個々に細胞を解析するための装置及び方法
(a) インプット端及びアウトプット端を有し、対象細胞の内容物を受容するための流路と、(b) 前記流路の前記インプット端の近傍にある細胞捕捉部位を具備する、対象細胞を個々に解析するための装置であって、(i) 前記流路の前記インプット端は、無傷の前記対象細胞は進入することができないように構成されており、(ii) 前記流路は、前記対象細胞の内容物を解析するための1又は2以上の解析成分を含む、対象細胞を個々に解析するための装置。使用に際し、細胞は、細胞捕捉手段により該細胞が捕捉される前記装置に注入される。該細胞は、無傷のまま流路に進入することができないが、その内容物がインサイチュ(in situ)に放出されて、該流路のインプット端に進入することができる。該内容物は、その後、流路を下ってアウトプット端へ向かって移動し、固定化された試薬に遭遇することにより、該細胞内容物の解析が可能になる。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本明細書で引用する全ての文献及びオンライン情報は、その全てにおいて参照により組み入れられるものとする。
【技術分野】
【0002】
本発明は細胞の解析、特に、単一の細胞の解析の技術分野に関する。
【0003】
細胞及び組織の生化学的キャラクタリゼーションについては多くの方法が存在する。電気泳動、クロマトグラフィー、質量分析、マイクロアレイ等のような方法を用いて細胞又は組織の分子組成物が解析される。このような解析の結果は、例えば、疾患状態を示すこともあり得る。殆どの場合、解析は細胞を溶解してその内容物を放出した後に行なわれ、単一の細胞を単離することが困難であること、及び通常の検出方法が単一の細胞の内容物を測定できる程に高感度でないことから、通常は数多くの細胞を用いることを必要とする。
【0004】
しかしながら、全て同じ状態にある細胞を含む生物系を見つけることは稀である:実験室で人工的に同調された細胞であれば均一性に近づくかもしれないが、自然な状態では、同じ種類の細胞であっても、例えば、細胞周期の異なるステージにある等、異なる状態にあるであろう。従って、典型的な解析は、解析された細胞達の平均を表している。
【0005】
いずれかの系の状態をより完全に説明するためには、単一の細胞を解析することが有益となるであろう。例えば、ヒトの多くの疾患状態は白血球に変化を引き起こし、ホジキンリンパ腫では個々のリンパ球の遺伝子発現パターンが、その細胞集団全体のものを代表するものではないことが証明されている[1]。従って、細胞の混合物の解析は、該混合物中の不均一性を覆い隠してしまい、恐らく該疾患状態の理解に重要となるであろう情報を提供することができない。微妙な、しかし重要な細胞間の差異は、実験上のノイズの中に失われてしまう。
【0006】
生物学及び医学においては、単一の細胞の解析が集団又は集合全部の解析よりも有益となる例が多くある。生物の増殖及び分化に伴う分子的変化を説明することは、発生生物学の主たる目的である。定義の上では発生学的研究は単一の細胞から始まる。生きた細胞におけるプロセスは、組織化して刺激に対して反応するシステムとなる:このようなシステム及びその制御を研究するためには、多くの細胞中にある、これに伴う分子-mRNA、タンパク質、代謝産物等-の濃度を測定する必要がある。疾患状態は、往々にして細胞及び組織の組成に反映される。ガン細胞は、mRNA及びタンパク質レベルで発現する遺伝子において、対応する正常な細胞と異なっている。胎児の血液細胞は、母親の循環系に逃げ込むことが可能であり、母親の細胞とは別個に分析されなければならない。自己免疫疾患及び感染症は白血球の組成の変化を生じる。循環する白血球はそれ自体が不均一なものであり、好中球、リンパ球、単球及び血小板を含む複数の異なる機能型を含んでいる。このような細胞の集合体の分子組成の説明は、生物学的なシステム及びプロセスの根本的な理解を促進し、さらに疾患の原因及び治療に対する研究に情報を与えることができる。
【0007】
参考文献2では、「ケミカルサイトメトリー(chemical cytometry)」という用語を作り出して、単一の細胞の研究に対する高感度な化学的解析技術を用いた単一細胞の研究が記載され、そして参考文献3は、単一細胞解析の基本的な特徴についての総説である。参考文献4は、単一細胞解析用のマイクロテクノロジー及びナノテクノロジーの総説である。また、参考文献5には、単一細胞を操作するための微小流体装置が記載されている。単一細胞の単離装置は、参考文献6及び7に開示されている。
【0008】
単一の細胞、特にそのゲノム、トランスクリプトーム及びプロテオームを解析するための、更なる改良された装置及び方法を提供することが本発明の目的である。
【発明の開示】
【0009】
本発明は、一般的に、細胞の内容物の個々の解析を可能とする装置内における簡便な個々の細胞の単離方法を提供する。単一の細胞は、捕捉され、その内容物が放出され、そして、その後個々の細胞の内容物は、例えば、固定化された核酸プローブ、固定化された抗体等の、適切な解析成分を含む流路に沿って解析される。従って、単一の細胞のゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム等の解析が可能になる。更に、同一の装置に複数の流路を配置することにより、同時に複数の細胞を並行して処理して解析することが可能であり、細胞集団中の個々の細胞を直ちに、そして簡便に比較することが可能となる。該複数の流路が共通のインプット路を用いる場合でも、細胞集団は、容易に単一細胞へと分離可能であり、各流路に1つの細胞が入る。
【0010】
従って、本発明は、
− インプット端及びアウトプット端を有し、対象細胞の内容物を受容するための流路と、
− 前記流路の前記インプット端の近傍にある細胞捕捉部位
を具備する、対象細胞を個々に解析するための装置であって、
− 前記流路の前記インプット端は、その使用の間に、無傷の前記対象細胞は入ることができないように構成されており、
− 前記流路は、前記対象細胞の内容物を解析するための1又は2以上の解析成分を含み、そして
− 前記対象細胞の前記内容物は、前記インプット端から前記アウトプット端に向かう方向に、前記流路に沿って移動することができる、対象細胞を個々に解析するための装置を提供する。
【0011】
使用に際し、細胞は、前記装置に注入され、前記細胞捕捉部位にて捕捉される。該細胞は、前記解析流路に無傷で進入することができないが、その内容物はその場所で(in situ)放出されて、前記インプット端から該流路に進入することができる。その後、該内容物は、前記解析流路に沿って移動することが可能であり、該流路において前記解析成分と遭遇することにより、該細胞内容物の解析が可能となる。
【0012】
上述したように、好ましい態様では、前記装置は、複数の細胞の内容物を別々に並行して解析できるように、複数の流路を有する。従って、本発明は、
− 各流路が、インプット端及びアウトプット端を有し、各流路が、単一の対象細胞を受容するためにある複数の前記流路と、
− 各流路の前記インプット端の近傍に細胞捕捉部位を具備する、対象細胞を個々に解析するための装置であって、
− 各流路の前記インプット端は、無傷の前記対象細胞は入ることができないように構成されており、
− 前記流路は、前記対象細胞の内容物を解析するための1又は2以上の解析成分を含み、そして
− 前記対象細胞の前記内容物は、前記インプット端から前記アウトプット端に向かう方向に、前記流路に沿って移動することができる、対象細胞を個々に解析するための装置を提供する。
【0013】
前記流路を使用する間、異なる流路内の細胞が相互に実質的に同一な処理及び解析を別々に受け、結果の直接的な比較が可能となるように、前記流路が、相互に実質的に同一(例えば、寸法、材料、解析成分等において)であることが好ましい。該流路は、相互に平行であることが好ましい。しかしながら、これに代わる構造においては、流路は中心点から放射状に伸びていてもよい(図23)。また、平行な流路を、中心点から異なる方向に伸ばすように配置することも可能である(図24)。しかしながら、電気的動性による物質の移動がより容易に実現することから、流路が同一方向に走る配列が好ましい。流路が、送出路から異なる方向に走る場合、異なる流路において等しい移動を実現するためには、バルブ等が必要となるであろう。
【0014】
異なる細胞について同一の個々の実験を並行して行なうことは、特に有効であり、一見同一な細胞内の差異を直ちに検出させる。従って、本発明は、各流路が、単一の対象細胞を受容するためにある複数の前記流路を含む複数の細胞を個々に解析するための装置であって、各流路が、該流路内に沿った一連の解析成分を含み、かつ1の流路内の該一連の解析成分が他の流路のものと同一である装置を提供する。従って、異なる細胞が、その遭遇する流路に関係なく、共通した解析を経ることになり、1の流路からの結果は、直ちに直接的に、他の流路の結果と比較することができる。
【0015】
本発明は、インプット端及びアウトプット端を有し、該インプット端は無傷の対象細胞が進入することができないように構成されている流路のインプット端の近傍に対象細胞を捕捉する工程と、前記細胞の内容物が前記流路の前記インプット端に入るように該内容物を放出する工程と、放出された内容物が前記流路中の1又は2以上の解析成分と相互作用するように、該内容物を前記インプット端から前記アウトプット端に向かって移動させ、それによって該内容物の解析を可能とする工程とを含む、個々の対象細胞を解析する方法を提供する。
【0016】
本発明は、各流路がインプット端及びアウトプット端を有し、該インプット端は無傷の対象細胞が進入することができないように構成されている複数の流路のインプット端の近傍に個々の対象細胞を捕捉する工程と、前記細胞の内容物が個々に前記流路の前記インプット端に入るように該内容物を放出する工程と、放出された内容物が前記流路中の1又は2以上の解析成分と相互作用するように、該内容物を前記インプット端から前記アウトプット端に向かって移動させ、それによって該内容物の解析を可能とする工程とを含む、複数の個々の対象細胞を解析する方法を提供する。
【0017】
本発明は、本発明は、複数の個々の細胞の内容物を個々に放出する工程と、該個々の内容物を単一装置内の個々の流路に注入する工程を含む複数の個々の対象細胞を解析する方法であって、各流路が、一連の解析成分を含み、かつ1の流路内の該一連の解析成分が他の流路のものと同一である方法を提供する。
【0018】
異なる解析においては、本発明の範囲内にある異なる装置を要してもよい。例えば、異なる細胞の種類は、異なる寸法を有する装置を要するであろう。例えば、プロテオソーム解析とトランスクリプトーム解析、又は細胞周期の解析と細胞シグナル解析等、同じ種類の細胞についての異なる解析では、異なる解析成分を用いるであろう。装置は、先の実験データに基いて設計してもよく、先の実験に依存した異なる方法で使用されてもよい。例えば、装置が最初の実験で有用なデータを提供できなかった場合、以後の実験において、竜六、操作温度、解析成分の種類などを変更することができ、そして、下記でより詳細に説明されるように、シグナル増幅技術を用いることもできる。従って、異なる実験では、その所望の解析に依存して、ここに記載される異なる特徴を用いることができる。
【0019】
装置
本発明の装置は、解析流路、細胞捕捉部位等を含む複数の特徴を備える。これらの特徴は、個別の構成要素を組み立てるか、そして/又はそれらを材料の一部分から形成すること(例えば、鋳造、エッチング等)により形成することができる。本装置の寸法は細胞用の範囲内となるので、典型的には微小製造法が用いられることになる。有益なことに、ここに記載される種々の特徴は、統合された装置を形成する。
【0020】
本装置の材料の選択は、数多くの設計的見地の影響を受け、そして適切な材料は、当業者が特定の装置の必要性に基いて直ちに選択することができる。例えば、前記材料は、微小製造に従順であり、細胞操作解析で用いる試薬に対して安定であり、そして細胞及び分子の観察並びに測定に用いる方法に対応可能であるべきである。
【0021】
解析中に用いる試薬に対して不透過性の材料が一般的に用いられることになる。用途によっては、材料の表面に試薬を共有結合させることを要するであろう。また、用途によっては、硬質の材料を用いることが望ましいであろう;また他の用途では柔軟性のある材料を必要とするであろう。検出に蛍光が用いられる場合には、前記材料は、励起波長及び放出波長に対して透過性であり、また、これらの波長において低い潜在的蛍光性を有しているべきである。電気浸透を用いて物質を装置中で移動させて回る場合、前記材料は使用中に帯電しているか、又は帯電可能であるべきである。例えば、当業者は、シリコン、ガラス及びPDMSを適切なシラン処理剤で誘導体化することにより、これらの表面に正又は負の電荷を与えることを選択できる。照射するエバネッセント波を伝播可能(内部全反射により)な材料は、特定の検出技術へ好ましく用いることができる。
【0022】
適切な材料及び製造方法は周知である。微小製造法に長年用いられてきたシリコン及びガラスのような硬質な材料を用いることもできる。ポリジメチルシロキサン(PDMS)のようなポリマーの装置を形作る特性を利用した「ソフトリソグラフィー(soft lithography)」における最近の進展により、細胞スケールの微小流体装置の製造に便利な方法を使用できるようになった(例えば、参考文献8には、複数層のソフトリソグラフィーにより形成された、蠕動ポンプ、ダンパー、スイッチバルブ、インプットウェル及びアウトプットウェルを含んで協調的かつ自動的にセルソーティングを行い、僅か1plの起動されたバルブの活動体積及び〜100flの光学インタロゲーション(optical interrogation)の体積を有する統合された微小製造セルソーターが開示されている)。このような装置は、本発明の装置の流路に類似する流路を有し、蛍光測定用のレーザーで照射されるフローセルのような、本発明のいくつかの態様で用いられる他の特徴を取り込んでいる。
【0023】
従って、本発明の装置は、これらに限定されるものではないが、酸化ケイ素、ポリマー、セラミック、金属等及びこれらの混合物を含む種々の材料から作ることが可能である。使用可能な具体的な材料には、これらに限定されるものではないが、ガラス;ポリエチレン;PDMS;ポリプロピレン;及びシリコンが含まれる。PDMSは特に有用な材料であり、前記装置は、鋳造、射出成形又はUVパターニング及び硬化により簡便に作ることができる。
【0024】
流路及び細胞捕捉部位に加え、装置の他の特徴として以下のものが含まれていてもよい:
- 該細胞捕捉部位と連通した送出路。細胞は、該送出路を通じて前記装置に導入することができ、そこから前記細胞捕捉部位に接近して捕らえられ、また、その後該細胞捕捉部位から細胞の内容物は解析流路へと入ることができる。捕捉されなかった細胞は、送出路の廃棄端から流し出すことができる。、複数の流路を有する装置の場合、異なる流路の全てが同一の供給源からの細胞を受け取るので、共通の送出路を用いることが特に有用となる。前記流路が互いに平行である場合、前記送出路は該流路に対して直角に走っていてもよいが(例、図1)、これに代わる配置では、該流路に対して平行な送出流路へ枝分れしてもよい(例、図53及び54)。偶発的な溶解を最小にするため、送出路は、例えば、25-250μmの高さを有する等、その全ての寸法において解析される細胞よりも大きくあるべきである。
- 細胞、特に捕捉した細胞に化学試薬(例えば、溶解試薬又は化学的刺激)を与えるための、前記細胞捕捉部位と連通した試薬供給路。該試薬供給路は、前記送出路と同じであってもよく(例、図1)、又は前記送出路と別個のものであってもよい(例、図53及び54)。前記解析流路が互いに平行な場合、該試薬供給路は、これらの流路に対して典型的に直角に走ることになる。
- 前記解析流路のアウトプット端と連通した排出口。前記流路から放出される物質は、そのまま廃棄口へ向かわせることができる。また、排出口を用いて流路内の流れを調整することもできる。
- 1又は2個以上の電極。電極を用いて、装置を横切る電位、特に解析流路に沿った電位を生じさせて、例えば、細胞を電気的動性により移動させて電気泳動させること等が可能である。前記装置は、これに代わるものでは、外部電極と連結するための接触部を含んでいてもよい。
- 細胞を溶解するための圧電装置。
- 例えばレーザーなどの光源。これは、例えば、細胞溶解、流路内でのメニスカスの進行の観察、蛍光体の励起等、種々の目的に用いることができる。
- カメラのような画像取得構成部。これは、静止画像及び/又は動画を取得するものでもよい。典型的にはデジタルカメラとなる。
【0025】
前記装置が複数の流路を含む場合、これら流路は、一般的には、隣同士で単一の平面内に配置されることになる。該流路が三次元的に配置されるように、流路の平面を積み重ねることも可能であるが、製造の容易性(特に解析流路の内側への試薬の塗布)及び結果の収集(特に流路内の解析データの解読)から、実質的に平面的な流路の配置が好ましいことになる。しかしながら、前記装置全体としては、前記流路の平面を越えて広がるものでもよく、例えば、送出路、排出口等は、前記流路の平面の外側にあってもよい。
【0026】
細胞捕捉部位
本発明に係る装置は、単純に流路に細胞を拡散させて解析用の物質を提供することに依存するのではなく、細胞捕捉部位を含む。細胞は、それらの内容物が解析用に放出された場合に、それらが個別の流路に入り込めるように個別に捕捉される。従って、細胞捕捉部位は、細胞の内容物が放出された時にインプット端を介して該流路に入れるように、流路のインプット端に物理的に連結されて該インプット端近傍に位置する。
【0027】
前記細胞捕捉部位は、単一の細胞のみを捕捉できるように構成することができる。これは、目標の細胞を一個だけ収容できる寸法を用いること、及び/又は、1個の細胞が捕捉されると更なる細胞を捕捉できなくなる細胞捕捉部位を用いることにより実現されることになる。
【0028】
細胞捕捉部位は、その内容物が放出されて解析流路に入るように細胞を捕捉できるのであれば、種々の形状をとることができる。単純な装置においては、該細胞捕捉部位は前記解析流路のインプット端にあって前記解析流路への入り口となっていてもよい。例えば、ガラス製のマイクロピペットの端部において細胞を捕捉することが知られている。しかしながら、一般的には、解析流路のインプット端の手前においてテーパーが付けられた注入口の形状を取り、細胞が侵入できる程の大直径及び細胞が出て行けない程の小直径(例えば、ヒトのリンパ球であれば15μm及び3μm;更に下記を参照)を有することになるであろう。従って、参考文献9に報告されるように、1個の細胞は該テーパー注入口に入ることが出来るが、前記解析流路へ続いて入ることはできない。前記テーパーの小直径は、解析流路へと直ぐに通じていてもよい。図1及び2参照。前記テーパーは、1方向の寸法又は2方向の寸法に付けられていてもよく、例えば、前記テーパーは、一定の高さと尖鋭化する幅(図15A;また図35)を有することができ、又は先鋭化する高さ及び幅(図15B)を有することもできる。前記テーパーは、直線であってもよく(例、図2)、又は非直線であってもよい(例、図70)。また、前記テーパーは、平滑化されていてもよく、段が付いていてもよい。テーパーによる細胞捕獲方法の更なる有益性は、下記の更なる詳説に記載されるように、細胞の小さな一部分を該テーパーの下流方向へ引き伸ばす能力に起因する(図8及び70も参照)。テーパーと同様の効果は、細胞がその部位には入れるが下流へ続くことができないように、最初は(少なくとも部分的に)その下流端において閉じているが、後で(例えば溶解後)開かれて(例えばバルブの使用により)、下流へ向けた更なる移動を可能とする部位を有することにより実現可能である。
【0029】
物理的に細胞を捕捉する更なる方法が図3に例示される。図3Aでは、テーパー状のものではなく直径の段状な減少が用いられている。図3Bでは、流路にバッフルが配置されて、細胞が移動するに伴って細胞が捕獲されるようになっている。図3C、3D及び3Eでは、ポストが流路を横切って配置され、これらポストにより細胞が捕獲される。
【0030】
該捕捉部位は、単一の細胞が、使用者により所定位置に移動されるのではなく、該装置中の流体の流れにより捕獲されることを可能とする。細胞捕捉部位の占有は無作為なものとなるであろうが、特にテーパー注入口を用いる場合には、例えば動力又は引力を用いること等により助力されていることが好ましい。例として、電気的(例えば、電気浸透的な;更に下記を参照)又は機械的(例えば、簡便に前記解析流路を通じての吸引)な力を加えて、細胞の捕捉部位への進入を促進することができる。この力により、解析開始時に全ての細胞捕捉部位が占有される可能性を高め、該細胞捕捉部位が占有される過程を加速して、効率的な解析を促進することが出来る。吸引圧を用いて、流路への入り口での単一細胞の水力学的捕捉を促進すること(図8)が、参考文献10に記載されている。電位を用いて個々の細胞を移動させることは、コールターカウンターからも知られている。
【0031】
同一の捕捉部位に複数の細胞が引き寄せられるのを防止するため、捕捉部位が占有されると、捕捉部位への引力が途絶えるように構成することができる;これに加え、細胞捕捉部位から細胞が逃れた場合には、前記引力が回復することになり、例えば、吸引が用いられる場合には、捕捉された細胞が吸引をブロックして更なる細胞が引き寄せられるのを止めることが出来るが、細胞が離れると吸引が再開され、該離れた細胞を再び引き寄せることが出来る。
【0032】
細胞捕捉部位への細胞の電気浸透的な移動については、一般的に、該捕捉部位の上流(例えば、送出路中)にカソードを、そして下流(例えば解析流路の下流)にアノードを有する装置に電位が加えられる。典型的に1-2v/cmの電位勾配は細胞溶解を生じさせるので、細胞を無傷に移動させるために使用する電位は、これよりも低く、例えば、0.1-0.3v/cm程になる。電気浸透により移動する細胞は、テーパー捕捉部位に進入し、該テーパーの狭い末端へと移動して、そこで捕捉されることになる。テーパーがブロックされると、もはや電流が流れることができず、電気浸透が止まることになる。しかしながら、該細胞が、該テーパーの狭い末端から離れた場合、電流が回復し、該細胞は再びアノードに向かって移動して再び捕捉されることになる。従って、電気浸透により効果的な細胞の捕捉が可能となる。図5参照。
【0033】
細胞捕捉部位の占有は、細胞を保持する方法を取り入れることで促進できる。これは、細胞を能動的に引き寄せるものではないが、細胞が該細胞捕捉部位を占有すると、細胞を所定位置に保持し続けることになる。細胞を保持する方法の例としては、対象細胞上の細胞表面分子を認識する固定化された抗体が挙げられる。図32参照。
【0034】
従って、一般的には、細胞捕捉部位のkon及び/又はkoffは、例えば、吸引の使用(konを向上させる)又は固定化された抗体の使用(koffを向上させる)等により、単一の細胞を流路のインプット端近傍で捕捉することの全体的な目的に合せて操作することが出来る。
【0035】
参考文献10には、選択的に単一の細胞を不動化させることが可能な、個々の横向きの細胞捕捉部位を有するPDMSから形成された微小製造装置が開示されている。ウェルに単一細胞を捕捉して、マイクロバブルを用いてこれらを放出するMEMS装置が参考文献11及び12に記載されている。参考文献13には、単一の捕捉された細胞のパッチクランプ解析用にシリコンウエーハーから形成され、1μm、3μm及び10μmのノズルサイズを有する微小製造装置が報告されている。しかしながら、単一の細胞は、物理的な捕捉部位を用いるのではなく、例えば、対立する電気的動性及び圧力駆動性の力の使用による非接触的方法により捕捉される[26]。
【0036】
参考文献14には、キャピラリー管及び静電場を用いた単一細胞の捕捉と操作が記載されている。単一細胞は、キャピラリー管から出てくる電気浸透の流れに逆らって、電気泳動的動力により該キャピラリー管へと移動する。キャピラリーで細胞を捕捉した後、逆の電圧を加えることで、該細胞は微小貯蔵室へと引き抜かれていく。該微小貯蔵室に負の電圧が加えられた場合、該微小貯蔵室内の細胞は、静電反発力により比較的長時間浮流し続けることが出来る。
【0037】
好ましい構造において、装置には、テーパーの付いた注入口が含まれ、細胞(例えば、送出路から来る)が電気的動性、特に電気浸透の使用によりここへと移動される。該細胞は、その後細胞の内容物が解析される流路の入り口でもある該テーパーの底部に物理的に捕捉される。
【0038】
細胞の内容物の放出
細胞が捕捉されたら、その内容物は例えば細胞溶解などにより放出することが出来る。該内容物は種々の方法により放出できる。例えば、溶解溶液を装置に注ぎ(例えば、送出路を通じて)、そして細胞は細胞捕捉部位内でインサイチュに(in situ)溶解されることになる(図6A)。また、これに代わるものとして、例えば、参考文献15に記載される「ナノスケールのとげ(nanoscale barbs)」を用いて捕捉された細胞を機械的に破裂させるように前記細胞捕捉部位を構成することも可能である。更にこれに代わるものとして、エレクトロポレーションにより細胞の内容物は取り出すことが可能であり(図6C)、エレクトロポレーションに用いる電場の大きさに依存するが、簡単に細胞膜が開けられて細胞の内容物の入手を可能にすることもでき、又は破裂させて細胞溶解へ至らしめることも出来る[16]。溶解させるのに十分強力な電場が好ましい。
【0039】
典型的な使用可能な溶解溶液には、以下のような成分が含まれていてもよい:例えば、核酸を解析する場合には、SDSのようなイオン性洗剤であり、又はタンパク質を解析する場合には、Triton-X100のような非イオン性洗剤といった表面活性剤;例えば、プロテイナーゼKのようなタンパク質を消化する酵素;例えば、DNase及び/又はRNaseのような核酸を消化する酵素;例えば、グアニジニウムイソチオシアネートのようなグアニジン塩等の酵素を不活化して細胞組成物を可溶化させるカオトロープ(chaotrope);等。このような試薬は、大量の細胞を溶解する既存の手法において一般的に用いられている。試薬の選択は、対象の被検体の性質に依存し、例えば、mRNAの解析が目的の場合、該溶解溶液にはプロテアーゼ及びDNaseは含まれていてもよいが、mRNAを分解する試薬は含まれていてはならない。
【0040】
単一細胞の機械的破裂が記載されている。参考文献17には、衝撃波を生じさせることで単一の細胞(又はその細胞組成物)を迅速に溶解する方法が記載されており、該細胞は、操作による外傷を最小化するためにレーザーピンセットにより配置されるか、又は接着細胞として培養されている。レーザー光でも可能であるのと同様に、細胞を溶解するために、装置に先に単一の細胞の溶解に用いられた超音波振動を加えることもできる[18、19]。浸透圧性のショックによる微小流体装置内での単一細胞の溶解が、参考文献20に報告されている。参考文献21には、電気泳動及び電気浸透により流動性の制御が可能な微小流体網様構造の異なる領域への、光ピンセットを用いた単一細胞の運送及び操舵が記載されている。細胞は、2つの電極の間に捕獲され、そこで電気パルスにより溶解されることが可能である。
【0041】
エレクトロポレーションを用いて少数の細胞を溶解する微小流体装置が報告されており、複数の金属性ポスト及び狭い流路を含む装置が用いられている[22、23]。内容物を取り出すための単一細胞のエレクトロポレーション法も記載されており、例えば、参考文献10及び24を参照されたい。参考文献10及び24の焦点は、物質の細胞内への輸送を促進することであるが、図9に示されるように、細胞膜の開けることにより双方向の輸送が可能となるので、同一の原理が細胞内容物の取り出しに対しても適用される。ヒト細胞は、その内容物の取り出しのために低度の印加電圧(<1ボルト)を用いてインサイチュ(in situ)にエレクトロポレーションすることが出来る。エレクトロポレーション前に個々の細胞を捕捉し、細胞の小さな一部分を前方に引き伸ばすことにより、最大電圧降下が該細胞の膜先端を横切って生じるように電場が集中するので、低電圧での局所的エレクトロポレーションが実現できる。抵抗は表面積に反比例するので、該細胞の引き伸ばされた小さな部分は、広がっていない部分よりもより一層高い抵抗(例えば、少なくとも50倍は高い)を有する。従って、最大電圧降下は、該細胞膜の引き伸ばされた部分を横切るように生じる。低印加電圧でも、脂質二重膜の絶縁耐力に関する参考文献25に報告される範囲(300-1000 kV/cm)にあるような、膜先端を横切る高電場(例えば、500kV/cmよりも高い)によるエレクトロポレーションを十分に実現することができる。この方法により細胞の最大の部分的な引き伸ばしを実現するために、前記細胞捕捉手段はテーパーを有し、より好ましくは2方向の寸法においてテーパーを有しているが好ましい。図7を参照。
【0042】
単一細胞のエレクトロポレーションは細胞の内容物を放出する好ましい方法である。
【0043】
前記装置内の解析用試薬に細胞内容物を加える前に(又は、いくつかの解析が行なわれた後であるが、該解析が完了する前に)、該内容物から特定の成分を取り除き、更に/又は特定の成分を修飾することが望ましい場合がある。生化学的解析は、往々にしてこのような被検体と試薬との相互作用又は結果の入手若しくは解釈を妨害する可能性のある物質を取り除く精製又は修飾工程により進められる。しかしながら、本発明の1つの局面は、これらの除去工程を必ずしも必要としないことである。mRNA被検体は、確実に捕獲され、細胞内容物のバックグラウンドに対しても検出可能なハイブリダイゼーションが可能であることが判明した(例、図60及び62を参照)。従って、本発明は、(i)細胞の内容物を放出する工程;及び(ii)固定化された核酸へのハイブリダイゼーションにより該放出された内容物からmRNAを捕獲する工程を含み、ここで工程(i)及び(ii)の間にmRNAの精製工程が存在しない、1又は2個以上の対象細胞を個別に解析する方法を提供する。従って、工程(ii)は、放出された細胞内容物、工程(i)で使用される溶解試薬等の存在下で行なうことができる。
【0044】
しかしながら、除去工程が含まれる場合には、該工程を行なうにあたり、2つの好ましい位置がある。第一の態様では、装置は、流路のインプット端の上流(例えば、前記細胞捕捉部位と前記流路のインプット端の間)又はインプット端の直ぐ下流に膨張チャンバーが含むことができる。細胞の内容物は、前記膨張チャンバーに進入することが可能であり、例えば、該細胞の内容物が侵入すしたのと同じルートを通じて処理試薬を該膨張チャンバーに導入することも可能である(図10)。膨張チャンバーの使用により、前記溶解された細胞が捕捉部位に残っている場合に起こりうるように、放出された内容物が拡散して前記送出路に戻ることが回避される。第二の態様では、処理試薬は、膨張チャンバーを要することなく、解析流路に沿って導入することが可能である。
【0045】
更なる態様では、流動が続く間、細胞を前記装置の中に停止させておくことができる。例えば、参考文献26には、対立する電気的動性による力と圧力駆動性の力を用いて微小流動装置内で細胞を停止させることが記載されている。細胞が非接触的方法により捕捉されて静止し続ける限り流動を継続することが可能であるから、処理試薬を該動流体に導入して該静止した細胞に適用することも可能である。異なる細胞では、この方法による捕捉のために異なる機能的電場及び加圧力を要する場合があり、例えば、pH7のTrisバッファー(μeof=4x10"4cm2/Vs)中では、大腸菌は電気浸透による流れに逆らうことができるが、酵母は流れに従ってしまうので、大腸菌細胞では、酵母細胞の場合と比べて、大きなμeofを有するバッファーを要することが分かった。
【0046】
適切な処理試薬としては、これらに限定されるものではないが、以下のものを挙げることができる:ヌクレアーゼ(例えば、DNase)、プロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、カチオン交換体、アニオン交換体、洗剤、カオトロープ等。これらの試薬は、前記細胞の内容物が放出された後に前記装置に導入してもよく、又は事前に所定の場所に有ってもよい。好ましい構造では、処理試薬は、例えば、該装置の内部表面に固定化された酵素、粉末状態にある樹脂の充填物又はフリッツ等として該装置内に固定化されている。
【0047】
前記処理試薬は、前記細胞の内容物を処理してタンパク質及びDNAを除去し、解析用のmRNAを濃縮して残すように調整されていることが好ましい。しかしながら、上記で指摘したように、この除去は必ずしも必要ではない。
【0048】
解析用試薬と作用する前に該細胞内容物中の成分を分離することも可能である。例えば、流路にはmRNA特異的な捕捉用試薬(例えば、固定化されたポリT核酸)を含むことができる。他の細胞成分(例えば、タンパク質)は前記mRNA特異的な捕捉用試薬を通過して移動し続けることになり、その後、前記流路内の解析用成分と作用することができる。核酸のハイブリダイゼーションが乱された場合(例えば、温度が上昇したり、塩濃度が低下したりする等)、mRNAは放出されることとなり、該流路下流のタンパク質を追うことができる。ある階層の細胞成分を可逆的に捕獲する(例えば、DNA、タンパク質、mRNA、糖鎖等を捕捉するため)が、他のものを通過させる、その他の試薬も同様に用いることができる。
【0049】
捕捉及び溶解の間の時間は、例えば、捕捉後の細胞分裂を防ぐためにも、短いことが好ましい。これに代わるものとして、前記装置を低温下(例えば、2-8℃)で用いて細胞分裂及び他の細胞プロセスを阻害することができる。
【0050】
流路への細胞の送出は、溶解が始まる前に停止しているべきであることが好ましく、そうでないならば、既に使用されている細胞捕捉部位に第二の細胞が捕捉されて、2個以上の細胞の内容物が流路に侵入してしまうかもしれないというリスクが存在することになる。
【0051】
流路
本発明に係る装置には、その下流において細胞の内容物が解析のために通過する流路が含まれる。該流路は、インプット端及びアウトプット端を有する。該インプット端は、捕捉された細胞から放出された細胞の内容物を受容する。該細胞内容物は、該流路に沿って該インプット端からアウトプット端へと移動する。該アウトプット端において、残存する細胞の内容物は(該流路に沿って調製プロセス及び/又は解析プロセスが行なわれた後に)、該流路から抜け出ることができる。
【0052】
前記流路のインプット端は、無傷の対象細胞は進入することができないように構成される。これは、典型的には、該インプット端が該対象細胞よりも小さくあることで実現されることになる。細胞は剛体ではないので、該細胞の一部を該流路内へと引き伸ばすことができるが(図7及び8)、しかし、細胞全体は無傷のまま該流路内へと進入することができない。
【0053】
該流路のインプット端は、前記細胞捕捉部位の直ぐ下流にあってもよい。これに代わる配置では、該細胞捕捉部位及び該インプット端は、中間領域により隔てられていてもよい。例えば、この中間領域は、細胞の内容物が解析前に試薬で処理されるために通過することができる膨張チャンバーの形をとってもよい(上記参照;図10)。
【0054】
解析流路の寸法は、装置の性能に重要な影響を与えることになる。該寸法は、細胞の進入を防ぐためだけではなく、前記細胞内容物から放出された分子が拡散して該流路内の解析成分と遭遇するまでに要する距離を減少させる点においても重要である。寸法についての更なる詳細を以下に示す。
【0055】
流路は典型的には、実質的に一定の断面積を有することになり、さらに実質的に一定の断面形状を有することが好ましい。断面積の変化は、通常好ましくない流路内の流速の変化を生じさせる。下記により詳細に説明するように、長方形の断面積が好ましい。
【0056】
電気浸透を用いて流路に沿って物質を移動させた場合、使用中に該流路の少なくとも1つの壁面は適切に電荷を帯びた表面を有することになる。該電荷の極性及び大きさは、いずれかの特定の解析に所望される移動方向及び移動速度に依存して選択することが出来る。極性は、該流路の作製に用いる基礎的材料、及びあらゆる表面に装着された材料(例えば、固定化された核酸)の両方、並びにあらゆる表面修飾に依存するであろう。流路の1つの壁面に正に帯電した材料が用いられ、そしてDNA及び/又はmRNAが反対の壁面の離れた場所に固定化された場合、局在するゼータ電位の変化は、容積流の流線分布の収縮及び膨張を生じさせ、ひいては、ばらついた横軸の物質移動速度を生じさせ、そのために混和を生じさせる。参考文献27及び28において、電極間の流路を横断する電位パルスを用いて実証されるように、埋め込まれた電極を用いても同様の効果を得ることが可能である。混和効果及び乱流は、いくつかのアッセイにおいては望ましいものかもしれないが、しかし、他においては望まれないものであろう。当業者は、その必要性に従ってこれらの条件を選択することが可能であり、経験的に適切な条件を決定することが出来る。
【0057】
前記流路は、流れの方向以外において閉じられていることが好ましい。従って、該流路に導入された液体は、1つの軸方向のみに沿って流れることが可能となる- 軸の縦方向であり、上/下又は横方向ではない- しかしながら、その軸に沿った流れの方向も変化することは有りうる(正方向/逆方向)。
【0058】
複数の細胞の解析用の複数の流路を有する装置においては、使用する際に細胞が実質的に同じ処理及び解析を受け、結果の直接比較が可能になるように、相互に実質的に同一な流路(例えば、寸法、材料、固定化された試薬、等において)を有していることが好ましい。全ての解析流路が実質的に同一であることが好ましい。
【0059】
本発明のある態様では、流路は2本以上の副流路へと枝分かれしていてもよい(例、図25)。内容物は、各支流内へ通過することができる。各支流は、他の支流と実質的に同じ物質を受容するように構成されていてもよく、又は、例えば、mRNAは下流の一の支流で、DNAが他の支流へというように、若しくは、正に帯電したタンパク質は下流の一の支流で、負に帯電したタンパク質は他方の支流へというように、異なる細胞内容物が下流の異なる支流へと向けられてもよい。該副流路は、再接合されても又はされなくてもよく、即ち、枝分かれした流路は、1つのインプット端に対して、複数のアウトプット端を有することも可能である。
【0060】
枝分かれは、他の方法においても用いることができる。細胞の内容物は、第一のディメンション(dimension)で分離され、「T字に接合された」支流へと進むことも可能である。該2本の支流が反対の極性を有する場合には、一般的に異なる電荷を有するタンパク質及びRNAは、異なる支流へと流れていくことが可能であり、従って、1つの支流でプロテオーム解析を行ない、他の支流でゲノム解析を行なうことも可能となる(図31)。
【0061】
解析流路に加え、装置には、解析に用いるのではなく、例えば、試薬の送出又は移動に用いる流路や、又は使用されない流路が含まれていてもよい。
【0062】
流路内の解析成分
前記装置の流路は細胞内容物の解析用であり、これら流路には、細胞内容物と相互作用して解析結果を提供することのできる解析成分が含まれる。あらゆる任意の装置においても、該解析成分は、一般的に目的の解析データを提供するために対象細胞についての知識に基いて選択されることになる。
【0063】
流路内に位置することが可能な典型的な解析成分には、これらに限定されるものではないが、以下のものが含まれる;クロマトグラフ分離メディウム;電気泳動分離メディウム;固定化された結合性試薬;等。化学サイトメトリーに用いられた試薬[2]も含むことができる。好ましい解析成分は、ハイブリダイゼーション用の核酸、抗原結合用の抗体、抗体結合用の抗原、糖鎖及び/又は糖タンパク質等を捕獲するためのレクチン等のような固定化された結合性試薬である。好ましい結合性試薬は、選択された標的に特異的なものであり、例えば、目的の標的に特異的にハイブリダイズするための核酸配列、目的の標的抗原に特異的に結合するための抗体等である。特異性の程度は、個々の実験の必要性の応じて変化可能であり、例えば、ある実験では、固定化された配列との比較で核酸のミスマッチを有する標的を捕捉することが望まれるであろうが、他の実験では絶対的なストリンジェンシー(stringency)が求められるであろう。
【0064】
解析試薬は、流路の1つの側面だけに沿って固定化されていることが好ましい。長方形の断面を有する流路では、試薬は、典型的には、4つの壁面のうち1つだけに設置されることになり、そして好ましくは長壁面に設置される。
【0065】
異なる固定化された結合性試薬は、データ解析を促進するように不連続の格子又はパッチ状に配置されていることが好ましい- 異なる試薬が同一のパッチに存在した場合、いずれの試薬がシグナルを生じたのか明らかでなくなってしまう。しかしながら、1の固定化された試薬から生じるシグナルが、異なる固定化された試薬から生じたシグナルと区別できる場合には、隣あるパッチが僅かに重複していてもよく、又は厳密な境界を有していなくてもよい。
【0066】
好ましい流路には、細胞内容物中の特定の核酸とハイブリダイズする一連の異なる固定化された核酸が含まれる。該核酸の配列は、該目的の標的に応じて選択されることになる。前記解析成分は、特定のmRNA転写物を保持することが更に好ましい。前記固定化された核酸は、好ましくはDNAであり、好ましくは一本鎖であり、さらに好ましくはオリゴヌクレオチドである(例えば、200ヌクレオチドよりも短く、<150nt、<100nt、<50nt、又は更に短い)。DNAではなく、mRNAを保持することは、解析前にDNAを取り除くことで簡便に実現することができる。
【0067】
他の好ましい流路には、タンパク質を捕捉するための一連の異なる固定化された試薬が含まれる。これらは典型的には、抗体のような免疫化学的試薬となるが、例えば、タンパク質のリガンドを捕獲するためのレセプター及びこの反対のもののような他の特異的結合性試薬も用いることが可能である。固体表面に試薬を固定化してタンパク質を特異的に捕獲する技術は、例えば、ELISA、表面プラズモン共鳴、タンパク質アレイ、抗体アレイ等から当該技術分野において周知である。血液分析用の抗体アレイ(例えば、サイトカイン及び細胞内シグナルタンパク質の特異的捕獲及び解析による)は既に利用可能であり[29](例えば、パノミクス社からのトランシグナル(商標)サイトカインアンティボディーアレイズ(TranSignalTMCytokine Antibody Arrays)[30])、固定化された捕獲用抗体に基く電気化学酵素イムノアッセイは、10pg/mlの感度を有することが報告された [31]。免疫化学アッセイの様式において結合を検出するためには、典型的には第二抗体が必要である(「サンドイッチ」アッセイ)。
【0068】
単一の流路が、核酸及びタンパク質の両方を解析するための試薬を含んでいてもよい。
【0069】
解析試薬を表面に固定化する方法は、当該技術分野において周知である。ハイブリダイズ可能な様式で核酸を表面に結合させる方法は、例えば、表面上のマトリックス、表面上のゲル等へのリンカーを介した結合など、マイクロアレイの分野から公知となっている。最もよく知られた方法は、ガラス表面上でのヌクレオチドプローブのインサイチュ(in situ)合成にアフィメトリクス社(Affymetrix)が用いるフォトリソグラフィーによるマスキング方法であるが、インクジェット蒸着法のように電気化学的なインサイチュ(in situ)合成法も公知となっている。表面にタンパク質(特に抗体)を結合する方法も同様に公知である。これらの方法は、単一細胞の解析に適切なスケールにも応用されている。
【0070】
固定化された核酸は事前に合成してその後表面に結合させることもでき、又は前駆体を伸長する核酸鎖に供給することにより表面上でインサイチュ(in situ)に合成することもできる。本発明では、これらのいずれの方法も使用することができる。
【0071】
好ましい固定化された核酸は、参考文献32、33及び34に記載されるように、伸長する核酸鎖の電気化学的脱保護を用いたインサイチュ(in situ)合成により形成される。
【0072】
本発明と共に用いられる1つの解析方法は、固定化された捕獲用DNAへのハイブリダイゼーションによる流路内でのmRNAの捕獲、及びその後の固定化されてハイブリダイズされたDNAをプライマーとして用いるmRNAの逆転写を伴う。従って、この方法においては、該流路内に逆転写酵素が存在していなければならないが、これはmRNAが不動化された後にdNTP及び他の試薬と共に該流路内に導入することができる。該逆転写のプロセスは、固定化されたプライマーを伸長させて固定化されたcDNAを合成し、故に、本発明の装置の共有結合的修飾を生じさせる。この技法についての更なる詳細を以下に示す。前記捕獲用DNAは、一般的に以下の2つの部位を有することになる:mRNA特異的な捕獲を可能とするポリT部分及び選択された標的への配列特異的なハイブリダイゼーション用の第二の部分。
【0073】
逆転写による装置上でのDNA鎖の伸長を促進するため、遊離した3’末端を有するように5’末端、又は内部ヌクレオチドを介して固定されることになる。
