説明

作業機の操作装置

【課題】単一の操作レバーを用いて操作レバーの操作忘れや誤操作の発生を回避するとともに、PTOクラッチとデフ装置との駆動形態の多様化を図る。
【解決手段】走行系伝動機構にデフ装置を備えるとともに、作業系伝動機構に作業装置側への動力伝達を断続するPTOクラッチを備え、デフ装置とPTOクラッチとに連係する単一の操作レバー4を、デフロック状態でPTOクラッチを入り操作する作業位置s3と、デフロック解除状態でPTOクラッチを切り操作する非作業走行位置s1と、デフロック状態でPTOクラッチを切り操作するデフロック非作業位置s2とに切換操作可能に構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン側からの伝達動力を走行装置側に伝達する走行系伝動機構と、作業装置側に伝達する作業系伝動機構とを備えた作業機の操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の作業機の操作装置としては、下記[1]及び[2]に記載のものが知られている。
[1]操縦ハンドル部分にPTOクラッチレバーと走行クラッチレバーとを備え、走行ミッションケースの後部にデフロックペダル及びデフロック解除ペダルを備えて、各別に操作可能に構成したもの(特許文献1参照)。
[2]単一の操作レバーの操作経路を構成するガイド溝の途中に屈曲箇所を備え、ガイド溝の前端側に高速走行が可能で、PTOクラッチが切られ、デフロックが解除された路上走行用の非作業走行位置が設定され、その非作業走行位置から後方に操作して屈曲箇所に操作すると、低速走行が可能で、PTOクラッチが切られ、デフロックが解除された低速での路上走行用の非作業走行位置が設定され、屈曲箇所で前記路上走行の高低変速経路に交差する横側方への操作が行われると、低速走行が可能で、PTOクラッチが入り操作され、デフロック状態となる田植え作業用の作業位置が設定されるように構成したもの(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−125648号公報(段落〔0013〕、〔0016〕、図1、図2)
【特許文献2】特許第3567622号公報(段落〔0015〕、〔0016〕、〔0017〕、図5、図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のように、PTOクラッチレバーとデフロックペダル及びデフロック解除ペダルが別々の操作具で構成されていれば、PTOクラッチの入り切り操作と、デフ装置のロック及びロック解除を自由に設定することができ、多様な駆動形態を選択し得る点で有用なものである。しかしながら、操作具が複数個存在することにより、手足を使って迅速な操作を行える便利さはあるものの、複数の操作具を扱うことによる操作の煩雑さを招く傾向があるとともに、個別操作される複数の操作具を備えることで何れかの操作具の操作忘れや誤操作を招く可能性があり、この点で改善の余地がある。
【0005】
これに比べて、前記特許文献2に記載のように、単一の操作レバーを用いてPTOクラッチとデフ装置とを操作できるようにした構造のものでは、上述のような操作忘れや誤操作を回避し易い点では有用であるが、作業機の駆動形態として、上述したような、PTOクラッチが切られ、デフロックが解除された路上走行形態と、PTOクラッチが入り操作され、デフロック状態となる作業形態を選択するものであるため、それ以上の駆動形態の多様化を望むことはできないものであった。
【0006】
本発明の目的は、単一の操作レバーを用いてPTOクラッチとデフ装置とを操作できるようにして、操作レバーの操作忘れや誤操作の発生を回避するとともに、PTOクラッチとデフ装置との駆動形態の多様化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔解決手段1〕
上記課題を解決するために講じた本発明の技術手段は、エンジン側からの伝達動力を走行装置側に伝達する走行系伝動機構と、作業装置側に伝達する作業系伝動機構とを備えた作業機の操作装置であって、前記走行系伝動機構にデフ装置を備えるとともに、前記作業系伝動機構に作業装置側への動力伝達を断続するPTOクラッチを備え、前記デフ装置とPTOクラッチとに連係する単一の操作レバーを、デフロック状態でPTOクラッチを入り操作する作業位置と、デフロック解除状態でPTOクラッチを切り操作する非作業走行位置と、デフロック状態でPTOクラッチを切り操作するデフロック非作業位置とに切換操作可能に構成してあることを特徴とする。
