説明

作業用車両のエンジン制御装置

【課題】アイドルトルクが小さいエンジンであってもエンストしにくいエンジンの回転数制御装置を提供する。
【解決手段】油圧ポンプからコントロールバルブを介して供給される駆動油圧によりリフトシリンダを駆動するフォークリフトにおいて、車体の走行速度を検出する車速センサ15と、リフトシリンダに供給される駆動油圧を検出する圧力スイッチ26と、エンジンEの回転数を制御するエンジンコントローラ21と、エンジンコントローラ21に設けられて車速センサ15により車体1が停止状態が検出され、かつ圧力スイッチ26によりリフトシリンダの駆動油圧が所定値以上となった時に、エンジンEの回転数を設定量増加させるアイドルアップ制御部21aとを具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業装置を備えたフォークリフトなどの作業用車両において、エンジンの回転数を制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1には、作業待ち時に、エンジンの回転数を自動的に低下させるエンジン回転数制御装置が提案されている。
【特許文献1】特開平7−158474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年のエンジン駆動式の作業用車両では、エンジンの排ガス対策が進められており、排ガス対策が施されたエンジンには、アイドルトルク(低速トルク)が小さいものがある。このため、作業用車両では、アイドリング時や低速走行時に作業装置や走行装置などによりエンジンに負荷がかかると、エンストしやすいという問題があった。
【0004】
本発明は上記問題点を解決して、アイドルトルクが小さいエンジンであっても、エンストしにくい作業用車両のエンジン制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、油圧ポンプからコントロールバルブを介して作業装置の駆動部に送られる駆動油圧により、作業装置を駆動する作業用車両のエンジン制御装置であって、車体の走行速度を検出する車速センサと、油圧ポンプからコントロールバルブを介して作業装置に供給される駆動油圧を検出する圧力検出器と、エンジンの回転数を制御するエンジンコントローラとを具備し前記エンジンコントローラに、前記車速センサにより車体が停止状態であるのが検出され、かつ圧力検出器により作業装置への駆動油圧が所定値以上となると、エンジンの回転数を設定量増加させるアイドルアップ制御部を設けたものである。
【0006】
請求項2記載の発明は、徐行前進および徐行後進を行うインチングスイッチを具備し、アイドルアップ制御部は、インチングスイッチの入力信号に基づいてエンジンの回転数を設定量増加させるように構成されたものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明によれば、アイドルアップ制御部により、油圧ポンプからコントロールバルブを介して作業装置に供給される駆動油圧に基づいて、エンジンの回転数を設定量増加させることができるので、アイドリング時に作業装置によりエンジンに負荷がかかった時に、エンストするのを防止することができる。またアイドルアップ制御部では、駆動油圧に基づくエンジンの回転数増加を、停止状態でのみ行うので、走行中に急に加速されるようなことがない。
【0008】
請求項2記載の発明によれば、アイドルアップ制御部により、インチングスイッチの入力信号に基づいて、エンジンの回転数を設定量増加させるので、インチング操作によりエンジンに負荷がかかった時に、エンジンが停止するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[実施の形態1]
作業用車両であるフォークリフトのエンジンの回転数制御装置を、図面を参照して説明する。
【0010】
図5に示すように、車体1の後部に左右一対の駆動用の後輪2が配置されるとともに、車体1の前部に、運転席3のステアリングホイール4により操作される左右一対の換向用の前輪5が配置されている。そして車体1の前面に、荷役用フォーク6により荷役を行う作業装置であるリフト装置7が配置されている。このリフト装置7は、門形状で上方に伸縮自在なマスト部材8と、このマスト部材8に昇降自在に案内され荷役用フォーク6が取り付けられたキャリッジ9と、マスト部材8を伸縮駆動する左右一対のリフトシリンダ(駆動部)10と、前記リフトシリンダ10により伸縮されるマスト部材8とキャリッジ9との間に介在されたチェーンとスプロケットとにより荷役用フォーク6を昇降駆動する巻き掛け倍速機構11と、マスト部材8を介して荷役用フォーク6を傾動させる左右一対のチルトシリンダ12とを具備している。
【0011】
車体1には、エンジンコントローラ21により制御されるエンジンEが搭載されており、このエンジンEの動力はトランスミッションTMを介して油圧ポンプPおよび後輪2にそれぞれ伝達される。運転席3には、ミッションコントローラ22を介してトランスミッションTMを操作する変速レバー13と、トランスミッションTMに組み込まれたインチング制御部14b(図示せず)を操作するインチングペダル14とが設けられている。このインチングペダル14は、エンジンEの回転数がまだ高い時に、半クラッチ状態と同様に車体1を徐行して少しずつ前進または後進させたり、またショックを小さくして車体1を発進させる運転操作に使用するもので、インチングペダル14により操作されるインチングスイッチ14aの出力信号は、トランスミッションTMのインチング装置とエンジンコントローラ21とにそれぞれ出力されている。なお、このインチングペダル14を操作してインチングスイッチ14aをオンにすると、エンジンEの回転数に対する負荷が増大する。
