説明

低透湿度ハードコートフィルムおよび偏光板、透過型液晶ディスプレイ

【課題】透明基材上にハードコート層を積層したハードコートフィルムにおいて、高温高湿環境下におけるPVA層の吸水による変形、偏光子の劣化およびTACフィルムの加水分解、および高温環境下においての偏光板やTACフィルムそのものから発生した水分が反射防止フィルム中に滞ることにより、耐久性が低下を改善することができる低透湿度ハードコートフィルムを提供する。
【解決手段】透明基材の一方の面にハードコート層を積層したハードコートフィルムにおいて、温度40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度が20g/m/day以上280g/m/day以下の範囲内であり、ハードコート層の厚みが4μm以上15μm以下の範囲内であり、カール量が0mm以上15mm以下の範囲内であることを特徴とする低透湿度ハードコートフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低透湿度ハードコートフィルム及びそれを有する偏光板および透過型液晶ディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
LCDやCRT、プラズマディスプレイ等の光学表示装置においては、室内外での使用を問わず、外光等が入射する環境下で使用される。この外光等の入射光は、ディスプレイ表面等において正反射され、それによる反射像が表示画像と混合することにより、画面表示品質を低下させてしまう。そのため、ディスプレイ表面等に反射防止機能を付与することが多く、反射防止機能の高性能化、反射防止機能以外の機能の複合化が求められている。
【0003】
ディスプレイの中でLCDはその機構上、パネル表面に偏光板を用いる必要があり、偏光板は一般的にポリビニルアルコール(PVA)が使用される。偏光板(PVA)は強度、耐水性が極めて弱いため、保護フィルムとしてトリアセチルセルロース(TAC)フィルムを使用するのが一般的である。しかしTACフィルムも、その表面が比較的柔軟であることから、表面硬度を付与するために、一般にアクリル多官能化合物の重合体からなるハードコート層を設け、その上に反射防止多層膜を形成するという手法が用いられている。このハードコート層はアクリル樹脂の特性により、高い表面硬度、光沢性、透明性、耐擦傷性を有する。
【0004】
一方、基材として用いられるTACフィルムは水蒸気透過性(吸湿性)が高く、高温あるいは高湿下での過酷条件下では、PVA層の吸水による変形、偏光子の劣化およびTACフィルムの加水分解が起きてしまうなどの問題が生じている。
【0005】
そこで、様々な水蒸気バリア性を付与した反射防止層が開発されており、特許文献1では基材の半分以下のバリア性を有した反射防止層を形成している。特許文献2によれば、プラスチックフィルムの片面に300〜1000g/m/dayの光線透過性無機薄膜層を、もう片面に0〜10g/m/dayのバリア性薄膜層を形成している。
【0006】
一方、現在の屋外環境下での使用頻度の上昇により、特に車載用途などでは100℃近い極めて高い温度での耐久性が求められている。この時、水蒸気バリア性が高すぎると、外部からの水分の浸入は殆どないものの、高温環境下においては偏光板やTACフィルムそのものから発生した水分が反射防止フィルム中に滞ることから、むしろ耐久性に欠けるという問題が分かってきた。そのため、内部発生した水分の外部への透過性も考慮し、最適な透湿度を有する反射防止フィルムの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−53797号公報
【特許文献2】特開平10−10317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、透明基材上にハードコート層を積層し、ハードコート層の厚みが4μm以上15μm以下として、温度40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度が20g/m/day以上280g/m/day以下とすることで、高温高湿環境下におけるPVA層の吸水による変形、偏光子の劣化およびTACフィルムの加水分解を抑制し、かつ、高温環境下においての偏光板やTACフィルムそのものから発生した水分が反射防止フィルム中に滞ることによる、耐久性の低下を抑制する低透湿度ハードコートフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、透明基材の一方の面にハードコート層を積層したハードコートフィルムにおいて、温度40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度が20g/m/day以上280g/m/day以下の範囲内であり、ハードコート層の厚みが4μm以上15μm以下の範囲内であり、カール量が0mm以上15mm以下の範囲内であることを特徴とする低透湿度ハードコートフィルムである。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記透明基材がトリアセチルセルロースフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の低透湿度ハードコートフィルムである。