説明

保護膜形成方法および保護膜

【課題】バリアー性に富むとともに、残留応力が比較的小さい保護膜を得る。
【解決手段】ガラス基板10上に、多数の有機EL素子を含む素子層12を形成し、この素子層12の全体を覆って保護膜14を形成する。特に、この保護膜14は化学気相堆積法を用いることが好適であり、その際の形成条件(温度、原料供給量)を形成途中で変更する。これによって、厚み方向において、緻密度の異なる保護層14が得られる。これによって素子層12の近傍での残留応力が比較的小さく、表面部では緻密で水分等などに対するバリアー性が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部構造を保護する保護膜、特に応力緩和およびバリアー性の両方にすぐれたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、薄型フラットパネルとして、有機ELディスプレイパネルが知られている。この有機ELディスプレイパネルでは、ガラス基板上に、薄膜トランジスタ(TFT)を形成し、これを利用して周辺回路および画素回路を形成し、その上に画素毎に有機EL素子を形成している。
【0003】
この有機EL素子は、有機物質により構成されているため、変質しやすく、水分や酸化などにより変質した場合には、所期の発光を維持できないという問題がある。
【0004】
そこで、有機ELパネルにおいては、内部を窒素雰囲気に維持するとともに乾燥剤を配置して、内部空間における水分を除去して、有機EL素子の変質を防止している。
【0005】
しかし、この有機EL素子の保護をより確実に行いたいという要求は、常にあり、各種の提案がある。例えば、特許文献1には、画素基板全体を覆って水分や酸素に対するバリア性の高い保護膜を形成することが示されている。
【0006】
また、膜形成方法の1つとして、触媒化学気相堆積法(Catalytic Chemical Vapor Deposition:Cat CVD)があり、300℃程度の比較的低温で効果的な膜形成が行える(特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−297549号公報
【特許文献2】特開2003−309119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、保護膜は、水分等に対するバリア性を高めると、その膜はかなり緻密なものになるが、このような緻密な膜はその形成後においてその下側の材料との関係で大きな残留応力を発生しやすい。一方、構造が粗な膜は、残留応力が小さいが、バリアー性に劣るという問題があった。
【0009】
本発明では、バリアー性に富むとともに、残留応力が比較的小さい保護膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基板上に、多数の素子を形成し、その後にこの多数の素子を保護する保護膜を形成する保護膜形成方法であって、保護膜形成の条件をその保護膜形成途中で変更することによって、比較的粗に形成され、残留応力が少ない低ストレス層と、比較的緻密に形成され、外部雰囲気からの隔離性能に優れるバリアー層と、を含む厚み方向における傾斜構造を有する保護膜を形成することを特徴とする。
【0011】
また、保護膜形成中に温度を変更することで、膜構成物質を同一として、膜の緻密度を変化させることが好適である。
【0012】
また、前記保護膜形成は、触媒化学気相堆積法であることが好適である。
【0013】
また、前記保護膜は、SiN膜であることが好適である。
【0014】
また、前記保護膜は、基板上に形成された多数の有機EL素子の全体をカバーする電極をカバーするものであり、その電極に近い側に低ストレス層が配置され、その電極から遠い側にバリアー層が配置されることが好適である。
【0015】
また、前記保護膜形成時の基板温度を100℃以下に維持することが好適である。
【0016】
また、本発明は、基板上に形成された多数の素子構造を保護する保護膜であって、比較的粗に形成され残留応力が少ない低ストレス層と、比較的緻密に形成され、外部雰囲気からの隔離性能に優れるバリアー層と、を含む厚み方向における傾斜構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、保護膜の緻密度を厚み方向に適切なものに制御することができる。例えば、表面部分は、水分等に対するバリア性が高い緻密なものとし、下側の構造を粗にすることによって、その下側の材料との関係で生じる残留応力を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、実施形態に係る保護膜の全体構成を示す図であり、ガラス基板10上には、多数の有機EL素子を含む素子層12が形成され、素子層12の全体を覆って保護膜14が形成されている。
【0020】
