説明

保水構造体

【課題】保水構造体の蒸発性を向上させる。
【解決手段】保水構造体10は施工対象面Pに複数の保水体20が敷き詰められた構造を有し、施工対象面Pの上面に複数の保水体20が最密充填されるように積層されている。保水構造体10の蒸発有効面積/敷設面積は1.813であり、蒸発に寄与する面積が高い。これにより、保水構造体10の蒸発性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保水体を用いた保水構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部の気温が郊外部に比べて高くなる現象、いわゆるヒートアイランド現象がますます顕著となりつつある。ヒートアイランド現象は、熱中症・睡眠障害など健康への影響を引き起こすだけでなく、空調などの電気設備の負荷増加を招くことにより、エネルギー消費量を増加させる。
【0003】
また、ヒートアイランド現象は、近年、都市部で局所的に大雨が降る現象、いわゆるゲリラ豪雨の要因ともいわれている。特に都市部では、地面の大部分がアスファルトやコンクリートで舗装されているため、雨水を吸収することができない。ゲリラ豪雨が発生した場合、短時間で許容量を超える雨水が下水道や河川に流入し、都市部に特徴的な水害である都市型洪水が発生する。以上の諸問題を防止するために、ヒートアイランド現象緩和策が切望されている。
【0004】
都市空間は、すでに地上・地下とも過密利用されている。そのため、ヒートアイランド現象の緩和技術として、利用率の低いビルの屋上の有効活用に期待が寄せられている。そのひとつに、建物の屋上に芝生等を敷設する屋上緑化の試みがある。しかし、屋上緑化は、施工費用や維持管理の問題から、十分な普及には至っていない。また、屋上緑化された設備は、雨水を保水する能力がそれほど高いわけではなく、都市型水害の緩和にはあまり役に立っていなかった。
【0005】
そのため、より大量の雨水を貯留して都市型洪水を抑制する新たな技術が求められている。この技術は、また、貯留した雨水を晴天時に蒸発させ、蒸発冷却作用によって建物や周囲の温度上昇を抑え、ヒートアイランドを緩和できればより望ましい。
【0006】
特許文献1には、ビルの屋上などに敷設することができ、保水性と蒸発性を兼ね備えた保水セラミックスを隙間なく敷き詰める技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−312018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術では、ビルの屋上にブロック状の保水セラミックスが隙間なく敷き詰められている。このため、保水セラミックスが外気に触れる領域が保水セラミックスの上面に限定されている。保水セラミックスが外気に触れる領域は蒸発に寄与する部分であるため、保水セラミックスの蒸発性能が十分に発揮されていなかった。この結果、降雨によって保水された水が蒸発しきる前に次の降雨が発生してしまうことがあり、保水セラミックスの保水能力を十分に活かし切れない場合があった。
【0009】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、保水構造体の蒸発性を向上させることができる技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様は、保水性を有する保水体を含み、施工対象面に敷設される保水構造体であって、蒸発有効表面積/敷設面積が1.8以上であることを特徴とする。なお、蒸発有効面積は、保水構造体の表面積のうち、外気に直に接している部分の表面積、すなわち、蒸発に寄与している部分の表面積をいう。
【0011】
この態様の保水構造体によれば、蒸発有効面積の割合が敷設面積に対して十分に高いため、蒸発性をより高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保水構造体の蒸発性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(A)は第1の実施の形態に係る保水構造体の概略を示す平面図である。図1(B)は図1(A)のA−A線に沿った断面図である。
【図2】図2(A)は第2の実施の形態に係る保水構造体の概略を示す平面図である。図2(B)は図2(A)のA−A線に沿った断面図である。
【図3】第2の実施の形態で用いられる保持部材を所定の領域で分割した模式図である。
【図4】図4(A)は第2の実施の形態に係る保水構造体の概略を示す平面図である。図4(B)は図4(A)のA−A線に沿った断面図である。
【図5】図5(A)は第2の実施の形態に係る保水構造体の概略を示す平面図である。図5(B)は図5(A)のA−A線に沿った断面図である。
【図6】第5の実施の形態の保水構造体の概略構造を示す斜視図である。
【図7】図7(A)は比較例に係る保水構造体の概略を示す平面図である。図7(B)は図7(A)のA−A線に沿った断面図である。
