保持装置、組立てシステム、スパッタリング装置、並びに加工方法及び加工装置
【課題】微細な物体を位置決めして保持する。
【解決手段】電磁チャックが、複数のマイクロコイルMCのうちの特定のマイクロコイルに電流を供給し、物体Mの磁石と協働して物体Mに電磁力を作用させるので、物体Mをベース面上の所望の位置(電流を供給したマイクロコイルに対応する位置)に位置決めした状態で保持することができる。また、気体供給路42から噴出される気体により、物体Mに対して浮上力が与えられるので、物体Mを位置決めする際に物体Mと電磁チャック上面との間に作用する摩擦力の影響を低減することができる。
【解決手段】電磁チャックが、複数のマイクロコイルMCのうちの特定のマイクロコイルに電流を供給し、物体Mの磁石と協働して物体Mに電磁力を作用させるので、物体Mをベース面上の所望の位置(電流を供給したマイクロコイルに対応する位置)に位置決めした状態で保持することができる。また、気体供給路42から噴出される気体により、物体Mに対して浮上力が与えられるので、物体Mを位置決めする際に物体Mと電磁チャック上面との間に作用する摩擦力の影響を低減することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保持装置、組立てシステム、スパッタリング装置、並びに加工方法及び加工装置に係り、更に詳しくは、磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する保持装置、該保持装置を用いた組立てシステム、真空内でターゲット材料にイオンを衝突させて、基材に薄膜を形成するスパッタリング装置、磁性体を少なくとも一部に含む物体を加工する加工方法及び加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、微細装置の集積化のためにマイクロマシニング技術を用いた半導体加工技術が用いられており、その代表的な例として、MEMS(Micro Electro Mechanical System(又はMST(Microsystem Technology)))が挙げられる。MEMSは、半導体工程、特に集積回路技術を応用したマイクロマシニング技術を用いて製造されるナノメートル単位の超小型センサやアクチュエータ及び電気機械的構造物であり、電気系と機械系の部品や機構を極限まで微細化して統合したものを指す。ここでの極限とは、例えば、露出した凹凸などの形状の最短幅が100μm以下、少なくとも1000μm以下である。
【0003】
MEMSで使われるマイクロマシニング技術は2つに分類でき、その1つは、シリコンバルクエッチング(bulk etching)によるバルクマイクロマシニングであり、もう1つは、シリコン上に多結晶シリコン、シリコン窒化膜及び酸化膜などを蒸着し、設計された形状に従ってエッチングして構造物を制作する表面マイクロマシニングである。
【0004】
このようなMEMSは勿論、LSIなどの微細装置も、1枚のシリコンウエハ上に半導体製造技術を用いて多数製造されることから、製造工程の最終段階において、シリコンウエハをダイシングし、各微細装置を切り離す必要がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記のように複数の素子を1枚のウエハ上に一括して製造するという製造方法を採用することにより、ウエハ上の一部に形成されたアライメントマークを、各レイヤに施すリソグラフィ転写などの加工の精度を高めるための位置決めに用いることが可能であったり、現像やエッチング等の工程において、1枚のウエハという大きなまとまりで取り扱うことができ、取り扱いが非常に容易という利点がある。このような利点が存在することが、今日までの半導体製造技術の飛躍的発展に至った理由の一つであると言っても過言ではない。
【0006】
しかしながら、その一方で、シリコンウエハに対する加工方法が、レジスト塗布、露光、現像、エッチング、ドーピング…を順次行う方法に限定されていること、及び平面上に構造物を積層していくといった構成上の制約があること等により、積層構造でない立体的な微細構造物を生成することが比較的困難であり、製造可能な装置(部品)が限られている。
【0007】
最近では、作業者がマニピュレータを用いて微細な部品同士を組み立てて、一つのマイクロマシンを作り上げるという事例が研究レベルでは存在しているが、これを量産する技術は存在していない。たとえ、マイクロモータやマイクロ内燃機関といった要素の研究事例が発表されても、それらを組み合わせるための量産技術はもちろん、研究事例も乏しいのが現状である。このように、マイクロモータなどの新しい要素を組み合わせて一つのマイクロマシンを作り上げることができないため、現在のMEMSモジュールなどは全て一社による一貫した製造を行わざるを得ないというのが現状である。
【0008】
逆に言えば、複数のマイクロモータなどの新しい要素を組み上げて最終モジュールを製造することが可能となるのであれば、産業の裾野は大きく拡大し、産業がますます発展することが予想される。
【0009】
すなわち、例えば、現存する機械をそのままスケールダウンすることにより、様々な分野に応用することもできるようになると考えられる。具体的には、現存する原子力エンジンの全ての部品をスケールダウンすることにより装置全体をスケールダウンすることができれば、原子力エンジンを家庭用の発電機として用いることができる可能性もあるし、現存するアクチュエータをスケールダウンすることにより微細アクチュエータを製造できれば、該微細アクチュエータを数珠繋ぎにすることにより、例えば人工筋肉などを製造することができる可能性もある。
【0010】
しかしながら、現実には、このようなアプローチは一向に進む兆しが見えていない。この原因は、部品をスケールダウンする困難性よりも、スケールダウンされた部品を扱う(組み立てる、2次加工する)ことの困難性が大きいためと考えられる。このような観点から、微細な部品を自在に扱うための技術が必要であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−40520号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述した事情の下になされたものであり、第1の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する保持装置であって、前記物体が配置されるベースと、該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記物体に電磁力を作用させる複数の導電体と、前記物体に対して浮上力を与える浮上力機構と、を備える第1の保持装置である。
【0013】
これによれば、電流を供給する導電体の位置に応じた所望の位置に物体を位置決めすることができ、かつその状態で物体を保持することができる。また、物体を位置決めする際に物体とベースとの間に生じる摩擦力等の引力を低減することが可能となる。
【0014】
本発明は、第2の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する保持装置であって、前記物体が配置されるベースと、該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記物体に電磁力を作用させる複数の導電体と、前記物体に前記電磁力を作用させるに先立って、前記物体を前記ベースに対して位置決めするアライメント装置と、を備える第2の保持装置である。
【0015】
これによれば、アライメント装置を用いて、物体をベースに対して位置決めした後、物体に電磁力を作用させるので、電流を供給する導電体の位置に応じた所望の位置に物体を正確に位置決めすることができ、かつその状態で物体を保持することができる。
【0016】
本発明は、第3の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する保持装置であって、前記物体が配置されるベースと、該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記物体に電磁力を作用させる複数のマイクロコイルと、前記複数のマイクロコイルと接続され、前記複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とをスイッチングする制御装置と、を備える第3の保持装置である。
【0017】
これによれば、物体がベースに設けられた複数のマイクロコイルのそれぞれに対する電流供給・停止を制御装置によって行うことにより、物体をベースの所望の位置(電流を供給したマイクロコイルに対応する位置)に適切なタイミングで位置決めし、その状態で保持することができる。
【0018】
本発明は、第4の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する本発明の第1〜第3の保持装置と、前記保持装置に保持された物体に対して加工を施す加工物と、を備え、前記保持装置と前記加工物とはその相対位置関係が可変である加工装置である。
【0019】
これによれば、本発明の第1〜第3の保持装置により保持された物体に対して、加工物により加工を施すことから、位置決めされた物体に対する加工を行うことで、高精度な加工を実現することができる。
【0020】
本発明は、第5の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を保持する本発明の第1〜第3の保持装置からなる第1保持装置と、前記第1保持装置に保持された第1の物体と対向して配置される第2の物体を保持する第2保持装置と、を備える組み立てシステムである。
【0021】
これによれば、第1保持装置と第2保持装置とを対向して配置することにより第1の物体と第2の物体とを所定の位置関係にすることが可能であり、これにより、第1の物体及び第2の物体を用いた組立てを精度良く行うことが可能となる。
【0022】
本発明は、第6の観点からすると、ターゲット材料にイオンを衝突させて、基材に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、複数のマイクロコイルを有し、前記基材を保持するベースと、前記複数のマイクロコイルと接続され、前記複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とをスイッチングする制御装置と、を備えるスパッタリング装置である。
【0023】
これによれば、複数のマイクロコイルに接続された制御装置が、複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とをスイッチングすることから、基材の保持されている側の面に磁界が形成されるので、形成された磁界に応じた薄膜を形成することが可能となる。したがって、制御装置の電流供給と電流供給停止のスイッチングにより、磁界をコントロールすることで、所望のパターンを有する薄膜を形成することが可能となる。
【0024】
本発明は、第7の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を、第2の物体を用いて加工する加工方法であって、ベースに配置される前記第1の物体に対して浮上力を与え、前記ベースに設けられる複数の導電体と、前記磁性体とを協働して前記第1の物体に電磁力を作用させ、前記第1の物体に対して前記第2の物体を接近もしくは接触させる第1の加工方法である。
【0025】
これによれば、第1の物体に対して第2の物体を高精度に接近もしくは接触させることができるので、第2の物体により第1の物体を高精度に加工することが可能となる。
【0026】
本発明は、第8の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を、第2の物体を用いて加工する加工方法であって、ベースに対して前記第1の物体をアライメントし、前記ベースに設けられる複数の導電体と、前記磁性体とを協働して前記第1の物体に電磁力を作用させ、前記第1の物体に対して前記第2の物体を接近もしくは接触させる第2の加工方法である。
【0027】
これによれば、高精度な位置決めがされた第1の物体に、精度良く第2の物体を接近もしくは接触させることができるので、第2の物体により第1の物体を高精度に加工することが可能となる。
【0028】
本発明は、第9の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を、第2の物体を用いて加工する加工方法であって、前記第1の物体が配置されるベースの複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とをスイッチングし、前記マイクロコイルと前記磁性体との間の電磁力を前記第1の物体に作用させ、前記第1の物体に対して前記第2の物体を接近もしくは接触させる第3の加工方法である。
【0029】
これによれば、複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とを個別にスイッチングすることにより、第1の物体を特定のマイクロコイルに対応する位置に高精度に位置決めすることができる。これにより、第2の物体を精度良く第1の物体に接近もしくは接触させることが可能となるので、第2の物体により第1の物体を高精度に加工することが可能となる。
【0030】
本発明は、第10の観点からすると、磁性体を一部に含む磁性体部と、該磁性体部をほぼ取り囲んだ状態で形成された空所部とを有する物体を加工する加工装置であって、前記物体を保持可能な保持面を有したベースと、該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記磁性体部を磁気吸着可能な磁気吸着装置と、該磁気吸着装置により前記磁性体部が磁気吸着され、かつ前記空所部が磁気吸着されない状態で、前記ベースを前記保持面と交差する方向に移動させる移動装置と、を備える第1の加工装置である。
【0031】
これによれば、磁気吸着装置によって磁性体部が磁気吸着され、かつ空所部が磁気吸着されていない状態で、移動装置が、ベースを前記保持面と交差する方向に移動させることにより、磁気吸着装置により磁気吸着された磁性体部のみがベースとともに移動するので、磁性体部及びこれに連結された部分をベースの移動方向に応じて変形させることが可能となる。
【0032】
本発明は、第11の観点からすると、磁性体を一部に含む磁性体部と、該磁性体部をほぼ取り囲んだ状態で形成された空所部とを有する物体を加工する加工装置であって、前記物体を保持可能な保持面を有した第1ベースと、該第1ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記磁性体部を磁気吸着する磁気吸着機構と、前記物体を挟むように前記第1ベースと対向して配置された第2ベースと、前記第2ベースに設けられ、前記物体のうち前記磁気吸着機構に磁気吸着されていない部分を吸着する吸着装置と、を備える第2の加工装置である。
【0033】
