説明

便座装置

【課題】便座ヒータを備える場合であっても、人体に対する便座からの磁界の影響(電磁波の影響)を十分に低減することのできる便座装置の提供。
【解決手段】便座装置は、金属を含む便座400と、この便座の裏面410F上に電気的に絶縁された状態で配置され電流で発熱する便座ヒータ450と、この便座ヒータに電力を供給するヒータ駆動部と、ヒータ駆動部を制御する制御部とを備えている。上記便座ヒータには、上記裏面410F上に屈曲蛇行する状態で配設された線状ヒータ460A、460Bが含まれている。線状ヒータ460A、460Bには、互いに電気的に絶縁された状態でありかつ互いに略並行して屈曲蛇行した状態で配置される発熱線463A、463Bが含まれている。発熱線463A、463Bは、ヒータ駆動部から電流が供給された場合に、それぞれに流れる電流の進行方向が互いに略反対となるように、ヒータ駆動部に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便座ヒータを有する便座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の便座装置において、冬の時期などの気温が低いときにおいても使用者に不快を感じさせることなく便座に着座してもらうことを意図して、例えば、以下のような構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
すなわち、特許文献1に記載の従来の便座装置においては、マグネシウム合金により形成された便座ケーシングの裏面に線状ヒータ(便座ヒータ)を設けた構成が提案されている。この線状ヒータは、芯線、芯線に巻回される発熱線、ならびに芯線および発熱線を覆う被覆チューブにより構成されている。更に、この線状ヒータは、便座ケーシングの裏面全体にわたって蛇行するように配置されており、発熱線の両端部に電源回路が接続されている。
【0004】
そして、特許文献1に記載の従来の便座装置においては、電源回路から発熱線に電圧が印加されることにより発熱線が発熱し、その熱が被覆チューブに伝わり更に便座ケーシングに伝達されるように構成されている。これにより、便座ケーシングの温度が上昇する。
【特許文献1】特開2003−310485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の便座装置においては、線状ヒータ(便座ヒータ)に設けられた発熱線(導線)に電流を流すと磁界が発生し、その磁界は便座表面から外に放出されることになる。そして、そのときに、便座に使用者が着座していると、磁界の中に人体が入ることになり、人体に対する磁界の影響(電磁波の影響)を十分に低減するという観点からは未だ改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、便座ヒータを備える場合であっても、人体に対する便座からの磁界の影響(電磁波の影響)を十分に低減することのできる便座装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来技術の有する課題を解決するために、本発明は、
使用者が着座するための着座面を有しており、構成材料として金属を含む便座と、
前記便座の前記着座面の裏面上に前記便座に対して電気的に絶縁された状態で配置されており、電流により発熱するシート状の便座ヒータと、
前記便座の暖房が必要なときに前記便座ヒータに電力を供給して発熱させるヒータ駆動部と、
前記ヒータ駆動部を制御する制御部と、
を少なくとも備えており、
前記便座ヒータには、前記便座の前記裏面上に屈曲蛇行する状態で配設された線状ヒータが含まれており、
前記線状ヒータには、互いに電気的に絶縁された状態でありかつ互いに略並行して屈曲蛇行した状態で配置される2本の発熱線が含まれており、
前記2本の発熱線は、前記ヒータ駆動部から電流が供給された場合に、それぞれに流れる電流の進行方向が互いに略反対となるように、ヒータ駆動部に接続されている、
便座装置を提供する。
【0008】
上述の構成とすることにより、本発明の便座装置では、通電時には、2本の発熱線には互いに略逆方向の電流が流れることになる。そのため、一方の発熱線に流れる電流により発生する磁界と他方の発熱線に流れる電流により発生する磁界とは略逆向きとなり、両者は略相殺しあうことになる。そのため発熱線の周囲に発生する磁界(電磁波)を十分に防止することができる。
【0009】
その結果、本発明の便座装置によれば、便座ヒータを備える場合であっても、人体に対する便座からの磁界の影響(電磁波の影響)を十分に低減することができるようになる。
【0010】
また、本発明においては、2本の発熱線が接続されて1本とされていてもよい。すなわち、1本の発熱線をその中央で屈曲させることにより、屈曲点以外の部分は2本の発熱線を並べた状態とすることができる。その2本となった部分を縒り合わせた状態しても上述の本発明の便座装置を構成するこことができ、本発明の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の便座装置によれば、便座ヒータを備える場合であっても、人体に対する便座からの磁界の影響(電磁波の影響)を十分に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の便座装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号付し、重複する説明は省略する。また、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではない。
【0013】
<1>便座装置、衛生洗浄装置、トイレ装置の外観
図1は本発明の好適な実施形態に係る便座装置、衛生洗浄装置、トイレ装置を示す外観斜視図である。
【0014】
図1に示すように、トイレ装置1000はトイレットルーム内に設置される。
【0015】
トイレ装置1000において、便器700には衛生洗浄装置100が取り付けられている。衛生洗浄装置100は、本体部200、遠隔操作装置300、便座部400および蓋部500により構成されている。なお、衛生洗浄装置100の各構成要素から後述の便器ノズル部、ノズル、洗浄水供給機構を除いたものが便座装置110を構成する。
【0016】
図1に示すように、本体部200には、便座部400および蓋部500が開閉可能に取り付けられている。また、本体部200には、図示しない洗浄水供給機構が設けられるとともに、後述の制御部90が内蔵される。
【0017】
図1に示すように、本体部200の正面上部には、着座センサ610が設けられている。この着座センサ610は、例えば反射型の赤外線センサである。この場合、着座センサ610は、人体から反射された赤外線を検出することにより便座部400上に使用者が存在することを検知する。
【0018】
さらに、図1に示すように、本体部200の正面下部には、便器ノズル40が便器700の内側に突出している状態で設けられている。この便器ノズル40は、上述の洗浄水供給機構に接続されている。
【0019】
