説明

低速回転機械の異常診断方法

【課題】AEセンサーのように高価なセンサーを用いることなく、市販の汎用かつ安価なひずみゲージと変位計を使用し、しかも複雑な信号処理手段と判断方法を用いることなく、低速回転機械の異常診断を精度よく実施できる低速回転機械の異常診断方法を提供する。
【解決手段】診断対象となる低速回転機械の非回転部の動的ひずみをひずみゲージ12により検出し、低速回転機械の回転部又は非回転部の動的変位を変位計13により検出する検出工程と、動的ひずみと動的変位から得られる各電気信号をフィルター処理し、低速回転機械の異常状態を表す周波数の固有帯域成分をそれぞれ抽出する成分抽出工程と、各固有帯域成分をそれぞれ異なる複数の周波数に分解し、その周波数ごとに得られる信号レベルA、Bを、低速回転機械の正常状態の信号レベルと比較して、低速回転機械の異常を診断する診断工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低速回転駆動される低速回転機械のアンバランス、ミスアライメント、及び軸亀裂などの構造系異常を診断する複合センシングによる低速回転機械の異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低速回転機械の異常診断方法としては、以下に示す方法が開示されている。
例えば、特許文献1には、軸受が発生するアコースティックエミッションをAE信号として検出し、このAE信号を基準値と比較して、AE信号が基準値を超えている時間を算出し、この持続時間が基準値を超えたときに軸受に損傷などの異常が発生したと診断する方法が記載されている。
また、特許文献2には、図7に示すように、回転機械を支える転がり軸受部の振動を加速度振動センサーで検出し、その振動信号を複数のバンドパスフィルターに個別に通過させ、これらフィルター出力を包絡線回路で包絡線処理すると共に、加速度センサーで検出する加速度信号を二回積分して振動変位に変換し、この振動変位と包絡線回路の出力を比較して、その相関関係から異常の有無と、異常の原因及び種別を診断する方法が記載されている。
そして、特許文献3には、回転機械の振動を振動加速度センサーで検出し、該振動検出信号をバンドパスフィルター処理して、診断対象の異常状態を表す固有帯域成分の波高率を算出し、算出した波高率の更に波高率を算出し、算出した波高率の波高率を予め設定した閾値と比較して、当該閾値を超えるピークを生じたときに異常であると診断する方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平3−245054号公報
【特許文献2】特開平3−221818号公報
【特許文献3】特開平6−323899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の方法は、低速回転機械の一例である軸受の異常診断だけに適用されている。
また、特許文献1の方法は、軸受が発生するアコースティックエミッションをAE信号として検出しているが、AEセンサー自体が高価であり、例えば、連続鋳造機のローラエプロンのように、センサーの取付箇所が多い場合に費用が増加して経済的でない。しかも、診断の実施には、高い専門知識が必要であるという課題があった。
また、特許文献2、3の方法は、回転機械の振動を振動加速度センサーで検出し、その振動検出信号に基づいて異常診断を行うようにしているので、診断装置全体のコストが安価である。しかし、前述した連続鋳造機のローラエプロンのように、加振力の弱い低速回転軸受では、振動検出信号が微弱であるため、ノイズと異常に基づく有効信号成分との判別が困難であり、正確な異常診断を行うことが難しいという課題があった。
更に、回転機械の振動を振動加速度センサーで検出し、1回又は2回積分して振動速度と振動変位へ変換して低速回転機械の構造系異常を診断しているので、振動加速度センサーの仕様により検出可能な振動周波数域が制限される(振動加速度センサーの仕様:一般的に3Hz以上)。また、検出した振動加速度の電気信号を電気回路で2回積分すると、更に低周波域の信号成分がカットされ、異常に基づく有効信号成分が失われ、異常診断を正確に行うことが難しいという課題があった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、AEセンサーのように高価なセンサーを使用することなく、市販の汎用かつ安価なひずみゲージと変位計を使用し、しかも複雑な信号処理手段と判断方法を用いることなく、低速回転機械の異常診断を精度よく実施できる低速回転機械の異常診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る低速回転機械の異常診断方法は、診断対象となる低速回転機械の非回転部の動的ひずみをひずみゲージにより検出し、前記低速回転機械の回転部又は前記非回転部の動的変位を変位計により検出する検出工程と、