【0008】
〔解決手段1にかかる発明の作用及び効果〕
上記解決手段1にかかる本発明によると、デフロック状態でPTOクラッチを入り操作する作業位置や、デフロック解除状態でPTOクラッチを切り操作する非作業走行位置とは別に、デフロック状態でPTOクラッチを切り操作するデフロック非作業位置とすることができるので、例えば、作業機を畦越えさせる際とか、歩み板を用いて運搬車両に対して積み降ろしする際などに、作業機をデフロックされた直進状態にして安定良く駆動し、かつ外部動力出力軸の駆動は停止した状態に維持して用いることができ、多様な駆動形態を得ることができたものである。

しかも、前記デフロック非作業位置を、デフロック操作機構とPTOクラッチ操作機構とを操作するための単一の操作レバーで操作できるものであるから、複数の操作レバーを用いて各別に操作する場合のような煩わしさがなく、単一の操作レバーの操作位置を変更するだけの簡単な操作で迅速に選択することができ、また、操作忘れや誤操作を招く虞も少なくて済む。
【0009】
〔解決手段2〕
上記課題を解決するために講じた本発明の他の技術手段は、前記デフロック非作業位置は、前記操作レバーの操作経路中で、前記作業位置と前記非作業走行位置との中間に設定されていることを特徴とする。
【0010】
〔解決手段2にかかる発明の作用及び効果〕
上記の解決手段2にかかる発明の構成によると、前記デフロック非作業位置を選択する際に、走行系伝動機構や作業系伝動機構の無駄な駆動をなくしてスムースな選択操作を行うことができる。
すなわち、前記デフロック非作業位置が前記作業位置や前記非作業走行位置よりも操作経路の端部側寄り位置に設定されると、前記デフロック非作業位置に到達する前の操作経路で、前記作業位置でPTOクラッチが入り操作されたり、非作業走行位置でデフロック解除状態となる。このため、前記デフロック非作業位置に達してから再びPTOクラッチが切られ、デフロック状態となるように切換操作しなければならないが、この解決手段2にかかる発明では、前記デフロック非作業位置が前記作業位置と前記非作業走行位置との中間に設定されているので、このような作業系伝動機構の無駄な駆動を生じることなく、スムースにデフロック非作業位置への切換を行える利点がある。
【0011】
〔解決手段3〕
上記課題を解決するために講じた本発明の他の技術手段は、前記操作レバーの操作経路は、前記非作業走行位置と前記デフロック非作業位置との間では直線経路に形成され、前記デフロック非作業位置から前記作業位置への操作経路は、前記デフロック非作業位置から横側方へ向かう横移動経路部分を経て前記作業位置へ至る屈曲経路によって形成されていることを特徴とする。
【0012】
〔解決手段3にかかる発明の作用及び効果〕
上記の解決手段3にかかる発明の構成によると、操作レバーの操作経路は、その全体が単なる直線状の経路で構成されているのではなく、デフロック非作業位置から作業位置への操作経路は、前記デフロック非作業位置から横側方へ向かう横移動経路部分を備えた屈曲経路によって形成されているので、操作レバーを非作業走行位置から作業位置へ向けて一気に操作して、走行系伝動機構や作業系伝動機構が急激に駆動されてしまうような不具合を回避することができる。
【0013】
〔解決手段4〕
上記課題を解決するために講じた本発明の他の技術手段は、前記PTOクラッチはクラッチ入り側にバネ付勢して設けてあり、前記操作レバーは、前記PTOクラッチのクラッチ入り側への付勢力で前記非作業走行位置側から前記作業位置側へ付勢され、かつ前記操作レバーには、前記直線経路側から前記屈曲経路側への移動に対して抵抗を与える抵抗手段が設けられていることを特徴とする。
【0014】
〔解決手段4にかかる発明の作用及び効果〕
上記の解決手段4にかかる発明の構成によると、クラッチ入り側にバネ付勢して設けてあるPTOクラッチのPTOクラッチ操作機構に連係される操作レバーは、非作業走行位置側からデフロック非作業位置、あるいは作業位置側へ操作する際に、PTOクラッチのクラッチ入り側へのバネ付勢力を利用して操作することができるので、PTOクラッチの入り操作を軽快に操作することができる。
そして、このようにPTOクラッチのクラッチ入り側へのバネ付勢力を利用することで、クラッチ入り側へ付勢された状態にある操作レバーを、前記操作経路が直線経路と屈曲経路とで構成されていることと、直線経路側から前記屈曲経路側への移動に対して抵抗を与える抵抗手段が設けられていることとにより、前記デフロック非作業位置での操作レバーの操作位置を安定的に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】歩行型耕耘機の全体側面図である。
