説明

作業機械のエンジンルームの整流板及び作業機械のエンジンルーム構造

【課題】作業機械のエンジンルームの整流板及び作業機械のエンジンルーム構造に関し、簡素な構成で、エンジンルーム内における冷却風の流通性を確保しつつエンジンルーム内の騒音を低減させる。
【解決手段】
ガラス繊維を綿状に形成したグラスウールからなる吸音素材1に対してFRP樹脂板2を貼り付け、それらの外周を表皮材3で被覆する。
吸音素材1,FRP樹脂板2及び表皮材3を接着剤により接着することが好ましく、さらに、固定部材4を用いて機械的に固定することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械のエンジンルーム内における風の流れを調整するための整流板及びその整流板を備えた作業機械のエンジンルーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業機械のエンジンルームで発生する騒音を低減させることを目的として、エンジンルーム内に吸音材や吸音装置を貼り付けたものが知られている。例えば、特許文献1には、内部に空洞の共鳴室が形成された吸音体をエンジンルームの内壁の各所に設け、その表面に吸音材を貼付した騒音低減装置が開示されている。この技術では、低減したい音の周波数に合わせて共鳴室の共鳴周波数を設定することで、吸音材による吸音効果に加えて、騒音の特定周波数成分を効果的に消音することができるとされている。
【0003】
また、主要な騒音源であるエンジンの周囲に音を遮蔽するものを配置することによってエンジンルーム外への騒音の漏出を抑制する技術も知られている。例えば、特許文献2には、エンジンフードの下部にプレートを水平に設けたダブルデッキ構造のエンジンルームが記載されている。この技術では、エンジンの上部をエンジンフード及びプレートで二重に覆うことにより、エンジンルームから垂直方向への騒音の伝播を抑制している。また、エンジンフードとプレートとの間に冷却風の風路を形成することで、エンジンルーム内の冷却性をも確保できるとされている。
【特許文献1】特開2000−192506号公報
【特許文献2】特開2005−016321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の技術では吸音体自体の構造が複雑であり、コストを低減させることができない。また、共鳴室の分だけ吸音体の厚みが大きくなるため、エンジンルーム内が狭くなり、冷却風の流通性を阻害するおそれもある。一方、上述の特許文献2の技術では冷却風の流通性を確保しつつ遮音性能を高めることができるものの、板金構造物による重量の増大が避けられず、コストも割高である。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、簡素な構成で、エンジンルーム内における冷却風の流通性を確保しつつエンジンルーム内の騒音を低減させることができるようにした作業機械のエンジンルームの整流板及び作業機械のエンジンルーム構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1記載の本発明の作業機械のエンジンルームの整流板は、ガラス繊維を綿状に形成したグラスウールからなる吸音素材と、該吸音素材に対して貼付されたFRP樹脂板と、少なくとも該吸音素材の外周を被覆する表皮材とを備えたことを特徴としている。
該FRP樹脂板としては、例えばポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂をガラス繊維で補強したFRPを厚さ1.5[mm]程度に形成したものを用いることが考えられる。少なくとも、エンジンルーム内で要求される耐熱性及び冷却風の風圧に対する剛性を備えた樹脂板であればよい。なお、ガラス繊維で強化されたGFRPだけでなく、炭素繊維やアラミド繊維で強化されたプラスチックを用いてもよい。
【0007】
また、該表皮材としては、アラミド繊維やイミド繊維といった不燃繊維のシートを用いることが考えられる。あるいは、ガラス繊維,炭素繊維等の無機繊維の不織布や、ポリエステル繊維,ポリプロピレン繊維,ポリアミド系合成繊維等の有機繊維の不織布を用いることが考えられる。
また、請求項2記載の本発明の作業機械のエンジンルームの整流板は、請求項1記載の構成に加えて、該吸音素材,該FRP樹脂板及び該表皮材間に介在してそれらを互いに糊着する接着剤をさらに備え、該接着剤が該吸音素材の板面の全体にわたって塗布されていることを特徴としている。
【0008】