【0074】
装置には、少なくとも10N個の異なる解析試薬が含まれることが好ましく、ここで、Nは0、1、2、3、4、5、6、7、8又はこれよりも大きな数字から選択される。マイクロアレイの分野においては、少なくとも106個の異なるオリゴヌクレオチドの単一表面への固定が周知である。10N種の異なる試薬は、典型的には10N個の異なるパッチに配置されることになる。
【0075】
固定化された試薬の各パッチは、10Xm2よりも小さな領域を有することが好ましく、ここでXは、-6、-7、-8、-9、-10、-11 、-12等から選択される。10μm x 10μm (即ち、10-10 m2)のオーダーにあるパッチサイズを有するマイクロアレイは、現在の技術を用いて直ぐにでも調製される。小さな面積を有するパッチは、検出感度を向上させる。物質が固定化された解析試薬に結合した際、それらが小さな面積内に制限されることでノイズに対するシグナルの比率が向上する。
【0076】
パッチの中心対中心の間隔は、10Ymよりも短いことが好ましく、ここで、Yは-3、-4、-5、等から選択される。隣り合うパッチは接していても、又は重なり合っていてもよいが、隣り合うパッチは、隔たりを介して離れていることが好ましい。重なり合っているパッチは好ましくはない。
【0077】
パッチは、長方形又は正方形の形状を有していることが好ましい。幅W及び面積Aを有する流路では、このようなパッチの長さはA÷Wとなる。同じサイズの接しているパッチ同士の場合、前記中心対中心の間隔はA÷Wとなり、パッチ間に隔たりを持たせる場合には、前記中心対中心の間隔は、より典型的には少なくとも1.5(A÷W)又は2(A÷W)となる。
【0078】
パッチは、図11に例示されるように、細胞の内容物の移動方向に沿って単一の系列として接近していることが好ましい。従って、隣り合うパッチは、垂直方向(横軸方向)ではなく、移動の方向(縦軸方向)に沿って配置されていることが好ましい。
【0079】
同様に、パッチは流路の全幅を占めるように配置されていることが好ましい(図12)。これにより、希少な被検体が該パッチと遭遇することなく該流路を進んでしまう可能性が最小化される。
【0080】
複数の細胞を解析するために複数の流路を有する装置においては、使用の際に各細胞が実質的に同じ処理及び解析を受けて、結果の直接的比較が可能になるように、各流路に沿って固定化された試薬の選択、系列及び量が実質的に同一であることが好ましい。本発明のこの局面についての更なる詳細を以下に示す。
【0081】
複数の流路と複数種の固定化された解析試薬を含む好ましい装置では、該流路が直線で、かつ相互に実質的に平行であり、そして該解析試薬が、該流路に対して実質的に直角に走る直線上に固定されている(参考文献34も参照)。図13参照。下記で更に議論されるが、この構造により、確実に前記パッチが該流路の全幅を占有し、そして確実に全ての流路が同じ系列の解析用試薬を含むことになる。
【0082】
従って、本発明は、(a)複数の流路;並びに(b)複数の固定化された解析試薬を含み、ここで:(c)該流路が相互に実質的に平行であり;更に(d)固定化された解析試薬が該流路に対して直角に走る線上に配置された装置を提供する。該流路は、好ましくはインプット端及びアウトプット端を有し、そして上記のように該インプット端は、無傷の対象細胞が進入することができないように構成されている。
【0083】
流路は、その縦方向以外には閉じていることが好ましいので、その内部表面へは簡単に接近することができず、解析試薬の結合に用いる方法に大きな影響を与えている。好ましい装置は、基盤部材と蓋部材から組み立てられる。該基盤部材には、上側が開口した流路が含まれており、該流路の内部表面への接近を可能としている。該基盤部材上に固定化された後に前記蓋部材が装着されて該流路の上側が閉じされる(図16)。該蓋部材及び基盤部材は接合して該流路を密封し、流路間での物質の漏出を防ぐことになる。これに代わる構造では、試薬は、前記基盤ではなく前記蓋部材に付けられる。該蓋が該流路を覆う場合、該蓋は平らなものでもよい。これに代わる構造では、該蓋は、それ自体に流路の一部を含んでいてもよい(図17)。好ましい基盤部材はPDMSから作られ、好ましい蓋部材はカラスから作られている。
【0084】
結果解析
結果の解析に用いられる検出方法は、分子標的の特性及び使用されるであろうあらゆる標識に依存する。また、これらは、下記でより詳細に説明されるように、任意の解析部位におけるシグナルの強度にも依存する場合がある。定量的な検出方法が好ましい。
【0085】
検出は前記装置内でインサイチュ(in situ)に行なわれてもよく、又は分解された装置内で行なわれてもよい。例としては、捕獲用試薬が蓋部材上に固定化され、流路部材及び蓋部材を有する装置(上記参照)においては、被検体が該流路を通過した後に該蓋を取り外して、例えばマイクロアレイの解析に既に用いられている試薬、技法、装置及びソフトウェアを用いて該蓋を別個に解析することが可能である。
【0086】
好ましい被検体(RNA及びタンパク質)については、標的の被検体が固定化された結合性試薬と相互作用した後に検出可能な標識を導入するために、更なる生化学的処理が必要となるであろう。本発明では蛍光標識を用いることが好ましい。
【0087】
前記流路内の蛍光は、エバネッセント波を用いて励起することができる。これらの波長は、照射光の波長の〜1/2だけ材質表面の外側に広がり、即ち、これらは外側に〜150-350nm広がることになり、これは固定化されたオリゴヌクレオチドのパッチ全体に亘って照射を広げるのに十分以上のものである。例えば、レーザー、ランプ、LED等、他の励起用光源を用いることも可能である。
【0088】
タンパク質は、抗体を利用する複数の公知の方法の1つにより検出することができる。例えば、固定化された抗体に捕獲されたタンパク質は、第一抗体と異なるエピトープに特異的な標識された第二抗体を加えて、「サンドイッチ」複合体を形成することにより検出することができる。
【0089】
RNAの被検体については、逆転写酵素のような酵素を用いて相補鎖に蛍光ヌクレオチドを組み込むことにより検出を実現できる。cDNAは、細胞が溶解された場所、又は前記膨張チャンバー内において、ヌクレオチド前駆体及びRTを導入することにより、溶液反応においてmRNAから作り出すことができる。これに代わるものとしては、前記オリゴヌクレオチドプローブに前記mRNAをハイブリダイズさせて、該固定化されたプローブをプライマーとして用いてインサイチュ(in situ)にcDNAを合成する方法がある。該逆転者反応は、ハイブリダイゼーションの検出を促進するために、該cDNAに標識されたヌクレオチドを取り込ませることが好ましい[35]。これは、適切な蛍光体が結合したdNTPを用いることにより実現できる。シーケンシング反応とは異なり、個々のヌクレオチドが区別される必要が無いことから、異なるヌクレオチドについて異なる色の蛍光体を用いる必要はない。同様にして、全てのヌクレオチドが標識される必要はなく、dATP、dCTP、dGTP及びdTTPの内の1、2、3又は4種類が標識されていればよく、標識されたdNTP及び標識されていないdNTPの混合物を用いることができる。数多くの蛍光体の前記cDNAへの取り込み(例えば、>10%、>20%、>30%、>40%、>50%、>75%、又はこれよりも多いといったように、少なくとも5%の取り込まれたdNTP)により、該cDNAが蛍光検出用に知られたあらゆる方法により該流路内で検出され、それにより単一のハイブリダイゼーション現象の陽性シグナルについても見つけることができるようになる。従って、少量のmRNAであっても検出することができる。
【0090】
蛍光体を直接取り込むのではなく、例えば、逆転写、洗浄等のような工程の後に蛍光体を結合させること(「後標識」)が可能な特異的官能基を取り込むことも可能である。
【0091】
上記で指摘されたように、前記結果の解析に用いる検出方法は、任意の解析部位におけるシグナルの強度に依存するであろう。ハイブリダイズされたmRNA転写物を鋳型として用いて蛍光標識されたdNTPを用いることにより伸長された固定化されたオリゴDNAのパッチを例とした場合、該パッチ上のシグナルが強いか又は弱いかに依存して異なる検出技術を用いることができる:強いシグナルの場合、パッチ全体からの総シグナル量とハイブリッドの数に比例するシグナル強度(従って、基となる細胞の転写物の数にも比例している)との統合を用いることが可能であり;しかしながら、弱いシグナルの場合には、総シグナル量の統合は不適切な場合があり、特に、少量の転写物についての定量的解析には適していない。前記強いシグナルと弱いシグナルの間の主たる差異は、シグナル/ノイズ比である;強いシグナルの場合にはノイズは殆ど影響しないが、弱いシグナルでは、その定量解析を覆い隠す場合がある。
【0092】
例えば、中程度ないし大量のヒトmRNAの場合、10μm x 10μmのパッチであれば、一般的に統合のために十分なシグナルを捕獲し、殆どのRNAが捕獲された場合には、正確な測定を可能とする程の十分な蛍光シグナルが存在することになる。このパッチサイズは、哺乳動物細胞と殆ど同じであり、中程度に量のあるmRNAが、蛍光cDNAによってプローブされた場合にインサイチュ(in situ)ハイブリダイゼーションによって検出可能なことは周知である;例えば、FISH法は、一つの細胞中に50-60個しかない転写物の測定に利用することができる。しかしながら、これよりも少量のmRNAについては、光電子増倍管又は従来のCCDアレイにより作り出された統合シグナルは、不適切である。
【0093】
例えば、平均的な転写物は、約300nmの長さにあり(1000ヌクレオチド;3nm毎に10ヌクレオチド)、更にその直径は約1nmである。従って、転写物の「面積」は、0.3 x 0.001 μm = 3x10-4μm2である。従って、10μm x 10μm(100μm2)のパッチは、最大で100 / 3x10-4個の転写物を収容することが可能であり、これはパッチ1個あたり3.3x105個の転写物である。従来の蛍光検出のダイナミックレンジは約104個であるから、RNA転写物の全面積が検出に晒されたとしても(例えば、上に記載されて図29に例示される流れの態様による)、検出には少なくとも30個の転写物が必要となろう。従って、細胞1個に〜50個よりも少量しか存在しない転写物は、従来の検出法により検出することができない。
【0094】
単一の蛍光体の検出に高感度な技術が利用可能であるが[36、37]、しかしながら、複数の蛍光体を含む単一のcDNA/mRNA hybridの検出については、十分に現在の技術的能力の範疇にある。単一の蛍光体を同定可能な最新の機器は、〜150nmのピクセル解像度を有する。例えば、参考文献38及び39には、CCD検出器がサンプルの走査ステージの動きと同調して、129nmのピクセルサイズにおいて11分以内に5mm x 5mmの面積からデータを収集する連続データ取得を可能とした単一分子読取り器が記載されている(アッパーオーストリアンリサーチGmbHから「サイトスカウト(CytoScout)」として市販されている)。下に詳細に記載されるように、単一の核酸からの蛍光シグナルは、300nmの長さに亘って広がることが可能であり、現在の技術を用いてバックグラウンドから区別することができる。これらのシグナルは、転写物の総数に対応するシグナルの総数を用いてカウントすることが可能である。
【0095】
パッチの全体を解析するのではなく、該パッチの高分解能スキャンによりシグナルをカウントすることが可能である。例として、レーザースポット(直径200-300nm)は、パッチに沿った正確に制御された経路を照射することが可能であり(図28)、そして、上記のように、パッチの総蛍光量を検出した場合のようにシグナル/ノイズ比に悩まされることなく、該スポットの進行に伴って蛍光をカウントすることができる。一般的に、個々の蛍光スポットは、照射しているレーザースポットよりも小さなものになる。検出には冷却CCD又は光電子増倍管又はその他の方法を用いて、蛍光放出の低い光強度を測定することができる。スポットのカウントは、パッチの全エリアについて行なうことができる;これに代わるものとして、特定の数のスポットが検出されるまでカウントを続け、その点までにスキャンされた面積を該パッチの総面積と比較し、そして外挿によりパッチ全体についての総カウント数を推定することが可能である。
【0096】
下記により詳細に記載される連続的なインサイチュ(in situ)逆転写法を用いることにより、上記検出方法の感度を更に向上させることが可能である。
【0097】
しかしながら、大量の転写物については、込み入った領域内において単一の分子を区別することができない。10μm x 10μmの面積のパッチは、上記の単一蛍光体検出器における〜3-4,000ピクセルと同等である。シグナルがカウントされるためにはその周囲に何もない空間を有していることが必要であり(即ち、正方形の配列において1個の「オン」ピクセルが8個の「オフ」ピクセルにより囲まれていることをいう)、この領域を数百個よりも多くのシグナルが占有している場合には、個々のシグナルをカウントすることは不可能である。しかしながら、従来のマイクロアレイリーダー、又は統合ピクセル強度をスキャンするように構成された走査ステージを有する共焦点顕微鏡を用いて捕獲された分子の量を測定することに困難性はない。従って、既にマイクロアレイの解析に用いられているスキャナーを用いることが可能である。流路に使用できる適切なアナライザーは、例えば、アジレントバイオアナライザー(Agilent Bioanalyzer)等の直ぐに利用可能な装置へ既に組み込まれている。
【0098】
画像中に何もない空間を同定できるが、高いピクセルの重複占有の可能性があるような濃度である中程度の濃度においては、統計学的方法を用いて該画像中の目的物の濃度から最も確からしい分子数を算出することが可能である。
【0099】
従って、種々の方法によりデータを収集することが可能である。大量の被検体の場合には、CCDデータセット中の各ピクセルは、存在する蛍光体(即ち、被検体)の数に比例した強度を有する;より希少な被検体の場合、各「オン」ピクセルが単一の被検体を表しており、データは、典型的には、蛍光シグナルが存在するピクセルの数をカウントすることにより解析されることになる。シグナルの測定に用いる方法には、これら種々の方法を組み合わせることも可能であり、従って、測定のダイナミックレンジの実質的拡大を実現する- ある場合には標準的な統合による方法であり、他の場合にはカウントによる方法となる。低いシグナル強度においては、前記ダイナミックレンジは100倍に増大可能であり、そして驚くことに、強いシグナル強度においても、ダイナミックレンジの10倍の増大が可能である。
【0100】
本発明の装置は、質量分析計と接続することもできる。例えば、細胞内容物が前記解析流路から現れると直ぐにMS解析できるように、流路のアウトプット端はエレクトロスプレーイオン化質量分析器に直接入れることも可能である。微小流体装置のMSとの統合は耕地であり、例えば、参考文献40には、統合HPLCカラム、サンプル濃縮用カラム、及びナノエレクトロスプレー端が具備されたペプチド解析用の微小流体チップが記載されており、更に、この「HPLC-チップ/MSテクノロジー(HPLC-Chip/MS Technology)」はアジレント社から入手可能である。
【0101】
装置には、レーザー源及び/又はインラインレーザー検出器が含まれていてもよい。レーザーは複数の流路に亘って照射することが可能であり、そして該流路上部の検出器により上方向に屈折された光を読み取ることが可能である。分子が流路内の経路を通過する間、又は該分子が流路のアウトプット端から現れた時に、レーザーを用いて該分子を励起することが可能である。
【0102】
本発明の主たる利点は、被検体が細胞1個についてゼロないし数1000コピーの範囲に亘る可能性のある場合であっても細胞の内容物について解析可能な能力である。上記で指摘したように、本発明は、シグナル強度が複数オーダーの大きさにも広がる蛍光検出における改善を提供するものであり、そして、本発明の1つの局面は、この方法を実現するための統合された蛍光検出器である。従って、本発明は、光源、蛍光検出器、目的の基板のレセプタクル、及び統合的検出モード及びカウント検出モードを選択するようプログラムされたコンピューターを含む反応基板上の蛍光検出用機器を提供する。該光源は、典型的にはレーザーとなる。該蛍光検出器は、典型的には蛍光顕微鏡となる。該目的の基板は、典型的には本発明に係る装置、又はその一部(例えば、蓋部材)となる。統合検出モード及びカウント検出モードの選択は、手動で行なわれてもよいが、例えばシグナル強度等の1又は2つ以上の事前に選択された基準に依存して自動的に行なわれることが好ましい。該機器は、通常、例えば、該基板の特別な様式及びプローブの沈着に適合するような方法で、該基板、該光源及び/又は該検出器を相互に相対的に移動させることが可能となる。例えば、プローブの線の間の空白の領域を無視すると読取りプロセスが迅速化されることになる。
【0103】
前記検出される蛍光は、例えば、2つの核酸、抗体及び抗原等の2つの生体分子による特異的結合から生じることが好ましい。
【0104】
単一の流路で結果を解析する場合、上記機器は種々の方面に機能することができる。例として、該機器は該流路に沿って移動し、統合モードで個々のパッチをスキャンし、そしてその後にシグナルが閾値に達していなかったパッチへと戻ってカウントモードでこれらパッチを解析することができる。これに代わるものとして、荒い「最初の一掃」をして、更にいくつかのパッチについて第二の測定を必要とするのではなく、該流路に沿った各パッチ毎にこの選択を行なうことも可能である。同様にして、前記機器は、これらの方法のいずれでも機能することが可能であるが、該流路に直角な操作を行なうことはできない。更なる変更も明らかとなるであろう。
【0105】
共通の解析成分
上記で指摘したように、本発明の強力な局面は、異なる細胞について並行して同一の解析を個々に行なうことであり、そして本発明は、各流路が、単一の対象細胞を受容するためにある複数の前記流路を含む複数の細胞を個々に解析するための装置であって、各流路が、該流路内に沿った一連の解析成分を含み、かつ1の流路内の該一連の解析成分が他の流路のものと同一である装置を提供する。
【0106】
従って、細胞はどの流路に進入したかに関わらず、共通の解析成分の系列(例えば、A、B、C、D、E、F、G、...)を経験することになる。この複数の流路内における共通した解析成分の配置により、解析される各細胞が同じ解析用試薬を経験することになり、1の細胞についての結果を、直ちに直接的に他の細胞の結果と比較することが可能となる。
【0107】
少なくとも10本(例えば、10、50、100、250、500、1000又はこれよりも多く)の解析流路が共通の一連の解析成分を含むことが好ましく、そして全ての解析流路が共通の一連の解析成分を含むことがより好ましい。
【0108】
前記共通の系列の解析成分は、各流路内で同一の組成物と空間配置を有していることが好ましい(例えば、全ての固定化された試薬のパッチは、相互に実質的に同一のサイズ、間隔、位置、試薬濃度等を有する)。従って、複数の流路から得られる結果は、直ちに相互にアラインメントすることができる。例として、全ての流路が平行な直線である場合で、そして全ての流路の第一の解析成分が一直線に揃えられている場合(例、図13)、該流路に垂直に走る直線は、各流路内の同一の解析成分を横断することになる。従って、該流路の上にあり、該流路に対して垂直な直線上を走る検出器は、各細胞について同一のかつ単一の解析テストの結果をスキャンすることが可能となる。該検出器は、その後流路の方向に沿って次の解析成分の場所まで移動し、直線状のスキャンを繰り返して該次の単一の解析テスト等の結果を得ることができる。
【0109】
各流路は共通の系列の解析成分を有していてもよいが、これは、各流路に含まれる物の全てが同一でなければならないことを意味するものではない。例えば、2つの流路において、該共通の系列の第一の構成要素の上流に異なる成分を有していてもよい(例えば、特定の流路を同定するために使用可能な特徴的な成分等)。同様にして、共通の成分の系列の個々の構成要素は、非共通の成分によって分離されていてもよいが、該共通の系列は、他の成分に関係なく、各流路内において見出されることになる。例えば、図26には、各流路中の4種類の共通成分を有する7種類の解析成分の配置が示されている。
【0110】
固定化された結合性試薬の共通系列が特に好ましい。
【0111】
装置が異なる種類の物質を受け入れるように設計された枝分れ流路を含む場合(例えば、1の支流がDNAを、1の支流がmRNAを)、例えば、全てのDNA用副流路が共通系列を有するが、mRNA用副流路においてはこれと同一の共通系列が見られないといったように、枝分れした領域内の共通系列は、一般的に1の流路に対して1の支流にのみ適用されることになる。該流路に平行な直線状スキャンの利点は枝分れの構造においても明らかではあるが、前記検出器が1の流路から次の流路に移動するに伴い、該検出器は2つの副流路を見ることになる。
【0112】
装置内の細胞内容物の移動
細胞内容物は放出された後に解析用の流路に進入する。それらは流路のインプット端から進入し、アウトプット端に向かって該流路に沿って移動する。ある状況においては、該内容物が流路に進入した後に移動方向を逆転させることが所望される場合もあるかもしれないが、少なくとも最初はインプット端からアウトプット端へ移動することになる。
【0113】
種々の技術を用いて流路に沿って細胞内容物を移動させることが可能であり、例えば、ポンピング、吸引、電気的動性などがある。好ましい技術は、細胞内容物を電気的動性によって異動させ(例えば、電気浸透又は電気泳動による等)、そして移動方向を決定付ける極性と共に、前記流路を横断する電位を必要とする。微小製造装置中の電気的動性による移動が参考文献41に総説されている。本発明と関連する範囲内で電気泳動を用いた場合、これは通常、分子の移動性に基いてこれらを相互に分子するものではなく、むしろ装置内で物質を移動させるためのものとなる。
【0114】
電気浸透とは、流路を横断する電圧を加えた時に該電荷を帯びた流路中を流体が流れるプロセスである。流路表面が正に帯電している場合には(例えば、1又は2以上の壁面に沿って)、該流路を横断して電圧が加えられた時、該流路内の流体は電気浸透によりアノードへと移動することができる。図4参照。大量の流体の移動は、例えば、細胞、懸濁液中の成分、溶解された物質等の該流体内の物の移動を生じさせることができる。
【0115】
電気泳動とは、電荷を帯びた粒子が電場内を移動するプロセスである。中性のpHにおいては細胞は一般的に負に帯電しており、電気泳動によりアノードへと移動することになる。前記装置内での電気泳動は、開口した流路においても行なうことができ、又は該流路中に置かれたゲル若しくは粘着性物質中にても行なうことができる。
【0116】
電気浸透及び電気泳動は、同時に経験させることができる。例えば、負に帯電したmRNA分子は、電気泳動によりアノードへと移動することになる。流路の壁面が正に帯電している場合、該流路内の流体の移動も該アノードに向かうものとなるので、前記mRNAは電気浸透及び電気泳動の両方により該アノードへと移動することになる。しかしながら、流路の壁面が負に帯電している場合、該mRNAは、電気泳動の流れとは反対の、カソードに向かう電気浸透の流れを経験することになる。対立する電気浸透及び電気泳動の流れによるmRNAの移動に対する全体の作用は、電場の強さ、該流路の壁面の電荷、使用される溶媒(例えば、粘性に依存する)、温度(繰返しになるが、粘性が変化する場合がある)、イオン強度、界面活性剤の存在、pH等のような要因に依存することになる。これらの要因については、特定の成分について所望の移動を実現するために、装置の設計段階(例えば、材料の選択等)及び/又は使用段階(例えば、温度、電場の選択等)において変更可能である。移動を制御する方法として、使用段階でpHを変更することが好ましい。
【0117】
装置内での電気浸透による物質の移動が好ましい。該装置内のmRNAの移動は、(a)インプット端におけるアウトプット端に対しての負の電位(インプット側におけるカソード、アウトプット側におけるアノード)及び(b)前記流路壁面上の正電荷、を有することで簡便に実現される。電荷を帯びた壁面は、その製造において正に帯電した材料を用いることで実現できる。
【0118】
核酸は帯電分子であるから、流路壁面に固定された場合に電気浸透の特性に変化を生じさせることができる。このような状況において、必要な場合には、例えばPNA等の非帯電性の核酸類似物を代わりに用いることもできる。
【0119】
電気的動性による移動は精密に制御可能であり、単に電位を必要に応じて変更することにより、移動速度及び移動方向を変化させることが可能である。電気的動性による移動は、停止させることも可能であり、これ用いることにより、例えば、物理的手法による試薬の導入が可能となる(例えば、注射、ポンピング等)。
【0120】
20V/cmの電圧勾配においては、DNAは微小流路内を125μm/sで移動する[42]。従って、核酸の直線アレイのパッチ上における核酸の適切な移動速度は、約2V/cmとなるであろう。
【0121】
便利なことに、殆どのタンパク質が正に帯電してしまう低pHにおいて、核酸は負に帯電する(核酸のリン酸ジエステル骨格による)。従って、低pHにおいては、核酸がアノードに向かって移動する一方で、殆どのタンパク質がカソードへと移動する。適当な極性を有する電場を用いることにより、タンパク質と核酸を相互に分離することが可能となり、それにより、そのうち一方についての解析を他方から干渉されることなく促進できる。図31の流路配置は、この解析を促進するものである(更に下記を参照)。
【0122】
誘電泳動を用いて被検体を移動させることも可能である。フィールドジオメトリ(field geometry)の最適化は困難であろうが、この技術を用いた非接触的細胞捕捉法が報告されている[11]。参考文献43では、単一細胞を操作するために、画像駆動性(image-driven)の誘電泳動技術を用いて光伝導性表面上の電場の高分解能パターニングを行なっている。
【0123】
上記で指摘したように、ある状況においては、流路内で細胞内容物を正方向及び逆方向の両方向に移動させることが有用となる場合がある。細胞内の少量の分子の高感度検出については、該分子を可能な限り多く捕獲することが有用である。物質が一方向に移動してその後に反対方向に移動する場合、該物質は特定の結合性試薬を2回通過することができ、それにより、最初の通過で捕獲を逃れたあらゆる分子について2回目の捕獲の機会が与えられる。
【0124】
流路内における大量の流体の移動を反転させる能力も、バックグラウンドノイズ及び非特異的結合の回避との関連から利点を与えるものである。図29に示されるように、流動方向が反転された場合、特異的にハイブリダイズした核酸分子の位置は、それが結合した位置に対して相対的にシフトし、そして高分解能検出器がこの変化を検出することができる。また、対照的に、非特異的結合のシグナルは、流動の変化によって影響されることがない。従って、正方向及び逆方向の流れから得られたシグナルを比較することにより、特異的結合を非特異的結合から区別することができる。電場内で結合した核酸分子を引っ張ることで同様の効果を実現できる;極性の反転により、繋ぎ止められた核酸の位置はシフトすることになるが、非特異的結合によるノイズはシフトしない。
【0125】
従って、本発明は、(i)ハイブリダイゼーション基板上に固定化された核酸、及び(ii)遊離核酸、との間での相互作用から生じた核酸ハイブリダイゼーションアッセイの結果の解析方法であって、前記固定化された核酸及び/又は前記遊離核酸が検出可能な標識を含み、前記方法が(i)第一の方向において、前記ハイブリダイゼーション基板の上部を液体が流れるか、又は前記基板を横断する電場が適用された条件下において、前記基板の第一の画像を取得する工程;(ii)第二の方向において、前記ハイブリダイゼーション基板の上部を液体が流れるか、又は前記基板を横断する電場が適用された条件下において、前記基板の第二の画像を取得する工程;及び(iii)前記第一及び第二の画像を比較する工程を有する解析方法を提供する。該第一の画像中の該第一の方向及び該第二の画像中の該第二の方向に揃って並んだ検出可能な標識は、特異的ハイブリダイゼーションのシグナルを表す;このような並び方を示さない検出可能な標識は、実験ノイズ又は非特異的ハイブリダイゼーションによるシグナルを表す。該第一及び第二の方向は、実質的に同一平面内にあることが好ましく、該平面内における(即ち、上記から把握されるように測定目的のもの)これら2方向間の小さい方の角度は、一般的に45°以上となり、好ましくは90°以上となり、更に好ましくは135°以上となり、最も好ましくは約180°となる(即ち、流れ又は電場の反転)。流動方向又は電場の方向の変化は、電気的動性による移動の方向が反転するように流路の電気極性を変えることで直ちに実現できる。前記第一及び第二の画像の比較は、典型的にはコンピューターによって行なわれることになる。
【0126】
上記方法の開発において、区別可能なシグナルを有する2種類の標識が用いられ、そのうち1つは初期標識であり、もう1つは後期標識である。鎖伸長が起こる際に、最初の伸長では該初期標識が用いられ、後の伸長では該後期標識が用いられることになる。流動方向が変化した場合、特異的ハイブリッドは、該初期標識と該後期標識の相対的な位置変化を示すことになる。標識を導入する1つの方法は、最初に4種類のヌクレオチド前駆体のサブセットのみを提供することである。鎖伸長は、「欠けている」ヌクレオチドが必要になるまで進行することになる。その後、該欠けているヌクレオチドを提供して、異なる検出可能な標識を取り込みながら更に鎖伸長を進行させることができる。従って、核酸鎖は、例えば赤色の5’領域と、緑色の3’領域を有することが可能であり、特異的ハイブリッド中の該赤色と緑色領域の相対位置は流動方向により変化することになる。従って、直線状の核酸鎖に沿って異なる検出可能な標識を有することにより、方向の反転の検出が容易化される。
【0127】
転写物の平均的長さを1000ntとし、3nmのRNA毎に10個のヌクレオチドであるとすると、平均的な転写物は約300nmの長さになる。単一の蛍光体分子を同定可能な機器は利用可能であり、これらの機器は、〜150nmの限界ピクセル解像度を有する[38]。捕獲されたmRNA分子の蛍光dNTP基質を用いた逆転写では、cDNAに複数個(例、100個より多く)の蛍光体が取り込まれる。上記のように液体の流れにより(又は電場の使用により)該分子を引き伸ばすことで、前記シグナルは比較的強い蛍光シグナルと共に300nmの長さまで伸びることになる。従って、該強い蛍光は、前記検出器において1ピクセル以上を占有することになり、バックグラウンドから区別可能なものとなる。
【0128】
核酸アレイへの非特異的結合についても、参考文献44に記載されるように、そのハイブリダイゼーションのキネティクスの解析により識別することが可能である。
【0129】
解析される細胞
本発明は、真核細胞及び原核細胞の両方を含む種々の細胞の解析に適している。本発明は、同じ種類ではあるが、非同期的、即ち、細胞周期の異なる段階にある複数の細胞の解析に特に適している。
【0130】
本発明を用いて、これに限定されるものではないが、以下を含むバクテリアのような原核細胞を解析することが可能である:大腸菌(E. coli);B.サブチリス(B.subtilis); N.メニンギティディス(N. meningitidis); N.ゴノロエアエ(N. gonorrhoeae); S.ニューモニエ(S. pneumoniae); S.ミュータンス(S.mutans); S.アガラクティエ(S.agalactiae); S.ピオゲネス(S. pyogenes); P.エルギノサ(P. aeruginosa); H.ピロリ(H. pylori); M.カタラリス(M.catarrhalis); H.インフルエンゼ(H. influenzae); B.ペルチュシス(B.pertussis); C.ディフテリエ(C.diphtheriae); C.テタニ(C.tetani); 等。
【0131】
真核生物においては、本発明を用いて動物細胞、植物細胞、真菌細胞(特に酵母)等を解析することができる。好ましい対象動物細胞は、哺乳動物細胞である。好ましい哺乳動物は、ヒトを含む霊長類である。
【0132】
目的の特異的細胞の種類には、特にヒト細胞に関するものとして、これに限定されるものではないが、以下のものが含まれる:リンパ球、ナチュラルキラー細胞、白血球、好中球、単球、血小板等のような血液細胞;癌、リンパ腫、白血病細胞等の腫瘍細胞;卵子及び精子などの生殖細胞; 心臓細胞;腎臓細胞;膵細胞;肝細胞;脳細胞;皮膚細胞;成体幹細胞及び胚性幹細胞を含む幹細胞;等。セルラインも解析することができる。本発明は、特に幹細胞の研究に有用である。個別の流路内で個々の解析に先立って個々の細胞を異なる処理を受けさせる能力は、幹細胞のような細胞にとって特に有用であり、例えば、個別の細胞は、異なる刺激(増殖因子等)により、インサイチュ(in situ)に(例えば、試薬供給路を通じて刺激を供給することによる)、又は該装置に侵入する前に処理することが可能であり、そして遺伝子及び/又はタンパク質の発現に対する影響を解析することができる。
【0133】
実用の観点からは、単細胞生物又は動物由来の循環細胞のような遊離状態の懸濁液中にある細胞を分離して捕獲する方が容易である。しかしながら、場合によっては、目的細胞は、この方法により自然に分離されないであろう。しかしながら、このような場合における、細胞懸濁液の調製方法が、FACSに応用される技術から周知となっている。
【0134】
本発明を用いることで、これら細胞の内容物が解析される。これは、本発明が、総細胞内容物の解析に用いられなければならないことを意味するのではなく、例えば、上記のように不所望の物質を解析に先立って除去することもできる。例えば、特定のフラクションのみを取り出す必要があったり、抽出物の一部だけを用いたりする等、総細胞内容物が細胞から取り出されなければならないということではない。しかしながら、一般的に、本発明は、総細胞内容物の放出に細胞溶解を要することとなり、少なくとも該細胞からのmRNA転写物及び/又はタンパク質に対して解析が行なわれることになる。
【0135】
本発明に係る装置に導入する前に細胞集団を処理しておくことが有益となる場合もある。例えば、細胞を、その大きさ、細胞マーカー等によりフラクションへと分離することもできる。分離は、当該技術分野において公知の数多くの方法により実現できる。特に好ましい方法は、蛍光活性化細胞分離法(FACS)である。「ラボチップ(lab-on-a-chip)」と呼ばれる装置においてFACS用の手法が開発されており[8]、このような装置は直ちに本発明に組込まれ、そして本発明と共に利用することができる。特定の種類を同定するために細胞を染色することが有益となる場合もある。例えば、細胞は、前記装置への導入前又は後に、細胞表面マーカーに対する蛍光抗体を用いて染色することができる。細胞が装置に進入した後に該抗体を用いる場合には、該抗体が該機器内に固定される前又は固定された後に、該抗体は細胞に結合することが可能であり、各微小流路と結合した細胞が特徴付けされることを可能にする。
【0136】
特定の用途においては、異なる寸法の流路を用いて異なる大きさの細胞を解析できるように、細胞を前記機器に送り込む前に大きさに従って事前に分別しておくことが有益となるであろう。細胞は、バッファーの流れが漏斗及び流路の系に到着する前に細胞懸濁液をざるのような系に通すことにより大きさに従って事前に分別することができる(図22)。より大きな細胞塊から単一細胞を抽出する方法が参考文献45に開示されている。
【0137】
本発明に係る装置に細胞を導入する方法は数多く存在する。殆どの場合において、細胞は、例えば、その完全性、並びに特有の大きさ及び形状を保有していることを確実なものとするためにバッファー溶液に懸濁されることになる。該懸濁液を、前記送出路へと送り込むレセプタクルに注いでもよい。該送出路の寸法は、細胞が自由に、又は電場の影響下でバッファーの流れの中を移動するようなものとなる。該担体溶液又は該電場の流れ経路は、該送出路から走って前記流路を通る。従って、細胞は該送出路を通って移動し、その後、その下流で流路内へと至る細胞捕捉部位の漏斗に向かうことになる。
【0138】
細胞は、例えば、MACS又はFACS装置のようなセルソーター、赤血球及び白血球の分離に用いるような細胞分離カラム等の他の細胞分離機器から直接前記装置に進入することが可能である。
【0139】
細胞の観察
装置内での細胞の観察が望まれる場合、通常、顕微鏡が用いられることになる。バッファー及び典型的な微小流体構造に対する小さな光コンストラストのため、例えば、位相差顕微鏡法、微分干渉顕微鏡法、蛍光顕微鏡法等のような技術を用いた、コンストラスト強調を用いることが望ましい場合がある。しかしながら、多くの場合には、従来からの光学顕微鏡を用いることができる。
【0140】
単純な態様では、検出に長作業距離顕微鏡用対物レンズを用いる。ある構成において、特に流路が深い場合においては、映像のキャスティング及び視差を回避するためにテレセントリック顕微鏡用対物レンズを用いてることができる。顕微鏡の対物レンズの交換を必要とすることなく視野選択の柔軟性を持たせるためにズームレンズを有する結像レンズを用いることが望ましい。該顕微鏡は、カメラを装着可能なカメラポートを有していてもよい。映像のコントラストが低い場合、1ピクセルに10ビット、1ピクセルに12ビット又はこれよりも多いといったような増強されたビット深度を有するカメラが望ましい場合がある。
【0141】
選択されたサンプルのジオメトリ(geometry)において、トランスミッション(transmission)顕微鏡法が可能な場合には、これは好ましい構成である。通常はサンプル内では白色光源が照射されるが、ある構成においては、着色光(フィルターを通すか、又は発光ダイオード(LED)のような着色光源からのいずれか)が有益となる場合がある。
【0142】
反射型顕微鏡の場合、サンプルの裏側を金属のような反射性の表面でコーティングするか、又は該微小流体構造を鏡、シリコンウエーハー等のような反射性の表面上で支えることが望ましい。好ましい態様では、映像のキャスティングを回避するために、入射光は、該顕微鏡の光軸と同軸性のものとなるが、ある構成においては、リングライト又は暗視野照明により画像のコントラストを強調することもできる。
【0143】
従来からの、光軸に対して垂直な位置決めステージのようなサンプル移動方法、及び顕微鏡の焦点調節方法を用いることができる。
【0144】
前記顕微鏡は、実験の要求に依存して、手動で操作してもよく(焦点調節、位置決定、視野の選択等)、又は完全に自動化されてもよい。前記画像は、文献用の目的と共に、診断目的及び過誤の検出(偶発的な2つの細胞の捕獲、夾雑物の捕獲、不十分な細胞溶解後のゲノムDNAによる前記構造物の目詰まり等)に用いてもよい。画像解析を用いて捕獲された異なる種類の細胞を区別することも可能である。
【0145】
解析試薬のストライプの敷設
上記で指摘したように、複数の流路、複数種類の固定化された解析試薬を含む装置であって、(a)該流路は直線状で相互に平行であり、そして(b)該解析試薬は、該流路に実質的に直角に走る直線上に固定されている装置が好ましい。図13にこのような装置が例示されている。
【0146】
種々の技術を用いて、核酸のような試薬を平行な直線状のストライプの系列に固定化することができる。例として、図46に示すように、典型的には、これらの技術を用いて、後に他の成分と組み合わされて本発明の装置を提供することになる支持体の表面にストライプを調製することになる。
【0147】
参考文献32ないし34には、核酸の伸長鎖の電気化学的脱保護を用いたインサイチュ(in situ)合成方法が開示されている。本発明においては、このような方法が特に有用である。これらの方法でベンゾキノンが用いられる場合、1つの改善としては、反応ステップの間に過酸化水素水を用いた洗浄ステップを含ませることである。酸の生産中は、中間体の一種(ベンゾキノン誘導体)は時として、支持電解質中のカチオン種(テトラ(アルキル)アンモニウム)と不溶性の複合体を形成し、そしてこの複合体がカソード上に選択的に沈殿することが判明した。この沈殿により、電極の抵抗が反応サイクルの間に上昇することになる。過酸化水素を用いてこの複合体を除去することが可能であり、例えば水中に3% H2O2の混合物を用いて抵抗の上昇を防ぐことが可能である。水性溶液の存在により、前記イオン性混合物の分解が助けられ、一方で、H2O2の存在により部分的に還元されたベンゾキノン種の再酸化が助けられると考えられる。
【0148】
プラチナ又はイリジウムの電極が用いられた場合、更なる改善では、電極のシリコンに対する接着を増強するためキーイングレイヤー(keying layer)が用いられる。該キーイングレイヤー(keying layer)とは、クロム又はチタンの薄い層(10-200nmの厚さ)である。クロム及びチタンは両方とも電解活性であり、そして(a)電流/酸生産ステップ中に電気化学的に溶解しやすく、(b)不活性な電極材質とガルバニックエレメント(galvanic element)を形成する(図63)ことから、該キーイングレイヤー(keying layer)が電解質から遮蔽されているように注意すべきである。従って、製造中においては、電極の端部が絶縁性の二酸化ケイ素の層を用いて覆われている。これにより、キーイングレイヤー(keying layer)も前記電解質から遮蔽される。
【0149】
電気化学的方法に代わるものとして、参考文献46には、(a)反応基板上の反応表面及び流路基板上の開口した微小流体流路の接点を形成する工程;(b)該反応表面と該開口した微小流体流路との接触により形成された接触線に沿って試薬が該反応表面と接触するように該試薬を該微小流体流路に導入する工程;並びに(c)該反応表面と該微小流体流路を分離して、該試薬を該反応表面上の該接触線に沿って固定されたまま残す工程:を含む表面に試薬の線を形成する方法が開示されている。本発明にこの方法を用いることができる。
【0150】
この方法を用いてヌクレオチド前駆体を接触線まで誘導し、インサイチュ(in situ)に合成する方法により核酸を作り上げることができる。しかしながら、これに代わるものとして、これを用いて活性化された事前に合成された核酸を流路に誘導して基材表面の反応部位と相互作用させることもできる。該反応表面と接触した該微小流体流路中に活性化された核酸を含むことにより、該流路によって定義される領域への局所的な共有結合を促進することが可能となる。例えば、反応性のNHS-エステル表面を有するガラス基板(例えば、ショットネクステリオンH(Schott Nexterion H)製品)を平行な微小流体流路を定義する構造体と組み合わせることが可能であり、その後、アミノ修飾された核酸が該流路を下流へと通過することができる。各流路は個別の核酸を受容することが可能であり、これにより固定化された核酸のストライプを有する基板が提供される。この方法は、図64に例示されており、ここで、2種類の異なるアミノ標識された70merが、反応性のNHS-エステル表面(pH>7.0)上の2本の平行な密閉された流路を通過している。
【0151】
物理的境界を用いてストライプを分離するのではなく、選択的な活性化を用いることができる。例えば、前記基材の表面は、光開裂性の保護基(例えば、NVOC[47])により活性化することができる。適切なパターニングマスクを用いることにより、この表面上のストライプのパッチを脱保護して、事前に合成された核酸と反応可能な反応基を残すことが可能である。干渉パターニングを用いたこの種の方法は、例えば、参考文献48に記載されている。適切な光源及び光学的ワークステーションを用いることで、1μmもの細さのストライプを照射することが可能であり、その結果として密に詰まったオリゴヌクレオチドのストライプを生ずる。
【0152】
電気化学的方法による選択的活性化を用いてストライプを調製することも可能である。参考文献32ないし34及び49には、電解質中の細い酸のストライプの生産法が開示されている。これらの方法を酸に不安定な保護基と組み合わせて用いて、更なる核酸の結合のために支持体表面のストライプを選択的に活性化することも可能である。
【0153】
解析用試薬のストライプを敷設する間、特に電気化学的方法を用いる場合には、ガスケットを利用すると便利である。ガスケットは、反応基板から決まった位置(10-50μmの間)に電極(反応物質の生産及び/又は封じ込めに用いられる)を離して置くことが可能であり、更に流動する格子として作用することで合成中に使用される試薬を封じ込めることもできる。従って、ガスケットが、合成中に使用されるいかなる化学薬品から攻撃されず、良好な密封を形成することが重要である。例えば、ガスケットは、PTFEから作るか、ダイスを用いてPTFEのシートから切り出した後に前記電極と前記基材との間に置いてもよい。これに代わるものとして、ガスケットをフォトリソグラフィーを用いて作り、恒久的に電極に装着させることも可能である。10-50μmの厚さを有する不活性なガスケットは、フォトレジストSU8を用いて作製できる。
