説明

保護フィルム付プリプレグ

【課題】ボイドの少ない大面積の繊維強化複合材料を生産性良く製造することが可能で、且つ、プリプレグ裁断時のトラブル等が改善された、シート状の保護フィルム付プリプレグを提供すること。
【解決手段】25℃での粘度が 5×10〜1×10Pa・Sの範囲にあるエポキシ樹脂組成物を、強化繊維基材に含浸せしめてなるプリプレグと、その片面又は両面に密着した保護フィルムとからなる保護フィルム付プリプレグにおいて、前記保護フィルムの表面濡れ性が32〜45mmN/mの範囲内にある保護フィルム付プリプレグ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温時に高粘度のエポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に含浸せしめてなるプリプレグと、その片面又は両面を被覆保護する保護フィルムとからなる保護フィルム付プリプレグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維やアラミド繊維などを強化繊維として用いた繊維強化複合材料は、その高い比強度・比弾性率を利用して、航空機や自動車などの構造材料や、テニスラケット、ゴルフシャフト、釣り竿などの一般産業用途などに広く利用されてきた。
【0003】
かかる繊推強化複合材料の製造方法としては、強化繊維基材にマトリックス樹脂、例えば、高粘度の液状未硬化の熱硬化性樹脂組成物が含浸されたシート状の中間基材であるプリプレグを用い、これを積層し、賦形し、その後、加熱及び加圧により樹脂組成物を硬化させる方法が一般的であった。
【0004】
そして、従来のシート状プリプレグとしては、マトリックス樹脂をシート状の強化繊維基材に完全に含浸したものを用いるのが主であり、また、成形法もオートクレーブ成形が主流であった。しかし、最近では、オートクレーブのような高価な成形装置を使用しない方法として、強化繊維基材にマトリックス樹脂を部分的に含浸したプリプレグを用い、オーブン成形する成形方法も提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【特許文献1】米国特許6139942号公報
【特許文献2】国際公開第00/27632号パンフレット
【0005】
従来のプリプレグを積層して繊維強化複合材料を成形する場合は、層間に閉じこめられた空気が成型品のボイドとなる恐れがあるため、これを防ぐために、オートクレーブなどを用いて高圧をかけて成形することが多かった。ところが、部分含浸プリプレグでは、未含浸の強化繊維の部分が通気パスとなるため、予め充分に減圧した後、加熱及び加圧を行えば、従来のプリプレグの成形より低い圧力で、ボイドの少ない成形が可能になるという利点がある。
【0006】
かかる部分含浸プリプレグを用いる方法においては、加熱・加圧工程中で熱硬化性樹脂組成物を流動させ、未含浸の強化繊維に含浸させる必要がある。このためには、室温においては高粘度で流動性が低く、比較的高い温度領域では低粘度で含浸性の良い熱硬化性樹脂組成物が好ましい。そして、室温における粘度が比較的高く、且つ、比較的高い温度領域での粘度が十分低い樹脂を用いた部分含浸プリプレグの製造や、レジン・フィルム・インフュージョンによる繊維強化複合材料の製造に好適なエポキシ樹脂組成物として、融点が50℃以上の結晶性熱硬化性樹脂を粒子状で分散してなる樹脂組成物も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献3】特開2005−298713号公報
【0007】
ところで、プリプレグには用途によって、プリプレグ表面へ異物が付着するのを防止するため、シート状のプリプレグの片面又は両面に保護フィルムが密着・積層されているものがある。ところが、前記した様な、室温における粘度が比較的高く流動性の低い樹脂組成物を用いたプリプレグの場合、かかるシート状のプリプレグの片面又は両面に付着した保護フィルムが、運搬あるいは作業工程でプリプレグから剥離し易いという問題がある。特に、自動裁断機でシート状のプリプレグを適当な寸法にカットする場合、プリプレグから剥離した保護フィルムが裁断機の刃に絡まり、裁断トラブルを発生するという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、シート状のプリプレグの表面を被覆・保護するのに適し、且つ、適度の密着性(剥離性)を有する保護フィルムを選定し、室温における粘度が比較的高い樹脂組成物を用いたプリプレグ、特に、高粘度のエポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に部分的に含浸せしめてなる部分含浸プリプレグと、その表面に密着した保護フィルムとからなる保護フィルム付プリプレグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に記載された発明は、25℃での粘度が5×10〜1×10Pa・Sの範囲にあるエポキシ樹脂組成物を、強化繊維基材に含浸せしめてなるプリプレグと、その片面又は両面に密着した保護フィルムとからなる保護フィルム付プリプレグにおいて、該保護フィルムの表面濡れ性が32〜45mmN/mの範囲内にあることを特徴とする保護フィルム付プリプレグである。
