説明

作業車両および作業車両の制御方法

【課題】本発明の課題は、冷却能力が過剰となることを抑えることにより燃費を向上させることができる作業車両及び作業車両の制御方法を提供することにある。
【解決手段】作業車両の制御部は、エンジン回転数に応じてファン目標回転数の上限値を設定する。また、制御部は、ロックアップクラッチが係合状態であるときには、ロックアップクラッチが開放状態であるときよりも、ファン目標回転数の上限値を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両および作業車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブルドーザなどの作業車両は、エンジンの冷却液を冷却するための冷却装置を備えている。この冷却装置は、冷却ファンと油圧モータとを有している。油圧モータは、油圧ポンプから供給される油圧によって駆動され、これにより冷却ファンが回転する。また、作業車両は、冷却ファンの回転数を制御する制御部を備えている。制御部は、例えば特許文献1に開示されているように、冷却液の温度及びトルクコンバータ油の温度などに基づいて、冷却ファンの目標回転数(以下、「ファン目標回転数」と呼ぶ)を設定する。また、制御部は、エンジン回転数に応じて、ファン目標回転数の上限値を設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2001−182535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したファン目標回転数の上限値は、エンジン回転数に応じて一律に定められている。このため、実際の車両のヒートバランスに関わらず、ファン目標回転数の上限値が設定される。このため、冷却能力が不足する事態が生じることを避けるためには、ファン目標回転数の上限値を高めに設定することが望ましい。例えば、最も高い冷却能力が必要とされる状況を想定して、そのような状況でも十分な冷却能力を発揮できるように、ファン目標回転数の上限値が設定される。
【0005】
しかし、実際の作業車両の状況は、上記のような最も高い冷却能力が必要とされる状況だけには限られない。このため、冷却能力が過剰となる場合がある。この場合、エンジンの出力の一部が冷却装置の駆動のために無駄に消費されていることになる。
【0006】
本発明の課題は、冷却能力が過剰となることを抑えることにより燃費を向上させることができる作業車両及び作業車両の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る作業車両は、エンジンと、走行装置と、動力伝達装置と、冷却ファンと、油圧モータと、油圧ポンプと、制御部と、を備える。走行装置は、車両を走行させるための装置である。動力伝達装置は、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、トランスミッションとを有し、エンジンからの駆動力を走行装置に伝達する。冷却ファンは、エンジンの冷却液とトルクコンバータの動力伝達流体とを冷却する。油圧モータは、冷却ファンを駆動する。油圧ポンプは、エンジンによって駆動され、油圧モータを駆動するための作動油を吐出する。制御部は、エンジン回転数に応じてファン目標回転数の上限値を設定する。また、制御部は、ロックアップクラッチが係合状態であるときには、ロックアップクラッチが開放状態であるときよりも、ファン目標回転数の上限値を低減する。
【0008】
本発明の第2の態様に係る作業車両は、第1の態様の作業車両であって、制御部は、第1情報と第2情報とを記憶している。第1情報は、エンジン回転数とファン目標回転数の上限値との関係を示す情報である。第2情報は、エンジン回転数とファン目標回転数の上限値との関係を示し、第1情報よりもファン目標回転数の上限値を低く設定するための情報である。制御部は、ロックアップクラッチが開放状態であるときには、第1情報に基づいてファン目標回転数の上限値を設定する。制御部は、ロックアップクラッチが係合状態であるときには、第2情報に基づいてファン目標回転数の上限値を設定する。
【0009】
本発明の第3の態様に係る作業車両は、第2の態様の作業車両であって、制御部は、トランスミッションの速度段が最低速度段よりも高速の所定の速度段であるときには、ロックアップクラッチが係合状態と開放状態とのいずれの状態であっても、第2情報に基づいてファン目標回転数の上限値を設定する。
【0010】