【0154】
寸法及びパラメーター
本発明に係る装置の種々の特徴の寸法及びパラメーターは、非常に重要なものとなり得るが、特定の必要性及び用途に応じて変化することになる。
【0155】
前記インプット端は、無傷の対象細胞は進入することができないように構成される。このことは、一般的に、該インプット端が細胞の大きさよりも小さな開口を有することにより実現される。以下の表に、比較のための細胞小器官及びウィルスの大きさの例と共に、典型的な細胞の寸法を示す:
【0156】
【表1】
【0157】
従って、解析される細胞に依存するが、流路のインプット端は、典型的には、1μmないし50μmの幅を有し、好ましくは、2μmないし20μmの幅を有する。
【0158】
同一のサイズの範囲は、先細の細胞捕捉部位の小直径を特徴付ける。該テーパーの第直径は、典型的には10μmないし500μmの範囲内となる。
【0159】
該流路の断面積は、前記開口の面積とほぼ同じであり、即ち、該開口の後において該流路の断面積が拡大しないことが好ましい。
【0160】
膨張チャンバーが存在する場合には、該膨張チャンバーにおいてそのインプット開口の幅を少なくとも2倍(例えば、少なくとも3倍、4倍、5倍又はより大きく)増大することが好ましい。該膨張チャンバーは、処理される細胞内容物の体積よりも大きいが、大量に送出された処理試薬が迅速に拡散して該細胞内容物と相互作用する程度に小さくなければならない。該膨張チャンバーは、効率的な混和が行なわれるような形状を有しているべきであり、例えば、該チャンバー内の内容物が拍動性の圧力波により前後に移動される場合には、その表面は突出又はバッフルを具備することにより、該内容物を攪拌してもよい。
【0161】
高感度の検出手段が提供されるが(例えば、下記を更に参照)、標的は、捕獲されて初めて検出可能となる。本発明の目的は、可能な限り多くの標的分子(即ち、流路内で解析用成分が提供される対象となる被検体)、好ましくは細胞内の少なくとも50%(例えば、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上、又は100%までも)のmRNA標的であり、そして典型的には、実質的に全ての特定の標的転写物を捕獲することにある。このことは、特に貴重な転写物について重要である。この目的は、例えば、捕獲用パッチのサイズ、パッチ内の核酸密度、流路の寸法、前記装置内の流速等、該装置の種々の特徴及びその使用法について関連を有する。
【0162】
前記流路の断面を通って移動する際、標的は任意の時間において、該断面上のいずれかのx、y座標、例えば、該流路の上部又は底部等、にその位置を突き止めることができる。もしプローブが該流路の底面のみに結合している場合には、該プローブの上側にある断面領域は、どのような特定の時点であろうとも効果を有しない。従って、前記捕獲用試薬が該断面のできるだけ多くの部分をカバーするように、高さ又は流路を減少させて幅を増加させることが有用である。従って、解析流路の断面領域は長方形であることが好ましい。正方形ではなく、長辺を底部とする(高さ(h)<幅(w)、図18)長方形を有することにより、該流路を通って移動する分子が、該流路の底部及び/又は壁面の表面上に結合したプローブへと迅速に拡散することになる。高さ:幅の比率は、少なくとも1:2であることが好ましく、例えば、1:3、1:4、1:5、1:6、等であることが好ましい。流路の高さは、50μm以下(例えば、40μm以下、30μm以下、20μm以下、10μm以下、5μm以下、2μm以下、等)であることが好ましい。更に、特に、前記底部に対して垂直に配置された検出器との関係においては、平坦な底部上に捕獲用試薬を有することで、湾曲した底部と比較した場合にシグナル検出が容易なものとなる。
【0163】
更に断面の前記効果を有しない部分を減らすため、捕獲用試薬は該断面積のできるだけ多くの部分をカバーすべきである。従って、前記流路の底部上にもっぱら単層として固定化された核酸を使用するよりも、例えば、一定の範囲の長さ有するリンカー等のように異なる長さのリンカーに結合された核酸を用いることで断面中の多様な高さにある捕獲を可能とする方がより好ましい。前記断面に伸びてその間を標的が移動可能な三次元的リンカーを用いることも可能である(例、ポリアクリルアミド)。三次元的ポリマーのパッドは、ガラス上に合成された単層プローブに対して100-1000倍もの収容量を有しており、そして、この種類の構造は、参考文献50、51等に見ることができる。参考文献51では、各40μm x 40μmで厚さ20μmのポリアクリルアミドパッドにオリゴヌクレオチドが結合している。しかしながら、流動の反転に基く検出を用いる場合には(上記参照)、架橋により列の変化が適切に生じないようになる場合があるので、固定化されたヌクレオチド1つに対して単一のリンカーのみを用いるべきである。より長いリンカーは、上記二方向の間のシグナルのシフトをより大きなものにする。
【0164】
解析流路の高さは、一般的に、例えば送出路のような捕捉部位より上流のあらゆる流路の高さよりも低いものとなる。
【0165】
前記流路中の物質の流速も制御することができる。流れが速すぎる場合には、標的は、捕獲用プローブと有益な接触を生じる機会もなく素通りすることになる。十分に遅い流速の場合には、標的は、捕獲用パッチの最前部にて捕獲されることになる。従って、捕捉密度は、該パッチの近傍縁部において最大となり、そこから離れた縁部に向かって指数関数的に減少する。例えば、図30には、3種類の流速における、パッチ中に捕獲されたプローブの分布が示されている。全ての場合において、捕獲は該パッチの最前部へと偏っており、流速が遅くなるにつれてこの偏りも大きくなる。このシグナルの非対称分布により数多くの利点がもたらされる:限定された領域に捕獲を集中することにより、少量の標的に対する検出感度が高められ;前記特徴的な指数関数的減退により、真のハイブリダイゼーションシグナルをノイズから区別しやすくなり;そして、該パッチの全域にわたる均一な高いシグナルが、プローブが飽和したことを示すことになる。
【0166】
図13に描かれるように構成されたプロトタイプの装置においては、流路は、幅が10μmであり、50μmの中心対中心間隔を有する。従って、200本の流路を有する装置では、幅が1cmとなる。装置を正方形に保つため、該流路が1cmの長さにあってもよい(又は、前記送出路、捕捉部位、廃棄路等の大きさを収容するために、これよりも僅かに短くてもよい)。各ストライプが10μmの幅にあり、20μmの中心対中心間隔(ストライプ間に10μmの間隔)を有する500種類の異なるオリゴヌクレオチドストライプを施すことができる。従って、1cm2の装置により、200個の単一の細胞中の500種類の異なるmRNAの解析を同時に行なうことができる。より狭い流路を有するより大きな装置では、数百個又は数千個の細胞を並行して解析することができ、さらに、例えば、細胞周期を繰り返す集団の中に存在する有糸分裂細胞のような、他の大多数の細胞中に混じって低頻度にしか生じない細胞を検出することもできる。
【0167】
各ヌクレオチドパッチは、前記流路の表面上において10μm x 10μmの面積を有する。流路の高さが10μmの場合、12.5pl/分の流速が、適切であり、この10μm x 10μmのパッチに約80%の相補的RNA標的が捕獲される。
【0168】
上述したように、10μm x 10μmのオリゴヌクレオチド捕獲用パッチは、各パッチにつき105のオーダーの転写物を収容することができる。過剰量の転写物であっても、細胞1個につき105を超えることは(もし超えたとしても)殆どないであろうから、10μm x 10μmのパッチで十分である。しかしながら、パッチがその面積において100倍縮小した場合(例えば、1μm x 1μm)、103の転写物だけしか捕獲できなくなり、これは最も大量な転写物にとって不十分となるであろう。従って、特定の標的転写物の存在量により捕獲用パッチの大きさを規定することができる。標的が特に高い又は低い濃度を有することが知られている場合、それに従ってパッチの大きさを調整することが可能であり、従って、本発明に係る装置中の流路内のパッチが全て同じ大きさを有する必要はない。
【0169】
連続的なインサイチュ(in situ)逆転写
上述したように、好ましい細胞内容物の解析方法は、流路内で固定化された捕獲用DNAへのハイブリダイゼーションによりmRNAを捕獲し、これに続いて、ハイブリダイズされた該固定化されたDNAをプライマーとして用いてインサイチュ(in situ)に逆転写を行なって、標識されたcDNAを提供することを伴う。この技術は、適切な検出器との組み合わせにより(上記参照)、希少な転写物についても簡便に検出することを可能にする。
【0170】
転写物は、大まかに、過剰量、大量及び希少なものとして分類することができる。これら3種類の各クラスの大体の特徴を以下に示す。
【0171】
【表2】
【0172】
上記のインサイチュ(in situ)逆転写法を用いることで、単一の細胞の抽出物中にあるこれら個々のmRNAを、該抽出物中に該転写物が10個より少量でしか含まれていない場合であっても検出できる。シグナル強度が非常に低くなる希少な転写物については(例えば、細胞1個あたり100よりも少ないコピー数しか存在せず、特に 10コピー/細胞より少量しか存在しない転写物)、本発明は、シグナルの検出可能な量を向上させた改善された技術を提供する。
【0173】
この改善された技術においては、逆転写が繰返し行なわれる。cDNAが合成された後、前記ハイブリッドは融解されて(例えば、加熱により)前記mRNAが放出される。該融解条件が穏やかな場合、又は、該融解が迅速に逆方向に進んだ場合(例えば、ポリA/ポリTの二重鎖のTmより低くまで冷却することにより)、前記放出されたmRNAは、近くにある伸長していないプライマーと迅速に再度アニールすることができる(図14A及び14B)。さらにまた、前記固定化された核酸がmRNAのポリA尾の一部に相補的な場合、該ハイブリッドの比較的不安定なrA-dTヘテロ二重鎖部分は、該分子の他の部分を融解するのに要するよりも低い温度で融解することになり、拡散を余儀なくされる。該ハイブリッドが融解すると(その全体又は一部において)、前記表面上に過剰量の伸長していないプライマーが存在するので、再アニーリングが頻繁に生じる。
【0174】
従って、単一のmRNA分子を鋳型として用いて複数個の標識cDNA分子を合成することが可能であり、いかなる単一のmRNA分子から実を結ばれたcDNA産物も、該mRNA分子の近傍に存在することになる。従って、少量なmRNAを含む単一の標識ハイブリッドを増幅して、より容易に検出可能な標識スポットを提供することができる(図14C)。単一のパッチ中のスポット数全体は増えていないので、該アッセイの定量的特性は失われていないが、各標識されたスポットの大きさが増大することでハイブリッドの検出が容易化される。従来技術により測定される蛍光シグナルは、十分に増幅されている場合には、増幅度に比例して増大することになる。それにより、上記のように、各オリゴヌクレオチドパッチ中の傾向スポット数をカウントすることでmRNAを測定することが可能となる。
【0175】
この方法による逆転写の繰返しを実現するため、熱を用いて二重鎖を分裂させる場合には、熱耐性逆転写酵素[52、53]を用いることができる。本発明に用いられる好ましい逆転写酵素は、低減したRNase H活性を有していることが好ましい。
【0176】
本発明のこの局面は、他の局面とは個別に実施することが可能であるから、本発明は、(i)固定化された核酸を含むハイブリダイゼーション基質を提供する工程;(ii)遊離核酸がハイブリッド中に一本鎖オーバーハングを持つように、該遊離核酸が該固定化された核酸とハイブリッドを形成できる条件下において、該ハイブリダイゼーション基質に該遊離核酸を加える工程;(iii)該一本鎖オーバーハングを鋳型として用いて該ハイブリッド中の該固定化された核酸を伸長する工程であって、ここで、該伸長反応は、検出可能な標識を該固定化された核酸に取り込む、工程;(iv)ハイブリッドの少なくとも一部を溶解し、該溶解した部分を固定化された核酸と再アニールさせて、該遊離核酸が一本鎖オーバーハングを有する新しいハイブリッドを形成させる工程;並びに(v)工程(iii)を少なくともn回繰り返す工程であって、ここでnは1以上の整数であり、ただし、n>1の場合、工程(iv)は少なくとも最初にn-1回工程(iii)を繰り返した後に行なう、工程を含む核酸ハイブリダイゼーションアッセイを行なう方法を提供する。
【0177】
工程(i)で用いる前記ハイブリダイゼーション基質は、ここに記載される装置でもよく、又は、当該技術分野において公知の標準的な核酸アレイであってもよい。前記固定化された核酸は、一般的にはDNAとなる。
【0178】
工程(ii)で加えられる前記遊離核酸は、DNA又はRNAであってもよいが、mRNAであることが好ましい。mRNAである場合、前記固定化された核酸は、例えば、一続きの少なくとも10個(例えば、20、30、40、50又はこれよりも多く)の連続したTヌクレオチド等のポリT配列を含んでいてもよい。該ポリT配列は、前記固定化された配列の5’末端、又はその近くに存在することになる。
【0179】
工程(iii)の伸長は、酵素的又は非酵素的であってもよく、そして重合又はライゲーションにより実現されてもよい。例えば、DNAポリメラーゼ(DNA依存性DNAポリメラーゼ及びRNA依存性DNAポリメラーゼ、即ち、逆転写酵素の両方を含む)、RNAポリメラーゼ(DNA依存性RNAポリメラーゼ及びRNA依存性RNAポリメラーゼの両方を含む)等を用いる酵素的重合が好ましい。使用されるプライマー(例えば、DNA又はRNA)及び所望の伸長(例えば、DNA又はRNA)に従って、適切な酵素を選択することになる。前記検出可能な標識は、蛍光標識であることが好ましい。
【0180】
工程(iv)では、核酸ハイブリッドが融解され(少なくとも部分的に)そして再アニールされている。部分的融解の後、該融解された鎖は、先のハイブリッドの近傍にある新しいプライマーと再アニールすることができる。既存の二重鎖の完全な融解を用いることもできるが、その場合拡散により再アニーリングが干渉されるので、例えば、捕獲されたmRNAのポリA部を含むハイブリッド部分の融解等、部分的な融解が好ましい。前記方法は、例えば、工程(iv)での融解から、dが0、-1、-2、-3、-4、-5又はより小さいものから選択される10d秒以内等、迅速に再アニーリングが生じる場合に有効である。同様にして、工程(iv)での再アニーリングは、先のハイブリッドから、eが-4、-5、-6、-7、-8、-9又はより小さいものから選択される10eメートル以内で生じることが可能である。
【0181】
工程(v)で特定されるように、工程(iii)及び(iv)は、少なくとも1回、好ましくは少なくとも2回、3回等繰り返すことができる。従って、nは、少なくとも2、3、4、5、10、20、30、40、50又はより大きな整数であることが好ましい。 工程(iii)の各繰り返しには、工程(iv)が続くことになるが、最終の繰り返し(即ち、n回目)の後には工程(iv)が続く必要がない。
【0182】
また、本発明は、この方法により得られる前記修飾ハイブリダイゼーション基質を提供する。
【0183】
前記方法は、更に、(vi)前記修飾ハイブリダイゼーション基質上の標識を検出する工程、を含んでいてもよい。
【0184】
第二のcDNA鎖の合成
インサイチュ(in situ)逆転写が行なわれた後には、最初にRNA/DNAハイブリッドが存在しているが、ここで、該DNAは典型的に検出用標識を含むことになる。本発明のある態様において、このハイブリッド中の該RNA鎖は、例えばRNAse Hの使用などにより取り除かれる。この除去工程により、固定化されたプライマーからの伸長により調製された一本鎖DNAが取り残される。該除去工程の後に、該一本鎖cDNAを鋳型として用いてこれに相補的なcDNA鎖を合成することができ、これにより二本鎖cDNAが提供される。
【0185】
この第二鎖の合成は、既存のcDNA鎖に相補的なプライマーを用いて開始されることになる。最初の逆転写の後、第二鎖の合成の開始には、このプライマーの位置まで伸長されたDNAのみが利用可能となる。該第二のcDNA鎖は、標識を取り込むように合成することもでき、該標識は、第一鎖の合成中に用いた標識と同じであっても異なっていてもよい。
【0186】
この技術は、図59に例示されており、2本の固定されたオリゴDNA鎖へのハイブリダイゼーションが示されている。工程(a)では、標的mRNAが両方の鎖にハイブリダイズする。工程(b)において逆転写が起こるが、前記2本のオリゴDNAプライマーのうち1本のみで完了する。工程(c)において鋳型のmRNAが取り除かれ、その後、工程(d)において第二鎖用のプライマーが添加される。伸長された固定化DNAのうち1本のみが第二鎖合成用の鋳型として機能することができる。
【0187】
更なる特徴
細胞内容物の解析と共に、真核細胞内の単一の細胞小器官、特に細胞核(例えば、転写因子について)、ミトコンドリア及び色素体(例えば、葉緑体)を解析することも好ましくあろう。細胞小器官は、本発明に係る装置に導入する前に細胞から調製することが可能であり、又はインサイチュ(in situ)での溶解により細胞から放出することもできる。そして更に、該細胞小器官は、上記で細胞の全体について記載するのと同様の方法で捕獲して処理することができる。これを実現するための構造を図19に示す−細胞が捕捉され、その細胞小器官が放出され、その後、該細胞小器官が捕捉されるが、その他の物質は洗い流される(二重テーパー捕捉)。ミトコンドリアの等電点電気泳動が、参考文献22に開示されている。
【0188】
複合サンプル(例えば、針生検)から巨大細胞を取り出して、小さな細胞を解析流路に到達させるための同様の累積テーパーの装置が図21に示されているが、この装置は簡単に目詰まりを起こしてしまう。これに代わる、大きさにより細胞を分離するための構造が、図22に示されている。
【0189】
送出路により、細胞をその大きさに依存して異なるフラクションに分けることができ、そして、その後、該大きさの異なる細胞を大きさの異なる細胞捕捉部位へと送ることができる。従って、単一の装置で、大きさの異なる種々の細胞に対応することができる。適切なサイズ分画用の構造が図20に示されている。
【0190】
本発明に係る装置は非常に小さな寸法を有するので、ほこりのような夾雑物により簡単に詰まってしまう可能性がある。従って、解析前にサンプルのろ過を行なうことが好ましい。フィルターは該装置と一体であってもよく、又は別であってもよい。
【0191】
細胞が捕捉されると、これら細胞は、大きさや形などの特長について顕微鏡を用いて検査される。更なる詳細な特長については、顕微鏡検査前に、これら細胞を、例えば蛍光抗体等により染色することもできる。このような情報は、本発明の主たる目的である分子的キャラクタリゼーションとの関連において有益である。
【0192】
一般事項
「含む(comprising)」という用語には、「から成る(consisting)」と共に「含む(include)」が包含され、例えば、Xを「含む(comprising)」組成物は、Xのみから成っていてもよく、又は、例えばX + Yのように付随的なものを含んでいてもよい。
【0193】
数値xに対する「約」という用語は、例えば、x±10%を意味する。必要な場合には、該「約」という用語は省略できる。
【0194】
「実質的に」という用語は、「完全に」を排除するものではなく、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを全く含んでいないものであってもよい。必要な場合には、「実質的に」という用語は本発明の定義から省略できる。
【0195】
ある要素に対する「直径」及び「円周」のような用語の使用は、必ずしも該要素が円形(又は、3次元の場合には、球形)であることを意味するものではない。
【0196】
「抗体」という用語には、ありとあらゆる種々の天然の及び人工の抗体並びに抗体から誘導された入手可能なタンパク質、並びにその誘導体が含まれており、例えば、これに限定されるものではないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、単一ドメイン抗体、完全抗体、 F(ab')2及びF(ab)フラグメントのような抗体断片、Fvフラグメント(非共有結合性ヘテロ二量体)、一本鎖Fv分子(scFv)のような一本鎖抗体、ミニボディー(minibody)、オリゴボディー(oligobody)、二量体若しくは三量体の抗体断片又は抗体構築物等が含まれている。「抗体」という用語は、いかなる特定の由来を示すものではなく、ファージディスプレイのような非従来的方法により得られた抗体も含んでいる。本発明の抗体は、いかなるアイソタイプ(例えば、IgA、IgG、IgM、即ち、α、γ又はμ重鎖)であってもよく、κ又はλ軽鎖を有していてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0197】
微小製造装置
図33に示す平面図の網状構造(1)が、PDMS厚板中に作られた。細胞は、該装置の上部から送出路(10)に沿って進入する。単一細胞は、複数の平行な流路(30)のテーパー進入口(20)にて捕捉され、その内容物は、矢印で示される方向へ移動する。試薬は、該流路(30)に沿って移動した後に、前記装置(1)のアウトプット端(40)から廃棄口(50)を通じて出て行く。最終的なPDMS装置(1)内のアウトプット端(40)の拡大図が、図34に示されている。最終的なPDMS装置(1)内のテーパー進入口(20)の拡大図が、図35に示されている。細胞を捕捉するための種々の突起物(60)の配置を含んだ進入口(20)より下流の領域の細部が図36に示されている。前記流路(30)は、幅が10μmで、使用するPDMSの厚さに依存するが、高さが2-20μmの長方形の断面を有する。隣り合う流路は、60μm離れている。前記進入口(20)は、50μmから10μmのテーパーを有する。突起物(60)は、流路中のポスト(2μm x 2μm)か、又は壁面から突き出たバッフル(2μm x 3μm)のいずれかである。
【0198】
これに代わる、装置の捕捉部分よりも上流の構造が図53に示されている。細胞の懸濁液は、送出路(110)を通って前記装置に進入し、一連の細胞捕捉部位(120)に流液及び細胞を送出する前にこれらを均等に分配するように設計された、二又に分かれた流路を有する分流器(115)を通って流れる。液体は、該二又に分かれた送出路の流路を一様に通過することができる(図71)。これらの流路は、幅1mmから、例えば25μmにまで縮小する。従って、図33に示す前記構造とは対照的に、細胞は、解析流路に対して垂直な方向ではなく、これに平行な方向に前記細胞捕捉部位へと流れていく(図54)。しかしながら、垂直なバスライン(105)は依然として存在し、これを用いて捕捉された細胞を通過するように試薬を流すことが可能であり、例えば、溶解を行なったり、又は細胞を化学的刺激に晒すこともできる。このライン(105)は、典型的には50-500μmの幅を有する。サンプル中の細胞数が少ない場合、捕獲効率が重要なように、この構造は、図33の構造よりも有用である。また、図33との比較において、せん断誘発性の細胞の破裂も減じることができる。図55には、図54に対応する顕微鏡画像が示されている。
【0199】
前記装置は、前記注入口の孔に対応する孔を有するガラス面に結合したPDMSから作られる。該ガラス面は、該PDMSだけではなく、該注入孔に取り付けられた流体コネクタにも機械的支持を与える。前記微小流路は、マスターパターンを具備したシリコン性の+SU8鋳型を用いてこれら微小流路をPDMSにキャスティングすることで作られる。該PDMSの硬化の後に該鋳型が取り外され、該PDMS中に該パターンの跡が残される。該流路の深さは、前記SU8の厚さにより決定される。PDMSの全厚は、硬化過程中に前記鋳型がその上に載せられる、前記ガラス面に装着されるポリイミドテープのストリップにより決定される。
【0200】
1の鋳型については、900nmの熱成長酸化物を有する100 mm <100> n-型のシリコンウエーハーが、ホットプレート上で110℃にて15分間脱水ベークされた。10 mlのSU8-25が、市販のスピナー及びツーステップスピンプロセス(two-step spin process)を用いて、50μmの厚さになるまでウェハー上にスピンされた(蒸着工程)。前記ウエーハーは、65℃で3分間焼き付けされ、その後95℃で15分間焼き付けされた(プリベーキング工程)。冷却後、ウエーハーはクロムオンガラスマスク(chrome-on-glass mask)を通じて、10mW/cm2 広帯域UV光にマスクアライナを用いて30秒間露光され、その後、65℃で1分間ポストエクスポージャーベークを施され、更に95℃で4分間のベークがこれに続いた(ポストベーキング工程)。その後、ウエーハーは、1-メトキシ-2-酢酸プロパノールの2つの層を用いて5分間現像され、各ウエーハーは、各槽ごとに2.5分間づつ浸漬され、そして揺動され、その後、乾燥窒素による風乾の前に、プロパン-2-オールでリンスされた。ポストベーキングが150℃で10分間行なわれ、その後、110℃で1分間焼き付けされたS1818フォトレジストの蒸着層を用いて保護された。その後、ウエーハーは、S1025ダイヤモンドソーブレードを有するウエーハーソー(wafer saw)を用いてダイスカットされた。鋳型は手作業により取り外され、乾燥窒素による風乾の前に、最初にアセトンで、次にプロパン-2-オールでリンスすることによりフォトレジスト保護層が取り除かれた。分離の後、鋳型は目視により主な欠陥又は大きなダメージについて検査された。
【0201】
この方法により、SU8構造物に均一な厚みが与えられた。注入流路をより深くするため(例えば、細胞の輸送を促進するため)、2種類の深度を有するSU8構造物を用いてもよい。この構造は、複数のSU8層を相互に上に重ねる連続的な処理加工(蒸着、プリベーキング、露光、ポストベーキング)、及びこれに続く一回の現像工程(単一の深度の製造のように)。このような2種類の深度を有する構造の製造は、参考文献54に記載されている。
【0202】
その後、該鋳型を使用して、ソフトリソグラフィー法[55]を用いることによりPDMS構造物が製造された。簡潔に言うと、PDMSは、10:1の比率での基礎ポリマーと硬化剤の混和、及びこれに続く減圧下における30分間の脱気工程により調整された。少量の上記前ポリマー混合物が、SU8鋳型及び支持体として機能する事前に処理された顕微鏡スライドの両方の上に注がれた。該顕微鏡スライドの事前処理は、定着剤を用いて行われた。鋳型は、その取扱い性に加えて耐久性を向上させるため、5mm厚のポリカーボネートのストリップにより支持された。溶媒の影響による膨潤を回避するために最小化された該鋳造物全体の厚みは、該鋳型をカプトン(Kapton)テープによりその両面で支えることで制御され、〜180μmの全体の厚みが生じた。PDMS部分全体の厚みは、前記ガラスに取り付けられた2本のテープのストリップの厚みにより決定される。前記顕微鏡スライドと鋳型は、接触させられ、PDMSのフィルムを挟み込み、該PDMSを硬化させる間、定位置で強固に保持された。完成時には、前記鋳型は、前記鋳造物から丁寧に持ち上げられ、前記カプトン(Kapton)テープのストリップは使用前に取り外された。
【0203】
前記SU8鋳型を取り除いた後、該支持体表面の注入孔にはPDMSが詰まっているのでこれを除去する必要がある。該PDMSの詰め物は、該注入孔の直径よりも僅かに小さな直径を有する穴開けパンチを用いて取り除かれた。該詰め物の除去中は、流路の寸法よりも大きな直径を有するデブリを生じないように注意を払う必要がある。同一の孔位置を有する鋳型スライドにより、前記穴開け加工中に生じる微視的な塵粒及びデブリから前記構造物が保護され、前記穴開けパンチの誘導が助けられる。前記穴開けパンチは、針状のシャフトであり、鋭い切れ味を提供するために、一方の端部の内側から尖鋭化している。デブリが後戻りして装置内に入るのを防ぐため、該シャフトは、前記孔を通じて、引いて戻すのではなく、完全に引き抜かれる。19Gのニードル(0.9mm)であれば、前記注入孔(1mm)と上手く適合する。
【0204】
図72には、図53の装置に進入してテーパーの付いた捕捉部位で捕獲された細胞が示されている。該装置は、25μmの高さを有し、50μLのバッファー、10μLのトリパンブルー(Trypan blue)、10μLのバッファー、5μLの細胞懸濁液(100細胞/μL)及び10μLのバッファーが、具備されたシリンジにより供給された。図72に示される一連の流れの間、流速は1μL/分であった。
【0205】
図37に示すように、前記装置(1)は、ガラス製の顕微鏡スライド(2)上に調製されたDNAマイクロアレイと接触して置かれた。前記PDMSは該ガラスに対する密封を形成し、これにより加圧を要することなく水性溶液の漏出が防止された。流路(10)の内側及び外側に通じるパイプ(11a及びb)が、該PDMS装置(1)へ挿入され、更に廃棄パイプ(51)も挿入された。
【0206】
パイプ(11a)を通じて送出路(10)にヒト白血球のような細胞の懸濁液を導入することができる。大量の流体は、パイプ(11b)を通じて外に出るが、廃棄パイプ(51)を通した僅かな吸引により、流体の一部が流路(30)へ引き入れられてしまう。個々の細胞はテーパー進入口(20)に侵入するが、大きすぎるために流路(30)に進入することができず、それ故にこれら細胞は進入口(20)において捕捉される。前記吸引圧を維持したまま、パイプ(11a)を通じて送出路(10)に溶解溶液が導入される。これにより進入口(20)に捕捉された細胞が溶解され、その内容物が放出されて、スライド(2)上の前記マイクロアレイのプローブと相互作用可能な流路(30)へと流れることになる。
【0207】
流体連結についてのより頑強は方法としては、市販のコネクタを用いることができる。典型的なアセンブリーは、ポート及び適合するコネクタから成る。該ポートは、前記ガラスの支持体部分上の注入孔の上に置かれ、注射針及び適合するPTFEチューブの一部を用いて並べられ、エポキシ樹脂で接着される。該エポキシ樹脂は、前記注射針及びPTFEチューブの一部が取り除かれた後に、一晩硬化される。図56には、このようなコネクタが装着された装置が示されている。この装置を用いて、ハーバード(Harvard)PHD2000二連シリンジポンプがコネクタ111a、111b及び151に取り付けられ、これを用いて細胞の懸濁液が該装置に注入された。両シリンジのピストンは、このポンピング構造を用いて平行に動く。多数のバルブを用いることにより、実に容易にサンプルをあらゆる方向に動かしまわすことができる。
【0208】
核酸プローブの実質的に平行な直線のアレイ(3)は、参考文献34に開示される電気化学的方法を用いて簡便に作ることができる。図46に示すように、前記PDMS装置(1)は、その流路が、該アレイ上の線に対して実質的に垂直になるように配置することができる。個々の細胞は、該流路への進入口で捕捉して(例えば、図8、48及び69に示すように)、インサイチュ(in situ)に溶解することができ、そのmRNA内容物は、個別の流路を流れて、それぞれが同一の系列の核酸プローブと遭遇することが可能である。ハイブリダイズしたmRNAは、ハイブリダイゼーション後に、逆転写中に蛍光塩基が取り込まれるように逆転写される(図39)。その後、該流路装置(1)は取り除くことができ、そして標準的な技術により該アレイ(2)上の蛍光を読み取ることができる(図47)。前記ストライプの大きさ及びmRNAの濃度に依存するが、該アレイは、標準的なマイクロアレイリーダー、又は単一分子の検出が可能であり、高感度高分解能蛍光体検出に使用可能なサイトスカウト(商標)(CytoScoutTM)のような高分解能リーダーのいずれかを用いて可視化することができる。
【0209】
インサイチュ(in situ)細胞溶解
細胞を溶解するために2種類のバッファーが使用された。
【0210】
第一の溶解バッファーは、以下を含むドデシル硫酸リチウム溶解バッファーであった:10OmMのTris (pH 7.5); 500mMの塩化リチウム; 1OmMのEDTA; 1%ドデシル硫酸リチウム; 及び5mMのDTT。該LiDS洗剤は、ヒストンのゲノムDNAへの結合を維持して、ゲノムDNAをコンパクトに維持する。RNase阻害剤の添加により、mRNAの分解が防がれることになる。
【0211】
第二のバッファーは、以下を含むグアニジンチオシアネート溶解バッファーであった:3MのGuSCN; 2mMのクエン酸ナトリウム; 2%β-メルカプトエタノール; 1% Triton X-100; 1MのNaCl; 1OmMのTris (pH 7.5);及び1mMのEDTA。カオトロピズム溶解剤であるGuSCNは、全てのタンパク質の水素結合、塩橋及び水和を分断する。その結果、ゲノムDNAからヒストンが取り除かれ、スーパーコイルが解かれる。また、細胞のRNaseも変性される。
【0212】
これらのバッファーが固体表面に捕捉された細胞に適用され、顕微鏡を用いて溶解が観察された。 前記第一のバッファーを用いることにより、無傷の細胞の濃度は10秒以内に10分の1に減少し、30秒後には全ての細胞が溶解されていた。前記第二のバッファーはこれよりも強力で、10秒以内に無傷の細胞が見あたらなくなった。溶解バッファーの選択により、溶解が完了する前に、どのくらい長く、例えば30秒まで等、細胞がテーパー注入口に保持されるはずなのかが決められることになる。
【0213】
密封された微小流体流路中の流体移動及びハイブリダイゼーション
平行な流路が、PDMSの平坦な一片にエンボスされた。該PDMS構造物は20本の流路を有していた。各流路の両端は、該PDMSの平面に直行して走る軸を有する円形の孔で終結する。従って、該PDMS構造物の一端には20個のインプット孔が存在し、反対の端には20個のアウトプット孔が存在し、これらの孔は5 x 4のアレイ状に配置されている。図49にこの配置が例示され、20本の流路のうち8本だけが示されている。
【0214】
PDMSが、ガラススライドに押し付けられ、前記インプット孔とアウトプット孔を除いて、該流路が閉じられる。PDMSの「粘着性」により、該ガラスとPDMSは互いに強固に固定されて維持されていることが分かった。
【0215】
該装置の流体工学の基本的作用をテストし、そして、特に流体が該PDMS/ガラス接触部分からこぼれ出ることなく、更に該流路の壁面をゆがめることなく該流路中を移動可能なことを確認するために、有色のインクが前記インプット孔を通じて該流路に注入された。図50Aにこの実験の結果が示されており、流体は、隣の流路に漏出することなく該流路を良好な流体運動で通過できることが視覚的に確認された。
【0216】
隣り合う流路間での漏出が無かったことは、蛍光標識及び蛍光顕微鏡を用いて確認された。
【0217】
流路内で核酸のハイブリダイゼーションが起こりうることを確認するため、5 ' -CTACGCのヘキサマープローブが、従来の化学を用いてガラススライドの表面上のパッチに結合された。簡潔に言うと、ショット(Schott)エポキシスライドが、10分間の10% HCl水溶液中での攪拌を用いて開環された。該ヘキサマーは、PPDMSガスケット、LongPCoupleサイクル、ABIデブロックアンドオキシダイザー(deblock and oxidiser)を用いて合成された。脱保護は、50/50のEtOH/エタノールアミン中で60℃にて25分間行なわれ、その後、EtOH/N2でリンスされた。前記ガラススライドと、流路形成されたPDMSは、MeOH/N2でリンスされ、先程のように、互いに押し付けられた。
【0218】
偶数番目の流路は、前記固定化されたヘキサマープローブに相同的であり、該PDMS流路構造物の一端において検出されるCy5標識標的を100μl受容した。奇数番目の流路は、バッファーのみを受容した。外側の2本の流路(1番目と20番目)は使用しなかった。灯心現象は、各流路が満たされるのを確認するまでに〜5分間を要した(開始後の吸上げ速度は〜1mm/s)。30分後、液体は流路から吸い取られ、前記ガラス及びPDMS構造物は分解された。リンスは、全強度のバッファー中での5分間の揺動、その後の1/2強度のバッファー中での5分間の揺動により行なわれ、その後遠心による乾燥を行なった。アジレント(Agilent)スキャナーを用いて該スライドが可視化された。
【0219】
Cy5標識標的を受容した流路内でのハイブリダイゼーションは、明白であった。隣り合う流路間で非常に少量の漏出があった。前記偶数番目及び奇数番目の流路を対比することにより、漏出を定量することができた。標的/バッファーのシグナル/ノイズ比は、平均すると50:1(20,000対400)であり、最高で160:1(32,500対200)であり、最低で11 :1(9,000対800)であった。
【0220】
同様の実験において、流路は、以下のものを順に受け入れた:空気;バッファー;標的;標的;バッファー;標的;標的;等。結果を図51に示す。蛍光シグナルは、前記標的を受容した流路のみに見ることができ、隣り合う流路間での混線はなかった。
【0221】
更なる実験では、オリゴヌクレオチドのアレイが電気化学的に合成された[34]。プローブは、隣り合うライン間に間隔を有する平行なストライプに配置された。PDMS内の流路は、幅が160μmであり、該オリゴヌクレオチドのストライプに対して直角に配置された。該ストライプ上に該流路を重ねる効果は、該流路の縦方向に沿ってオリゴヌクレオチドの格子の系列を形成することにある。標識標的を該流路中に通してハイブリダイゼーションさせた。図52は、8本の隣り合う流路(90a、90b、... 9Oh)での結果を示す。隣り合う流路間の漏出が、91及び92の格子内のシグナルの比較により評価された。同様に、格子94のシグナルを、隣の格子との間にあるギャップ94のシグナルと比較することにより、ハイブリダイゼーションのシグナル/ノイズ比が評価された。
【0222】
従って、隣り合う流路への漏出もなく、そしてCy5標識標的が空の流路に浸出することなく、流路内でハイブリダイゼーションを行なうことが可能である。ハイブリダイゼーションのシグナル/ノイズ比は良好であった。この結果は、各流路は独立して使用することが可能であり、隣り合う流路間での個別の解析が可能であることを示している。
【0223】
電気的動性による移動
装置内での物質の電気的動性による移動(例えば、細胞懸濁液及び/又は細胞溶解物)を可能にするように図56の装置を構成するためには、該微小流体装置内部の液体との電気的接触を生じさせる必要がある。従って、該装置は図57に示すように構成された。
【0224】
PDMS構造物(101)は、ガラススライド(105)上に支持され、マイクロアレイ(102)と接触している。細胞サンプル(131)は、注入ポート(111a)を通じて該装置に進入でき、そしてポート(151)を通じて出て行くことができる。ポート(111a、111b、151)は、前記支持体(105)を貫通している。金属膜(145a、145b)が、スパッタ堆積を用いて前記支持体(105)の裏面上に堆積される。スパッタ堆積は、該微小流体装置を支える平坦な表面上だけでなく、前記注入孔(111a、111b)の側壁上の堆積も可能とすることから、電子ビーム蒸着のような他の物理的な蒸着技術に優先して用いられる。装置内部の溶液(31)との電気的接触は、該注入孔(111a、111b)の壁面を内張りする伝導層を通じて生じさせることが可能である。
【0225】
前記金属膜は、電圧が加圧されて電流が流れる間液体と接触することになるので、該金属は不活性であることが重要である。この目的のため、金や白金にような貴金属を用いることもできる。該貴金属の接着性を向上させるため、最初にクロムキーイングレイヤー(keying layer)が堆積される。該膜は、シャドーマスク(shadow mask)を通して堆積され、それにより前記ポートの近接領域のみが被膜される。金属で被膜された領域は、接着パッドとして機能する。各接着パッドに対して、電気ソケット(148)が銀入りエポキシ樹脂を用いて装着されている。
【0226】
従って、ポート111a、111b及び151のそれぞれを通じた電気伝導性の表面が存在し、該表面は、電源の装着のために近隣の電気コネクタ(例えば、148)まで広がる。図58は、この構造を例示しており、2箇所のコネクタ(148、151)及び支持体(105)と接触した金属膜層(145)を示している。
【0227】
細胞溶解物からのmRNAの捕獲
細胞は、本発明に係る装置内で捕捉された後に溶解され、その後、その溶解内容物は流路内で解析される。mRNA解析については、該細胞のmRNAはハイブリダイゼーションにより解析されることになる。溶解試薬及び/又は放出された非mRNAの内容物がハイブリダイゼーションを干渉するのかを確かめるための実験を行なった。
【0228】
図60Aには、細胞溶解物の濃度増加の存在下での2種類の異なるバッファー中における標識mRNAのアレイへのハイブリダイゼーションが示されている。サンプルは、左から右へと流された。上から下にかけて、11個のサンプルは以下の通りであった:(1)コントロールのハイブリダイゼーションバッファー; (2) LiDSバッファー + 2個の溶解された細胞の内容物; (3) LiDSバッファー + 50個の細胞; (4) LiDS + 100個の細胞; (5) LiDS; (6) GuSCNバッファー + 2個の細胞; (7) GuSCN + 50個の細胞; (8) GuSCN + 100個の細胞; (9) GuSCN; (10) コントロールバッファー; (11) コントロールバッファー。
【0229】
図60Bには、流路内のガラス製の支持体に結合したオリゴヌクレオチドのパッチへの標識mRNAのハイブリダイゼーションが示されている。該支持体は、図53に示す装置と同様に微小流体装置にクランプで押し付けられた。1 X PBS中の細胞は、該装置内へポンプにより送り込まれ、これに続いて1 X PBSが詰め込まれ(前記溶解バッファーを該細胞から分離させておくため)、最後に標識された合成マウスHPRT mRNAを含む1% Triton X-100溶解バッファーが送り込まれた。該細胞は溶解され、その内容物は、該溶解バッファー中に存在する合成mRNAと共にポンプで流路まで送られた。該合成mRNAは、流路に露出された領域内のオリゴヌクレオチドへハイブリダイズした。該流路は、高さ25μmに対して幅が5μmであった。
【0230】
従って、溶解バッファー及び細胞溶解物の存在下でもハイブリダイゼーションは可能である。従って、本発明を用いる場合には、従来のマイクロアレイハイブリダイゼーション実験の前に用いられる精製工程は必要とされず、個々の細胞の化学的溶解後に、溶解バッファー及び溶解物が残って存在していても本装置の流路内でハイブリダイゼーションを行ない、それを検出することが可能である。
【0231】
インサイチュ(in situ)逆転写
従来のマイクロアレイ技術では、mRNAは、アレイ上のプローブへハイブリダイズさせる前に、精製され、逆転写され、増幅され、標識され、そして再度精製される必要がある。その他の技術においても、精製mRNAがアレイに直接ハイブリダイズされている。前記二重鎖のプローブは、繋ぎ止められて遊離の3’末端を提供し、それから逆転写によるインサイチュ(in situ)での酵素的伸長のためのプライマーとして機能することになる[56]。該反応には蛍光標識されたdNTPが含まれており、それにより生じる生成物は、アレイに共有結合された、該mRNAの標識cDNAのコピーとなる。該伸長された標識生成物は、前記プライマーを介してアレイに共有結合されているので、単にアレイを洗浄することにより取り込まれなかったヌクレオチドを全て取り除くことが可能であり、これにより得られた生成物を失うことはない。
【0232】
この方法により、溶液に基く標的の調製における複雑な精製及び標識、に対する簡単な代替方法が提供され、アレイに基く解析に、酵素による工程を挿入することにより特異性を向上することが可能である。鋳型とプライマー間の、特に該プライマーの伸長していく側の末端の塩基間における完璧な塩基対形成のための酵素を要求することにより、ハイブリダイゼーション反応だけの場合に比べて特異性が補われる。
【0233】
前記方法の実施では、ポリA尾と、該mRNAに特異的な配列の3’末端との接合部分が標的となる。この領域は、恐らく最も標的の二次構造と立体障害による影響を受けにくい領域である。
【0234】
