説明

便座装置

【課題】省電力化を図ることができると共に、便座本体の外観を損なわず且つ着座時の使用感を損なうことのない便座装置を提供する。
【解決手段】便座本体5の着座部たる上部材5aには、その表面側及び裏面側に金属薄膜20,21が設けられている。この金属薄膜20,21は、誘導加熱コイル16により誘導加熱されることで、着座部を所定温度まで昇温させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便座を温める機能を備えた便座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記の便座装置にあっては、例えば合成樹脂製の便座(便座本体)を有し、その裏面側に、コードヒータ或はハロゲンヒータを配設する等して便座本体を加熱するのが一般である。
この点、コードヒータを用いた形態では、約50W程度の比較的小さい消費電力で済ませることができるが、便座本体を常時所定温度に保つべく常に電力を供給する必要がある。一方、ハロゲンヒータを用いた形態では、瞬時に便座本体を温めることができ、使用時にのみ電力を供給すれば足りるが、約1000W程度の消費電力量を余儀なくされることとなる。
【0003】
そこで、便座本体の上面にアルミ箔を有した表面層を設けると共に、誘導加熱コイルを用いて、この表面層を誘導加熱する形態が提案されている(例えば、特許文献1)。この暖房便座は、便座本体の温度を検出するための温度センサを備え、当該温度センサの検出温度に基づき誘導加熱コイルへの通電を制御するようになっている。前記アルミ箔は薄い分、熱容量が小さいことから、上記コードヒータやハロゲンヒータを用いる場合よりも、誘導加熱コイルに供給する電力を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−8859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の便座本体は、通常、比較的熱伝導率が低い合成樹脂材料からなる。しかしながら、特許文献1では、温度センサが便座本体の裏側に配置されるため、使用者の臀部が接触する便座本体表面層の正確な温度検出が困難となる。また、この温度検出が正確に行われていないと、正確な温度制御を行うことができないことから、使用者が便座本体を着座(使用)する際に冷感があったり、或は低温やけどの虞すらある。
【0006】
また、特許文献1の暖房便座では誘導加熱コイルを用いており、且つ使用者と直接接触する便座本体表面層に金属を配設していることから、便座本体での感電を確実に防止することが必要である。
【0007】
そこで、正確な温度検出、或は感電を確実に防止すべく、便座本体の表面に、前記の温度センサ、或は電気的に接地するための接地線を設けることも考えられる。
ところが、便座本体の上面に、これらセンサや接地線等の部材を設けると、便座本体の外観を損なうだけでなく、当該上面における各部材の凹凸が使用者の着座時の使用感を損なうことになる。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、省電力化を図ることができると共に、便座本体の外観を損なわず且つ着座時の使用感を損なうことのない便座装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の便座装置は、便座本体の着座部の表面側及び裏面側に設けられた金属薄膜と、前記金属薄膜を誘導加熱する誘導加熱コイルを備えたことを特徴とする。
【0010】
この場合、前記着座部の裏面側に、当該裏面側の金属薄膜の温度を検出する温度検出素子を設けるようにしてもよい。
また、前記金属薄膜を電気的に接地するための接地手段を備え、前記着座部の裏面側にて、当該裏面側の金属薄膜に前記接地手段を接続してもよい。
【発明の効果】
【0011】
上記構成によれば、誘導加熱コイルにより金属薄膜を誘導加熱するものにあって、着座部裏面側に、当該裏面側の金属薄膜に対してセンサや接地線等の部材を設けることで、これらの部材を露出しないように配置することが可能となる。従って、着座部の表面(おもてめん)の外観を損なうことがなく、使用者が着座部に着座したとき違和感のない便座本体の構成を得ることができる。また、発熱体を金属薄膜とし、膜状に薄く構成することでその熱容量を小さくすることができ、その分、誘導加熱コイルに供給する電力を抑えることができるので、省電力化を図ることができる。
【0012】
