低温焼結性金属ナノ粒子の製造方法および金属ナノ粒子およびそれを用いた分散液の製造方法
【課題】従来よりも焼結温度を大幅に低減しうる保護材で被覆された銀微粉を提供する。
【解決手段】炭素数6〜12の1級アミンBで構成される有機保護材に被覆された平均粒子径DTEM:3〜20nmまたはX線結晶粒径DX:1〜20nmの銀粒子からなる銀微粉。この銀微粉は、有機媒体と混合して銀塗料とし、これを塗布した塗膜を大気中120℃で焼成したときに比抵抗25μΩ・cm以下の導電膜となる性質を備える。また、この銀微粉は、不飽和結合を持つ分子量200〜400の1級アミンAに被覆された銀粒子が有機媒体中に単分散した銀粒子分散液と、炭素数6〜12の1級アミンBとを混合したのち、撹拌状態で50〜80℃に保持して沈降粒子を生成させることにより製造することができる。
【解決手段】炭素数6〜12の1級アミンBで構成される有機保護材に被覆された平均粒子径DTEM:3〜20nmまたはX線結晶粒径DX:1〜20nmの銀粒子からなる銀微粉。この銀微粉は、有機媒体と混合して銀塗料とし、これを塗布した塗膜を大気中120℃で焼成したときに比抵抗25μΩ・cm以下の導電膜となる性質を備える。また、この銀微粉は、不飽和結合を持つ分子量200〜400の1級アミンAに被覆された銀粒子が有機媒体中に単分散した銀粒子分散液と、炭素数6〜12の1級アミンBとを混合したのち、撹拌状態で50〜80℃に保持して沈降粒子を生成させることにより製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温焼結性に優れた性質を示す金属ナノ粒子の製造方法および該方法により得られる金属ナノ粒子およびこの金属ナノ粒子を有機溶媒中に分散した分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の製造技術の進展に伴って、シングルナノクラスの金属ナノ粒子も形成できるようになってきた。ここで、「シングルナノクラス」とは、TEMによる写真測定といった測定方法で計測される平均粒径が1nm以上10nm以下の大きさの粒子をいう。さて、シングルナノクラスの金属ナノ粒子表面には通常多少の違いはあるが、有機物による被覆が存在している。これらの金属ナノ粒子で薄膜を形成しようとする場合には、一旦基板上にこの形態で塗布を行ってから、加熱により表面を被覆する有機物を分解、蒸散させ金属薄膜とすることが行われている。
【0003】
かような方法で金属薄膜を得ようとする場合、加える熱が高い場合には好適な金属膜を得ることができるものの、耐熱性に弱い基板には適用することができない。そこで、従来から金属薄膜形成時における温度を低くするための試みがなされてきた。方法としては予め炭素鎖の短い有機物で被覆するか、もしくは予め作成しておいた粒子の表面を構成する有機物をより焼結性が進みやすい物質に変換するという手法が挙げられる。
【0004】
なかでも置換反応による例として、特許文献1〜3には金属粒子の表面を覆う保護材を別の保護材に置換する技術が開示されている。特許文献1には、合成段階において、還元剤を滴下し形成させた金属ナノ粒子において、表面に形成された有機物を置換するという発明が開示されている。特許文献2には、置換反応時に有機溶媒を添加し、置換のドライビングフォースとして使用する、という手法が開示されている。また、特許文献3には、インクジェット用の金属ナノ粒子の製造方法として、脂肪酸金属塩を形成させた後、二段階の置換を経て炭素鎖8〜20のアミンと原料由来の脂肪酸がともに表面に存在した金属ナノ粒子を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−089786号公報(特許請求の範囲他)
【特許文献2】特開2008−095194号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2008−157071号公報(特許請求の範囲他)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法の場合、いくら攪拌を施していたとしても、液中での均一な反応を生じさせにくくいため、粒子として均一なものを得ることは容易ではない。また、特許文献2の方法の場合には、分散もしくは反応を促す成分として異種成分の添加が必須となっているため、添加してからその有機媒体が均一となるまでの間、不均一系となることから、粒度分布の整った粒子を得ることは容易ではない。さらに、特許文献3については、粒子表面に存在する界面活性剤成分が少なくとも2種からなっており、金属膜を形成する際に発熱が少なくとも2回生じることから、特に耐熱性に弱い基板を用いるような場合には好ましいものではない。
【0007】
また、通常知られている技術では、表面を被覆する有機物は金属粒子間を隔離する性質
を利用して、比較的分子量の大きい有機物を利用することが多い。しかしながら、かような物質を使用すれば、粒子同士の独立性を保つため、保存・保管時には好ましいものの、低温焼結性に着目した膜や配線の形成時には低温焼結性の発現に対し阻害要因として働くことがある。また加熱で除去しようとしても、特に長い炭素鎖を有するような分子を用いれば、配線内に残存してしまうため、電気抵抗の上昇をひきおこすことがある。
【0008】
本願発明者らは、オレイルアミン等の不飽和結合を有する1級アミンの存在下において、硝酸銀を初めとした銀塩を還元することで、極めて高い分散性と独立性を有する銀ナノ粒子が得られることを見いだし、すでに特許文献で開示している。(例えば、特開2007−039718号公報等)この方法により得られる銀ナノ粒子は、反応時に周囲に存在する1級アミンにより被覆される。この1級アミンは比較的大きな分子量を有し、粒子間の距離をほどよい距離を保ち、銀ナノ粒子の液中における凝集や焼結を抑制し、独立性を保つ働きをもつ。さらにオレイルアミンといった、大きな分子量を有する保護基が表面に存在していながらも、従来知られている高分子により被覆された粒子よりも低温の加熱で金属間焼結を生じさせることができる。これは、粒子表面を構成する界面活性剤の構成として不飽和結合を持つ構成としたため、界面活性剤の反応や分解作用が促進され、金属ナノ粒子からの脱離が容易に進んだためではないかと考えている。
【0009】
しかし、200℃近傍まで焼成温度を下げることができていたとしても、汎用性の高い基板は分解や融解が100〜180℃、あるいは100〜150℃で起こるものもあり、これらに適用できるような低い焼結温度を有する金属ナノ粒子が製造できれば、より広範な用途で利用が促進されることが期待される。例示すれば、CD,DVD等に使用されている透明性のポリカーボネート基板に適用できれば、メディアやレンズ表面に微細配線を形成することができるようになり、各種の附加機能を与えることができるようになる。また、PET基板や紙上に配線を形成することができるようになれば、該素材上にアンテナなどを形成できるようになることから、RFID(ICタグ)等にも利用できるようになると期待される。
【0010】
また、従来には利用できなかったようなものにも配線を形成できるようになるため、電子機器をより小さく、より軽く、より薄くできるようになると推定でき、フィルム中に分散させることで、透明フィルムヒーターなどの面状発熱体、電磁波遮蔽フィルム、太陽電池、透明電極や、プラズマディスプレイテレビなどの電磁波遮蔽フィルムといった分野にも広く利用することもできると考えられる。
【0011】
本発明は、かような幅広い用途に適用させるため、従来の手法よりもより簡便で焼結温度が極めて低い金属ナノ粒子の製造方法、およびその手法により得られる金属ナノ粒子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本願発明では不飽和結合を有する分子量200〜400の一級アミンにより被覆された、透過型電子顕微鏡により確認される粒子の平均粒子径DTEM:3〜20nmの金属ナノ粒子が単分散した金属ナノ粒子分散液と、当初付着しているアミンの炭素鎖よりも短い、炭素数6〜12の1級アミンとを混合する工程(混合工程)と、混合した状態で攪拌し、反応液の液温を50〜80℃に保持することで表面を被覆するアミンを炭素数6〜12の1級アミンへと置換する工程(置換工程)と、さらに固液分離操作により前記粒子を固形分として沈降回収する工程(固液分離工程)という大別して3つの工程を備えた、金属ナノ粒子の製造方法が提供される。ここで、金属ナノ粒子に最初に付着していた分子量200〜400の一級アミンをアミンAと示し、置換後に粒子表面に付着した炭素数6〜12の一級アミンをアミンBと示す。
【0013】
置換前の不飽和結合を有するアミンAは、金属塩溶液から直接還元析出した粒子に直接付着したものであり、とくにオレイルアミン(分子量:約267、構造式:C9H18=C9H17−NH2)であることが好適である。
【0014】
上述した方法により得られる金属ナノ粒子は、大気条件下で測定したDTA曲線において、発熱ピークが200℃以下に単独で確認される。これは、置換後のアミンBにより奏されるものであって、従前被覆していた物質に起因しないという性質を有する。
【0015】
さらに得られた粒子の分散液を塗布後焼成したとき、大気中120℃の条件下、1時間保持したときに得られる、金属膜の比抵抗が25μΩ・cm以下となる性質を備えることを特徴とする。比抵抗を算出する方法は特に限定はされないが、通常公知の方法を採用することが好適である。本願明細書においては、被測定試料を大気中にて200℃で焼成した際に得られる比抵抗が20μΩ・cm以下と計測されるような条件を、120℃焼成での評価条件に適用して、焼成膜の評価を行った。すなわち、分散液の調製、塗布、焼成及び測定の条件を、200℃焼成で比抵抗が20μΩ・cm以下の値を示す場合の条件と同一にして、120℃焼成膜の比抵抗を測定する、というものである。200℃焼成において、焼結が進んでいるかどうか確認することができる手法であれば、その条件を120℃焼成に適用したとしても、焼結の進行度合を客観的に判断することができる。そもそも、大気中での200℃での焼成時において、比抵抗が20μΩ・cm以下を示さないような粒子は、低温焼結性が得られているとは言い難いので、本願発明の対象からは必然的に除外される。
【0016】
本願明細書において、「界面活性剤により被覆された」とは、個々の金属ナノ粒子が結合しない状態で独立して存在し、その独立性の担保として粒子同士が接触しない程度に十分な有機物質からなる保護物質が金属粒子の表面に被覆して存在している状態を言う。
【発明の効果】
【0017】
本発明に開示した製造方法によれば、従来実施されてきた粒子表面における界面活性剤の置換方法と比較して、極めて容易に表面を構成する界面活性剤を置換することが出来る。これにより、低温で導電性の高い金属膜を形成することができ、より広範な用途に利用されうる、金属ナノ粒子およびそれが分散された分散液を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】合成された銀粒子のアミンAがアミンBに置換された量を模式的に算出するための方法を示した図。
