説明

偏光素子の製造方法

【課題】光学特性に優れた偏光素子を簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の偏光素子の製造方法は、ガラス基板上に金属の被膜を形成する工程と、被膜を部分的に除去するとともに金属をハロゲン化することでガラス基板上に金属のハロゲン化物からなる島状膜を形成する工程と、ガラス基板を加熱延伸することで島状膜を伸長させ、金属ハロゲン化物の針状粒子を形成する工程と、針状粒子の金属ハロゲン化物を還元することで金属からなる針状金属粒子を形成する工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光素子の一種として、偏光ガラスが知られている。偏光ガラスは無機物のみで構成できるため、有機物を含む偏光板に比べ、光に対する劣化が著しく少ない。したがって、近年高輝度化が進んでいる液晶プロジェクターにおいて有効な光学デバイスとして注目されている。
【0003】
一般的な偏光ガラスとしては、特許文献1に記載されたものが公知であり、その製造方法は以下の通りである。
(1)塩化物、臭化物、及びヨウ化物の群から選択した少なくとも1つのハロゲン化物及び銀を含有する組成物から、所望の形状のガラス製品を作製する。
(2)そのガラス製品を、該ガラス製品中にAgCl、AgBr、又はAgIの結晶を生成せしめるのに十分な期間にわたり、歪み点より高いが、ガラスの軟化点からは約50℃は高くない温度にまで加熱し、結晶含有製品を作製する。
(3)この結晶含有製品を、結晶が少なくとも5:1のアスペクト比に伸長されるように、アニール点より高いが、ガラスが約108ポアズの粘度を示す温度より低い温度において応力下で伸長せしめる。
(4)その製品を、該製品上に化学的な還元表面層を発達せしめるのに十分な期間にわたり、約250℃より高いが、ガラスのアニール点からは約25℃は高くない温度の還元雰囲気に暴露する。ここで伸長ハロゲン化銀粒子の少なくとも一部は銀元素に還元されている。
【0004】
一方、イオン交換法で銀又は銅をガラス表層中へ導入した後、銀又は銅のハロゲン化物の相を析出させ、これを伸長することでガラス製品の表層に偏光分離機能を有する層を形成する方法も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−169140号公報
【特許文献2】特許第4394355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の製造方法では、ガラス製品中に万遍なくハロゲン化物が析出する一方で、還元工程ではガラス製品表層のハロゲン化物しか還元できないため、ガラス製品の厚さ方向の中央部分にハロゲン化物が残存する。そのため、偏光素子の透過率が低下し、液晶表示装置などに適用した場合、十分な明るさが得られない虞がある。
一方、特許文献2記載の方法によれば、ガラス製品の表層部にのみ銀又は銅を導入するので、還元されずに残るハロゲン化物に起因する上記の不具合を防止することができる。しかし、ガラス製品を高温(350℃〜750℃)の溶融塩中に8時間程度も浸漬させる必要があるため、環境負荷が高い。つまり、製造時の消費エネルギーが非常に多く、かつ生産性が悪い。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、光学特性に優れた偏光素子を簡便に製造する方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の偏光素子の製造方法は、ガラス基板上に金属の被膜を形成する工程と、前記被膜を部分的に除去するとともに前記金属をハロゲン化することで、前記ガラス基板上に前記金属のハロゲン化物からなる島状膜を形成する工程と、前記ガラス基板を加熱延伸することで前記島状膜を伸長させ、前記金属ハロゲン化物の針状粒子を形成する工程と、前記針状粒子の前記金属ハロゲン化物を還元することで金属からなる針状金属粒子を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
