説明

低量の水素を用いる有機化合物の還元

本発明は化合物を水素と反応させるための方法であって、前記反応を最高約10容量%の水素及び少なくとも約90容量%の不活性ガスを含む水素含有ガスを用いて実施し、水素と反応させようとする化合物を液相中に用意する前記方法に関する。本発明の方法は水素化反応及び水素化分解反応のために特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化合物を水素と反応させるための方法であって、前記反応を最高約10容量%の水素及び少なくとも約90容量%の不活性ガスを含む水素含有ガスを用いて実施し、水素と反応させようとする化合物を液相中に用意する前記方法に関する。本発明の方法は水素化方法及び水素化分解反応のために特に適している。
【背景技術】
【0002】
水素化反応は通常二重または三重結合を含有している化合物を還元するために使用されている。水素源は関与する反応のタイプ及び規模に応じて異なる。工業規模ではガス状水素がしばしば使用されているが、特殊な用途では水素ドナー(例えば、ヒドラジン)を用いる水素移動反応が使用され得る。
【0003】
水素化分解反応では、炭素−炭素または炭素−ヘテロ原子単結合を含有している化合物を水素と反応させて、炭素−炭素または炭素−ヘテロ原子単結合を開裂させる。水素化分解は石油精製において脱硫のために大規模に使用されている。中でも対応するエステルからアルコールを製造するために、またはベンジルエステル、p−ニトロベンジルエステル、ベンズヒドリルエステル等のような保護基を除去するためにも商業的に使用されている。
【0004】
CN−A−1569783は、原料ガスとして純粋アセチレン、水素及び窒素のガス混合物を用いてエチレンを製造するための非石油経由の方法であって、原料反応ガス中のアセチレンの含量が10から40容量%である方法を記載している。
【0005】
現在、水素ガスを用いる反応は典型的には純粋な水素ガスを用いて実施されている。使用するガスは爆発性であり、または空気と一緒に爆発性混合物を形成するので、厳重な安全対策を取らなければならない。これらの安全対策により、水素を用いる反応は複雑になり、コストがかかる。
【0006】
本発明の目的は、従来方法に比してより単純及び/または低コストである改良方法を提供することである。本発明の更なる目的は、大規模用途で適用され得る方法を提供することである。本発明の更に別の目的は、通常の厳重な安全対策(例えば、接触水素化反応のために通常必要とされている燃焼及び/または爆発に対する防護対策)を必要としない方法を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】中国特許出願公開第1569783号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明は化合物を水素と反応させるための方法であって、前記反応を最高約10容量%の水素及び少なくとも約90容量%の不活性ガスを含む水素含有ガスを用いて実施し、水素と反応させようとする化合物を液相中に用意する前記方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の生成物のH−NMRスペクトルを示す。
【図2】実施例2の生成物のH−NMRスペクトルを示す。
【図3】実施例3の生成物のHPLCクロマトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、化合物を水素と反応させるための方法であって、前記反応を最高約10容量%の水素及び少なくとも約90容量%の不活性ガスを含む水素含有ガスを用いて実施し、水素と反応させようとする化合物を液相中に用意する前記方法に関する。
【0011】
本発明の方法は、化合物を水素含有ガスと反応させる任意の方法に適用され得る。前記方法の典型例は水素化反応及び水素化分解反応である。
【0012】
水素化反応は、水素(H)を二重または三重結合を含有している化合物と反応させ、水素を化合物の二重または三重結合に付加させる反応と定義される。この反応では、二重または三重結合により結合されている原子間の結合を開裂させることなく水素が付加される。生じた生成物は初期化合物に対応するが、使用した水素化反応に応じて単結合または二重結合を有する。用語「水素化反応」は上記した反応を指し、別段の記述がない限り触媒を再生するステップを含まない。
【0013】
水素化反応は、原子が★で表示されている以下のスキームにおいて概略的に示される:
【0014】
【化1】

