシングの低温液化ガス中に流出し、ケーシング上部のベントフランジからベント経路を通って低温液化ガス貯槽に回収される。
【0014】
また、蒸発ガスの圧力によって低温液化ガスが液化ガス供給経路内に流入することが防止されるため、液化ガス供給経路内で新たな低温液化ガスが蒸発することがなくなり、低温液化ガスの蒸発ロスを低減することができる。また、待機状態でケーシング内やベント経路内で低温液化ガスが蒸発してベント経路から低温液化ガス貯槽に戻されると同時に、ベント経路内の液面と低温液化ガス貯槽内の液面とをバランスさせるために低温液化ガス貯槽内の低温液化ガスがポンプ入口経路からケーシングを通ってベント経路内に流入する。これにより、ケーシング内が低温液化ガスで満たされた状態となっているので、サブマージドポンプは低温状態に保たれており、サブマージドポンプの再起動を迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明の低温液化ガス供給装置の一形態例を示す系統図である。この低温液化ガス供給装置は、低温液化ガスを貯蔵する低温液化ガス貯槽11と、低温液化ガスを昇圧するサブマージドポンプ12と、ポンプ入口弁13Vを介して低温液化ガス貯槽11の下部とサブマージドポンプ12のケーシング12aに設けられた液導入口12bとを接続するポンプ入口経路13と、ポンプ吐出弁14Vを介してサブマージドポンプ12の吐出フランジ12cと液化ガス供給先とを接続する液化ガス供給経路14と、ベント弁15Vを介してサブマージドポンプ12のケーシング12aのベントフランジ12dと低温液化ガス貯槽11の上部とを接続するベント経路15と、ガス回収弁16Vを介して液化ガス供給経路14とベント経路15とを接続するガス回収経路16と、液化ガス供給経路14におけるポンプ吐出弁14Vより上流側でガス回収経路16の上流側分岐管16aより下流側からバイパス弁17Vを介して分岐したバイパス経路17とを備えており、前記ガス回収経路16は、ポンプ吐出弁14Vの上流側及び下流側の液化ガス供給経路14におけるそれぞれの最高位置から上方に分岐した分岐管16a,16bを一つのガス回収経路16に合流させ、下り勾配が存在しない状態でベント経路15に接続されている。通常、これらの各経路は、断熱施工されて外部からの熱侵入を抑制している。
【0016】
また、前記低温液化ガス貯槽11の上部には、低温液化ガス貯槽11内の圧力上昇を防止するための圧力調整弁11Pが設けられ、前記液化ガス供給経路14は、第1液化ガス供給弁18Vを介して液化ガス供給先である他の液化ガス貯槽19に低温液化ガスを供給する第1液化ガス供給経路18と第2液化ガス供給弁20Vを介して液化ガス供給先であるローリー21に低温液化ガスを供給する第2液化ガス供給経路20とに分岐している。
【0017】
低温液化ガス貯槽11は、内槽と外槽との間に真空断熱層を形成したものであり、サブマージドポンプ12のケーシング12aは、上部が開口した内容器と外容器との間に真空断熱層を形成し、上部開口を閉塞する蓋部材にポンプ本体12eを吊り下げてケーシング12a内に配置している。
【0018】
サブマージドポンプ12は、低温液化ガス貯槽11より下方に配置されており、ポンプ入口弁13Vが開状態のとき、低温液化ガス貯槽11内の低温液化ガスは、自重によって低温液化ガス貯槽11からポンプ入口経路13に流下し、液導入口12bからサブマージドポンプ12のケーシング12a内に流入する。したがって、運転中のポンプ本体12eは、ケーシング12a内の低温液化ガス中に浸漬された状態となっている。
【0019】
ポンプ入口経路13は、経路中にガス溜まりが発生して低温液化ガスの流れに支障を来さないようにサブマージドポンプ12側に向かう下り勾配を有しており、ポンプ入口経路13が接続する液導入口12bは、ポンプ本体12eの下部に設けられている吸込口よりも高位置に設けられている。また、ベント経路15は、ケーシング12aの上方に位置するベントフランジ12dから鉛直方向に低温液化ガス貯槽11の最上部付近まで立ち上がった後、低温液化ガス貯槽11方向に屈曲して槽上部に接続している。
【0020】
低温液化ガス供給装置を初めて運転するとき、あるいは、長期間休止後に運転を再開するときには、最初に予冷操作を行う。通常、この状態では低温液化ガス貯槽11内の圧力は圧力調整弁11Pの作用で一定に保たれており、各経路の弁は全て閉じ状態となっている。したがって、低温液化ガス貯槽11内の圧力とポンプ部周辺経路内の圧力とが異なっているので、まず、ベント弁15V、ガス回収弁16V及びバイパス弁17Vを開き、低温液化ガス貯槽11内のガス相とポンプ部周辺経路内とを連通させて圧力を均衡させる。
