説明

偏光方位角調整装置およびレーザ加工装置

【課題】被加工物への安定したレーザ加工を容易に行うことができる偏光方位角調整装置を得ること。
【解決手段】入射してくるレーザ光2のP波偏光成分P1を透過させるとともに、レーザ光2のS波偏光成分S1を反射する偏光子14と、偏光子14で反射されたレーザ光のS波偏光成分S1を反射して光路の下流側へ導く反射ミラー15,15と、を有するとともにP波偏光成分P1を吸収し且つS波偏光成分S1を光路の下流側へ出射する光学ユニットを備え、光学ユニットは、光学ユニットへのレーザ光の入射光軸と光学ユニットからのレーザ光の出射光軸とが同軸であり且つ光学ユニットを入射光軸を中心として回転させた場合に入射光軸および出射光軸の光軸方向が維持されるように、偏光子14と反射ミラー15,15とが配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工に用いるレーザ光の偏光方位角を調整する偏光方位角調整装置およびレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板等の被加工物に穴あけ加工を行うレーザ加工装置の生産性を向上させる方法として、レーザ発振器で生成された1つのレーザ光を複数に分割し、複数穴を同時に穴あけ加工する方法がある。この方法では、分割されたレーザ光のそれぞれのエネルギーが均等でない場合、加工穴径等の加工品質にばらつきが生じてしまう。
【0003】
このため、特許文献1に記載の方法では、分光用偏光子よりも光路上流に、光軸を中心に回転調整機構を有した偏光方位角調整用偏光子を設けている。そして、透過するP波の偏光方位角を調整することで、エネルギーを均等に分割している。エネルギーを分割させる際には、分光用偏光子に対して偏光方向P波成分と偏光方向S波成分とを均等に持つレーザ光を入射させることで、分光用偏光子を透過する光をP波成分と、分光用偏光子を反射するS波成分とに均等に分割できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2003/082510号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術では、偏光方位角調整用偏光子を透過するP波成分を光路下流へ伝播している。このため、偏光子に入射するレーザ光のパワーが高いと偏光子の基板材料の熱レンズ効果によってレーザ光のビーム径が変化し、熱レンズ効果が発生していない場合と比べてマスクを透過するレーザ光のエネルギー強度がばらつく。これにより、被加工物の加工品質が劣化または不安定になるという問題があった。また、偏光方位角調整時に偏光子を回転調整した場合、光の屈折から光軸中心に僅かなずれが生じ、被加工物の加工品質が劣化する場合があるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、被加工物への安定したレーザ加工を容易に行うことができる偏光方位角調整装置およびレーザ加工装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、入射してくるレーザ光のP波偏光成分を透過させるとともに、前記レーザ光のS波偏光成分を反射する偏光子と、前記偏光子で反射された前記レーザ光のS波偏光成分を反射して光路の下流側へ導く少なくとも2つの反射光学素子と、を有するとともに前記P波偏光成分を吸収し且つ前記S波偏光成分を光路の下流側へ出射する光学ユニットを備え、前記光学ユニットは、前記光学ユニットへの前記レーザ光の入射光軸と前記光学ユニットからの前記レーザ光の出射光軸とが同軸であり且つ前記光学ユニットを前記入射光軸を中心として回転させた場合に前記入射光軸および前記出射光軸の光軸方向が維持されるように、前記偏光子と前記反射光学素子とが配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レーザ光の入射光軸と出射光軸とが同軸である光学ユニットから、偏光子で反射されたS波偏光成分を出射するので、被加工物への安定したレーザ加工を容易に行うことが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、実施の形態に係る偏光方位角調整装置の概略構成を示す図である。
【図3】図3は、偏光子と偏光方位角の関係を説明するための図である。
【図4】図4は、レーザ光が偏光子を透過した場合の熱レンズ現象を説明するための図である。
【図5】図5は、P波偏光成分を出射する偏光方位角調整装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態に係る偏光方位角調整装置およびレーザ加工装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態.