【0015】
多くのタイプの水素化反応が当業界で公知である。本発明の方法は水素ガスを水素源として使用する公知の水素化反応のすべてに対して適用され得る。本発明において使用可能な考えられる水素化反応の概説は、全文を参照により組み入れる“Advanced Organic Chemistry・Part B:Reactions and Synthesis”,第5章,第5版,Francis A.Carey,Richard J.Sundberg,Springer Verlag,2007、及びM.Freifelder,“Catalytic hydrogenation in Organic Synthesis:Procedures and Commentary”,Wiley−Interscience,New York,1978中に見つけることができる。
【0016】
水素化分解反応は、炭素−炭素または炭素−ヘテロ原子単結合を含有している化合物を水素と反応させて、炭素−炭素または炭素−ヘテロ原子単結合を開裂させる反応と定義される。
【0017】
水素化分解反応は、原子が★で表示されている以下のスキームにおいて概略的に示される:
【0018】
【化2】

【0019】
多くのタイプの水素化分解反応が当業界で公知である。本発明の方法は水素ガスを水素源として使用する公知の水素化分解反応のすべてに対して適用され得る。本発明において使用可能な考えられる水素化分解反応の概説は、全文を参照により組み入れる“Advanced Organic Chemistry・Part B:Reactions and Synthesis”,第5章,第5版,Francis A.Carey,Richard J.Sundberg,Springer Verlag,2007、及びM.Freifelder,“Catalytic hydrogenation in Organic Synthesis:Procedures and Commentary”,Wiley−Interscience,New York,1978中に見つけることができる。
【0020】
本発明の反応は液相中で実施される。水素と反応させようとする化合物が液体ならば、液相は化合物それ自体であるかまたは化合物それ自体を含み得る。或いは、液相は水素と反応させようとする化合物の溶液、懸濁液または乳濁液からなり得る。
【0021】
液相は、実施しようとする特定反応に対して適した液体から選択され得る。液相中に使用され得る典型的な溶媒の例には、極性溶媒、例えば水、アルコール類(例えば、C1−4アルコール)、エステル類(例えば、酢酸エチル;当業界で公知の穏和な条件下で使用され得る)、エーテル類(例えば、ジオキサンまたはTHF;室温及び大気圧のような穏和な条件下で使用され得る)、アルカン類(例えば、シクロヘキサン)及び有機酸類(例えば、酢酸)が含まれる。
【0022】
典型的には気相反応では大量の水素が使用されるが、本発明の方法は液体反応媒体中に通す(例えば、通気させる)水素含有ガス中の水素が少量でも実施され得ることが驚くことに知見された。理論に束縛されるつもりはないが、たとえ水素含有反応ガス混合物中に非常に少量の水素しか存在していなくても水素含有ガス中の水素は液体反応媒体中に十分に溶解するようになり、或いは触媒を使用するならば触媒と十分相互作用し得ると推測される。
【0023】
本発明の方法は触媒なしで実施され得る。しかしながら、水素との反応がより穏和な条件下で進行し得るので、典型的には触媒が望ましい。存在させるならば、触媒は典型的には均一または不均一触媒、好ましくは不均一触媒である。
【0024】