【図2】歩行型耕耘機の全体平面図である。
【図3】操作装置部分を示す側面図である。
【図4】操作装置部分を示す平面図である。
【図5】操作装置を示す分解斜視図である。
【図6】図4におけるVI-VI線断面図である。
【図7】レバーガイドを除いた操作操作部分を示す平面図である。
【図8】操作レバーの操作経路部分を示す平面図である。
【図9】操作装置部分を示す側面図である。
【図10】操作装置部分を示す側面図である。
【図11】操作装置部分を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面の記載に基づいて説明する。
〔歩行型耕耘機の全体構成〕
図1は、本発明に係る作業機の操作装置を適用した歩行型耕耘機を示す全体側面図である。
この図に示すように、歩行型耕耘機は、エンジン11を搭載した機体フレーム10の後方側に操縦ハンドル12を備え、前記機体フレーム10を支持する左右一対の駆動自在なタイヤ式の走行車輪13,13(走行装置に相当する)を装備した自走機体1と、前記自走機体1の機体フレーム10の後部側に連結されたロータリー耕耘装置2(作業装置に相当する)とを備えて構成されている。
【0017】
前記機体フレーム10は、前記左右一対の車軸13a,13a、及び前記ロータリー耕耘装置2の耕耘爪軸20を支持するミッションケース3と、このミッションケース3から機体前方向きに延出したエンジン支持フレーム10Aとで構成されている。
【0018】
前記ミッションケース3内には、図示しないが、走行車輪13,13に対してエンジン動力を伝達するための周知のギヤ伝動機構や伝動チェーンなどで構成された走行系伝動機構と、ロータリー耕耘装置2に対してエンジン動力を伝達するための周知のギヤ伝動機構や伝動チェーンなどで構成された作業系伝動機構が配備されている。
そして、前記走行系伝動機構には、左右の走行車輪13,13に対して同期回転もしくは差動回転状態で駆動力を伝達するためのデフ装置30と、そのデフ装置30をデフロック状態とデフロック解除状態とに操作するためのデフロック操作機構(図示せず)とが設けてあり、前記作業系伝動機構には、前記ロータリー耕耘装置2に対する駆動力を断続するためのPTOクラッチ31と、そのPTOクラッチ31を入り切り操作するためのPTOクラッチ操作機構(図示せず)とが設けてある。
【0019】
また、前記ミッションケース3内には、図示しないが、エンジン動力を変速して前記走行系伝動機構及び作業系伝動機構に伝達するための変速装置も内装され、図1に示すようにミッションケース3の後部側から機体後方上方側へ延出してある変速操作レバー17の操作によって、操縦ハンドル12を把持する操縦者が機体後方側から変速操作可能に構成されている。
【0020】
前記操縦ハンドル12は、ミッションケース3の後部側のケース外周部分に設けたハンドル支持部3aから後方上方向きに延出されている。
この操縦ハンドル12には、図1及び図2に示されているように、エンジン11からの動力を前記ミッションケース3内の伝動装置に対して断続する主クラッチ14を入り切り操作するためのクラッチレバー15や、アクセル操作具16、及び後述するPTOクラッチ31とデフ装置30とを操作するための単一の操作レバー4などの操作具を設けてある。
【0021】
前記主クラッチ14を入り切り操作するためのクラッチレバー15は、図1乃至図4に示されているように、平面視で操縦ハンドル12の左右両側のハンドル杆部分12aと、後方側のハンドル杆部分12bとにわたる門形の形状に形成してあり、前記左右両側のハンドル杆部分12aに対して横軸心x1周りで起伏揺動自在に装着してある。これによって前記クラッチレバー15は、図3に実線で示すように操縦ハンドル12に対して起立したクラッチ切り姿勢と、同図に仮想線で示すように操縦ハンドル12の上縁に沿うように倒伏させたクラッチ入り姿勢とに姿勢切換可能に構成されている。
前記後方側のハンドル杆部分12bには、図1乃至図3に示されているように、左右方向での中央部箇所に、後方側のハンドル杆部分12bの一部が部分的に下方側に凹入した形状の凹入部12cを形成してある。この凹入部12cは、クラッチレバー15の上部を掴んでクラッチ入り姿勢に切換操作する際に、後方側のハンドル杆部分12bの上縁と、その上縁に沿うように倒伏させたクラッチ入り姿勢のクラッチレバー15との間に空間を形成してハンドル杆部分12bを把持するためのものである。