図1は、本発明の実施の形態に係るレーザ加工装置の概略構成を示す図である。レーザ加工装置100は、偏光ビームスプリッタ7によって1つのレーザ光2を2つのレーザ光8A,8Bに分光し、2つのレーザ光8A,8Bをそれぞれ独立に走査することによって、2つの被加工物13A,13Bを同時に穴あけ加工する装置である。本実施の形態のレーザ加工装置100には、偏光ビームスプリッタ7よりも光路上流に偏光子と反射ミラー(反射光学素子)とを含んで構成される偏光方位角調整装置30(偏光方位角を調整するための手段)が配置されている。そして、偏光方位角調整装置30の偏光子で反射したS波偏光成分(後述のS波偏光成分S1)を光路下流へ導くことで、レーザ光2を偏光ビームスプリッタ7に導いている。
【0012】
レーザ加工装置100は、レーザ発振器1、偏光方位角調整装置(光学ユニット)30、マスク(ビームマスク)4、ビーム可変部5、反射ミラー6、偏光ビームスプリッタ(分光部)7、ガルバノスキャナ10Ax,10Ay,10Bx,10By、fθレンズ11A,11B、XYテーブル12A,12Bを有している。
【0013】
レーザ発振器1は、直線偏光のレーザ光2をパルス波として出射する装置である。レーザ発振器1から出射されたレーザ光2は、反射ミラー6を介して偏光方位角調整装置30に導かれる。反射ミラー6は、レーザ光2やレーザ光8A,8Bを反射して光路下流へ導くミラーである。反射ミラー6は、レーザ加工装置100内の光路上の種々の位置に配置されている。
【0014】
偏光方位角調整装置30は、偏光方位角を調整する装置である。偏光方位角調整装置30へは、偏光方位角(偏光方向)2aのレーザ光2が入射され、偏光方位角調整装置30からは偏光方位角2bのレーザ光2が出射される。偏光方位角調整装置30は、入射したレーザ光2と同軸方向にレーザ光2を出射する。
【0015】
本実施の形態では、偏光方位角調整装置30はレーザ光2の偏光子14で反射するS波偏光成分S1を出射するとともに偏光子14で透過するP波偏光成分P1を吸収している。さらに、偏光方位角調整装置30内の偏光子および反射ミラーなどを1つの光学ユニットで構成しておき、この光学ユニットをレーザ光2の光軸(入射光軸および出射光軸)を中心に回転できるようレーザ加工装置100内に取り付けておく。偏光方位角調整装置30から出射されたレーザ光2は、反射ミラー6を介してビーム可変部5に導かれる。
【0016】
ビーム可変部5は、レーザ光2を所望のビーム径に可変させる装置である。ビーム可変部5でビーム系が変化させられたレーザ光2は、マスク4に導かれる。マスク4は、加工穴を所望の大きさ、形状に加工するために、入射するレーザ光2から必要な部分のレーザ光2を切り取る。マスク4で整形されたレーザ光2は、反射ミラー6を介して偏光ビームスプリッタ7に導かれる。
【0017】
偏光ビームスプリッタ(分光用偏光ビームスプリッタ)7は、ビーム状の1本のレーザ光2を2本のレーザ光8A,8Bに分光するビームスプリッタ等の偏光子である。偏光ビームスプリッタ7は、レーザ光2のP波成分を透過し、S波成分を反射する性質を持っている。
【0018】
偏光ビームスプリッタ7を透過した一方のレーザ光8Aは、偏光方位角9Aのレーザ光8AとしてXYテーブル12A上の被加工物13Aに導かれるレーザ光である。また、偏光ビームスプリッタ7で反射した他方のレーザ光8Bは、偏光方位角9Bのレーザ光8BとしてXYテーブル12B上の被加工物13Bに導かれるレーザ光である。偏光ビームスプリッタ7で分光されたレーザ光8Aは、反射ミラー6を介してガルバノスキャナ10Ax,10Ayに導かれる。また、偏光ビームスプリッタ7で分光されたレーザ光8Bは、反射ミラー6を介してガルバノスキャナ10Bx,10Byに導かれる。
【0019】