【0010】
請求項2に記載された発明は、プリプレグとその片面又は両面に密着した保護フィルムの間の密着力が、90°ピール強度で、0.05〜1.0N/cmの範囲内にあることを特徴とする請求項1記載の保護フィルム付プリプレグである。
【0011】
請求項3に記載された発明は、プリプレグが、エポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に部分的に含浸せしめてなる部分含浸プリプレグであることを特徴とする請求項1又は2記載の保護フィルム付プリプレグである。
【0012】
請求項4に記載された発明は、エポキシ樹脂組成物が、25℃での粘度が100Pa・S以上である液状エポキシ樹脂(A)と、25℃で固体であるエポキシ樹脂(B)と、ジシアンジアミド硬化剤(C)とを含むエポキシ樹脂組成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の保護フィルム付プリプレグである。
【0013】
請求項5に記載された発明は、強化繊維基材が、多軸織物である請求項1〜4のいずれか1項記載の保護フィルム付プリプレグである。
【0014】
そして、請求項6に記載された発明は、強化繊維基材の繊維目付が、200〜1,000g/mである請求項1〜5のいずれか1項記載の保護フィルム付プリプレグである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、室温時に高粘度のエポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に含浸せしめてなる保護フィルム付プリプレグが得られる。シート状のプリプレグへ保護フィルムを十分に密着させることができるので、プリプレグに異物が付着するのを防止することができると共に、プリプレグ裁断時のトラブルを改善することができる。また、密着性即ち剥離性が適切に調節されているので、プリプリグの積層に際しては、容易に保護フィルムを剥がすことができる。
【0016】
本発明において、特に、高粘度のエポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に部分的に含浸せしめてなる部分含浸プリプレグからなる保護フィルム付プリプレグを用いた場合には、繊維強化複合材料の成形過程において、容易に脱気が可能で、ボイドの少ない大面積の繊維強化複合材料を生産性良く製造することができるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、25℃での粘度が 5×10〜1×10Pa・S、好ましくは、5×10〜5×10Pa・Sの範囲にあるエポキシ樹脂組成物を、強化繊維基材に含浸せしめてなるプリプレグと、その片面又は両面に密着した保護フィルムとからなる保護フィルム付プリプレグにおいて、該保護フィルムの表面濡れ性が32〜45mmN/m、好ましくは、32〜40mmN/mの範囲内にあるものである。
【0018】
本発明における表面濡れ性とは、フィルムの疎水性・親水性・接着性等に関係する表面特性を表す指標であって、JIS・K・6768の「プラスチック−フィルム及びシート−ぬれ張力試験方法」により測定された値を意味する。
【0019】
本発明において、保護フィルムの表面濡れ性が32mmN/m未満であると、プリプレグと保護フィルムとの密着性が不十分であり、保護フィルムがプリプレグから剥離する傾向がある。また、保護フィルムの表面濡れ性が45mmN/mを超えると、プリプレグと保護フィルムとが密着しすぎ、プリプレグから保護フィルムを剥がせ難くなる。
【0020】
保護フィルムの表面濡れ性を前記範囲に調整するためには、保護フィルムの表面をコロナ放電、プラズマ処理、オゾン処理、UV処理等の方法で表面処理すれば良い。本発明において好ましいのは、コロナ放電処理である。コロナ放電処理は、高周波電源により供給される高周波・高電圧出力を放電電極−処理ロール間に印加することでコロナ放電を発生させ、このコロナ放電下に保護フィルムを通過させコロナ処理を行う。