マイクロアレイのインクジェット方式での製造によるカスタム合成の前に、複数の予備的な実験を行なった。ABI 394 DNAシンセサイザー(synthesizer)を用いて、ヌクレオチド2.5個分の長さに等しいポリエチレングリコール200(15原子)で誘導体化されたエポキシ誘導体化ガラススライド上にDNAオリゴヌクレオチドプローブのパッチ(20 x 20 mm)が合成された。 DNAプローブ配列5'-dT25oligo21-3'は、「逆」方向に5’から3’へと合成され、遊離の3'-OHからのプライマー伸長を可能にした。最初の実験では、ヒトβ-グロビンポリA15IVT (T7 RNAを用いて得られたインビトロでの転写)の33P標識mRNAが、前記アレイにハイブリダイズされ、イメージ化され(図38A)、洗浄され、そして逆転写混合物中にインキュベートされた。RNAの除去、及びこれに続く前記mRNAの5’末端からの20merの配列を含むCy5標識プローブによる好結果のハイブリダイゼーションから、前記繋ぎ止められたプライマーの伸長から伸びた逆転写は最後まで進んでいたことが示された(図38B)。
【0235】
マイクロアレイ実験に逆転写反応工程を加えることにより、従来のハイブリダイゼーションに対する優位性が与えられる。プライマーの伸長を進めるためには、酵素は、該伸長するプライマーの末端における完璧な塩基対形成を必要とする。これは、上記の研究で確認されているように、オリゴヌクレオチドプローブの中でも、ハイブリダイゼーションに対して比較的小さな影響しか有しないとして知られている領域である。従って、該プローブの3’末端にミスマッチを有する標的は、相当レベルのハイブリダイゼーションシグナルを生じる比較的安定なハイブリッドを形成することができるが、恐らく逆転写により伸長されることはない。更に、このプライマー伸長法では、標的の標識コピーの調製中に組み込まれたエラーの結果として、発現レベルにある被検体にエラーを生じさせる可能性がより低いものとなる。DNAマイクロアレイに対するmRNA集団のハイブリダイゼーションを用いる研究では、該アレイへのハイブリダイゼーションの前に、RNAがコピーされ(場合によっては増幅され)て標識されることを要する。コピー及び増幅は、両方ともmRNAに間違った塩基を導入する可能性を有する工程である。4種類の異なる逆転写酵素及びDNAポリメラーゼ酵素を用いたRT-PCRの研究では、4%ないし20%のクローンが変異配列を含有するようなクローンが生成された。
【0236】
特異性については別にしても、アレイ上のインサイチュ(in situ)での直接的なmRNAのコピーは、発現解析データを得るための過程を簡素化する。精製されたポリアデニル化mRNAは、アレイに直接ハイブリダイズされる。ハイブリダイゼーションしたならば、完璧にマッチした標的:プローブ複合体は、直接結合により標識dNTPを取り込みながら逆転写酵素により伸長される。該伸長した標識生成物は、該アレイに共有結合しているので、取り込まれなかったヌクレオチド及び伸長しなかった標的は、ストリンジェントな洗浄により該アレイから除去することが可能である。ハイブリダイゼーションの前に該mRNAをコピーしたり、増幅したり、又は事前に標識したりする必要はない。該標識コピーの精製に際してサンプルのロスは生じない。
【0237】
更なる実験において、細胞は、oligo-dT(30)で覆われたガラススライド上でインサイチュ(in situ)に溶解された。該溶解バッファーには、320mMのスクロース、5mMのMgCl2、1OmMのHepes及び1%のTriton-X100が含まれていた。該スライドは、溶解バッファー中で常温にて90分間インキュベートされ、洗浄され、その後、逆転写酵素混合物中でスーパースクリプトIII(Superscript III)及び赤色蛍光体を用いて45℃にて2時間インキュベートされた。
【0238】
この結果から、溶解バッファー及び細胞溶解物の存在下においてさえmRNAが固定化されたオリゴヌクレオチドにハイブリダイズできたこと、並びにこれらの条件下において逆転写を生じることが可能なことが確認された。
【0239】
最初にmRNA/cDNAのハイブリッドを生じる逆転写の後に、該mRNAを取り除いてcDNAの第二鎖を合成することが可能である(図59)。図62には、第二鎖の合成が行なわれた実験の結果が示されている。
【0240】
マウスHPRT mRNAの800-859番目の塩基に相補的なオリゴDNAが、NHS誘導体化ガラススライド上に固定された。該オリゴDNAは、一定の形状を有するチャンバーを用いて該ガラス表面の特定領域に束縛された。Cy3標識された合成の1200塩基の標的mRNAが、該スライドにハイブリダイズされた。ハイブリダイゼーションは同一のチャンバー内で行なわれたが、mRNAの該スライドへのあらゆる非特異的結合を決定するために僅かに補正された。該スライドはスキャンされた(図62A)。ハイブリダイゼーションは、37℃にて1時間行なった。その後、逆転写混合物が添加され、50℃にて1時間インキュベートされた。逆転写中にCy5がDNAに取り込まれた。その後、前記スライドが洗浄されてスキャンされた(図62B)。
【0241】
その後、前記アレイは、標準的なRNAse Hの条件下で処理されて前記Cy3 RNAが除去され、そして該アレイは、洗浄され、その後スキャンされた(Cy3の流路 = 図62C;Cy5の流路 = 図62D)。該RNase処理によりCy3シグナルの〜75%が除去された。
【0242】
前記パッチの2つの領域は、第二鎖の合成工程においてインキュベートされた。図62Eには、この工程でどのようにパッチが分離されたのかが例示されている- 1つの区画(「+ pol」)は、DNA合成に必要な試薬と共にインキュベートされ、1つの区画はDNAポリメラーゼが除外され(「- pol」)、周辺領域は処理されなかった。該2つの区画には、60μmのdNTP及び20μMのCy3-dCTPが含まれていた。第二鎖用のプライマーは、前記完全に伸長されたcDNA配列の3’末端の最端部分に相補的であった。従って、逆転写反応で完全に伸長した生成物のみが、第二鎖の合成を行なうことが可能となったであろう。
【0243】
図62Fには、Cy3の流路中の「+ pol」区画が、両方の「- pol」区画及び周辺領域よりも明るいことが示されている。しかしながら、Cy5流路においては、シグナルに差異はない(図62G)。従って、前記逆転写工程において、相当量の完全長のプライマー伸長(800塩基)が存在したことになる。
【0244】
ポリA/ポリT相互作用のハイブリダイゼーション及び逆転写に対する効果
DNAオリゴヌクレオチドマイクロアレイ上での最適化ハイブリダイゼーションは、特異性及び感度の間の折衷となる;特異性は、より短いオリゴヌクレオチドから生ずるが、一方で、感度は該オリゴヌクレオチドの長さに伴って増加する。発現解析においては、特異性を減少させることなく感度を増加させることが理想的であろう。
【0245】
15塩基のポリAを有するβ-グロビンIVT(ポリA+)と有しないβ-グロビンIVT(ポリA-)のシグナル強度の比較により、ポリrA:dT相互作用が、ハイブリダイゼーションの収量に対して非常に重要な効果を及ぼすことが示唆された。
【0246】
ハイブリダイゼーション及び逆転写反応の両方の同時解析を可能にする二重標識法が用いられた。前記ヒトβ-グロビンIVTは、CY3-dCTPを用いた直接取り込みにより標識された。アレイ上の逆転写は、CY5-UTPを用いた直接取り込みにより標識された。アレイに基くハイブリダイゼーション及び逆転写反応の図式的表示が、図39に示されている。固定化プローブは、その5’末端においてリンカー(91)を介して固体支持体に結合され、そして、ポリdT部分(92)及び21個以下のヌクレオチドからなる標的特異的配列(93)を有する。標的mRNAは、その3’末端にポリA尾(94)を有し、そしてコーディング配列(95)も有している。該試験系では、転写中にCy3標識(96)が取り込まれてハイブリダイゼーションが評価されることになる(工程A)。工程Bでは、Cy5標識されたdCTPの存在下で逆転写が行なわれる。従って、伸長されたプローブにはCy5標識(97)が含まれている。
【0247】
スペーサーとして機能し、更にmRNAの尾と相互作用してポリアデニル化mRNAを「捕まえる」ことが可能なポリdT部分の効果を調べるため、5塩基ずつ増加して最大でdT25になるdT0-25が、繋ぎ止められたプローブの5’末端に付加された。
【0248】
β-グロビンIVT標的へのハイブリダイゼーションは、42℃及び50℃にて、1M NaCl/20%ホルムアミドバッファー中又はスーパースクリプト(Superscript)II逆転写酵素1 X反応バッファー中のいずれかにおいて行なわれた。全てのハイブリダイゼーション反応は、常温で準備され、その後、前記所要の温度で90分間インキュベートされた。
【0249】
1 X 1 M NaClハイブリダイゼーションミックスには、以下のものが含まれていた: 1 X MES*、1MのNaCl、20%のホルムアミド、20mMのEDTA (pH 8.0)、0.5mg/mlのBSA、1% Triton X-100、140-280ユニットのRNasin(商標)リボヌクレアーゼインヒビター(Ribonuclease Inhibitor)(プロメガ社)、8nMのCY3標識IVT標的、及び体積を250μlにするのに要したH2O。
【0250】
1 X スーパースクリプト(Superscript)IIハイブリダイゼーションミックスには、以下のものが含まれていた:pH8.3で50mMのTris-HCl、75mMのKCl、3mMのMgCl2、20mMのDTT、140-280ユニットのRNasin(商標)リボヌクレアーゼインヒビター(Ribonuclease Inhibitor)、0.5mg/mlのBSA、8nMのCY3標識IVT標的、及び体積を250μlにするのに要したH2O。
【0251】
上記ミックスは、シリンジ及びニードルを介して2区画のハイブリダイゼーションチャンバーに添加された。該アレイは、回転式ハイブリダイゼーションオーブンで42℃又は50℃で90分間インキュベートされた。インキュベーション後、該スライドは、ホルダーから取り外され、洗浄された。洗浄(1)は、6 X SSPE、0.005% N-ラウリル-サルコシン中にて行なわれた(常温で50 ml中にて5分間)。洗浄(2)は、0.06 X SSPE、0.18% PEG 200中にて行なわれた(常温で50 ml中にて5分間)。該スライドは、圧縮空気の下で乾燥されて、アジレント(Agilent)G2565BAでスキャンされるか、又は逆転写反応の中に設置された。
【0252】
前記ハイブリダイズした標的の逆転写は、殆どの場合、ハイブリダイゼーションと前記スライドの洗浄の後に行なわれた;ハイブリダイゼーション及び逆転写が1段階反応として同時に行なわれた場合が1回あった。スーパースクリプト(Superscript)II酵素(インビトロジェン社)が、前記42℃の反応で用いられ、サーモスクリプト(Thermoscript)(インビトロジェン社)が、より高い温度の60℃での反応に用いられた。前記スーパースクリプト(Superscript)II酵素を用いた42℃逆転写反応は、以下のように準備された;該反応ミックスには、pH8.3で50mMのTris-HCl、75mMのKCl、3mMのMgCl2、20mMのDTT、140-280ユニットのRNasin(商標)リボヌクレアーゼ(Ribonuclease)、100μMの各dNTP、8μMのCy5-dCTP、0.5mg/mlのBSA、4000ユニットのスーパースクリプト(Superscript)II酵素及び体積を250μlにするのに要したH2O。該ミックスは、常温にて2連ハイブリダイゼーションチャンバー内のアレイに添加され、その後回転式オーブンで42℃で2時間インキュベートされた。ハイブリダイゼーションと逆転写が、1段階反応で行なわれた場合には、IVT RNA標的が、終濃度が8nMとなるように上記反応ミックスに添加された。
【0253】
前記サーモスクリプト(Thermoscript)酵素用の反応バッファーには、 50mMのTris酢酸(pH 8.4)、75mMの酢酸カリウム、8mMの酢酸マグネシウムが含まれていた。該ミックスの他の全ての成分は同じであった。該反応ミックスと、前記スライドは、別々に60℃で15分間インキュベートされ、これにより前記アレイに該ミックスを添加する前に両者は所定の温度に達した。該アレイは、60℃で2時間インキュベートされた。インキュベーション後、該スライドは、前記チャンバーから取り出され、6 X SSPE、0.005% N-ラウリル-サルコシン中で洗浄され(常温で50 ml中にて5分間)、その後、0.06 X SSPE、0.18% PEG 200中で洗浄された(常温で50 ml中にて5分間)。該スライドは、スキャンする前に圧縮空気の下で乾燥された。
【0254】
前記ヌクレオチドプローブと固体支持体との間に長さが増加するポリdTスペーサーを付加する効果が図40に示されている。1M NaCl/ホルムアミド及びスーパースクリプト(Superscript)のバッファーの両方において、ポリdT部分は、同等のポリマーの長さにあるへキサエチレン-グリコールリンカーと比較して、4倍ないし5倍のハイブリダイゼーション強度の増加を提供する。dT15部分は、その長さにおいて最大のHEGリンカーと同等である。
【0255】
ハイブリダイゼーションに対する圧倒的な最大の効果として、該ポリdT部分が15塩基のポリA尾を超えた場合、従来のリンカーに対して〜100倍以上の強度が見られる。
【0256】
20塩基の長さのプローブ、並びにポリA尾にハイブリダイズした15塩基及び10塩基の付加的な「スペーサー」からなるポリdT25配列の場合、更なる5 HEGユニットのスペーサーの添加により、ハイブリダイゼーションシグナルが4倍に増加した。対照的に、dT10部分への5ユニットのHEGの添加は、ハイブリダイゼーションを殆ど増加させなかった。この結果から、ポリAで終結する標的mRNAの捕獲に対する長いポリdTスペーサーの添加の有益性が示されている。従来のリンカーと比較して、約300倍の強度の増加が見られる。
【0257】
ポリA/ポリdT相互作用のハイブリダイゼーション進行における重要性及び役割を更に調べるため、ポリA尾を有しないIVT(42B)と、ポリA尾を有するIVT(42A)のハイブリダイゼーション特性が比較された。 同一のスライド上の2つのアレイにおいてハイブリダイゼーションが行なわれた。前記スーパースクリプト(Superscript)IIバッファーがハイブリダイゼーションバッファーとして用いられ、ハイブリダイゼーション温度は42℃であった。該アレイをスキャンした画像が図42に示されている。ポリA尾が存在しない場合(即ち、図42B中)に、総ハイブリダイゼーション量が有意に減少していることは明らかである。
【0258】
20merプローブの5’末端に、dT部分のみで又はHEGスペーサーと組み合わせて導入されたdT部分の長さの増大のハイブリダイゼーション収量に対する効果の2つの標的の比較が、図41に示されている。dT配列が単にスペーサーとして機能するだけのポリA-のIVTでは、dT25での最大値まで比較的微小な直線的な強度増加が見られ、これは、対等な原子数を有するHEGスペーサーを添加した場合に見られる大きさと同程度である。観察された中で最も著しかったものは、dTの長さの増大によるポリA+標的に対する効果であった。dT15又はより短い場合には、、該dT部分はポリA尾と2本鎖を形成できる事実にも関わらず、ポリA+標的のハイブリダイゼーション強度の値は、ポリA-標的のものよりも低いものである。DT部分の長さがポリA尾の長さを超えた場合に、ハイブリダイゼーション強度の指数関数的な増加が観察される。dT25において、前記ポリA尾を有する標的のハイブリダイゼーション強度は、前記ポリA尾を有しない標的の3倍である。
【0259】
dT部分の逆転写収量に対する効果が、測定され、ハイブリッド収量に対する効果と比較された。前記オリゴヌクレオチドプライマーへの5ユニットまでのキサエチレングリコールのスペーサーの導入は、生成物の収量に対して殆ど効果を有しなかった。対照的に、前記固体支持体と20塩基のオリゴヌクレオチドプライマーの間へのポリdT0-25部分の配置は、cDNA生成物の収量に顕著な効果を有していた。図43において、RTとハイブリッドの収量が比較されている。NaCl/ホルムアミド(43A)及びスーパースクリプト(Superscript)II(43B)バッファーの両方において、伸長されたcDNA産物の強度は、前記標的:プローブのヘテロ二重鎖の強度と同等である。より短いプローブでも、同様の効果を示す
【0260】
逆転写におけるポリA/ポリT相互作用の役割が、ポリA尾を有する又は有しないβ-グロビンIVTからの生成物収量の比較により調べられた。実験は、2つの系において重複して行なわれた。1の実験では、有意な伸長が示された(図44)。第二の実験では、21塩基のプローブの20個のいずれからも有意な伸長が示されなかったが、第二の実験においては、何らか理由によりハイブリダイゼーション及び逆転写の両方が失敗に終わったものと思われた。
【0261】
前記オリゴヌクレオチドプローブへ長さの増加するポリdT部分を付加した結果が、図45に示されている。1ないし5ユニットのdT5が、前記オリゴヌクレオチドプライマーの5’側に挿入された。逆転写についての結果は、ハイブリダイゼーションについて観察されたものの近傍を追随していた。
【0262】
全体として、ポリdT:ポリrA相互作用は、特異性を犠牲にしてハイブリッドの安定性及び/又はハイブリダイゼーション率を向上させることで収量を増加させる。しかしながら、逆転写を含むことで、特異性は大きく向上され、高温において殆ど完璧な識別力を提供できる。
【0263】
単一分子の検出
蛍光体の高感度検出のため、スキャナーは、約130nmのピクセル分解能及び300nm(Sparrowの規準を使用)ないし370nm(Raleighの規準を使用)の回折限界分解能において、580nmの波長(Cy3の放出波長)で操作された。従って、該完全回折限界分解能 は、Nyquist規準においても用いることができる。励起波長は532nmであった。該放出光は、市販のドライ顕微鏡光学系を備えた冷却12ビット/ピクセルCCDで回収された。
【0264】
光軸に対して直角なサンプルの位置調整は、直線エンコーダーを用いて100nmの分解能で調節された。 該微小位置調整用ステージは、閉ループ系において能動制御されて操作された。
【0265】
約1 kW/cm2の励起密度を用いた場合、前記均一励起は、ピーク中央部の単一ピクセルにおいて(単一のピクセルを解析した場合に)蛍光色素分子1分子につき約55のCCDカウントを生じる。この結果に要した励起時間は100msであった。 同一条件下でのノイズは、約10カウント/ピクセルであり、単一ピクセル中の単一分子の検出に〜5:1のシグナル/ノイズ比を与える。回折限界スポットが比較的大きいので(大よそ9ピクセル)、S/N比は適切な解析法を用いることでこの値を超えることができる。
【0266】
このスキャナーを用いることで、単一の色素分子からの放出が測定可能である。図61には、最大のレーザー出力において100msの露光時間で単一の水平なサンプル位置から捉えられた100x100ピクセル領域の画像((13μm)2に等しい) が示されている。最終的に色素分子の光退色が見られた。図61に見える小さくて高強度なスポットは、単一のcDNA分子に相当する。
【0267】
図73には、平坦な類似の移行においては、退色が起こらなかったことが示されているが、色素分子が退色又は再放出する時には必ず量子化された。従って、量子化することにより、強度による識別を用いることも可能になるので、分子のカウントは空間的識別のみに依存する必要がなくなる。従って、単一の位置において複数の分子をカウントすることが可能である。
【0268】
オリゴヌクレオチドストライプの形成
上記で議論されたように、種々の方法を用いてオリゴヌクレオチドのストライプを固体支持体の上に固定することができる。
【0269】
図64に例示される方法の1の態様においては、事前に合成されたオリゴヌクレオチドがNHSコートされたガラススライドに共有結合されている。5’末端がCy5で標識された3'-NH2-C7修飾16merが、流路を通って該スライドの表面上を通過した。前記オリゴヌクレオチドは、pH9.0/DMSOの0.2Mリン酸バッファー中にて、0.1-10μMのオリゴヌクレオチドの範囲内の種々の濃度で用いられた。図65には、結果として生じたスライドの蛍光画像が示されており、この装着方法の有効性が確認される。
【0270】
光開裂性の保護基を用いた方法が図66に示されている。図示されるようにアミノコートされた表面が誘導体化される。 生じる光感受性の表面は、適切なマスクでUV光に露光され、感光性の保護基が除去され、反応性のNHS-エステル基のストライプが露出される。該表面は、その後、適切なアミノ修飾ヌクレオチドに晒され、該ヌクレオチドが該表面に共有結合される。図65で使用された蛍光標識プローブも、脱保護に使用された3種類の異なる幅のUVストライプと共に、この方法においても使用されており、その結果が図67に示されている。相補的なCy3標識オリゴヌクレオチドを用いて前記固定化されたヌクレオチドの方向と、そのハイブリダイゼーションにおける利用可能性が確認された。図68に結果を示す。
【0271】
同様の方法は、参考文献32ないし34及び49の電気化学的方法を用いて作られた酸のストライプにある酸反応性の保護基を用いても実施可能である。
【0272】
コンピューターモデリング
幅80μmの流路を通って長さ及び幅が40 x 80μmのプローブパッチ上を流路の高さ及び流速の範囲において流れる標的に対するコンピューターモデルが準備された。250bpの標的の長さに対応して、19μm2/sの拡散係数が用いられた。標的-プローブハイブリダイゼーションについては、無限大のハイブリダイズする速度定数(infinit on rate constant)を、値ゼロの解離する速度定数(zero off rate constant)と共に用いたことにより、前記プローブ表面に到達する全ての標的は迅速にハイブリダイズして、その場に保持されることになる。
【0273】
該モデルによれば、mRNA分子が、12.5μm/sの流速で、高さ1-5μmの流路中にある長さ80μmのパッチを流れて通る場合、99%より多くの分子が捕縛されることになる。該分子がピストン流れ(電気泳動)で移動するか、又は層流(溶液の大量輸送)により移動するかによっては、捕獲の割合に殆ど差がでない。
【0274】
この流速は、2V/cm前後の電気泳動により実現することができる。この流速では、1cmの長さの流路を通って、〜100-200個のプローブを通過するのに約800秒を要するであろう。
【0275】
幅80μmの流路を通り、幅が80μmで長さが10、20及び40μmのプローブ上を流路の高さ及び流速の範囲において流れる標的について、一様な速度分布(ピストン流れ)及び19μm2/sの拡散係数を用いた場合、該モデルは、95%以上のハイブリダイゼーションが迅速に達成可能なことを示す。
【0276】
本発明は、例示することのみを目的として記載されており、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく細部の変更を行なうことが可能であるものとして理解されるべきである。
【0277】
参考文献(これらの全ての内容は、参考文献として本明細書に組み込まれている)
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【図面の簡単な説明】
【0278】
【図1】図1は、複数の流路、細胞捕捉用のテーパー注入口を有し、該テーパーへ細胞を引き込む吸引を使用する本発明に係る装置の例示である。
【図2】図2には、テーパー注入口内に捕捉された細胞が例示されている。
【図3】図3には、図2に代わる、細胞の物理的捕捉用の構造が示されている。
【図4】図4には、電気浸透による物質の移動が例示されている。
【図5】図5には、図1の装置に類似するが、前記テーパーへの細胞の引き寄せに吸引ではなく電気浸透が用いられた装置が例示されている。
【図6】図6には、注入口に捕捉された細胞を溶解する異なる方法が例示されている:(a)溶解溶液の適用;(b)機械的破裂;及び(c)エレクトロポレーション。
【図7】図7には、電位の適用によりテーパー注入口に引き込まれて部分的に引き伸ばされた細胞が示されている。
【図8】図8には、吸引の適用により流路に引き込まれた細胞が示されている。
【図9】図9には、エレクトロポレーションにより、蛍光標識された内容物が取り出され、流路に引き込まれている細胞が示されている。
【図10】図10には、細胞内容物を処理するための膨張チャンバーの作用が例示されている。
【図11】図11には、流路に沿った隣り合うパッチの好ましい配置が例示されいる。
【図12】図12には、流路幅に対する好ましいパッチ幅が例示されている。
【図13】図13には、水平に走る複数の流路及び垂直に走る複数のオリゴヌクレオチドプローブのストライプを有する本発明に係る装置が例示されている。1の流路に沿った断面(X-X)も示されている。
【図14A】図14には、本発明の、連続的な逆転写の局面が例示されている。図14Aには、初期ないし中期段階が例示される。
【図14B】図14Bには、中期ないし後期段階が示されている。
【図14C】図14Cには、どのようにしてこの方法により小さな標識のスポットを増幅できるのかが例示されている。
【図15】図15には、(a)1方向の寸法又は(b)2方向の寸法のいずれかにおいて狭まっていく2種類のテーパー注入口が例示されている。
【図16】図16には、どのようにして装置を組み立てることができるのかが例示されている。流路を有する基板が選択され、その後、該流路に対して垂直にDNAプローブの線が取り付けられている。次に、該装置に蓋が取り付けられて該流路が密封される。図16においては、該蓋は平坦である。
【図17】図17において、図16の蓋は流路の一部を形成する切取られた部分を有する。
【図18】図18には、流路の寸法が例示されている。
【図19】図19には、捕捉部位における細胞小胞体の放出が例示されている。
【図20】図20には、捕捉前の細胞のサイズ分画が例示されている。
【図21】図21には、一連のテーパーを用いた、細胞の大きさに基く分離が記載されている。
【図22】図22には、図20及び図21以外の更なるサイズ分画法が例示されている。
【図23】図23には、流路が中心点から放射状に伸びた装置が例示されている。
【図24】図24には、中心の送出路から反対の方向に伸びた平行な流路を有する装置が例示されている。
【図25】図25には、2つの副流路へと枝分れする流路が例示されている。表示される流路は、円形の断面を有しており、直径は√2だけ減少して一定の断片積を保持している。正方形又は長方形の断面の場合、流路の幅は単純にその半分となるであろう。
【図26】図26には、それぞれ7個の解析用パッチを有する5本の流路が例示されている。矢印で示された4種類のパッチは、共通の解析成分である。
【図27】図27には、大量の転写物にハイブリダイズしたパッチ(「強い」)と、少量の転写物にハイブリダイズしたパッチ(「弱い」)が例示されている。
【図28】図28には、3つのハイブリダイゼーションシグナルを有するスポットをスキャンするレーザースポットが示されている。
【図29】図29には、ハイブリダイズした転写物に対する流動方向の影響が示されており、これにより、真のシグナルから非特異的シグナル(黒くて短い水平の棒線)が区別できる。
【図30】図30には、3種類の異なる流速(ピコリットル毎秒)において、固定化された相補的なDNAのパッチ上に捕獲されたmRNAの分布が示されている。左のグラフは横から見た濃度を示し、隣のパネルは、上から見た濃度を示している。
【図31】図31には、一方にタンパク質が移動し、他方にRNAが移動する枝分れした流路が示されている。
【図32】図32には、細胞の捕獲中における抗体の使用が例示されている。図32Aにおいては、捕捉された細胞は、捕獲用抗体(Y字に例示されている)により保持されている。図32Bでは、管の一端が捕獲用抗体でコーティングされている。
【図33】図33には、本発明に係る装置中の微小流体流路の平面配置図が示されている。
【図34】図34には、PDMSで作られた場合の装置の特徴の拡大された細部が示されている。
【図35】図35には、PDMSで作られた場合の装置の特徴の拡大された細部が示されている。
【図36】図36には、PDMSで作られた場合の装置の特徴の拡大された細部が示されている。
【図37】図37には、DNAマイクロアレイに接続されたインプット管及びアウトプット管を有する装置が示されている。
【図38】図38には、マイクロアレイ上におけるハイブリダイゼーション及び逆転写が示されている。
【図39】図39には、繋がれたオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーション及び逆転写を同時に評価する試験系が例示されている。
【図40】図40には、ハイブリダイゼーション効率に対するオリゴdTの長さの影響が示されている。
【図41】図41には、ハイブリダイゼーション効率に対するオリゴdTの長さの影響が示されている。
【図42】図42には、mRNAにポリA尾が含まれることによるハイブリダイゼーションに対する効果が示されている。
【図43】図43には、逆転写に対するオリゴdTの長さの効果が示されている。
【図44】図44には、逆転写に対するオリゴdTの長さの効果が示されている。
【図45】図45には、逆転写に対するオリゴdTの長さの効果が示されている。
【図46】図46には、単純な装置の構造が示されている。流路はPDMS(1)で作られている。オリゴヌクレオチドプローブの平行なストライプ(3)がスライド(2)に取り付けられる。該PDMS流路は、該スライドの上に、該流路が該ストライプと平行になるように重ねて置かれる。
【図47】図47では、2個の細胞のmRNA内容物が、個別に2本の流路を通過している。逆転写は、その後可視化される蛍光標識の取り込みと共に行なわれる。該異なる細胞は異なる蛍光パターンを示している。
【図48】図48には、微小流体装置内で個々に捕捉された4つの細胞が示されている。
【図49】図49は、各流路が、5 x 4のアレイ状に配置された円形のインプット孔及びアウトプット孔を有する、20本の流路を有する装置の例示である。8本の流路だけが示されている。
【図50】図50Aには、図49の20本の流路のうち10本だけを部分的に通過したインクが示されている。同様の流路を用いた図50Bでは、インクが複数の流路に沿って完全に通過している。
【図51】図51には、装置の7本の隣り合う流路中のハイブリダイゼーションシグナルが示されている。
【図52】図52には、14本のオリゴヌクレオチドプローブのストライプに対して直角に配置された8本の隣り合う流路中のハイブリダイゼーションシグナルが示されている。
【図53】図53には、図33に代わる構造が示されており、注入口の領域だけが示されている。
【図54】図54には、図33に代わる構造が示されており、注入口の領域だけが示されている。
【図55】図55には、図33に代わる構造が示されており、注入口の領域だけが示されている。
【図56】図56には流体コネクタが取り付けられた装置を示す。
【図57】図57には、どのようにして図56種類の装置に電気コネクタが導入されるのかが例示されている。
【図58】図58には、どのようにして図56種類の装置に電気コネクタが導入されるのかが例示されている。
【図59】図59には、インサイチュ(in situ)逆転写後の第二鎖cDNAの合成が示されている。
【図60】図60には、種々の処理を施したアレイに対するmRNAのハイブリダイゼーションが示されている。
【図61】図61には、表面の100x100ピクセルの領域の画像が示されている。X軸及びY軸は、μmでの位置を示す。右側の勾配は、任意の均等目盛上の蛍光強度である。
【図62】図62には、第二鎖cDNAの合成を伴う実験の結果が示されている。
【図63】図63には、キーイングレイヤー(keying layer)(Cr又はTi)と不活性な電極材料(Ir)の間のガルバニックエレメント(galvanic element)の形成が示されている。OxはO2、I2又はH2O2であってもよい。
【図64】図64には、事前に合成された核酸の活性化された表面への結合が示されている。図64では、該核酸は物理的手法を用いて表面に閉じ込められている。
【図65】図65には、図64の方法により取り付けられた核酸の蛍光が示されている。
【図66】図66には、事前に合成された核酸の活性化された表面への結合が示されている。図66では、該表面はUV光を用いて選択的に活性化されている。
【図67】図67には、図66の方法により取り付けられた核酸の蛍光が示されている。
【図68】図68には、図66の方法により取り付けられた核酸の蛍光が示されている。
【図69】図69には、トリパンブルー(Trypan Blue)による死細胞の染色の後に、本発明に係る装置内で捕捉された細胞が示されている。
【図70】図70には、トリパンブルー(Trypan Blue)による死細胞の染色の後に、本発明に係る装置内で捕捉された細胞が示されている。図70では、生細胞の一部が流路内へと伸びている。
【図71】図71には、図53の装置内を移動する液体の前部が示されている。該前部は、一様に流路に侵入している。
【図72】図72には、本発明に係る装置の送出路、試薬供給路及び細胞捕捉部位のビデオ映像からの6つの静止画像が示されている。BないしFのフレームでは細胞は丸で囲まれており、進入してから捕捉されるまでの細胞の移動が示されている。
【図73】図73には、図61に示される支持体上の3点の任意に選択された位置における10秒間(X軸)に亘る蛍光強度の経時的追跡が示されている。それぞれ最大のレーザー出力において、100msの露出時間を用いて100枚の画像が収集された。デジタルレベル(即ち、蛍光色素分子の数)が、水平の直線により示されている。
【背景技術】
【0001】
本明細書で引用する全ての文献及びオンライン情報は、その全てにおいて参照により組み入れられるものとする。
【技術分野】
【0002】
本発明は細胞の解析、特に、単一の細胞の解析の技術分野に関する。
【0003】
細胞及び組織の生化学的キャラクタリゼーションについては多くの方法が存在する。電気泳動、クロマトグラフィー、質量分析、マイクロアレイ等のような方法を用いて細胞又は組織の分子組成物が解析される。このような解析の結果は、例えば、疾患状態を示すこともあり得る。殆どの場合、解析は細胞を溶解してその内容物を放出した後に行なわれ、単一の細胞を単離することが困難であること、及び通常の検出方法が単一の細胞の内容物を測定できる程に高感度でないことから、通常は数多くの細胞を用いることを必要とする。
【0004】
しかしながら、全て同じ状態にある細胞を含む生物系を見つけることは稀である:実験室で人工的に同調された細胞であれば均一性に近づくかもしれないが、自然な状態では、同じ種類の細胞であっても、例えば、細胞周期の異なるステージにある等、異なる状態にあるであろう。従って、典型的な解析は、解析された細胞達の平均を表している。
【0005】
いずれかの系の状態をより完全に説明するためには、単一の細胞を解析することが有益となるであろう。例えば、ヒトの多くの疾患状態は白血球に変化を引き起こし、ホジキンリンパ腫では個々のリンパ球の遺伝子発現パターンが、その細胞集団全体のものを代表するものではないことが証明されている[1]。従って、細胞の混合物の解析は、該混合物中の不均一性を覆い隠してしまい、恐らく該疾患状態の理解に重要となるであろう情報を提供することができない。微妙な、しかし重要な細胞間の差異は、実験上のノイズの中に失われてしまう。
【0006】
生物学及び医学においては、単一の細胞の解析が集団又は集合全部の解析よりも有益となる例が多くある。生物の増殖及び分化に伴う分子的変化を説明することは、発生生物学の主たる目的である。定義の上では発生学的研究は単一の細胞から始まる。生きた細胞におけるプロセスは、組織化して刺激に対して反応するシステムとなる:このようなシステム及びその制御を研究するためには、多くの細胞中にある、これに伴う分子-mRNA、タンパク質、代謝産物等-の濃度を測定する必要がある。疾患状態は、往々にして細胞及び組織の組成に反映される。ガン細胞は、mRNA及びタンパク質レベルで発現する遺伝子において、対応する正常な細胞と異なっている。胎児の血液細胞は、母親の循環系に逃げ込むことが可能であり、母親の細胞とは別個に分析されなければならない。自己免疫疾患及び感染症は白血球の組成の変化を生じる。循環する白血球はそれ自体が不均一なものであり、好中球、リンパ球、単球及び血小板を含む複数の異なる機能型を含んでいる。このような細胞の集合体の分子組成の説明は、生物学的なシステム及びプロセスの根本的な理解を促進し、さらに疾患の原因及び治療に対する研究に情報を与えることができる。
【0007】
参考文献2では、「ケミカルサイトメトリー(chemical cytometry)」という用語を作り出して、単一の細胞の研究に対する高感度な化学的解析技術を用いた単一細胞の研究が記載され、そして参考文献3は、単一細胞解析の基本的な特徴についての総説である。参考文献4は、単一細胞解析用のマイクロテクノロジー及びナノテクノロジーの総説である。また、参考文献5には、単一細胞を操作するための微小流体装置が記載されている。単一細胞の単離装置は、参考文献6及び7に開示されている。
【0008】
単一の細胞、特にそのゲノム、トランスクリプトーム及びプロテオームを解析するための、更なる改良された装置及び方法を提供することが本発明の目的である。
【発明の開示】
【0009】
本発明は、一般的に、細胞の内容物の個々の解析を可能とする装置内における簡便な個々の細胞の単離方法を提供する。単一の細胞は、捕捉され、その内容物が放出され、そして、その後個々の細胞の内容物は、例えば、固定化された核酸プローブ、固定化された抗体等の、適切な解析成分を含む流路に沿って解析される。従って、単一の細胞のゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム等の解析が可能になる。更に、同一の装置に複数の流路を配置することにより、同時に複数の細胞を並行して処理して解析することが可能であり、細胞集団中の個々の細胞を直ちに、そして簡便に比較することが可能となる。該複数の流路が共通のインプット路を用いる場合でも、細胞集団は、容易に単一細胞へと分離可能であり、各流路に1つの細胞が入る。
【0010】
従って、本発明は、
− インプット端及びアウトプット端を有し、対象細胞の内容物を受容するための流路と、
− 前記流路の前記インプット端の近傍にある細胞捕捉部位
を具備する、対象細胞を個々に解析するための装置であって、
− 前記流路の前記インプット端は、その使用の間に、無傷の前記対象細胞は入ることができないように構成されており、
− 前記流路は、前記対象細胞の内容物を解析するための1又は2以上の解析成分を含み、そして
− 前記対象細胞の前記内容物は、前記インプット端から前記アウトプット端に向かう方向に、前記流路に沿って移動することができる、対象細胞を個々に解析するための装置を提供する。
【0011】
使用に際し、細胞は、前記装置に注入され、前記細胞捕捉部位にて捕捉される。該細胞は、前記解析流路に無傷で進入することができないが、その内容物はその場所で(in situ)放出されて、前記インプット端から該流路に進入することができる。その後、該内容物は、前記解析流路に沿って移動することが可能であり、該流路において前記解析成分と遭遇することにより、該細胞内容物の解析が可能となる。
【0012】
上述したように、好ましい態様では、前記装置は、複数の細胞の内容物を別々に並行して解析できるように、複数の流路を有する。従って、本発明は、
− 各流路が、インプット端及びアウトプット端を有し、各流路が、単一の対象細胞を受容するためにある複数の前記流路と、
− 各流路の前記インプット端の近傍に細胞捕捉部位を具備する、対象細胞を個々に解析するための装置であって、
− 各流路の前記インプット端は、無傷の前記対象細胞は入ることができないように構成されており、
− 前記流路は、前記対象細胞の内容物を解析するための1又は2以上の解析成分を含み、そして
− 前記対象細胞の前記内容物は、前記インプット端から前記アウトプット端に向かう方向に、前記流路に沿って移動することができる、対象細胞を個々に解析するための装置を提供する。
【0013】
前記流路を使用する間、異なる流路内の細胞が相互に実質的に同一な処理及び解析を別々に受け、結果の直接的な比較が可能となるように、前記流路が、相互に実質的に同一(例えば、寸法、材料、解析成分等において)であることが好ましい。該流路は、相互に平行であることが好ましい。しかしながら、これに代わる構造においては、流路は中心点から放射状に伸びていてもよい(図23)。また、平行な流路を、中心点から異なる方向に伸ばすように配置することも可能である(図24)。しかしながら、電気的動性による物質の移動がより容易に実現することから、流路が同一方向に走る配列が好ましい。流路が、送出路から異なる方向に走る場合、異なる流路において等しい移動を実現するためには、バルブ等が必要となるであろう。
【0014】
異なる細胞について同一の個々の実験を並行して行なうことは、特に有効であり、一見同一な細胞内の差異を直ちに検出させる。従って、本発明は、各流路が、単一の対象細胞を受容するためにある複数の前記流路を含む複数の細胞を個々に解析するための装置であって、各流路が、該流路内に沿った一連の解析成分を含み、かつ1の流路内の該一連の解析成分が他の流路のものと同一である装置を提供する。従って、異なる細胞が、その遭遇する流路に関係なく、共通した解析を経ることになり、1の流路からの結果は、直ちに直接的に、他の流路の結果と比較することができる。
【0015】
本発明は、インプット端及びアウトプット端を有し、該インプット端は無傷の対象細胞が進入することができないように構成されている流路のインプット端の近傍に対象細胞を捕捉する工程と、前記細胞の内容物が前記流路の前記インプット端に入るように該内容物を放出する工程と、放出された内容物が前記流路中の1又は2以上の解析成分と相互作用するように、該内容物を前記インプット端から前記アウトプット端に向かって移動させ、それによって該内容物の解析を可能とする工程とを含む、個々の対象細胞を解析する方法を提供する。
【0016】
本発明は、各流路がインプット端及びアウトプット端を有し、該インプット端は無傷の対象細胞が進入することができないように構成されている複数の流路のインプット端の近傍に個々の対象細胞を捕捉する工程と、前記細胞の内容物が個々に前記流路の前記インプット端に入るように該内容物を放出する工程と、放出された内容物が前記流路中の1又は2以上の解析成分と相互作用するように、該内容物を前記インプット端から前記アウトプット端に向かって移動させ、それによって該内容物の解析を可能とする工程とを含む、複数の個々の対象細胞を解析する方法を提供する。
【0017】
本発明は、本発明は、複数の個々の細胞の内容物を個々に放出する工程と、該個々の内容物を単一装置内の個々の流路に注入する工程を含む複数の個々の対象細胞を解析する方法であって、各流路が、一連の解析成分を含み、かつ1の流路内の該一連の解析成分が他の流路のものと同一である方法を提供する。
【0018】
異なる解析においては、本発明の範囲内にある異なる装置を要してもよい。例えば、異なる細胞の種類は、異なる寸法を有する装置を要するであろう。例えば、プロテオソーム解析とトランスクリプトーム解析、又は細胞周期の解析と細胞シグナル解析等、同じ種類の細胞についての異なる解析では、異なる解析成分を用いるであろう。装置は、先の実験データに基いて設計してもよく、先の実験に依存した異なる方法で使用されてもよい。例えば、装置が最初の実験で有用なデータを提供できなかった場合、以後の実験において、竜六、操作温度、解析成分の種類などを変更することができ、そして、下記でより詳細に説明されるように、シグナル増幅技術を用いることもできる。従って、異なる実験では、その所望の解析に依存して、ここに記載される異なる特徴を用いることができる。
【0019】
装置
本発明の装置は、解析流路、細胞捕捉部位等を含む複数の特徴を備える。これらの特徴は、個別の構成要素を組み立てるか、そして/又はそれらを材料の一部分から形成すること(例えば、鋳造、エッチング等)により形成することができる。本装置の寸法は細胞用の範囲内となるので、典型的には微小製造法が用いられることになる。有益なことに、ここに記載される種々の特徴は、統合された装置を形成する。
【0020】
本装置の材料の選択は、数多くの設計的見地の影響を受け、そして適切な材料は、当業者が特定の装置の必要性に基いて直ちに選択することができる。例えば、前記材料は、微小製造に従順であり、細胞操作解析で用いる試薬に対して安定であり、そして細胞及び分子の観察並びに測定に用いる方法に対応可能であるべきである。
【0021】