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1乃至2に記載の低透湿度ハードコートフィルムを有する偏光板である。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の低透湿度ハードコートフィルムを有する透過型液晶ディスプレイである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、透明基材上にハードコート層を積層し、ハードコート層の厚みが4μm以上15μm以下の範囲内であり、温度40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度が20g/m/day以上280g/m/day以下の範囲内とすることで、高温高湿環境下におけるPVA層の吸水による変形、偏光子の劣化およびTACフィルムの加水分解を抑制し、かつ、高温環境下においての偏光板やTACフィルムそのものから発生した水分が反射防止フィルム中に滞ることによる、耐久性の低下を抑制する低透湿度ハードコートフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例の低透湿度ハードコートフィルムを示す概略断面図である。
【図2】本発明の一実施例の低透湿度ハードコートフィルムを有する反射防止フィルムを示す概略断面図である。
【図3】本発明の一実施例の低透湿度ハードコートフィルムを有する偏光板を示す概略断面図である。
【図4】(a)及び(b)は、本発明の一実施例の低透湿度ハードコートフィルムを有する透過型液晶ディスプレイを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ、説明する。実施の形態において、同一構成要素には同一符号を付け、実施の形態の間において重複する説明は省略する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る低透湿度ハードコートフィルム(10)を示す概略断面図である。
【0017】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る低透湿度ハードコートフィルム(10)は、透明基材(11)、ハードコート層(12)を備えており、透明基材(11)上に、ハードコート層(12)が積層されている。
【0018】
本発明の実施の形態に係る低透湿度ハードコートフィルム(10)の透明基材(11)は、種々の有機高分子からなるフィルムまたはシートを用いることができる。例えば、ディスプレイ等の光学部材に通常使用される透明基材(11)が挙げられ、透明性や光の屈折率等の光学特性、さらには耐衝撃性、耐熱性、耐久性などの諸物性を考慮して、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セロファン等のセルロース系、6−ナイロン、6,6−ナイロン等のポリアミド系、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、エチレンビニルアルコール等の有機高分子からなるものが用いられる。上述した透明基材(11)の中でも特にトリアセチルセルロースが好ましい。さらに、これらの有機高分子に添加剤、例えば紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤等を添加することにより機能を付加させたものを用いることができる。
【0019】
本発明の実施の形態に係る低透湿度ハードコートフィルム(10)のハードコート層(12)には、ハードコート材料を含有している。ハードコート材料は、透明基材(11)上に形成されるものであり、紫外線硬化型材料、電子線硬化型材料等の電離放射線硬化型材料を用いることができる。
【0020】
紫外線硬化型材料または電子線硬化型材料としては、ハードコート層(12)の表面及び反射防止層(13)の表面の改質を目的として、スチールウールラビング試験による耐擦傷性、鉛筆引っかき試験による表面硬度、粘着テープ剥離試験による密着性、最小曲げ試験によるクラック性等の諸特性について、要求されるスペックを満足させるように樹脂を選択して使用することができる。
【0021】
電離放射線硬化型材料として用いられる光重合性ポリマーとしては、例えばポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリオールアクリレート系等のプレポリマーが挙げられる。これらの光重合性ポリマーは1種を用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0022】
電離放射線硬化型材料として用いられる光重合性モノマーとしては、例えばポリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。特に本発明の実施の形態においては、ハードコート層(12)は、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多官能性モノマーを主成分とする重合体からなることが好ましい。
【0023】
