説明

信号処理装置および信号処理方法

【課題】スピーカユニットの逆接続等に伴う異常音の再生を停止する。
【解決手段】再生装置1では、負帰還のMFB(モーショナルフィードバック)の処理が行われる。スピーカユニット14が逆接続されると、フィードバック信号の位相が反転し、結果的に正帰還の処理が行われ発振してしまう。制御部3には、スイッチ11からデジタルオーディオ信号が供給される。さらに制御部3には、ADC16から出力されるデジタルフィードバック信号が供給される。制御部3は、デジタルオーディオ信号のレベルR2とデジタルフィードバック信号のレベルR1との差分(R1−R2)を検出する。差分が閾値Th以上の場合は、逆接続がなされ発振していると判定する。制御部3は、ゲイン調整部6のゲイン係数を略0に設定する。ゲイン係数を略0に設定することでフィードバック成分が略0になり、発振に伴う異常音の再生を停止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、オーディオ信号を再生する機器に適用可能な信号処理装置および信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
音響の分野では、従来からMFB(Motional Feed Back:モーショナルフィードバック)の処理が知られている。MFBの処理は、スピーカの振動板の動きから得られる電気信号を検出する。オーディオ信号に対して、検出した電気信号を負帰還することにより、スピーカユニットの振動板の動きを制御する。負帰還のMFBの処理により、好ましくない低域の響きが抑制される。下記特許文献1および下記特許文献2には、MFBの構成の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−223684号公報
【特許文献2】特開平08−223683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、アンプとスピーカユニットとを分離できるシステムでは、ユーザ自身が、システムに対してスピーカユニットを接続する。スピーカユニットを接続する際に、ユーザのミス等により極性を反対にして接続しまう、いわゆる逆接続をしてしまうことがある。負帰還のMFBの処理を行うシステムにおいてスピーカユニットを逆接続すると、フィードバック信号の位相が反転し、結果的に正帰還のMFBの処理が行われることになる。正帰還のMFBの処理により発振し、スピーカユニットから異常音が再生されてしまう問題があった。この問題は、逆接続に限らず、規格の異なるスピーカユニットを接続した際に生じることもある。
【0005】
したがって、本開示の目的の一つは、例えば、負帰還のMFBの処理を行うシステムにおいてスピーカユニットが逆接続されたときに、MFBの処理を停止する信号処理装置および信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本開示の信号処理装置は、例えば、スピーカユニットの振動板の動きに対応するデジタルフィードバック信号と、デジタルオーディオ信号とを合成する合成部と、
デジタルフィードバック信号のレベルとデジタルオーディオ信号のレベルとの差分に応じて、デジタルフィードバック信号のレベルを制御する制御部とを有する信号処理装置である。
【0007】
本開示の信号処理方法は、例えば、スピーカユニットの振動板の動きに対応するデジタルフィードバック信号と、デジタルオーディオ信号とを合成し、
デジタルオーディオ信号のレベルとデジタルフィードバック信号のレベルとの差分に応じて、デジタルフィードバック信号のレベルを制御する信号処理装置における信号処理方法である。
【発明の効果】
【0008】
少なくとも一つの実施形態によれば、例えば、負帰還のMFBの処理を行うシステムにおいてスピーカユニットが逆接続されたときに、MFBの処理を停止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】再生装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】ゲイン余裕および位相余裕を説明するための略線図である。
【図3】スピーカユニットのオープンループ特性の一例を示す略線図である。
【図4】再生装置の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図5】他の再生装置の構成例を示すブロック図である。
【図6】他の再生装置の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、説明は、以下の順序で行う。
