説明

作業用車両の動力伝達装置

【課題】効率的にトルクを伝達し、クラッチ機構への油圧回路のシール構造を簡単な構成で実現する。
【解決手段】この動力伝達装置は、第1遊星歯車減速機26と、第2遊星歯車減速機27と、油圧クラッチ機構28と、を備えている。第1遊星歯車減速機26は、トルクが入力される第1太陽ギア30と、複数の第1遊星ギア31を支持する第1キャリア32と、ホイールに連結された第1リングギア33と、を有している。第2遊星歯車減速機27は、第1キャリア32に連結された第2太陽ギア35と、複数の第2遊星ギア36を支持し油圧クラッチ機構28に連結された第2キャリア37と、第1リングギア33及びホイールに連結された第2リングギア38と、を有している。油圧クラッチ機構28は第2キャリア37の回転を禁止あるいは許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置、特に、駆動源からのトルクをホイールに伝達するための作業用車両の動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータグレーダ等の作業用車両の駆動装置として、特許文献1及び2に記載された装置が提供されている。これらの装置は、油圧モータと、2段の遊星歯車減速機を含み油圧モータのトルクをホイールに伝達する動力伝達装置と、を備えている。
【0003】
特許文献1に示された駆動装置の模式図を図1に示す。図1における「CL」が回転軸である。この装置は、モータ1からのトルクは1段目の太陽ギア2に入力される。そして、1段目のキャリア3が2段目の太陽ギア4に連結され、1段目のリングギア5が2段目のキャリア6及びホイールに連結されている。また、2段目のリングギア7がクラッチ機構8を介して固定ハウジング9に連結されている。
【0004】
また、特許文献2に示された駆動装置の模式図を図2に示す。この装置は、モータ10からのトルクは1対の減速ギア11a,11bを介して1段目の太陽ギア12に入力される。そして、1段目のキャリア14が2段目の太陽ギア15に連結され、1段目のリングギア16が2段目のリングギア17に連結されている。また、両リングギア16,17はクラッチ機構18を介してホイールに連結されている。さらに、2段目のキャリア19は固定ハウジング20に連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許公報6,491,600
【特許文献2】特開平5−193373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の装置におけるトルク伝達経路を図1に矢印で示している。ここでは、1段目の太陽ギア2に入力されたトルクは、1段目のリングギア5からのトルクと合成され、1段目のキャリア3を介して2段目の太陽ギア4に入力される。2段目の太陽ギア4に入力されたトルクは、2段目のリングギア7からのトルクと合成され、2段目のキャリア6に伝達される。2段目のリングギア7のトルクの反力は、クラッチ機構8を介して固定ハウジング9が受け持つ。2段目のキャリア6に伝達されたトルクの一部でホイールが駆動され、残りのトルク(図1の破線で示す経路を参照)は前述した1段目のリングギア5の反力として1段目の遊星歯車減速機に戻る。すなわち、この特許文献1の装置では、トルクが循環することになる。このため、ホイールを駆動するためには比較的大きなトルクが必要になり、特に2段目の遊星歯車減速機を構成する部材について、この比較的大きなトルクに耐え得るような構造にする必要がある。したがって、装置が大型化することになる。
【0007】
一方、特許文献2の装置では、クラッチ機構18の入力側はリングギア16,17に連結され、出力側はホイールに連結されている。このため、クラッチ機構18は、回転する部材同士間の連結及び連結解除をする必要がある。ここで、クラッチ機構18は、一般的に、油圧で作動するピストン等の部材で構成されているが、特許文献2の装置では、ピストン等の部材は回転する部分に配置されることになる。このような構成では、ピストンを作動させるためのオイルを、固定側部分から回転する部材に対して供給しなければならない。しかし、固定側部分と回転する部材との間のシールは困難であり、この部分からのオイル漏れを防止するためには複雑な構成が必要となる。
【0008】