解析中に用いる試薬に対して不透過性の材料が一般的に用いられることになる。用途によっては、材料の表面に試薬を共有結合させることを要するであろう。また、用途によっては、硬質の材料を用いることが望ましいであろう;また他の用途では柔軟性のある材料を必要とするであろう。検出に蛍光が用いられる場合には、前記材料は、励起波長及び放出波長に対して透過性であり、また、これらの波長において低い潜在的蛍光性を有しているべきである。電気浸透を用いて物質を装置中で移動させて回る場合、前記材料は使用中に帯電しているか、又は帯電可能であるべきである。例えば、当業者は、シリコン、ガラス及びPDMSを適切なシラン処理剤で誘導体化することにより、これらの表面に正又は負の電荷を与えることを選択できる。照射するエバネッセント波を伝播可能(内部全反射により)な材料は、特定の検出技術へ好ましく用いることができる。
【0022】
適切な材料及び製造方法は周知である。微小製造法に長年用いられてきたシリコン及びガラスのような硬質な材料を用いることもできる。ポリジメチルシロキサン(PDMS)のようなポリマーの装置を形作る特性を利用した「ソフトリソグラフィー(soft lithography)」における最近の進展により、細胞スケールの微小流体装置の製造に便利な方法を使用できるようになった(例えば、参考文献8には、複数層のソフトリソグラフィーにより形成された、蠕動ポンプ、ダンパー、スイッチバルブ、インプットウェル及びアウトプットウェルを含んで協調的かつ自動的にセルソーティングを行い、僅か1plの起動されたバルブの活動体積及び〜100flの光学インタロゲーション(optical interrogation)の体積を有する統合された微小製造セルソーターが開示されている)。このような装置は、本発明の装置の流路に類似する流路を有し、蛍光測定用のレーザーで照射されるフローセルのような、本発明のいくつかの態様で用いられる他の特徴を取り込んでいる。
【0023】
従って、本発明の装置は、これらに限定されるものではないが、酸化ケイ素、ポリマー、セラミック、金属等及びこれらの混合物を含む種々の材料から作ることが可能である。使用可能な具体的な材料には、これらに限定されるものではないが、ガラス;ポリエチレン;PDMS;ポリプロピレン;及びシリコンが含まれる。PDMSは特に有用な材料であり、前記装置は、鋳造、射出成形又はUVパターニング及び硬化により簡便に作ることができる。
【0024】
流路及び細胞捕捉部位に加え、装置の他の特徴として以下のものが含まれていてもよい:
- 該細胞捕捉部位と連通した送出路。細胞は、該送出路を通じて前記装置に導入することができ、そこから前記細胞捕捉部位に接近して捕らえられ、また、その後該細胞捕捉部位から細胞の内容物は解析流路へと入ることができる。捕捉されなかった細胞は、送出路の廃棄端から流し出すことができる。、複数の流路を有する装置の場合、異なる流路の全てが同一の供給源からの細胞を受け取るので、共通の送出路を用いることが特に有用となる。前記流路が互いに平行である場合、前記送出路は該流路に対して直角に走っていてもよいが(例、図1)、これに代わる配置では、該流路に対して平行な送出流路へ枝分れしてもよい(例、図53及び54)。偶発的な溶解を最小にするため、送出路は、例えば、25-250μmの高さを有する等、その全ての寸法において解析される細胞よりも大きくあるべきである。
- 細胞、特に捕捉した細胞に化学試薬(例えば、溶解試薬又は化学的刺激)を与えるための、前記細胞捕捉部位と連通した試薬供給路。該試薬供給路は、前記送出路と同じであってもよく(例、図1)、又は前記送出路と別個のものであってもよい(例、図53及び54)。前記解析流路が互いに平行な場合、該試薬供給路は、これらの流路に対して典型的に直角に走ることになる。
- 前記解析流路のアウトプット端と連通した排出口。前記流路から放出される物質は、そのまま廃棄口へ向かわせることができる。また、排出口を用いて流路内の流れを調整することもできる。
- 1又は2個以上の電極。電極を用いて、装置を横切る電位、特に解析流路に沿った電位を生じさせて、例えば、細胞を電気的動性により移動させて電気泳動させること等が可能である。前記装置は、これに代わるものでは、外部電極と連結するための接触部を含んでいてもよい。
- 細胞を溶解するための圧電装置。
- 例えばレーザーなどの光源。これは、例えば、細胞溶解、流路内でのメニスカスの進行の観察、蛍光体の励起等、種々の目的に用いることができる。
- カメラのような画像取得構成部。これは、静止画像及び/又は動画を取得するものでもよい。典型的にはデジタルカメラとなる。
【0025】
前記装置が複数の流路を含む場合、これら流路は、一般的には、隣同士で単一の平面内に配置されることになる。該流路が三次元的に配置されるように、流路の平面を積み重ねることも可能であるが、製造の容易性(特に解析流路の内側への試薬の塗布)及び結果の収集(特に流路内の解析データの解読)から、実質的に平面的な流路の配置が好ましいことになる。しかしながら、前記装置全体としては、前記流路の平面を越えて広がるものでもよく、例えば、送出路、排出口等は、前記流路の平面の外側にあってもよい。
【0026】
細胞捕捉部位
本発明に係る装置は、単純に流路に細胞を拡散させて解析用の物質を提供することに依存するのではなく、細胞捕捉部位を含む。細胞は、それらの内容物が解析用に放出された場合に、それらが個別の流路に入り込めるように個別に捕捉される。従って、細胞捕捉部位は、細胞の内容物が放出された時にインプット端を介して該流路に入れるように、流路のインプット端に物理的に連結されて該インプット端近傍に位置する。
【0027】
前記細胞捕捉部位は、単一の細胞のみを捕捉できるように構成することができる。これは、目標の細胞を一個だけ収容できる寸法を用いること、及び/又は、1個の細胞が捕捉されると更なる細胞を捕捉できなくなる細胞捕捉部位を用いることにより実現されることになる。
【0028】
細胞捕捉部位は、その内容物が放出されて解析流路に入るように細胞を捕捉できるのであれば、種々の形状をとることができる。単純な装置においては、該細胞捕捉部位は前記解析流路のインプット端にあって前記解析流路への入り口となっていてもよい。例えば、ガラス製のマイクロピペットの端部において細胞を捕捉することが知られている。しかしながら、一般的には、解析流路のインプット端の手前においてテーパーが付けられた注入口の形状を取り、細胞が侵入できる程の大直径及び細胞が出て行けない程の小直径(例えば、ヒトのリンパ球であれば15μm及び3μm;更に下記を参照)を有することになるであろう。従って、参考文献9に報告されるように、1個の細胞は該テーパー注入口に入ることが出来るが、前記解析流路へ続いて入ることはできない。前記テーパーの小直径は、解析流路へと直ぐに通じていてもよい。図1及び2参照。前記テーパーは、1方向の寸法又は2方向の寸法に付けられていてもよく、例えば、前記テーパーは、一定の高さと尖鋭化する幅(図15A;また図35)を有することができ、又は先鋭化する高さ及び幅(図15B)を有することもできる。前記テーパーは、直線であってもよく(例、図2)、又は非直線であってもよい(例、図70)。また、前記テーパーは、平滑化されていてもよく、段が付いていてもよい。テーパーによる細胞捕獲方法の更なる有益性は、下記の更なる詳説に記載されるように、細胞の小さな一部分を該テーパーの下流方向へ引き伸ばす能力に起因する(図8及び70も参照)。テーパーと同様の効果は、細胞がその部位には入れるが下流へ続くことができないように、最初は(少なくとも部分的に)その下流端において閉じているが、後で(例えば溶解後)開かれて(例えばバルブの使用により)、下流へ向けた更なる移動を可能とする部位を有することにより実現可能である。
【0029】
物理的に細胞を捕捉する更なる方法が図3に例示される。図3Aでは、テーパー状のものではなく直径の段状な減少が用いられている。図3Bでは、流路にバッフルが配置されて、細胞が移動するに伴って細胞が捕獲されるようになっている。図3C、3D及び3Eでは、ポストが流路を横切って配置され、これらポストにより細胞が捕獲される。
【0030】
該捕捉部位は、単一の細胞が、使用者により所定位置に移動されるのではなく、該装置中の流体の流れにより捕獲されることを可能とする。細胞捕捉部位の占有は無作為なものとなるであろうが、特にテーパー注入口を用いる場合には、例えば動力又は引力を用いること等により助力されていることが好ましい。例として、電気的(例えば、電気浸透的な;更に下記を参照)又は機械的(例えば、簡便に前記解析流路を通じての吸引)な力を加えて、細胞の捕捉部位への進入を促進することができる。この力により、解析開始時に全ての細胞捕捉部位が占有される可能性を高め、該細胞捕捉部位が占有される過程を加速して、効率的な解析を促進することが出来る。吸引圧を用いて、流路への入り口での単一細胞の水力学的捕捉を促進すること(図8)が、参考文献10に記載されている。電位を用いて個々の細胞を移動させることは、コールターカウンターからも知られている。
【0031】
同一の捕捉部位に複数の細胞が引き寄せられるのを防止するため、捕捉部位が占有されると、捕捉部位への引力が途絶えるように構成することができる;これに加え、細胞捕捉部位から細胞が逃れた場合には、前記引力が回復することになり、例えば、吸引が用いられる場合には、捕捉された細胞が吸引をブロックして更なる細胞が引き寄せられるのを止めることが出来るが、細胞が離れると吸引が再開され、該離れた細胞を再び引き寄せることが出来る。
【0032】
細胞捕捉部位への細胞の電気浸透的な移動については、一般的に、該捕捉部位の上流(例えば、送出路中)にカソードを、そして下流(例えば解析流路の下流)にアノードを有する装置に電位が加えられる。典型的に1-2v/cmの電位勾配は細胞溶解を生じさせるので、細胞を無傷に移動させるために使用する電位は、これよりも低く、例えば、0.1-0.3v/cm程になる。電気浸透により移動する細胞は、テーパー捕捉部位に進入し、該テーパーの狭い末端へと移動して、そこで捕捉されることになる。テーパーがブロックされると、もはや電流が流れることができず、電気浸透が止まることになる。しかしながら、該細胞が、該テーパーの狭い末端から離れた場合、電流が回復し、該細胞は再びアノードに向かって移動して再び捕捉されることになる。従って、電気浸透により効果的な細胞の捕捉が可能となる。図5参照。
【0033】
細胞捕捉部位の占有は、細胞を保持する方法を取り入れることで促進できる。これは、細胞を能動的に引き寄せるものではないが、細胞が該細胞捕捉部位を占有すると、細胞を所定位置に保持し続けることになる。細胞を保持する方法の例としては、対象細胞上の細胞表面分子を認識する固定化された抗体が挙げられる。図32参照。
【0034】
従って、一般的には、細胞捕捉部位のkon及び/又はkoffは、例えば、吸引の使用(konを向上させる)又は固定化された抗体の使用(koffを向上させる)等により、単一の細胞を流路のインプット端近傍で捕捉することの全体的な目的に合せて操作することが出来る。
【0035】
参考文献10には、選択的に単一の細胞を不動化させることが可能な、個々の横向きの細胞捕捉部位を有するPDMSから形成された微小製造装置が開示されている。ウェルに単一細胞を捕捉して、マイクロバブルを用いてこれらを放出するMEMS装置が参考文献11及び12に記載されている。参考文献13には、単一の捕捉された細胞のパッチクランプ解析用にシリコンウエーハーから形成され、1μm、3μm及び10μmのノズルサイズを有する微小製造装置が報告されている。しかしながら、単一の細胞は、物理的な捕捉部位を用いるのではなく、例えば、対立する電気的動性及び圧力駆動性の力の使用による非接触的方法により捕捉される[26]。
【0036】
参考文献14には、キャピラリー管及び静電場を用いた単一細胞の捕捉と操作が記載されている。単一細胞は、キャピラリー管から出てくる電気浸透の流れに逆らって、電気泳動的動力により該キャピラリー管へと移動する。キャピラリーで細胞を捕捉した後、逆の電圧を加えることで、該細胞は微小貯蔵室へと引き抜かれていく。該微小貯蔵室に負の電圧が加えられた場合、該微小貯蔵室内の細胞は、静電反発力により比較的長時間浮流し続けることが出来る。
【0037】
好ましい構造において、装置には、テーパーの付いた注入口が含まれ、細胞(例えば、送出路から来る)が電気的動性、特に電気浸透の使用によりここへと移動される。該細胞は、その後細胞の内容物が解析される流路の入り口でもある該テーパーの底部に物理的に捕捉される。
【0038】
細胞の内容物の放出
細胞が捕捉されたら、その内容物は例えば細胞溶解などにより放出することが出来る。該内容物は種々の方法により放出できる。例えば、溶解溶液を装置に注ぎ(例えば、送出路を通じて)、そして細胞は細胞捕捉部位内でインサイチュに(in situ)溶解されることになる(図6A)。また、これに代わるものとして、例えば、参考文献15に記載される「ナノスケールのとげ(nanoscale barbs)」を用いて捕捉された細胞を機械的に破裂させるように前記細胞捕捉部位を構成することも可能である。更にこれに代わるものとして、エレクトロポレーションにより細胞の内容物は取り出すことが可能であり(図6C)、エレクトロポレーションに用いる電場の大きさに依存するが、簡単に細胞膜が開けられて細胞の内容物の入手を可能にすることもでき、又は破裂させて細胞溶解へ至らしめることも出来る[16]。溶解させるのに十分強力な電場が好ましい。
【0039】
典型的な使用可能な溶解溶液には、以下のような成分が含まれていてもよい:例えば、核酸を解析する場合には、SDSのようなイオン性洗剤であり、又はタンパク質を解析する場合には、Triton-X100のような非イオン性洗剤といった表面活性剤;例えば、プロテイナーゼKのようなタンパク質を消化する酵素;例えば、DNase及び/又はRNaseのような核酸を消化する酵素;例えば、グアニジニウムイソチオシアネートのようなグアニジン塩等の酵素を不活化して細胞組成物を可溶化させるカオトロープ(chaotrope);等。このような試薬は、大量の細胞を溶解する既存の手法において一般的に用いられている。試薬の選択は、対象の被検体の性質に依存し、例えば、mRNAの解析が目的の場合、該溶解溶液にはプロテアーゼ及びDNaseは含まれていてもよいが、mRNAを分解する試薬は含まれていてはならない。
【0040】
単一細胞の機械的破裂が記載されている。参考文献17には、衝撃波を生じさせることで単一の細胞(又はその細胞組成物)を迅速に溶解する方法が記載されており、該細胞は、操作による外傷を最小化するためにレーザーピンセットにより配置されるか、又は接着細胞として培養されている。レーザー光でも可能であるのと同様に、細胞を溶解するために、装置に先に単一の細胞の溶解に用いられた超音波振動を加えることもできる[18、19]。浸透圧性のショックによる微小流体装置内での単一細胞の溶解が、参考文献20に報告されている。参考文献21には、電気泳動及び電気浸透により流動性の制御が可能な微小流体網様構造の異なる領域への、光ピンセットを用いた単一細胞の運送及び操舵が記載されている。細胞は、2つの電極の間に捕獲され、そこで電気パルスにより溶解されることが可能である。
【0041】
エレクトロポレーションを用いて少数の細胞を溶解する微小流体装置が報告されており、複数の金属性ポスト及び狭い流路を含む装置が用いられている[22、23]。内容物を取り出すための単一細胞のエレクトロポレーション法も記載されており、例えば、参考文献10及び24を参照されたい。参考文献10及び24の焦点は、物質の細胞内への輸送を促進することであるが、図9に示されるように、細胞膜の開けることにより双方向の輸送が可能となるので、同一の原理が細胞内容物の取り出しに対しても適用される。ヒト細胞は、その内容物の取り出しのために低度の印加電圧(<1ボルト)を用いてインサイチュ(in situ)にエレクトロポレーションすることが出来る。エレクトロポレーション前に個々の細胞を捕捉し、細胞の小さな一部分を前方に引き伸ばすことにより、最大電圧降下が該細胞の膜先端を横切って生じるように電場が集中するので、低電圧での局所的エレクトロポレーションが実現できる。抵抗は表面積に反比例するので、該細胞の引き伸ばされた小さな部分は、広がっていない部分よりもより一層高い抵抗(例えば、少なくとも50倍は高い)を有する。従って、最大電圧降下は、該細胞膜の引き伸ばされた部分を横切るように生じる。低印加電圧でも、脂質二重膜の絶縁耐力に関する参考文献25に報告される範囲(300-1000 kV/cm)にあるような、膜先端を横切る高電場(例えば、500kV/cmよりも高い)によるエレクトロポレーションを十分に実現することができる。この方法により細胞の最大の部分的な引き伸ばしを実現するために、前記細胞捕捉手段はテーパーを有し、より好ましくは2方向の寸法においてテーパーを有しているが好ましい。図7を参照。
【0042】
単一細胞のエレクトロポレーションは細胞の内容物を放出する好ましい方法である。
【0043】
前記装置内の解析用試薬に細胞内容物を加える前に(又は、いくつかの解析が行なわれた後であるが、該解析が完了する前に)、該内容物から特定の成分を取り除き、更に/又は特定の成分を修飾することが望ましい場合がある。生化学的解析は、往々にしてこのような被検体と試薬との相互作用又は結果の入手若しくは解釈を妨害する可能性のある物質を取り除く精製又は修飾工程により進められる。しかしながら、本発明の1つの局面は、これらの除去工程を必ずしも必要としないことである。mRNA被検体は、確実に捕獲され、細胞内容物のバックグラウンドに対しても検出可能なハイブリダイゼーションが可能であることが判明した(例、図60及び62を参照)。従って、本発明は、(i)細胞の内容物を放出する工程;及び(ii)固定化された核酸へのハイブリダイゼーションにより該放出された内容物からmRNAを捕獲する工程を含み、ここで工程(i)及び(ii)の間にmRNAの精製工程が存在しない、1又は2個以上の対象細胞を個別に解析する方法を提供する。従って、工程(ii)は、放出された細胞内容物、工程(i)で使用される溶解試薬等の存在下で行なうことができる。
【0044】
しかしながら、除去工程が含まれる場合には、該工程を行なうにあたり、2つの好ましい位置がある。第一の態様では、装置は、流路のインプット端の上流(例えば、前記細胞捕捉部位と前記流路のインプット端の間)又はインプット端の直ぐ下流に膨張チャンバーが含むことができる。細胞の内容物は、前記膨張チャンバーに進入することが可能であり、例えば、該細胞の内容物が侵入すしたのと同じルートを通じて処理試薬を該膨張チャンバーに導入することも可能である(図10)。膨張チャンバーの使用により、前記溶解された細胞が捕捉部位に残っている場合に起こりうるように、放出された内容物が拡散して前記送出路に戻ることが回避される。第二の態様では、処理試薬は、膨張チャンバーを要することなく、解析流路に沿って導入することが可能である。
【0045】
更なる態様では、流動が続く間、細胞を前記装置の中に停止させておくことができる。例えば、参考文献26には、対立する電気的動性による力と圧力駆動性の力を用いて微小流動装置内で細胞を停止させることが記載されている。細胞が非接触的方法により捕捉されて静止し続ける限り流動を継続することが可能であるから、処理試薬を該動流体に導入して該静止した細胞に適用することも可能である。異なる細胞では、この方法による捕捉のために異なる機能的電場及び加圧力を要する場合があり、例えば、pH7のTrisバッファー(μeof=4x10"4cm2/Vs)中では、大腸菌は電気浸透による流れに逆らうことができるが、酵母は流れに従ってしまうので、大腸菌細胞では、酵母細胞の場合と比べて、大きなμeofを有するバッファーを要することが分かった。
【0046】
適切な処理試薬としては、これらに限定されるものではないが、以下のものを挙げることができる:ヌクレアーゼ(例えば、DNase)、プロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、カチオン交換体、アニオン交換体、洗剤、カオトロープ等。これらの試薬は、前記細胞の内容物が放出された後に前記装置に導入してもよく、又は事前に所定の場所に有ってもよい。好ましい構造では、処理試薬は、例えば、該装置の内部表面に固定化された酵素、粉末状態にある樹脂の充填物又はフリッツ等として該装置内に固定化されている。
【0047】
前記処理試薬は、前記細胞の内容物を処理してタンパク質及びDNAを除去し、解析用のmRNAを濃縮して残すように調整されていることが好ましい。しかしながら、上記で指摘したように、この除去は必ずしも必要ではない。
【0048】
解析用試薬と作用する前に該細胞内容物中の成分を分離することも可能である。例えば、流路にはmRNA特異的な捕捉用試薬(例えば、固定化されたポリT核酸)を含むことができる。他の細胞成分(例えば、タンパク質)は前記mRNA特異的な捕捉用試薬を通過して移動し続けることになり、その後、前記流路内の解析用成分と作用することができる。核酸のハイブリダイゼーションが乱された場合(例えば、温度が上昇したり、塩濃度が低下したりする等)、mRNAは放出されることとなり、該流路下流のタンパク質を追うことができる。ある階層の細胞成分を可逆的に捕獲する(例えば、DNA、タンパク質、mRNA、糖鎖等を捕捉するため)が、他のものを通過させる、その他の試薬も同様に用いることができる。
【0049】
捕捉及び溶解の間の時間は、例えば、捕捉後の細胞分裂を防ぐためにも、短いことが好ましい。これに代わるものとして、前記装置を低温下(例えば、2-8℃)で用いて細胞分裂及び他の細胞プロセスを阻害することができる。
【0050】
流路への細胞の送出は、溶解が始まる前に停止しているべきであることが好ましく、そうでないならば、既に使用されている細胞捕捉部位に第二の細胞が捕捉されて、2個以上の細胞の内容物が流路に侵入してしまうかもしれないというリスクが存在することになる。
【0051】
流路
本発明に係る装置には、その下流において細胞の内容物が解析のために通過する流路が含まれる。該流路は、インプット端及びアウトプット端を有する。該インプット端は、捕捉された細胞から放出された細胞の内容物を受容する。該細胞内容物は、該流路に沿って該インプット端からアウトプット端へと移動する。該アウトプット端において、残存する細胞の内容物は(該流路に沿って調製プロセス及び/又は解析プロセスが行なわれた後に)、該流路から抜け出ることができる。
【0052】
前記流路のインプット端は、無傷の対象細胞は進入することができないように構成される。これは、典型的には、該インプット端が該対象細胞よりも小さくあることで実現されることになる。細胞は剛体ではないので、該細胞の一部を該流路内へと引き伸ばすことができるが(図7及び8)、しかし、細胞全体は無傷のまま該流路内へと進入することができない。
【0053】
該流路のインプット端は、前記細胞捕捉部位の直ぐ下流にあってもよい。これに代わる配置では、該細胞捕捉部位及び該インプット端は、中間領域により隔てられていてもよい。例えば、この中間領域は、細胞の内容物が解析前に試薬で処理されるために通過することができる膨張チャンバーの形をとってもよい(上記参照;図10)。
【0054】
解析流路の寸法は、装置の性能に重要な影響を与えることになる。該寸法は、細胞の進入を防ぐためだけではなく、前記細胞内容物から放出された分子が拡散して該流路内の解析成分と遭遇するまでに要する距離を減少させる点においても重要である。寸法についての更なる詳細を以下に示す。
【0055】
流路は典型的には、実質的に一定の断面積を有することになり、さらに実質的に一定の断面形状を有することが好ましい。断面積の変化は、通常好ましくない流路内の流速の変化を生じさせる。下記により詳細に説明するように、長方形の断面積が好ましい。
【0056】
電気浸透を用いて流路に沿って物質を移動させた場合、使用中に該流路の少なくとも1つの壁面は適切に電荷を帯びた表面を有することになる。該電荷の極性及び大きさは、いずれかの特定の解析に所望される移動方向及び移動速度に依存して選択することが出来る。極性は、該流路の作製に用いる基礎的材料、及びあらゆる表面に装着された材料(例えば、固定化された核酸)の両方、並びにあらゆる表面修飾に依存するであろう。流路の1つの壁面に正に帯電した材料が用いられ、そしてDNA及び/又はmRNAが反対の壁面の離れた場所に固定化された場合、局在するゼータ電位の変化は、容積流の流線分布の収縮及び膨張を生じさせ、ひいては、ばらついた横軸の物質移動速度を生じさせ、そのために混和を生じさせる。参考文献27及び28において、電極間の流路を横断する電位パルスを用いて実証されるように、埋め込まれた電極を用いても同様の効果を得ることが可能である。混和効果及び乱流は、いくつかのアッセイにおいては望ましいものかもしれないが、しかし、他においては望まれないものであろう。当業者は、その必要性に従ってこれらの条件を選択することが可能であり、経験的に適切な条件を決定することが出来る。
【0057】
前記流路は、流れの方向以外において閉じられていることが好ましい。従って、該流路に導入された液体は、1つの軸方向のみに沿って流れることが可能となる- 軸の縦方向であり、上/下又は横方向ではない- しかしながら、その軸に沿った流れの方向も変化することは有りうる(正方向/逆方向)。
【0058】
複数の細胞の解析用の複数の流路を有する装置においては、使用する際に細胞が実質的に同じ処理及び解析を受け、結果の直接比較が可能になるように、相互に実質的に同一な流路(例えば、寸法、材料、固定化された試薬、等において)を有していることが好ましい。全ての解析流路が実質的に同一であることが好ましい。
【0059】
本発明のある態様では、流路は2本以上の副流路へと枝分かれしていてもよい(例、図25)。内容物は、各支流内へ通過することができる。各支流は、他の支流と実質的に同じ物質を受容するように構成されていてもよく、又は、例えば、mRNAは下流の一の支流で、DNAが他の支流へというように、若しくは、正に帯電したタンパク質は下流の一の支流で、負に帯電したタンパク質は他方の支流へというように、異なる細胞内容物が下流の異なる支流へと向けられてもよい。該副流路は、再接合されても又はされなくてもよく、即ち、枝分かれした流路は、1つのインプット端に対して、複数のアウトプット端を有することも可能である。
【0060】
枝分かれは、他の方法においても用いることができる。細胞の内容物は、第一のディメンション(dimension)で分離され、「T字に接合された」支流へと進むことも可能である。該2本の支流が反対の極性を有する場合には、一般的に異なる電荷を有するタンパク質及びRNAは、異なる支流へと流れていくことが可能であり、従って、1つの支流でプロテオーム解析を行ない、他の支流でゲノム解析を行なうことも可能となる(図31)。
【0061】
解析流路に加え、装置には、解析に用いるのではなく、例えば、試薬の送出又は移動に用いる流路や、又は使用されない流路が含まれていてもよい。
【0062】
流路内の解析成分
前記装置の流路は細胞内容物の解析用であり、これら流路には、細胞内容物と相互作用して解析結果を提供することのできる解析成分が含まれる。あらゆる任意の装置においても、該解析成分は、一般的に目的の解析データを提供するために対象細胞についての知識に基いて選択されることになる。
【0063】
流路内に位置することが可能な典型的な解析成分には、これらに限定されるものではないが、以下のものが含まれる;クロマトグラフ分離メディウム;電気泳動分離メディウム;固定化された結合性試薬;等。化学サイトメトリーに用いられた試薬[2]も含むことができる。好ましい解析成分は、ハイブリダイゼーション用の核酸、抗原結合用の抗体、抗体結合用の抗原、糖鎖及び/又は糖タンパク質等を捕獲するためのレクチン等のような固定化された結合性試薬である。好ましい結合性試薬は、選択された標的に特異的なものであり、例えば、目的の標的に特異的にハイブリダイズするための核酸配列、目的の標的抗原に特異的に結合するための抗体等である。特異性の程度は、個々の実験の必要性の応じて変化可能であり、例えば、ある実験では、固定化された配列との比較で核酸のミスマッチを有する標的を捕捉することが望まれるであろうが、他の実験では絶対的なストリンジェンシー(stringency)が求められるであろう。
【0064】
解析試薬は、流路の1つの側面だけに沿って固定化されていることが好ましい。長方形の断面を有する流路では、試薬は、典型的には、4つの壁面のうち1つだけに設置されることになり、そして好ましくは長壁面に設置される。
【0065】
異なる固定化された結合性試薬は、データ解析を促進するように不連続の格子又はパッチ状に配置されていることが好ましい- 異なる試薬が同一のパッチに存在した場合、いずれの試薬がシグナルを生じたのか明らかでなくなってしまう。しかしながら、1の固定化された試薬から生じるシグナルが、異なる固定化された試薬から生じたシグナルと区別できる場合には、隣あるパッチが僅かに重複していてもよく、又は厳密な境界を有していなくてもよい。
【0066】
好ましい流路には、細胞内容物中の特定の核酸とハイブリダイズする一連の異なる固定化された核酸が含まれる。該核酸の配列は、該目的の標的に応じて選択されることになる。前記解析成分は、特定のmRNA転写物を保持することが更に好ましい。前記固定化された核酸は、好ましくはDNAであり、好ましくは一本鎖であり、さらに好ましくはオリゴヌクレオチドである(例えば、200ヌクレオチドよりも短く、<150nt、<100nt、<50nt、又は更に短い)。DNAではなく、mRNAを保持することは、解析前にDNAを取り除くことで簡便に実現することができる。
【0067】
他の好ましい流路には、タンパク質を捕捉するための一連の異なる固定化された試薬が含まれる。これらは典型的には、抗体のような免疫化学的試薬となるが、例えば、タンパク質のリガンドを捕獲するためのレセプター及びこの反対のもののような他の特異的結合性試薬も用いることが可能である。固体表面に試薬を固定化してタンパク質を特異的に捕獲する技術は、例えば、ELISA、表面プラズモン共鳴、タンパク質アレイ、抗体アレイ等から当該技術分野において周知である。血液分析用の抗体アレイ(例えば、サイトカイン及び細胞内シグナルタンパク質の特異的捕獲及び解析による)は既に利用可能であり[29](例えば、パノミクス社からのトランシグナル(商標)サイトカインアンティボディーアレイズ(TranSignalTMCytokine Antibody Arrays)[30])、固定化された捕獲用抗体に基く電気化学酵素イムノアッセイは、10pg/mlの感度を有することが報告された [31]。免疫化学アッセイの様式において結合を検出するためには、典型的には第二抗体が必要である(「サンドイッチ」アッセイ)。
【0068】
単一の流路が、核酸及びタンパク質の両方を解析するための試薬を含んでいてもよい。
【0069】
解析試薬を表面に固定化する方法は、当該技術分野において周知である。ハイブリダイズ可能な様式で核酸を表面に結合させる方法は、例えば、表面上のマトリックス、表面上のゲル等へのリンカーを介した結合など、マイクロアレイの分野から公知となっている。最もよく知られた方法は、ガラス表面上でのヌクレオチドプローブのインサイチュ(in situ)合成にアフィメトリクス社(Affymetrix)が用いるフォトリソグラフィーによるマスキング方法であるが、インクジェット蒸着法のように電気化学的なインサイチュ(in situ)合成法も公知となっている。表面にタンパク質(特に抗体)を結合する方法も同様に公知である。これらの方法は、単一細胞の解析に適切なスケールにも応用されている。
【0070】
固定化された核酸は事前に合成してその後表面に結合させることもでき、又は前駆体を伸長する核酸鎖に供給することにより表面上でインサイチュ(in situ)に合成することもできる。本発明では、これらのいずれの方法も使用することができる。
【0071】
好ましい固定化された核酸は、参考文献32、33及び34に記載されるように、伸長する核酸鎖の電気化学的脱保護を用いたインサイチュ(in situ)合成により形成される。
【0072】
本発明と共に用いられる1つの解析方法は、固定化された捕獲用DNAへのハイブリダイゼーションによる流路内でのmRNAの捕獲、及びその後の固定化されてハイブリダイズされたDNAをプライマーとして用いるmRNAの逆転写を伴う。従って、この方法においては、該流路内に逆転写酵素が存在していなければならないが、これはmRNAが不動化された後にdNTP及び他の試薬と共に該流路内に導入することができる。該逆転写のプロセスは、固定化されたプライマーを伸長させて固定化されたcDNAを合成し、故に、本発明の装置の共有結合的修飾を生じさせる。この技法についての更なる詳細を以下に示す。前記捕獲用DNAは、一般的に以下の2つの部位を有することになる:mRNA特異的な捕獲を可能とするポリT部分及び選択された標的への配列特異的なハイブリダイゼーション用の第二の部分。
【0073】
逆転写による装置上でのDNA鎖の伸長を促進するため、遊離した3’末端を有するように5’末端、又は内部ヌクレオチドを介して固定されることになる。
【0074】
装置には、少なくとも10N個の異なる解析試薬が含まれることが好ましく、ここで、Nは0、1、2、3、4、5、6、7、8又はこれよりも大きな数字から選択される。マイクロアレイの分野においては、少なくとも106個の異なるオリゴヌクレオチドの単一表面への固定が周知である。10N種の異なる試薬は、典型的には10N個の異なるパッチに配置されることになる。
【0075】
固定化された試薬の各パッチは、10Xm2よりも小さな領域を有することが好ましく、ここでXは、-6、-7、-8、-9、-10、-11 、-12等から選択される。10μm x 10μm (即ち、10-10 m2)のオーダーにあるパッチサイズを有するマイクロアレイは、現在の技術を用いて直ぐにでも調製される。小さな面積を有するパッチは、検出感度を向上させる。物質が固定化された解析試薬に結合した際、それらが小さな面積内に制限されることでノイズに対するシグナルの比率が向上する。
【0076】
パッチの中心対中心の間隔は、10Ymよりも短いことが好ましく、ここで、Yは-3、-4、-5、等から選択される。隣り合うパッチは接していても、又は重なり合っていてもよいが、隣り合うパッチは、隔たりを介して離れていることが好ましい。重なり合っているパッチは好ましくはない。
【0077】
パッチは、長方形又は正方形の形状を有していることが好ましい。幅W及び面積Aを有する流路では、このようなパッチの長さはA÷Wとなる。同じサイズの接しているパッチ同士の場合、前記中心対中心の間隔はA÷Wとなり、パッチ間に隔たりを持たせる場合には、前記中心対中心の間隔は、より典型的には少なくとも1.5(A÷W)又は2(A÷W)となる。
【0078】
パッチは、図11に例示されるように、細胞の内容物の移動方向に沿って単一の系列として接近していることが好ましい。従って、隣り合うパッチは、垂直方向(横軸方向)ではなく、移動の方向(縦軸方向)に沿って配置されていることが好ましい。
【0079】
同様に、パッチは流路の全幅を占めるように配置されていることが好ましい(図12)。これにより、希少な被検体が該パッチと遭遇することなく該流路を進んでしまう可能性が最小化される。
【0080】
複数の細胞を解析するために複数の流路を有する装置においては、使用の際に各細胞が実質的に同じ処理及び解析を受けて、結果の直接的比較が可能になるように、各流路に沿って固定化された試薬の選択、系列及び量が実質的に同一であることが好ましい。本発明のこの局面についての更なる詳細を以下に示す。
【0081】
複数の流路と複数種の固定化された解析試薬を含む好ましい装置では、該流路が直線で、かつ相互に実質的に平行であり、そして該解析試薬が、該流路に対して実質的に直角に走る直線上に固定されている(参考文献34も参照)。図13参照。下記で更に議論されるが、この構造により、確実に前記パッチが該流路の全幅を占有し、そして確実に全ての流路が同じ系列の解析用試薬を含むことになる。
【0082】
従って、本発明は、(a)複数の流路;並びに(b)複数の固定化された解析試薬を含み、ここで:(c)該流路が相互に実質的に平行であり;更に(d)固定化された解析試薬が該流路に対して直角に走る線上に配置された装置を提供する。該流路は、好ましくはインプット端及びアウトプット端を有し、そして上記のように該インプット端は、無傷の対象細胞が進入することができないように構成されている。
【0083】
流路は、その縦方向以外には閉じていることが好ましいので、その内部表面へは簡単に接近することができず、解析試薬の結合に用いる方法に大きな影響を与えている。好ましい装置は、基盤部材と蓋部材から組み立てられる。該基盤部材には、上側が開口した流路が含まれており、該流路の内部表面への接近を可能としている。該基盤部材上に固定化された後に前記蓋部材が装着されて該流路の上側が閉じされる(図16)。該蓋部材及び基盤部材は接合して該流路を密封し、流路間での物質の漏出を防ぐことになる。これに代わる構造では、試薬は、前記基盤ではなく前記蓋部材に付けられる。該蓋が該流路を覆う場合、該蓋は平らなものでもよい。これに代わる構造では、該蓋は、それ自体に流路の一部を含んでいてもよい(図17)。好ましい基盤部材はPDMSから作られ、好ましい蓋部材はカラスから作られている。
【0084】
結果解析
結果の解析に用いられる検出方法は、分子標的の特性及び使用されるであろうあらゆる標識に依存する。また、これらは、下記でより詳細に説明されるように、任意の解析部位におけるシグナルの強度にも依存する場合がある。定量的な検出方法が好ましい。
【0085】
検出は前記装置内でインサイチュ(in situ)に行なわれてもよく、又は分解された装置内で行なわれてもよい。例としては、捕獲用試薬が蓋部材上に固定化され、流路部材及び蓋部材を有する装置(上記参照)においては、被検体が該流路を通過した後に該蓋を取り外して、例えばマイクロアレイの解析に既に用いられている試薬、技法、装置及びソフトウェアを用いて該蓋を別個に解析することが可能である。
【0086】
好ましい被検体(RNA及びタンパク質)については、標的の被検体が固定化された結合性試薬と相互作用した後に検出可能な標識を導入するために、更なる生化学的処理が必要となるであろう。本発明では蛍光標識を用いることが好ましい。
【0087】
前記流路内の蛍光は、エバネッセント波を用いて励起することができる。これらの波長は、照射光の波長の〜1/2だけ材質表面の外側に広がり、即ち、これらは外側に〜150-350nm広がることになり、これは固定化されたオリゴヌクレオチドのパッチ全体に亘って照射を広げるのに十分以上のものである。例えば、レーザー、ランプ、LED等、他の励起用光源を用いることも可能である。
【0088】
タンパク質は、抗体を利用する複数の公知の方法の1つにより検出することができる。例えば、固定化された抗体に捕獲されたタンパク質は、第一抗体と異なるエピトープに特異的な標識された第二抗体を加えて、「サンドイッチ」複合体を形成することにより検出することができる。
【0089】
RNAの被検体については、逆転写酵素のような酵素を用いて相補鎖に蛍光ヌクレオチドを組み込むことにより検出を実現できる。cDNAは、細胞が溶解された場所、又は前記膨張チャンバー内において、ヌクレオチド前駆体及びRTを導入することにより、溶液反応においてmRNAから作り出すことができる。これに代わるものとしては、前記オリゴヌクレオチドプローブに前記mRNAをハイブリダイズさせて、該固定化されたプローブをプライマーとして用いてインサイチュ(in situ)にcDNAを合成する方法がある。該逆転者反応は、ハイブリダイゼーションの検出を促進するために、該cDNAに標識されたヌクレオチドを取り込ませることが好ましい[35]。これは、適切な蛍光体が結合したdNTPを用いることにより実現できる。シーケンシング反応とは異なり、個々のヌクレオチドが区別される必要が無いことから、異なるヌクレオチドについて異なる色の蛍光体を用いる必要はない。同様にして、全てのヌクレオチドが標識される必要はなく、dATP、dCTP、dGTP及びdTTPの内の1、2、3又は4種類が標識されていればよく、標識されたdNTP及び標識されていないdNTPの混合物を用いることができる。数多くの蛍光体の前記cDNAへの取り込み(例えば、>10%、>20%、>30%、>40%、>50%、>75%、又はこれよりも多いといったように、少なくとも5%の取り込まれたdNTP)により、該cDNAが蛍光検出用に知られたあらゆる方法により該流路内で検出され、それにより単一のハイブリダイゼーション現象の陽性シグナルについても見つけることができるようになる。従って、少量のmRNAであっても検出することができる。
【0090】
蛍光体を直接取り込むのではなく、例えば、逆転写、洗浄等のような工程の後に蛍光体を結合させること(「後標識」)が可能な特異的官能基を取り込むことも可能である。
【0091】
上記で指摘されたように、前記結果の解析に用いる検出方法は、任意の解析部位におけるシグナルの強度に依存するであろう。ハイブリダイズされたmRNA転写物を鋳型として用いて蛍光標識されたdNTPを用いることにより伸長された固定化されたオリゴDNAのパッチを例とした場合、該パッチ上のシグナルが強いか又は弱いかに依存して異なる検出技術を用いることができる:強いシグナルの場合、パッチ全体からの総シグナル量とハイブリッドの数に比例するシグナル強度(従って、基となる細胞の転写物の数にも比例している)との統合を用いることが可能であり;しかしながら、弱いシグナルの場合には、総シグナル量の統合は不適切な場合があり、特に、少量の転写物についての定量的解析には適していない。前記強いシグナルと弱いシグナルの間の主たる差異は、シグナル/ノイズ比である;強いシグナルの場合にはノイズは殆ど影響しないが、弱いシグナルでは、その定量解析を覆い隠す場合がある。
【0092】
例えば、中程度ないし大量のヒトmRNAの場合、10μm x 10μmのパッチであれば、一般的に統合のために十分なシグナルを捕獲し、殆どのRNAが捕獲された場合には、正確な測定を可能とする程の十分な蛍光シグナルが存在することになる。このパッチサイズは、哺乳動物細胞と殆ど同じであり、中程度に量のあるmRNAが、蛍光cDNAによってプローブされた場合にインサイチュ(in situ)ハイブリダイゼーションによって検出可能なことは周知である;例えば、FISH法は、一つの細胞中に50-60個しかない転写物の測定に利用することができる。しかしながら、これよりも少量のmRNAについては、光電子増倍管又は従来のCCDアレイにより作り出された統合シグナルは、不適切である。
【0093】
例えば、平均的な転写物は、約300nmの長さにあり(1000ヌクレオチド;3nm毎に10ヌクレオチド)、更にその直径は約1nmである。従って、転写物の「面積」は、0.3 x 0.001 μm = 3x10-4μm2である。従って、10μm x 10μm(100μm2)のパッチは、最大で100 / 3x10-4個の転写物を収容することが可能であり、これはパッチ1個あたり3.3x105個の転写物である。従来の蛍光検出のダイナミックレンジは約104個であるから、RNA転写物の全面積が検出に晒されたとしても(例えば、上に記載されて図29に例示される流れの態様による)、検出には少なくとも30個の転写物が必要となろう。従って、細胞1個に〜50個よりも少量しか存在しない転写物は、従来の検出法により検出することができない。
【0094】
単一の蛍光体の検出に高感度な技術が利用可能であるが[36、37]、しかしながら、複数の蛍光体を含む単一のcDNA/mRNA hybridの検出については、十分に現在の技術的能力の範疇にある。単一の蛍光体を同定可能な最新の機器は、〜150nmのピクセル解像度を有する。例えば、参考文献38及び39には、CCD検出器がサンプルの走査ステージの動きと同調して、129nmのピクセルサイズにおいて11分以内に5mm x 5mmの面積からデータを収集する連続データ取得を可能とした単一分子読取り器が記載されている(アッパーオーストリアンリサーチGmbHから「サイトスカウト(CytoScout)」として市販されている)。下に詳細に記載されるように、単一の核酸からの蛍光シグナルは、300nmの長さに亘って広がることが可能であり、現在の技術を用いてバックグラウンドから区別することができる。これらのシグナルは、転写物の総数に対応するシグナルの総数を用いてカウントすることが可能である。
【0095】
パッチの全体を解析するのではなく、該パッチの高分解能スキャンによりシグナルをカウントすることが可能である。例として、レーザースポット(直径200-300nm)は、パッチに沿った正確に制御された経路を照射することが可能であり(図28)、そして、上記のように、パッチの総蛍光量を検出した場合のようにシグナル/ノイズ比に悩まされることなく、該スポットの進行に伴って蛍光をカウントすることができる。一般的に、個々の蛍光スポットは、照射しているレーザースポットよりも小さなものになる。検出には冷却CCD又は光電子増倍管又はその他の方法を用いて、蛍光放出の低い光強度を測定することができる。スポットのカウントは、パッチの全エリアについて行なうことができる;これに代わるものとして、特定の数のスポットが検出されるまでカウントを続け、その点までにスキャンされた面積を該パッチの総面積と比較し、そして外挿によりパッチ全体についての総カウント数を推定することが可能である。
【0096】
