説明

信号を妨害する周期的なイベント間の時間間隔を確率的に決定する方法

【課題】この発明の実施の形態は、イベント間の時間間隔の確率的な決定のための方法を開示するものであり、イベントは周期的に信号を妨害する。
【解決手段】本方法は、イベントの発生確率をジッタされる信号の値に基づいて、時間の関数として、決定するものであり、イベント間の時間間隔を決定するのに適する1組の可能な時間間隔の確率を生成する、イベント間の時間間隔に対する1組の可能な時間間隔の一致の確率を、イベントの発生の確率に基づいて決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的に、信号を妨害する周期的なイベント間の時間間隔を決定するための方法に関し、特に信号を妨害するイベント間の時間間隔を実時間で確率的に推定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベアリングは、滑り(平)軸受け、ボール(玉)軸受け、ローラ(ころ)軸受け、ニードル軸受け、テーパ(円錐)軸受け、スヘリカル(球面)軸受け、あるいはスラスト軸受けであろうが、遍在している。ベアリングは、世界を動かしており、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、ホイール(車輪)、タービン、ディスクドライブおよびジェットエンジンなどのすべてのタイプ(型)の設備で見つかる。ベアリングのデザイン(設計)は非常に簡単であるが、ベアリングの故障により大惨事に至る場合がある。したがって、ベアリングの故障をリアルタイムに検知することが望まれる。
【0003】
図1は、ボールベアリング110を示し、それは内レース115、外レース117、およびそれらのレース間の軸受エレメント、たとえばボール119、を含む。ベアリングは、回転するにつれて、故障により、ベアリングの角加速度に比例する周波数で共振する。共振は、信号122として経時的にサンプリングすることができる。
【0004】
典型的に、故障は、単一のポイントにあり、ベアリングによって生成された信号122を妨害して信号中にピーク120を生じさせる周期的なイベントを引き起こす。理想的には、ピークは周期的であり、時間間隔125によって分離される。図示された信号は時間(t)の関数としての加速度(g)である。
【0005】
ベアリングおよび相互イベント間隔の幾何学的配列に基づいて、異なる故障を識別することが可能である。しかしながら、ノイズは故障関連の周期的なイベントを隠すことがある。たとえば、ベアリング・スリップによって引き起こされた機械騒音すなわちボールとレースとの間の欠陥による接点の変動は、振幅130および時間間隔131が変化するように、信号をジッタ(小刻みに変動)させる。
【0006】
信号を妨害するイベント間の時間間隔を測定するための1つの従来手法は、覆い隠されている信号を自動的に関連させて、固有振動数に対応する遅れでピークを検知することである。ここで、信号140は、遅れの関数として自己相関r(t)として示される。しかしながら、自己相関は少数の擬似的な最大の振幅ピークによって支配されるので、その方法はジッタ(小刻みに変動)させられた信号の場合には失敗する。
【0007】
別の方法は、同時に信号を復調し、かつ固有振動数でエネルギを検知するために、バイスペクトル分析を使用する。しかしながら、そのバイスペクトルに基づく方法は、信号の周期性に関する仮定を行う。
【0008】
別の方法は、信号に由来した特徴ベクトルに機械学習技法を適用することにより、信号の周期性に変動がある状態で故障を検出する。しかしながら、その方法は訓練データを必要とし、また訓練データに表われない状況へ上手く一般化できない場合があり、その方法をリアルタイムの故障検出のために役立たなくしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、トレーニングを必要とせずに、ジッタ(小刻みに変動)させられた信号を妨害する周期的イベント間の時間間隔を決定することが望まれる。
【0010】
この発明の目的は、トレーニングを必要とせずに、ジッタ(小刻みに変動)させられた信号を妨害する周期的イベント間の時間間隔を決定することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の実施の形態は、イベント間の可能な時間間隔の事後確率が、時間の関数として、信号を妨害するイベントの発生確率の関数であるという認識に基づく。さらに、その確率は、たとえば信号の加速度の振幅などの値に基づいて決定することができる。
【0012】