本発明の課題は、効率的にトルクを伝達できるとともに、クラッチ機構への油圧回路のシール構造を簡単な構成で実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明に係る作業用車両の動力伝達装置は、駆動源からのトルクをホイールに伝達するための装置であって、第1遊星歯車減速機と、第2遊星歯車減速機と、油圧式クラッチ機構と、を備えている。第1遊星歯車減速機は駆動源からトルクが入力されてホイールにトルクを伝達する。第2遊星歯車減速機は、第1遊星歯車減速機に連結され、第1遊星歯車減速機とともにホイールにトルクを伝達する。油圧式クラッチ機構は、駆動源からのトルクを第1及び第2遊星歯車減速機を介してホイールに伝達、あるいは伝達解除する。そして、第1遊星歯車減速機は、駆動源に連結される第1太陽ギアと、第1太陽ギアに噛み合う複数の第1遊星ギアと、複数の第1遊星ギアを回転自在に支持する第1キャリアと、複数の第1遊星ギアが噛み合うとともにホイールに連結された第1リングギアと、を有している。第2遊星歯車減速機は、第1キャリアに連結された第2太陽ギアと、第2太陽ギアに噛み合う複数の第2遊星ギアと、複数の第2遊星ギアを回転自在に支持し油圧式クラッチ機構に連結された第2キャリアと、複数の第2遊星ギアが噛み合うとともに第1リングギア及びホイールに連結された第2リングギアと、を有している。油圧式クラッチ機構は第2キャリアの回転を禁止あるいは許容する。
【0010】
この動力伝達装置では、駆動源からのトルクは第1太陽ギアに入力される。油圧式クラッチ機構がオン(動力伝達)の場合は、第2キャリアの回転が禁止され、入力されたトルクは、第1キャリアからのトルクと合成され、第1リングギアに伝達される。また、第2キャリアからのトルクは、第2太陽ギアと第2リングギアに分配され、第2太陽ギアに分配されたトルクは第1キャリアに伝達される。第2リングギアに分配されたトルクは、第1リングギアのトルクと合成され、ホイールを駆動する。第2キャリアのトルクの反力はクラッチ機構を介して固定ハウジングが受け持つ。このようにして、第1遊星歯車減速機からのトルクと第2遊星歯車減速機からのトルクの両方によって、ホイールが駆動される。
【0011】
また、油圧式クラッチ機構がオフ(動力伝達解除)の場合は、第2キャリアが回転することになり、各遊星歯車減速機はトルクを伝達しない。
【0012】
ここでは、特許文献1のようにトルクが循環する構成ではないので、特許文献1の装置に比較して、第2遊星歯車減速機が伝達すべきトルクを小さくできる。したがって装置をコンパクトにすることができる。また、油圧式クラッチ機構は第2キャリアの回転を禁止あるいは許容する構成であるので、一方側(第2キャリアとは異なる側)は固定されている。したがって、固定側に油圧回路を構成でき、簡単なシール構造でオイル漏れを抑えることができる。
【0013】
第2発明に係る作業用車両の動力伝達装置は、第1発明の装置において、第1遊星歯車減速機及び第2遊星歯車減速機は回転軸方向に並べて配置されており、第1遊星歯車減速機は第1遊星ギアを第1キャリアに回転自在に支持する第1支持軸をさらに有し、第2遊星歯車減速機は第2遊星ギアを第2キャリアに回転自在に支持する第2支持軸をさらに有している。そして、第1支持軸と第2支持軸とは、径方向において異なる位置で、軸方向に重なって配置されている。
【0014】
ここでは、各遊星ギアを支持する支持軸が、軸方向において重なって配置されているので、装置の軸方向寸法がコンパクトになる。
【0015】
第3発明に係る作業用車両の動力伝達装置は、第2発明の装置において、第1キャリアと第2キャリアとは径方向において重なって配置されている。そして、第1キャリア及び第2キャリアの径方向において重なった部分の間には、第1及び第2キャリアに摺動自在に接触するスラストワッシャが配置されている。
【0016】
ここでは、第1キャリアと第2キャリアとは、互いにスラストワッシャの各側面に摺動するように配置されている。すなわち、ここでは、両キャリアが近接して配置されており、このため装置の軸方向寸法がよりコンパクトになる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように本発明の作業用車両の動力伝達装置では、効率的にトルクを伝達できるとともに、油圧式クラッチ機構への油圧回路のシール構造を簡単な構成で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の動力伝達装置の模式図。
【図2】従来の別の動力伝達装置の模式図。
【図3】本発明の一実施形態による動力伝達装置の模式図。
【図4】前記動力伝達装置の全体断面構成図。
【図5】前記動力伝達装置の第1及び第2遊星歯車減速機の断面構成図。
【図6】前記動力伝達装置のブレーキ機構の断面構成図。
【図7】前記動力伝達装置のブレーキ機構を作動させる油圧回路を説明するための断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[概略の構成]
図3に本発明の一実施形態による動力伝達装置を有する駆動装置の模式図を示す。図3において、「CL」が回転軸である。
【0020】