【図8】変形例1に係る保水構造体で用いられる保水体の概略構造を示す斜視図である。
【図9】変形例2に係る保水構造体を側面方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施の形態)
図1(A)は第1の実施の形態に係る保水構造体10の概略を示す平面図である。図1(B)は図1(A)のA−A線に沿った断面図である。以下、すべての図面において、同等の構成要素には同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。第1の実施の形態の保水構造体は、施工対象面Pに複数の保水体20が敷き詰められた構造を有する。なお、図1(A)および図1(B)は、保水構造体10を模式的に示しており、保水体20と施工対象面Pとの大きさの関係は図示された構成比率とは限らない。
【0015】
施工対象面Pを1辺の長さがaの正方形とする。また、保水体20は半径rの球状である。本実施の形態では、施工対象面Pの上面に複数の保水体20が最密充填されるように積層されている。最表層以外の保水体20は蒸発に直接は寄与しないため、最表層に並設された保水体20の表面積が蒸発有効面積になると考えられる。
【0016】
第1の実施の形態の保水構造体10の蒸発有効面積を算出するために、最表層に並設される保水体20の数を求める。平面に円を最密充填したときの充填密度はπ/(12)1/2(六方充填配置)である。よって、1辺の長さがaの施工対象面Pに円を充填したときの円の総面積はπa/(12)1/2となる。各円の半径をrとすると、各円の面積はπrであることから、最表面に並設されうる円の個数は(πa/(12)1/2)/(πr)=a/((12)1/2・r)となる。この個数は、最表層に併設されうる保水体20の個数に対応する。
【0017】
各保水体20において蒸発に寄与する部分が上半分の半球部分であるとすると、その表面積は4πr/2となる。このため、蒸発有効面積は(4πr/2)×(a/((12)1/2・r)=2πa/(12)1/2となる。
【0018】
以上より、第1の実施の形態の保水構造体10における蒸発有効面積/敷設面積は(2πa/(12)1/2)/a=2π/(12)1/2≒1.813となる。この結果が示すように、本実施の形態の保水構造体10では、蒸発有効面積/敷設面積が保水体20の半径によらない数値となる。
【0019】
保水体20に用いられる材料として多孔質セラミックスが挙げられる。多孔質セラミックスは、孔径1〜100μmの細孔の体積の合計が全体積の53〜70%を占めるものとする。多孔質セラミックスから作られた保水体20の細孔の孔径は、水銀ポロシメータを用い、JIS R 1655に従って測定することができる。
【0020】
本実施の形態において用いられる多孔質セラミックスの大きさは、1〜1200cm、特に1〜200cm、とりわけ10〜100cmの範囲が好ましい。多孔質セラミックスをこのような範囲にすることで、ビルの屋上等に敷き詰めやすくすることができる。保水体20を構成する多孔質セラミックスは、球形、半球状、楕円球状(たとえばラグビーボール状)、立方体、直方体、錘形、円盤形状、柱状体など任意である。
【0021】
上記孔径のものを採用すれば、細孔内の水が凍結しても、多孔質セラミックス外に押し出されやすく、凍結融解作用を繰り返し受けても、多孔質セラミックスが割れにくいことが実験で確認されている。
【0022】
多孔質セラミックスを構成するセラミックスの組成は
SiO:50〜80wt%とりわけ55〜70wt%
Al:10〜30wt%とりわけ15〜25wt%
NaOおよびKOの合計:1〜10wt%とりわけ3〜7wt%
であることが好ましい。
【0023】
こうしたソーダ・カリを多く含むアルミノ珪酸塩系セラミックスは、親水性であり、多孔質セラミックスの保水性および水の蒸発性が良好となる。
【0024】
なお、湿潤状態にある多孔質セラミックスに藻が発生することを防止するために、多孔質セラミックス中にCuOを0.1〜1.5wt%程度配合してもよい。多孔質セラミックスには、その一部または全面に光触媒コーティング液を塗布して光触媒効果を付与してもよく、これにより、光触媒による浄化作用で、多孔質セラミックスの耐汚染性を高めることができる。
【0025】
保水体20を構成する多孔質セラミックスを製造するには、窯業系原料、アルミナセメントおよび粉末状吸水性ポリマー並びに好ましくはさらに炭酸リチウムを乾式混合し、次いで水を添加して混合し、その後、成形、乾燥および焼成する。この際の配合割合は、好ましくは、
窯業系原料:75〜95wt%、特に80〜95wt%
アルミナセメント:3〜15wt%、特に5〜15wt%
吸水性ポリマー:0.5〜10wt%、特に1〜5wt%
炭酸リチウム:10wt%以下、特に1〜10wt%、とりわけ1〜5wt%である。
【0026】