【0022】
図1に示すように、前記ロータリー耕耘装置2は、前記ミッションケース3の後部側に設けられた耕耘爪軸20と、その耕耘爪軸20に取り付けられて回転駆動されるロータリ耕耘爪21と、接地抵抗棒22とを備える他、ロータリ耕耘爪21の上部を覆う耕耘ロータカバー23と、整地板24とを備えている。
【0023】
〔操作装置の構成〕
図3乃至図7に示されているように、前記PTOクラッチ31とデフ装置30とを操作するための単一の操作レバー4は、ミッションケース3内に配設されている前記デフ装置30をデフロック状態とデフロック解除状態とに操作するためのデフロック操作機構に対して、第1連係機構5を介して連係されているとともに、PTOクラッチ31を入り切り操作するためのPTOクラッチ操作機構に対して第2連係機構6を介して連係され、これらの操作レバー4、第1連係機構5、及び第2連係機構6を備えることによって、前記デフ装置30とPTOクラッチ31とを操作するための操作装置を構成している。
前記操作レバー4は、前記操縦ハンドル12の右側のハンドル杆部分12aに溶接して固定してあるレバーガイド18に形成されたガイド溝19に軸杆部42を挿通して揺動操作方向を案内されるように構成してある。
【0024】
図3乃至図7に示されているように、前記第1連係機構5は、操縦ハンドル12の右側のハンドル杆部分12aの下部側に溶接して固定してあるU字状の取付ブラケット32に対して、この取付ブラケット32に形成されている枢支孔34a,34aに抜き差し可能に装着してある枢支軸35を介して回動自在に装着させたデフ操作体50と、そのデフ操作体50に対して、デフ操作体50の一部である操作アーム部54に溶接固定された連結ピン54aを介して回動自在に一端側を連結された弦月杆56と、その弦月杆56の他端側に相対回動自在な止め金57aを介して連結した操作ワイヤ57とを備えて構成してある。
【0025】
前記第2連係機構6は、前記デフ操作体50を支持する前記枢支軸35に対して回動自在に装着したPTO操作体60と、そのPTO操作体60に対して相対回動自在な止め金64aを介して連結した操作ワイヤ64とを備えて構成してある。
前記操作レバー4は、前記第2連係機構6のPTO操作体60に対して、前記枢支軸35とは直交する方向の支点軸40を着脱可能に取り付け、その支点軸40にボス部41を回動自在に外嵌させることによって装着してある。
【0026】
前記操縦ハンドル12に固定されたU字状の取付ブラケット32は、図3、及び図5乃至図7に示されているように、前壁33の上端側を右側のハンドル杆部分12aの下半側の周面に溶接して固定してあり、前壁33の左右両側から後方向きに延出した左右の各側壁34,34のそれぞれに形成した枢支孔34a,34aに、前記枢支軸35を挿通して支持するように構成してある。枢支軸35は頭付きピンによって構成され、他端側を座金35a、及びベータピン35bで抜け止め状態に止着するように構成してある。
【0027】
前記デフ操作体50は、図5乃至図7に示されているように、左側板51と右側板52とが底板53で接続されたU字状に屈曲形成してあり、前記左側板51と右側板52とのそれぞれの下部に前記枢支軸35を挿通可能な枢支孔51a,52aが形成されている。
このデフ操作体50の前記枢支孔51a,52aを形成した下部は、前記取付ブラケット32の左右の各側壁34,34同士の間に入り込ませた状態で、前記枢支軸35が、取付ブラケット32の左右の各側壁34,34に形成された枢支孔34a,34a、及びデフ操作体50の左側板51と右側板52とに形成された各枢支孔51a,52aを貫通する状態で装着してある。したがって、この装着状態でデフ操作体50の左側板51と右側板52とが取付ブラケット32の左右の各側壁34,34の内向き面に摺接してガイドされながら回動自在に支持された状態となる。
【0028】
前記デフ操作体50の左側板51には、後方側へ向けて延出された操作アーム部54と、上方側へ向けて延出されたレバー連係部55とが一体に形成されている。
前記操作アーム部54は、延出端側に連結ピン54aが溶接して固定してあり、この連結ピン54aに対して弦月杆56の後端側を係脱可能に連結してある。