【0021】
本発明の保護フィルムとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のフィルムが挙げられる。コスト面からは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)が好ましい。
【0022】
上記のごとく、本発明は、高粘度のエポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に含浸せしめてなるプリプレグと、前記のごとき保護フィルムとの密着性を、保護フィルムの表面をコロナ放電等で適切な濡れ特性を与えるように表面処理して改善した点に特徴がある。プリプレグとしては、エポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に部分的に含浸せしめてなる部分含浸プリプレグを用いることもできる。
【0023】
そして、本発明のエポキシ樹脂組成物は、25℃での粘度が5×10〜1×10Pa・Sの範囲にあるエポキシ樹脂組成物である。本発明において樹脂又は樹脂組成物の粘度は、次の方法によって求めた。即ち、動的粘弾性測定装置(例えば、レオメーター
VAR−100:レオロジカ社製など)を用い、パラレルプレートで、昇温速度2℃/minで単純昇温し、周波数1Hz、プレート間隔 1mmで測定を行った。粘度10Pa・s以上では、Ф8のパラレルプレートを用い測定した。粘度10Pa・s未満では、Ф40のパラレルプレートを用い測定した。樹脂組成物を加熱して行く過程で、樹脂組成物の粘度は低下していくが、ある温度で硬化が開始すると粘度が急激に増加する。このときの粘度曲線の屈曲点の温度が硬化開始温度であり、その時の粘度が最低粘度として定義される。
【0024】
本発明においてエポキシ樹脂組成物として好ましいのは、25℃での粘度が100Pa・S以上である液状エポキシ樹脂(A)と、25℃で固体であるエポキシ樹脂(B)と、ジシアンジアミド硬化剤(C)とを必須成分として含むエポキシ樹脂組成物である。
【0025】
また、本発明においては、前記樹脂組成物の硬化開始温度が100〜120℃の範囲にあり、且つ、その時の粘度(最低粘度)が0.1〜5Pa・Sの範囲にあるものが特に好ましい。更に、25℃における粘度は、5×10〜5×10Pa・sが好ましい。成形性、特に炭素繊維等の強化繊維への含浸性の観点から、最低粘度は0.1〜2Pa・Sであるのが好ましい。
【0026】
液状エポキシ樹脂(A)としては、例えば、分子内に水酸基を有する化合物から得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、分子内にアミノ基を有する化合物から得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、分子内にカルボキシル基を有する化合物から得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、分子内に不飽和結合を有する化合物から得られる環式脂肪族エポキシ樹脂、あるいはこれらから選ばれる2種類以上のタイプが分子内に混在するエポキシ樹脂などを用いることができる。
【0027】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンの反応により得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールFとエピクロロヒドリンの反応により得られるビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシノールとエピクロロヒドリンの反応により得られるレゾルシノール型エポキシ樹脂、その他ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、及びこれらのハロゲンあるいはアルキル置換体などが挙げられる。
【0028】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂の具体例としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン類、アミノフェノールのグリシジル化合物類、グリシジルアニリン類、キシレンジアミンのグリシジル化合物などが挙げられる。
【0029】
25℃で固体であるエポキシ樹脂(B)は、本発明のエポキシ樹脂組成物中に溶解して使用される。そして、例えば、部分含浸プリプレグを作成する場合には、室温付近での減圧工程で、エポキシ樹脂組成物の粘度を増加させ樹脂流動性を抑える効果がある。一方、成形・硬化の際には、エポキシ樹脂組成物のゲル化前(硬化開始前)に粘度を低下させ良好な流動性を賦与するものである。成分(B)の融点の好ましい範囲は50〜130℃であり、より好ましくは60〜100℃である。
