説明

低鉄損永久磁石及びこれを用いた永久磁石型モータ

【課題】磁気特性を低下させず、鉄損が低く、モータの効率が高い永久磁石を提供する。
【解決手段】本発明の永久磁石は、NdFeB粒子またはSmCo粒子の磁性粒子1からなり、NdFeBまたはSmCoの結晶粒界2または隙間に100nm以下のマグネシア粒子3を有したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄心やヨークなどと組み合せて用いられる低鉄損の永久磁石及びこれを用いた永久磁石型モータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の永久磁石には、モータの電機子により渦電流が流れ鉄損を生じるため、モータにロスを生じる。このため、永久磁石の絶縁抵抗を増加させ渦電流損を低下させることが提案されている。
従来の永久磁石の絶縁性を向上する方法として珪酸粒子を添加しボンド磁石を作製している(特許文献1参照)。
図5はこのボンド磁石の組織を示す摸式図である。珪酸6を磁性粒子7と樹脂8に混合し、ボンド磁石として使用している。
【特許文献1】特開2006−186107
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、従来の永久磁石は金属体のみのためモータの電機子の電流が通り易くなるので、永久磁石内において鉄損が増加し、モータの効率が下がるという問題があった。また、永久磁石の絶縁性を高くするには、珪酸(Si02)などのセラミック等を添加する方法があるが、焼結時にNdFeBもしくSmCoなどの金属間化合物と反応し磁気特性を低下させるので、ボンド磁石にしか使用できないという問題もあった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、永久磁石の絶縁性を高くするとともに、永久磁石における鉄損を低下させ、モータの誘起電圧を低下させずに効率を向上することのできる永久磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したものである。
請求項1に記載の発明は、NdFeB粒子またはSmCo粒子の磁性粒子からなる永久磁石において、前記NdFeBまたはSmCoの結晶粒界または隙間に100nm以下のマグネシア粒子を有している低鉄損永久磁石である。
請求項2に記載の発明は、NdFeB粒子またはSmCo粒子の磁性粒子からなる永久磁石において、前記NdFeBもしくSmCoの結晶粒界または隙間に100nm以下のマグネシア粒子を有した磁石体と、前記NdFeBもしくSmCoの磁性粒子のみの磁石体の2層で構成されている低鉄損永久磁石である。
請求項3に記載の発明は、前記マグネシア粒子の含有量を重量比で0.5〜4.0wt%としたものである。
請求項4に記載の発明は、前記NdFeB粒子またはSmCo粒子の平均粒径を6μm以下としたものである。
請求項5に記載の発明は、請求項1または請求項2記載の低鉄損永久磁石を用いて構成される永久磁石型モータである。
請求項6に記載の発明は、前記低鉄損永久磁石が円筒体の形状であり、前記円筒体の内周側が磁性粒子のみの磁石体であり、外周側がマグネシア粒子と磁性粒子とを混合した磁石体である。
【発明の効果】
【0005】
請求項1、3〜5に記載の発明によると永久磁石の絶縁性を高くすることができ、永久磁石の誘起電圧を低下させずに永久磁石の鉄損を低減でき、モータの効率を向上することができる。
請求項2、6に記載の発明によると永久磁石の鉄損が発生する部分のみに絶縁性を高
くすることができ、より効率よく鉄損を低減できるので、モータの効率を更に向上することができる。
【0006】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0007】
本実施例は、磁性粒子としてNdFeB粒子を用い、活性のマグネシア粒子として100nmの粒子を用いた。
本発明が従来磁石と異なる部分は、珪酸ではなく、焼結時にNdFeBもしくSmCoとは反応しないマグネシア粒子を用い焼結した部分である。
磁石はつぎのようにして作製した。
(1) 先ず、平均粒子径が5μmのNdFeB粒子に重量比で0.3〜6wt%の種々の量の活性のマグネシア粒子を添加し、ナノオーダの粒子の混合に用いられる遊星ボールミルにより混合した。
(2) 混合した粒子を金型に充填し圧力100MPaで円筒形に成形した。
(3) 温度1100℃で2時間焼結した。焼結温度は、1050〜1150℃の一定温度であればよい。
焼結後の組織を図1に示す。図において、1はNdFeBの磁性粒子、2は結晶粒界または隙間、3はマグネシア粒子である。磁性粒子(NdFeB)1の隙間2にマグネシア粒子3が分布した状態となっていることが分かる。
つぎに、作製した円筒状のロータ磁石を300Wの永久磁石形モータに組み込み、8極に着磁し1500回転における鉄損の一つである渦電流損と誘起電圧を測定し、評価した。
表1は、活性のマグネシア粒子の添加量と測定値を示したものである。なお、比較例としてマグネシア粒子の添加量0wt%のものを加えた。
表1から分かるように、マグネシア粒子の添加量が0.5から4.0wt%の#2〜#4はマグネシア粒子を添加しない比較例#1より渦電流損および誘起電圧が低く、効果のあることが分かった。また、マグネシア粒子の添加量が、0.3wt%の#1では渦電流損が小さくならず、6wt%の#5では誘起電圧が低くなり、効果のないことが分かった。
この結果は、モータ電機子より発生した電流が、永久磁石内部で渦電流として流れるが、NdFeB粒子1の結晶粒界2に偏析したマグネシア粒子3が絶縁体として渦電流の発生を防止するために、鉄損を防ぐことができたものと考えられる。すなわち、マグネシア粒子3がNdFeBの磁性粒子1とは反応しなかったことによるものと考えられる。
【0008】
【表1】