均一触媒は反応媒体中に溶解し得る。考えられる均一触媒の例には遷移金属の可溶性錯体が含まれる。適当な遷移金属の例には白金族金属(例えば、Pd、Pt、Ru、Ir及びRh)、並びに鉄、コバルト及びニッケルが含まれる。考えられる均一触媒の特定例は、全文を参照により組み入れる“Advanced Organic Chemistry・Part B:Reactions and Synthesis”,第5章,第5版,Francis A.Carey,Richard J.,Sundberg,Springer Verlag,2007、及びM.Freifelder,“Catalytic hydrogenation in Organic Synthesis:Procedures and Commentary”,Wiley−Interscience,New York,1978中に見つけることができる。
【0025】
不均一触媒は反応媒体中に溶解し得ない。考えられる不均一触媒の例は、典型的には微細状の固体遷移金属またはその化合物、或いは担体上に配置した遷移金属またはその化合物である。適当な遷移金属の例には、白金族金属(例えば、Pd、Pt、Ru、Ir及びRh)、並びに鉄、コバルト及びニッケルが含まれる。クロマイト触媒は考えられる不均一触媒の更なる例である。考えられる担体の例として、炭素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ及びシリカが挙げられ得る。考えられる不均一触媒の例には、ラネーニッケル、クロマイト触媒、並びに担体上の白金族金属(例えば、炭素上の白金またはパラジウムのような炭素上の白金族金属)、またはスポンジまたは酸化物(例えば、二酸化白金(アダムス触媒))としての白金族金属が含まれる。考えられる不均一触媒の特定例は、全文を参照により組み入れる“Advanced Organic Chemistry・Part B:Reactions and Synthesis”,第5章,第5版,Francis A.Carey,Richard J.Sundberg,Springer Verlag,2007、及びM. Freifelder,“Catalytic hydrogenation in Organic Synthesis:Procedures and Commentary”,Wiley−Interscience,New York,1978中に見つけることができる。
【0026】
反応は適当な圧力下で実施され得る。圧力は実施しようとする特定反応に依存する。典型的には、反応は大気圧または高圧下で実施され得る。圧力は、例えば約1×10Paから約3.5×10Paの範囲であり得る。1つの実施形態では、圧力はほぼ大気圧(約1×10Pa)である。別の実施形態では、圧力は約1×10Paから約7×10Paである。更なる実施形態では、圧力は約7×10Paから約3.5×10Paである。ガス圧に関する上記値は、水素分圧ではなく、水素化反応に使用しようとするガスの全圧に関する。
【0027】
反応は適当な温度で実施され得る。温度は実施しようとする特定反応に依存する。典型的には、反応は室温(例えば、約20℃から約25℃)または高温で実施され得る。温度は実施しようとする特定反応に依存して、例えば約−25℃から約300℃の範囲であり得る。1つの実施形態では、温度は好ましくは約−25℃から約250℃であり、或いは約−25℃から約100℃、より好ましくは約0℃から約50℃である。
【0028】
必要があれば、公知の添加剤及び助剤を本発明の方法において使用し得る。例は、触媒の反応性に影響を与える不活性化物質、例えばLindlar,H.,Dubuis,R.(1973),“Palladium Catalyst for Partial Reduction of Acetylenes”,Org.Synth.,Coll.Vol.5:880に詳記されているような炭酸カルシウム担持パラジウム触媒に対して使用される鉛である。修飾された反応性を有する触媒は、例えば炭素−炭素三重結合を炭素−炭素二重結合に部分的に還元するため及び酸クロリドをアルデヒドに還元するために使用される。
【0029】
