説明

偏光ガラス及びそれを用いた光アイソレータとそれらの製造方法

【課題】偏光ガラスとしての性能劣化が小さく、特にファラデー回転子と貼り合わせたときに、接着剤の厚さバラツキが小さく、安価な製造コストを実現した金属分散型偏光ガラスとその製造方法を提供する。
【解決手段】金属分散型偏光ガラス元材を分割して作製された金属分散型偏光ガラス板を加工して製造された金属分散型偏光ガラスであって、前記金属分散型偏光ガラス元材は、両側表面層に形状異方性金属粒子が配向分散されたものであって、前記金属分散型偏光ガラス板は、前記金属分散型偏光ガラス元材を、光透過面に垂直な面で複数枚に分割したものであって、前記金属分散型偏光ガラスは、前記金属分散型偏光ガラス板に、研磨および加熱処理を行ったものであり、ソリの大きさが2μm/mm以下のものであることを特徴とする金属分散型偏光ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザと組み合わせて使用される光学デバイスに組み込まれる高性能な偏光ガラス及びそれを用いた光アイソレータとそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザと組み合わせて使用される光アイソレータなどの光学デバイスには、構成部品として偏光ガラスが用いられている。
その偏光ガラスには、主に金属分散型偏光ガラスが多用されている。
ここで、金属分散型偏光ガラスとは、光透過面の両側表面層に、形状異方性の金属粒子を配向分散させたものであり、光通信用の波長である1.31μmあるいは1.55μmの波長領域の全域において30dB程度の消光比を示すものである。
【0003】
一方、光アイソレータの構成部品であるファラデー回転子の消光比は使用波長全域で30dB程度であり、1段型光アイソレータに用いられる偏光ガラスに要求される使用波長帯での消光比は中心波長で35dB以上、使用波長端では30dB以上となる。
【0004】
光アイソレータの構造としては、2枚の10mm角以上の偏光ガラスとファラデー回転子とを、偏光ガラスの偏波方向45度付近で消光比が最大となる方向で貼り合せ、この貼り合せ素子から、0.5mm×0.6mmの直方体形状のチップ状素子(切断素子)を切り出し、これを磁石と組み合わせたものがあり、この組み合わせで使用されることが近年増加している。
【0005】
このような貼り合せ素子から切り出したチップ素子を用いる構造の光アイソレータは、偏光ガラス、ファラデー回転子を別々に固定する構成と比較して低コストにできるという利点がある。しかし、この構成でも、偏光子のコストが占める割合は高く、光アイソレータのコストダウンの障害となっている。
【0006】
そこで、コストダウンを図るため、金属分散型偏光ガラス元材を分割する加工方法が特許文献1に開示されている。
しかし、この加工方法では、得られる分割された偏光ガラスの消光比は、中心波長で40dBであるが、中心波長より±10nm離れた使用波長端での消光比は27dBと要求される消光比以下となってしまう。
さらに、上記の特許文献1の加工方法で作製した偏光ガラスは、切断加工、研磨加工を経てARコートを行うと、大きなソリを示す。このため、接着剤で貼り合せた時に接着剤の厚さバラツキが生じてしまう。この厚さバラツキを押さえ込むために、接着剤固定時に偏光ガラスを両側から押さえつける必要があるが、このように作成したチップ素子は、耐湿性、耐熱性が悪いため、85℃×85%RH、2000時間の条件のダンプヒート試験を行うと、不良が発生してしまう。
【0007】
【特許文献1】特開2003−156623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、偏光ガラスとしての性能劣化が小さく、特にファラデー回転子と貼り合わせたときに、接着剤の厚さバラツキが小さく、安価な製造コストを実現した金属分散型偏光ガラスとその製造方法、および、この金属分散型偏光ガラスを用いた光アイソレータとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明では、金属分散型偏光ガラス元材を分割して作製された金属分散型偏光ガラス板を加工して製造された金属分散型偏光ガラスであって、前記金属分散型偏光ガラス元材は、両側表面層に形状異方性金属粒子が配向分散されたものであって、前記金属分散型偏光ガラス板は、前記金属分散型偏光ガラス元材を、光透過面に垂直な面で複数枚に分割したものであって、前記金属分散型偏光ガラスは、前記金属分散型偏光ガラス板に、研磨および加熱処理を行ったものであり、ソリの大きさが2μm/mm以下のものであることを特徴とする金属分散型偏光ガラスを提供する(請求項1)。