なお、水の混合割合は、水以外の全原料の合計重量に対して130〜170wt%程度であって、吸水性ポリマーに対して80〜150倍程度とすることが、取り扱い性、成形性、吸水性ポリマーの吸水膨張性、その後の乾燥、焼成効率の面から好ましい。
【0027】
窯業系原料としては、カリ長石、粘土、珪砂などの1種または2種以上を用いることができるが、これに限定されない。これらの窯業系原料をSiO、Al、NaO+KOの割合が前述となるように選択して用いる。
【0028】
アルミナセメントとしては、JISに定めるものを用いることができる。このアルミナセメントは、硬化が速いので、水を添加して混合し、成形すると、短時間のうちにハンドリングできる程度の成形体が得られる。
【0029】
粉末状吸水性ポリマーとしては、粒径10〜50μm、特に20〜30μm程度のものが好適である。吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩系、酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体ケン化物、でんぷん・アクリル酸グラフト共重合体など、各種のものを1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
この混合物を成形するには、定量充填機、鋳込成型機、押出成形機、ハニカム成形機などを用いることができるが、これに限定されない。この成形体を好ましくは80〜250℃で5〜40時間特に6〜12時間加熱して乾燥した後、好ましくは1050〜1200℃特に1100〜1150℃で0.2〜20時間特に0.3〜2時間焼成して焼結体とする。この焼成には、ローラーハースキルン、トンネルキルン、シャトルキルン等を用いることができる。
【0031】
以上、第1の実施の形態に係る保水構造体10では、蒸発有効面積/敷設面積が1.8以上であり、敷設面積に対する蒸発有効面積を大幅に増加させることができる。蒸発有効面積の増加に伴い、保水構造体10全体の蒸発効率の向上を図ることができる。このため、保水体20に一旦保持された水をより速やかに蒸発させることができ、再度保水が可能になるまでに要する時間が短縮される。この結果、次回の降雨が生じたときに保水体20の保水能力を活かし切ることができる。
【0032】
(第2の実施の形態)
図2(A)は第2の実施の形態に係る保水構造体10の概略を示す平面図である。図2(B)は図2(A)のA−A線に沿った断面図である。図2(A)において、保水体20の図示が省略されている。第2の実施の形態の保水構造体10は、複数の保水体20が保持部材30に収容された構造を有する。本実施の形態の保持部材30は網目状の袋である。保水体収容前の保持部材を平面視したときの形状は一辺の長さが50cmの略正方形である。保持部材30は保水体20を収容することで膨らみを持つ。保水体20収容時における保持部材30の周縁部分の断面形状は略半円形状であり、保持部材30の周縁部分と施工対象面Pとの間に隙間が形成されている。保持部材30と施工対象面Pとが接触する面積は、施工対象面Pから離れてる周縁部分だけ、保持部材30の平面視投影面積より小さい。
【0033】
保水体20の半径を2cmとし、保水体20収容時の保持部材30の高さを10cmとする。また、保水体20収容時における保持部材30の周縁部分の断面形状を半径5cmの略半円とする。
【0034】
保水体20収容時の保持部材30と施工対象面Pとが接触する部分の一辺の長さ(以下、接触長さMという)は、保水体20収容前の保持部材30の一辺の長さ50cmから半径5cmの半円分の円周長さを引くことで算出され、34.3cmとなる。
【0035】
保水体20収容時の保持部材30の一辺の長さNは、接触長さMに両端の周縁部分の半径を加えたものであり、34.3cm+5cm×2=44.3cmとなる。したがって、保水構造体10の敷設面積は、44.3cm×44.3cm≒1962cmとなる。
【0036】
本実施の形態の保水構造体10の蒸発有効面積は以下の手順で算出される。まず、保持部材30の網目のうち、施工対象面Pと接触する領域を除く露出部分の面積を算出する。保持部材30の露出部分の面積は、図3に示した領域aの面積、領域bの面積、領域cの面積の合計である。なお、図3では、保持部材30の外形と各領域の境界線のみが示されている。
【0037】
領域a(4カ所)の面積は34.3cm×5cm×π×4≒2154cmである。領域b(4カ所)の面積は半径5cmの球の表面積で近似でき、4×π×5cm×5cm≒314cmである。領域cの面積は、34.3cm×34.3cm≒1176cmである。露出部分の面積は2154cm+314cm+1176cm=3644cmとなる。
【0038】
露出部分に円を最密充填した場合の円の総面積は、露出部分の面積に充填密度を乗じて求めることができ、3644cm×π/(12)1/2≒3303cmとなる。各円の半径を2cmとすると、各円の面積は4πcmであることから、保持部材30の露出部分に接触した状態で並設されうる円の個数は3303/4π≒263個となる。この個数は、保持部材30の露出部分に併設されうる保水体20の個数に対応する。