前記レバー連係部55は、上端側に形成された二股状の分岐部分を左側方に屈曲させて、左側板51の下部よりも左側に突出する前後一対の係合突起55a,55bを形成してある。この前後一対の係合突起55a,55bは、図6及び図7に示すように、前記取付ブラケット32の左側の側壁34を越えてさらに左側方に延出されていて、前記PTO操作体60に支持される操作レバー4の軸杆部42を前後で挟み込み可能であるように、軸杆部42の軸径よりも少し大きな間隔dを隔てて形成されている。
【0029】
前記PTO操作体60は、前記枢支軸35に対して回動自在に外嵌する取付ボス部61と、前記操作レバー4の支点軸40を装着するU字状のレバー保持部62と、レバー保持部62から後方向きに延出された揺動アーム部63とが一体に形成されている。
このPTO操作体60は、前記取付ブラケット32の左側の側壁34の左側方に配置され、取付ボス部61に対して枢支軸35が挿入され、枢支軸35の軸端側で前記座金35a及びベータピン35bを用いて抜け止め状態に固定されることにより、前記取付ブラケット32の左側の側壁34に摺接して枢支軸35の軸心p1回りで回動自在に支持されている。
【0030】
前記操作レバー4を装着するU字状のレバー保持部62は、図5乃至図7に示されるように、取付ボス部61の外周面の上部側に底板部分62aを溶接して固定し、底板部分62aの前側に立設された前板部分62bと後側に立設された後板部分62cとで、U字状に形成してあり、前板部分62bと後板部分62cとにわたって挿通した支点軸40によって、操作レバー4を前後方向の軸心p2回りで左右揺動させるように構成してある。前記支点軸40は頭付きピンによって構成され、他端側は座金40a、及びベータピン40bで抜け止め状態に止着するように構成してある。
【0031】
前記後板部分62cの左側端部から後方側に向けて揺動アーム部63が延出してあり、この揺動アーム部63の後端近くに、操作ワイヤ64に装着された止め金64aを係入するための係合孔63aを形成してある。
また、この揺動アーム部63には、操作レバー4の軸杆部42がレバーガイド18のガイド溝19の端部に衝撃的に接当することを回避するための手段としてのストッパーピン65が溶接して一体に固定されている。このストッパーピン65の機能については後述する。
【0032】
前記操作レバー4は、図3乃至図7に示されているように、軸杆部42の上端側に握り部43を備え、下端側に前記支点軸40に外嵌するボス部41を備え、支点軸40の軸心である前後軸心p2回りで左右揺動可能に構成されている。
前記ボス部41の外周側で前記軸杆部42と前記PTO操作体60の後板部分62cとの間に、操作レバー4を右方向(図6における紙面右方向)へ傾けるように揺動付勢するコイルスプリング44(抵抗手段に相当する)が設けられている。
【0033】
前記操縦ハンドル12は、図3に示すように斜め後方上方側に向けて延出された右側のハンドル杆部分12aの後部近くに、後上がり傾斜の角度が緩やかになるように屈曲部12dを設けてあり、この屈曲部12dよりも前方側に前記レバーガイド18の前半部18Fが、前記ハンドル杆部分12aの傾斜した上縁部分に沿って溶接固定してある。前記レバーガイド18の後半部18Rは、前記屈曲部12dの少し前側から、その屈曲部12dよりも後方側のハンドル杆部分12aに沿うように、前半部18Fに対して傾斜角度が緩やかになるように屈曲されている。
前記レバーガイド18は、図4に示すように、平面視では前半部18Fの右側縁が右側のハンドル杆部分12aの上縁に沿い、後半部18Rが右側のハンドル杆部分12aの内側の横側縁に沿うように形成され、左側縁は、ほぼ機体前後方向に沿って直線的に形成されている。前記レバーガイド18の前半部18Fの左側寄りの箇所に前記ガイド溝19が形成してあり、そのガイド溝19よりも右側寄りの箇所に、エンジン11を緊急停止させる際に用いる停止ボタン11aが、前記ガイド溝19に対して左右方向で位置をずらした状態に配設されている。
【0034】
この操作レバー4は、前記操縦ハンドル12の右側のハンドル杆部分12aに溶接して固定してあるレバーガイド18の前半部18Fに形成されたガイド溝19に軸杆部42を挿通して揺動操作されるものであり、前記コイルスプリング44で付勢される右方向は、操作レバー4の軸杆部42が前記デフ操作体50の上端側に形成されたレバー連係部55の前後一対の係合突起55a,55bの間に係入する方向であり、図8に示すガイド溝19の操作経路のうちの、後述する直線経路aに操作レバー4を位置させる方向であり、前記直線経路a側から後述する屈曲経路b側への移動に対して抵抗を与える抵抗手段として機能するものである。