これによれば、第1ベースに磁性体を磁気吸着する磁気吸着機構が設けられ、第2ベースに磁気吸着されていない部分を真空吸着する吸着装置が設けられていることから、物体を第1ベース及び第2ベースの間で保持した状態で第1ベースと第2ベースの少なくとも一方を移動させることにより、物体に対して該移動方向に応じた加工を施すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1の実施形態に係る組立てシステムを示す概略図である。
【図2】図1の電磁チャック及びステージを示す斜視図である。
【図3】電磁チャックの縦断面図である。
【図4】図4(A),図4(B)は、物体Mの構成及び位置決めの方法を説明するための図(その1)である。
【図5】図5(A)〜図5(C)は、物体Mの構成及び位置決めの方法を説明するための図(その2)である。
【図6】図6(A)〜図6(C)は、プリアライメント装置の構成及びプリアライメントの方法を説明するための図(その1)である。
【図7】図7(A)〜図7(C)は、プリアライメント装置の構成及びプリアライメントの方法を説明するための図(その2)である。
【図8】図8(A)は、物体Mと加工工具Nとを対向させた状態を示す図であり、図8(B)は、物体Mを加工工具Nにより加工している状態を示す図である。
【図9】第1の実施形態に係る制御系のブロック図である。
【図10】第1の実施形態の変形例を示す図である。
【図11】図11(A)〜図11(D)は、第2の実施形態を説明するための図である。
【図12】第2の実施形態に係る制御系を示すブロック図である。
【図13】図13(A)は、第3の実施形態の加工装置の構成を示す図であり、図13(B)は、図13(A)の加工装置により加工される対象となる物体の構成を説明するための斜視図である。
【図14】図14(A)〜図14(C)は、図13(A)の加工装置による加工方法を説明するための図である。
【図15】第4の実施形態のスパッタリング装置の構成を示す図である。
【図16】変形例に係る平面モータ装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
《第1の実施形態》
以下、本発明の第1の実施形態について、図1〜図9に基づいて説明する。図1には、第1の実施形態に係る組立てシステム100が示されている。この組立てシステム100は、MEMS素子やLSIなどの微細構造物に加工を施すためのシステムである。
【0036】
この組立てシステム100は、その全体が例えば床面F及び天井面CEを有する筐体内に設けられており、該筐体の床面F上に設けられた第1の保持装置50と、第1の保持装置50に上下対向する状態で、筐体の天井面CEから吊り下げ支持された第2の保持装置150と、第1の保持装置50及び第2の保持装置150それぞれに対応して設けられたプリアライメント装置PA1,PA2と、を備えている。
【0037】
前記第1の保持装置50は、ステージ(可動体、又はテーブル)ST1と、該ステージST1の上面で保持された電磁チャック20と、ステージST1を少なくともY軸方向(図1における紙面内左右方向)に移動させる移動装置30とを含む。
【0038】
前記移動装置30は、例えば磁極ユニットから成る移動子ユニット32と、床面F上方に支持部材38A,38Bを介して支持された電機子ユニットから成る固定子ユニット34とを有するY軸リニアモータ36を含む。
【0039】
図2には、ステージST1及び電磁チャック20の斜視図が示されている。この図2から分かるように、ステージST1は概略板状の形状を有しており、このステージST1の上面(+Z側の面)上には、電磁チャック20が真空吸着機構91(図2では不図示、図9参照)を介して吸着保持されている。
【0040】
ここで、前記電磁チャック20の具体的な構成について、図2及び電磁チャック20の縦断面図である図3に基づいて説明する。
【0041】
図2に示されるように、電磁チャック20は、平面視略正方形状の枠状部材22と、該枠状部材22の内部空間に設けられた本体部24と、枠状部材22の+Y側端部に設けられ、配線や配管等を本体部24と接続するためのコネクタ26と、を備えている。
【0042】
前記本体部24は、図3の断面図に示されるように、層状の構造を有しており、平板状のシリコン基板28A及び該シリコン基板28A上面に形成された配線層28Bを含む配線基板28と、該配線基板28上にマトリクス状に配設された複数のマイクロコイルMCと、該マイクロコイルMCの隙間を埋めるように設けられた絶縁層40と、を有している。ここで、本実施形態では配線基板28と絶縁層40とを含んでコイル保持盤29が構成され、該コイル保持盤29の上面がベース面(保持面)29aとされている。なお、複数のマイクロコイルMCは、一例として1mmピッチで配列されている。
【0043】
前記配線層28Bは、シリコン基板28A上に、例えば半導体露光装置などを用いたリソグラフィ技術などによって形成されている。この配線層28Bには、コネクタ26を介して配線43の一端が接続されている。配線43の他端側には電源92(図3では不図示、図9参照)が接続され、図9の制御装置90の指示の下、電源92から、配線43及びコネクタ26を介した電流の供給が行われる。
【0044】
前記複数のマイクロコイルMCは、平面マイクロコイルから成り、例えば、次のような工程を経て製造される。
【0045】
(1)まず、シリコン基板を用意し、このシリコン基板の上面全面に例えば感光性ポリイミド前駆体をスピンコート法などを用いて塗布するとともに、感光性ポリイミド前駆体を露光装置等を用いてパターニングし、例えば矩形の下地層を形成する。
【0046】
(2)次いで、下地層及びその周囲にフォトレジストをスピンコート法などで塗布した後、半導体露光装置等を用いて露光を行うとともに現像を行って、マイクロコイルを形成する範囲(形成範囲)に存在するフォトレジストのみを取り除く。なお、半導体露光装置として例えば、国際公開第2004/073053号(対応米国特許出願公開第2005/248744号明細書)に開示されている半導体露光装置を用いることができる。
【0047】
(3)次いで、スパッタ蒸着法により白金(Pt)をシリコン基板の上面全面に蒸着して触媒金属層を形成し、フォトレジストを除去すると、前述した形成範囲にのみ触媒金属層が残存するようになる。
【0048】
(4)次に、上面全面に例えば、光反応性硬化剤を含有するエポキシ樹脂をスピンコート法等により厚く塗布してエポキシ樹脂層を形成する。その後、エポキシ樹脂層をパターニングしてマイクロコイルの型枠を形成する。このパターニングにより、マイクロコイルの配線が形成される予定の部分に存在していたエポキシ樹脂が全て除去される(渦巻状の溝が形成される)。
【0049】
(5)そして、型枠の底部に存在する触媒金属層の一部の上に無電解めっきにより銅を析出させることにより、電解めっき用電極を形成し、かつ該電解めっき用電極を用いて電解メッキを施して、型枠の渦巻状の溝の相対向する壁面間に銅により配線を形成する。このようにしてマイクロコイルを製造することができる。
【0050】
このような、半導体露光装置によるパターン形成を利用してマイクロコイルを製造することで、多数の微細なマイクロコイルを一度に製造することができる。
【0051】
複数のマイクロコイルMCは、コイル保持盤29内(配線基板28上)にマトリクス状(XY2次元方向)に配列されている。これらマイクロコイルMCは、配線基板28に電気的に接続されるとともに、隣接するマイクロコイルMC間での絶縁のため、マイクロコイル同士が接触することなく、絶縁層40内に埋め込まれた状態となっている。制御装置90は、マイクロコイルMCそれぞれに対する電流の供給、及び電流の供給停止をスイッチングすることができる。
【0052】
また、図3に示されるように、複数のマイクロコイルMCのそれぞれの中央中空部分には、鉄心31が設けられており、この鉄心31によりマイクロコイルMCの磁界を強めることが可能である。
【0053】
上記のように構成される本体部24には、更に、図3に示されるように、その内部に気体供給路42が形成されている。
【0054】
これについて更に詳述すると、気体供給路42は、配線基板28内に水平方向に沿って形成された幹路42aと、配線基板28内に幹路42aから垂直方向に向かって形成された第1枝路42bと、第1枝路42bに連通する状態で絶縁層40内に形成された第2枝路42cとを有している。第1枝路42bと第2枝路42cは、配線層28Bの配線の位置や、マイクロコイルMC及び鉄心31の位置に干渉しないように形成されている。
【0055】
この気体供給路42の端部には、コネクタ26を介して気体供給管44(図2参照)の一端部が接続され、該気体供給管44の他端部には、気体供給装置93(図2では不図示、図9参照)が接続されている。制御装置90(図9参照)は、気体供給装置93の気体の供給を制御することにより、幹路42a、第1枝路42b及び第2枝路42cを介して、電磁チャック20の上面に気体を噴出させる。この気体の噴出量は、制御装置90によって管理される。なお、気体供給路42の一部に電磁弁等を設け、電磁チャック20上面の一部からのみ気体が噴出すような構成を採用しても良い。
【0056】
以上のような電磁チャック20では、磁性体を一部に含む物体であれば、電磁チャック20上の所望の位置近傍に位置決めすることができるが、本実施形態では、より正確な位置決め及び姿勢制御を行うために、図4(A)に示されるように、位置決め対象の物体Mの下面側に磁石48A,48Bを設けることとしている。
【0057】
この場合、磁石48Aと磁石48Bとは例えば逆極性に設定されている。したがって、例えば、図4(A)に模式的に示される24個のマイクロコイルMC1〜MC24がある場合に、マイクロコイルMC11とマイクロコイルMC24とに逆向きの電流を供給することにより、位置決め対象の物体Mを磁気吸着して図4(B)に示される位置に位置決めすることができる。また、磁石48A、48Bが逆極性であるため、マイクロコイルMC11と磁石48Bとが協働し、マイクロコイルMC24と磁石48Aとが協働することにより、物体Mが水平面内の回転方向にずれた状態で位置決めされることなく、物体Mの正確な位置決めを行うことが可能である。
【0058】
一方、物体Mとして円柱状の物体を採用する場合、図5(A)に示されるように、その長手方向両端部に磁石48A,48Bを設けておく。これにより、1つのコイル(ここでは、マイクロコイルMC20)に電流を供給することで、図5(A)に示されるように物体MをマイクロコイルMC20上方で垂直に立てた状態で位置決めすることが可能である。また、図5(B)に示されるように、例えばマイクロコイルMC20、MC15に逆向きの電流を供給することにより、物体Mを水平にした状態で位置決めすることが可能である。更に、図5(C)に示されるように、例えばマイクロコイルMC20に電流(大きさa)を供給するとともに、マイクロコイルMC15に逆向きの電流(大きさa’(a’<a))を供給することにより、物体Mを垂直な状態からやや傾いた状態で位置決めすることが可能である。
【0059】
ここで、位置決め対象となる物体Mについて、更に具体的に説明する。
【0060】
位置決め対象となる物体としては、たとえば、LSI(Large Scale Integration)やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子などが挙げられる。MEMS素子は、最近では、加速度センサ、ジャイロセンサ、DMD(Digital Micro-mirror Device)、インクジェットプリンタのプリンタヘッドなどに用いられ、リソグラフィ技術等を用いたエネルギビーム加工技術、組立てなどの機械加工技術を用いて製造される。この製造にあたっては、ウエハ上に一層ごとに半導体露光装置でパターンを形成し、そして現像、エッチング処理を行って、パーツの型を作る。通常のLSIでは露光後レジストは取り除かれるが、MEMS素子製造においては犠牲層としての役割を果たすレジストに関しては最後まで残すようにし、立体構造を製作していく過程において隙間を犠牲層によって埋めるようにする。そして、最後にすべての犠牲層(レジスト)を酸素プラズマ処理によって一気に除去することにより立体構造を完成させる。
【0061】
なお、MEMS素子は、上記のように1枚のシリコンウエハ上に半導体製造技術(リソグラフィ技術)を用いて多数製造されることから、製造工程の最終段階において、シリコンウエハをダイシングし、各素子を切り離す必要がある。
【0062】
ここで、切り離された後のMEMS素子は、実際には数μm程度の大きさを有している。このような微細な物体が、電磁チャック20の上面に接触した状態で載置されると、摩擦力や、静電気力、ファンデルワールス力などの作用が強まることが知られている。これらの力は、物体の寸法がミリメートルよりも大きいときはほとんど無視することができるが、MEMS素子のような微細な物体では、慣性力等の体積力に比べ大きくなる。したがって、本実施形態においては、物体Mと電磁チャック20との間の摩擦力などの力を解消するために、前述した気体供給装置93から気体供給路42を介して気体を電磁チャック20のベース面29a上に噴出させ、物体に浮上力を与えることとしている。
【0063】
図1に戻り、前記第2の保持装置150は、上下反転しているが、基本的には前述した第1の保持装置50と同様の構成となっている。これを更に詳述すると、第2の保持装置150は、ステージ(可動体、又はテーブル)ST2と、該ステージST2の下面で保持された電磁チャック120と、ステージST2を少なくともY軸方向に移動させる移動装置130とを含む。
【0064】
前記ステージST2は、ステージST1と同様の構成となっており、電磁チャック120は、電磁チャック20と同様の構成であり、ステージST2の下面側で真空吸着機構94(図2では不図示、図9参照)を介して保持されている。また、移動装置130も移動装置30と同様の構成であり、移動子ユニット132と、天井面CE下方に支持部材138A,138Bを介して支持された固定子ユニット134とを有するY軸リニアモータ136を含んでいる。なお、ステージST2には、電磁チャック120を上下方向(Z軸方向)に駆動することが可能な上下動機構95(図2では不図示、図9参照)が設けられている点がステージST1とは異なっている(図1参照)。
【0065】
次に、プリアライメント装置PA1について図6(A)〜図7(C)に基づいて説明する。なお、プリアライメント装置PA1の各動作は、実際には、図9の制御装置90の指示の下行われるが、ここでは、説明の煩雑化を避けるため、その記載を省略するものとする。
【0066】
プリアライメント装置PA1は、内部に液体Lqを有する攪拌漕52(図6(B)参照)と、該攪拌漕52内部に設けられ、その一部に取手54aが取り付けられたメッシュ54(図6(B)参照)と、ラフ位置決め機構55(図7(B)参照)とを含む。メッシュ54の網目の格子間隔は、物体Mが通り抜けることができない程度の大きさに設定されている。
【0067】