【0039】
保持部材30の露出部分に接触した状態設けられた保水体20の表面積のうち、保持部材30側の半球部分が蒸発に寄与すると仮定すると、蒸発有効面積は(4π×2cm×2cm/2)×263≒6607cmとなる。
【0040】
以上より、第2の実施の形態の保水構造体10における蒸発有効面積/敷設面積は6607/1962≒3.4となる。
【0041】
以上、第2の実施の形態に係る保水構造体10では、蒸発有効面積/敷設面積が3.4であり、敷設面積に対する蒸発有効面積を第1の実施の形態と比べてより一層増加させることができる。このため、保水構造体10全体の蒸発効率のさらなる向上を図ることができ、ひいては、保水体20の保水能力をより一層活かし切ることができる。
【0042】
(第3の実施の形態)
図4(A)は第3の実施の形態に係る保水構造体10の概略を示す平面図である。図4(B)は図4(A)のA−A線に沿った断面図である。第3の実施の形態の保水構造体10は、複数の保水体20からなる集合体が保持部材30に収容されている点で第2の実施の形態と共通する。本実施の形態の保水構造体10は、保持部材30の底部を施工対象面Pの上方へ引き離す、かさ上げ部材40をさらに備える。このため、本実施の形態の保持部材30では、網目の全面が露出部分となる。本実施の形態の保持部材30における露出部分の面積は、第2の実施の形態の保持部材30における露出部分の面積に、施工対象面から引き離された領域の面積1176cmを加えた面積であり、3638m+1176cm=4814cmとなる。
【0043】
本実施の形態の保水構造体の蒸発有効面積は、第2の実施の形態の保水構造体10と同様な算出方法を適用すると8733cmとなる。
【0044】
以上より、第3の実施の形態の保水構造体10における蒸発有効面積/敷設面積は8733/1962≒4.4となる。
【0045】
以上、第3の実施の形態に係る保水構造体10では、蒸発有効面積/敷設面積が4.4であり、敷設面積に対する蒸発有効面積を第2の実施の形態に比べてさらに増加させることができる。このため、保水構造体10全体の蒸発効率のさらなる向上を図ることができ、ひいては、保水体20の保水能力をより一層活かし切ることができる。
【0046】
(第4の実施の形態)
図5(A)は第4の実施の形態に係る保水構造体10の概略を示す平面図である。図5(B)は図5(A)のA−A線に沿った断面図である。第4の実施の形態の保水構造体10は、隣接する保水体20間に所定の隙間が空くように複数の保水体20を施工対象面Pに敷設した構造を有する。各保水体20の形状はブロック状であり、保水体20の幅、奥行き、高さをそれぞれd、d、hとする。敷設される保水体の数を9とし、隣接する保水体間の隙間をeとする。保水構造体の敷設領域をS×Sとする。保水構造体の敷設領域の一辺Sは、S=3d+2eという式で表される。
【0047】
保水構造体10の最外周の側面は蒸発に寄与しないものとする。よって、本実施の形態の保水構造体10の蒸発有効面積は、保水体20の上面の総面積と、隣接する保水体20において対向する側面同士の総面積とみなすことができる。保水体20の上面の総面積は9d、隙間部分に面するの保水体20の側面の総面積は24dhである。よって、本実施の形態の保水構造体10の蒸発有効面積は9d+24dhとなる。一方、保水構造体10の敷設面積は(3d+2e)となる。以上より、本実施の形態の保水構造体10の蒸発有効面積/敷設面積は、(9d+24dh)/(3d+2e)となる。ここで、保水体の幅d、奥行きdを16cm、保水体の高さhを10cm、隣接する保水体間の隙間eを1cmとすると、蒸発有効面積/敷設面積=6144cm/2500cm≒2.5となる。
【0048】
以上、第4の実施の形態に係る保水構造体10では、蒸発有効面積/敷設面積が2.5であり、敷設面積に対する蒸発有効面積を第1の実施の形態と比べて一層増加させることができる。このため、保水構造体10全体の蒸発効率のさらなる向上を図ることができ、ひいては、保水体20の保水能力をより一層活かし切ることができる。
【0049】
(第5の実施の形態)
図6は、第5の実施の形態の保水構造体10の概略構造を示す斜視図である。本実施の形態の保水構造体10は、直方体の保水体20に円柱状の複数の孔60が形成された構造を有する。なお、図6では、保水体20の構成を簡略化し、複数の孔60のうち一部分の孔60が図示されている。
【0050】
保水体20の形状に関し、直方体の幅、奥行きをそれぞれ50cmとし、直方体の高さを7cmとする。孔60の数を50個とし、各孔60の深さは直方体の高さと同等であり、各孔60の径を2cmとする。保水体20の体積は、(直方体の体積)−(複数の孔の体積の合計)≒13102cmである。この体積は、第2の実施の形態で説明した保持部材30に充填された保水体の総体積と同等である。
【0051】