この場合、着座部の裏面側に、当該裏面側の金属薄膜の温度を検出する温度検出素子を設けることで、温度検出素子を、上記のように便座本体に対し外観を損なうことなく且つ着座時の使用感を損なわないように配置することができると共に、金属薄膜の温度を直接検出することができ、着座部の表層部における正確な温度検出を行うことができる。
【0013】
また、金属薄膜を電気的に接地するための接地手段を備え、着座部の裏面側にて、当該裏面側の金属薄膜に接地手段を接続することで、接地手段を、上記のように便座本体に対し外観を損なうことなく且つ着座時の使用感を損なわないように配置することができると共に、便座本体での感電を防止して安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施例を示すものであり、図3中、A−A線に沿う便座の拡大断面図
【図2】便器と共に示す便座装置の全体斜視図
【図3】便座の平面図
【図4】便座の表裏の積層構造を説明するための拡大模式図
【図5】便座装置の電気的構成を示すブロック図
【図6】本発明の第2実施例を示す図1相当図
【図7】本発明の第3実施例を示す図1相当図
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施例>
以下、本発明を温水洗浄式便座装置に適用した第1実施例について図1乃至図5を参照しながら説明する。図2は、温水洗浄式便座装置(以下、便座装置1と称す)及び便器2の全体斜視図を示している。
図2に示すように、便器2の上面後部には、便座装置1の本体ケース3が着脱可能に固定されている。本体ケース3は、その内部に、使用者の肛門と局部との夫々を洗浄するための洗浄水が一時的に貯留される温水タンク、ポンプ、ヒータ等を有する。この本体ケース3の左側部(図2中、左側)にはコントロールパネル4が配設されている。
【0016】
コントロールパネル4には、複数のスイッチからなるスイッチ群4a(例えば、お尻スイッチ、ビデスイッチ、停止スイッチ、水温スイッチ、噴出圧スイッチ、便座温スイッチ等)が操作可能に設けられており、コントロールパネル4の内部には、スイッチ群4aからの信号が入力される制御装置4bが配設されている。制御装置4bは、スイッチ群4aからの前記信号等に基づき、便座装置1の制御全般を司るようになっている。
【0017】
本体ケース3には、外ノズル3aが前後方向へ直線的に移動可能に装着されており、外ノズル3aに、中空状のビデ用ノズル3bが固定されている。前記スイッチ群4aが操作されて前記ポンプが駆動されると、温水タンク内の温水が、周知のように、例えば外ノズル3aから噴射されて使用者の局部等を洗浄するようになっている。
【0018】
本体ケース3の前面部には、便座本体5及び蓋7が、共通の水平軸6を回動中心として回動可能に装着されている。詳しくは後述するように、便座本体5は、便器2の上面部の形状に合わせて全体が略O字状をなし、例えば、上部材5aと下部材5b(図1参照)とからなる2分割型のものである。便座本体5は、便器2の上面部に沿う水平な使用位置(図2参照)と、便器2の上面から上方に離間した傾斜状の非使用位置との間で軸6の周りに回動操作され、使用位置で使用者が着座するための便座として用いられるようになっている。尚、蓋7は、図2に示す便座本体5から離間した開放位置と、便座本体5の上面側から覆う閉鎖位置との間で、軸6の周りに便座本体5に対して回動操作される。
【0019】
本体ケース3は、ホース11を介して分岐栓12に接続されている。詳しい図示は省略するが、分岐栓12は、水道水に接続された1個の入力ポートと、2個の出力ポートを有する。分岐栓12における一方の出力ポートは前記ホース11に接続され、他方の出力ポートはホース13を介してロータンク(図示せず)に接続されており、当該ロータンクに、便器2内の汚物を洗浄するための洗浄水が一時的に貯留される。
【0020】
本体ケース3の前面部には、左右方向の中間部に位置して人感センサ14aが配置されると共に、左側上端部に位置して人感センサ14bが配置されている。一方の人感センサ14aは、便座本体5のやや上方に検出領域を有する赤外線センサからなり、使用者が便座本体5に臀部を載せると、使用者の着座について検出信号を出力する。他方の人感センサ14bは、便座装置1の前方約0.5m〜1m位に検出領域を有する赤外線センサからなり、使用者が便座装置1に接近すると、使用者の存在について検出信号を出力する。
【0021】
続いて、便座本体5について図1、図3も参照しながら詳述する。ここで、図3は便座本体5の平面図であり、図1は、図3中、A−A線に沿う拡大断面図である。
