説明

便座装置

【課題】 便座の色調選択の自由、接合部の良外観といった意匠性に優れた便座を提供する。
【解決手段】 合成樹脂素材からなる上ケース1及び下ケース3に囲まれた領域にヒーター2を設け、上ケース1と下ケース3との接合部を溶着して一体化させた便座装置において、上ケース1又は下ケース3のいずれか一方の接合部に、光エネルギー吸収性材料で構成した溶着部4を一体化させてなり、他方を光エネルギー透過性材料で構成し、光エネルギー透過性材料を介して光エネルギー吸収性材料に光エネルギーを供給して加熱することにより、上ケース1と下ケース3を溶着した。こうすることで、吸収側の部材全体が黒色である必要でないため、色調選択の自由、接合部の良外観といった意匠性に優れた便座を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰掛便器上面に設置する便座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の便座装置は図1に示すように、上ケースと下ケース、ヒーターユニットからなり、使用者の肌が接する上ケースの内面にヒーターユニットを両面テープ等で貼付した後、上下ケースの内面同士を対向させて治具にセットし、振動溶着により接合する構成となっていた(例えば、特許文献1参照)。振動溶着を行う場合、図5のように、上ケース1あるいは下ケース3のいずれかに溶着代10が設けられ、溶着する際に摩擦熱によりこの部位が溶解して両部材を結合する。このような構成とすれば、例えばシール部材を間に介在させて、ねじ結合等により上下ケースを一体に接合する場合と比較して、加工時間を短く、部品点数を少なくすることができる。
【0003】
このような摩擦による界面発熱での溶着には超音波溶着がある。しかしながら、これら界面発熱による溶着では、上下ケースを対向させた後振動を与えなければならず、振動による微小な移動を伴うため、溶融した樹脂が外部にはみ出すこともあり、外観上からも問題である。また、全周にわたる溶着のばらつきにより部分的に溶着不良が発生し、シール不良及び強度のばらつきを生じることがあった。
【0004】
このような問題を解決する溶着法として、近年、光エネルギーを利用したレーザーによる溶着の検討が進んでいる(例えば、特許文献2参照)。この方法は、光エネルギーの吸収による材料の内部発熱による溶着のため、振動による部材の移動がなく前記溶着方法のような溶融した樹脂のはみ出しなどはない。したがって、接合部においては良好な外観を得ることができる。
【特許文献1】特開平10−165331号公報
【特許文献2】特開2001−71384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この光エネルギーによる溶着を行う場合、それらの部材は、光エネルギーを透過させる透過材料からなる部材と光エネルギーを吸収する吸収材料とからなる部材で構成される必要があった。すなわち透過材料側から光エネルギーを照射し、透過材料を透過した光エネルギーが吸収材料でできた部材に吸収され加熱されることで溶着されている。この光エネルギー供給による発熱を得るためには、吸収材料の色調は黒色が最も吸収効率がよい。
【0006】
しかしながら、近年、トイレ空間においては、トイレの壁紙とのコーディネートから、カラーと模様のバリエーションが要求されており、色調も含めた高い意匠性が要求されている。このため製造側の理由による色調選択の自由を奪うことはできないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、本発明の目的は、色調選択の自由、接合部の良外観といった意匠性に優れた便座を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、合成樹脂素材からなる上ケース及び下ケースに囲まれた領域にヒーターを設け、前記上ケースと下ケースとの接合部を溶着して一体化させた便座装置において、前記上ケース又は下ケースのいずれか一方の接合部に、光エネルギー吸収性材料で構成した溶着部を一体化させてなり、他方を光エネルギー透過性材料で構成し、前記光エネルギー透過性材料を介して前記光エネルギー吸収性材料に光エネルギーを供給して加熱することにより、前記上ケースと前記下ケースを溶着したことを特徴としている。
こうすることで、受け側部材は、部材全てが黒色である必要がなく、所望の接合部位のみに最も吸収率が高い黒色部を配せばよいので、色調選択の自由度が上がる。
【0009】
また、請求項2記載の発明では、前記溶着部は、2色成形によって上ケース又は下ケースと一体化させた。
こうすることで、所望の接合部位が成形の1工程で設けることができるため、後で吸収材料でできた部品を付与するなどの必要がない。また、成形時の熱により溶融固着されるため、吸収材料部材がはがれ落ちることもない。
以上から、吸収側の部材全体が黒色である必要でないため、色調選択の自由、接合部の良外観といった意匠性に優れた便座を提供することができ、溶着方法によって制限を受けていた便座形状、色調の設計自由度が飛躍的におおきくなる。
【0010】