ここで、この実施形態では、保護膜14は、SiNであり、触媒化学気相堆積法によって形成される。特に、その成膜温度を途中で上昇させることで、膜の緻密度が徐々に変化させられている。また、SiN膜は、SiH4、H2、NH3などの原料ガスを供給しながら成膜する。そこで、SiH4の供給量を減少することによっても、膜の緻密度を小さくできる。そこで、原料の供給量、SiN膜であれば、SiH4の供給量を変更することでも、膜の緻密度を変化させることができ、原料供給量と、成膜温度の両方を変更することで、緻密度の変化幅を大きくすることができる。
【0021】
図2には、触媒化学気相堆積法による成膜装置の概略構成が示してある。真空チャンバ20の一側には、真空ポンプに接続される排気口22が設けられており、ここから真空チャンバ20内のガスが排気される。一方、真空チャンバ20の他の一側には、試料導入口24が設けられており、ここから保護膜が形成される対象である試料基板26が導入される。
【0022】
真空チャンバ20の下部には、試料台28が設けられ、この試料台28に試料基板26がセットされる。この試料台28の下部には、冷却器30が設けられている。この冷却器30は、冷媒(例えば、水)が循環され、試料台28および試料基板26を所定温度に維持するものである。冷媒の温度、循環量などによって、試料基板26の温度を所定のものに設定することができる。
【0023】
この試料台28の上方である真空チャンバ20の中間部分には、加熱触媒体32が設けられる。図においては、省略しているが、加熱触媒体32には、図示しない電源から通電され、これによって加熱触媒体32が所定温度まで加熱される。
【0024】
そして、加熱触媒体32の上方である真空チャンバ20の上部には、ガス供給部34が設けられている。このガス供給部34は、中空円盤状で、その下面に多数の開口が形成されており、外部から原料ガスが供給される。従って、供給された原料ガスが、開口から吹き出される。
【0025】
なお、加熱触媒体32には、ガス供給部34から供給される原料ガスが効果的に接触するように、網目状に形成されている。
【0026】
真空ポンプによって、真空チャンバ20内を所定の真空度に維持する。また、試料台28に試料基板26をセットするとともに、冷媒を冷却器30に流通して、試料基板26の温度を所定温度にセットする。この状態で、原料ガスの供給を開始する。そして、加熱触媒体32に電流を流し、所定温度まで加熱する。
【0027】
SiN膜を形成する場合、原料ガスとしては、SiH4、H2、NH3が用いられ、加熱触媒体32としてはタングステンが利用される。加熱触媒体32は、例えば200℃程度まで加熱されており、ここに原料ガスが通ることで、原料ガス中のSiH3、H、NH2などのラジカルが生成され、これが低温の試料基板26の表面上に堆積し、SiN膜が形成される。
【0028】
本実施形態では、SiH4の流量を途中で増加させるとともに、冷却器30による試料基板26の温度を途中で増加させることによって、緻密度を徐々に上昇させたSiN傾斜膜を形成する。
【0029】
これによって、SiN膜の下方との応力を小さく維持するとともに、表面における水分などに対するバリアー性を向上した保護膜が得られる。
【0030】
図3は、触媒化学気相堆積法による成膜において、成膜温度を変更した場合の作製された膜の成膜温度と、その膜の酸(例えば、バッファード(緩衝)フッ酸)によるエッチングレートの関係を示す図である。ここで、このエッチングレートは、膜の緻密度と比例するため、エッチングレートは、緻密度とみなしてもよい。このように、成膜温度を高くするとそれだけエッチングレートが下がり、緻密度が上昇する。
【0031】
図4は、図3と同じ膜について、残留応力を計測し、残留応力とエッチングレートの関係を示した図である。このように、残留応力が高いほど、エッチングレートが低い(緻密度が高い)。
【0032】
図5には、Si基板上にSiN膜を300nm堆積させた場合の残留応力[MPa]と、ガラス基板上にSiN膜を300nm堆積させた場合の緩衝フッ酸によるエッチングレートの関係を示す。さらに、図において、Cは基板温度60℃で、シラン(SiH4)流量が小の場合、B60は基板温度60℃でシラン(SiH4)流量が中の場合、B80は基板温度80℃でシラン(SiH4)流量が中の場合、A60は基板温度60℃でシラン(SiH4)流量が大の場合、A80は基板温度80℃でシラン(SiH4)流量が大の場合を示している。
【0033】
これより、シラン流量を変更するか、基板温度を変更するか、またはその両方を変更することで、生成膜の緻密度を変更することができることが確認された。
【0034】
このようなSiN膜は、有機EL表示パネルにおける画素基板を覆う保護膜として好適である。特に、本実施形態では、冷却器30に冷媒を流通し、基板温度を100℃以下(好ましくは60〜80℃)に冷却する。これによって、EL素子の表面に形成して好適なSiN膜を得ることができる。すなわち、従来の化学気相堆積法では、基板温度を300℃程度の温度に加温していた。しかし、特に有機ELの電極上に形成するSiN膜においては、100℃以下という低温での成膜が好適であることが分かった。また、100℃以下では、冷媒として水を用いることができるというメリットもある。
