説明

保護カバー

【課題】大気への開放後、すぐにメンテナンスを実施することが可能で、作業時間の短縮化を実現できる、スパッタ装置を提供する。
【解決手段】製膜室内に、基板2を挟んで、基板の一方側に、防着板により少なくともその基板側が被覆されたアノードバー7と、ターゲット3とが、その順に配置され、基板の他方側にヒータが配置されているスパッタ装置における保護カバー9aであり、基板がアノードバーとヒータとの間に位置して、基板表面に薄膜をスパッタ中には保護カバーは、薄膜が当該保護カバーに薄膜が堆積しないように収納部10に収納されており、スパッタ終了時には、アノードバーの少なくとも基板側と側面側とを覆うように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の基板表面に電極を作製する装置に関し、太陽電池の可撓性基板表面に電極を連続的に作製する装置において好適なものであり、特に、係る装置における、メンテナンス時の作業効率を向上させる、保護カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
基板の表面に薄膜を作製する薄膜作製装置は、太陽電池の電極の形成や、液晶ディスプレイ等の表示装置、光記録媒体の製造、において盛んに使用されている。
【0003】
このような薄膜作製装置では、製膜室(以下でチャンバーとも言う)内の基板以外の箇所にも、粒子が堆積し、膜が形成されてしまう。
そこで、この本来の製膜箇所でない膜を除去するために、定期的なメンテナンスが必要となってくる。
【0004】
とりわけ、太陽電池の可撓性基板の表面に、図6(図6で基板は省略してある)に示すように、スパッタにより電極を連続的に作製する装置においては、一度に大量の膜形成を行うので、メンテナンスの頻度も高くなってくる。
メンテナンスでは、通常チャンバーを開放し、堆積した膜やフレークを取り除く。従来は、図7に示すように、ターゲットと基板との間に位置するように
周囲を防着板で被覆したアノードバー(マグネット)が設置されており、膜は主にマグネットの防着板に堆積する。
【0005】
しかし、太陽電池の電極に使用されている透明導電膜のアルミドープの酸化亜鉛(以下でAZOと言う)は、メンテナンスで大気に開放する際に、マグネットに堆積した膜が、残留応力により剥離する。そのため、大気に開放後、すぐにメンテナンスを開始すると、膜が飛び跳ねて、その飛び跳ねたAZO膜が図6のターゲット3とターゲット両横のシールド8a、8bの隙間に入り込むと、異常放電の原因となる。そのため、シールド8を取り外し、剥離したAZO膜を取り除く作業が必要となり、作業効率が低下してしまう。
【0006】
これまで、様々な、防着板やチャンバー内に堆積した膜を除去する方法が提案されている。
特許文献1には、防着板の表面に剥離薄膜を吸着させ、付着したスパッタリング製膜層を除去する方法が開示されている。しかし、付着した膜を除去する方法は、膜が剥離する限界堆積量に達する前に除去する方法であり、堆積量に関係無く剥離するAZO膜に関しては、有効な方法ではない。

【0007】
また、特許文献2には、堆積した膜を、コーティングすることによって剥離を防止する方法が開示されているが、この方法は、小面積の薄膜作製装置に関するものであり、大面積を処理する、例えばロールツーロール方式の薄膜作製装置に適用することは困難である。
【0008】
さらに、特許文献3には、防着板の少なくともスパッタ粒子が付着する面を、サンドブラスト処理により粗面化するものであるが、スパッタ粒子の飛散を防止することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−254167号公報
【特許文献2】特開2009−194360号公報
【特許文献3】特開2001−131743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように、例えば太陽電池の可撓性基板の表面に、電極を連続的に作製するスパッタ装置においては、AZOターゲット上のマグネットを被覆する防着板に付着したAZOが、チャンバーを大気に開放した際に剥離し、AZO膜が飛び跳ね、この飛び跳ねたAZO膜が、図7のターゲット3とターゲット両端のシールド8a、8bとの隙間に入り導通することで、異常放電の原因となる。
【0011】
すなわち、ターゲット3は、図8に示すように、バッキングプレート17に貼り合わされており、ターゲット3の固定は、バッキングプレート17の縁の穴で螺子止めされている。このバッキングプレート17を覆うようにシールド8を重ねるが、ターゲット3とシールド8との間には、図8に示すように隙間8a 、8b(2mm〜5mmの)が空いてしまう。この隙間で異常放電が起きる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するために、スパッタを行っていない時にAZOターゲット上のアノードバー(マグネット)の防着板を覆う可動式ともなる保護カバーを設置し、剥離したAZO膜が飛散しないようにするものである。スパッタ中は、この保護カバーはAZO膜が付着しないように収納されており、スパッタ終了時にマグネットの防着板を覆う。この構成の採用により、AZO膜が飛び跳ねて剥離しても、ターゲットとシールドとの隙間に入り込むことを防げる。