【0012】
前記リフトシリンダ10およびチルトシリンダ12に駆動油圧を供給してリフト装置7を駆動する作業用油圧装置23は、図4に示すように、エンジンEにより回転駆動される油圧ポンプPにより、オイルタンクTの油を油圧供給管24Aからコントロールバルブ25に供給し、コントロールバルブ25からリフト用供給管24Bを介してリフトシリンダ10の伸展油室(テール油室)にリフト用(作業用)の駆動圧油を供給する。またコントロールバルブ25からチルト用給排管24Cを介してチルトシリンダ12の2つの油室にチルト用の駆動圧油をそれぞれ供給・排出する。さらにリフトシリンダ10から排出される圧油を油圧排出管24Dを介してオイルタンクTに排出し、またリフトシリンダ12の収縮油室(ロッド油室)からコントロールバルブ25を介して排出される圧油を油圧排出管24Eを介してオイルタンクTに排出するように構成されている。
【0013】
このコントロールバルブ25には、油圧ポンプPからリフトシリンダ10に供給されるリフト用の駆動油圧が吐出されるポートに、設定圧たとえば1.372×10PA(140kg/cm)でオンされる圧力スイッチ(圧力検出器)26が取り付けられている。
【0014】
図2および図5に示すように、トランスミッションTMには、ミッションコントローラ22から操作信号が入力されて後輪2への変速比や回転方向が操作される。さらにトランスミッションTMには、車体1の走行速度を検出する速度センサ15が設けられ、速度センサ15の出力信号がミッションコントローラ22に入力されている。
【0015】
図1および図2に示すように、エンジンコントローラ21には、エンジンEに制御信号を出力するエンジン制御ライン32が設けられており、さらに本発明に係るアイドルアップ制御部21aが設けられている。
【0016】
電源ライン30から電源入力ライン30A〜30Cを介してインチングスイッチ14aとミッションコントローラ22とエンジンコントローラ21にそれぞれ電源電圧(24V)が給電されている。
【0017】
そしてインチングスイッチ14aからアイドルアップ制御部21aにインチング出力ライン33が接続され、インチングスイッチ14aがオンされると、インチング出力ライン33からトランスミッションTMのインチング制御部14bとアイドルアップ制御部21aとにインチングオン信号(24V)が出力される。アイドルアップ制御部21aでは、このインチングオン信号により、エンジンEの回転数を一定量、たとえば300r.p.mだけ増加させるアイドルアップ信号を、エンジン制御ライン32を介してエンジンEに出力する。
【0018】
ミッションコントローラ22から圧力スイッチ26に電源電圧(24V)を出力する電源電圧出力ライン31Aが接続され、また速度センサ15からインチング出力ライン33を介してアイドルアップ制御部21aに駆動圧信号を出力する駆動圧出力ライン33Bが接続されている。この駆動圧信号は、速度センサ15により走行速度が1km/h未満で車体1が停止状態であると検出された時に、コントロールバルブ25の駆動油圧が設定圧以上になると、圧力スイッチ26がオンされてアイドルアップ制御部21aに出力されるもので、この駆動圧信号がアイドルアップ制御部21aに入力されると、アイドルアップ制御部21aからアイドルアップ信号がエンジン制御ライン32を介してエンジンEに出力され、エンジンEの回転数を一定量、たとえば300r.p.mだけ増加させる。
【0019】
なお、アイドルアップ制御部21aでは、インチングオン信号と駆動圧信号とが同一の電圧で出力されることから、インチングオン信号の出力時でかつ停止時に駆動圧信号が出力されても、アイドルアップ信号が変化されることはない。またインチング出力ライン33に介在されたダイオード33aにより、駆動圧信号がインチング制御部14bに流れることもない。
【0020】
次に、図3を参照して、このエンジンEの制御装置の動作を説明する。
運転中にインチングペダル14が操作されてインチングスイッチ14aがオンされる(STEP1)と、インチング出力ライン33からインチングオン信号がアイドルアップ制御部21aに入力され、アイドルアップ制御部21aからエンジンEにアイドルアップ信号が出力されてエンジンEの回転数が300r.p.mだけ増加される(STEP4)。
【0021】
さらにインチングスイッチ14aがオフの状態で、走行速度が1km/h以上の走行状態であれば(STEP2)、エンジンEは通常運転状態に維持される(STEP5)。
またインチングスイッチ14aがオフの状態(STEP1)で、かつ走行速度が1km/h未満の車体1の停止状態(STEP2)で、圧力スイッチ26によりリフトシリンダ10の駆動油圧が設定圧を越えるのが検出される(STEP3)と、圧力スイッチ26から駆動圧信号が駆動圧出力ライン31Bを介してアイドルアップ制御部21aに入力され、アイドルアップ制御部21aからエンジンEにアイドルアップ信号が出力されてエンジンEの回転数が300r.p.mだけ増加される(STEP5)。