【図2】合成された銀粒子のアミンA被覆量を測定する際のTG−DTA装置によるヒートパターンを模式的に示した図。
【図3】実施例1で得られた粒子と置換前の比較例1の粒子についてのDTA曲線。
【図4】実施例2で得られた粒子と置換前の比較例1の粒子についてのDTA曲線。
【図5】実施例3で得られた粒子と置換前の比較例1の粒子についてのDTA曲線。
【図6】実施例4で得られた粒子と置換前の比較例1の粒子についてのDTA曲線。
【図7】比較例2で得られた粒子と置換前の比較例1の粒子についてのDTA曲線。
【図8】比較例3で得られた粒子と置換前の比較例1の粒子についてのDTA曲線。
【図9】実施例1においてテトラデカン中での置換反応により得られた銀粒子のTEM写真。
【図10】実施例2においてデカン中での置き換え反応により得られた銀粒子のTEM写真。
【図11】実施例3においてケロシン中での置き換え反応により得られた銀粒子のTEM写真。
【図12】実施例4においてテトラデカンとイソプロパノールの共存下で置換反応により得られた銀粒子のTEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に開示した製造方法の特徴としては、金属ナノ粒子の表面に製造時に形成されたアミンAからなる界面活性剤を、アミンAよりも炭素鎖が短く、かつ炭素数6〜12の一級アミンBで置換することに特徴を有する。
【0020】
通常よく知られているように、金属ナノ粒子の表面には粒子同士が結合することを防止するため、界面活性剤等の有機化合物が存在している。一般的な界面活性剤は、疎水基Rと親水基Xを有するR−Xの構造をもつ。疎水基Rとしては炭素骨格に水素が結合したアルキル基が代表的であり、親水基Xとしては種々のものがあるが、例えば脂肪酸であれば「−COOH」、アミンでは「−NH2」となる。
【0021】
界面活性剤を金属ナノ粒子の表面に存在させ、粒子を保護する場合には、親水基Xが金属銀の表面と結合し、疎水基Rがこの有機保護材に覆われた粒子の外側に向いて配向していると考えられる。金属ナノ粒子は極めて活性が高いので、通常、粒子の表面は保護材で覆われていなければ安定に存在できない。このことから理解できるように、金属ナノ粒子をそのままの形状で長く安定な状態に保持するためには、極力粒子同士が接触しないように、界面活性剤としては比較的大きな分子量を有するものを用いることが好ましい。
【0022】
しかし、これもよく知られているように、有機化合物は長鎖になるに従い沸点が上昇するとともに、長鎖の有機化合物を分解するためにはより多くのエネルギーが必要となる。すなわち、必然的に長鎖の有機化合物を用いた場合には、多くのエネルギーを必要とするため、焼結膜とするには高温の加熱が必要となる。よって、低温により焼結膜を得るには、表面を構成する界面活性剤そのものを可能な限り炭素鎖が短い物質を界面活性剤として使用することが必要となる。そのためには、合成時に初めから短鎖の界面活性剤を採用し表面に付着させることも方法の一つとはなるが、凝集等により分散性の良好な銀微粉を得ることが難しく、合成反応後に洗浄等の工程を経て塗料を調製する操作に支障をきたしやすいことが発明者らの検討により判明した。
【0023】
したがって、粒子を長期にわたり保存するためには、粒子間の距離をできるだけ広げ、粒子を安定に保つことが必要であるため、表面を被覆する界面活性剤として比較的長鎖のものが好まれ、使用時には低温焼結性を得るためにできるだけ短鎖であることが好まれるという、相反する要望が存在している。その解決には、当初の界面活性剤は比較的長鎖であって、使用時には短鎖のものへ簡単に交換することができるような性質のものであれば、上記要望は比較的容易に達成することができる。
【0024】
かような要求は、特定の分子構成を有したアミン系の界面活性剤(アミンA)で表面を構成し、置換液中に初めに構成したアミンAよりも炭素数が短い有機物質、とりわけアミン系(アミンB)を存在させることにより、アミンAは液中で脱離するものの金属表面と再結合せず、代わって周囲に存在する短い炭素鎖のものが選択的に金属表面に吸着することを知見し、本発明を完成させた。
【0025】
すなわち、微粒子の表面を被覆する界面活性剤として、アミン系のものを使用することで、ナノ粒子の表面に存在する有機物質を簡便な方法で置換することができるようになる。また、置換後のアミンの炭素数を選択、調整することで他の性質との兼ね合いも考慮しながら、焼成温度を適度に選択できるようになる。とりわけオクチルアミンやヘキシルアミンであれば、120℃前後の加熱温度であっても焼成膜を形成できるようになるので好ましい。
【0026】
炭素鎖が短いアミン系界面活性剤への置換の効果はこれには止まらない。置換前に粒子表面に付着していた分子量200〜400のアミンAによる被覆されたものでは困難であった、芳香族炭化水素に対する分散も置換後の粒子では行えるようになることが確認された。芳香族有機化合物に対する分散が可能になるということは、トルエン等の工業的に広く使用されている安価な溶媒が利用できることを意味し、低温焼結性金属ナノ粒子の新たな用途展開が期待される。
【0027】
ここで、保護材中には不純物として当初、すなわち置換前に粒子表面を被覆していた分子量200〜400のアミンAが僅かに残存していたとしても置換後の粒子が有する上記の効果には特段影響を及ぼさない。置換前のアミンAの残存量としては総アミン量の合計の1%未満であればよい。アミンAの残存量の算定する方法の一例としては、DTA曲線において、分子量200〜400のアミンAに起因する吸収のうち最も吸収の大きいAと、置換後の炭素数6〜12のアミンBに起因する吸収のうち最も吸収の大きいBの値を加えることで、全体のアミンの量を算出し、その中でAの占める割合を算出することで求めることもできる。
【0028】
ただし、DTA吸収は直線であるとは限らないので、その場合には、便宜的に図1に示すような方法を用いて算出する方法が採用できる。(1)図のような100〜400℃での結果を用いる場合には、100℃と400℃でのDTA値を直線で引く(以降ベースライン(B.L.)とする)。(2)置換前の界面活性剤に起因するピークで最も高いものをAとし、置換後の有機物に起因するピークで最も高いものをBとする。そうして、ベースラインに対して線をそれぞれ引き(図1の点線部に相当)それぞれの長さを測定して、A/(A+B)で算出する。ここでは、一例を示したが、他にも通常定量性のあるとされている指標のいずれも採用することができる。なお、図1のものは、アミンAおよびBの特性を誇張して記載したものであり、実測データではない。
【0029】
さらに説明すれば、金属ナノ粒子生成当時に被覆しているアミンは、不飽和結合を持つ分子量が200〜400である1級アミンAを採用することが好ましい。不飽和結合を持つ1級アミンは、分子量が多少大きくても、焼成時の加熱によって金属粒子からの脱離および揮発除去が起こりやすいことがわかった。また、粒子の安定性などを考慮すれば、分子量200以上のアミンを選択することが有効であるといえる。分子量が過剰に大きいと塗膜を低温焼成したときに脱離・揮発しにくくなるので、分子量400以下のものがよい。
【0030】
置換するアミンとしては炭素数6〜12の1級アミンBを選択することが好ましい。これらの有機物質は、分子量が小さいことに起因して焼結温度の顕著な低減効果を得ることができる。
【0031】
界面活性剤に被覆され保護された金属ナノ粒子の粒径は、TEM(透過型電子顕微鏡)の画像から測定される平均粒子径DTEMあるいはX線結晶粒径DXによって表すことができる。X線は金属の種類により特徴的な回折面が異なるので便宜のため、以降銀について詳述する。
【0032】
本願発明の方法によれば、TEMにより計測される粒子径:DTEMが3〜20nmである銀粒子、あるいは(111)面における半値幅より算出したX線結晶粒径:Dxが1〜20nmである銀粒子が好ましい対象となる。また、DTEMが3〜7nm、DXが1〜5nm程度の極めて微細な銀粒子は、例えばオレイルアミンを反応溶媒として直接銀化合物を還元する手法などによって合成することもできる。なお、合成された金属銀の結晶粒界には不純物が混入しやすいため、粒界を形成しない構成、すなわち粒子としては粒子一つが結晶一つに相当することが好ましい。
【0033】
不具合について考えると、例えば不純物の量が多くなると、微細配線を焼成する際にポアが生じて良好な導電性が確保できなくなったり、耐マイグレーション性が劣ったりする不都合を生じやすい。種々検討の結果、TEM等で可視される粒子が何個の結晶子から構成されているかを示す指標としては、TEM写真内で計測される粒子径サイズを、X線粒子径で割って表される単結晶度(DTEM/DX)が2.5以下であることが望ましく、2.0以下であることが一層好ましいが、更に好ましくは粒界の存在しない1であることが一層好ましい。この低温焼結性に優れた銀(以後「Ag」ともいう。)微粉は以下のようにして得ることができる。
【0034】
〔銀粒子の合成〕
本発明で使用する銀ナノ粒子原料は、粒度分布等の粒子性状が安定しており、かつ液状媒体中で凝集・沈降しにくい性質を有していることが重要である。そのような銀粒子の合成法として、ここでは従来から検討している合成法を簡単に説明する。すなわち、この合成法は、アルコール中またはポリオール中で、アルコールまたはポリオールを還元剤として、銀化合物を還元処理することにより銀粒子を析出させるものである。この場合、アルコールまたはポリオールは溶媒であるとともに還元剤でもある。還元反応は溶媒液を昇温して、好ましくは還流状態とすることによって進行させることができる。こうした手法をとることにより、不純物の混入を防ぎ、例えば配線材料として使用とした時には抵抗値を小さくすることが可能になる。
【0035】
その還元反応を進行させる際には、溶媒中に粒子をくるむことで保護物質として機能する有機化合物を共存させておくことが肝要である。その有機化合物として、ここでは不飽和結合を持つ分子量200〜400の1級アミンAを使用する。不飽和結合を持たないものでは、表面がそのアミンで保護された銀ナノ粒子を合成することは困難である。発明者らの知見では、このときの不飽和結合の数は1分子中に少なくとも1個あれば足りる。
【0036】
分子量が小さいものでは還元時の液状媒体中において凝集・沈降が生じやすく、均一な還元反応の妨げになる場合がある。そうなると粒径分布を均一化するなどの品質管理面のコントロールが難しくなる。また、液状有機媒体中に銀粒子が単分散した状況を作ることが難しくなる。逆に分子量が過剰に大きい有機化合物を用いると、後の工程において炭素数6〜12のアミンBに置き換える操作が難しくなることが懸念される。該当するアミンAの具体的な例としては、上述の通りオレイルアミンが挙げられる。
【0037】
還元反応時に溶媒中に共存させる1級アミンAの量は、銀に対し0.1〜20当量とすることができ、1〜15当量とすることがより好ましく、2〜10当量が一層好ましい。本願明細書における1当量とは、銀1モルに対して対応するアミンが1モル存在することを指す。1級アミンの使用量が少なすぎると銀粒子表面の保護材の量が不足して、液中での単分散が実現できなくなる。多すぎると後の工程でアミンAをアミンBに置き換える反応が効率よく行えない虞がある。