<1.第1の実施形態>
<2.第2の実施形態>
<3.変形例>
なお、以下に説明する実施形態および変形例は、本開示の好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本開示の範囲は、以下の説明において、特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態および変形例に限定されないものとする。
【0011】
<1.第1の実施形態>
「再生装置の構成」
図1は、本開示の一実施形態における、再生装置1の構成例を示す。再生装置1は、MFBの処理が施されたオーディオ信号を再生する機能を有する。もちろん、MFBの処理が施されていないオーディオ信号を再生できる。
【0012】
再生装置1は、例えば、テレビジョン装置、パーソナルコンピュータ、ゲーム機器や携帯型電子機器に適用できる。再生装置1は、デジタル信号処理部2を有する。デジタル信号処理部2は、例えば、DSP(Digital Signal Processor)により構成される。デジタル信号処理部2は、その機能に注目すると、例えば、制御部3、低域補正イコライザ4、合成部5、ゲイン調整部6、LPF(Low Pass Filter)7から構成される。デジタル信号処理部2の処理は、プログラムにより実現することができる。後述するように、制御部3の機能には、デジタルオーディオ信号のレベルとデジタルフィードバック信号のレベルとの差分を判定する判定部の機能と、差分に応じた処理を行う機能とが含まれる。
【0013】
再生装置1に対して、ソース信号としての、デジタルオーディオ信号およびアナログオーディオ信号が供給される。デジタルオーディオ信号は、入力端子8を介して再生装置1に供給される。デジタルオーディオ信号は、例えば、48kHzの信号である。
【0014】
アナログオーディオ信号は、入力端子9を介して再生装置1に供給される。供給されるアナログオーディオ信号は、ADC(Analog to Digital Converter)10によりデジタルオーディオ信号に変換される。ADC10の処理におけるサンプリング周波数fsは、例えば、48kHzである。
【0015】
再生装置1に供給されるオーディオ信号がデジタルオーディオ信号かアナログオーディオ信号かに応じて、スイッチ11が切り替わる。デジタルオーディオ信号が供給される場合は、スイッチ11は、接点11aに接続される。アナログオーディオ信号が供給される場合は、スイッチ11は、接点11bに接続される。スイッチ11は、例えば、制御部3や図示しないCPU(Central Processing Unit)等の制御により切り替えられる。
【0016】
なお、再生装置1に対して、デジタルオーディオ信号およびアナログオーディオ信号のいずれか一方のみが供給される場合は、スイッチ11は不要である。さらに、音源がマルチチャンネルに対応し、チャンネル毎のオーディオ信号が入力される場合には、各チャンネルに応じた構成が設けられてもよい。
【0017】
入力端子8を介して入力されるデジタルオーディオ信号、または、ADC10から供給されるデジタルオーディオ信号が、スイッチ11から選択的に出力される。スイッチ11から出力されるデジタルオーディオ信号が、制御部3および低域補正イコライザ4に供給される。
【0018】
低域補正イコライザ4は、供給されるデジタルオーディオ信号の周波数特性を補正する。低域補正イコライザ4は、例えば、2次のIIR(Infinite Impulse Response)フィルタにより構成される。低域補正イコライザ4をデジタルフィルタにより構成することで、低域補正イコライザ4の特性を容易かつ迅速に変更できる。さらに、フィルタを構成する素子の特性のばらつきを考慮する必要がない。
【0019】
補正レベルなどの低域補正イコライザ4の特性は、イコライザ係数によって規定される。低域補正イコライザ4がIIRフィルタで構成される場合は、イコライザ係数は、IIRのフィルタ係数を意味する。なお、イコライザ係数は、例えば、制御部3の制御によって低域補正イコライザ4に設定される。
【0020】
低域補正イコライザ4により周波数特性を補正しないで負帰還のMFBの処理を行うと、スピーカユニット14の低域共振周波数f0付近のパワーが低下する周波数特性となる。低域補正イコライザ4は、低域共振周波数f0付近のパワーが低下することを防ぐため、予めデジタルオーディオ信号の周波数特性を補正する。すなわち、低域補正イコライザ4は、MFBの処理により減衰する低域共振周波数f0付近のパワーを、予めもちあげる補正を行う。