下記により詳細に記載される連続的なインサイチュ(in situ)逆転写法を用いることにより、上記検出方法の感度を更に向上させることが可能である。
【0097】
しかしながら、大量の転写物については、込み入った領域内において単一の分子を区別することができない。10μm x 10μmの面積のパッチは、上記の単一蛍光体検出器における〜3-4,000ピクセルと同等である。シグナルがカウントされるためにはその周囲に何もない空間を有していることが必要であり(即ち、正方形の配列において1個の「オン」ピクセルが8個の「オフ」ピクセルにより囲まれていることをいう)、この領域を数百個よりも多くのシグナルが占有している場合には、個々のシグナルをカウントすることは不可能である。しかしながら、従来のマイクロアレイリーダー、又は統合ピクセル強度をスキャンするように構成された走査ステージを有する共焦点顕微鏡を用いて捕獲された分子の量を測定することに困難性はない。従って、既にマイクロアレイの解析に用いられているスキャナーを用いることが可能である。流路に使用できる適切なアナライザーは、例えば、アジレントバイオアナライザー(Agilent Bioanalyzer)等の直ぐに利用可能な装置へ既に組み込まれている。
【0098】
画像中に何もない空間を同定できるが、高いピクセルの重複占有の可能性があるような濃度である中程度の濃度においては、統計学的方法を用いて該画像中の目的物の濃度から最も確からしい分子数を算出することが可能である。
【0099】
従って、種々の方法によりデータを収集することが可能である。大量の被検体の場合には、CCDデータセット中の各ピクセルは、存在する蛍光体(即ち、被検体)の数に比例した強度を有する;より希少な被検体の場合、各「オン」ピクセルが単一の被検体を表しており、データは、典型的には、蛍光シグナルが存在するピクセルの数をカウントすることにより解析されることになる。シグナルの測定に用いる方法には、これら種々の方法を組み合わせることも可能であり、従って、測定のダイナミックレンジの実質的拡大を実現する- ある場合には標準的な統合による方法であり、他の場合にはカウントによる方法となる。低いシグナル強度においては、前記ダイナミックレンジは100倍に増大可能であり、そして驚くことに、強いシグナル強度においても、ダイナミックレンジの10倍の増大が可能である。
【0100】
本発明の装置は、質量分析計と接続することもできる。例えば、細胞内容物が前記解析流路から現れると直ぐにMS解析できるように、流路のアウトプット端はエレクトロスプレーイオン化質量分析器に直接入れることも可能である。微小流体装置のMSとの統合は耕地であり、例えば、参考文献40には、統合HPLCカラム、サンプル濃縮用カラム、及びナノエレクトロスプレー端が具備されたペプチド解析用の微小流体チップが記載されており、更に、この「HPLC-チップ/MSテクノロジー(HPLC-Chip/MS Technology)」はアジレント社から入手可能である。
【0101】
装置には、レーザー源及び/又はインラインレーザー検出器が含まれていてもよい。レーザーは複数の流路に亘って照射することが可能であり、そして該流路上部の検出器により上方向に屈折された光を読み取ることが可能である。分子が流路内の経路を通過する間、又は該分子が流路のアウトプット端から現れた時に、レーザーを用いて該分子を励起することが可能である。
【0102】
本発明の主たる利点は、被検体が細胞1個についてゼロないし数1000コピーの範囲に亘る可能性のある場合であっても細胞の内容物について解析可能な能力である。上記で指摘したように、本発明は、シグナル強度が複数オーダーの大きさにも広がる蛍光検出における改善を提供するものであり、そして、本発明の1つの局面は、この方法を実現するための統合された蛍光検出器である。従って、本発明は、光源、蛍光検出器、目的の基板のレセプタクル、及び統合的検出モード及びカウント検出モードを選択するようプログラムされたコンピューターを含む反応基板上の蛍光検出用機器を提供する。該光源は、典型的にはレーザーとなる。該蛍光検出器は、典型的には蛍光顕微鏡となる。該目的の基板は、典型的には本発明に係る装置、又はその一部(例えば、蓋部材)となる。統合検出モード及びカウント検出モードの選択は、手動で行なわれてもよいが、例えばシグナル強度等の1又は2つ以上の事前に選択された基準に依存して自動的に行なわれることが好ましい。該機器は、通常、例えば、該基板の特別な様式及びプローブの沈着に適合するような方法で、該基板、該光源及び/又は該検出器を相互に相対的に移動させることが可能となる。例えば、プローブの線の間の空白の領域を無視すると読取りプロセスが迅速化されることになる。
【0103】
前記検出される蛍光は、例えば、2つの核酸、抗体及び抗原等の2つの生体分子による特異的結合から生じることが好ましい。
【0104】
単一の流路で結果を解析する場合、上記機器は種々の方面に機能することができる。例として、該機器は該流路に沿って移動し、統合モードで個々のパッチをスキャンし、そしてその後にシグナルが閾値に達していなかったパッチへと戻ってカウントモードでこれらパッチを解析することができる。これに代わるものとして、荒い「最初の一掃」をして、更にいくつかのパッチについて第二の測定を必要とするのではなく、該流路に沿った各パッチ毎にこの選択を行なうことも可能である。同様にして、前記機器は、これらの方法のいずれでも機能することが可能であるが、該流路に直角な操作を行なうことはできない。更なる変更も明らかとなるであろう。
【0105】
共通の解析成分
上記で指摘したように、本発明の強力な局面は、異なる細胞について並行して同一の解析を個々に行なうことであり、そして本発明は、各流路が、単一の対象細胞を受容するためにある複数の前記流路を含む複数の細胞を個々に解析するための装置であって、各流路が、該流路内に沿った一連の解析成分を含み、かつ1の流路内の該一連の解析成分が他の流路のものと同一である装置を提供する。
【0106】
従って、細胞はどの流路に進入したかに関わらず、共通の解析成分の系列(例えば、A、B、C、D、E、F、G、...)を経験することになる。この複数の流路内における共通した解析成分の配置により、解析される各細胞が同じ解析用試薬を経験することになり、1の細胞についての結果を、直ちに直接的に他の細胞の結果と比較することが可能となる。
【0107】
少なくとも10本(例えば、10、50、100、250、500、1000又はこれよりも多く)の解析流路が共通の一連の解析成分を含むことが好ましく、そして全ての解析流路が共通の一連の解析成分を含むことがより好ましい。
【0108】
前記共通の系列の解析成分は、各流路内で同一の組成物と空間配置を有していることが好ましい(例えば、全ての固定化された試薬のパッチは、相互に実質的に同一のサイズ、間隔、位置、試薬濃度等を有する)。従って、複数の流路から得られる結果は、直ちに相互にアラインメントすることができる。例として、全ての流路が平行な直線である場合で、そして全ての流路の第一の解析成分が一直線に揃えられている場合(例、図13)、該流路に垂直に走る直線は、各流路内の同一の解析成分を横断することになる。従って、該流路の上にあり、該流路に対して垂直な直線上を走る検出器は、各細胞について同一のかつ単一の解析テストの結果をスキャンすることが可能となる。該検出器は、その後流路の方向に沿って次の解析成分の場所まで移動し、直線状のスキャンを繰り返して該次の単一の解析テスト等の結果を得ることができる。
【0109】
各流路は共通の系列の解析成分を有していてもよいが、これは、各流路に含まれる物の全てが同一でなければならないことを意味するものではない。例えば、2つの流路において、該共通の系列の第一の構成要素の上流に異なる成分を有していてもよい(例えば、特定の流路を同定するために使用可能な特徴的な成分等)。同様にして、共通の成分の系列の個々の構成要素は、非共通の成分によって分離されていてもよいが、該共通の系列は、他の成分に関係なく、各流路内において見出されることになる。例えば、図26には、各流路中の4種類の共通成分を有する7種類の解析成分の配置が示されている。
【0110】
固定化された結合性試薬の共通系列が特に好ましい。
【0111】
装置が異なる種類の物質を受け入れるように設計された枝分れ流路を含む場合(例えば、1の支流がDNAを、1の支流がmRNAを)、例えば、全てのDNA用副流路が共通系列を有するが、mRNA用副流路においてはこれと同一の共通系列が見られないといったように、枝分れした領域内の共通系列は、一般的に1の流路に対して1の支流にのみ適用されることになる。該流路に平行な直線状スキャンの利点は枝分れの構造においても明らかではあるが、前記検出器が1の流路から次の流路に移動するに伴い、該検出器は2つの副流路を見ることになる。
【0112】
装置内の細胞内容物の移動
細胞内容物は放出された後に解析用の流路に進入する。それらは流路のインプット端から進入し、アウトプット端に向かって該流路に沿って移動する。ある状況においては、該内容物が流路に進入した後に移動方向を逆転させることが所望される場合もあるかもしれないが、少なくとも最初はインプット端からアウトプット端へ移動することになる。
【0113】
種々の技術を用いて流路に沿って細胞内容物を移動させることが可能であり、例えば、ポンピング、吸引、電気的動性などがある。好ましい技術は、細胞内容物を電気的動性によって異動させ(例えば、電気浸透又は電気泳動による等)、そして移動方向を決定付ける極性と共に、前記流路を横断する電位を必要とする。微小製造装置中の電気的動性による移動が参考文献41に総説されている。本発明と関連する範囲内で電気泳動を用いた場合、これは通常、分子の移動性に基いてこれらを相互に分子するものではなく、むしろ装置内で物質を移動させるためのものとなる。
【0114】
電気浸透とは、流路を横断する電圧を加えた時に該電荷を帯びた流路中を流体が流れるプロセスである。流路表面が正に帯電している場合には(例えば、1又は2以上の壁面に沿って)、該流路を横断して電圧が加えられた時、該流路内の流体は電気浸透によりアノードへと移動することができる。図4参照。大量の流体の移動は、例えば、細胞、懸濁液中の成分、溶解された物質等の該流体内の物の移動を生じさせることができる。
【0115】
電気泳動とは、電荷を帯びた粒子が電場内を移動するプロセスである。中性のpHにおいては細胞は一般的に負に帯電しており、電気泳動によりアノードへと移動することになる。前記装置内での電気泳動は、開口した流路においても行なうことができ、又は該流路中に置かれたゲル若しくは粘着性物質中にても行なうことができる。
【0116】
電気浸透及び電気泳動は、同時に経験させることができる。例えば、負に帯電したmRNA分子は、電気泳動によりアノードへと移動することになる。流路の壁面が正に帯電している場合、該流路内の流体の移動も該アノードに向かうものとなるので、前記mRNAは電気浸透及び電気泳動の両方により該アノードへと移動することになる。しかしながら、流路の壁面が負に帯電している場合、該mRNAは、電気泳動の流れとは反対の、カソードに向かう電気浸透の流れを経験することになる。対立する電気浸透及び電気泳動の流れによるmRNAの移動に対する全体の作用は、電場の強さ、該流路の壁面の電荷、使用される溶媒(例えば、粘性に依存する)、温度(繰返しになるが、粘性が変化する場合がある)、イオン強度、界面活性剤の存在、pH等のような要因に依存することになる。これらの要因については、特定の成分について所望の移動を実現するために、装置の設計段階(例えば、材料の選択等)及び/又は使用段階(例えば、温度、電場の選択等)において変更可能である。移動を制御する方法として、使用段階でpHを変更することが好ましい。
【0117】
装置内での電気浸透による物質の移動が好ましい。該装置内のmRNAの移動は、(a)インプット端におけるアウトプット端に対しての負の電位(インプット側におけるカソード、アウトプット側におけるアノード)及び(b)前記流路壁面上の正電荷、を有することで簡便に実現される。電荷を帯びた壁面は、その製造において正に帯電した材料を用いることで実現できる。
【0118】
核酸は帯電分子であるから、流路壁面に固定された場合に電気浸透の特性に変化を生じさせることができる。このような状況において、必要な場合には、例えばPNA等の非帯電性の核酸類似物を代わりに用いることもできる。
【0119】
電気的動性による移動は精密に制御可能であり、単に電位を必要に応じて変更することにより、移動速度及び移動方向を変化させることが可能である。電気的動性による移動は、停止させることも可能であり、これ用いることにより、例えば、物理的手法による試薬の導入が可能となる(例えば、注射、ポンピング等)。
【0120】
20V/cmの電圧勾配においては、DNAは微小流路内を125μm/sで移動する[42]。従って、核酸の直線アレイのパッチ上における核酸の適切な移動速度は、約2V/cmとなるであろう。
【0121】
便利なことに、殆どのタンパク質が正に帯電してしまう低pHにおいて、核酸は負に帯電する(核酸のリン酸ジエステル骨格による)。従って、低pHにおいては、核酸がアノードに向かって移動する一方で、殆どのタンパク質がカソードへと移動する。適当な極性を有する電場を用いることにより、タンパク質と核酸を相互に分離することが可能となり、それにより、そのうち一方についての解析を他方から干渉されることなく促進できる。図31の流路配置は、この解析を促進するものである(更に下記を参照)。
【0122】
誘電泳動を用いて被検体を移動させることも可能である。フィールドジオメトリ(field geometry)の最適化は困難であろうが、この技術を用いた非接触的細胞捕捉法が報告されている[11]。参考文献43では、単一細胞を操作するために、画像駆動性(image-driven)の誘電泳動技術を用いて光伝導性表面上の電場の高分解能パターニングを行なっている。
【0123】
上記で指摘したように、ある状況においては、流路内で細胞内容物を正方向及び逆方向の両方向に移動させることが有用となる場合がある。細胞内の少量の分子の高感度検出については、該分子を可能な限り多く捕獲することが有用である。物質が一方向に移動してその後に反対方向に移動する場合、該物質は特定の結合性試薬を2回通過することができ、それにより、最初の通過で捕獲を逃れたあらゆる分子について2回目の捕獲の機会が与えられる。
【0124】
流路内における大量の流体の移動を反転させる能力も、バックグラウンドノイズ及び非特異的結合の回避との関連から利点を与えるものである。図29に示されるように、流動方向が反転された場合、特異的にハイブリダイズした核酸分子の位置は、それが結合した位置に対して相対的にシフトし、そして高分解能検出器がこの変化を検出することができる。また、対照的に、非特異的結合のシグナルは、流動の変化によって影響されることがない。従って、正方向及び逆方向の流れから得られたシグナルを比較することにより、特異的結合を非特異的結合から区別することができる。電場内で結合した核酸分子を引っ張ることで同様の効果を実現できる;極性の反転により、繋ぎ止められた核酸の位置はシフトすることになるが、非特異的結合によるノイズはシフトしない。
【0125】
従って、本発明は、(i)ハイブリダイゼーション基板上に固定化された核酸、及び(ii)遊離核酸、との間での相互作用から生じた核酸ハイブリダイゼーションアッセイの結果の解析方法であって、前記固定化された核酸及び/又は前記遊離核酸が検出可能な標識を含み、前記方法が(i)第一の方向において、前記ハイブリダイゼーション基板の上部を液体が流れるか、又は前記基板を横断する電場が適用された条件下において、前記基板の第一の画像を取得する工程;(ii)第二の方向において、前記ハイブリダイゼーション基板の上部を液体が流れるか、又は前記基板を横断する電場が適用された条件下において、前記基板の第二の画像を取得する工程;及び(iii)前記第一及び第二の画像を比較する工程を有する解析方法を提供する。該第一の画像中の該第一の方向及び該第二の画像中の該第二の方向に揃って並んだ検出可能な標識は、特異的ハイブリダイゼーションのシグナルを表す;このような並び方を示さない検出可能な標識は、実験ノイズ又は非特異的ハイブリダイゼーションによるシグナルを表す。該第一及び第二の方向は、実質的に同一平面内にあることが好ましく、該平面内における(即ち、上記から把握されるように測定目的のもの)これら2方向間の小さい方の角度は、一般的に45°以上となり、好ましくは90°以上となり、更に好ましくは135°以上となり、最も好ましくは約180°となる(即ち、流れ又は電場の反転)。流動方向又は電場の方向の変化は、電気的動性による移動の方向が反転するように流路の電気極性を変えることで直ちに実現できる。前記第一及び第二の画像の比較は、典型的にはコンピューターによって行なわれることになる。
【0126】
上記方法の開発において、区別可能なシグナルを有する2種類の標識が用いられ、そのうち1つは初期標識であり、もう1つは後期標識である。鎖伸長が起こる際に、最初の伸長では該初期標識が用いられ、後の伸長では該後期標識が用いられることになる。流動方向が変化した場合、特異的ハイブリッドは、該初期標識と該後期標識の相対的な位置変化を示すことになる。標識を導入する1つの方法は、最初に4種類のヌクレオチド前駆体のサブセットのみを提供することである。鎖伸長は、「欠けている」ヌクレオチドが必要になるまで進行することになる。その後、該欠けているヌクレオチドを提供して、異なる検出可能な標識を取り込みながら更に鎖伸長を進行させることができる。従って、核酸鎖は、例えば赤色の5’領域と、緑色の3’領域を有することが可能であり、特異的ハイブリッド中の該赤色と緑色領域の相対位置は流動方向により変化することになる。従って、直線状の核酸鎖に沿って異なる検出可能な標識を有することにより、方向の反転の検出が容易化される。
【0127】
転写物の平均的長さを1000ntとし、3nmのRNA毎に10個のヌクレオチドであるとすると、平均的な転写物は約300nmの長さになる。単一の蛍光体分子を同定可能な機器は利用可能であり、これらの機器は、〜150nmの限界ピクセル解像度を有する[38]。捕獲されたmRNA分子の蛍光dNTP基質を用いた逆転写では、cDNAに複数個(例、100個より多く)の蛍光体が取り込まれる。上記のように液体の流れにより(又は電場の使用により)該分子を引き伸ばすことで、前記シグナルは比較的強い蛍光シグナルと共に300nmの長さまで伸びることになる。従って、該強い蛍光は、前記検出器において1ピクセル以上を占有することになり、バックグラウンドから区別可能なものとなる。
【0128】
核酸アレイへの非特異的結合についても、参考文献44に記載されるように、そのハイブリダイゼーションのキネティクスの解析により識別することが可能である。
【0129】
解析される細胞
本発明は、真核細胞及び原核細胞の両方を含む種々の細胞の解析に適している。本発明は、同じ種類ではあるが、非同期的、即ち、細胞周期の異なる段階にある複数の細胞の解析に特に適している。
【0130】
本発明を用いて、これに限定されるものではないが、以下を含むバクテリアのような原核細胞を解析することが可能である:大腸菌(E. coli);B.サブチリス(B.subtilis); N.メニンギティディス(N. meningitidis); N.ゴノロエアエ(N. gonorrhoeae); S.ニューモニエ(S. pneumoniae); S.ミュータンス(S.mutans); S.アガラクティエ(S.agalactiae); S.ピオゲネス(S. pyogenes); P.エルギノサ(P. aeruginosa); H.ピロリ(H. pylori); M.カタラリス(M.catarrhalis); H.インフルエンゼ(H. influenzae); B.ペルチュシス(B.pertussis); C.ディフテリエ(C.diphtheriae); C.テタニ(C.tetani); 等。
【0131】
真核生物においては、本発明を用いて動物細胞、植物細胞、真菌細胞(特に酵母)等を解析することができる。好ましい対象動物細胞は、哺乳動物細胞である。好ましい哺乳動物は、ヒトを含む霊長類である。
【0132】
目的の特異的細胞の種類には、特にヒト細胞に関するものとして、これに限定されるものではないが、以下のものが含まれる:リンパ球、ナチュラルキラー細胞、白血球、好中球、単球、血小板等のような血液細胞;癌、リンパ腫、白血病細胞等の腫瘍細胞;卵子及び精子などの生殖細胞; 心臓細胞;腎臓細胞;膵細胞;肝細胞;脳細胞;皮膚細胞;成体幹細胞及び胚性幹細胞を含む幹細胞;等。セルラインも解析することができる。本発明は、特に幹細胞の研究に有用である。個別の流路内で個々の解析に先立って個々の細胞を異なる処理を受けさせる能力は、幹細胞のような細胞にとって特に有用であり、例えば、個別の細胞は、異なる刺激(増殖因子等)により、インサイチュ(in situ)に(例えば、試薬供給路を通じて刺激を供給することによる)、又は該装置に侵入する前に処理することが可能であり、そして遺伝子及び/又はタンパク質の発現に対する影響を解析することができる。
【0133】
実用の観点からは、単細胞生物又は動物由来の循環細胞のような遊離状態の懸濁液中にある細胞を分離して捕獲する方が容易である。しかしながら、場合によっては、目的細胞は、この方法により自然に分離されないであろう。しかしながら、このような場合における、細胞懸濁液の調製方法が、FACSに応用される技術から周知となっている。
【0134】
本発明を用いることで、これら細胞の内容物が解析される。これは、本発明が、総細胞内容物の解析に用いられなければならないことを意味するのではなく、例えば、上記のように不所望の物質を解析に先立って除去することもできる。例えば、特定のフラクションのみを取り出す必要があったり、抽出物の一部だけを用いたりする等、総細胞内容物が細胞から取り出されなければならないということではない。しかしながら、一般的に、本発明は、総細胞内容物の放出に細胞溶解を要することとなり、少なくとも該細胞からのmRNA転写物及び/又はタンパク質に対して解析が行なわれることになる。
【0135】
本発明に係る装置に導入する前に細胞集団を処理しておくことが有益となる場合もある。例えば、細胞を、その大きさ、細胞マーカー等によりフラクションへと分離することもできる。分離は、当該技術分野において公知の数多くの方法により実現できる。特に好ましい方法は、蛍光活性化細胞分離法(FACS)である。「ラボチップ(lab-on-a-chip)」と呼ばれる装置においてFACS用の手法が開発されており[8]、このような装置は直ちに本発明に組込まれ、そして本発明と共に利用することができる。特定の種類を同定するために細胞を染色することが有益となる場合もある。例えば、細胞は、前記装置への導入前又は後に、細胞表面マーカーに対する蛍光抗体を用いて染色することができる。細胞が装置に進入した後に該抗体を用いる場合には、該抗体が該機器内に固定される前又は固定された後に、該抗体は細胞に結合することが可能であり、各微小流路と結合した細胞が特徴付けされることを可能にする。
【0136】
特定の用途においては、異なる寸法の流路を用いて異なる大きさの細胞を解析できるように、細胞を前記機器に送り込む前に大きさに従って事前に分別しておくことが有益となるであろう。細胞は、バッファーの流れが漏斗及び流路の系に到着する前に細胞懸濁液をざるのような系に通すことにより大きさに従って事前に分別することができる(図22)。より大きな細胞塊から単一細胞を抽出する方法が参考文献45に開示されている。
【0137】
本発明に係る装置に細胞を導入する方法は数多く存在する。殆どの場合において、細胞は、例えば、その完全性、並びに特有の大きさ及び形状を保有していることを確実なものとするためにバッファー溶液に懸濁されることになる。該懸濁液を、前記送出路へと送り込むレセプタクルに注いでもよい。該送出路の寸法は、細胞が自由に、又は電場の影響下でバッファーの流れの中を移動するようなものとなる。該担体溶液又は該電場の流れ経路は、該送出路から走って前記流路を通る。従って、細胞は該送出路を通って移動し、その後、その下流で流路内へと至る細胞捕捉部位の漏斗に向かうことになる。
【0138】
細胞は、例えば、MACS又はFACS装置のようなセルソーター、赤血球及び白血球の分離に用いるような細胞分離カラム等の他の細胞分離機器から直接前記装置に進入することが可能である。
【0139】
細胞の観察
装置内での細胞の観察が望まれる場合、通常、顕微鏡が用いられることになる。バッファー及び典型的な微小流体構造に対する小さな光コンストラストのため、例えば、位相差顕微鏡法、微分干渉顕微鏡法、蛍光顕微鏡法等のような技術を用いた、コンストラスト強調を用いることが望ましい場合がある。しかしながら、多くの場合には、従来からの光学顕微鏡を用いることができる。
【0140】
単純な態様では、検出に長作業距離顕微鏡用対物レンズを用いる。ある構成において、特に流路が深い場合においては、映像のキャスティング及び視差を回避するためにテレセントリック顕微鏡用対物レンズを用いてることができる。顕微鏡の対物レンズの交換を必要とすることなく視野選択の柔軟性を持たせるためにズームレンズを有する結像レンズを用いることが望ましい。該顕微鏡は、カメラを装着可能なカメラポートを有していてもよい。映像のコントラストが低い場合、1ピクセルに10ビット、1ピクセルに12ビット又はこれよりも多いといったような増強されたビット深度を有するカメラが望ましい場合がある。
【0141】
選択されたサンプルのジオメトリ(geometry)において、トランスミッション(transmission)顕微鏡法が可能な場合には、これは好ましい構成である。通常はサンプル内では白色光源が照射されるが、ある構成においては、着色光(フィルターを通すか、又は発光ダイオード(LED)のような着色光源からのいずれか)が有益となる場合がある。
【0142】
反射型顕微鏡の場合、サンプルの裏側を金属のような反射性の表面でコーティングするか、又は該微小流体構造を鏡、シリコンウエーハー等のような反射性の表面上で支えることが望ましい。好ましい態様では、映像のキャスティングを回避するために、入射光は、該顕微鏡の光軸と同軸性のものとなるが、ある構成においては、リングライト又は暗視野照明により画像のコントラストを強調することもできる。
【0143】
従来からの、光軸に対して垂直な位置決めステージのようなサンプル移動方法、及び顕微鏡の焦点調節方法を用いることができる。
【0144】
前記顕微鏡は、実験の要求に依存して、手動で操作してもよく(焦点調節、位置決定、視野の選択等)、又は完全に自動化されてもよい。前記画像は、文献用の目的と共に、診断目的及び過誤の検出(偶発的な2つの細胞の捕獲、夾雑物の捕獲、不十分な細胞溶解後のゲノムDNAによる前記構造物の目詰まり等)に用いてもよい。画像解析を用いて捕獲された異なる種類の細胞を区別することも可能である。
【0145】
解析試薬のストライプの敷設
上記で指摘したように、複数の流路、複数種類の固定化された解析試薬を含む装置であって、(a)該流路は直線状で相互に平行であり、そして(b)該解析試薬は、該流路に実質的に直角に走る直線上に固定されている装置が好ましい。図13にこのような装置が例示されている。
【0146】
種々の技術を用いて、核酸のような試薬を平行な直線状のストライプの系列に固定化することができる。例として、図46に示すように、典型的には、これらの技術を用いて、後に他の成分と組み合わされて本発明の装置を提供することになる支持体の表面にストライプを調製することになる。
【0147】
参考文献32ないし34には、核酸の伸長鎖の電気化学的脱保護を用いたインサイチュ(in situ)合成方法が開示されている。本発明においては、このような方法が特に有用である。これらの方法でベンゾキノンが用いられる場合、1つの改善としては、反応ステップの間に過酸化水素水を用いた洗浄ステップを含ませることである。酸の生産中は、中間体の一種(ベンゾキノン誘導体)は時として、支持電解質中のカチオン種(テトラ(アルキル)アンモニウム)と不溶性の複合体を形成し、そしてこの複合体がカソード上に選択的に沈殿することが判明した。この沈殿により、電極の抵抗が反応サイクルの間に上昇することになる。過酸化水素を用いてこの複合体を除去することが可能であり、例えば水中に3% H2O2の混合物を用いて抵抗の上昇を防ぐことが可能である。水性溶液の存在により、前記イオン性混合物の分解が助けられ、一方で、H2O2の存在により部分的に還元されたベンゾキノン種の再酸化が助けられると考えられる。
【0148】
プラチナ又はイリジウムの電極が用いられた場合、更なる改善では、電極のシリコンに対する接着を増強するためキーイングレイヤー(keying layer)が用いられる。該キーイングレイヤー(keying layer)とは、クロム又はチタンの薄い層(10-200nmの厚さ)である。クロム及びチタンは両方とも電解活性であり、そして(a)電流/酸生産ステップ中に電気化学的に溶解しやすく、(b)不活性な電極材質とガルバニックエレメント(galvanic element)を形成する(図63)ことから、該キーイングレイヤー(keying layer)が電解質から遮蔽されているように注意すべきである。従って、製造中においては、電極の端部が絶縁性の二酸化ケイ素の層を用いて覆われている。これにより、キーイングレイヤー(keying layer)も前記電解質から遮蔽される。
【0149】
電気化学的方法に代わるものとして、参考文献46には、(a)反応基板上の反応表面及び流路基板上の開口した微小流体流路の接点を形成する工程;(b)該反応表面と該開口した微小流体流路との接触により形成された接触線に沿って試薬が該反応表面と接触するように該試薬を該微小流体流路に導入する工程;並びに(c)該反応表面と該微小流体流路を分離して、該試薬を該反応表面上の該接触線に沿って固定されたまま残す工程:を含む表面に試薬の線を形成する方法が開示されている。本発明にこの方法を用いることができる。
【0150】
この方法を用いてヌクレオチド前駆体を接触線まで誘導し、インサイチュ(in situ)に合成する方法により核酸を作り上げることができる。しかしながら、これに代わるものとして、これを用いて活性化された事前に合成された核酸を流路に誘導して基材表面の反応部位と相互作用させることもできる。該反応表面と接触した該微小流体流路中に活性化された核酸を含むことにより、該流路によって定義される領域への局所的な共有結合を促進することが可能となる。例えば、反応性のNHS-エステル表面を有するガラス基板(例えば、ショットネクステリオンH(Schott Nexterion H)製品)を平行な微小流体流路を定義する構造体と組み合わせることが可能であり、その後、アミノ修飾された核酸が該流路を下流へと通過することができる。各流路は個別の核酸を受容することが可能であり、これにより固定化された核酸のストライプを有する基板が提供される。この方法は、図64に例示されており、ここで、2種類の異なるアミノ標識された70merが、反応性のNHS-エステル表面(pH>7.0)上の2本の平行な密閉された流路を通過している。
【0151】
物理的境界を用いてストライプを分離するのではなく、選択的な活性化を用いることができる。例えば、前記基材の表面は、光開裂性の保護基(例えば、NVOC[47])により活性化することができる。適切なパターニングマスクを用いることにより、この表面上のストライプのパッチを脱保護して、事前に合成された核酸と反応可能な反応基を残すことが可能である。干渉パターニングを用いたこの種の方法は、例えば、参考文献48に記載されている。適切な光源及び光学的ワークステーションを用いることで、1μmもの細さのストライプを照射することが可能であり、その結果として密に詰まったオリゴヌクレオチドのストライプを生ずる。
【0152】
電気化学的方法による選択的活性化を用いてストライプを調製することも可能である。参考文献32ないし34及び49には、電解質中の細い酸のストライプの生産法が開示されている。これらの方法を酸に不安定な保護基と組み合わせて用いて、更なる核酸の結合のために支持体表面のストライプを選択的に活性化することも可能である。
【0153】
解析用試薬のストライプを敷設する間、特に電気化学的方法を用いる場合には、ガスケットを利用すると便利である。ガスケットは、反応基板から決まった位置(10-50μmの間)に電極(反応物質の生産及び/又は封じ込めに用いられる)を離して置くことが可能であり、更に流動する格子として作用することで合成中に使用される試薬を封じ込めることもできる。従って、ガスケットが、合成中に使用されるいかなる化学薬品から攻撃されず、良好な密封を形成することが重要である。例えば、ガスケットは、PTFEから作るか、ダイスを用いてPTFEのシートから切り出した後に前記電極と前記基材との間に置いてもよい。これに代わるものとして、ガスケットをフォトリソグラフィーを用いて作り、恒久的に電極に装着させることも可能である。10-50μmの厚さを有する不活性なガスケットは、フォトレジストSU8を用いて作製できる。
【0154】
寸法及びパラメーター
本発明に係る装置の種々の特徴の寸法及びパラメーターは、非常に重要なものとなり得るが、特定の必要性及び用途に応じて変化することになる。
【0155】
前記インプット端は、無傷の対象細胞は進入することができないように構成される。このことは、一般的に、該インプット端が細胞の大きさよりも小さな開口を有することにより実現される。以下の表に、比較のための細胞小器官及びウィルスの大きさの例と共に、典型的な細胞の寸法を示す:
【0156】
【表1】
【0157】
従って、解析される細胞に依存するが、流路のインプット端は、典型的には、1μmないし50μmの幅を有し、好ましくは、2μmないし20μmの幅を有する。
【0158】
同一のサイズの範囲は、先細の細胞捕捉部位の小直径を特徴付ける。該テーパーの第直径は、典型的には10μmないし500μmの範囲内となる。
【0159】
該流路の断面積は、前記開口の面積とほぼ同じであり、即ち、該開口の後において該流路の断面積が拡大しないことが好ましい。
【0160】
膨張チャンバーが存在する場合には、該膨張チャンバーにおいてそのインプット開口の幅を少なくとも2倍(例えば、少なくとも3倍、4倍、5倍又はより大きく)増大することが好ましい。該膨張チャンバーは、処理される細胞内容物の体積よりも大きいが、大量に送出された処理試薬が迅速に拡散して該細胞内容物と相互作用する程度に小さくなければならない。該膨張チャンバーは、効率的な混和が行なわれるような形状を有しているべきであり、例えば、該チャンバー内の内容物が拍動性の圧力波により前後に移動される場合には、その表面は突出又はバッフルを具備することにより、該内容物を攪拌してもよい。
【0161】
高感度の検出手段が提供されるが(例えば、下記を更に参照)、標的は、捕獲されて初めて検出可能となる。本発明の目的は、可能な限り多くの標的分子(即ち、流路内で解析用成分が提供される対象となる被検体)、好ましくは細胞内の少なくとも50%(例えば、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上、又は100%までも)のmRNA標的であり、そして典型的には、実質的に全ての特定の標的転写物を捕獲することにある。このことは、特に貴重な転写物について重要である。この目的は、例えば、捕獲用パッチのサイズ、パッチ内の核酸密度、流路の寸法、前記装置内の流速等、該装置の種々の特徴及びその使用法について関連を有する。
【0162】
前記流路の断面を通って移動する際、標的は任意の時間において、該断面上のいずれかのx、y座標、例えば、該流路の上部又は底部等、にその位置を突き止めることができる。もしプローブが該流路の底面のみに結合している場合には、該プローブの上側にある断面領域は、どのような特定の時点であろうとも効果を有しない。従って、前記捕獲用試薬が該断面のできるだけ多くの部分をカバーするように、高さ又は流路を減少させて幅を増加させることが有用である。従って、解析流路の断面領域は長方形であることが好ましい。正方形ではなく、長辺を底部とする(高さ(h)<幅(w)、図18)長方形を有することにより、該流路を通って移動する分子が、該流路の底部及び/又は壁面の表面上に結合したプローブへと迅速に拡散することになる。高さ:幅の比率は、少なくとも1:2であることが好ましく、例えば、1:3、1:4、1:5、1:6、等であることが好ましい。流路の高さは、50μm以下(例えば、40μm以下、30μm以下、20μm以下、10μm以下、5μm以下、2μm以下、等)であることが好ましい。更に、特に、前記底部に対して垂直に配置された検出器との関係においては、平坦な底部上に捕獲用試薬を有することで、湾曲した底部と比較した場合にシグナル検出が容易なものとなる。
【0163】
更に断面の前記効果を有しない部分を減らすため、捕獲用試薬は該断面積のできるだけ多くの部分をカバーすべきである。従って、前記流路の底部上にもっぱら単層として固定化された核酸を使用するよりも、例えば、一定の範囲の長さ有するリンカー等のように異なる長さのリンカーに結合された核酸を用いることで断面中の多様な高さにある捕獲を可能とする方がより好ましい。前記断面に伸びてその間を標的が移動可能な三次元的リンカーを用いることも可能である(例、ポリアクリルアミド)。三次元的ポリマーのパッドは、ガラス上に合成された単層プローブに対して100-1000倍もの収容量を有しており、そして、この種類の構造は、参考文献50、51等に見ることができる。参考文献51では、各40μm x 40μmで厚さ20μmのポリアクリルアミドパッドにオリゴヌクレオチドが結合している。しかしながら、流動の反転に基く検出を用いる場合には(上記参照)、架橋により列の変化が適切に生じないようになる場合があるので、固定化されたヌクレオチド1つに対して単一のリンカーのみを用いるべきである。より長いリンカーは、上記二方向の間のシグナルのシフトをより大きなものにする。
【0164】
解析流路の高さは、一般的に、例えば送出路のような捕捉部位より上流のあらゆる流路の高さよりも低いものとなる。
【0165】
前記流路中の物質の流速も制御することができる。流れが速すぎる場合には、標的は、捕獲用プローブと有益な接触を生じる機会もなく素通りすることになる。十分に遅い流速の場合には、標的は、捕獲用パッチの最前部にて捕獲されることになる。従って、捕捉密度は、該パッチの近傍縁部において最大となり、そこから離れた縁部に向かって指数関数的に減少する。例えば、図30には、3種類の流速における、パッチ中に捕獲されたプローブの分布が示されている。全ての場合において、捕獲は該パッチの最前部へと偏っており、流速が遅くなるにつれてこの偏りも大きくなる。このシグナルの非対称分布により数多くの利点がもたらされる:限定された領域に捕獲を集中することにより、少量の標的に対する検出感度が高められ;前記特徴的な指数関数的減退により、真のハイブリダイゼーションシグナルをノイズから区別しやすくなり;そして、該パッチの全域にわたる均一な高いシグナルが、プローブが飽和したことを示すことになる。
【0166】
図13に描かれるように構成されたプロトタイプの装置においては、流路は、幅が10μmであり、50μmの中心対中心間隔を有する。従って、200本の流路を有する装置では、幅が1cmとなる。装置を正方形に保つため、該流路が1cmの長さにあってもよい(又は、前記送出路、捕捉部位、廃棄路等の大きさを収容するために、これよりも僅かに短くてもよい)。各ストライプが10μmの幅にあり、20μmの中心対中心間隔(ストライプ間に10μmの間隔)を有する500種類の異なるオリゴヌクレオチドストライプを施すことができる。従って、1cm2の装置により、200個の単一の細胞中の500種類の異なるmRNAの解析を同時に行なうことができる。より狭い流路を有するより大きな装置では、数百個又は数千個の細胞を並行して解析することができ、さらに、例えば、細胞周期を繰り返す集団の中に存在する有糸分裂細胞のような、他の大多数の細胞中に混じって低頻度にしか生じない細胞を検出することもできる。
【0167】
各ヌクレオチドパッチは、前記流路の表面上において10μm x 10μmの面積を有する。流路の高さが10μmの場合、12.5pl/分の流速が、適切であり、この10μm x 10μmのパッチに約80%の相補的RNA標的が捕獲される。
【0168】
上述したように、10μm x 10μmのオリゴヌクレオチド捕獲用パッチは、各パッチにつき105のオーダーの転写物を収容することができる。過剰量の転写物であっても、細胞1個につき105を超えることは(もし超えたとしても)殆どないであろうから、10μm x 10μmのパッチで十分である。しかしながら、パッチがその面積において100倍縮小した場合(例えば、1μm x 1μm)、103の転写物だけしか捕獲できなくなり、これは最も大量な転写物にとって不十分となるであろう。従って、特定の標的転写物の存在量により捕獲用パッチの大きさを規定することができる。標的が特に高い又は低い濃度を有することが知られている場合、それに従ってパッチの大きさを調整することが可能であり、従って、本発明に係る装置中の流路内のパッチが全て同じ大きさを有する必要はない。
【0169】
連続的なインサイチュ(in situ)逆転写
上述したように、好ましい細胞内容物の解析方法は、流路内で固定化された捕獲用DNAへのハイブリダイゼーションによりmRNAを捕獲し、これに続いて、ハイブリダイズされた該固定化されたDNAをプライマーとして用いてインサイチュ(in situ)に逆転写を行なって、標識されたcDNAを提供することを伴う。この技術は、適切な検出器との組み合わせにより(上記参照)、希少な転写物についても簡便に検出することを可能にする。
【0170】
転写物は、大まかに、過剰量、大量及び希少なものとして分類することができる。これら3種類の各クラスの大体の特徴を以下に示す。
【0171】
【表2】
【0172】
上記のインサイチュ(in situ)逆転写法を用いることで、単一の細胞の抽出物中にあるこれら個々のmRNAを、該抽出物中に該転写物が10個より少量でしか含まれていない場合であっても検出できる。シグナル強度が非常に低くなる希少な転写物については(例えば、細胞1個あたり100よりも少ないコピー数しか存在せず、特に 10コピー/細胞より少量しか存在しない転写物)、本発明は、シグナルの検出可能な量を向上させた改善された技術を提供する。
【0173】
この改善された技術においては、逆転写が繰返し行なわれる。cDNAが合成された後、前記ハイブリッドは融解されて(例えば、加熱により)前記mRNAが放出される。該融解条件が穏やかな場合、又は、該融解が迅速に逆方向に進んだ場合(例えば、ポリA/ポリTの二重鎖のTmより低くまで冷却することにより)、前記放出されたmRNAは、近くにある伸長していないプライマーと迅速に再度アニールすることができる(図14A及び14B)。さらにまた、前記固定化された核酸がmRNAのポリA尾の一部に相補的な場合、該ハイブリッドの比較的不安定なrA-dTヘテロ二重鎖部分は、該分子の他の部分を融解するのに要するよりも低い温度で融解することになり、拡散を余儀なくされる。該ハイブリッドが融解すると(その全体又は一部において)、前記表面上に過剰量の伸長していないプライマーが存在するので、再アニーリングが頻繁に生じる。
【0174】
従って、単一のmRNA分子を鋳型として用いて複数個の標識cDNA分子を合成することが可能であり、いかなる単一のmRNA分子から実を結ばれたcDNA産物も、該mRNA分子の近傍に存在することになる。従って、少量なmRNAを含む単一の標識ハイブリッドを増幅して、より容易に検出可能な標識スポットを提供することができる(図14C)。単一のパッチ中のスポット数全体は増えていないので、該アッセイの定量的特性は失われていないが、各標識されたスポットの大きさが増大することでハイブリッドの検出が容易化される。従来技術により測定される蛍光シグナルは、十分に増幅されている場合には、増幅度に比例して増大することになる。それにより、上記のように、各オリゴヌクレオチドパッチ中の傾向スポット数をカウントすることでmRNAを測定することが可能となる。
【0175】
この方法による逆転写の繰返しを実現するため、熱を用いて二重鎖を分裂させる場合には、熱耐性逆転写酵素[52、53]を用いることができる。本発明に用いられる好ましい逆転写酵素は、低減したRNase H活性を有していることが好ましい。
【0176】
本発明のこの局面は、他の局面とは個別に実施することが可能であるから、本発明は、(i)固定化された核酸を含むハイブリダイゼーション基質を提供する工程;(ii)遊離核酸がハイブリッド中に一本鎖オーバーハングを持つように、該遊離核酸が該固定化された核酸とハイブリッドを形成できる条件下において、該ハイブリダイゼーション基質に該遊離核酸を加える工程;(iii)該一本鎖オーバーハングを鋳型として用いて該ハイブリッド中の該固定化された核酸を伸長する工程であって、ここで、該伸長反応は、検出可能な標識を該固定化された核酸に取り込む、工程;(iv)ハイブリッドの少なくとも一部を溶解し、該溶解した部分を固定化された核酸と再アニールさせて、該遊離核酸が一本鎖オーバーハングを有する新しいハイブリッドを形成させる工程;並びに(v)工程(iii)を少なくともn回繰り返す工程であって、ここでnは1以上の整数であり、ただし、n>1の場合、工程(iv)は少なくとも最初にn-1回工程(iii)を繰り返した後に行なう、工程を含む核酸ハイブリダイゼーションアッセイを行なう方法を提供する。