この発明の実施の形態は、イベント間の時間間隔の確率的な決定のための方法を開示するものであり、イベントは周期的に信号を妨害する。本方法は、イベントの発生確率をジッタされる信号の値に基づいて、時間の関数として、決定するものであり、イベント間の時間間隔を決定するのに適する1組の可能な時間間隔の確率を生成する、イベント間の時間間隔に対する1組の可能な時間間隔の一致の確率を、イベントの発生の確率に基づいて決定する。
【発明の効果】
【0013】
この発明の実施の形態は、イベント間の時間間隔を決定するための方法を記述するものであり、イベントは周期的に信号を妨害する。イベント間の時間間隔は、単一点の欠陥を有するベアリングの故障関連の妨害(外乱)の特性を検出するために使用される。これらの実施の形態は、故障関連の振動妨害(外乱)の確率モデルを使用し、リアルタイムに実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1によって解決されるベアリング故障診断問題の概略図である。
【図2】この発明の実施の形態1による、信号を妨害するイベント間の時間間隔を決定する方法のブロックダイアグラムである。
【図3A】イベントによって部分的に妨害される信号のグラフである。
【図3B】イベントによって部分的に妨害される信号のグラフである。
【図4】イベントの発生確率のヒストグラムである。
【図5】可能な時間間隔の確率のヒストグラムである。
【図6】この発明の実施の形態1の実際的なセッティングの例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
図2は、イベント205の時間間隔290を決定する方法200を示し、イベントは周期的に信号x(t)210を妨害する。ノイズおよび他のランダム(無作為)な影響により、信号210はジッタ(小刻みに変動)させられる。ジッタは、信号の連続するパルスの周波数、信号の振幅、および信号の位相を含む。本方法のステップ(工程)はプロセッサ201によって実行される。プロセッサ201は、当該技術において知られているように、メモリ、I/Oインタフェース、および信号プロセッサを含む。
【0016】
図3Aは信号210の一例310を示す。信号はジッタさせられた期間(以下、ジッタ期間と称す)320を有する。ジッタ期間は、信号の特性の最大あるいは最小イフェクト(効力)の2つのイベント間の時間間隔である。さらに、信号の振幅320もジッタさせられる、すなわち、経時的に変化する。
【0017】
1つの実施の形態では、信号210は、イベント205により故障するベアリング110によって生成される。故障が局地化される場合、イベントはイベント間の時間間隔290で周期的である。時間間隔290の長さは故障の診断280のための重要な要因である。しかしながら、他の実施の形態では、信号210は、ジッタを蒙りやすい任意の周期的信号、たとえば任意の電磁気信号、である。信号のジッタは、たとえば、指数関数的に分布した白色加法的バックグランドノイズによって引き起こされる場合がある。
【0018】
この発明の実施の形態は、イベント間の可能な時間間隔の事後確率p(τ)が、時間の関数として、信号を妨害するイベントの発生確率p(t)の関数であるという認識に基づく。さらに、その確率p(t)は、たとえば信号の加速度の振幅などの値に基づいて決定することができる。
【0019】
したがって、本方法200は、信号の値に基づいてイベントの発生確率p(t)265を決定260する。1つの実施の形態では、信号からノイズを除去するために信号を濾波250して濾波信号m(t)255を生成する。この実施の形態では、濾波工程は、たとえば、信号のN個の最大ピークを含む窓で信号を平均することにより作成された照合フィルタを使用する。この記述のために、信号x(t)およびm(t)は区別なく同義で用いられている。図3Bは、フィルタリング(濾波)後の信号の例を示す。この濾波は、低振幅イベントを明らかにするためにバックグランドノイズを排除する。
【0020】
工程260は点別変換p(t)=g(m(t))を適用する。ここで、g(m(t))は、次式(1)によって信号m(t)の値を観察した後に、時間tでのイベントの発生の事後確率である。
【0021】
【数1】

【0022】
ここで、Pはイベントの発生の事前確率であり、p(m|d=1)はイベントの発生の条件付き確率であり、すなわち、イベントが時間tで発生するとして、信号のm(t)の値を観察することであり、また、p(m|d=0)はイベントの不発生の条件付き確率であり、すなわち、イベントが時間tで生じないとして、信号のm(t)の値を観察することである。
【0023】