【0038】
還元剤としては、溶媒であるアルコールまたはポリオールを使用する。反応に際しては還流操作を行うことが効率的である。このため、アルコールまたはポリオールの沸点は低い方が好ましく、具体的には80〜300℃、好ましくは80〜200℃、より好ましくは80〜150℃であるのがよい。とりわけ、イソブタノール、n−ブタノールが好適である。
【0039】
還元反応を促進させるためには還元補助剤を添加しても構わない。還元補助剤の具体例は特許文献4に開示されているものから1種以上を選択すれば良いが、これらのうちジエタノールアミン、トリエタノールアミンを用いるのが特に好ましい。
【0040】
銀の供給源である銀化合物としては、上記溶媒に溶解し得るものであれば種々のものが適用でき、塩化銀、硝酸銀、酸化銀、炭酸銀などが挙げられるが、工業的観点から硝酸銀が好ましい。還元反応時の液中のAgイオン濃度は0.05モル/L以上、好ましくは0.05〜5.0モル/Lとすることができる。アミンA/Agのモル比については0.05〜5.0の範囲とすることができる。還元補助剤/Agのモル比については0.1〜20の範囲とすることができる。
【0041】
還元反応の温度は、50〜200℃の範囲内とすることが望ましい。50〜150℃とすることがより好ましく、60〜140℃の範囲が一層好ましい。アミンAに覆われた銀粒子(上記還元により合成されたもの)は、銀粒子とアミンAの合計に対するアミンAの存在割合(以下、単に「アミンA割合」という)が0.05〜25質量%に調整されていることが望ましい。アミンA割合が低すぎると粒子の凝集が生じやすい。逆にアミンA割合が高くなると、後の工程でアミンAをアミンBに置き換える反応が効率的に行えない虞がある。
【0042】
〔銀粒子分散液の作成〕
アミンAに覆われた銀粒子は、例えば上記のような湿式プロセスでの還元反応で合成されたのち、固液分離および洗浄に供される。その後、液状有機媒体と混合して分散液を作る。液状有機媒体としては、アミンAに覆われた銀粒子が良好に分散する物質を選ぶ。例えば、炭化水素系が好適に使用できる。例えば、イソオクタン、n−デカン、イソドデカン、イソヘキサン、n−ウンデカン、n−テトラデカン、n−ドデカン、トリデカン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素が使用できる。ケロシンなどの石油系溶媒を使用しても構わない。これらの物質を1種以上使用して液状有機媒体とすれば良い。
【0043】
ただし、本発明では、アミンAに被覆された銀粒子が単分散している銀粒子分散液を用意することが重要である。ここで、「単分散」とは、液状媒体中に個々の銀粒子が互いに凝集することなく、独立して動ける状態で存在していることをいう。具体的には、銀粒子を含む液を遠心分離による固液分離操作に供したとき、粒子が分散したまま残っている状態の液(上澄み)を、ここでは銀粒子分散液として採用することができる。
【0044】
〔保護材の付け替え〕
アミンAにより被覆されている銀粒子が単分散している液状有機媒体と、炭素数6〜12の1級アミンBを混合すると、個々の粒子の周囲にアミンBが存在する状態、すなわち粒子が液中でアミンBに包囲されている状態(以下「アミンBによる包囲状態」という)を実現することができる。発明者らは、この状態をしばらく維持すると、アミンAが銀粒子からはずれて、アミンBへの置換現象(以下「置換反応」ということがある)が生じることを発見した。なお、「アミンBによる包囲状態」を維持する時間は詳細に後述する。
【0045】
この置換反応が生じるメカニズムについては現時点で未解明の部分が多いが、アミンAとアミンBの疎水基のサイズが相違することに起因する金属銀とアミンの親和力の差が、この反応の進行の主たる要因になっているのではないかと考えられる。また、アミンAとして不飽和結合を有するものを採用していることも、アミンAの金属銀からの脱離を容易にし、アミンBとの置換反応の進行に寄与していると考えられる。また、長鎖のオレイルアミンと短鎖のオクチルアミンの溶解度の違いも要因としては考えられる。
【0046】
置換反応は常温でも進行するが、発明者らの詳細な検討によれば、アミンBの種類により反応の適温は変化するが、総じて液の温度が10℃未満であれば、アミンAの一部が吸着したまま残存することが多く、完全な置換とはならず、「アミンAとアミンBで構成される複合有機保護材」に覆われた粒子になりやすい。この場合、芳香族有機化合物への分
散性が低下し、芳香族有機化合物を分散媒とする安価な液状インクを作成する際には不利となる。そこで本明細書ではアミンBへの付け替えを50℃以上、好ましくは55℃以上の温度で行う。ただし、あまり温度を高めると不必要な粒子同士の融着が生じる虞があるので、80℃以下の温度で行うのが良く、70℃以下とすることがより好ましい。
【0047】
銀粒子の表面を覆っている保護材が低分子量のアミンBに置換される反応が進行していくと、構成する炭素数が多く、占有体積が大きいことに起因してアミンAが有する浮力の効果が徐々に低減し、アミンAがまだ残存している、すなわち完全に置換が進んでいない状態でも粒子は沈降するようになる。沈降粒子が反応容器の底に堆積すると、液中に存在し、粒子の周囲に存在するアミンBとの接触する機会が少なくなることから、それらの粒子は置換反応がそれ以上進行しにくくなるようになる。したがって、本発明では置換反応に際し、液を撹拌することを必須の構成要件とする。ただし、あまり力学的な力を加えることは好ましい形態とは言えないので、必要以上に強く撹拌する必要はなく、アミンAがまだ付着している粒子をアミンBがアミンAの周囲に存在している状態に置くことができる程度で十分である。したがって、反応容器の底に沈降粒子が堆積しない程度の撹拌を与えるのがよい。
【0048】
「アミンBによる包囲状態」を作ると、時間とともにアミンBによる置換量が増えていくことになるが、1時間以上の置換反応時間を確保することが望ましい。ただし、24時間を超えても、それ以上の置換反応はあまり進行しないので、24時間以内で置換反応を終了させるのが実用的である。現実的には1〜7時間の範囲で調整すればよい。
【0049】
混合するアミンBの量は、「アミンBによる包囲状態」が実現できるに足る量を確保する。混合前に保護材として存在するアミンAの量に対し、最低でも等モルよりも多い量を添加することが望ましい。好ましくはアミンBの量はアミンAに対し2倍以上であるのがよい。
【0050】
一方、被覆されるAgに対しては混合前に銀粒子として存在するAgに対する当量比(アミンB/Ag)では、5当量以上のアミンBを混合することが望ましい。もちろん、液量によって多少変化する場合もある。しかし、これまでの実験では5〜20当量程度のアミンB/Ag当量比で良好な結果が得られている。なお、Ag:1モルに対し、1級アミンB:1モルが1当量に相当する。
【0051】
置換反応を進行させる液中にアミンAが溶解しやすいアルコールを配合させると、より効率良くアミンBへの置換反応が進行する。アミンAがオレイルアミンの場合、例えばイソプロパノールを好適に添加することができる。
【0052】
〔固液分離〕
上述のように、置換が終了した粒子は沈降するので、反応終了後の液を固液分離することによって、反応後に得られた粒子を固形分として容易に回収することができる。固液分離としてはデカンテーションでも行うことができるが、より効率よく短時間で分離回収するには遠心分離を用いるのがよい。得られた固形分は、アミンBで構成される有機物質で被覆された銀ナノ粒子が大半を占める。
【0053】
〔洗浄〕
上記の固形分は、アルコールなどの溶媒を用いて洗浄することが望ましい。1回以上の洗浄操作を経て最終的に固液分離されて得られた固形分を塗料に使用する。
【0054】
〔塗料の調製〕
上記洗浄後の固形分(保護材をアミンBに付け替えた銀ナノ粒子)と、適当な有機媒体
とを混合して塗布可能な性状とすることにより、本発明の銀塗料が得られる。ここで混合する有機媒体は、120℃程度の温度で揮発除去しやすいものを選択することが肝要である。なお、この銀ナノ粒子が液状媒体に分散したインクを作成する場合は、常温で液体の芳香族有機化合物や脂肪族炭化水素を媒体に使用することができる。
【実施例】
【0055】
《比較例1》
リファレンスとして、下記に示すアルコール還元法で合成した銀ナノ粒子を用いて塗料を調整し、焼成温度200℃および120℃で焼成した焼成膜の比抵抗を調べた。この銀微粉は個々の粒子の表面がアミンA(ここではオレイルアミン)からなる有機保護材に覆われているものである。具体的には以下のようにして実験を行った。
【0056】
〔銀粒子の合成〕
反応媒体兼還元剤としてイソブタノール(和光純薬株式会社製の特級)200mL、アミンAとしてオレイルアミン(和光純薬株式会社製、分子量=267)27mL、銀化合物としての硝酸銀結晶(関東化学株式会社製)13.7gを用意し、これらを混合してマグネットスターラーにて撹拌し、硝酸銀を溶解させた。この溶液を還流器のついた容器に移してオイルバスに載せ、容器内に不活性ガスとして窒素ガスを400mL/minの流量で吹込みながら、該溶液をマグネットスターラーにより撹拌しながら100℃まで昇温した。100℃の温度で3時間の還流を行なった後、還元補助剤として2級アミンのジエタノールアミン(和光純薬株式会社製、分子量=106)を対Agモル比1.0となるように8.5g添加した。その後、1時間保持した後、反応を終了した。反応終了後のスラリーを遠心分離機で固液分離し、分離された液を廃棄して固体成分を回収した。その後、「固体成分をメタノールと混合したのち遠心分離機で固液分離し、分離された液を廃棄して固体成分を回収する」という洗浄操作を2回行った。
【0057】
〔銀粒子分散液の作成〕
液状有機媒体としてテトラデカンを用意した。これに前記洗浄後の固形成分を混合・分散し、遠心分離機により30分間固液分離し、分離された液を回収した。この液にはアミンAに覆われた銀粒子が単分散している。
【0058】
この銀粒子分散液を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、平均粒径DTEMを求めた。すなわち、TEM(日本電子株式会社製JEM−2010)により倍率60万倍で観察される粒子のうち、重なっていない独立した300個の銀粒子の粒子径を計測して、平均粒子径を算出した。その結果、DTEMは8.5nmであった。本例では後述のように、この銀粒子分散液を銀塗料に用いるので、表1にはこのDTEM値を記載してある。
【0059】
TG−DTA装置を用いて、銀粒子とその表面を覆っているアミンA(オレイルアミン)の合計に対するアミンAの存在割合(以下「アミンA被覆量」という)を求めた。アミンA被覆量を算出するには、図2に示すヒートパターンを採用する。なお、図2において網掛けになっている部分は温度の保持を表し、点線部は昇温(具体的に下記に示すように10℃/分)を表す。
【0060】