このプリアライメント装置PA1(図1参照)では、まず、図6(A)に示されるような所定数の物体Mが内部に保管されているカセット56を攪拌漕52近傍に搬送し、カセット56内部の物体Mを図6(B)に示される攪拌漕52内の液体Lq中に投入する。この段階では、物体Mの磁石同士が吸着しあい、物体M同士が連結されている場合もある。
【0068】
次いで、図6(C)に示されるように攪拌漕52内の液体Lqを攪拌し、物体M相互間の連結を解除する。そして、物体M相互間の連結が解除された状態のまま、メッシュ54を引き上げることにより、メッシュ54の網目上に物体Mを散在させることができる(図7(A)参照)。
【0069】
次いで、散在した物体Mの位置を、例えば画像処理等の手法を用いる観察装置99A(図9参照)を介して認識しつつ、ピックアップ機構96(図9参照)を用いて、物体Mを一つ一つ拾い上げ、図7(B)に示されるラフ位置決め機構55上にラフに物体Mを順次位置決めする。このラフ位置決め機構55は、基本的には電磁チャック20と同様の構成となっているが、コイルの配置間隔などが電磁チャック20よりも大きく設定されている。したがって、本実施形態では、ピックアップ機構96を用いて、ラフ位置決め機構55の所望の位置近傍に物体Mの一つを位置決めし、所望の位置近傍のコイルに電流が供給されることにより、物体がラフに位置決めされることになる。ただし、物体の姿勢に関しては所望の姿勢とはなっていない。このような作業が終了すると、例えば図7(B)に示されるようにラフ位置決め機構55上に物体が整列されることになる。なお、前述したラフ位置決め機構55としては、単に表面にバキューム用の開口がマトリクス状に複数形成された板状部材であっても良い。
【0070】
次いで、図7(C)に示されるように、ラフ位置決め機構55を、物体Mを保持する面を下側に向けた状態で電磁チャック20と対向するように配置し、ラフ位置決め機構55のコイルに対する電流供給を停止することにより、電磁チャック20上に物体を供給する(受け渡す)。そして、電磁チャック20では、所望のマイクロコイルMCに電流を供給し、プリアライメントされた物体をより正確に位置決めする。この場合、プリアライメント装置PA1により物体がラフに位置決めされているので、プリアライメントをしない場合と比べて、各物体の電磁チャック20上での移動距離を短くすることができ、高精度な位置決めをすることが可能となる。
【0071】
他方のプリアライメント装置PA2(図1参照)も同様の構成となっている。すなわち、プリアライメント装置PA2は、図9に示されるように、ラフ位置決め機構55やピックアップ機構96、及び観察装置99Bなどを備えている。なお、本実施形態では、プリアライメント装置PA2でプリアライメントされ、電磁チャック120に保持される物体として、MEMS素子などに穴を開ける又は削るなどの加工を施す加工工具N(図8(A)参照)を採用することとする。この加工工具Nの一端には、磁石が埋め込まれている。また、電磁チャック120には、位置決めされた加工工具Nのそれぞれに電流を供給することができるように配線が内設されている。したがって、全ての加工工具Nに対して電流を同時に供給することが可能となっており、全ての加工工具Nを同時に使用することが可能となっている。なお、加工工具Nへの電流の供給は必須ではなく、加工工具Nが電流を必要としない工具の場合には、電流供給用の配線を設けなくても良い。
【0072】
図1には、下方の電磁チャック20にMEMS素子などから成る物体Mが位置決めされ、上方の電磁チャック120に加工工具Nが位置決めされた状態が示されている。その後、物体Mと加工工具Nとは、図8(A)に示されるように、上下対応する位置関係で位置決めされる。
【0073】
そして、組立てシステム100では、電磁チャック20と電磁チャック120とを上下対向する位置に位置決めし、例えば、電磁チャック120側を上下動機構95を介して下方に移動することにより、図8(B)に示されるように、各物体Mと対応する加工工具Nとを接触させ、電磁チャック120に保持された全ての加工工具Nに電流を供給することにより、電磁チャック20に保持された全ての物体Mに穴を開けるなどの加工を施すことができる。
【0074】
ここで、電磁チャック20の位置は、干渉計97(図9参照)を介して計測され、制御装置90は、該計測結果に基づいてステージST1を移動装置30を介して移動する。また、電磁チャック120の位置も、干渉計98(図9参照)を介して計測され、制御装置90は、該計測結果に基づいてステージST2を移動装置130を介して移動する。
【0075】
なお、本実施形態では、上側の電磁チャック(120)を1つのみ設けることとしたが、例えば物体Mに対して連続して異なる加工を施す場合には、別の種類の加工工具を保持した電磁チャック(第3の保持装置)を電磁チャック120の近傍に設けることとしても良く、その数や種類、及び配置については特に限定されるものではない。
【0076】
以上詳細に説明したように、本第1の実施形態によると、電磁チャック20において、複数のマイクロコイルMCのうちの特定のマイクロコイルに電流を供給し、物体Mの磁石と協働して物体Mに電磁力を作用させるので、物体Mをベース面上の所望の位置に位置決めした状態で保持することができる。また、気体供給路42から噴出される気体により、物体Mに対して浮上力が与えられるので、物体Mを位置決めする際に物体Mと電磁チャック上面との間に作用する力の影響を低減することが可能である。
【0077】
また、プリアライメント装置PA1(又はPA2)を用いて、物体M(又は工具N)を電磁チャック20(又は120)のベース面に対して位置決めした後、複数のマイクロコイルMCにより、物体M(又は工具N)の磁石と協働して物体M(又は工具N)に電磁力を作用させるので、物体M(又は工具N)を電磁チャック20(又は120)の所望の位置に正確に位置決めした状態で保持することが可能である。
【0078】
また、複数のマイクロコイルMCのそれぞれに対する電流供給・停止を制御装置90によって行うことにより、物体M(又はN)の磁石と協働して物体に電磁力を作用させたりさせなかったりすることができるので、物体を適切なタイミングで、適切な位置に位置決めした状態で保持することができる。
【0079】
また、本実施形態では、第1の保持装置50により物体Mを精度良く位置決めし、第2の保持装置150により物体(加工工具N)を保持するので、第1の保持装置50と第2の保持装置150とを対向して配置することで、物体Mと物体Nとを所定の位置関係にすることが可能であり、これにより、物体M及び物体Nを用いた組立てを精度良く行うことが可能である。
【0080】
なお、上記実施形態では、第1の保持装置50と第2の保持装置150とが、Y軸方向に移動可能なステージST1、ST2をそれぞれ有する場合について説明したが、これに限らず、ステージは、第1、第2の保持装置の少なくとも一方に設けられていれば良い。また、上記実施形態ではステージST1、ST2がY軸リニアモータにより、Y軸方向にのみ移動可能な場合について説明したが、更にX軸リニアモータを設けることにより、X軸方向にも移動可能とすることとしても良い。また、電磁チャック20及び120の両者ともに、Z軸方向に移動可能としても良いし、各軸に関して傾斜(回転)する方向に移動可能とすることとしても良い。
【0081】
なお、上記実施形態では、ステージST1を移動する移動装置としてリニアモータを採用した場合について説明したが、これに限らず、その他の駆動機構、例えばボイスコイルモータや平面モータ、ボールネジ方式のモータなど種々の駆動機構を採用することができ、また、これらの駆動機構を適宜組み合わせることも可能である。
【0082】
なお、上記実施形態では、電磁チャック20の位置を、干渉計97(図9参照)を介して計測することとし、また、電磁チャック120の位置も、干渉計98(図9参照)を介して計測することとしたが、これに限らず、位置計測にエンコーダなどの計測装置や、その他種々の計測装置を用いることとすることができる。
【0083】
なお、上記実施形態では、加工工具Nを上側の電磁チャック120に複数保持させて、下側の電磁チャック20に保持された複数の物体を同時に加工する場合について説明したが、本発明がこれに限られるものではなく、例えば、加工工具は1つのみ用意することとしても良い。すなわち、図10に示されるように、図1の第2の保持装置150を設けずに、電磁チャック20の上方に加工工具170を設け、ステージST1を2次元面内及び鉛直方向に移動しつつ、電磁チャック20上で保持されている物体の全てに順次加工を施すこととしても良い。この場合、電磁チャック20上で保持された物体Mの位置を画像処理方法等により計測しつつ、ステージST1を随時移動することとしても良いし、予め物体が位置決めされている位置がわかっていれば、物体と加工工具170とが一致するようにステージST1を移動することができる。なお、これに限らず、電磁チャック20の位置を固定し、加工工具170側を水平面内及び垂直方向に移動できるように構成し、加工工具170を移動しつつ各物体に加工を施すこととしても良い。なお、加工工具170は、図10に示されるように1つのみ設ける場合に限らず、2つ以上設けることとしても良い。
【0084】
なお、上記実施形態では、物体Mに浮上力を作用させるために、電磁チャック20のベース面29a上方に気体を噴出することとしたが、本発明がこれに限られるものではなく、例えば、磁気力を用いて物体Mに浮上力を作用させるようにしても良い。
【0085】
なお、上記実施形態では、コイル保持盤29として絶縁層40を設ける場合について説明したが、これに限らず、絶縁層40を設けなくても良く、この場合、コイル保持盤29が配線基板28のみで構成されることとなる。
【0086】
《第2の実施形態》
次に、本発明の第2の実施形態について図11(A)〜図12に基づいて説明する。
【0087】
図11(A)には、本第2の実施形態の概略構成が示されている。この図11(A)からわかるように、電磁チャック20及び電磁チャック120が設けられている点は前述した第1の実施形態と共通するが、電磁チャック120にアーク溶接用の電源70が接続されている点が第1の実施形態とは異なっている。電磁チャック120は、第1の実施形態と同様上下動機構95(図12参照)により上下方向(Z軸方向)に移動可能とされている。
【0088】
本実施形態では、例えば、図11(A)に示されるように、電磁チャック20を用いて、略立方体状の形状を有する物体M(第1の実施形態と同様に一部に磁石が設けられている)を等間隔に位置決めした状態で保持するとともに、電磁チャック120を用いて、物体Mを等間隔に位置決めした状態で保持する。この場合、隣接する物体M同士の間隔は、物体Mの幅よりも小さく設定されている。なお、図11(A)では、図示の便宜上、物体Mが一軸方向にのみ沿って配列されているように見えるが、実際には、2次元方向に等間隔で配列されている。また、この物体Mの位置決めに際しても、前述した第1の実施形態におけるプリアライメント装置PA1,PA2と同様のプリアライメント装置を用いて、予め大まかに位置決めすることができる。
【0089】
このように両電磁チャック20,120に物体Mを保持させるとともに、両電磁チャックが対向した状態で上下動機構95(図12参照)を介して電磁チャック120を下降駆動し、両電磁チャックを接近させる。そして、上側の物体Mと下側の物体Mが接触した状態で、電源70から電圧を供給する。これにより、図11(B)に示されるように、上側の物体と下側の物体が接触している部分がアーク溶接され、接触している物体同士が固定されるようになっている。この場合、上側の物体が通常のアーク溶接における溶接棒としての役割を果たし、下側の物体が母材としての役割を果たしているともいえる。
【0090】
このようにして、アーク溶接が完了すると、上側の電磁チャック120の物体Mに対する保持力を解除するとともに、上下動機構95(図12参照)を介して電磁チャック120を上方に移動することにより、上側の電磁チャック120を下側の電磁チャック20から遠ざける(図11(C)参照)。
【0091】
その後も、同様にして、物体Mを上側の電磁チャック120に保持させるとともに、両電磁チャックを接近させアーク溶接をすることにより、物体Mを3次元的に組み立てる(組み上げる)ことが可能となっている(図11(D)参照)。
【0092】
このようにして組み上げられた構造体は、その表面積が大きいことに着目して、例えば、ヒートシンクやヒータ、フィルタなどに用いることも可能であるし、また、物体間に隙間が多く形成されていることに着目して、軽量かつ高剛性な金属素材として様々な使用方法が期待できる。
【0093】
以上説明したように、本第2の実施形態によると、微細な物体であっても、本発明の電磁チャックを用いて正確に配列させることが可能であるとともに、アーク溶接用の電源70から電圧が印加されることにより、物体間を接着することができるので、様々な三次元構造物を組み立てる(製造する)ことが可能である。
【0094】
なお、上記第2の実施形態では、物体として略立方体状の物体Mを採用した場合について説明したが、本発明がこれに限られるものではなく、規格化された構造を有する様々な形状の物体を用いることが可能である。例えば、球状の物体や円柱状の物体、あるいは三角錐状の物体等により、種々の三次元構造を組み立てる(製造する)ことが可能である。この場合、図5(A)〜図5(C)に示されるように、物体の姿勢を変更しつつ、組み立てることも可能である。
【0095】
なお、上記第2の実施形態では、アーク溶接を用いる場合について説明したが、本発明がこれに限られるものではなく、例えば、接着剤を用いて物体間を接続することとしても良いし、水素結合などにより物体間を接続するようにしても良い。
【0096】
《第3の実施形態》
次に、本発明の第3の実施形態に係る加工装置80について図13(A)〜図14(C)に基づいて説明する。本第3の実施形態では、第1、第2の実施形態で用いていた電磁チャック20を加工装置80の構成要素として用いている。
【0097】
本第3の実施形態の加工装置80は、図13(A)に示されるように、電磁チャック20と、該電磁チャック20に対向して設けられた真空チャック220とを備えている。
【0098】
前記電磁チャック20は、上下逆ではあるが、第1の実施形態と同様の構成とされ、コイル保持盤29と該コイル保持盤29に設けられた複数のマイクロコイルMCとを備えている。この電磁チャック20は、第1、第2実施形態で電磁チャック120側に設けられていた上下動機構と同様の上下動機構により上下方向(Z軸方向)に移動可能とされている。
【0099】
前記真空チャック220は、ベース222を備え、該ベース222の内部には、バキューム用の管路242が形成されており、該管路を介した真空吸引力により、真空チャック220上面に載置される物体Mを吸着保持する。バキューム用の管路242には、弁が設けられており、該弁の開閉を制御装置が制御することにより、物体Mを真空吸引する位置を変更することが可能である。
【0100】