【0010】
本発明の金属分散型偏光ガラスは、両側表面層に形状異方性金属粒子が分散された金属分散型偏光ガラス元材が光透過面に垂直な面で複数枚に分割され、その後に、分割された金属分散型偏光ガラス元材に研磨加工と加熱処理が施され、該ガラスのソリが2μm/mm以下となっているものである。
このように、1枚の金属分散型偏光ガラス元材が複数枚に分割された金属分散型偏光ガラスであるため、例えば、光アイソレータを製造する際に、従来は2枚の金属分散型偏光ガラス元材が必要であったが、本発明の金属分散型偏光ガラスならば1枚の金属分散型偏光ガラス元材から製造することができるため、偏光子にかかるコストを低減することができる。
【0011】
また、研磨加工および加熱処理が行われたことによって、ソリが小さい金属分散型偏光ガラスとなっているため、該ガラス表面の歪みを大きく減少させたガラスとなっているため、光学特性の劣化を防止することができる。
そして、該ガラスのソリが2μm/mm以下となっているため、例えば、ファラデー回転子等と貼り合わせたときに、貼り合わせ面内での接着剤の厚さにバラツキが生じることを防げるため、接着強度を強めることができ、そして歪みが発生することを防止することができる。これによって、耐湿性、耐熱性が向上し、さらに光学特性の劣化が発生しないチップ素子(切断素子)とすることができる。
よって、偏光ガラスとしての性能劣化が非常に小さく、特にファラデー回転子と貼り合わせたときに接着剤の厚さバラツキが小さく、安価な金属分散型偏光ガラスとすることができる。
【0012】
また、前記金属分散型偏光ガラスは、前記金属分散型偏光ガラス板に、前記加熱処理として、水素を含む雰囲気にて、温度が350〜400℃、処理時間が50〜100時間の熱処理を行ったものとすることが好ましい(請求項2)。
【0013】
このように、水素を含む雰囲気で、温度350〜400℃、処理時間が50〜100時間の加熱処理を行った金属分散型偏光ガラスとすることで、分割面に、分散されているハロゲン化銀などのハロゲン化金属を還元させて、その結果、異方性を持った金属粒子を分割面にも析出させることができる。このため、偏光ガラスの中心波長での消光比を44dB以上と非常に高性能にすることができ、光学特性の更なる向上が図られた金属分散型偏光ガラスとすることができる。
【0014】
また、前記金属分散型偏光ガラスは、前記金属分散型偏光ガラス板に、前記研磨処理として、研磨代が10μm以上の研磨を行ったものとすることが好ましい(請求項3)。
【0015】
上記のように、研磨代を10μm以上とすることで、分割のための切断加工での歪みが取り除かれた金属分散型偏光ガラスとなっているため、ソリがより小さな金属分散型偏光ガラスとなっている。また、加熱処理での加工歪み除去の負荷を少なくすることができるため、ソリがさらに小さい金属分散型偏光ガラスとすることができる。
【0016】
また、上述した金属分散型偏光ガラスを用いて作製された光アイソレータであって、該光アイソレータは、前記金属分散型偏光ガラスとファラデー素子とが接着剤によって貼り合わされた貼り合わせ素子をチップ形状に切断加工した切断素子を用いて作製されたものとすることが好ましい(請求項4)。
【0017】
上述のように、本発明の金属分散型偏光ガラスは、面積が10mm角以上と大きなサイズでも消光比が中心波長で44dB以上あり、歪によると考えられるソリの大きさは2μm/mm以下となっている。
このため、本発明の金属分散型偏光ガラスとファラデー回転子とを接着剤を介して接合して得られる貼り合せ構造の光アイソレータは、非常に高性能であり、かつ低コストな光アイソレータとすることができる。