本発明の第4の態様に係る作業車両の制御方法は、エンジンと、走行装置と、動力伝達装置と、冷却ファンと、油圧モータと、油圧ポンプと、を備える作業車両の制御方法である。走行装置は、車両を走行させるための装置である。動力伝達装置は、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、トランスミッションとを有し、エンジンからの駆動力を走行装置に伝達する。冷却ファンは、エンジンの冷却液とトルクコンバータの動力伝達流体とを冷却する。油圧モータは、冷却ファンを駆動する。油圧ポンプは、エンジンによって駆動され、油圧モータを駆動するための作動油を吐出する。作業車両の制御方法は、エンジン回転数に応じてファン目標回転数の上限値を設定する処理を備える。ファン目標回転数の上限値を設定する処理では、ロックアップクラッチが係合状態であるときには、ロックアップクラッチが開放状態であるときよりも、ファン目標回転数の上限値を低減する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の態様に係る作業車両では、ロックアップクラッチが係合状態であるときには、ロックアップクラッチが開放状態であるときよりも、ファン目標回転数の上限値が低減される。ロックアップクラッチが開放状態であるときは、エンジンからの駆動力は、トルクコンバータにおいて、トルクコンバータの動力伝達流体を介して伝達される。このため、トルクコンバータの動力伝達流体の発熱が大きい。一方、ロックアップクラッチが係合状態であるときには、トルクコンバータの入力軸と出力軸とがロックアップクラッチを介して直結される。このため、トルクコンバータの動力伝達流体の発熱が小さい。従って、ロックアップクラッチが係合状態であるときには、ロックアップクラッチが開放状態であるときよりも、トルクコンバータの動力伝達流体を冷却するための冷却能力が小さくてもよい。このため、ロックアップクラッチが係合状態であるときにファン目標回転数の上限値を低減することにより、冷却能力が過剰となることが抑えられ、燃費を向上させることができる。
【0012】
本発明の第2の態様に係る作業車両では、ロックアップクラッチが開放状態であるときには、第1情報に基づいてファン目標回転数の上限値が設定される。このため、ファン目標回転数の上限値が高く設定されることにより、高い冷却能力を確保することができる。一方、ロックアップクラッチが係合状態であるときには、第2情報に基づいてファン目標回転数の上限値が設定される。このため、ファン目標回転数の上限値が低く設定されることにより、冷却能力が過剰となることが抑えられ、燃費を向上させることができる。
【0013】
本発明の第3の態様に係る作業車両では、トランスミッションの速度段が高速度段であるときには、ロックアップクラッチが開放状態であっても、第2情報に基づいてファン目標回転数の上限値が設定される。トランスミッションの速度段が高速度段であるときには、冷却ファンによる冷却能力が低くても、作業車両のヒートバランスを良好に保つことが容易である。このため、ロックアップクラッチが開放状態であっても、冷却能力が不足することが抑えられる。また、冷却ファンによる冷却能力が過剰となることが抑えられることにより、燃費を向上させることができる。
【0014】
本発明の第4の態様に係る作業車両では、ロックアップクラッチが係合状態であるときには、ロックアップクラッチが開放状態であるときよりも、ファン目標回転数の上限値が低減される。ロックアップクラッチが開放状態であるときは、エンジンからの駆動力は、トルクコンバータにおいて、トルクコンバータの動力伝達流体を介して伝達される。このため、トルクコンバータの動力伝達流体の発熱が大きい。一方、ロックアップクラッチが係合状態であるときには、トルクコンバータの入力軸と出力軸とがロックアップクラッチを介して直結される。このため、トルクコンバータの動力伝達流体の発熱が小さい。従って、ロックアップクラッチが係合状態であるときには、ロックアップクラッチが開放状態であるときよりも、トルクコンバータの動力伝達流体を冷却するための冷却能力が小さくてもよい。このため、ロックアップクラッチが係合状態であるときにファン目標回転数の上限値を低減することにより、冷却能力が過剰となることが抑えられ、燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】作業車両の側面図である。
【図2】作業車両の内部構成を示すブロック図である。
【図3】制御部の機能ブロック図である。
【図4】ファン目標回転数の上限値を算出するためのマップの一例を示す図である。
【図5】ファン目標回転数の上限値を算出するためのマップの選択処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る作業車両1の外観構成を示す側面図を図1に示す。この作業車両1は、ブルドーザであり、左右の走行体2と車両本体3と作業機4とを備えている。
【0017】
走行装置2は、車両を走行させるための装置であり、履帯11を有している。履帯11が駆動されることにより作業車両1が走行する。
【0018】
