説明

使用済みニッケル水素電池に含有される活物質からのニッケル、コバルトの分離方法

【課題】 ニッケル水素電池を構成する正・負極活物質から、ニッケル、コバルトおよび希土類元素を分離、回収する方法を提供する。
【解決手段】 ニッケル水素電池の正・負極活物質含有物からのニッケル、コバルトおよび希土類元素の分離方法であって、以下の3工程を有してニッケルおよびコバルトを含有する硫化物と希土類元素を含有する硫酸塩とを得ることを特徴とするものである。
(1)正・負極活物質含有物を、硫酸溶液に混合、溶解した後、浸出液と残渣とに分離する浸出工程。
(2)その浸出液に、アルカリ金属の硫酸塩を添加して、希土類元素の硫酸複塩混合沈殿と脱希土類元素液とを得る希土類晶出工程。
(3)脱希土類元素液に硫化剤を添加して、ニッケルおよびコバルト硫化物原料と残液とに分離する硫化物原料回収工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済み、および製造工程内で発生したスクラップなどのニッケル水素電池の正・負極活物質から、ニッケルやコバルトおよび希土類を分離する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中に放出される窒素酸化物、硫黄酸化物等の酸性ガスに起因する酸性雨、炭酸ガス等による地球温暖化などの環境問題が、地球規模の課題としてクローズアップされている。その原因の一つである自動車の排気ガスによる汚染を低減するため、ニッケル水素電池などの2次電池を搭載したハイブリッド自動車が注目されている。
【0003】
このニッケル水素電池は、機能的な部材として、正極、負極、電極端子及び電解液を有し、さらに構造的部材として、電極基板、正負極の電極間に設けられるセパレータ、およびこれらを収納するケース等から構成されている。
正極活物質は、微量添加元素を含む水酸化ニッケルから、負極活物質はニッケル、コバルト、希土類元素(ミッシュメタル)等を含む水素吸蔵合金から、電極基板はニッケル板または発泡Ni板、およびニッケルメッキ鉄板等から、セパレータは合成樹脂から、電解液は水酸化カリウム水溶液から、電極端子材は銅、鉄系金属等から、ケースは合成樹脂、鋼等からと様々な素材や成分から構成されている。
【0004】
そのニッケル水素電池の構造としては、まず、正負極の電極間に、合成樹脂をセパレータとして挟みながら正極と負極とを交互に積み重ねた電極が存在する。この電極本体を、合成樹脂や鋼製のケースに入れ、銅又は鉄系金属の電極端子材を電極とケースとの間に接続し、最後に電極間に水酸化カリウム溶液を主成分とする電解液を満たして密封されている。
【0005】
ところで、ハイブリッド自動車に搭載された大容量のニッケル水素電池は、使用に伴って劣化した際に新品と交換され、或いは廃車の際取り外されて、使用済みニッケル水素電池として排出される。また、ニッケル水素電池の製造工程において発生した不良品や、電池に組み立てられずに不要となった活物質や正・負極材などの部材、さらには試作品も発生する。この使用済みニッケル水素電池や不良品、部材、試作品など(以下、これら不良品や部材や試作品などもニッケル水素電池とまとめて称する)には、前述のように、ニッケル、コバルト、希土類元素など多種類の稀少な有価金属を含有するので、これらの有価金属を回収し再び利用することが検討されてきた。
【0006】
しかしながら、ニッケル水素電池は、複雑かつ頑丈な構造であり、しかも構成する材料の多くが化学的に安定なものである。また、使用済み電池を不用意に解体すると、電池内部で部分的に短絡が生じて発熱し発火するなどの異常事態が生じることがあるため、解体する場合は事前に、電池の残留電荷を放電・除去するなど、失活化処理が必要となる。したがって、使用済みニッケル水素電池に含有されるニッケル、コバルト、希土類元素などの金属を分離して回収し、新たな電池の材料として再利用することは容易ではなかった。
【0007】
