説明

便座装置

【課題】便座を所定温度に昇温させるのに必要な時間を一層短くでき、一層省電力化を図ることができる便座装置を提供する。
【解決手段】便座本体7の着座部17にニッケル薄膜からなる第1の層と銅薄膜からなる第2の層とから構成される金属薄膜9を設け、便座5の内部には誘導加熱コイル8を配設し、誘導加熱コイル8に交流電流を供給することで金属薄膜9を誘導加熱し、便座5を所定温度まで昇温する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便座を温める機能を備えた便座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、便座を温める機能を備えた便座装置は、便座裏面にコードヒータを配設し便座を常時温めるもの、または便座裏面にハロゲンヒータなど大出力のヒータを配設して便座使用時のみに瞬時に温めるものなどがある。
【0003】
上記コードヒータを用いる便座装置は、約50W程度のヒータを用い便座を常時所定温度に保つため、常に電力供給を受ける必要があり無駄な電力を消費するという課題を有していた。
また、上記ハロゲンヒータを用いる便座装置は、約1000W程度のヒータを用いるため、便座使用時に瞬時に温めることが可能となり便座使用時のみ電力供給を受ければよく消費電力量は低減できるが、瞬時に大電力を使用しなければならないという課題を有していた。
【0004】
上記の課題を解消する便座装置として、便座にあって使用者の臀部が接触する範囲に設けられた発熱体と、この発熱体を誘導加熱するための誘導加熱コイルとを備えるものがあり、上記発熱体は鉄やステンレスなどの金属より構成されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−23880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたものでは、上記便座を所定温度に昇温させるのに時間がかかり、その分、誘導加熱コイルに供給する電力も多く必要であった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、便座に備えられた発熱体の熱容量を小さくし、便座を所定温度に昇温させるのに必要な時間を一層短くでき、一層省電力化を図ることができる便座装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の便座装置は、便座本体の着座部に設けられた金属薄膜と、前記金属薄膜を誘導加熱する誘導加熱コイルを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上記便座本体の着座部に、誘導加熱される金属薄膜を備えることにより、発熱体は、膜状に薄くなり、その熱容量を小さくすることができる。このため、上記便座を短時間で所定温度に昇温でき、その分、誘導加熱コイルに供給する電力を抑えることが可能となり、省電力化を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る便座装置1を図1ないし図4を用いて説明する。図4は便座装置1の全体斜視図を示している。
図4に示すように、便器2の上面には、便座装置1のケース3が着脱可能に固定されている。ケース3は使用者の肛門と局部とのそれぞれを洗浄するための洗浄水が一時的に貯留される温水タンクとして機能するものであり、ケース3の側部にはコントロールパネル4が配設されている。
【0009】
コントロールパネル4には、複数のスイッチ4a(お尻スイッチ、ビデスイッチ、停止スイッチ、水温スイッチ、噴出圧スイッチ、および便座温スイッチ)が操作可能に設けられており、各スイッチはマイクロコンピュータを主体に構成された制御回路4bに接続されている。制御回路4bは、各スイッチのそれぞれからの出力信号に基づいてそれぞれの操作内容を検出する。
【0010】
ケース3には、便座5が水平な軸6を中心に回動可能に装着されている。便座5は、後述する、上部材5aと下部材5bからなる便座本体7、誘導加熱コイル8および金属薄膜9とを備える。便座5は、便器2の上面に接触する水平な使用位置と便器2の上面から上方に離間する傾斜状の非使用位置の間で軸6を中心に回動操作されるものであり、図4は便座5の使用位置を示している。
ケース3には、蓋10が便座5と共通の軸6を中心に回動可能に装着されている。この蓋10は便座5から離間する開放状態と便座5に接触する閉鎖状態の間で軸6を中心に便座5に対して回動操作されるものであり、図4は蓋10の開放状態を示している。
【0011】