また、請求項3記載の本発明の作業機械のエンジンルームの整流板は、請求項2記載の構成に加えて、該接着剤が、クロロプレンゴムを主成分とする低粘度接着剤であって、その固形分濃度が20[%]以下であることを特徴としている。
なお、より好ましくは、該固形分濃度を18〜20[%]とする。
また、請求項4記載の本発明の作業機械のエンジンルームの整流板は、請求項2又は3記載の構成に加えて、該接着剤の180°剥離接着強さが、接着から24時間後において少なくとも120.0[N/25mm]であることを特徴としている。
【0009】
また、請求項5記載の本発明の作業機械のエンジンルームの整流板は、請求項1〜4の何れか1項に記載の構成に加えて、該吸音素材が、96[kg/m3]以上の密度に形成されていることを特徴としている。
また、請求項6記載の本発明の作業機械のエンジンルームの整流板は、請求項1〜5の何れか1項に記載の構成に加えて、該吸音素材に対して該FRP樹脂板を固定する固定部材をさらに備えたことを特徴としている。
【0010】
請求項7記載の本発明の作業機械のエンジンルーム構造は、エンジン,クーリングパッケージ及び冷却ファンを収容する作業機械のエンジンルーム構造であって、該エンジンの上部又は下部において天井面又は底面に対して間隔を空けて固定され、該天井面又は該底面との間に冷却風の流路を形成する整流板を備え、該整流板が、ガラス繊維集合体のグラスウールからなる吸音素材と、該吸音素材に対して貼付されたFRP樹脂板と、少なくとも該吸音素材の外周を被覆する表皮材とを有し、該冷却ファンが、該クーリングパッケージを介して吸入した該冷却風を遠心方向に吐出するとともに該流路へと導入する位置に配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の作業機械のエンジンルームの整流板(請求項1)によれば、吸音素材にFRP樹脂板を貼付することにより、整流板の形態保持性を高めることができる。したがって、エンジンルーム内に本整流板を所望の風の流れに沿って配置して、エンジンルーム内の空気の流れを調整することができる。
また、金属製の整流板を用いた場合と比較して軽量化が容易であり、コストを低減させることができ、かつ、遮音性能及び吸音性能を著しく向上させることができる。
【0012】
また、本発明の作業機械のエンジンルームの整流板(請求項2)によれば、吸音素材の板面の全体にわたって接着剤が塗布されるため、表皮材の繊維の目における粗密の発生を確実に防止することができる。これにより、より効果的に音響透過率の低下を防止することができる。また、吸音素材とFRP樹脂板とを確実に付着させて剥がれにくくすることができる。
【0013】
また、本発明の作業機械のエンジンルームの整流板(請求項3)によれば、接着剤の粘度を低くすることにより、表皮材の繊維の目を塞ぐことなく接着層を形成することができ、表皮材における音響透過率を上昇させつつ、その低下を効果的に防止することができる。
また、本発明の作業機械のエンジンルームの整流板(請求項4)によれば、接着剤の強度を確保することにより、表皮材の繊維の目の乱れを効果的に防止することができる。これにより、表皮材における音響透過率の低下を防止することができる。
【0014】
また、本発明の作業機械のエンジンルームの整流板(請求項5)によれば、エンジンルーム内における空気流の風圧に十分耐える強度を保ちつつ、良好な吸音性能を確保することができる。
また、本発明の作業機械のエンジンルームの整流板(請求項6)によれば、固定部材を用いることにより、吸音素材に対するFRP樹脂板の引き剥がし強度を補完することができる。
【0015】
また、本発明の作業機械のエンジンルーム構造(請求項7)によれば、整流板の上面(すなわち、天井面側の面)を冷却風の流路として機能させつつ、整流板の下面(すなわち、エンジン側の面)に吸音・遮音機能を担わせることができ、エンジンルームの冷却性を確保しながら遮音性及び吸音性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図3は、本発明の一実施形態に係る作業機械のエンジンルームの整流板及び作業機械のエンジンルーム構造を説明するためのものであり、図1は本整流板が設けられた作業機械のエンジンルームの構成を示す側断面図、図2は本整流板の断面構造を模式的に示す断面図、図3は本発明の一実施形態に係る作業機械のエンジンルームの整流板における吸音素材の密度と引張強度との関係を示すグラフである。
【0017】
[構成]