そこで、近年実際に行われるようになってきた、使用済みニッケル水素電池からの金属リサイクル方法として、例えば、使用済みニッケル水素電池を炉に入れて熔解し、電池を構成する合成樹脂等は燃焼にして除去し、さらに大部分の鉄をスラグ化して除去し、ニッケルを還元して鉄の一部と合金化したフェロニッケルとして回収する方法がある。この方法は、既存の製錬所の設備をそのまま利用でき、処理に手間がかからないという利点があるが、回収されたフェロニッケルは、ステンレスの原料以外の用途には適さず、しかも、コバルトや希土類元素は、ほとんどがスラグ中に分配されて廃棄され、フェロニッケルに分配された分も不純物としての扱いであるため、希少なコバルトや希土類元素の有効利用という側面で、望ましい方法とは言えなかった。
【0008】
また、他の方法として、例えば、特許文献1に参照するように、使用済みニッケル−金属水素化物蓄電池から金属を回収する方法において、蓄電池スクラップを酸で溶解させて水相を形成する工程、その水相から希土類金属を複硫酸塩として分離する工程、次いでpHを上昇させることによって水相から鉄を沈殿させる工程、鉄沈殿後の濾液を、有機抽出剤を用いて液/液抽出して、亜鉛、カドミウム、マンガン、アルミニウム、残留した鉄及び希土類元素を分離し、その際抽出剤及びpH値を、抽出後に実質的にニッケル及びコバルトのみが水相内に溶解されて残留し、かつ蓄電池スクラップ内で存在していたのと同じ原子比で残留するように選択する工程、その後、水相からニッケル/コバルト合金として析出させる工程、最後にニッケル/コバルト合金をマスター合金として水素貯蔵合金を製造するために使用する工程からなる方法が提案されている。
【0009】
しかしながら、この方法では、ニッケルとコバルトを電池組成そのままの比率で正確に合金電析させることは容易でなく、液組成や電解条件によって電析する合金の組成が変わってしまう恐れがある。したがって、正確な合金組成を得るには、得られた合金を都度分析し、不足成分を必要量添加して再溶解するなどの手間が余計にかかってしまう。
【0010】
さらに、電池の特性は合金組成で変化することが知られており、その合金組成は、電池の性能を向上させるために新たな成分を添加するなどして変更し、改良され続けているので、電池材料の原料として回収したニッケル合金やコバルト合金が適しているわけではない。
このように、使用済みニッケル水素電池からニッケルやコバルト、さらに希土類元素を回収して再利用できるプロセスは見当たらなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3918041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況に鑑み、本発明はニッケル水素電池を構成する正・負極活物質から、ニッケル、コバルトおよび希土類元素を再利用可能なように分離、回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を達成するために、本発明者らはニッケル水素電池を構成する正・負極活物質の含有物について、浸出工程、希土類晶出工程、硫化工程を順次行うことにより、正・負極活物質に含まれるニッケルおよびコバルトを、ニッケル、コバルトの硫化物を主成分とする硫化物沈澱とし、希土類元素を硫酸塩として効率よく分離できることを見出し、完成に至ったものである。
【0014】
すなわち本発明の第1の発明は、ニッケル水素電池を構成する正・負極活物質の含有物を、下記の(1)〜(3)に示す工程を有する製造方法によって処理し、ニッケルおよびコバルトを含有する硫化物と、希土類元素を含有する硫酸塩を得ることを特徴とするニッケル水素電池の正・負極活物質含有物からのニッケル、コバルトおよび希土類元素の分離方法である。
【0015】
(1)正・負極活物質含有物を、硫酸溶液に混合、溶解した後、浸出液と残渣とに分離する浸出工程。
(2)浸出工程の浸出液に、アルカリ金属の硫酸塩を添加し、希土類元素の硫酸複塩混合沈殿と脱希土類元素液(以下、脱RE液と称す場合もある)とを得る希土類晶出工程。
(3)希土類晶出工程で得られた脱RE液に、硫化剤を添加し、ニッケル・コバルト硫化物原料と残液とに分離する硫化物原料回収工程。
【0016】
本発明の第2の発明は、第1の発明の希土類晶出工程で得られた脱RE液に硫化剤を添加し、含まれる亜鉛を硫化澱物として分離した後に、硫化物原料回収工程で使用される脱RE液として供給する脱亜鉛工程を有することを特徴とするもので、さらに第3の発明は、脱RE液に硫化剤を添加して亜鉛を硫化澱物として分離する際に、中和剤を添加してpHを2.0以上2.5以下の範囲に調整し、このpH範囲を維持しつつ硫化剤を添加して亜鉛を分離することを特徴とするものである。