ケース3は、ホース11を介して分岐栓12に接続されている。分岐栓12は1個の入力ポートと2個の出力ポートを有するものであり、ホース11は分岐栓12の一方の出力ポートに接続され、他方の出力ポートはホース13を介してロータンク(図示せず)に接続されている。分岐栓12の入力ポートは水道管に接続されている。洗浄水が、便器2内の汚物を洗浄するため、一時的に上記ロータンクに貯留される。
ケース3には、外ノズル14が前後方向へ直線的に移動可能に装着されており、外ノズル14には中空状のビデ用ノズル15が固定されている。
ケース3には、人感センサ16a、16bが装着されている。
【0012】
一方の人感センサ16aは、便座5の上方に検出領域を有する赤外線センサからなるものであり、使用者が便座5に臀部を載せることに基づいて使用者の存在を検出して人感信号を出力する。
もう一方の人感センサ16bは、便座装置1の前方約0.5m〜1m位に検出領域を有する赤外線センサからなるものであり、使用者が便座装置1に接近することに基づいて使用者の存在を検出して人感信号を出力する。
【0013】
人感センサ16a、16bは制御回路4bに接続されており、制御回路4bは、人感センサ16aからの人感信号の有無に基づいて使用者が便座5に臀部を載せたか否かを判断し、人感センサ16bからの人感信号の有無に基づいて使用者が便座装置1を使用しようとしているか否かを判断する。
【0014】
便座5は、上述のごとく、使用者が使用位置に倒して臀部を載せるものであり、図1に示すように、便座5を構成する便座本体7は、上部材5aと下部材5bとからなり、合成樹脂を材料に中空状に形成されている。上記合成樹脂は、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)またはPP(ポリプロピレン)である。
便座5の中空内部で上部材5aの裏面には、便座5の中央開口部5c(図2、図4参照)の外周を巻回するように誘導加熱コイル8が環状に配設されている。誘導加熱コイル8はリッツワイヤなど損失の小さい銅線で構成される。ケース3の内部には図示しないインバータが配設されており、このインバータは、制御回路4bの指令に基づいて誘導加熱コイル8に交流電流を供給する。
【0015】
便座5の使用者の臀部が載る部分(便座本体7の着座部17)には、中央開口部5cを囲繞するように金属薄膜9が環状に設けられている。図3に示すように、金属薄膜9は、上層の第1の層18aと下層の第2の層18bとからなり、第1の層18aは磁性を有する材料であるニッケル薄膜、第2の層18bは熱伝導性および導電率の高い銅薄膜により構成されている。第2の層18bの銅薄膜には、接地線19が接続されている。
金属薄膜9の表面には保護層20を形成している。保護層20は、電気抵抗の高い絶縁材料、例えば、アクリル系またはメラミン系などの樹脂材料で構成されている。
【0016】
次に、便座5の表面に形成される金属薄膜9と保護層20との形成方法について説明する。
先ず金属薄膜9において、第2の層18bの銅薄膜は、合成樹脂製の上部材5aの表面に無電解銅メッキにより形成され、その後、その第2の層18bの表面に、第1の層18aのニッケル薄膜を電解ニッケルメッキにより形成する。以上のような方法で、膜厚が数μm〜数10μmの金属薄膜9が形成される。
【0017】
次いで保護層20については、水系塗料の中に被処理物(金属薄膜9を施した便座本体7)を浸漬し、上記被処理物を陰極(−)とし対極(+)を上記水系塗料として、この間に直流電流を流すことにより、電気的な力によって上記水系塗料の微粒子が上記被処理物に引きよせられ上記被処理物の表面に上記塗料の膜を電着形成し、その後、焼付け処理を行って上記膜を硬化させ保護層20を形成する。この形成方法では、保護層20の膜厚は数10μm程度となる。
【0018】
なお、保護層20については、紫外線硬化型塗料を被処理物(金属薄膜9を施した便座本体7)に塗布し、この紫外線硬化型塗料に紫外線を照射して硬化させ金属薄膜9の表面に定着させる方法もある。この形成方法では、保護層20の膜厚は数μm程度である。この方法で形成される保護層20は、透明膜なので下塗りでデザイン用カラー塗装(アクリル系ラッカーなど)も必要になる場合がある。
【0019】
次に本実施形態に係る便座装置1の動作および作用について詳述する。
人感センサ16bは、使用者を検出すると人感信号を制御回路4bへ出力する。制御回路4bは、この人感信号に基づいて上記インバータにより誘導加熱コイル8に交流電流を例えば、5秒間供給し、後述するようにして便座5を約34℃〜40℃位まで昇温させる。この5秒間とは、人感センサ16bが使用者を検出してからこの使用者が便座5に座るまでの時間を想定している。
