個体識別方法、並びに個体識別検査のためのアレイ、装置及びシステム
【課題】個体の識別に有利な一塩基多型を選択することによって、簡便且つ迅速な個体識別を可能とする方法を提供する。
【解決手段】(i)2塩基置換型の一塩基多型において、アレル頻度をX及びYとし、X+Y=1、Y≦Xとしたとき、0.5≦X≦0.7である; (ii)3塩基置換型の一塩基多型において、アレル頻度をX、Y及びZとし、X+Y+Z=1、Z≦Y≦Xとしたとき、1/3≦X 且つ (1-X)/2≦Y 且つ X+Y<1であって、(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3であるか又は(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9である;及び (iii)4塩基置換型の一塩基多型において、アレル頻度をX、Y、Z及びWとし、X+Y+Z+W=1、W≦Z≦Y≦Xとしたとき、1/4≦X 且つ (1-X)/3≦Y 且つ X+Y<1であって、(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3であるか又は(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9である;一塩基多型を選択し、個体識別検査に用いることからなる。
【解決手段】(i)2塩基置換型の一塩基多型において、アレル頻度をX及びYとし、X+Y=1、Y≦Xとしたとき、0.5≦X≦0.7である; (ii)3塩基置換型の一塩基多型において、アレル頻度をX、Y及びZとし、X+Y+Z=1、Z≦Y≦Xとしたとき、1/3≦X 且つ (1-X)/2≦Y 且つ X+Y<1であって、(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3であるか又は(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9である;及び (iii)4塩基置換型の一塩基多型において、アレル頻度をX、Y、Z及びWとし、X+Y+Z+W=1、W≦Z≦Y≦Xとしたとき、1/4≦X 且つ (1-X)/3≦Y 且つ X+Y<1であって、(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3であるか又は(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9である;一塩基多型を選択し、個体識別検査に用いることからなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA配列情報を用いて個体を識別する方法に関し、さらに個体識別検査のためのアレイ、装置及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムの塩基配列がほぼ解読されたことによって、個人間、人種間で差異のある配列、またその頻度が明確になってきた。個人間での差異は、医療分野において薬物の効果又は副作用との関連を解明するための研究に利用されている。
【0003】
ゲノム塩基配列の相違は、犯罪捜査等における個人認証にも利用されている。現在、個人認証に用いられている主な方法は、DNA配列上のShort Tandem Repeat (STR), Variable Number of Tandem Repeat (VNTR)などに代表される繰り返し配列の繰り返し回数の相違に基づいた方法である。例えば、平成15年から警察で採用されている方法は、STR9箇所、VNTR1箇所の領域をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅し、キャピラリ電気泳動法に供してその移動度から繰り返し回数を決定する方法である。
【0004】
しかしながら、STR、VNTR等の配列は、数塩基単位の一定の配列が繰り返し表れるものであり、上記10箇所については、その繰り返し配列の全長が、30〜600bp程度となる。この繰り返し回数を測定するためには、検査対象の試料中に目的の領域が切断されることなく保存されている必要がある。しかしながら、犯罪捜査等の試料採取現場に残された体液や血痕等、または、火事、爆発、事故等の大惨事の現場に残された試料等は、劣化していることが容易に想定される。そのような場合、DNA配列が断片化されて、目的の領域全てが保存されていない可能性がある。このように、比較的長い配列が必要である繰り返し配列による識別法では測定が困難な場合があるという課題があり、従って、検出に必要なDNA領域は可能な限り短い方が好ましい。
【0005】
そこで、近年解明が進められている一塩基多型を個体識別に用いる方法が考えられる。例えば特許文献1には、個人識別のために、マイクロアレイのDNAプローブに一塩基多型を用いることが可能であると記載されている。しかしながら、その具体的な方法については開示されていない。また、非特許文献1には、韓国人集団において個人の同定及び親子鑑定等に用いることが可能な24個の一塩基多型について開示されている。
しかしながら、現在判明している一塩基多型だけでも膨大な数に上り、その全てについて検査することは現実的ではない。しかし、何れの一塩基多型を検査すべきであるかについては、現在のところ有力な判断基準は存在していない。
【特許文献1】特開2004−239766号公報
【非特許文献1】Lee HY, et. al. ; Selection of twenty-four highly informative SNP markers for human identification and paternity analysis in Koreans. ; Forensic Aci Int. 2005 Mar 10 ; 148(2-3):107-12.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題に鑑み、本発明は、個体の識別に有利な一塩基多型を選択することによって、簡便且つ迅速な個体識別を可能とする方法を提供することを目的とする。また、個体識別検査に用いるためのアレイ、検査装置、及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に拠れば、個体が有する核酸配列と、試料とする核酸配列との一致を判定する個体識別方法において、識別されるべき対象個体が属する集団に存在する一塩基多型群から、複数の一塩基多型を選択する工程と、前記対象個体が有する核酸配列、及び試料由来の核酸配列中の、前記選択された複数の一塩基多型における遺伝子型を決定して、それらを比較する工程とを具備し、前記選択する工程においては、下記(i)〜(iii)の条件の何れか一つを満たす一塩基多型を選択することを特徴とする、個体識別方法が提供される:
(i)2塩基置換型の一塩基多型において、取り得る2つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX及びYとし、X+Y=1、Y≦Xとしたとき、
0.5≦X≦0.7 である;
(ii)3塩基置換型の一塩基多型において、取り得る3つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y及びZとし、X+Y+Z=1、Z≦Y≦Xとしたとき、
1/3≦X 且つ (1-X)/2≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3であるか又は(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9である;及び
(iii)4塩基置換型の一塩基多型において、取り得る4つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y、Z及びWとし、X+Y+Z+W=1、W≦Z≦Y≦Xとしたとき、
1/4≦X 且つ (1-X)/3≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3であるか又は(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9である。
【0008】
ここで、前記Xは、好ましくは0.55≦X<0.7であり、より好ましくは0.6≦X<0.7であり、さらに好ましくは0.65≦X≦0.68である。
【0009】
また、本発明の他の側面に従えば、個体が有する核酸配列と、試料とする核酸配列との一致を判定する個体識別検査に用いるための、核酸プローブが基体に固定されたアレイにおいて、該核酸プローブが、一塩基多型を含む標的配列と相補的な配列を有することを特徴とし、該一塩基多型が、識別されるべき対象個体が属する集団に存在する一塩基多型群から、下記(i)〜(iii)の条件の何れか一つを満たすものであることを特徴とするアレイが提供される:
(i)2塩基置換型の一塩基多型において、取り得る2つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX及びYとし、X+Y=1、Y≦Xとしたとき、
0.5≦X≦0.7 であること;
(ii)3塩基置換型の一塩基多型において、取り得る3つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y及びZとし、X+Y+Z=1、Z≦Y≦Xとしたとき、
1/3≦X 且つ (1-X)/2≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3
であるか又は
(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9であること;及び
(iii)4塩基置換型の一塩基多型において、取り得る4つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y、Z及びWとし、X+Y+Z+W=1、W≦Z≦Y≦Xとしたとき、
1/4≦X 且つ (1-X)/3≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3
であるか又は
(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9であること。
【0010】
ここで、前記Xは、好ましくは0.55≦X<0.7であり、より好ましくは0.6≦X<0.7であり、さらに好ましくは0.65≦X≦0.68である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に従えば、個体の識別に有利な複数の一塩基多型を選択することができ、個体識別に要する一塩基多型を最小限の数にすることができる。これによって、簡便、迅速且つ経済的な個体識別方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一つの側面に従えば、個体識別方法が提供される。本明細書において個体識別とは、個体が有する核酸配列と、試料とする核酸配列との一致を判定することを意味する。例えば、犯罪捜査において残留血痕や毛髪などの遺留品が、被疑者や被害者等のものであるかを特定するために用いられることができる。したがって、試料とする核酸配列は、それらの残留物等に含まれる核酸であってよいが、これに限定されない。
ここで使用される「核酸」という用語は、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)、ペプチド核酸(PNA)、メチルフォスホネート核酸、S−オリゴ、cDNA及びcRNA等、並びに何れのオリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチド等、核酸及び核酸類似体を総括的に示す語である。また、そのような核酸は、天然に存在するものであっても、人工的に合成されたものであってもよい。
ここで核酸配列は、ゲノムDNA配列であることが好ましいが、ゲノム全体が確保されない断片的な配列であってもよい。また、本発明の個体識別は、本人であることを確認するための本人認証や、親子鑑定等に用いることもできるが、これらに限定されない。
【0013】
本発明の方法では、個体識別に一塩基多型(SNP)を用い、特に、個体識別に有利なSNPを選択して用いる。このSNPの選択は、そのアレル頻度を参照して行う。
ここでSNPとは、ゲノムDNA配列の一塩基の違いのことを指し、これは特定の集団において通常1%以上の頻度で認められる。ほとんどの場合、一ヶ所のSNPでは2つの塩基の間で置換が起こり、例えばある個体ではA(アデニン)が、他の個体ではG(グアニン)が取られる。このようなSNPを2塩基置換型と称し、この場合には一ヶ所のSNPにおいて3通りの遺伝子型が存在する。上の例でいえば、A/Aのホモ、G/Gのホモ、及びA/Gのヘテロである。
【0014】
しかしながら、稀に3塩基置換型或いは4塩基置換型のSNPも存在する。これらのSNPでは、それぞれ6通り又は10通りの遺伝子型が存在し、一つのSNP部位だけでも多数の遺伝子型が存在し得ることになる。
【0015】
これらの遺伝子型の出現頻度は、それぞれの塩基のアレル頻度から求めることができる。アレル頻度とは、ある集団内において、あるSNPが取る塩基のそれぞれの割合を指す。即ち、ある集団内におけるあるSNPがAとTの何れかの塩基をとり、その集団内でSNPがAである場合が70%、Tである場合が30%の割合であるとき、Aのアレル頻度Xは0.7であり、Tのアレル頻度Yは0.3と表す。ここで、X+Y=1であり、2塩基置換であることから0<X、0<Yである。
【0016】
このアレル頻度は、ある集団に含まれる相当数の個体の遺伝子型を検査し、その分布によって決定される。現在、複数のデータベースによって種々の集団におけるアレル頻度が公開されており、それぞれ、人種や民族など各種の分類による集団について調査されている。SNPの位置、頻度などを掲載したデータベースには、例えばHAPMAP、NCBI Entrez SNP、JSNP、TSC等がある。
【0017】
なお、本明細書においては、これらの分類、例えば人種、民族、国家、居住領域、性別、年齢等によって分けられた個体群を集団と称する。アレル頻度を決定するために調査した個体数が適切であり、信頼性が高ければ、何れのデータベースで公開されているアレル頻度を用いてもよく、或いはアレル頻度の調査を独自に行ってもよい。
【0018】
上述したように、遺伝子型頻度はアレル頻度から求められる。上の例のSNPで言えば、その遺伝子型は、AAホモ、ATへテロ、及びTTホモが存在し、それぞれの遺伝子型の頻度は、(X+Y)2=XX+2XY+YYから求められる。即ち、AA:AT:TT=0.49:0.42:0.09である。
【0019】
本発明の方法では、これらアレル頻度及び遺伝子型頻度によって適切なSNPを選択する。そして、個体の核酸配列と試料の核酸配列において、該選択されたSNPにおける遺伝子型を決定し、それらを比較する。両者の遺伝子型が全て一致すれば、該試料はその個体に由来するものであると判定することができる。
【0020】
なお、本明細書において個体とは、ヒトの他に、動物及び植物等のゲノムDNA配列によって識別し得るものであれば何れのものでもよい。好ましくはヒトを対象とするが、その他に家畜やペット等、或いは栽培植物や野生植物を含んでもよい。
【0021】
ところで、ヒトのゲノムDNAには、1000万個程度のSNPが存在すると言われている。可能な限り多くのSNPを検査した方が、検査精度が上昇することは明らかであるが、簡便性、迅速性、及び経済性を考慮すると、検査するSNPは少ない方がよいことも明らかである。
【0022】
そこで本発明者らは、下記のような条件に従うことによって、個体の識別に有利なSNPを選択することができることを見出し、個体識別に要するSNPを最小限の数にすることを可能にした。以下、SNPを選択するための条件(i)〜(iii)を順に説明する。
【0023】
(i)まず、2塩基置換型の場合のSNPの選択方法を説明する。置換する塩基をA及びBとし、そのアレル頻度と遺伝子型頻度との関係を図1aに示した。図1aでは、Aの頻度が上昇するに従って、遺伝子型AAの頻度が上昇する。反対に、Aの頻度が上昇するに従って、Bの頻度は減少し、遺伝子型BBの頻度も減少する。Aの頻度が0.5の時、即ち、AとBの頻度が等しいとき、遺伝子型ABの頻度は最大になる。
【0024】
この図1aにおいて、最大の遺伝子型頻度と最小の遺伝子型頻度を抜き出したものが図1bである。この図の通り、2塩基置換型のSNPでは、最も遺伝子型頻度が高い遺伝子型(MAX)は、Aの頻度が0.66のときに最も低い遺伝子型頻度4/9をとり、これ以下にはならない。また、最も遺伝子型頻度が低い遺伝子型(MIN)は、Aの頻度が0.5のとき最大の遺伝子型頻度になり、その前後では減少する。
【0025】
ここで、個体識別にはどのような遺伝子型頻度を有するSNPが望ましいかを考える。あるSNPにおいて、最大の遺伝子型頻度を有する遺伝子型の頻度は、可能な限り低い方が望ましい。これは、最大の遺伝子型頻度が高ければ、その集団においてその遺伝子型を有する個体が多く存在することになり、そのSNPの個体を識別する能力が低くなるためである。従って、最低限の識別能力を確保するために、最大の遺伝子型頻度を有する遺伝子型の頻度は、0.5以下であることが好ましい。
【0026】
また、最小の遺伝子型頻度を有する遺伝子型は、可能な限り低い方が望ましい。この遺伝子型頻度が低ければ、その遺伝子型は稀少であると言え、そのSNPは極めて識別能力が高く有用なSNPであると言える。
【0027】
ここで、塩基A及びBのそれぞれのアレル頻度をX及びYとして表す。X+Y=1とし、Y≦Xとする。また、定義から0<X、0<Yであり、条件から0.5≦Xである。このとき、図1bにおいて、最大の遺伝子型頻度(MAX)が0.5以下であるXは、0.5≦X≦0.7である。よって、アレル頻度が0.5≦X≦0.7であるSNPが好適に用いられる。
【0028】
ここで、上述したように、最大の遺伝子型頻度を小さくするためには、Xの値が0.66に近づくことが望ましい。しかし、最小の遺伝子型頻度を小さくするためには、Xの値がより大きい方が好ましい。これらの条件を考慮し、さらに好ましい範囲は0.55≦X<0.7であり、より好ましくは0.6≦X<0.7であり、最も好ましくは0.65≦X≦0.68の範囲である。
【0029】
以上のような範囲のX(アレル頻度)を有するSNPは、識別能力のバランスがよく、このようなSNPは本発明の方法において好適に用いられることができる。
【0030】
(ii)次に、3塩基置換型の場合のSNPの選択方法を説明する。3塩基置換型のSNPは、上述したように遺伝子型が6通りある。従って、一つのSNPによる識別能力が向上し、個体の識別に用いるのに有利である。
【0031】
さらに、2塩基置換型では、最大の遺伝子型頻度がとり得る最小の遺伝子型頻度は4/9であるため、3塩基置換型ではこれより小さい遺伝子型頻度のSNPを選択することにより、個体識別により効果的なSNPを選択することが可能である。
【0032】
ここでは、置換する塩基をA、B及びCとし、アレル頻度をそれぞれX、Y及びZとする。ここで、X+Y+Z=1、Z≦Y≦Xとする。このとき、1/3≦X、(1-X)/2≦Y、X+Y<1である。
【0033】
ところで、3塩基置換型における遺伝子型は、X2、Y2、Z2、2XY、2YZ、2ZXである。この中で、遺伝子型頻度が最大に成り得るものは、X2又は2XYである。
【0034】
(a)2XY≦X2である場合、即ち、Y≦1/2・Xであるとき、最大の遺伝子型はX2である。ここで、上記したように、4/9より小さい遺伝子型頻度が望ましいため、X2<4/9とする。従って、望ましいアレル頻度はY≦1/2・X 且つ X<2/3であり、このようなSNPを選択する。
【0035】
(b)或いは、2XY>X2である場合、即ち、1/2・X<Yであるとき、最大の遺伝子型は2XYである。ここで、上記したように、4/9より小さい遺伝子型頻度が望ましいため、2XY<4/9とする。従って、望ましいアレル頻度は1/2・X<Y 且つ XY<2/9であり、このようなSNPを選択する。
【0036】
以上の(a)及び(b)に適合するX及びYの範囲を、図2の斜線の領域として示した。この範囲のアレル頻度を有する3塩基置換型SNPは、2塩基置換型のSNPよりも個体識別により貢献し得るSNPであり、有効性の高いSNPであるといえる。
【0037】
(iii)次に、4塩基置換型の場合のSNPの選択方法を説明する。4塩基置換型のSNPは、上述したように遺伝子型が10通りある。従って、一つのSNPによる識別能力が最も大きく、個体の識別に用いるのに有利である。4塩基置換型のSNPは、3塩基置換型のSNPと同様に、最大の遺伝子型頻度が4/9より小さい遺伝子型頻度のSNPを選択することにより、個体識別により効果的なSNPを選択することが可能である。
【0038】
ここでは、置換する塩基をA、B、C及びDとし、アレル頻度をそれぞれX、Y、Z及びWとする。ここで、X+Y+Z+W=1、W≦Z≦Y≦Xとする。このとき、1/4≦X、(1-X)/3≦Y、X+Y<1である。
【0039】
この4塩基置換型における遺伝子型も、遺伝子型頻度が最大に成り得るものは、X2又は2XYである。
【0040】
(a)2XY≦X2である場合、即ち、Y≦1/2・Xであるとき、最大の遺伝子型はX2である。ここで、上記したように、4/9より小さい遺伝子型頻度が望ましいため、X2<4/9とする。従って、望ましいアレル頻度はY≦1/2・X 且つ X<2/3であり、このようなSNPを選択する。
【0041】
(b)或いは、2XY>X2である場合、即ち、1/2・X<Yであるとき、最大の遺伝子型は2XYである。ここで、上記したように、4/9より小さい遺伝子型頻度が望ましいため、2XY<4/9とする。従って、望ましいアレル頻度は1/2・X<Y 且つ XY<2/9であり、このようなSNPを選択する。
【0042】
以上の(a)及び(b)に適合するX及びYの範囲を、図3の斜線の領域として示した。この範囲のアレル頻度を有する4塩基置換型SNPは、2塩基置換型のSNPよりも個体識別により貢献し得るSNPであり、有効性の高いSNPであるといえる。
【0043】
以上の(ii)及び(iii)に示したSNPは、例えば、National Center for Biological Information (NCBI)のSNPデータベースに登録されているSNPから検索することができる。
【0044】
上記(i)〜(iii)の条件を満たすように選択されるSNPは、ゲノム中で、異なる染色体から選択することが望ましい。同一染色体上に存在するSNPは、互いに連鎖していないことが明らかであるか、又はその確率が低いSNPを用いることが望ましい。
【0045】
なお、上記の条件に従って選択された複数のSNPの組み合わせは、選択されたi個の一塩基多型のそれぞれの、アレル頻度から算出された遺伝子型頻度において、n番目の一塩基多型における最も高い遺伝子型頻度を(Max)nとし、最も低い遺伝子型頻度を(Min)nとしたとき、1/Π(Max)i及び1/Π(Min)iがそれぞれ適切な値になるように選択されることが望ましい。
【0046】
例えば、前記集団を構成する個体数をUとしたとき、1/Π(Max)i 及び1/Π(Min)i のそれぞれが、Uに対する割合で表したときに適切な範囲であるように選択することもできる。
【0047】
1/Π(Max)iは、選択されたSNPの組み合わせにおいて、最も確率の高い組み合わせを有する個体が、1/Π(Max)i人に一人の割合で存在することを表す。1/Π(Max)iの値が低ければ、そのSNPの組み合わせを有する個人が、集団内に多く存在し、そのSNPの組み合わせは個人の識別能力が低いものであるといえる。
【0048】
また、1/Π(Min)iは、選択されたSNPの組み合わせにおいて、最も確率の低い組み合わせを有する個体が、1/Π(Min)i人に一人の割合で存在することを表す。1/Π(Min)iの値が低ければ、そのSNPの組み合わせを有する個体は稀にしか存在せず、個人の識別能力が高いSNPの組み合わせであるといえる。
【0049】
なお、本発明において個体識別に用いるために選択されるSNPの数iは、必要とする識別能力に応じて適宜決定すればよく、簡便性、迅速性、経済性、及び判定の信頼度を考慮して決定してよい。
【0050】
以上に述べた条件に従って選択したSNPを用いた個体識別方法では、さらに、対象個体が有する遺伝子型の頻度をアレル頻度から算出して、選択されたSNPの全てについての遺伝子型頻度を乗算し、その逆数を取ることによって、対象個体が有する遺伝子型の組み合わせが、集団内に存在する確率を算出することができる。図4を用いて説明すると、対象個体の遺伝子型が1:CC、2:CC、3:CT、4:CC、5:TTである場合、それぞれの遺伝子型頻度を乗算すると、0.078×0.518×0.3942×0.314×0.2916=0.001458であり、その逆数は685.7である。よって、このサンプルの遺伝子型は686人に一人存在する遺伝子型である。
【0051】
例えば、1億人の集団内で10人に一人が有する遺伝子型であれば、対象個体と試料の遺伝子型が一致しても、それらが同一のものであるという信頼度が低くなる。反対に、対象個体が有する遺伝子型が稀にしか存在しない遺伝子型であれば、判定の信頼度が高くなる。従って、集団内における存在確率を決定し、判定の信頼度を明らかにすることも、個体識別の際には重要である。本工程により存在確率を算出することで個体識別の検査結果の信頼度を判定することができる。
【0052】
以上詳細に述べた本発明の個体識別方法をまとめると、まず、識別されるべき対象個体が属する集団に存在するSNP群から、上記(i)〜(iii)の何れかの条件を満たすSNPを複数選択する。ここで選択された複数の一塩基多型における遺伝子型を、対象個体が有する核酸配列、及び試料由来の核酸配列中それぞれで決定する。次いで、両者の決定された遺伝子型を比較し、対象個体の核酸配列と試料の核酸配列が一致するか否かを判定する。
【0053】
ここで、対象個体及び試料の核酸配列中の遺伝子型を決定する方法は、周知の方法で行えばよく、例えば当該SNP部位をポリメラーゼ増幅反応で増幅させて調べる方法、DNA配列解析方法等の適切な方法によって行ってもよい。
【0054】
本発明に従って選択されたSNPを用いることにより、要求される信頼度の中で最小数のSNP数で個体識別することが可能であり、簡便、迅速に検査でき、且つコストを抑制することができる。
【0055】
次に、本発明の他の側面から、個体識別検査に用いるためのアレイが提供される。本発明におけるアレイは、標的核酸と相補的な配列を有する核酸プローブが基体に固定されたものである。ここで標的核酸とは、識別されるべき対象個体が属する集団に存在するSNP群から、上記(i)〜(iii)の条件の何れか一つを満たすように選択されたSNPを含む標的配列を有する核酸鎖を意味する。基体に固定された核酸プローブは、適切な条件下において標的核酸とハイブリダイズし得るものである。
ここで使用される「相補」、「相補的」および「相補性」の語は、50%〜100%の範囲で相補的であればよく、好ましくは100%で相補的であることを言う。
【0056】
基体に固定された核酸プローブは、単一の核酸プローブであってもよいが、複数の異なる核酸プローブであってもよい。即ち、それぞれ異なるSNPを含む標的配列を有する標的核酸と、それぞれ相補的な配列を有する核酸プローブを固定してもよい。
【0057】