車両本体3は、左右の走行装置2の間に配置されており、車両本体3の前部にはエンジンルーム12が設けられている。エンジンルーム12には、後述するエンジン5及び冷却装置7が収納されている。また、エンジンルーム12の後方には、運転室15が設けられている。
【0019】
作業機4は、エンジンルーム12の前方に設けられており、上下方向に揺動可能に設けられたブレード13と、ブレード13を駆動する油圧シリンダ14とを有する。
【0020】
次に、作業車両1の内部構成を示すブロック図を図2に示す。作業車両1は、エンジン5と、動力伝達装置6と、第1油圧ポンプ16と、第2油圧ポンプ17と、第3油圧ポンプ19と、冷却装置7と、操作装置8と、各種のセンサSN1−SN5と、制御部9とを備える。
【0021】
エンジン5は、ディーゼルエンジンであり、燃料噴射ポンプ(図示せず)からの燃料の噴射量が調整されることにより、エンジン5の出力が制御される。燃料噴射量の調整は、図示しないガバナが、制御部9によって制御されることで行われる。ガバナとしては、一般的にオールスピード制御方式のガバナが用いられ、実際のエンジン回転数が制御部9によって設定されたエンジン回転数の指令値になるように、負荷に応じてエンジン回転数と燃料噴射量とを調整する。すなわち、ガバナは、エンジン回転数の指令値と実際のエンジン回転数との差がなくなるように燃料噴射量を増減させる。
【0022】
動力伝達装置6は、エンジン5からの駆動力を上述した走行装置2に伝達する装置である。動力伝達装置6は、ロックアップクラッチLC付きのトルクコンバータ60と、トランスミッション61と、終減速装置62と、スプロケット63とを備えている。エンジン5の出力は、トルクコンバータ60、トランスミッション61、終減速装置62、スプロケット63を介して上述した走行装置2に伝達される。
【0023】
トルクコンバータ60は、PTO(動力取出し装置)軸18を介してエンジン5の出力軸に連結されている。ロックアップクラッチLCは、第3油圧ポンプ19から供給される作動油によって係合状態と開放状態とに切り換えられる。ロックアップクラッチLCが係合状態であるときは、トルクコンバータ60の入力軸と出力軸とが直結される。ロックアップクラッチLCが開放状態であるときは、トルクコンバータ60において、動力伝達流体としてのトルクコンバータ油を介して、駆動力が伝達される。トルクコンバータ油は、第3油圧ポンプ19からトルクコンバータ60に供給される作動油である。ロックアップクラッチLCへの作動油の供給は、制御部9からの制御信号によって制御されるロックアップ電磁弁LVによって制御される。
【0024】
トランスミッション61は、前進用油圧クラッチ(以下、「Fクラッチ」と呼ぶ)C1および後進用油圧クラッチ(以下、「Rクラッチ」と呼ぶ)C2を有しており、FクラッチC1、RクラッチC2のいずれかが選択されることにより、前進走行あるいは後進走行が行われる。FクラッチC1およびRクラッチC2は、第3油圧ポンプ19から供給される作動油によって係合状態と開放状態とに切り換えられる。FクラッチC1が係合状態であり且つRクラッチC2が開放状態である場合には、前進走行が行われ、FクラッチC1が開放状態であり且つRクラッチC2が係合状態である場合には、後進走行が行われる。また、FクラッチC1とRクラッチC2との両方が開放状態である場合には、エンジン5からの駆動力が伝達されない中立状態となる。なお、FクラッチC1への作動油の供給は、前進用電磁弁V1によって制御され、RクラッチC2への作動油の供給は、後進用電磁弁V2によって制御される。また、これらの電磁弁V1,V2は、制御部9からの制御信号によって制御される。
【0025】
また、トランスミッション61は、第1速用油圧クラッチ(以下、「1stクラッチ」と呼ぶ)C3、第2速用油圧クラッチ(以下、「2ndクラッチ」と呼ぶ)C4、第3速用油圧クラッチ(以下、「3rdクラッチ」と呼ぶ)C5を有する。これらの変速用クラッチC3−C5のうちのいずれかが選択されることにより、トランスミッション61の速度段の切替が行われる。1stクラッチC3、2ndクラッチC4、3rdクラッチC5は、それぞれ第3油圧ポンプ19から供給される作動油によって駆動され、係合状態と開放状態とに切り換えられる。1stクラッチC3への作動油の供給は、第1速用電磁弁V3によって制御され、2ndクラッチC4への作動油の供給は、第2速用電磁弁V4によって制御され、3rdクラッチC5への作動油の供給は、第3速用電磁弁V5によって制御される。また、これらの電磁弁V3−V5は、制御部9からの制御信号によって制御される。
【0026】
上記のように、エンジン5の出力は、トルクコンバータ60、トランスミッション61、終減速装置62を介してスプロケット63に伝達され、これによりスプロケット63が回転駆動される。スプロケット63が回転駆動されると、スプロケット63に巻回された履帯11(図1参照)が駆動され、これにより作業車両1が走行する。このように、エンジン5の馬力の一部は、作業車両1を走行させるための走行馬力として消費される。