本発明の方法はバッチまたは連続式で実施され得る。好ましい実施形態では、水素含有ガスを液相中に連続的に流すことにより実施される。好ましい実施形態では、ガスを単に反応液体中に通気させる。或いは、ガスをジェットを用いて、または焼結金属またはガラスキャンドルを用いて注入してもよい。ガスを高圧でオートクレーブ中の液体の上に注いでもよく、この場合反応が終了するまでガスを数回交換する。
【0030】
水素含有ガスは最高約10容量%の水素及び少なくとも約90容量%の不活性ガスを含む。当業者は、簡単な一連の実験により実施しようとする反応に適した水素の下限を決定することができる。例えば、最初5容量%の水素から始めて、水素含有ガス中の水素の量を段階的に減少させ、水素化または水素化分解により所望生成物がなお形成されるかどうかを観察する。
【0031】
驚くことに、本発明者らは、本発明の方法のための全体的反応条件が純粋水素を用いる対応方法に比して温度及び圧力に関して実質的に同一のままであることを知見した。このことは、反応ガスとして純粋な水素を用いて室温及び大気圧下、液体反応媒体中で水素と反応し得る化合物が本発明の方法で使用される反応ガス混合物を用いて室温及び大気圧下、同じ液体反応媒体中でも反応し得ることを意味する。よって、当業者は反応ガスとして純粋な水素を用いる水素との反応についての豊富な知識から始めて、100容量%の水素を含有するガスを本発明の方法において使用される反応ガス混合物で置換する出発点としてこれらの条件を使用することができる。
【0032】
本発明の方法を約0.1から約10容量%の水素及び約90から約99.9容量%の不活性ガスを含むガスを用いて実施することが好ましい。好ましい実施形態では、ガスは約1から約7容量%の水素及び約93から約99容量%の不活性ガスからなり、より好ましくはガスは約2から約6容量%の水素及び約94から約98容量%の不活性ガスからなり、最も好ましくは約5容量%の水素及び約95容量%の不活性ガスを含む。約5容量%の水素/95容量%の窒素から構成される市販されている混合物が本発明の方法において特に好ましい。
【0033】
好ましい実施形態では、ガスは実質的に上記した量の水素及び不活性ガスから構成される。これに関連して、「実質的に構成される」は、水素及び不活性ガス以外の成分を最大で約5容量%、好ましくは最大で約2容量%、より好ましくは最大で約1容量%含み得るガスを指す。更に好ましい実施形態では、ガスは上記した量の水素及び不活性ガスから構成される。
【0034】
不活性ガスは問題の反応において不活性である任意のガスであり得る。不活性ガスの例には、窒素及び希ガス(例えば、アルゴン)、及びその混合物が含まれる。コストを考えると、窒素が好ましい不活性ガスである。
【0035】
上記した水素含有ガスを使用することにより、本発明は水素との反応を実施するための簡単で、費用効率の高い、安全な方法を提供する。ガスは単独でも空気と一緒でも爆発性でないので、純粋な水素との反応の場合に以前は必要とされた厳重な安全対策を取らなくても済む。これにより、当業者は十分な安全対策を省けるために以前はこの目的に適さないと見なされていた水素との反応用装置を使用することができ、及び/または十分な安全対策を省けるために以前はこの目的に適さないと見なされていた環境で作業することができる。
【0036】
基質(すなわち、水素と反応させようとする化合物)は特に限定されず、所望の反応(例えば、所望の水素化または水素化分解反応)を受けやすい任意の化合物である。好ましくは、化合物は有機化合物であり、より好ましくは28Daから100kDa、更により好ましくは40Daから50kDa(例えば、50Daから10000Da)の分子量を有する有機化合物である。
【0037】
水素化反応の場合、基質は二重または三重結合を含有している化合物である。化合物は典型的には有機化合物である。1つの実施形態では、化合物は非ポリマーである。二重または三重結合は、好ましくは
【0038】
【化3】