また、例えばAとTの2塩基置換型のSNPにおいて、Aである場合の配列に相補的な核酸プローブと、Tである場合の配列に相補的な核酸プローブの双方のプローブをアレイに固定してもよく、或いは、一方の配列のためのプローブのみを固定してもよい。同様に、3塩基置換型及び4塩基置換型のSNPでも、各塩基の場合の配列に対応するプローブを用いてもよく、検出したい配列に対応するプローブのみを用いてもよい。核酸プローブの長さは、基体に固定し、ハイブリダイズするのに適切な長さを適宜選択してよく、標的核酸より短くても良い。例えば、約3〜約1000bpであってよく、好ましくは約10〜約200bpであってよい。
【0058】
標的核酸は、SNPが存在する部位の上流及び下流の配列から成る配列を有する核酸である。アレイ上で核酸プローブとのハイブリダイゼーションに供する標的核酸は、核酸が含まれる試料溶液をそのまま用いてもよいが、例えばPCRなどによって、標的配列部位を予め増幅切り出しして用いてもよい。このとき、標的核酸の長さは任意に決定すればよいが、プライマーの設計によって、例えば30〜500bp程度の長さにしてもよい。標的核酸の長さを適度にすることにより、ハイブリダイゼーションの効率を上昇させることができる。
【0059】
本発明において使用され得る基体は、核酸プローブが固定可能な基体であればよく、例えば非多孔性、硬質及び半硬質な材質による、ウェル、溝または平らな表面を有する板状形体、又は、球体などの立体形状を有するものであってよい。基体は、これに限定されるものではないが、シリコン、ガラス、石英ガラス、石英などのシリカ含有基材、およびポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、等のプラスチックおよびポリマーなどで製造され得る。
【0060】
本発明のアレイは、基体に固定化された核酸プローブと標的核酸がハイブリダイズした結果生じた二本鎖の存在を検知するための手段として、電気化学的方法を用いることができるが、これに限定されない。
【0061】
電気化学的方法による二本鎖核酸の検出は、例えば、公知の二本鎖認識物質を用いて行えばよい。二本鎖認識物質は特に限定されるものではないが、例えば、ヘキスト33258、アクリジンオレンジ、キナクリン、ドウノマイシン、メタロインターカレーター、ビスアクリジン等のビスインターカレーター、トリスインターカレーターおよびポリインターカレーター等を用いることが可能である。更に、これらのインターカレーターを電気化学的に活性な金属錯体、例えば、フェロセン、ビオロゲン等で修飾しておくことも可能である。また、その他の公知の二本鎖認識物質も使用可能である。
【0062】
電気化学的方法により二本鎖核酸を検出する方法では、基体に電極を設け、核酸プローブはこの電極に固定される。電極は、特に限定されるものではないが、例えば、グラファイト、グラシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンペースト、カーボンファイバーのような炭素電極、白金、白金黒、金、パラジウム、ロジウムのような貴金属電極、酸化チタン、酸化スズ、酸化マンガン、酸化鉛のような酸化物電極、Si、Ge、ZnO、CdS、TiO2、GaAsのような半導体電極、チタン等によって形成されることができる。これらの電極は導電性高分子によって被覆しても、単分子膜によって被覆してもよく、所望に応じてその他の表面処理剤を処理してもよい。
【0063】
核酸プローブの固定は、公知の手段によって行えばよい。例えば、スペーサーを電極に固定し、該スペーサーに核酸プローブを固定することによって、核酸プローブをスペーサーを介して電極に固定してもよい。または、予め核酸プローブにスペーサーを結合させ、そのスペーサーを介して電極に固定してもよい。或いは、電極上でスペーサーと核酸プローブを公知の手段によって合成してもよい。また、スペーサーを介しての核酸プローブの固定は、処理又は無処理の電極表面に対して当該スペーサーを、共有結合、イオン結合又は物理吸着などによって直接固定化してもよい。或いは、スペーサーを介した核酸プローブの固定を助けるリンカー剤を用いても良い。また、電極に対する被検核酸の非特異的な結合を防止するためのブロッキング剤をリンカー剤と共に電極に処理しても良い。また、ここで使用されるリンカー剤及びブロッキング剤は、例えば、電気化学的検出を有利に行うための物質であってもよい。
【0064】
なお、異なる塩基配列を有する核酸プローブは、それぞれ、異なる電極に対してスペーサーを介して固定化されてもよい。
【0065】
さらに、他の一般的な電気化学的検出法と同じように、対極および/または参照極をアレイに備えてもよい。参照極を設置する場合、例えば、銀/塩化銀電極や水銀/塩化水銀電極などの一般的な参照極を使用することができる。
【0066】
アレイによる標的核酸の検出は、例えば以下のように行うことができる。ヒトを含む動物などの個体、組織または細胞などの対象から採取した試料より、核酸成分を試料核酸として抽出する。得られた試料核酸は、必要に応じて、逆転写、伸長、増幅および/または酵素処理などの処理をしてもよい。必要に応じて前処理された試料核酸を、核酸プローブ固定化基体に固定化された核酸プローブと接触させ、適切なハイブリダイゼーションが可能な条件下で反応を行う。そのような適切な条件は、標的配列に含まれる塩基の種類、核酸プローブ固定化基体に具備されるスペーサーおよび核酸プローブの種類、試料核酸の種類およびそれらの状態などの諸条件に応じて、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0067】
ハイブリダイゼーション反応は、例えば次のような条件下で行ってもよい。ハイブリダイゼーション反応溶液は、イオン強度0.01〜5の範囲で、pH5〜10の範囲の緩衝液中を用いる。この溶液中にはハイブリダイゼーション促進剤である硫酸デキストラン、並びに、サケ精子DNA、牛胸腺DNA、EDTAおよび界面活性剤などを添加してもよい。ここに得られた試料核酸を添加し、90℃以上で熱変性させる。この溶液中に、核酸の変性直後、あるいは0℃に急冷後に核酸プローブ固定化基体を挿入する。或いは、基体上に液を滴下することでハイブリダイゼーション反応を行うことも可能である。
【0068】
反応中は、撹拌、あるいは振盪などの操作で反応速度を高めてもよい。反応温度は、例えば、10℃〜90℃の範囲で、反応時間は1分以上1晩程度で行えばよい。ハイブリダイゼーション反応後、電極を洗浄する。洗浄液は、例えば、イオン強度0.01〜5の範囲で、pH5〜10の範囲の緩衝液を用いる。試料核酸中に標的配列を含む標的核酸が存在した場合、核酸プローブとハイブリダイズし、基体上に二本鎖核酸が生じる。
【0069】
続いて、電気化学的手段により二本鎖核酸の検出を行う。検出手順は一般に、ハイブリダイゼーション反応後に基体を洗浄し、電極表面に形成された二本鎖部分に二本鎖認識体を作用させて、それにより生じる信号を電気化学的に測定する。
【0070】
二本鎖認識体の濃度は、その種類によって異なるが、一般的には1ng/mL〜1mg/mLの範囲で使用する。この際は、イオン強度0.001〜5の範囲で、pH5〜10の範囲の緩衝液を用いればよい。
【0071】
電気化学的測定は、例えば、二本鎖認識体が電気化学的に反応する電位以上の電位を印加し、二本鎖認識体に由来する反応電流値を測定することによって可能である。この際、電位は定速で掃引するか、あるいはパルスで印加するか、あるいは、定電位を印加してもよい。測定の際に、例えば、ポテンショスタット、デジタルマルチメーターおよびファンクションジェネレーター等の装置を用いて電流、電圧を制御してもよい。さらに、得られた電流値を基に、検量線から標的核酸の濃度を算出してもよい。
【0072】
以上記載したアレイを用いたハイブリダイゼーション反応によって、検出された標的核酸の配列は、検査対象の個体、及び試料が有する核酸配列である。これによって、それぞれの試料に含まれる核酸配列における、選択されたSNPの遺伝子型を決定することができる。
【0073】
識別されるべき個体と試料のそれぞれの遺伝子型が決定された後、それらを比較し、両者が一致するか否かを判定する。さらに、用いたSNPの遺伝子型頻度を基に、その個体又は試料の遺伝子型の存在割合を算出し、判定の信頼度を決定してもよい。
【0074】
本発明の他の側面から、上記アレイを備えた個体識別検査装置が提供される。該装置では、基板状のアレイが好適に用いられ、ここではチップとも称する。さらに、本発明の他の側面から、該個体識別検査装置によって個体識別検査を実行するシステムが提供される。
【0075】
本発明による個体識別検査装置は、上記の本発明に従ったアレイと、該アレイの基体上に設けられ、薬液又はエアの流れる方向に沿って設けられた流路と、前記基体上に前記流路に沿って複数設けられ、前記プローブが固定化される作用極と、前記流路の内周面に前記作用極に対応して設けられ、各々が前記基体表面に対向する第1の面に位置するように配置され、前記作用極との間に電位差を与える対極と、前記流路の内周面に前記作用極に対応して設けられ、各々が前記基板表面に対向する第2の面に位置するように配置され、前記作用極に検出電圧をフィードバックさせる参照極と、前記流路に開口し、前記流路の上流側から前記流路内に薬液又はエアを送入する送入ポートと、前記流路に開口し、前記流路の下流側から前記流路内の薬液又はエアを送出する送出ポートと、前記流路内に試料を注入する試料注入口とを具備する。
【0076】
また、本発明による個体識別検査システムは、前記個体識別検査装置と、前記送入ポートに連通し、該送入ポートを介して前記流路内に薬液又はエアを供給する第1の配管と、前記第1の配管の薬液又はエアの流量を制御する第1の弁とを備えた供給系と、前記送出ポートに連通し、該送出ポートを介して前記流路内から薬液又はエアを排出する第2の配管と、前記第2の配管の薬液又はエアの流量を制御する第2の弁と、第2の配管に設けられ、前記流路内から薬液又はエアを吸い上げるポンプとを備えた排出系と、前記作用極と対極との間に電位差を与える電圧印加部を備えた測定系と、前記アレイの温度を制御する温度制御系と、前記供給系の第1の弁と、前記排出系の第2の弁及びポンプと、前記測定系の前記電圧印加部と、前記温度制御系とを制御し、前記作用極又は前記対極から電気化学反応信号を検出し、この電気化学反応信号を測定データとして格納する制御機構と、前記制御機構に制御条件パラメータを与えて前記制御機構を制御するとともに、前記測定データに基づいて塩基配列の解析処理を実行し、固体識別検査の判定を行うコンピュータとを具備する。
【0077】
以下、図面を参照しながら本発明の個体識別検査装置及びシステムの一実施形態を説明する。
【0078】
図5は本発明の一つの態様における個体識別検査システムの全体構成を示す概念図である。図5に示すように、個体識別検査システム1は、チップカートリッジ11(個体識別検査装置)と、このチップカートリッジ11と電気的に接続される測定系12、チップカートリッジ11に設けられた流路とインタフェース部を介して物理的に接続される送液系13及びチップカートリッジ11の温度制御を行う温度制御系14から構成される。
【0079】
これら測定系12、送液系13及び温度制御系14は制御機構15により制御される。制御機構15は、コンピュータ16に電気的に接続されており、このコンピュータ16に備えられたプログラムにより、制御機構15が制御される。本実施形態では、チップカートリッジ11、測定系12、送液系13及び温度制御系14を測定ユニット10と称する。
【0080】
チップカートリッジ11には、核酸プローブが固定化されたチップ21が実装されたプリント基板22が取り付けられて用いられる。核酸プローブはチップ21の作用極に固定化される。チップ21のセル内に導入される試料(検体溶液)には、検査の対象となる核酸が含まれている。この実施形態の個体識別検査装置は、標的核酸を核酸プローブとハイブリダイゼーションさせ、その反応の有無をバッファ、挿入剤導入後にモニタリングすることにより、試料中に標的核酸が含まれているか否かを判別する。
【0081】
図6はチップカートリッジ11の詳細な構成を示す図であり、(a)は上面から見た図、(b)はA−A方向から見た図、(c)はB−B方向から見た部分透視断面図、(d)はチップカートリッジ11の一構成要素である支持体111を裏面から見た図を示している。
【0082】
チップカートリッジ本体110は、プリント基板22を下部側から支持する支持体111と、この支持体111とともにプリント基板22を上部側から挟み込み固定支持するためのチップカートリッジ上蓋112からなる。
【0083】
チップカートリッジ上蓋112の側部には2つの開口が設けられ、その開口のうちの1つにはインタフェース部113aが、他の1つにはインタフェース部113bが接続されている。これらインタフェース部113a及び113bは、送液系13とチップカートリッジ11のインタフェースとして機能する。これらインタフェース部113a及び113bの内部にはそれぞれ流路114a及び114bが設けられている。流路114aを介して、送液系13上流側からの薬液やエアをチップカートリッジ11内部に送入する。流路114bを介して、チップカートリッジ11内の試料、薬液及びエアを送液系13下流側に送出する。
【0084】
図6(a)〜(c)では、流路114a及び114bは破線で示されている。これら流路114a及び114bは、インタフェース部113a及び113bからチップカートリッジ上蓋112内まで連通しており、さらにはセル115に通じている。セル115は、チップ21とこのチップ21に導入される各種溶液との電気化学反応を生じさせるために設けられる領域である。このセル115は、チップ21が実装されたプリント基板22の四隅がこのチップカートリッジ11のチップカートリッジ上蓋112に基板固定ねじ25により固定化されている場合に、チップ21とシール材24a、チップカートリッジ上蓋112に囲まれた閉空間領域で定められる。チップ21を実装したプリント基板22がチップカートリッジ上蓋112に固定化された状態で、支持体111とチップカートリッジ上蓋112によりプリント基板22がシール材24aを挟んで保持される。さらに、上蓋固定ねじ117によりチップカートリッジ上蓋112が固定される。これにより、流路114aからセル115を介して流路114bまで連通した各種薬液やエアの注入・吐出経路が定められる。なお、チップ21は、プリント基板22に封止樹脂23により封止されている。
【0085】
セル115の上面に位置するチップカートリッジ上蓋112には、送入ポート116a及び送出ポート116bが設けられている。送入ポート116aは、チップカートリッジ上蓋112の側面から底面まで貫通し、セル孔部115aでチップカートリッジ上蓋112の底面に開口している。送出ポート116bは、チップカートリッジ上蓋112の別の側面から底面まで貫通し、セル孔部115bでチップカートリッジ上蓋112の底面に開口している。送入ポート116aが流路114aに、送出ポート116bが流路114bに接続されることにより、流路114aとセル115,流路114bとセル115が連通する。
【0086】
プリント基板22表面であってセル115から離間した位置に、電気コネクタ22aが設定されている。電気コネクタ22aは、プリント基板22の基板本体のリードフレームと電気的に接続されている。また、この基板本体のリードフレームは、チップ21の各種電極とリードなどにより電気的に接続されている。この電気コネクタ22aに測定系12の端子を接続することにより、チップ21で得られる電気信号を、プリント基板22の所定の位置に設けられた所定の端子を介して、さらには電気コネクタ22aを介して測定系12に出力することができる。
【0087】
図6(d)に示すように、支持体111はコの字型をしており、中央に切り込み部111aが設けられている。この切り込み部111aはプリント基板22よりも小さく、チップ21よりも大きな形状となっている。これにより、支持体111によるプリント基板22の支持機能を保ちつつ、チップ21に支持体111を介さずに温度制御系14を接して配置することができる。117aはねじ孔であり、上蓋固定ネジ117が固定される。
【0088】
チップ21の温度を調節する温度制御系14としては、例えばペルティエ素子が用いられる。これにより、±0.5℃の温度制御が可能である。核酸の反応は、室温に比較的近い温度範囲において行うのが一般的である。従って、ヒーターのみでの温度制御は安定性に乏しい。また、温度プロファイルにより、核酸の反応を制御する必要があるため、別に冷却機構が必要になってきてしまう。その点、ペルティエ素子は、電流の向きを変えることにより、加熱・冷却いずれも可能であるため、最適である。
【0089】
図7は上蓋固定ねじ117で固定する前の支持体111とチップカートリッジ上蓋112を示す図である。図7に示すように、チップカートリッジ上蓋112に、チップ21が実装されたプリント基板22の四隅が基板固定ねじ25で固定されている。チップカートリッジ上蓋112には、シール材24aが一体化されている。従って、チップ21上に、シール材24aとチップカートリッジ上蓋112で囲まれたセル115が定められる。さらに、上蓋固定ねじ117で支持体111にチップカートリッジ上蓋112が固定されて用いられる。なお、基板固定ねじ25は、プリント基板22の裏面側から固定しても、表面側から固定してもよい。このように、チップカートリッジ上蓋112にプリント基板22を固定化することにより、チップ21、シール材24a及びチップカートリッジ上蓋112の間の密着性を確実に保持することができる。
【0090】
図8はチップ21を実装したプリント基板22の詳細な構成を示す図である。図8に示すように、プリント基板22上には、チップ21が封止樹脂23により封止されている。チップ21上には、作用極501が設けられている。この作用極501は、図8の矢印で示される薬液及びエアの流れる方向に沿って1つずつ設けられている。薬液及びエアの流れる方向は、チップカートリッジ上蓋112及びシール材24aによりチップ21上の作用極501の周囲に矢印で示す方向に沿った空間を残して密閉することにより定められる。破線で示された領域は、シール材24aが配置される領域である。複数の作用極501は、この破線で示された領域に収まるように配置される。
【0091】
プリント基板22の端部には電気コネクタ22aが設置されている。チップ21の作用極501と電気コネクタ22aは、プリント基板22表面に設けられたリードフレームなどにより電気的に接続されている。電気コネクタ22aには、測定系12の信号インタフェースを接続することにより、チップ21の各電極と測定系12とを電気的に接続することができる。
【0092】
図9(a)は図6(a)に示すセル115及びセル115に通じる薬液供給系統をC−C方向から見た断面図、図9(b)はセル115近傍の上面図である。図9(a)に示すように、チップカートリッジ上蓋112の底面には、高さd42の流路状凸部112aが設けられている。そして、この流路状凸部112aには例えばスクリーン印刷などにより予めシール材24aが印刷され、シール材24aと一体的に形成されている。これにより、シール材24aとチップカートリッジ上蓋112との位置決めを行うことなくセル115を定めることができ、セル115の組み立て工程が簡便になる。シール材24aは、流路状凸部112aとチップ21との間に固定される。これにより、チップカートリッジ上蓋112とチップ21の間に閉空間が定められる。この閉空間が試料や薬液とプローブとの電気化学反応を生じさせる反応室としてのセル115である。セル115の底面はチップ21により定められる。セル115の側面はチップカートリッジ112に設けられた流路状凸部112a及びシール材24aの側部により定められる。セル115の上面はチップカートリッジ112のうち流路状凸部112aが設けられていない部位により定められる。これにより、セル孔部115a及び115b以外は密閉された閉空間が定められ、チップ21と蓋120との液密が保持される。このセル115の高さは約0.5mm程度に設定される。ここでは0.5mm程度に設定しているがこの限りではなく、0.1mm〜3mmの範囲で設定するのが望ましい。
【0093】
セル115は、上面から見ると図9(b)に示すように細長の流路601が配置された形状をなす。図9(b)では、送入ポート116a側のセル孔部115aからセル孔部115bに向けて同じ路幅の1本の流路601が設けられている。この1本の流路601は、検出用流路601aと、ポート接続流路601b及び601c、流路接続流路601dからなる。検出用流路601aは、作用極501が配置される複数本の流路である。ポート接続流路601bは、セル孔部115aに最も近い検出用流路601aをセル孔部115aに接続する。ポート接続流路601cは、セル孔部115bに最も近い検出用流路601aをセル孔部15bに接続する。流路接続用流路601dは隣りあう検出用流路601aの端部同士を接続して複数の検出用流路601aに薬液又はエアが流れる方向を一方向に定める。これにより、ある検出用流路601aを流れた薬液又はエアは、流路接続用流路601dに流れ込み、さらに同じ方向に隣りあう別の検出用流路601aに流れる。また、流路601a〜601dのいずれも、同じ路幅及び断面を有しており、その路幅は0.5mm〜10mmが望ましい。
【0094】
図9(b)において、破線で囲まれ流路601が形成されていない領域は、流路状凸部112a及びシール材24aが設けられておりチップ21とシール材24aが接する領域である。流路601が形成されている領域は、流路状凸部112a及びシール材24aが設けられない領域である。送入ポート116a及び送出ポート116bは各々セル115の上面から上方に、セル底面に対してほぼ垂直な方向に所定の高さまで延びている。送入ポート116a及び送出ポート116bはさらにセル115の中心から互いに遠ざかる方向にその流路が折れており、流路114a及び114bにそれぞれ接続される。
【0095】
送出ポート116bは、セル底面に対してほぼ垂直な方向に所定の高さまで延び、さらにセル115の中心から遠ざかる方向にほぼ直角に折れているが、その折れ曲がり位置で2つの経路に分岐する。その一つの経路は、チップカートリッジ上蓋112の表面まで貫通し、試料注入口119に通じている。これにより、試料注入口119から注入された試料は、送出ポート116bを通ってセル115に導入される。試料注入口119と送出ポート116bの中心軸はほぼ一致しており、試料注入口119の口径は、送液ポート116bの口径よりも大きく設定されている。また、試料注入口119近傍に設けられ、蓋120により試料注入口119を塞ぐことができる。これにより、試料注入口119を利用せず、薬液を流路114aからセル115を介して流路114bに循環させる場合に薬液が試料注入口119から流出するのを防止することができ、薬液の経路を確保することができる。また、蓋120にはシール材121が設けられており、試料注入口119を密閉することにより、薬液のわずかな漏出を防止できる。図9(a)の例では特に示していないが、送出ポート116bから流路114bに接続される経路のみを残して試料注入口119への経路を完全に塞ぐような深さのシール材121を用いれば、試料注入口119側への薬液やエアの滞留を低減することができる。
【0096】
以上のような構成により、薬液は図9(a)の矢印で示される方向に、流路114a、送入ポート116a、セル115(流路601),送出ポート116b、流路114bの順に流れることができる。また、試料は、試料注入口119から注入され、矢印の方向に送出ポート116bを通ってセル115内に導入される。従って、試料は送出側から注入されることとなり、薬液の供給の流れと試料の注入経路が逆に設定されている。これにより、洗浄工程において、試料の洗浄効率を高めることができる。
【0097】
図9(c)は送入ポート116aと送出ポート116bと流路601との最適な位置関係を示す図である。送入ポート116aの外周はポート接続流路601bの外周と接している。また、送出ポート116bの外周はポート接続流路601cの外周と離れている。これにより、薬液やエア送入の際に送入ポート116aのポート隅近傍に生じやすい薬液残りやエア残りを低減することができるとともに、薬液や送出の際に送出ポート116bのポート隅で生じる送液速度のばらつきを低減することができ、エア残りなどを低減することができる。なお、同図の破線で示すように、ポート接続流と601bの外周に送入ポート116aの外周が重なることによりポート接続流路601bから送入ポート116aがはみ出した形状で形成されていても同様の効果を得られる。もちろん、送入ポート116aと送出ポート116bの流路601との位置関係は図9(c)に示したものに限定されない。送入ポート116a側は、ポート接続流路601bとの接続で、両者の外周が重なりを有する場合、離れる場合の3通りが考えられ、送出ポート116b側も、ポート接続流路601cの接続で、両者の外周が接する場合、重なりを有する場合、離れる場合の3通りが考えられる。
【0098】
図10及び図11は、セル115の詳細な構成を示す図である。図10(a)はセル孔部115aと115bを結んだ直線で切断された断面図、図10(b)はチップ21にチップカートリッジ上蓋112が固定される様子を示す図、図11はセル115の上面図である。図10(a)に示すように、検出用流路601aがほぼ等間隔に複数形成されている。図10(a)の左側に示される検出用流路601aの断面を奥側から手前側に薬液又はエアが流れる場合、中央の検出用流路601aはこれとは逆の方向、すなわち手前側から奥側に流れ、左側に示される検出用流路601aはさらにこれとは逆の方向、すなわち奥側から手前側の方向に流れる。このように、隣り合う検出用流路601aの薬液又はエアの流れる方向は逆向きとなる。これら検出用流路601aを薬液又はエアの流れる方向に対して垂直な断面で切断すると、すべて同じ長方形の断面形状をなし、かつ電極配置も同一である。
【0099】
検出用流路601aの底面はチップ21により定められる。検出用流路601aの各々の底面には作用極501がそれぞれ1つ形成されている。検出用流路601aの側面はチップカートリッジ上蓋112から凸設された流路状凸部112a及びシール材24aにより定められる。この流路側面、すなわち流路状凸部112aの側部には、流路底面から所定の高さにそれぞれ参照極503が固定されている。このように、複数の参照極503はチップ表面と平行な平面上であってチップ表面と対向する面に位置し、かつその平面は作用極501が設けられている平面よりも高い平面に位置する。検出用流路601aの上面は流路状凸部112aが設けられていないチップカートリッジ上蓋112底面により定められる。この流路上面にはそれぞれ対極502が固定されている。このように、複数の対極502はチップ底面と平行な平面上であってチップ表面と対向する面に位置し、かつその平面は作用極502や参照極503が設けられている平面よりも高い平面に位置する。このように、作用極501、対極502及び参照極503は、それぞれ異なる平面に三次元配置されている。
【0100】
シール材24aはチップカートリッジ上蓋112の流路状凸部112aに予め印刷等により固定化されている。従って、セル115を組み立てる際には、シール材24aが一体化したチップカートリッジ上蓋112をチップ21に対して図10(b)の矢印に示す方向に押圧する。これにより、シール材24aを介してチップカートリッジ上蓋112とチップ21の間に図10(a)に示すような周囲が密閉された流路601が定められる。
【0101】
図11に示すように、作用極501,対極502及び参照極503からなる3電極が各検出用流路601aに、薬液又はエアの流れる方向に等間隔に配置されている。この3電極は、それぞれ薬液又はエアの流れる方向に対して垂直な平面に配置されている。