この駆動装置は、駆動源としての油圧モータ24と、油圧モータ24のトルクをホイールに伝達する動力伝達装置25と、を有している。動力伝達装置25は、第1遊星歯車減速機26と、第2遊星歯車減速機27と、油圧式クラッチ機構28と、を備えている。
【0021】
第1遊星歯車減速機26は、第1太陽ギア30、複数の第1遊星ギア31、第1キャリア32、及び第1リングギア33を有している。また、第2遊星歯車減速機27は、第2太陽ギア35、複数の第2遊星ギア36、第2キャリア37、及び第2リングギア38を有している。
【0022】
この装置では、油圧モータ24からのトルクは第1太陽ギア30に入力される。そして、第1キャリア32が第2太陽ギア35に連結され、第1リングギア33が第2リングギア38に連結され、さらに両リングギア33,38がホイールに連結されている。また、第2キャリア37は油圧式クラッチ機構28を介して固定ハウジング39に連結されている。
【0023】
[詳細な構成]
以上のような構成の一実施形態を図4以降に示す。この実施形態は、本発明の動力伝達装置をモータグレーダのタイヤ(ホイール)を駆動する装置に適用したものである。なお、図4以降の図において、図3と同一の部材には同じ符号を付している。
【0024】
図4に示すように、油圧モータ24は車体側のモータハウジング40に収納されている。この油圧モータ24の出力軸24aはホイール41の回転軸と同軸に配置されている。また、モータハウジング40は、中心部に車体外側(図4において左側)に突出する突出部40aを有している。動力伝達装置25及びホイール41は、2つのテーパローラベアリング42,43を介してモータハウジング40の突出部40aに回転自在に支持されている。
【0025】
動力伝達装置25は、第1及び第2遊星歯車減速機26,27と油圧式クラッチ機構28とを収納するケース44を有している。ケース44は、モータハウジング40側に開く椀型のハウジング45と、ハウジング45の開口側に固定されたハウジングカバー46と、を有している。ハウジング45とハウジングカバー46とは複数のボルト47によって固定されている。そして、ハウジングカバー46が、前述のテーパローラベアリング42,43を介してモータハウジング40に回転自在に支持されている。なお、ハウジングカバー46とモータハウジング40との間には、ケース44内のオイルが外部に漏れるのを防止するためのオイルシール48a及びフローティングシール48bが設けられている。
【0026】
<第1遊星歯車減速機>
第1遊星歯車減速機26は車体外側に配置されている。第1太陽ギア30は入力軸50と一体に形成されている。入力軸50はホイール41の中心軸と同軸に配置されている。入力軸50のモータ側(車体内側で図4において右側)先端にはスプライン孔50aが形成されており、このスプライン孔50aに油圧モータ24のモータ軸24aの先端が係合している。また、入力軸50の車体外側の先端に、第1太陽ギア30が形成されている。なお、入力軸50の車体外側先端面とハウジング45との間には、入力軸50の先端を支持するボール51が配置されている。
【0027】
複数の第1遊星ギア31は、図4及び図4の拡大部分図である図5で示すように、それぞれ第1キャリア32に回転自在に支持され、第1太陽ギア30と噛み合っている。第1キャリア32には、円周方向に所定の間隔で径方向に貫通する複数のスリットが形成されており、このスリットに各第1遊星ギア31が配置されている。各第1遊星ギア31は、スリットを軸方向に貫通して設けられた第1支持ピン54に、2つのテーパローラベアリング55を介して回転自在に配置されている。また、第1キャリア32の車体内側の内周部には、軸方向に突出して連結リング32aが形成されている。連結リング32aの内周面には複数の歯が形成されている。
【0028】
第1キャリア32の外周部の車体内側の側面及び車体外側の側面には、それぞれスラストワッシャ56,57が配置されている。一方のスラストワッシャ56は第1キャリア32と第2キャリア37との間に配置され、他方のスラストワッシャ57は第1キャリア32とハウジング45の内側面との間に配置されている。
【0029】
第1リングギア33は、複数のボルト58によってハウジング45に固定され、これによりホイール41に連結されている。この第1リングギア33には複数の第1遊星ギア31が噛み合っている。
【0030】
<第2遊星歯車減速機>
第2遊星歯車減速機27は、第1遊星歯車減速機26と軸方向に並べて、第1遊星歯車減速機26よりも油圧モータ24側、すなわち車体内側に配置されている。図5に示すように、第2太陽ギア35は中心部に軸方向に貫通する孔35aを有しており、この孔35aを入力軸50が貫通している。第2太陽ギア35の外周面において、車体外側の一部には複数の歯が形成されており、この歯に第1キャリア32の連結リング32aの複数の歯が噛み合っている。