この製造方法によれば、ガラス基板の表面に金属ハロゲン化物の島状膜を形成し、この島状膜を延伸して針状粒子とした後、還元処理により針状金属粒子を形成しているので、金属ハロゲン化物を確実に還元処理することができる。したがって、金属ハロゲン化物の残存による光学特性の低下が生じることはない。また、薄膜形成工程を用いてガラス基板上に金属ハロゲン化物の島状膜を形成するので、イオン交換によりガラスの表層に金属を導入する従来との工程と比較して著しく簡便な工程で製造することができる。そのため、製造時の消費エネルギーを極めて少なくすることができ、生産性も高めることができる。
【0010】
前記金属ハロゲン化物からなる前記島状膜を形成する工程が、前記被膜をエッチング処理することにより前記島状膜を形成する工程と、前記ガラス基板をハロゲン又はハロゲン化合物を含むガスに曝すことによって前記金属をハロゲン化する工程と、を有する製造方法としてもよい。
この製造方法によれば、被膜を島状に加工するエッチング処理と、島状膜を構成する金属のハロゲン化を別々の工程で行うので、それぞれの工程を最適化することができる。例えば、島状粒子の配置密度や形状を容易に制御することができる。またハロゲン化処理においては、生成する金属ハロゲン化物の物理的特性やハロゲン化の効率を優先してプロセスガスを選択することが可能となる。これらにより、偏光素子の光学特性の制御性を高めたり、製造効率を高めることが容易になる。
【0011】
前記金属ハロゲン化物からなる前記島状膜を形成する工程が、前記被膜をハロゲン又はハロゲン化合物を含むガスのプラズマに曝すことで、前記被膜を部分的に除去しながら前記金属をハロゲン化する工程である製造方法としてもよい。
この製造方法によれば、一工程で被膜の加工とハロゲン化を実施することができ、短時間に効率良く金属ハロゲン化物からなる島状膜を形成することができる。
【0012】
前記金属が、Au、Ag、Cu、Cd、Alから選ばれる1種又は2種類以上である製造方法としてもよい。
この製造方法によれば、偏光素子に好適な針状金属粒子を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態の偏光素子の製造方法を示す図。
【図2】島状膜形成工程後及び延伸工程後のガラス基板表面を示す平面図。
【図3】実施例1に係る島状膜のSEM写真。
【図4】実施例2に係る島状膜のSEM写真。
【図5】実施例3に係る島状膜のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
なお、本発明の範囲は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。
【0015】
図1は、本実施形態の偏光素子の製造方法を示す図である。
本実施形態の偏光素子の製造方法は、図1に示すように、成膜工程S1と、島状膜形成工程S2と、延伸工程S3と、還元工程S4と、を有する。
【0016】
成膜工程S1は、ガラス基板10上に金属の被膜11を形成する工程である。
ガラス基板10としては、特に限定されず、公知のいかなるガラス基板も用いることができる。これは、本実施形態の偏光素子の製造方法では、ガラス基板中に金属ハロゲン化物を析出させたり、ガラス基板の表面にイオン交換により金属イオンを導入したりする必要がなく、金属ハロゲン化物の被膜11を形成可能なものであればよいからである。具体的には、石英ガラス、ソーダライムガラス、サファイアガラス、ホウ珪酸ガラス、アルミノホウ珪酸ガラス等、偏光素子の用途に応じて種々のガラス基板を用いることができる。
【0017】
被膜11の成膜方法は、所望の厚さの金属薄膜を形成できる方法であれば特に限定されず、気相法、液相法のいずれであってもよい。気相法を用いる場合に、物理蒸着法、化学蒸着法のいずれであってもよい。成膜種が金属であることと、成膜厚さが数nm〜数十nm程度であることから、スパッタ系の物理蒸着法を用いるのが簡便である。スパッタ系の物理蒸着法としては、マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリング、ECRスパッタリングなどを例示することができる。