【0102】
なお、図11の例では、上面から見て作用極501,対極502及び参照極503の位置関係が流路の方向にかかわらず同じマトリクス状の配置を示したがこれに限定されない。図12に示すように、隣り合う検出用流路601aにおける流路断面の構造を薬液又はエアの流れる方向に沿って左右逆転させてもよい。この場合、いずれの検出用流路601aでも対極502は流れる方向に向かって流路の右側の側面に配置される。これにより、薬液又はエアの流れる方向にすべて同一形状の3電極配置が実現できる。作用極501及び対極502についても、断面で左右対称の位置に配置しない場合には、この参照極503と同じように隣り合う検出用流路601aにおいて左右逆転させた位置に配置されるようにできる。
【0103】
このように、同じ断面形状流路に薬液又はエアの流れる方向に沿ってそれぞれ1つずつ作用極501、対極502及び参照極503が3電極1組として設けられ、かつこれら3電極の位置関係が同じで流路形状も同じ構成となっている。作用極501から見れば、作用極501に対する流路底面、側面及び上面への距離、作用極501から対応する対極502、参照極503に対する位置関係が同じになっている。これにより、各3電極で検出される電気化学信号特性の均一性が向上する。その結果、検出の信頼性が向上する。
【0104】
ここでは、対極502、参照極503がそれぞれ対応する作用極501に対して分離された配置しているが、これに限定されるものではない。対極502もしくは参照極503が、あるいはそれらのいずれもが複数電極連結された構成となっていてもよい。その場合、それぞれの電極における各作用極から最も近傍の領域が対極や参照極として機能する。また、流路の断面形状は上述した図10(a)の構成に限定されない。
【0105】
次に、前述したチップ21及びプリント基板22の製造方法について図13の工程断面図に沿って説明する。シリコン基板211を洗浄した後、シリコン基板211を加熱し、シリコン基板211表面に熱酸化膜212を形成する。シリコン基板211の代わりにガラス基板を用いてもよい。次に、基板全面にTi膜213を例えば50nmの膜厚で、次いでAu膜214を例えば200nmの膜厚でスパッタリングにより形成する。ここで、Au膜214はその結晶面方位が<111>配向になっていることが好ましい。次に、後に電極や配線となる領域を保護するようにフォトレジスト膜210をパターニングし(図13(a))、Au膜214及びTi膜213膜をエッチングする(図13(b))。本実施形態ではAu膜214のエッチングにはKI/I2混合溶液を、TiのエッチングにはNH4OH/H2O2混合溶液を用いた。Au膜214のエッチングには、希釈した王水を用いる方法や、イオンミリングで除去する方法もある。Ti膜213のエッチングも、同様に、弗酸や、バッファード弗酸を用いてウェットエッチング処理する方法や、例えば、CF4/O2混合ガスによるプラズマを用いたドライエッチングによる方法も適用可能である。
【0106】
次に、フォトレジスト膜210を酸素アッシングにより除去する(図13(c))。フォトレジスト膜210の除去工程は、溶剤を用いたり、レジストストリッパを用いたり、また、これらと酸素アッシング工程を併用したりして行うことも可能である。
【0107】
次に、全面にフォトレジスト215を塗布し、電極部及びボンディングパッドを開口するようにパターニングする(図13(d))。その後、クリーンオーブン内で、例えば、200℃において、30分間ハードベイクを行う。ハードベイクの方法は、熱板を用いたり、また、処理条件も適宜変更可能である。ここでは、フォトレジスト膜215を保護膜として選択したが、フォトレジスト以外に、ポリイミド、BCB(ベンゾシクロブテン)等の有機膜を用いることも可能である。また、SiO、SiO2やSiNのような無機膜を保護膜に用いても良い。その場合、電極部を保護するようにフォトレジストを開口してSiO等を堆積し、リフトオフ法により、電極部以外の領域を保護したり、もしくは、全面にSiN等を形成した後、電極部のみを開口するようにフォトレジスト膜215をパターン形成し、エッチングにより電極上のSiN膜等を除去し、最後にフォトレジスト膜215を剥離することにより形成してもよい。
【0108】
次に、ダイシングを行うことによりチップ化する。最後に、電極部表面を清浄化するため、CF4/O2混合プラズマによる処理を行う。これにより、チップ21が得られる。そして、このチップ21を電気コネクタ22aが実装されたプリント基板22上にマウントする。そして、チップ21のボンディングパッドとプリント基板22上のリード配線とをワイヤボンディングにより接続する。その後、封止樹脂23を用いてワイヤボンディング部分を保護する。以上の工程により、チップ21を実装したプリント基板22を作製することができる。
【0109】
作製されたチップ21の上面図を図14に示す。図14に示すように、チップ表面の中央近傍には、作用極501が複数設けられている。また、作用極501が形成される領域は、破線で示されるシール材24aの形成領域に収まるようにして用いられる。また、チップ周辺部にはボンディングパッド221が配置される。そして、作用極501の各々は、ボンディングパッド221に配線222で接続される。なお、この図14では示していないが、ボンディングパッド221の形成された周辺部分は前述の封止樹脂23により封止される。
【0110】
次に、送液系13の具体的な構成の一例を図15を用いて説明する。この送液系13は、チップカートリッジ11の流路114a側に設けられた供給系統と、流路114b側に設けられた排出系統に大別される。配管404の最上流には、エア供給源401が接続されている。このエア供給源401の下流側には、エア以外の薬液などが配管404を介してエア供給源401に逆流するのを防止する逆止弁402が設けられ、さらに下流側には2方電磁弁403(Va)が設けられている。これにより配管404からチップカートリッジ11の方へ流れ込むエアの流量が制御される。
【0111】
配管414には、薬液の一つとしてのミリQ水を収容したミリQ水供給源411が接続されている。このミリQ水供給源411の下流側には、ミリQ水以外の薬液やエアなどがミリQ水供給源411に逆流するのを防止する逆止弁412が設けられ、さらに下流側には3方電磁弁413(Vwa)が設けられている。この3方電磁弁413により、配管404と配管415の連通と、配管414と配管415の連通の切替が行われる。すなわち、3方電磁弁413の非通電時には配管404を配管415に連通させ、通電時には配管414を配管415に連通させる。これにより、配管415へのエアとミリQ水の供給切替が行える。
【0112】
配管424には、薬液の一つとしてのバッファ(緩衝液)を収容したバッファ供給源421が接続されている。このバッファ供給源421の下流側には、バッファ以外の薬液やエアなどがバッファ供給源421に逆流するのを防止する逆止弁422が設けられ、さらに下流側には3方電磁弁423(Vba)が設けられている。この3方電磁弁423により、配管424と配管425の連通と、配管415と配管425の連通の切替が行われる。すなわち、3方電磁弁423の非通電時には配管415を配管425に連通させ、通電時には配管424を配管425に連通させる。これにより、配管425へのバッファの供給と、エアあるいはミリQ水の供給の切替が行える。
【0113】
配管434には、薬液の一つとしての挿入剤を収容した挿入剤供給源431が接続されている。この挿入剤供給源431の下流側には、挿入剤以外の薬液やエアなどが挿入剤供給源431に逆流するのを防止する逆止弁432が設けられ、さらに下流側には3方電磁弁433(Vin)が設けられている。この3方電磁弁433により、配管434と配管435の連通と、配管425と配管435の連通の切替が行われる。すなわち、3方電磁弁433の非通電時には配管425を配管435に連通させ、通電時には配管434を配管435に連通させる。これにより、配管435への挿入剤の供給と、エア、ミリQ水あるいはバッファの供給の切替が行える。
【0114】
以上、エアや薬液の供給系統において、2方電磁弁403及び3方電磁弁413,423及び433を制御することにより、配管435を介してチップカートリッジ11に供給されるエアや、ミリQ水、バッファ及び挿入剤などの薬液の供給の切替を行い、また供給されるエアやこれら薬液の流量を制御することができる。
【0115】
配管435の上流側は前述した3方電磁弁433が連通し、その下流側は3方電磁弁441(Vcbin)が連通している。3方電磁弁441により、配管435が配管440及びバイパス配管446に分岐させることができる。3方電磁弁441は、非通電時には配管435をバイパス配管446に連通させ、通電時には配管435を配管440に連通させる切替を行う。また、3方電磁弁445は、非通電時にはバイパス配管446を配管450に連通させ、通電時には配管440を配管450に連通させる切替を行う。これら3方電磁弁441及び445により、各種薬液やエアなどの供給をバイパス配管446及び配管440に切替えることができる。
【0116】
配管440には、3方電磁弁441から見て下流側に向かって順に2方電磁弁442(V1in)、チップカートリッジ11、液センサ443、2方電磁弁444(V1out)、3方電磁弁445(Vcbout)が設けられている。2方電磁弁442側には、チップカートリッジ11の送入系統に相当する流路114aが連通し、2方電磁弁444側には、チップカートリッジ11の送出系統に相当する流路114bが連通している。これにより、チップカートリッジ11の送入系統に配管440を介して薬液やエアなどが供給され、チップカートリッジ11の送出系統からこれら薬液やエアなどを排出することができる。また、2方電磁弁442及び444により、この送液及び吐液の経路における薬液やエアなどの流量を制御することができる。また、液センサ443により、チップカートリッジ11に流れ込み、あるいはチップカートリッジ11から排出される薬液の流量をモニタすることができる。
【0117】
配管450には、3方電磁弁445から見て下流側に向かって順に2方電磁弁451(Vvin)、減圧領域452、2方電磁弁453(Vout)、送液ポンプ454、3方電磁弁455(Vww)が設けられている。2方電磁弁451及び453は、減圧領域452前後の経路における薬液やエアの逆流を防止する。また、送液ポンプ454はチューブポンプからなり、チップカートリッジ11から見て送出側(下流側)の排出系統に設けられている点が特徴である。すなわち、チューブポンプを用いることにより、薬液がチューブ壁以外の機構に接しないため、汚染防止の観点から好ましい。また、チップカートリッジ11への薬液やエアの供給及び排出を吸引動作により行うことにより、チップカートリッジ11内部での薬液とエアの置換が潤滑に行うことができるのみならず、万一の場合として配管に緩みが生じたり、もしくはチップカートリッジ11が配管440から外れたりした場合にも、液漏れが生じない。これにより、装置設置の安全性が向上する。
【0118】
もちろん、ポンプをチップカートリッジ11上流側の配管に設け、このポンプによりチップカートリッジ11にエアや薬液を押し出す構成としてもよい。また、ポンプは、チューブポンプに限ることなく、シリンジポンプ、プランジャポンプ、ダイアフラムポンプ、マグネットポンプ等を用いることもできる。
【0119】
3方電磁弁455は、非通電時には配管450を配管461に連通させ、通電時には配管450を配管463に連通させるように切替を行う。配管461には廃液タンク462が設けられ、配管463には挿入剤廃液タンク464が設けられている。これにより、挿入剤以外のミリQ水、バッファなどの薬液を3方電磁弁455の切替により廃液タンク462に導き、挿入剤を挿入剤廃液タンク464に導くことができる。これにより、挿入剤を分別回収することが可能となる。
【0120】
なお、各電磁弁の間は、テフロンチューブ等の配管で接続してもよいが本実施形態では、チップカートリッジ11に対してその上流側と下流側でそれぞれ電磁弁と流路を一体型構造としたマニフォールド構造で構成している。これにより、配管内の容量が少なくなることから、必要な薬液量を大幅に削減できる。また、配管内における薬液流れが安定するため、検出結果の再現性や安定性が向上する。
【0121】
この図15に示す送液系13を用いた送液工程を図16のフローチャートを用いて説明する。まず、作用極501上に固定化された核酸プローブと試料とのハイブリダイゼーション反応をセル115内で実行させる(s21)。このハイブリダイゼーション反応の実行では、例えばチップカートリッジ11の底面、すなわちプリント基板22の底面が45℃程度となるように温度制御系14を制御し、例えば60分間保持する。
【0122】
このハイブリダイゼーション反応と並行して、薬液ラインの立ち上げを行う(s22)。具体的には、3方電磁弁441及び445を制御することによりバイパス配管446側を利用し、3方電磁弁433を通電させることで挿入剤供給源431から挿入剤を例えば10秒程度供給する。3方電磁弁455は通電させ、配管450からの挿入剤は挿入剤廃液タンク464に収容される。次いで、挿入剤とエアを交互に例えば5秒ずつ程度繰り返し配管435からバイパス配管446に導入する。次いで、エアのみを配管435からバイパス配管446に導入する。この段階で廃液タンク462に廃液切替を行う。そして、バッファをバッファ供給源421からバイパス配管446に導入する。その後、ミリQ水とエアを交互に例えば5秒ずつ程度繰り返し配管435からバイパス配管446に導入する。
【0123】
この薬液ラインの立ち上げが終了し、ハイブリダイゼーション反応が終了すると、配管内洗浄が行われる(s23)。配管内洗浄は、例えば温度制御系14によりプリント基板22の温度を25℃程度とした上で、ミリQ水でバイパス配管446をパージした後、エアとミリQ水を交互に例えば5秒ずつ程度繰り返し導入する。次に、チップカートリッジ内洗浄が行われる(s24)。チップカートリッジ内洗浄は、薬液導入経路をバイパス配管446から配管440に切り替え、エアとミリQ水を交互に例えば5秒ずつ程度繰り返し配管440に導入する。そして、液センサ443によりチップカートリッジ11内に水が充填されたことを確認した上で、導入経路をバイパス配管446に切り替える。
【0124】
次に、配管内バッファパージが行われる(s25)。配管内バッファパージでは、バッファとミリQ水が混合しないようにまずエアをバイパス配管446に導入する。次に、エアとバッファを交互に例えば5秒ずつ程度繰り返しバイパス配管446に導入する。そして、バイパス配管446に設けられた液センサ447によりバイパス配管446がバッファで置換されたことを確認する。次に、チップカートリッジ内バッファ注入が行われる(s26)。チップカートリッジ内バッファ注入では、まずバイパス配管446から配管440に切り替え、エアとバッファを交互に例えば5秒ずつ程度繰り返しチップカートリッジ11内に導入する。次に、チップカートリッジ11へのバッファ充填が行われる(s27)。バッファ充填では、液センサ443でチップカートリッジ11内の状態を監視しながらバッファをチップカートリッジ11に導入し、例えば60℃で30分間放置することにより、不要な試料の洗浄を行う(s28)。不要な試料の洗浄工程後、配管440からバイパス配管446に切り替え、ミリQ水を導入することにより配管内洗浄が行われる(s29)。この配管内洗浄では、さらにエアとミリQ水が交互に例えば5秒程度ずつ繰り返し導入される。
【0125】
次に、チップカートリッジ内洗浄が行われる(s30)。チップカートリッジ内洗浄では、バイパス配管446からチップカートリッジ11に切り替えられ、エアと水が交互に例えば5秒程度ずつ繰り返し導入される。その後、液センサ443によりチップカートリッジ11内にミリQ水が充填されたことを確認した上でバイパス配管446に切り替えられる。次に、測定が開始される。測定では、まず配管内挿入剤パージが行われる(s31)。この配管内挿入剤パージでは、バイパス配管446にエアを導入しながら廃液を挿入剤廃液タンク464に切り替える。次に、エアと挿入剤を交互に例えば5秒程度ずつ繰り返しバイパス配管446に供給した後、バイパス配管446が挿入剤で置換されたかを液センサ447を用いて検出する。
【0126】
次に、チップカートリッジ11内挿入剤注入が行われる(s32)。この工程では、先ずバイパス配管446からチップカートリッジ11側に切り替えられた後、エアと挿入剤が交互に例えば5秒ずつ程度繰り返し導入される。次に、液センサ443での監視の下、チップカートリッジ11への挿入剤充填が行われる(s33)。その後測定が行われる(s34)。測定が終了すると、バイパス配管446にミリQ水を導入し、次いでエアとミリQ水を交互に例えば5秒程度ずつ導入した後エアで置換して配管内洗浄が行われる(s35)。
【0127】
最後に、バイパス配管446からチップカートリッジ11に置換してエアとミリQ水を交互に例えば5秒程度ずつ導入し、チップカートリッジ11内をさらにエアで置換してチップカートリッジ内洗浄が行われ(s36)、一連の送液工程が終了する。
【0128】
このように、図15の送液系13を用いた図16に示した工程によれば、薬液の置換を効率的に行うため、薬液/エア/薬液/エアというように、配管内をエアと薬液が交互に流れるシーケンスを作って送液することができる。このような送液方法とすることにより、薬液交換において、古い薬液と新しい薬液の混合を最小限にすることが可能である。その結果、液交換の遷移状態が減り、最終的な電気化学特性の再現性を向上することができる。更に、薬液交換の効率化による、送液時間の短縮・薬液量の削減を実現することが出来る。また、このような薬液/エアシーケンス送液により、反応セル115内の薬液濃度を常に一定に保つことが出来るので、電流特性の面内均一性が向上、即ち検出の信頼性が向上する。
【0129】
また、セル115内への薬液充填の方法として、チップカートリッジ出口バルブとしての2方電磁弁444を閉じた状態で、チップカートリッジ下流側の配管440内を減圧状態にして(ポンプ454を動作させた状態で、2方電磁弁451を制御することにより、減圧領域452を減圧してから2方電磁弁453を制御して、減圧領域452の減圧状態を保つ)から、2方電磁弁444を開けることにより、チップカートリッジ反応セル115内に薬液を導入することができる。なお、この図16に示した送液のタイミングはほんの一例にすぎず、測定の目的、対象、条件などに応じて種々変更することができる。
【0130】
図17は、測定系12の具体的な構成を示す図である。この図17に示す測定系12は、対極502の入力に対して参照極503の電圧をフィードバック(負帰還)させることにより、セル115内の電極や溶液などの各種条件の変動によらずに溶液中に所望の電圧を印加する3電極方式のポテンシオ・スタット12aである。より具体的には、ポテンシオ・スタット12aは、作用極501に対する参照極503の電圧をある所定の特性に設定されるように対極502の電圧を変化させ、挿入剤の酸化電流を電気化学的に測定する。作用極501は、標的核酸とは相補的な標的核酸を有する核酸プローブが固定化される電極であり、セル115内の反応電流を検出する電極である。対極502は、作用極501との間に所定の電圧を印加してセル115内に電流を供給する電極である。参照極503は、参照極503と作用極501との間の電圧を所定の電圧特性に制御すべく、その電極電圧を対極502にフィードバックさせる電極であり、これにより対極502による電圧が制御され、セル115内の各種検出条件に左右されない精度の高い酸化電流検出が行える。電極間を流れる電流を検出するための電圧パターンを発生させる電圧パターン発生回路510が配線512bを介して参照極503の参照電圧制御用の反転増幅器512(OPc)の反転入力端子に接続されている。
【0131】
電圧パターン発生回路510は、制御機構15から入力されるデジタル信号をアナログ信号に変換して電圧パターンを発生させる回路であり、DA変換器を備える。配線512bには抵抗Rsが接続されている。反転増幅器512の非反転入力端子は接地され、出力端子には配線502aが接続されている。反転増幅器512の反転入力端子側の配線512bと出力端子側の配線502aは配線512aで接続されている。この配線512aには、フィードバック抵抗Rff及びスイッチSWfからなる保護回路500が設けられている。配線502aは端子Cに接続されている。端子Cは、チップ21上の対極502に接続されている。対極502が複数設けられている場合には、各々に対して並列に端子Cが接続される。これにより、1つの電圧パターンにより複数の対極502に同時に電圧を印加することができる。配線502aには、端子Cへの電圧印加のオンオフ制御を行うスイッチSW0が設けられている。
【0132】
反転増幅器512に設けられた保護回路500により、対極502に過剰な電圧がかからないような構成となっている。従って、測定時に過剰な電圧が印加され、溶液が電気分解されてしまうことにより、所望の挿入剤の酸化電流検出に影響を及ぼすことが無く、安定した測定が可能となる。端子Rは配線503aにより電圧フォロア増幅器513(OPr)の非反転入力端子に接続されている。電圧フォロア増幅器の反転入力端子は、その出力端子に接続された配線513bと配線513aにより短絡している。配線513bには抵抗Rfが設けられており、配線512bの抵抗と、配線512aと配線512bの交点との間に接続されている。これにより、電圧パターン発生回路510により生成される電圧パターンに、参照極503の電圧をフィードバックさせた電圧を反転増幅器512に入力させ、そのような電圧を反転増幅した出力に基づき対極502の電圧を制御する。
【0133】
端子Wは配線501aによりトランス・インピーダンス増幅器511(OPw)の反転入力端子に接続されている。トランス・インピーダンス増幅器511の非反転入力端子は接地され、その出力端子に接続された配線511bと配線501aとは配線511aにより接続されている。配線511aには抵抗Rwが設けられている。このトランス・インピーダンス増幅器511の出力側の端子Oの電圧をVw、電流をIwとすると、Vw=Iw・Rwとなる。この端子Oから得られる電気化学信号は制御機構15に出力される。作用極501は複数あるため、端子W及び端子Oは作用極501のそれぞれに対応して複数設けられる。複数の端子Oからの出力は後述する信号切替部により切り替えられ、AD変換されることにより各作用極501からの電気化学信号をデジタル値としてほぼ同時に取得することができる。なお、端子W及び端子Oの間のトランス・インピーダンス増幅器511などの回路は、複数の作用極501で共有してもよい。この場合、配線501aに複数の端子Wからの配線を切り替えるための信号切替部を備えればよい。
【0134】
この図17のポテンシオ・スタット12aを用いた測定系12の効果を従来のポテンシオ・スタットを用いた場合と比較して説明する。従来のポテンシオ・スタットを図18に示す。図18に示すように、従来のポテンシオ・スタット12a’の構成は、図17の示すポテンシオ・スタット12aとほぼ共通する。異なるのは、反転増幅器512に保護回路500が設けられていない点である。電圧パターン発生回路510の出力端子Iにおける電圧をVrefin、端子Cにおける電圧をVc、端子Rの電圧をVrefoutとする。参照極503のフィードバックにより、Vrefout=Rf/Rs・Vrefinが成立する。
【0135】
次に、測定データに基づきコンピュータ16により信号解析を行う測定データ解析手法の一例を説明する。ここでは、標的核酸のSNP位置の塩基がG型(ホモ型)か、T型(ホモ型)か、あるいはGT型(ヘテロ型)かを判定する遺伝子型判定の解析手法を図19のフローチャートを用いて説明する。なお、図5では特に示していないが、コンピュータ16のメインプロセッサ16aは、遺伝子型判定フィルタリング、遺伝子型判定処理、判定結果出力などを行うための複数の指令からなる解析プログラムを実行することにより、型判定フィルタリング、型判定処理、判定結果出力を実行する。また、前述した制御機構15の制御は、別途制御プログラムが設けられている。これら解析プログラムや制御プログラムは、コンピュータ16に設けられた記録媒体読取装置が記録媒体に格納された解析プログラムを読み取ることにより実行されてもよいし、コンピュータ16に設けられた磁気ディスクなどの記憶装置から読み出されて実行されてもよい。
【0136】
この測定データ解析を行う前提として、4塩基置換型のSNPを例として説明すると、まず、検出の目的とされる標的核酸をSNP位置の塩基をA,G,C,Tとして4種類用意し、その標的核酸と相補的な塩基配列を有する核酸プローブを各種類について複数ずつ各作用極501に固定化させる。また、これら4種類の核酸プローブとは異なる塩基配列を有する核酸プローブ(以下、ネガティブコントロールと称する)を別の作用極501に複数固定化させる(s61)。なお、一つの作用極501に固定化される核酸プローブの種類は原則1つである。
【0137】
次に、上述した核酸プローブが固定化されたチップに検体標的核酸を含む試料を注入してハイブリダイゼーション反応などを生じさせ(s62)、バッファによる洗浄、挿入剤の導入による電気化学反応を経て測定系12を用いて代表電流値を算出する(s63)。代表電流値とは、各核酸プローブのハイブリダイゼーション反応の発生を定量的に把握するために有効な数値を指し、一例としては、検出される信号の電流値の最大値(ピーク電流値)などが該当する。ピーク電流値の算出は、各作用極501上に固定化された核酸プローブにハイブリダイゼーションした2本鎖核酸に結合した挿入剤からの酸化電流信号を測定し、その電流値のピークを得ることで導出される。ピーク電流値の検出には、挿入剤からの酸化電流信号以外のバックグラウンド電流を差し引くことにより行うのが望ましい。もちろん、信号処理の精度や目的に応じていかなる値を代表電流値と定めてもよいが、例えば酸化電流信号の積分値などが該当する。もちろん、電流値に限らず、電圧値、これら電流や電圧に対して数値解析処理を行った値などを代表値と定めることもできる。
【0138】
SNP位置の塩基をA,G,C,T型とした標的核酸に関する測定データ、すなわち代表電流値をそれぞれXa、Xg、Xc、Xtと定義し、ネガティブコントロールの核酸プローブの代表電流値をXnと定義する。また、代表電流値は、各種別に応じて複数得られるので、それぞれを互いに識別すべく、1番目のXaをXa1、2番目のXaをXa2、…というように定義する。また、SNP位置の塩基をA,G,C,T型とした標的核酸の得られる代表電流値の個数をna、ng、nc、nt個、ネガティブコントロールについて得られる代表電流値の個数をnn個と定義する。
【0139】
次に、得られた代表電流値Xa、Xg、Xc、Xt、Xnのうち、明らかに異常なデータを除去すべく、型判定フィルタリング処理を実行する(s64)。この型判定フィルタリング処理のフローチャートを図20に示す。この図20の型判定フィルタリング処理は、Xa、Xg、Xc、Xt、Xnについてそれぞれ別個に行われる。例えばXaを例にとると、Xaについて得られたna個の代表電流値のうち、明らかに異常なデータと思われる代表電流値をこの型判定フィルタリングで排除する。Xg、Xc、Xt、Xnについても同様に行われる。なお、この図20の説明では、データ種別に応じて同様の処理が行われるため、Xaのフィルタリングを例に説明する。具体的には、図20に示すように、まず測定グループまず測定グループの全測定データの設定、すなわちデータセットの設定を行う(s81)。例えばXaであれば、Xa1、Xa2、…、Xanaをデータセットとして設定する。