また、ハードコート材料には必要に応じて光重合開始剤が加えられる。光重合開始剤としては、例えばアセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類等を用いても良い。
【0024】
また、低透湿度ハードコートフィルムに帯電防止機能を付与するため、ハードコート層に導電剤を添加することもできる。導電剤は特に限定されるものではなく、イオン伝導機構を有する4級アンモニウム塩、電子伝導機構を有する金属酸化物微粒子、π共役系導電性高分子等が上げられる。しかし、イオン伝導機構を有する4級アンモニウム塩を用いた場合、その導電機構から親水性が高く、水蒸気透過度を大きく上昇させてしまうことから、電子伝導機構を有する金属酸化物微粒子、π共役系導電性高分子を用いることが好ましい。
【0025】
なお、本発明の実施の形態において「(メタ)アクリルモノマー」とは「アクリルモノマー」と「メタクリルモノマー」の両方を示している。
【0026】
本発明の実施の形態に係る低透湿度ハードコートフィルム(10)においては、ハードコート層(12)の形成用塗液を透明基材(11)上に湿式成膜法により塗布することにより形成することができる。
【0027】
ハードコート層(12)の形成用塗液には、表面硬度の向上を目的としてさらに(メタ)アクリルモノマーもしくはその重合体を加えることができる。
【0028】
(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレートや、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2−ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε−カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等を用いることができる。
【0029】
このとき、ハードコート層(12)の形成用塗液には、必要に応じて、溶媒が加えられる。溶媒を加えることにより、塗工適性を向上させることができる。溶媒としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、シクロヘキシルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、n−ヘキサンなどの炭化水素類、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、ジオキサン、ジオキソラン、トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトール等のエーテル類、また、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、及びメチルシクロヘキサノン等のケトン類、また蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n−ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸n−ペンチル、及びγ−プチロラクトン等のエステル類、さらには、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ類、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類、水等の中から塗工適正等を考慮して適宜選択される。
【0030】
ハードコート層(12)の形成用塗液にあっては、透明基材(11)上に塗布し、形成される塗膜においてハジキ、ムラといった塗膜欠陥の発生を防止するために、表面調整剤と呼ばれる添加剤を加えても良い。表面調整剤は、その働きに応じて、レベリング剤、消泡剤、界面張力調整剤、表面張力調整剤とも呼ばれるが、いずれも形成される塗膜の表面張力を低下させる働きを備える。
【0031】
また、ハードコート層(12)の形成用塗液においては、塗液中に先に述べた表面調整剤のほかにも、他の添加剤を加えても良い。機能性添加剤としては、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、密着性向上剤、硬化剤などを用いることができる。
【0032】
上述した材料を調整して得られるハードコート層(12)の形成用塗液を湿式成膜法により透明基材(11)上に塗布し、塗膜を形成し、ハードコート層(12)を形成することができる。電離放射線硬化型材料を用いた場合にあっては、必要に応じて塗膜の乾燥を行ったあとに、電離放射線である紫外線もしくは電子線を照射することにより、ハードコート層(12)が形成される。また、バインダマトリックス形成材料として熱乾燥型材料を用いた場合にあっては、乾燥、加熱等によりハードコート層(12)が形成される。
【0033】
このとき、湿式成膜法としては、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、ディップコーターを用いた塗布方法を用いることができる。
【0034】
また、低透湿度ハードコートフィルムでの水蒸気透過度が20g/m/day以上280g/m/day以下の範囲内であることを特徴とする。
【0035】