【実施例2】
【0009】
本実施例は、NdFeBの磁性粒子1の平均粒子径を2〜7μmに変えたものである。活性のマグネシア粒子は100nmの粒子を2wt%に固定し、成形圧力、焼結条件は実施例1と同じにした。この作製した円筒状のロータ磁石を実施例1と同様に永久磁石形モータに組み込んで着磁し、渦電流損と誘起電圧を測定し評価した。
表2に結果を示すように、平均粒子径が6μmより大きくなると、誘起電圧が低くなり、効果がなくなるが、平均粒子径が小さいと特性はよいことが分かった。
【0010】
【表2】

【実施例3】
【0011】
本実施例は、磁性粒子であるNdFeB粒子1の平均粒子径を5μmに一定にし、活マグネシア粒子の平均粒子径を変えたものである。マグネシア粒子の平均粒子径を50、100、200nmの三種類とし、マグネシア粒子の添加量を1.5wt%に固定した。なお、成形および焼結条件は実施例1と同じである。
表3に結果を示すように、平均粒子径は100nmより大きくなると、誘起電圧が低くなるが、100nmより小さいとよいことが分かる。
【0012】
【表3】


【実施例4】
【0013】
本実施例は、磁性粒子として平均粒子径が5μmのSmCo粒子を用い、マグネシア粒子として100nmの粒子を用いた。
磁石の作製方法は、磁性粒子がNdFeB粒子からSmCo粒子に変わっただけであり、その他の条件は実施例1と同じであるため、説明を省略する。
作製した円筒状のロータ磁石は、実施例1と同様に300Wの永久磁石形モータに組み込み、1500回転における鉄損の一つである渦電流損と誘起電圧を測定し、評価した。
表4から分かるように、マグネシア粒子の添加量が0.5から4.0wt%の#14〜#16はマグネシア粒子を添加しない比較例#1より渦電流損および誘起電圧が低く、効果のあることが分かった。
【0014】
【表4】