からなる群から選択される。
【0039】
適当な二重または三重結合を含む化合物の例には、アルケン、アルキン、ケトン、アルデヒド、ニトロ化合物、イミン、オキシム、ニトリル、アリール化合物及びヘテロアリール化合物、ヒドラゾン、アジン及びアゾ化合物が含まれ、アルケン、アルキン、ケトン、アルデヒド、エステル、ニトロ化合物、イミン、オキシム及びニトリルが好ましく、アルケン、アルキン、ニトロ化合物、イミン及びオキシムが更により好ましい。
【0040】
典型的な水素化反応には、
(i)アルケン部分のアルカン部分への還元;
(ii)アルキン部分のアルケン部分への還元;
(iii)アルキン部分のアルカン部分への還元;
(iv)ニトロ部分のアミン部分への還元;
(v)イミン部分のアミン部分への還元;
(vi)オキシム部分のアミン部分への還元;
(vii)ニトリル基のアミン基への還元;
(viii)ケトン部分のアルコール部分への還元;
(ix)アルデヒド部分のアルコール部分への還元;
(x)芳香族部分の対応する飽和環状部分への還元;
(xi)ヘテロアリール部分の対応する飽和ヘテロ環部分への還元;
(xii)酸クロリド部分の対応するアルデヒドへの還元(ローゼンムント還元)
が含まれる。
【0041】
反応(i)から(ix)がより好ましく、反応(i)から(vi)が更により好ましい。概して、より好ましい反応について余り厳しくない条件を使用し得る。特に、最も好ましい反応は室温で、大気圧から7×10Pa以下の僅かに高い圧力下で行う。水素と反応させようとする特定の基質に対する適当な触媒及び/または反応条件は、全文を参照により組み入れる“Advanced Organic Chemistry・Part B:Reactions and Synthesis”,第5章,第5版,Francis A.Carey,Richard J.Sundberg,Springer Verlag,2007、及びM.Freifelder:“Catalytic hydrogenation in Organic Synthesis:Procedures and Commentary”,Wiley−Interscience,New York,1978中に見つけることができる。
【0042】
アルケン部分をアルカン部分に還元する実施形態の1つの考えられる用途は、コデインからのジヒドロコデインの製造中またはエルゴタミン、エルゴクリステイン、エルゴトキシンまたはパスパル酸からのジヒドロ麦角アルカロイドの製造中に適用される水素化である。この水素化は、典型的には不均一触媒(例えば、Pd、Pt、IrまたはNiを主成分とする触媒)を用いて実施され、室温及びほぼ大気圧(約1×10Pa)下でも迅速に進行する。適当な条件については、実施例2も参照されたい。
【0043】
ニトロ部分をアミン部分に還元する実施形態の1つの考えられる用途は、例えばチゲシクリンの製造中の9−ニトロミノシクリンの水素化である。この水素化は、典型的には不均一触媒(例えば、Pd、Pt、IrまたはNiを主成分とする触媒)を用いて実施され、室温及びほぼ大気圧(約1×10Pa)下でも迅速に進行する。適当な条件については、実施例3も参照されたい。
【0044】
C=N部分をアミン部分に還元する実施形態の1つの考えられる用途は、例えばアプレピタントの製造中のアプリミンの水素化である。この水素化は、典型的には不均一触媒(例えば、Pd、Pt、IrまたはNiを主成分とする触媒)を用いて実施される。
【0045】
水素化反応のための考えられる均一触媒の例には、ウィルキンソン触媒(PhP)RhHal)、クラブトリー触媒([(トリス−シクロヘキシルホスフィン)Ir(1,5−シクロオクタジエン)(ピリジン)]PF)及びブラウン触媒([(PhP(CHPPh)Rh(nbd)]BF)が含まれる。これらの触媒はすべて本発明において、例えばアルケンを水素化するために使用され得る。
【0046】
所望により、水素化はキラル触媒を用いることによりエナンチオ選択的に実施され得る。考えられるエナンチオ選択的触媒の例には、DIOP、CHIRAPHOS、PROPHOS、PHENPHOS、CYCPHOS、DBPP、NORPHOS、CAMPHOS、DPCP、PYRPHOS、BPPM、PPPFA、DUPHOS、DIPHEMP、BINAP、DIPAMP及びDINAPとの遷移金属錯体が含まれる。
【0047】
考えられる水素化反応の更なる例はリンドラー触媒を用いる反応である。
【0048】
上記した触媒は、本発明において使用され得る水素化反応のための考えられる触媒の例として挙げられている。しかしながら、これらは例示として提供するものであり、本発明を限定すると解釈されるべきでなく、本発明を限定しない。
【0049】
ニトロ部分の水素化の例を以下の反応スキームに示す。
【0050】
【化4】