なお、上記スパッタ系の物理蒸着法に代えて、真空蒸着法、分子線蒸着法(MBE)、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法などの蒸発系の物理蒸着法を用いてもよいのはもちろんである。
【0018】
成膜工程S1において、例えばスパッタ法を用いる場合、金属ターゲットとして、Au、Ag、Cu、Cd、Alから選ばれる1種又は2種以上の金属からなるターゲットを用い、Ar等の典型的なプロセスガスを用いて被膜11を成膜することができる。
【0019】
次に、島状膜形成工程S2では、被膜11をハロゲン又はハロゲン化合物を含むガスのプラズマに曝す処理が実行される。これにより、成膜工程S1で形成した被膜11をエッチング処理して多数の島状粒子12aからなる島状膜12を形成する過程と、被膜11(島状膜12)を構成する金属をハロゲン化する過程とが同時に行われる。かかる島状膜形成工程S2により、ガラス基板10上に金属ハロゲン化物からなる島状粒子12aの集合体である島状膜12が形成される。
【0020】
プラズマ処理に用いるプロセスガスとしては、ハロゲンガス(F、Cl、Br、I)、又はハロゲン化合物ガスを、単体又はAr等の不活性ガスとともに用いることができる。ハロゲン化合物としては、特に限定されるものではないが、BCl、BBr、BF等のホウ素化合物、CF、C等のフッ化炭素化合物、GeCl、GeF等のゲルマニウム化合物、SiCl、SiF等のシリコン化合物、SiHCl、SiHCl等のシラン化合物、NF、PF、SF、SnCl、TiCl、WF等を挙げることができる。
【0021】
上記のプラズマ処理により、プラズマ中のハロゲンラジカルを被膜11を構成する金属と反応させ、被膜11を金属ハロゲン化物からなるものとする。形成される金属ハロゲン化物は、例えば、AgClx、AlF、AgF、AgBr、AgI、AlClx等である。
【0022】
また、プラズマ処理中には、上記のハロゲン化反応とともに、イオンによるスパッタが生じるため、被膜11が徐々にエッチングされる。この作用を利用して被膜11を部分的に除去することで、多数の島状粒子12aが平面的に配置された島状膜12を形成する。
【0023】
ここで図2(a)は、島状膜形成工程S2後のガラス基板表面を示す平面図である。図2(a)に示すように、上記プラズマ処理により、平面視で粒径が2〜8nm程度の金属ハロゲン化物(例えばAgClx、AlF等)からなる島状粒子12aが形成される。島状粒子12aの間の領域には、ガラス基板10の表面が露出した領域10aが形成される。
【0024】
なお、本実施形態の島状膜形成工程S2では、被膜11をハロゲン化しつつ島状に残存させる必要があるため、生成した金属ハロゲン化物が過度にエッチングされてしまうことは好ましくない。そこで、通常の反応性ドライエッチングよりも基板バイアスを低くする、あるいは基板バイアスを印加しないようにすることで、ガラス基板10に入射するイオンの加速を緩やかにするとともに、ガラス基板10に垂直に入射するイオンの割合を低く抑えることが好ましい。島状膜形成工程S2におけるエッチレートは、被膜11の膜厚にもよるが、5nm/min〜100nm/minの範囲とすることが好ましい。
【0025】
なお、本実施形態の島状膜形成工程S2では、被膜11を構成する金属のハロゲン化と、島状粒子12aの形成を同時に行うこととしたが、これらを別々の工程で行うこととしてもよい。すなわち、島状膜形成工程として、被膜11を部分的に除去して島状に形成するエッチング工程と、被膜11を構成する金属をハロゲン化するハロゲン化工程と、を有する工程を実行してもよい。上記エッチング工程とハロゲン化工程の順序は入れ替えてもよい。
【0026】
上記エッチング工程としては、ドライエッチング処理を用いることが好ましく、不活性ガス(Ar等)を用いたスパッタエッチング処理が簡便であり、好適である。
また場合によっては、被膜11の加工のみを目的として、反応性ガス(Cl、BCl、HBr、CF、SF等)を用いた反応性ドライエッチング処理を実施してもよい。この場合の反応性ドライエッチング処理では、被膜11の金属をハロゲン化する必要はないため、島状粒子12aの全体がハロゲン化されない条件で加工したり、加工特性を優先して反応性ガスの種類を選択することができる。