水蒸気透過度が20g/m/day以上280g/m/day以下の範囲内であることが好ましく、水蒸気透過度が20g/m/day以下の場合には、TACフィルムや偏光子自身から発生する水分がTACフィルムから透過できないため、その水分の影響によりTACフィルムおよび偏光子が影響を受け、特に高温(100℃以上)での信頼性の低下が起こってしまう。また、水蒸気透過度が280g/m/day以上の場合には、水分の透過が大きいため、TACフィルムの加水分解を引き起こしてしまい、信頼性の低下に繋がってしまう。
【0036】
屋外などの使用環境を想定した場合(特に車載など)、100℃に近い高温環境下での信頼性が要求される。その場合、水蒸気透過度が20g/m/day以下のような低透湿度であると、外部からの水蒸気の進入は殆どないものの、TACフィルム及び偏光板自身に含まれている水蒸気が発散できずに膜中に保持されるため、むしろTACフィルムの加水分解を引き起こし、信頼性が低下してしまう問題が発生する。
【0037】
また、低透湿度ハードコートフィルムの、ハードコート層の厚みが4μm以上15μm以下の範囲内であり、カール量が0mm以上15mm以下の範囲内であることを特徴とする。
【0038】
また、低透湿度ハードコートフィルムにあっては、ハードコート層の厚みが4μm以上15μm以下の範囲内であることが好ましい。ハードコート層の厚みが4μmを下回る場合、得られるハードコートフィルムはディスプレイ表面に設けられるだけの十分な硬度を得ることができなくなってしまうことがある。一方、ハードコート層の厚みが15μmを超えるような場合、得られるハードコートフィルムのカール量(フィルムの反り)の度合いが15mm以上と大きくなってしまいディスプレイ表面に設けるための加工工程に適さないことがある。
【0039】
また、本発明の実施の形態に係る低透湿度ハードコートフィルム(10)を有して低透湿度の反射防止フィルムを形成することも可能である。 その一実施形態を示す概略断面図を図2に示す。
【0040】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る低透湿度ハードコートフィルム(10)は、透明基材(11)、ハードコート層(12)により形成されており、さらに図2に示すように、ハードコート層上に反射防止層(13)を備えることにより、透明基材(11)、ハードコート層(12)、反射防止層(13)の順に積層され低透湿度反射防止フィルム(80)を形成することができる。そのときの具体的な反射防止層形成の一実施例を説明する。
【0041】
反射防止層(13)として、低屈折率粒子とバインダマトリックス形成材料とを含む低屈折率層の形成塗液をハードコート層(12)の表面に塗布し、湿式成膜法を用いる場合について述べる。このとき反射防止層(13)である低屈折率層の単層の膜厚(d)は、その膜厚(d)に低屈折率層の屈折率(n)をかけることによって得られる光学膜厚(nd)が可視光の波長の1/4と等しくなるように設計される。低屈折率層としてはバインダマトリックス中に低屈折粒子を分散させたものを用いることができる。ここで、反射防止層(13)を低屈折率層という場合もある。
【0042】
低屈折粒子としては、LiF、MgF、3NaF・AlFまたはAlF(いずれも、屈折率1.4)、または、NaAlF(氷晶石、屈折率1.33)等の低屈折材料からなる低屈折率粒子を用いることができるが、よりよい反射防止性能(低屈折率)を得るためには、粒子内部に空隙を有する粒子を好適に用いることができる。粒子内部に空隙を有する粒子にあっては、空隙の部分を空気の屈折率(≒1)とすることができるため、非常に低い屈折率を備える低屈折率粒子とすることができる。具体的には、多孔質シリカ粒子、内部に空隙を有する低屈折率シリカ粒子を用いることができる。
【0043】
反射防止層に用いられる低屈折率粒子としては、粒径が1nm以上100nm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、粒径が30nm以上70nm以下である。粒径が100nmを超える場合、レイリー散乱によって光が著しく反射され、反射防止層が白化して低透湿度反射防止フィルムの透明性が低下する傾向にある。一方、粒径が1nm未満の場合、粒子の凝集による反射防止層における粒子の不均一性等の問題が生じる。
【0044】
バインダマトリックス形成材料としては、ケイ素アルコキシドの加水分解物を用いることができる。さらには、一般式(1)、RSi(OR)4−x(但し、式中Rはアルキル基を示し、xは0≦x≦3を満たす整数である。)で示されるケイ素アルコキシドの加水分解物を用いることができる。
【0045】
一般式(1)で表されるケイ素アルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラペンタエトキシシラン、テトラペンタ−iso−プロポキシシラン、テトラペンタ−n−プロキシシラン、テトラペンタ−n−ブトキシシラン、テトラペンタ−sec−ブトキシシラン、テトラペンタ−tert−ブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルプロポキシシラン、ジメチルブトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等を用いることができる。ケイ素アルコキシドの加水分解物は、一般式(1)で示される金属アルコキシドを原料として得られるものであればよく、例えば塩酸にて加水分解することで得られるものである。