図13(A)に示されるように、真空チャック220上では、薄板状の物体Mが真空吸着されている。この物体MはMEMSミラーであり、空所87によって区画された複数の領域が形成され、該各領域内に、図13(B)に示されるようにミラー部分82が形成されている。ミラー部分82近傍の2箇所には磁石84a,84bが設けられている。なお、磁石84a,84bは互いに逆極性であっても同一極性であっても良い。また、真空チャック220では、空所87によって区画された領域以外の部分を真空吸着することとしている。
【0101】
本実施形態においては、上記のようにして構成される加工装置80を用いて、ミラー部分82を含む部分をヒンジ86の位置から立ち上げた状態に加工する(折り曲げる)こととしている。
【0102】
具体的には、物体Mを図14(A)に示されるように真空チャック220上に載置し、真空吸着保持した状態で、電磁チャック20を物体Mに上方から接触又は接近させる(図14(B)参照)。そして、この状態から、物体Mの磁石84a,84bに対応する部分に位置する電磁チャック20のマイクロコイル(図14(B)に黒塗り状態で示されるマイクロコイル)に電流を供給し、物体Mの磁石84a,84bを吸着する。
【0103】
次いで、磁石84a,84bの吸着を維持した状態で、電磁チャック20を水平面と交差する方向(ここでは、+Z方向)に上下動機構を介して移動することにより、図14(C)に示されるように、ミラー部分82をヒンジ86部分近傍から立ち上げた状態にすることが可能である。
【0104】
以上説明したように、本第3の実施形態の加工装置80を用いることにより、MEMSミラーのミラー部分などの微細な部位についても、容易に立ち上げ状態に加工する(折り曲げる)ことができるとともに、全てのミラー部分82の加工(折り曲げ)を一括して行うことが可能である。
【0105】
なお、上記第3の実施形態では、電磁チャック20を上下動機構を介して上方に移動することにより、MEMSミラーを立ち上げ状態に加工する場合について説明したが、本発明がこれに限られるものではなく、真空チャック220を、上下動機構によって上下方向に移動できるようにし、該上下動機構を介して真空チャック220を電磁チャック20に対して下方に移動することにより、ミラー部分82を立ち上げ状態に加工する(折り曲げる)こととしても良い。また、真空チャック220と電磁チャック20の両方に上下動機構を設け、それら上下動機構を介して真空チャック220と電磁チャック20とが遠ざかる方向に移動することでミラー部分82を立ち上げ状態に加工することとしても良い。なお、上下動機構としては、リニアモータのほか種々の駆動機構を採用することができる。
【0106】
なお、上記第3の実施形態では、電磁チャック20と真空チャック220とを相対的にZ軸方向に移動する場合について説明したが、本発明がこれに限られるものではなく、XY面に交差する方向であり、かつ物体を加工するのに適した方向であれば、様々な方向に両チャックを相対移動することができる。
【0107】
なお、上記第3の実施形態では、物体(MEMSミラー)を保持するために、真空チャック220を用いることとしたが、本発明がこれに限られるものではなく、例えば、MEMSミラーの外周部近傍を機械的に保持するチャック機構を用いることとしても良い。
【0108】
なお、上記実施形態では、加工装置80を用いてMEMSミラーを加工する場合について説明したが、これに限らず、微細加工された種々の物体(磁性体部と空所部とを有する物体)の加工に好適に適用することができる。
【0109】
《第4の実施形態》
次に、本発明の第4の実施形態について図15に基づいて説明する。
【0110】
本第4の実施形態のスパッタリング装置60は、図15に示されるように、真空チャンバ65と、該真空チャンバ65内に設けられた基材Wを保持する電磁チャック20’と、電磁チャック20’近傍に設けられたターゲットTgを含むカソード68と、真空チャンバ65の外部でカソード68の裏面側に設けられた磁極62とを備えている。
【0111】
前記真空チャンバ65は、スパッタ用のアルゴンガスを導入するための導入管63及びその一部にポンプが接続されている排気管64を有しており、その内部は排気管64を介して排気された後、導入管63を介して例えばアルゴンガスが所定量導入されている。
【0112】
前記電磁チャック20’は、前述した第1の実施形態の電磁チャック20と同様の構成となっているが、気体供給路は設けられていない。なお、気体供給路に代えて、基材Wを保持するためのバキュームチャック機構を設けることとしても良い。
【0113】
前記カソード68は、ターゲットTgと、該ターゲットTgの裏面側に設けられたバッキングプレート68aとを備えている。このバッキングプレートの内部に形成された液体流路には冷却水が供給されており、該冷却水によって、ターゲットTgが冷却されるようになっている。このカソード68には不図示の電源が接続されており、スパッタ電力が供給されるようになっている。
【0114】
前記磁極62は、S極及びN極を有しており、磁力が生じている。
【0115】
このように構成されるスパッタリング装置60では、不図示の電源からカソード68に負の直流電圧が与えられると、カソード68にはスパッタ電力(例えば、200ワット)が供給される。これによってカソード68から電磁チャックに向かって高電界が形成され、これとともに磁極62のN極とS極との間に磁力が生じることで、スパッタ磁界が形成される。
【0116】
アルゴン原子は、ターゲットTg付近で電界にさらされることにより電離し、磁界をトラップするので電離は更に促進される。その上、電離により発生した電子は、アルゴン原子に衝突し、更に電離が促進される。
【0117】
このようにして、アルゴンイオンがターゲットTg付近に発生し、ターゲットTg近傍の電界で加速され、勢い良くターゲットTgに衝突する。この衝突によって、ターゲットTgの一部が微粒子(クラッタ)となってスパッタ(反跳)され、スパッタされたターゲット微粒子のうち、基材Wの方向に向かったものが基材Wに衝突しそこに付着する。このようなターゲット微粒子の付着が繰り返されることにより、基材W表面に薄膜が形成されるようになっている。
【0118】
ここで、ターゲット微粒子は、磁界が発生しているところに引き寄せられる性質を有しているので、電磁チャック20’を構成する複数のマイクロコイルに選択的に電流を供給することにより、基材W表面のうち電流が供給されたマイクロコイルに対応する部分にのみターゲット微粒子が堆積させることができ、これにより、基材W表面にパターニングされた状態で薄膜を形成することが可能となっている。
【0119】
なお、本第4の実施形態では、真空チャンバ65内にアルゴンガスが充填される場合について説明したが、これに限らず、例えば窒素ガス、あるいはネオンガスを充填することとしても良い。
【0120】
以上説明したように、本第4の実施形態のスパッタリング装置では、マイクロコイルに対する電流の供給を制御することにより、基材W上に電流を供給するマイクロコイルの分布に応じたパターンを形成することが可能となっている。
【0121】
なお、上記各実施形態では、制御装置が、各コイルに対する電流供給及び電流供給停止のスイッチングを行なう場合について説明したが、これに限らず、例えばコイルへの電流供給及び供給停止する機能を配線基板に設けられたICなどにもたせ、これを介して電流の制御を行うこととしても良い。
【0122】
なお、上記各実施形態では、電磁チャックによりなんらかの物体を保持させる場合について説明したが、本発明がこれに限られるものではなく、例えば、図16に示されるような平面モータ装置の固定子として採用することとしても良い。
【0123】
すなわち、固定子320側は、上記第1の実施形態の電磁チャック20と同様の構成であり、可動子330側も第1の実施形態の物体Mと同様に磁石148a,148bが設けられているが、マイクロコイルに電流を供給し又は電流供給を停止するスイッチングの制御方法が異なっている。具体的には、可動子330を移動する速度(要求速度)に応じて、電流を供給するマイクロコイルを変更するようにスイッチング制御することにより、所望の方向に可動子を移動させるようにする。
【0124】
この場合、気体供給路42から可動子の下面とベース面29aとの間に供給される気体により、可動子330の下面とベース面29aとの間には、数μmのクリアランスが形成されている。なお、気体供給路42とともに、またはこれに代えて、可動子330の移動により生じる動圧を軸受として用いることも可能である。例えば、可動子330の少なくとも進行方向の下面部分をくさび状に形成し、パソコン等に用いられるハードディスクのヘッドが浮上するのと同様の原理により、可動子330の移動速度に応じて浮上力を発生させて、可動子330の下面とベース面29aとの間に数μmのクリアランスを形成することとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0125】
以上説明したように、本発明の保持装置は、磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持するのに適している。また、本発明の組立てシステムは、磁性体を少なくとも一部に含む物体を用いた組立てに適している。また、本発明のスパッタリング装置は、真空内でターゲット材料にイオンを衝突させて、基材に薄膜を形成するのに適している。更に、本発明の加工方法及び加工装置は、磁性体を少なくとも一部に含む物体を加工するのに適している。
【符号の説明】
【0126】
20…電磁チャック、20’…電磁チャック、24…本体部、28A…シリコン基板、30…移動装置、42…気体供給路、50…保持装置、52…攪拌漕、60…スパッタリング装置、80…加工装置、82…ミラー部分、48A…磁石、48B…磁石、84a、84b…磁石(磁性体)、87…空所、M…物体、N…加工工具、MC…マイクロコイル、W…基材、PA1…プリアライメント装置、90…制御装置、93…気体供給装置、95…上下動機構、120…電磁チャック、150…保持装置、220…真空チャック、222…ベース、242…バキューム用の管路。
【技術分野】
【0001】
本発明は保持装置、組立てシステム、スパッタリング装置、並びに加工方法及び加工装置に係り、更に詳しくは、磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する保持装置、該保持装置を用いた組立てシステム、真空内でターゲット材料にイオンを衝突させて、基材に薄膜を形成するスパッタリング装置、磁性体を少なくとも一部に含む物体を加工する加工方法及び加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、微細装置の集積化のためにマイクロマシニング技術を用いた半導体加工技術が用いられており、その代表的な例として、MEMS(Micro Electro Mechanical System(又はMST(Microsystem Technology)))が挙げられる。MEMSは、半導体工程、特に集積回路技術を応用したマイクロマシニング技術を用いて製造されるナノメートル単位の超小型センサやアクチュエータ及び電気機械的構造物であり、電気系と機械系の部品や機構を極限まで微細化して統合したものを指す。ここでの極限とは、例えば、露出した凹凸などの形状の最短幅が100μm以下、少なくとも1000μm以下である。
【0003】
MEMSで使われるマイクロマシニング技術は2つに分類でき、その1つは、シリコンバルクエッチング(bulk etching)によるバルクマイクロマシニングであり、もう1つは、シリコン上に多結晶シリコン、シリコン窒化膜及び酸化膜などを蒸着し、設計された形状に従ってエッチングして構造物を制作する表面マイクロマシニングである。
【0004】
このようなMEMSは勿論、LSIなどの微細装置も、1枚のシリコンウエハ上に半導体製造技術を用いて多数製造されることから、製造工程の最終段階において、シリコンウエハをダイシングし、各微細装置を切り離す必要がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記のように複数の素子を1枚のウエハ上に一括して製造するという製造方法を採用することにより、ウエハ上の一部に形成されたアライメントマークを、各レイヤに施すリソグラフィ転写などの加工の精度を高めるための位置決めに用いることが可能であったり、現像やエッチング等の工程において、1枚のウエハという大きなまとまりで取り扱うことができ、取り扱いが非常に容易という利点がある。このような利点が存在することが、今日までの半導体製造技術の飛躍的発展に至った理由の一つであると言っても過言ではない。
【0006】
しかしながら、その一方で、シリコンウエハに対する加工方法が、レジスト塗布、露光、現像、エッチング、ドーピング…を順次行う方法に限定されていること、及び平面上に構造物を積層していくといった構成上の制約があること等により、積層構造でない立体的な微細構造物を生成することが比較的困難であり、製造可能な装置(部品)が限られている。
【0007】
最近では、作業者がマニピュレータを用いて微細な部品同士を組み立てて、一つのマイクロマシンを作り上げるという事例が研究レベルでは存在しているが、これを量産する技術は存在していない。たとえ、マイクロモータやマイクロ内燃機関といった要素の研究事例が発表されても、それらを組み合わせるための量産技術はもちろん、研究事例も乏しいのが現状である。このように、マイクロモータなどの新しい要素を組み合わせて一つのマイクロマシンを作り上げることができないため、現在のMEMSモジュールなどは全て一社による一貫した製造を行わざるを得ないというのが現状である。
【0008】
逆に言えば、複数のマイクロモータなどの新しい要素を組み上げて最終モジュールを製造することが可能となるのであれば、産業の裾野は大きく拡大し、産業がますます発展することが予想される。
【0009】
すなわち、例えば、現存する機械をそのままスケールダウンすることにより、様々な分野に応用することもできるようになると考えられる。具体的には、現存する原子力エンジンの全ての部品をスケールダウンすることにより装置全体をスケールダウンすることができれば、原子力エンジンを家庭用の発電機として用いることができる可能性もあるし、現存するアクチュエータをスケールダウンすることにより微細アクチュエータを製造できれば、該微細アクチュエータを数珠繋ぎにすることにより、例えば人工筋肉などを製造することができる可能性もある。
【0010】
しかしながら、現実には、このようなアプローチは一向に進む兆しが見えていない。この原因は、部品をスケールダウンする困難性よりも、スケールダウンされた部品を扱う(組み立てる、2次加工する)ことの困難性が大きいためと考えられる。このような観点から、微細な部品を自在に扱うための技術が必要であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−40520号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述した事情の下になされたものであり、第1の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する保持装置であって、前記物体が配置されるベースと、該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記物体に電磁力を作用させる複数の導電体と、前記物体に対して浮上力を与える浮上力機構と、を備える第1の保持装置である。