本発明に係る整流板は、図1に示す油圧ショベル(作業機械)のエンジンルーム20に適用されている。エンジンルーム20は、天井面14a,床面14b及び側面14cを化粧鋼板で囲まれた箱状の空間である。天井面14a,床面14b及び側面14cの各所には、エンジンルーム20内のエアフローを確保するための開口部や内部メンテナンス用の開口部等が形成されている。なお図1中では、主に冷却風の給排気口となる開口部を記載し、他の開口部や扉を省略している。
【0018】
エンジンルーム20の内部には、油圧ショベルの駆動源であるエンジン15をはじめとして、排気マフラー16,油圧ポンプ17,冷却ファン18及びクーリングパッケージ19が設けられている。エンジン15はエンジンルーム20の略中央に配置されており、その上部には排気マフラー16が連設されている。排気マフラー16は、エンジン15の排気音を低減させるとともに排気ガスを浄化する機能を持っている。排気マフラー16の排気筒は、エンジンルーム20の天井面14aを貫通して機体上方まで延設されている。なお、油圧ショベルのエンジンルーム20の騒音の多くは、エンジン15及び排気マフラー16から発せられる。
【0019】
油圧ポンプ17は、エンジン15によって駆動される作動油ポンプであり、油圧ショベルに装備された履帯装置やフロント装置(ブーム,アーム,バケット等)といった各種油圧装置へ作動油を供給するものである。図1に示すように、油圧ポンプ17はエンジン15に隣接して設けられている。
エンジン15を挟んで油圧ポンプ17と反対側の側方(図1中の左側)には冷却ファン18及びクーリングパッケージ(熱交換器)19が配置されている。冷却ファン18は、外気を冷却風としてエンジンルーム20内へ取り込む吸い込み式の軸流ファンである。エンジン15はこの冷却ファン18よりも冷却風の下流側に配置され、一方、クーリングパッケージ19は冷却ファン18よりも上流側に配置されている。
【0020】
クーリングパッケージ19は、ラジエータやオイルクーラ,インタクーラ等の複数の熱交換器が重合された冷却装置である。そのコア(中央部)には多数の放熱フィンが形成されており、冷却風をコアに流通させてエンジン冷却水や作動油が冷却されている。
図1中に黒矢印で示すように、冷却ファン18は、クーリングパッケージ19を介して機体側方又は機体上方から外気を吸い込み、エンジン15側へと流通させている。また、下流側の風の流れが冷却ファン18の旋回外側方向(遠心方向)へ配向されるように、冷却ファン18の送風配向特性が設定されている。つまり、冷却ファン18から吐出された冷却風は、エンジン15の周り(上方,下方,あるいは左右側方)を流通するようになっている。
【0021】
エンジン15の上部には、天井面14aに対して間隔を空けて、平板状の天井面整流板5aが固定されている。この天井面整流板5aは、エンジン15の上面全体を覆うように略水平に延設されており、天井面14aとの間に冷却風の流路を形成している。このようなダブルデッキ構造により、エンジン15の上部では冷却ファン18の下流の冷却風が整流されて、淀みなく流れるようになっている。また、エンジン15の下部にも同様に、床面14bに対して間隔を空けて、床面整流板5bが固定されている。床面整流板5bは、床面14bとの間に冷却風の流路を形成している。なお、排気マフラー16の周辺から冷却風の下流側の位置には、エンジンルーム20の外形や排気マフラー16の周辺に配置された各種装置の形状に合わせて配置されたマフラー整流板5cが固定されている。以下、これらの天井面整流板5a,床面整流板5b及びマフラー整流板5cを総称して、単に整流板5とも呼ぶ。
【0022】
図2に示すように、本整流板5は任意の固定手段(ダブルナット,スタッドピン等)を用いてエンジンルーム20の内側の空中に固定されている。以下、吸音素材5の外周面のうち、機体外面側を裏面6cと呼び、その機体内面側を表面6aと呼ぶ。また、吸音素材6の側面に符号6bを付して説明する。
【0023】
[整流板の構成]
本整流板5は、図2に示すような断面構造となっており、内側の吸音素材1と、吸音素材1に接着剤で貼り付けられたFRP樹脂板2と、それらの外周を被覆する表皮材3と、FRP樹脂板2を吸音素材1に対して固定するネジ(固定部材)4とを備えて構成されている。
【0024】
吸音素材1は、繊維状の多孔質吸音材であって、ガラス繊維を綿状に形成したグラスウールである。例えば市販のグラスウール吸音材を吸音素材1として用いてもよい。本整流板3では、吸音素材1に吸音性能だけでなくエンジンルーム13内の冷却風の整流機能を付与するために、96[kg/m3]の高密度に圧縮形成されたグラスウール吸音材が用いられている。