【0046】
さらには、反射防止層のバインダマトリックス形成材料としては、一般式(1)で表されるケイ素アルコキシドに、一般式(2)、R´Si(OR)4−z(但し、式中R´はアルキル基、フルオロアルキル基又はフルオロアルキレンオキサイド基を有する非反応性官能基を示し、zは1≦z≦3を満たす整数である。)で示されるケイ素アルコキシドの加水分解物をさらに含有することにより低透湿度反射防止フィルム(10)の反射防止層(低屈折率層)(13)の表面に防汚性を付与することができ、さらに、低屈折率層の屈折率をさらに低下することができる。
【0047】
一般式(2)で示されるケイ素アルコキシドとしては、例えば、オクタデシルトリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0048】
また、バインダマトリックス形成材料として、電離放射線硬化型材料を用いることもできる。電離放射線硬化型材料としては、ハードコート材料として例示した光重合性ポリマー、光重合性モノマーを使用でき、多官能ウレタンアクリレート等の多官能アクリレートを使用することができる。またこれらの他にも、電離放射線型材料として、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができる。
【0049】
なお、反射防止層の形成溶塗液には、必要に応じて、溶媒や各種添加剤を加えることができる。溶媒としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、シクロヘキシルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、n−ヘキサンなどの炭化水素類、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、ジオキサン、ジオキソラン、トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトール等のエーテル類、また、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、及びメチルシクロヘキサノン等のケトン類、また蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n−ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸n−ペンチル、及びγ−プチロラクトン等のエステル類、さらには、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、水等の中から塗工適正等を考慮して適宜選択される。また、塗液には添加剤として、表面調整剤、レベリング剤、屈折率調整剤、密着性向上剤、光増感剤等を加えることもできる。
【0050】
また、バインダマトリックス形成材料として電離放射線硬化型材料を用い、紫外線を照射することにより反射防止層を形成する場合には、塗液に光重合開始剤が加えられる。光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類等が挙げられる。
【0051】
以上の材料を調整して得られる反射防止層の形成用塗液を湿式成膜法によりハードコート層(12)上に塗布し、塗膜を形成し、反射防止層(低屈折率層)(13)を形成することができる。バインダマトリックス形成材料として電離放射線硬化型材料を用いた場合にあっては、必要に応じて塗膜の乾燥を行ったあとに、電離放射線である紫外線もしくは電子線を照射することにより、低屈折率層が形成される。また、バインダマトリックス形成材料として金属アルコキシドを用いた場合には、乾燥、加熱等により低屈折率層が形成される。
【0052】
なお、反射防止層の形成用塗液の一調整例を示す。
(反射防止層の形成用塗液の一調整例)
・多孔質シリカ微粒子分散液(平均粒子径50nm、固形分20%、溶剤:メチルイソブチルケトン) 14.94重量部
・EO変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
(日本化薬社製、DPEA−12) 1.99重量部
・光重合開始剤
(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、イルガキュア184) 0.07重量部
・アルキルポリエーテル変性シリコーンオイル
(GE東芝シリコーン社製、TSF4460) 0.20重量部
を用いて、溶媒であるメチルイソブチルケトン82重量部で希釈して反射防止層(13)の形成用塗液を調整することができる。
【0053】
前記反射防止層の形成用塗液においては、湿式成膜法を用いることができ、湿式成膜法としては、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、ディップコーターを用いた塗布方法を用いることができる。また、同じ湿式成膜法を用いることにより、ハードコート層形成と反射防止層形成を連続的に形成することが可能である。