さらに、請求項3の発明では、前記溶着部を、カーボンブラック粒を1〜90wt%の割合で混入した合成樹脂部材とした。
このようにすることで、便座装置の強度を保ちつつ、溶着部の黒色化を好適に行なうことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、便座の意匠性を損なわずに、レーザー溶着法を用いて便座の上ケースと下ケースを容易に溶着することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以上説明した本発明を一層明らかにするために、以下本発明の好適な実施例について説明する。図1は発明に係る実施例を表す便座の斜視図、図3は溶着前後の状態を説明する断面図である。
【0013】
図1において、便座Aは暖房便座であって、合成樹脂素材からなる上ケース1と、シート状に成形された便座ヒーター2と、合成樹脂素材からなる下ケース3とから構成されている。便座ヒーター2は、上ケース1と下ケース3で囲まれた領域に内蔵されている。
【0014】
図2に同便座の断面図および要部拡大図を示す。下ケース3は、レーザー光透過のための光エネルギー透過性材料で成形されている。他方、上ケース1も、下ケース3と同じく光エネルギー透過性材料で形成されており、さらに下ケース3との接合部には光エネルギー吸収性材料からなる溶着部4が、2色成形法等によって上ケース1の基材と一体化されている。上ケースが、レーザー光の受け側部材となる。
【0015】
この溶着部4は、光エネルギーの吸収効率を高めるために、黒色が最も適している。黒色の調整は溶着部4の基材となる樹脂へのカーボンブラック粒の混入割合を変える方法が主に使用されるが、光エネルギーを吸収する材料であればこれに限ったものではない。
【0016】
黒色の調整に使用するカーボンブラック粒の量は、樹脂100重量部に対して、1〜90wt%が好ましい。1wt%以下だと光エネルギーが充分に吸収されず、90wt%以上だと材料強度が弱くなる。
【0017】
また、溶着部4の深さ方向のサイズは、0.1mm以上であることが好ましい。0.1mm以下だと光エネルギーの吸収が少なく、充分に発熱しないため、樹脂が溶融せず所望の溶着強度が得られないといった問題がある。
【0018】
次に便座装置の製造工程を説明する。
便座Aは、上ケース1の内面にヒーター2を貼付した後、上ケース1と下ケース3とを上ケース1に付設された溶着部4を介して接合部同士を組み合わせる。その状態で、図3のように下ケース3の底面側からレーザー光を照射する。下ケース3は光エネルギー透過性素材からなるので、照射した光エネルギーのほぼ全てが下ケース3を透過して(光エネルギーをほぼ反射光7は4%以下)、上ケース1の溶着部4に達する。溶着部4は光エネルギー吸収性素材からなるので光エネルギーは溶着部4を透過せず、溶着部4は次第に加熱していく。そして、溶着部4とそれに対面する下ケースの接合部(溶着リブ10)が溶融状態となり、界面に溶融プール8が形成される。この溶融プール8は近傍にも熱を伝播するため、周囲に加熱影響領域9を生成させる。その後レーザー照射を停止すると、溶融状態にあった接合部は放熱し冷却固化する。この過程を、溶着する便座の内外周全周にわたって走査することにより、一連のレーザー溶着工程が完了する。
【0019】
この上ケース1への溶着部4の付与は、組立による付与など2次加工の工程数削減のためにも2色成形による付与が最も適している。この方法を用いれば、吸収材料による部材4が一体化されるため、はがれなどの心配がなく、また寸法精度的にも精度よく受け側部材へ付与することができる。
【0020】
このようにレーザー光吸収のために受け側の部材の接合部のみに溶着部4を一体化させれば、上ケース1と下ケース3の接合にレーザー溶着を採用しても、全部材を光エネルギーを吸収しやすい色調にする必要がなく、受け側(本実施例では上ケース)の接合部のみを黒色化しておけばよいので、部材の意匠の自由度が高くなる。また、レーザー溶着を用いれば、振動溶着のように工程中に溶着面を移動させる必要が無いため、3次元形状のような複雑形状でも溶着が可能である。したがって、製造方法に縛られない、座り心地の良い形状の便座製作に大きく寄与する。また、溶着のためのエネルギーがレーザーという非接触媒体で供給されるため、溶着面の位置ずれが生じることが無く、外観上からも好適である。さらに、振動溶着では、エネルギーの伝播が界面近傍に限られるが、レーザー溶着ではバルク沖合いまで広がっている。つまり、溶着に寄与する領域が振動溶着よりも広範囲にわたるということであり、当然ながら溶着強度の向上にも寄与する。ところで、レーザー溶着は全周にわたって均一な溶着ができることも利点である。これにより、振動溶着では不可能だった狭く均一な溶着隙間も実現でき、シール性も大幅に向上する。
【0021】
なお、いうまでもないが、溶着部4は下ケース3に一体化させるようにしてもよい。また、溶着部4を一体化する受け側の素材は、光透過性素材に限定されない。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を更に具体的に説明するために便座Aについての実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