【0027】
第1油圧ポンプ16は、PTO軸18を介してエンジン5の出力軸に連結されており、エンジン5からの駆動力によって駆動される。第1油圧ポンプ16は、冷却装置7を駆動するための作動油を吐出する。第1油圧ポンプ16は、可変容量型油圧ポンプであり、斜板駆動部21によって斜板の傾転角が変化されることにより、ポンプ容量が変化される。斜板駆動部21は、制御部9からの制御信号によって制御される。
【0028】
第2油圧ポンプ17は、PTO軸18を介してエンジン5の出力軸に連結されており、エンジン5によって駆動され、作業機4の油圧シリンダ14を駆動するための作動油を吐出する。第2油圧ポンプ17は、可変容量型油圧ポンプであり、斜板駆動部29によって斜板の傾転角が変化されることにより、ポンプ容量が変化される。斜板駆動部29は、制御部9からの制御信号によって制御される。エンジン5からの駆動力によって第2油圧ポンプ17が駆動されると、作動油が電磁切換弁23を介して作業機4の油圧シリンダ14に供給される。油圧シリンダ14に作動油が供給されると、油圧シリンダ14が伸縮することによってブレード13(図1参照)が駆動される。このようにエンジン5の馬力の一部は、作業機4を駆動するための作業馬力として消費される。
【0029】
冷却装置7は、第1油圧ポンプ16から供給される作動油によって駆動され、エンジン5を冷却する装置である。冷却装置7は、油圧モータ71と、冷却ファン72と、ラジエータ73と、第1オイルクーラ76と、第2オイルクーラ74とを有する。
【0030】
油圧モータ71は、冷却ファン72用の油圧モータである。油圧モータ71は、第1油圧ポンプ16から吐出された作動油によって駆動され、冷却ファン72を回転駆動する。油圧モータ71と第1油圧ポンプ16との間には、電磁切換弁75が設けられている。電磁切換弁75は、2位置弁であり、制御部9からの指令信号により作動油の流れの方向を切り換えることができ、これにより油圧モータ71すなわち冷却ファン72の回転方向を制御することができる。また、油圧モータ71の回転数すなわち冷却ファン72の回転数は、斜板駆動部21によって第1油圧ポンプ16のポンプ容量が制御されることによって制御される。
【0031】
冷却ファン72は、油圧モータ71によって回転駆動されることにより、ラジエータ73と第1オイルクーラ76と第2オイルクーラ74とを通る空気の流れを生成する。
【0032】
ラジエータ73は、エンジン5の冷却液を冷却する装置である。ラジエータ73は、冷却ファン72によって生成された空気流を受けてエンジン5の冷却液を冷却する。
【0033】
第1オイルクーラ76は、トルクコンバータ60からのトルクコンバータ油を冷却する装置である。第1オイルクーラ76は、冷却ファン72によって生成された空気流を受けて、トルクコンバータ油を冷却する。また、図2では図示していないが、トルクコンバータ油をトルクコンバータ60に供給するための油圧回路は、トランスミッション61の油圧クラッチC1−C5に作動油を供給するための油圧回路と部分的に共通している。従って、第2オイルクーラ74は、トランスミッション61の油圧クラッチC1−C5からの作動油も冷却する。
【0034】
第2オイルクーラ74は、冷却装置7の油圧モータ71に供給された作動油を冷却する装置である。第2オイルクーラ74は、冷却ファン72によって生成された空気流を受けて、油圧モータ71からの作動油を冷却する。油圧モータ71からの作動油は、電磁切換弁75を経由して第2オイルクーラ74に入り、第2オイルクーラ74で冷却された後に作動油タンク22へ戻る。なお、図2では図示していないが、作業機4の油圧シリンダ14からの作動油も、同様にして第2オイルクーラ74で冷却された後に作動油タンク22へ戻る。作動油タンク22に貯留された作動油は、第1油圧ポンプ16および第2油圧ポンプ17によって加圧され、それぞれ油圧モータ71および油圧シリンダ14へ供給される。
【0035】
なお、ラジエータ73と第1オイルクーラ76と第2オイルクーラ74とは、それぞれ別体に形成されてもよい。或いは、ラジエータ73と第1オイルクーラ76と第2オイルクーラ74との全て、或いは、一部が一体に形成されてもよい。
【0036】
第1油圧モータ71に作動油が供給されると、冷却ファン72が回転駆動され、ラジエータ73と第1オイルクーラ76と第2オイルクーラ74とを通過する空気流が生成される。これにより、ラジエータ73を流れるエンジン5の冷却液と、第1オイルクーラ76を流れるトルクコンバータ油と、第2オイルクーラ74を流れる作動油とが冷却される。このようにエンジン5の馬力の一部は、エンジン5の冷却液とトルクコンバータ油と作動油とを冷却する冷却装置7を駆動するためのファン馬力として消費される。