図3に示すように、便座本体5は、例えば前述のように全体として略「O」字状をなし、その後部に左右一対のヒンジ部(被支持部15)を備えている。この便座本体5は、本体ケース3に対し、被支持部15を基端部として軸6により回動可能に設けられている。便座本体5は、複数(例えば2つ)の分割体として上部材5aと下部材5bとからなる2分割型のもので、これらの部材5a,5bが上側と下側から合わされることで、内部に誘導加熱コイル16を収容することが可能な水密な中空状の空間が形成されている。詳細には、図1に示すように、上部材5a及び下部材5bは、何れも断面「コ」字状をなし、互いに開放面側を突き合わせるように位置決めされた状態で接着或は溶着等により結合している。
【0022】
上部材5aと下部材5bは、例えば何れも断熱材及び絶縁材としての合成樹脂材料(ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)又はPP(ポリプロピレン))からなる。尚、便座本体5は、少なくとも2つ以上に分割される構成であればよく、その分割数や形状、或は材料につき適宜変更してもよい。また、便座本体5の全体形状も、上記し或は図示するものに限らず、例えば便座本体を「U」字状に形成する等、適宜変更が可能である。
【0023】
便座本体5内部における上部材5aの裏面側には、シート状の絶縁材料17を介して、誘導加熱コイル16が配設されている。ここで、絶縁材料17は、例えばガラスクロス(雲母板やセラミックペーパ等でもよい)から構成されている。誘導加熱コイル16は、例えば、リッツ線など損失の小さい銅線からなり、便座本体5の中央開口部5c(図2、図3参照)の外周を巻回するように環状配置されている。
【0024】
さて、便座本体5は、上部材5aの表裏に設けられた金属薄膜20,21を有する。これら金属薄膜20,21について図4も参照しながら説明する。
便座本体5上部に位置する上部材5aは、便座本体5に対し使用者の臀部が載る部分として着座部を構成する。この上部材5aに、その表面(おもてめん)側及び裏面側の両面にわたって繋がる表面側金属薄膜20及び裏面側金属薄膜21が形成されることで、当該金属薄膜20,21が平面視にて中央開口部5cを囲繞する環状に形成されている。
【0025】
図4に示すように、金属薄膜20,21は何れも層状をなしている。表面側金属薄膜20は、外側(上層)の第1の層22aと内側の第2の層22bとからなり、第1の層22aは磁性を有するニッケル薄膜、第2の層22bは熱伝導性に優れ導電率の高い銅薄膜により構成されている。裏面側金属薄膜21も、表面側金属薄膜20と同様に、外側の第1の層22aと内側の第2の層22bとからなる。また、表面側金属薄膜20の上面には、例えば、電気抵抗の高い絶縁材料としてアクリル系又はメラミン系等の樹脂材料からなる保護層23が設けられている。
【0026】
これら金属薄膜20,21及び保護層23は、以下のようにして形成される。即ち、金属薄膜20,21の形成方法として、先ず、合成樹脂製の上部材5aの表面(ひょうめん)全体に、無電解メッキプロセスにより、例えば10μm〜30μm程度の膜厚となる銅薄膜を施すことで第2の層22bを形成する。次いで、その第2の層22bの表面全体に、当該第2の層22bを電極として用いることで電解メッキプロセスにより、例えば5μm〜30μm程度の膜厚となるニッケル薄膜を施すことで第1の層22aを形成する。
【0027】
こうして、金属薄膜20,21が施された上部材5aを、被処理物として水系塗料の中に浸漬すると共に、当該被処理物を陰極(−)、水系塗料を対極(+)とし、この間に直流電流を流す。これにより、水系塗料の微粒子が被処理物に引きよせられることで、第1の層22aの上面に塗料の膜が電着形成される。その後、焼付け処理を行って当該膜を硬化させることにより、例えば数10μm程度の膜厚となる保護層23を形成する。尚、図4は、表面側金属薄膜20の上面側にのみ保護層23を形成した上部材5aの拡大断面図を模式的に示している。上記第1の層22a及び第2の層22b並びに保護層23は、マスキング等によって便座本体5(上部材5a)の所望の部位に形成することで、夫々の形成範囲を適宜変更してもよい。
【0028】
また、保護層23の形成方法として、紫外線硬化型塗料を用いるようにしてもよい。この場合、金属薄膜20,21が施された上部材5aに対し、紫外線硬化型塗料を塗布した後、紫外線の照射により当該紫外線硬化型塗料を硬化させることで、第1の層22aの上面に、例えば膜厚を数μm程度とする透明な保護層23を定着させることができる。この保護層23にあっては、透明な薄膜であることから、デザイン用カラー塗装(アクリル系ラッカー等)による下塗りを適宜施すことで、便座本体5の外観意匠性を高め得る。
