説明

信号伝送装置及び信号伝送方法

【課題】通信の品質を向上させること。
【解決手段】送信側10からの複数のパルス幅を有する信号を伝送路11Aである、ツイストペア線の線路11,13及び中間コネクタ12を介して受信側14に伝送する際、線路11に形成された反射波遅延手段としての反射波遅延部15により、信号の進行波11aが反射して発生する反射波11bを、進行波11aの最小パルス幅のλ/4時間となるように遅延させ、進行波11aに対し波形の乱れを生じさせる反射波11bの影響を小さくし、合成波11cの正の振幅と負の振幅の各々の周期(半周期)での時間差を小さくして合成波11cのジッタが少なくなるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載される車載機器に電気的信号を伝える信号伝送装置及び信号伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車載機器に電気的信号を伝える信号伝送装置として、一対の被覆電線を撚り合わせたツイストペア線が広く使用されている。ツイストペア線は、一対の被覆電線を平行ないし略平行に並べた平行線に比べて、電磁誘導による電磁的ノイズの影響を受けづらく、通信の信頼性が高いという特性がある。
【0003】
このようなツイストペア線を用いた信号伝送装置として、たとえば先端にコネクタの端子収容室に挿入される端子が接続された3組のツイストペア線を有し、端子側のツイストペア線がそれぞれ1/3ピッチずつ位相がずれるように撚りが戻されたものがある。
【0004】
ところが、このような信号伝送装置では、コネクタに接続されるツイストペア線の撚りが戻されると、誘導起電力が互いに加算されてノイズ電圧が増加し、キャパシタンスが大きくなってノイズ電流が増加し、電磁誘導及び静電誘導によるノイズが発生して、車載機器が誤作動するというおそれがある。
【0005】
また、コネクタに接続されるツイストペア線が複数あると、識別のために隣り合うツイストペア線を着色しなければならず、電線の種類が多くなりコストが高くなるという問題もある。
【0006】
このような問題を解消するために、特許文献1では、複数の電線を撚り合わせて形成したツイストペア線の少なくとも一側にコネクタと接続するための撚り戻し部を形成し、その撚り戻し部に複数の電線を束ねるための収縮部材を被着し、さらにそれぞれの収縮部材の色が異なるようにしたツイストペア線を提案している。
【特許文献1】特開2004−103396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した特許文献1でのツイストペア線では、撚り戻し部の複数の電線が収縮部材によって束ねられ、電線間隔が離れてしまうことが防止されるため、伝送路のインピーダンスが小さくなり、これによって輻射ノイズを低減することができ、また色の異なる収縮部材により隣り合うツイストペア線を着色せずに識別することができる。
【0008】
ところが、このような構成では、ツイストペア線等の伝送路にインピーダンス不整合が生じると、その地点で進行波が反射してしまい、反射波が発生することによる不具合が生じてしまう。
【0009】
すなわち、図8に示すように、送信側1から複数のパルス幅を有する信号がツイストペア線等の線路2,4及び中間コネクタ3を介して受信側5に送信されるものとする。ここで、送信側1と受信側5の間の線路2,4及び中間コネクタ3は、伝送路2Aである。なお、図中符号3a,3bは撚り戻し部(又は開き)を示している。
【0010】
ここで、伝送路2Aである、線路2,4及び中間コネクタ3にインピーダンス不整合が生じていなければ、図9(a)に示すような波形の信号が送信側1から受信側5に送信される。また、インピーダンス不整合が生じていない場合の信号のアイパターンは、図9(b)に示すように波形の乱れがなく、品質の良い波形で表される。
【0011】
ところが、図8に示す撚り戻し部3a,3bにより、図中点線で囲った部分にインピーダンス不整合3Aが生じると、その地点で送信側1からの進行波aが反射し、反射波bが発生する。反射波bは、進行波aとは逆の方向に進み送信側1に向かう。このとき、送信側1の送信端でインピーダンス整合がとれていれば、その反射波bが送信側1で吸収される。
【0012】
これに対し、送信側1の送信端でインピーダンス整合がとれていなければ、その反射波bが送信側1の送信端でさらに反射し、図10(a)に示すように、進行波aに反射波bが重なった合成波cとなる。この場合のアイパターンは、図10(b)に示すように波形に乱れが生じ、品質の悪い波形で表される。
【0013】
これは、インピーダンス不整合3Aの部分で反射した反射波bの位相が進行波aの位相に対して任意の時間ずれて合成されることで、合成波cの正の振幅と負の振幅の各々の周期(半周期)に時間差を生じてしまい、これがジッタとなって品質の悪い波形となってしまうためである。よって、合成波cのジッタが増大すると、通信の品質を劣化させ、送信側1から受信側5への正常な通信を行えないおそれがあるといった問題がある。