【0027】
上記ハロゲン化工程としては、ガラス基板10をハロゲン又はハロゲン化合物を含むガスに曝して被膜11を該ガスと接触させることで金属をハロゲン化する方法を用いることができる。例えば、ClガスやBrガスを含む雰囲気中でガラス基板10を加熱することで、被膜11の表面からハロゲン化を進行させる方法を用いることができる。
【0028】
なお、ハロゲン化のみを目的としてハロゲンを含むプロセスガスを用いたプラズマ処理を実施してもよい。この場合には、被膜11の加工性を考慮する必要がないため、生成する金属ハロゲン化物の物理的特性やハロゲン化の効率を優先してプロセスガスを選択することができる。
【0029】
次に、延伸工程S3では、図1(c)に示すように、加熱して軟化させたガラス基板10を、島状粒子12aが設けられているガラス基板10の面と平行な方向に引き延ばす。引き延ばす方法としては、ガラス基板10を面と平行な方向に引っ張る延伸処理であってもよく、圧力により薄く延ばす圧延処理であってもよい。延伸工程S3における加熱温度は特に限定されず、ガラス基板10が溶融させることなく軟化させることができる温度に加熱すればよい。
【0030】
延伸工程S3により、ガラス基板10は延伸方向に引き延ばされるとともに薄く加工される。また、ガラス基板10上の島状粒子12aも延伸方向に引き延ばされ、図2(b)に示すように、ガラス基板10上で延伸方向(図示左右方向)に配向した多数の針状粒子12bとなる。針状粒子12bは、アスペクト比が5以上の細長い形状であり、例えば、幅1〜3nm、長さ5〜20nm程度の大きさである。
【0031】
また、複数の針状粒子12bの間の領域には、図2(a)に示した領域10aが引き延ばされることによって、細長いスリット状の領域10bが形成される。このスリット状の領域10bの大きさは、島状粒子12aの形成密度により変化するが、幅1〜10nm、長さ3〜50nm程度である。
【0032】
次に、還元工程S4では、ガラス基板10を、水素等の還元雰囲気中に配置するとともに加熱することで、針状粒子12bを構成する金属ハロゲン化物を還元する。これにより、ガラス基板10上に針状金属粒子12cが形成される。例えば、針状粒子12bがAgClxからなるものである場合には、Agからなる針状金属粒子12cが形成される。針状粒子12bがAlFからなるものである場合には、Alからなる針状金属粒子12cが形成される。
以上の工程により、ガラス基板10上に、基板面内の一方向に配向した多数の針状金属粒子12cがスリット状の領域10bを介して配列された偏光素子100を製造することができる。
【0033】
本実施形態の製造方法により製造される偏光素子100は、可視光の波長よりも狭い幅の針状金属粒子12cが狭ピッチで配列されていることにより、透過光を所定の振動方向の直線偏光に分離する機能を奏する光学素子として用いることができる。
また従来の偏光ガラスでは、針状の金属粒子の配置密度は1μmあたり20本以下程度であったため、高い偏光分離特性を得るためには、針状の金属粒子をガラス基板の厚さ方向に広く分布させる必要があった。これに対して本実施形態の偏光素子では、針状金属粒子12cは、ガラス基板10の表面に高密度で配置されているため、任意の厚さのガラス基板10を用いることができ、薄型の偏光素子とすることも容易である。
【0034】
以上に詳細に説明した本実施形態の製造方法によれば、薄膜形成技術を用いてガラス基板10の表面に金属ハロゲン化物の島状粒子12aを形成し、これを延伸、還元するので、金属ハロゲン化物を確実に還元することができ、金属のみからなる針状金属粒子12cを容易かつ確実に得ることができる。したがって、従来の偏光ガラスのようにガラス基板内部に金属ハロゲン化物が残留することによって、偏光素子の光透過率を低下させることがない。