【0035】
前記レバーガイド18の前半部18Fに形成されたガイド溝19には、図8に示すように、PTOクラッチ31が切りでデフロックが解除された操作位置である非作業走行位置s1と、デフロック状態でPTOクラッチ31を切り操作した操作位置であるデフロック非作業位置s2と、デフロック状態でPTOクラッチ31を入り操作した操作位置である作業位置s3との3箇所の操作位置が設定されている。
前記非作業走行位置s1とデフロック非作業位置s2との間のガイド溝19の部分が直線経路aで構成され、前記デフロック非作業位置s2と作業位置s3との間におけるガイド溝19の部分が屈曲経路bによって構成されている。
また、前記屈曲経路bは、前記デフロック非作業位置s2から斜め横側方へ向かう横移動経路部分b1と、その横移動経路部分b1の終端から前記作業位置s3へ向かう前後向き移動経路部分b2との組み合わせでL字形に屈曲した経路に形成されている。
【0036】
前記屈曲経路bの横移動経路部分b1には、その横移動経路部分b1の入り口付近で、デフロック非作業位置s2に位置する操作レバー4の屈曲経路b側への移動に抵抗を与えるように、ガイド溝19の右側の溝縁のうち、前記横移動経路部分b1で機体前方側に位置する溝縁が機体後方側へ向けて部分的に膨出する抵抗突起19a(抵抗手段に相当する)が形成されている。
また、前記ガイド溝19の左側の溝縁のうち、前記横移動経路部分b1の前記抵抗突起19aを設けた右側の溝縁に対向して機体後方側に位置する溝縁は、ガイド溝19の直線経路aの前端部と屈曲経路bの前後向き移動経路部分b2の後端部とを滑らかに接続するように、後方側箇所が機体右後方側に位置し、前方側箇所が機体左前方側に位置して斜め左前方に向けて傾斜した部分を有する湾曲ガイド部19bによって形成されている。
【0037】
〔操作装置の動作〕
上記操作レバー4によって、デフ装置30とPTOクラッチ31とを操作する場合の操作形態を図8乃至図11に基づいて説明する。
図9は、操作レバー4を非作業走行位置s1に位置させた状態を示している。この非作業走行位置s1では、操作レバー4の軸杆部42が、デフ操作体50の上端側に形成された前後一対の係合突起55a,55bの間のレバー連係部55に係入した状態で、レバーガイド18に形成されたガイド溝19の後端側に軸杆部42が接当して、後方側(図9では時計回り)への回動が阻止されている。
このとき、デフ操作体50の連結ピン54aと弦月杆56の一端側との連結点p3と、PTO操作体60の揺動アーム部63の係合孔63aに係止された止め金64aの連結点p4とが、共に前記デフロック操作機構及びPTOクラッチ操作機構に連係された各操作ワイヤ57,64の固定保持箇所x2と、前記枢支軸35の軸心p1とを結ぶデッドポイント線DPよりも下方側に位置している。
【0038】
この位置では、デフロック操作機構に連係された操作ワイヤ57が緩められてデフ装置30はデフロックが解除されたデフロック解除状態であり、PTOクラッチ操作機構に連係された操作ワイヤ64は、PTOクラッチ31がクラッチ入り側にバネ付勢されているので、クラッチ入り側への引っ張り作用を受けているが、操作レバー4をガイド溝19の後端側へ押し付けられて時計回りの回動を阻止されているので、クラッチ切り状態に維持されて、作業装置であるロータリ耕耘装置2の駆動が停止された非作業状態である。
【0039】
図10は、操作レバー4をデフロック非作業位置s2に位置させた状態を示している。
このデフロック非作業位置s2では、操作レバー4の軸杆部42は前記レバー連係部55に係入した状態であり、操作レバー4は、レバーガイド18に形成されたガイド溝19の直線経路aの前端位置近くに軸杆部42が位置して、それ以上の前方側(図10では反時計回り)への回動が阻止されている。
このとき、デフ操作体50の連結ピン54aと弦月杆56の一端側との連結点p3と、PTO操作体60の揺動アーム部63の係合孔63aに係止された止め金64aの連結点p4とが、共に前記デフロック操作機構及びクラッチ操作機構に連係された各操作ワイヤ57,64の固定保持箇所x2と、前記枢支軸35の軸心p1とを結ぶデッドポイント線DPよりも上方側に位置している。
【0040】
この位置では、デフロック操作機構に連係された操作ワイヤ57が引っ張られて、デフ操作体50の上端部が取付ブラケット32の前壁33の後面側に接当し、これ以上のデフ操作体50の反時計回りの回動が阻止されることにより、操作レバー4の前方側、すなわち反時計回りの回動も阻止され、操作レバー4の軸杆部42がガイド溝19の直線経路aの前端に直接接当していない状態で前方側への回動が阻止されている。