【0021】
低域補正イコライザ4による補正を予め行うことで、目標の周波数特性とされた音をスピーカユニット14から再生できる。なお、低域補正イコライザ4の処理により実現される目標の周波数特性は、例えば、フラット(平坦)な周波数特性である。低域を一定レベルにブーストまたはカットした特性をはじめ、任意の特性を設定してもかまわない。低域補正イコライザ4から出力されるデジタルオーディオ信号が、合成部5に供給される。
【0022】
合成部5は、ゲイン調整部6から出力されるデジタルフィードバック信号の位相を反転する。そして、合成部5は、位相を反転したデジタルフィードバック信号と、低域補正イコライザ4から供給されるデジタルオーディオ信号とを加算する。加算処理が施されたデジタルオーディオ信号が、合成部5から出力される。
【0023】
合成部5から出力されるデジタルオーディオ信号は、DAC(Digital to Analog Converter)12に供給される。DAC12により、デジタルオーディオ信号がアナログオーディオ信号へと変換される。DAC12から出力されるアナログオーディオ信号は、パワーアンプ13に供給される。
【0024】
パワーアンプ13は、アナログオーディオ信号を所定の増幅率で増幅する。増幅されたアナログオーディオ信号がスピーカユニット14に供給される。供給されるアナログオーディオ信号により、スピーカユニット14のボイスコイルが振動する。ボイスコイルの振動が振動板に伝達し、振動板が振動する。振動板の振動により、アナログオーディオ信号に応じた音がスピーカユニット14から再生される。スピーカユニット14は、例えば、ダイナミックスピーカなどのインピーダンスが変化しないスピーカユニットである。
【0025】
MFBの処理において、スピーカユニット14の振動板の動きを検出する方式は、いくつか知られている。ここでは、ブリッジ回路による方式を使用している。この方式では、スピーカユニット14を抵抗と見なし、パワーアンプ13とスピーカユニット14との間の信号線に、スピーカユニット14および抵抗R1、抵抗R2、抵抗R3により構成されるブリッジ回路を設ける。スピーカユニット14の抵抗値は、例えば、製造者が指定する公称インピーダンスとされ、4Ω、8Ω、16Ω、32Ω等の値とされる。スピーカユニット14と抵抗R3との接続点を、例えばA点とし、抵抗R1と抵抗R2との接続点を、例えばB点とする。
【0026】
検出/増幅回路15は、A点とB点との電位差を検出する。A点とB点との電位差は、スピーカユニット14の駆動によってブリッジの平衡条件がくずれた際に発生する。すなわち、検出/増幅回路15は、A点とB点との電位差を検出することにより、スピーカユニット14の振動板の動きを検出することができる。ブリッジ回路により得られる検出信号(電位差)は、スピーカユニット14の振動板の動きとして、速度を示すものとなる。すなわち、図1に示すMFBの方式は、速度帰還型と称される方式に対応する。
【0027】
アンプ13とスピーカユニット14とは、分離できる。ユーザは、アンプ13とスピーカユニット14を接続する。スピーカユニット14とは異なる他のスピーカユニットを接続できるようにしてもよい。ここで、スピーカユニット14を、極性を反対にして接続をする(逆接続)と、ブリッジ回路の検出信号の極性が反転する。このため、検出信号に基づくフィードバック信号の位相が反転する。
【0028】
例えば、負帰還のMFBの処理を行う際にスピーカシステムで逆接続がなされると、位相が反転したフィードバック信号の位相が、合成部5においてさらに反転されてデジタルオーディオ信号に加算される。したがって、結果的に正帰還のMFBの処理が行われることになる。正帰還のMFBの処理により発振して異常音が再生されてしまう。異常音が再生されることを防ぐため、フィードバック処理を停止させる。処理の詳細は後述する。
【0029】
ブリッジ回路により検出された検出信号は、フィードバック信号として検出/増幅回路15に供給される。検出/増幅回路15によって増幅されたフィードバック信号が、ADC16に供給される。ADC16は、供給されるフィードバック信号をデジタルフィードバック信号に変換して出力する。ADC16から出力されるデジタルフィードバック信号が、デジタル信号処理部2のLPF7および制御部3に供給される。
【0030】
LPF7は、例えば、IIRフィルタにより構成される。LPF7は、所定の周波数以下の帯域信号成分のみを通過させる。LPF7の処理により、デジタルフィードバック信号の周波数成分のうち、MFBの処理に不要な周波数成分が除去される。LPF7を通過したデジタルフィードバック信号が、ゲイン調整部6に供給される。