【0029】
図3に示すように、上部材5aの基端部たる被支持部15側には、その裏面側の金属薄膜21に、金属薄膜20,21を電気的に接地するための接地線24(接地手段)が接続されている。詳細には、上部材5aを左右に二分する中心線L上において、上部材5aの幅方向(中心線L方向)の中央部P1に位置して、金属薄膜21に接地線24が半田付けされている。この場合、接地線24は、半田濡れ性に優れたニッケル薄膜からなる第1の層22a側(裏面側)から半田付けされることで良好な接続状態が得られている。また、接地線24は、第2の層22bに対して接触し電気的導通状態が確保されるように接続されており、上部材5aの表裏両面にわたって充分な接地効果が得られている。この接地線24は、便座本体5の後方から本体ケース3を介して外部に引き出されている(図2参照)。
【0030】
そして、図1に示すように、上部材5aの裏面側の金属薄膜21には、当該裏面側の金属薄膜21の温度を検出する温度検出素子25が設けられている。温度検出素子25は、例えばサーミスタからなり、前記シート状絶縁材料17の幅方向(図1中、左右方向)の中央部に形成された中央孔17a内に配置されている。これにより、温度検出素子25は、金属薄膜21と誘導加熱コイル16との間において、上部材5aの幅方向中央部で、金属薄膜21に直接密接するように設けられている。詳しくは後述するように、この温度検出素子25によって、上部材5aの表面温度が正確に検出されるようになっている。
【0031】
図5は、便座装置1の制御系の構成を示すブロック図で、特に誘導加熱コイル16の制御に係る部分を示している。制御装置4bは、マイクロコンピュータを主体に構成されていて、前記スイッチ群4a、人感センサ14a,14b、温度検出素子25が接続されている。また、制御装置4bは、入力された各種の信号や予め記憶した制御プログラムに基づいて、誘導加熱コイル16を駆動回路27を介して制御する。この場合、誘導加熱コイル16は、本体ケース3の内部に配設されたインバータ(図示せず)によって、制御装置4bの指令に基づく交流電源が供給される。また、制御装置4bは、人感センサ14bからの検出信号に基づき使用者が便座装置1を使用しようとしているか否かを判断すると共に、人感センサ14aからの検出信号に基づき使用者が便座本体5に臀部を載せたか否か(着座の有無)を判断するように構成されている。
【0032】
次に上記構成の作用について説明する。
制御装置4bは、人感センサ14bにより使用者の便座装置1の使用を予め検出すると、前記インバータにより誘導加熱コイル16に交流電流を、例えば5秒間供給する。この供給時間は、人感センサ14bが使用者を検出してからこの使用者が便座本体5に座るまでの時間を想定して設定されたもので、便座本体5の上部材5aを例えば34℃〜40℃位まで昇温させる。詳細には、前記ニッケル薄膜は比較的抵抗率が大きいことから、誘導加熱コイル16への交流電流の供給によって発生する磁力線により、金属薄膜20,21の第1の層22aに渦電流が生じる。このとき発生するジュール熱は、第1の層22aのニッケル薄膜の抵抗成分と電流の2乗との積( [抵抗成分] × [電流])に比例し、前記供給時間に応じた熱量で上部材5aを上記の温度に昇温させる(誘導加熱)。ここで、誘導加熱コイル16は上部材5aの直ぐ近傍に配置されることから、その表面側と裏面側の金属薄膜20,21に対する良好な加熱効果が得られる。そして、誘導加熱コイル16と裏面側金属薄膜21との間に当該金属薄膜21の温度を直接検出する温度検出素子25が配置されているため、着座部たる上部材5a表層部の正確な温度検出が行われる。
【0033】
また、制御装置4bは、温度検出素子25の検出値に基づき、便座本体5の着座部の温度(つまり金属薄膜20,21の温度)が所定の温度範囲となるように誘導加熱コイル16を制御する。よって、誘導加熱の際、温度検出素子25の正確な温度検出に基づき、制御装置4bにより正確な温度制御が可能となるため、着座部の表層部において所望の温度が得られる。
【0034】