【0017】
本発明の第4の発明は、第1の発明の浸出工程において、浸出液に正・負極活物質含有物を添加して、浸出液に残留している遊離硫酸と反応させて中和後浸出液と中和後残渣とを得ることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の第5の発明は、第4の発明で得られた中和後残渣を本発明の浸出工程における正・負極活物質含有物、もしくはその一部として用いることを特徴とするものである。
【0019】
本発明の第6の発明は、第1の発明の希土類晶出工程における添加するアルカリ金属の硫酸塩が、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムのうち少なくとも1種類以上であることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の第7の発明は、第1乃至第3の発明において使用される硫化剤が、硫化水素ガス、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウムの中から1種類以上であることを特徴とするものである。
【0021】
本発明の第8の発明は、第1の発明の硫化物原料回収工程において、脱希土類元素液中のニッケル、コバルトを硫化物として回収する際の硫化剤添加時の脱希土類元素液のpHを、2.5以上、4.5以下の範囲に維持することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、以下に示す工業上顕著な効果を奏するものである。
(1)使用済みニッケル水素電池を解体ならびに分別して収集した正・負極活物質含有物から、ニッケルおよびコバルトを、希土類元素と分離して回収できる。
(2)本発明により回収したニッケル・コバルト硫化物は、ニッケルやコバルトの製錬の原料としてそのまま使用することができる。
(3)本発明で得られたニッケル・コバルト硫化物は、硫酸ニッケルやコバルトメタルなど電池材料を生産する工程の原料として使用できる。
(4)既存のニッケル・コバルト製錬工程あるいは電池材料の製造工程をそのまま使用することで、設備にかかるコストを抑制し、省コストで回収を可能とする。
(5)本発明で分離した希土類元素とアルカリ金属との硫酸複塩沈殿物は、既存の希土類元素精製工程の原料として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のニッケル水素電池等の正・負極活物質含有物からニッケルおよびコバルトと、希土類元素とを分離、回収する工程を示す製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のニッケル水素電池を解体ならびに分別して得られる正・負極活物質含有物からのニッケルおよびコバルトの分離方法を、図1に示す工程図に沿って詳細に説明する。
先ず、ニッケル水素電池は解体ならびに分別されて、正・負極活物質含有物を回収する。その回収した正・負極活物質含有物を、下記(1)〜(3)に示す工程を経て処理することで、ニッケルおよびコバルトの硫化物を主成分とする沈澱物として、ニッケルおよびコバルトを回収することを特徴とするものである。
【0025】
(1)浸出工程
ニッケル水素電池を解体ならびに分別して得られる正・負極活物質含有物を、硫酸溶液と混合、加温して溶解する。溶解後、過剰分の硫酸を中和するために更に正・負極活物質含有物を追加添加し、同時に一部の原料を浸出することもできる。この際、液温60℃以上に維持しつつ行うことが望ましい。
【0026】
(2)希土類晶出工程
浸出工程で作製された中和された上澄液を、放冷、固液分離して得られる浸出液に、アルカリ金属硫酸塩を飽和状態になるまで添加、溶解して、希土類元素がアルカリ金属と結びついた硫酸複塩混合沈殿と脱希土類元素液(以下、脱RE液と称する場合もある)とに分離して、回収する。
【0027】
(3)硫化物原料回収工程
希土類晶出工程で硫酸複塩混合沈澱と分離して得られた脱希土類元素液(脱RE液)に、中和剤を添加してpHを2.5以上4.5以下に保持しながら硫化剤を加え、ニッケルおよびコバルトの硫化物を主成分とする沈澱を形成し、その沈殿物(Ni−Co硫化物原料)と残液に分離し、回収する。