【0031】
複数の第2遊星ギア36は、それぞれ第2キャリア37に回転自在に支持され、第2太陽ギア35の車体内側の部分に形成された歯に噛み合っている。第2キャリア37には、第1キャリア32と同様に、円周方向に所定の間隔で径方向に貫通する複数のスリットが形成されており、このスリットに各第2遊星ギア36が配置されている。各第2遊星ギア36は、スリットを軸方向に貫通して設けられた第2支持ピン62に、2つのテーパローラベアリング63を介して回転自在に配置されている。また、図4及び図6に示すように、第2キャリア37の車体内側の側面外周端部には、軸方向に突出するクラッチ入力部37aが形成されている。
【0032】
なお、前述のように、第2キャリア37の内周部の車体外側の側面は、スラストワッシャ56を介して第1キャリア32の外周側面と接触している。
【0033】
第2リングギア38は、複数のボルト64によってハウジング45に固定され、これにより第1リング33とともにホイール41に連結されている。この第2リングギア38には複数の第2遊星ギア36が噛み合っている。
【0034】
<第1遊星歯車減速機と第2遊星歯車減速機の配置>
図5から明らかなように、第1遊星歯車減速機26の第1支持ピン54と第2遊星歯車減速機27の第2支持ピン62とは、径方向において異なる位置に配置されている。また、両支持ピン54,62は、軸方向において図5のAの部分がオーバーラップしている。さらに、第1キャリア32と第2キャリア37とは、径方向において重なって配置されている。より詳細には、第1キャリア32の第2キャリア37側の外周端は、第2キャリア37の第1キャリア32側の内周端より径方向外方に延びている。そして、図5のBの部分が径方向においてオーバーラップしている。そして、このオーバーラップ部分に、両キャリア32,37の側面と摺動するスラストワッシャ56が配置されている。
【0035】
<油圧式クラッチ機構>
図6は図4の拡大部分図であり、主に油圧式クラッチ機構28を示している。この油圧式クラッチ機構28は、オンにより第2遊星歯車減速機27の第2キャリア37の回転を禁止(動力伝達)し、オフにより第2キャリア37の回転を許容(伝達解除)する機構であり、回転部と固定部とから構成されている。
【0036】
回転部は、第2キャリア37の一部に形成されたクラッチ入力部37aと複数(この例では3枚)のクラッチプレート68とを有している。クラッチ入力部37aの外周面には軸方向に沿ってスプライン軸が形成されている。また、クラッチプレート68はリング状に形成されており、内周面にはクラッチ入力部37aのスプライン軸に係合するスプライン孔が形成されている。またクラッチプレート68の両面には摩擦フェーシングが貼付されている。以上のような構成により、クラッチプレート68は第2キャリア37とともに回転するとともに、クラッチ入力部37aのスプライン軸に沿って軸方向に移動が可能である。
【0037】
固定部は、クラッチハウジング70(図3では固定ハウジング39に相当)と、プレッシャプレート71と、複数(この例では3枚)の固定プレート72と、ピストン73と、を有している。
【0038】
クラッチハウジング70は、モータハウジング40の突出部40aに支持される内周筒状部75と、内周筒状部75から径方向外方に延びる円板部76と、円板部76の外周端から車体外側に延びる外周筒状部77と、を有している。円板部76は、内周筒状部75から径方向外方に延びるとともに車体内側に屈曲しさらに外方に延びて形成されている。また、外周筒状部77の内周面には係合部77aが形成されている。
【0039】
プレッシャプレート71は、リング状に形成されており、クラッチハウジング70の外周筒状部77の先端に複数のボルト78によって固定されている。
【0040】
複数の固定プレート72はリング状に形成されている。この固定プレート72の外周には係合部が形成されており、この係合部とクラッチハウジング70の外周筒状部77の係合部77aとが係合している。これにより、固定プレート72はクラッチハウジング70に対して相対回転不能でかつ軸方向移動可能に装着されている。なお、クラッチプレート68と固定プレート72とは、軸方向に交互に配置されており、ピストン73とプレッシャプレート71との間で圧接されるようになっている。
【0041】
また、内周筒状部75の車体内側の内周面にはスプライン孔75aが形成されており、このスプライン孔75aがモータハウジング40の突出部40aに形成されたスプライン軸40bに係合している。さらに、内周筒状部75の車体外側の端面には、固定部材80が複数のボルト81によって固定されている。このような構成によって、クラッチハウジング70を含む油圧式クラッチ機構28の固定部は、モータハウジング40に対して回転不能でかつ軸方向にも移動不能に固定されている。