【0022】
上記実施の形態によれば、車体1の停止状態で、油圧ポンプPからコントロールバルブ25を介してリフトシリンダ10に供給される駆動油圧が設定量を超えたことが圧力スイッチ26に検出されると、圧力スイッチ26から駆動圧信号がアイドルアップ制御部21aに出力され、アイドルアップ制御部21aでは、駆動圧信号に基づいてエンジンEにアイドルアップ信号を出力し回転数を設定量だけ増加させるので、作業時にリフト装置7によりエンジンEに負荷がかかっても、エンストするのを未然に防止することができる。また車体1の停止状態でのみアイドルアップ信号が出力されるので、走行中に車体1が急加速されるようなこともない。
【0023】
さらにアイドルアップ制御部21aにより、インチングスイッチ14aの操作によるインチングオン信号に基づいてエンジンEの回転数を設定量だけ増加するので、インチング操作によりエンジンEに負荷がかかった時も、エンジンEが停止するのを防止することができる。
【0024】
なお、上記実施の形態1では、コントロールバルブ25のポートで、リフトシリンダ10に供給する駆動油圧が設定圧を超えたことを、圧力スイッチ26により検出して駆動圧信号をアイドルアップ制御部21aに出力するように構成したが、他に作業用アタッチメントなどの補助作業装置を取り付けた場合に、補助作業装置のシリンダに供給する駆動油圧を検出し、これに基づいてエンジンEの回転数を所定量増加させることもできる。
【0025】
またアイドルアップ信号によりエンジンEを一定の回転数だけ増加させるように構成したが、コントロールバルブ25のポートに、圧力スイッチ26に替えて駆動油圧を連続的に検出する圧力センサ(圧力検出器)を設け、アイドルアップ制御部21aでは、圧力センサにより検出された駆動油圧の検出値に応じてエンジンEの回転数を増減させるアイドルアップ信号を出力するように構成してもよい。
【0026】
さらにアイドルアップ制御部21aでは、インチングオン信号および駆動圧信号の入力時間だけ、アイドルアップ信号を出力するように構成したが、駆動圧信号を検出すると、エンジンEを一定時間および一定回転数だけ増加させるアイドルアップ信号を出力する、所謂、負荷先取り制御をするように構成することもできる。
【0027】
なお、上記実施の形態では、作業装置であるリフト装置7のリフトシリンダ10とチルトシリンダ12とを操作するコントロールバルブ25に圧力スイッチ26を設けたが、作業装置は、リフト装置7の他にオプションとして装着されるアタッチメントを含み、このアタッチメントの駆動シリンダのコントロールバルブに圧力スイッチを設けることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るエンジンの制御装置の実施の形態1を示す構成図である。
【図2】エンジンの制御装置を示す配線図である。
【図3】エンジンの制御装置を示す動作を示すフロー図である。
【図4】作業用油圧装置を示す配管図である。
【図5】フォークリフトの側面図である。
【符号の説明】
【0029】
E エンジン
TM トランスミッション
P 油圧ポンプ
1 車体
2 後輪
3 運転席
5 前輪
6 荷役用フォーク
7 リフト装置
10 リフトシリンダ
12 チルトシリンダ
14 インチングペダル
14a インチングスイッチ
14b インチング制御部
21 エンジンコントローラ
22 ミッションコントローラ
23 作業用油圧装置
25 コントロールバルブ
26 圧力スイッチ(圧力検出器)
31B 駆動圧出力ライン
32 エンジン制御ライン
33 インチング出力ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプからコントロールバルブを介して作業装置の駆動部に送られる駆動油圧により、作業装置を駆動する作業用車両のエンジン制御装置であって、
車体の走行速度を検出する車速センサと、油圧ポンプからコントロールバルブを介して作業装置に供給される駆動油圧を検出する圧力検出器と、エンジンの回転数を制御するエンジンコントローラとを具備し
前記エンジンコントローラに、前記車速センサにより車体が停止状態であるのが検出され、かつ圧力検出器により作業装置への駆動油圧が所定値以上となると、エンジンの回転数を設定量増加させるアイドルアップ制御部を設けた
ことを特徴とする作業用車両のエンジン制御装置。
【請求項2】
徐行前進および徐行後進を行うインチングスイッチを具備し、
アイドルアップ制御部は、インチングスイッチの入力信号に基づいてエンジンの回転数を設定量増加させるように構成された
ことを特徴とする請求項1記載の作業用車両のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−68351(P2009−68351A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234805(P2007−234805)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000003241)TCM株式会社 (319)
【Fターム(参考)】