【0031】
ゲイン調整部6は、LPF7から供給されるデジタルフィードバック信号に対して、所定のゲイン係数を乗算する。デジタルフィードバック信号に対してゲイン係数を乗算することで、デジタルフィードバック信号のレベルが制御される。ゲイン係数は、例えば、制御部3の制御によって変更できる。
【0032】
なお、通常のMFBの処理が行われる場合に、ゲイン係数を適切に設定することで、MFBの処理におけるフィードバック量を制御するようにしてもよい。例えば、ゲイン係数を大きくすることでフィードバック量が多くなり、負帰還を強くかける処理を行うことができる。レベルが制御されたデジタルオーディオ信号が合成部5に供給される。合成部5により、位相が反転されたデジタルフィードバック信号とデジタルオーディオ信号とが加算される。
【0033】
制御部3は、例えば、ゲイン調整部6のゲイン係数を設定する制御を行うことで、デジタルフィードバック信号のレベルを制御する。制御部3に対して、スイッチ11から出されるデジタルオーディオ信号が供給される。さらに、制御部3に対して、ADC16から出力されるデジタルフィードバック信号が供給される。
【0034】
制御部3は、例えば、デジタルオーディオ信号およびデジタルフィードバック信号のそれぞれのレベルを絶対値化する。そして、絶対値化したデジタルオーディオ信号のレベルと絶対値化したデジタルフィードバック信号のレベルとの差分を算出する。算出した差分が閾値Thより以上であるか否かを判定する。
【0035】
判定の結果、差分が閾値Th以上である場合は、制御部3は、スピーカユニット14が逆接続されており、発振していると判定する。上述したように、スピーカユニット14が逆接続されると、デジタルフィードバック信号の位相が反転し、正帰還のMFBの処理が行われることになる。正帰還のMFBの処理により、デジタルフィードバック信号のレベルが増大する。そこで、デジタルオーディオ信号に対するデジタルフィードバック信号のレベルを監視することで、逆接続に伴う発振が生じているか否かを判定することができる。
【0036】
判定の結果、差分が閾値Th以上である場合は、スピーカ制御部3は、ゲイン係数として、0または略0の値をゲイン調整部6に設定する。ゲイン係数が0または略0とされることで、デジタルオーディオ信号に対してMFBの処理は施されない。したがって、デジタルオーディオ信号に基づく音が再生され、発振に基づく異常音が再生されることを防止できる。
【0037】
なお、閾値Thは、例えば、デジタルオーディオ信号のレベルに対するデジタルフィードバック信号のレベルに応じて適切に設定される。デジタルフィードバック信号のレベルは、アンプ13やスピーカユニット14のインピーダンス等で構成されるフィードバックシステムの特性により規定される。デジタルフィードバック信号のレベルが、例えば、デジタルオーディオ信号のレベルより異常に高いレベル(6dB、12dB等)である場合に、ゲイン係数が0または略0とされる。
【0038】
判定の結果、差分が閾値Thより小さい場合は、判定の処理を引き続き行う。なお、判定の処理を開始してから、所定時間経過した後になっても差分が閾値Th以上にならないときは、スピーカユニット14が正しく接続されたものとみなして、判定の処理を停止してもよい。
【0039】
デジタルーディオ信号のレベルと、デジタルフィードバック信号のレベルとの差分が閾値Th以上であると判定される場合に、所定の表示がなされるようにしてもよい。例えば、制御部3は、差分が閾値Th以上であると判定すると、その旨を表示制御部17に対して通知してもよい。
【0040】
表示制御部17は、例えば、CPUにより構成され、デジタル信号処理部2とは別個に設けられる。表示制御部17は、制御部3からの通知に応じて、表示部18に対して所定の表示を行う制御を行う。例えば、表示制御部17は、表示部18に「スピーカの接続を確認してください」等の警告を表示する制御を行う。もちろん、表示に限らず、警告音等を再生してもよい。
【0041】
なお、表示部18は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)である。表示部18をタッチパネルとして構成し、表示部18を使用した操作指示がなされてもよい。表示部18に限らず、再生装置1の各部が表示制御部17により制御されるようにしてもよい。
【0042】
「ゲイン余裕・位相余裕」