保水構造体10の蒸発有効面積は、(直方体の上面積)−(各孔の開口面積の合計)+(各孔の側面の面積の合計)=50cm×50cm−2cm×2cm×π×50+2×π×2cm×7cm×50個≒6268cmとなる。
【0052】
以上より、第5の実施の形態の保水構造体10における蒸発有効面積/敷設面積は6238.5/2500≒2.51となる。
【0053】
以上、第5の実施の形態に係る保水構造体10では、蒸発有効面積/敷設面積が2.5であり、敷設面積に対する蒸発有効面積を第1の実施の形態と比べて一層増加させることができるこのため、保水構造体10全体の蒸発効率のさらなる向上を図ることができ、ひいては、保水体20の保水能力をより一層活かし切ることができる。
【0054】
(比較例)
図7(A)は比較例に係る保水構造体10の概略を示す平面図である。図7(B)は図7(A)のA−A線に沿った断面図である。比較例の保水構造体10は、複数の保水体20を施工対象面Pに隙間なく敷き詰めた構造を有する。各保水体20の形状はブロック状であり、保水体の幅、奥行き、高さをそれぞれf、f、hとする。また、保水構造体の敷設領域を一辺がgの正方形とする。g=k×f(kは整数)であり、施工対象面Pに敷設される保水体の数はkである。
【0055】
比較例の保水構造体10では、隣接する保水体20において対向する側面同士が密着する。このため、当該側面は外気に触れないため、蒸発に対する寄与が極めて小さい。また、保水構造体10の最外周の側面は蒸発に寄与しないものとする。よって、比較例の保水構造体10の蒸発有効面積は、保水体20の上面の総面積とみなすことができる。以上より、比較例の保水構造体10の蒸発有効面積/敷設面積はk/g=1となる。
【0056】
このように、比較例の保水構造体10では、外気と触れる領域が保水体20の上面に限定されているため、常に十分な蒸発効率が得られるとは限らない。よって、上述した各実施の形態に比べて一旦保持した水を蒸発するのに長時間を要し、保水体20の保水能力を活かし切ることができない。
【0057】
第1の実施の形態の保水構造体と比較例の保水構造体について、それぞれ試作を行い蒸発性を評価した。夏場の外気温湿度条件(30℃、70%)にて、各試作品に水を含ませたのち、7時間後の蒸発量を計測した。その結果、比較例の保水構造体の試作品では、蒸発量が0.15g/cmであった。これに対して、第1の実施の形態の保水構造体の試作品では、蒸発量が0.33g/cmであり、蒸発有効面積/敷設面積を1.8以上とすることにより、蒸発量を倍増させることができることが確認された。
【0058】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0059】
たとえば、蒸発有効面積/敷設面積が1.8以上である保水構造体として以下の変形例が挙げられる。
【0060】
図8は、変形例1に係る保水構造体10で用いられる保水体20の概略構造を示す斜視図である。変形例1では、保水体20は板状であり、その上面に凹凸形状が形成されている。この保水体20を施工対象面に隙間なく敷き詰めることで、隣接する保水体20において接触する側面が蒸発有効面積に寄与せずとも、蒸発有効面積/敷設面積を1より大きくすることができる。
【0061】
図9は、変形例2に係る保水構造体10を側面方向から見た図である。変形例2の保水構造体10は、テトラポット状の保水体20を施工対象面Pに積層した構造を有する。変形例2の保水構造体によれば、保水体20自体の蒸発有効面積を高めることができ、ひいては蒸発有効面積/敷設面積を1より大きくすることができる。特に、保水体20の形状をテトラポット状とすることにより、施工対象面Pと最下層の保水体20との間に隙間を生じさせることができる。これにより、最下層に位置する保水体20を蒸発に寄与させることができる。
【符号の説明】
【0062】
10 保水構造体、20 保水体、30 保持部材 40 かさ上げ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保水性を有する保水体を含み、施工対象面に敷設される保水構造体であって、
蒸発有効表面積/敷設面積が1.8以上であることを特徴とする保水構造体。
【請求項2】
前記保水体を収容する保持部材をさらに備え、
前記保持部材と施工対象面とが接触する面積が、前記保持部材の平面視投影面積より小さい請求項1に記載の保水構造体。
【請求項3】
前記保持部材の底部を前記施工対象面の上方へ引き離す、かさ上げ部材をさらに備える請求項2に記載の保水構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−67493(P2012−67493A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212584(P2010−212584)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】