洗浄水供給機構は、図示しない水道配管に接続されている。これにより、洗浄水供給機
構は、水道配管から供給される洗浄水を便器ノズル40に供給する。それにより、便器ノズル40から便器700の内面の広い範囲に洗浄水が噴出される(便器プレ洗浄)。または、便器ノズル40から便器700の内面の背面側に洗浄水が噴出される(便器後部洗浄)。詳細は後述する。
【0020】
また、洗浄水供給機構は、後述のノズル部(図示せず)に接続されている。これにより、洗浄水供給機構は、水道配管から供給される洗浄水をノズル部に供給する。それにより、ノズル部から使用者の局部に洗浄水が噴出される。
【0021】
遠隔操作装置300には、複数のスイッチが設けられている。遠隔操作装置300は、例えば便座部400上に着座する使用者が操作可能な場所に取り付けられている。
【0022】
入室検知センサ600は、トイレットルームの入口等に取り付けられている。入室検知センサ600は、例えば反射型の赤外線センサである。この場合、入室検知センサ600は、人体から反射された赤外線を検出した場合にトイレットルーム内に使用者が入室したことを検知する。
【0023】
本体部200の制御部90は、遠隔操作装置300、入室検知センサ600および着座センサ610から送信される信号に基づいて、衛生洗浄装置100の各部の動作を制御する。
【0024】
<2>便座装置(便座装置の好適な一実施形態)
(2−a)便座装置の構成
図2は、便座装置110の構成を示す模式図である。便座装置110は、本体部200、遠隔操作装置300、便座部400および入室検知センサ600を備えている。
【0025】
図2に示すように、本体部200は、制御部90、温度測定部401、ヒータ駆動部402、便座温調ランプRA1および着座センサ610を含んでいる。
【0026】
また、便座部400は便座ヒータ450およびサーミスタ401aを備えている。
【0027】
更に、制御部90は、例えばマイクロコンピュータからなり、使用者の入室および便座部400の温度等を判定する判定部、タイマ機能を有する計時部、種々の情報を記憶する記憶部、ならびに、ヒータ駆動部402の動作を制御するための通電率切替回路等を含んでいる。
【0028】
本体部200の温度測定部401は、便座部400のサーミスタ401aに接続されている。これにより、温度測定部401は、サーミスタ401aから出力される信号に基づいて便座部400の温度を測定する。以下、サーミスタ401aを通じて温度測定部401により測定される便座部400の温度を測定温度値と称する。
【0029】
また、本体部200のヒータ駆動部402は、便座部400の便座ヒータ450に接続されている。これにより、ヒータ駆動部402は便座ヒータ450を駆動する。
【0030】
便座装置110は次のように動作する。初期設定時では、制御部90がヒータ駆動部402を制御することにより、便座部400が例えば約18℃となるように温度調整される。このときの温度を待機温度と称する。
【0031】
ここで、使用者が遠隔操作装置300の便座温度調整スイッチ333を操作することにより、便座設定温度が制御部90に送信される。制御部90は、遠隔操作装置300から
受信した便座設定温度を記憶部に記憶する。
【0032】
使用者がトイレットルームに入室すると、入室検知センサ600が使用者の入室を検知する。それにより、使用者の入室検知信号が制御部90に送信される。
【0033】
次に、通常の使用時の動作について説明する。制御部90の判定部は、入室検知センサ600からの入室検知信号により使用者のトイレットルームへの入室を検知する。そこで、判定部は、便座部400の測定温度値、および記憶部に記憶された便座設定温度に基づいて便座ヒータ450の駆動に関する特定のヒータ制御パターンを選択する。
【0034】
通電率切替回路は、選択されたヒータ制御パターンおよび計時部により得られる時間情報に基づいてヒータ駆動部402の動作を制御する。
【0035】
それにより、ヒータ駆動部402により便座ヒータ450が駆動され、便座部400の温度が便座設定温度へと瞬時に上昇される。
【0036】
(2−b)本実施形態の便座装置に搭載される便座部400の説明
図3は、本実施形態の便座装置に搭載される便座部400の分解斜視図である。
【0037】
図4は、本実施形態の便座装置に搭載される便座部400における上部便座ケーシング410と、便座部400の便座ヒータ450とを示す分解平面図である。
【0038】
図5は、本実施形態の便座装置に搭載される便座部400の上部便座ケーシング410に取り付けられる便座ヒータ450の詳細な構造を示す断面図である。この図5は後述する図6に示す軸Yに平行な直線に沿って図6に示す第1便座ヒータ450Aを切断した場合の断面を示す断面図である。
【0039】
図6は、図4に示した便座ヒータ450のうち、上部便座ケーシング410に近い側に配置される第1便座ヒータ450Aを示す平面図である。
【0040】
図7は、図5に示した断面図のうち、上部便座ケーシング410と、第1便座ヒータ450Aとの断面を示す断面図である。
【0041】
図3に示すように、便座部400は、主としてアルミニウムにより形成された略楕円形状の上部便座ケーシング410、略馬蹄形状の便座ヒータ450および合成樹脂により形成された略楕円形状の下部便座ケーシング420を備えている。
【0042】
以下の説明では、便座部400に着座した使用者が前方正面を見たときの目線の方向に基づいて、着座した使用者から見た便座部400の前方側を便座部400の前部とし、着座した使用者から見た便座部400の後方側を便座部400の後部として説明する。
【0043】
図3および図4に示すように、便座ヒータ450は、前部の一部が切り取られた略馬蹄状に形成されている。なお、便座ヒータ450は、略楕円形状を有していてもよい。
【0044】
図4及び図5に示すように、便座ヒータ450は、上部便座ケーシング410の着座面410Uの裏面410Fに近い側に配置される第1便座ヒータ450Aと、上部便座ケーシング410の着座面410Uの裏面410Fから遠い側に配置される第2便座ヒータ450Bとが重ねあわされた構成を有している。第1便座ヒータ450Aと、第2便座ヒータ450Bとは、略同一の大きさと略同一の略馬蹄状の形状を有している。
【0045】
また、図5に示すように、上部便座ケーシング410と第1便座ヒータ450Aとの間には後述する粘着層452aが配置されている。この粘着層452aにより上部便座ケーシング410と第1便座ヒータ450Aとが粘着されている。
【0046】
更に、図5に示すように、第1便座ヒータ450Aは、粘着層452aに隣接して配置(粘着層452aの下側に隣接して配置)される金属層451と、金属層451に隣接して配置(金属層451の下側に隣接して配置)される粘着層452bと、粘着層452bに隣接して配置(粘着層452bの下側に隣接して配置)される熱伝導性を有する第1のシート492と、金属層451と粘着層452bとの間に屈曲蛇行した状態で配設される第1線状ヒータ460Aとを含む構成を有している。
【0047】
ここで、第1のシート492は後述する第2のシート493に比較して高い熱伝導性を有している。