前記動的ひずみと前記動的変位から得られる各電気信号をフィルター処理し、前記低速回転機械の異常状態を表す周波数の固有帯域成分をそれぞれ抽出する成分抽出工程と、
前記各固有帯域成分をそれぞれ異なる複数の周波数に分解し、その周波数ごとに得られる前記各電気信号の信号レベルA、Bを、前記低速回転機械の正常状態の信号レベルと比較して、該低速回転機械の異常を診断する診断工程とを有する。
【0007】
本発明に係る低速回転機械の異常診断方法において、前記検出工程では、更に、前記低速回転機械の非回転部の動的振動を振動加速度センサーにより検出し、前記成分抽出工程により、前記動的振動から得られる電気信号をフィルター処理して周波数の帯域別に信号を検出し、前記診断工程により、該周波数の帯域別に抽出した信号の信号レベルCを、前記低速回転機械の正常状態の信号レベルと比較することが好ましい。
【0008】
本発明に係る低速回転機械の異常診断方法において、前記診断工程で得られる前記信号レベルA、Bにより、前記低速回転機械の構造系に関する異常の種類を特定することが好ましい。
本発明に係る低速回転機械の異常診断方法において、前記変位計に非接触型のレーザー変位センサーを使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
請求項1〜4記載の低速回転機械の異常診断方法は、ひずみゲージにより得られる動的ひずみの電気信号と、変位計により得られる動的変位の電気信号が、低周波帯域成分の検出感度に優れているので、検出工程、成分抽出工程、及び診断工程を順次行うことで、周波数の信号成分の強さによる低速回転機械の構造系の異常の有無や異常の原因を、精度よく診断できる。なお、ひずみゲージと変位計を使用するので、高価な測定機器を使用する必要がなく、しかも検出工程、成分抽出工程、及び診断工程を行うので、特殊なデータ処理方法を使用しないため、動的振動のみで検出し診断することが難しい低速回転機械の構造系の異常、例えばアンバランスや軸折れ、ミスアライメントなどを、経済的で簡単に精度よく診断できる。
【0010】
特に、請求項2記載の低速回転機械の異常診断方法は、更に、振動加速度センサーにより得られる動的振動の電気信号を検出することで、従来行っていた低速回転機械の異常診断も実施できる。
請求項3記載の低速回転機械の異常診断方法は、診断工程で得られる信号レベルA、Bにより、低速回転機械の構造に関する異常の種類を特定できるので、その後のメンテナンス作業が容易になる。
【0011】
請求項4記載の低速回転機械の異常診断方法は、変位計に非接触型のレーザー変位センサーを使用するので、例えば、従来からよく使用されている渦電流型の変位計と比較して、測定対象物の範囲が広く、分解能が高く、更に測定範囲を広くでき、低速回転機械の回転部の動的変位を、更に精度よく測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る低速回転機械の異常診断方法は、診断対象となる撹拌機(低速回転機械の一例)の構造に関する異常を検出するため、検出工程、成分抽出工程、及び診断工程を順次行う方法である。なお、図1に示す(a)は、市販の振動加速度センサー10と低速回転機械の診断に対応できる振動計測診断器11による診断の流れである。また、(b)は、汎用のひずみゲージ12による診断の流れである。そして、(c)は、市販の非接触型のレーザー変位センサー(変位計の一例)13による診断の流れである。また、図1中の14は、データ処理ソフトである。以下、撹拌機の撹拌軸を回転部、撹拌軸を支持する転がり軸受のケーシング部(軸受箱)を非回転部として説明する。なお、撹拌軸の回転数は、300rpm以下、更には180rpm以下(ここでは、20〜50rpm程度)である。
【0013】
まず、検出工程について説明する。
撹拌機の振動を検出する振動加速度センサー10を、撹拌機の撹拌軸を支持する転がり軸受のケーシング部に取り付ける。これにより、転がり軸受の振動加速度に応じた振幅(動的振動)の電気信号を、振動検出信号として出力できる。
また、外力によるケーシング部の変形を検出するひずみゲージ12を、上記した転がり軸受のケーシング部に貼り付ける。なお、ひずみゲージ12を貼り付ける場所は、転がり軸受の回転負荷により応力を一番大きく受ける場所(例えば、過去の経験から得られた場所)を選択する。これにより、応力に応じた動的ひずみの電気信号を、ひずみ検出信号として出力できる。