【0020】
誘導加熱コイル8に交流電流を流すと、誘導加熱コイル8の周りに、向きおよび強度の変化する磁力線が発生する。金属薄膜9の第1の層18aのニッケル薄膜はこの変化する磁力線の影響を受け、渦電流が磁性を有する上記ニッケル薄膜に流れる。上記ニッケル薄膜には電気抵抗があるため、上記ニッケル薄膜に電流が流れると[電力]=[電流]×[抵抗成分]のジュール熱が発生して上記ニッケル薄膜が加熱される(誘導加熱)。
【0021】
このように本実施形態に係る便座装置1は、便座5の着座部17に金属薄膜9を配設し、金属薄膜9を誘導加熱する誘導加熱コイル8を備えている。このため、発熱体としての金属薄膜9は膜厚が薄いため、金属薄膜9の熱容量を低くでき、便座5を加熱するのに必要なエネルギーを抑えることができ省電力化を図ることが可能となる。
【0022】
さらに、便座5を素早く所定温度に昇温できるため、使用者が便座5に着座する前に金属薄膜9の誘導加熱を終えることができる。このため、使用者に磁力線による健康被害を与える可能性も無い。
さらに、便座本体7は合成樹脂でできている。合成樹脂は熱伝導性が低いため、便座5使用時の温度を保つことができ、例えば、誘導加熱を停止しても使用者に不快感を与えること無く、省電力を図ることが可能となる。
【0023】
さらに、金属薄膜9は、メッキにより形成されているため、数μm〜数10μmの薄膜を容易に形成することができ、熱容量をより低く抑えることができ、便座5を加熱するのに必要なエネルギーをさらに抑えることができ省電力化を図ることが可能となる。
さらに、無電解銅メッキの製法を用いることにより通電によらず銅薄膜を析出でき、合成樹脂でできた便座本体7の表面に容易に銅薄膜を形成することが可能となる。
さらに、電解ニッケルメッキの製法を用いることにより、上記銅薄膜を電解メッキ電極の陰極(−)として利用でき、この銅の表面にニッケル薄膜を容易に析出形成することが可能となる。
【0024】
さらに、金属薄膜9の第1の層18aのニッケルは、強磁性体であるため効率良く誘導加熱され、容易に金属薄膜9を所定温度まで昇温でき省電力化を図ることができる。
さらに、金属薄膜9において、第1の層18aのニッケル薄膜から発熱した熱が第2の層18bの銅薄膜に伝達される。第2の層18bの銅薄膜は、第1の層18aのニッケル薄膜より熱伝導率が高く、温度が均等になるように熱を伝達することができる。このため、上記ニッケル薄膜の発熱した熱が、金属薄膜9全体に素早く伝達され、便座5の着座部17を均等に温めることができる。
【0025】
さらに、第2の層18bの銅薄膜には、接地線19が接続されており、銅はニッケルよりも導電率が高いため、誘導加熱コイル8の被覆破損等の電気的故障が便座5内部で起きても、漏電した電流を接地線19に流し易く使用者の安全を確保することができる。
さらに、金属薄膜9の表面に電気抵抗の高い絶縁材料の保護層20を形成しているため、便座5の内部で漏電等の電気的故障が起きても使用者に伝わることはなく安全を確保することがで、さらに金属薄膜9を保護し便座5の外観を良くすることができる。
【0026】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態につき、主に図5、6を参照して説明する。図5は本実施形態に係る便座5の平面図を示し、図6は図5におけるB−B線拡大断面図を示している。なお、上記第1の実施形態と同一部分には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。本実施形態に係る構成は、便座5の内部に配設される誘導加熱コイル21の構成を除いて第1の実施形態と同様である。
【0027】
図5に示すように、本実施形態に係る誘導加熱コイル21は、同一の巻方向の小径誘導加熱コイル22を直列に複数個(本実施形態では15個)接続することにより構成される。誘導加熱コイル21は、第1の実施形態と同様に、リッツワイヤなど損失の小さい銅線で構成される。
便座5の中空内部で上部材5aの裏面に、便座5の中央開口部5cの外周に小径誘導加熱コイル22を等間隔に配置することによって誘導加熱コイル21が配設される。ケース3の内部には図示しないインバータが配設されており、このインバータは、制御回路4bの指令に基づいて誘導加熱コイル21に交流電流を供給する。
【0028】
便座5表面の使用者の臀部が当たる部分(便座本体7の着座部17)には、図3に示すように、金属薄膜9が配設され、第1の実施形態と同様に、金属薄膜9は誘導加熱コイル21により誘導加熱される。これにより、便座5は、第1の実施形態と同様に、所定温度まで昇温される。