なお、この硫化物原料回収工程を、下記(3−1)と(3−2)に示す二段階の処理工程に分けて実施することもできる。
【0028】
(3−1)脱亜鉛工程
希土類晶出工程で硫酸複塩混合沈澱と分離して得られた脱RE液に、中和剤を添加してpHを2.0以上2.5以下の範囲に調整し、次いでその範囲にpHを保持しつつ硫化剤を添加して亜鉛を硫化澱物として分離、除去する。この際、液温を50℃以上に維持しつつ行うことが望ましい。
【0029】
(3−2)硫化物原料回収工程A
脱亜鉛工程で亜鉛硫化澱物を分離して残った脱亜鉛後液に、中和剤を添加してpHを2.5以上4.5以下に保持しながら更に硫化剤を添加して、ニッケルおよびコバルトの硫化物を主成分とする沈澱を生成させ、これを硫化物原料として分離・回収する。この脱亜鉛後液の水溶液自体にも僅かに緩衝性があるが、硫化反応によって生成する遊離酸の濃度が高いため、逆反応を防止する目的で、中和剤によるpH調整を必要とする。
【0030】
なお硫化物原料回収工程は、脱亜鉛工程と硫化物原料回収工程Aの二段階に分けて実施する方が望ましいか、分けずに実施する方が望ましいかは、出発物となる正・負極活物質含有物中の亜鉛品位と、回収する硫化物原料を投入する受入先である、硫酸ニッケルおよび硫酸コバルト、コバルトメタル等を製造する工程における脱亜鉛処理の能力、必要品位等により異なり、ケース毎に試算して選択することが望ましい。
【0031】
この硫化処理に用いる硫化剤としては、硫化水素ガス、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウムなどを用いることができるが、これらのいずれを使用しても構わない。ただし、硫化処理を二段階に分けて実施する場合、脱亜鉛工程では、より選択性が高い硫化処理が可能な硫化水素ガスを用いることが望ましい。
また、硫化ニッケル、硫化コバルトの硫化工程においても、不純物の共沈を抑える必要がある場合は、硫化水素を使用することが望ましい。硫化水素の使用は、液中にアルカリ金属イオンが混入するのを防止する目的でも好ましい。
【0032】
硫化物原料回収工程の硫化処理の際に用いる中和剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどを用いるが、これらに限定されるものではない。一方、液中にアルカリ金属イオンが混入するのを防止する必要がある場合は、ニッケル、コバルトの水酸化物、炭酸塩を使用すると良い。
【0033】
希土類晶出処理に用いるアルカリ金属硫酸塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなどが選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
本発明で得られた回収したニッケルとコバルトの混合硫化物は、混合硫化物原料から硫酸ニッケルおよび硫酸コバルト、コバルトメタル等を製造する、既知の工程に、そのまま原料として投入することができる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって、何ら限定されるものではない。なお、金属成分は、ICP発光分析法を用いて分析した。
使用済みニッケル水素電池を用いて正・負極活物質含有物を回収する方法は、以下の手順に従って行った。
使用済みニッケル水素電池を、モジュールのまま還元焼成炉(電気炉)に装入し、窒素ガスを流して不活性雰囲気としながら550℃の温度に維持し、1時間をかけて還元焙焼して電池を失活化させた。この時、電池の構成部材の一部である合成樹脂は分解され炭化された。この還元焼成済みの電池を取り出し、カッターを用いて破断および裁断し、ドラムタイプの解砕機を用いて解砕した後、目開き0.75mmの篩を用いて湿式分級し、脱水した篩下産物として粉状または凝集塊状の正・負極活物質含有物を回収して、実施例に供する原料とした。
【実施例1】
【0036】
使用済みニッケル水素電池Aから前記手順によって回収した正・負極活物質含有物Aを900g分取し、浸出・中和槽としたビーカーに入れ、これに純水4.7リットルを加え、攪拌しながら、濃度64%硫酸1.0リットルを徐々に添加した。攪拌を継続しながら80℃の液温に維持しつつ3時間撹拌を継続し、正・負極活物質含有物に含有するニッケルやコバルトを硫酸溶液中に浸出して浸出・中和液を得た。
