説明

保温調理器の蓋

【課題】蒸気が水滴として付着して曇りが発生することを防ぐことができる保温調理器の蓋を提供する。
【解決手段】加熱調理した食品を収容する保温調理器Bに脱着自在に被せて使用される透明プラスチックで形成された蓋Aに関する。蓋Aの内面には、親水性の被膜が形成されている。このように蓋Aの内面に水蒸気が付着しても、親水性の被膜によって水蒸気は濡れ拡がって、水滴として蓋Aの内面に付着することを防止することができ、蓋Aに曇りが発生することを防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、おでん等の加熱調理した食品を保温するために用いられる保温調理器の蓋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンビニエンスストアなどの販売店において、おでん等の加熱調理した食品を保温しながら展示・販売することが行なわれている。
【0003】
このような、おでん等の加熱調理した食品を保温しながら展示・販売する保温調理器Bは、例えば図1(a)に示すように、電気ヒータ等を内蔵する保温調理器本体1と、仕切り2を設けた鍋3とを備えて形成されるものであり、保温調理器本体1に装着した鍋3を、保温調理器本体1内の電気ヒータで加熱することができるようにしてある。そして、鍋3内にはおでんのだし汁とおでんの具などの調理した食品が収容してあり、おでんの具などの食品を保温しながら展示して、販売することができるものである(例えば特許文献1等参照)。
【0004】
このように保温調理器は食品を収容しているので、保温調理器の上面の開口に蓋をしておく必要があるが、店頭で食品を展示・販売するにあたって、蓋をすると食品が見えなくなるので販売促進効果が著しく低下することになる。このため、蓋をせずにオープンな状態で食品を展示・販売することが店頭販売での実体になっている。しかし、このように食品がオープンな状態であると、衛生の上で問題があるので、蓋として透明プラスチックなどで形成したものを用い、蓋を通して保温調理器に収容した食品が見えるようにすることが行なわれている。
【0005】
しかしながらこのように透明な蓋を用いても、保温調理器の食品、特にだし汁などから出る蒸気が蓋の内面に水滴として付着し、蓋の内面が曇って、蓋の透明性が低下するものであり、この場合も保温調理器に収容した食品が見えなくなる。
【0006】
そこで特許文献2では、保温調理器に送風ファンを設け、送風ファンから温風を蓋の内面に吹き付けることによって、蓋の内面に水滴が付着することを防止し、曇りが発生することを防ぐようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2002−51907号公報
【特許文献2】特開平2002−238757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献2のものでは、蓋の内面に水滴が付着して曇ることを送風ファンの作用で防ぐことができるので、透明な蓋を通して本調理器に収容した食品を見ることができ、展示・販売の効果を高く得ることができる。
【0009】
しかしながらこのものでは、送風ファンなどの特別な部品を保温調理器に設ける必要があって、コスト高になるものであり、また既存の保温調理器には適用することができないので、実用的な問題解決方法とは到底いえないものであった。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、蒸気が水滴として付着して曇りが発生することを防ぐことができる保温調理器の蓋を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る保温調理器の蓋は、加熱調理した食品を収容する保温調理器に脱着自在に被せて使用される透明プラスチックで形成された蓋であって、蓋の内面には、親水性の被膜が形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
このように蓋の内面に親水性の被膜を形成することによって、蓋の内面に水蒸気が付着しても、親水性の被膜によって水蒸気は濡れ拡がって、水滴として蓋の内面に付着することを防止することができ、蓋に曇りが発生することを防ぐことができるものである。
【0013】
また本発明において、親水性の被膜は、リン酸と、チタン酸と、Li,Na,Ca,Mg,Sr,Ba,Zn,Co,Ni,Cu,Al,Fe,Mn,Y,Zr,Sn,Sb,Nb及びランタニド元素から少なくとも一つ選ばれる金属の陽イオンとを含む水溶液を成膜して形成されたものであることを特徴とするものである。
【0014】