【0041】
前記PTOクラッチ操作機構に連係された操作ワイヤ64は、連結点p4がデッドポイント線DPの上方側へ移動するものの、操作ワイヤ64の固定保持箇所x2からの距離は、前記非作業走行位置s1に位置していた状態からほとんど変化せず、クラッチ切り状態のままに維持されて、作業装置であるロータリ耕耘装置2の駆動は停止された非作業状態に維持されている。
ただし、連結点p4がデッドポイント線DPの上方側へ移動したことによって、PTOクラッチ31のクラッチ入り側へのバネ付勢力が、操作レバー4をガイド溝19の直線経路aの前端側へ押し付ける方向に作用し、操作レバー4の反時計回りの回動が取付ブラケット32の前壁33との接当で阻止された状態となっているので、デフロック非作業位置s2での操作レバー4の位置が安定的に維持されている。
【0042】
図11は、操作レバー4を作業位置s3に位置させた状態を示している。この作業位置s3では、前記デフ操作体50が取付ブラケット32の前壁33の後面側に接当したままであり、操作レバー4だけが、レバーガイド18に形成されたガイド溝19の前端位置近くに移動して、それ以上の前方側(図11では反時計回り)への回動が阻止されている。
このように操作レバー4を作業位置s3へ移動させるには、図8に示すように、デフロック非作業位置s2に位置していた操作レバー4を、コイルスプリング44の付勢力に抗して、かつ、ガイド溝19の屈曲経路bの入り口付近にある抵抗突起19aを乗り越えて横移動経路部分b1及び前後向き移動経路部分b2との組み合わせでなる屈曲経路bの前端側へ移動させる必要がある。そのため、前記操作レバー4を横移動経路部分b1へ向けて横方向に移動させると、操作レバー4の軸杆部42がデフ操作体50のレバー連係部55から抜け出し、その後に操作レバー4を前方側へ操作すると、PTO操作体60のみを枢支軸35の軸心p1周りで反時計回りに回動させる。
【0043】
このとき、PTO操作体60には、PTOクラッチ31のクラッチ入り側へのバネ付勢力が、操作レバー4をガイド溝19の屈曲経路bの前端側へ押し付ける方向に作用するが、操作レバー4が作業位置s3に達すると、PTO操作体60の揺動アーム部63に一体に設けてあるストッパーピン65が、前記取付ブラケット32の前壁33との接当で移動を阻止されているデフ操作体50の後方側の上端部に接当して、それ以上の前方側(図11では反時計回り)への回動が阻止され、操作レバー4の軸杆部42が屈曲経路bの前端に接当する前に前方側への回動を阻止できるように構成されている。
【0044】
前記操作レバー4は、非作業走行位置s1、デフロック非作業位置s2、作業位置s3、の各操作位置における握り部43の位置が、図1に示すように、前記変速操作レバー17に対しては、変速操作レバー17の握り部後端よりも、作業位置s3及びデフロック非作業位置s2で前方側に位置し、非作業走行位置s1では、変速操作レバー17の握り部後端よりも操作レバー4の握り部43が後方側に位置するように構成されている。
そして、主クラッチ14を入り切り操作するためのクラッチレバー15に対しては、図1及び図3に示すように、前記非作業走行位置s1、デフロック非作業位置s2、及び作業位置s3、の各操作位置で、操作レバー4の握り部43がクラッチレバー15の操作範囲よりも前方側に位置し、かつ、操作レバー4の握り部43が最も後方側に位置する非作業走行位置s1で、前記クラッチレバー15が操縦ハンドル12の右側のハンドル杆部分12aに対して起立したクラッチ切り姿勢のクラッチレバー15の起立方向に沿った姿勢にある。
【0045】
〔別実施形態の1〕
上記の実施形態では、伝動ケースとして、走行系の伝動機構と作業系の伝動機構とが単一のケース内に収められたミッションケース3を用いた例を示したが、これに限らず、例えば、走行系の伝動機構と作業系の伝動機構とを別々の伝動ケースに内装した構造のものであってもよい。その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0046】
〔別実施形態の2〕
上記の実施形態では、操作レバー4の操作経路中で、機体前方側に作業位置s3を設け、次にデフロック非作業位置s2を設け、その後に非作業走行位置s1を設けるように設定したが、これに限らず、例えば、機体前方側に非作業走行位置s1を設け、次にデフロック非作業位置s2を設け、その後に作業位置s3を設けるように設定してもよい。その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0047】