次いで、この浸出・中和液に液のpHが2.0になるまで正・負極活物質含有物Aを追加して加えてスラリーを形成した。なお、最終的な追加添加量は130gであった。
【0037】
次に、上記の浸出・中和工程で得られたスラリーを室温になるまで放冷・静置し、その後ヌッチェと濾瓶、5C濾紙を用いて濾過し、浸出・中和液A:4.3リットルを得た。
【0038】
この浸出・中和液Aを希土類晶出槽としたビーカーに入れ、攪拌しながら硫酸ナトリウム330gを添加し、60分間攪拌後に固液分離して、硫酸複塩混合沈澱(希土類晶出工程回収物A)と、脱RE液Aに分離した。
【0039】
この脱RE液A:4.6リットルを、硫化原料回収槽としたビーカーに移し、攪拌しながら中和剤に炭酸水素ナトリウムを用いて、pH2.5に保持しながら、硫化水素ナトリウム650gを添加して、液中のNiとCoを硫化物として沈殿させた。この沈澱を固液分離で回収し、3リットルの水でレパルプ洗浄した後、脱水して、硫化物原料Aとして回収した。
【0040】
処理の出発物である正・負極活物質含有物、および処理で回収された固形物の、品位と回収量を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1からは、硫化物原料AはNiおよびCoが、Mnや希土類と分離して回収できていることを示している。ここで回収された硫化物原料Aは、混合硫化物原料から硫酸ニッケルおよびコバルトメタルを製造する原料として使用できる品位となっている。
【0043】
また、希土類晶出工程回収物Aは、正・負極活物質含有物と比較すると、Ni、Co、Fe、Mn、Znの希土類に対する混入を大幅に低減できており、希土類混合物を精製する既存工場の工程に、そのまま原料として投入できる品位となっていることがわかる。
【実施例2】
【0044】
使用済みニッケル水素電池Bから前記手順によって回収した正・負極活物質含有物Bを900g分取し、浸出・中和槽としたビーカーに入れ、これに純水4.7リットルを加え、攪拌しながら、濃度64%硫酸1.0リットルを徐々に添加した。攪拌を継続しながら80℃の液温に維持しつつ3時間撹拌を継続し、正・負極活物質含有物に含有するニッケルやコバルトを硫酸溶液中に浸出して浸出・中和液を得た。次に、この浸出・中和液に、液のpHが2.0になるまで正・負極活物質含有物Bを追加して加えてスラリーを形成した。なお、最終的な追加添加量は110gであった。
【0045】
次に、上記の浸出・中和工程で得られたスラリーを室温になるまで放冷・静置し、その後ヌッチェと濾瓶、5C濾紙を用いて濾過し、浸出・中和液B:4.3リットルを得た。
【0046】
この浸出・中和液Bを希土類晶出槽としたビーカーに入れ、攪拌しながら硫酸ナトリウム330gを添加し、60分間攪拌後、固液分離して、硫酸複塩混合沈澱(希土類晶出工程回収物B)と脱RE液に分離した。
【0047】
この脱RE液B:4.6リットルを脱亜鉛槽としたビーカーに入れ、攪拌しながら、炭酸水素ナトリウムを中和剤としてpH2.0〜2.5に保持しつつ、硫化水素をボンベから毎分1gに相当する量の流量で20分間吹き込み、脱亜鉛処理を行ったスラリーを得た。
【0048】
この脱亜鉛処理後のスラリーを固液分離して、亜鉛硫化澱物(脱亜鉛工程回収物B)を分離、除去して、脱亜鉛後液Bを得て、硫化原料回収槽としたビーカーに移した。これを攪拌しながら、炭酸水素ナトリウムを中和剤にしてpH2.5に保持しつつ、硫化水素ナトリウム500gを添加して、液中のNiとCoを硫化物にして沈殿させた。この沈澱を固液分離で回収し、3リットルの水でレパルプ洗浄した後、脱水して、硫化物原料Bとして回収した。
【0049】
処理の出発物である正・負極活物質含有物、および、処理で回収された固形物の、品位と回収量を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2から硫化物原料Bは、NiおよびCoをMnや希土類と分離して回収でき、またZn混入も正・負極活物質含有物と比較すると低減されていることがわかる。実施例2により回収された硫化物原料Bは、混合硫化物原料から硫酸ニッケルおよびコバルトメタルを製造する工程に、そのまま原料として投入できる品位となっている。