【0013】
これによれば、電流を供給する導電体の位置に応じた所望の位置に物体を位置決めすることができ、かつその状態で物体を保持することができる。また、物体を位置決めする際に物体とベースとの間に生じる摩擦力等の引力を低減することが可能となる。
【0014】
本発明は、第2の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する保持装置であって、前記物体が配置されるベースと、該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記物体に電磁力を作用させる複数の導電体と、前記物体に前記電磁力を作用させるに先立って、前記物体を前記ベースに対して位置決めするアライメント装置と、を備える第2の保持装置である。
【0015】
これによれば、アライメント装置を用いて、物体をベースに対して位置決めした後、物体に電磁力を作用させるので、電流を供給する導電体の位置に応じた所望の位置に物体を正確に位置決めすることができ、かつその状態で物体を保持することができる。
【0016】
本発明は、第3の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する保持装置であって、前記物体が配置されるベースと、該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記物体に電磁力を作用させる複数のマイクロコイルと、前記複数のマイクロコイルと接続され、前記複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とをスイッチングする制御装置と、を備える第3の保持装置である。
【0017】
これによれば、物体がベースに設けられた複数のマイクロコイルのそれぞれに対する電流供給・停止を制御装置によって行うことにより、物体をベースの所望の位置(電流を供給したマイクロコイルに対応する位置)に適切なタイミングで位置決めし、その状態で保持することができる。
【0018】
本発明は、第4の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する本発明の第1〜第3の保持装置と、前記保持装置に保持された物体に対して加工を施す加工物と、を備え、前記保持装置と前記加工物とはその相対位置関係が可変である加工装置である。
【0019】
これによれば、本発明の第1〜第3の保持装置により保持された物体に対して、加工物により加工を施すことから、位置決めされた物体に対する加工を行うことで、高精度な加工を実現することができる。
【0020】
本発明は、第5の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を保持する本発明の第1〜第3の保持装置からなる第1保持装置と、前記第1保持装置に保持された第1の物体と対向して配置される第2の物体を保持する第2保持装置と、を備える組み立てシステムである。
【0021】
これによれば、第1保持装置と第2保持装置とを対向して配置することにより第1の物体と第2の物体とを所定の位置関係にすることが可能であり、これにより、第1の物体及び第2の物体を用いた組立てを精度良く行うことが可能となる。
【0022】
本発明は、第6の観点からすると、ターゲット材料にイオンを衝突させて、基材に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、複数のマイクロコイルを有し、前記基材を保持するベースと、前記複数のマイクロコイルと接続され、前記複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とをスイッチングする制御装置と、を備えるスパッタリング装置である。
【0023】
これによれば、複数のマイクロコイルに接続された制御装置が、複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とをスイッチングすることから、基材の保持されている側の面に磁界が形成されるので、形成された磁界に応じた薄膜を形成することが可能となる。したがって、制御装置の電流供給と電流供給停止のスイッチングにより、磁界をコントロールすることで、所望のパターンを有する薄膜を形成することが可能となる。
【0024】
本発明は、第7の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を、第2の物体を用いて加工する加工方法であって、ベースに配置される前記第1の物体に対して浮上力を与え、前記ベースに設けられる複数の導電体と、前記磁性体とを協働して前記第1の物体に電磁力を作用させ、前記第1の物体に対して前記第2の物体を接近もしくは接触させる第1の加工方法である。
【0025】
これによれば、第1の物体に対して第2の物体を高精度に接近もしくは接触させることができるので、第2の物体により第1の物体を高精度に加工することが可能となる。
【0026】
本発明は、第8の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を、第2の物体を用いて加工する加工方法であって、ベースに対して前記第1の物体をアライメントし、前記ベースに設けられる複数の導電体と、前記磁性体とを協働して前記第1の物体に電磁力を作用させ、前記第1の物体に対して前記第2の物体を接近もしくは接触させる第2の加工方法である。
【0027】
これによれば、高精度な位置決めがされた第1の物体に、精度良く第2の物体を接近もしくは接触させることができるので、第2の物体により第1の物体を高精度に加工することが可能となる。
【0028】
本発明は、第9の観点からすると、磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を、第2の物体を用いて加工する加工方法であって、前記第1の物体が配置されるベースの複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とをスイッチングし、前記マイクロコイルと前記磁性体との間の電磁力を前記第1の物体に作用させ、前記第1の物体に対して前記第2の物体を接近もしくは接触させる第3の加工方法である。
【0029】
これによれば、複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とを個別にスイッチングすることにより、第1の物体を特定のマイクロコイルに対応する位置に高精度に位置決めすることができる。これにより、第2の物体を精度良く第1の物体に接近もしくは接触させることが可能となるので、第2の物体により第1の物体を高精度に加工することが可能となる。
【0030】
本発明は、第10の観点からすると、磁性体を一部に含む磁性体部と、該磁性体部をほぼ取り囲んだ状態で形成された空所部とを有する物体を加工する加工装置であって、前記物体を保持可能な保持面を有したベースと、該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記磁性体部を磁気吸着可能な磁気吸着装置と、該磁気吸着装置により前記磁性体部が磁気吸着され、かつ前記空所部が磁気吸着されない状態で、前記ベースを前記保持面と交差する方向に移動させる移動装置と、を備える第1の加工装置である。
【0031】
これによれば、磁気吸着装置によって磁性体部が磁気吸着され、かつ空所部が磁気吸着されていない状態で、移動装置が、ベースを前記保持面と交差する方向に移動させることにより、磁気吸着装置により磁気吸着された磁性体部のみがベースとともに移動するので、磁性体部及びこれに連結された部分をベースの移動方向に応じて変形させることが可能となる。
【0032】
本発明は、第11の観点からすると、磁性体を一部に含む磁性体部と、該磁性体部をほぼ取り囲んだ状態で形成された空所部とを有する物体を加工する加工装置であって、前記物体を保持可能な保持面を有した第1ベースと、該第1ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記磁性体部を磁気吸着する磁気吸着機構と、前記物体を挟むように前記第1ベースと対向して配置された第2ベースと、前記第2ベースに設けられ、前記物体のうち前記磁気吸着機構に磁気吸着されていない部分を吸着する吸着装置と、を備える第2の加工装置である。
【0033】
これによれば、第1ベースに磁性体を磁気吸着する磁気吸着機構が設けられ、第2ベースに磁気吸着されていない部分を真空吸着する吸着装置が設けられていることから、物体を第1ベース及び第2ベースの間で保持した状態で第1ベースと第2ベースの少なくとも一方を移動させることにより、物体に対して該移動方向に応じた加工を施すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1の実施形態に係る組立てシステムを示す概略図である。
【図2】図1の電磁チャック及びステージを示す斜視図である。
【図3】電磁チャックの縦断面図である。
【図4】図4(A),図4(B)は、物体Mの構成及び位置決めの方法を説明するための図(その1)である。
【図5】図5(A)〜図5(C)は、物体Mの構成及び位置決めの方法を説明するための図(その2)である。
【図6】図6(A)〜図6(C)は、プリアライメント装置の構成及びプリアライメントの方法を説明するための図(その1)である。
【図7】図7(A)〜図7(C)は、プリアライメント装置の構成及びプリアライメントの方法を説明するための図(その2)である。
【図8】図8(A)は、物体Mと加工工具Nとを対向させた状態を示す図であり、図8(B)は、物体Mを加工工具Nにより加工している状態を示す図である。
【図9】第1の実施形態に係る制御系のブロック図である。
【図10】第1の実施形態の変形例を示す図である。
【図11】図11(A)〜図11(D)は、第2の実施形態を説明するための図である。
【図12】第2の実施形態に係る制御系を示すブロック図である。
【図13】図13(A)は、第3の実施形態の加工装置の構成を示す図であり、図13(B)は、図13(A)の加工装置により加工される対象となる物体の構成を説明するための斜視図である。
【図14】図14(A)〜図14(C)は、図13(A)の加工装置による加工方法を説明するための図である。
【図15】第4の実施形態のスパッタリング装置の構成を示す図である。
【図16】変形例に係る平面モータ装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
《第1の実施形態》
以下、本発明の第1の実施形態について、図1〜図9に基づいて説明する。図1には、第1の実施形態に係る組立てシステム100が示されている。この組立てシステム100は、MEMS素子やLSIなどの微細構造物に加工を施すためのシステムである。
【0036】
この組立てシステム100は、その全体が例えば床面F及び天井面CEを有する筐体内に設けられており、該筐体の床面F上に設けられた第1の保持装置50と、第1の保持装置50に上下対向する状態で、筐体の天井面CEから吊り下げ支持された第2の保持装置150と、第1の保持装置50及び第2の保持装置150それぞれに対応して設けられたプリアライメント装置PA1,PA2と、を備えている。
【0037】
前記第1の保持装置50は、ステージ(可動体、又はテーブル)ST1と、該ステージST1の上面で保持された電磁チャック20と、ステージST1を少なくともY軸方向(図1における紙面内左右方向)に移動させる移動装置30とを含む。
【0038】
前記移動装置30は、例えば磁極ユニットから成る移動子ユニット32と、床面F上方に支持部材38A,38Bを介して支持された電機子ユニットから成る固定子ユニット34とを有するY軸リニアモータ36を含む。
【0039】
図2には、ステージST1及び電磁チャック20の斜視図が示されている。この図2から分かるように、ステージST1は概略板状の形状を有しており、このステージST1の上面(+Z側の面)上には、電磁チャック20が真空吸着機構91(図2では不図示、図9参照)を介して吸着保持されている。
【0040】
ここで、前記電磁チャック20の具体的な構成について、図2及び電磁チャック20の縦断面図である図3に基づいて説明する。
【0041】
図2に示されるように、電磁チャック20は、平面視略正方形状の枠状部材22と、該枠状部材22の内部空間に設けられた本体部24と、枠状部材22の+Y側端部に設けられ、配線や配管等を本体部24と接続するためのコネクタ26と、を備えている。
【0042】
前記本体部24は、図3の断面図に示されるように、層状の構造を有しており、平板状のシリコン基板28A及び該シリコン基板28A上面に形成された配線層28Bを含む配線基板28と、該配線基板28上にマトリクス状に配設された複数のマイクロコイルMCと、該マイクロコイルMCの隙間を埋めるように設けられた絶縁層40と、を有している。ここで、本実施形態では配線基板28と絶縁層40とを含んでコイル保持盤29が構成され、該コイル保持盤29の上面がベース面(保持面)29aとされている。なお、複数のマイクロコイルMCは、一例として1mmピッチで配列されている。
【0043】
前記配線層28Bは、シリコン基板28A上に、例えば半導体露光装置などを用いたリソグラフィ技術などによって形成されている。この配線層28Bには、コネクタ26を介して配線43の一端が接続されている。配線43の他端側には電源92(図3では不図示、図9参照)が接続され、図9の制御装置90の指示の下、電源92から、配線43及びコネクタ26を介した電流の供給が行われる。
【0044】
前記複数のマイクロコイルMCは、平面マイクロコイルから成り、例えば、次のような工程を経て製造される。
【0045】
(1)まず、シリコン基板を用意し、このシリコン基板の上面全面に例えば感光性ポリイミド前駆体をスピンコート法などを用いて塗布するとともに、感光性ポリイミド前駆体を露光装置等を用いてパターニングし、例えば矩形の下地層を形成する。
【0046】
(2)次いで、下地層及びその周囲にフォトレジストをスピンコート法などで塗布した後、半導体露光装置等を用いて露光を行うとともに現像を行って、マイクロコイルを形成する範囲(形成範囲)に存在するフォトレジストのみを取り除く。なお、半導体露光装置として例えば、国際公開第2004/073053号(対応米国特許出願公開第2005/248744号明細書)に開示されている半導体露光装置を用いることができる。
【0047】
(3)次いで、スパッタ蒸着法により白金(Pt)をシリコン基板の上面全面に蒸着して触媒金属層を形成し、フォトレジストを除去すると、前述した形成範囲にのみ触媒金属層が残存するようになる。
【0048】