【0030】
上記成分(B)の固形エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ヒドロキノン型エポキシ樹脂、テレフタル酸型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、ポリアルキルビスフェノールF型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0031】
前記エポキシ樹脂組成物においてもう一つの必須成分は、ジシアンジアミド硬化剤(C)である。かかる成分(C)は、本発明のエポキシ樹脂組成物中に分散して使用される。硬化剤は通常粒子状で使用されるが、その粒径は平均で10μm以下が好ましく、7μm以下がより好ましい。また、硬化開始温度を調整するため、上記成分(A)、(B)、(C)以外に、硬化促進剤を併用することが好ましい。硬化促進剤としては、尿素系硬化促進剤、イミダゾール化合物、アミンアダクト物などが好ましく用いられる。
【0032】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、上記成分(A)と(B)と(C)の他に、ゴム粒子や熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子、可溶性熱可塑性樹脂等を1種または2種以上含有させることができる。添加量は上記成分(A)と(B)と(C)の合計量に対し20重量%以下の範囲である。
【0033】
ゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、及び架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が、取り扱い性等の観点から好ましく用いられる。熱可塑性樹脂粒子としては、ポリアミド粒子、ポリイミド粒子が好ましく用いられる。可溶性熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルスルホン、ボリビニルホルマール、ポリメタクリル酸メチルなどが好ましく用いられる。
【0034】
本発明においては、プリプレグとその片面又は両面に密着した保護フィルムの間の密着力が、90°ピール強度で、0.05〜1.0N/cmの範囲内にあるものが好ましい。シート状のプリプレグと前記保護フィルムの間の密着力は、JIS・K・6854−1の「90度はく離接着強さ試験方法」に準拠し、試験速度は50mm/分で、長さ50mm試験を実施し、平均はく離強さを保護フィルムの密着性とする。
【0035】
保護フィルムの密着力は、0.05〜1.0N/cmの範囲内であるのが好ましが、保護フィルムの密着力が0.05N/cm未満では、プリプレグシートと保護フィルムとの密着性が十分でない場合があり、保護フィルムがプリプレグから剥離する場合もあるので好ましくない。1.0N/cmを超えると、プリプレグシートと保護フィルムとが密着しすぎ、プリプレグから保護フィルムを剥がせなくなる場合があるので好ましくない。
【0036】
本発明において用いられる強化繊維基材用の強化繊維としては、特に制限はないが、例えば、ガラス繊維、ケブラー繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、ホウ素繊維などが挙げられる。中でも比強度・比弾性率の点で炭素繊維と黒鉛繊維が好ましい。
【0037】
プリプレグ用の強化繊維基材の形態としては、特に限定はないが、強化繊維束を経糸及び/又は緯糸として使用した平織物、綾織物、朱子織物や、平行に引き揃えた強化繊維束の集合からなる一方向織物、二方向織物、多軸織物等がある。あるいは、強化繊維からなる不織布、マット、ニット、組み紐などであっても良い。多軸織物とは、一方向に引き揃えた繊維強化材の束をシート状にして角度を変えて積層し、ナイロン糸、ポリエステル糸、ガラス繊維糸等のステッチ糸で、この積層体を厚さ方向に貫通して、積層体の表面と裏面の間を表面方向に沿って往復しステッチした織物をいう。
【0038】