具体的に図2の説明を加えると、はじめに、温度は室温から200℃まで10℃/分で昇温し(ステージI)、200℃で60分維持して(ステージII)、銀粒子分散液に含まれる有機媒体(ここではテトラデカン)を揮発させる。次いで200℃から700℃まで10℃/分で昇温し(ステージIII)、700℃で再度60分維持する(ステージIV)。ステージI〜IIにおいて有機媒体が全部揮発するとともに保護材であるアミンAは残留し、ステージIII〜IVにおいてアミンAは全部揮発するとみなすことができる。
【0061】
図2のヒートパターンでTG−DTA装置により測定される重量変化をモニターし、ステージIIが終了するまでに重量変化はほぼゼロになるので、この時点までに減じた重量分W1を有機媒体(分散媒)の重量とする。そして、ステージIII開始後、再び重量減少が生じ、ステージIVが終了するまでに重量変化はほぼゼロになるので、ステージIII〜IVの間に新たに減じた重量分W2をアミンAの重量とする。残りの重量W3を銀の正味の重量とする。アミンA被覆量(%)は、W2/(W2+W3)×100によって算出される。その結果、この銀粒子分散液中の粒子におけるアミンA被覆量は8.0質量%であった。
【0062】
〔保護材のTG−DTA測定〕
銀粒子分散液について昇温速度10℃/分でのTG−DTA測定を行った。そのDTA曲線をとり、実施例1〜4、比較例2〜3の結果と比較して示した。図3〜8に示す。図3〜8において、200〜300℃の間にある大きな山および300〜330℃の間にあるピークはアミンAであるオレイルアミンに起因するものであると考えられる。
【0063】
〔保護材のFT−IR測定〕
FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いて、試薬のオレイルアミン、および上記銀粒子分散液中の粒子について、有機化合物のスペクトルを測定した。その結果、有機保護膜はオレイルアミン単独であることが確認された。
【0064】
〔X線結晶粒径DXの測定〕
X線結晶粒径DXに関しては、銀粒子分散液にする前の粒子合成後固液分離の後、洗浄をしてウエット状態の沈殿物を、室温(25℃)の条件下でガラス製セルに塗布した後、X線回折装置を用いて回折線を確認した。その結果からJCPDSカードチャート:04−0783で見られる、Ag(111)面の回折ピーク(2θ=45°近傍に観測される)を用いて、下記(1)式に示すScherrerの式によりX線結晶粒径DXを求めた。X線にはCu−Kαを用いた。
DX=K・λ/(β・cosθ) ……(1)
ただしKはScherrer定数で、0.94を採用した。λはCu−Kα線のX線波長、βは上記回折ピークの半価幅、θは回折線のブラッグ角である。
結果を表1に示す(以下の各例において同じ)。
【0065】
〔銀塗料の調製〕
ここでは、アミンAからなる保護材に被覆された銀粒子を用いた銀塗料を作成した。前記の銀塗料分散液の粘度を回転式粘度計(東機産業製RE550L)により測定したところ、粘度は5.8mPa・sであった。また、前述したTG−DTA装置を用いた測定によりこの銀粒子分散液中の銀濃度は60質量%であった。この銀粒子分散液はインクとして塗布可能な特性を有していると判断されたので、これをそのまま銀塗料として使用することとした。
【0066】
〔塗膜の形成〕
前記銀塗料をスピンコート法でガラス基板の上にコーティングすることにより塗膜を形成させた。
【0067】
〔焼成膜の形成〕
塗膜を形成した基板を、まず大気中60℃にて30分間ホットプレート上で予備焼成した後、さらにそのホットプレート上にて大気中200℃で1時間保持することにより「200℃焼成膜」を得た。また、同様に60℃の予備焼成後に120℃のホットプレート上で1時間保持することにより「120℃焼成膜」を得た。
【0068】
〔焼成膜の比抵抗(体積抵抗)測定〕
表面抵抗測定装置(三菱化学製;Loresta HP)により測定した表面抵抗と、蛍光X線膜厚測定器(SII製;STF9200)で測定した焼成膜の膜厚から、計算により体積抵抗値を求め、これを焼成膜の比抵抗として採用した。
【0069】
結果を表1に示す(以下の各例において同じ)。
【0070】
表1からわかるように、保護材の構成がアミンA(オレイルアミン)である本比較例1の銀微粉によると、200℃焼成膜の比抵抗が3.59(μΩ・cm)と非常に低下していることから、200℃以下の温度で銀の焼結が起こると言える。しかし、120℃焼成膜は測定上限を超えており(表1では「OVER load」と記載した)、導電性を有しているとは認められなかった。したがって、120℃×1時間の条件では導電性を付与するに足るだけの銀粒子の焼結は起こっていないと言える。
【0071】
《実施例1〜4》
比較例1に記載した「銀粒子の合成」に従って銀ナノ粒子を合成した。ただし、その次工程である「銀粒子分散液の作製」において、液状有機媒体としてテトラデカンの他に、さらにデカンおよびケロシンを用意した。そして、比較例1と同様に、前記洗浄後の固形成分をテトラデカン(実施例1、4)、デカン(実施例2)およびケロシン(実施例3)にそれぞれ混合・分散し、遠心分離機により30分間固液分離し、分離された液(銀粒子分散液)を回収した。これらの液にはアミンAに覆われた銀粒子が単分散している。
【0072】
〔アミンBとの混合および沈降粒子の生成〕
アミンBとして試薬のオクチルアミン(C8H17−NH2、和光純薬株式会社製の特級)を用意した。また、イソプロパノール(和光純薬株式会社製の特級)を用意した。実施例1〜3では上記の各銀粒子分散液に、Agに対して10当量に相当する量のオクチルアミンを添加した。実施例4ではAgに対して10当量に相当する量のオクチルアミンと、さらにAgに対して20当量に相当する量のイソプロパノールを添加した。各例とも液温を60℃に保ち、表1に示す撹拌状態で、表1に示す時間保持した。撹拌を止めると沈降粒子が生成したことが観察された。
【0073】
《比較例2》
実施例1において、攪拌を全く行わなかった以外は同様にして粒子を形成させた。
【0074】
《比較例3》
実施例1において、反応温度を40℃とした以外は同様にして粒子を形成させた。
【0075】
〔固液分離および洗浄〕
上記の沈降粒子が生成した液を5分間の遠心分離により固液分離した。得られた固形分を回収し、この固形分にさらにメタノールを添加して超音波分散を30分間行い、その後、5分間の遠心分離により固液分離して固形分を回収する洗浄操作を1回行った。
【0076】
〔保護材のTG−DTA測定〕
洗浄後の固形分について、比較例1と同様の通常の昇温によるTG−DTA測定を行った。そのDTA曲線を図3(実施例1)、図4(実施例2)、図5(実施例3)、図6(実施例4)、図7(比較例2)および図8(比較例3)に示す。あわせて置換前である比較例1のデータも示した。置換前と置換後の対比から、置換後には置換前に見られていた200〜300℃の間にある大きな山および300〜330℃の間にあるピークは消失し、新たなピークが100〜200℃の間に観測された。このことから、実施例1〜4にお
いて、保護材は、アミンAであるオレイルアミンから、アミンBであるオクチルアミンに付け替えられたと考えられる。
【0077】
一方、図7(比較例2)や図8(比較例3)のように、本発明の範囲から外れる条件であれば、オレイルアミンとオクチルアミンの双方に起因するDTAピークが確認され、実施例のような完全に置換された状態にはなっていないことがわかる。
【0078】
〔平均粒子径DTEMの測定〕
試料粉末(アミンBの保護材で被覆された洗浄後のウエット状態の固形分)について、TEM(日本電子株式会社製JEM−2010)により倍率60万倍で観察される銀粒子のうち、重なっていない独立した300個の銀粒子を無作為に選択して、粒子径(画像上での長径)を計測した。個々の粒子についての粒子径を算術平均することにより平均粒子径DTEMを求めた。
【0079】
参考のため、図9〜図12にそれぞれ実施例1〜4において得られた銀粒子(アミンBの保護材で被覆されたもの)のTEM写真を例示する。
【0080】
〔X線結晶粒径DXの測定〕
試料粉末(アミンBの保護材で被覆された洗浄後のウエット状態の固形分)をガラス製セルに塗り、X線回折装置にセットし、比較例1と同様の条件でX線結晶粒径DXを求めた。
【0081】
〔銀塗料の調製〕
上記の洗浄後の固形分に、実施例1〜3ではテトラデカン、実施例4ではデカリンを少量加えたのち、混練脱泡器にかけ、ペースト状の銀塗料を得た。
【0082】
〔塗膜の形成〕
銀塗料をアプリケーターを用いて比較例1と同様の基板上に塗布することにより塗膜を形成した。
【0083】
〔焼成膜の形成〕
比較例1と同様の方法により行った。
【0084】
〔焼成膜の比抵抗(体積抵抗)測定〕
比較例1と同様の方法により行った。
【0085】
表1からわかるように、実施例1乃至4は低分子量のアミンB(オクチルアミン)からなる複合有機保護材で被覆された銀ナノ粒子を得たことにより、120℃という低温での焼結が可能であった。そして、それぞれ10.2、7.9、5.9、6.0(μΩ・cm)という低い比抵抗の値を得ることができた。
【0086】
【表1】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温焼結性に優れた性質を示す金属ナノ粒子の製造方法および該方法により得られる金属ナノ粒子およびこの金属ナノ粒子を有機溶媒中に分散した分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の製造技術の進展に伴って、シングルナノクラスの金属ナノ粒子も形成できるようになってきた。ここで、「シングルナノクラス」とは、TEMによる写真測定といった測定方法で計測される平均粒径が1nm以上10nm以下の大きさの粒子をいう。さて、シングルナノクラスの金属ナノ粒子表面には通常多少の違いはあるが、有機物による被覆が存在している。これらの金属ナノ粒子で薄膜を形成しようとする場合には、一旦基板上にこの形態で塗布を行ってから、加熱により表面を被覆する有機物を分解、蒸散させ金属薄膜とすることが行われている。
【0003】
かような方法で金属薄膜を得ようとする場合、加える熱が高い場合には好適な金属膜を得ることができるものの、耐熱性に弱い基板には適用することができない。そこで、従来から金属薄膜形成時における温度を低くするための試みがなされてきた。方法としては予め炭素鎖の短い有機物で被覆するか、もしくは予め作成しておいた粒子の表面を構成する有機物をより焼結性が進みやすい物質に変換するという手法が挙げられる。
【0004】
なかでも置換反応による例として、特許文献1〜3には金属粒子の表面を覆う保護材を別の保護材に置換する技術が開示されている。特許文献1には、合成段階において、還元剤を滴下し形成させた金属ナノ粒子において、表面に形成された有機物を置換するという発明が開示されている。特許文献2には、置換反応時に有機溶媒を添加し、置換のドライビングフォースとして使用する、という手法が開示されている。また、特許文献3には、インクジェット用の金属ナノ粒子の製造方法として、脂肪酸金属塩を形成させた後、二段階の置換を経て炭素鎖8〜20のアミンと原料由来の脂肪酸がともに表面に存在した金属ナノ粒子を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−089786号公報(特許請求の範囲他)