ここに定義されたように、イベントの発生の事前確率、イベントの発生の条件付き確率、およびイベントの不発生の条件付き確率は、イベントの確率特性である。
【0024】
いくつかの実施の形態は、信号を妨害するイベントが、イベントの(発生)時間に近接する時間tの範囲に対して信号m(t)の値を増大させるという観察結果告を使用する。これらの実施の形態では、確率p(t)の比較的大きな極大値のみを保存することによりイベントの発生確率をフィルタし、また、個々の大きな極大値に近い確率p(t)を零に設定する。したがって、信号の中間から大きなピークの時に、妨害(外乱)確率p(t)は1に近く、また明白な妨害(外乱)の無い時には、確率p(t)は零(0)近い。信号の値の中の小さなピークは、不確実な照合フィルタ出力を生成し、図4で示されるように、p(t)に対して中間値に帰着する。
【0025】
確率p(t)265に基づいて、本方法200は、1組の可能な時間間隔230の確率を生成する時間間隔290に対する可能な時間間隔220の一致の確率を決定270する。その組230はイベント間の時間間隔を決定するために使用される。たとえば、1つの実施の形態では、その組230から、最も高い確率の可能な時間間隔を選択する。1つの実施の形態では、可能な時間間隔220はベアリング110の幾何学的配列に基づいて選択される。
【0026】
その可能な時間間隔の確率の組は、必ずしも、時間間隔290に対する実際の一致の確率を含まない。1つの実施の形態では、確率は、正規化され、すなわち、互いに関連して、最も有望な可能な時間間隔を決定することを可能にする。
【0027】
これらの実施の形態では、次の式(2)によりその可能な時間間隔の確率の組を決定する。
【0028】
【数2】

【0029】
ここで、P(τ)は可能な時間間隔に関する事前確率であり、それは一定であり、かつその可能な時間間隔の値である。
【0030】
図5は、可能な時間間隔の確率p(τ)の正規化されたダイアグラムを示す。たとえば、イベント間の時間間隔が10ミリセカンド(ms)である確率は0であり、また、時間間隔が8ミリセカンド(ms)であるの確率は5である。したがって、1つの実施の形態1では、最も高い確率値を有する可能な時間間隔を選択することにより、1組の確率230に基づいて期間290を決定する。
【0031】
イベントの発生確率
典型的には、信号を妨害する殆どのイベントは信号m(t)において顕著なピークとなる。したがって、恐らくイベントの発生に対応する時間{t、…、(t})で信号の1組の極大値{m(t)、…、m(t)}を決定する。
【0032】
1つの実施の形態では、半波高全幅値(FWHM)方法を使用して、その組の中の極大値の数を制限する。FWHMとは、従属変数がその極大値の半分と等しくなる独立変数の2つの極値間の差により与えられる、関数の範囲の表現である。
【0033】
最初に、信号のm(t)の大域的な(全体)最大を決定して、m(t)選択する。そして、追加のイベントが、時間tの近くの領域、m(t)>0.5m(t)、すなわち、tの付近の半波高全幅値の領域 に存在しないと仮定する。
【0034】
次に、時間tで、その領域の外部におけるm(t)の最大値を求め、また極大値の値の組の中へm(t)を選択する。続いて、その信号を「半波高全幅値」領域へ分割し、極大値の値の組および対応する時間を決定する。
【0035】
次いで、極大値の値の組に基づいてイベントの確率特性を決定する。1つの実施の形態では、極大値の値の組に対する対数正規分布の最大尤度適合度として確率p(m|d=1)を決定する。他の実施の形態では、正数のデータをモデル化するための異なるパラメータ形式、たとえば正規分布、を使用する。
【0036】
条件付き確率p(m|d=1)を与えられることで、この分配を、複数の対数正規分布の2成分混合物の1つの成分として固定し、また、混合分布モデルが単に極大値の値に対してだけではなくすべての時間に対して完全な組(フルセット)の値m(t)をモデル化するように、別の(第2の)成分のパラメータおよび第2の成分の事前確率を決定するために、期待値最大化(EM)手続きを使用する。
【0037】
期待値最大化(EM)を行なった後では、1つの混合成分をp(m|d=1)の最大尤度適合度に固定したので、第2の成分は非妨害(妨害のない)時の信号を表わすであろう。したがって、第2の成分はp(m|d=0)に対応する。p(m|d=1)に対応する成分に対する事前確率は、確率Pの推定値を生み出す。
【0038】
この発明の実施の形態は、イベント間の時間間隔を決定するための方法を記述するものであり、イベントは周期的に信号を妨害する。イベント間の時間間隔は、単一点の欠陥を有するベアリングの故障関連の妨害(外乱)の特性を検出するために使用される。これらの実施の形態は、故障関連の振動妨害(外乱)の確率モデルを使用し、リアルタイムに実行することができる。