そして、撹拌機の撹拌軸の回転中に発生する変位を検出するレーザー変位センサー13を、撹拌軸の変位を検出できる位置(ケーシング部の変位を検出できる位置でもよい)に配置する。なお、レーザー変位センサー13による変位検出箇所は、撹拌軸の回転負荷により応力を一番大きく受ける箇所(例えば、過去の経験から得られた箇所)を選択する。これにより、撹拌軸の回転中に発生する変位に応じた動的変位の電気信号を、変位検出信号として出力できる。
【0014】
次に、成分抽出工程について説明する。
振動加速度センサー10から出力された振動検出信号は、従来技術と同様に、まずアンプにより増幅した後、バンドパスフィルターでフィルター処理し、周波数の帯域別に検出信号を得る。具体的には、高周波域(10〜40kHz)信号から加速度Hiの信号、中低周波域(3Hz〜10kHz)信号から加速度Mdの信号、低周波域(3〜20Hz)信号を1回積分した速度Loの信号、同様に、低周波域(5〜20Hz)の信号を2回積分した変位Dispの信号を、それぞれ取得する。
また、ひずみゲージ12から出力されたひずみ検出信号と、レーザー変位センサー13から出力された変位検出信号を、それぞれバンドパスフィルターでフィルター処理する。このとき、通過帯域の周波数は、撹拌軸の回転周波数の10〜20倍である例えば0Hzを超え20Hz以下に選定されているので、撹拌機の異常状態を表す周波数の固有帯域成分を抽出できる。
このひずみ検出信号の処理と変位検出信号の処理を行う成分抽出工程は、従来公知のデータ処理方法により行われる。
なお、バンドパスフィルターとは、低域周波数遮断のハイパスフィルターと、高域周波数遮断のローパスフィルターを組み合わせた従来公知のものである。
【0015】
続いて、診断工程について説明する。
振動加速度センサー10から検出した各帯域の検出信号、即ち加速度検出信号、速度信号、及び変位信号を、それぞれFFT変換してスペクトル(信号レベルC)を算出し、撹拌機の正常状態のスペクトル(信号レベル)と比較して、撹拌機の異常診断を行う。なお、上記した検出信号から、更に、実効値、平均値、及びピーク値を算出し、撹拌機の異常診断を行ってもよい。
ここで、FFT変換とは、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)の略称であって、信号を周波数領域に変換する方法であり、周波数成分や位相を観察するのに用いる従来公知の方法である(以下同様)。
なお、振動加速度センサー10から出力された振動検出信号の処理を行う成分抽出工程と診断工程は、診断計測診断器11により行う。
【0016】
また、ひずみゲージ12で検出され、バンドパスフィルターで処理されたひずみ検出信号は、それぞれ異なる複数の周波数に分解され、FFT変換されるので、0Hzを超え20Hz以下(更には、10Hz以下)のスペクトル(周波数ごとに得られる信号レベルA)を表す。
これにより、例えば、アンバランス(撹拌翼のバランスのずれ)、ミスアライメント(撹拌機の設置時における撹拌軸の位置調整ミス)、及び軸折れ(撹拌機の使用に伴う撹拌軸の損傷)のいずれか1又は2以上の種類の構造に関する異常、即ち構造系異常があった場合、回転周波数のひずみ(応力)成分が大きくなるため、回転周波数frのひずみ成分Frが他の周波数のひずみ成分より際立つことから、異常を確認できる。
【0017】
そして、回転周波数frのひずみ成分Frの値ε(fr)と、10倍の回転周波数までのすべての成分Σε(fi)の実効値の比、即ち、回転周波数の信号成分に対する波高率を求め、その値が予め設定した閾値を超えているか否かを比較し判定して、異常の有無を判断する。ここで、予め設定した閾値は、撹拌機の正常状態の信号レベルから得られる値である。
更に、各方向から検出したひずみ信号のスペクトルの特徴(例えば、信号レベルAの周波数とそのひずみ強度)を観察することで、異常の原因と部位(異常の種類)を特定できる。
【0018】
また、レーザー変位センサー13で検出され、バンドパスフィルターで処理された変位検出信号は、それぞれ異なる複数の周波数に分解され、FFT変換されるので、0Hzを超え20Hz以下(更には、10Hz以下)のスペクトル(周波数ごとに得られる信号レベルB)を表す。
これにより、例えば、アンバランス、ミスアライメント、及び軸折れのいずれか1又は2以上の構造系異常があった場合、回転周波数の変位成分が高くなり、その回転周波数frの変位成分Drを、異常によりノイズから際立たせることができる。