【特許文献2】特開2008−095194号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2008−157071号公報(特許請求の範囲他)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法の場合、いくら攪拌を施していたとしても、液中での均一な反応を生じさせにくくいため、粒子として均一なものを得ることは容易ではない。また、特許文献2の方法の場合には、分散もしくは反応を促す成分として異種成分の添加が必須となっているため、添加してからその有機媒体が均一となるまでの間、不均一系となることから、粒度分布の整った粒子を得ることは容易ではない。さらに、特許文献3については、粒子表面に存在する界面活性剤成分が少なくとも2種からなっており、金属膜を形成する際に発熱が少なくとも2回生じることから、特に耐熱性に弱い基板を用いるような場合には好ましいものではない。
【0007】
また、通常知られている技術では、表面を被覆する有機物は金属粒子間を隔離する性質
を利用して、比較的分子量の大きい有機物を利用することが多い。しかしながら、かような物質を使用すれば、粒子同士の独立性を保つため、保存・保管時には好ましいものの、低温焼結性に着目した膜や配線の形成時には低温焼結性の発現に対し阻害要因として働くことがある。また加熱で除去しようとしても、特に長い炭素鎖を有するような分子を用いれば、配線内に残存してしまうため、電気抵抗の上昇をひきおこすことがある。
【0008】
本願発明者らは、オレイルアミン等の不飽和結合を有する1級アミンの存在下において、硝酸銀を初めとした銀塩を還元することで、極めて高い分散性と独立性を有する銀ナノ粒子が得られることを見いだし、すでに特許文献で開示している。(例えば、特開2007−039718号公報等)この方法により得られる銀ナノ粒子は、反応時に周囲に存在する1級アミンにより被覆される。この1級アミンは比較的大きな分子量を有し、粒子間の距離をほどよい距離を保ち、銀ナノ粒子の液中における凝集や焼結を抑制し、独立性を保つ働きをもつ。さらにオレイルアミンといった、大きな分子量を有する保護基が表面に存在していながらも、従来知られている高分子により被覆された粒子よりも低温の加熱で金属間焼結を生じさせることができる。これは、粒子表面を構成する界面活性剤の構成として不飽和結合を持つ構成としたため、界面活性剤の反応や分解作用が促進され、金属ナノ粒子からの脱離が容易に進んだためではないかと考えている。
【0009】
しかし、200℃近傍まで焼成温度を下げることができていたとしても、汎用性の高い基板は分解や融解が100〜180℃、あるいは100〜150℃で起こるものもあり、これらに適用できるような低い焼結温度を有する金属ナノ粒子が製造できれば、より広範な用途で利用が促進されることが期待される。例示すれば、CD,DVD等に使用されている透明性のポリカーボネート基板に適用できれば、メディアやレンズ表面に微細配線を形成することができるようになり、各種の附加機能を与えることができるようになる。また、PET基板や紙上に配線を形成することができるようになれば、該素材上にアンテナなどを形成できるようになることから、RFID(ICタグ)等にも利用できるようになると期待される。
【0010】
また、従来には利用できなかったようなものにも配線を形成できるようになるため、電子機器をより小さく、より軽く、より薄くできるようになると推定でき、フィルム中に分散させることで、透明フィルムヒーターなどの面状発熱体、電磁波遮蔽フィルム、太陽電池、透明電極や、プラズマディスプレイテレビなどの電磁波遮蔽フィルムといった分野にも広く利用することもできると考えられる。
【0011】
本発明は、かような幅広い用途に適用させるため、従来の手法よりもより簡便で焼結温度が極めて低い金属ナノ粒子の製造方法、およびその手法により得られる金属ナノ粒子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本願発明では不飽和結合を有する分子量200〜400の一級アミンにより被覆された、透過型電子顕微鏡により確認される粒子の平均粒子径DTEM:3〜20nmの金属ナノ粒子が単分散した金属ナノ粒子分散液と、当初付着しているアミンの炭素鎖よりも短い、炭素数6〜12の1級アミンとを混合する工程(混合工程)と、混合した状態で攪拌し、反応液の液温を50〜80℃に保持することで表面を被覆するアミンを炭素数6〜12の1級アミンへと置換する工程(置換工程)と、さらに固液分離操作により前記粒子を固形分として沈降回収する工程(固液分離工程)という大別して3つの工程を備えた、金属ナノ粒子の製造方法が提供される。ここで、金属ナノ粒子に最初に付着していた分子量200〜400の一級アミンをアミンAと示し、置換後に粒子表面に付着した炭素数6〜12の一級アミンをアミンBと示す。
【0013】
置換前の不飽和結合を有するアミンAは、金属塩溶液から直接還元析出した粒子に直接付着したものであり、とくにオレイルアミン(分子量:約267、構造式:C9H18=C9H17−NH2)であることが好適である。
【0014】
上述した方法により得られる金属ナノ粒子は、大気条件下で測定したDTA曲線において、発熱ピークが200℃以下に単独で確認される。これは、置換後のアミンBにより奏されるものであって、従前被覆していた物質に起因しないという性質を有する。
【0015】
さらに得られた粒子の分散液を塗布後焼成したとき、大気中120℃の条件下、1時間保持したときに得られる、金属膜の比抵抗が25μΩ・cm以下となる性質を備えることを特徴とする。比抵抗を算出する方法は特に限定はされないが、通常公知の方法を採用することが好適である。本願明細書においては、被測定試料を大気中にて200℃で焼成した際に得られる比抵抗が20μΩ・cm以下と計測されるような条件を、120℃焼成での評価条件に適用して、焼成膜の評価を行った。すなわち、分散液の調製、塗布、焼成及び測定の条件を、200℃焼成で比抵抗が20μΩ・cm以下の値を示す場合の条件と同一にして、120℃焼成膜の比抵抗を測定する、というものである。200℃焼成において、焼結が進んでいるかどうか確認することができる手法であれば、その条件を120℃焼成に適用したとしても、焼結の進行度合を客観的に判断することができる。そもそも、大気中での200℃での焼成時において、比抵抗が20μΩ・cm以下を示さないような粒子は、低温焼結性が得られているとは言い難いので、本願発明の対象からは必然的に除外される。
【0016】
本願明細書において、「界面活性剤により被覆された」とは、個々の金属ナノ粒子が結合しない状態で独立して存在し、その独立性の担保として粒子同士が接触しない程度に十分な有機物質からなる保護物質が金属粒子の表面に被覆して存在している状態を言う。
【発明の効果】
【0017】
本発明に開示した製造方法によれば、従来実施されてきた粒子表面における界面活性剤の置換方法と比較して、極めて容易に表面を構成する界面活性剤を置換することが出来る。これにより、低温で導電性の高い金属膜を形成することができ、より広範な用途に利用されうる、金属ナノ粒子およびそれが分散された分散液を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】合成された銀粒子のアミンAがアミンBに置換された量を模式的に算出するための方法を示した図。
【図2】合成された銀粒子のアミンA被覆量を測定する際のTG−DTA装置によるヒートパターンを模式的に示した図。
【図3】実施例1で得られた粒子と置換前の比較例1の粒子についてのDTA曲線。
【図4】実施例2で得られた粒子と置換前の比較例1の粒子についてのDTA曲線。
【図5】実施例3で得られた粒子と置換前の比較例1の粒子についてのDTA曲線。
【図6】実施例4で得られた粒子と置換前の比較例1の粒子についてのDTA曲線。
【図7】比較例2で得られた粒子と置換前の比較例1の粒子についてのDTA曲線。
【図8】比較例3で得られた粒子と置換前の比較例1の粒子についてのDTA曲線。
【図9】実施例1においてテトラデカン中での置換反応により得られた銀粒子のTEM写真。
【図10】実施例2においてデカン中での置き換え反応により得られた銀粒子のTEM写真。
【図11】実施例3においてケロシン中での置き換え反応により得られた銀粒子のTEM写真。
【図12】実施例4においてテトラデカンとイソプロパノールの共存下で置換反応により得られた銀粒子のTEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に開示した製造方法の特徴としては、金属ナノ粒子の表面に製造時に形成されたアミンAからなる界面活性剤を、アミンAよりも炭素鎖が短く、かつ炭素数6〜12の一級アミンBで置換することに特徴を有する。
【0020】
通常よく知られているように、金属ナノ粒子の表面には粒子同士が結合することを防止するため、界面活性剤等の有機化合物が存在している。一般的な界面活性剤は、疎水基Rと親水基Xを有するR−Xの構造をもつ。疎水基Rとしては炭素骨格に水素が結合したアルキル基が代表的であり、親水基Xとしては種々のものがあるが、例えば脂肪酸であれば「−COOH」、アミンでは「−NH2」となる。
【0021】
界面活性剤を金属ナノ粒子の表面に存在させ、粒子を保護する場合には、親水基Xが金属銀の表面と結合し、疎水基Rがこの有機保護材に覆われた粒子の外側に向いて配向していると考えられる。金属ナノ粒子は極めて活性が高いので、通常、粒子の表面は保護材で覆われていなければ安定に存在できない。このことから理解できるように、金属ナノ粒子をそのままの形状で長く安定な状態に保持するためには、極力粒子同士が接触しないように、界面活性剤としては比較的大きな分子量を有するものを用いることが好ましい。
【0022】
しかし、これもよく知られているように、有機化合物は長鎖になるに従い沸点が上昇するとともに、長鎖の有機化合物を分解するためにはより多くのエネルギーが必要となる。すなわち、必然的に長鎖の有機化合物を用いた場合には、多くのエネルギーを必要とするため、焼結膜とするには高温の加熱が必要となる。よって、低温により焼結膜を得るには、表面を構成する界面活性剤そのものを可能な限り炭素鎖が短い物質を界面活性剤として使用することが必要となる。そのためには、合成時に初めから短鎖の界面活性剤を採用し表面に付着させることも方法の一つとはなるが、凝集等により分散性の良好な銀微粉を得ることが難しく、合成反応後に洗浄等の工程を経て塗料を調製する操作に支障をきたしやすいことが発明者らの検討により判明した。
【0023】
したがって、粒子を長期にわたり保存するためには、粒子間の距離をできるだけ広げ、粒子を安定に保つことが必要であるため、表面を被覆する界面活性剤として比較的長鎖のものが好まれ、使用時には低温焼結性を得るためにできるだけ短鎖であることが好まれるという、相反する要望が存在している。その解決には、当初の界面活性剤は比較的長鎖であって、使用時には短鎖のものへ簡単に交換することができるような性質のものであれば、上記要望は比較的容易に達成することができる。