【0025】
吸音素材1の密度とその強度との関係を図3にグラフとして示す。ここでは、繊維の直径が0.0048〜0.0067[mm]であって、結合材(フェノール樹脂)の分量が12〜16[%](重量%)のグラスウールを用いた試験結果が示されている。なお、強度の測定にあたっては、吸音素材1のサンプルをドーナツ形状とし、その内径を57[mm]、断面を25.4[mm]×25.4[mm]とした。このようなサンプルの内孔壁面に治具を当接させて引張荷重を与え、破壊時の荷重を測定した。
【0026】
この図3に示すように、吸音素材1の密度が高くなるほど、材料強度は高まる。特に、密度が90[kg/m3]付近を超えると強度の伸びが大きくなり、96[kg/m3]以上程度とすることで極めて良好な形状保持性が得られることが確認できる。なお、密度の上昇とともに吸音素材1の表面における音の反射率も上昇し、例えば密度120[kg/m3]を超えてグラスウールを圧縮成形すると、吸音性能が低下する傾向にある。そのため過度に密度を高めすぎないことが肝要であり、本発明者の研究によれば、密度96[kg/m3]以上、より好ましくは密度96〜120[kg/m3]とするのが良いことが明らかとなった。吸音素材1の密度を96〜120[kg/m3]とすることで、エンジンルーム20内を流通する冷却風の風圧に対する形状保持性と良好な吸音性能とを兼ね備えた整流板3を得ることができる。
【0027】
FRP樹脂板2は、吸音素材1の形状保持性能を補強するために吸音素材1に対して接着された部材であり、例えばポリエステル樹脂やビニルエステル樹脂をガラス繊維で補強したFRP(Fiber Reinforced Plastics)を厚さ1.5[mm]程度の板状に形成したものを用いることが考えられる。少なくとも、エンジンルーム20内で要求される耐熱性及び冷却風の風圧に対する剛性を備えた樹脂板であればよい。なお、ガラス繊維で強化されたGFRPだけでなく、炭素繊維やアラミド繊維で強化されたプラスチックを用いてもよい。このFRP樹脂板2は、図2に示すように、吸音素材1の裏面1cに対して接着層6を介して貼り付けられている。
【0028】
表皮材3は、複数のガラス繊維の束を網目状に編み上げて布状に形成したガラスクロスを基材として構成されている。表皮材3は音響透過性を有しており、表皮材3の表面に伝達された空気振動(音)が内部の吸音素材1へ伝達されるようになっている。また、表皮材3は、FRP樹脂板2と同様に接着層6を介して、吸音素材1の表面1a及び側面1b、そして樹脂板2の四方を額縁状に覆うように貼り付けられている。これにより、図5に示すように、裏面1cの中央にはFRP樹脂板2が露出している。
【0029】
接着層6は、吸音素材1とFRP樹脂板2と表皮材3とを接着する接着剤からなる層である。図2に示すように、吸音素材1の板面の表裏全面及び表皮材3の内側全面に接着剤が糊着されて、吸音素材1,FRP樹脂板2及び表皮材3が一体に形成されている。
接着層6を形成する接着剤としては、アクリル樹脂系接着剤,ウレタン樹脂系接着剤,エポキシ樹脂系接着剤,塩化ビニル樹脂溶剤系接着剤,クロロプレンゴム系接着剤,シアノアクリレート系接着剤,シリコーン系接着剤,スチレン−ブタジエンゴム系ラテックス接着剤,フェノール樹脂系接着剤,変成シリコーン系接着剤,レゾルシノール系接着剤等の接着剤を用いることが考えられる。なお、作業機械のエンジンルーム20内に配置されるため、耐熱性や耐候性等を考慮して接着剤の材料を選定することが好ましい。
【0030】
本実施形態では、接着層6を形成する接着剤として、クロロプレンゴム系接着剤が用いられている。具体的には、主成分がクロロプレンゴム及びフェノール樹脂(アルキルフェノール樹脂及びテルペンフェノール樹脂)であり、主溶剤がトルエン及びアセトンからなる低粘度溶液である。なお、固形分濃度(不揮発分)は18〜20[%]とした。
なお、接着層6は、単に吸音素材1とFRP樹脂板2間、吸音素材1と表皮材3間、あるいは、FRP樹脂板2と表皮材3間を接着する機能だけでなく、表皮材3における繊維の粗密の発生を抑制するようにも機能する。つまり、接着剤によって表皮材3を構成するガラスヤーンの乱れが抑制されるため、表皮材の表面において音の透過性能に偏りが生じにくくなり、音響透過率の低下が抑制されて吸音性能が確保されるようになっている。このように、接着層6は、表皮材3の表面の摩擦堅牢度を向上させてガラスヤーンの編み目の空隙の分布を均一な状態に保たせる機能も有している。