以上のように本実施例の便座装置1は、便座本体5の着座部たる上部材5aの表面側と裏面側とに金属薄膜20,21を配設し、金属薄膜20,21を誘導加熱する誘導加熱コイル16を備えている。従って、着座部の裏面側の金属薄膜21に対し、温度検出素子25や接地線24等の部材を設けることができるので、着座部の裏面側に、これらの部材を露出しないように配置することが可能となる。従って、着座部の表面(おもてめん)の外観を損なうことがなく、使用者が着座部に着座したとき違和感のない便座本体5の構成を得ることができる。また、発熱体を金属薄膜20,21とし、膜状に薄く構成することでその熱容量を小さくすることができ、着座部を加熱するのに必要なエネルギーを抑えて省電力化を図ることが可能となる。さらに、着座部を素早く所定温度に昇温できるため、使用者が着座部に着座する前に金属薄膜20,21の誘導加熱を終えることができ、使用者に磁力線による健康被害を与える可能性も無い。
【0035】
金属薄膜20,21を、着座部たる上部材5aの表裏両面にわたって繋がるように形成した。これによれば、表面側金属薄膜20と裏面側金属薄膜21とで相互に熱的、或は電気的な接続状態等が得ることができ、着座部の温度特性、電気的特性等につき表面側と裏面側との間で差異を生じないようにすることができる。
【0036】
着座部の裏面側に、当該裏面側の金属薄膜21の温度を検出する温度検出素子25を設けた。これによれば、温度検出素子25を、上記のように便座本体5に対し外観を損なうことなく且つ使用者の着座時の使用感を損なわないように配置することができると共に、金属薄膜21の温度を直接検出することができ、着座部の表層部における正確な温度検出を行うことができる。
【0037】
温度検出素子25を、金属薄膜20,21と誘導加熱コイル16との間に配置した。前述のように、着座部の表裏の金属薄膜20,21は何れも良好な加熱効果が得られ、厳密には、金属薄膜20,21における誘導加熱コイル16寄りの部分が、他の部分に比し温度が高くなる傾向がある。従って、上記構成によれば、着座部において温度が高くなる部分を精度よく温度検出することができる。
【0038】
金属薄膜20,21を電気的に接地するための接地手段として接地線24を備え、着座部の裏面側にて、当該裏面側の金属薄膜21に接地線24を接続した。これによれば、接地線24を、上記のように便座本体5に対し外観を損なうことなく且つ使用者の着座時の使用感を損なわないように配置することができると共に、便座本体5での感電を防止して安全性を高めることができる。
【0039】
金属薄膜20,21にあっては厚みが薄く、殊に第1の層22aにあっては誘導加熱に供される抵抗体をなすものである。この点、本実施例では、着座部を左右に二分する中心線L上にて、金属薄膜21に接地線24を接続したので、金属薄膜21における接地効果を高めることができる。即ち、当該構成によれば、金属薄膜21から接地線24へ充分な接地電流を流すことができる電気的にバランスのとれた接地線24の接続を行うことができるので、仮に経年劣化等により誘導加熱コイル16の被覆破損等の電気的故障が便座本体5内部で起きたとしても、漏電した電流を接地線24に流し易くすることができる。従って、本実施例では、接地線24を、着座部における基端部側の幅方向中央部P1に接続したが、先端部(前部)側の幅方向中央部P2(図3参照)に接続してもよい。
【0040】
便座本体5は、その後部を基端部として回動可能に支持され、接地線24は、着座部における前記基端部側に接続されている。これによれば、便座本体5における接地線24の長さ(配線長)を可及的に短くすることができると共に、接地線24を便座本体5の基端部側から引き出す等して無駄の無い配線を行うことができる。
【0041】
また、本実施例の接地線24は、濡れ性に優れたニッケル薄膜からなる第1の層22a側(裏面側)から半田付けされているので、金属薄膜21に対する良好な接続状態を得ることができる。また、接地線24は、比較的導電率が高い銅薄膜からなる第2の層22bに対し電気的導通状態が確保されるように接続されているため、着座部の表裏で充分な接地効果を得ることができる。更には、金属薄膜20の表面に電気抵抗の高い絶縁材料からなる保護層23を形成したので、仮に漏電した場合でも電流を接地線24に流し易く且つ使用者に伝わらないようにすることができ、使用者の安全を確保することができる。
【0042】
着座部の裏面側の金属薄膜21と誘導加熱コイル16との間に、絶縁材料17を配置した。これによれば、絶縁材料17によって、金属薄膜21と誘導加熱コイル16との間で電気的絶縁状態を得ることができ、便座本体5での感電をより確実に防止することができる。また、本実施例では、シート状の絶縁材料17を用いたので、金属薄膜21と誘導加熱コイル16との間を絶縁しつつ、金属薄膜20,21に対して誘導加熱コイル16を近接配置して加熱効果を高めることができる。