ゲイン余裕および位相余裕について説明する。図2Aおよび図2Bに示すように、ゲイン余裕は、位相が−180°のときにゲインがどのくらい低下しているのを示す数値である。位相余裕は、ゲインが0dBであるときに、位相が−180°よりどのくらい余裕があるのかを示す数値である。ゲイン余裕および位相余裕は、大きければ大きいほど発振に対して安定するが、アンプ13やスピーカユニット14の特性等のシステムのバランスを考慮して適切に決定される。例えば、フィードバックシステムを安定させる条件として、ゲイン余裕を6dB程度、位相余裕を30°以上もたせるようにしている。
【0043】
「オープンループ特性」
図3は、スピーカユニット14のゲインと位相の推移を、オープンループで測定したオープンループ特性を示す。参照符号aが位相の推移(位相特性)を示し、参照符号bがゲインの推移を示している。ここでは、スピーカユニット14の低域共振周波数f0は、一例として50Hzとされている。図3に示すように、低域共振周波数f0付近でゲインがあがり、位相が360°(0°)になっている。上述したゲイン余裕および位相余裕をもたせ、LPF7により不要な高域成分を除去することで、速度帰還のMFBの処理を安定的に行うことができる。
【0044】
しかしながら、スピーカユニット14を逆接続してしまうと、参照符号aに示す位相特性が180°反転する。位相が−180°のときにゲインが0dBを超えて安定条件を満たさなくなり、発振する可能性がある。特に、負帰還のMFBの処理は正帰還の処理とは異なり、ゲイン余裕をもたせてフィードバック量を大きくすることもある。したがって、逆接続がなされて正帰還の処理が行われると、大きな異常音が再生されてしまう。本開示では、上述したようにしてフィードバック処理を停止することので、異常音を停止できる。さらに、閾値Thを適切に設定することで、異常音が再生されることを防止できる。例えば、異常音とされるレベルより小さいレベルを閾値Thとすることで、発振にともなう異常音の再生を未然に防止するようにしてもよい。
【0045】
「処理の流れ」
図4は、再生装置1の処理の流れの一例を示すフローチャートである。ステップS1では、ソース信号としてのデジタルオーディオ信号を取り込む処理が行われる。例えば、スイッチ11から出力されるデジタルオーディオ信号が制御部3に対して供給される。なお、スイッチ11から出力されるデジタルオーディオ信号は、低域補正イコライザ4による補正がなされた後に、DAC12によりアナログオーディオ信号へと変換される。アナログオーディオ信号は、アンプ13によって増幅された後に、スピーカユニット14から再生される。そして、処理がステップS2に進む。
【0046】
ステップS2では、フィードバック信号を取り込む処理が行われる。スピーカユニット14の振動板の動きに応じて検出信号が生成される。検出信号に基づくフィードバック信号が、ADC16によりデジタルフィードバック信号に変換される。ADC16から出力されるデジタルフィードバック信号が制御部3に対して供給される。そして、処理がステップS3に進む。
【0047】
ステップS3において、制御部3は、例えば、一定期間取りこんだデジタルオーディオ信号のレベルを平均化し、平均化したデジタルオーディオ信号のレベルR2を算出する。そして、処理がステップS4に進む。なお、レベルR2が所定のレベル以下の場合に、ステップS4以降の処理がなされるようにしてもよい。
【0048】
ステップS4において、制御部3は、例えば、一定期間取りこんだデジタルフィードバック信号のレベルを平均化し、平均化したデジタルフィードバック信号のレベルR1を算出する。そして、処理がステップS5に進む。
【0049】
ステップS5では、制御部3の判定機能によって、レベルR1とレベルR2との差分(R1−R2)が閾値Th以上であるか否かが判定される。差分(R1−R2)が閾値Thより小さいと判定されると、処理がステップS1に戻る。差分(R1−R2)が閾値以上であると判定されると、処理がステップS6に進む。
【0050】
差分(R1−R2)が閾値以上であることから、制御部3は、スピーカユニット14が逆接続され、正帰還の処理が行われるものと判断する。そこで、ステップS6では、フィードバックゲインを略0または0にする処理が行われる。例えば、制御部3によって、ゲイン係数0がゲイン調整部6に設定される。ゲイン係数0が設定されることにより、デジタルフィードバック信号のレベルが0となり、MFBの処理がオフされた状態となる。したがって、スピーカユニット14からはMFBの処理が施されていないオーディオ信号が再生される。そして、処理がステップS7に進む。
【0051】