【0048】
また、図5に示すように、第2便座ヒータ450Bは、第1便座ヒータ450Aの最下部に位置する第1のシート492に隣接して配置(第1のシート492の下側に隣接して配置)される粘着層452cと、粘着層452cに隣接して配置(粘着層452cの下側に隣接して配置)される断熱性を有する第2のシート493と、粘着層452cと第2のシート493との間に屈曲蛇行した状態で配設される第2線状ヒータ460Bとを含む構成を有している。
【0049】
ここで、第2のシート493は上記第1のシート492に比較して高い断熱性を有している。
【0050】
次に、第1便座ヒータ450Aの第1線状ヒータ460Aについて説明する。図6に示すように第1線状ヒータ460Aは、シート中央部SE3からシート一方端部SE1までの領域およびシート中央部SE3からシート他方端部SE2までの領域において上部便座ケーシング410の形状に合わせて屈曲蛇行する状態で配設されている。
【0051】
図6に示すように、第1線状ヒータ460は、シート中央部SE3の両側へ向けて一方のシート端部SE1までの領域およびシート中央部SE3から他方のシート端部SE2までの領域において上部便座ケーシング410の形状に合わせて左右方向{図6に示す軸Yに略垂直な方向}に蛇行する状態で配設されている。
【0052】
より具体的に説明すると、第1線状ヒータ460Aは、図6に示す軸Y(便座部400に着座した使用者が前方正面を見たときの目線の方向に略平行な方向)に略垂直な方向に形成される直線部Tと、図6に示す軸Yに略垂直な方向に形成される屈曲部Kとが連続して連結され、全体として屈曲蛇行する状態で配設されている。
【0053】
そして、図6に示すように、第1線状ヒータ460Aのシート端部SE1の側の部分と、第1線状ヒータ460Aのシート端部SE2の側の部分とは、図6に示す軸Yに対して互いに線対称となる構成を有している。
【0054】
図6に示すように第1線状ヒータ460Aのヒータ始端部460Aa(ヒータ駆動部402から供給される電流の流入端)は、リード線470A1に接続されている。また、第1線状ヒータ460Aのヒータ終端部460Ab(電流の流出端)は、リード線470A2に接続されている。
【0055】
次に、第2便座ヒータ450Bの第2線状ヒータ460Bについて説明する。第2線状ヒータ460Bは、以下図4に示すリード線470B1及びリード線470B2と接続さ
れる構造を第1線状ヒータ460Aと異なる構造として電流の流れる進行方向を第1線状ヒータ460Aと略略反対となるように構成したこと以外の構造は第1線状ヒータ460Aと略同一の構造を有する。
【0056】
すなわち、図4に示すように、第2線状ヒータ460Bのヒータ始端部460Ba(ヒータ駆動部402から供給される電流の流入端)は、リード線470B1に接続されている。また、第2線状ヒータ460Bのヒータ終端部460Bb(電流の流出端)は、リード線470B2に接続されている。すなわち、第2線状ヒータ460Bでは、第1線状ヒータ460Aのヒータ終端部460Ab(電流の流出端)に相当する端部がヒータ始端部460Ba(ヒータ駆動部402から供給される電流の流入端)とされ、第1線状ヒータ460Aのヒータ終端部460Aa(電流の流入端)相当する端部がヒータ終端部460Bb(電流の流出端)とされている。
【0057】
さらに、図4および図5に示すように、第1線状ヒータ460Aと第2線状ヒータ460Bとは、互いに電気的に絶縁された状態でありかつ互いに略並行して屈曲蛇行した状態で配置されている。特に、本実施形態の第1線状ヒータ460Aと第2線状ヒータ460Bとは、それぞれの軸心間の距離を略一定に保って並走するようにして屈曲蛇行した状態で配置されている。
【0058】
これにより、前記2本の発熱線は、ヒータ駆動部402から電流が供給された場合、第1線状ヒータ460A流れる電流の進行方向と、第2線状ヒータ460B流れる電流の進行方向とが互いに略反対となるように構成されている。
【0059】
ここで、本実施形態においては、ヒータ駆動部402に対して、第1線状ヒータ460Aと第2線状ヒータ460Bとにそれぞれ独立に電流が流れる構成としてもよい。また、本実施形態においては、第1線状ヒータ460Aのヒータ終端部460Ab(第1線状ヒータ460Aの電流の流出端)と第2線状ヒータ460Bのヒータ始端部460Ba(第2線状ヒータ460Bの電流の流入端)とを電気的に接続し、第1線状ヒータ460Aと第2線状ヒータ460Bとを1本の線状ヒータとし、この1本の線状ヒータにヒータ駆動部402から電流を供給する構成としてもよい。
【0060】
このように、本実施形態においては、ヒータ駆動部402から電流が供給された場合、第1線状ヒータ460A流れる電流の進行方向と、第2線状ヒータ460B流れる電流の進行方向とが互いに略反対となるように構成することにより、図8に示すように、第1線状ヒータ460Aに発生する磁界と、第2線状ヒータ460Bに発生する磁界とが互いに略打ち消し合うようになる。これにより便座ヒータ450全体として磁界の影響(電磁波の影響)を最小限にできるようにされている。
【0061】
さらに、本実施形態においては、第1線状ヒータ460Aと第2線状ヒータ460Bとの配置位置を調節し、便座ヒータ450全体として磁界の影響(電磁波の影響)を最小限にできるようにしている。すなわち、第1線状ヒータ460Aと第2線状ヒータ460Bとを略平行となるよう配置し、略全域にわたり電流の方向を略逆になるようにすることや、第1線状ヒータ460Aと第2線状ヒータ460Bとの軸心の間隔Sab(図8参照)を調節することである。
【0062】
また、上述のように、第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460Bを屈曲蛇行させて配置することで、限られた便座部400の着座面410Uの裏面410Fのスペースを有効活用しつつ、この裏面410における第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460Bの接地面積を十分に確保できる。これにより、迅速な便座部400の暖房と精密な温度管理がより確実にできるようになる。
【0063】
また、本実施形態では、第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460Bは、それぞれの屈曲部Kが図4に示すように、便座ヒータ450の内縁部分と外縁部分に位置する構成を有する。これにより、隣り合う屈曲部K間の間隔を比較的短くすることができる。したがって、第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460Bの熱膨張および熱収縮に起因する長さ変化が起こり、線状ヒータ460が伸縮しても、屈曲部Kにおいて伸縮による歪が吸収および緩衝されるようになる。その結果、線状ヒータ460の熱膨張および熱収縮に起因するストレスが小さくなり、長期間使用しても便座ヒータ450の破損の発生を十分に抑制できるようになる。
【0064】