【0043】
便座本体5は、少なくとも2つの分割体からなり、これら分割体のうちの1つを前記着座部(上部材5a)として構成した。これによれば、便座本体5において着座部だけ区別して金属薄膜20,21を成膜することができると共に、当該金属薄膜20,21の形成を着座部の表裏に同時に且つ容易に形成することができる。
【0044】
着座部を含む便座本体5を、断熱材としての合成樹脂材料から構成した。これによれば、便座本体5の熱伝導性を低くすることができるので、便座本体5使用時の温度を保つことができ、例えば、誘導加熱を停止しても使用者に不快感を与えること無く、省電力を図ることが可能となる。
【0045】
更に、本実施例では、無電解銅メッキの製法を用いることにより、通電によらずに合成樹脂製の着座部に銅薄膜を容易に析出形成することができる。また、電解ニッケルメッキの製法を用いることにより、前記銅薄膜を電解メッキ電極の陰極(−)として利用でき、この銅の表面にニッケル薄膜を容易に析出形成することができる。しかも、金属薄膜20,21はメッキにより形成されているため、数μm〜数10μmの薄膜を容易に形成することができ、熱容量をより低く抑えることができ、便座本体5を加熱するのに必要なエネルギーをさらに抑えることができる。
【0046】
金属薄膜20,21の第1の層22aは、強磁性体であるニッケルから構成したので効率的な誘導加熱が可能となり、金属薄膜20,21を所定温度まで短時間で昇温できる。 更に、金属薄膜20,21において、第1の層22aのニッケル薄膜で生じた熱が、熱伝導率が高い第2の層22bの銅薄膜に伝達される。従って、当該2層構造をなすことにより、金属薄膜20,21の温度が均等になるように全体に素早く伝達することができると共に、便座本体5の着座部を均等に温めることができる。よって、温度検出素子25を、着座部の裏面側に設けても、着座部の上面側と同等の温度検出を行うことができる。
【0047】
<第2実施例>
図6は、本発明の第2実施例を示すものであり、第1実施例と異なるところを説明する。ここで、図6は図1相当図であり、第1実施例と同一部分には同一符号を付している。
本実施例の裏面側金属薄膜28は、第1実施例の裏面側金属薄膜21と以下の点で相違する。即ち、裏面側金属薄膜28は、図6に示すように上部材5aの裏面側全体に形成されているのではなく、温度検出素子25に対応する部分にのみ形成された温度検出用薄膜28aと、接地線24に接続され且つ当該接地に必要な部位にのみ形成された接地用薄膜28bとを有している。
【0048】
詳細には、上部材5aに金属薄膜20,28を成膜する際、上部材5aの裏面側にマスキング等を施すことにより、上部材5a裏面側の一方の側壁部5e(図6中、左側壁部)の一部分に温度検出用薄膜28aが形成されると共に、他方の側壁部5fの一部分に接地用薄膜28bが形成されている。これらの薄膜28a,28bは、何れも表面側金属薄膜20に繋がるように形成されており、金属薄膜20,28間で相互に熱的、或は電気的接続状態が得られている。尚、本実施例の温度検出素子25は、上部材5aの側壁部5eにおいて温度検出用薄膜28aの温度を直接検出するように取付けられている。また、接地線24は、上部材5aの側壁部5fにおいて接地用薄膜28bを接続部として半田付けされている。
【0049】
上部材5aの上壁部(平坦部5g)には、裏面側金属薄膜28が形成されておらず、誘導加熱コイル16が当該平坦部5gに沿うように配置され、且つシート状の絶縁材料17を介することなく接着剤により直に固定されている。換言すれば、裏面側の金属薄膜28a,28bは、上部材5aにおける誘導加熱コイル16に臨む部分以外の部分に、温度検出或は接地に必要な範囲で、誘導加熱コイル16に対して接触しないように形成されている。従って、絶縁材料からなる上部材5aに対し、誘導加熱コイル16を一体にモールドすることで固定してもよい。
【0050】
上記構成において、金属薄膜20,28は、第1実施例と同様、誘導加熱コイル16により誘導加熱される。この場合、金属薄膜20,28は前述のように膜厚が薄いだけでなく、金属薄膜28a,28bが、温度検出用或は接地用として上部材5aの裏面側に局部的・部分的に設けられているにすぎない。このため、金属薄膜20,28の熱容量が、より低減化されていることから、便座本体5の上部材5aを一層短い時間で昇温させることができる。
【0051】