また、島状粒子12aの形成に、スパッタやプラズマ処理などの薄膜形成技術を用いているため、イオン交換によりガラス基板の表層部に金属元素を導入するプロセスのように高温の溶融塩に長時間浸漬するといった製造工程が不要である。そのため、製造時の消費エネルギーを極めて少なくすることができ、環境負荷を小さくすることができる。また、本実施形態の製造方法は従来の製造方法よりも生産性に優れている。
【0035】
また本実施形態の製造方法では、島状膜形成工程S2において被膜11を部分的に除去することで島状膜12を形成するので、島状粒子12aの配置密度を極めて容易に制御することができる。すなわち、偏光素子の光学特性を極めて容易に制御することが可能である。
【0036】
また本実施形態の製造方法では、金属の被膜11を形成した後、これを島状に加工するとともにハロゲン化することで金属ハロゲン化物からなる島状粒子12aを形成するので、形成する金属ハロゲン化物の材質変更が極めて容易であり、従来の偏光ガラスの製造プロセスでは使用することができなかった材質であっても用いることが可能である。このように材質の選択範囲が広がることで、偏光素子の光学特性の制御が容易になり、生産性を高めることも容易になる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術範囲は下記の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
金属ターゲットとしてAgターゲット(純度99.99%、厚さ5mm、円盤状)が取り付けられた平行平板型のスパッタリング装置の真空容器内に、ガラス基板を配置した(基板−ターゲット間距離110mm)。次いで、Arガス(純度99.999%、流量100sccm)を圧力0.4Paとなるように真空容器内に導入した状態で、Agターゲットに100Wの交流電力(発振周波数13.56MHz)を入力し、1分間の成膜を行った。これにより、スパッタされたAg粒子をガラス基板上に堆積させることで、厚さ10nmのAg膜を形成した。
【0039】
次に、ICPドライエッチャー装置の真空容器内に、上記のAg膜が形成されたガラス基板を配置した。次いで、Clガス(流量50sccm)を圧力5.0Paとなるように真空容器内に導入した状態で、ICPアンテナに500Wの交流電力(発振周波数13.56MHz)を投入してCl2プラズマを形成し、基板バイアス0Wの条件でAg膜をプラズマ処理した。
上記のプラズマ処理により、島状膜をガラス基板上に形成することができた。図3に島状膜のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を示す。図3に示す島状膜は、AgClxからなる粒径約50〜200nmの島状粒子が平面配置されるとともに、島状粒子間に基板面が露出した領域を有するものであった。
次に、ガラス基板を延伸することにより、AgClxからなる島状膜はガラス基板とともに引き延ばされ、図2(b)に示すような形状のAgClxからなる針状粒子12bを得ることができた。さらに、針状粒子12bを構成する金属ハロゲン化物を還元することにより、Agからなる針状金属粒子12cが形成された。
【0040】
(実施例2)
上記実施例1と同様の条件で、ガラス基板上に厚さ10nmのAg膜を形成した。
次に、ICPドライエッチャー装置の真空容器内に、上記のAg膜が形成されたガラス基板を配置した。次いで、CFガス(流量20sccm)とCガス(流量30sccm)を圧力5.0Paとなるように真空容器内に導入した状態で、ICPアンテナに500Wの交流電力(発振周波数13.56MHz)を投入してフッ化炭素のプラズマを形成し、基板バイアス0Wの条件でAg膜をプラズマ処理した。
上記のプラズマ処理により、島状膜をガラス基板上に形成することができた。図4に島状膜のSEM写真を示す。図4に示す島状膜は、AgFからなる粒径約50nmの島状粒子が平面配置されるとともに、島状粒子間に基板面が露出した領域を有するものであった。
次に、ガラス基板を延伸することにより、AgFからなる島状膜はガラス基板とともに引き延ばされ、図2(b)に示すような形状のAgFからなる針状粒子12bを得ることができた。さらに、針状粒子12bを構成する金属ハロゲン化物を還元することにより、Agからなる針状金属粒子12cが形成された。