【0029】
このように本実施形態に係る便座装置も、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
さらに、小径誘導加熱コイル22は、内側開口部23を含むその表面全体を金属薄膜9で覆われているため、小径誘導加熱コイル22の発生する磁力線は効率よく金属薄膜9を貫通することとなり、より効率的に誘導加熱を金属薄膜9に生じさせることができる。このため、容易に便座5を所定温度まで昇温でき、より一層省力化を図ることができる。
【0030】
(その他の実施形態)
本発明は上記し且つ図面に記載した実施形態にのみ限定されるものではなく、以下のような変形又は拡張が可能である。
【0031】
上述した実施形態では、金属薄膜9の第1の層18aにニッケル薄膜を用いたが、これに限ることなく、酸化クロムなどの磁性を有する金属であればよい。
また、金属薄膜9の第2の層18bに銅薄膜を用いたが、これに限ることなく、金などの熱伝導性および導電率のよい金属であればよい。
また、保護層20は、アクリル系またはメラミン系などの樹脂材料を用いたが、これに限ることなく、エポキシ樹脂などの絶縁性の高い合成樹脂でもよい。
また、第1の層18aは、電解ニッケルメッキにより形成したが、これに限ることなく、無電解ニッケルメッキにより形成してもよい。
【0032】
また、人感センサ16a、16bは、赤外線センサを用いたが、これに限ることなく、超音波反射型センサでもよい。
また、人感センサ16aは、赤外線センサを用いたが、これに限ることなく、使用者が便座に座ることによりオンになる機械的スイッチを用いてもよい。
また、誘導加熱コイル8、21は、便座本体7の上部材5aの裏面に配設されている例を示したが、これに限ることなく、蓋10側に設けてもよい。
また、上記便座装置が設置されている部屋の広さによって、人感センサ16bの検知領域および誘導加熱コイル8、21に交流電流を供給する時間を適宜調節することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1の実施形態に係る便座の図2におけるA−A線拡大断面図
【図2】便座の平面図
【図3】図1における便座表面の拡大断面図
【図4】便座装置の全体斜視図
【図5】第2の実施形態の図2相当図
【図6】図5におけるB−B線拡大断面図
【符号の説明】
【0034】
図面中、1は便座装置、2は便器、5は便座、7は便座本体、8、21は誘導加熱コイル、9は金属薄膜、17は着座部、18aは第1の層、18bは第2の層、20は保護層を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便座本体の着座部に設けられた金属薄膜と、前記金属薄膜を誘導加熱する誘導加熱コイルを備えたことを特徴とする便座装置。
【請求項2】
前記便座本体は合成樹脂製であることを特徴とする請求項1に記載の便座装置。
【請求項3】
前記金属薄膜はメッキにより形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の便座装置。
【請求項4】
前記金属薄膜は第1の層と第2の層とを有していて、前記第1の層は磁性を有する材料により構成され、前記第2の層は前記第1の層より熱伝導性が高い材料により構成されていることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の便座装置。
【請求項5】
前記第2の層は前記第1の層よりも導電率が高いことを特徴とする請求項4に記載の便座装置。
【請求項6】
前記第1の層はニッケルにより構成され、前記第2の層は銅により構成されていることを特徴とする請求項4または5に記載の便座装置。
【請求項7】
前記第2の層が無電解銅メッキにより形成され、前記第1の層が前記第2の層の外面に電解ニッケルメッキにより形成されていることを特徴とする請求項6に記載の便座装置。
【請求項8】
前記金属薄膜の表面に保護層を形成していることを特徴とする請求項1ないし7の何れかに記載の便座装置。
【請求項9】
前記保護層は、電気抵抗の高い絶縁材料により構成されていることを特徴とする請求項8に記載の便座装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−124866(P2010−124866A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299426(P2008−299426)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】