また、第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460Bの熱的伸縮が小さいと、金属層451などに対する粘着層452a、粘着層452bの密着性を長期間良好に維持することができる。それにより、便座ヒータ450の加温を長期にわたり効率的にかつ確実に行うことができる。
【0065】
次に、便座部400の上部便座ケーシング410の詳細な構造について説明する。
【0066】
図5に示すように、上部便座ケーシング410は、アルミニウム板413を主として含む構成を有する。このアルミニウム板413は例えば厚さ1mmで形成されている。
【0067】
アルミニウム板413の上面には、アルマイト層412および表面化粧層411が形成されている。表面化粧層411の上面が着座面410Uとなる。また、アルミニウム板413の下面には、塗装膜414が形成される。塗装膜414は、例えば膜厚40μmおよび150℃の耐熱性を有するポリエステル粉体塗装膜である。塗装膜414は後述する金属層451とアルミニウム板413との電気的な絶縁を行う機能も有する。
【0068】
なお、アルミニウム板413の代わりに、銅板、ステンレス板、アルミニウムめっき鋼板および亜鉛アルミニウムめっき鋼板のうちのいずれかを用いてもよい。さらに、アルミニウム板413、銅板、ステンレス板、アルミニウムめっき鋼板および亜鉛アルミニウムめっき鋼板のうちの2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
次に、便座ヒーター450の詳細な構造について説明する。
【0070】
本実施形態では、先に述べた上部便座ケーシング410の塗装膜414の下面に粘着層452aを介して例えばアルミニウムからなる金属層451が貼着されている。
【0071】
金属層451の膜厚は、例えば50μmである。また、粘着層452aは金属層451と塗装膜414とに対する十分な接着性を有している。粘着層452aは金属層451と塗装膜414とに対する十分な接着性を有していればその構成成分は特に限定されない。
【0072】
第1線状ヒータ460Aは、断面円形の発熱線463Aと、この発熱線463Aの外周面を覆うエナメル層464Aとからなるエナメル線465Aを含んでいる。さらに、第1線状ヒータ460Aは、エナメル線464Aの外周面を覆う絶縁被覆層462Aを有している。
【0073】
第2線状ヒータ460Bは、断面円形の発熱線463Bと、この発熱線463Bの外周面を覆うエナメル層464Bとからなるエナメル線465Bを含んでいる。さらに、第1線状ヒータ460Bは、エナメル線464Bの外周面を覆う絶縁被覆層462Bを有している。
【0074】
発熱線463A及び発熱線463Bは、例えば0.16〜0.25mmの直径を有し、銅または銅合金からなる。本実施形態では、発熱線463A及び発熱線463Bとして、直径0.176mmの4%Ag−Cu合金からなる高抗張力型ヒータ線が用いられる。抵抗値は0.833Ω/mである。
【0075】
第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460Bの外径は、例えば0.46〜0.50mmである。第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460Bの電力密度は、例えば0.95W/cmである。
【0076】
図5に示すように、第1線状ヒータ460Aは、金属層451と粘着層452bとの間に屈曲蛇行した状態で配設されている。さらに、粘着層452bの下側には熱伝導性を有する第1のシート492が隣接して配置されている。
【0077】
また、粘着層452bは金属層451と高熱伝導性を有する第1のシート492に対する十分な接着性を有している。粘着層452bは金属層451と第1のシート492とに対する十分な接着性を有していればその構成成分は特に限定されない。
【0078】
第1のシート492は、十分な熱伝導性を有していれば特にその構成成分は限定されない。特に、第1のシート492は、後述する第2のシート493よりも高い熱伝導性を有している。この第1のシート492は、例えば、第1のシート492と同様にアルミニウムからなる層であってもよい。第1のシート492の膜厚は、例えば、50μmであってもよい。
【0079】
エナメル層464A及びエナメル層464Bは、例えば180〜300℃の耐熱性を有するポリエステルイミド(PEI)からなる。エナメル層464A及びエナメル層464Bの膜厚は、20μm以下であることが好ましく、12〜13μmであることがより好ましい。
【0080】
このようなエナメル線465A及びエナメル線465Bは、エナメル層464A及びエナメル層464Bの膜厚が極薄い0.01〜0.02mm程度であっても、電気用品技術基準である1000Vで1分間以上の電気絶縁耐圧性能を十分確保することができる。
【0081】
また、エナメル層464A及びエナメル層464Bの材料として、ポリイミド(PI)またはポリアミドイミド(PAI)を用いてもよい。
【0082】
また、図5に示すように、第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460Bにおいて、単一のエナメル線465A及びエナメル線465Bにそれぞれ絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462Bを設けることにより二重の絶縁構造で絶縁性(アルミニウム板413に対する、第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460Bの絶縁性)をより確実に得ることができる。
【0083】
絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462Bは、例えば260℃の耐熱性を有するペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(以下PFAと称する)等のフッ素樹脂からなる。絶縁被覆層462の厚みは、例えば0.1〜0.15mmである。PFAからなる絶縁被覆層462の形成は、押出し加工により行うことができる。この場合、絶縁被覆層462の厚みが0.05〜0.1mmと薄くても、雷サージにも耐える電気絶縁耐圧性能を確保することができる。
【0084】
ここで、絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462Bは比較的薄くても十分な絶縁性が得られる。そのため本実施形態では、第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460
Bにおいて、合成樹脂を主成分として含む層(エナメル層464A、エナメル層464B、絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462B)の厚さは、0.12mm程度であり、極めて薄い。この場合、発熱線463aから金属層451および便座ケーシング410への熱伝導を極めて俊敏に行うことができる。