ガルバノスキャナ10Axは、被加工物13Aに対するレーザ光8Aの照射位置をX方向に移動させ、ガルバノスキャナ10Ayは、被加工物13Aに対するレーザ光8Aの照射位置をY方向に移動させる。また、ガルバノスキャナ10Bxは、被加工物13Bに対するレーザ光8Bの照射位置をX方向に移動させ、ガルバノスキャナ10Byは、被加工物13Bに対するレーザ光8Bの照射位置をY方向に移動させる。ガルバノスキャナ10Axとガルバノスキャナ10Ayで、2軸方向に走査されたレーザ光8Aは、fθレンズ11Aに導かれる。また、ガルバノスキャナ10Bxとガルバノスキャナ10Byで、2軸方向に走査されたレーザ光8Bはfθレンズ11Bに導かれる。
【0020】
fθレンズ11A,11Bは、それぞれレーザ光8A,8BをXYテーブル12A,12B上に置かれた被加工物13A,13Bに集光させるレンズである。XYテーブル12A,12Bは、加工ワークなどの被加工物13A、13Bを載置するとともに、X方向とY方向の2軸方向に移動する。
【0021】
つぎに、偏光方位角調整装置30について説明する。図2は、実施の形態に係る偏光方位角調整装置の概略構成を示す図である。また、図3は、偏光子と偏光方位角の関係を説明するための図である。図3では、偏光子14の断面図を示している。偏光方位角調整装置30は、偏光子14と、複数枚の反射ミラー(図2では、反射ミラー15が2枚である場合を図示)と、ダンパ16と、を有しており、これらが筐体35内に格納されている。
【0022】
偏光子14は、入射したレーザ光2の偏光方位角2cの成分(P波偏光成分)を透過し、偏光方位角2bの成分(S波偏光成分)を反射する性質を持っている。したがって、偏光子14に入射するレーザ光2の偏光方位角が偏光方位角2bと等しければ、レーザ光2を全て反射し、偏光子14に入射するレーザ光の偏光方位角が偏光方位角2cと等しければレーザ光2を全て透過する。
【0023】
偏光子14へは、偏光方位角2aを有した直線偏光のレーザ光2がレーザ発振器1から入射される。偏光子14は、レーザ光2のS波偏光成分S1を反射して光路下流側へ導く。また、偏光子14は、レーザ光2のP波偏光成分P1を透過させてダンパ16に導く。偏光方位角調整装置30は、偏光子14で反射するS波偏光成分S1をレーザ加工装置100の光路下流へ伝播させる。
【0024】
反射ミラー15は、偏光子14で反射されたレーザ光2のS波偏光成分S1を反射して偏光方位角調整装置30の出射側へ導くミラーである。反射ミラー15は、偏光方位角調整装置30に入射してきたレーザ光2の光軸と偏光方位角調整装置30から出射されるレーザ光2の光軸とが同軸になるように配置されている。ダンパ16は、偏光子14を透過したレーザ光2のP波偏光成分P1を受け止める。また、光学ユニットとしても筐体35は、レーザ光2の光軸(レーザ加工装置100への入射軸および出射軸)を中心に回転できるようレーザ加工装置100に対して回転自在に取り付けられている。
【0025】
つぎに、レーザ加工装置100の動作処理手順について説明する。レーザ発振器1から導かれてくる偏光方位角2aのレーザ光2のS波偏光成分S1は、偏光子14で反射され、偏光方位角2aとは異なる偏光方位角2bに偏光方位角が変えられてマスク4に導かれる。また、レーザ光2のP波偏光成分P1は、偏光子14を透過した後、ダンパ16に吸収される。
【0026】
マスク4では、レーザ光2の所望部分のみを透過させることによって、レーザ光2をレーザ加工に適したビームモード形状に整形する。マスク4で整形されたレーザ光2は、1〜複数枚の反射ミラー6で反射されて偏光ビームスプリッタ7に導かれる。
【0027】
偏光ビームスプリッタ7では、レーザ光2のP波偏光成分が偏光ビームスプリッタ7を透過してレーザ光8Aとして出射され、レーザ光2のS波偏光成分が偏光ビームスプリッタ7で反射してレーザ光8Bとして出射される。2つの被加工物13A,13Bの加工穴品質にばらつきを生じさせないようにするためには、レーザ光8Aのエネルギーとレーザ光8Bのエネルギーが等しいことが必要である。