【0177】
工程(i)で用いる前記ハイブリダイゼーション基質は、ここに記載される装置でもよく、又は、当該技術分野において公知の標準的な核酸アレイであってもよい。前記固定化された核酸は、一般的にはDNAとなる。
【0178】
工程(ii)で加えられる前記遊離核酸は、DNA又はRNAであってもよいが、mRNAであることが好ましい。mRNAである場合、前記固定化された核酸は、例えば、一続きの少なくとも10個(例えば、20、30、40、50又はこれよりも多く)の連続したTヌクレオチド等のポリT配列を含んでいてもよい。該ポリT配列は、前記固定化された配列の5’末端、又はその近くに存在することになる。
【0179】
工程(iii)の伸長は、酵素的又は非酵素的であってもよく、そして重合又はライゲーションにより実現されてもよい。例えば、DNAポリメラーゼ(DNA依存性DNAポリメラーゼ及びRNA依存性DNAポリメラーゼ、即ち、逆転写酵素の両方を含む)、RNAポリメラーゼ(DNA依存性RNAポリメラーゼ及びRNA依存性RNAポリメラーゼの両方を含む)等を用いる酵素的重合が好ましい。使用されるプライマー(例えば、DNA又はRNA)及び所望の伸長(例えば、DNA又はRNA)に従って、適切な酵素を選択することになる。前記検出可能な標識は、蛍光標識であることが好ましい。
【0180】
工程(iv)では、核酸ハイブリッドが融解され(少なくとも部分的に)そして再アニールされている。部分的融解の後、該融解された鎖は、先のハイブリッドの近傍にある新しいプライマーと再アニールすることができる。既存の二重鎖の完全な融解を用いることもできるが、その場合拡散により再アニーリングが干渉されるので、例えば、捕獲されたmRNAのポリA部を含むハイブリッド部分の融解等、部分的な融解が好ましい。前記方法は、例えば、工程(iv)での融解から、dが0、-1、-2、-3、-4、-5又はより小さいものから選択される10d秒以内等、迅速に再アニーリングが生じる場合に有効である。同様にして、工程(iv)での再アニーリングは、先のハイブリッドから、eが-4、-5、-6、-7、-8、-9又はより小さいものから選択される10eメートル以内で生じることが可能である。
【0181】
工程(v)で特定されるように、工程(iii)及び(iv)は、少なくとも1回、好ましくは少なくとも2回、3回等繰り返すことができる。従って、nは、少なくとも2、3、4、5、10、20、30、40、50又はより大きな整数であることが好ましい。 工程(iii)の各繰り返しには、工程(iv)が続くことになるが、最終の繰り返し(即ち、n回目)の後には工程(iv)が続く必要がない。
【0182】
また、本発明は、この方法により得られる前記修飾ハイブリダイゼーション基質を提供する。
【0183】
前記方法は、更に、(vi)前記修飾ハイブリダイゼーション基質上の標識を検出する工程、を含んでいてもよい。
【0184】
第二のcDNA鎖の合成
インサイチュ(in situ)逆転写が行なわれた後には、最初にRNA/DNAハイブリッドが存在しているが、ここで、該DNAは典型的に検出用標識を含むことになる。本発明のある態様において、このハイブリッド中の該RNA鎖は、例えばRNAse Hの使用などにより取り除かれる。この除去工程により、固定化されたプライマーからの伸長により調製された一本鎖DNAが取り残される。該除去工程の後に、該一本鎖cDNAを鋳型として用いてこれに相補的なcDNA鎖を合成することができ、これにより二本鎖cDNAが提供される。
【0185】
この第二鎖の合成は、既存のcDNA鎖に相補的なプライマーを用いて開始されることになる。最初の逆転写の後、第二鎖の合成の開始には、このプライマーの位置まで伸長されたDNAのみが利用可能となる。該第二のcDNA鎖は、標識を取り込むように合成することもでき、該標識は、第一鎖の合成中に用いた標識と同じであっても異なっていてもよい。
【0186】
この技術は、図59に例示されており、2本の固定されたオリゴDNA鎖へのハイブリダイゼーションが示されている。工程(a)では、標的mRNAが両方の鎖にハイブリダイズする。工程(b)において逆転写が起こるが、前記2本のオリゴDNAプライマーのうち1本のみで完了する。工程(c)において鋳型のmRNAが取り除かれ、その後、工程(d)において第二鎖用のプライマーが添加される。伸長された固定化DNAのうち1本のみが第二鎖合成用の鋳型として機能することができる。
【0187】
更なる特徴
細胞内容物の解析と共に、真核細胞内の単一の細胞小器官、特に細胞核(例えば、転写因子について)、ミトコンドリア及び色素体(例えば、葉緑体)を解析することも好ましくあろう。細胞小器官は、本発明に係る装置に導入する前に細胞から調製することが可能であり、又はインサイチュ(in situ)での溶解により細胞から放出することもできる。そして更に、該細胞小器官は、上記で細胞の全体について記載するのと同様の方法で捕獲して処理することができる。これを実現するための構造を図19に示す−細胞が捕捉され、その細胞小器官が放出され、その後、該細胞小器官が捕捉されるが、その他の物質は洗い流される(二重テーパー捕捉)。ミトコンドリアの等電点電気泳動が、参考文献22に開示されている。
【0188】
複合サンプル(例えば、針生検)から巨大細胞を取り出して、小さな細胞を解析流路に到達させるための同様の累積テーパーの装置が図21に示されているが、この装置は簡単に目詰まりを起こしてしまう。これに代わる、大きさにより細胞を分離するための構造が、図22に示されている。
【0189】
送出路により、細胞をその大きさに依存して異なるフラクションに分けることができ、そして、その後、該大きさの異なる細胞を大きさの異なる細胞捕捉部位へと送ることができる。従って、単一の装置で、大きさの異なる種々の細胞に対応することができる。適切なサイズ分画用の構造が図20に示されている。
【0190】
本発明に係る装置は非常に小さな寸法を有するので、ほこりのような夾雑物により簡単に詰まってしまう可能性がある。従って、解析前にサンプルのろ過を行なうことが好ましい。フィルターは該装置と一体であってもよく、又は別であってもよい。
【0191】
細胞が捕捉されると、これら細胞は、大きさや形などの特長について顕微鏡を用いて検査される。更なる詳細な特長については、顕微鏡検査前に、これら細胞を、例えば蛍光抗体等により染色することもできる。このような情報は、本発明の主たる目的である分子的キャラクタリゼーションとの関連において有益である。
【0192】
一般事項
「含む(comprising)」という用語には、「から成る(consisting)」と共に「含む(include)」が包含され、例えば、Xを「含む(comprising)」組成物は、Xのみから成っていてもよく、又は、例えばX + Yのように付随的なものを含んでいてもよい。
【0193】
数値xに対する「約」という用語は、例えば、x±10%を意味する。必要な場合には、該「約」という用語は省略できる。
【0194】
「実質的に」という用語は、「完全に」を排除するものではなく、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを全く含んでいないものであってもよい。必要な場合には、「実質的に」という用語は本発明の定義から省略できる。
【0195】
ある要素に対する「直径」及び「円周」のような用語の使用は、必ずしも該要素が円形(又は、3次元の場合には、球形)であることを意味するものではない。
【0196】
「抗体」という用語には、ありとあらゆる種々の天然の及び人工の抗体並びに抗体から誘導された入手可能なタンパク質、並びにその誘導体が含まれており、例えば、これに限定されるものではないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、単一ドメイン抗体、完全抗体、 F(ab')2及びF(ab)フラグメントのような抗体断片、Fvフラグメント(非共有結合性ヘテロ二量体)、一本鎖Fv分子(scFv)のような一本鎖抗体、ミニボディー(minibody)、オリゴボディー(oligobody)、二量体若しくは三量体の抗体断片又は抗体構築物等が含まれている。「抗体」という用語は、いかなる特定の由来を示すものではなく、ファージディスプレイのような非従来的方法により得られた抗体も含んでいる。本発明の抗体は、いかなるアイソタイプ(例えば、IgA、IgG、IgM、即ち、α、γ又はμ重鎖)であってもよく、κ又はλ軽鎖を有していてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0197】
微小製造装置
図33に示す平面図の網状構造(1)が、PDMS厚板中に作られた。細胞は、該装置の上部から送出路(10)に沿って進入する。単一細胞は、複数の平行な流路(30)のテーパー進入口(20)にて捕捉され、その内容物は、矢印で示される方向へ移動する。試薬は、該流路(30)に沿って移動した後に、前記装置(1)のアウトプット端(40)から廃棄口(50)を通じて出て行く。最終的なPDMS装置(1)内のアウトプット端(40)の拡大図が、図34に示されている。最終的なPDMS装置(1)内のテーパー進入口(20)の拡大図が、図35に示されている。細胞を捕捉するための種々の突起物(60)の配置を含んだ進入口(20)より下流の領域の細部が図36に示されている。前記流路(30)は、幅が10μmで、使用するPDMSの厚さに依存するが、高さが2-20μmの長方形の断面を有する。隣り合う流路は、60μm離れている。前記進入口(20)は、50μmから10μmのテーパーを有する。突起物(60)は、流路中のポスト(2μm x 2μm)か、又は壁面から突き出たバッフル(2μm x 3μm)のいずれかである。
【0198】
これに代わる、装置の捕捉部分よりも上流の構造が図53に示されている。細胞の懸濁液は、送出路(110)を通って前記装置に進入し、一連の細胞捕捉部位(120)に流液及び細胞を送出する前にこれらを均等に分配するように設計された、二又に分かれた流路を有する分流器(115)を通って流れる。液体は、該二又に分かれた送出路の流路を一様に通過することができる(図71)。これらの流路は、幅1mmから、例えば25μmにまで縮小する。従って、図33に示す前記構造とは対照的に、細胞は、解析流路に対して垂直な方向ではなく、これに平行な方向に前記細胞捕捉部位へと流れていく(図54)。しかしながら、垂直なバスライン(105)は依然として存在し、これを用いて捕捉された細胞を通過するように試薬を流すことが可能であり、例えば、溶解を行なったり、又は細胞を化学的刺激に晒すこともできる。このライン(105)は、典型的には50-500μmの幅を有する。サンプル中の細胞数が少ない場合、捕獲効率が重要なように、この構造は、図33の構造よりも有用である。また、図33との比較において、せん断誘発性の細胞の破裂も減じることができる。図55には、図54に対応する顕微鏡画像が示されている。
【0199】
前記装置は、前記注入口の孔に対応する孔を有するガラス面に結合したPDMSから作られる。該ガラス面は、該PDMSだけではなく、該注入孔に取り付けられた流体コネクタにも機械的支持を与える。前記微小流路は、マスターパターンを具備したシリコン性の+SU8鋳型を用いてこれら微小流路をPDMSにキャスティングすることで作られる。該PDMSの硬化の後に該鋳型が取り外され、該PDMS中に該パターンの跡が残される。該流路の深さは、前記SU8の厚さにより決定される。PDMSの全厚は、硬化過程中に前記鋳型がその上に載せられる、前記ガラス面に装着されるポリイミドテープのストリップにより決定される。
【0200】
1の鋳型については、900nmの熱成長酸化物を有する100 mm <100> n-型のシリコンウエーハーが、ホットプレート上で110℃にて15分間脱水ベークされた。10 mlのSU8-25が、市販のスピナー及びツーステップスピンプロセス(two-step spin process)を用いて、50μmの厚さになるまでウェハー上にスピンされた(蒸着工程)。前記ウエーハーは、65℃で3分間焼き付けされ、その後95℃で15分間焼き付けされた(プリベーキング工程)。冷却後、ウエーハーはクロムオンガラスマスク(chrome-on-glass mask)を通じて、10mW/cm2 広帯域UV光にマスクアライナを用いて30秒間露光され、その後、65℃で1分間ポストエクスポージャーベークを施され、更に95℃で4分間のベークがこれに続いた(ポストベーキング工程)。その後、ウエーハーは、1-メトキシ-2-酢酸プロパノールの2つの層を用いて5分間現像され、各ウエーハーは、各槽ごとに2.5分間づつ浸漬され、そして揺動され、その後、乾燥窒素による風乾の前に、プロパン-2-オールでリンスされた。ポストベーキングが150℃で10分間行なわれ、その後、110℃で1分間焼き付けされたS1818フォトレジストの蒸着層を用いて保護された。その後、ウエーハーは、S1025ダイヤモンドソーブレードを有するウエーハーソー(wafer saw)を用いてダイスカットされた。鋳型は手作業により取り外され、乾燥窒素による風乾の前に、最初にアセトンで、次にプロパン-2-オールでリンスすることによりフォトレジスト保護層が取り除かれた。分離の後、鋳型は目視により主な欠陥又は大きなダメージについて検査された。
【0201】
この方法により、SU8構造物に均一な厚みが与えられた。注入流路をより深くするため(例えば、細胞の輸送を促進するため)、2種類の深度を有するSU8構造物を用いてもよい。この構造は、複数のSU8層を相互に上に重ねる連続的な処理加工(蒸着、プリベーキング、露光、ポストベーキング)、及びこれに続く一回の現像工程(単一の深度の製造のように)。このような2種類の深度を有する構造の製造は、参考文献54に記載されている。
【0202】
その後、該鋳型を使用して、ソフトリソグラフィー法[55]を用いることによりPDMS構造物が製造された。簡潔に言うと、PDMSは、10:1の比率での基礎ポリマーと硬化剤の混和、及びこれに続く減圧下における30分間の脱気工程により調整された。少量の上記前ポリマー混合物が、SU8鋳型及び支持体として機能する事前に処理された顕微鏡スライドの両方の上に注がれた。該顕微鏡スライドの事前処理は、定着剤を用いて行われた。鋳型は、その取扱い性に加えて耐久性を向上させるため、5mm厚のポリカーボネートのストリップにより支持された。溶媒の影響による膨潤を回避するために最小化された該鋳造物全体の厚みは、該鋳型をカプトン(Kapton)テープによりその両面で支えることで制御され、〜180μmの全体の厚みが生じた。PDMS部分全体の厚みは、前記ガラスに取り付けられた2本のテープのストリップの厚みにより決定される。前記顕微鏡スライドと鋳型は、接触させられ、PDMSのフィルムを挟み込み、該PDMSを硬化させる間、定位置で強固に保持された。完成時には、前記鋳型は、前記鋳造物から丁寧に持ち上げられ、前記カプトン(Kapton)テープのストリップは使用前に取り外された。
【0203】
前記SU8鋳型を取り除いた後、該支持体表面の注入孔にはPDMSが詰まっているのでこれを除去する必要がある。該PDMSの詰め物は、該注入孔の直径よりも僅かに小さな直径を有する穴開けパンチを用いて取り除かれた。該詰め物の除去中は、流路の寸法よりも大きな直径を有するデブリを生じないように注意を払う必要がある。同一の孔位置を有する鋳型スライドにより、前記穴開け加工中に生じる微視的な塵粒及びデブリから前記構造物が保護され、前記穴開けパンチの誘導が助けられる。前記穴開けパンチは、針状のシャフトであり、鋭い切れ味を提供するために、一方の端部の内側から尖鋭化している。デブリが後戻りして装置内に入るのを防ぐため、該シャフトは、前記孔を通じて、引いて戻すのではなく、完全に引き抜かれる。19Gのニードル(0.9mm)であれば、前記注入孔(1mm)と上手く適合する。
【0204】
図72には、図53の装置に進入してテーパーの付いた捕捉部位で捕獲された細胞が示されている。該装置は、25μmの高さを有し、50μLのバッファー、10μLのトリパンブルー(Trypan blue)、10μLのバッファー、5μLの細胞懸濁液(100細胞/μL)及び10μLのバッファーが、具備されたシリンジにより供給された。図72に示される一連の流れの間、流速は1μL/分であった。
【0205】
図37に示すように、前記装置(1)は、ガラス製の顕微鏡スライド(2)上に調製されたDNAマイクロアレイと接触して置かれた。前記PDMSは該ガラスに対する密封を形成し、これにより加圧を要することなく水性溶液の漏出が防止された。流路(10)の内側及び外側に通じるパイプ(11a及びb)が、該PDMS装置(1)へ挿入され、更に廃棄パイプ(51)も挿入された。
【0206】
パイプ(11a)を通じて送出路(10)にヒト白血球のような細胞の懸濁液を導入することができる。大量の流体は、パイプ(11b)を通じて外に出るが、廃棄パイプ(51)を通した僅かな吸引により、流体の一部が流路(30)へ引き入れられてしまう。個々の細胞はテーパー進入口(20)に侵入するが、大きすぎるために流路(30)に進入することができず、それ故にこれら細胞は進入口(20)において捕捉される。前記吸引圧を維持したまま、パイプ(11a)を通じて送出路(10)に溶解溶液が導入される。これにより進入口(20)に捕捉された細胞が溶解され、その内容物が放出されて、スライド(2)上の前記マイクロアレイのプローブと相互作用可能な流路(30)へと流れることになる。
【0207】
流体連結についてのより頑強は方法としては、市販のコネクタを用いることができる。典型的なアセンブリーは、ポート及び適合するコネクタから成る。該ポートは、前記ガラスの支持体部分上の注入孔の上に置かれ、注射針及び適合するPTFEチューブの一部を用いて並べられ、エポキシ樹脂で接着される。該エポキシ樹脂は、前記注射針及びPTFEチューブの一部が取り除かれた後に、一晩硬化される。図56には、このようなコネクタが装着された装置が示されている。この装置を用いて、ハーバード(Harvard)PHD2000二連シリンジポンプがコネクタ111a、111b及び151に取り付けられ、これを用いて細胞の懸濁液が該装置に注入された。両シリンジのピストンは、このポンピング構造を用いて平行に動く。多数のバルブを用いることにより、実に容易にサンプルをあらゆる方向に動かしまわすことができる。
【0208】
核酸プローブの実質的に平行な直線のアレイ(3)は、参考文献34に開示される電気化学的方法を用いて簡便に作ることができる。図46に示すように、前記PDMS装置(1)は、その流路が、該アレイ上の線に対して実質的に垂直になるように配置することができる。個々の細胞は、該流路への進入口で捕捉して(例えば、図8、48及び69に示すように)、インサイチュ(in situ)に溶解することができ、そのmRNA内容物は、個別の流路を流れて、それぞれが同一の系列の核酸プローブと遭遇することが可能である。ハイブリダイズしたmRNAは、ハイブリダイゼーション後に、逆転写中に蛍光塩基が取り込まれるように逆転写される(図39)。その後、該流路装置(1)は取り除くことができ、そして標準的な技術により該アレイ(2)上の蛍光を読み取ることができる(図47)。前記ストライプの大きさ及びmRNAの濃度に依存するが、該アレイは、標準的なマイクロアレイリーダー、又は単一分子の検出が可能であり、高感度高分解能蛍光体検出に使用可能なサイトスカウト(商標)(CytoScoutTM)のような高分解能リーダーのいずれかを用いて可視化することができる。
【0209】
インサイチュ(in situ)細胞溶解
細胞を溶解するために2種類のバッファーが使用された。
【0210】
第一の溶解バッファーは、以下を含むドデシル硫酸リチウム溶解バッファーであった:10OmMのTris (pH 7.5); 500mMの塩化リチウム; 1OmMのEDTA; 1%ドデシル硫酸リチウム; 及び5mMのDTT。該LiDS洗剤は、ヒストンのゲノムDNAへの結合を維持して、ゲノムDNAをコンパクトに維持する。RNase阻害剤の添加により、mRNAの分解が防がれることになる。
【0211】
第二のバッファーは、以下を含むグアニジンチオシアネート溶解バッファーであった:3MのGuSCN; 2mMのクエン酸ナトリウム; 2%β-メルカプトエタノール; 1% Triton X-100; 1MのNaCl; 1OmMのTris (pH 7.5);及び1mMのEDTA。カオトロピズム溶解剤であるGuSCNは、全てのタンパク質の水素結合、塩橋及び水和を分断する。その結果、ゲノムDNAからヒストンが取り除かれ、スーパーコイルが解かれる。また、細胞のRNaseも変性される。
【0212】
これらのバッファーが固体表面に捕捉された細胞に適用され、顕微鏡を用いて溶解が観察された。 前記第一のバッファーを用いることにより、無傷の細胞の濃度は10秒以内に10分の1に減少し、30秒後には全ての細胞が溶解されていた。前記第二のバッファーはこれよりも強力で、10秒以内に無傷の細胞が見あたらなくなった。溶解バッファーの選択により、溶解が完了する前に、どのくらい長く、例えば30秒まで等、細胞がテーパー注入口に保持されるはずなのかが決められることになる。
【0213】
密封された微小流体流路中の流体移動及びハイブリダイゼーション
平行な流路が、PDMSの平坦な一片にエンボスされた。該PDMS構造物は20本の流路を有していた。各流路の両端は、該PDMSの平面に直行して走る軸を有する円形の孔で終結する。従って、該PDMS構造物の一端には20個のインプット孔が存在し、反対の端には20個のアウトプット孔が存在し、これらの孔は5 x 4のアレイ状に配置されている。図49にこの配置が例示され、20本の流路のうち8本だけが示されている。
【0214】
PDMSが、ガラススライドに押し付けられ、前記インプット孔とアウトプット孔を除いて、該流路が閉じられる。PDMSの「粘着性」により、該ガラスとPDMSは互いに強固に固定されて維持されていることが分かった。
【0215】
該装置の流体工学の基本的作用をテストし、そして、特に流体が該PDMS/ガラス接触部分からこぼれ出ることなく、更に該流路の壁面をゆがめることなく該流路中を移動可能なことを確認するために、有色のインクが前記インプット孔を通じて該流路に注入された。図50Aにこの実験の結果が示されており、流体は、隣の流路に漏出することなく該流路を良好な流体運動で通過できることが視覚的に確認された。
【0216】
隣り合う流路間での漏出が無かったことは、蛍光標識及び蛍光顕微鏡を用いて確認された。
【0217】
流路内で核酸のハイブリダイゼーションが起こりうることを確認するため、5 ' -CTACGCのヘキサマープローブが、従来の化学を用いてガラススライドの表面上のパッチに結合された。簡潔に言うと、ショット(Schott)エポキシスライドが、10分間の10% HCl水溶液中での攪拌を用いて開環された。該ヘキサマーは、PPDMSガスケット、LongPCoupleサイクル、ABIデブロックアンドオキシダイザー(deblock and oxidiser)を用いて合成された。脱保護は、50/50のEtOH/エタノールアミン中で60℃にて25分間行なわれ、その後、EtOH/N2でリンスされた。前記ガラススライドと、流路形成されたPDMSは、MeOH/N2でリンスされ、先程のように、互いに押し付けられた。
【0218】
偶数番目の流路は、前記固定化されたヘキサマープローブに相同的であり、該PDMS流路構造物の一端において検出されるCy5標識標的を100μl受容した。奇数番目の流路は、バッファーのみを受容した。外側の2本の流路(1番目と20番目)は使用しなかった。灯心現象は、各流路が満たされるのを確認するまでに〜5分間を要した(開始後の吸上げ速度は〜1mm/s)。30分後、液体は流路から吸い取られ、前記ガラス及びPDMS構造物は分解された。リンスは、全強度のバッファー中での5分間の揺動、その後の1/2強度のバッファー中での5分間の揺動により行なわれ、その後遠心による乾燥を行なった。アジレント(Agilent)スキャナーを用いて該スライドが可視化された。
【0219】
Cy5標識標的を受容した流路内でのハイブリダイゼーションは、明白であった。隣り合う流路間で非常に少量の漏出があった。前記偶数番目及び奇数番目の流路を対比することにより、漏出を定量することができた。標的/バッファーのシグナル/ノイズ比は、平均すると50:1(20,000対400)であり、最高で160:1(32,500対200)であり、最低で11 :1(9,000対800)であった。
【0220】
同様の実験において、流路は、以下のものを順に受け入れた:空気;バッファー;標的;標的;バッファー;標的;標的;等。結果を図51に示す。蛍光シグナルは、前記標的を受容した流路のみに見ることができ、隣り合う流路間での混線はなかった。
【0221】
更なる実験では、オリゴヌクレオチドのアレイが電気化学的に合成された[34]。プローブは、隣り合うライン間に間隔を有する平行なストライプに配置された。PDMS内の流路は、幅が160μmであり、該オリゴヌクレオチドのストライプに対して直角に配置された。該ストライプ上に該流路を重ねる効果は、該流路の縦方向に沿ってオリゴヌクレオチドの格子の系列を形成することにある。標識標的を該流路中に通してハイブリダイゼーションさせた。図52は、8本の隣り合う流路(90a、90b、... 9Oh)での結果を示す。隣り合う流路間の漏出が、91及び92の格子内のシグナルの比較により評価された。同様に、格子94のシグナルを、隣の格子との間にあるギャップ94のシグナルと比較することにより、ハイブリダイゼーションのシグナル/ノイズ比が評価された。
【0222】
従って、隣り合う流路への漏出もなく、そしてCy5標識標的が空の流路に浸出することなく、流路内でハイブリダイゼーションを行なうことが可能である。ハイブリダイゼーションのシグナル/ノイズ比は良好であった。この結果は、各流路は独立して使用することが可能であり、隣り合う流路間での個別の解析が可能であることを示している。
【0223】
電気的動性による移動
装置内での物質の電気的動性による移動(例えば、細胞懸濁液及び/又は細胞溶解物)を可能にするように図56の装置を構成するためには、該微小流体装置内部の液体との電気的接触を生じさせる必要がある。従って、該装置は図57に示すように構成された。
【0224】
PDMS構造物(101)は、ガラススライド(105)上に支持され、マイクロアレイ(102)と接触している。細胞サンプル(131)は、注入ポート(111a)を通じて該装置に進入でき、そしてポート(151)を通じて出て行くことができる。ポート(111a、111b、151)は、前記支持体(105)を貫通している。金属膜(145a、145b)が、スパッタ堆積を用いて前記支持体(105)の裏面上に堆積される。スパッタ堆積は、該微小流体装置を支える平坦な表面上だけでなく、前記注入孔(111a、111b)の側壁上の堆積も可能とすることから、電子ビーム蒸着のような他の物理的な蒸着技術に優先して用いられる。装置内部の溶液(31)との電気的接触は、該注入孔(111a、111b)の壁面を内張りする伝導層を通じて生じさせることが可能である。
【0225】
前記金属膜は、電圧が加圧されて電流が流れる間液体と接触することになるので、該金属は不活性であることが重要である。この目的のため、金や白金にような貴金属を用いることもできる。該貴金属の接着性を向上させるため、最初にクロムキーイングレイヤー(keying layer)が堆積される。該膜は、シャドーマスク(shadow mask)を通して堆積され、それにより前記ポートの近接領域のみが被膜される。金属で被膜された領域は、接着パッドとして機能する。各接着パッドに対して、電気ソケット(148)が銀入りエポキシ樹脂を用いて装着されている。
【0226】
従って、ポート111a、111b及び151のそれぞれを通じた電気伝導性の表面が存在し、該表面は、電源の装着のために近隣の電気コネクタ(例えば、148)まで広がる。図58は、この構造を例示しており、2箇所のコネクタ(148、151)及び支持体(105)と接触した金属膜層(145)を示している。
【0227】
細胞溶解物からのmRNAの捕獲
細胞は、本発明に係る装置内で捕捉された後に溶解され、その後、その溶解内容物は流路内で解析される。mRNA解析については、該細胞のmRNAはハイブリダイゼーションにより解析されることになる。溶解試薬及び/又は放出された非mRNAの内容物がハイブリダイゼーションを干渉するのかを確かめるための実験を行なった。
【0228】
図60Aには、細胞溶解物の濃度増加の存在下での2種類の異なるバッファー中における標識mRNAのアレイへのハイブリダイゼーションが示されている。サンプルは、左から右へと流された。上から下にかけて、11個のサンプルは以下の通りであった:(1)コントロールのハイブリダイゼーションバッファー; (2) LiDSバッファー + 2個の溶解された細胞の内容物; (3) LiDSバッファー + 50個の細胞; (4) LiDS + 100個の細胞; (5) LiDS; (6) GuSCNバッファー + 2個の細胞; (7) GuSCN + 50個の細胞; (8) GuSCN + 100個の細胞; (9) GuSCN; (10) コントロールバッファー; (11) コントロールバッファー。
【0229】
図60Bには、流路内のガラス製の支持体に結合したオリゴヌクレオチドのパッチへの標識mRNAのハイブリダイゼーションが示されている。該支持体は、図53に示す装置と同様に微小流体装置にクランプで押し付けられた。1 X PBS中の細胞は、該装置内へポンプにより送り込まれ、これに続いて1 X PBSが詰め込まれ(前記溶解バッファーを該細胞から分離させておくため)、最後に標識された合成マウスHPRT mRNAを含む1% Triton X-100溶解バッファーが送り込まれた。該細胞は溶解され、その内容物は、該溶解バッファー中に存在する合成mRNAと共にポンプで流路まで送られた。該合成mRNAは、流路に露出された領域内のオリゴヌクレオチドへハイブリダイズした。該流路は、高さ25μmに対して幅が5μmであった。
【0230】
従って、溶解バッファー及び細胞溶解物の存在下でもハイブリダイゼーションは可能である。従って、本発明を用いる場合には、従来のマイクロアレイハイブリダイゼーション実験の前に用いられる精製工程は必要とされず、個々の細胞の化学的溶解後に、溶解バッファー及び溶解物が残って存在していても本装置の流路内でハイブリダイゼーションを行ない、それを検出することが可能である。
【0231】
インサイチュ(in situ)逆転写
従来のマイクロアレイ技術では、mRNAは、アレイ上のプローブへハイブリダイズさせる前に、精製され、逆転写され、増幅され、標識され、そして再度精製される必要がある。その他の技術においても、精製mRNAがアレイに直接ハイブリダイズされている。前記二重鎖のプローブは、繋ぎ止められて遊離の3’末端を提供し、それから逆転写によるインサイチュ(in situ)での酵素的伸長のためのプライマーとして機能することになる[56]。該反応には蛍光標識されたdNTPが含まれており、それにより生じる生成物は、アレイに共有結合された、該mRNAの標識cDNAのコピーとなる。該伸長された標識生成物は、前記プライマーを介してアレイに共有結合されているので、単にアレイを洗浄することにより取り込まれなかったヌクレオチドを全て取り除くことが可能であり、これにより得られた生成物を失うことはない。
【0232】
この方法により、溶液に基く標的の調製における複雑な精製及び標識、に対する簡単な代替方法が提供され、アレイに基く解析に、酵素による工程を挿入することにより特異性を向上することが可能である。鋳型とプライマー間の、特に該プライマーの伸長していく側の末端の塩基間における完璧な塩基対形成のための酵素を要求することにより、ハイブリダイゼーション反応だけの場合に比べて特異性が補われる。
【0233】
前記方法の実施では、ポリA尾と、該mRNAに特異的な配列の3’末端との接合部分が標的となる。この領域は、恐らく最も標的の二次構造と立体障害による影響を受けにくい領域である。
【0234】
マイクロアレイのインクジェット方式での製造によるカスタム合成の前に、複数の予備的な実験を行なった。ABI 394 DNAシンセサイザー(synthesizer)を用いて、ヌクレオチド2.5個分の長さに等しいポリエチレングリコール200(15原子)で誘導体化されたエポキシ誘導体化ガラススライド上にDNAオリゴヌクレオチドプローブのパッチ(20 x 20 mm)が合成された。 DNAプローブ配列5'-dT25oligo21-3'は、「逆」方向に5’から3’へと合成され、遊離の3'-OHからのプライマー伸長を可能にした。最初の実験では、ヒトβ-グロビンポリA15IVT (T7 RNAを用いて得られたインビトロでの転写)の33P標識mRNAが、前記アレイにハイブリダイズされ、イメージ化され(図38A)、洗浄され、そして逆転写混合物中にインキュベートされた。RNAの除去、及びこれに続く前記mRNAの5’末端からの20merの配列を含むCy5標識プローブによる好結果のハイブリダイゼーションから、前記繋ぎ止められたプライマーの伸長から伸びた逆転写は最後まで進んでいたことが示された(図38B)。
【0235】
マイクロアレイ実験に逆転写反応工程を加えることにより、従来のハイブリダイゼーションに対する優位性が与えられる。プライマーの伸長を進めるためには、酵素は、該伸長するプライマーの末端における完璧な塩基対形成を必要とする。これは、上記の研究で確認されているように、オリゴヌクレオチドプローブの中でも、ハイブリダイゼーションに対して比較的小さな影響しか有しないとして知られている領域である。従って、該プローブの3’末端にミスマッチを有する標的は、相当レベルのハイブリダイゼーションシグナルを生じる比較的安定なハイブリッドを形成することができるが、恐らく逆転写により伸長されることはない。更に、このプライマー伸長法では、標的の標識コピーの調製中に組み込まれたエラーの結果として、発現レベルにある被検体にエラーを生じさせる可能性がより低いものとなる。DNAマイクロアレイに対するmRNA集団のハイブリダイゼーションを用いる研究では、該アレイへのハイブリダイゼーションの前に、RNAがコピーされ(場合によっては増幅され)て標識されることを要する。コピー及び増幅は、両方ともmRNAに間違った塩基を導入する可能性を有する工程である。4種類の異なる逆転写酵素及びDNAポリメラーゼ酵素を用いたRT-PCRの研究では、4%ないし20%のクローンが変異配列を含有するようなクローンが生成された。
【0236】
特異性については別にしても、アレイ上のインサイチュ(in situ)での直接的なmRNAのコピーは、発現解析データを得るための過程を簡素化する。精製されたポリアデニル化mRNAは、アレイに直接ハイブリダイズされる。ハイブリダイゼーションしたならば、完璧にマッチした標的:プローブ複合体は、直接結合により標識dNTPを取り込みながら逆転写酵素により伸長される。該伸長した標識生成物は、該アレイに共有結合しているので、取り込まれなかったヌクレオチド及び伸長しなかった標的は、ストリンジェントな洗浄により該アレイから除去することが可能である。ハイブリダイゼーションの前に該mRNAをコピーしたり、増幅したり、又は事前に標識したりする必要はない。該標識コピーの精製に際してサンプルのロスは生じない。
【0237】
更なる実験において、細胞は、oligo-dT(30)で覆われたガラススライド上でインサイチュ(in situ)に溶解された。該溶解バッファーには、320mMのスクロース、5mMのMgCl2、1OmMのHepes及び1%のTriton-X100が含まれていた。該スライドは、溶解バッファー中で常温にて90分間インキュベートされ、洗浄され、その後、逆転写酵素混合物中でスーパースクリプトIII(Superscript III)及び赤色蛍光体を用いて45℃にて2時間インキュベートされた。
【0238】
この結果から、溶解バッファー及び細胞溶解物の存在下においてさえmRNAが固定化されたオリゴヌクレオチドにハイブリダイズできたこと、並びにこれらの条件下において逆転写を生じることが可能なことが確認された。
【0239】
最初にmRNA/cDNAのハイブリッドを生じる逆転写の後に、該mRNAを取り除いてcDNAの第二鎖を合成することが可能である(図59)。図62には、第二鎖の合成が行なわれた実験の結果が示されている。
【0240】
マウスHPRT mRNAの800-859番目の塩基に相補的なオリゴDNAが、NHS誘導体化ガラススライド上に固定された。該オリゴDNAは、一定の形状を有するチャンバーを用いて該ガラス表面の特定領域に束縛された。Cy3標識された合成の1200塩基の標的mRNAが、該スライドにハイブリダイズされた。ハイブリダイゼーションは同一のチャンバー内で行なわれたが、mRNAの該スライドへのあらゆる非特異的結合を決定するために僅かに補正された。該スライドはスキャンされた(図62A)。ハイブリダイゼーションは、37℃にて1時間行なった。その後、逆転写混合物が添加され、50℃にて1時間インキュベートされた。逆転写中にCy5がDNAに取り込まれた。その後、前記スライドが洗浄されてスキャンされた(図62B)。
【0241】
その後、前記アレイは、標準的なRNAse Hの条件下で処理されて前記Cy3 RNAが除去され、そして該アレイは、洗浄され、その後スキャンされた(Cy3の流路 = 図62C;Cy5の流路 = 図62D)。該RNase処理によりCy3シグナルの〜75%が除去された。
【0242】
前記パッチの2つの領域は、第二鎖の合成工程においてインキュベートされた。図62Eには、この工程でどのようにパッチが分離されたのかが例示されている- 1つの区画(「+ pol」)は、DNA合成に必要な試薬と共にインキュベートされ、1つの区画はDNAポリメラーゼが除外され(「- pol」)、周辺領域は処理されなかった。該2つの区画には、60μmのdNTP及び20μMのCy3-dCTPが含まれていた。第二鎖用のプライマーは、前記完全に伸長されたcDNA配列の3’末端の最端部分に相補的であった。従って、逆転写反応で完全に伸長した生成物のみが、第二鎖の合成を行なうことが可能となったであろう。
【0243】
図62Fには、Cy3の流路中の「+ pol」区画が、両方の「- pol」区画及び周辺領域よりも明るいことが示されている。しかしながら、Cy5流路においては、シグナルに差異はない(図62G)。従って、前記逆転写工程において、相当量の完全長のプライマー伸長(800塩基)が存在したことになる。
【0244】
ポリA/ポリT相互作用のハイブリダイゼーション及び逆転写に対する効果
DNAオリゴヌクレオチドマイクロアレイ上での最適化ハイブリダイゼーションは、特異性及び感度の間の折衷となる;特異性は、より短いオリゴヌクレオチドから生ずるが、一方で、感度は該オリゴヌクレオチドの長さに伴って増加する。発現解析においては、特異性を減少させることなく感度を増加させることが理想的であろう。
【0245】
15塩基のポリAを有するβ-グロビンIVT(ポリA+)と有しないβ-グロビンIVT(ポリA-)のシグナル強度の比較により、ポリrA:dT相互作用が、ハイブリダイゼーションの収量に対して非常に重要な効果を及ぼすことが示唆された。
【0246】
ハイブリダイゼーション及び逆転写反応の両方の同時解析を可能にする二重標識法が用いられた。前記ヒトβ-グロビンIVTは、CY3-dCTPを用いた直接取り込みにより標識された。アレイ上の逆転写は、CY5-UTPを用いた直接取り込みにより標識された。アレイに基くハイブリダイゼーション及び逆転写反応の図式的表示が、図39に示されている。固定化プローブは、その5’末端においてリンカー(91)を介して固体支持体に結合され、そして、ポリdT部分(92)及び21個以下のヌクレオチドからなる標的特異的配列(93)を有する。標的mRNAは、その3’末端にポリA尾(94)を有し、そしてコーディング配列(95)も有している。該試験系では、転写中にCy3標識(96)が取り込まれてハイブリダイゼーションが評価されることになる(工程A)。工程Bでは、Cy5標識されたdCTPの存在下で逆転写が行なわれる。従って、伸長されたプローブにはCy5標識(97)が含まれている。
【0247】
スペーサーとして機能し、更にmRNAの尾と相互作用してポリアデニル化mRNAを「捕まえる」ことが可能なポリdT部分の効果を調べるため、5塩基ずつ増加して最大でdT25になるdT0-25が、繋ぎ止められたプローブの5’末端に付加された。
【0248】
β-グロビンIVT標的へのハイブリダイゼーションは、42℃及び50℃にて、1M NaCl/20%ホルムアミドバッファー中又はスーパースクリプト(Superscript)II逆転写酵素1 X反応バッファー中のいずれかにおいて行なわれた。全てのハイブリダイゼーション反応は、常温で準備され、その後、前記所要の温度で90分間インキュベートされた。
【0249】
1 X 1 M NaClハイブリダイゼーションミックスには、以下のものが含まれていた: 1 X MES*、1MのNaCl、20%のホルムアミド、20mMのEDTA (pH 8.0)、0.5mg/mlのBSA、1% Triton X-100、140-280ユニットのRNasin(商標)リボヌクレアーゼインヒビター(Ribonuclease Inhibitor)(プロメガ社)、8nMのCY3標識IVT標的、及び体積を250μlにするのに要したH2O。
【0250】
1 X スーパースクリプト(Superscript)IIハイブリダイゼーションミックスには、以下のものが含まれていた:pH8.3で50mMのTris-HCl、75mMのKCl、3mMのMgCl2、20mMのDTT、140-280ユニットのRNasin(商標)リボヌクレアーゼインヒビター(Ribonuclease Inhibitor)、0.5mg/mlのBSA、8nMのCY3標識IVT標的、及び体積を250μlにするのに要したH2O。
【0251】
上記ミックスは、シリンジ及びニードルを介して2区画のハイブリダイゼーションチャンバーに添加された。該アレイは、回転式ハイブリダイゼーションオーブンで42℃又は50℃で90分間インキュベートされた。インキュベーション後、該スライドは、ホルダーから取り外され、洗浄された。洗浄(1)は、6 X SSPE、0.005% N-ラウリル-サルコシン中にて行なわれた(常温で50 ml中にて5分間)。洗浄(2)は、0.06 X SSPE、0.18% PEG 200中にて行なわれた(常温で50 ml中にて5分間)。該スライドは、圧縮空気の下で乾燥されて、アジレント(Agilent)G2565BAでスキャンされるか、又は逆転写反応の中に設置された。
【0252】
前記ハイブリダイズした標的の逆転写は、殆どの場合、ハイブリダイゼーションと前記スライドの洗浄の後に行なわれた;ハイブリダイゼーション及び逆転写が1段階反応として同時に行なわれた場合が1回あった。スーパースクリプト(Superscript)II酵素(インビトロジェン社)が、前記42℃の反応で用いられ、サーモスクリプト(Thermoscript)(インビトロジェン社)が、より高い温度の60℃での反応に用いられた。前記スーパースクリプト(Superscript)II酵素を用いた42℃逆転写反応は、以下のように準備された;該反応ミックスには、pH8.3で50mMのTris-HCl、75mMのKCl、3mMのMgCl2、20mMのDTT、140-280ユニットのRNasin(商標)リボヌクレアーゼ(Ribonuclease)、100μMの各dNTP、8μMのCy5-dCTP、0.5mg/mlのBSA、4000ユニットのスーパースクリプト(Superscript)II酵素及び体積を250μlにするのに要したH2O。該ミックスは、常温にて2連ハイブリダイゼーションチャンバー内のアレイに添加され、その後回転式オーブンで42℃で2時間インキュベートされた。ハイブリダイゼーションと逆転写が、1段階反応で行なわれた場合には、IVT RNA標的が、終濃度が8nMとなるように上記反応ミックスに添加された。
【0253】
前記サーモスクリプト(Thermoscript)酵素用の反応バッファーには、 50mMのTris酢酸(pH 8.4)、75mMの酢酸カリウム、8mMの酢酸マグネシウムが含まれていた。該ミックスの他の全ての成分は同じであった。該反応ミックスと、前記スライドは、別々に60℃で15分間インキュベートされ、これにより前記アレイに該ミックスを添加する前に両者は所定の温度に達した。該アレイは、60℃で2時間インキュベートされた。インキュベーション後、該スライドは、前記チャンバーから取り出され、6 X SSPE、0.005% N-ラウリル-サルコシン中で洗浄され(常温で50 ml中にて5分間)、その後、0.06 X SSPE、0.18% PEG 200中で洗浄された(常温で50 ml中にて5分間)。該スライドは、スキャンする前に圧縮空気の下で乾燥された。
【0254】