【0085】
なお、絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462Bの材料として、ポリイミド(PI)またはポリアミドイミド(PAI)を用いてもよい。
【0086】
ちなみに従来の便座装置においては、線状ヒータのシリコーンゴムまたは塩化ビニール等からなる被覆チューブの厚さは、上記の例の約10倍の1mm程度ある。このような被覆チューブの熱伝導速度は桁違いに遅く、便座の昇温速度を速くすることはできなかった。
【0087】
従来の便座装置において便座の昇温速度を無理やり速くするためにヒータ線に大きい電力を供給した場合、断熱状態でヒータ線の温度を高くした場合と同様に、被覆チューブが溶融および焼損する。そのため、このような方法による便座の昇温は実用できなかった。
【0088】
一方、本実施形態のように耐熱性能に優れたエナメル線465A及びエナメル線465Bをヒータ線として使用した場合、十分短時間で便座を昇温でき、かつ電気絶縁性および安全性を確保できる。したがって、本実施形態の構造は、種々の便座装置に有効に実用することができる。
【0089】
また、本実施形態の構造では、合成樹脂を主成分として含む層(エナメル層464A、エナメル層464B、絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462B)を0.1〜0.4mm程度の薄い厚さで形成できる。それにより、発熱線463aおよび樹脂層の絶対温度が低い温度に維持された状態で、便座を急速に昇温させることができる。その結果、高価な耐熱絶縁材料でなく比較的安価な絶縁材料を用いることができる。
【0090】
また、本実施形態においては、第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460Bの熱を便座ケーシング410に効率よく伝達するために、第1線状ヒータ460Aを、例えばアルミニウムからなる金属層451と、例えば、アルミニウムからなる熱伝導性を有する第1のシート492で挟んでいる。
【0091】
また、第2線状ヒータ460Bの外側(下側に)、断熱性を有する第2のシート493を配置している。
【0092】
これにより、第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460Bの熱は断熱性を有する第2のシート493により、便座ヒータ450の外側(下側に)逸散することを十分に防止される。そして、第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460Bの熱は、金属層451及び第1のシート492により上部便座ケーシング410のアルミニウム板413に効率よく伝達されることになる。
【0093】
すなわち、便座ヒータ450に電流を流すと、断熱性の第2のシート493上の第2線状ヒータ460Bの熱は第2のシート493の効果で第2のシート493の外側に流れにくく、熱伝導性を有する第1のシート492を通して、上部便座ケーシング410側に伝わる。さらに、第1のシート492上の第1線状ヒータ460Aの熱も、上部便座ケーシング410側に伝わることで、2つの線状ヒータ460(第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460B)の熱を効率よく着座面410Uに伝え、少ないエネルギーで着座面410Uを暖めることが可能である。
【0094】
また、この便座ヒータ450に電流を流すと、2本の線状ヒータ460(第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460B)には略逆の進行方向の電流が流れるため、それぞれの線状ヒータ460(第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460B)から発生する磁界は互いに略逆方向となり両者が相殺しあう。そのため、この便座ヒータ450の周囲にはほとんど磁界は発生しない。従って、着座面410Uから磁界がほとんど放出されなくなる。
【0095】
なお、熱伝導性を有する第1のシート492としては上述のようにアルミニウムからなるシートが好ましくあげられる。また、第2のシート493としては独立気泡ポリエチレンシートが好ましくあげられる。
【0096】
また、第1のシート492及び第2のシート493の構成材料の成分組成を略同一にして、第1のシートの厚さを第2シートの厚さよりも小さくしてもよい(薄くしてもよい)。この場合にも第1のシート492には第2のシート493よりも高い熱伝導性を付与し、第2のシート493には第1のシート492よりも高い断熱性を付与することができる。
【0097】
更に、本実施形態においては、エナメル層(エナメル層464A及びエナメル層464B)および絶縁被覆層(絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462B)を薄くできるので、線状ヒータ(第1線状ヒータ460A及び第2線状ヒータ460B)の外径を細く(約φ0.2〜φ0.4)できる。この場合、金属層451と第1のシート492とを貼り合わせる際に、金属層451と第1のシート492との間の隙間を小さくすることができるとともに、金属層451と第1のシート492のしわを少なくすることができる。それにより、エナメル線(エナメル線465A及びエナメル線465B)の局所高熱が抑制され、エナメル線463の断線および電気的絶縁に寄与する層(エナメル層464A、エナメル層464B、絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462B)の損傷が防止される。その結果、便座装置110の長寿命化が可能になる。
【0098】
また、エナメル線(エナメル線465A及びエナメル線465B)を細くできるので、便座ヒータ450の重量を低減でき、便座開閉トルクを小さくすることができる。それにより、便座開閉用の電動開閉ユニットを小型化でき、便座装置110の小型化が可能となる。
【0099】
(2−c)変形態様
以上、本発明の便座装置の好適な一実施形態に搭載される便座部400について説明したが、本発明の便座装置に搭載される便座部は上述した便座部400に限定されるものではない。
【0100】
例えば、発熱線の断面形状は、図5に示した発熱線463A及び発熱線463Bのように断面円形状に限定されるものではない。例えば、発熱線の断面形状は、断面矩形状であってもよい。この発熱線の断面形状とする場合、発熱線は物理蒸着法、化学蒸着法などの公知の薄膜製造技術により形成される薄膜状のものであってもよい。
【0101】
(2−d)本実施形態の便座装置に搭載される便座ヒータ450の動作
次に、便座ヒータ450の動作について説明する。
【0102】