【0021】
圧力均衡化後にポンプ入口弁13Vを開くと、低温液化ガス貯槽11内の低温液化ガスが自重でポンプ入口経路13に流入し、ポンプ入口経路13を冷却しながら液導入口12bを通ってケーシング12a内に流入する。ケーシング12a内に流入した低温液化ガスは、ケーシング12aやポンプ本体12e等を冷却することによって蒸発し、蒸発したガスは、ベント経路15やガス回収経路16、バイパス経路17を通って低温液化ガス貯槽11の上部に流入する。サブマージドポンプ12が低温液化ガス温度に冷却されたらガス回収弁16Vを閉じ、ガス回収経路16を遮断して待機状態となる。また、低温液化ガスは、ベント経路15及びバイパス経路17を冷却しながらそれぞれ上昇し、ベント経路15及びバイパス経路17内の液面は、低温液化ガス貯槽11内の液面と同一高さになる。また、予冷操作中は、大量の蒸発ガスが低温液化ガス貯槽11に流入して貯槽内圧力が上昇するので、圧力調整弁11Pが適宜開閉作動して貯槽内のガスを外部に放出し、貯槽内圧力を一定に保つ。
【0022】
予冷操作終了後、ポンプ吐出弁14Vを所定の開度に設定してサブマージドポンプ12を起動するとともに、第1液化ガス供給弁18V又は第2液化ガス供給弁20Vを開くことにより、低温液化ガス貯槽11から流下してサブマージドポンプ12で昇圧された低温液化ガスは、第1液化ガス供給経路18又は第2液化ガス供給経路20を通って他の液化ガス貯槽19又はローリー21に供給される。通常、サブマージドポンプ12の吐出量は、送液量に比べて多く設定されているため、送液中は、バイパス弁17Vが閉じることはなく、バイパス弁17Vの開度を調節して余剰の低温液化ガスをバイパス経路17から低温液化ガス貯槽11に循環させることにより、所定量の低温液化ガスを送液する状態となる。また、送液中にケーシング12a内で蒸発したガスは、ベント経路15を上昇してベント弁15Vを通り、低温液化ガス貯槽11に戻される。
【0023】
低温液化ガスの供給を停止する際には、開状態となっている第1液化ガス供給弁18V又は第2液化ガス供給弁20Vを閉じてサブマージドポンプ12を停止させるとともに、ポンプ入口弁13V及びベント弁15Vを開状態に保ち、ガス回収弁16V及びバイパス弁17Vを閉じた待機状態とする。また、ポンプ吐出弁14Vは、サブマージドポンプ12の運転条件に応じて弁開度が適切に決められているため、通常は開閉操作は行わず、所定の開度に保持した状態とする。
【0024】
この待機状態において、液化ガス供給経路14は、第1液化ガス供給弁18V、第2液化ガス供給弁20V、バイパス弁17V及びガス回収弁16Vがそれぞれ閉弁して遮断された状態となっているため、熱侵入によって液化ガス供給経路14内で蒸発したガスは、気泡となって液化ガス供給経路14内の最高位置に向かって上昇し、該最高位置から上方に向かって分岐したガス回収経路16内を上昇し、ガス回収弁16Vの一次側に溜まることになる。
【0025】
時間の経過とともに蒸発したガスの量が増加すると、ガス量の増加に伴う圧力上昇により、ガス回収経路16内の液面が押し下げられ、さらに、液化ガス供給経路14内に残留している低温液化ガスがサブマージドポンプ12側に逆流し、蒸発ガス量が多い場合は、蒸発ガスが低温液化ガスの液面を押し下げながら吐出フランジ12cを経てポンプ本体12e内に流入し、ポンプ本体12e内からケーシング12a内の低温液化ガス中に気泡となって流出し、ケーシング12a内を上昇してベントフランジ12dからベント経路15を上昇し、ベント弁15Vを通って低温液化ガス貯槽11に回収される。
【0026】
最終的には、液化ガス供給経路14及びポンプ本体12eが蒸発ガスで満たされた状態になり、蒸発ガスの圧力によってケーシング12aからポンプ本体12eを通って液化ガス供給経路14内に低温液化ガスが流入することが防止されるため、液化ガス供給経路14に新たな低温液化ガスが流入して蒸発することがなくなり、低温液化ガスの蒸発ロスを低減することができる。なお、バイパス経路17については、液化ガス供給経路14からの分岐位置、分岐方向によって経路内の状態が異なり、経路内に低温液化ガスが残留する場合もあるが、停止期間が長期間に及べば経路内は蒸発ガスで満たされた状態となる。
【0027】
一方、ケーシング12a内やベント経路15内で蒸発したガスがベント経路15から低温液化ガス貯槽11に戻されるが、これと同時に、ベント経路15内の液面と低温液化ガス貯槽11内の液面とをバランスさせるために低温液化ガス貯槽11内の低温液化ガスがポンプ入口経路13からケーシング12aを通ってベント経路15内に流入するので、ケーシング12a内は、低温液化ガスで常に満たされた状態になっており、サブマージドポンプ12は低温状態に保たれているので、再起動時にサブマージドポンプ12を予冷する必要はなく、サブマージドポンプ12の再起動を迅速に行うことができる。