【0019】
そして、回転周波数frの変位成分Drの値D(fr)と,10倍の回転周波数までのすべての成分ΣD(fi)の実行値の比、即ち、回転周波数の信号成分に対する波高率を求め、その値が予め設定した閾値を超えているか否かを比較し判定して、異常の有無を判断する。ここで、予め設定した閾値は、撹拌機の正常状態の信号レベルから得られる値である。
更に、各方向から検出した変位信号のスペクトルの特徴(例えば、信号レベルBの周波数とその軸振れ強度)を観察することで、異常の原因と部位(異常の種類)を特定できる。
【0020】
なお、上記した診断工程での撹拌機の異常の診断は、動的ひずみと動的変位から得られる各電気信号を組み合わせて行うことが好ましいが、得られた電気信号のいずれか一方のみを使用して行ってもよい。
以上に示したように、振動加速度センサー10、ひずみゲージ12、及びレーザー変位センサー13から得られた各信号レベルの周波数とその振幅の大きさの特徴を、撹拌機の正常状態の同じ信号レベルの周波数とその振幅の大きさの特徴と比較することで、撹拌機の異常の有無を診断すると共に、異常の原因と種別を正確に診断できる。
なお、撹拌機の診断に際しては、簡易診断と精密診断のいずれか一方又は双方を行う。ここで、簡易診断とは、信号から算出される実行値、平均値、及びピーク値が、正常状態の撹拌機の値より大きいか否かを判定する診断であり、精密診断とは、信号レベルの周波数及びその振幅の大きさ検討し、異常箇所の特定を行う診断である。
【実施例】
【0021】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、低速回転機械である撹拌機を使用して、その診断を行った結果について説明する。なお、撹拌機の仕様は、モータ:縦置き型、モータ定格:0.75kW(1780rpm)、撹拌軸の回転数:0を超え108rpm以下、撹拌翼の枚数:2枚、タンクの容積:約3075リットル、貯水量:429リットル、である。このモータの回転数は、インバータにより制御される。また、動力は、モータから減速機を経て、撹拌軸へ伝達される。そして、撹拌機の診断対象部位は、減速機以降の低速回転の撹拌軸部とする。
以下、アンバランス状態は、撹拌翼の1枚におもりを付けて診断した。
【0022】
まず、撹拌機の非回転部である軸受箱(ケーシングの下方)にひずみゲージを貼り付け、撹拌機の撹拌軸の回転数を20rpm(fr=0.33Hz)にした場合に検出した軸受箱のひずみ検出信号の結果について、図2(A)、(B)、図3(A)、(B)を参照しながら説明する。なお、図2(A)、(B)は、撹拌機が正常状態の場合の結果であり、図3(A)、(B)は、アンバランス状態の場合の結果である。また、図2(A)、図3(A)、は、それぞれひずみ検出信号の時間波形であり、図2(B)、図3(B)は、それぞれひずみ検出信号をFFT変換したスペクトルである。
【0023】
撹拌機が正常状態を示す図2(B)では、撹拌翼の通過周波数(図2(A)中の2fr)とその高調波成分は現れていたが、回転周波数の成分が全く確認されなかった。これは、撹拌機の運転特性に一致している(アンバランス状態とミスアライメント状態ではない)ことを意味している。
一方、撹拌機がアンバランス状態を示す図3(B)では、目立ってはいないが、撹拌翼の通過周波数(図3(B)中の2fr)のほかに、回転周波数(図3(B)中のfr)のピークも現れていた。
【0024】
次に、撹拌機の撹拌軸の回転数を50rpm(fr=0.83Hz)にした場合に検出した軸受箱のひずみ検出信号の結果について、図4(A)〜(D)を参照しながら説明する。なお、図4(A)、(B)は、撹拌機が正常状態の場合の結果であり、図4(C)、(D)は、アンバランス状態の場合の結果である。また、図4(A)、(C)、は、それぞれひずみ検出信号の時間波形であり、図4(B)、(D)は、それぞれひずみ検出信号をFFT変換したスペクトルである。
撹拌軸の回転数を50rpmにした場合も、前記した20rpmの場合と同様、撹拌機が正常状態を示す図4(B)では、回転周波数の成分が全く確認されなかったが、撹拌機がアンバランス状態を示す図4(D)では、回転周波数(図4(D)中のfr)のピークが顕著に現れていた。
【0025】
以上の結果から、ひずみゲージで検出されたひずみ検出信号を用いて、そのスペクトルから回転周波数の成分の変化と強さにより、撹拌機のアンバランス状態の診断と識別が可能であることを確認できた。