(実施例1) 下ケース3を光エネルギー透過側、上ケース1を光エネルギー受け側とし、上ケース接合部全周に光エネルギー吸収部(溶着部4)を2色成形で付与した。材料はポリプロピレン樹脂とした。光エネルギー吸収部には、カーボンブラックを50wt%混入させており、該部の厚みは5mmである。このようにして得られた便座から短冊状に試験サンプルを切り出して、オートグラフを用いて、図4に示すように上下方向の引張断強度測定を行った。
<サンプル作成条件>
レーザー YAGレーザー
発振波長 1.06μm
発振形態 パルス
印加エネルギー 0.8J
ワークスピード 4.0mm
パルス数 100パルス
【0024】
(実施例2) 実施例1において、光エネルギー吸収部の厚みを10mmとしたこと以外は実施例1と同様にして便座を得た。
【0025】
(比較例1) 実施例1において、光エネルギー吸収部の厚みを0.05mmとしたこと以外は実施例1と同様にして便座を得た。
【0026】
(比較例2) 実施例1において、カーボンブラックの添加量を0.5wt%としたこと以外は実施例1と同様にして便座を得た。
【0027】
(比較例3) 実施例1において、カーボンブラックの添加量を95wt%としたこと以外は実施例1と同様にして便座を得た。
【0028】
(比較例4) 実施例2において、カーボンブラックの添加量を0.5wt%としたこと以外は実施例1と同様にして便座を得た。
【0029】
(比較例5) カーボンブラックの添加量を95wt%としたこと以外は実施例2と同様にして便座を得た。
【0030】
(比較例6) 従来の振動溶着にて便座を得た。材料は上記同様ポリプロピレン樹脂である。
【0031】
上記実施例1〜2および比較例1〜6で得られた便座を以下の方法で評価した。
(1)引張強度
得られた便座から切り出したサンプルを、図4に示すように、オートグラフを用いて、上方向へ5mm/minのスピードで引張り、接合部がはがれる強度を確認する。
(2)衝撃強度試験
得られた便座の一部に1500Nの衝撃強度を加え、接合部の割れがないかどうか確認する。割れなければ○、亀裂が入れば×とする。
(3)保護等級2(防滴ii)に対する試験
得られた便座を正規の取付状態で4方向(前後左右)に鉛直から15°傾け、その上方200mm以上の高さから、毎分3(+0.5,0)mmの降水量で水を滴下する。試験時間は、各方向に対し、2.5分間、合計10分間とする。
(4)保護等級4(防まつ形)に対する試験
機器を正規の取付状態にして、その上方300〜500mmの高さから、鉛直から両側180度までの全範囲にわたって、じょろ口を用いて散水する。散水量は毎分10±0.5L、水圧は50〜150kPa(0.51〜1.53kgf/cm)、試験時間は、機器の外郭表面積1m当たり1分間で最低5分間以上とする。漏れがなければ○、涙漏れは△、完全な漏れは×とする。
【0032】
これらの試験結果を表に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
このように、同等以上の強度、防水性能を有していることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る実施例を表す便座装置の斜視図である。
【図2】同便座の断面図および要部拡大図である。
【図3】溶着前後の状態を説明する断面図である。
【図4】引張強度測定を行うサンプルの斜視図である。
【図5】従来技術の振動溶着溶着部の溶着前の断面図である。
【符号の説明】
【0036】
A…便座装置
1…上ケース
2…便座ヒーター
3…下ケース
4…溶着部
5…便座クッション
6…レーザー光
7…反射光
8…溶融プール
9…加熱影響領域
10…溶着リブ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂素材からなる上ケース及び下ケースに囲まれた領域にヒーターを設け、前記上ケースと下ケースとの接合部を溶着して一体化させた便座装置において、前記上ケース又は下ケースのいずれか一方の接合部に、光エネルギー吸収性材料で構成した溶着部を一体化させてなり、他方を光エネルギー透過性材料で構成し、前記光エネルギー透過性材料を介して前記光エネルギー吸収性材料に光エネルギーを供給して加熱することにより、前記上ケースと前記下ケースを溶着したことを特徴とする便座装置。
【請求項2】
前記溶着部は、2色成形によって上ケース又は下ケースと一体化させたことを特徴とする請求項1記載の便座装置。
【請求項3】
前記溶着部を、カーボンブラック粒を1〜90wt%の割合で混入させた合成樹脂部材としたことを特徴とする請求項1又は2記載の便座装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−198074(P2006−198074A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11560(P2005−11560)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】