(4)次に、上面全面に例えば、光反応性硬化剤を含有するエポキシ樹脂をスピンコート法等により厚く塗布してエポキシ樹脂層を形成する。その後、エポキシ樹脂層をパターニングしてマイクロコイルの型枠を形成する。このパターニングにより、マイクロコイルの配線が形成される予定の部分に存在していたエポキシ樹脂が全て除去される(渦巻状の溝が形成される)。
【0049】
(5)そして、型枠の底部に存在する触媒金属層の一部の上に無電解めっきにより銅を析出させることにより、電解めっき用電極を形成し、かつ該電解めっき用電極を用いて電解メッキを施して、型枠の渦巻状の溝の相対向する壁面間に銅により配線を形成する。このようにしてマイクロコイルを製造することができる。
【0050】
このような、半導体露光装置によるパターン形成を利用してマイクロコイルを製造することで、多数の微細なマイクロコイルを一度に製造することができる。
【0051】
複数のマイクロコイルMCは、コイル保持盤29内(配線基板28上)にマトリクス状(XY2次元方向)に配列されている。これらマイクロコイルMCは、配線基板28に電気的に接続されるとともに、隣接するマイクロコイルMC間での絶縁のため、マイクロコイル同士が接触することなく、絶縁層40内に埋め込まれた状態となっている。制御装置90は、マイクロコイルMCそれぞれに対する電流の供給、及び電流の供給停止をスイッチングすることができる。
【0052】
また、図3に示されるように、複数のマイクロコイルMCのそれぞれの中央中空部分には、鉄心31が設けられており、この鉄心31によりマイクロコイルMCの磁界を強めることが可能である。
【0053】
上記のように構成される本体部24には、更に、図3に示されるように、その内部に気体供給路42が形成されている。
【0054】
これについて更に詳述すると、気体供給路42は、配線基板28内に水平方向に沿って形成された幹路42aと、配線基板28内に幹路42aから垂直方向に向かって形成された第1枝路42bと、第1枝路42bに連通する状態で絶縁層40内に形成された第2枝路42cとを有している。第1枝路42bと第2枝路42cは、配線層28Bの配線の位置や、マイクロコイルMC及び鉄心31の位置に干渉しないように形成されている。
【0055】
この気体供給路42の端部には、コネクタ26を介して気体供給管44(図2参照)の一端部が接続され、該気体供給管44の他端部には、気体供給装置93(図2では不図示、図9参照)が接続されている。制御装置90(図9参照)は、気体供給装置93の気体の供給を制御することにより、幹路42a、第1枝路42b及び第2枝路42cを介して、電磁チャック20の上面に気体を噴出させる。この気体の噴出量は、制御装置90によって管理される。なお、気体供給路42の一部に電磁弁等を設け、電磁チャック20上面の一部からのみ気体が噴出すような構成を採用しても良い。
【0056】
以上のような電磁チャック20では、磁性体を一部に含む物体であれば、電磁チャック20上の所望の位置近傍に位置決めすることができるが、本実施形態では、より正確な位置決め及び姿勢制御を行うために、図4(A)に示されるように、位置決め対象の物体Mの下面側に磁石48A,48Bを設けることとしている。
【0057】
この場合、磁石48Aと磁石48Bとは例えば逆極性に設定されている。したがって、例えば、図4(A)に模式的に示される24個のマイクロコイルMC1〜MC24がある場合に、マイクロコイルMC11とマイクロコイルMC24とに逆向きの電流を供給することにより、位置決め対象の物体Mを磁気吸着して図4(B)に示される位置に位置決めすることができる。また、磁石48A、48Bが逆極性であるため、マイクロコイルMC11と磁石48Bとが協働し、マイクロコイルMC24と磁石48Aとが協働することにより、物体Mが水平面内の回転方向にずれた状態で位置決めされることなく、物体Mの正確な位置決めを行うことが可能である。
【0058】
一方、物体Mとして円柱状の物体を採用する場合、図5(A)に示されるように、その長手方向両端部に磁石48A,48Bを設けておく。これにより、1つのコイル(ここでは、マイクロコイルMC20)に電流を供給することで、図5(A)に示されるように物体MをマイクロコイルMC20上方で垂直に立てた状態で位置決めすることが可能である。また、図5(B)に示されるように、例えばマイクロコイルMC20、MC15に逆向きの電流を供給することにより、物体Mを水平にした状態で位置決めすることが可能である。更に、図5(C)に示されるように、例えばマイクロコイルMC20に電流(大きさa)を供給するとともに、マイクロコイルMC15に逆向きの電流(大きさa’(a’<a))を供給することにより、物体Mを垂直な状態からやや傾いた状態で位置決めすることが可能である。
【0059】
ここで、位置決め対象となる物体Mについて、更に具体的に説明する。
【0060】
位置決め対象となる物体としては、たとえば、LSI(Large Scale Integration)やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子などが挙げられる。MEMS素子は、最近では、加速度センサ、ジャイロセンサ、DMD(Digital Micro-mirror Device)、インクジェットプリンタのプリンタヘッドなどに用いられ、リソグラフィ技術等を用いたエネルギビーム加工技術、組立てなどの機械加工技術を用いて製造される。この製造にあたっては、ウエハ上に一層ごとに半導体露光装置でパターンを形成し、そして現像、エッチング処理を行って、パーツの型を作る。通常のLSIでは露光後レジストは取り除かれるが、MEMS素子製造においては犠牲層としての役割を果たすレジストに関しては最後まで残すようにし、立体構造を製作していく過程において隙間を犠牲層によって埋めるようにする。そして、最後にすべての犠牲層(レジスト)を酸素プラズマ処理によって一気に除去することにより立体構造を完成させる。
【0061】
なお、MEMS素子は、上記のように1枚のシリコンウエハ上に半導体製造技術(リソグラフィ技術)を用いて多数製造されることから、製造工程の最終段階において、シリコンウエハをダイシングし、各素子を切り離す必要がある。
【0062】
ここで、切り離された後のMEMS素子は、実際には数μm程度の大きさを有している。このような微細な物体が、電磁チャック20の上面に接触した状態で載置されると、摩擦力や、静電気力、ファンデルワールス力などの作用が強まることが知られている。これらの力は、物体の寸法がミリメートルよりも大きいときはほとんど無視することができるが、MEMS素子のような微細な物体では、慣性力等の体積力に比べ大きくなる。したがって、本実施形態においては、物体Mと電磁チャック20との間の摩擦力などの力を解消するために、前述した気体供給装置93から気体供給路42を介して気体を電磁チャック20のベース面29a上に噴出させ、物体に浮上力を与えることとしている。
【0063】
図1に戻り、前記第2の保持装置150は、上下反転しているが、基本的には前述した第1の保持装置50と同様の構成となっている。これを更に詳述すると、第2の保持装置150は、ステージ(可動体、又はテーブル)ST2と、該ステージST2の下面で保持された電磁チャック120と、ステージST2を少なくともY軸方向に移動させる移動装置130とを含む。
【0064】
前記ステージST2は、ステージST1と同様の構成となっており、電磁チャック120は、電磁チャック20と同様の構成であり、ステージST2の下面側で真空吸着機構94(図2では不図示、図9参照)を介して保持されている。また、移動装置130も移動装置30と同様の構成であり、移動子ユニット132と、天井面CE下方に支持部材138A,138Bを介して支持された固定子ユニット134とを有するY軸リニアモータ136を含んでいる。なお、ステージST2には、電磁チャック120を上下方向(Z軸方向)に駆動することが可能な上下動機構95(図2では不図示、図9参照)が設けられている点がステージST1とは異なっている(図1参照)。
【0065】
次に、プリアライメント装置PA1について図6(A)〜図7(C)に基づいて説明する。なお、プリアライメント装置PA1の各動作は、実際には、図9の制御装置90の指示の下行われるが、ここでは、説明の煩雑化を避けるため、その記載を省略するものとする。
【0066】
プリアライメント装置PA1は、内部に液体Lqを有する攪拌漕52(図6(B)参照)と、該攪拌漕52内部に設けられ、その一部に取手54aが取り付けられたメッシュ54(図6(B)参照)と、ラフ位置決め機構55(図7(B)参照)とを含む。メッシュ54の網目の格子間隔は、物体Mが通り抜けることができない程度の大きさに設定されている。
【0067】
このプリアライメント装置PA1(図1参照)では、まず、図6(A)に示されるような所定数の物体Mが内部に保管されているカセット56を攪拌漕52近傍に搬送し、カセット56内部の物体Mを図6(B)に示される攪拌漕52内の液体Lq中に投入する。この段階では、物体Mの磁石同士が吸着しあい、物体M同士が連結されている場合もある。
【0068】
次いで、図6(C)に示されるように攪拌漕52内の液体Lqを攪拌し、物体M相互間の連結を解除する。そして、物体M相互間の連結が解除された状態のまま、メッシュ54を引き上げることにより、メッシュ54の網目上に物体Mを散在させることができる(図7(A)参照)。
【0069】
次いで、散在した物体Mの位置を、例えば画像処理等の手法を用いる観察装置99A(図9参照)を介して認識しつつ、ピックアップ機構96(図9参照)を用いて、物体Mを一つ一つ拾い上げ、図7(B)に示されるラフ位置決め機構55上にラフに物体Mを順次位置決めする。このラフ位置決め機構55は、基本的には電磁チャック20と同様の構成となっているが、コイルの配置間隔などが電磁チャック20よりも大きく設定されている。したがって、本実施形態では、ピックアップ機構96を用いて、ラフ位置決め機構55の所望の位置近傍に物体Mの一つを位置決めし、所望の位置近傍のコイルに電流が供給されることにより、物体がラフに位置決めされることになる。ただし、物体の姿勢に関しては所望の姿勢とはなっていない。このような作業が終了すると、例えば図7(B)に示されるようにラフ位置決め機構55上に物体が整列されることになる。なお、前述したラフ位置決め機構55としては、単に表面にバキューム用の開口がマトリクス状に複数形成された板状部材であっても良い。
【0070】
次いで、図7(C)に示されるように、ラフ位置決め機構55を、物体Mを保持する面を下側に向けた状態で電磁チャック20と対向するように配置し、ラフ位置決め機構55のコイルに対する電流供給を停止することにより、電磁チャック20上に物体を供給する(受け渡す)。そして、電磁チャック20では、所望のマイクロコイルMCに電流を供給し、プリアライメントされた物体をより正確に位置決めする。この場合、プリアライメント装置PA1により物体がラフに位置決めされているので、プリアライメントをしない場合と比べて、各物体の電磁チャック20上での移動距離を短くすることができ、高精度な位置決めをすることが可能となる。
【0071】
他方のプリアライメント装置PA2(図1参照)も同様の構成となっている。すなわち、プリアライメント装置PA2は、図9に示されるように、ラフ位置決め機構55やピックアップ機構96、及び観察装置99Bなどを備えている。なお、本実施形態では、プリアライメント装置PA2でプリアライメントされ、電磁チャック120に保持される物体として、MEMS素子などに穴を開ける又は削るなどの加工を施す加工工具N(図8(A)参照)を採用することとする。この加工工具Nの一端には、磁石が埋め込まれている。また、電磁チャック120には、位置決めされた加工工具Nのそれぞれに電流を供給することができるように配線が内設されている。したがって、全ての加工工具Nに対して電流を同時に供給することが可能となっており、全ての加工工具Nを同時に使用することが可能となっている。なお、加工工具Nへの電流の供給は必須ではなく、加工工具Nが電流を必要としない工具の場合には、電流供給用の配線を設けなくても良い。
【0072】
図1には、下方の電磁チャック20にMEMS素子などから成る物体Mが位置決めされ、上方の電磁チャック120に加工工具Nが位置決めされた状態が示されている。その後、物体Mと加工工具Nとは、図8(A)に示されるように、上下対応する位置関係で位置決めされる。
【0073】
そして、組立てシステム100では、電磁チャック20と電磁チャック120とを上下対向する位置に位置決めし、例えば、電磁チャック120側を上下動機構95を介して下方に移動することにより、図8(B)に示されるように、各物体Mと対応する加工工具Nとを接触させ、電磁チャック120に保持された全ての加工工具Nに電流を供給することにより、電磁チャック20に保持された全ての物体Mに穴を開けるなどの加工を施すことができる。
【0074】
ここで、電磁チャック20の位置は、干渉計97(図9参照)を介して計測され、制御装置90は、該計測結果に基づいてステージST1を移動装置30を介して移動する。また、電磁チャック120の位置も、干渉計98(図9参照)を介して計測され、制御装置90は、該計測結果に基づいてステージST2を移動装置130を介して移動する。
【0075】
なお、本実施形態では、上側の電磁チャック(120)を1つのみ設けることとしたが、例えば物体Mに対して連続して異なる加工を施す場合には、別の種類の加工工具を保持した電磁チャック(第3の保持装置)を電磁チャック120の近傍に設けることとしても良く、その数や種類、及び配置については特に限定されるものではない。
【0076】
以上詳細に説明したように、本第1の実施形態によると、電磁チャック20において、複数のマイクロコイルMCのうちの特定のマイクロコイルに電流を供給し、物体Mの磁石と協働して物体Mに電磁力を作用させるので、物体Mをベース面上の所望の位置に位置決めした状態で保持することができる。また、気体供給路42から噴出される気体により、物体Mに対して浮上力が与えられるので、物体Mを位置決めする際に物体Mと電磁チャック上面との間に作用する力の影響を低減することが可能である。
【0077】
また、プリアライメント装置PA1(又はPA2)を用いて、物体M(又は工具N)を電磁チャック20(又は120)のベース面に対して位置決めした後、複数のマイクロコイルMCにより、物体M(又は工具N)の磁石と協働して物体M(又は工具N)に電磁力を作用させるので、物体M(又は工具N)を電磁チャック20(又は120)の所望の位置に正確に位置決めした状態で保持することが可能である。
【0078】
また、複数のマイクロコイルMCのそれぞれに対する電流供給・停止を制御装置90によって行うことにより、物体M(又はN)の磁石と協働して物体に電磁力を作用させたりさせなかったりすることができるので、物体を適切なタイミングで、適切な位置に位置決めした状態で保持することができる。
【0079】