【0013】
すなわち、本発明によれば、
製膜室内に、基板を挟んで、基板の一方側に、防着板により少なくともその基板側が被覆されたアノードバーと、ターゲットとが、その順に配置され、基板の他方側にヒータが配置されているスパッタ装置における保護カバーであり、
基板がアノードバーとヒータとの間に位置して、基板表面に薄膜をスパッタ中には保護カバーは、薄膜が当該保護カバーに薄膜が堆積しないように収納部に収納されており、スパッタ終了時には、アノードバーの少なくとも基板側と側面側とを覆うように配置されることとする。
【0014】
特に、製膜室が複数であり、基板がスパッタ中に製膜室間を移動する、可撓性基板であることが好ましい。
また、保護カバーには、保護カバーを可動にする動力部が接続されており、スパッタ中には保護カバーは収納部に収納され、スパッタ終了時には保護カバーは動力部により収納部から引き出されて、アノードバーの少なくとも基板側と側面側とを覆うことが好ましい。
さらに、保護カバーの上部である基板側に、窒素またはアルゴンである不活性ガスをパージする窓が備えられていること、保護カバーの下部である反基板側に、防着板から剥離した堆積物を捕集する窓が備えられていること、が好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、装置のメンテナンス時に剥離したAZO膜の飛び散りを防ぐことができるので、大気への開放後、すぐにメンテナンス作業を実施することができ、作業時間を従来の半分程度(およそ20分)に短縮できるため、作業を効率良く進めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例を示す平面図である。
【図2】図1のA−A’断面図である。
【図3】図2の保護カバーの上部の模式図である。
【図4】図2の保護カバーの下部の模式図である。
【図5】スパッタ装置の概略図である。
【図6】従来のスパッタ装置におけるターゲットとマグネットの模式図である。
【図7】図6のB−B’断面図である。
【図8】ターゲットとシールドとの隙間を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、特に、太陽電池の可撓性基板の表面に、電極を連続的に作製する装置に関するものであり、製膜チャンバー内部に、特に防着板を可動式により保護する保護カバーを設けることによって、AZO膜の飛散を防止するものである。
【0018】
スパッタを行う際には、チャンバー内部は200℃〜400℃に加熱され、メンテナンスの際には、室温まで温度を降下させる必要がある、チャンバー内部に設置する保護カバーは、この200℃〜400℃といった温度に耐えられる材質のものでなければならない。
【0019】
また、保護カバーに接着剤や粘着剤を使用すると、チャンバー内部で変質し、保護カバー自体が脱落することや、ガスを発生しスパッタ膜質に影響を与えることなどが考えられるので、保護カバーに接着剤や粘着剤を使用することは適切ではない。
保護カバーには、厚さ1mm程度の金属(ステンレス、鉄鋼、ニッケル、銅など)を用い、アノードバーと保護カバーとの接続部には、これと同じ金属の螺子を用いることが望ましい。また、チャンバーの内部に動力部を取り付ける際には、動力部も上記の条件を満足する必要があるが、チャンバー外に動力部を取り付ける場合は、この限りではない。
【0020】
図5は、ターゲット上を基板が水平に移動する、ロールツーロール方式の一形態を示すものであり、太陽電池の可撓性基板の表面に、電極を連続的に作製する場合の装置を示す概略平面図である。ここで、搬送される基板の移動速度は、0.5m/min程度であり、移動式マグネットの移動速度は0.1m/min程度であり、移動式マグネットの移動速度のほうが、基板の搬送速度に比べ大分遅い。
【0021】
本発明の主要素は、基板2とターゲット3a、3b、3c、3dの間にある移動式マグネット7a、7b、7cに関するものであり、図1、図2は、図5におけるターゲット部分を、より詳細に拡大した図である。図1はターゲット3の上方から見た平面模式図であり、図7はA−A’断面図である。図1、図2に示すように、ターゲット3と基板2(図1では図示省略)との間には、移動式のマグネット7が取り付けられている。
本実施形態は、図1、図2に示されたターゲット3の上方に取り付けられてしる移動式マグネットに、防着板とは別に、スパッタ終了時に稼動し、マグネット7を覆う保護カバー9を取り付けたものである。
[実施例]
【0022】
図1に本発明の実施例の概略図を示す。
図1は、図5のチャンバー6内のターゲット3を、基板の下から見た図である。ターゲット3の上方には、移動式のマグネット7が設けられている。本実施例の場合、マグネット7は3本用いているが、チャンバー6の幅に合わせて、2本でも良いし、4〜5本でも良い。極端な場合は1本でも良い。マグネット7の幅は、20mm〜35mmであり、長さは650mm〜750mmである。また、隣り合うマグネット7の間隔は50mm〜100mmである。