本発明において、エポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に部分的に含浸せしめてなる部分含浸プリプレグを用いる場合には、部分含浸プリプレグの未含浸割合を制御する観点から、部分含浸に使用する繊維強化織物は、多軸織物が好ましい。好ましい多軸織物の例としては、〔+45/−45〕、〔−45/+45〕、〔0/90〕、〔0/+45/−45〕、〔0/−45/+45〕、〔0/+45/90/−45〕等を挙げることができる。0、±45、90は、多軸織物を構成する各層の積層角度を表し、それぞれ一方向に引き揃えた強化繊維の繊維軸方向が、織物の長さ方向に対して0°、±45°、90°であることを示している。積層角度はこれらの角度に限定されず、任意の角度とすることができる。
【0039】
本発明のプリプレグは、単位面積あたりの強化繊維量(繊維目付)が200〜1000g/m2であるものが好ましい。プリプレグの強化繊維量が、200g/m2未満では、繊維強化複合材料用に成形する際、所定の厚みを得るために積層枚数を多くする必要があり、作業が繁雑となることがある。1000g/m2を超えるとプリプレグのドレープ性が低下する傾向にある。
【0040】
本発明において、プリプレグは繊維含有率が30〜80重量%のものが好ましく用いられる。より好ましくは35〜70重量%であり、更に好ましくは40〜65重量%である。繊維比率が30%未満だと樹脂の量が多すぎて、比強度、比弾性率が優れた繊維強化複合材料の利点が得られず、80重量%を超えると樹脂の含浸不良が生じ、得られる複合材料はボイドの多いものとなる恐れがある。
【0041】
本発明の好ましい態様において用いられる、エポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に部分的に含浸せしめてなる部分含浸プリプレグは、エポキシ樹脂組成物が強化繊維基材に完全には含浸されておらず、部分的に含浸されているプリプレグであるが、その程度は、以下に述べる吸水法による測定で定義される。
【0042】
エポキシ樹脂組成物が部分的に含浸されているプリプレグにおいて、プリプレグの未含浸割合が、吸水法で評価した場合、吸水率が5〜30重量%であるのが好ましく、更に好ましくは、10〜25重量%である。なお、ここでいうプリプレグの吸水率とは、プリプレグを100×100mmにカットし、重量(W1)を測定する。その後、デシケーター中で、プリプレグを水中に沈め、減圧し、プリプレグ内部の空気と水を置換させる。プリプレグを水中から取り出し、表面の水を拭き取り、プリプレグの重量(W2)を測定する。そして、吸水率は下記式で算出されるものである。
吸水率(%)=[(W2−W1)/W1]×100
W1:プリプレグの重量(g)
W2:吸水後のプリプレグの重量(g)
【0043】
かかる未含浸部分が、吸水率で5重量%未満であると強化繊維層の通気パスが不十分になる恐れがあり、30重量%を超えると部分含浸プリプレグの厚みと成形後の繊維強化複合材料の厚みが異なり、繊維強化複合材料に皺、繊維のよれが発生する傾向がある。
【0044】
以下、本発明の保護フィルム付プリプレグの製造方法の一例について説明する。本発明においては、先ず、液状エポキシ樹脂(A)と固形エポキシ樹脂(B)を混合溶解し、これに硬化剤(C)を分散配合してエポキシ樹脂組成物を調製するのが好ましい。次いで、前記エポキシ樹脂組成物を、リバースロールコーターやナイフコーターなどにより剥離紙上に塗布してフィルム化し、得られたフィルムを強化繊維基材の両面に連続的に積層・配置し、そして、加熱・加圧して樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させることによりプリプレグを製造することができる。ここで、含浸するときの温度や圧力、時間などの条件を調節し、強化繊維への樹脂含浸具合を調整することができる。
【0045】
次に、片面を、例えば、コロナ放電処理し、表面濡れ性を40mmN/mに調整したポリエチレン製保護フィルムを準備し、上記プリプレグの上面の剥離紙を剥がし、プリプレグ表面とコロナ放電処理した保護フィルム面とを合わせ、ホットローラー等を用いて40℃で加圧し、保護フィルム付プリプレグを連続的に製造することができる。ホットローラー等の加熱・加圧条件を適当に設定することによって、プリプレグと保護フィルムの間の密着力を、90°ピール強度で、0.05〜1.0N/cmの範囲に調整することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。実施例において、エポキシ樹脂組成物の未硬化物の粘度は、動的粘弾性測定装置(レオメーター
VAR−100:レオロジカ社製)を用い、パラレルプレートで、昇温速度2℃/minで単純昇温し、周波数1Hz、プレート間隔 1mmで測定を行った。粘度10Pa・s以上では、Ф8のパラレルプレートを用い、歪み0.0032で測定した。粘度10Pa・s未満では、Ф40のパラレルプレートを用い、歪み3.16で測定した。