【0039】
図6は、この発明の実施の形態を使用した機械故障診断方法のためのセッティングの非制限(制限されない)例を示す。モータ610の振動信号210は加速度計620によって検知され、本方法200を実行するプロセッサ201に向けられる630。本方法200の実行の結果は解析器640に導かれる。さらに、信号210は、更なる調査のために振動監視モジュール650に転送される。
【0040】
この発明は好ましい実施の形態を例として記述されたが、この発明の趣旨および範囲内で様々な他の改変および変更を行ってもよいことが理解されるべきである。したがって、この発明の真実の趣旨および範囲内に入るような、すべての変更例および変形例をカバーすることが、添付の特許請求の範囲の目的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を周期的に妨害するイベント間の時間間隔を確率的に決定するための方法であって、その方法の工程を実行するためのプロセッサを備え、
前記イベントの発生確率をジッタされる前記信号の値に基づいて、時間の関数として、決定する工程と、
前記イベント間の時間間隔を決定するのに適する1組の可能な時間間隔の確率を生成する、前記イベント間の時間間隔に対する1組の可能な時間間隔の一致の確率を、前記イベントの発生確率に基づいて決定する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記信号は、前記イベントによりベアリングによって生成された振動信号であり、また前記時間間隔は前記ベアリングの診断に適している、請求項1の方法。
【請求項3】
前記信号は前記ジッタを引き起こす白色ノイズによって達成される、請求項1の方法。
【請求項4】
前記信号を照合フィルタによって濾波することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項5】
前記イベントの発生確率の関数を濾波することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項6】
前記一致の確率を決定することは、前記イベント間の可能な時間間隔の確率と前記信号を妨害する前記イベントの発生確率との間の関数関係に基づく、請求項1の方法。
【請求項7】
前記イベント間の時間間隔を、前記可能な時間間隔の確率に基づいて前記可能な時間間隔の組から選択することをさらに含む、請求項1の方法。
【請求項8】
前記可能な時間間隔の組を前記ベアリングの幾何学的配列に基づいて決定することをさらに含む、請求項2の方法。
【請求項9】
前記イベントの発生確率を決定することは、
対応する時間で前記信号の1組の極大値の値を決定すること、
前記極大値の値に基づいて前記信号の妨害確率特性を決定すること、
前記妨害確率特性に基づいて前記イベントの発生の事後確率関数を決定すること、
をさらに含む、請求項1の方法。
【請求項10】
前記極大値の値の組を決定することは半波高全幅値(FWHM)方法に基づく、請求項9の方法。
【請求項11】
前記妨害確率特性は、前記イベントの発生の事前確率、イベントの発生の条件付き確率、およびイベントの不発生の条件付き確率を含む、請求項9の方法。
【請求項12】
前記妨害確率特性を決定することは、前記イベントの発生の条件付き確率を、前記極大値の値の組への対数正規分布の最大尤度適合度として決定することをさらに含む、請求項11の方法。
【請求項13】
前記イベントの発生の条件付き確率の期待値最大化(EM)を使用して、前記イベントの不発生の条件付き確率を決定することをさらに含む、請求項12の方法。
【請求項14】
前記イベントの発生の条件付き確率の期待値最大化(EM)を使用して、前記イベントの発生の事前確率を決定することをさらに含む、請求項12の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−13214(P2011−13214A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−138161(P2010−138161)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(597067574)ミツビシ・エレクトリック・リサーチ・ラボラトリーズ・インコーポレイテッド (484)
【住所又は居所原語表記】201 BROADWAY, CAMBRIDGE, MASSACHUSETTS 02139, U.S.A.
【Fターム(参考)】