〔別実施形態の3〕
上記の実施形態では、操作レバー4及びレバーガイド18を、操縦ハンドル12の右側のハンドル杆部分12aに設けた構造のものを例示したが、これに限らず、操縦ハンドル12の左側のハンドル杆部分12aに装備させた構造のものであってもよい。また、レバーガイド18に形成されるガイド溝19も、前記操作レバー4及びレバーガイド18が操縦ハンドル12の左右何れの側のハンドル杆部分12aに装備される場合であっても、直線経路aの左側に屈曲経路bが形成されるものに限らず、直線経路aの右側に屈曲経路bが形成されるものであってもよい。その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0048】
〔別実施形態の4〕
上記の実施形態では、操作レバー4の操作経路中での操作位置を、操作ワイヤ57及び操作ワイヤ64を用いてデフ装置30のデフロック操作機構、及びPTOクラッチ31のPTOクラッチ操作機構に対して機械的に伝達するように構成したものを示したが、これに限らず、例えば、操作レバー4の操作経路中での操作位置を、スイッチやポテンショメータなどで電気的に検出し、デフ装置30のデフロック操作機構やPTOクラッチ31のPTOクラッチ操作機構を、電動モータで駆動される機構やソレノイドバルブで制御される油圧機器で構成して、電気的に制御するように構成したものであってもよい。その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明における作業機の操作装置としては、歩行型耕耘機に限らず、乗用型の耕耘作業機や水田作業機など、デフ装置とPTOクラッチとを備える作業機であれば各種の作業機に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
2 作業装置(ロータリー耕耘装置)
4 操作レバー
11 エンジン
13 走行装置(走行車輪)
19a 抵抗手段(抵抗突起)
30 デフ装置
31 PTOクラッチ
44 抵抗手段(コイルスプリング)
a 直線経路
b 屈曲経路
b1 横移動経路部分
s1 非作業走行位置
s2 デフロック非作業位置
s3 作業位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン側からの伝達動力を走行装置側に伝達する走行系伝動機構と、作業装置側に伝達する作業系伝動機構とを備えた作業機の操作装置であって、
前記走行系伝動機構にデフ装置を備えるとともに、前記作業系伝動機構に作業装置側への動力伝達を断続するPTOクラッチを備え、
前記デフ装置とPTOクラッチとに連係する単一の操作レバーを、デフロック状態でPTOクラッチを入り操作する作業位置と、デフロック解除状態でPTOクラッチを切り操作する非作業走行位置と、デフロック状態でPTOクラッチを切り操作するデフロック非作業位置とに切換操作可能に構成してあることを特徴とする作業機の操作装置。
【請求項2】
前記デフロック非作業位置は、前記操作レバーの操作経路中で、前記作業位置と前記非作業走行位置との中間に設定されている請求項1記載の作業機の操作装置。
【請求項3】
前記操作レバーの操作経路は、前記非作業走行位置と前記デフロック非作業位置との間では直線経路に形成され、前記デフロック非作業位置から前記作業位置への操作経路は、前記デフロック非作業位置から横側方へ向かう横移動経路部分を経て前記作業位置へ至る屈曲経路によって形成されている請求項2記載の作業機の操作装置。
【請求項4】
前記PTOクラッチはクラッチ入り側にバネ付勢して設けてあり、前記操作レバーは、前記PTOクラッチのクラッチ入り側への付勢力で前記非作業走行位置側から前記作業位置側へ付勢され、かつ前記操作レバーには、前記直線経路側から前記屈曲経路側への移動に対して抵抗を与える抵抗手段が設けられている請求項3記載の作業機の操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−200154(P2012−200154A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64763(P2011−64763)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】