【0035】
図6は、1画素の発光領域と駆動TFTの部分の構成を示す断面図である。なお、各画素には、複数のTFTがそれぞれ設けられ、駆動TFTは、電源ラインから有機EL素子へ供給する電流を制御するTFTである。
【0036】
ガラス基板130上には、SiNとSiO2の積層からなるバッファ層111が全面に形成され、その上に所定のエリア(TFTを形成するエリア)にポリシリコンの能動層122が形成される。
【0037】
能動層122およびバッファ層111を覆って全面にゲート絶縁膜113が形成される。このゲート絶縁膜113は、例えばSiO2およびSiNを積層して形成される。このゲート絶縁膜113上方であって、チャネル領域122cの上に例えばCrのゲート電極124が形成される。そして、ゲート電極124をマスクとして、能動層122へ不純物をドープすることで、この能動層122には、中央部分のゲート電極の下方に不純物がドープされていないチャネル領域122c、その両側に不純物のドープされたソース領域122sおよびドレイン領域122dが形成される。
【0038】
そして、ゲート絶縁膜113およびゲート電極124を覆って全面に層間絶縁膜115が形成され、この層間絶縁膜115内部のソース領域122s、ドレイン領域122dの上部にコンタクトホールが形成され、このコンタクトホールを介し、層間絶縁膜115の上面に配置されるソース電極153、およびドレイン電極126が形成される。なお、ソース電極153には、電源ライン(図示せず)が接続される。ここで、このようにして形成された駆動TFTは、この例ではpチャネルTFTであるが、nチャネルとすることもできる。
【0039】
層間絶縁膜115およびソース電極153、ドレイン電極126を覆って、全面に平坦化膜117が形成され、その上に陽極として機能する透明電極161が設けられる。また、ドレイン電極126の上方の平坦化膜117には、これらを貫通するコンタクトホールが形成され、このコンタクトホールを介し、ドレイン電極126と透明電極161が接続される。
【0040】
なお、層間絶縁膜115および平坦化膜117には、通常アクリル樹脂などの有機膜が利用されるが、TEOSなどの無機膜を利用することも可能である。また、ソース電極153、ドレイン電極126は、アルミなどの金属が利用され、透明電極161には通常ITOが利用される。
【0041】
この透明電極161は、通常各画素の大部分の領域に形成され、全体としてほぼ四角形状で、ドレイン電極126との接続用のコンタクト部分が突出部として形成されており、コンタクトホール内にものびている。
【0042】
この透明電極161の上には、全面に形成されたホール輸送層162、有機発光層163、電子輸送層164からなる有機層165と、例えばAlの対向電極166が陰極として形成されている。
【0043】
透明電極161の周辺部分上のホール輸送層162の下方には、平坦化膜167が形成されており、この平坦化膜167によって、各画素の発光領域が透明電極161上であって、ホール輸送層162が透明電極161に直接接している部分が限定され、ここが発光領域となる。なお、平坦化膜167にも、通常アクリル樹脂などの有機膜が利用されるがTEOSなどの無機膜を利用することも可能である。
【0044】
そして、対向電極166は、画素領域全面に渡って形成されており、この対向電極166の全体を覆って、SiNからなる保護膜170が形成されている。この保護膜170は、上述のように、対向電極166に接する部分が粗で表面部が緻密な傾斜構造を有しており、これによって対向電極166に接する部分の残留応力が小さく、かつ緻密な表面によって透湿度が非常に小さく、水分などの有機層への侵入を効果的に防止している。
【0045】
なお、ホール輸送層162、有機発光層163及び電子輸送層164には、有機EL素子に通常利用される材料が使用される。有機発光層163はその材料(通常はドーパント)によって、発光色が決定され、適宜選択される。
【0046】
このような構成において、ゲート電極124の設定電圧に応じて、駆動TFTがオンすると、電源ラインからの電流が、透明電極161から対向電極166に流れ、この電流によって有機発光層163において、発光が起こり、この光が、ガラス基板130を介し射出される。
【0047】
なお、この例では、ガラス基板130側から光を射出するボトムエミッションタイプとしたが、これに限らずトップエミッションタイプとすることもできる。この場合、対向電極166をITOなどの透明導電材料から構成し、透明電極161の下面には、Agなどの反射膜を配置する。
【0048】
また、ガラス基板130上には、多数の画素がマトリクス状に配置され、その周辺部には周辺回路が形成され、これによって画素基板が形成される。そして、画素基板に対向して封止基板を配置し、両者の周辺部がシール材を用いて気密に接続される。従って、画素基板の上方空間は、気密であり、かつ画素基板の表面は保護膜170によってカバーされているため、有機層に水分が侵入するのが効果的に防止される。
【0049】