なお、撹拌軸の動的変位を、軸受箱に固定したレーザー変位センサーで計測したが、この場合、計測データは、軸受箱に対する撹拌軸の動的変位となるため、アンバランス状態の診断には使用できないことも確認された。
【0026】
続いて、低速回転機械である実験用回転機シミュレータ(以下、単にシミュレータという)を使用して、その異常を検出した結果について説明する。なお、シミュレータの仕様は、モータ定格が0.75kW(1780rpm)である。このモータの回転数は、インバータにより制御される。また、動力は、モータからベルトを経て、カップリングで接続された回転軸とロータへ伝達される。そして、シミュレータの診断対象部位は、カップリング、ロータ、回転軸、及び軸受箱である。
以下、アンバランス状態を、ロータの一箇所に107gのおもりを付けることで設定し、ミスアライメント状態を、反駆動側(従動側)の軸受箱の位置を水平方向に微調整し、カップリングを中心に回転軸と駆動側の角度を0.5度ずらすことにより設定して診断した。
【0027】
まず、シミュレータの回転部である回転軸を59rpm(fr=0.98Hz)に調整した場合に、回転軸の反駆動側をレーザー変位センサーで検出した変位検出信号の結果について、図5(A)〜(F)を参照しながら説明する。なお、図5(A)、(B)は、シミュレータが正常状態の場合の結果であり、図5(C)、(D)は、アンバランス状態の場合の結果であり、図5(E)、(F)は、ミスアライメント状態の場合の結果である。また、図5(A)、(C)、(E)は、それぞれ変位検出信号の時間波形であり、図5(B)、(D)、(F)は、それぞれ変位検出信号をFFT変換したスペクトルである。
【0028】
シミュレータが正常状態を示す図5(B)では、回転周波数の成分(図5(B)中のfr)とその2倍の成分が、同程度に強く現れていた。
一方、シミュレータがアンバランス状態を示す図5(D)、及びミスアライメント状態を示す図5(F)では、回転周波数の成分(図5(D)、(F)中のfr)のみが最も強く現れており、また図5(C)、(E)に示す時間波形についても、回転周波数の周期性が強く現れていた。
【0029】
次に、シミュレータの非回転部である軸受箱の側面にひずみゲージを貼り付け、回転軸の回転数を59rpmにした場合に検出した軸受箱のひずみ検出信号の結果について、図6(A)〜(F)を参照しながら説明する。なお、図6(A)、(B)は、シミュレータが正常状態の場合の結果であり、図6(C)、(D)は、アンバランス状態の場合の結果であり、図6(E)、(F)は、ミスアライメント状態の場合の結果である。また、図6(A)、(C)、(E)は、それぞれひずみ検出信号の時間波形であり、図6(B)、(D)、(F)は、それぞれひずみ検出信号をFFT変換したスペクトルである。
【0030】
シミュレータが正常状態を示す図6(B)では、回転周波数の成分(図6(B)中のfr)のピークが現れていなかった。
一方、シミュレータがアンバランス状態を示す図6(D)では、正常状態を示す図6(B)と比較して、回転周波数の成分(図6(D)中のfr)のピークが、主成分として目立って現れていた。また、ミスアライメント状態を示す図6(F)では、回転周波数の成分(図6(F)中のfr)のピークが、明らかに現れていた。
以上の結果は、アンバランス状態とミスアライメント状態の発生時の力学特性と合致しており、異常の診断が可能であることが確認された。
【0031】
従って、低速回転機械のアンバランス状態とミスアライメント状態を診断する場合、回転数がおよそ180rpm以下の低速回転機械に対して、振動検出信号よりも、ひずみ検出信号と変位検出信号を用いて診断するのが有効であることを確認できた。更に、回転数が180rpm以上300rpm以下の低速回転機械に対しては、振動検出信号も有効ではあるが、ひずみ検出信号と変位検出信号を併用することで、より確実に状態の識別診断ができることを確認できた。
【0032】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の低速回転機械の異常診断方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、低速回転機械として撹拌機の異常を診断した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、他の低速回転機械、例えば、連続鋳造機の異常を診断することもできる。