ステップS7では、制御部3から表示制御部17に対して異常が通知される。そして、処理がステップS8に進む。ステップS8では、表示部18に異常を表示する処理が行われる。例えば、制御部3からの通知に応じて、表示部18に異常を表示する処理が表示制御部17によって行われる。表示部18には、例えば「スピーカの接続を確認してください」等のメッセージが表示される。
【0052】
ステップS6の処理でフィードバックゲインが0とされた後でも、MFBの処理が施されてないオーディオ信号が再生される。そこで、ステップS7の処理において異常を表示することで、異常が発生していることをユーザに対して確実に報知できる。
【0053】
なお、ステップS3とステップS4における、レベルを平均化する処理は、必ずしも行われなくてもよい。例えば、所定時間毎のタイミングでレベルR1およびレベルR2の差分を算出するようにしてもよい。
【0054】
以上、説明したように、例えば、負帰還のMFBの処理を行うシステムにおいてスピーカユニットが逆接続された場合でも、発振に伴う異常音の再生を防止できる。発振に伴う異常音が再生された場合でも、フィードバックの処理を停止できるので異常音の再生を停止できる。
【0055】
<2.第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。図5は、第2の実施形態における再生装置21の構成例を示す。再生装置21において、再生装置1と同一の構成については同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0056】
再生装置21は、デジタル信号処理部2における制御部3の機能と、表示制御部17の機能とを有する制御部19を備える。制御部19は、例えば、CPUにより構成される。制御部19には、スイッチ11から出力されるデジタルオーディオ信号が供給される。さらに制御部19には、ADC16から出力されるデジタルフィードバック信号が供給される。
【0057】
制御部19は、デジタルオーディオ信号のレベルとデジタルフィードバック信号のレベルとの差分に応じて、デジタルフィードバック信号のレベルを制御する。例えば、制御部19は、デジタルオーディオ信号のレベルとデジタルフィードバック信号のレベルとの差分が閾値以上であるか否かを判定し、閾値以上である場合には、ゲイン調整部6のゲイン係数を0または略0に設定する。制御部19の制御により、上述した再生装置1と同様に、発振に伴う異常音の再生を防止または停止できる。なお、デジタルオーディオ信号のレベルとデジタルフィードバック信号のレベルとの差分が閾値以上である場合には、制御部19の制御によって、表示部18に所定の表示がなされるようにしてもよい。
【0058】
図6は、再生装置21の処理の流れの一例を示すフローチャートである。ステップS21では、ソース信号としてのデジタルオーディオ信号を取り込む処理が行われる。例えば、スイッチ11から出力されるデジタルオーディオ信号が制御部19に対して供給される。なお、スイッチ11から出力されるデジタルオーディオ信号は、低域補正イコライザ4による補正がなされた後に、DAC12によりアナログオーディオ信号へと変換される。アナログオーディオ信号は、アンプ13によって増幅された後に、スピーカユニット14から再生される。そして、処理がステップS22に進む。
【0059】
ステップS22では、フィードバック信号を取り込む処理が行われる。スピーカユニット14の振動板の動きに応じて検出信号が生成される。検出信号に基づくフィードバック信号が、ADC16によりデジタルフィードバック信号に変換される。ADC16から出力されるデジタルフィードバック信号が制御部19に対して供給される。そして、処理がステップS23に進む。
【0060】
ステップS23において、制御部19は、例えば、一定期間取りこんだデジタルオーディオ信号のレベルを平均化し、平均化したデジタルオーディオ信号のレベルR2を算出する。そして、処理がステップS24に進む。
【0061】
ステップS24において、制御部19は、例えば、一定期間取りこんだデジタルフィードバック信号のレベルを平均化し、平均化したデジタルフィードバック信号のレベルR1を算出する。そして、処理がステップS25に進む。
【0062】
ステップS25では、制御部19の判定機能によって、レベルR1とレベルR2との差分(R1−R2)が閾値Th以上であるか否かが判定される。差分(R1−R2)が閾値Thより小さい場合は、処理がステップS21に戻る。差分(R1−R2)が閾値以上であれば、処理がステップS26に進む。
【0063】