ここで、触媒は50%の水で湿らせた活性炭担持10% パラジウムであり、方法は以下の条件下で実施する。すなわち、メタノール/塩酸中基質の3〜5%溶液に15〜20%w/wの基質の量(乾燥量基準で)に対応する量の触媒を充填した後、HPLCで検出して出発物質が消失するまで5容量%の水素/95容量%の窒素混合物を20〜25℃及び約100mbarの僅かに過圧下でスラリーに通気する。
【0051】
オレフィンの飽和炭化水素への水素化の例を以下の反応スキームに示す。
【0052】
【化5】

【0053】
アルキンの飽和炭化水素への水素化の例を以下の反応スキームに示す。
【0054】
【化6】

【0055】
ニトリルの第一級アミンへの水素化の例を以下の反応スキームに示す。
【0056】
【化7】

【0057】
しかしながら、当業者は、より典型的にはニトリルの第一級アミンへの還元は50℃から100℃の高温及び高圧を必要とすることを認識している。
【0058】
特に好ましい実施形態では、本発明は化合物を水素と反応させるための方法に関し、前記反応は水素化反応であり、反応を約1容量%から約7容量%の水素及び約93容量%から約99容量%の不活性ガスを含む水素含有ガスを用いて実施し、水素と反応させようとする化合物を液相中に用意し、化合物は50Daから10000Daの分子量を有する有機化合物であり、圧力は約1×10Paから約7×10Paであり、温度は約0℃から約50℃であり、特に水素化反応に対する基質は上記した温度及びガス圧の条件下で開裂を受けやすい二重または三重結合を含有している化合物であり、特に反応はアルケン部分のアルカン部分への還元、アルキン部分のアルケン部分への還元、アルキン部分のアルカン部分への還元、ニトロ部分のアミン部分への還元、イミン部分のアミン部分への還元、及びオキシム部分のアミン部分への還元からなる群から選択される。
【0059】
水素化分解反応の場合、基質は水素との反応において開裂を受けやすい炭素−炭素または炭素−ヘテロ原子単結合を含有している化合物である。化合物は、典型的には有機化合物である。1つの実施形態では、化合物は非ポリマーである。化合物は、好ましくは
【0060】
【化8】

(ここで、開裂される結合を太線で示す)
からなる群から選択される部分を有している。
【0061】
典型的な水素化分解反応には、
(i)水素化分解によるベンジルオキシカルボニル基の除去;
(ii)ベンジルエステルの対応するカルボン酸及びトルエンへの反応;
(iii)ベンジルエーテルの対応するベンジル化合物及びアルコールへの反応;
(iv)ベンジルジアルキルアミンの対応するジアルキルアミン及びトルエンへの反応;
(v)C−Hal結合(ここで、HalはCl、Br、IまたはF、好ましくはI、BrまたはClであり、より好ましくはIまたはBrであり、更により好ましくはIである)を有する化合物の対応するC−H結合を有する化合物への反応;
(vi)エポキシドの対応するアルコールへの開環;
(vii)対応するC−H結合を有する化合物及び硫化水素を生ずるC−S結合の開裂;
及び
(viii)エステルの対応する第一級アルコールへの反応
が含まれる。
【0062】
反応(i)から(v)が好ましく、反応(i)から(iv)がより好ましく、反応(i)及び(ii)が更により好ましい。
【0063】
1つの好ましい実施形態では、保護基を除去するために本発明に従う水素化分解反応を使用することができる。この実施形態の例は、場合により置換されているベンジルエーテルのアルコール及び場合により置換されているベンジル化合物への水素化分解である。
【0064】
【化9】

ここで、フェニル環は場合により(例えば、メトキシまたはハロゲンにより)置換され得、Rは使用する特定条件下での接触水素化反応に適合し得る基である。
【0065】
保護基を除去するための本発明の水素化分解方法の更に好ましい例は、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)基の開裂である。
【0066】
【化10】