【0041】
(実施例3)
金属ターゲットとしてAlターゲット(純度99.99%、厚さ5mm、円盤状)が取り付けられた平行平板型のスパッタリング装置の真空容器内に、ガラス基板を配置した(基板−ターゲット間距離110mm)。次いで、Arガス(純度99.999%、流量100sccm)を圧力0.4Paとなるように真空容器内に導入した状態で、Alターゲットに100Wの交流電力(発振周波数13.56MHz)を入力し、1分間の成膜を行った。これにより、スパッタされたAl粒子をガラス基板上に堆積させることで、厚さ10nmのAl膜を形成した。
次に、実施例2と同様にして、ICPドライエッチャー装置を用いてAl膜をプラズマ処理した。このプラズマ処理により、島状膜をガラス基板上に形成することができた。図5に島状膜のSEM写真を示す。図5に示す島状膜は、AlFからなる粒径約10〜50nmの島状粒子が平面配置されるとともに、島状粒子間に基板面が露出した領域を有するものであった。
次に、ガラス基板を延伸することにより、AlFからなる島状膜はガラス基板とともに引き延ばされ、図2(b)に示すような形状のAlFからなる針状粒子12bを得ることができた。さらに、針状粒子12bを構成する金属ハロゲン化物を還元することにより、Alからなる針状金属粒子12cが形成された。
【0042】
(実施例4)
上記の実施例1乃至実施例3では、被膜11を構成する金属のハロゲン化と、島状粒子12aの形成とを同時に行ったが、実施例4では、これらを別々の工程で行った。具体的には、被膜を部分的に除去して島状膜を形成する島状膜形成工程と、形成された島状膜をハロゲン化するハロゲン化工程をこの順に実行した。
【0043】
島状膜形成工程としては、ドライエッチング処理を用いることが好ましく、不活性ガス(Ar等)を用いたスパッタエッチング処理が簡便であり、好適である。本実施例での島状膜形成工程では被膜の金属をハロゲン化する必要はないため、島状粒子の全体がハロゲン化されない条件で加工したり、加工特性を優先して反応性ガスの種類を選択することができる。
具体的には、ICPドライエッチャー装置の真空容器内に、Ag薄膜が形成されたガラス基板を配置した。次いで、Arガス(流量50sccm)を圧力5.0Paとなるように真空容器内に導入した状態で、ICPアンテナに300Wの交流電力(発振周波数13.56MHz)を投入してArプラズマを形成し、基板バイアス60Wの条件でAg膜をプラズマ処理した。上記のプラズマ処理により、島状膜(島状Ag膜)をガラス基板上に形成することができた。この島状膜は、Agからなる粒径約50〜200nmの島状粒子が平面配置されるとともに、島状粒子間に基板面が露出した領域を有するものであった。
【0044】
次に、ハロゲン化工程では被膜の加工性を考慮する必要がないため、生成する金属ハロゲン化物の物理的特性やハロゲン化の効率を優先してプロセスガスを選択することができる。
具体的には、ICPドライエッチャー装置の真空容器内に、島状Ag膜が形成されたガラス基板を配置した。次いで、Clガス(流量20sccm)とBClガス(流量40sccm)の混合ガスを圧力0.70Paとなるように真空容器内に導入した状態で、ICPアンテナに300Wの交流電力(発振周波数13.56MHz)を投入してClプラズマを形成し、基板バイアス0Wの条件でAg膜をプラズマ処理した。上記のプラズマ処理により、ハロゲン化した島状AgClx膜をガラス基板上に形成することができた。この島状膜は、AgClxからなる粒径約30〜150nmの島状粒子が平面配置されるとともに、島状粒子間に基板面が露出した領域を有するものであった。
次に、ガラス基板を延伸することにより、AgClxからなる島状膜はガラス基板とともに引き延ばされ、図2(b)に示すような形状のAgClxからなる針状粒子12bを得ることができた。さらに、針状粒子12bを構成する金属ハロゲン化物を還元することにより、Agからなる針状金属粒子12cが形成された。
【0045】