【0047】
実施例において、プリプレグは以下の様にして作製した。エポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて、単位面積あたりの重量150g/m2となるように離型紙上でフィルム化し、樹脂フィルムを作製した。強化繊維基材として、東邦テナックス社製の“テナックス”(登録商標)HTA−12Kからなる炭素繊維多軸織物(+45/−45の角度で2枚積層したもの、織物基材の総目付500g/m)を使用し、この炭素繊維多軸織物の上下両面に上記樹脂フィルムを重ね、所定温度に加熱したホットプレートと3本のホットローラーからなる、加熱ゾーンが2mの含浸装置で含浸させた。
ライン速度2m/分、3本のホットローラーは各々、線圧 50kg/mで含浸させ、樹脂含有率37重量%のプリプレグを得た。
【0048】
次に、大気中で放電電極−処理ロール間に5〜12KVの電圧を印加し、コロナ放電を発生させ、このコロナ放電下にポリエチレン製保護フィルムを通過させ保護フィルムの片面にコロナ処理を行い、濡れ性の異なるポリエチレン製保護フィルムを準備した。そして、上記プリプレグの上面の剥離紙を剥がし、プリプレグ表面とコロナ放電処理したフィルム面とをあわせ、40℃でローラー線圧50kg/mで加圧し、保護フィルム付プリプレグシートを得た。
【0049】
上記のプリプレグから幅25×200mmの小片を切り取り、JIS・K・6854−1の90度はく離接着強さ試験方法に準拠し、プリプレグからの保護フィルムの剥離強さを評価した。試験速度は50mm/分で、長さ50mm試験を実施し、平均剥離強さを求めた。
【0050】
上記のプリプレグシートから100×100mmの小片を切り取り、剥離紙と保護フィルムを剥がした後、プリプレグをデシケーター中で水中に沈め、減圧し、プリプレグ内部の空気と水を置換させた。次いで、プリプレグの小片を水中から取り出し、表面の水を拭き取り、吸水前後のプリプレグの小片重量を測定し、吸水率を算出し、プリプレグの部分含浸の程度を求めた。
【0051】
前記のごとくして得られたプリプレグを、アルミ製の型に、面対称に8枚積層し、全体をナイロンバッグでバギングし、25℃雰囲気下でバック内部を真空度−0.1MPaで30分間減圧した。その後、減圧を維持しながら90℃まで2℃/分の昇温で加熱し、90℃で30分間保持した。その後、130℃まで2℃/分の昇温で加熱し、130℃で90分間硬化させ繊維強化複合材料(成形体)を作製した。この成形体の中央部の断面観察を行い、断面積に対するボイドの面積率を算出しボイド率とした。
【0052】
[実施例1]
成分(A)として、EPN−1138(フェノールノボラック樹脂[旭化成エポキシ社製])を62重量部と、成分(B)として、EP−1002(ビスフェノールA型エポキシ樹脂
[ジャパンエポキシレジン社製])を38重量部、成分(C)として、ジシアンジアミド(DICY)を5重量部、成分(D)として、硬化促進剤として3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルユリア(DUMU)を3重量部用いた。
【0053】
成分(A)と(B)の混合物を120℃で加熱溶解後、70℃まで室温で冷却し、成分(C)並びに(D)を加え混練した。この樹脂組成物の25℃における粘度は、1×10Pa・sであり、また、樹脂組成物の最低粘度は1Pa・s(硬化開始温度106℃)であった。
【0054】
この樹脂組成物を用いて前記方法(ホットプレート及びホットローラー温度100℃)によりプリプレグを作製した。次に、プリプレグ上面の剥離紙を剥がし、表面濡れ性が40mmN/mのポリエチレンフィルムとプリプレグとを合わせ、40℃でローラー線圧50kg/mで加圧し、シート状のポリエチレンフィルム付プリプレグを得た。
【0055】
表1に示したように、ポリエチレンフィルムの密着力(剥離強さ)は0.6N/cmで、ポリエチレンフィルムの密着力は良好で、プリプレグの取扱性も良好であった。また、プリプレグの吸水率は17重量%であった。そして、この部分含浸プリプレグを用いて、前記方法により作製した成形体のボイド率は0.5%であり、ボイドの少ない良好な成形体が得られた。なお、表1において、プリプレグの取扱性は良(○)否(×)で、成形体の成形性はボイド率の大(×)小(○)で示した。
【0056】
[実施例2]
表面濡れ性が45mmN/mのポリエチレンフィルムを使用した以外は、実施例1と同様な実験を行った。表1に示したように、ポリエチレンフィルムの密着力は良好で、プリプレグの取扱性は良好であった。
【0057】
[実施例3]