【0140】
次に、これら測定データXa1、Xa2、…、XanaについてのCV値(以下、CV0)を算出する(s82)。このCV0は、測定データXa1、Xa2、…、Xanaの標準偏差を平均値で除算することにより得られる。そして、得られた値CV0が10%、すなわち0.1以上か否かを判定する(s83)。10%以上であれば、測定データのうち最小値を除いたna−1個のデータセットのCV値(以下、CV1)を算出する(s84)。10%未満であれば、明らかに異常なデータは無いと判定し、後述する型判定に進む。CV1を算出した後、CV0≧2×CV1か否かを判定する(s85)。この不等式が成立すれば、(s86)に進み、さらに測定データのうち最小値を除いたna−2個のデータセットを新たにデータセットと定義し、(s82)に戻り、異常データのフィルタリングを繰り返し行う。不等式が成立しなければ、最小値側ではなく最大値側に異常なデータがあると判定し、測定データのうち最大値を除いたna−2個のデータセットのCV値(以下、CV2)を算出する(s87)。そして、CV0≧2×CV2が成立するか否かを判定する(s88)。成立すれば、さらに測定データのうち最大値を除いたna−3個のデータセットを新たにデータセットと定義し、(s82)に戻り、異常データのフィルタリングを繰り返し行う。成立しなければ、明らかに異常なデータは無いと判定し、後述する型判定に進む。以上に示した型判定フィルタリングをXg、Xc、Xt、Xnについても行う。
【0141】
次に、得られた型判定フィルタリング結果を用いて型判定処理を実行する(s65)。この型判定処理の一例を図21のフローチャートを用いて説明する。なお、図21の例では、標的核酸のSNP位置の塩基がG型か、T型か、あるいはGT型かを判定する型判定の場合を示している。また、この型判定処理は、大別して最大グループ判定アルゴリズム、2標本t検定アルゴリズムからなる。図21に示すように、まず各グループ毎の代表電流値の平均値を抽出する(s91)。グループとは、Xa、Xg、Xc、Xt、Xnなど、標的核酸が異なるものは別グループ、標的核酸が一致するものは同一グループとする。(s64)で型判定フィルタリングにより明らかに異常なデータが排除された測定データが抽出される。もちろん、(s64)の型判定フィルタリング以外のフィルタリングにより以上データを排除した測定データを抽出してもよいし、何らフィルタリングを行わない測定データを抽出してもよい。なお、代表電流値の平均値ではなく、これら統計値から統計処理して得られた別の統計処理値を求めてもよい。標的核酸のSNP位置の塩基がA,G,C,Tの場合をそれぞれグループA〜T、ネガティブコントロールをグループNとして説明する。また、得られた平均値をXa、Xg、Xc、Xt、Xnそれぞれのグループについて、Ma、Mg、Mc、Mt、Mnとする。
【0142】
次に、得られた平均値Ma、Mg、Mc、Mt、Mnについて、最大はグループGの平均値Mgか否かを判定する(s92)。最大であれば(s93)へ、最大でなければ(s97)に進む。(s97)では、平均値Ma、Mg、Mc、Mt、Mnについて、最大はグループTの平均値Mtか否かを判定する。最大であれば(s98)へ、最大でなければグループG、Tともに最大でないこととなり、判定不能として再検査が行われる。(s93)では、グループGの測定データXg1、Xg2、…と、グループNの測定データXn1、Xn2、…との間に差があるか否かを判定する。差があるか否かは、例えば2標本t検定が用いられる。具体的には、2標本T検定で求めた確率Pと有意水準αとの代表関係を比較し、
H0:P≧αならば、有意差無し(帰無仮説)
H1:P<αならば、有意差あり(対立仮説)
と判定する。有意水準αは、コンピュータ16を用いてユーザが設定できる。この(s93)の例では、グループGの測定データとグループNの測定データの値に差があるかというH1の設問を提起し、この設問に対し、これら2つのグループの間に差が無いと仮定するH0という仮説を設定する。そして、グループGの測定データの平均値MgとグループNの測定データの平均値Mnに2つのグループの差が要約されているとして、確率を求める。確率の算出は、グループGの統計値Xg1、Xg2、…とグループNの統計値Xn1,Xn2、…に基づき統計定数t、自由度φを算出し、t分布の確率密度変数の積分値から確率Pを求める。得られた確率Pについて、P≧αなら、H0を棄却できず、判定を保留する。すなわち、差が無いと判定する。P<αならH0を棄却し仮説H1を採用し、差があると判定する。このようにして判定結果が「差がある」と判定された場合には(s94)に進み、「差が無い」と判定された場合には判定不能として再検査される。
【0143】
(s94)では、グループGとグループAについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があれば(s95)に進み、差が無ければ判定不能として再検査される。(s95)では、グループGとグループCについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があれば(s96)に進み、差が無ければ判定不能として再検査される。(s96)では、グループGとグループTについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があればグループG型と決定する。グループG型が平均値最大、かつ他の測定グループと差があるためである。差が無ければグループGT型と決定する。グループG型が平均値最大であるが、グループG型とグループT型に測定結果に差が無いからである。(s98)では、グループTとグループNについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があれば(s99)に進み、差が無ければ判定不能として再検査される。(s99)では、グループTとグループAについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があれば(s100)に進み、差が無ければ判定不能として再検査される。(s100)では、グループTとグループCについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があれば(s101)に進み、差が無ければ判定不能として再検査される。(s101)では、グループTとグループGについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があればグループT型と決定する。グループT型が平均値最大、かつ他の測定グループと差があるためである。差が無ければグループGT型と決定する。グループT型が平均値最大であるが、グループT型とグループG型に測定結果に差が無いからである。
【0144】
以上の判定結果はコンピュータ16に設けられた図示しない表示装置に表示される(s66)。このような型判定アルゴリズムを用いることにより、ヘテロ型の判定をすることが可能となる。
【0145】
なお、図19〜図21では、G型、T型あるいはGT型のいずれに該当するかを判定する手法を示したが、A型,G型,C型,T型のうちのいずれか2つの型、あるいはそれらのヘテロの判定に適用できることはもちろんである。また、必ずしもA型,G型,C型,T型のグループの4種類について測定データを取得する必要は無く、SNPの考えられ得る2つの塩基に関する2グループのみについて取得するのみでもよいし、その2グループにネガティブコントロールの1グループを加えてもよい。
【0146】
前述した個体識別検査装置を用いた個体識別の自動解析手法について図22のシーケンス図を用いて説明する。図22に示すように、まずコンピュータ16を用いて自動解析のための自動解析条件パラメータの設定を行い、設定された自動解析条件パラメータに基づく自動解析の実行をコンピュータ16にユーザが指示する(s301)。自動解析条件パラメータは、制御機構15を制御するための制御パラメータである。制御機構15で用いられる制御パラメータは、測定系12を制御するための測定系制御パラメータ、送液系13を制御するための送液系制御パラメータ、温度制御系14を制御するための温度制御系制御パラメータからなる。測定系制御パラメータは入力設定パラメータであり、初期値、刻み値、終了値、測定時間間隔、動作モードからなる。
【0147】
送液系制御パラメータは、図15に示す電磁弁403,413,423,433,441,442,444,445,451,453,463を制御する電磁弁制御パラメータ、液センサ443,447を制御するセンサ制御パラメータ、ポンプ454を制御するポンプ制御パラメータを有する。これら電磁弁制御パラメータ、センサ制御パラメータ、ポンプ制御パラメータは、図16の(s22)〜(s36)に示すような一連の工程をシーケンシャルに実行するための条件として、制御対象の制御量、制御対象の制御タイミング、制御対象を制御する制御条件などをパラメータの詳細として含む。
【0148】
温度制御パラメータは、原則として送液系制御パラメータに付随して与えられるものである。すなわち、送液系制御パラメータを設定することにより、送液系13の動作に対応して温度制御パラメータが設定される。これにより、送液系13と連動した温度制御系14の温度制御が可能になる。
【0149】
自動解析の実行により、自動解析条件パラメータは、制御機構15に送信される(s302)。制御機構15は、受信した自動解析条件パラメータのうち、測定系制御パラメータに基づき測定系12を制御し、送液系制御パラメータに基づき送液系13を制御し、温度制御系制御パラメータに基づき温度制御系14を制御する。また、制御機構15はこれら測定系12,送液系13及び温度制御系14を制御するタイミングを各制御パラメータに含まれる制御タイミングや制御条件に基づき管理する。従って、制御のシーケンスはユーザにより設定された自動解析条件パラメータにより自由に定められるが、この図22では代表的な一例について説明する。
【0150】
なお、この自動解析とは別に、ユーザはチップカートリッジ11を用意する。これはまず所望の核酸プローブが作用極501に固定化された個体識別チップ21が封止されたプリント基板22を基板固定ねじ25によりチップカートリッジ11の支持体111に固定化し、チップカートリッジ11への取り付けを行っている(s401)。そして、上蓋固定ねじ117によりシール材24aが一体化されたチップカートリッジ上蓋112と支持体111を固定化し、セル115が形成された状態で準備されている(s402)。チップカートリッジ11に対して、試料注入口119から試料を注入する(s403)。チップカートリッジ11を装置本体に装着して、開始操作を行うことにより、ハイブリダイゼーション反応(s21)が開始される。なお、注入する試料の容量は、セル115の容積よりも若干多い量にするのが望ましい。これにより、セル115内をエア残り無く試料で完全に充填することができる。
【0151】
制御機構15は、コンピュータ16から受信した測定系制御パラメータに基づき測定系のタイミングの制御を開始する(s303)。また、制御機構15は、コンピュータ16から受信した送液系制御パラメータに基づき送液系13の各構成要素を順次制御する(s304)。また、図22では特に図示しないが、この送液系13の制御と連動して、温度制御系制御パラメータに基づき温度制御系14の温度制御を行う。この制御により、送液系13は図16の(s21)〜(s36)(s34を除く)に示したハイブリダイゼーション反応を含む送液工程を自動実行する(s305)とともに、その送液工程で指定された温度に個体識別チップ21が設定されるように温度制御系14を自動制御する。制御機構15は、この送液工程の中途の(s34)の測定工程のタイミングに同期して測定系12に測定指令を行う(s305)。すなわち、送液工程の(s34)の測定工程のタイミングで、制御機構15の初期値レジスタ151、刻み値レジスタ152、終了値レジスタ153、インターバルレジスタ154及び動作設定レジスタ155に初期値、刻み値、終了値、測定時間間隔、動作設定モードを格納する。なお、前述の(s303)の測定系タイミング制御をこの(s305)と同時に行わせてもよい。
【0152】
測定系12は、この測定指令に基づき例えば電圧パターンを発生させて測定を行い(s306)、得られた測定信号は端子Oから制御機構15に出力される(s307)。制御機構15は、受信した測定信号を信号処理し、測定データとしてデータメモリ15bに格納する(s308)。この測定データは、コンピュータ16にローカルバス17を介して出力される(s309)。コンピュータ16はこの測定データを受信する(s310)。
【0153】
このようにして必要な測定データが得られると、コンピュータ16は測定データに基づき図20で示される(s64)の型判定フィルタリングを実行する。型判定フィルタリングが終了すると、フィルタリングされたデータに基づき図21に示される型判定処理を実行する(s65)。そして、得られた判定処理結果をコンピュータ16に備え付けの表示装置に表示する(s66)。
【0154】
以上の型判定を、識別されるべき個体と、試料のそれぞれについて行い、その結果のデータがコンピュータ16に保存される。コンピュータ16は、それらの結果を比較し、一致するか否かを判定する。また、予め入力されたアレル頻度、遺伝子型頻度のデータから、判定結果の信頼度を決定し、判定結果とともに表示してもよい。
【0155】
なお、コンピュータ16と制御機構15の処理の分担は上述したものに限定されない。例えば、測定系12、送液系13、温度制御系14がコンピュータ16からの指令を解釈し各構成要素を実行するプロセッサを有していれば、制御機構15は省略されてもよい。
【0156】
測定系12、送液系13、温度制御系14のタイミングの管理は、これら測定系12、送液系13、温度制御系14がタイミングを管理するプロセッサを有していれば、そのプロセッサの管理するタイミングに基づき各処理を実行する。この場合、コンピュータ16はこれら測定系12、送液系13,温度制御系14に自動解析条件パラメータを送信すれば、タイミングを管理する必要が無い。また、コンピュータ16が測定系12、送液系13,温度制御系14、制御機構15のタイミング制御を行ってもよい。
【0157】
また、試料注入口119は送出ポート116bに連通させる例を示したが、送入ポート116aに連通させるようにしてもよい。また、個体識別チップ21上の作用極501やボンディングパッド221はTiやAuの積層構造で示したが、他の材料を用いた電極やパッドを用いてもよい。また、作用極501の配置は図14に示したものに限定されない。作用極501、対極502、参照極503の各々の電極数も図示したものに限定されない。
【0158】
また、送液系13は図15に示したものに限定されない。例えば、反応の種類に応じてエア、ミリQ水、バッファ、挿入剤以外の薬液や気体を供給する供給系を付加することにより、セル115内におけるより複雑な反応を実行させることができる。また、各配管同士の薬液やエアの供給経路、供給量の制御は、電磁弁以外で行ってもよい。図16に示した送液系13の動作はほんの一例にすぎず、反応の目的などに応じて種々変更することができる。
【0159】
また、流路601a〜601dは図9(b)に示したような配置に限定されない。例えば検出用流路601aがセル孔部115aと115bを結んだ直線に平行に配列されるようにしてもよいし、各流路601a〜601dは直線ではなく曲線状の流路であってもよい。更に、送入ポート116a及び送出ポート116bが、セル底面に対して垂直に伸びている例を示したが、これに限定されるものではなく、セル底面に対して平行に伸びる構成になっていてもよい。
【0160】
以上記載した本発明の実施態様に拠れば個体識別検査とその結果の判定を自動で実行することができる。
【実施例】
【0161】
表1に、選択された1塩基多型の例を表す。それぞれの1塩基多型に対して、アジア人(中国人または日本人)をサンプルとした場合における、各塩基の頻度(Allele frequency)及び、遺伝子型頻度(Genotype frequency)が記載されている。
【0162】
また、表2に、表1の各遺伝子型頻度から算出されたヘテロ型頻度(estimated heterozygosity)と、各遺伝子型(C/C、T/T、C/T)の中で最も大きい頻度(Max value)、最も小さい頻度(Minimum value)、及び、それらの逆数による識別能(power of identification)(何人に一人と言うことができるか)を表した。それぞれの識別能の最下段は、各識別能を乗算したものである。従って、表1の22個のSNPについては、最も頻度の高い組み合わせであっても約8.38×106人(約838万人)に一人、最も頻度の低い組み合わせであれば、5.22×1019人に一人が同じ遺伝子型を有するということが分かる。
【表1】
【0163】
【表2】
【0164】
なお、本発明の詳細な説明において、遺伝子型の組み合わせが存在する確率を算出する方法として、遺伝子型の頻度を乗算した後に逆数を取ると記載した。しかし、本実施例のように各SNPについて遺伝子型の逆数を識別能として予め算出しておき、後から乗算してもよい。
【0165】
次に、上記の表に示したSNPのうち、任意のSNPを5つ選択し、該SNPを検出するための核酸プローブを電極に固定したアレイを作製した。表3に用いた核酸プローブの配列を示す。
【表3】
【0166】
各核酸プローブ(30ug/mL)、NaCl (400mM)を含む溶液をアレイの電極上にスポットし、1時間静置した。その後、蒸留水で洗浄し、風乾させ、核酸固定化チップとした。
【0167】
標的核酸はPCRで増幅される領域を合成し、それをモデルサンプルとして使用した。表4に、標的核酸として用いた合成オリゴの配列を示す。
【表4−1】
【0168】
【表4−2】
表4に示す各合成核酸を1×1014copy/mL となるように2×SSC溶液に溶解し、標的核酸溶液とした。表4に示した合成核酸のうち、多型部位においてGを含む核酸をサンプル1とし、多型部位においてAを含む核酸をサンプル2として調製した。調製した標的核酸溶液50μLに作製したアレイを浸漬し、アレイ上の核酸プローブと標的核酸溶液中の標的核酸とをハイブリダイズさせた。0.2×SSC溶液(35℃)に40分間浸漬し、非特異的に結合している標的核酸を洗浄した。超純水で水洗後に風乾した。Hoechst 33258 (50uM) を20mMリン酸緩衝液(100mM NaCl)に溶解し、この溶液に風乾したチップを浸漬し、5分後に電気化学的測定を行った。Hoechst33258の酸化ピークの高さを検出し、ピーク電流値とした。
【0169】
各電極から得られたピーク電流値を図23に示した。図23(a)は、サンプル1の試験結果である。サンプル1は明らかに全てC/Cホモ型を示した。よって、表1の値から、この遺伝子型を有する個体は696人に一人存在するという判定が可能となる。
【0170】
一方、図23(b)に示したサンプル2は、全てT/Tホモを示しており、表1の値から5979人に一人という判定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】2塩基置換型のSNPのアレル頻度と遺伝子型頻度との関係図。
【図2】3塩基置換型のSNPのアレル頻度と遺伝子型頻度との関係図。
【図3】4塩基置換型のSNPのアレル頻度と遺伝子型頻度との関係図。
【図4】存在確率算出の例を示した図。
【図5】本発明の第1実施形態に係る個体識別検査システムの全体構成を示す概念図。
【図6】同実施形態に係るチップカートリッジの構成の詳細を示す図。
【図7】同実施形態に係る上蓋固定ねじで固定する前の支持体とチップカートリッジ上蓋を示す図。
【図8】同実施形態に係る個体識別チップを実装したプリント基板の詳細な構成を示す図。
【図9】同実施形態に係るセル及びセルに通じる薬液供給系統を示す図。
【図10】同実施形態に係るセル近傍の各構成要素のより詳細な構成を示す図。
【図11】同実施形態に係るセルの上面図。
【図12】同実施形態に係るセルの変形例の上面図。
【図13】同実施形態に係る個体識別チップ及びプリント基板の製造方法の工程断面図。
【図14】同実施形態に係る個体識別チップの上面図。
【図15】同実施形態に係る送液系の具体的な構成の一例を示す図。
【図16】同実施形態に係る送液系を用いた個体識別検査のための送液工程のフローチャートを示す図。
【図17】同実施形態に係る測定系の具体的な構成を示す図。
【図18】従来のポテンシオ・スタットの構成を示す図。
【図19】同実施形態に係る測定データ解析手法の一例を示す図。
【図20】同実施形態に係る型判定フィルタリング処理のフローチャートを示す図。
【図21】同実施形態に係る型判定処理の一例を示す図。
【図22】同実施形態に係る個体識別検査装置を用いた個体識別の自動解析手法のシーケンス図。
【図23】遺伝子型の検出例の測定結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0172】
1…個体識別検査システム、10…測定ユニット、11…チップカートリッジ、12…測定系、12a,12b,12c,12d,12e…ポテンシオ・スタット、13…送液系、14…温度制御系、15…制御機構、16…コンピュータ、17…ローカルバス、21…個体識別検査チップ、22…プリント基板、22a…電気コネクタ、23…封止樹脂、24a,24b…シール材、25…基板固定ねじ、110…チップカートリッジ本体、111…支持体、112…チップカートリッジ上蓋、112a…流路状凸部、113a,113b…インタフェース部、114a,114b…流路、115…セル、115a,115b…セル孔部、115c,115e,115f,115g,115h…直線、115d…ザグリ孔、116a…送入ポート、116b…送出ポート、117…上蓋固定ねじ、117a…ねじ孔、119…試料注入口、120…蓋、121…シール材、500…保護回路、501…作用極、502…対極、503…参照、510…電圧パターン発生回路、601…流路、601a…検出用流路、601b,601c…ポート接続流路、601d…流路接続流路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA配列情報を用いて個体を識別する方法に関し、さらに個体識別検査のためのアレイ、装置及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムの塩基配列がほぼ解読されたことによって、個人間、人種間で差異のある配列、またその頻度が明確になってきた。個人間での差異は、医療分野において薬物の効果又は副作用との関連を解明するための研究に利用されている。
【0003】
ゲノム塩基配列の相違は、犯罪捜査等における個人認証にも利用されている。現在、個人認証に用いられている主な方法は、DNA配列上のShort Tandem Repeat (STR), Variable Number of Tandem Repeat (VNTR)などに代表される繰り返し配列の繰り返し回数の相違に基づいた方法である。例えば、平成15年から警察で採用されている方法は、STR9箇所、VNTR1箇所の領域をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅し、キャピラリ電気泳動法に供してその移動度から繰り返し回数を決定する方法である。
【0004】
しかしながら、STR、VNTR等の配列は、数塩基単位の一定の配列が繰り返し表れるものであり、上記10箇所については、その繰り返し配列の全長が、30〜600bp程度となる。この繰り返し回数を測定するためには、検査対象の試料中に目的の領域が切断されることなく保存されている必要がある。しかしながら、犯罪捜査等の試料採取現場に残された体液や血痕等、または、火事、爆発、事故等の大惨事の現場に残された試料等は、劣化していることが容易に想定される。そのような場合、DNA配列が断片化されて、目的の領域全てが保存されていない可能性がある。このように、比較的長い配列が必要である繰り返し配列による識別法では測定が困難な場合があるという課題があり、従って、検出に必要なDNA領域は可能な限り短い方が好ましい。
【0005】
そこで、近年解明が進められている一塩基多型を個体識別に用いる方法が考えられる。例えば特許文献1には、個人識別のために、マイクロアレイのDNAプローブに一塩基多型を用いることが可能であると記載されている。しかしながら、その具体的な方法については開示されていない。また、非特許文献1には、韓国人集団において個人の同定及び親子鑑定等に用いることが可能な24個の一塩基多型について開示されている。
しかしながら、現在判明している一塩基多型だけでも膨大な数に上り、その全てについて検査することは現実的ではない。しかし、何れの一塩基多型を検査すべきであるかについては、現在のところ有力な判断基準は存在していない。
【特許文献1】特開2004−239766号公報
【非特許文献1】Lee HY, et. al. ; Selection of twenty-four highly informative SNP markers for human identification and paternity analysis in Koreans. ; Forensic Aci Int. 2005 Mar 10 ; 148(2-3):107-12.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題に鑑み、本発明は、個体の識別に有利な一塩基多型を選択することによって、簡便且つ迅速な個体識別を可能とする方法を提供することを目的とする。また、個体識別検査に用いるためのアレイ、検査装置、及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に拠れば、個体が有する核酸配列と、試料とする核酸配列との一致を判定する個体識別方法において、識別されるべき対象個体が属する集団に存在する一塩基多型群から、複数の一塩基多型を選択する工程と、前記対象個体が有する核酸配列、及び試料由来の核酸配列中の、前記選択された複数の一塩基多型における遺伝子型を決定して、それらを比較する工程とを具備し、前記選択する工程においては、下記(i)〜(iii)の条件の何れか一つを満たす一塩基多型を選択することを特徴とする、個体識別方法が提供される:
(i)2塩基置換型の一塩基多型において、取り得る2つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX及びYとし、X+Y=1、Y≦Xとしたとき、
0.5≦X≦0.7 である;
(ii)3塩基置換型の一塩基多型において、取り得る3つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y及びZとし、X+Y+Z=1、Z≦Y≦Xとしたとき、
1/3≦X 且つ (1-X)/2≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3であるか又は(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9である;及び
(iii)4塩基置換型の一塩基多型において、取り得る4つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y、Z及びWとし、X+Y+Z+W=1、W≦Z≦Y≦Xとしたとき、
1/4≦X 且つ (1-X)/3≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3であるか又は(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9である。