便座ヒータ450の第1線状ヒータ460Aと第2線状ヒータ460Bとに一定の電圧が印加されると、内部の発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)を電流が流れ、この発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)が発熱する。このとき、発生した熱は、発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)からエナメル層(エナメル層464A及び
エナメル層464B)、金属層451、第1のシート493を通って上部便座ケーシング410の着座面410Uに伝導する。
【0103】
線状ヒータ(第1線状ヒータ460Aと第2線状ヒータ460B)は、絶縁被覆層(絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462B)が260℃程度の耐熱性を有するPFAにより形成されるため、絶縁被覆層(絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462B)の厚みが例えば0.1〜0.15mmと薄くても、発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)の100〜150℃への急速昇温時にもエナメル層463bが破壊されることが防止される。したがって、線状ヒータ(第1線状ヒータ460Aと第2線状ヒータ460B)から着座面410Uへの熱伝導を迅速に進行させることにより、着座面410Uを急速に昇温させることができる。
【0104】
この場合、線状ヒータ(第1線状ヒータ460Aと第2線状ヒータ460B)への通電開始から所定の最適温度に到達するのは5〜6秒と短時間であり、例えば、使用者がトイレットルームに入室して着座面410Uに着座するまでに要する7〜8秒より短時間である。したがって、使用者がトイレットルームに入室したことを入室検知センサ600により検知されると同時に線状ヒータ460に通電を開始しても、使用者が着座するまでには着座面410Uを十分に最適温度に到達させることができる。
【0105】
また、金属層451と第1のシート492とにより第1線状ヒータ460Aが挟持され、第1のシート492と第2のシート493とにより第2線状ヒータ460Bが挟持されるように構成されるので、便座ヒータ450内において十分に熱分散がばらつきなく行われる。それにより、線状ヒータ(第1線状ヒータ460Aと第2線状ヒータ460B)が高温化することを防止することができる。また、着座面410Uが均熱化されるとともに、便座ヒータ450の破損が防止される。
【0106】
(2−e)本実施形態の便座装置の通電シーケンス
便座ヒータ450の駆動の制御は、便座ヒータ450を駆動する電力を大きく3つに変化させることにより行う。
【0107】
例えば、便座部400を第1の温度勾配で昇温させる場合、図2のヒータ駆動部402は約1200Wの電力で便座ヒータ450を駆動する(1200W駆動)。
【0108】
前述のように、便座ヒータ450の抵抗値は0.833Ω/mであり、全長10mである。したがって、便座ヒータ450の抵抗値は8.33Ωとなる。この抵抗値を有する便座ヒータ450に交流100Vが印加されると、(100V×100V)÷8.33Ω=1200Wの電力が発生する。すなわち、便座ヒータ450に交流電源の全周期に渡って電流を流すことにより、1200Wの電力が発生する。
【0109】
また、便座部400を第1の温度勾配よりもやや緩やかな第2の温度勾配で昇温させる場合、ヒータ駆動部402は約600Wの電力で便座ヒータ450を駆動する(600W駆動)。さらに、便座部400の温度を一定に保つ場合、ヒータ駆動部402は約50Wの電力で便座ヒータ450を駆動する(低電力駆動)。なお、低電力駆動とは、1200W駆動および600W駆動に比べて十分に低い電力(例えば、0W〜50Wの範囲内の電力)により便座ヒータ450を駆動することをいう。
【0110】
1200W駆動、600W駆動および低電力駆動の切替えは、制御部90の通電率切替回路が、ヒータ駆動部402から便座ヒータ450への通電を制御することにより行われる。
【0111】
ヒータ駆動部402には図示しない電源回路から交流電流が供給されている。そこで、ヒータ駆動部402は、通電率切替回路から与えられる通電制御信号に基づいて供給された交流電流を便座ヒータ450に流す。
【0112】
図9は、便座ヒータ450の駆動例および便座部400の表面温度の変化を示す図である。
【0113】
図9においては、便座部400の表面温度と時間との関係を示すグラフと、便座ヒータ450を駆動する際の通電率と時間との関係を示すグラフとが示されている。これら2つのグラフの横軸は共通の時間軸である。
【0114】
本実施形態では、使用者が予め暖房機能をオンし、便座設定温度を高く(38℃)設定した場合を想定する。
【0115】
冬季等室温が待機温度である18℃よりも低い場合、制御部90は、便座部400の温度を18℃となるように温度調整する。このように、制御部90は、入室検知センサ600により使用者の入室が検知されるまでの待機期間D1の間、便座部400の表面温度が18℃で一定となるように、便座ヒータ450の低電力駆動を行う。
【0116】
制御部90は、時刻t1で入室検知センサ600により使用者の入室が検知された場合、突入電流低減期間D2の間、600W駆動を行う。なお、この600W駆動は、突入電流を十分に低減するために行う。この場合、便座部400の表面温度はやや緩やかな第2の温度勾配で上昇される。
【0117】
その後、制御部90は、突入電流低減期間D2の経過後の時刻t2で、便座ヒータ450の1200W駆動を開始し、第1の昇温期間D3の間便座ヒータ450の1200W駆動を継続する。この場合、便座部400の表面温度は上述の第1の温度勾配で上昇される。
【0118】
ここで、便座部400の表面温度は急激に上昇される。便座ヒータ450の1200W駆動は、便座部400の表面温度が所定温度(例えば30℃)に達するまで行われる。もちろん、この所定温度は暖房温度として設定された温度であってもよいが、この所定温度は暖房温度にまで十分に上昇した温度でなく、それよりも低くても、使用者が着座した際に冷たいという不快感情を生じない最低限界の温度(限界温度)であればよい。この限界温度は、発明者らの実施した被験者実験により約29℃であることがわかっている。
【0119】
このように、第1の昇温期間D3においては、便座部400の表面温度が1200W駆動により迅速に所定温度まで上昇される。それにより、使用者は便座部400を冷たいと感じることなく便座部400に着座することができる。
【0120】
また、上述のように、便座部400の表面温度を急激に上昇させると、その温度変化にオーバーシュートが生じる。しかしながら、本実施形態では、便座部400の表面温度が所定温度に達したときに便座ヒータ450の1200W駆動を600W駆動に切替える。したがって、便座部400の表面温度の変化がオーバーシュートした場合でも、その表面温度は便座設定温度を超えない。その結果、使用者が着座時に便座部400を熱いと感じることが防止される。
【0121】
続いて、制御部90は、第1の昇温期間D3の経過後の時刻t3で、便座ヒータ450の600W駆動を開始し、第2の昇温期間D4の間便座ヒータ450の600W駆動を継続する。この場合、便座部400の表面温度は上述の第2の温度勾配で上昇される。