前記ヌクレオチドプローブと固体支持体との間に長さが増加するポリdTスペーサーを付加する効果が図40に示されている。1M NaCl/ホルムアミド及びスーパースクリプト(Superscript)のバッファーの両方において、ポリdT部分は、同等のポリマーの長さにあるへキサエチレン-グリコールリンカーと比較して、4倍ないし5倍のハイブリダイゼーション強度の増加を提供する。dT15部分は、その長さにおいて最大のHEGリンカーと同等である。
【0255】
ハイブリダイゼーションに対する圧倒的な最大の効果として、該ポリdT部分が15塩基のポリA尾を超えた場合、従来のリンカーに対して〜100倍以上の強度が見られる。
【0256】
20塩基の長さのプローブ、並びにポリA尾にハイブリダイズした15塩基及び10塩基の付加的な「スペーサー」からなるポリdT25配列の場合、更なる5 HEGユニットのスペーサーの添加により、ハイブリダイゼーションシグナルが4倍に増加した。対照的に、dT10部分への5ユニットのHEGの添加は、ハイブリダイゼーションを殆ど増加させなかった。この結果から、ポリAで終結する標的mRNAの捕獲に対する長いポリdTスペーサーの添加の有益性が示されている。従来のリンカーと比較して、約300倍の強度の増加が見られる。
【0257】
ポリA/ポリdT相互作用のハイブリダイゼーション進行における重要性及び役割を更に調べるため、ポリA尾を有しないIVT(42B)と、ポリA尾を有するIVT(42A)のハイブリダイゼーション特性が比較された。 同一のスライド上の2つのアレイにおいてハイブリダイゼーションが行なわれた。前記スーパースクリプト(Superscript)IIバッファーがハイブリダイゼーションバッファーとして用いられ、ハイブリダイゼーション温度は42℃であった。該アレイをスキャンした画像が図42に示されている。ポリA尾が存在しない場合(即ち、図42B中)に、総ハイブリダイゼーション量が有意に減少していることは明らかである。
【0258】
20merプローブの5’末端に、dT部分のみで又はHEGスペーサーと組み合わせて導入されたdT部分の長さの増大のハイブリダイゼーション収量に対する効果の2つの標的の比較が、図41に示されている。dT配列が単にスペーサーとして機能するだけのポリA-のIVTでは、dT25での最大値まで比較的微小な直線的な強度増加が見られ、これは、対等な原子数を有するHEGスペーサーを添加した場合に見られる大きさと同程度である。観察された中で最も著しかったものは、dTの長さの増大によるポリA+標的に対する効果であった。dT15又はより短い場合には、、該dT部分はポリA尾と2本鎖を形成できる事実にも関わらず、ポリA+標的のハイブリダイゼーション強度の値は、ポリA-標的のものよりも低いものである。DT部分の長さがポリA尾の長さを超えた場合に、ハイブリダイゼーション強度の指数関数的な増加が観察される。dT25において、前記ポリA尾を有する標的のハイブリダイゼーション強度は、前記ポリA尾を有しない標的の3倍である。
【0259】
dT部分の逆転写収量に対する効果が、測定され、ハイブリッド収量に対する効果と比較された。前記オリゴヌクレオチドプライマーへの5ユニットまでのキサエチレングリコールのスペーサーの導入は、生成物の収量に対して殆ど効果を有しなかった。対照的に、前記固体支持体と20塩基のオリゴヌクレオチドプライマーの間へのポリdT0-25部分の配置は、cDNA生成物の収量に顕著な効果を有していた。図43において、RTとハイブリッドの収量が比較されている。NaCl/ホルムアミド(43A)及びスーパースクリプト(Superscript)II(43B)バッファーの両方において、伸長されたcDNA産物の強度は、前記標的:プローブのヘテロ二重鎖の強度と同等である。より短いプローブでも、同様の効果を示す
【0260】
逆転写におけるポリA/ポリT相互作用の役割が、ポリA尾を有する又は有しないβ-グロビンIVTからの生成物収量の比較により調べられた。実験は、2つの系において重複して行なわれた。1の実験では、有意な伸長が示された(図44)。第二の実験では、21塩基のプローブの20個のいずれからも有意な伸長が示されなかったが、第二の実験においては、何らか理由によりハイブリダイゼーション及び逆転写の両方が失敗に終わったものと思われた。
【0261】
前記オリゴヌクレオチドプローブへ長さの増加するポリdT部分を付加した結果が、図45に示されている。1ないし5ユニットのdT5が、前記オリゴヌクレオチドプライマーの5’側に挿入された。逆転写についての結果は、ハイブリダイゼーションについて観察されたものの近傍を追随していた。
【0262】
全体として、ポリdT:ポリrA相互作用は、特異性を犠牲にしてハイブリッドの安定性及び/又はハイブリダイゼーション率を向上させることで収量を増加させる。しかしながら、逆転写を含むことで、特異性は大きく向上され、高温において殆ど完璧な識別力を提供できる。
【0263】
単一分子の検出
蛍光体の高感度検出のため、スキャナーは、約130nmのピクセル分解能及び300nm(Sparrowの規準を使用)ないし370nm(Raleighの規準を使用)の回折限界分解能において、580nmの波長(Cy3の放出波長)で操作された。従って、該完全回折限界分解能 は、Nyquist規準においても用いることができる。励起波長は532nmであった。該放出光は、市販のドライ顕微鏡光学系を備えた冷却12ビット/ピクセルCCDで回収された。
【0264】
光軸に対して直角なサンプルの位置調整は、直線エンコーダーを用いて100nmの分解能で調節された。 該微小位置調整用ステージは、閉ループ系において能動制御されて操作された。
【0265】
約1 kW/cm2の励起密度を用いた場合、前記均一励起は、ピーク中央部の単一ピクセルにおいて(単一のピクセルを解析した場合に)蛍光色素分子1分子につき約55のCCDカウントを生じる。この結果に要した励起時間は100msであった。 同一条件下でのノイズは、約10カウント/ピクセルであり、単一ピクセル中の単一分子の検出に〜5:1のシグナル/ノイズ比を与える。回折限界スポットが比較的大きいので(大よそ9ピクセル)、S/N比は適切な解析法を用いることでこの値を超えることができる。
【0266】
このスキャナーを用いることで、単一の色素分子からの放出が測定可能である。図61には、最大のレーザー出力において100msの露光時間で単一の水平なサンプル位置から捉えられた100x100ピクセル領域の画像((13μm)2に等しい) が示されている。最終的に色素分子の光退色が見られた。図61に見える小さくて高強度なスポットは、単一のcDNA分子に相当する。
【0267】
図73には、平坦な類似の移行においては、退色が起こらなかったことが示されているが、色素分子が退色又は再放出する時には必ず量子化された。従って、量子化することにより、強度による識別を用いることも可能になるので、分子のカウントは空間的識別のみに依存する必要がなくなる。従って、単一の位置において複数の分子をカウントすることが可能である。
【0268】
オリゴヌクレオチドストライプの形成
上記で議論されたように、種々の方法を用いてオリゴヌクレオチドのストライプを固体支持体の上に固定することができる。
【0269】
図64に例示される方法の1の態様においては、事前に合成されたオリゴヌクレオチドがNHSコートされたガラススライドに共有結合されている。5’末端がCy5で標識された3'-NH2-C7修飾16merが、流路を通って該スライドの表面上を通過した。前記オリゴヌクレオチドは、pH9.0/DMSOの0.2Mリン酸バッファー中にて、0.1-10μMのオリゴヌクレオチドの範囲内の種々の濃度で用いられた。図65には、結果として生じたスライドの蛍光画像が示されており、この装着方法の有効性が確認される。
【0270】
光開裂性の保護基を用いた方法が図66に示されている。図示されるようにアミノコートされた表面が誘導体化される。 生じる光感受性の表面は、適切なマスクでUV光に露光され、感光性の保護基が除去され、反応性のNHS-エステル基のストライプが露出される。該表面は、その後、適切なアミノ修飾ヌクレオチドに晒され、該ヌクレオチドが該表面に共有結合される。図65で使用された蛍光標識プローブも、脱保護に使用された3種類の異なる幅のUVストライプと共に、この方法においても使用されており、その結果が図67に示されている。相補的なCy3標識オリゴヌクレオチドを用いて前記固定化されたヌクレオチドの方向と、そのハイブリダイゼーションにおける利用可能性が確認された。図68に結果を示す。
【0271】
同様の方法は、参考文献32ないし34及び49の電気化学的方法を用いて作られた酸のストライプにある酸反応性の保護基を用いても実施可能である。
【0272】
コンピューターモデリング
幅80μmの流路を通って長さ及び幅が40 x 80μmのプローブパッチ上を流路の高さ及び流速の範囲において流れる標的に対するコンピューターモデルが準備された。250bpの標的の長さに対応して、19μm2/sの拡散係数が用いられた。標的-プローブハイブリダイゼーションについては、無限大のハイブリダイズする速度定数(infinit on rate constant)を、値ゼロの解離する速度定数(zero off rate constant)と共に用いたことにより、前記プローブ表面に到達する全ての標的は迅速にハイブリダイズして、その場に保持されることになる。
【0273】
該モデルによれば、mRNA分子が、12.5μm/sの流速で、高さ1-5μmの流路中にある長さ80μmのパッチを流れて通る場合、99%より多くの分子が捕縛されることになる。該分子がピストン流れ(電気泳動)で移動するか、又は層流(溶液の大量輸送)により移動するかによっては、捕獲の割合に殆ど差がでない。
【0274】
この流速は、2V/cm前後の電気泳動により実現することができる。この流速では、1cmの長さの流路を通って、〜100-200個のプローブを通過するのに約800秒を要するであろう。
【0275】
幅80μmの流路を通り、幅が80μmで長さが10、20及び40μmのプローブ上を流路の高さ及び流速の範囲において流れる標的について、一様な速度分布(ピストン流れ)及び19μm2/sの拡散係数を用いた場合、該モデルは、95%以上のハイブリダイゼーションが迅速に達成可能なことを示す。
【0276】
本発明は、例示することのみを目的として記載されており、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく細部の変更を行なうことが可能であるものとして理解されるべきである。
【0277】
参考文献(これらの全ての内容は、参考文献として本明細書に組み込まれている)
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【図面の簡単な説明】
【0278】
【図1】図1は、複数の流路、細胞捕捉用のテーパー注入口を有し、該テーパーへ細胞を引き込む吸引を使用する本発明に係る装置の例示である。
【図2】図2には、テーパー注入口内に捕捉された細胞が例示されている。
【図3】図3には、図2に代わる、細胞の物理的捕捉用の構造が示されている。
【図4】図4には、電気浸透による物質の移動が例示されている。
【図5】図5には、図1の装置に類似するが、前記テーパーへの細胞の引き寄せに吸引ではなく電気浸透が用いられた装置が例示されている。
【図6】図6には、注入口に捕捉された細胞を溶解する異なる方法が例示されている:(a)溶解溶液の適用;(b)機械的破裂;及び(c)エレクトロポレーション。
【図7】図7には、電位の適用によりテーパー注入口に引き込まれて部分的に引き伸ばされた細胞が示されている。
【図8】図8には、吸引の適用により流路に引き込まれた細胞が示されている。
【図9】図9には、エレクトロポレーションにより、蛍光標識された内容物が取り出され、流路に引き込まれている細胞が示されている。
【図10】図10には、細胞内容物を処理するための膨張チャンバーの作用が例示されている。
【図11】図11には、流路に沿った隣り合うパッチの好ましい配置が例示されいる。
【図12】図12には、流路幅に対する好ましいパッチ幅が例示されている。
【図13】図13には、水平に走る複数の流路及び垂直に走る複数のオリゴヌクレオチドプローブのストライプを有する本発明に係る装置が例示されている。1の流路に沿った断面(X-X)も示されている。
【図14A】図14には、本発明の、連続的な逆転写の局面が例示されている。図14Aには、初期ないし中期段階が例示される。
【図14B】図14Bには、中期ないし後期段階が示されている。
【図14C】図14Cには、どのようにしてこの方法により小さな標識のスポットを増幅できるのかが例示されている。
【図15】図15には、(a)1方向の寸法又は(b)2方向の寸法のいずれかにおいて狭まっていく2種類のテーパー注入口が例示されている。
【図16】図16には、どのようにして装置を組み立てることができるのかが例示されている。流路を有する基板が選択され、その後、該流路に対して垂直にDNAプローブの線が取り付けられている。次に、該装置に蓋が取り付けられて該流路が密封される。図16においては、該蓋は平坦である。
【図17】図17において、図16の蓋は流路の一部を形成する切取られた部分を有する。
【図18】図18には、流路の寸法が例示されている。
【図19】図19には、捕捉部位における細胞小胞体の放出が例示されている。
【図20】図20には、捕捉前の細胞のサイズ分画が例示されている。
【図21】図21には、一連のテーパーを用いた、細胞の大きさに基く分離が記載されている。
【図22】図22には、図20及び図21以外の更なるサイズ分画法が例示されている。
【図23】図23には、流路が中心点から放射状に伸びた装置が例示されている。
【図24】図24には、中心の送出路から反対の方向に伸びた平行な流路を有する装置が例示されている。
【図25】図25には、2つの副流路へと枝分れする流路が例示されている。表示される流路は、円形の断面を有しており、直径は√2だけ減少して一定の断片積を保持している。正方形又は長方形の断面の場合、流路の幅は単純にその半分となるであろう。
【図26】図26には、それぞれ7個の解析用パッチを有する5本の流路が例示されている。矢印で示された4種類のパッチは、共通の解析成分である。
【図27】図27には、大量の転写物にハイブリダイズしたパッチ(「強い」)と、少量の転写物にハイブリダイズしたパッチ(「弱い」)が例示されている。
【図28】図28には、3つのハイブリダイゼーションシグナルを有するスポットをスキャンするレーザースポットが示されている。
【図29】図29には、ハイブリダイズした転写物に対する流動方向の影響が示されており、これにより、真のシグナルから非特異的シグナル(黒くて短い水平の棒線)が区別できる。
【図30】図30には、3種類の異なる流速(ピコリットル毎秒)において、固定化された相補的なDNAのパッチ上に捕獲されたmRNAの分布が示されている。左のグラフは横から見た濃度を示し、隣のパネルは、上から見た濃度を示している。
【図31】図31には、一方にタンパク質が移動し、他方にRNAが移動する枝分れした流路が示されている。
【図32】図32には、細胞の捕獲中における抗体の使用が例示されている。図32Aにおいては、捕捉された細胞は、捕獲用抗体(Y字に例示されている)により保持されている。図32Bでは、管の一端が捕獲用抗体でコーティングされている。
【図33】図33には、本発明に係る装置中の微小流体流路の平面配置図が示されている。
【図34】図34には、PDMSで作られた場合の装置の特徴の拡大された細部が示されている。
【図35】図35には、PDMSで作られた場合の装置の特徴の拡大された細部が示されている。
【図36】図36には、PDMSで作られた場合の装置の特徴の拡大された細部が示されている。
【図37】図37には、DNAマイクロアレイに接続されたインプット管及びアウトプット管を有する装置が示されている。
【図38】図38には、マイクロアレイ上におけるハイブリダイゼーション及び逆転写が示されている。
【図39】図39には、繋がれたオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーション及び逆転写を同時に評価する試験系が例示されている。
【図40】図40には、ハイブリダイゼーション効率に対するオリゴdTの長さの影響が示されている。
【図41】図41には、ハイブリダイゼーション効率に対するオリゴdTの長さの影響が示されている。
【図42】図42には、mRNAにポリA尾が含まれることによるハイブリダイゼーションに対する効果が示されている。
【図43】図43には、逆転写に対するオリゴdTの長さの効果が示されている。
【図44】図44には、逆転写に対するオリゴdTの長さの効果が示されている。
【図45】図45には、逆転写に対するオリゴdTの長さの効果が示されている。
【図46】図46には、単純な装置の構造が示されている。流路はPDMS(1)で作られている。オリゴヌクレオチドプローブの平行なストライプ(3)がスライド(2)に取り付けられる。該PDMS流路は、該スライドの上に、該流路が該ストライプと平行になるように重ねて置かれる。
【図47】図47では、2個の細胞のmRNA内容物が、個別に2本の流路を通過している。逆転写は、その後可視化される蛍光標識の取り込みと共に行なわれる。該異なる細胞は異なる蛍光パターンを示している。
【図48】図48には、微小流体装置内で個々に捕捉された4つの細胞が示されている。
【図49】図49は、各流路が、5 x 4のアレイ状に配置された円形のインプット孔及びアウトプット孔を有する、20本の流路を有する装置の例示である。8本の流路だけが示されている。
【図50】図50Aには、図49の20本の流路のうち10本だけを部分的に通過したインクが示されている。同様の流路を用いた図50Bでは、インクが複数の流路に沿って完全に通過している。
【図51】図51には、装置の7本の隣り合う流路中のハイブリダイゼーションシグナルが示されている。
【図52】図52には、14本のオリゴヌクレオチドプローブのストライプに対して直角に配置された8本の隣り合う流路中のハイブリダイゼーションシグナルが示されている。
【図53】図53には、図33に代わる構造が示されており、注入口の領域だけが示されている。
【図54】図54には、図33に代わる構造が示されており、注入口の領域だけが示されている。
【図55】図55には、図33に代わる構造が示されており、注入口の領域だけが示されている。
【図56】図56には流体コネクタが取り付けられた装置を示す。
【図57】図57には、どのようにして図56種類の装置に電気コネクタが導入されるのかが例示されている。
【図58】図58には、どのようにして図56種類の装置に電気コネクタが導入されるのかが例示されている。
【図59】図59には、インサイチュ(in situ)逆転写後の第二鎖cDNAの合成が示されている。
【図60】図60には、種々の処理を施したアレイに対するmRNAのハイブリダイゼーションが示されている。
【図61】図61には、表面の100x100ピクセルの領域の画像が示されている。X軸及びY軸は、μmでの位置を示す。右側の勾配は、任意の均等目盛上の蛍光強度である。
【図62】図62には、第二鎖cDNAの合成を伴う実験の結果が示されている。
【図63】図63には、キーイングレイヤー(keying layer)(Cr又はTi)と不活性な電極材料(Ir)の間のガルバニックエレメント(galvanic element)の形成が示されている。OxはO2、I2又はH2O2であってもよい。
【図64】図64には、事前に合成された核酸の活性化された表面への結合が示されている。図64では、該核酸は物理的手法を用いて表面に閉じ込められている。
【図65】図65には、図64の方法により取り付けられた核酸の蛍光が示されている。
【図66】図66には、事前に合成された核酸の活性化された表面への結合が示されている。図66では、該表面はUV光を用いて選択的に活性化されている。
【図67】図67には、図66の方法により取り付けられた核酸の蛍光が示されている。
【図68】図68には、図66の方法により取り付けられた核酸の蛍光が示されている。
【図69】図69には、トリパンブルー(Trypan Blue)による死細胞の染色の後に、本発明に係る装置内で捕捉された細胞が示されている。
【図70】図70には、トリパンブルー(Trypan Blue)による死細胞の染色の後に、本発明に係る装置内で捕捉された細胞が示されている。図70では、生細胞の一部が流路内へと伸びている。
【図71】図71には、図53の装置内を移動する液体の前部が示されている。該前部は、一様に流路に侵入している。
【図72】図72には、本発明に係る装置の送出路、試薬供給路及び細胞捕捉部位のビデオ映像からの6つの静止画像が示されている。BないしFのフレームでは細胞は丸で囲まれており、進入してから捕捉されるまでの細胞の移動が示されている。
【図73】図73には、図61に示される支持体上の3点の任意に選択された位置における10秒間(X軸)に亘る蛍光強度の経時的追跡が示されている。それぞれ最大のレーザー出力において、100msの露出時間を用いて100枚の画像が収集された。デジタルレベル(即ち、蛍光色素分子の数)が、水平の直線により示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
− インプット端及びアウトプット端を有し、対象細胞の内容物を受容するための流路と、
− 前記流路の前記インプット端の近傍にある細胞捕捉部位
を具備する、対象細胞を個々に解析するための装置であって、
− 前記流路の前記インプット端は、無傷の前記対象細胞は進入することができないように構成されており、
− 前記流路は、前記対象細胞の内容物を解析するための1又は2以上の解析成分を含み、そして
− 前記対象細胞の前記内容物は、前記インプット端から前記アウトプット端に向かう方向に、前記流路に沿って移動することができる、
対象細胞を個々に解析するための装置。
【請求項2】
前記装置が、各流路が、単一の対象細胞を受容するためにある複数の前記流路を有し、そして、各流路の前記インプット端の近傍に細胞捕捉部位を有する、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記流路を使用する間、異なる流路内の細胞が相互に実質的に同一な処理及び解析を別々に受けるように、前記流路が、相互に実質的に同一である、請求項2記載の装置。
【請求項4】
各流路が、該流路内に沿った一連の解析成分を含み、かつ1の流路内の該一連の解析成分が他の流路のものと同一である、請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記流路が、相互に実質的に平行である、請求項2乃至4いずれか一項記載の装置。
【請求項6】
前記流路が、隣同士で単一の平面内に配置されている、請求項5記載の装置。
【請求項7】
前記流路が、実質的に一定の断面積及び/又は実質的に一定の断面形状を有する、請求項1乃至6いずれか一項記載の装置。
【請求項8】
前記流路が、長方形の断面形状を有する、請求項1乃至7いずれか一項記載の装置。
【請求項9】
前記流路が、50μmよりも低い高さを有する、請求項1乃至8いずれか一項記載の装置。
【請求項10】
前記流路が、インプット端からアウトプット端に向かう方向以外において閉じられている、請求項1乃至9いずれか一項記載の装置。
【請求項11】
前記細胞捕捉部位が、流路のインプット端の手前においてテーパーが付けられた注入口の形状にある、請求項1乃至10いずれか一項記載の装置。
【請求項12】
細胞が、電気的動性を用いることにより、前記テーパーが付けられた注入口内へと移動可能である、請求項11記載の装置。
【請求項13】
流路が、(i)その細胞捕捉部位及びインプット端の間、又は(ii)そのインプット端の直ぐ下流、のいずれかに、膨張チャンバーを含む、請求項1乃至12いずれか一項記載の装置。
【請求項14】
流路が、ポリジメチルシロキサン製の壁面を含む、請求項1乃至13いずれか一項記載の装置。
【請求項15】
流路が、ガラス製の壁面を含む、請求項1乃至14いずれか一項記載の装置。
【請求項16】
流路が、平坦なガラス製支持体の上に載せられたポリジメチルシロキサンから形成される、請求項15記載の装置。
【請求項17】
前記解析成分が、固定化された結合性試薬である、請求項1乃至16いずれか一項記載の装置。
【請求項18】
前記解析成分が、共有結合により固定化されている、請求項17記載の装置。
【請求項19】
前記結合性試薬が、ハイブリダイゼーション用の核酸を含む、請求項17又は18記載の装置。
【請求項20】
前記核酸が、mRNA転写物を保持することが可能である、請求項19記載の装置。
【請求項21】
前記核酸が、DNAである、請求項19又は20記載の装置。
【請求項22】
前記核酸が、200ntよりも短い、請求項19乃至21いずれか一項記載の装置。
【請求項23】
前記結合性試薬が、固定化されたタンパク質を含む、請求項17乃至22いずれか一項記載の装置。
【請求項24】
前記結合性試薬が、固定化された抗体を含む、請求項17乃至23いずれか一項記載の装置。
【請求項25】
前記解析試薬が、流路の1側面のみに沿って固定されている、請求項17乃至24いずれか一項記載の装置。
【請求項26】
1の流路毎に、少なくとも100種類の異なる解析試薬を含む、請求項17乃至25いずれか一項記載の装置。
【請求項27】
異なる固定化された結合性試薬が、個別のパッチ内に配置されている、請求項17乃至26いずれか一項記載の装置。
【請求項28】
固定化された試薬の各パッチが、10-8 m2より小さな面積を有する、請求項27記載の装置。
【請求項29】
隣り合うパッチの中心対中心間隔が、好ましくは10-3 mよりも小さい、請求項27又は28記載の装置。
【請求項30】
前記パッチが、長方形の形状を有する、請求項27乃至29いずれか一項記載の装置。
【請求項31】
前記パッチが、流路のインプット端からアウトプット端に向かう長さに沿って、単一の系列として配置されている、請求項27乃至30いずれか一項記載の装置。
【請求項32】
前記パッチが、流路の全幅を占める、請求項27乃至31いずれか一項記載の装置。
【請求項33】
複数の流路、及び複数の固定化された解析試薬を含み、該流路が、固定化された解析試薬の線と交差する、請求項1乃至32いずれか一項記載の装置。
【請求項34】
前記流路が、直線であり、かつ相互に実質的に平行である、請求項33記載の装置。
【請求項35】
前記固定化された解析試薬の線が、直線であり、かつ相互に実質的に平行である、請求項33又は34記載の装置。
【請求項36】
前記固定化された解析試薬の線が、前記流路に対して実質的に直角に走る、請求項33乃至35いずれか一項記載の装置。
【請求項37】
前記細胞捕捉部位と連通する送出路を含む、請求項1乃至36いずれか一項記載の装置。
【請求項38】
前記送出路が、前記流路に対して垂直に走る、請求項37記載の装置。
【請求項39】
前記送出路が、前記流路に対して平行に走る、請求項37記載の装置。
【請求項40】
前記細胞捕捉部位と連通する試薬供給路を含む、請求項1乃至39いずれか一項記載の装置。
【請求項41】
前記送出路及び/又は前記試薬供給路が、前記流路よりも背が高い、請求項37乃至40いずれか一項記載の装置。
【請求項42】
前記解析流路の前記アウトプット端と連通する廃棄口を含む、請求項1乃至41いずれか一項記載の装置。
【請求項43】
前記流路内で液体を移動させるためのポンプを含む、請求項1乃至42いずれか一項記載の装置。
【請求項44】
1又は2個以上の電極、若しくは電極の取り付け用のコネクタを含む、請求項1乃至43いずれか一項記載の装置。
【請求項45】
前記電極を用いて、流路に沿って電位を生じさせることが可能である、請求項44記載の装置。
【請求項46】
光源を含む、請求項1乃至45いずれか一項記載の装置。
【請求項47】
カメラを含む、請求項1乃至46いずれか一項記載の装置。
【請求項48】
インプット端及びアウトプット端を有し、該インプット端は無傷の対象細胞が進入することができないように構成されている流路のインプット端の近傍に対象細胞を捕捉する工程と、前記細胞の内容物が前記流路の前記インプット端に入るように該内容物を放出する工程と、放出された内容物が前記流路中の1又は2以上の解析成分と相互作用するように、該内容物を前記インプット端から前記アウトプット端に向かって移動させ、それによって該内容物の解析を可能とする工程とを含む、個々の対象細胞を解析する方法。
【請求項49】
請求項1乃至47いずれか一項記載の装置を用いる、請求項48記載の方法。
【請求項50】
前記細胞の内容物が、電気的動性により前記流路に沿って移動する、請求項48又は49記載の方法。
【請求項51】
前記細胞の内容物が、ポンプを用いることにより前記流路に沿って移動する、請求項48又は49記載の方法。
【請求項52】
前記解析成分が、細胞からのmRNAを核酸ハイブリダイゼーションにより捕獲することが可能である、請求項48乃至51いずれか一項記載の方法。
【請求項53】
解析成分により捕獲されたmRNAが、逆転写される、請求項52記載の方法。
【請求項54】
解析が、(i)前記mRNAが、ハイブリッド中に一本鎖のオーバーハングを持つように、前記mRNAを、流路内に固定化された核酸とハイブリダイズさせる工程と、(ii)前記一本鎖オーバーハングを鋳型として用いて前記ハイブリッド中の前記固定化された核酸を伸長させる工程であって、ここで、該伸長反応は、検出可能な標識を前記固定化された核酸に取り込む、工程とを含む請求項53記載の方法。
【請求項55】
解析が、(iii)前記ハイブリッドを融解し、該遊離した核酸を固定化された核酸と再アニールさせて、該遊離した核酸が一本鎖オーバーハングを持つ新たなハイブリッドを形成する工程と、(iv)工程(ii)を少なくともn回繰返す工程であって、ここでnは1より大きな整数であり、ただし、n>1の場合、工程(iii)は少なくとも最初にn-1回工程(ii)を繰り返した後に行なう、工程を更に含む請求項54記載の方法。
【請求項56】
DNAとmRNAのハイブリッドが、単一の蛍光体を同定可能な装置を用いて検出される、請求項52乃至55いずれか一項記載の方法。
【請求項57】
細胞内の少なくとも80%の標的mRNAが解析用に捕獲される、請求項52乃至56いずれか一項記載の方法。
【請求項58】
前記流路が、ポリマー材料中に形成される、請求項1乃至47いずれか一項記載の装置の製造方法。
【請求項59】
前記ポリマー材料が、光重合性である、請求項58記載の方法。
【請求項60】
前記流路が、前記ポリマー材料のキャスティング又は射出成形により形成される、請求項58記載の方法。
【請求項61】
前記ポリマー材料がPDMSである、請求項58乃至60いずれか一項記載の方法。
【請求項62】
前記解析成分が、ハイブリダイゼーション用の固定化された核酸である、請求項58乃至61いずれか一項記載の方法。
【請求項63】
前記核酸が、インサイチュ(in situ)での合成方法を用いて前記装置の表面に結合される、請求項62記載の方法。
【請求項64】
前記核酸が、前記装置の表面に結合される前に合成される、請求項62記載の方法。
【請求項65】
反応基板上の反応表面と、微小流体流路基板上の開口した微小流体流路との間に接触を形成することにより前記核酸を装置の表面に施し、(b)前記反応表面と前記開口した微小流体流路との間の前記接触により形成された接触線に沿って試薬が前記反応表面と接触するように前記試薬を前記微小流体流路に導入し、(c)前記反応表面と、前記微小流体流路とを分離して、前記試薬を前記反応表面上の前記接触線に沿って固定化されたまま残す、請求項63又は64記載の方法。
【請求項66】
基板の表面上の領域を脱保護して反応性基を露出させ、そして、事前に合成された核酸を前記基板に施して該核酸を前記露出された反応性基に結合させることにより前記核酸を前記装置の表面に施す、請求項63又は64記載の方法。
【請求項67】
前記脱保護が、光脱保護である、請求項66記載の方法。
【請求項68】
前記脱保護が、電気化学的脱保護である、請求項66記載の方法。
【請求項1】
− インプット端及びアウトプット端を有し、対象細胞の内容物を受容するための流路と、
− 前記流路の前記インプット端の近傍にある細胞捕捉部位
を具備する、対象細胞を個々に解析するための装置であって、
− 前記流路の前記インプット端は、無傷の前記対象細胞は進入することができないように構成されており、
− 前記流路は、前記対象細胞の内容物を解析するための1又は2以上の解析成分を含み、そして
− 前記対象細胞の前記内容物は、前記インプット端から前記アウトプット端に向かう方向に、前記流路に沿って移動することができる、
対象細胞を個々に解析するための装置。
【請求項2】
前記装置が、各流路が、単一の対象細胞を受容するためにある複数の前記流路を有し、そして、各流路の前記インプット端の近傍に細胞捕捉部位を有する、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記流路を使用する間、異なる流路内の細胞が相互に実質的に同一な処理及び解析を別々に受けるように、前記流路が、相互に実質的に同一である、請求項2記載の装置。
【請求項4】
各流路が、該流路内に沿った一連の解析成分を含み、かつ1の流路内の該一連の解析成分が他の流路のものと同一である、請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記流路が、相互に実質的に平行である、請求項2乃至4いずれか一項記載の装置。
【請求項6】
前記流路が、隣同士で単一の平面内に配置されている、請求項5記載の装置。
【請求項7】
前記流路が、実質的に一定の断面積及び/又は実質的に一定の断面形状を有する、請求項1乃至6いずれか一項記載の装置。
【請求項8】
前記流路が、長方形の断面形状を有する、請求項1乃至7いずれか一項記載の装置。
【請求項9】
前記流路が、50μmよりも低い高さを有する、請求項1乃至8いずれか一項記載の装置。
【請求項10】
前記流路が、インプット端からアウトプット端に向かう方向以外において閉じられている、請求項1乃至9いずれか一項記載の装置。
【請求項11】
前記細胞捕捉部位が、流路のインプット端の手前においてテーパーが付けられた注入口の形状にある、請求項1乃至10いずれか一項記載の装置。
【請求項12】
細胞が、電気的動性を用いることにより、前記テーパーが付けられた注入口内へと移動可能である、請求項11記載の装置。
【請求項13】
流路が、(i)その細胞捕捉部位及びインプット端の間、又は(ii)そのインプット端の直ぐ下流、のいずれかに、膨張チャンバーを含む、請求項1乃至12いずれか一項記載の装置。
【請求項14】
流路が、ポリジメチルシロキサン製の壁面を含む、請求項1乃至13いずれか一項記載の装置。
【請求項15】
流路が、ガラス製の壁面を含む、請求項1乃至14いずれか一項記載の装置。
【請求項16】
流路が、平坦なガラス製支持体の上に載せられたポリジメチルシロキサンから形成される、請求項15記載の装置。
【請求項17】
前記解析成分が、固定化された結合性試薬である、請求項1乃至16いずれか一項記載の装置。
【請求項18】
前記解析成分が、共有結合により固定化されている、請求項17記載の装置。
【請求項19】
前記結合性試薬が、ハイブリダイゼーション用の核酸を含む、請求項17又は18記載の装置。
【請求項20】
前記核酸が、mRNA転写物を保持することが可能である、請求項19記載の装置。
【請求項21】
前記核酸が、DNAである、請求項19又は20記載の装置。
【請求項22】
前記核酸が、200ntよりも短い、請求項19乃至21いずれか一項記載の装置。
【請求項23】
前記結合性試薬が、固定化されたタンパク質を含む、請求項17乃至22いずれか一項記載の装置。
【請求項24】
前記結合性試薬が、固定化された抗体を含む、請求項17乃至23いずれか一項記載の装置。
【請求項25】
前記解析試薬が、流路の1側面のみに沿って固定されている、請求項17乃至24いずれか一項記載の装置。
【請求項26】
1の流路毎に、少なくとも100種類の異なる解析試薬を含む、請求項17乃至25いずれか一項記載の装置。
【請求項27】
異なる固定化された結合性試薬が、個別のパッチ内に配置されている、請求項17乃至26いずれか一項記載の装置。
【請求項28】
固定化された試薬の各パッチが、10-8 m2より小さな面積を有する、請求項27記載の装置。
【請求項29】
隣り合うパッチの中心対中心間隔が、好ましくは10-3 mよりも小さい、請求項27又は28記載の装置。
【請求項30】
前記パッチが、長方形の形状を有する、請求項27乃至29いずれか一項記載の装置。
【請求項31】
前記パッチが、流路のインプット端からアウトプット端に向かう長さに沿って、単一の系列として配置されている、請求項27乃至30いずれか一項記載の装置。
【請求項32】
前記パッチが、流路の全幅を占める、請求項27乃至31いずれか一項記載の装置。
【請求項33】
複数の流路、及び複数の固定化された解析試薬を含み、該流路が、固定化された解析試薬の線と交差する、請求項1乃至32いずれか一項記載の装置。
【請求項34】
前記流路が、直線であり、かつ相互に実質的に平行である、請求項33記載の装置。
【請求項35】
前記固定化された解析試薬の線が、直線であり、かつ相互に実質的に平行である、請求項33又は34記載の装置。
【請求項36】
前記固定化された解析試薬の線が、前記流路に対して実質的に直角に走る、請求項33乃至35いずれか一項記載の装置。
【請求項37】
前記細胞捕捉部位と連通する送出路を含む、請求項1乃至36いずれか一項記載の装置。
【請求項38】
前記送出路が、前記流路に対して垂直に走る、請求項37記載の装置。
【請求項39】
前記送出路が、前記流路に対して平行に走る、請求項37記載の装置。
【請求項40】
前記細胞捕捉部位と連通する試薬供給路を含む、請求項1乃至39いずれか一項記載の装置。
【請求項41】
前記送出路及び/又は前記試薬供給路が、前記流路よりも背が高い、請求項37乃至40いずれか一項記載の装置。
【請求項42】
前記解析流路の前記アウトプット端と連通する廃棄口を含む、請求項1乃至41いずれか一項記載の装置。
【請求項43】
前記流路内で液体を移動させるためのポンプを含む、請求項1乃至42いずれか一項記載の装置。
【請求項44】
1又は2個以上の電極、若しくは電極の取り付け用のコネクタを含む、請求項1乃至43いずれか一項記載の装置。
【請求項45】
前記電極を用いて、流路に沿って電位を生じさせることが可能である、請求項44記載の装置。
【請求項46】
光源を含む、請求項1乃至45いずれか一項記載の装置。
【請求項47】
カメラを含む、請求項1乃至46いずれか一項記載の装置。
【請求項48】
インプット端及びアウトプット端を有し、該インプット端は無傷の対象細胞が進入することができないように構成されている流路のインプット端の近傍に対象細胞を捕捉する工程と、前記細胞の内容物が前記流路の前記インプット端に入るように該内容物を放出する工程と、放出された内容物が前記流路中の1又は2以上の解析成分と相互作用するように、該内容物を前記インプット端から前記アウトプット端に向かって移動させ、それによって該内容物の解析を可能とする工程とを含む、個々の対象細胞を解析する方法。
【請求項49】
請求項1乃至47いずれか一項記載の装置を用いる、請求項48記載の方法。
【請求項50】
前記細胞の内容物が、電気的動性により前記流路に沿って移動する、請求項48又は49記載の方法。
【請求項51】
前記細胞の内容物が、ポンプを用いることにより前記流路に沿って移動する、請求項48又は49記載の方法。
【請求項52】
前記解析成分が、細胞からのmRNAを核酸ハイブリダイゼーションにより捕獲することが可能である、請求項48乃至51いずれか一項記載の方法。
【請求項53】
解析成分により捕獲されたmRNAが、逆転写される、請求項52記載の方法。
【請求項54】
解析が、(i)前記mRNAが、ハイブリッド中に一本鎖のオーバーハングを持つように、前記mRNAを、流路内に固定化された核酸とハイブリダイズさせる工程と、(ii)前記一本鎖オーバーハングを鋳型として用いて前記ハイブリッド中の前記固定化された核酸を伸長させる工程であって、ここで、該伸長反応は、検出可能な標識を前記固定化された核酸に取り込む、工程とを含む請求項53記載の方法。
【請求項55】
解析が、(iii)前記ハイブリッドを融解し、該遊離した核酸を固定化された核酸と再アニールさせて、該遊離した核酸が一本鎖オーバーハングを持つ新たなハイブリッドを形成する工程と、(iv)工程(ii)を少なくともn回繰返す工程であって、ここでnは1より大きな整数であり、ただし、n>1の場合、工程(iii)は少なくとも最初にn-1回工程(ii)を繰り返した後に行なう、工程を更に含む請求項54記載の方法。
【請求項56】
DNAとmRNAのハイブリッドが、単一の蛍光体を同定可能な装置を用いて検出される、請求項52乃至55いずれか一項記載の方法。
【請求項57】
細胞内の少なくとも80%の標的mRNAが解析用に捕獲される、請求項52乃至56いずれか一項記載の方法。
【請求項58】
前記流路が、ポリマー材料中に形成される、請求項1乃至47いずれか一項記載の装置の製造方法。
【請求項59】
前記ポリマー材料が、光重合性である、請求項58記載の方法。
【請求項60】
前記流路が、前記ポリマー材料のキャスティング又は射出成形により形成される、請求項58記載の方法。
【請求項61】
前記ポリマー材料がPDMSである、請求項58乃至60いずれか一項記載の方法。
【請求項62】
前記解析成分が、ハイブリダイゼーション用の固定化された核酸である、請求項58乃至61いずれか一項記載の方法。
【請求項63】
前記核酸が、インサイチュ(in situ)での合成方法を用いて前記装置の表面に結合される、請求項62記載の方法。
【請求項64】
前記核酸が、前記装置の表面に結合される前に合成される、請求項62記載の方法。
【請求項65】
反応基板上の反応表面と、微小流体流路基板上の開口した微小流体流路との間に接触を形成することにより前記核酸を装置の表面に施し、(b)前記反応表面と前記開口した微小流体流路との間の前記接触により形成された接触線に沿って試薬が前記反応表面と接触するように前記試薬を前記微小流体流路に導入し、(c)前記反応表面と、前記微小流体流路とを分離して、前記試薬を前記反応表面上の前記接触線に沿って固定化されたまま残す、請求項63又は64記載の方法。
【請求項66】
基板の表面上の領域を脱保護して反応性基を露出させ、そして、事前に合成された核酸を前記基板に施して該核酸を前記露出された反応性基に結合させることにより前記核酸を前記装置の表面に施す、請求項63又は64記載の方法。
【請求項67】
前記脱保護が、光脱保護である、請求項66記載の方法。
【請求項68】
前記脱保護が、電気化学的脱保護である、請求項66記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60A】
【図60B】
【図61】
【図62】
【図63】
【図64】
【図65】
【図66】
【図67】
【図68】
【図69】
【図70】
【図71】
【図72A】
【図72B】
【図72C】
【図72D】
【図72E】
【図72F】
【図73】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60A】
【図60B】
【図61】
【図62】
【図63】
【図64】
【図65】
【図66】
【図67】
【図68】
【図69】
【図70】
【図71】
【図72A】
【図72B】
【図72C】
【図72D】
【図72E】
【図72F】
【図73】
【公表番号】特表2008−539711(P2008−539711A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−509499(P2008−509499)
【出願日】平成18年5月3日(2006.5.3)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001593
【国際公開番号】WO2006/117541
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(506128466)オックスフォード・ジーン・テクノロジー・アイピー・リミテッド (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月3日(2006.5.3)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001593
【国際公開番号】WO2006/117541
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(506128466)オックスフォード・ジーン・テクノロジー・アイピー・リミテッド (7)
【Fターム(参考)】
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