【0028】
そこで、本実施の形態では、偏光方位角調整装置30から出射するレーザ光2の偏光方位角2bが、偏光ビームスプリッタ7に対して45°の偏光方位角になるように、偏光方位角調整装置30を光軸方向に回転調整しておく。換言すると、偏光ビームスプリッタ7へ入射するレーザ光2のS波偏光成分とP波偏光成分とが同じ大きさとなるよう、偏光方位角調整装置30でレーザ光2の偏向角度2bを調整しておく。これにより、レーザ光8Aのエネルギーとレーザ光8Bのエネルギーと、を等しくすることが可能となる。
【0029】
また、本実施の形態では、偏光子14を透過するP波偏光成分P1を光路下流に導くのではなく、偏光子14で反射したS波偏光成分S1を光路下流に導いている。このため、偏光子14の基板材料による透過熱の熱レンズ効果の影響を受けずに、安定した加工品質を提供することが可能となる。熱レンズ効果は、偏光子14の基板材料(例えば、ZnSe基板)内を高いパワーのレーザ光が透過した場合に、基板材料が局所的に温度上昇することによって偏光子14の屈折率分布が生じ、これにより、偏光子14がレンズの作用をする現象である。
【0030】
図4は、偏光子を透過するP波成分を光路下流へ導いた場合の熱レンズ現象を説明するための図である。図4の(a)では、熱レンズ現象が発生していない場合のレーザビーム強度分布を示している。また、図4の(b)では、熱レンズ現象が発生した場合のレーザビーム強度分布を示している。
【0031】
熱レンズ現象が発生していない場合、レーザ発振器1から出射されたレーザ光は、レーザビーム強度分布A1を有している。また、熱レンズ現象が発生している場合、レーザ発振器1から出射されたレーザ光は、レーザビーム強度分布B1を有している。レーザビーム強度分布B1は、レーザビーム強度分布A1と同じ強度分布を有したレーザ光である。
【0032】
そして、レーザ発振器1からのレーザ光は、レーザ光のP波偏光成分P1が偏光子17を透過する。ここでの偏光子17は、例えば偏光方位角調整装置30と同様の位置に配置されている。このとき、熱レンズ現象が発生していなければ、レーザビーム強度分布A1のレーザ光は、偏光子17を透過することによって、レーザビーム強度分布A2のレーザ光になる。また、熱レンズ現象が発生していれば、レーザビーム強度分布B1のレーザ光は、偏光子17を透過することによって、レーザビーム強度分布A2とは異なるレーザビーム強度分布B2のレーザ光になる。
【0033】
図4の(b)に示すように偏光子17に熱レンズ現象が発生した場合、図4の(a)に示すように偏光子17に熱レンズ現象が発生していない場合と比べて、マスク4におけるレーザ光のビーム径が変わってしまう。熱レンズ現象の度合いは偏光子17に入射されるレーザ光のパワーに依存するので、熱レンズ現象が発生した場合と発生しない場合とで、マスク4を透過するレーザ光のビームエネルギーが変化する。このため、熱レンズ現象が発生した場合と発生しない場合とで、被加工物に到達するレーザ光のエネルギーにばらつきが生じる。具体的には、熱レンズ現象が発生していない場合は、レーザビーム強度分布A3のレーザ光が光路下流に導かれる。また、熱レンズ現象が発生している場合は、レーザビーム強度分布A3とは異なるレーザビーム強度分布B3のレーザ光が光路下流に導かれる。この結果、熱レンズ現象が発生した場合と発生しない場合とで、被加工物の加工穴の品質に差が生じる。
【0034】
一方、本実施の形態では、偏光子14で反射するS波偏光成分S1を光路下流へ導くので、偏光子14(基板材料)の熱レンズ現象の影響を受けずに、安定した加工品質の加工穴を被加工物13A,13Bに形成することが可能となる。