【実施例5】
【0015】
本実施例は、NdFeB粒子に活性のマグネシア粒子を混合して成形した部分と、NdFeB粒子のみで成形した部分からなる二色成形したものである。
図2は本発明の二色成形した磁石を示す断面である。図において、4はNdFeB粒子のみで成形した磁性粒子成形体、5はNdFeB粒子にマグネシア粒子を混合し成形した混合粒子成形体である。磁性粒子成形体4は平均粒子径5μmのNdFeB粒子にて成形したものであり、混合粒子成形体5は平均粒子径5μmのNdFeB粒子に、マグネシア粒子として100nmの粒子2wt%を混合し成形した。
この二色成形は、図3に示すような三重構造を持ったパンチを有する金型を用いて行なった。図3(a)は上面図、図3(b)は断面図である。図において、9はダイス、10、15はシリンダ、11、12、13はパンチである。
先ず、ダイス9にパンチ13、14とシリンダ15を挿入する。シリンダ15と下部のパンチ13、14の隙間にNdFeB粒子を充填し、シリンダ10とパンチ11を下降させ50〜100MPa(0.5〜1t/cm)の圧力をかけ磁性粒子成形体4を成形する。次に図4に示すようにパンチ13を下降させ、磁性粒子成形体4とダイス9の隙間にNdFeB粒子とマグネシア粒子を混合した粒子を充填し、パンチ12を下降させ50〜100Mpaの圧力をかけ混合粒子成形体5を成形する。次にシリンダ10とパンチ11、パンチ12を上昇させ、ダイス9を下降することで、磁性粒子成形体4と混合粒子成形体5を取り出す。
つぎに、温度1100℃の温度で2時間焼結した。図4は、二色成形した磁石の断面を示す断面図である。NdFeB粒子にマグネシア粒子を2wt%混合し成形した部分5と、NdFeB粒子を成形した部分4からなる二色になっていることが分かる。
この二色成形し焼結した永久磁石をロータに組み込み、着磁後モータの渦電流損と誘起電圧を測定した結果を表5に示す。なお、比較例として実施例1の欄で述べた#1を用いた。表5から、従来例に比べ、渦電流損が低くなり、誘起電圧も向上しており効果のあることが分かる。すなわち、本実施例ではマグネシア粒子を混合した磁石の量を少なくすることができ、安価に製造できる。
【0016】
【表5】

【0017】
このように、NdFeBもしくSmCoの磁性粒子の周りに絶縁体であるマグネシア粒子が取り囲んだ状態になっているので、永久磁石内部に発生する渦電流を防ぎ、モータの鉄損を低減し、誘起電圧を高くすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
マグネシア粒子を添加した磁石は、鉄心やヨークなどと組み合せて用られるリニアモータ、磁気式のエンコーダ、リアクトルなどにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施例を示す永久磁石の組織の模式図
【図2】本発明の第5実施例を示す内層を成形する金型の概略図
【図3】本発明の第5実施例を示す外層を成形する金型の概略図
【図4】本発明の第5実施例の磁石を示す断面図
【図5】従来の方法により作製したボンド磁石の組織を示す模式図
【符号の説明】
【0020】
1 磁性粒子
2 結晶粒界
3 マグネシア粒子
4 混合粒子成形体
5 磁性粒子成形体
6 珪酸
7 磁性粒子
8 樹脂
9 ダイス
10、15 シリンダ
11、12、13、14 パンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NdFeB粒子またはSmCo粒子の磁性粒子からなる永久磁石において、
前記NdFeBまたはSmCoの結晶粒界または隙間に100nm以下のマグネシア粒子を有していることを特徴とする低鉄損永久磁石。
【請求項2】
NdFeB粒子またはSmCo粒子の金属粒子からなる永久磁石において、
前記NdFeBもしくSmCoの結晶粒界または隙間に100nm以下のマグネシア粒子を有した磁石体と、前記NdFeBもしくSmCoの磁性粒子のみの磁石体の2層で構成されていることを特徴とする低鉄損永久磁石。
【請求項3】
前記マグネシア粒子の含有量が重量比で0.5〜4.0wt%であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の低鉄損永久磁石。
【請求項4】
前記NdFeB粒子またはSmCo粒子の平均粒径が6μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の低鉄損永久磁石。
【請求項5】
請求項1または請求項2記載の低鉄損永久磁石を用いて構成したことを特徴とする永久磁石型モータ。
【請求項6】
前記低鉄損永久磁石が円筒体の形状であり、前記円筒体の内周側が磁性粒子のみの磁石体であり、外周側がマグネシア粒子と磁性粒子とを混合した磁石体であることを特徴とする請求項5記載の永久磁石型モータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−200320(P2009−200320A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41549(P2008−41549)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】