【0018】
また、本発明では、金属分散型偏光ガラスの製造方法であって、両側表面層に形状異方性金属粒子が配向分散された金属分散型偏光ガラス元材を、光透過面に垂直な面で複数枚に分割して金属分散型偏光ガラス板を作製し、次に、該金属分散型偏光ガラス板に対して研磨加工および加熱処理を行うことで、前記金属分散型偏光ガラスのソリの大きさを2μm/mm以下とすることを特徴とする金属分散型偏光ガラスの製造方法を提供する(請求項5)。
【0019】
本発明の金属分散型偏光ガラスは、両側表面層に形状異方性金属粒子が分散された金属分散型偏光ガラス元材が光透過面に垂直な面で複数枚に分割され、その後に、分割された金属分散型偏光ガラス元材に研磨加工と加熱処理が施され、該ガラスのソリが2μm/mm以下となっている。
このように、1枚の金属分散型偏光ガラス元材を複数枚に分割することで、例えば、光アイソレータを製造する際に、従来は2枚の金属分散型偏光ガラス元材が必要であったが、本発明では、1枚の金属分散型偏光ガラス元材から複数枚の金属分散型偏光ガラスを得られるため、1枚の金属分散型偏光ガラス元材から光アイソレータを製造することができるため、偏光子が占めるコストを低減することができる。
【0020】
また、研磨加工および加熱処理を行うことによって、金属分散型偏光ガラスのソリを2μm/mm以下とすることができるため、該ガラス内の歪みを大きく減少させることができ、ガラス元材を切断したことによって発生する光学特性の劣化を防止することができる。
そして、金属分散型偏光ガラスのソリを小さくすることができるため、例えば、ファラデー回転子等と貼り合わせたときに、貼り合わせ面内での接着剤の厚さにバラツキが生じることを防げるため、接着強度を強めることができ、そして歪みが発生することを防止することができる。これによって、耐湿性、耐熱性を向上させることができ、さらに光学特性の劣化が発生しないチップ素子を作製することができる。
よって、偏光ガラスとしての性能劣化が無く、特にファラデー回転子と貼り合わせたときに、接着剤の厚さバラツキが小さく、安価な製造コストを実現した金属分散型偏光ガラスを製造することができる。
【0021】
また、前記加熱処理は、水素を含む雰囲気にて、温度を350〜400℃とし、かつ処理時間を50〜100時間になるようにすることが好ましい(請求項6)。
【0022】
このように、水素を含む雰囲気で、温度350〜400℃、処理時間が50〜100時間の加熱処理を行うことで、分割面に分散されているハロゲン化銀などのハロゲン化金属を還元でき、結果として、異方性を持った金属粒子を分割面に析出させることができる。そのため、偏光ガラスの中心波長での消光比を44dB以上と非常に高性能にすることができ、光学特性の更なる向上が図られた金属分散型偏光ガラスを製造することができる。
【0023】
また、前記研磨加工は、研磨代を10μm以上になるようにすることが好ましい(請求項7)。
【0024】
このように、研磨代を10μm以上とすることで、切断加工での歪みをより強力に取り除くことができ、従って、ソリをより小さな値にすることが出来る。
また、加熱処理での加工歪み除去の負荷を少なくすることができるため、歪みをさらに除去することができる。よって更にソリの小さい金属分散型偏光ガラスを製造することができる。
【0025】
また、上述した金属分散型偏光ガラスの製造方法によって製造された金属分散型偏光ガラスとファラデー素子とを接着剤を用いて貼り合わせて貼り合わせ素子を作製し、その後、該貼り合わせ素子をチップ形状に切断加工して切断素子を作製し、該切断素子を用いて作製することが好ましい(請求項8)。
【0026】
本発明によれば、面積が10mm角以上と大きなサイズでも消光比が中心波長で42dB以上あり、歪によるソリの大きさは2μm/mm以下の金属分散型偏光ガラスを製造することができる。