以上のように着座部たる上部材5aの裏面側の金属薄膜28は、温度検出素子25に対応する部分にのみ形成された温度検出用薄膜28aを有している。従って、着座部の表裏に金属薄膜20,28を配した構成にあって、着座部の表層部における正確な温度検出を可能としながらも、発熱体の熱容量を一層小さくすることができ、省エネルギー効果を得ることができる。
【0052】
また、着座部の裏面側の金属薄膜28は、接地線24に接続され且つ当該接地に必要な部位にのみ形成された接地用薄膜28bを有する。よって、着座部の表裏に金属薄膜20,28を配した構成にあって、便座本体5での感電を防止して安全性を確保ながらも、発熱体の熱容量を可及的に小さくすることができ、省エネルギー効果を得ることができる。
【0053】
こうして、着座部の裏面側の金属薄膜28を、誘導加熱コイル16に臨む部分以外の部分に形成した。これによれば、上記のように裏面側の金属薄膜28の熱容量を抑えることができると共に、金属薄膜21と誘導加熱コイル16との間における絶縁部材を不要とすることが可能となる。よって、絶縁性を有する合成樹脂材料からなる着座部に誘導加熱コイル16をモールドする等して絶縁材料17を省くことができ、構成の簡単化を図ることができる。
【0054】
<第3実施例>
図7は、本発明の第3実施例を示すものであり、第1実施例と異なるところを説明する。ここで、図7は図1相当図であり、第1実施例と同一部分には同一符号を付している。
本実施例の便座本体29は、第1実施例の便座本体5と以下の点で相違する。即ち、便座本体29は、上面側が開放され且つ誘導加熱コイル16を収容する収容凹部30を備えた下部材(分割体)29bと、当該収容凹部30を覆う蓋状の上部材(分割体)29aとからなる分割型をなしている。収容凹部30は、下部材29bの上面部において図7中、下側に窪む形状をなし、便座本体29の全周にわたって環状に形成されている。収容凹部30の上縁部には、便座本体29の内周側と外周側とに段状の受け部30aが夫々設けられている。下部材29bには、上部材29aが受け部30aに嵌合された状態で例えば接着剤により固定されている。
【0055】
上部材29aは、平板状で平面視にて環状をなす着座部として構成され、その上側から使用者の臀部が載せられるようになっている。上部材29aは、表面(ひょうめん)全体に金属薄膜が形成されることで、その表面(おもてめん)側及び裏面側の両面にわたって繋がる金属薄膜20,21を有する。収容凹部30は、上部材29aが下部材29bに組み付けられることで、水密な密閉空間を形成する。収容凹部30には、その底部に沿うようにして誘導加熱コイル16が配設されている。また、上部材29aには、金属薄膜21と誘導加熱コイル16との間において、温度検出素子25が金属薄膜21に直接密接するように設けられている。
【0056】
以上のように、本実施例の便座本体29は、上面側が開放され且つ誘導加熱コイル16を収容する収容凹部30を備え、着座部たる上部材29aは、収容凹部30を覆う板状に形成されている。従って、便座本体29において加熱を要する部分のみ、つまり上面側の平坦な上部材29aのみ着座部として加熱すれば足り、金属薄膜20,21の大きさを可及的に小さくして、加熱に必要なエネルギーを極力抑えることができる。また、収容凹部30は、上部材29aにより覆われて密閉空間を形成することから、その空間(空気層)において断熱性を高めることができる。従って、裏面側金属薄膜21からの放熱を抑制することができ、加熱効率をより高めることができる。
【0057】
本発明は上記し且つ図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、以下のような変形又は拡張が可能である。
第2実施例の温度検出用薄膜28a及び接地用薄膜28bは、例えば、表面側金属薄膜20に対して繋げることなく夫々独立して形成する等、夫々の形成位置や大きさも含め適宜変更してもよい。この場合、接地用薄膜にあっては、表面側金属薄膜20に対し電気的接続状態がなくても、例えば上部材5a裏面側の全周にわたって形成されることで、便座本体5での感電を防止することができる。
【0058】
上記実施例では、金属薄膜20,21,28の第1の層22aにニッケル薄膜を用いたが、これに限定されるものではない。即ち、第1の層22aとして、酸化クロム等の磁性を有する金属を用いてもよいし、鉄、コバルト、或はこれらにニッケルを含めた合金を用いるようにしてもよい。金属薄膜20,21,28の第2の層22bに銅薄膜を用いたが、これに限ることなく、金などの熱伝導性および導電率のよい金属を用いてもよい。また、保護層23は、アクリル系またはメラミン系などの樹脂材料を用いたが、これに限ることなく、エポキシ樹脂などの絶縁性の高い合成樹脂でもよい。更に、第1の層22aを、電解ニッケルメッキにより形成したが、これに限ることなく、無電解ニッケルメッキにより形成してもよい。