ここで、フェニル環は場合により使用する特定条件下での接触水素化反応に適合する基により(例えば、アルキル、メトキシ、ハロゲンにより)置換され得、Rは使用する特定条件下での接触水素化反応に適合し得る基である。ベンジルオキシカルボニル(Cbz)基の開裂は例えば室温及びほぼ大気圧である。
【0067】
別のタイプの水素化分解反応の例には、酸クロリドを部分的に不活性化させたパラジウム触媒(キノリン、硫黄化合物等を用いて不活性化)の存在下で水素を用いて対応するアルデヒドに還元するローゼンムント還元が含まれる。
【0068】
特に好ましい実施形態では、本発明は化合物を水素と反応させるための方法に関し、前記反応は水素化分解反応であり、反応を約1容量%から約7容量%の水素及び約93容量%から約99容量%の不活性ガスを含む水素含有ガスを用いて実施し、水素と反応させようとする化合物を液相中に用意し、化合物は50Daから10000Daの分子量を有する有機化合物であり、圧力は約1×10Paから約7×10Paであり、温度は約0℃から約50℃であり、特に水素化分解反応に対する基質は上記した温度及びガス圧の条件下で開裂を受けやすい炭素−炭素または炭素−ヘテロ原子単結合を含有している化合物であり、特に反応はベンジルオキシカルボニル基の除去である。
【0069】
本発明は、接触水素化または水素化分解に対する基質を液相中に用意する接触水素化または水素化分解を受けやすい有機化合物の接触水素化または水素化分解のための最高約10容量%の水素及び少なくとも約90容量%の不活性ガスを含む水素含有ガスの使用、特に本発明の上記方法の適用から生ずる使用にも関する。
【0070】
上記した触媒は、本発明において使用され得る水素化分解反応のための考えられる触媒の例として挙げられている。しかしながら、本発明はこれらに限定されない。
【0071】
本発明を以下の実施例を用いて説明する。しかしながら、これらの実施例はどの面でも本発明の範囲を限定すると解釈されるべきでない。
【実施例】
【0072】
[実施例1]
ジフェニルアセチレン(4.46g)をメタノール(150mL)中に溶解させた。炭素担持10% パラジウム(Hindustan Platinum IncからRD−9210として入手可能)(1g)を添加した。室温(20〜25℃)及び100mbarの過圧で95容量%のN及び5容量%のHの混合物(Linde Gasから入手可能)を懸濁液中に約30L/hの流速で11時間通した。触媒を濾過により除去した。溶液を真空中で濃縮した。生じた生成物を濾過により単離し、乾燥させた。2.93gのジフェニルエタンを得た
H−NMR(CDCl,300MHz):2.97ppm(s),4H,2×CH;7.21−7.26ppm(m),6H,2×H3/4/5原子;7.30−7.36ppm(m),4H,2×H2/6 芳香族。
【0073】
生成物のNMRスペクトルを図1に示す。2.97ppmのアルカンプロトンについての積分値の7.2〜7.3ppm辺りの芳香族プロトンについての積分値の合計に対する比及びオレフィンプロトンに対応するピーク(5ppm〜7ppm)が存在しないことから理解され得るように、アルキンのアルカへの還元は実質的に完全であり、三重結合のアルケンレベルへの不完全還元に由来する生成物は検出できなかった。
【0074】
[実施例2]
2−[(1R)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]−3−(4−フルオロフェニル)−5,6−ジヒドロ−2H−1,4−オキサジン(0.94g)をメタノール(150mL)中に溶解させた。炭素担持10% パラジウム(Hindustan Platinum IncからRD−9210として入手可能)(1g)を添加した。95容量%のN及び5容量%のHの混合物(Linde Gasから入手可能)を30L/hの流速で懸濁液中に6.5時間通した。温度は25から30℃であり、過圧は約150mbarであった。触媒を濾過により除去した。油が得られるまで、溶液を真空中で濃縮した。0.9gの2−[(1R)−1−[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]エトキシ]−3−(4−フルオロフェニル)−(2R,3S)−モルホリンを得た。
【0075】
H−NMR(DMSO−d6,300MHz):1.36ppm(d,3H,J=6.6Hz)CH,2.97ppm(m,2H)CH;3.50ppm(d,1H,J=10.2Hz)1/2CH;3.92ppm(d,1H,J=2.4Hz)CH;3.99ppm(m,1H)1/2CH;4.41ppm(d,1H,J=2.4Hz)CH;4.69ppm(q,1H,J=6.6Hz)CH;7.05ppm(t,2H,J=9.0Hz)2×CH;7.33ppm(dd,2H,J=2.1Hz,J=5.7Hz)2×CH;7.40ppm(s,2H)2×CH,7.85ppm(s,1H)CH。
【0076】
生成物のNMRスペクトルを図2に示す。3.9及び4.4ppmのシグナルの積分値及びカップリングのタイプは水素化生成物(モルホリン環中のプロトン)の特徴である。5.15ppm(出発物質の特徴)にシグナルが存在しないことは反応が実質的に完了したことを示す。
【0077】
[実施例3]