このため、本発明の金属分散型偏光ガラスとファラデー回転子と接着剤を介して接合することによって、非常に高性能な光アイソレータを低コストで作製することができる。特性に関しては、中心波長で消光比44dB以上、使用波長帯で32dB以上となり、また接着層での接着剤の厚みバラツキは実質的に無視できる程小さなものであるため、ダンプヒート試験における不具合もほとんど発生しない光アイソレータを作製することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本発明の金属分散型偏光ガラスは、1枚の金属分散型偏光ガラス元材を複数枚に分割したものであるため、例えば、光アイソレータを製造する際に、1枚の金属分散型偏光ガラス元材から製造することができるため、偏光子が占めるコストを低減することができる。また、研磨加工および加熱処理が行われたことによって、ソリが小さい金属分散型偏光ガラスとなっているため、該ガラス内の歪みを大きく減少させることができるため、光学特性の劣化を防止することができる。そして、ソリが小さいため、ファラデー回転子等と貼り合わせたときに、貼り合わせ面内での接着剤の厚さにバラツキが生じることを防げるため、接着強度を強めることができ、そして歪みが発生することを防止することができる。これによって、耐湿性、耐熱性が向上し、さらに光学特性の劣化が発生しない光学デバイスを製造するのに用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
前述のように、偏光ガラスとしての性能劣化が非常に小さく、特にファラデー回転子と貼り合わせたときに、接着剤の厚さバラツキが小さく、安価な製造コストを実現した金属分散型偏光ガラスとその製造方法の開発が待たれていた。
【0029】
そこで、本発明者らは、金属分散型偏光ガラス元材の製造方法から調査し、金属分散型偏光ガラス元材を切断した際に発生するソリの原因について調査を行った。
その結果、金属分散型偏光ガラス元材は、ガラスに方向性を持ったテンションを掛けて金属粒子に異方性を与えているために、切断加工を行うことでこの異方性が出現し、ソリが発生することが分かった。そのため、切断後にガラスのソリは15mm角の偏光ガラスの場合、最大100μm(6.7μm/mm)程度に達してしまうことを発見した。このソリは、研磨加工では60μm(4μm/mm)程度までしか抑えることが出来ない。そこで、本発明者らは、このソリを更に抑制するためのガラスの処理方法について鋭意検討を重ねたところ、研磨加工に加えて加熱処理を行うことで、偏光ガラスのソリを30μm(2μm/mm)以下に抑えることが出来ることを見出し、本発明を完成させた。
【0030】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の金属分散型偏光ガラスは、両側表面層に形状異方性金属粒子が分散された金属分散型偏光ガラス元材が光透過面に垂直な面で複数枚に分割され、その後に、分割された金属分散型偏光ガラス元材に研磨加工と加熱処理が施され、該ガラスのソリが2μm/mm以下となり、更に、分割面に発生した加工歪みが除去されたものである。
【0031】
このように、1枚の金属分散型偏光ガラス元材が複数枚に分割された金属分散型偏光ガラスであるため、例えば、光アイソレータを製造する際に、従来は2枚の金属分散型偏光ガラス元材が必要であったが、本発明の金属分散型偏光ガラスならば1枚の金属分散型偏光ガラス元材から2枚以上製造することができるため、1枚の偏光ガラス基材から光アイソレータを作製でき、偏光子が占めるコストを低減することができる。
また、研磨加工および加熱処理が行われたことによってソリが小さい金属分散型偏光ガラスとなっているため、該ガラス内の歪みを大きく減少させることができるため、光学特性の劣化を防止することができる。
そして、該ガラスのソリが2μm/mm以下となっているため、例えば、ファラデー回転子等と貼り合わせたときに、貼り合わせ面内での接着剤の厚さにバラツキが生じることを防げるため、接着強度を強めることができ、そして歪みが発生することを防止することができる。これによって、耐湿性、耐熱性が向上し、さらに光学特性の劣化が発生しないチップ素子とすることができる。