【0008】
ここで、前記Xは、好ましくは0.55≦X<0.7であり、より好ましくは0.6≦X<0.7であり、さらに好ましくは0.65≦X≦0.68である。
【0009】
また、本発明の他の側面に従えば、個体が有する核酸配列と、試料とする核酸配列との一致を判定する個体識別検査に用いるための、核酸プローブが基体に固定されたアレイにおいて、該核酸プローブが、一塩基多型を含む標的配列と相補的な配列を有することを特徴とし、該一塩基多型が、識別されるべき対象個体が属する集団に存在する一塩基多型群から、下記(i)〜(iii)の条件の何れか一つを満たすものであることを特徴とするアレイが提供される:
(i)2塩基置換型の一塩基多型において、取り得る2つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX及びYとし、X+Y=1、Y≦Xとしたとき、
0.5≦X≦0.7 であること;
(ii)3塩基置換型の一塩基多型において、取り得る3つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y及びZとし、X+Y+Z=1、Z≦Y≦Xとしたとき、
1/3≦X 且つ (1-X)/2≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3
であるか又は
(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9であること;及び
(iii)4塩基置換型の一塩基多型において、取り得る4つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y、Z及びWとし、X+Y+Z+W=1、W≦Z≦Y≦Xとしたとき、
1/4≦X 且つ (1-X)/3≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3
であるか又は
(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9であること。
【0010】
ここで、前記Xは、好ましくは0.55≦X<0.7であり、より好ましくは0.6≦X<0.7であり、さらに好ましくは0.65≦X≦0.68である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に従えば、個体の識別に有利な複数の一塩基多型を選択することができ、個体識別に要する一塩基多型を最小限の数にすることができる。これによって、簡便、迅速且つ経済的な個体識別方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一つの側面に従えば、個体識別方法が提供される。本明細書において個体識別とは、個体が有する核酸配列と、試料とする核酸配列との一致を判定することを意味する。例えば、犯罪捜査において残留血痕や毛髪などの遺留品が、被疑者や被害者等のものであるかを特定するために用いられることができる。したがって、試料とする核酸配列は、それらの残留物等に含まれる核酸であってよいが、これに限定されない。
ここで使用される「核酸」という用語は、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)、ペプチド核酸(PNA)、メチルフォスホネート核酸、S−オリゴ、cDNA及びcRNA等、並びに何れのオリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチド等、核酸及び核酸類似体を総括的に示す語である。また、そのような核酸は、天然に存在するものであっても、人工的に合成されたものであってもよい。
ここで核酸配列は、ゲノムDNA配列であることが好ましいが、ゲノム全体が確保されない断片的な配列であってもよい。また、本発明の個体識別は、本人であることを確認するための本人認証や、親子鑑定等に用いることもできるが、これらに限定されない。
【0013】
本発明の方法では、個体識別に一塩基多型(SNP)を用い、特に、個体識別に有利なSNPを選択して用いる。このSNPの選択は、そのアレル頻度を参照して行う。
ここでSNPとは、ゲノムDNA配列の一塩基の違いのことを指し、これは特定の集団において通常1%以上の頻度で認められる。ほとんどの場合、一ヶ所のSNPでは2つの塩基の間で置換が起こり、例えばある個体ではA(アデニン)が、他の個体ではG(グアニン)が取られる。このようなSNPを2塩基置換型と称し、この場合には一ヶ所のSNPにおいて3通りの遺伝子型が存在する。上の例でいえば、A/Aのホモ、G/Gのホモ、及びA/Gのヘテロである。
【0014】
しかしながら、稀に3塩基置換型或いは4塩基置換型のSNPも存在する。これらのSNPでは、それぞれ6通り又は10通りの遺伝子型が存在し、一つのSNP部位だけでも多数の遺伝子型が存在し得ることになる。
【0015】
これらの遺伝子型の出現頻度は、それぞれの塩基のアレル頻度から求めることができる。アレル頻度とは、ある集団内において、あるSNPが取る塩基のそれぞれの割合を指す。即ち、ある集団内におけるあるSNPがAとTの何れかの塩基をとり、その集団内でSNPがAである場合が70%、Tである場合が30%の割合であるとき、Aのアレル頻度Xは0.7であり、Tのアレル頻度Yは0.3と表す。ここで、X+Y=1であり、2塩基置換であることから0<X、0<Yである。
【0016】
このアレル頻度は、ある集団に含まれる相当数の個体の遺伝子型を検査し、その分布によって決定される。現在、複数のデータベースによって種々の集団におけるアレル頻度が公開されており、それぞれ、人種や民族など各種の分類による集団について調査されている。SNPの位置、頻度などを掲載したデータベースには、例えばHAPMAP、NCBI Entrez SNP、JSNP、TSC等がある。
【0017】
なお、本明細書においては、これらの分類、例えば人種、民族、国家、居住領域、性別、年齢等によって分けられた個体群を集団と称する。アレル頻度を決定するために調査した個体数が適切であり、信頼性が高ければ、何れのデータベースで公開されているアレル頻度を用いてもよく、或いはアレル頻度の調査を独自に行ってもよい。
【0018】
上述したように、遺伝子型頻度はアレル頻度から求められる。上の例のSNPで言えば、その遺伝子型は、AAホモ、ATへテロ、及びTTホモが存在し、それぞれの遺伝子型の頻度は、(X+Y)2=XX+2XY+YYから求められる。即ち、AA:AT:TT=0.49:0.42:0.09である。
【0019】
本発明の方法では、これらアレル頻度及び遺伝子型頻度によって適切なSNPを選択する。そして、個体の核酸配列と試料の核酸配列において、該選択されたSNPにおける遺伝子型を決定し、それらを比較する。両者の遺伝子型が全て一致すれば、該試料はその個体に由来するものであると判定することができる。
【0020】
なお、本明細書において個体とは、ヒトの他に、動物及び植物等のゲノムDNA配列によって識別し得るものであれば何れのものでもよい。好ましくはヒトを対象とするが、その他に家畜やペット等、或いは栽培植物や野生植物を含んでもよい。
【0021】
ところで、ヒトのゲノムDNAには、1000万個程度のSNPが存在すると言われている。可能な限り多くのSNPを検査した方が、検査精度が上昇することは明らかであるが、簡便性、迅速性、及び経済性を考慮すると、検査するSNPは少ない方がよいことも明らかである。
【0022】
そこで本発明者らは、下記のような条件に従うことによって、個体の識別に有利なSNPを選択することができることを見出し、個体識別に要するSNPを最小限の数にすることを可能にした。以下、SNPを選択するための条件(i)〜(iii)を順に説明する。
【0023】
(i)まず、2塩基置換型の場合のSNPの選択方法を説明する。置換する塩基をA及びBとし、そのアレル頻度と遺伝子型頻度との関係を図1aに示した。図1aでは、Aの頻度が上昇するに従って、遺伝子型AAの頻度が上昇する。反対に、Aの頻度が上昇するに従って、Bの頻度は減少し、遺伝子型BBの頻度も減少する。Aの頻度が0.5の時、即ち、AとBの頻度が等しいとき、遺伝子型ABの頻度は最大になる。
【0024】
この図1aにおいて、最大の遺伝子型頻度と最小の遺伝子型頻度を抜き出したものが図1bである。この図の通り、2塩基置換型のSNPでは、最も遺伝子型頻度が高い遺伝子型(MAX)は、Aの頻度が0.66のときに最も低い遺伝子型頻度4/9をとり、これ以下にはならない。また、最も遺伝子型頻度が低い遺伝子型(MIN)は、Aの頻度が0.5のとき最大の遺伝子型頻度になり、その前後では減少する。
【0025】
ここで、個体識別にはどのような遺伝子型頻度を有するSNPが望ましいかを考える。あるSNPにおいて、最大の遺伝子型頻度を有する遺伝子型の頻度は、可能な限り低い方が望ましい。これは、最大の遺伝子型頻度が高ければ、その集団においてその遺伝子型を有する個体が多く存在することになり、そのSNPの個体を識別する能力が低くなるためである。従って、最低限の識別能力を確保するために、最大の遺伝子型頻度を有する遺伝子型の頻度は、0.5以下であることが好ましい。
【0026】
また、最小の遺伝子型頻度を有する遺伝子型は、可能な限り低い方が望ましい。この遺伝子型頻度が低ければ、その遺伝子型は稀少であると言え、そのSNPは極めて識別能力が高く有用なSNPであると言える。
【0027】
ここで、塩基A及びBのそれぞれのアレル頻度をX及びYとして表す。X+Y=1とし、Y≦Xとする。また、定義から0<X、0<Yであり、条件から0.5≦Xである。このとき、図1bにおいて、最大の遺伝子型頻度(MAX)が0.5以下であるXは、0.5≦X≦0.7である。よって、アレル頻度が0.5≦X≦0.7であるSNPが好適に用いられる。
【0028】
ここで、上述したように、最大の遺伝子型頻度を小さくするためには、Xの値が0.66に近づくことが望ましい。しかし、最小の遺伝子型頻度を小さくするためには、Xの値がより大きい方が好ましい。これらの条件を考慮し、さらに好ましい範囲は0.55≦X<0.7であり、より好ましくは0.6≦X<0.7であり、最も好ましくは0.65≦X≦0.68の範囲である。
【0029】
以上のような範囲のX(アレル頻度)を有するSNPは、識別能力のバランスがよく、このようなSNPは本発明の方法において好適に用いられることができる。
【0030】
(ii)次に、3塩基置換型の場合のSNPの選択方法を説明する。3塩基置換型のSNPは、上述したように遺伝子型が6通りある。従って、一つのSNPによる識別能力が向上し、個体の識別に用いるのに有利である。
【0031】
さらに、2塩基置換型では、最大の遺伝子型頻度がとり得る最小の遺伝子型頻度は4/9であるため、3塩基置換型ではこれより小さい遺伝子型頻度のSNPを選択することにより、個体識別により効果的なSNPを選択することが可能である。
【0032】
ここでは、置換する塩基をA、B及びCとし、アレル頻度をそれぞれX、Y及びZとする。ここで、X+Y+Z=1、Z≦Y≦Xとする。このとき、1/3≦X、(1-X)/2≦Y、X+Y<1である。
【0033】
ところで、3塩基置換型における遺伝子型は、X2、Y2、Z2、2XY、2YZ、2ZXである。この中で、遺伝子型頻度が最大に成り得るものは、X2又は2XYである。
【0034】
(a)2XY≦X2である場合、即ち、Y≦1/2・Xであるとき、最大の遺伝子型はX2である。ここで、上記したように、4/9より小さい遺伝子型頻度が望ましいため、X2<4/9とする。従って、望ましいアレル頻度はY≦1/2・X 且つ X<2/3であり、このようなSNPを選択する。
【0035】
(b)或いは、2XY>X2である場合、即ち、1/2・X<Yであるとき、最大の遺伝子型は2XYである。ここで、上記したように、4/9より小さい遺伝子型頻度が望ましいため、2XY<4/9とする。従って、望ましいアレル頻度は1/2・X<Y 且つ XY<2/9であり、このようなSNPを選択する。
【0036】
以上の(a)及び(b)に適合するX及びYの範囲を、図2の斜線の領域として示した。この範囲のアレル頻度を有する3塩基置換型SNPは、2塩基置換型のSNPよりも個体識別により貢献し得るSNPであり、有効性の高いSNPであるといえる。
【0037】
(iii)次に、4塩基置換型の場合のSNPの選択方法を説明する。4塩基置換型のSNPは、上述したように遺伝子型が10通りある。従って、一つのSNPによる識別能力が最も大きく、個体の識別に用いるのに有利である。4塩基置換型のSNPは、3塩基置換型のSNPと同様に、最大の遺伝子型頻度が4/9より小さい遺伝子型頻度のSNPを選択することにより、個体識別により効果的なSNPを選択することが可能である。
【0038】
ここでは、置換する塩基をA、B、C及びDとし、アレル頻度をそれぞれX、Y、Z及びWとする。ここで、X+Y+Z+W=1、W≦Z≦Y≦Xとする。このとき、1/4≦X、(1-X)/3≦Y、X+Y<1である。
【0039】
この4塩基置換型における遺伝子型も、遺伝子型頻度が最大に成り得るものは、X2又は2XYである。
【0040】
(a)2XY≦X2である場合、即ち、Y≦1/2・Xであるとき、最大の遺伝子型はX2である。ここで、上記したように、4/9より小さい遺伝子型頻度が望ましいため、X2<4/9とする。従って、望ましいアレル頻度はY≦1/2・X 且つ X<2/3であり、このようなSNPを選択する。
【0041】
(b)或いは、2XY>X2である場合、即ち、1/2・X<Yであるとき、最大の遺伝子型は2XYである。ここで、上記したように、4/9より小さい遺伝子型頻度が望ましいため、2XY<4/9とする。従って、望ましいアレル頻度は1/2・X<Y 且つ XY<2/9であり、このようなSNPを選択する。
【0042】
以上の(a)及び(b)に適合するX及びYの範囲を、図3の斜線の領域として示した。この範囲のアレル頻度を有する4塩基置換型SNPは、2塩基置換型のSNPよりも個体識別により貢献し得るSNPであり、有効性の高いSNPであるといえる。
【0043】
以上の(ii)及び(iii)に示したSNPは、例えば、National Center for Biological Information (NCBI)のSNPデータベースに登録されているSNPから検索することができる。
【0044】
上記(i)〜(iii)の条件を満たすように選択されるSNPは、ゲノム中で、異なる染色体から選択することが望ましい。同一染色体上に存在するSNPは、互いに連鎖していないことが明らかであるか、又はその確率が低いSNPを用いることが望ましい。
【0045】
なお、上記の条件に従って選択された複数のSNPの組み合わせは、選択されたi個の一塩基多型のそれぞれの、アレル頻度から算出された遺伝子型頻度において、n番目の一塩基多型における最も高い遺伝子型頻度を(Max)nとし、最も低い遺伝子型頻度を(Min)nとしたとき、1/Π(Max)i及び1/Π(Min)iがそれぞれ適切な値になるように選択されることが望ましい。
【0046】
例えば、前記集団を構成する個体数をUとしたとき、1/Π(Max)i 及び1/Π(Min)i のそれぞれが、Uに対する割合で表したときに適切な範囲であるように選択することもできる。
【0047】
1/Π(Max)iは、選択されたSNPの組み合わせにおいて、最も確率の高い組み合わせを有する個体が、1/Π(Max)i人に一人の割合で存在することを表す。1/Π(Max)iの値が低ければ、そのSNPの組み合わせを有する個人が、集団内に多く存在し、そのSNPの組み合わせは個人の識別能力が低いものであるといえる。
【0048】
また、1/Π(Min)iは、選択されたSNPの組み合わせにおいて、最も確率の低い組み合わせを有する個体が、1/Π(Min)i人に一人の割合で存在することを表す。1/Π(Min)iの値が低ければ、そのSNPの組み合わせを有する個体は稀にしか存在せず、個人の識別能力が高いSNPの組み合わせであるといえる。
【0049】
なお、本発明において個体識別に用いるために選択されるSNPの数iは、必要とする識別能力に応じて適宜決定すればよく、簡便性、迅速性、経済性、及び判定の信頼度を考慮して決定してよい。
【0050】
以上に述べた条件に従って選択したSNPを用いた個体識別方法では、さらに、対象個体が有する遺伝子型の頻度をアレル頻度から算出して、選択されたSNPの全てについての遺伝子型頻度を乗算し、その逆数を取ることによって、対象個体が有する遺伝子型の組み合わせが、集団内に存在する確率を算出することができる。図4を用いて説明すると、対象個体の遺伝子型が1:CC、2:CC、3:CT、4:CC、5:TTである場合、それぞれの遺伝子型頻度を乗算すると、0.078×0.518×0.3942×0.314×0.2916=0.001458であり、その逆数は685.7である。よって、このサンプルの遺伝子型は686人に一人存在する遺伝子型である。
【0051】
例えば、1億人の集団内で10人に一人が有する遺伝子型であれば、対象個体と試料の遺伝子型が一致しても、それらが同一のものであるという信頼度が低くなる。反対に、対象個体が有する遺伝子型が稀にしか存在しない遺伝子型であれば、判定の信頼度が高くなる。従って、集団内における存在確率を決定し、判定の信頼度を明らかにすることも、個体識別の際には重要である。本工程により存在確率を算出することで個体識別の検査結果の信頼度を判定することができる。
【0052】
以上詳細に述べた本発明の個体識別方法をまとめると、まず、識別されるべき対象個体が属する集団に存在するSNP群から、上記(i)〜(iii)の何れかの条件を満たすSNPを複数選択する。ここで選択された複数の一塩基多型における遺伝子型を、対象個体が有する核酸配列、及び試料由来の核酸配列中それぞれで決定する。次いで、両者の決定された遺伝子型を比較し、対象個体の核酸配列と試料の核酸配列が一致するか否かを判定する。
【0053】
ここで、対象個体及び試料の核酸配列中の遺伝子型を決定する方法は、周知の方法で行えばよく、例えば当該SNP部位をポリメラーゼ増幅反応で増幅させて調べる方法、DNA配列解析方法等の適切な方法によって行ってもよい。
【0054】
本発明に従って選択されたSNPを用いることにより、要求される信頼度の中で最小数のSNP数で個体識別することが可能であり、簡便、迅速に検査でき、且つコストを抑制することができる。
【0055】
次に、本発明の他の側面から、個体識別検査に用いるためのアレイが提供される。本発明におけるアレイは、標的核酸と相補的な配列を有する核酸プローブが基体に固定されたものである。ここで標的核酸とは、識別されるべき対象個体が属する集団に存在するSNP群から、上記(i)〜(iii)の条件の何れか一つを満たすように選択されたSNPを含む標的配列を有する核酸鎖を意味する。基体に固定された核酸プローブは、適切な条件下において標的核酸とハイブリダイズし得るものである。
ここで使用される「相補」、「相補的」および「相補性」の語は、50%〜100%の範囲で相補的であればよく、好ましくは100%で相補的であることを言う。
【0056】
基体に固定された核酸プローブは、単一の核酸プローブであってもよいが、複数の異なる核酸プローブであってもよい。即ち、それぞれ異なるSNPを含む標的配列を有する標的核酸と、それぞれ相補的な配列を有する核酸プローブを固定してもよい。
【0057】
また、例えばAとTの2塩基置換型のSNPにおいて、Aである場合の配列に相補的な核酸プローブと、Tである場合の配列に相補的な核酸プローブの双方のプローブをアレイに固定してもよく、或いは、一方の配列のためのプローブのみを固定してもよい。同様に、3塩基置換型及び4塩基置換型のSNPでも、各塩基の場合の配列に対応するプローブを用いてもよく、検出したい配列に対応するプローブのみを用いてもよい。核酸プローブの長さは、基体に固定し、ハイブリダイズするのに適切な長さを適宜選択してよく、標的核酸より短くても良い。例えば、約3〜約1000bpであってよく、好ましくは約10〜約200bpであってよい。
【0058】
標的核酸は、SNPが存在する部位の上流及び下流の配列から成る配列を有する核酸である。アレイ上で核酸プローブとのハイブリダイゼーションに供する標的核酸は、核酸が含まれる試料溶液をそのまま用いてもよいが、例えばPCRなどによって、標的配列部位を予め増幅切り出しして用いてもよい。このとき、標的核酸の長さは任意に決定すればよいが、プライマーの設計によって、例えば30〜500bp程度の長さにしてもよい。標的核酸の長さを適度にすることにより、ハイブリダイゼーションの効率を上昇させることができる。
【0059】
本発明において使用され得る基体は、核酸プローブが固定可能な基体であればよく、例えば非多孔性、硬質及び半硬質な材質による、ウェル、溝または平らな表面を有する板状形体、又は、球体などの立体形状を有するものであってよい。基体は、これに限定されるものではないが、シリコン、ガラス、石英ガラス、石英などのシリカ含有基材、およびポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、等のプラスチックおよびポリマーなどで製造され得る。
【0060】
本発明のアレイは、基体に固定化された核酸プローブと標的核酸がハイブリダイズした結果生じた二本鎖の存在を検知するための手段として、電気化学的方法を用いることができるが、これに限定されない。
【0061】
電気化学的方法による二本鎖核酸の検出は、例えば、公知の二本鎖認識物質を用いて行えばよい。二本鎖認識物質は特に限定されるものではないが、例えば、ヘキスト33258、アクリジンオレンジ、キナクリン、ドウノマイシン、メタロインターカレーター、ビスアクリジン等のビスインターカレーター、トリスインターカレーターおよびポリインターカレーター等を用いることが可能である。更に、これらのインターカレーターを電気化学的に活性な金属錯体、例えば、フェロセン、ビオロゲン等で修飾しておくことも可能である。また、その他の公知の二本鎖認識物質も使用可能である。
【0062】
電気化学的方法により二本鎖核酸を検出する方法では、基体に電極を設け、核酸プローブはこの電極に固定される。電極は、特に限定されるものではないが、例えば、グラファイト、グラシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンペースト、カーボンファイバーのような炭素電極、白金、白金黒、金、パラジウム、ロジウムのような貴金属電極、酸化チタン、酸化スズ、酸化マンガン、酸化鉛のような酸化物電極、Si、Ge、ZnO、CdS、TiO2、GaAsのような半導体電極、チタン等によって形成されることができる。これらの電極は導電性高分子によって被覆しても、単分子膜によって被覆してもよく、所望に応じてその他の表面処理剤を処理してもよい。
【0063】
核酸プローブの固定は、公知の手段によって行えばよい。例えば、スペーサーを電極に固定し、該スペーサーに核酸プローブを固定することによって、核酸プローブをスペーサーを介して電極に固定してもよい。または、予め核酸プローブにスペーサーを結合させ、そのスペーサーを介して電極に固定してもよい。或いは、電極上でスペーサーと核酸プローブを公知の手段によって合成してもよい。また、スペーサーを介しての核酸プローブの固定は、処理又は無処理の電極表面に対して当該スペーサーを、共有結合、イオン結合又は物理吸着などによって直接固定化してもよい。或いは、スペーサーを介した核酸プローブの固定を助けるリンカー剤を用いても良い。また、電極に対する被検核酸の非特異的な結合を防止するためのブロッキング剤をリンカー剤と共に電極に処理しても良い。また、ここで使用されるリンカー剤及びブロッキング剤は、例えば、電気化学的検出を有利に行うための物質であってもよい。
【0064】
なお、異なる塩基配列を有する核酸プローブは、それぞれ、異なる電極に対してスペーサーを介して固定化されてもよい。
【0065】
さらに、他の一般的な電気化学的検出法と同じように、対極および/または参照極をアレイに備えてもよい。参照極を設置する場合、例えば、銀/塩化銀電極や水銀/塩化水銀電極などの一般的な参照極を使用することができる。
【0066】
アレイによる標的核酸の検出は、例えば以下のように行うことができる。ヒトを含む動物などの個体、組織または細胞などの対象から採取した試料より、核酸成分を試料核酸として抽出する。得られた試料核酸は、必要に応じて、逆転写、伸長、増幅および/または酵素処理などの処理をしてもよい。必要に応じて前処理された試料核酸を、核酸プローブ固定化基体に固定化された核酸プローブと接触させ、適切なハイブリダイゼーションが可能な条件下で反応を行う。そのような適切な条件は、標的配列に含まれる塩基の種類、核酸プローブ固定化基体に具備されるスペーサーおよび核酸プローブの種類、試料核酸の種類およびそれらの状態などの諸条件に応じて、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0067】
ハイブリダイゼーション反応は、例えば次のような条件下で行ってもよい。ハイブリダイゼーション反応溶液は、イオン強度0.01〜5の範囲で、pH5〜10の範囲の緩衝液中を用いる。この溶液中にはハイブリダイゼーション促進剤である硫酸デキストラン、並びに、サケ精子DNA、牛胸腺DNA、EDTAおよび界面活性剤などを添加してもよい。ここに得られた試料核酸を添加し、90℃以上で熱変性させる。この溶液中に、核酸の変性直後、あるいは0℃に急冷後に核酸プローブ固定化基体を挿入する。或いは、基体上に液を滴下することでハイブリダイゼーション反応を行うことも可能である。
【0068】
反応中は、撹拌、あるいは振盪などの操作で反応速度を高めてもよい。反応温度は、例えば、10℃〜90℃の範囲で、反応時間は1分以上1晩程度で行えばよい。ハイブリダイゼーション反応後、電極を洗浄する。洗浄液は、例えば、イオン強度0.01〜5の範囲で、pH5〜10の範囲の緩衝液を用いる。試料核酸中に標的配列を含む標的核酸が存在した場合、核酸プローブとハイブリダイズし、基体上に二本鎖核酸が生じる。
【0069】
続いて、電気化学的手段により二本鎖核酸の検出を行う。検出手順は一般に、ハイブリダイゼーション反応後に基体を洗浄し、電極表面に形成された二本鎖部分に二本鎖認識体を作用させて、それにより生じる信号を電気化学的に測定する。
【0070】
二本鎖認識体の濃度は、その種類によって異なるが、一般的には1ng/mL〜1mg/mLの範囲で使用する。この際は、イオン強度0.001〜5の範囲で、pH5〜10の範囲の緩衝液を用いればよい。
【0071】
電気化学的測定は、例えば、二本鎖認識体が電気化学的に反応する電位以上の電位を印加し、二本鎖認識体に由来する反応電流値を測定することによって可能である。この際、電位は定速で掃引するか、あるいはパルスで印加するか、あるいは、定電位を印加してもよい。測定の際に、例えば、ポテンショスタット、デジタルマルチメーターおよびファンクションジェネレーター等の装置を用いて電流、電圧を制御してもよい。さらに、得られた電流値を基に、検量線から標的核酸の濃度を算出してもよい。
【0072】
以上記載したアレイを用いたハイブリダイゼーション反応によって、検出された標的核酸の配列は、検査対象の個体、及び試料が有する核酸配列である。これによって、それぞれの試料に含まれる核酸配列における、選択されたSNPの遺伝子型を決定することができる。
【0073】
識別されるべき個体と試料のそれぞれの遺伝子型が決定された後、それらを比較し、両者が一致するか否かを判定する。さらに、用いたSNPの遺伝子型頻度を基に、その個体又は試料の遺伝子型の存在割合を算出し、判定の信頼度を決定してもよい。
【0074】