また、本実施形態では、第1の保持装置50により物体Mを精度良く位置決めし、第2の保持装置150により物体(加工工具N)を保持するので、第1の保持装置50と第2の保持装置150とを対向して配置することで、物体Mと物体Nとを所定の位置関係にすることが可能であり、これにより、物体M及び物体Nを用いた組立てを精度良く行うことが可能である。
【0080】
なお、上記実施形態では、第1の保持装置50と第2の保持装置150とが、Y軸方向に移動可能なステージST1、ST2をそれぞれ有する場合について説明したが、これに限らず、ステージは、第1、第2の保持装置の少なくとも一方に設けられていれば良い。また、上記実施形態ではステージST1、ST2がY軸リニアモータにより、Y軸方向にのみ移動可能な場合について説明したが、更にX軸リニアモータを設けることにより、X軸方向にも移動可能とすることとしても良い。また、電磁チャック20及び120の両者ともに、Z軸方向に移動可能としても良いし、各軸に関して傾斜(回転)する方向に移動可能とすることとしても良い。
【0081】
なお、上記実施形態では、ステージST1を移動する移動装置としてリニアモータを採用した場合について説明したが、これに限らず、その他の駆動機構、例えばボイスコイルモータや平面モータ、ボールネジ方式のモータなど種々の駆動機構を採用することができ、また、これらの駆動機構を適宜組み合わせることも可能である。
【0082】
なお、上記実施形態では、電磁チャック20の位置を、干渉計97(図9参照)を介して計測することとし、また、電磁チャック120の位置も、干渉計98(図9参照)を介して計測することとしたが、これに限らず、位置計測にエンコーダなどの計測装置や、その他種々の計測装置を用いることとすることができる。
【0083】
なお、上記実施形態では、加工工具Nを上側の電磁チャック120に複数保持させて、下側の電磁チャック20に保持された複数の物体を同時に加工する場合について説明したが、本発明がこれに限られるものではなく、例えば、加工工具は1つのみ用意することとしても良い。すなわち、図10に示されるように、図1の第2の保持装置150を設けずに、電磁チャック20の上方に加工工具170を設け、ステージST1を2次元面内及び鉛直方向に移動しつつ、電磁チャック20上で保持されている物体の全てに順次加工を施すこととしても良い。この場合、電磁チャック20上で保持された物体Mの位置を画像処理方法等により計測しつつ、ステージST1を随時移動することとしても良いし、予め物体が位置決めされている位置がわかっていれば、物体と加工工具170とが一致するようにステージST1を移動することができる。なお、これに限らず、電磁チャック20の位置を固定し、加工工具170側を水平面内及び垂直方向に移動できるように構成し、加工工具170を移動しつつ各物体に加工を施すこととしても良い。なお、加工工具170は、図10に示されるように1つのみ設ける場合に限らず、2つ以上設けることとしても良い。
【0084】
なお、上記実施形態では、物体Mに浮上力を作用させるために、電磁チャック20のベース面29a上方に気体を噴出することとしたが、本発明がこれに限られるものではなく、例えば、磁気力を用いて物体Mに浮上力を作用させるようにしても良い。
【0085】
なお、上記実施形態では、コイル保持盤29として絶縁層40を設ける場合について説明したが、これに限らず、絶縁層40を設けなくても良く、この場合、コイル保持盤29が配線基板28のみで構成されることとなる。
【0086】
《第2の実施形態》
次に、本発明の第2の実施形態について図11(A)〜図12に基づいて説明する。
【0087】
図11(A)には、本第2の実施形態の概略構成が示されている。この図11(A)からわかるように、電磁チャック20及び電磁チャック120が設けられている点は前述した第1の実施形態と共通するが、電磁チャック120にアーク溶接用の電源70が接続されている点が第1の実施形態とは異なっている。電磁チャック120は、第1の実施形態と同様上下動機構95(図12参照)により上下方向(Z軸方向)に移動可能とされている。
【0088】
本実施形態では、例えば、図11(A)に示されるように、電磁チャック20を用いて、略立方体状の形状を有する物体M(第1の実施形態と同様に一部に磁石が設けられている)を等間隔に位置決めした状態で保持するとともに、電磁チャック120を用いて、物体Mを等間隔に位置決めした状態で保持する。この場合、隣接する物体M同士の間隔は、物体Mの幅よりも小さく設定されている。なお、図11(A)では、図示の便宜上、物体Mが一軸方向にのみ沿って配列されているように見えるが、実際には、2次元方向に等間隔で配列されている。また、この物体Mの位置決めに際しても、前述した第1の実施形態におけるプリアライメント装置PA1,PA2と同様のプリアライメント装置を用いて、予め大まかに位置決めすることができる。
【0089】
このように両電磁チャック20,120に物体Mを保持させるとともに、両電磁チャックが対向した状態で上下動機構95(図12参照)を介して電磁チャック120を下降駆動し、両電磁チャックを接近させる。そして、上側の物体Mと下側の物体Mが接触した状態で、電源70から電圧を供給する。これにより、図11(B)に示されるように、上側の物体と下側の物体が接触している部分がアーク溶接され、接触している物体同士が固定されるようになっている。この場合、上側の物体が通常のアーク溶接における溶接棒としての役割を果たし、下側の物体が母材としての役割を果たしているともいえる。
【0090】
このようにして、アーク溶接が完了すると、上側の電磁チャック120の物体Mに対する保持力を解除するとともに、上下動機構95(図12参照)を介して電磁チャック120を上方に移動することにより、上側の電磁チャック120を下側の電磁チャック20から遠ざける(図11(C)参照)。
【0091】
その後も、同様にして、物体Mを上側の電磁チャック120に保持させるとともに、両電磁チャックを接近させアーク溶接をすることにより、物体Mを3次元的に組み立てる(組み上げる)ことが可能となっている(図11(D)参照)。
【0092】
このようにして組み上げられた構造体は、その表面積が大きいことに着目して、例えば、ヒートシンクやヒータ、フィルタなどに用いることも可能であるし、また、物体間に隙間が多く形成されていることに着目して、軽量かつ高剛性な金属素材として様々な使用方法が期待できる。
【0093】
以上説明したように、本第2の実施形態によると、微細な物体であっても、本発明の電磁チャックを用いて正確に配列させることが可能であるとともに、アーク溶接用の電源70から電圧が印加されることにより、物体間を接着することができるので、様々な三次元構造物を組み立てる(製造する)ことが可能である。
【0094】
なお、上記第2の実施形態では、物体として略立方体状の物体Mを採用した場合について説明したが、本発明がこれに限られるものではなく、規格化された構造を有する様々な形状の物体を用いることが可能である。例えば、球状の物体や円柱状の物体、あるいは三角錐状の物体等により、種々の三次元構造を組み立てる(製造する)ことが可能である。この場合、図5(A)〜図5(C)に示されるように、物体の姿勢を変更しつつ、組み立てることも可能である。
【0095】
なお、上記第2の実施形態では、アーク溶接を用いる場合について説明したが、本発明がこれに限られるものではなく、例えば、接着剤を用いて物体間を接続することとしても良いし、水素結合などにより物体間を接続するようにしても良い。
【0096】
《第3の実施形態》
次に、本発明の第3の実施形態に係る加工装置80について図13(A)〜図14(C)に基づいて説明する。本第3の実施形態では、第1、第2の実施形態で用いていた電磁チャック20を加工装置80の構成要素として用いている。
【0097】
本第3の実施形態の加工装置80は、図13(A)に示されるように、電磁チャック20と、該電磁チャック20に対向して設けられた真空チャック220とを備えている。
【0098】
前記電磁チャック20は、上下逆ではあるが、第1の実施形態と同様の構成とされ、コイル保持盤29と該コイル保持盤29に設けられた複数のマイクロコイルMCとを備えている。この電磁チャック20は、第1、第2実施形態で電磁チャック120側に設けられていた上下動機構と同様の上下動機構により上下方向(Z軸方向)に移動可能とされている。
【0099】
前記真空チャック220は、ベース222を備え、該ベース222の内部には、バキューム用の管路242が形成されており、該管路を介した真空吸引力により、真空チャック220上面に載置される物体Mを吸着保持する。バキューム用の管路242には、弁が設けられており、該弁の開閉を制御装置が制御することにより、物体Mを真空吸引する位置を変更することが可能である。
【0100】
図13(A)に示されるように、真空チャック220上では、薄板状の物体Mが真空吸着されている。この物体MはMEMSミラーであり、空所87によって区画された複数の領域が形成され、該各領域内に、図13(B)に示されるようにミラー部分82が形成されている。ミラー部分82近傍の2箇所には磁石84a,84bが設けられている。なお、磁石84a,84bは互いに逆極性であっても同一極性であっても良い。また、真空チャック220では、空所87によって区画された領域以外の部分を真空吸着することとしている。
【0101】
本実施形態においては、上記のようにして構成される加工装置80を用いて、ミラー部分82を含む部分をヒンジ86の位置から立ち上げた状態に加工する(折り曲げる)こととしている。
【0102】
具体的には、物体Mを図14(A)に示されるように真空チャック220上に載置し、真空吸着保持した状態で、電磁チャック20を物体Mに上方から接触又は接近させる(図14(B)参照)。そして、この状態から、物体Mの磁石84a,84bに対応する部分に位置する電磁チャック20のマイクロコイル(図14(B)に黒塗り状態で示されるマイクロコイル)に電流を供給し、物体Mの磁石84a,84bを吸着する。
【0103】
次いで、磁石84a,84bの吸着を維持した状態で、電磁チャック20を水平面と交差する方向(ここでは、+Z方向)に上下動機構を介して移動することにより、図14(C)に示されるように、ミラー部分82をヒンジ86部分近傍から立ち上げた状態にすることが可能である。
【0104】
以上説明したように、本第3の実施形態の加工装置80を用いることにより、MEMSミラーのミラー部分などの微細な部位についても、容易に立ち上げ状態に加工する(折り曲げる)ことができるとともに、全てのミラー部分82の加工(折り曲げ)を一括して行うことが可能である。
【0105】
なお、上記第3の実施形態では、電磁チャック20を上下動機構を介して上方に移動することにより、MEMSミラーを立ち上げ状態に加工する場合について説明したが、本発明がこれに限られるものではなく、真空チャック220を、上下動機構によって上下方向に移動できるようにし、該上下動機構を介して真空チャック220を電磁チャック20に対して下方に移動することにより、ミラー部分82を立ち上げ状態に加工する(折り曲げる)こととしても良い。また、真空チャック220と電磁チャック20の両方に上下動機構を設け、それら上下動機構を介して真空チャック220と電磁チャック20とが遠ざかる方向に移動することでミラー部分82を立ち上げ状態に加工することとしても良い。なお、上下動機構としては、リニアモータのほか種々の駆動機構を採用することができる。
【0106】
なお、上記第3の実施形態では、電磁チャック20と真空チャック220とを相対的にZ軸方向に移動する場合について説明したが、本発明がこれに限られるものではなく、XY面に交差する方向であり、かつ物体を加工するのに適した方向であれば、様々な方向に両チャックを相対移動することができる。
【0107】
なお、上記第3の実施形態では、物体(MEMSミラー)を保持するために、真空チャック220を用いることとしたが、本発明がこれに限られるものではなく、例えば、MEMSミラーの外周部近傍を機械的に保持するチャック機構を用いることとしても良い。
【0108】
なお、上記実施形態では、加工装置80を用いてMEMSミラーを加工する場合について説明したが、これに限らず、微細加工された種々の物体(磁性体部と空所部とを有する物体)の加工に好適に適用することができる。
【0109】
《第4の実施形態》
次に、本発明の第4の実施形態について図15に基づいて説明する。
【0110】
本第4の実施形態のスパッタリング装置60は、図15に示されるように、真空チャンバ65と、該真空チャンバ65内に設けられた基材Wを保持する電磁チャック20’と、電磁チャック20’近傍に設けられたターゲットTgを含むカソード68と、真空チャンバ65の外部でカソード68の裏面側に設けられた磁極62とを備えている。
【0111】
前記真空チャンバ65は、スパッタ用のアルゴンガスを導入するための導入管63及びその一部にポンプが接続されている排気管64を有しており、その内部は排気管64を介して排気された後、導入管63を介して例えばアルゴンガスが所定量導入されている。
【0112】
前記電磁チャック20’は、前述した第1の実施形態の電磁チャック20と同様の構成となっているが、気体供給路は設けられていない。なお、気体供給路に代えて、基材Wを保持するためのバキュームチャック機構を設けることとしても良い。
【0113】
前記カソード68は、ターゲットTgと、該ターゲットTgの裏面側に設けられたバッキングプレート68aとを備えている。このバッキングプレートの内部に形成された液体流路には冷却水が供給されており、該冷却水によって、ターゲットTgが冷却されるようになっている。このカソード68には不図示の電源が接続されており、スパッタ電力が供給されるようになっている。
【0114】
前記磁極62は、S極及びN極を有しており、磁力が生じている。
【0115】
このように構成されるスパッタリング装置60では、不図示の電源からカソード68に負の直流電圧が与えられると、カソード68にはスパッタ電力(例えば、200ワット)が供給される。これによってカソード68から電磁チャックに向かって高電界が形成され、これとともに磁極62のN極とS極との間に磁力が生じることで、スパッタ磁界が形成される。
【0116】
アルゴン原子は、ターゲットTg付近で電界にさらされることにより電離し、磁界をトラップするので電離は更に促進される。その上、電離により発生した電子は、アルゴン原子に衝突し、更に電離が促進される。
【0117】
このようにして、アルゴンイオンがターゲットTg付近に発生し、ターゲットTg近傍の電界で加速され、勢い良くターゲットTgに衝突する。この衝突によって、ターゲットTgの一部が微粒子(クラッタ)となってスパッタ(反跳)され、スパッタされたターゲット微粒子のうち、基材Wの方向に向かったものが基材Wに衝突しそこに付着する。このようなターゲット微粒子の付着が繰り返されることにより、基材W表面に薄膜が形成されるようになっている。
【0118】
ここで、ターゲット微粒子は、磁界が発生しているところに引き寄せられる性質を有しているので、電磁チャック20’を構成する複数のマイクロコイルに選択的に電流を供給することにより、基材W表面のうち電流が供給されたマイクロコイルに対応する部分にのみターゲット微粒子が堆積させることができ、これにより、基材W表面にパターニングされた状態で薄膜を形成することが可能となっている。