よって、偏光ガラスとしての性能劣化が非常に小さく、特にファラデー回転子と貼り合わせたときに、接着剤の厚さバラツキが小さく、安価な製造コストを実現した金属分散型偏光ガラスとすることができる。
【0032】
また本発明では、金属分散型偏光ガラスは、金属分散型偏光ガラス板に、水素を含む雰囲気にて、温度が350〜400℃、処理時間が50〜100時間の加熱処理が行われたものとすることができる。
【0033】
このように、水素を含む雰囲気で、温度350〜400℃、処理時間が50〜100時間の加熱処理を行ったものとすることで、金属分散型偏光ガラス板の分割面に分散されているハロゲン化銀などのハロゲン化金属を還元させることで、異方性を持った金属粒子を分割面に析出させることができる。このため、偏光ガラスの中心波長での消光比を44dB以上と非常に高くしたものとすることができ、光学特性の更なる向上が図られた金属分散型偏光ガラスとすることができる。
【0034】
また、金属分散型偏光ガラスは、金属分散型偏光ガラス板に、研磨代が10μm以上の研磨加工を行ったものとすることができる。
【0035】
このように、研磨加工代を10μm以上とすることで、切断加工での歪みが取り除かれた金属分散型偏光ガラスとなっているため、ソリがより小さい金属分散型偏光ガラスとすることができる。また、加熱処理での加工歪み除去の負荷を少なくすることができるため、ソリがさらに小さい金属分散型偏光ガラスとすることができる。
【0036】
本発明の金属分散型偏光ガラスの製造方法は以下のような工程とすることができ、以下にその一例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
ホットプレート上に、金属分散型偏光ガラス元材を貼り付ける石英製の基材を2枚セットし、その基材上面に金属分散型偏光ガラスを固定するためのワックスを載せて、ワックスが溶ける温度以上に加熱する。
加熱後、溶融したワックスの上に、15mm角、厚さ480μmの金属分散型偏光ガラス元材と、ほぼ同じ厚さを持つダミーガラスを金属分散型偏光ガラス元材の周囲を取り囲むようにして載せて、金属分散型偏光ガラスとダミーガラスの上に予め加熱しておいた別の石英製の基材を載せ、基材−金属分散型偏光ガラス元材−基材というサンドイッチ構造とし、巻き込んだ空気を逃すように錘を載せて、冷却する。
なお、金属分散型偏光ガラス元材の厚さは、光が透過する表面と表面の間隔の幅のことを示している。
【0038】
なお、本発明で用いる金属分散型偏光ガラス元材は、その大きさが、ファラデー回転子と貼り合わせた後に、チップ状の切断素子(例えば0.5mm×0.6mm角程度)が多数得られる程度の大きさであることが好ましく、概略10mm角以上、例えば15mm角の大きさの物を用いる。その厚さに関しては、金属分散型偏光ガラス板に分割した後に複数枚となるように、分割後の金属分散型偏光ガラスの厚さに切断代・研磨代を加えた厚さが必要となり、1枚の金属分散型偏光ガラス元材から2枚の分割された金属分散型偏光ガラスを得ようとすると、切断代にもよるが、400μm以上の厚さが必要であり、作業性を考慮すると450μm以上の厚さとすることが好ましい。
【0039】
また、基材としては、石英に限らず、ステンレススチール、アルミナ、青板ガラスなど、研磨で一般に用いられる材料で作ることができる。
そして、ダミーガラスには、一般的なガラスを用いることができ、例えば、青板ガラスなどを用いることができる。
【0040】
冷却したサンドイッチ構造体を、出来るだけ切り代が少ない切断装置、たとえば多刃切断装置、あるいはワイヤーソーを用いて、金属分散型偏光ガラス元材を、光透過面に垂直な面で切断し、上記サンドイッチ構造体1枚から、基材と接着している金属分散型偏光ガラス板のセットを2組得る。
【0041】
なお、用いる金属分散型偏光ガラス元材の厚さが厚い場合、例えば600μm以上とすると、基材と接着している金属分散型偏光ガラス板のセットが2枚、基材から分離した金属分散型偏光ガラス板1枚、計3枚とすることも出来る。
金属分散型偏光ガラスの厚さがさらに厚い場合であっても、同様に所望の厚さの金属分散型偏光ガラス板に分割することができる。
このように、金属分散型偏光ガラス元材の厚さに特に制限はない。