【0037】
操作装置8は、運転室15に内装されており、オペレータによって操作されることにより操作信号を制御部9に送る。操作装置8は、シフトスイッチ81、走行レバー82などを有する。
【0038】
シフトスイッチ81は、トランスミッション61の速度段を切り換えるためのものである。この作業車両1では、第1速から第3速までの速度段の切替が可能であり、オペレータがシフトスイッチ81を操作することにより、手動で速度段の切替を行うことができる。
【0039】
走行レバー82は、前後進レバー部材84と、旋回レバー部材85とを有している。オペレータは、前後進レバー部材84を操作することによりトランスミッション61を前進状態、後進状態、中立状態に切り換えることができる。また、オペレータは、旋回レバー部材85を操作することにより、作業車両1の旋回方向を切り換えることができる。
【0040】
各種のセンサSN1−SN5には、第1油温センサSN1、冷却液温センサSN2、第2油温センサSN3、エンジン回転数センサSN4、トランスミッション回転数センサSN5などがある。第1油温センサSN1は、冷却装置7の油圧モータ71および作業機4の油圧シリンダ14を駆動させる作動油の温度(以下「作動油温」と呼ぶ)を検出する。冷却液温センサSN2は、エンジン5の冷却液の温度(以下「冷却液温」と呼ぶ)を検出する。第2油温センサSN3は、トランスミッション61の油圧クラッチC1−C5を駆動させるための作動油の温度を検出する。上述したように、トルクコンバータ油をトルクコンバータ60に供給するための油圧回路は、トランスミッション61の油圧クラッチC1−C5を作動させるための作動油を供給するための油圧回路と部分的に共通している。従って、油圧クラッチC1−C5からの作動油の温度は、トルクコンバータ油の温度(以下、「トルクコンバータ油温」と呼ぶ)と一致している。このため、第2油温センサSN3は、トルクコンバータ油温を検出する。エンジン回転数センサSN4は、エンジン5の実際の回転数であるエンジン回転数を検出する。トランスミッション回転数センサSN5は、トランスミッション61の出力軸の回転数を検出することにより、作業車両1の車速を検出する。これらのセンサSN1−SN5によって検出された各種の情報は検出信号として制御部9に入力される。
【0041】
制御部9はマイクロコンピュータや数値演算プロセッサ等の演算処理装置を主体にして構成されており、制御データ等を記憶する記憶部90を有している。制御部9は、操作装置8からの操作信号、センサSN1−SN5からの検出信号、記憶部90に記憶された制御データなどに基づいて、エンジン5、動力伝達装置6、冷却装置7、作業機4などの制御を行う。例えば、記憶部90には、エンジン回転数とエンジントルクとの関係を示すエンジンパワーカーブが記憶されており、制御部9は、エンジンパワーカーブに基づいてエンジン5を制御する。また、制御部9は、車速やエンジン回転数に基づいて自動的に、又は、シフトスイッチ81や走行レバー82の操作に応じて、トルクコンバータ60のロックアップクラッチLCの切換、トランスミッション61のFクラッチC1、RクラッチC2、変速用クラッチC3−C5の切換を行う。
【0042】
以下、制御部9による作業車両1の制御のうち、冷却装置7の制御について図3に基づいて詳細に説明する。図3は、制御部9の処理機能を示すブロック図である。制御部9は、冷却液温、作動油温、トルクコンバータ油温およびエンジン回転数に基づいて冷却ファン72の回転数を制御する。具体的には、制御部9は、第1目標回転数演算部31と、第2目標回転数演算部32と、第3目標回転数演算部33と、最大値選択部34と、上限値演算部35と、最小値選択部36と、傾転角演算部37と、制御電流演算部38とを有している。
【0043】
第1目標回転数演算部31は、記憶部90に記憶してあるマップを参照して、冷却液温センサSN2によって検出された冷却液温からファン目標回転数を演算する。マップには、冷却液温が上昇するに従ってファン目標回転数が上昇する冷却液温とファン目標回転数との関係が設定されている。
【0044】
第2目標回転数演算部32は、記憶部90に記憶してあるマップを参照して、第1油温センサSN1によって検出された作動油の温度から、冷却ファン72のファン目標回転数を演算する。記憶部90のマップには、作動油温が上昇するに従ってファン目標回転数が上昇する作動油温とファン目標回転数との関係が設定されている。
【0045】
第3目標回転数演算部33は、記憶部90に記憶してあるマップを参照して、第2油温センサSN3によって検出されたトルクコンバータ油温から、冷却ファン72のファン目標回転数を演算する。記憶部90のマップには、トルクコンバータ油温が上昇するに従ってファン目標回転数が上昇するトルクコンバータ油温とファン目標回転数との関係が設定されている。