【0024】
かような要求は、特定の分子構成を有したアミン系の界面活性剤(アミンA)で表面を構成し、置換液中に初めに構成したアミンAよりも炭素数が短い有機物質、とりわけアミン系(アミンB)を存在させることにより、アミンAは液中で脱離するものの金属表面と再結合せず、代わって周囲に存在する短い炭素鎖のものが選択的に金属表面に吸着することを知見し、本発明を完成させた。
【0025】
すなわち、微粒子の表面を被覆する界面活性剤として、アミン系のものを使用することで、ナノ粒子の表面に存在する有機物質を簡便な方法で置換することができるようになる。また、置換後のアミンの炭素数を選択、調整することで他の性質との兼ね合いも考慮しながら、焼成温度を適度に選択できるようになる。とりわけオクチルアミンやヘキシルアミンであれば、120℃前後の加熱温度であっても焼成膜を形成できるようになるので好ましい。
【0026】
炭素鎖が短いアミン系界面活性剤への置換の効果はこれには止まらない。置換前に粒子表面に付着していた分子量200〜400のアミンAによる被覆されたものでは困難であった、芳香族炭化水素に対する分散も置換後の粒子では行えるようになることが確認された。芳香族有機化合物に対する分散が可能になるということは、トルエン等の工業的に広く使用されている安価な溶媒が利用できることを意味し、低温焼結性金属ナノ粒子の新たな用途展開が期待される。
【0027】
ここで、保護材中には不純物として当初、すなわち置換前に粒子表面を被覆していた分子量200〜400のアミンAが僅かに残存していたとしても置換後の粒子が有する上記の効果には特段影響を及ぼさない。置換前のアミンAの残存量としては総アミン量の合計の1%未満であればよい。アミンAの残存量の算定する方法の一例としては、DTA曲線において、分子量200〜400のアミンAに起因する吸収のうち最も吸収の大きいAと、置換後の炭素数6〜12のアミンBに起因する吸収のうち最も吸収の大きいBの値を加えることで、全体のアミンの量を算出し、その中でAの占める割合を算出することで求めることもできる。
【0028】
ただし、DTA吸収は直線であるとは限らないので、その場合には、便宜的に図1に示すような方法を用いて算出する方法が採用できる。(1)図のような100〜400℃での結果を用いる場合には、100℃と400℃でのDTA値を直線で引く(以降ベースライン(B.L.)とする)。(2)置換前の界面活性剤に起因するピークで最も高いものをAとし、置換後の有機物に起因するピークで最も高いものをBとする。そうして、ベースラインに対して線をそれぞれ引き(図1の点線部に相当)それぞれの長さを測定して、A/(A+B)で算出する。ここでは、一例を示したが、他にも通常定量性のあるとされている指標のいずれも採用することができる。なお、図1のものは、アミンAおよびBの特性を誇張して記載したものであり、実測データではない。
【0029】
さらに説明すれば、金属ナノ粒子生成当時に被覆しているアミンは、不飽和結合を持つ分子量が200〜400である1級アミンAを採用することが好ましい。不飽和結合を持つ1級アミンは、分子量が多少大きくても、焼成時の加熱によって金属粒子からの脱離および揮発除去が起こりやすいことがわかった。また、粒子の安定性などを考慮すれば、分子量200以上のアミンを選択することが有効であるといえる。分子量が過剰に大きいと塗膜を低温焼成したときに脱離・揮発しにくくなるので、分子量400以下のものがよい。
【0030】
置換するアミンとしては炭素数6〜12の1級アミンBを選択することが好ましい。これらの有機物質は、分子量が小さいことに起因して焼結温度の顕著な低減効果を得ることができる。
【0031】
界面活性剤に被覆され保護された金属ナノ粒子の粒径は、TEM(透過型電子顕微鏡)の画像から測定される平均粒子径DTEMあるいはX線結晶粒径DXによって表すことができる。X線は金属の種類により特徴的な回折面が異なるので便宜のため、以降銀について詳述する。
【0032】
本願発明の方法によれば、TEMにより計測される粒子径:DTEMが3〜20nmである銀粒子、あるいは(111)面における半値幅より算出したX線結晶粒径:Dxが1〜20nmである銀粒子が好ましい対象となる。また、DTEMが3〜7nm、DXが1〜5nm程度の極めて微細な銀粒子は、例えばオレイルアミンを反応溶媒として直接銀化合物を還元する手法などによって合成することもできる。なお、合成された金属銀の結晶粒界には不純物が混入しやすいため、粒界を形成しない構成、すなわち粒子としては粒子一つが結晶一つに相当することが好ましい。
【0033】
不具合について考えると、例えば不純物の量が多くなると、微細配線を焼成する際にポアが生じて良好な導電性が確保できなくなったり、耐マイグレーション性が劣ったりする不都合を生じやすい。種々検討の結果、TEM等で可視される粒子が何個の結晶子から構成されているかを示す指標としては、TEM写真内で計測される粒子径サイズを、X線粒子径で割って表される単結晶度(DTEM/DX)が2.5以下であることが望ましく、2.0以下であることが一層好ましいが、更に好ましくは粒界の存在しない1であることが一層好ましい。この低温焼結性に優れた銀(以後「Ag」ともいう。)微粉は以下のようにして得ることができる。
【0034】
〔銀粒子の合成〕
本発明で使用する銀ナノ粒子原料は、粒度分布等の粒子性状が安定しており、かつ液状媒体中で凝集・沈降しにくい性質を有していることが重要である。そのような銀粒子の合成法として、ここでは従来から検討している合成法を簡単に説明する。すなわち、この合成法は、アルコール中またはポリオール中で、アルコールまたはポリオールを還元剤として、銀化合物を還元処理することにより銀粒子を析出させるものである。この場合、アルコールまたはポリオールは溶媒であるとともに還元剤でもある。還元反応は溶媒液を昇温して、好ましくは還流状態とすることによって進行させることができる。こうした手法をとることにより、不純物の混入を防ぎ、例えば配線材料として使用とした時には抵抗値を小さくすることが可能になる。
【0035】
その還元反応を進行させる際には、溶媒中に粒子をくるむことで保護物質として機能する有機化合物を共存させておくことが肝要である。その有機化合物として、ここでは不飽和結合を持つ分子量200〜400の1級アミンAを使用する。不飽和結合を持たないものでは、表面がそのアミンで保護された銀ナノ粒子を合成することは困難である。発明者らの知見では、このときの不飽和結合の数は1分子中に少なくとも1個あれば足りる。
【0036】
分子量が小さいものでは還元時の液状媒体中において凝集・沈降が生じやすく、均一な還元反応の妨げになる場合がある。そうなると粒径分布を均一化するなどの品質管理面のコントロールが難しくなる。また、液状有機媒体中に銀粒子が単分散した状況を作ることが難しくなる。逆に分子量が過剰に大きい有機化合物を用いると、後の工程において炭素数6〜12のアミンBに置き換える操作が難しくなることが懸念される。該当するアミンAの具体的な例としては、上述の通りオレイルアミンが挙げられる。
【0037】
還元反応時に溶媒中に共存させる1級アミンAの量は、銀に対し0.1〜20当量とすることができ、1〜15当量とすることがより好ましく、2〜10当量が一層好ましい。本願明細書における1当量とは、銀1モルに対して対応するアミンが1モル存在することを指す。1級アミンの使用量が少なすぎると銀粒子表面の保護材の量が不足して、液中での単分散が実現できなくなる。多すぎると後の工程でアミンAをアミンBに置き換える反応が効率よく行えない虞がある。
【0038】
還元剤としては、溶媒であるアルコールまたはポリオールを使用する。反応に際しては還流操作を行うことが効率的である。このため、アルコールまたはポリオールの沸点は低い方が好ましく、具体的には80〜300℃、好ましくは80〜200℃、より好ましくは80〜150℃であるのがよい。とりわけ、イソブタノール、n−ブタノールが好適である。
【0039】
還元反応を促進させるためには還元補助剤を添加しても構わない。還元補助剤の具体例は特許文献4に開示されているものから1種以上を選択すれば良いが、これらのうちジエタノールアミン、トリエタノールアミンを用いるのが特に好ましい。
【0040】
銀の供給源である銀化合物としては、上記溶媒に溶解し得るものであれば種々のものが適用でき、塩化銀、硝酸銀、酸化銀、炭酸銀などが挙げられるが、工業的観点から硝酸銀が好ましい。還元反応時の液中のAgイオン濃度は0.05モル/L以上、好ましくは0.05〜5.0モル/Lとすることができる。アミンA/Agのモル比については0.05〜5.0の範囲とすることができる。還元補助剤/Agのモル比については0.1〜20の範囲とすることができる。
【0041】
還元反応の温度は、50〜200℃の範囲内とすることが望ましい。50〜150℃とすることがより好ましく、60〜140℃の範囲が一層好ましい。アミンAに覆われた銀粒子(上記還元により合成されたもの)は、銀粒子とアミンAの合計に対するアミンAの存在割合(以下、単に「アミンA割合」という)が0.05〜25質量%に調整されていることが望ましい。アミンA割合が低すぎると粒子の凝集が生じやすい。逆にアミンA割合が高くなると、後の工程でアミンAをアミンBに置き換える反応が効率的に行えない虞がある。
【0042】
〔銀粒子分散液の作成〕
アミンAに覆われた銀粒子は、例えば上記のような湿式プロセスでの還元反応で合成されたのち、固液分離および洗浄に供される。その後、液状有機媒体と混合して分散液を作る。液状有機媒体としては、アミンAに覆われた銀粒子が良好に分散する物質を選ぶ。例えば、炭化水素系が好適に使用できる。例えば、イソオクタン、n−デカン、イソドデカン、イソヘキサン、n−ウンデカン、n−テトラデカン、n−ドデカン、トリデカン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素が使用できる。ケロシンなどの石油系溶媒を使用しても構わない。これらの物質を1種以上使用して液状有機媒体とすれば良い。
【0043】
ただし、本発明では、アミンAに被覆された銀粒子が単分散している銀粒子分散液を用意することが重要である。ここで、「単分散」とは、液状媒体中に個々の銀粒子が互いに凝集することなく、独立して動ける状態で存在していることをいう。具体的には、銀粒子を含む液を遠心分離による固液分離操作に供したとき、粒子が分散したまま残っている状態の液(上澄み)を、ここでは銀粒子分散液として採用することができる。
【0044】
〔保護材の付け替え〕
アミンAにより被覆されている銀粒子が単分散している液状有機媒体と、炭素数6〜12の1級アミンBを混合すると、個々の粒子の周囲にアミンBが存在する状態、すなわち粒子が液中でアミンBに包囲されている状態(以下「アミンBによる包囲状態」という)を実現することができる。発明者らは、この状態をしばらく維持すると、アミンAが銀粒子からはずれて、アミンBへの置換現象(以下「置換反応」ということがある)が生じることを発見した。なお、「アミンBによる包囲状態」を維持する時間は詳細に後述する。
【0045】