【0042】
上記の工程後の金属分散型偏光ガラス板は、分割面が曇りガラス状態となっているため、このままでは光学用として使うことが出来ない。このため、分割面を、研磨装置によって鏡面研磨することが必要であり、基材に貼り付いた状態で研磨装置にセットし、コロイダルシリカなどの研磨剤を用いて、ソリがある程度まで小さく出来る厚さまで研磨する。なお、金属分散ガラスが単独となっているものについては、上記した基材にワックスで接着して、研磨加工を行うことができる。
【0043】
この研磨加工においては、研磨代を10μm以上とすることができる。
このように、研磨代を10μm以上とすることで、切断加工での歪みをより強力に取り除くことができ、従って、ソリの大きさをより小さな値にすることが出来る。
また、加熱処理での加工歪み除去の負荷を少なくすることができるため、歪みをさらに除去することができる、よって更にソリの小さい金属分散型偏光ガラスを製造することができる。
【0044】
上記工程後、金属分散型偏光ガラス板を基材ごとホットプレート上で加熱し、ワックスを溶かして取り出し、洗浄をおこない、無反射コートを施す。
しかし、上記工程後の金属分散型偏光ガラス板は消光性能が悪く、かつソリが大きいため、貼り合わせ素子の形態をとる光アイソレータに用いるにはまだ不適なものであり、ソリを減少させるための加熱処理が不可欠となる。
【0045】
本発明では、前述の工程で得られた金属分散型偏光ガラス板を加熱炉にセットして、アニールにより、加工歪みを取り除くことでソリを減少させ、金属分散型偏光ガラスを得る。
【0046】
この加熱を行うときの条件は、温度を350〜400℃、時間は50〜100時間程度とすることができ、その雰囲気は水素を含んだ雰囲気とすることができる。
これによって、分割面に、分散されているハロゲン化銀などのハロゲン化金属を還元でき、結果として、異方性を持った金属粒子を分割面に析出させることができる。そのため、偏光ガラスの中心波長での消光比を44dB以上と非常に高性能にすることができる。このように光学特性の更なる向上が図られた金属分散型偏光ガラスを製造することができる。
【0047】
ここで、この加熱処理は研磨加工前でも研磨加工後でもよい。研磨前に行う場合は、石英板をホットプレート上で加熱し、金属分散型偏光ガラス板を取り出して加熱処理を行い、その後、ホットプレート上で加熱した石英板に改めて貼り付け、重石を載せてソリを抑えた状態で室温まで冷却し、研磨加工を行うことができる。
【0048】
このように、本発明の製造方法によれば、例えば、光アイソレータを製造する際に、従来は2枚の金属分散型偏光ガラス元材が必要であったが、本発明によれば1枚の金属分散型偏光ガラス元材から複数枚の金属分散型偏光ガラスを得られるため、1枚の金属分散型偏光ガラス元材から光アイソレータを製造することができるため、偏光子にかかるコストを低減することができる。
【0049】
また、金属分散型偏光ガラスのソリを2μm/mm以下とすることができるので、該ガラス内の歪みを大きく減少させることができ、ガラス元材の切断による光学特性の劣化を防止することができる。そして、本発明の金属分散型偏光ガラスをファラデー回転子等と貼り合わせると、貼り合わせ面内での接着剤の厚さにバラツキが生じることを防げ、接着強度を強めることができ、そして歪みが発生することを防止することができる。これによって、耐湿性、耐熱性を向上させることができ、さらに光学特性の劣化が発生しないチップ素子を作製することができる。
よって、偏光ガラスとしての性能劣化が無く、特にファラデー回転子と貼り合わせたときに、接着剤の厚さバラツキが小さく、安価な製造コストを実現した金属分散型偏光ガラスを製造することができる。
【0050】
その後、作製した金属分散型偏光ガラスを用いて光アイソレータを作成することができる。以上に説明してきたように、本発明によれば、光学特性が劣化することなくコストを低減させた金属分散型偏光ガラスを製造できるため、該偏光ガラスを用いることによって、光学特性の劣化がなく、かつコストを低減させることのできる光アイソレータを製造することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