このような組成で親水性の被膜を形成することによって、プラスチック基材で形成される蓋に対する密着強度が高い被膜を得ることができ、長期に亘って親水性を維持して、曇り防止をすることができるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、蓋の内面に親水性の被膜を形成することによって、蓋の内面に水蒸気が付着しても、親水性の被膜によって水蒸気は水の膜となり、水滴として蓋の内面に付着することを防止することができ、蓋に曇りが発生することを防ぐことができるものである。従って、送風ファンなどを保温調理器に設けるような必要がなく、また既存の保温調理器に用いても、蓋に曇りが発生することを防ぐことができるものであり、透明な蓋を通して保温調理器に収容した食品を鮮明に見ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すものであり、(a)は分解斜視図、(b)は蓋の一部の拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
図1は保温調理器Bに用いられる蓋Aの一例を示すものであり、この蓋Aは、既述のよう形成される保温調理器Bの鍋3の上面の開口に脱着自在に被せて使用されるものである。蓋AはMS(メチルメタクリレート・スチレン)樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネートなど、透明なプラスチックを成形して作製されるものである。これらの中でも、吸水寸法変化率、表面硬度等の観点からMS樹脂を用いて蓋Aを作製するのが好ましい。
【0019】
そして本発明に係る蓋Aは、透明なプラスチック基材4の内面に親水性の被膜5を被覆することによって形成されるものであり、この親水性被膜5は蓋Aの内面の全面に形成するようにしてある。
【0020】
親水性被膜5は、水の接触角が10°程度以下のものであればよく、特に限定されるものではないが、例えば、リン酸と、チタン酸と、Li,Na,Ca,Mg,Sr,Ba,Zn,Co,Ni,Cu,Al,Fe,Mn,Y,Zr,Sn,Sb,Nb及びランタニド元素から少なくとも一つ選ばれる金属の陽イオンとを含む水溶液をコーティング液として用い、蓋Aのプラスチック基材4の内面にこのコーティング液をコーティングして成膜することによって形成することができる。
【0021】
このコーティング液をコーティングすると、M−Ti−P−Oの元素組成(Mは、Ca,Mg,Sr,Ba,Zn,Co,Ni,Cu,Al,Fe,Mn,Y,Zr,Sn,Sb,Nb及びLaなどランタニド元素から少なくとも一つ選ばれる元素)からなるアモルファス被膜を、親水性被膜5として形成することができる。
【0022】
また、このリン酸と、チタン酸と、金属Mの陽イオンを含む水溶液からなるコーティング液には、さらにケイ酸を含有させることができるものであり、この組成のコーティング液をプラスチック基材4の内面にコーティングする場合には、M−Ti−Si−P−Oの元素組成からなるアモルファス被膜を親水性被膜5として形成することができるものである。
【0023】
上記のコーティング液を調製するにあたっては、まず四塩化チタンを水に溶解して四塩化チタンの水溶液を調製する。この四塩化チタンの水溶液にはチタン酸が生成されている。次に、四塩化チタンの水溶液にリン酸及び金属Mの塩を混合することによって、コーティング液を得ることができる。金属Mの塩としては、金属Mの水酸化物などを用いることができるものであり、例えば金属Mがマグネシウムの場合、水酸化マグネシウムを使用することができる。M−Ti−Si−P−Oの元素組成からなるアモルファス被膜を形成する場合には、このときにさらにケイ酸を混合するものである。ケイ酸は、例えばケイ酸ソーダとして混合することができる。
【0024】
そしてこのように調製したコーティング液を基材の表面にコーティングする。コーティングは、塗布、噴霧、ディッピング、ロールコーティング、スピンコーティングなどの方法で行なうことができる。このようにコーティングした後、乾燥し、あるいは加熱処理することによって、プラスチック基材4の表面にアモルファス被膜を成膜して親水性被膜5を形成することができるものである。
【0025】
このようにプラスチック基材4の内面に親水性被膜5を被覆して形成される本発明の蓋Aにあって、図1(a)のように保温調理器Bの上面開口に被せて使用するにあたって、保温調理器Bに収容した食品、例えばおでんの具やおでんだし汁などから発生した水蒸気が蓋Aの内面に付着しても、蓋Aの内面には親水性被膜5が形成されているので、水蒸気は水滴として付着することなく濡れ広がるものである。従って、蓋Aの内面に水蒸気が水滴として付着することによって曇りが発生することを防ぐことができるものであり、透明プラスチックで形成される蓋Aの透明度を高く維持することができ、蓋Aを通して保温調理器B内に収容した食品を鮮明に見ることができるものである。そして蓋Aのこのような防曇性の効果は、蓋Aの内面に形成した親水性被膜5によって得られるものであり、従来のように送風ファンを保温調理器Bに設けるような必要がなく、既存の保温調理器Bにおいて、曇りが発生しない蓋Aとして用いることができるものである。