(4S,4aS,5aR,12aS)−4,7−ビス(ジメチルアミノ)−9−ニトロ−1,4,4a,5,5a,6,11,12a−オクタヒドロ−3,10,12,12a−テトラヒドロキシ−1,11−ジオキソ−2−ナフタレンカルボキサミド(88.8g)をメタノール(2.7L)及び濃塩酸(40mL)中に溶解させた。触媒(50%の水で湿らせた炭素担持10% パラジウム,BASFタイプ#286063)(30.2g)を添加した。95容量%のN及び5容量%のHの混合物(Linde Gasから入手可能)をガラスフィルターキャンドルを用いて80L/hの流速で懸濁液中に6.5時間通した。温度は20から25℃であり、過圧は約130mbarであった。HPLCが基質が完全に反応したことを示したら、触媒を濾過により除去した。溶液を真空中で濃縮した。生じた液体に水(1.4L)を加え、生成物を5% アンモニア溶液(10mL)を用いて結晶化した。結晶をブフナー漏斗を用いて単離し、真空中35℃で乾燥した。77.2gの(4S,4aS,5aR,12aS)−9−アミノ−4,7−ビス(ジメチルアミノ)−1,4,4a,5,5a,6,11,12a−オクタヒドロ−3,10,12,12a−テトラヒドロキシ−1,11−ジオキソ−2−ナフタレンカルボキサミド塩酸塩二水和物を得た。
【0078】
生成物の純度はHPLCを用いて測定して99.3%であった。還元されていない出発化合物(4S,4aS,5aR,12aS)−4,7−ビス(ジメチルアミノ)−9−ニトロ−1,4,4a,5,5a,6,11,12a−オクタヒドロ−3,10,12,12a−テトラヒドロキシ−1,11−ジオキソ−2−ナフタレンカルボキサミドはこのアッセイで約10.3分で流れ、0.1%以下のピーク面積で殆ど検出されない。比較のために、6.856、7.072及び7.663でのピーク面積はそれぞれ0.14%、0.18%及び0.11%である。よって、ニトロ化合物の対応するアミンへの還元は実質的に完了した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物を水素と反応させるための方法であって、前記反応を最高約10容量%の水素及び少なくとも約90容量%の不活性ガスを含む水素含有ガスを用いて実施し、ならびに水素と反応させようとする化合物を液相中に用意する、前記方法。
【請求項2】
水素と反応させようとする化合物は液体であるか、または液相中に溶解、懸濁または乳化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水素含有ガスを液相中に通す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
反応を均一または不均一触媒の存在下で実施する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
触媒は白金族金属またはニッケルを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
不活性ガスは窒素である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ガスは約0.1容量%から約10容量%の水素及び約90容量%から約99.9容量%の不活性ガス、好ましくは約1容量%から約7容量%の水素及び約93容量%から約99容量%の不活性ガス、より好ましくは約2容量%から約6容量%の水素及び約94容量%から約98容量%の不活性ガス、および更により好ましくは約5容量%の水素及び約95容量%の不活性ガスを含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
反応は水素化反応であり、水素と反応させようとする化合物は二重結合または三重結合を含有している、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
二重結合または三重結合は
【化1】

からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
反応は水素化分解反応である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
化合物は
【化2】

からなる群から選択される部分を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
接触水素化または水素化分解を受けやすい有機化合物を接触水素化または水素化分解するための、最高約10容量%の水素及び少なくとも約90容量%の不活性ガスを含む水素含有ガスの使用であって、接触水素化または水素化分解のための基質として使用しようとする有機化合物を液相中に用意する、前記使用。
【請求項13】
接触水素化のための基質は
【化3】

からなる群から選択される二重結合または三重結合を含有している、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
接触水素化分解のための基質は
【化4】

からなる群から選択される部分を含有している、請求項12に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2013−512208(P2013−512208A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540322(P2012−540322)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/007193
【国際公開番号】WO2011/063977
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(305008042)サンド・アクチエンゲゼルシヤフト (54)
【Fターム(参考)】