【0031】
ネジ4は、図2に示すように、表皮材3の表面からFRP樹脂板2を吸音素材1に対して締結されている。このように接着層6の接着剤だけでなく、ネジ4を用いて機械的にFRP樹脂板2を固定することにより、エンジンルーム20内の高熱,高風圧に対する耐久性を高めている。
【0032】
[接着剤強度]
本発明者は、接着層6を形成する接着剤として、JIS K 6854:1999に規定された接着剤剥離接着強さ試験方法において、180°剥離接着強さを120.0[N/25mm]以上有するものを用いた整流板5が、良好な吸音性能を有することを確認した。すなわち、接着層5の接着性を高めることにより、表皮材3の表面の摩擦堅牢度の低下が抑制される。したがって、音の透過率の分布に偏りが生じにくくなり、良好な吸音特性を得ることができる。また、十分な摩擦堅牢度を長期間保持することができ、吸音素材1の吸音性能を長期間維持することができる。
【0033】
以下の表1に180°剥離接着強さの試験結果を示す。この試験で用いられた試験片の幅は25[mm]であり、ショッパー型引張り試験機を用いて試験を行った。試験片は綿布/綿布とし、接着後1時間経過したものと24時間経過したものとを用いた。
【0034】
【表1】

【0035】
[効果]
このように、本整流板3によれば、吸音素材1にFRP樹脂板2を貼付することにより、整流板5の形態保持性を高めることができる。したがって、エンジンルーム20内に本整流板5を所望の風の流れに沿って配置して、エンジンルーム20内の空気の流れを調整することができる。
【0036】
例えば、図1に示すように、天井面整流板5aでは、その上面(すなわち、天井面14a側の面)が冷却風の流路として機能しており、その下面(すなわち、エンジン15側の面)が吸音・遮音機能を担っている。このように、吸音性と形状保持性とを兼ね備えた本整流板5でダブルデッキ構造を形成することによって、エンジンルーム20内の冷却性能を高めつつ騒音を低減させることができる。
【0037】
また、本整流板5によれば、金属製の整流板を用いた場合と比較して軽量化が容易であり、かつ、遮音性能及び吸音性能を著しく向上させることができる。なお、吸音素材1の密度を高めることで、吸音率が増大し、かつ、音響透過損失も増大する。そのため、エンジン15や排気マフラー16から発せられる騒音の低減効果及び遮蔽効果を高めることができる。特に、本実施形態ではエンジン15の上面及び下面を覆うように天井面整流板3a及び床面整流板3bが略水平に延設されているため、油圧ショベルから鉛直方向へ発せられる騒音を効果的に抑制することができる。
【0038】
また、吸音素材1の板面の全面に渡って接着剤を糊着することによって、単に吸音素材1とFRP樹脂板2とを確実に付着させて剥がれにくくすることができるだけでなく、表皮材3の表面における音の透過性能に偏りを生じにくくすることができる。したがって、音響透過率の低下を防止することができ、良好な吸音性能を確保することができる。また、吸音素材1の板面の全体にわたって接着層6が形成されるため、表皮材3の繊維の目に粗密が発生することを確実に防止することができる。
【0039】
また、接着剤の固形分濃度を20[%]以下という低濃度に設定しているため、表皮材3の繊維の目を塞ぐことなく接着層6を形成することができ、表皮材3における音響透過率を確保しつつ、その低下を効果的に防止することができる。さらに、接着剤の剥離接着強さを確保することにより、表皮材3の繊維の目の乱れを効果的に防止することができ、表皮材3における音響透過率の低下を防止することができる。
【0040】
また、吸音素材1の密度を96[kg/m3]以上とすることにより、エンジンルーム20内における空気流の風圧に十分耐える強度を保ちつつ、良好な吸音性能を確保することができる。
さらに、本実施形態の整流板5では、吸音素材1とFRP樹脂板2との固定に際し、ネジ4を用いて機械的に堅固に固定しているため、接着剤によるFRP樹脂板2の引き剥がし強度を補完することができる。
【0041】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
例えば、上述の実施形態では本発明に係る整流板5が平板状に形成されているが、予め曲成された吸音素材とFRP樹脂板2を用いて曲面形状に形成することも考えられる。整流板5の板面形状を、図1中に黒矢印で示されるようなエンジンルーム20内の冷却風の流れに沿った曲面形状にすることにより、冷却風の流通抵抗を小さくすることができ、油圧ショベルの冷却性能を向上させることが可能となる。なお、冷却風の流れを整える機能を有する形状であれば、板形状ではなく、立体的な形状とすることも無論考えられる。