【0054】
図3は、本発明の実施の形態に係る低透湿度ハードコートフィルム(10)を有する偏光板(20)を示す概略断面図である。
【0055】
本発明の実施の形態に係る偏光板(20)は、透明基材(11)のハードコート層(12)の形成面と反対側の面に偏光層(22)と透明基材(21)を順に備えている。
【0056】
本発明の実施の形態に係る偏光板(20)は、偏光層(22)が2枚の透明基材(11)と透明基材(21)で狭持された構造をとる。本発明の実施の形態に係る低透湿度ハードコートフィルム(10)を用いて偏光板(20)を形成することにより、高温高湿環境下におけるPVA層の吸水による変形、偏光子の劣化およびTACフィルムの加水分解を抑制し、かつ、高温環境下においての偏光板やTACフィルムそのものから発生した水分がハードコートフィルム中に滞ることによる、耐久性の低下を抑制する低透湿度のハードコートフィルムを提供することができる。また、前記図2に示した一実施形態の低透湿度の反射防止フィルムを用いて偏光板を形成することもできる。
【0057】
図4(a)及び(b)は、本発明の実施の形態に係る低透湿度ハードコートフィルム(10)を有する透過型液晶ディスプレイ(60、70)を示す概略断面図である。図4(a)に示す透過型液晶ディスプレイ(60)においては、バックライトユニット(50)、偏光板(40)、液晶セル(30)、偏光板(20)、ハードコートフィルム(10)を順に備えている。このとき、低透湿度ハードコートフィルム(10)の形成面側が観察側すなわちディスプレイ表面となる。
【0058】
バックライトユニット(50)は、光源と光拡散板を備える。液晶セル(30)は、一方の基材に電極を備え、もう一方の基材に電極及びカラーフィルタを備えている。
つまり、両電極間に液晶が封入された構造となっている。液晶セル(30)を挟むように設けられる偏光板(20)及び(40)にあっては、それぞれの基材(21、23、41、43)間に偏光層(22、42)を挟持した構造となっている。
【0059】
図4(a)に示す透過型液晶ディスプレイ(60)は、低透湿度ハードコートフィルム(10)の透明基材(11)と偏光板(20)の透明基材(21)及び透明基材(23)を別々に備える透過型液晶ディスプレイ(60)となっている。一方、図4(b)に示す透過型液晶ディスプレイ(70)は、図3に示す偏光板(20)を有する透過型液晶ディスプレイ(70)であり、低透湿度ハードコートフィルム(10)の透明基材(11)の反射防止層(13)の反対側の面に偏光層(22)が設けられており、透明基材(11)が低透湿度ハードコートフィルム(10)と偏光板(20)の透明基材(21)を兼ねる構造となっている。また、前記図2に示した一実施形態の低透湿度の反射防止フィルムを用いて偏光板を形成した場合においても同様に形成することができる。
【0060】
また、本発明の実施の形態に係る透過型液晶ディスプレイ(60、70)においては、他の機能性部材を備えても良い。他の機能性部材としては、例えば、バックライトユニット(50)から発せられる光を有効に使うための、拡散フィルム、プリズムシート、輝度向上フィルムや、液晶セル(30)や偏光板(20、40)の位相差を補償するための位相差フィルムが挙げられるが、本発明の実施の形態に係る透過型液晶ディスプレイ(60、70)はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
(ハードコート層の形成用塗液1)
ウレタンアクリレート 100重量部 に対して、
・ジペンタエリスリトールトリアクリレート 50重量部
・ペンタエリスリトールテトラアクリレート 50重量部
・光重合開始剤
(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、イルガキュア184) 10重量部
を用いて、メチルエチルケトンに溶解してハードコート層の形成塗液1を調整した。
【0062】
(ハードコート層の形成用塗液2)
ウレタンアクリレート 100重量部 に対して、
・ATO微粒子 50重量部
・ジペンタエリスリトールトリアクリレート 50重量部
・ペンタエリスリトールテトラアクリレート 50重量部
・光重合開始剤
(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、イルガキュア184) 10重量部
を用いて、メチルエチルケトンに溶解してハードコート層の形成塗液2を調整した。
【0063】
(ハードコート層の形成用塗液3)
ウレタンアクリレート 100重量部 に対して、
・4級アンモニウムカチオンを含有するライトエステルDQ100
(共栄社化学社製) 20重量部
・ジペンタエリスリトールトリアクリレート 50重量部
・ペンタエリスリトールテトラアクリレート 50重量部
・光重合開始剤
(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、イルガキュア184) 10重量部
を用いて、メチルエチルケトンに溶解してハードコート層の形成塗液3を調整した。
【0064】
(実施例1)
(ハードコート層の形成)