【0059】
また、人感センサ14a、14bとして何れも赤外線センサを用いたが、これに限るものではない。例えば、一方の人感センサ14aは、使用者が便座に座ることによりオンになる機械的スイッチでもよいし、他方の人感センサ14bは、超音波反射型センサでもよい。また、誘導加熱コイル16を、便座本体5の内部に収容するように配置したが、蓋7側に設けるようにしてもよい。更に、上記便座装置1が設置されている部屋の広さによって、人感センサ14bの検知領域および誘導加熱コイル16に交流電流を供給する時間を適宜調節することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
図面中、1は便座装置、2は便器、5、29は便座本体、5b,29bは分割体、5a,29aは着座部(分割体)、15は基端部、16は誘導加熱コイル、17は絶縁材料、20,21,28は金属薄膜、24は接地手段、25は温度検出素子、28aは温度検出用薄膜、28bは接地用薄膜、30は収容凹部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便座本体の着座部の表面側及び裏面側に設けられた金属薄膜と、前記金属薄膜を誘導加熱する誘導加熱コイルを備えたことを特徴とする便座装置。
【請求項2】
前記金属薄膜は、前記着座部における表裏両面にわたって繋がるように形成されていることを特徴とする請求項1記載の便座装置。
【請求項3】
前記着座部の裏面側に、当該裏面側の金属薄膜の温度を検出する温度検出素子を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の便座装置。
【請求項4】
前記温度検出素子は、前記金属薄膜と前記誘導加熱コイルとの間に配置されていることを特徴とする請求項3記載の便座装置。
【請求項5】
前記着座部の裏面側の金属薄膜は、前記温度検出素子に対応する部分にのみ形成された温度検出用薄膜を有することを特徴とする請求項3又は4記載の便座装置。
【請求項6】
前記金属薄膜を電気的に接地するための接地手段を備え、
前記着座部の裏面側にて、当該裏面側の金属薄膜に前記接地手段を接続したことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の便座装置。
【請求項7】
前記着座部を左右に二分する中心線上にて、前記金属薄膜に前記接地手段を接続したことを特徴とする請求項6記載の便座装置。
【請求項8】
前記便座本体は、その後部を基端部として回動可能に支持され、
前記接地手段は、前記着座部における前記基端部側に接続されていることを特徴とする請求項6又は7記載の便座装置。
【請求項9】
前記着座部の裏面側の金属薄膜は、前記接地手段に接続され且つ当該接地に必要な部位にのみ形成された接地用薄膜を有することを特徴とする請求項6乃至8の何れかに記載の便座装置。
【請求項10】
前記着座部の裏面側の金属薄膜は、前記誘導加熱コイルに臨む部分以外の部分に形成されていることを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の便座装置。
【請求項11】
前記着座部の裏面側の金属薄膜と前記誘導加熱コイルとの間に絶縁材料を配置したことを特徴とする請求項1乃至10の何れかに記載の便座装置。
【請求項12】
前記便座本体は、少なくとも2つの分割体からなり、これら分割体のうちの1つを前記着座部として構成したことを特徴とする請求項1乃至11の何れかに記載の便座装置。
【請求項13】
前記便座本体は、上面側が開放され且つ前記誘導加熱コイルを収容する収容凹部を備え、
前記着座部は、前記収容凹部を覆う板状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至12の何れかに記載の便座装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−269069(P2010−269069A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125252(P2009−125252)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】