金属分散型偏光ガラス元材25枚を用意した。この金属分散型偏光ガラス元材の光挿入損失、消光性能、ソリを評価した。その結果、光挿入損失の値は0.03dB〜0.06dB、消光性能は、中心波長で44dB〜52dB、ソリは平均15μm(1μm/mm)、最大20μm(1.3μm/mm)であった。
100℃に加熱したホットプレートに直径100mmの石英板を2枚加熱し、この石英板上にワックスを溶融させ、厚みが480μmの金属分散型偏光ガラス元材と厚さ約480μmの青板ガラス4枚とを載せ、さらにその上に別の石英板を載せて重石で気泡を追い出しつつ室温まで冷却し、石英ガラス−青板ガラスで囲んだ金属分散型偏光ガラス元材−石英ガラスというサンドイッチ構造体を作製した。
【0052】
このサンドイッチ構造体を、厚み0.010mmのワイヤーを使って、金属分散型偏光ガラス元材の光の透過面に垂直に切断(スライス)し、サンドイッチ構造体1枚に対して、厚さが約165μmの石英板に貼りついた金属分散型偏光ガラス板を2枚得た。
その後、研磨装置でコロイダルシリカを用いて金属分散型偏光ガラス板を10μm研磨した。
研磨後、ホットプレート上で加熱し、石英板から金属分散型偏光ガラス板を取り出し、両面が鏡面とされた金属分散型偏光ガラス板を、石英製の炉心管内に投入して350℃で50時間加熱した後に、光挿入損失、消光性能、ソリを評価した。
【0053】
なお、ソリの測定は以下のように顕微鏡の焦点合せ機構を使うことで行った。
基準面となるシリコンウェハー上に、予め厚みが既知の金属片を置き、顕微鏡付随のダイアルを校正した後、金属分散型偏光ガラスをシリコンウェハー上にセットして、a1:シリコンウェハー上面の位置、a2:偏光ガラス上面の位置を測定し、a2−a1=Aを求める。
次に、金属分散型偏光ガラスを裏返して、同様に、b1:シリコンウェハー上面の位置、b2:偏光ガラス上面の位置を測定し、b2−b1=Bを求める。
そして、A−Bの値を計算した。この値がソリの値となる。また、異なる大きさの試料を比較するため、試料の単位長さ当たりのソリを求めた。
【0054】
その後、金属分散型偏光ガラスの両面にARコートを施し、ファラデー回転子とシリコーン樹脂によって貼り合せ、その後、0.5mm×0.6mm角のチップ形状に切断した。
このチップ形状の切断素子をアルミナ製の基材の上に接着剤で貼り付け、直方体磁石2個で挟む構成の光アイソレータを作成後、光挿入損失と消光性能を評価した。
【0055】
(比較例1、2)
実施例において、研磨加工および加熱処理を行わなかった(比較例1)以外は実施例と同様に金属分散型偏光ガラスを作製した。そして実施例と同様の評価を行った。
また、実施例において、加熱処理を行わなかった(比較例2)以外は実施例と同様に金属分散型偏光ガラスを作製した。そして実施例と同様の評価を行った。
【0056】
実施例にて作製した金属分散型偏光ガラスを評価した結果、光挿入損失は0.03dB〜0.05dBと、金属分散型偏光ガラス元材とほぼ同程度となった。消光性能は中心波長で44dB〜50dB、ソリは平均15μm(1μm/mm)、最大30μm(2μm/mm)と、これらの物性値も、金属分散型偏光ガラス元材とほぼ同程度であった。
また、実施例にて作製した光アイソレータの特性を評価した結果、中心波長1.55μmでの光挿入損失は0.12〜0.25dBで、消光性能は中心波長で36dB〜42dB、波長1.54μm、1.56μmでは32dB〜36dBと、光アイソレータとして十分高性能であることが分かった。
また、85℃*85%RH、2000時間のダンプヒート試験を行ったところ、不良は発生しなかった。
【0057】
これに対し、比較例1の金属分散型偏光ガラス50枚について評価した結果、ソリの平均値は55μm(3.7μm/mm)で最大値は100μm(6.7μm/mm)であった。なお、比較例1の金属分散型偏光ガラスの厚さは約165μm程度であった。