【0028】
このような待機状態から低温液化ガスの供給を再開するときには、サブマージドポンプ12を起動する前、例えば数分前にガス回収弁16Vを開き、ポンプ本体12eの内部や液化ガス供給経路14に滞留している蒸発ガスをガス回収経路16から低温液化ガス貯槽11に回収した後、サブマージドポンプ12を起動する。サブマージドポンプ12の起動後は、昇圧された低温液化ガスが液化ガス供給経路14からガス回収経路16及びベント経路15を経由して低温液化ガス貯槽11に戻ることを防ぐため、ガス回収弁16Vは、サブマージドポンプ12の起動直前乃至起動後に閉じられる。
【0029】
このように、サブマージドポンプ12の起動前にガス回収弁16Vを開き、ポンプ本体12eの内部や液化ガス供給経路14内のガスを低温液化ガス貯槽11に回収することにより、ケーシング12a内の低温液化ガスがポンプ本体12eから液化ガス供給経路14に流入し、待機時に温度上昇した部分を予冷するとともに、蒸発ガスをポンプ本体12e付近から排除することができるので、貴重な低温液化ガスの大気中への放出を回避できるとともに、ポンプ起動時にガスを吸入してキャビテーションが発生することを防止できる。
【0030】
また、ガス回収弁16Vを閉弁するタイミングは、吸入する低温液化ガスの状態や吐出量、吐出圧力、さらに、待機状態の経過時間、ガス回収弁16Vを開弁してからサブマージドポンプ12を起動するまでの時間などの様々な条件によって任意に設定することができるが、ガス回収弁16Vを閉じるタイミングが早すぎると蒸発ガスの回収が不十分でキャビテーションが発生するおそれがあり、逆に、ガス回収弁16Vを閉じるタイミングが遅すぎるとガス回収経路16から低温液化ガス貯槽11に戻る低温液化ガス量が多くなって無駄となる。
【0031】
例えば、サブマージドポンプ12がインバータ駆動の場合、起動してから定格回転数に達するまでに数秒から10秒程度の時間を要し、回転数の増加中には低温液化ガスの昇圧が十分に行われないため、この間はガス回収弁16Vを開いておいても、低温液化ガスがガス回収経路16から低温液化ガス貯槽11に戻ることはほとんどないことと、サブマージドポンプ12の起動後もガス回収弁16Vを開弁状態としておくことにより、液化ガス供給経路14とベント経路15との圧力差によってサブマージドポンプ12や液化ガス供給経路14からガス回収経路16を介してベント経路15へガス抜きを十分に行うことができるので、キャビテーションの発生をより確実に防止してポンプ起動時の安定性を高めることができるという利点もある。
【0032】
したがって、サブマージドポンプ12を起動してから定格回転数に達するまでの間で、低温液化ガスが十分に昇圧される直前まで、具体的には、サブマージドポンプ12が起動してから回転数が定格回転数に達するまでの時間の1/2の時間が経過した後にガス回収弁16Vを閉じることにより、昇圧した低温液化ガスの無駄がなくなり、ポンプ部周辺から蒸発ガスを確実に排除できるので好ましい。一方、サブマージドポンプ12の吐出圧力を監視し、吐出圧力が所定の供給圧力に到達した時点でガス回収弁16Vを閉じるようにしてもよい。また、また、ガス回収弁16Vの開閉操作は、ポンプ回転計やタイマー、圧力計等を利用して自動的に行うことが好ましいが、これらの計測値を監視して手動で行うこともできる。
【0033】
なお、本形態例では、ポンプ吐出弁14Vの両側の液化ガス供給経路14からガス回収経路16を分岐させてポンプ吐出弁14Vの影響をなくしているが、液化ガス供給経路14の最高位置から上方に分岐させれば任意の位置に設けることができ、ポンプ吐出弁14Vの一次側(16a)、二次側(16b)のいずれか一方の液化ガス供給経路14の最高位置から上方にガス回収経路16を分岐させるようにしてもよい。
【0034】
また、ガス回収経路16は、ベント経路15を介して間接的に低温液化ガス貯槽11に接続させているが、ガス回収経路16を低温液化ガス貯槽11の上部に直接接続することも可能であり、ベント経路15へ接続するときの接続位置は、ベント弁15Vの一次側、ベント弁15Vとベントフランジ12dとの間であってもよく、バイパス経路17に接続することも可能である。さらに、本形態例では、分岐管16a,16bが合流した後の経路に一つのガス回収弁16Vを設けているが、図1に想像線で示すように、分岐管16a,16bのそれぞれにガス回収弁16Va,16Vbを設けることもできる。