【0046】
最大値選択部34は、第1目標回転数演算部31によって計算されたファン目標回転数と、第2目標回転数演算部32によって計算されたファン目標回転数と、第3目標回転数演算部33によって計算されたファン目標回転数のうちの最も高い回転数を選択する。
【0047】
上限値演算部35は、記憶部90に記憶してあるマップを参照して、エンジン回転数センサSN4によって検出されたエンジン回転数から、ファン目標回転数の上限値を演算する。記憶部90のマップには、エンジン回転数が上昇するに従ってファン目標回転数の上限値が上昇するエンジン回転数とファン目標回転数の上限値との関係が設定されている。従って、制御部9は、エンジン回転数に応じてファン目標回転数の上限値を設定する。
【0048】
最小値選択部36は、最大値選択部34によって選択されたファン目標回転数と、上限値演算部35によって計算されたファン目標回転数の上限値との小さい方の回転数を選択する。従って、最小値選択部36では、最大値選択部34によって選択されたファン目標回転数が、上限値演算部35によって計算されたファン目標回転数の上限値を超えないようにファン目標回転数が補正される。上限値演算部35によるファン目標回転数の上限値の演算に関しては、後に詳細に説明する。
【0049】
傾転角演算部37は、エンジン回転数センサSN4によって検出されたエンジン回転数と最小値選択部36によって選択されたファン目標回転数とから、そのファン目標回転数を得るための第1油圧ポンプ16の目標傾転角を演算する。
【0050】
ここで、冷却ファン72の回転数は、油圧モータ71の回転数に基づいて定まる。油圧モータ71の回転数は、油圧モータ71に供給される作動油の流量により定まる。油圧モータ71に供給される作動油の流量は、第1油圧ポンプ16の吐出流量に対応している。第1油圧ポンプ16の吐出流量は、第1油圧ポンプ16の傾転角と回転数により決まる。第1油圧ポンプ16の回転数はエンジン5の回転数により決まる。従って、エンジン回転数が分かれば、ファン目標回転数を得るための第1油圧ポンプ16の目標傾転角を計算することができる。
【0051】
制御電流演算部38は、傾転角演算部37で計算された目標傾転角を得るための斜板駆動部21への指令信号値すなわち目標制御電流値を演算する。制御部9は、以上のようにして求められた目標制御電流値に応じた制御電流を斜板駆動部21に出力する。
【0052】
次に、上限値演算部35によるファン目標回転数の上限値の演算について詳細に説明する。上述したように、上限値演算部35は、エンジン回転数からファン目標回転数の上限値を演算する。その際、上限値演算部35は、記憶部90に記憶されているマップを参照する。記憶部90は、図4に示すように、ファン目標回転数の上限値の演算をするための第1マップL1と第2マップL2とを記憶している。第1マップL1と第2マップL2とは、いずれもエンジン回転数とファン目標回転数の上限値との関係を示している。
【0053】
より具体的には、第1マップL1では、エンジン回転数がゼロからNe1までの範囲では、ファン目標回転数の上限値はNf1で一定である。エンジン回転数がNe1からNe2までの範囲では、ファン目標回転数の上限値は、エンジン回転数の増大に伴って徐々に増大する。そして、エンジン回転数がNe2以上の範囲では、ファン目標回転数の上限値はNf3で一定である。
【0054】
これに対して、第2マップL2では、エンジン回転数がゼロからNe1までの範囲では、第1マップL1と同様に、ファン目標回転数の上限値はNf1で一定である。エンジン回転数がNe1からNe3までの範囲では、ファン目標回転数の上限値は、エンジン回転数の増大に伴って徐々に増大する。ただし、Ne3はNe2より大きい。そして、エンジン回転数がNe3以上の範囲では、ファン目標回転数の上限値はNf2で一定である。ただし、Nf2は、Nf3より小さい。従って、エンジン回転数がNe1より大きい範囲では、第2マップL2は、エンジン回転数が同じであれば第1マップL1よりもファン目標回転数の上限値が低く設定されるように規定されている。また、エンジン回転数がNe1からNe2までの範囲では、エンジン回転数が大きいほど、第1マップL1のファン目標回転数の上限値と第2マップL2のファン目標回転数の上限値との差が、大きくなっている。
【0055】