【0119】
なお、本第4の実施形態では、真空チャンバ65内にアルゴンガスが充填される場合について説明したが、これに限らず、例えば窒素ガス、あるいはネオンガスを充填することとしても良い。
【0120】
以上説明したように、本第4の実施形態のスパッタリング装置では、マイクロコイルに対する電流の供給を制御することにより、基材W上に電流を供給するマイクロコイルの分布に応じたパターンを形成することが可能となっている。
【0121】
なお、上記各実施形態では、制御装置が、各コイルに対する電流供給及び電流供給停止のスイッチングを行なう場合について説明したが、これに限らず、例えばコイルへの電流供給及び供給停止する機能を配線基板に設けられたICなどにもたせ、これを介して電流の制御を行うこととしても良い。
【0122】
なお、上記各実施形態では、電磁チャックによりなんらかの物体を保持させる場合について説明したが、本発明がこれに限られるものではなく、例えば、図16に示されるような平面モータ装置の固定子として採用することとしても良い。
【0123】
すなわち、固定子320側は、上記第1の実施形態の電磁チャック20と同様の構成であり、可動子330側も第1の実施形態の物体Mと同様に磁石148a,148bが設けられているが、マイクロコイルに電流を供給し又は電流供給を停止するスイッチングの制御方法が異なっている。具体的には、可動子330を移動する速度(要求速度)に応じて、電流を供給するマイクロコイルを変更するようにスイッチング制御することにより、所望の方向に可動子を移動させるようにする。
【0124】
この場合、気体供給路42から可動子の下面とベース面29aとの間に供給される気体により、可動子330の下面とベース面29aとの間には、数μmのクリアランスが形成されている。なお、気体供給路42とともに、またはこれに代えて、可動子330の移動により生じる動圧を軸受として用いることも可能である。例えば、可動子330の少なくとも進行方向の下面部分をくさび状に形成し、パソコン等に用いられるハードディスクのヘッドが浮上するのと同様の原理により、可動子330の移動速度に応じて浮上力を発生させて、可動子330の下面とベース面29aとの間に数μmのクリアランスを形成することとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0125】
以上説明したように、本発明の保持装置は、磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持するのに適している。また、本発明の組立てシステムは、磁性体を少なくとも一部に含む物体を用いた組立てに適している。また、本発明のスパッタリング装置は、真空内でターゲット材料にイオンを衝突させて、基材に薄膜を形成するのに適している。更に、本発明の加工方法及び加工装置は、磁性体を少なくとも一部に含む物体を加工するのに適している。
【符号の説明】
【0126】
20…電磁チャック、20’…電磁チャック、24…本体部、28A…シリコン基板、30…移動装置、42…気体供給路、50…保持装置、52…攪拌漕、60…スパッタリング装置、80…加工装置、82…ミラー部分、48A…磁石、48B…磁石、84a、84b…磁石(磁性体)、87…空所、M…物体、N…加工工具、MC…マイクロコイル、W…基材、PA1…プリアライメント装置、90…制御装置、93…気体供給装置、95…上下動機構、120…電磁チャック、150…保持装置、220…真空チャック、222…ベース、242…バキューム用の管路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する保持装置であって、
前記物体が配置されるベースと、
該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記物体に電磁力を作用させる複数の導電体と、
前記物体に対して浮上力を与える浮上力機構と、を備える保持装置。
【請求項2】
磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する保持装置であって、
前記物体が配置されるベースと、
該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記物体に電磁力を作用させる複数の導電体と、
前記物体に前記電磁力を作用させるに先立って、前記物体を前記ベースに対して位置決めするアライメント装置と、を備える保持装置。
【請求項3】
磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する保持装置であって、
前記物体が配置されるベースと、
該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記物体に電磁力を作用させる複数のマイクロコイルと、
前記複数のマイクロコイルと接続され、前記複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とをスイッチングする制御装置と、を備える保持装置。
【請求項4】
磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する請求項1〜3のいずれか一項に記載の保持装置と、
前記保持装置に保持された物体に対して加工を施す加工物と、を備え、
前記保持装置と前記加工物とはその相対位置関係が可変である加工装置。
【請求項5】
磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を保持する請求項1〜3のいずれか一項に記載の保持装置からなる第1保持装置と、
前記第1保持装置に保持された第1の物体と対向して配置される第2の物体を保持する第2保持装置と、を備える組立てシステム。
【請求項6】
ターゲット材料にイオンを衝突させて、基材に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、
複数のマイクロコイルを有し、前記基材を保持するベースと、
前記複数のマイクロコイルと接続され、前記複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とをスイッチングする制御装置と、を備えるスパッタリング装置。
【請求項7】
磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を、第2の物体を用いて加工する加工方法であって、
ベースに配置される前記第1の物体に対して浮上力を与え、
前記ベースに設けられる複数の導電体と、前記磁性体とを協働して前記第1の物体に電磁力を作用させ、
前記第1の物体に対して前記第2の物体を接近もしくは接触させる加工方法。
【請求項8】
磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を、第2の物体を用いて加工する加工方法であって、
ベースに対して前記第1の物体をアライメントし、
前記ベースに設けられる複数の導電体と、前記磁性体とを協働して前記第1の物体に電磁力を作用させ、
前記第1の物体に対して前記第2の物体を接近もしくは接触させる加工方法。
【請求項9】
磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を、第2の物体を用いて加工する加工方法であって、
前記第1の物体が配置されるベースの複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とをスイッチングし、
前記マイクロコイルと前記磁性体との間の電磁力を前記第1の物体に作用させ、
前記第1の物体に対して前記第2の物体を接近もしくは接触させる加工方法。
【請求項10】
磁性体を一部に含む磁性体部と、該磁性体部をほぼ取り囲んだ状態で形成された空所部とを有する物体を加工する加工装置であって、
前記物体を保持可能な保持面を有したベースと、
該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記磁性体部を磁気吸着可能な磁気吸着装置と、
該磁気吸着装置により前記磁性体部が磁気吸着され、かつ前記空所部が磁気吸着されない状態で、前記ベースを前記保持面と交差する方向に移動させる移動装置と、を備える加工装置。
【請求項11】
磁性体を一部に含む磁性体部と、該磁性体部をほぼ取り囲んだ状態で形成された空所部とを有する物体を加工する加工装置であって、
前記物体を保持可能な保持面を有した第1ベースと、
該第1ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記磁性体部を磁気吸着する磁気吸着機構と、
前記物体を挟むように前記第1ベースと対向して配置された第2ベースと、
前記第2ベースに設けられ、前記物体のうち前記磁気吸着機構に磁気吸着されていない部分を吸着する吸着装置と、を備える加工装置。
【請求項1】
磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する保持装置であって、
前記物体が配置されるベースと、
該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記物体に電磁力を作用させる複数の導電体と、
前記物体に対して浮上力を与える浮上力機構と、を備える保持装置。
【請求項2】
磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する保持装置であって、
前記物体が配置されるベースと、
該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記物体に電磁力を作用させる複数の導電体と、
前記物体に前記電磁力を作用させるに先立って、前記物体を前記ベースに対して位置決めするアライメント装置と、を備える保持装置。
【請求項3】
磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する保持装置であって、
前記物体が配置されるベースと、
該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記物体に電磁力を作用させる複数のマイクロコイルと、
前記複数のマイクロコイルと接続され、前記複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とをスイッチングする制御装置と、を備える保持装置。
【請求項4】
磁性体を少なくとも一部に含む物体を保持する請求項1〜3のいずれか一項に記載の保持装置と、
前記保持装置に保持された物体に対して加工を施す加工物と、を備え、
前記保持装置と前記加工物とはその相対位置関係が可変である加工装置。
【請求項5】
磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を保持する請求項1〜3のいずれか一項に記載の保持装置からなる第1保持装置と、
前記第1保持装置に保持された第1の物体と対向して配置される第2の物体を保持する第2保持装置と、を備える組立てシステム。
【請求項6】
ターゲット材料にイオンを衝突させて、基材に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、
複数のマイクロコイルを有し、前記基材を保持するベースと、
前記複数のマイクロコイルと接続され、前記複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とをスイッチングする制御装置と、を備えるスパッタリング装置。
【請求項7】
磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を、第2の物体を用いて加工する加工方法であって、
ベースに配置される前記第1の物体に対して浮上力を与え、
前記ベースに設けられる複数の導電体と、前記磁性体とを協働して前記第1の物体に電磁力を作用させ、
前記第1の物体に対して前記第2の物体を接近もしくは接触させる加工方法。
【請求項8】
磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を、第2の物体を用いて加工する加工方法であって、
ベースに対して前記第1の物体をアライメントし、
前記ベースに設けられる複数の導電体と、前記磁性体とを協働して前記第1の物体に電磁力を作用させ、
前記第1の物体に対して前記第2の物体を接近もしくは接触させる加工方法。
【請求項9】
磁性体を少なくとも一部に含む第1の物体を、第2の物体を用いて加工する加工方法であって、
前記第1の物体が配置されるベースの複数のマイクロコイルに対する電流供給と電流供給停止とをスイッチングし、
前記マイクロコイルと前記磁性体との間の電磁力を前記第1の物体に作用させ、
前記第1の物体に対して前記第2の物体を接近もしくは接触させる加工方法。
【請求項10】
磁性体を一部に含む磁性体部と、該磁性体部をほぼ取り囲んだ状態で形成された空所部とを有する物体を加工する加工装置であって、
前記物体を保持可能な保持面を有したベースと、
該ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記磁性体部を磁気吸着可能な磁気吸着装置と、
該磁気吸着装置により前記磁性体部が磁気吸着され、かつ前記空所部が磁気吸着されない状態で、前記ベースを前記保持面と交差する方向に移動させる移動装置と、を備える加工装置。
【請求項11】
磁性体を一部に含む磁性体部と、該磁性体部をほぼ取り囲んだ状態で形成された空所部とを有する物体を加工する加工装置であって、
前記物体を保持可能な保持面を有した第1ベースと、
該第1ベースに設けられ、前記磁性体と協働して前記磁性体部を磁気吸着する磁気吸着機構と、
前記物体を挟むように前記第1ベースと対向して配置された第2ベースと、
前記第2ベースに設けられ、前記物体のうち前記磁気吸着機構に磁気吸着されていない部分を吸着する吸着装置と、を備える加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−143867(P2012−143867A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−79199(P2012−79199)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【分割の表示】特願2007−532197(P2007−532197)の分割
【原出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【分割の表示】特願2007−532197(P2007−532197)の分割
【原出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
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