【0035】
また、本形態例では、第1液化ガス供給弁18Vを介して接続する他の液化ガス貯槽19と第2液化ガス供給弁20Vを介して接続するローリー21とに液化ガスを供給しているが、他の液化ガス貯槽19、ローリー21のいずれか一方に液化ガスを供給するようにしてもよく、液化ガス供給先は任意である。さらに、サブマージドポンプ12に前述のブロー弁が既に組み込まれている場合、このブロー弁は、そのまま残しておいてもよく、取り外すようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の低温液化ガス供給装置の一形態例を示す系統図である。
【符号の説明】
【0037】
11…低温液化ガス貯槽、11P…圧力調整弁、12…サブマージドポンプ、12a…ケーシング、12b…液導入口、12c…吐出フランジ、12d…ベントフランジ、12e…ポンプ本体、13…ポンプ入口経路、13V…ポンプ入口弁、14…液化ガス供給経路、14V…ポンプ吐出弁、15…ベント経路、15V…ベント弁、16…ガス回収経路、16a,16b…分岐管、16V…ガス回収弁、17…バイパス経路、17V…バイパス弁、18…第1液化ガス供給経路、18V…第1液化ガス供給弁、19…他の液化ガス貯槽、20…第2液化ガス供給経路、20V…第2液化ガス供給弁、21…ローリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温液化ガス貯槽と、低温液化ガスを昇圧するサブマージドポンプと、前記低温液化ガス貯槽の下部と前記サブマージドポンプのケーシングとをポンプ入口弁を介して接続するポンプ入口経路と、前記サブマージドポンプの吐出フランジと液化ガス供給先とを液化ガス供給弁を介して接続する液化ガス供給経路と、前記ケーシングのベントフランジと前記低温液化ガス貯槽の上部とをベント弁を介して接続するベント経路と、前記液化ガス供給経路における前記液化ガス供給弁の上流側と前記低温液化ガス貯槽の上部とをバイパス弁を介して接続するバイパス経路とを備えた低温液化ガス供給装置において、前記液化ガス供給経路から上方に向けて分岐したガス回収経路を設けるとともに、該ガス回収経路を、前記サブマージドポンプの起動前に開弁して起動直前乃至起動後に閉弁するガス回収弁を介して前記低温液化ガス貯槽の上部に接続したことを特徴とする低温液化ガス供給装置。
【請求項2】
前記ガス回収弁は、前記サブマージドポンプの起動後、該サブマージドポンプの定格回転数に達する時間の1/2の時間を経過した後に閉弁状態となることを特徴とする請求項1記載の低温液化ガス供給装置。
【請求項3】
ポンプ入口弁を備えたポンプ入口経路を介して低温液化ガス貯槽の下部から抜出した低温液化ガスをサブマージドポンプのケーシング内に導入し、該サブマージドポンプで昇圧した低温液化ガスを該サブマージドポンプの吐出フランジに接続した液化ガス供給経路から液化ガス供給弁を介して液化ガス供給先に供給し、昇圧した液化ガスの過剰分を前記液化ガス供給経路における前記液化ガス供給弁の上流側で分岐したバイパス経路からバイパス弁を介して前記低温液化ガス貯槽の上部に戻すとともに、前記サブマージドポンプのケーシング内で蒸発したガスを該ケーシングのベントフランジに接続したベント経路からベント弁を介して前記低温液化ガス貯槽の上部に戻す低温液化ガス供給方法において、前記サブマージドポンプの起動前に、前記液化ガス供給経路から上方に向けて分岐して前記ベント経路又は前記低温液化ガス貯槽の上部に接続するガス回収経路に設けたガス回収弁を開弁して前記液化ガス供給経路内のガスをガス回収経路から前記低温液化ガス貯槽に直接又は前記ベント経路を介して回収した後、前記サブマージドポンプの起動直前乃至起動後に前記ガス回収弁を閉弁して前記液化ガス供給経路から液化ガス供給先への低温液化ガスの供給を開始することを特徴とする低温液化ガス供給方法。
【請求項4】
前記ガス回収弁は、前記サブマージドポンプの起動後、該サブマージドポンプの定格回転数に達する時間の1/2の時間を経過した後に閉弁することを特徴とする請求項3記載の低温液化ガス供給方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−190715(P2008−190715A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303939(P2007−303939)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】