【0122】
便座ヒータ450の600W駆動は、便座部400の表面温度が便座設定温度(38℃)に達するまで行われる。
【0123】
第2の温度勾配は第1の温度勾配よりも緩やかである。これにより、便座部400の表面温度の変化に大きなオーバーシュートが生じることが防止される。
【0124】
制御部90は、第2の昇温期間D4の経過後の時刻t4で、便座ヒータ450の低電力駆動を開始し、第1の維持期間D5の間便座ヒータ450の低電力駆動を継続する。それにより、便座部400の表面温度が便座設定温度で一定となる。
【0125】
制御部90は、時刻t5で着座センサ290により使用者の便座部400への着座が検知された場合、低電力駆動の通電率を低下させ、第1の着座期間D6の間便座部400の表面温度が便座設定温度を維持するように便座ヒータ450の低電力駆動を継続する。本実施形態では、第1の着座期間D6は約10分に設定される。
【0126】
また、制御部90は、第1の着座期間D6の経過後の時刻t6で、低電力駆動の通電率をさらに低下させ、第2の着座期間D7の間便座部400の表面温度が便座設定温度よりもやや低い温度(36℃)に低下するように便座ヒータ450の低電力駆動を継続する。本実施形態では、第2の着座期間D7は約2分に設定される。
【0127】
制御部90は、第2の着座期間D7の経過後の時刻t7で、低電力駆動の通電率をさらに低下させ、第2の維持期間D8の間便座部400の表面温度が便座設定温度よりもやや低い温度(36℃)で一定となるように便座ヒータ450の低電力駆動を継続する。以下の説明では、第2の維持期間D8において一定に維持される期間便座部400の表面温度、すなわち便座設定温度よりもやや低い温度を維持温度と称する。
【0128】
このように、本実施形態では、使用者が便座部400に着座した後、制御部90が徐々に便座部400の表面温度を低下させる。それにより、使用者が低温やけどすることが防止される。
【0129】
制御部90は、時刻t8で着座センサ290により使用者が便座部400から離れたことを検知すると、停止期間D9の間便座ヒータ450の駆動を停止する。それにより、便座部400の表面温度が低下する。
【0130】
制御部90は、便座部400の表面温度が18℃に達した時刻t9で、再び便座ヒータ450の低電力駆動を開始し、便座部400の表面温度が18℃で一定となるように待機期間D10の間便座ヒータ450の低電力駆動を維持する。
【0131】
このように温度勾配が徐々に緩やかになる場合、便座部400の温度変化により生じるオーバーシュートを十分に小さくすることができる。
【0132】
本実施形態では、使用者の便座部400への着座後、便座ヒータ450の駆動に用いる電力を調整することにより便座部400の表面温度を徐々に低下させているが、便座ヒータ450の駆動は使用者の便座部400への着座時に停止してもよい。この場合においても、使用者が低温やけどすることが防止される。
【0133】
上記のように、本実施形態では、時刻t8に使用者が便座部400から離れたことが検知されることにより便座ヒータ450の駆動が停止される旨を説明したが、便座ヒータ450の駆動の停止は、使用者が便座部400から離れたことが検知された時刻t8から一
定時間(例えば1分間)経過後に行われてもよい。この場合、一度使用者が便座部400から離れた後に再度便意をもよおし、再度便座部400に着座する際にも、便座部400の表面温度が低下しない。これにより、使用者は快適に便座部400に着座することができる。
【0134】
(2−f)便座装置110に関する効果
本実施形態の便座装置110においては、線状ヒータ(第1線状ヒータ460Aと第2線状ヒータ460B)の発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)で発生された熱がエナメル層(エナメル層464A及びエナメル層464B)および絶縁被覆層(絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462B)を介して上部便座ケーシング410に伝達される。それにより、着座面410Uの温度が上昇する。
【0135】
ここで、エナメル層(エナメル層464A及びエナメル層464B)は十分な電気絶縁性を有する。そのため、エナメル層(エナメル層464A及びエナメル層464B)の厚さを小さくしても、発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)と上部便座ケーシング410とを十分に絶縁することができる。また、それにより、絶縁被覆層(絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462B)の厚さも小さくすることができる。
【0136】
したがって、この便座装置110においては、発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)と上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とを確実に絶縁しつつ、エナメル層(エナメル層464A及びエナメル層464B)および絶縁被覆層(絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462B)の厚さを小さくすることができる。この場合、エナメル層(エナメル層464A及びエナメル層464B)および絶縁被覆層(絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462B)の熱容量を小さくすることができるので、発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)で発生された熱を効率よく着座面410Uに伝達することが可能となる。
【0137】
また、この便座装置110においては、上部便座ケーシング410にアルミニウム板413が用いられている。したがって、発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)で発生された熱をさらに効率よく着座面410Uに伝達することができる。
【0138】
以上の結果、発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)と上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とを確実に絶縁しつつ、着座面410Uを迅速に昇温させることが可能となる。
【0139】
また、発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)の熱を効率よく着座面410Uに伝達することができるので、発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)の発熱量を抑制することができる。それにより、エナメル層(エナメル層464A及びエナメル層464B)および絶縁被覆層(絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462B)の耐久性が向上する。その結果、便座装置110の信頼性が向上する。