本発明の他の側面から、上記アレイを備えた個体識別検査装置が提供される。該装置では、基板状のアレイが好適に用いられ、ここではチップとも称する。さらに、本発明の他の側面から、該個体識別検査装置によって個体識別検査を実行するシステムが提供される。
【0075】
本発明による個体識別検査装置は、上記の本発明に従ったアレイと、該アレイの基体上に設けられ、薬液又はエアの流れる方向に沿って設けられた流路と、前記基体上に前記流路に沿って複数設けられ、前記プローブが固定化される作用極と、前記流路の内周面に前記作用極に対応して設けられ、各々が前記基体表面に対向する第1の面に位置するように配置され、前記作用極との間に電位差を与える対極と、前記流路の内周面に前記作用極に対応して設けられ、各々が前記基板表面に対向する第2の面に位置するように配置され、前記作用極に検出電圧をフィードバックさせる参照極と、前記流路に開口し、前記流路の上流側から前記流路内に薬液又はエアを送入する送入ポートと、前記流路に開口し、前記流路の下流側から前記流路内の薬液又はエアを送出する送出ポートと、前記流路内に試料を注入する試料注入口とを具備する。
【0076】
また、本発明による個体識別検査システムは、前記個体識別検査装置と、前記送入ポートに連通し、該送入ポートを介して前記流路内に薬液又はエアを供給する第1の配管と、前記第1の配管の薬液又はエアの流量を制御する第1の弁とを備えた供給系と、前記送出ポートに連通し、該送出ポートを介して前記流路内から薬液又はエアを排出する第2の配管と、前記第2の配管の薬液又はエアの流量を制御する第2の弁と、第2の配管に設けられ、前記流路内から薬液又はエアを吸い上げるポンプとを備えた排出系と、前記作用極と対極との間に電位差を与える電圧印加部を備えた測定系と、前記アレイの温度を制御する温度制御系と、前記供給系の第1の弁と、前記排出系の第2の弁及びポンプと、前記測定系の前記電圧印加部と、前記温度制御系とを制御し、前記作用極又は前記対極から電気化学反応信号を検出し、この電気化学反応信号を測定データとして格納する制御機構と、前記制御機構に制御条件パラメータを与えて前記制御機構を制御するとともに、前記測定データに基づいて塩基配列の解析処理を実行し、固体識別検査の判定を行うコンピュータとを具備する。
【0077】
以下、図面を参照しながら本発明の個体識別検査装置及びシステムの一実施形態を説明する。
【0078】
図5は本発明の一つの態様における個体識別検査システムの全体構成を示す概念図である。図5に示すように、個体識別検査システム1は、チップカートリッジ11(個体識別検査装置)と、このチップカートリッジ11と電気的に接続される測定系12、チップカートリッジ11に設けられた流路とインタフェース部を介して物理的に接続される送液系13及びチップカートリッジ11の温度制御を行う温度制御系14から構成される。
【0079】
これら測定系12、送液系13及び温度制御系14は制御機構15により制御される。制御機構15は、コンピュータ16に電気的に接続されており、このコンピュータ16に備えられたプログラムにより、制御機構15が制御される。本実施形態では、チップカートリッジ11、測定系12、送液系13及び温度制御系14を測定ユニット10と称する。
【0080】
チップカートリッジ11には、核酸プローブが固定化されたチップ21が実装されたプリント基板22が取り付けられて用いられる。核酸プローブはチップ21の作用極に固定化される。チップ21のセル内に導入される試料(検体溶液)には、検査の対象となる核酸が含まれている。この実施形態の個体識別検査装置は、標的核酸を核酸プローブとハイブリダイゼーションさせ、その反応の有無をバッファ、挿入剤導入後にモニタリングすることにより、試料中に標的核酸が含まれているか否かを判別する。
【0081】
図6はチップカートリッジ11の詳細な構成を示す図であり、(a)は上面から見た図、(b)はA−A方向から見た図、(c)はB−B方向から見た部分透視断面図、(d)はチップカートリッジ11の一構成要素である支持体111を裏面から見た図を示している。
【0082】
チップカートリッジ本体110は、プリント基板22を下部側から支持する支持体111と、この支持体111とともにプリント基板22を上部側から挟み込み固定支持するためのチップカートリッジ上蓋112からなる。
【0083】
チップカートリッジ上蓋112の側部には2つの開口が設けられ、その開口のうちの1つにはインタフェース部113aが、他の1つにはインタフェース部113bが接続されている。これらインタフェース部113a及び113bは、送液系13とチップカートリッジ11のインタフェースとして機能する。これらインタフェース部113a及び113bの内部にはそれぞれ流路114a及び114bが設けられている。流路114aを介して、送液系13上流側からの薬液やエアをチップカートリッジ11内部に送入する。流路114bを介して、チップカートリッジ11内の試料、薬液及びエアを送液系13下流側に送出する。
【0084】
図6(a)〜(c)では、流路114a及び114bは破線で示されている。これら流路114a及び114bは、インタフェース部113a及び113bからチップカートリッジ上蓋112内まで連通しており、さらにはセル115に通じている。セル115は、チップ21とこのチップ21に導入される各種溶液との電気化学反応を生じさせるために設けられる領域である。このセル115は、チップ21が実装されたプリント基板22の四隅がこのチップカートリッジ11のチップカートリッジ上蓋112に基板固定ねじ25により固定化されている場合に、チップ21とシール材24a、チップカートリッジ上蓋112に囲まれた閉空間領域で定められる。チップ21を実装したプリント基板22がチップカートリッジ上蓋112に固定化された状態で、支持体111とチップカートリッジ上蓋112によりプリント基板22がシール材24aを挟んで保持される。さらに、上蓋固定ねじ117によりチップカートリッジ上蓋112が固定される。これにより、流路114aからセル115を介して流路114bまで連通した各種薬液やエアの注入・吐出経路が定められる。なお、チップ21は、プリント基板22に封止樹脂23により封止されている。
【0085】
セル115の上面に位置するチップカートリッジ上蓋112には、送入ポート116a及び送出ポート116bが設けられている。送入ポート116aは、チップカートリッジ上蓋112の側面から底面まで貫通し、セル孔部115aでチップカートリッジ上蓋112の底面に開口している。送出ポート116bは、チップカートリッジ上蓋112の別の側面から底面まで貫通し、セル孔部115bでチップカートリッジ上蓋112の底面に開口している。送入ポート116aが流路114aに、送出ポート116bが流路114bに接続されることにより、流路114aとセル115,流路114bとセル115が連通する。
【0086】
プリント基板22表面であってセル115から離間した位置に、電気コネクタ22aが設定されている。電気コネクタ22aは、プリント基板22の基板本体のリードフレームと電気的に接続されている。また、この基板本体のリードフレームは、チップ21の各種電極とリードなどにより電気的に接続されている。この電気コネクタ22aに測定系12の端子を接続することにより、チップ21で得られる電気信号を、プリント基板22の所定の位置に設けられた所定の端子を介して、さらには電気コネクタ22aを介して測定系12に出力することができる。
【0087】
図6(d)に示すように、支持体111はコの字型をしており、中央に切り込み部111aが設けられている。この切り込み部111aはプリント基板22よりも小さく、チップ21よりも大きな形状となっている。これにより、支持体111によるプリント基板22の支持機能を保ちつつ、チップ21に支持体111を介さずに温度制御系14を接して配置することができる。117aはねじ孔であり、上蓋固定ネジ117が固定される。
【0088】
チップ21の温度を調節する温度制御系14としては、例えばペルティエ素子が用いられる。これにより、±0.5℃の温度制御が可能である。核酸の反応は、室温に比較的近い温度範囲において行うのが一般的である。従って、ヒーターのみでの温度制御は安定性に乏しい。また、温度プロファイルにより、核酸の反応を制御する必要があるため、別に冷却機構が必要になってきてしまう。その点、ペルティエ素子は、電流の向きを変えることにより、加熱・冷却いずれも可能であるため、最適である。
【0089】
図7は上蓋固定ねじ117で固定する前の支持体111とチップカートリッジ上蓋112を示す図である。図7に示すように、チップカートリッジ上蓋112に、チップ21が実装されたプリント基板22の四隅が基板固定ねじ25で固定されている。チップカートリッジ上蓋112には、シール材24aが一体化されている。従って、チップ21上に、シール材24aとチップカートリッジ上蓋112で囲まれたセル115が定められる。さらに、上蓋固定ねじ117で支持体111にチップカートリッジ上蓋112が固定されて用いられる。なお、基板固定ねじ25は、プリント基板22の裏面側から固定しても、表面側から固定してもよい。このように、チップカートリッジ上蓋112にプリント基板22を固定化することにより、チップ21、シール材24a及びチップカートリッジ上蓋112の間の密着性を確実に保持することができる。
【0090】
図8はチップ21を実装したプリント基板22の詳細な構成を示す図である。図8に示すように、プリント基板22上には、チップ21が封止樹脂23により封止されている。チップ21上には、作用極501が設けられている。この作用極501は、図8の矢印で示される薬液及びエアの流れる方向に沿って1つずつ設けられている。薬液及びエアの流れる方向は、チップカートリッジ上蓋112及びシール材24aによりチップ21上の作用極501の周囲に矢印で示す方向に沿った空間を残して密閉することにより定められる。破線で示された領域は、シール材24aが配置される領域である。複数の作用極501は、この破線で示された領域に収まるように配置される。
【0091】
プリント基板22の端部には電気コネクタ22aが設置されている。チップ21の作用極501と電気コネクタ22aは、プリント基板22表面に設けられたリードフレームなどにより電気的に接続されている。電気コネクタ22aには、測定系12の信号インタフェースを接続することにより、チップ21の各電極と測定系12とを電気的に接続することができる。
【0092】
図9(a)は図6(a)に示すセル115及びセル115に通じる薬液供給系統をC−C方向から見た断面図、図9(b)はセル115近傍の上面図である。図9(a)に示すように、チップカートリッジ上蓋112の底面には、高さd42の流路状凸部112aが設けられている。そして、この流路状凸部112aには例えばスクリーン印刷などにより予めシール材24aが印刷され、シール材24aと一体的に形成されている。これにより、シール材24aとチップカートリッジ上蓋112との位置決めを行うことなくセル115を定めることができ、セル115の組み立て工程が簡便になる。シール材24aは、流路状凸部112aとチップ21との間に固定される。これにより、チップカートリッジ上蓋112とチップ21の間に閉空間が定められる。この閉空間が試料や薬液とプローブとの電気化学反応を生じさせる反応室としてのセル115である。セル115の底面はチップ21により定められる。セル115の側面はチップカートリッジ112に設けられた流路状凸部112a及びシール材24aの側部により定められる。セル115の上面はチップカートリッジ112のうち流路状凸部112aが設けられていない部位により定められる。これにより、セル孔部115a及び115b以外は密閉された閉空間が定められ、チップ21と蓋120との液密が保持される。このセル115の高さは約0.5mm程度に設定される。ここでは0.5mm程度に設定しているがこの限りではなく、0.1mm〜3mmの範囲で設定するのが望ましい。
【0093】
セル115は、上面から見ると図9(b)に示すように細長の流路601が配置された形状をなす。図9(b)では、送入ポート116a側のセル孔部115aからセル孔部115bに向けて同じ路幅の1本の流路601が設けられている。この1本の流路601は、検出用流路601aと、ポート接続流路601b及び601c、流路接続流路601dからなる。検出用流路601aは、作用極501が配置される複数本の流路である。ポート接続流路601bは、セル孔部115aに最も近い検出用流路601aをセル孔部115aに接続する。ポート接続流路601cは、セル孔部115bに最も近い検出用流路601aをセル孔部15bに接続する。流路接続用流路601dは隣りあう検出用流路601aの端部同士を接続して複数の検出用流路601aに薬液又はエアが流れる方向を一方向に定める。これにより、ある検出用流路601aを流れた薬液又はエアは、流路接続用流路601dに流れ込み、さらに同じ方向に隣りあう別の検出用流路601aに流れる。また、流路601a〜601dのいずれも、同じ路幅及び断面を有しており、その路幅は0.5mm〜10mmが望ましい。
【0094】
図9(b)において、破線で囲まれ流路601が形成されていない領域は、流路状凸部112a及びシール材24aが設けられておりチップ21とシール材24aが接する領域である。流路601が形成されている領域は、流路状凸部112a及びシール材24aが設けられない領域である。送入ポート116a及び送出ポート116bは各々セル115の上面から上方に、セル底面に対してほぼ垂直な方向に所定の高さまで延びている。送入ポート116a及び送出ポート116bはさらにセル115の中心から互いに遠ざかる方向にその流路が折れており、流路114a及び114bにそれぞれ接続される。
【0095】
送出ポート116bは、セル底面に対してほぼ垂直な方向に所定の高さまで延び、さらにセル115の中心から遠ざかる方向にほぼ直角に折れているが、その折れ曲がり位置で2つの経路に分岐する。その一つの経路は、チップカートリッジ上蓋112の表面まで貫通し、試料注入口119に通じている。これにより、試料注入口119から注入された試料は、送出ポート116bを通ってセル115に導入される。試料注入口119と送出ポート116bの中心軸はほぼ一致しており、試料注入口119の口径は、送液ポート116bの口径よりも大きく設定されている。また、試料注入口119近傍に設けられ、蓋120により試料注入口119を塞ぐことができる。これにより、試料注入口119を利用せず、薬液を流路114aからセル115を介して流路114bに循環させる場合に薬液が試料注入口119から流出するのを防止することができ、薬液の経路を確保することができる。また、蓋120にはシール材121が設けられており、試料注入口119を密閉することにより、薬液のわずかな漏出を防止できる。図9(a)の例では特に示していないが、送出ポート116bから流路114bに接続される経路のみを残して試料注入口119への経路を完全に塞ぐような深さのシール材121を用いれば、試料注入口119側への薬液やエアの滞留を低減することができる。
【0096】
以上のような構成により、薬液は図9(a)の矢印で示される方向に、流路114a、送入ポート116a、セル115(流路601),送出ポート116b、流路114bの順に流れることができる。また、試料は、試料注入口119から注入され、矢印の方向に送出ポート116bを通ってセル115内に導入される。従って、試料は送出側から注入されることとなり、薬液の供給の流れと試料の注入経路が逆に設定されている。これにより、洗浄工程において、試料の洗浄効率を高めることができる。
【0097】
図9(c)は送入ポート116aと送出ポート116bと流路601との最適な位置関係を示す図である。送入ポート116aの外周はポート接続流路601bの外周と接している。また、送出ポート116bの外周はポート接続流路601cの外周と離れている。これにより、薬液やエア送入の際に送入ポート116aのポート隅近傍に生じやすい薬液残りやエア残りを低減することができるとともに、薬液や送出の際に送出ポート116bのポート隅で生じる送液速度のばらつきを低減することができ、エア残りなどを低減することができる。なお、同図の破線で示すように、ポート接続流と601bの外周に送入ポート116aの外周が重なることによりポート接続流路601bから送入ポート116aがはみ出した形状で形成されていても同様の効果を得られる。もちろん、送入ポート116aと送出ポート116bの流路601との位置関係は図9(c)に示したものに限定されない。送入ポート116a側は、ポート接続流路601bとの接続で、両者の外周が重なりを有する場合、離れる場合の3通りが考えられ、送出ポート116b側も、ポート接続流路601cの接続で、両者の外周が接する場合、重なりを有する場合、離れる場合の3通りが考えられる。
【0098】
図10及び図11は、セル115の詳細な構成を示す図である。図10(a)はセル孔部115aと115bを結んだ直線で切断された断面図、図10(b)はチップ21にチップカートリッジ上蓋112が固定される様子を示す図、図11はセル115の上面図である。図10(a)に示すように、検出用流路601aがほぼ等間隔に複数形成されている。図10(a)の左側に示される検出用流路601aの断面を奥側から手前側に薬液又はエアが流れる場合、中央の検出用流路601aはこれとは逆の方向、すなわち手前側から奥側に流れ、左側に示される検出用流路601aはさらにこれとは逆の方向、すなわち奥側から手前側の方向に流れる。このように、隣り合う検出用流路601aの薬液又はエアの流れる方向は逆向きとなる。これら検出用流路601aを薬液又はエアの流れる方向に対して垂直な断面で切断すると、すべて同じ長方形の断面形状をなし、かつ電極配置も同一である。
【0099】
検出用流路601aの底面はチップ21により定められる。検出用流路601aの各々の底面には作用極501がそれぞれ1つ形成されている。検出用流路601aの側面はチップカートリッジ上蓋112から凸設された流路状凸部112a及びシール材24aにより定められる。この流路側面、すなわち流路状凸部112aの側部には、流路底面から所定の高さにそれぞれ参照極503が固定されている。このように、複数の参照極503はチップ表面と平行な平面上であってチップ表面と対向する面に位置し、かつその平面は作用極501が設けられている平面よりも高い平面に位置する。検出用流路601aの上面は流路状凸部112aが設けられていないチップカートリッジ上蓋112底面により定められる。この流路上面にはそれぞれ対極502が固定されている。このように、複数の対極502はチップ底面と平行な平面上であってチップ表面と対向する面に位置し、かつその平面は作用極502や参照極503が設けられている平面よりも高い平面に位置する。このように、作用極501、対極502及び参照極503は、それぞれ異なる平面に三次元配置されている。
【0100】
シール材24aはチップカートリッジ上蓋112の流路状凸部112aに予め印刷等により固定化されている。従って、セル115を組み立てる際には、シール材24aが一体化したチップカートリッジ上蓋112をチップ21に対して図10(b)の矢印に示す方向に押圧する。これにより、シール材24aを介してチップカートリッジ上蓋112とチップ21の間に図10(a)に示すような周囲が密閉された流路601が定められる。
【0101】
図11に示すように、作用極501,対極502及び参照極503からなる3電極が各検出用流路601aに、薬液又はエアの流れる方向に等間隔に配置されている。この3電極は、それぞれ薬液又はエアの流れる方向に対して垂直な平面に配置されている。
【0102】
なお、図11の例では、上面から見て作用極501,対極502及び参照極503の位置関係が流路の方向にかかわらず同じマトリクス状の配置を示したがこれに限定されない。図12に示すように、隣り合う検出用流路601aにおける流路断面の構造を薬液又はエアの流れる方向に沿って左右逆転させてもよい。この場合、いずれの検出用流路601aでも対極502は流れる方向に向かって流路の右側の側面に配置される。これにより、薬液又はエアの流れる方向にすべて同一形状の3電極配置が実現できる。作用極501及び対極502についても、断面で左右対称の位置に配置しない場合には、この参照極503と同じように隣り合う検出用流路601aにおいて左右逆転させた位置に配置されるようにできる。
【0103】
このように、同じ断面形状流路に薬液又はエアの流れる方向に沿ってそれぞれ1つずつ作用極501、対極502及び参照極503が3電極1組として設けられ、かつこれら3電極の位置関係が同じで流路形状も同じ構成となっている。作用極501から見れば、作用極501に対する流路底面、側面及び上面への距離、作用極501から対応する対極502、参照極503に対する位置関係が同じになっている。これにより、各3電極で検出される電気化学信号特性の均一性が向上する。その結果、検出の信頼性が向上する。
【0104】
ここでは、対極502、参照極503がそれぞれ対応する作用極501に対して分離された配置しているが、これに限定されるものではない。対極502もしくは参照極503が、あるいはそれらのいずれもが複数電極連結された構成となっていてもよい。その場合、それぞれの電極における各作用極から最も近傍の領域が対極や参照極として機能する。また、流路の断面形状は上述した図10(a)の構成に限定されない。
【0105】
次に、前述したチップ21及びプリント基板22の製造方法について図13の工程断面図に沿って説明する。シリコン基板211を洗浄した後、シリコン基板211を加熱し、シリコン基板211表面に熱酸化膜212を形成する。シリコン基板211の代わりにガラス基板を用いてもよい。次に、基板全面にTi膜213を例えば50nmの膜厚で、次いでAu膜214を例えば200nmの膜厚でスパッタリングにより形成する。ここで、Au膜214はその結晶面方位が<111>配向になっていることが好ましい。次に、後に電極や配線となる領域を保護するようにフォトレジスト膜210をパターニングし(図13(a))、Au膜214及びTi膜213膜をエッチングする(図13(b))。本実施形態ではAu膜214のエッチングにはKI/I2混合溶液を、TiのエッチングにはNH4OH/H2O2混合溶液を用いた。Au膜214のエッチングには、希釈した王水を用いる方法や、イオンミリングで除去する方法もある。Ti膜213のエッチングも、同様に、弗酸や、バッファード弗酸を用いてウェットエッチング処理する方法や、例えば、CF4/O2混合ガスによるプラズマを用いたドライエッチングによる方法も適用可能である。
【0106】
次に、フォトレジスト膜210を酸素アッシングにより除去する(図13(c))。フォトレジスト膜210の除去工程は、溶剤を用いたり、レジストストリッパを用いたり、また、これらと酸素アッシング工程を併用したりして行うことも可能である。
【0107】
次に、全面にフォトレジスト215を塗布し、電極部及びボンディングパッドを開口するようにパターニングする(図13(d))。その後、クリーンオーブン内で、例えば、200℃において、30分間ハードベイクを行う。ハードベイクの方法は、熱板を用いたり、また、処理条件も適宜変更可能である。ここでは、フォトレジスト膜215を保護膜として選択したが、フォトレジスト以外に、ポリイミド、BCB(ベンゾシクロブテン)等の有機膜を用いることも可能である。また、SiO、SiO2やSiNのような無機膜を保護膜に用いても良い。その場合、電極部を保護するようにフォトレジストを開口してSiO等を堆積し、リフトオフ法により、電極部以外の領域を保護したり、もしくは、全面にSiN等を形成した後、電極部のみを開口するようにフォトレジスト膜215をパターン形成し、エッチングにより電極上のSiN膜等を除去し、最後にフォトレジスト膜215を剥離することにより形成してもよい。
【0108】
次に、ダイシングを行うことによりチップ化する。最後に、電極部表面を清浄化するため、CF4/O2混合プラズマによる処理を行う。これにより、チップ21が得られる。そして、このチップ21を電気コネクタ22aが実装されたプリント基板22上にマウントする。そして、チップ21のボンディングパッドとプリント基板22上のリード配線とをワイヤボンディングにより接続する。その後、封止樹脂23を用いてワイヤボンディング部分を保護する。以上の工程により、チップ21を実装したプリント基板22を作製することができる。
【0109】
作製されたチップ21の上面図を図14に示す。図14に示すように、チップ表面の中央近傍には、作用極501が複数設けられている。また、作用極501が形成される領域は、破線で示されるシール材24aの形成領域に収まるようにして用いられる。また、チップ周辺部にはボンディングパッド221が配置される。そして、作用極501の各々は、ボンディングパッド221に配線222で接続される。なお、この図14では示していないが、ボンディングパッド221の形成された周辺部分は前述の封止樹脂23により封止される。
【0110】
次に、送液系13の具体的な構成の一例を図15を用いて説明する。この送液系13は、チップカートリッジ11の流路114a側に設けられた供給系統と、流路114b側に設けられた排出系統に大別される。配管404の最上流には、エア供給源401が接続されている。このエア供給源401の下流側には、エア以外の薬液などが配管404を介してエア供給源401に逆流するのを防止する逆止弁402が設けられ、さらに下流側には2方電磁弁403(Va)が設けられている。これにより配管404からチップカートリッジ11の方へ流れ込むエアの流量が制御される。
【0111】
配管414には、薬液の一つとしてのミリQ水を収容したミリQ水供給源411が接続されている。このミリQ水供給源411の下流側には、ミリQ水以外の薬液やエアなどがミリQ水供給源411に逆流するのを防止する逆止弁412が設けられ、さらに下流側には3方電磁弁413(Vwa)が設けられている。この3方電磁弁413により、配管404と配管415の連通と、配管414と配管415の連通の切替が行われる。すなわち、3方電磁弁413の非通電時には配管404を配管415に連通させ、通電時には配管414を配管415に連通させる。これにより、配管415へのエアとミリQ水の供給切替が行える。
【0112】
配管424には、薬液の一つとしてのバッファ(緩衝液)を収容したバッファ供給源421が接続されている。このバッファ供給源421の下流側には、バッファ以外の薬液やエアなどがバッファ供給源421に逆流するのを防止する逆止弁422が設けられ、さらに下流側には3方電磁弁423(Vba)が設けられている。この3方電磁弁423により、配管424と配管425の連通と、配管415と配管425の連通の切替が行われる。すなわち、3方電磁弁423の非通電時には配管415を配管425に連通させ、通電時には配管424を配管425に連通させる。これにより、配管425へのバッファの供給と、エアあるいはミリQ水の供給の切替が行える。
【0113】
配管434には、薬液の一つとしての挿入剤を収容した挿入剤供給源431が接続されている。この挿入剤供給源431の下流側には、挿入剤以外の薬液やエアなどが挿入剤供給源431に逆流するのを防止する逆止弁432が設けられ、さらに下流側には3方電磁弁433(Vin)が設けられている。この3方電磁弁433により、配管434と配管435の連通と、配管425と配管435の連通の切替が行われる。すなわち、3方電磁弁433の非通電時には配管425を配管435に連通させ、通電時には配管434を配管435に連通させる。これにより、配管435への挿入剤の供給と、エア、ミリQ水あるいはバッファの供給の切替が行える。
【0114】