差分(R1−R2)が閾値以上であることから、制御部19は、スピーカユニット14が逆接続され、正帰還の処理が行われるものと判断する。そこで、ステップS26では、フィードバックゲインを略0または0にする処理が行われる。例えば、制御部19によって、ゲイン係数0がゲイン調整部6に設定される。ゲイン係数0が設定されることにより、デジタルフィードバック信号のレベルが0となり、MFBの処理がオフされた状態となる。したがって、スピーカユニット14からはMFBの処理が施されていないオーディオ信号が再生される。そして、処理がステップS27に進む。
【0064】
ステップS27では、表示部18に異常を表示する処理が行われる。例えば、制御部19の制御によって、表示部18に異常を示すメッセージが表示される。例えば、表示部18に「スピーカの接続を確認してください」等のメッセージが表示される。
【0065】
なお、ステップS23とステップS24における、レベルを平均化する処理は、必ずしも行われなくてもよい。例えば、所定時間毎のタイミングでレベルR1およびレベルR2の差分を算出するようにしてもよい。
【0066】
このように、デジタル信号処理部2における制御部3の機能を、デジタル信号処理部2とは別個に設けられた制御部19が有するようにしてもよい。さらに、制御部19が表示制御部18の機能を有するようにしてもよい。
【0067】
<3.変形例>
以上、一実施形態について具体的に説明したが、一実施形態において各種の変形が可能であることは言うまでもない。以下、変形例について説明する。
【0068】
制御部3によりなされる制御は、ゲイン余裕と位相余裕が破たんする周波数付近のレベルに着目してなされてもよい。例えば、制御部3は、スピーカユニット14の低域共振周波数付近におけるデジタルフィードバック信号のレベルを検出する。さらに、制御部3は、スピーカユニット14の低域共振周波数付近におけるデジタルオーディオ信号のレベルを検出する。そして、制御部3は、スピーカユニット14の低域共振周波数付近におけるデジタルフィードバック信号のレベルと、スピーカユニット14の低域共振周波数付近におけるデジタルオーディオ信号のレベルとの差分に応じて、デジタルフィードバック信号のレベルを制御するようにしてもよい。制御部19についても同様である。
【0069】
発振している状態では、低域共振周波数付近のデジタルフィードバック信号のレベルが突出して表れる。したがって、スピーカユニット14の低域共振周波数付近におけるデジタルフィードバック信号のレベルと、スピーカユニット14の低域共振周波数付近におけるデジタルオーディオ信号のレベルとに着目して処理を行うことで、正確な判定処理を行うことができる。
【0070】
なお、上述したように、制御部3および制御部19が行う処理はデジタル処理で行われる。したがって、信号レベルを平均化する処理や、低域共振周波数付近のデジタルフィードバック信号のレベルおよび低域共振周波数付近のデジタルオーディオ信号のレベルを抽出する処理を容易に行うことができる。さらに、処理を迅速に行うことができる。
【0071】
上述した実施形態において、低域補正イコライザ4から出力されるデジタルオーディオ信号が制御部3に供給されてもよい。低域補正イコライザ4による補正内容を制御部3が認識しておくことにより、制御部3は、低域補正前のデジタルオーディオ信号を復元できる。同様に、LPF7やゲイン調整部6から出力されるデジタルフィードバック信号が、制御部3に供給されるようにしてもよい。なお、処理の複雑化を避けるため、スイッチ11から出力されるデジタルオーディオ信号と、ADC16から出力されるデジタルフィードバック信号とが制御部3に供給されることが好ましい。
【0072】
上述した再生装置1では、スピーカユニット14の振動板の動きをブリッジ回路により検出した。ブリッジ回路に代えて、静電容量やレーザ変位計によって、振動板の変位を検出するようにしてもよい。さらに、速度検出のセンサとして、スピーカユニット14のボイスコイルとは別のコイルを設け、このコイルによって電流を検出するようにしてもよい。
【0073】
さらに、加速度センサやマイクロフォンを使用して、振動板の動きを検出するようにしてもよい。さらに、スピーカユニット14の振動板の動きをデジタルセンサによって検出するようにしてもよい。この場合には、デジタルセンサの出力がデジタル信号処理部2にそのまま供給される。
【0074】
上述したMFBは、いわゆる速度帰還型のMFBとして説明したが、これに限られない。例えば、加速度帰還型のMFBでもよい。加速度帰還型のMFBでは、例えば、ADC16のLPF7との間に、微分処理部が設けられる。微分処理部によって、検出信号に対する微分処理がなされる。微分処理を行うことは、振動板の動きとして加速度を求めていることに相当する。微分処理がなされた信号がLPF7に供給されるようにしてもよい。