【0035】
偏光方位角調整装置30では、入射するレーザ光2のうち、偏光子14で透過するP波偏光成分P1をダンパ16に吸収させているので、P波偏光成分P1はエネルギー損失となる。偏光ビームスプリッタ7から出射するレーザ光8Aとレーザ光8Bのエネルギーが等しくなるように、偏光方位角調整装置30を回転調整した後の偏光方位角2bと偏光方位角調整装置30に入射するレーザ光2の偏光方位角2aとが同じであれば、偏光子14でレーザ光2が全て反射し、ダンパで吸収されないため、エネルギー損失はなく光路下流へレーザ光2が導かれる。そのため、偏光方位角2aと偏光方位角2bとがほぼ等しくなるように、偏光方位角調整装置30よりも光路上流の1〜複数の反射ミラー6を配置しておけば、エネルギー損失を抑制することが可能となる。したがって、偏光ビームスプリッタ7へ入射するレーザ光2のS波偏光成分とP波偏光成分とが同じ大きさとなる偏光方位角2bでレーザ光2を出射するよう偏光方位角調整装置30を回転させるとともに、偏光方位角2aが偏光方位角2bに近づくよう偏光方位角調整装置30よりも光路上流の反射ミラー6を配置しておく。
【0036】
また、本実施の形態では、偏光方位角調整装置30において、偏光方位角調整装置30に入射するレーザ光2と偏光方位角調整装置30から出射されるレーザ光2が同軸になるように偏光子14および反射ミラー15を配置している。換言すると、偏光方位角調整装置30(光学ユニット)を入射光軸を中心として回転させた場合に入射光軸および出射光軸の光軸方向が回転前のまま維持されるように、偏光子14および反射ミラー15が配置されている。これにより、偏光方位角調整装置30を回転調整した場合であっても、光軸にずれが生じないので、加工品質が劣化しない。
【0037】
このように、偏光方位角調整装置30に入射するレーザ光2のうち偏光子14で反射するS波偏光成分S1を光路下流へ伝播させるので、偏光子14の熱レンズ現象の影響を受けることなく安定したレーザ加工を行うことが可能となる。また、1つの偏光子14と少なくとも2つの光学素子(反射ミラー15)を、偏光方位角調整装置30への入射光軸と出射光軸とが同軸になるように光学ユニットを構成しているので、偏光方位角を調整するために光軸中心に光学ユニットを回転調整しても光軸にずれが生じない。このため、安定したレーザ加工を行うことが可能となる。
【0038】
なお、本実施の形態では、偏光方位角調整装置30をレーザ光2を2つに分光して、2つのXYテーブル12A,12B上で同時に2つの被加工物13A,13Bの加工を行うレーザ加工装置100に適用する場合について説明したが、偏光方位角調整装置30を他の構成を有したレーザ加工装置に適用してもよい。
【0039】
例えば、レーザ光2を2つに分光して、2つのXYテーブル12A,12B上で同時に2つの被加工物13A,13Bの加工を行う場合について説明したが、本実施の形態は、この構成に限定されない。
【0040】
例えば、レーザ光2を3つ以上に分光して、3つ以上のXYテーブル上で同時に3つ以上の被加工物を同時にレーザ加工するレーザ加工装置に偏光方位角調整装置30を適用してもよい。
【0041】
また、1つのXYテーブルに複数の被加工物を載置するとともに、レーザ光2を複数に分光して各被加工物を同時にレーザ加工するレーザ加工装置に偏光方位角調整装置30を適用してもよい。
【0042】
また、1つの駆動系に複数のXYテーブルを取付けるとともに、レーザ光2を複数に分光し、各XYテーブル上に載置された被加工物を同時にレーザ加工するレーザ加工装置に偏光方位角調整装置30を適用してもよい。
【0043】
また、1つのXYテーブルに1つの被加工物を載置するとともに、レーザ光2を複数に分光し、複数のレーザビームによって被加工物の複数個所を同時にレーザ加工するレーザ加工装置に偏光方位角調整装置30を適用してもよい。