また、比較例2の金属分散型偏光ガラス50枚について評価した結果、光挿入損失は0.02dB〜0.04dBと金属分散型偏光ガラス元材に比べ向上しているが、消光性能は30dB〜40dBと劣化していた。また、ソリは、平均値35μm(2.3μm/mm)で最大値は60μm(4μm/mm)であった。なお、比較例2の金属分散型偏光ガラスの厚さは150μm〜155μmであった。
【0058】
このように、研磨加工および加熱処理を行ったことによって、金属分散型偏光ガラス元材を分割したことによって発生したソリを大幅に低減することができ、また光挿入損失や消光性能を偏光ガラス元材とほぼ同レベルとすることができることが分かった。
【0059】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属分散型偏光ガラス元材を分割して作製された金属分散型偏光ガラス板を加工して製造された金属分散型偏光ガラスであって、
前記金属分散型偏光ガラス元材は、両側表面層に形状異方性金属粒子が配向分散されたものであって、
前記金属分散型偏光ガラス板は、前記金属分散型偏光ガラス元材を、光透過面に垂直な面で複数枚に分割したものであって、
前記金属分散型偏光ガラスは、前記金属分散型偏光ガラス板に、研磨および加熱処理を行ったものであり、ソリの大きさが2μm/mm以下のものであることを特徴とする金属分散型偏光ガラス。
【請求項2】
前記金属分散型偏光ガラスは、前記金属分散型偏光ガラス板に、前記加熱処理として、水素を含む雰囲気にて、温度が350〜400℃、処理時間が50〜100時間の熱処理を行ったものであることを特徴とする請求項1に記載の金属分散型偏光ガラス。
【請求項3】
前記金属分散型偏光ガラスは、前記金属分散型偏光ガラス板に、前記研磨処理として、研磨代が10μm以上の研磨を行ったものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属分散型偏光ガラス。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載された金属分散型偏光ガラスを用いて作製された光アイソレータであって、該光アイソレータは、前記金属分散型偏光ガラスとファラデー素子とが接着剤によって貼り合わされた貼り合わせ素子をチップ形状に切断加工した切断素子を用いて作製されたものであることを特徴とする光アイソレータ。
【請求項5】
金属分散型偏光ガラスの製造方法であって、
両側表面層に形状異方性金属粒子が配向分散された金属分散型偏光ガラス元材を、光透過面に垂直な面で複数枚に分割して金属分散型偏光ガラス板を作製し、
次に、該金属分散型偏光ガラス板に対して研磨加工および加熱処理を行うことで、前記金属分散型偏光ガラスのソリの大きさを2μm/mm以下とすることを特徴とする金属分散型偏光ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理は、水素を含む雰囲気にて、温度を350〜400℃とし、かつ処理時間を50〜100時間とすることを特徴とする請求項5に記載の金属分散型偏光ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記研磨加工は、研磨代を10μm以上とすることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の金属分散型偏光ガラスの製造方法。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか1項に記載された金属分散型偏光ガラスの製造方法によって製造された金属分散型偏光ガラスとファラデー素子とを接着剤を用いて貼り合わせて貼り合わせ素子を作製し、その後、該貼り合わせ素子をチップ形状に切断加工して切断素子を作製し、該切断素子を用いて作製することを特徴とする光アイソレータの製造方法。

【公開番号】特開2009−86519(P2009−86519A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258747(P2007−258747)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】