この置換反応が生じるメカニズムについては現時点で未解明の部分が多いが、アミンAとアミンBの疎水基のサイズが相違することに起因する金属銀とアミンの親和力の差が、この反応の進行の主たる要因になっているのではないかと考えられる。また、アミンAとして不飽和結合を有するものを採用していることも、アミンAの金属銀からの脱離を容易にし、アミンBとの置換反応の進行に寄与していると考えられる。また、長鎖のオレイルアミンと短鎖のオクチルアミンの溶解度の違いも要因としては考えられる。
【0046】
置換反応は常温でも進行するが、発明者らの詳細な検討によれば、アミンBの種類により反応の適温は変化するが、総じて液の温度が10℃未満であれば、アミンAの一部が吸着したまま残存することが多く、完全な置換とはならず、「アミンAとアミンBで構成される複合有機保護材」に覆われた粒子になりやすい。この場合、芳香族有機化合物への分
散性が低下し、芳香族有機化合物を分散媒とする安価な液状インクを作成する際には不利となる。そこで本明細書ではアミンBへの付け替えを50℃以上、好ましくは55℃以上の温度で行う。ただし、あまり温度を高めると不必要な粒子同士の融着が生じる虞があるので、80℃以下の温度で行うのが良く、70℃以下とすることがより好ましい。
【0047】
銀粒子の表面を覆っている保護材が低分子量のアミンBに置換される反応が進行していくと、構成する炭素数が多く、占有体積が大きいことに起因してアミンAが有する浮力の効果が徐々に低減し、アミンAがまだ残存している、すなわち完全に置換が進んでいない状態でも粒子は沈降するようになる。沈降粒子が反応容器の底に堆積すると、液中に存在し、粒子の周囲に存在するアミンBとの接触する機会が少なくなることから、それらの粒子は置換反応がそれ以上進行しにくくなるようになる。したがって、本発明では置換反応に際し、液を撹拌することを必須の構成要件とする。ただし、あまり力学的な力を加えることは好ましい形態とは言えないので、必要以上に強く撹拌する必要はなく、アミンAがまだ付着している粒子をアミンBがアミンAの周囲に存在している状態に置くことができる程度で十分である。したがって、反応容器の底に沈降粒子が堆積しない程度の撹拌を与えるのがよい。
【0048】
「アミンBによる包囲状態」を作ると、時間とともにアミンBによる置換量が増えていくことになるが、1時間以上の置換反応時間を確保することが望ましい。ただし、24時間を超えても、それ以上の置換反応はあまり進行しないので、24時間以内で置換反応を終了させるのが実用的である。現実的には1〜7時間の範囲で調整すればよい。
【0049】
混合するアミンBの量は、「アミンBによる包囲状態」が実現できるに足る量を確保する。混合前に保護材として存在するアミンAの量に対し、最低でも等モルよりも多い量を添加することが望ましい。好ましくはアミンBの量はアミンAに対し2倍以上であるのがよい。
【0050】
一方、被覆されるAgに対しては混合前に銀粒子として存在するAgに対する当量比(アミンB/Ag)では、5当量以上のアミンBを混合することが望ましい。もちろん、液量によって多少変化する場合もある。しかし、これまでの実験では5〜20当量程度のアミンB/Ag当量比で良好な結果が得られている。なお、Ag:1モルに対し、1級アミンB:1モルが1当量に相当する。
【0051】
置換反応を進行させる液中にアミンAが溶解しやすいアルコールを配合させると、より効率良くアミンBへの置換反応が進行する。アミンAがオレイルアミンの場合、例えばイソプロパノールを好適に添加することができる。
【0052】
〔固液分離〕
上述のように、置換が終了した粒子は沈降するので、反応終了後の液を固液分離することによって、反応後に得られた粒子を固形分として容易に回収することができる。固液分離としてはデカンテーションでも行うことができるが、より効率よく短時間で分離回収するには遠心分離を用いるのがよい。得られた固形分は、アミンBで構成される有機物質で被覆された銀ナノ粒子が大半を占める。
【0053】
〔洗浄〕
上記の固形分は、アルコールなどの溶媒を用いて洗浄することが望ましい。1回以上の洗浄操作を経て最終的に固液分離されて得られた固形分を塗料に使用する。
【0054】
〔塗料の調製〕
上記洗浄後の固形分(保護材をアミンBに付け替えた銀ナノ粒子)と、適当な有機媒体
とを混合して塗布可能な性状とすることにより、本発明の銀塗料が得られる。ここで混合する有機媒体は、120℃程度の温度で揮発除去しやすいものを選択することが肝要である。なお、この銀ナノ粒子が液状媒体に分散したインクを作成する場合は、常温で液体の芳香族有機化合物や脂肪族炭化水素を媒体に使用することができる。
【実施例】
【0055】
《比較例1》
リファレンスとして、下記に示すアルコール還元法で合成した銀ナノ粒子を用いて塗料を調整し、焼成温度200℃および120℃で焼成した焼成膜の比抵抗を調べた。この銀微粉は個々の粒子の表面がアミンA(ここではオレイルアミン)からなる有機保護材に覆われているものである。具体的には以下のようにして実験を行った。
【0056】
〔銀粒子の合成〕
反応媒体兼還元剤としてイソブタノール(和光純薬株式会社製の特級)200mL、アミンAとしてオレイルアミン(和光純薬株式会社製、分子量=267)27mL、銀化合物としての硝酸銀結晶(関東化学株式会社製)13.7gを用意し、これらを混合してマグネットスターラーにて撹拌し、硝酸銀を溶解させた。この溶液を還流器のついた容器に移してオイルバスに載せ、容器内に不活性ガスとして窒素ガスを400mL/minの流量で吹込みながら、該溶液をマグネットスターラーにより撹拌しながら100℃まで昇温した。100℃の温度で3時間の還流を行なった後、還元補助剤として2級アミンのジエタノールアミン(和光純薬株式会社製、分子量=106)を対Agモル比1.0となるように8.5g添加した。その後、1時間保持した後、反応を終了した。反応終了後のスラリーを遠心分離機で固液分離し、分離された液を廃棄して固体成分を回収した。その後、「固体成分をメタノールと混合したのち遠心分離機で固液分離し、分離された液を廃棄して固体成分を回収する」という洗浄操作を2回行った。
【0057】
〔銀粒子分散液の作成〕
液状有機媒体としてテトラデカンを用意した。これに前記洗浄後の固形成分を混合・分散し、遠心分離機により30分間固液分離し、分離された液を回収した。この液にはアミンAに覆われた銀粒子が単分散している。
【0058】
この銀粒子分散液を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、平均粒径DTEMを求めた。すなわち、TEM(日本電子株式会社製JEM−2010)により倍率60万倍で観察される粒子のうち、重なっていない独立した300個の銀粒子の粒子径を計測して、平均粒子径を算出した。その結果、DTEMは8.5nmであった。本例では後述のように、この銀粒子分散液を銀塗料に用いるので、表1にはこのDTEM値を記載してある。
【0059】
TG−DTA装置を用いて、銀粒子とその表面を覆っているアミンA(オレイルアミン)の合計に対するアミンAの存在割合(以下「アミンA被覆量」という)を求めた。アミンA被覆量を算出するには、図2に示すヒートパターンを採用する。なお、図2において網掛けになっている部分は温度の保持を表し、点線部は昇温(具体的に下記に示すように10℃/分)を表す。
【0060】
具体的に図2の説明を加えると、はじめに、温度は室温から200℃まで10℃/分で昇温し(ステージI)、200℃で60分維持して(ステージII)、銀粒子分散液に含まれる有機媒体(ここではテトラデカン)を揮発させる。次いで200℃から700℃まで10℃/分で昇温し(ステージIII)、700℃で再度60分維持する(ステージIV)。ステージI〜IIにおいて有機媒体が全部揮発するとともに保護材であるアミンAは残留し、ステージIII〜IVにおいてアミンAは全部揮発するとみなすことができる。
【0061】
図2のヒートパターンでTG−DTA装置により測定される重量変化をモニターし、ステージIIが終了するまでに重量変化はほぼゼロになるので、この時点までに減じた重量分W1を有機媒体(分散媒)の重量とする。そして、ステージIII開始後、再び重量減少が生じ、ステージIVが終了するまでに重量変化はほぼゼロになるので、ステージIII〜IVの間に新たに減じた重量分W2をアミンAの重量とする。残りの重量W3を銀の正味の重量とする。アミンA被覆量(%)は、W2/(W2+W3)×100によって算出される。その結果、この銀粒子分散液中の粒子におけるアミンA被覆量は8.0質量%であった。
【0062】
〔保護材のTG−DTA測定〕
銀粒子分散液について昇温速度10℃/分でのTG−DTA測定を行った。そのDTA曲線をとり、実施例1〜4、比較例2〜3の結果と比較して示した。図3〜8に示す。図3〜8において、200〜300℃の間にある大きな山および300〜330℃の間にあるピークはアミンAであるオレイルアミンに起因するものであると考えられる。
【0063】
〔保護材のFT−IR測定〕
FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いて、試薬のオレイルアミン、および上記銀粒子分散液中の粒子について、有機化合物のスペクトルを測定した。その結果、有機保護膜はオレイルアミン単独であることが確認された。
【0064】
〔X線結晶粒径DXの測定〕
X線結晶粒径DXに関しては、銀粒子分散液にする前の粒子合成後固液分離の後、洗浄をしてウエット状態の沈殿物を、室温(25℃)の条件下でガラス製セルに塗布した後、X線回折装置を用いて回折線を確認した。その結果からJCPDSカードチャート:04−0783で見られる、Ag(111)面の回折ピーク(2θ=45°近傍に観測される)を用いて、下記(1)式に示すScherrerの式によりX線結晶粒径DXを求めた。X線にはCu−Kαを用いた。
DX=K・λ/(β・cosθ) ……(1)
ただしKはScherrer定数で、0.94を採用した。λはCu−Kα線のX線波長、βは上記回折ピークの半価幅、θは回折線のブラッグ角である。
結果を表1に示す(以下の各例において同じ)。
【0065】
〔銀塗料の調製〕
ここでは、アミンAからなる保護材に被覆された銀粒子を用いた銀塗料を作成した。前記の銀塗料分散液の粘度を回転式粘度計(東機産業製RE550L)により測定したところ、粘度は5.8mPa・sであった。また、前述したTG−DTA装置を用いた測定によりこの銀粒子分散液中の銀濃度は60質量%であった。この銀粒子分散液はインクとして塗布可能な特性を有していると判断されたので、これをそのまま銀塗料として使用することとした。
【0066】
〔塗膜の形成〕
前記銀塗料をスピンコート法でガラス基板の上にコーティングすることにより塗膜を形成させた。
【0067】
〔焼成膜の形成〕
塗膜を形成した基板を、まず大気中60℃にて30分間ホットプレート上で予備焼成した後、さらにそのホットプレート上にて大気中200℃で1時間保持することにより「200℃焼成膜」を得た。また、同様に60℃の予備焼成後に120℃のホットプレート上で1時間保持することにより「120℃焼成膜」を得た。
【0068】
〔焼成膜の比抵抗(体積抵抗)測定〕