【0044】
また、本実施の形態では、偏光方位角調整装置30の各構成要素(偏光子14、反射ミラー15、ダンパ16)が筐体35内に格納されている場合について説明したが、偏光方位角調整装置30の各構成要素は、筐体35内に格納する必要はない。偏光方位角調整装置30の各構成要素を筐体35内に格納しない場合であっても、各構成要素を接続することによって1つの光学ユニットで構成しておく。そして、光学ユニットをレーザ光2の光軸を中心に回転できるようレーザ加工装置100内に取り付けておく。
【0045】
また、本実施の形態では、偏光方位角調整装置30内に反射ミラー15が2枚配置されている場合について説明したが、偏光方位角調整装置30内に配置する反射ミラー15の枚数は3枚以上であってもよい。この場合も、偏光方位角調整装置30に入射するレーザ光2と偏光方位角調整装置30から出射するレーザ光2とが同軸となるよう、反射ミラー15を配置しておく。また、偏光方位角調整装置30は、図1に示した位置に配置する場合に限らず、偏光ビームスプリッタ7よりも前段(光路上流側)であれば、何れの位置に配置してもよい。
【0046】
また、本実施の形態では、光学ユニットごと偏光子14と反射ミラー15を回転させる場合について説明したが、偏光子14と反射ミラー15とを独立して回転させてもよい。この場合も、偏光子14および反射ミラー15を回転させる偏光方位角調整装置30への入射光軸と出射光軸との光軸が同軸になるよう、偏光子14と反射ミラー15とを回転させる。
【0047】
また、本実施の形態では、偏光方位角調整装置30から偏光子14を反射するS波偏光成分を出射させたが、偏光子の透過熱レンズによる影響がない場合、偏光子14を透過するP波偏光成分を出射させてもよい。図5は、偏光子を透過するP波偏光成分を出射する偏光方位角調整装置の概略構成を示す図である。なお、図5の各構成要素のうち図2に示す偏光方位角調整装置30と同一機能を達成する構成要素については同一番号を付しており、重複する説明は省略する。
【0048】
偏光方位角調整装置31は、偏光子14と、複数枚の反射ミラー(図5では、2枚の反射ミラー15を図示)と、ダンパ16と、を有しており、これらが筐体35内に格納されている。
【0049】
偏光子14は、レーザ光2のS波偏光成分S2を反射してダンパ16に導く。また、偏光子14は、レーザ光2のP波偏光成分P2を透過させて光路下流側へ導く。反射ミラー15は、偏光子14を透過したレーザ光2のP波偏光成分P2を反射して偏光方位角調整装置31の出射側へ導く。反射ミラー15は、偏光方位角調整装置31に入射してきたレーザ光2の光軸と偏光方位角調整装置31から出射されるレーザ光2の光軸とが同軸になるように配置されている。ダンパ16は、偏光子14で反射したレーザ光2のS波偏光成分S2を受け止める。この構成により、偏光方位角調整装置31は、偏光方位角調整装置31と同様に、レーザ光8Aのエネルギーとレーザ光8Bのエネルギーと、が等しくなるよう、レーザ光2を出射する。これにより、偏光方位角調整装置31からP波偏光成分P2を出射する場合に、偏光方位角を調整するために光軸中心に光学ユニットを回転調整しても光軸にずれが生じない。
【0050】
このように実施の形態によれば、偏光方位角調整装置30によってレーザ光2のS波偏光成分S1を光路下流へ導いているので、偏光子14の熱レンズ現象による影響を受けずにレーザ加工を行うことが可能となる。また、偏光方位角調整装置30を1つの光学ユニットで構成し、レーザ光の光軸方向に回転自在に取り付けられているので、レーザ光2の光軸方向を変えることなく偏光方位角を調整することが可能となる。したがって、被加工物13A,13Bへの安定したレーザ加工を容易に行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明に係る偏光方位角調整装置およびレーザ加工装置は、レーザ加工に用いるレーザ光の偏光方位角の調整に適している。