【0075】
再生装置1は、速度帰還型および加速度帰還型に対応する構成とされてもよい。速度帰還型および加速度帰還型の双方を有効にすることもできる。例えば、速度帰還型によるデジタルフィードバック信号および加速度帰還型のデジタルフィードバック信号と、デジタルオーディオ信号とが合成されるようにしてもよい。
【0076】
再生装置1は、例えば、ヘッドホンに適用されてもよい。ヘッドホンに適用する場合において、再生装置1の構成を、ヘッドホンとオーディオプレーヤに分けて構成することができる。例えば、ブリッジ回路がヘッドホン側に設けられ、他のデジタル信号処理部2、DAC12、検出/増幅回路15、ADC16等の構成がオーディオプレーヤ側に設けられるようにしてもよい。ヘッドホンとオーディオプレーヤとの間では、無線または有線により信号の送受信がなされる。
【0077】
上述した複数の実施形態および変形例における処理は、方法、プログラム、プログラムを記録した記録媒体として構成することができる。さらに、上述した複数の実施形態および変形例における処理は、技術的矛盾が生じない範囲で適宜組み合わせることができる。さらに、フローチャートで説明した処理の流れは、必ずしも時系列に行われる必要はなく、並列的に行われてもよい。例えば、図4のステップS3およびステップS4の処理が、制御部3によってパラレルに行われてもよい。さらに、本開示は、スピーカユニットが逆接続された場合だけでなく、例えば、意図しない正帰還の処理が行われ、正帰還の処理により発振する場合に広く適用できる。
【符号の説明】
【0078】
2・・・デジタル信号処理部
3、19・・・制御部
5・・・合成部
6・・・ゲイン調整部
14・・・スピーカユニット
17・・・表示制御部
18・・・表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカユニットの振動板の動きに対応するデジタルフィードバック信号と、デジタルオーディオ信号とを合成する合成部と、
前記デジタルフィードバック信号のレベルと前記デジタルオーディオ信号のレベルとの差分に応じて、前記デジタルフィードバック信号のレベルを制御する制御部とを有する信号処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記スピーカユニットの低域共振周波数付近における前記デジタルフィードバック信号のレベルと、前記スピーカユニットの低域共振周波数付近における前記デジタルオーディオ信号のレベルとの差分に応じて、前記デジタルフィードバック信号のレベルを制御する請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記制御部は、所定の期間における前記デジタルフィードバック信号のレベルを平均したレベルと、前記所定の期間における前記デジタルオーディオ信号のレベルを平均したレベルとの差分に応じて、前記デジタルフィードバック信号のレベルを制御する請求項1または2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記デジタルフィードバック信号のレベルと前記デジタルオーディオ信号のレベルとの差分が閾値以上である場合に、前記デジタルフィードバック信号に乗算するゲイン係数が略0になるように、前記ゲイン係数を制御する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記デジタルフィードバック信号のレベルと前記デジタルオーディオ信号のレベルとの差分が閾値以上である場合に、所定の表示がなされる請求項1乃至4のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項6】
スピーカユニットの振動板の動きに対応するデジタルフィードバック信号と、デジタルオーディオ信号とを合成し、
前記デジタルオーディオ信号のレベルと前記デジタルフィードバック信号のレベルとの差分に応じて、前記デジタルフィードバック信号のレベルを制御する信号処理装置における信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−186675(P2012−186675A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48595(P2011−48595)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】