表面抵抗測定装置(三菱化学製;Loresta HP)により測定した表面抵抗と、蛍光X線膜厚測定器(SII製;STF9200)で測定した焼成膜の膜厚から、計算により体積抵抗値を求め、これを焼成膜の比抵抗として採用した。
【0069】
結果を表1に示す(以下の各例において同じ)。
【0070】
表1からわかるように、保護材の構成がアミンA(オレイルアミン)である本比較例1の銀微粉によると、200℃焼成膜の比抵抗が3.59(μΩ・cm)と非常に低下していることから、200℃以下の温度で銀の焼結が起こると言える。しかし、120℃焼成膜は測定上限を超えており(表1では「OVER load」と記載した)、導電性を有しているとは認められなかった。したがって、120℃×1時間の条件では導電性を付与するに足るだけの銀粒子の焼結は起こっていないと言える。
【0071】
《実施例1〜4》
比較例1に記載した「銀粒子の合成」に従って銀ナノ粒子を合成した。ただし、その次工程である「銀粒子分散液の作製」において、液状有機媒体としてテトラデカンの他に、さらにデカンおよびケロシンを用意した。そして、比較例1と同様に、前記洗浄後の固形成分をテトラデカン(実施例1、4)、デカン(実施例2)およびケロシン(実施例3)にそれぞれ混合・分散し、遠心分離機により30分間固液分離し、分離された液(銀粒子分散液)を回収した。これらの液にはアミンAに覆われた銀粒子が単分散している。
【0072】
〔アミンBとの混合および沈降粒子の生成〕
アミンBとして試薬のオクチルアミン(C8H17−NH2、和光純薬株式会社製の特級)を用意した。また、イソプロパノール(和光純薬株式会社製の特級)を用意した。実施例1〜3では上記の各銀粒子分散液に、Agに対して10当量に相当する量のオクチルアミンを添加した。実施例4ではAgに対して10当量に相当する量のオクチルアミンと、さらにAgに対して20当量に相当する量のイソプロパノールを添加した。各例とも液温を60℃に保ち、表1に示す撹拌状態で、表1に示す時間保持した。撹拌を止めると沈降粒子が生成したことが観察された。
【0073】
《比較例2》
実施例1において、攪拌を全く行わなかった以外は同様にして粒子を形成させた。
【0074】
《比較例3》
実施例1において、反応温度を40℃とした以外は同様にして粒子を形成させた。
【0075】
〔固液分離および洗浄〕
上記の沈降粒子が生成した液を5分間の遠心分離により固液分離した。得られた固形分を回収し、この固形分にさらにメタノールを添加して超音波分散を30分間行い、その後、5分間の遠心分離により固液分離して固形分を回収する洗浄操作を1回行った。
【0076】
〔保護材のTG−DTA測定〕
洗浄後の固形分について、比較例1と同様の通常の昇温によるTG−DTA測定を行った。そのDTA曲線を図3(実施例1)、図4(実施例2)、図5(実施例3)、図6(実施例4)、図7(比較例2)および図8(比較例3)に示す。あわせて置換前である比較例1のデータも示した。置換前と置換後の対比から、置換後には置換前に見られていた200〜300℃の間にある大きな山および300〜330℃の間にあるピークは消失し、新たなピークが100〜200℃の間に観測された。このことから、実施例1〜4にお
いて、保護材は、アミンAであるオレイルアミンから、アミンBであるオクチルアミンに付け替えられたと考えられる。
【0077】
一方、図7(比較例2)や図8(比較例3)のように、本発明の範囲から外れる条件であれば、オレイルアミンとオクチルアミンの双方に起因するDTAピークが確認され、実施例のような完全に置換された状態にはなっていないことがわかる。
【0078】
〔平均粒子径DTEMの測定〕
試料粉末(アミンBの保護材で被覆された洗浄後のウエット状態の固形分)について、TEM(日本電子株式会社製JEM−2010)により倍率60万倍で観察される銀粒子のうち、重なっていない独立した300個の銀粒子を無作為に選択して、粒子径(画像上での長径)を計測した。個々の粒子についての粒子径を算術平均することにより平均粒子径DTEMを求めた。
【0079】
参考のため、図9〜図12にそれぞれ実施例1〜4において得られた銀粒子(アミンBの保護材で被覆されたもの)のTEM写真を例示する。
【0080】
〔X線結晶粒径DXの測定〕
試料粉末(アミンBの保護材で被覆された洗浄後のウエット状態の固形分)をガラス製セルに塗り、X線回折装置にセットし、比較例1と同様の条件でX線結晶粒径DXを求めた。
【0081】
〔銀塗料の調製〕
上記の洗浄後の固形分に、実施例1〜3ではテトラデカン、実施例4ではデカリンを少量加えたのち、混練脱泡器にかけ、ペースト状の銀塗料を得た。
【0082】
〔塗膜の形成〕
銀塗料をアプリケーターを用いて比較例1と同様の基板上に塗布することにより塗膜を形成した。
【0083】
〔焼成膜の形成〕
比較例1と同様の方法により行った。
【0084】
〔焼成膜の比抵抗(体積抵抗)測定〕
比較例1と同様の方法により行った。
【0085】
表1からわかるように、実施例1乃至4は低分子量のアミンB(オクチルアミン)からなる複合有機保護材で被覆された銀ナノ粒子を得たことにより、120℃という低温での焼結が可能であった。そして、それぞれ10.2、7.9、5.9、6.0(μΩ・cm)という低い比抵抗の値を得ることができた。
【0086】
【表1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和結合を有する分子量200〜400の第1の一級アミンに被覆された透過型電子顕微鏡により確認される粒子の平均粒子径DTEMが3〜20nmである金属ナノ粒子が単分散した金属ナノ粒子分散液と、前記第1の一級アミンの炭素鎖よりも短い、炭素数6〜12の第2の一級アミンとを混合し混合液を得る工程と、
前記混合液を攪拌した状態で混合液の液温を50〜80℃に保持して前記金属ナノ粒子の表面に被覆された前記第1の一級アミンを炭素数6〜12の前記第2の一級1級アミンに置換する工程と、
さらに固液分離操作により前記粒子を固形分として沈降回収する工程を備えた、金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記沈降回収された粒子を有機溶媒で洗浄する工程を備える、請求項1に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第1の一級アミンは、金属溶液から直接還元析出した粒子に直接付着されたものである、請求項1または2に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第1の一級アミンはオレイルアミンである、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記金属は銀である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかの工程を経て製造された金属ナノ粒子を有機媒体中に再度分散させた工程を有する分散液の製造方法。
【請求項7】
大気条件下で測定したDTA曲線において、発熱ピークが200℃以下に単独で確認される金属ナノ粒子。
【請求項8】
炭素数6〜12の1級アミンにより被覆された粒子であって、該粒子は液中での置換反応により粒子表面に存在するアミンが置換された粒子であり、もとの被覆していた粒子に起因するDTAの発熱ピークが確認されない金属ナノ粒子。
【請求項9】
炭素数6〜12の1級アミンにより被覆された金属ナノ粒子であって、
前記金属ナノ粒子を用いた塗膜を大気中120℃の条件下、1時間保持したときに得られる、金属膜の比抵抗が25μΩ・cm以下となる性質を備えた金属ナノ粒子。
【請求項10】
炭素数6〜12の1級アミンにより被覆され、透過型電子顕微鏡により確認される粒子の平均粒子径が3〜20nmである、請求項7ないし9のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子。
【請求項1】
不飽和結合を有する分子量200〜400の第1の一級アミンに被覆された透過型電子顕微鏡により確認される粒子の平均粒子径DTEMが3〜20nmである金属ナノ粒子が単分散した金属ナノ粒子分散液と、前記第1の一級アミンの炭素鎖よりも短い、炭素数6〜12の第2の一級アミンとを混合し混合液を得る工程と、
前記混合液を攪拌した状態で混合液の液温を50〜80℃に保持して前記金属ナノ粒子の表面に被覆された前記第1の一級アミンを炭素数6〜12の前記第2の一級1級アミンに置換する工程と、
さらに固液分離操作により前記粒子を固形分として沈降回収する工程を備えた、金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記沈降回収された粒子を有機溶媒で洗浄する工程を備える、請求項1に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第1の一級アミンは、金属溶液から直接還元析出した粒子に直接付着されたものである、請求項1または2に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第1の一級アミンはオレイルアミンである、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記金属は銀である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかの工程を経て製造された金属ナノ粒子を有機媒体中に再度分散させた工程を有する分散液の製造方法。
【請求項7】
大気条件下で測定したDTA曲線において、発熱ピークが200℃以下に単独で確認される金属ナノ粒子。
【請求項8】
炭素数6〜12の1級アミンにより被覆された粒子であって、該粒子は液中での置換反応により粒子表面に存在するアミンが置換された粒子であり、もとの被覆していた粒子に起因するDTAの発熱ピークが確認されない金属ナノ粒子。
【請求項9】
炭素数6〜12の1級アミンにより被覆された金属ナノ粒子であって、
前記金属ナノ粒子を用いた塗膜を大気中120℃の条件下、1時間保持したときに得られる、金属膜の比抵抗が25μΩ・cm以下となる性質を備えた金属ナノ粒子。
【請求項10】
炭素数6〜12の1級アミンにより被覆され、透過型電子顕微鏡により確認される粒子の平均粒子径が3〜20nmである、請求項7ないし9のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図4】
【図5】
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【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−275580(P2010−275580A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128325(P2009−128325)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】
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