【0014】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決することができる信号伝送装置及び信号伝送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の信号伝送装置は、送信側からの複数のパルス幅を有する信号をツイストペア線からなる伝送路を介して受信側に伝送する信号伝送装置であって、前記伝送路に、前記信号の進行波を所定時間遅延させて前記送信側に反射させる反射波遅延手段が形成されていることを特徴とする。
また、前記反射波遅延手段は、前記伝送路に挿入されるインダクタであるようにすることができる。
また、前記反射波遅延手段は、所定幅の撚り空間で形成されたものであるようにすることができる。
また、前記反射の遅延時間は、前記複数のパルス幅のうち、最小のパルス幅のλ/4であるようにすることができる。
また、前記反射は、少なくとも前記伝送路に設けられている中継コネクタでの前記ツイストペア線の撚り戻しによるインピーダンス不整合によるものであるようにすることができる。
本発明の信号伝送方法は、送信側からの複数のパルス幅を有する信号をツイストペア線からなる伝送路を介して受信側に伝送する信号伝送方法であって、前記伝送路に形成された反射波遅延手段により、前記信号の進行波を所定時間遅延させて前記送信側に反射させることを特徴とする。
また、前記反射波遅延手段は、前記伝送路に挿入されるインダクタであるようにすることができる。
また、前記反射波遅延手段は、所定幅の撚り空間で形成されたものであるようにすることができる。
また、前記反射の遅延時間は、前記複数のパルス幅のうち、最小のパルス幅のλ/4であるようにすることができる。
また、前記反射は、少なくとも前記伝送路に設けられている中継コネクタでの前記ツイストペア線の撚り戻しによるインピーダンス不整合によるものであるようにすることができる。
本発明の信号伝送装置及び信号伝送方法では、送信側からの複数のパルス幅を有する信号をツイストペア線からなる伝送路を介して受信側に伝送する際、伝送路に形成された反射波遅延手段により、信号の進行波を所定時間遅延させて送信側に反射させることで、進行波の波形の位相に対し反射波の波形の位相が所定時間分だけずらされ、進行波と反射波とによる合成波の正の振幅と負の振幅の各々の周期(半周期)での時間差が小さくなり、合成波のジッタが少なくなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の信号伝送装置及び信号伝送方法によれば、合成波のジッタが少なくなるようにしたので、通信の品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本実施形態では、送信側からの複数のパルス幅を有する信号をツイストペア線からなる伝送路を介して受信側に伝送する際、伝送路に形成された反射波遅延手段により、信号の進行波を所定時間遅延させて送信側に反射させ、進行波の波形の位相に対し反射波の波形の位相が所定時間分だけずらされ、進行波と反射波とによる合成波の正の振幅と負の振幅の各々の周期(半周期)での時間差が小さくなり、合成波のジッタが少なくなるようにすることで、通信の品質を向上させるようにした。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例の詳細について説明する。図1は、本発明の信号伝送装置の一実施例を説明するための図である。
【0019】
同図に示すように、信号伝送装置は、送信側10から複数のパルス幅を有する信号が線路11、中間コネクタ12及び線路13を介して受信側14に送信される構成となっている。ここで、送信側10と受信側14との間の線路11、中間コネクタ12及び線路13は、伝送路11Aである。また、線路11,13は、ツイストペア線で構成されている。また、線路11には、反射波遅延手段としての反射波遅延部15が形成されている。なお、図中符号12a,12bはツイストペア線の撚り戻し部(又は開き)を示している。
【0020】
また、符号11aは送信側10からの信号の進行波であり、符号11bは反射波遅延部15により送信側10からの信号の進行波が所定時間遅延されて送信側10に反射される反射波である。また、その反射波11bには送信側10の送信端で反射したものも含まれる。また、符号11cは、進行波11aに反射波11bが重なった合成波である。
【0021】
ここで、反射波遅延部15は、上述した反射波11bを後述のように、進行波11aの最小パルス幅のλ/4時間だけ遅延させるものである。このような反射波遅延部15を形成する場合、以下のように、伝送路11Aの線路11にインダクタ(L)を挿入する方法、あるいは伝送路11Aの線路11に所定幅の撚り空間を形成する方法等がある。