【0140】
また、発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)と上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とを絶縁するためのエナメル層(エナメル層464A及びエナメル層464B)および絶縁被覆層(絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462B)の厚さを小さくすることができるので、便座装置110の軽量化が可能となる。
【0141】
また、十分な耐熱性を有するエナメル層(エナメル層464A及びエナメル層464B)で発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)を被覆しているので、絶縁被覆層(絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462B)として耐熱性の低い材料を用いることができる。それにより、便座装置110の製品コストを確実に低減することができる。
【0142】
また、エナメル層(エナメル層464A及びエナメル層464B)がポリエステルイミドまたはポリアミドイミドにより形成される場合、ポリエステルイミドおよびポリアミドイミドは電気絶縁性および耐熱性に優れているので、発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)と上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とをより確実に絶縁しつつ、着座面410Uを迅速に昇温させることが可能となる。
【0143】
さらに、エナメル層(エナメル層464A及びエナメル層464B)の厚さおよび絶縁被覆層462の厚さの合計が0.4mm以下である場合、発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)と上部便座ケーシング410のアルミニウム板413とを確実に絶縁しつつ、着座面410Uをより迅速に昇温させることができる。
【0144】
特に、エナメル層(エナメル層464A及びエナメル層464B)の厚さおよび絶縁被覆層462の厚さの合計が0.2mm以下である場合、着座面410Uをさらに迅速に昇温させることができる。
【0145】
また、絶縁被覆層(絶縁被覆層462A及び絶縁被覆層462B)がエナメル層(エナメル層464A及びエナメル層464B)より耐熱性の低い材料からなるので、便座装置110の製品コストを十分に低減できる。
【0146】
また、線状ヒータ(第1線状ヒータ460A)が上部便座ケーシング410の裏面側に設けられる金属層451と第1のシート492との間に挟まれるように設けられるので、発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)で発生された熱が金属層451、第1のシート492に効率よく伝達される。また、金属層451の一面が上部便座ケーシング410の裏面に貼着されかつ第1のシート492の一面が金属層451の他面に貼着されている。それにより、発熱線463aから金属層451、第1のシート492に伝達された熱を上部便座ケーシング410の裏面全体に効率よく伝達することができる。それにより、着座面410Uの全体を均一に昇温させることができる。
【0147】
特に、金属層451、第1のシート492がアルミニウムからなる場合、発熱線(発熱線463A及び発熱線463B)で発生された熱を上部便座ケーシング410により迅速に伝達することができる。
【0148】
また、第1線状ヒータ460Aと第2線状ヒータ460Bを近接して配置し、第1線状ヒータ460Aと第2線状ヒータ460Bには互いに略逆の進行方向の電流が流れるため、第1線状ヒータ460Aから発生する磁界と第2線状ヒータ460Bから発生する磁界とは互いに略逆向きとなり両者が相殺しあう。そのため、この便座ヒータ450の周囲にはほとんど磁界は発生しなくなる。従って、着座面410Uから磁界がほとんど放出しなくなる。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明の便座装置は、便座ヒータから放出される磁界を抑制することが可能となるので、他の暖房器具等に使用するヒータの用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】本発明の好適な実施形態に係る便座装置、衛生洗浄装置、トイレ装置を示す外観斜視図
【図2】便座装置の構成を示す模式図
【図3】本実施形態の便座装置に搭載される便座部400の分解斜視図
【図4】本実施形態の便座装置に搭載される便座部400における上部便座ケーシング410と、便座部400の便座ヒータ450とを示す分解平面図
【図5】本実施形態の便座装置に搭載される便座部400の上部便座ケーシング410に取り付けられる便座ヒータ450の詳細な構造を示す断面図
【図6】図4に示した便座ヒータ450のうち、上部便座ケーシング410に近い側に配置される第1便座ヒータ450Aを示す平面図
【図7】図5に示した断面図のうち、上部便座ケーシング410と、第1便座ヒータ450Aとの断面を示す断面図
【図8】便座ヒータで発生する磁界を示す模式図
【図9】便座ヒータの駆動例および便座部の表面温度の変化を示すタイムチャート
【符号の説明】
【0151】
110 便座装置
400 便座部(便座)
410U 着座面
460、480、485 線状ヒータ
463a 発熱線
463b エナメル層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が着座するための着座面を有しており、構成材料として金属を含む便座と、
前記便座の前記着座面の裏面上に前記便座に対して電気的に絶縁された状態で配置されており、電流により発熱するシート状の便座ヒータと、
前記便座の暖房が必要なときに前記便座ヒータに電力を供給して発熱させるヒータ駆動部と、
前記ヒータ駆動部を制御する制御部と、
を少なくとも備えており、
前記便座ヒータには、前記便座の前記裏面上に屈曲蛇行する状態で配設された線状ヒータが含まれており、
前記線状ヒータには、互いに電気的に絶縁された状態でありかつ互いに略並行して屈曲蛇行した状態で配置される2本の発熱線が含まれており、
前記2本の発熱線は、前記ヒータ駆動部から電流が供給された場合に、それぞれに流れる電流の進行方向が互いに略反対となるように、ヒータ駆動部に接続されている、
便座装置。
【請求項2】
前記2本の発熱線が接続されて1本とされている請求項2に記載の便座装置。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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