【符号の説明】
【0052】
1 レーザ発振器
2,8A,8B レーザ光
2a〜2c,9A,9B 偏光方位角
4 マスク
6 反射ミラー
7 偏光ビームスプリッタ
12A,12B XYテーブル
13A,13B 被加工物
14 偏光子
15 反射ミラー
16 ダンパ
30,31 偏光方位角調整装置
35 筐体
100 レーザ加工装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射してくるレーザ光のP波偏光成分を透過させるとともに、前記レーザ光のS波偏光成分を反射する偏光子と、
前記偏光子で反射された前記レーザ光のS波偏光成分を反射して光路の下流側へ導く少なくとも2つの反射光学素子と、
を有するとともに前記P波偏光成分を吸収し且つ前記S波偏光成分を光路の下流側へ出射する光学ユニットを備え、
前記光学ユニットは、前記光学ユニットへの前記レーザ光の入射光軸と前記光学ユニットからの前記レーザ光の出射光軸とが同軸であり且つ前記光学ユニットを前記入射光軸を中心として回転させた場合に前記入射光軸および前記出射光軸の光軸方向が維持されるように、前記偏光子と前記反射光学素子とが配置されていることを特徴とする偏光方位角調整装置。
【請求項2】
レーザ光を出射して被加工物をレーザ加工するレーザ加工装置において、
前記レーザ光を出射する光源から前記被加工物までの光路上に、前記レーザ光の偏光方位角を調整するするとともに前記P波偏光成分を吸収し且つ前記S波偏光成分を光路の下流側へ出射する光学ユニットを備え、
前記光学ユニットは、
入射してくるレーザ光のP波偏光成分を透過させるとともに、前記レーザ光のS波偏光成分を反射する偏光子と、
前記偏光子で反射された前記レーザ光のS波偏光成分を反射して光路の下流側へ導く少なくとも2つの反射光学素子と、
を有するとともに、
前記光学ユニットへの前記レーザ光の入射光軸と前記光学ユニットからの前記レーザ光の出射光軸とが同軸であり且つ前記光学ユニットを前記入射光軸を中心として回転させた場合に前記入射光軸および前記出射光軸の光軸方向が維持されるように、前記偏光子と前記反射光学素子とが配置されていることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項3】
前記光学ユニットから前記被加工物までの光路上に、前記レーザ光を2つのレーザ光に分光する分光部をさらに有し、
前記光学ユニットは、前記光学ユニットから出射するレーザ光の偏向角度が、前記分光部に対して45°の偏光方位角となるように、前記入射光軸を中心として回転させられることを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
入射してくるレーザ光のP波偏光成分を透過させるとともに、前記レーザ光のS波偏光成分を反射する偏光子と、
前記偏光子を透過した前記レーザ光のP波偏光成分を反射して光路の下流側へ導く少なくとも2つの反射光学素子と、
を有するとともに前記S波偏光成分を吸収し且つ前記P波偏光成分を光路の下流側へ出射する光学ユニットを備え、
前記光学ユニットは、前記光学ユニットへの前記レーザ光の入射光軸と前記光学ユニットからの前記レーザ光の出射光軸とが同軸であり且つ前記光学ユニットを前記入射光軸を中心として回転させた場合に前記入射光軸および前記出射光軸の光軸方向が維持されるように、前記偏光子と前記反射光学素子とが配置されていることを特徴とする偏光方位角調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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