【0026】
特に上記のような組成のコーティング液を成膜して作製した親水性被膜5は、水の接触角が10°以下と親水性が高く、防曇性の効果を高く得ることができるものである。またアクリル樹脂などのプラスチック基材4に対して密着性の高い親水性被膜5を形成することができるものであり、蓋Aを洗浄するなどしても親水性被膜5は容易に剥離するようなことがなく、長期に亘って親水性を維持して、防曇性能を長期間保持することができるものである。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0028】
イオン交換水1000質量部に四塩化チタン100質量部を混合し、30分以上攪拌した。この混合溶液をベース液とする。ベース液中にはチタンアコ錯体とその縮合体が含まれている。このベース液は黄色透明な液体であり、これを蒸発乾固して得られるものは、アナターゼもしくはブルーカイト形超微粒子(平均粒子径10nm)の酸化チタン(TiO)であることがX線回折により確かめられた。
【0029】
またイオン交換水4000質量部と、このベース液200質量部を混合し、30分以上攪拌した。このようにして得られた混合溶液をA液とする。
【0030】
次に、A液1000質量部、リン酸60質量部、水酸化マグネシウム20質量部を混合して攪拌した。この後、これを静置することによって沈殿物を沈殿させ、上澄み液をコーティング液とした。
【0031】
そして、透明MS樹脂を成形して作製した蓋のプラスチック基材の内面に、このコーティング液をスプレーしてコーティングし、320℃で30分間加熱することによって成膜した。このようにして形成された被膜をX線回折で測定したところ、アモルファス状態であった。
【0032】
このようにしてプラスチック基材の内面に形成したアモルファス被膜の表面の水に対する接触角を測定したところ5°以下であり、高い親水性を有するものであった。そしてこのアモルファス被膜からなる親水性被膜を、露点温度より5℃低い温度に冷却した後に空気中に放置したところ、曇りの発生は目視では認められず、良好な防曇性を示すものであった。また、この親水性被膜を内面に設けて形成した上記の蓋を、市販のおでん用保温調理器の上に被せて使用したところ、蓋に曇りは発生せず、保温調理器に収容したおでんの具を、蓋を通して明確に視認することができるものであった。
【0033】
さらに、プラスチック基材の内面に設けた親水性被膜の密着性を碁盤目試験に供したところ、1mm碁盤目の100×100のうち剥離は全く無く、強固な接着性を示すものであった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る保温調理器の蓋は、おでん調理器の蓋の他に、中華まん蒸し器などの蒸し器の蓋、オードブルの乾燥防止用の蓋など、蒸気が付着し易い透明な蓋の全般に利用することができるものである。
【符号の説明】
【0035】
A 蓋
B 保温調理器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱調理した食品を収容する保温調理器に脱着自在に被せて使用される透明プラスチックで形成された蓋であって、蓋の内面には、親水性の被膜が形成されていることを特徴とする保温調理器の蓋。
【請求項2】
親水性の被膜は、リン酸と、チタン酸と、Li,Na,Ca,Mg,Sr,Ba,Zn,Co,Ni,Cu,Al,Fe,Mn,Y,Zr,Sn,Sb,Nb及びランタニド元素から少なくとも一つ選ばれる金属の陽イオンとを含む水溶液を成膜して形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の保温調理器の蓋。

【図1】
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【公開番号】特開2011−143003(P2011−143003A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5068(P2010−5068)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(503330990)株式会社YOOコーポレーション (5)
【出願人】(598141419)日本アクリエース株式会社 (6)
【出願人】(510012371)株式会社ソフテック (1)
【Fターム(参考)】