【0022】
図2は、伝送路11Aの線路11にインダクタ(L)を挿入する方法を説明するための図である。まず、インダクタ(L)としては、図2(a)に示すように、たとえばFB(フェライトビーズ)15aを用いることができる。ここで、FB(フェライトビーズ)15aを伝送路11Aの線路11に挿入する場合、線路11の途中を切断し、その切断個所にFB(フェライトビーズ)15aを挿入する。
【0023】
また、図2(b)に示すように、FB(フェライトビーズ)15bを伝送路11Aの線路11の上からクランプする。
【0024】
図3は、伝送路11Aの線路11に所定幅の撚り空間を形成する方法を説明するための図である。同図に示すように、反射波遅延部15を形成する場合の撚り空間は、大きいほどよいが、実用に際しては25〜35mm程度で十分な効果が得られる。
【0025】
また、図4に示すように、伝送路11Aの線路11の反射波遅延部15が必要な個所に中間コネクタ15cがある場合は、その中間コネクタ15cにインダクタ15dを挿入するようにしてもよい。
【0026】
図5は、伝送路11Aの線路11に形成した反射波遅延部15の特性を説明するための図である。すなわち、図5(a)は、進行波11aと反射波11bとの合成波11cを示している。ここで、反射波11bは、反射波遅延部15によって、A部を拡大した図5(b)に示すように、進行波11aの最小パルス幅のλ/4時間となるように遅延されている。
【0027】
これにより、反射波11bの波形の位相が進行波11aの波形の位相に対してλ/4時間だけずらされるので、進行波11aに対し波形の乱れを生じさせる反射波11bの影響が小さくなり、合成波11cの正の振幅と負の振幅が均等に増強されることで、合成波11cの波形の傾きが急峻になる。そして、合成波11cの正の振幅と負の振幅の各々の周期(半周期)での時間差が小さくなり、合成波11cのジッタが少なくなる。その結果、図6に示すように、アイパターンは、波形の乱れがなく、品質の良い波形で表される。
【0028】
次に、信号伝送方法について説明する。まず、図7に示すように、送信側10からの複数のパルス幅を有する信号が伝送路11Aの線路11に出力される(ステップS1)。このとき、送信側10からの進行波11aは、通常、撚り戻し部12a,12bによるインピーダンス不整合12Aにより、その地点で反射する反射波11bとなり、送信側10に戻ることになる。また、その反射波11bは送信側10の送信端でも反射し、進行波11aに反射波11bが重なり、合成波11cとなる。
【0029】
ただし、本実施例では、伝送路11A中の撚り戻し部12a,12bの前段の線路11に設けた反射波遅延部15により、進行波11aを反射させている。この反射による反射波11bは、反射波遅延部15によって進行波11aの最小パルス幅のλ/4時間だけ遅延されている。
【0030】
これにより、反射波遅延部15による反射波11bは、反射波遅延部15によって進行波11aの最小パルス幅のλ/4時間だけ遅延されるので(ステップS2)、反射波11bの波形の位相が進行波11aの波形の位相に対してλ/4時間だけずらされ、進行波11aに対し波形の乱れを生じさせる反射波11bの影響が小さくなり、合成波11cの正の振幅と負の振幅の各々の周期(半周期)での時間差が小さくなり、合成波11cのジッタが少なくなる。その結果、図6に示すしたアイパターンのように、波形の乱れがなく、品質の良い波形が得られる(ステップS3)。
【0031】
このように、本実施例では、送信側10からの複数のパルス幅を有する信号を伝送路11Aである、ツイストペア線の線路11,13及び中間コネクタ12を介して受信側14に伝送する際、線路11に形成された反射波遅延手段としての反射波遅延部15により、信号の進行波11aが反射して発生する反射波11bを、進行波11aの最小パルス幅のλ/4時間となるように遅延させるようにした。
【0032】
これにより、進行波11aに対し波形の乱れを生じさせる反射波11bの影響が小さくなり、合成波11cの正の振幅と負の振幅が均等に増強されることで、合成波11cの波形の傾きが急峻になるため、合成波11cの正の振幅と負の振幅の各々の周期(半周期)での時間差が小さくなり、合成波11cのジッタを少なくなるようにすることができ、通信の品質を向上させることができる。
【0033】
なお、本実施例では、反射波遅延部15による反射波11bの遅延時間を進行波11aの最小パルス幅のλ/4となるようにした場合について説明したが、その遅延時間は進行波11aの最小パルス幅のλ/4に限定されるものではない。すなわち、たとえばλ/4より極端に小さい場合は多重反射等によって進行波11aの波形が歪んでしまう場合があるが、λ/4に近い範囲ではλ/4と同じ効果が得られることが実験の結果判明しているためである。ただし、反射波遅延部15による反射波11bの遅延時間については、伝送路11Aの特性等によって変わるため、その伝送路11Aの特性等に合わせて適宜設定することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