表面濡れ性が32mmN/mのポリエチレンフィルムを使用した以外は、実施例1と同様な実験を行った。表1に示したように、ポリエチレンフィルムの密着力は良好で、プリプレグの取扱性は良好であった。
【0058】
[比較例1]
表面濡れ性が30mmN/mのポリエチレンフィルムを使用した以外は、実施例1と同様な実験を行った。表1に示したように、ポリエチレンフィルムの密着力は弱すぎ、プリプレグの取扱性は悪かった。
【0059】
[比較例2]
表面濡れ性が50mmN/mのポリエチレンフィルムを使用した以外は、実施例1と同様の実験を行った。ポリエチレンフィルムの密着力は強すぎ、プリプレグからポリエチレンフィルムを剥がした時、炭素繊維多軸織物から炭素繊維が剥れてしまった。従って、プリプレグの取扱性が悪かった。
【0060】
[比較例3]
成分(A)として、EPN−1138(フェノールノボラック樹脂)を70重量部、EP−828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂[ジャパンエポキシレジン社製])を10重量部、成分(B)として、EP−1002(ビスフェノールA型エポキシ樹脂:固体)20重量部、成分(C)として、ジシアンジアミドを5重量部、更に、硬化促進剤(D)として、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルユリアを3重量部用いた。
【0061】
成分(A)の2成分と(B)の混合物を120℃で加熱溶解後、70℃まで室温で冷却し、成分(C)並びに(D)を加え混練した。この樹脂組成物の25℃における粘度は、5×10Pa・sであり、樹脂組成物の最低粘度は0.4Pa・s(硬化開始温度106℃)であった。この樹脂組成物を用いて実施例1と同じ方法により、ポリエチレンフィルム付プリプレグを得た。得られたプリプレグの吸水率は13重量%であった。そして、この部分含浸プリプレグを用いて、前記方法により成形体を作成した。
【0062】
表1に示したように、この場合には、エポキシ樹脂組成物の粘度が低すぎて、プリプレグの取扱性が悪かった。また、ポリエチレンフィルムの密着力も強くて、プリプレグからポリエチレンフィルムを剥がした時、炭素繊維多軸織物から炭素繊維が剥れ易かった。
【0063】
[比較例4]
表面濡れ性が30mmN/mのポリエチレンフィルムを使用した以外は、比較例3と同様の実験を行った。表1に示したように、この場合には、ポリエチレンフィルムの密着力は良好で、プリプレグの取扱性は良好であった。しかし、この部分含浸プリプレグを用いて、前記方法により作製した成形体はボイドが多く、ボイド率は2.0%であった。実施例のものと比べて、ボイド率が高くなっていた(成形体の成形性が悪い)。
【0064】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃での粘度が 5×10〜1×10Pa・Sの範囲にあるエポキシ樹脂組成物を、強化繊維基材に含浸せしめてなるプリプレグと、その片面又は両面に密着した保護フィルムとからなる保護フィルム付プリプレグにおいて、該保護フィルムの表面濡れ性が32〜45mmN/mの範囲内にあることを特徴とする保護フィルム付プリプレグ。
【請求項2】
プリプレグとその片面又は両面に密着した保護フィルムの間の密着力が、90°ピール強度で、0.05〜1.0N/cmの範囲内にあることを特徴とする請求項1記載の保護フィルム付プリプレグ。
【請求項3】
プリプレグが、エポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に部分的に含浸せしめてなる部分含浸プリプレグであることを特徴とする請求項1又は2記載の保護フィルム付プリプレグ。
【請求項4】
エポキシ樹脂組成物が、25℃での粘度が100Pa・S以上である液状エポキシ樹脂(A)と、25℃で固体であるエポキシ樹脂(B)と、ジシアンジアミド硬化剤(C)とを含むエポキシ樹脂組成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の保護フィルム付プリプレグ。
【請求項5】
強化繊維基材が、多軸織物である請求項1〜4のいずれか1項記載の保護フィルム付プリプレグ。
【請求項6】
強化繊維基材の繊維目付が、200〜1,000g/mである請求項1〜5のいずれか1項記載の保護フィルム付プリプレグ。



【公開番号】特開2009−108217(P2009−108217A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282828(P2007−282828)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】