以上、エアや薬液の供給系統において、2方電磁弁403及び3方電磁弁413,423及び433を制御することにより、配管435を介してチップカートリッジ11に供給されるエアや、ミリQ水、バッファ及び挿入剤などの薬液の供給の切替を行い、また供給されるエアやこれら薬液の流量を制御することができる。
【0115】
配管435の上流側は前述した3方電磁弁433が連通し、その下流側は3方電磁弁441(Vcbin)が連通している。3方電磁弁441により、配管435が配管440及びバイパス配管446に分岐させることができる。3方電磁弁441は、非通電時には配管435をバイパス配管446に連通させ、通電時には配管435を配管440に連通させる切替を行う。また、3方電磁弁445は、非通電時にはバイパス配管446を配管450に連通させ、通電時には配管440を配管450に連通させる切替を行う。これら3方電磁弁441及び445により、各種薬液やエアなどの供給をバイパス配管446及び配管440に切替えることができる。
【0116】
配管440には、3方電磁弁441から見て下流側に向かって順に2方電磁弁442(V1in)、チップカートリッジ11、液センサ443、2方電磁弁444(V1out)、3方電磁弁445(Vcbout)が設けられている。2方電磁弁442側には、チップカートリッジ11の送入系統に相当する流路114aが連通し、2方電磁弁444側には、チップカートリッジ11の送出系統に相当する流路114bが連通している。これにより、チップカートリッジ11の送入系統に配管440を介して薬液やエアなどが供給され、チップカートリッジ11の送出系統からこれら薬液やエアなどを排出することができる。また、2方電磁弁442及び444により、この送液及び吐液の経路における薬液やエアなどの流量を制御することができる。また、液センサ443により、チップカートリッジ11に流れ込み、あるいはチップカートリッジ11から排出される薬液の流量をモニタすることができる。
【0117】
配管450には、3方電磁弁445から見て下流側に向かって順に2方電磁弁451(Vvin)、減圧領域452、2方電磁弁453(Vout)、送液ポンプ454、3方電磁弁455(Vww)が設けられている。2方電磁弁451及び453は、減圧領域452前後の経路における薬液やエアの逆流を防止する。また、送液ポンプ454はチューブポンプからなり、チップカートリッジ11から見て送出側(下流側)の排出系統に設けられている点が特徴である。すなわち、チューブポンプを用いることにより、薬液がチューブ壁以外の機構に接しないため、汚染防止の観点から好ましい。また、チップカートリッジ11への薬液やエアの供給及び排出を吸引動作により行うことにより、チップカートリッジ11内部での薬液とエアの置換が潤滑に行うことができるのみならず、万一の場合として配管に緩みが生じたり、もしくはチップカートリッジ11が配管440から外れたりした場合にも、液漏れが生じない。これにより、装置設置の安全性が向上する。
【0118】
もちろん、ポンプをチップカートリッジ11上流側の配管に設け、このポンプによりチップカートリッジ11にエアや薬液を押し出す構成としてもよい。また、ポンプは、チューブポンプに限ることなく、シリンジポンプ、プランジャポンプ、ダイアフラムポンプ、マグネットポンプ等を用いることもできる。
【0119】
3方電磁弁455は、非通電時には配管450を配管461に連通させ、通電時には配管450を配管463に連通させるように切替を行う。配管461には廃液タンク462が設けられ、配管463には挿入剤廃液タンク464が設けられている。これにより、挿入剤以外のミリQ水、バッファなどの薬液を3方電磁弁455の切替により廃液タンク462に導き、挿入剤を挿入剤廃液タンク464に導くことができる。これにより、挿入剤を分別回収することが可能となる。
【0120】
なお、各電磁弁の間は、テフロンチューブ等の配管で接続してもよいが本実施形態では、チップカートリッジ11に対してその上流側と下流側でそれぞれ電磁弁と流路を一体型構造としたマニフォールド構造で構成している。これにより、配管内の容量が少なくなることから、必要な薬液量を大幅に削減できる。また、配管内における薬液流れが安定するため、検出結果の再現性や安定性が向上する。
【0121】
この図15に示す送液系13を用いた送液工程を図16のフローチャートを用いて説明する。まず、作用極501上に固定化された核酸プローブと試料とのハイブリダイゼーション反応をセル115内で実行させる(s21)。このハイブリダイゼーション反応の実行では、例えばチップカートリッジ11の底面、すなわちプリント基板22の底面が45℃程度となるように温度制御系14を制御し、例えば60分間保持する。
【0122】
このハイブリダイゼーション反応と並行して、薬液ラインの立ち上げを行う(s22)。具体的には、3方電磁弁441及び445を制御することによりバイパス配管446側を利用し、3方電磁弁433を通電させることで挿入剤供給源431から挿入剤を例えば10秒程度供給する。3方電磁弁455は通電させ、配管450からの挿入剤は挿入剤廃液タンク464に収容される。次いで、挿入剤とエアを交互に例えば5秒ずつ程度繰り返し配管435からバイパス配管446に導入する。次いで、エアのみを配管435からバイパス配管446に導入する。この段階で廃液タンク462に廃液切替を行う。そして、バッファをバッファ供給源421からバイパス配管446に導入する。その後、ミリQ水とエアを交互に例えば5秒ずつ程度繰り返し配管435からバイパス配管446に導入する。
【0123】
この薬液ラインの立ち上げが終了し、ハイブリダイゼーション反応が終了すると、配管内洗浄が行われる(s23)。配管内洗浄は、例えば温度制御系14によりプリント基板22の温度を25℃程度とした上で、ミリQ水でバイパス配管446をパージした後、エアとミリQ水を交互に例えば5秒ずつ程度繰り返し導入する。次に、チップカートリッジ内洗浄が行われる(s24)。チップカートリッジ内洗浄は、薬液導入経路をバイパス配管446から配管440に切り替え、エアとミリQ水を交互に例えば5秒ずつ程度繰り返し配管440に導入する。そして、液センサ443によりチップカートリッジ11内に水が充填されたことを確認した上で、導入経路をバイパス配管446に切り替える。
【0124】
次に、配管内バッファパージが行われる(s25)。配管内バッファパージでは、バッファとミリQ水が混合しないようにまずエアをバイパス配管446に導入する。次に、エアとバッファを交互に例えば5秒ずつ程度繰り返しバイパス配管446に導入する。そして、バイパス配管446に設けられた液センサ447によりバイパス配管446がバッファで置換されたことを確認する。次に、チップカートリッジ内バッファ注入が行われる(s26)。チップカートリッジ内バッファ注入では、まずバイパス配管446から配管440に切り替え、エアとバッファを交互に例えば5秒ずつ程度繰り返しチップカートリッジ11内に導入する。次に、チップカートリッジ11へのバッファ充填が行われる(s27)。バッファ充填では、液センサ443でチップカートリッジ11内の状態を監視しながらバッファをチップカートリッジ11に導入し、例えば60℃で30分間放置することにより、不要な試料の洗浄を行う(s28)。不要な試料の洗浄工程後、配管440からバイパス配管446に切り替え、ミリQ水を導入することにより配管内洗浄が行われる(s29)。この配管内洗浄では、さらにエアとミリQ水が交互に例えば5秒程度ずつ繰り返し導入される。
【0125】
次に、チップカートリッジ内洗浄が行われる(s30)。チップカートリッジ内洗浄では、バイパス配管446からチップカートリッジ11に切り替えられ、エアと水が交互に例えば5秒程度ずつ繰り返し導入される。その後、液センサ443によりチップカートリッジ11内にミリQ水が充填されたことを確認した上でバイパス配管446に切り替えられる。次に、測定が開始される。測定では、まず配管内挿入剤パージが行われる(s31)。この配管内挿入剤パージでは、バイパス配管446にエアを導入しながら廃液を挿入剤廃液タンク464に切り替える。次に、エアと挿入剤を交互に例えば5秒程度ずつ繰り返しバイパス配管446に供給した後、バイパス配管446が挿入剤で置換されたかを液センサ447を用いて検出する。
【0126】
次に、チップカートリッジ11内挿入剤注入が行われる(s32)。この工程では、先ずバイパス配管446からチップカートリッジ11側に切り替えられた後、エアと挿入剤が交互に例えば5秒ずつ程度繰り返し導入される。次に、液センサ443での監視の下、チップカートリッジ11への挿入剤充填が行われる(s33)。その後測定が行われる(s34)。測定が終了すると、バイパス配管446にミリQ水を導入し、次いでエアとミリQ水を交互に例えば5秒程度ずつ導入した後エアで置換して配管内洗浄が行われる(s35)。
【0127】
最後に、バイパス配管446からチップカートリッジ11に置換してエアとミリQ水を交互に例えば5秒程度ずつ導入し、チップカートリッジ11内をさらにエアで置換してチップカートリッジ内洗浄が行われ(s36)、一連の送液工程が終了する。
【0128】
このように、図15の送液系13を用いた図16に示した工程によれば、薬液の置換を効率的に行うため、薬液/エア/薬液/エアというように、配管内をエアと薬液が交互に流れるシーケンスを作って送液することができる。このような送液方法とすることにより、薬液交換において、古い薬液と新しい薬液の混合を最小限にすることが可能である。その結果、液交換の遷移状態が減り、最終的な電気化学特性の再現性を向上することができる。更に、薬液交換の効率化による、送液時間の短縮・薬液量の削減を実現することが出来る。また、このような薬液/エアシーケンス送液により、反応セル115内の薬液濃度を常に一定に保つことが出来るので、電流特性の面内均一性が向上、即ち検出の信頼性が向上する。
【0129】
また、セル115内への薬液充填の方法として、チップカートリッジ出口バルブとしての2方電磁弁444を閉じた状態で、チップカートリッジ下流側の配管440内を減圧状態にして(ポンプ454を動作させた状態で、2方電磁弁451を制御することにより、減圧領域452を減圧してから2方電磁弁453を制御して、減圧領域452の減圧状態を保つ)から、2方電磁弁444を開けることにより、チップカートリッジ反応セル115内に薬液を導入することができる。なお、この図16に示した送液のタイミングはほんの一例にすぎず、測定の目的、対象、条件などに応じて種々変更することができる。
【0130】
図17は、測定系12の具体的な構成を示す図である。この図17に示す測定系12は、対極502の入力に対して参照極503の電圧をフィードバック(負帰還)させることにより、セル115内の電極や溶液などの各種条件の変動によらずに溶液中に所望の電圧を印加する3電極方式のポテンシオ・スタット12aである。より具体的には、ポテンシオ・スタット12aは、作用極501に対する参照極503の電圧をある所定の特性に設定されるように対極502の電圧を変化させ、挿入剤の酸化電流を電気化学的に測定する。作用極501は、標的核酸とは相補的な標的核酸を有する核酸プローブが固定化される電極であり、セル115内の反応電流を検出する電極である。対極502は、作用極501との間に所定の電圧を印加してセル115内に電流を供給する電極である。参照極503は、参照極503と作用極501との間の電圧を所定の電圧特性に制御すべく、その電極電圧を対極502にフィードバックさせる電極であり、これにより対極502による電圧が制御され、セル115内の各種検出条件に左右されない精度の高い酸化電流検出が行える。電極間を流れる電流を検出するための電圧パターンを発生させる電圧パターン発生回路510が配線512bを介して参照極503の参照電圧制御用の反転増幅器512(OPc)の反転入力端子に接続されている。
【0131】
電圧パターン発生回路510は、制御機構15から入力されるデジタル信号をアナログ信号に変換して電圧パターンを発生させる回路であり、DA変換器を備える。配線512bには抵抗Rsが接続されている。反転増幅器512の非反転入力端子は接地され、出力端子には配線502aが接続されている。反転増幅器512の反転入力端子側の配線512bと出力端子側の配線502aは配線512aで接続されている。この配線512aには、フィードバック抵抗Rff及びスイッチSWfからなる保護回路500が設けられている。配線502aは端子Cに接続されている。端子Cは、チップ21上の対極502に接続されている。対極502が複数設けられている場合には、各々に対して並列に端子Cが接続される。これにより、1つの電圧パターンにより複数の対極502に同時に電圧を印加することができる。配線502aには、端子Cへの電圧印加のオンオフ制御を行うスイッチSW0が設けられている。
【0132】
反転増幅器512に設けられた保護回路500により、対極502に過剰な電圧がかからないような構成となっている。従って、測定時に過剰な電圧が印加され、溶液が電気分解されてしまうことにより、所望の挿入剤の酸化電流検出に影響を及ぼすことが無く、安定した測定が可能となる。端子Rは配線503aにより電圧フォロア増幅器513(OPr)の非反転入力端子に接続されている。電圧フォロア増幅器の反転入力端子は、その出力端子に接続された配線513bと配線513aにより短絡している。配線513bには抵抗Rfが設けられており、配線512bの抵抗と、配線512aと配線512bの交点との間に接続されている。これにより、電圧パターン発生回路510により生成される電圧パターンに、参照極503の電圧をフィードバックさせた電圧を反転増幅器512に入力させ、そのような電圧を反転増幅した出力に基づき対極502の電圧を制御する。
【0133】
端子Wは配線501aによりトランス・インピーダンス増幅器511(OPw)の反転入力端子に接続されている。トランス・インピーダンス増幅器511の非反転入力端子は接地され、その出力端子に接続された配線511bと配線501aとは配線511aにより接続されている。配線511aには抵抗Rwが設けられている。このトランス・インピーダンス増幅器511の出力側の端子Oの電圧をVw、電流をIwとすると、Vw=Iw・Rwとなる。この端子Oから得られる電気化学信号は制御機構15に出力される。作用極501は複数あるため、端子W及び端子Oは作用極501のそれぞれに対応して複数設けられる。複数の端子Oからの出力は後述する信号切替部により切り替えられ、AD変換されることにより各作用極501からの電気化学信号をデジタル値としてほぼ同時に取得することができる。なお、端子W及び端子Oの間のトランス・インピーダンス増幅器511などの回路は、複数の作用極501で共有してもよい。この場合、配線501aに複数の端子Wからの配線を切り替えるための信号切替部を備えればよい。
【0134】
この図17のポテンシオ・スタット12aを用いた測定系12の効果を従来のポテンシオ・スタットを用いた場合と比較して説明する。従来のポテンシオ・スタットを図18に示す。図18に示すように、従来のポテンシオ・スタット12a’の構成は、図17の示すポテンシオ・スタット12aとほぼ共通する。異なるのは、反転増幅器512に保護回路500が設けられていない点である。電圧パターン発生回路510の出力端子Iにおける電圧をVrefin、端子Cにおける電圧をVc、端子Rの電圧をVrefoutとする。参照極503のフィードバックにより、Vrefout=Rf/Rs・Vrefinが成立する。
【0135】
次に、測定データに基づきコンピュータ16により信号解析を行う測定データ解析手法の一例を説明する。ここでは、標的核酸のSNP位置の塩基がG型(ホモ型)か、T型(ホモ型)か、あるいはGT型(ヘテロ型)かを判定する遺伝子型判定の解析手法を図19のフローチャートを用いて説明する。なお、図5では特に示していないが、コンピュータ16のメインプロセッサ16aは、遺伝子型判定フィルタリング、遺伝子型判定処理、判定結果出力などを行うための複数の指令からなる解析プログラムを実行することにより、型判定フィルタリング、型判定処理、判定結果出力を実行する。また、前述した制御機構15の制御は、別途制御プログラムが設けられている。これら解析プログラムや制御プログラムは、コンピュータ16に設けられた記録媒体読取装置が記録媒体に格納された解析プログラムを読み取ることにより実行されてもよいし、コンピュータ16に設けられた磁気ディスクなどの記憶装置から読み出されて実行されてもよい。
【0136】
この測定データ解析を行う前提として、4塩基置換型のSNPを例として説明すると、まず、検出の目的とされる標的核酸をSNP位置の塩基をA,G,C,Tとして4種類用意し、その標的核酸と相補的な塩基配列を有する核酸プローブを各種類について複数ずつ各作用極501に固定化させる。また、これら4種類の核酸プローブとは異なる塩基配列を有する核酸プローブ(以下、ネガティブコントロールと称する)を別の作用極501に複数固定化させる(s61)。なお、一つの作用極501に固定化される核酸プローブの種類は原則1つである。
【0137】
次に、上述した核酸プローブが固定化されたチップに検体標的核酸を含む試料を注入してハイブリダイゼーション反応などを生じさせ(s62)、バッファによる洗浄、挿入剤の導入による電気化学反応を経て測定系12を用いて代表電流値を算出する(s63)。代表電流値とは、各核酸プローブのハイブリダイゼーション反応の発生を定量的に把握するために有効な数値を指し、一例としては、検出される信号の電流値の最大値(ピーク電流値)などが該当する。ピーク電流値の算出は、各作用極501上に固定化された核酸プローブにハイブリダイゼーションした2本鎖核酸に結合した挿入剤からの酸化電流信号を測定し、その電流値のピークを得ることで導出される。ピーク電流値の検出には、挿入剤からの酸化電流信号以外のバックグラウンド電流を差し引くことにより行うのが望ましい。もちろん、信号処理の精度や目的に応じていかなる値を代表電流値と定めてもよいが、例えば酸化電流信号の積分値などが該当する。もちろん、電流値に限らず、電圧値、これら電流や電圧に対して数値解析処理を行った値などを代表値と定めることもできる。
【0138】
SNP位置の塩基をA,G,C,T型とした標的核酸に関する測定データ、すなわち代表電流値をそれぞれXa、Xg、Xc、Xtと定義し、ネガティブコントロールの核酸プローブの代表電流値をXnと定義する。また、代表電流値は、各種別に応じて複数得られるので、それぞれを互いに識別すべく、1番目のXaをXa1、2番目のXaをXa2、…というように定義する。また、SNP位置の塩基をA,G,C,T型とした標的核酸の得られる代表電流値の個数をna、ng、nc、nt個、ネガティブコントロールについて得られる代表電流値の個数をnn個と定義する。
【0139】
次に、得られた代表電流値Xa、Xg、Xc、Xt、Xnのうち、明らかに異常なデータを除去すべく、型判定フィルタリング処理を実行する(s64)。この型判定フィルタリング処理のフローチャートを図20に示す。この図20の型判定フィルタリング処理は、Xa、Xg、Xc、Xt、Xnについてそれぞれ別個に行われる。例えばXaを例にとると、Xaについて得られたna個の代表電流値のうち、明らかに異常なデータと思われる代表電流値をこの型判定フィルタリングで排除する。Xg、Xc、Xt、Xnについても同様に行われる。なお、この図20の説明では、データ種別に応じて同様の処理が行われるため、Xaのフィルタリングを例に説明する。具体的には、図20に示すように、まず測定グループまず測定グループの全測定データの設定、すなわちデータセットの設定を行う(s81)。例えばXaであれば、Xa1、Xa2、…、Xanaをデータセットとして設定する。
【0140】
次に、これら測定データXa1、Xa2、…、XanaについてのCV値(以下、CV0)を算出する(s82)。このCV0は、測定データXa1、Xa2、…、Xanaの標準偏差を平均値で除算することにより得られる。そして、得られた値CV0が10%、すなわち0.1以上か否かを判定する(s83)。10%以上であれば、測定データのうち最小値を除いたna−1個のデータセットのCV値(以下、CV1)を算出する(s84)。10%未満であれば、明らかに異常なデータは無いと判定し、後述する型判定に進む。CV1を算出した後、CV0≧2×CV1か否かを判定する(s85)。この不等式が成立すれば、(s86)に進み、さらに測定データのうち最小値を除いたna−2個のデータセットを新たにデータセットと定義し、(s82)に戻り、異常データのフィルタリングを繰り返し行う。不等式が成立しなければ、最小値側ではなく最大値側に異常なデータがあると判定し、測定データのうち最大値を除いたna−2個のデータセットのCV値(以下、CV2)を算出する(s87)。そして、CV0≧2×CV2が成立するか否かを判定する(s88)。成立すれば、さらに測定データのうち最大値を除いたna−3個のデータセットを新たにデータセットと定義し、(s82)に戻り、異常データのフィルタリングを繰り返し行う。成立しなければ、明らかに異常なデータは無いと判定し、後述する型判定に進む。以上に示した型判定フィルタリングをXg、Xc、Xt、Xnについても行う。
【0141】
次に、得られた型判定フィルタリング結果を用いて型判定処理を実行する(s65)。この型判定処理の一例を図21のフローチャートを用いて説明する。なお、図21の例では、標的核酸のSNP位置の塩基がG型か、T型か、あるいはGT型かを判定する型判定の場合を示している。また、この型判定処理は、大別して最大グループ判定アルゴリズム、2標本t検定アルゴリズムからなる。図21に示すように、まず各グループ毎の代表電流値の平均値を抽出する(s91)。グループとは、Xa、Xg、Xc、Xt、Xnなど、標的核酸が異なるものは別グループ、標的核酸が一致するものは同一グループとする。(s64)で型判定フィルタリングにより明らかに異常なデータが排除された測定データが抽出される。もちろん、(s64)の型判定フィルタリング以外のフィルタリングにより以上データを排除した測定データを抽出してもよいし、何らフィルタリングを行わない測定データを抽出してもよい。なお、代表電流値の平均値ではなく、これら統計値から統計処理して得られた別の統計処理値を求めてもよい。標的核酸のSNP位置の塩基がA,G,C,Tの場合をそれぞれグループA〜T、ネガティブコントロールをグループNとして説明する。また、得られた平均値をXa、Xg、Xc、Xt、Xnそれぞれのグループについて、Ma、Mg、Mc、Mt、Mnとする。
【0142】
次に、得られた平均値Ma、Mg、Mc、Mt、Mnについて、最大はグループGの平均値Mgか否かを判定する(s92)。最大であれば(s93)へ、最大でなければ(s97)に進む。(s97)では、平均値Ma、Mg、Mc、Mt、Mnについて、最大はグループTの平均値Mtか否かを判定する。最大であれば(s98)へ、最大でなければグループG、Tともに最大でないこととなり、判定不能として再検査が行われる。(s93)では、グループGの測定データXg1、Xg2、…と、グループNの測定データXn1、Xn2、…との間に差があるか否かを判定する。差があるか否かは、例えば2標本t検定が用いられる。具体的には、2標本T検定で求めた確率Pと有意水準αとの代表関係を比較し、
H0:P≧αならば、有意差無し(帰無仮説)
H1:P<αならば、有意差あり(対立仮説)
と判定する。有意水準αは、コンピュータ16を用いてユーザが設定できる。この(s93)の例では、グループGの測定データとグループNの測定データの値に差があるかというH1の設問を提起し、この設問に対し、これら2つのグループの間に差が無いと仮定するH0という仮説を設定する。そして、グループGの測定データの平均値MgとグループNの測定データの平均値Mnに2つのグループの差が要約されているとして、確率を求める。確率の算出は、グループGの統計値Xg1、Xg2、…とグループNの統計値Xn1,Xn2、…に基づき統計定数t、自由度φを算出し、t分布の確率密度変数の積分値から確率Pを求める。得られた確率Pについて、P≧αなら、H0を棄却できず、判定を保留する。すなわち、差が無いと判定する。P<αならH0を棄却し仮説H1を採用し、差があると判定する。このようにして判定結果が「差がある」と判定された場合には(s94)に進み、「差が無い」と判定された場合には判定不能として再検査される。
【0143】
(s94)では、グループGとグループAについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があれば(s95)に進み、差が無ければ判定不能として再検査される。(s95)では、グループGとグループCについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があれば(s96)に進み、差が無ければ判定不能として再検査される。(s96)では、グループGとグループTについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があればグループG型と決定する。グループG型が平均値最大、かつ他の測定グループと差があるためである。差が無ければグループGT型と決定する。グループG型が平均値最大であるが、グループG型とグループT型に測定結果に差が無いからである。(s98)では、グループTとグループNについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があれば(s99)に進み、差が無ければ判定不能として再検査される。(s99)では、グループTとグループAについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があれば(s100)に進み、差が無ければ判定不能として再検査される。(s100)では、グループTとグループCについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があれば(s101)に進み、差が無ければ判定不能として再検査される。(s101)では、グループTとグループGについて(s93)と同様の2標本t検定を用いて2つのグループに差があるか否かを判定する。差があればグループT型と決定する。グループT型が平均値最大、かつ他の測定グループと差があるためである。差が無ければグループGT型と決定する。グループT型が平均値最大であるが、グループT型とグループG型に測定結果に差が無いからである。
【0144】
以上の判定結果はコンピュータ16に設けられた図示しない表示装置に表示される(s66)。このような型判定アルゴリズムを用いることにより、ヘテロ型の判定をすることが可能となる。
【0145】
なお、図19〜図21では、G型、T型あるいはGT型のいずれに該当するかを判定する手法を示したが、A型,G型,C型,T型のうちのいずれか2つの型、あるいはそれらのヘテロの判定に適用できることはもちろんである。また、必ずしもA型,G型,C型,T型のグループの4種類について測定データを取得する必要は無く、SNPの考えられ得る2つの塩基に関する2グループのみについて取得するのみでもよいし、その2グループにネガティブコントロールの1グループを加えてもよい。
【0146】
前述した個体識別検査装置を用いた個体識別の自動解析手法について図22のシーケンス図を用いて説明する。図22に示すように、まずコンピュータ16を用いて自動解析のための自動解析条件パラメータの設定を行い、設定された自動解析条件パラメータに基づく自動解析の実行をコンピュータ16にユーザが指示する(s301)。自動解析条件パラメータは、制御機構15を制御するための制御パラメータである。制御機構15で用いられる制御パラメータは、測定系12を制御するための測定系制御パラメータ、送液系13を制御するための送液系制御パラメータ、温度制御系14を制御するための温度制御系制御パラメータからなる。測定系制御パラメータは入力設定パラメータであり、初期値、刻み値、終了値、測定時間間隔、動作モードからなる。