本実施形態では、保護膜として、SiN膜を採用し、これによって有機EL素子を保護した。しかし、これに限定されることなく、各種の半導体装置などにおける保護膜としても利用することができる。
【0050】
また、成膜条件を徐々に変更して、膜組成を徐々に変更してもよいし、異なる条件の膜の積層構造としてもよい。
【0051】
さらに、保護膜を成膜する下側の膜の組成によっては、保護膜の下側ほど緻密に形成した方がよい場合もあり、この場合には成膜時に温度を徐々に下降させまたは原料供給量を徐々に減少させればよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施形態の概略構成を示す図である。
【図2】成膜装置の構成を示す図である。
【図3】成膜温度とエッチングレートの関係を示す図である。
【図4】残留応力とエッチングレートの関係を示す図である。
【図5】種々の条件における残留応力およびエッチングレートを示す図である。
【図6】画素部分の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
10 ガラス基板、12 素子層、14 保護膜、20 真空チャンバ、22 排気口、24 試料導入口、26 試料基板、28 試料台、30 冷却器、32 加熱触媒体、34 ガス供給部、60,80基板温度、111 バッファ層、113 ゲート絶縁膜、115 層間絶縁膜、117 平坦化膜、122 能動層、122c チャネル領域、122d ドレイン領域、122s ソース領域、124 ゲート電極、126 ドレイン電極、130 ガラス基板、153 ソース電極、161 透明電極、162 ホール輸送層、163 有機発光層、164 電子輸送層、165 有機層、166 対向電極、167 平坦化膜、170 保護膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、多数の素子を形成し、その後にこの多数の素子を保護する保護膜を形成する保護膜形成方法であって、
保護膜形成の条件を保護膜形成途中で変更することによって、
比較的粗に形成され、残留応力が少ない低ストレス層と、
比較的緻密に形成され、外部雰囲気からの隔離性能に優れるバリアー層と、
を含む厚み方向における傾斜構造を有する保護膜を形成することを特徴とする保護膜形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の保護膜形成方法において、
保護膜形成中に温度を変更することで、膜構成物質を同一として、膜の緻密度を変化させることを特徴とする保護膜形成方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の保護膜形成方法において、
前記保護膜形成は、触媒化学気相堆積法であることを特徴とする保護膜形成方法。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の保護膜形成方法において、
前記保護膜は、SiN膜であることを特徴とする保護膜形成方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の保護膜形成方法において、
前記保護膜は、基板上に形成された多数の有機EL素子の全体をカバーする電極をカバーするものであり、その電極に近い側に低ストレス層が配置され、その電極から遠い側にバリアー層が配置されることを特徴とする保護膜形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の保護膜形成方法において、
前記保護膜形成時の基板温度を100℃以下に維持することを特徴とする保護膜形成方法。
【請求項7】
基板上に形成された多数の素子構造を保護する保護膜であって、
比較的粗に形成され残留応力が少ない低ストレス層と、
比較的緻密に形成され、外部雰囲気からの隔離性能に優れるバリアー層と、
を含む厚み方向における傾斜構造を有することを特徴とする保護膜。
【請求項8】
請求項7に記載の保護膜において、
前記バリアー層と、前記低ストレス層は、その構成物質が同一であることを特徴とする保護膜。
【請求項9】
請求項7または8に記載の保護膜において、
前記保護膜は、SiN膜であることを特徴とする保護膜。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1つに記載の保護膜において、
前記保護膜は、基板上に形成された多数の有機EL素子の全体をカバーする電極をカバーするものであり、その電極に近い側に低ストレス層が配置され、その電極から遠い側にバリアー層が配置されることを特徴とする保護膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−338947(P2006−338947A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−160085(P2005−160085)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】