まず、図1に示すように、透明基材(11)には、膜厚80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム製)を用いた。次に、透明基材(11)上にハードコート層の形成用塗液1を塗布し、60℃・60秒オーブンで乾燥し、乾燥後、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムジャパン、光源Hバルブ)を用いて照射線量300mJ/mで紫外線照射を行うことにより乾燥膜厚5μmの透明なハードコート層(12)を形成し、低透湿度ハードコートフィルム(10)を得た。
【0065】
(実施例2)
ハードコート層(12)の乾燥膜厚を15μmにした以外は、(実施例1)と同様に形成し、低透湿度ハードコートフィルム(10)を得た。
【0066】
(実施例3)
ハードコート層(12)の乾燥膜厚を3μmにした以外は、(実施例1)と同様に形成し、低透湿度ハードコートフィルム(10)を得た。
【0067】
(比較例1)
ハードコート層(12)の形成用塗液2を使用した以外は、(実施例1)と同様に形成し、ハードコートフィルムを得た。
【0068】
(比較例2)
ハードコート層(12)の形成用塗液3を使用した以外は、(実施例1)と同様に形成し、ハードコートフィルムを得た。
【0069】
(実施例1)〜(実施例3)、(比較例1)〜(比較例2)で得られたハードコートフィルムおよび透明基材として使用したTACフィルムについて、以下の方法で評価を行った。
【0070】
(水蒸気透過度)
それぞれのハードコートフィルムにおいて、温度40℃、相対湿度90%RHの環境下における水蒸気透過度を測定した。水蒸気透過度の測定は、JIS−Z0208に順ずる方法を用いて測定した。その結果を(表1)に示す。
【0071】
(カールの測定)
それぞれのハードコートフィルムを100mm×100mmの大きさに切断したサンプルを作製し、水平で平滑な台上にハードコート層を上にした状態で静置させた。台上から、ハードコートフィルム端部の浮き上がりを測定した。その結果を(表1)に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
また、前記(実施例1)〜(実施例3)及び(比較例1)〜(比較例2)で形成されたハードコートフィルム上に、図2に示すように、前記反射防止層の一調整例の形成用塗液を用いた反射防止フィルムを形成し、前記同様にそれぞれの反射防止フィルムにおいて、温度40℃、相対湿度90%RHの環境下における水蒸気透過度を測定した。水蒸気透過度の測定は、JIS−Z0208に順ずる方法を用いて測定した。その結果を(表2)に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
(表1)に示すように、(実施例1)〜(実施例2)では最適な透湿度のハードコートフィルムが得られている。
【0076】
また、反射防止層の一調整例の形成用塗液を用いた場合においても、(実施参考例1)〜(実施参考例2)のように、最適な透湿度の反射防止フィルムが得られている。
【0077】
さらに、ハードコート層の膜厚を増加させることで透湿度を減少させることができ、また帯電防止性能を付与させるため、電子伝導機構を有するATO微粒子を添加することも可能であることが確認できた。一方、ハードコート層の膜厚を4μm未満にした場合、およびイオン伝導機構を有する4級アンモニウム塩を添加した場合は透湿度が上昇してしまうことも確認できた。
【符号の説明】
【0078】
10 ・・・低透湿度ハードコートフィルム
11、21、23、41、43・・・透明基材
12 ・・・ハードコート層
13 ・・・反射防止層
20、40 ・・・偏光板
22、42 ・・・偏光層
30 ・・・液晶セル
80 ・・・低透湿度反射防止フィルム
50 ・・・バックライトユニット
60、70 ・・・透過型液晶ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材の一方の面にハードコート層を積層したハードコートフィルムにおいて、
温度40℃、相対湿度90%RHにおける水蒸気透過度が20g/m/day以上280g/m/day以下の範囲内であり、
ハードコート層の厚みが4μm以上15μm以下の範囲内であり、カール量が0mm以上15mm以下の範囲内であることを特徴とする低透湿度ハードコートフィルム。
【請求項2】
前記透明基材がトリアセチルセルロースフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の低透湿度ハードコートフィルム。
【請求項3】
請求項1乃至2に記載の低透湿度ハードコートフィルムを有する偏光板。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の低透湿度ハードコートフィルムを有する透過型液晶ディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−93133(P2011−93133A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247398(P2009−247398)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】