上限値演算部35は、図5に示すフローに従って、第1マップL1と第2マップL2とのいずれかを、ファン目標回転数の上限値を演算するためのマップとして選択する。まず、ステップS1では、トランスミッション61の速度段が第1速又は第2速であるか否かが判定される。トランスミッション61の速度段が第1速又は第2速ではないとき、すなわち、トランスミッション61の速度段が第3速であるときには、ステップS4に進み、第2マップL2が選択される。ステップS1において、トランスミッション61の速度段が第1速又は第2速であるときには、ステップS2に進む。ステップS2において、ロックアップクラッチLCが開放状態であるか否かが判定される。ロックアップクラッチLCが開放状態であるときは、ステップS3に進み、第1マップL1が選択される。ステップS2において、ロックアップクラッチLCが開放状態ではないとき、すなわち、ロックアップクラッチLCが係合状態であるときには、ステップS4に進み、第2マップL2が選択される。
【0056】
以上のように、上限値演算部35は、トランスミッション61の速度段が第3速であるときには、ロックアップクラッチLCが係合状態と開放状態とのいずれの状態であっても、第2マップL2に基づいてファン目標回転数の上限値を設定する。トランスミッション61の速度段が第1速又は第2速であり、且つ、ロックアップクラッチLCが係合状態であるときにも、上限値演算部35は、第2マップL2に基づいてファン目標回転数の上限値を設定する。ただし、トランスミッション61の速度段が第1速又は第2速であり、且つ、ロックアップクラッチLCが開放状態であるときには、上限値演算部35は、第1マップL1に基づいてファン目標回転数の上限値を設定する。第2マップL2では、エンジン回転数が同じであれば第1マップL1よりもファン目標回転数の上限値が小さくなるように設定される。従って、トランスミッション61の速度段が第1速又は第2速であるときには、上限値演算部35は、ロックアップクラッチLCが係合状態であるときのファン目標回転数の上限値を、ロックアップクラッチLCが開放状態であるときのファン目標回転数の上限値よりも低減する。
【0057】
本実施形態に係る作業車両1及び作業車両1の制御方法は、以下の特徴を有する。
【0058】
ロックアップクラッチLCが係合状態であるときには、ロックアップクラッチLCが開放状態であるときよりも、ファン目標回転数の上限値が低減される。ロックアップクラッチLCが開放状態であるときは、エンジン5からの駆動力は、トルクコンバータ60において、トルクコンバータ油を介して伝達される。このため、トルクコンバータ油の発熱が大きい。一方、ロックアップクラッチLCが係合状態であるときには、トルクコンバータ60の入力軸と出力軸とがロックアップクラッチLCを介して直結される。このため、トルクコンバータ油の発熱が小さい。従って、ロックアップクラッチLCが係合状態であるときには、ロックアップクラッチLCが開放状態であるときよりも、トルクコンバータ油を冷却するための冷却能力が小さくてもよい。このため、ロックアップクラッチLCが係合状態であるときにファン目標回転数の上限値を低減することにより、冷却能力が過剰となることが抑えられ、燃費を向上させることができる。
【0059】
また、ロックアップクラッチLCが開放状態であるときには、第1マップL1に基づいてファン目標回転数の上限値が設定される。第1マップL1が用いられると、第2マップL2が用いられるときよりも、ファン目標回転数の上限値が高く設定される。このため、高い冷却能力を確保することができる。一方、ロックアップクラッチLCが係合状態であるときには、第2マップL2に基づいてファン目標回転数の上限値が設定される。このため、ファン目標回転数の上限値が低く設定されることにより、冷却能力が過剰となることが抑えられ、燃費を向上させることができる。
【0060】
また、トランスミッション61の速度段が最高速度段である第3速であるときには、ロックアップクラッチLCが開放状態であっても、第2マップL2に基づいてファン目標回転数の上限値が設定される。トランスミッション61の速度段が高速の速度段であるときには、冷却ファン72による冷却能力が低くても、作業車両1のヒートバランスを良好に保つことが容易である。このため、ロックアップクラッチLCが開放状態であっても、冷却能力が不足することが抑えられる。また、冷却ファン72による冷却能力が過剰となることが抑えられ、燃費を向上させることができる。
【0061】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0062】
例えば、上記の実施形態では、作業車両1としてブルドーザが例示されているが、他の作業車両に本発明が適用されてもよい。
【0063】
上記の実施形態では、エンジン回転数とファン目標回転数の上限値との関係を示す情報として、マップが用いられているが、情報の形式はマップに限られない。例えば、テーブル或いは計算式などが、エンジン回転数とファン目標回転数の上限値との関係を示す情報として用いられてもよい。
【0064】
上記の実施形態では、ファン目標回転数の上限値の演算に用いるマップを第1マップL1と第2マップL2とから選択しているが、3つ以上のマップから選択されてもよい。
【0065】