【0042】
<油圧式クラッチ機構の油圧回路>
油圧式クラッチ機構28は、ピストン73を作動させることによって、クラッチのオンすなわちブレーキオン(回転部の固定=回転禁止)と、クラッチのオフすなわちブレーキオフ(回転部の固定解除=回転許容)とが切り換えられる。ピストン73は図示しないコントロールバルブから供給される油圧によって作動される。この油圧供給のための回路84を、図7に示している。この油圧回路84は、モータハウジング40及びクラッチハウジング70に形成されている。
【0043】
モータハウジング40の半径方向中間部には、軸方向に沿って形成された供給口85が形成されている。また、モータハウジング40の径方向外方に延びる部分40bには、半径方向に延びる第1油路86が形成されている。第1油路86は供給口85に連通している。また、モータハウジング40の突出部40aには、第1油路86の先端に連通する第2油路87と、第2油路87の先端に連通する第3油路88と、が形成されている。第2油路87は車体内側から外側にかけて中心部に向かうように斜めに形成されている。第3油路88は軸方向に沿って形成されている。また、モータハウジング40の突出部40aには、突出部40aの外周面から半径方向に延び、第3油路88に連通する第4油路89が形成されている。突出部40aの外周面で第4油路89の外周部には、環状溝90が形成されている。そして、突出部40aの環状溝90の軸方向両側には、1対のシールリング91が配置されている。
【0044】
また、クラッチハウジング70には、円板部76の内部に、第5油路94、第6油路95、第7油路96、及び吐出口97が形成されている。第5油路94は半径方向に延びて形成されている。第6油路95は、第5油路94の外周部から径方向外方に向かって車体内側に傾斜して形成されている。第7油路96は、第6油路95の外周部に連通し、径方向外方に向かって延びている。吐出口97は、第7油路96の径方向中間部において、第7油路96とピストン73が配置された室とを連通している。
【0045】
以上のような油圧回路84では、コントロールバルブから供給口85に供給された油圧は、モータハウジング40の第1〜第4油路86〜89及び環状溝90を介してクラッチハウジング70に供給される。そして、クラッチハウジング70では、第5〜第7油路94〜96及び吐出口97を介してピストン73に作用する。そして、モータハウジング40及びクラッチハウジング70は、ともに回転せず、固定されているので、両者の間は、1対のシールリング91からなる簡単なシール機構によってオイル漏れを抑えることができる。
【0046】
[動作]
以上のように構成された動力伝達装置25では、油圧回路84を介してピストン73に油圧を供給することにより、油圧式クラッチ機構28のクラッチプレート68及び固定プレート72が圧接されて、クラッチがオン(ブレーキオン)になる。これにより、第2遊星歯車減速機27の第2キャリア37の回転が禁止される。この場合は、モータ24からのトルクを第1及び第2遊星歯車減速機26,27を介してホイールに伝達することができる。すなわち、第1太陽ギア30に入力されたトルクは、複数の第1遊星ギア31を介して第1キャリア32からのトルクと合成され、第1リングギア33に伝達される。また、第2キャリア37からのトルクは第2遊星ギア36を介して第2太陽ギア35と第2リングギア38に分配される。第2太陽ギア35に分配されたトルクは第1キャリア32に伝達される。第2リングギア38に分配されたトルクは、第1リングギア33のトルクと合成され、ホイールに伝達される。第2キャリア37のトルクの反力は油圧クラッチ機構28を介して固定ハウジング39が受け持つ。
【0047】
以上のように、この実施形態の装置では、第1遊星歯車減速機26によって伝達されたトルクと、第2遊星歯車減速機27によって伝達されたトルクとが合わさってホイールに伝達される。
【0048】
また、ピストン73への油圧供給を停止し、油圧をドレンすることによって、油圧式クラッチ機構28はオフとなる。油圧式クラッチ機構28がオフ(ブレーキオフ)の場合は、第2遊星歯車減速機27の第2キャリア37の回転が許容される。このため、モータ24からトルクが入力されても、第2キャリア37は回転し、第2遊星ギア36は自転するとともに公転することになる。したがって、ホイールには、第1遊星歯車減速機26からも第2遊星歯車減速機27からもトルクは伝達されない。
【0049】
[特徴]
(1)この動力伝達装置では、第1遊星歯車減速機26からのトルクと第2遊星歯車減速機27からのトルクの両方によって、ホイールが駆動される。すなわち、従来装置のようにトルクが循環する構成ではないので、第2遊星歯車減速機27が伝達すべきトルクを小さくできる。このため、装置をコンパクトにすることができる。