【0147】
送液系制御パラメータは、図15に示す電磁弁403,413,423,433,441,442,444,445,451,453,463を制御する電磁弁制御パラメータ、液センサ443,447を制御するセンサ制御パラメータ、ポンプ454を制御するポンプ制御パラメータを有する。これら電磁弁制御パラメータ、センサ制御パラメータ、ポンプ制御パラメータは、図16の(s22)〜(s36)に示すような一連の工程をシーケンシャルに実行するための条件として、制御対象の制御量、制御対象の制御タイミング、制御対象を制御する制御条件などをパラメータの詳細として含む。
【0148】
温度制御パラメータは、原則として送液系制御パラメータに付随して与えられるものである。すなわち、送液系制御パラメータを設定することにより、送液系13の動作に対応して温度制御パラメータが設定される。これにより、送液系13と連動した温度制御系14の温度制御が可能になる。
【0149】
自動解析の実行により、自動解析条件パラメータは、制御機構15に送信される(s302)。制御機構15は、受信した自動解析条件パラメータのうち、測定系制御パラメータに基づき測定系12を制御し、送液系制御パラメータに基づき送液系13を制御し、温度制御系制御パラメータに基づき温度制御系14を制御する。また、制御機構15はこれら測定系12,送液系13及び温度制御系14を制御するタイミングを各制御パラメータに含まれる制御タイミングや制御条件に基づき管理する。従って、制御のシーケンスはユーザにより設定された自動解析条件パラメータにより自由に定められるが、この図22では代表的な一例について説明する。
【0150】
なお、この自動解析とは別に、ユーザはチップカートリッジ11を用意する。これはまず所望の核酸プローブが作用極501に固定化された個体識別チップ21が封止されたプリント基板22を基板固定ねじ25によりチップカートリッジ11の支持体111に固定化し、チップカートリッジ11への取り付けを行っている(s401)。そして、上蓋固定ねじ117によりシール材24aが一体化されたチップカートリッジ上蓋112と支持体111を固定化し、セル115が形成された状態で準備されている(s402)。チップカートリッジ11に対して、試料注入口119から試料を注入する(s403)。チップカートリッジ11を装置本体に装着して、開始操作を行うことにより、ハイブリダイゼーション反応(s21)が開始される。なお、注入する試料の容量は、セル115の容積よりも若干多い量にするのが望ましい。これにより、セル115内をエア残り無く試料で完全に充填することができる。
【0151】
制御機構15は、コンピュータ16から受信した測定系制御パラメータに基づき測定系のタイミングの制御を開始する(s303)。また、制御機構15は、コンピュータ16から受信した送液系制御パラメータに基づき送液系13の各構成要素を順次制御する(s304)。また、図22では特に図示しないが、この送液系13の制御と連動して、温度制御系制御パラメータに基づき温度制御系14の温度制御を行う。この制御により、送液系13は図16の(s21)〜(s36)(s34を除く)に示したハイブリダイゼーション反応を含む送液工程を自動実行する(s305)とともに、その送液工程で指定された温度に個体識別チップ21が設定されるように温度制御系14を自動制御する。制御機構15は、この送液工程の中途の(s34)の測定工程のタイミングに同期して測定系12に測定指令を行う(s305)。すなわち、送液工程の(s34)の測定工程のタイミングで、制御機構15の初期値レジスタ151、刻み値レジスタ152、終了値レジスタ153、インターバルレジスタ154及び動作設定レジスタ155に初期値、刻み値、終了値、測定時間間隔、動作設定モードを格納する。なお、前述の(s303)の測定系タイミング制御をこの(s305)と同時に行わせてもよい。
【0152】
測定系12は、この測定指令に基づき例えば電圧パターンを発生させて測定を行い(s306)、得られた測定信号は端子Oから制御機構15に出力される(s307)。制御機構15は、受信した測定信号を信号処理し、測定データとしてデータメモリ15bに格納する(s308)。この測定データは、コンピュータ16にローカルバス17を介して出力される(s309)。コンピュータ16はこの測定データを受信する(s310)。
【0153】
このようにして必要な測定データが得られると、コンピュータ16は測定データに基づき図20で示される(s64)の型判定フィルタリングを実行する。型判定フィルタリングが終了すると、フィルタリングされたデータに基づき図21に示される型判定処理を実行する(s65)。そして、得られた判定処理結果をコンピュータ16に備え付けの表示装置に表示する(s66)。
【0154】
以上の型判定を、識別されるべき個体と、試料のそれぞれについて行い、その結果のデータがコンピュータ16に保存される。コンピュータ16は、それらの結果を比較し、一致するか否かを判定する。また、予め入力されたアレル頻度、遺伝子型頻度のデータから、判定結果の信頼度を決定し、判定結果とともに表示してもよい。
【0155】
なお、コンピュータ16と制御機構15の処理の分担は上述したものに限定されない。例えば、測定系12、送液系13、温度制御系14がコンピュータ16からの指令を解釈し各構成要素を実行するプロセッサを有していれば、制御機構15は省略されてもよい。
【0156】
測定系12、送液系13、温度制御系14のタイミングの管理は、これら測定系12、送液系13、温度制御系14がタイミングを管理するプロセッサを有していれば、そのプロセッサの管理するタイミングに基づき各処理を実行する。この場合、コンピュータ16はこれら測定系12、送液系13,温度制御系14に自動解析条件パラメータを送信すれば、タイミングを管理する必要が無い。また、コンピュータ16が測定系12、送液系13,温度制御系14、制御機構15のタイミング制御を行ってもよい。
【0157】
また、試料注入口119は送出ポート116bに連通させる例を示したが、送入ポート116aに連通させるようにしてもよい。また、個体識別チップ21上の作用極501やボンディングパッド221はTiやAuの積層構造で示したが、他の材料を用いた電極やパッドを用いてもよい。また、作用極501の配置は図14に示したものに限定されない。作用極501、対極502、参照極503の各々の電極数も図示したものに限定されない。
【0158】
また、送液系13は図15に示したものに限定されない。例えば、反応の種類に応じてエア、ミリQ水、バッファ、挿入剤以外の薬液や気体を供給する供給系を付加することにより、セル115内におけるより複雑な反応を実行させることができる。また、各配管同士の薬液やエアの供給経路、供給量の制御は、電磁弁以外で行ってもよい。図16に示した送液系13の動作はほんの一例にすぎず、反応の目的などに応じて種々変更することができる。
【0159】
また、流路601a〜601dは図9(b)に示したような配置に限定されない。例えば検出用流路601aがセル孔部115aと115bを結んだ直線に平行に配列されるようにしてもよいし、各流路601a〜601dは直線ではなく曲線状の流路であってもよい。更に、送入ポート116a及び送出ポート116bが、セル底面に対して垂直に伸びている例を示したが、これに限定されるものではなく、セル底面に対して平行に伸びる構成になっていてもよい。
【0160】
以上記載した本発明の実施態様に拠れば個体識別検査とその結果の判定を自動で実行することができる。
【実施例】
【0161】
表1に、選択された1塩基多型の例を表す。それぞれの1塩基多型に対して、アジア人(中国人または日本人)をサンプルとした場合における、各塩基の頻度(Allele frequency)及び、遺伝子型頻度(Genotype frequency)が記載されている。
【0162】
また、表2に、表1の各遺伝子型頻度から算出されたヘテロ型頻度(estimated heterozygosity)と、各遺伝子型(C/C、T/T、C/T)の中で最も大きい頻度(Max value)、最も小さい頻度(Minimum value)、及び、それらの逆数による識別能(power of identification)(何人に一人と言うことができるか)を表した。それぞれの識別能の最下段は、各識別能を乗算したものである。従って、表1の22個のSNPについては、最も頻度の高い組み合わせであっても約8.38×106人(約838万人)に一人、最も頻度の低い組み合わせであれば、5.22×1019人に一人が同じ遺伝子型を有するということが分かる。
【表1】
【0163】
【表2】
【0164】
なお、本発明の詳細な説明において、遺伝子型の組み合わせが存在する確率を算出する方法として、遺伝子型の頻度を乗算した後に逆数を取ると記載した。しかし、本実施例のように各SNPについて遺伝子型の逆数を識別能として予め算出しておき、後から乗算してもよい。
【0165】
次に、上記の表に示したSNPのうち、任意のSNPを5つ選択し、該SNPを検出するための核酸プローブを電極に固定したアレイを作製した。表3に用いた核酸プローブの配列を示す。
【表3】
【0166】
各核酸プローブ(30ug/mL)、NaCl (400mM)を含む溶液をアレイの電極上にスポットし、1時間静置した。その後、蒸留水で洗浄し、風乾させ、核酸固定化チップとした。
【0167】
標的核酸はPCRで増幅される領域を合成し、それをモデルサンプルとして使用した。表4に、標的核酸として用いた合成オリゴの配列を示す。
【表4−1】
【0168】
【表4−2】
表4に示す各合成核酸を1×1014copy/mL となるように2×SSC溶液に溶解し、標的核酸溶液とした。表4に示した合成核酸のうち、多型部位においてGを含む核酸をサンプル1とし、多型部位においてAを含む核酸をサンプル2として調製した。調製した標的核酸溶液50μLに作製したアレイを浸漬し、アレイ上の核酸プローブと標的核酸溶液中の標的核酸とをハイブリダイズさせた。0.2×SSC溶液(35℃)に40分間浸漬し、非特異的に結合している標的核酸を洗浄した。超純水で水洗後に風乾した。Hoechst 33258 (50uM) を20mMリン酸緩衝液(100mM NaCl)に溶解し、この溶液に風乾したチップを浸漬し、5分後に電気化学的測定を行った。Hoechst33258の酸化ピークの高さを検出し、ピーク電流値とした。
【0169】
各電極から得られたピーク電流値を図23に示した。図23(a)は、サンプル1の試験結果である。サンプル1は明らかに全てC/Cホモ型を示した。よって、表1の値から、この遺伝子型を有する個体は696人に一人存在するという判定が可能となる。
【0170】
一方、図23(b)に示したサンプル2は、全てT/Tホモを示しており、表1の値から5979人に一人という判定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】2塩基置換型のSNPのアレル頻度と遺伝子型頻度との関係図。
【図2】3塩基置換型のSNPのアレル頻度と遺伝子型頻度との関係図。
【図3】4塩基置換型のSNPのアレル頻度と遺伝子型頻度との関係図。
【図4】存在確率算出の例を示した図。
【図5】本発明の第1実施形態に係る個体識別検査システムの全体構成を示す概念図。
【図6】同実施形態に係るチップカートリッジの構成の詳細を示す図。
【図7】同実施形態に係る上蓋固定ねじで固定する前の支持体とチップカートリッジ上蓋を示す図。
【図8】同実施形態に係る個体識別チップを実装したプリント基板の詳細な構成を示す図。
【図9】同実施形態に係るセル及びセルに通じる薬液供給系統を示す図。
【図10】同実施形態に係るセル近傍の各構成要素のより詳細な構成を示す図。
【図11】同実施形態に係るセルの上面図。
【図12】同実施形態に係るセルの変形例の上面図。
【図13】同実施形態に係る個体識別チップ及びプリント基板の製造方法の工程断面図。
【図14】同実施形態に係る個体識別チップの上面図。
【図15】同実施形態に係る送液系の具体的な構成の一例を示す図。
【図16】同実施形態に係る送液系を用いた個体識別検査のための送液工程のフローチャートを示す図。
【図17】同実施形態に係る測定系の具体的な構成を示す図。
【図18】従来のポテンシオ・スタットの構成を示す図。
【図19】同実施形態に係る測定データ解析手法の一例を示す図。
【図20】同実施形態に係る型判定フィルタリング処理のフローチャートを示す図。
【図21】同実施形態に係る型判定処理の一例を示す図。
【図22】同実施形態に係る個体識別検査装置を用いた個体識別の自動解析手法のシーケンス図。
【図23】遺伝子型の検出例の測定結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0172】
1…個体識別検査システム、10…測定ユニット、11…チップカートリッジ、12…測定系、12a,12b,12c,12d,12e…ポテンシオ・スタット、13…送液系、14…温度制御系、15…制御機構、16…コンピュータ、17…ローカルバス、21…個体識別検査チップ、22…プリント基板、22a…電気コネクタ、23…封止樹脂、24a,24b…シール材、25…基板固定ねじ、110…チップカートリッジ本体、111…支持体、112…チップカートリッジ上蓋、112a…流路状凸部、113a,113b…インタフェース部、114a,114b…流路、115…セル、115a,115b…セル孔部、115c,115e,115f,115g,115h…直線、115d…ザグリ孔、116a…送入ポート、116b…送出ポート、117…上蓋固定ねじ、117a…ねじ孔、119…試料注入口、120…蓋、121…シール材、500…保護回路、501…作用極、502…対極、503…参照、510…電圧パターン発生回路、601…流路、601a…検出用流路、601b,601c…ポート接続流路、601d…流路接続流路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体が有する核酸配列と、試料とする核酸配列との一致を判定する個体識別方法において、
識別されるべき対象個体が属する集団に存在する一塩基多型群から、複数の一塩基多型を選択する工程と、
前記対象個体が有する核酸配列、及び試料由来の核酸配列中の、前記選択された複数の一塩基多型における遺伝子型を決定して、それらを比較する工程とを具備し、
前記選択する工程においては、下記(i)〜(iii)の条件の何れか一つを満たす一塩基多型を選択することを特徴とする、個体識別方法:
(i)2塩基置換型の一塩基多型において、取り得る2つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX及びYとし、X+Y=1、Y≦Xとしたとき、
0.5≦X≦0.7 である;
(ii)3塩基置換型の一塩基多型において、取り得る3つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y及びZとし、X+Y+Z=1、Z≦Y≦Xとしたとき、
1/3≦X 且つ (1-X)/2≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3
であるか又は
(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9である;及び
(iii)4塩基置換型の一塩基多型において、取り得る4つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y、Z及びWとし、X+Y+Z+W=1、W≦Z≦Y≦Xとしたとき、
1/4≦X 且つ (1-X)/3≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3
であるか又は
(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9である。
【請求項2】
前記(i)におけるアレル頻度が、
0.55≦X<0.7 である、請求項1に記載の個体識別方法。
【請求項3】
前記(i)におけるアレル頻度が、
0.6≦X<0.7 である、請求項1に記載の個体識別方法。
【請求項4】
前記(i)におけるアレル頻度が、
0.65≦X≦0.68 である、請求項1に記載の個体識別方法。
【請求項5】
前記対象個体が有する遺伝子型において、前記選択された全ての一塩基多型について、アレル頻度から算出される遺伝子型頻度を乗算して逆数をとることによって、該対象個体が有する遺伝子型の組み合わせが前記集団内に存在する確率を算出し、前記個体識別の結果の信頼度を判定する工程をさらに具備する、請求項1〜4の何れか一項に記載の個体識別方法。
【請求項6】
個体が有する核酸配列と、試料とする核酸配列との一致を判定する個体識別検査に用いるための、核酸プローブが基体に固定されたアレイにおいて、
該核酸プローブが、一塩基多型を含む標的配列と相補的な配列を有することを特徴とし、
該一塩基多型が、識別されるべき対象個体が属する集団に存在する一塩基多型群から、下記(i)〜(iii)の条件の何れか一つを満たすものであることを特徴とするアレイ:
(i)2塩基置換型の一塩基多型において、取り得る2つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX及びYとし、X+Y=1、Y≦Xとしたとき、
0.5≦X≦0.7 であること;
(ii)3塩基置換型の一塩基多型において、取り得る3つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y及びZとし、X+Y+Z=1、Z≦Y≦Xとしたとき、
1/3≦X 且つ (1-X)/2≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3
であるか又は
(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9であること;及び
(iii)4塩基置換型の一塩基多型において、取り得る4つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y、Z及びWとし、X+Y+Z+W=1、W≦Z≦Y≦Xとしたとき、
1/4≦X 且つ (1-X)/3≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3
であるか又は
(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9であること。
【請求項7】
請求項6に記載のアレイと、
該アレイの基体上に設けられ、薬液又はエアの流れる方向に沿って設けられた流路と、
前記基体上に前記流路に沿って複数設けられ、前記プローブが固定化される作用極と、
前記流路の内周面に前記作用極に対応して各々が配置され、前記作用極との間に電位差を与える対極と、
前記流路の内周面に前記作用極に対応して各々が配置され、前記作用極に検出電圧をフィードバックさせる参照極と、
前記流路に開口し、前記流路の上流側から前記流路内に薬液又はエアを送入する送入ポートと、
前記流路に開口し、前記流路の下流側から前記流路内の薬液又はエアを送出する送出ポートと、
前記流路内に試料を注入する試料注入口と
を具備してなる個体識別検査装置。
【請求項8】
請求項7に記載の個体識別検査装置と、
前記送入ポートに連通し、該送入ポートを介して前記流路内に薬液又はエアを供給する第1の配管と、前記第1の配管の薬液又はエアの流量を制御する第1の弁とを備えた供給系と、前記送出ポートに連通し、該送出ポートを介して前記流路内から薬液又はエアを排出する第2の配管と、前記第2の配管の薬液又はエアの流量を制御する第2の弁と、第2の配管に設けられ、前記流路内から薬液又はエアを吸い上げるポンプとを備えた排出系と、
前記作用極と対極との間に電位差を与える電圧印加部を備えた測定系と、
前記アレイの温度を制御する温度制御系と、
前記供給系の第1の弁と、前記排出系の第2の弁及びポンプと、前記測定系の前記電圧印加部と、前記温度制御系とを制御し、前記作用極又は前記対極から電気化学反応信号を検出し、この電気化学反応信号を測定データとして格納する制御機構と、
前記制御機構に制御条件パラメータを与えて前記制御機構を制御するとともに、前記測定データに基づいて塩基配列の解析処理を実行し、個体識別検査の判定を行うコンピュータとを具備してなる個体識別検査システム。
【請求項1】
個体が有する核酸配列と、試料とする核酸配列との一致を判定する個体識別方法において、
識別されるべき対象個体が属する集団に存在する一塩基多型群から、複数の一塩基多型を選択する工程と、
前記対象個体が有する核酸配列、及び試料由来の核酸配列中の、前記選択された複数の一塩基多型における遺伝子型を決定して、それらを比較する工程とを具備し、
前記選択する工程においては、下記(i)〜(iii)の条件の何れか一つを満たす一塩基多型を選択することを特徴とする、個体識別方法:
(i)2塩基置換型の一塩基多型において、取り得る2つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX及びYとし、X+Y=1、Y≦Xとしたとき、
0.5≦X≦0.7 である;
(ii)3塩基置換型の一塩基多型において、取り得る3つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y及びZとし、X+Y+Z=1、Z≦Y≦Xとしたとき、
1/3≦X 且つ (1-X)/2≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3
であるか又は
(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9である;及び
(iii)4塩基置換型の一塩基多型において、取り得る4つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y、Z及びWとし、X+Y+Z+W=1、W≦Z≦Y≦Xとしたとき、
1/4≦X 且つ (1-X)/3≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3
であるか又は
(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9である。
【請求項2】
前記(i)におけるアレル頻度が、
0.55≦X<0.7 である、請求項1に記載の個体識別方法。
【請求項3】
前記(i)におけるアレル頻度が、
0.6≦X<0.7 である、請求項1に記載の個体識別方法。
【請求項4】
前記(i)におけるアレル頻度が、
0.65≦X≦0.68 である、請求項1に記載の個体識別方法。
【請求項5】
前記対象個体が有する遺伝子型において、前記選択された全ての一塩基多型について、アレル頻度から算出される遺伝子型頻度を乗算して逆数をとることによって、該対象個体が有する遺伝子型の組み合わせが前記集団内に存在する確率を算出し、前記個体識別の結果の信頼度を判定する工程をさらに具備する、請求項1〜4の何れか一項に記載の個体識別方法。
【請求項6】
個体が有する核酸配列と、試料とする核酸配列との一致を判定する個体識別検査に用いるための、核酸プローブが基体に固定されたアレイにおいて、
該核酸プローブが、一塩基多型を含む標的配列と相補的な配列を有することを特徴とし、
該一塩基多型が、識別されるべき対象個体が属する集団に存在する一塩基多型群から、下記(i)〜(iii)の条件の何れか一つを満たすものであることを特徴とするアレイ:
(i)2塩基置換型の一塩基多型において、取り得る2つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX及びYとし、X+Y=1、Y≦Xとしたとき、
0.5≦X≦0.7 であること;
(ii)3塩基置換型の一塩基多型において、取り得る3つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y及びZとし、X+Y+Z=1、Z≦Y≦Xとしたとき、
1/3≦X 且つ (1-X)/2≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3
であるか又は
(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9であること;及び
(iii)4塩基置換型の一塩基多型において、取り得る4つの塩基のそれぞれのアレル頻度をX、Y、Z及びWとし、X+Y+Z+W=1、W≦Z≦Y≦Xとしたとき、
1/4≦X 且つ (1-X)/3≦Y 且つ X+Y<1であって、
(a) Y≦1/2・X 且つ X<2/3
であるか又は
(b) 1/2・X<Y 且つ XY<2/9であること。
【請求項7】
請求項6に記載のアレイと、
該アレイの基体上に設けられ、薬液又はエアの流れる方向に沿って設けられた流路と、
前記基体上に前記流路に沿って複数設けられ、前記プローブが固定化される作用極と、
前記流路の内周面に前記作用極に対応して各々が配置され、前記作用極との間に電位差を与える対極と、
前記流路の内周面に前記作用極に対応して各々が配置され、前記作用極に検出電圧をフィードバックさせる参照極と、
前記流路に開口し、前記流路の上流側から前記流路内に薬液又はエアを送入する送入ポートと、
前記流路に開口し、前記流路の下流側から前記流路内の薬液又はエアを送出する送出ポートと、
前記流路内に試料を注入する試料注入口と
を具備してなる個体識別検査装置。
【請求項8】
請求項7に記載の個体識別検査装置と、
前記送入ポートに連通し、該送入ポートを介して前記流路内に薬液又はエアを供給する第1の配管と、前記第1の配管の薬液又はエアの流量を制御する第1の弁とを備えた供給系と、前記送出ポートに連通し、該送出ポートを介して前記流路内から薬液又はエアを排出する第2の配管と、前記第2の配管の薬液又はエアの流量を制御する第2の弁と、第2の配管に設けられ、前記流路内から薬液又はエアを吸い上げるポンプとを備えた排出系と、
前記作用極と対極との間に電位差を与える電圧印加部を備えた測定系と、
前記アレイの温度を制御する温度制御系と、
前記供給系の第1の弁と、前記排出系の第2の弁及びポンプと、前記測定系の前記電圧印加部と、前記温度制御系とを制御し、前記作用極又は前記対極から電気化学反応信号を検出し、この電気化学反応信号を測定データとして格納する制御機構と、
前記制御機構に制御条件パラメータを与えて前記制御機構を制御するとともに、前記測定データに基づいて塩基配列の解析処理を実行し、個体識別検査の判定を行うコンピュータとを具備してなる個体識別検査システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
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【図14】
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【図22】
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【公開番号】特開2007−6720(P2007−6720A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188452(P2005−188452)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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