上記の実施形態では、トランスミッション61の速度段が第3速であるときに、ロックアップクラッチLCの状態に関わらずに、第2マップL2が選択されている。しかし、トランスミッション61の速度段が、第3速に限らず、最低速度段よりも高速の所定の高速度段であるときに、ロックアップクラッチLCの状態に関わらずに第2マップL2が選択されてもよい。例えば、トランスミッション61の速度段が、第2速であるときに、ロックアップクラッチLCの状態に関わらずに第2マップL2が選択されてもよい。また、トランスミッション61の最高速度段は第3速に限らず第4速以上であってもよい。従って、トランスミッション61の速度段が、第4速であるときに、或いは、トランスミッション61の速度段が、第3速又は第4速であるときに、ロックアップクラッチLCの状態に関わらずに第2マップL2が選択されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、冷却能力が過剰となることを抑えることにより燃費を向上させることができる効果を有する。従って、本発明は、作業車両及び作業車両の制御方法として有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 作業車両
5 エンジン
2 走行装置
6 動力伝達機構
9 制御部
16 油圧ポンプ
60 トルクコンバータ
61 トランスミッション
71 油圧モータ
72 冷却ファン
LC ロックアップクラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
車両を走行させるための走行装置と、
ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、トランスミッションとを有し、前記エンジンからの駆動力を前記走行装置に伝達する動力伝達装置と、
前記エンジンの冷却液と前記トルクコンバータの動力伝達流体とを冷却する冷却ファンと、
前記冷却ファンを駆動する油圧モータと、
前記エンジンによって駆動され、前記油圧モータを駆動するための作動油を吐出する油圧ポンプと、
エンジン回転数に応じて前記冷却ファンの目標回転数の上限値を設定する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ロックアップクラッチが係合状態であるときには、前記ロックアップクラッチが開放状態であるときよりも、前記目標回転数の上限値を低減する、
作業車両。
【請求項2】
前記制御部は、前記エンジン回転数と前記目標回転数の上限値との関係を示す第1情報と、前記エンジン回転数と前記目標回転数の上限値との関係を示し前記第1情報よりも前記目標回転数の上限値を低く設定するための第2情報とを記憶しており、
前記制御部は、前記ロックアップクラッチが開放状態であるときには、前記第1情報に基づいて前記目標回転数の上限値を設定し、前記ロックアップクラッチが係合状態であるときには、前記第2情報に基づいて前記目標回転数の上限値を設定する、
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記制御部は、前記トランスミッションの速度段が最低速度段よりも高速の所定の高速度段であるときには、前記ロックアップクラッチが係合状態と開放状態とのいずれの状態であっても、前記第2情報に基づいて前記目標回転数の上限値を設定する、
請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
エンジンと、車両を走行させるための走行装置と、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータとトランスミッションとを有し前記エンジンからの駆動力を前記走行装置に伝達する動力伝達装置と、前記エンジンの冷却液と前記トルクコンバータの動力伝達流体とを冷却する冷却ファンと、前記冷却ファンを駆動する油圧モータと、前記エンジンによって駆動され、前記油圧モータを駆動するための作動油を吐出する油圧ポンプとを備える作業車両の制御方法であって、
エンジン回転数に応じて前記冷却ファンの目標回転数の上限値を設定する処理を備え、
前記目標回転数の上限値を設定する処理では、前記ロックアップクラッチが係合状態であるときには、前記ロックアップクラッチが開放状態であるときよりも、前記目標回転数の上限値を低減する、
作業車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−92691(P2012−92691A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239227(P2010−239227)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】