【0052】
また、希土類晶出工程回収物Bは、正・負極活物質含有物と比較すると、Ni、Co、Fe、Mn、Znの希土類に対する混入を大幅に低減できており、希土類混合物を精製する既存工場の工程に、そのまま原料として投入できる品位となっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル水素電池の正・負極活物質含有物からのニッケル、コバルトおよび希土類元素の分離方法であって、
下記(1)〜(3)に示す工程を有してニッケル水素電池を構成する正・負極活物質の含有物から、ニッケルおよびコバルトを含有する硫化物と希土類元素を含有する硫酸塩とを得ることを特徴とする。
(1)前記正・負極活物質含有物を、硫酸溶液に混合、溶解した後、浸出液と残渣とに分離する浸出工程。
(2)前記浸出工程で得られた浸出液に、アルカリ金属の硫酸塩を添加して、希土類元素の硫酸複塩混合沈殿と脱希土類元素液とを得る希土類晶出工程。
(3)前記希土類晶出工程で得られた脱希土類元素液に硫化剤を添加して、ニッケルおよびコバルト硫化物原料と残液とに分離する硫化物原料回収工程。
【請求項2】
前記希土類晶出工程で得られた脱希土類元素液に硫化剤を添加して前記脱希土類元素液中の亜鉛を硫化澱物として分離し、分離後の残液を、前記硫化物原料回収工程の脱希土類元素液として供給する脱亜鉛工程を有することを特徴とする請求項1記載のニッケル水素電池の正・負極活物質含有物からのニッケル、コバルトおよび希土類元素の分離方法。
【請求項3】
前記希土類晶出工程で得られた脱希土類元素液に、中和剤を添加してpHを2.0以上2.5以下の範囲に調整し、このpH範囲を維持しつつ硫化剤を添加して前記脱希土類元素液中の亜鉛を硫化澱物として分離し、分離後の残液を前記硫化物原料回収工程の脱希土類元素液として供給する脱亜鉛工程を有することを特徴とする請求項1記載のニッケル水素電池の正・負極活物質含有物からのニッケル、コバルトおよび希土類元素の分離方法。
【請求項4】
前記浸出工程で得られた浸出液に、ニッケル水素電池の正・負極活物質含有物を添加して前記浸出液に残留する遊離硫酸と反応させて、中和後浸出液と中和後残渣とを得て、前記中和後浸出液を前記希土類晶出工程の浸出液として用いることを特徴とする請求項1記載のニッケル水素電池の正・負極活物質含有物からのニッケル、コバルトおよび希土類元素の分離方法。
【請求項5】
前記中和後残渣を、前記浸出工程の正・負極活物質含有物、もしくは正・負極活物質含有物の一部として用いることを特徴とする請求項4記載のニッケル水素電池の正・負極活物質含有物からのニッケル、コバルトおよび希土類元素の分離方法。
【請求項6】
前記添加するアルカリ金属の硫酸塩が、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムのうち少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項1に記載のニッケル水素電池の正・負極活物質含有物からのニッケル、コバルトおよび希土類元素の分離方法。
【請求項7】
前記硫化剤が、硫化水素ガス、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウムの中から1種類以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のニッケル水素電池の正・負極活物質含有物からのニッケル、コバルトおよび希土類元素の分離方法。
【請求項8】
前記硫化物回収工程における硫化剤の添加時の脱希土類元素液のpHを、2.5以上、4.5以下の範囲に維持することを特徴とする請求項1記載のニッケル水素電池の正・負極活物質含有物からのニッケル、コバルトおよび希土類元素の分離方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−25992(P2012−25992A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164306(P2010−164306)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】