実施例1乃至実施例4ではガラス基板上に金属のハロゲン化物からなる単層の島状膜を形成して、そのガラス基板を延伸した。しかし、金属のハロゲン化物からなる島状膜を単層形成しただけでは偏光素子としての性能が不十分であれば、ガラス基板上に金属のハロゲン化物からなる複数の島状膜を積層してからガラス基板を延伸してもよい。
この場合、1層目の金属のハロゲン化物からなる島状膜の上に透明な絶縁膜を形成し、その絶縁膜の上に2層目の金属のハロゲン化物からなる島状膜を形成する。1層目の金属のハロゲン化物からなる島状膜と2層目の金属のハロゲン化物からなる島状膜との間に絶縁膜を設けることにより、互いに積層された二つの島状膜同士が融合することが防止される。3層めの金属のハロゲン化物からなる島状膜が必要であれば、2層目の金属のハロゲン化物からなる島状膜の上に透明な絶縁膜をさらに形成し、該絶縁膜を介して3層めの金属のハロゲン化物からなる島状膜を形成すればよい。絶縁膜の材料としては、シリコン酸化物、シリコン窒化物、チタン酸化物やジルコニウム酸化物など透明な材料を用いることができる。絶縁膜の厚さとしては特に限定されないが、例えば100nmとすることができる。
このように複数の金属のハロゲン化物からなる島状膜を積層した後、ガラス基板を延伸することにより、複数の金属のハロゲン化物からなる島状膜はガラス基板とともに引き延ばされ、平面視で図2(b)に示すような形状の金属のハロゲン化物からなる針状粒子12bを得ることができる。さらに、針状粒子12bを構成する金属ハロゲン化物を還元することにより、針状金属粒子12cを形成することができる。
【0046】
以上に説明したように、複数の材質を用いて図2(a)に示した島状膜12と同様の形状の島状膜を形成できることが確認された。これらの島状膜は、AgClx、AgF、あるいはAlFからなる島状粒子の集合体であることから、ガラス基板を延伸処理することによりガラス基板とともに引き延ばされ、図2(b)に示す形状の針状粒子12bを得ることができる。このように、本発明によれば、光学特性に優れた偏光素子を、従来よりも極めて小さい環境負荷で簡便に製造することができる。
【符号の説明】
【0047】
10…ガラス基板、11…被膜、12…島状膜、12b…針状粒子、12c…針状金属粒子、100…偏光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板上に金属の被膜を形成する工程と、
前記被膜を部分的に除去するとともに前記金属をハロゲン化することで、前記ガラス基板上に前記金属のハロゲン化物からなる島状膜を形成する工程と、
前記ガラス基板を加熱延伸することで前記島状膜を伸長させ、前記金属ハロゲン化物の針状粒子を形成する工程と、
前記針状粒子の前記金属ハロゲン化物を還元することで金属からなる針状金属粒子を形成する工程と、
を有することを特徴とする偏光素子の製造方法。
【請求項2】
前記金属ハロゲン化物からなる前記島状膜を形成する工程が、
前記被膜をエッチング処理することにより前記島状膜を形成する工程と、
前記ガラス基板をハロゲン又はハロゲン化合物を含むガスに曝すことによって前記金属をハロゲン化する工程と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項3】
前記金属ハロゲン化物からなる前記島状膜を形成する工程が、前記被膜をハロゲン又はハロゲン化合物を含むガスのプラズマに曝すことで、前記被膜を部分的に除去しながら前記金属をハロゲン化する工程であることを特徴とする請求項1に記載の偏光素子の製造方法。
【請求項4】
前記金属が、Au、Ag、Cu、Cd、Alから選ばれる1種又は2種類以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の偏光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−198308(P2012−198308A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61051(P2011−61051)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】