そして、前記実施の形態においては、振動加速度センサーを使用した場合について説明したが、回転数が非常に低く機械の回転にかかる荷重が大きい低速回転機械の異常を診断するには、振動加速度センサーを使用することなく、ひずみゲージとレーザー変位センサーの2つを使用して、異常の有無の診断を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施の形態に係る低速回転機械の異常診断方法の説明図である。
【図2】(A)は撹拌機の撹拌軸の回転数を20rpmにした場合の軸受箱のひずみ検出信号の正常状態での時間波形を示すグラフ、(B)は(A)をFFT変換したスペクトルを示すグラフである。
【図3】(A)は撹拌機の撹拌軸の回転数を20rpmにした場合の軸受箱のひずみ検出信号のアンバランス状態での時間波形を示すグラフ、(B)は(A)をFFT変換したスペクトルを示すグラフである。
【図4】(A)は撹拌機の撹拌軸の回転数を50rpmにした場合の軸受箱のひずみ検出信号の正常状態での時間波形を示すグラフ、(B)は(A)をFFT変換したスペクトルを示すグラフ、(C)はアンバランス状態での時間波形を示すグラフ、(D)は(C)をFFT変換したスペクトルを示すグラフである。
【図5】(A)はシミュレータの撹拌軸の回転数を59rpmにした場合の回転軸の変位検出信号の正常状態での時間波形を示すグラフ、(B)は(A)をFFT変換したスペクトルを示すグラフ、(C)はアンバランス状態での時間波形を示すグラフ、(D)は(C)をFFT変換したスペクトルを示すグラフ、(E)はミスアライメント状態での時間波形を示すグラフ、(F)は(E)をFFT変換したスペクトルを示すグラフである。
【図6】(A)はシミュレータの撹拌軸の回転数を59rpmにした場合の軸受箱のひずみ検出信号の正常状態での時間波形を示すグラフ、(B)は(A)をFFT変換したスペクトルを示すグラフ、(C)はアンバランス状態での時間波形を示すグラフ、(D)は(C)をFFT変換したスペクトルを示すグラフ、(E)はミスアライメント状態での時間波形を示すグラフ、(F)は(E)をFFT変換したスペクトルを示すグラフである。
【図7】従来例に係る低速回転機械の異常診断方法の説明図である。
【符号の説明】
【0034】
10:振動加速度センサー、11:振動計測診断器、12:ひずみゲージ、13:レーザー変位センサー(変位計)、14:データ処理ソフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象となる低速回転機械の非回転部の動的ひずみをひずみゲージにより検出し、前記低速回転機械の回転部又は前記非回転部の動的変位を変位計により検出する検出工程と、
前記動的ひずみと前記動的変位から得られる各電気信号をフィルター処理し、前記低速回転機械の異常状態を表す周波数の固有帯域成分をそれぞれ抽出する成分抽出工程と、
前記各固有帯域成分をそれぞれ異なる複数の周波数に分解し、その周波数ごとに得られる前記各電気信号の信号レベルA、Bを、前記低速回転機械の正常状態の信号レベルと比較して、該低速回転機械の異常を診断する診断工程とを有することを特徴とする低速回転機械の異常診断方法。
【請求項2】
請求項1記載の低速回転機械の異常診断方法において、前記検出工程では、更に、前記低速回転機械の非回転部の動的振動を振動加速度センサーにより検出し、前記成分抽出工程により、前記動的振動から得られる電気信号をフィルター処理して周波数の帯域別に信号を検出し、前記診断工程により、該周波数の帯域別に抽出した信号の信号レベルCを、前記低速回転機械の正常状態の信号レベルと比較することを特徴とする低速回転機械の異常診断方法。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の低速回転機械の異常診断方法において、前記診断工程で得られる前記信号レベルA、Bにより、前記低速回転機械の構造系に関する異常の種類を特定することを特徴とする低速回転機械の異常診断方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の低速回転機械の異常診断方法において、前記変位計に非接触型のレーザー変位センサーを使用することを特徴とする低速回転機械の異常診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−243908(P2009−243908A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87417(P2008−87417)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000143455)株式会社高田工業所 (14)
【Fターム(参考)】