車両用に限らず、データ通信を行うシステムにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の信号伝送装置の一実施例を説明するための図である。
【図2】図1の伝送路にインダクタ(L)を挿入する方法を説明するための図である。
【図3】図1の伝送路に所定幅の撚り空間を形成する方法を説明するための図である。
【図4】図1の伝送路の反射波遅延部が必要な個所に中間コネクタがあるとき、その中間コネクタにインダクタを挿入する場合について説明するための図である。
【図5】図1の反射波遅延部の特性を説明するための図である。
【図6】図1の反射波遅延部によるアイパターンを示す図である。
【図7】図1の信号伝送装置による信号伝送方法を説明するためのフローチャートである。
【図8】従来の信号伝送装置の一例を示す図である。
【図9】図8の信号伝送装置においてインピーダンス不整合が生じていない場合を説明するための図である。
【図10】図8の信号伝送装置においてインピーダンス不整合が生じている場合を説明するための図である。
【符号の説明】
【0036】
1 送信側
2,4 線路
2A 伝送路
3 中間コネクタ
3A インピーダンス不整合
3a,3b 撚り戻し部(又は開き)
5 受信側
10 送信側
11,13 線路
11A 伝送路
a,11a 進行波
b,11b 反射波
c,11c 合成波
12 中間コネクタ
12A インピーダンス不整合
12a,12b 撚り戻し部(又は開き)
14 受信側
15 反射波遅延部(反射波遅延手段)
15c 中間コネクタ
15d インダクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信側からの複数のパルス幅を有する信号をツイストペア線からなる伝送路を介して受信側に伝送する信号伝送装置であって、
前記伝送路に、前記信号の進行波を所定時間遅延させて前記送信側に反射させる反射波遅延手段が形成されている
ことを特徴とする信号伝送装置。
【請求項2】
前記反射波遅延手段は、前記伝送路に挿入されるインダクタであることを特徴とする請求項1に記載の信号伝送装置。
【請求項3】
前記反射波遅延手段は、所定幅の撚り空間で形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の信号伝送装置。
【請求項4】
前記反射の遅延時間は、前記複数のパルス幅のうち、最小のパルス幅のλ/4であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の信号伝送装置。
【請求項5】
前記反射は、少なくとも前記伝送路に設けられている中継コネクタでの前記ツイストペア線の撚り戻しによるインピーダンス不整合によるものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の信号伝送装置。
【請求項6】
送信側からの複数のパルス幅を有する信号をツイストペア線からなる伝送路を介して受信側に伝送する信号伝送方法であって、
前記伝送路に形成された反射波遅延手段により、前記信号の進行波を所定時間遅延させて前記送信側に反射させる
ことを特徴とする信号伝送方法。
【請求項7】
前記反射波遅延手段は、前記伝送路に挿入されるインダクタであることを特徴とする請求項6に記載の信号伝送方法。
【請求項8】
前記反射波遅延手段は、所定幅の撚り空間で形成されたものであることを特徴とする請求項6に記載の信号伝送方法。
【請求項9】
前記反射の遅延時間は、前記複数のパルス幅のうち、最小のパルス幅のλ/4であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の信号伝送方法。
【請求項10】
前記反射は、少なくとも前記伝送路に設けられている中継コネクタでの前記ツイストペア線の撚り戻しによるインピーダンス不整合によるものであることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の信号伝送方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−54100(P2008−54100A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229122(P2006−229122)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】