【0050】
(2)油圧式クラッチ機構28において、油圧回路84が構成されるモータハウジング40とクラッチハウジング70とは固定されている。したがって、両者の間を、簡単な構成で確実にシールすることができる。具体的には、モータハウジング40に1対のシールリング91を設けるだけで、オイル漏れを抑えることができる。
【0051】
(3)第1遊星歯車減速機26及び第2遊星歯車減速機27において、第1遊星ギア31及び第2遊星ギア36を支持する第1支持ピン54と第2支持ピン62とを、径方向において異なる位置で、軸方向に重なるように配置しているので、装置の軸方向寸法をコンパクトにすることができる。
【0052】
また、第1キャリア32と第2キャリア37とを径方向において重なるように配置し、この両キャリアの径方向において重なった部分の間に、両キャリア32,37に摺動接触するスラストワッシャ56を配置している。このような構成では、両キャリア32,37の間の距離をスラストワッシャ56の厚み分だけにすることできるので、装置の軸方向寸法をさらにコンパクトにすることができる。
【0053】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0054】
例えば、前記実施形態では本発明をモータグレーダに適用したが、タイヤを有し、駆動のオン、オフを切り換えるように構成された動力伝達装置を有する他の作業用車両にも同様に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
24 モータ
25 動力伝達装置
26 第1遊星歯車減速機
27 第2遊星歯車減速機
28 油圧式クラッチ機構
30 第1太陽ギア
31 第1遊星ギア
32 第1キャリア
33 第1リングギア
35 第2太陽ギア
36 第2遊星ギア
37 第2キャリア
38 第2リングギア
54 第1支持ピン
62 第2支持ピン
56 スラストワッシャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からのトルクをホイールに伝達するための作業用車両の動力伝達装置であって、
前記駆動源からトルクが入力されて前記ホイールにトルクを伝達する第1遊星歯車減速機と、
前記第1遊星歯車減速機に連結され、前記第1遊星歯車減速機とともに前記ホイールにトルクを伝達する第2遊星歯車減速機と、
前記駆動源からのトルクを前記第1及び第2遊星歯車減速機を介して前記ホイールに伝達、あるいは伝達解除するための油圧式クラッチ機構と、
を備え、
前記第1遊星歯車減速機は、前記駆動源に連結される第1太陽ギアと、前記第1太陽ギアに噛み合う複数の第1遊星ギアと、前記複数の第1遊星ギアを回転自在に支持する第1キャリアと、前記複数の第1遊星ギアが噛み合うとともに前記ホイールに連結された第1リングギアと、を有し、
前記第2遊星歯車減速機は、前記第1キャリアに連結された第2太陽ギアと、前記第2太陽ギアに噛み合う複数の第2遊星ギアと、前記複数の第2遊星ギアを回転自在に支持し前記油圧式クラッチ機構に連結された第2キャリアと、前記複数の第2遊星ギアが噛み合うとともに前記第1リングギア及び前記ホイールに連結された第2リングギアと、を有し、
前記油圧式クラッチ機構は前記第2キャリアの回転を禁止あるいは許容する、
作業用車両の動力伝達装置。
【請求項2】
前記第1遊星歯車減速機及び前記第2遊星歯車減速機は回転軸方向に並べて配置されており、
前記第1遊星歯車減速機は前記第1遊星ギアを前記第1キャリアに回転自在に支持する第1支持軸をさらに有し、
前記第2遊星歯車減速機は前記第2遊星ギアを前記第2キャリアに回転自在に支持する第2支持軸をさらに有し、
前記第1支持軸と前記第2支持軸とは、径方向において異なる位置で、軸方向に重なって配置されている、
請求項1に記載の作業用車両の動力伝達装置。
【請求項3】
前記第1キャリアと前記第2キャリアとは径方向において重なって配置されており、
前記第1キャリア及び前記第2キャリアの径方向において重なった部分の間には、両側面のそれぞれが前記第1及び第2キャリアに摺動自在に接触するスラストワッシャが配置されている、
請求項2に記載の作業用車両の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−106611(P2011−106611A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263893(P2009−263893)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】