基板2は、巻き出し室5aに有るロールコア1aから巻き出され、巻き取り室5bに有るロールコア1bに巻き取られる。
【0023】
マグネット7は、基板2の搬送方向に対して平行に移動し、スパッタ中は、ターゲット3の上を行ったり来たりしている。
図1に示す装置は、チャンバー6の内部に存在しており、チャンバーの大きさは、ターゲット3を1つ以上入れられるほど十分に大きく、高さは0.6m以上、幅は1m以上の大きさである。図の中で、部番9が、保護カバーであり、図は、保護カバーが稼動したときの状態を示している。
【0024】
図2に、図1のA−A’断面図(移動式マグネット7とターゲット3との模式図)を示す。
図2において、10が保護カバー9の収納部である。可動式保護カバー9は、通常の蛇腹あるいはテレスコカバーなど、四角柱や円筒形で、移動式マグネット7がその中に入るように、中空の形状をしたものを用いる。
スパッタ中は、保護カバー9は、保護カバー収納部10に多段階に折りたたまれて収納されている。保護カバー9は、スパッタ終了時に動力部11と引き出すための補助具である滑車12とによって伸長し、図1に示すように、マグネット7の全体を覆う。これにより、剥離したAZO膜の飛散を防止することができる。
【0025】
図3と図4に、保護カバー9の上下から見た模式図を示す。
図中の点線は、防着板の保護カバー9を示している。
図3に示す保護カバー9の上部は、保護カバー収納部から、マグネット保持部16の直前までを覆っており、保護カバー9の下部も、同様に、マグネット保持部16の直前までを覆うことができる(図4)。
【0026】
ここで、保護カバー9は、図2で見て、移動式マグネット7の縦の部分は覆っていない。保護カバー9が、移動式マグネット7の縦の部分にぶつかるからである。したがって、保護カバー9は、移動式マグネット7を密閉してはいない。保護カバー9によって、ターゲット3の上側に位置する部分(基板2と対向する部分)が覆われれば良い。なお、動力部11としては、真空装置の外に置かれているなら、油圧ポンプを用いても良い。
【0027】
図3の保護カバー9の上部には、開口部14aがあり、メンテナンスの際には、この開口部11aから、不活性ガスの導入口となる。
図2の部番13は移動式マグネット7の保持部16の断面であり、部番12は、保護カバー12を引き出す滑車が通るためのレールである(なお、図2は図1のA−A’断面図であり、バッキングプレート17の外側もシールド8により覆うので、バッキングプレート17は図示されていない。)。
【0028】
図3、ならびに図4のように、保護カバー9の上部と下部とに開口部14a、14bがあり、上部の開口部14aから不活性ガス(例えば窒素、アルゴン)をパージし、下部の開口部14bから剥離したAZO膜を捕集することにより、メンテナンスを簡単にすることが可能となり、メンテナンス時間は、従来の約半分(20分程度)に短縮される。
【符号の説明】
【0029】
1a、1b ロールコア
2 基板
3、3a、3b、3c、3d ターゲット
4a、4b、4c、4d ヒーター
5a 巻き出し室
5b 巻き取り室
6a、6b、6c、6d チャンバー(スパッタチャンバー)
7、7a、7b、7c、7d 移動式マグネット(アノードバー)
8、8a、8b、8c、8d シールド
9、9a、9b 可動式保護カバー
10 保護カバー収納部
11 保護カバー動力部
12 滑車
13 保護カバー引き出し部
14a、14b 開口部
15 レール
16 移動式マグネット保持部
17 バッキングプレート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
製膜室内に、基板を挟んで、基板の一方側に、防着板により少なくともその基板側が被覆されたアノードバーと、ターゲットとが、その順に配置され、基板の他方側にヒータが配置されているスパッタ装置における保護カバーであり、
基板がアノードバーとヒータとの間に位置して、基板表面に薄膜をスパッタ中には保護カバーは、薄膜が当該保護カバーに薄膜が堆積しないように収納部に収納されており、
スパッタ終了時には、アノードバーの少なくとも基板側と側面側とを覆うように配置されること、
を特徴とする保護カバー。
【請求項2】
製膜室が複数であり、基板がスパッタ中に製膜室間を移動する、可撓性基板であることを特徴とする請求項1に記載の保護カバー。
【請求項3】
保護カバーには、保護カバーを可動にする動力部が接続されており、スパッタ中には保護カバーは収納部に収納され、スパッタ終了時には保護カバーは動力部により収納部から引き出されて、アノードバーの少なくとも基板側と側面側とを覆うことを特徴とする請求項1に記載の保護カバー。
【請求項4】
保護カバーの上部である基板側に、窒素またはアルゴンである不活性ガスをパージする窓が備えられていることを特徴とする請求項1に記載の保護カバー。
【請求項5】
保護カバーの下部である反基板側に、防着板から剥離した堆積物を捕集する窓
が備えられていることを特徴とする保護カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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