【0042】
また、上述の実施形態では固定部材としてネジ4を用いたものが例示されているが、リベットやボルト,ナット等の締結部材を用いて吸音素材1とFRP樹脂板2とを固定してもよい。あるいは、接着剤の接着強度が充分である場合には、固定部材を使用しなくてもよい。
また、上述の実施形態では、本発明に係る整流板3を油圧ショベルのエンジンルーム20に適用したものを例示したが、本発明の適用対象はこれに限定されず、ブルドーザやホイールローダ,油圧式クレーン等、様々な作業機械のエンジンルームに適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係る作業機械のエンジンルームの構成を示す側断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る作業機械のエンジンルームの整流板の断面構造を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る作業機械のエンジンルームの整流板における吸音素材の密度と引張強度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1 吸音素材
2 FRP樹脂板
3 表皮材
4 リベット(固定部材)
5 整流板
5a 天井面整流板
5b 床面整流板
5c マフラー整流板
6 接着層
14a 天井面
14b 床面
15 エンジン
16 排気マフラー
17 油圧ポンプ
18 冷却ファン
19 クーリングパッケージ
20 エンジンルーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維を綿状に形成したグラスウールからなる吸音素材と、
該吸音素材に対して貼付されたFRP樹脂板と、
少なくとも該吸音素材の外周を被覆する表皮材とを備えた
ことを特徴とする、作業機械のエンジンルームの整流板。
【請求項2】
該吸音素材,該FRP樹脂板及び該表皮材間に介在してそれらを互いに糊着する接着剤をさらに備え、
該接着剤が該吸音素材の板面の全体にわたって塗布されている
ことを特徴とする、請求項1記載の作業機械のエンジンルームの整流板。
【請求項3】
該接着剤が、クロロプレンゴムを主成分とする低粘度接着剤であって、その固形分濃度が20[%]以下である
ことを特徴とする、請求項2記載の作業機械のエンジンルームの整流板。
【請求項4】
該接着剤の180°剥離接着強さが、接着から24時間後において少なくとも120.0[N/25mm]である
ことを特徴とする、請求項2又は3記載の作業機械のエンジンルームの整流板。
【請求項5】
該吸音素材が、96[kg/m3]以上の密度に形成されている
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の作業機械のエンジンルームの整流板。
【請求項6】
該吸音素材に対して該FRP樹脂板を固定する固定部材をさらに備えた
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の作業機械のエンジンルームの整流板。
【請求項7】
エンジン,クーリングパッケージ及び冷却ファンを収容する作業機械のエンジンルーム構造であって、
該エンジンの上部又は下部において天井面又は底面に対して間隔を空けて固定され、該天井面又は該底面との間に冷却風の流路を形成する整流板を備え、
該整流板が、ガラス繊維集合体のグラスウールからなる吸音素材と、該吸音素材に対して貼付されたFRP樹脂板と、少なくとも該吸音素材の外周を被覆する表皮材とを有し、
該冷却ファンが、該クーリングパッケージを介して吸入した該冷却風を遠心方向に吐出するとともに該流路へと導入する位置に配置されている
ことを特徴とする、作業機械のエンジンルーム構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−58592(P2010−58592A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224766(P2008−224766)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000190297)キャタピラージャパン株式会社 (1,189)
【Fターム(参考)】