説明

偏波共用パッチアンテナ

【課題】L型プローブ給電の手法を用いてパッチを励振することで、広い周波数帯域で動作することが可能な特性を有する偏波共用パッチアンテナを提供することを目的とする。
【解決手段】偏波共用パッチアンテナは、パッチの背面に配置され、パッチの上面から見たときに、第1軸方向に該パッチの第1軸方向の長さと略同じ長さを持ち、第1軸方向と直交する第2軸方向に該パッチの第2軸方向の長さと略同じ長さを持つ十字型の形状をしたストリップ線路;及び前記ストリップ線路と電磁結合し、前記ストリップ線路を第1軸方向及び第2軸方向に励振するように給電して、前記パッチを励振する給電プローブ;を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直交する2種類偏波の電磁波を送受信することが可能な偏波共用パッチアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術によって構成された偏波共用パッチアンテ(非特許文献1参照)を図1に示す。図1に示す構成では、誘電体等を介してグランド板の前面に配置されたパッチ(金属小片)を2方向から給電することで、直交する2種類偏波の電磁波を送信又は受信するアンテナを実現する。このアンテナへの給電方法としては、図1に示すように、給電ラインを直接にパッチに接続することにより行われる。パッチアンテナは通常は薄い誘電体に金属フィルムが貼られたプリント基板を用いて製造されることが多く、パッチの形状としては矩形や円形のものが良く用いられる。パッチアンテナは薄型でコンパクトなアンテナとして広く用いられている反面、使用可能な周波数範囲(周波数帯域)が狭いという欠点がある。給電方法としては給電ラインを直接にパッチにつなげる方法の他、図2に示すように、同軸線路の外導体をグランド板に接続し、同軸線路の内導体を誘電体を貫通させてパッチの背面から接続する方法(非特許文献1参照)も用いられる。しかし、この方法では周波数帯域は大幅には改善しない。給電ラインを直接にパッチに接続せずに、図3に示すように、グランド板に設置した開口(スロット開口)を介して、グランド板を挟んでパッチと反対側の面に構成した給電ラインから電磁結合によってパッチを給電する方法(非特許文献1参照)もある。この給電方法によって偏波共用パッチアンテナを構成しようとした場合には2つのスロット又は2つの給電ラインが近接することになり(図3参照)、対称性が崩れることにより交差偏波特性の劣化を招くという問題がある。特に、高い周波数でパッチアンテナを使用する場合や、厚い誘電体基板を使用した場合にはパッチの大きさに比較してスロットおよび給電ラインが大きくなる傾向があり、スロットや給電ラインの配置が難しくなるとともに、これらスロットや給電ラインが非常に近接することとなる。図3のアンテナの改良として、図4に示すように、2つのスロットを交差させるとともに、誘電体を厚くして2枚のパッチを重ねて配置することで、広帯域化を図る方法が開示されている(特許文献1参照)。しかし、この場合にも同様にスロット給電を用いているため、2つの給電ラインが非常に近接することに起因する問題がある。
【0003】
図2の従来技術によって構成された偏波共用パッチアンテの特性の一例を図5及び図6に示す。図5に示すように、アンテナの入力特性を示すVSWRが1.5以下となる帯域は2.5%と狭いことが分る。これは周波数の変化に伴いインピーダンスが大きく変化してしまうことに起因している。また、図6に示すように、スミスチャート上のインピーダンスの軌跡が大きな輪を描いており、インピーダンス整合のとれる範囲が狭いことが分る。
【0004】
なお、図1の従来技術でも同様にインピーダンス整合のとれる範囲は狭く、特性が大きく改善することは無い。図1の構成や図2の構成でパッチを励振した場合には給電ラインまたは同軸線路の導体がパッチに接触する部分において局所的に電流が集中する箇所が生じることになり、このことが特性を劣化させる要因となる。図3の構成では特性が改善されるが、前述のように、対称性の崩れがあり、アンテナの設計が困難になる。
【特許文献1】特開平7−212125
【非特許文献1】小形・平面アンテナ、羽石操ほか共著、電子情報通信学会編、1996年8月、184ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述のような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、L型プローブ給電の手法を用いてパッチを励振することで、広い周波数帯域で動作することが可能な特性を有する偏波共用パッチアンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の前記の目的は、パッチの背面に配置され、パッチの上面から見たときに、第1軸方向に該パッチの第1軸方向の長さと略同じ長さを持ち、第1軸方向と直交する第2軸方向に該パッチの第2軸方向の長さと略同じ長さを持つ十字型の形状をしたストリップ線路;及び前記ストリップ線路と電磁結合し、前記ストリップ線路を第1軸方向及び第2軸方向に励振するように給電して、前記パッチを励振する給電プローブ;を有する偏波共用パッチアンテナにより解決することができる。
【発明の効果】
【0007】
前記のように、本発明の実施例による偏波共用パッチアンテナによれば、広い周波数帯域での動作を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(パッチアンテナの構成)
図7〜9に、本発明の一実施例に従って、直交する2種類偏波の電磁波を送信又は受信することが可能な偏波共用パッチアンテナの構成10を示す。図面を分かりやすくするため、図7において誘電体及びグランド板を省略したときの図を図8に示す。同様に、誘電体及びグランド板を省略したときの、パッチ101と、クロスライン103と、給電プローブ105、107との位置関係を図9に示す。
【0009】
偏波共用パッチアンテナ10は、パッチ101と、クロスライン(十字型のストリップ線路)103と、給電プローブ105、107とを有する。パッチ101の背面にパッチと略同じ長さの十字型をしたストリップ線路(クロスライン103)を配置し、当該クロスラインの2方向に電流を給電するようにクロスライン103の背面に給電プローブ105、107を設置する。クロスライン103は、十字型の形状をしたストリップ線路(金属箔)である。給電プローブ105、107は、同軸線路の外導体をグランド板109に接続し、内導体117、119を誘電体109を貫通させて金属小片113、115に接続するように構成されたL型プローブである。
【0010】
給電プローブ105は、クロスライン103と非接触で電磁結合し、図8のY軸方向にパッチアンテナ101を励振する。同様に、給電プローブ107は、クロスライン103と非接触で電磁結合し、図8のX軸方向にパッチアンテナ101を励振する。このようにクロスライン103を設けることにより、給電プローブから直接にパッチと結合する電磁界成分と、クロスラインを介してパッチと結合する電磁界成分との合成によってインピーダンス整合が実現することができ、効率的にパッチを励振することが可能になる。
【0011】
また、クロスライン103の長さをパッチ101と略同じ長さとすることにより、クロスラインのそれぞれの方向に伸びる長さはパッチの共振周波数の近傍で共振するようになる。具体的にはパッチが基本モードで励振される場合においては、クロスラインのそれぞれの方向に伸びる長さは電気長に換算して半波長あるいは半波長よりも少し短い長さに対応して共振することとなる。なお、給電プローブの金属小片113の大きさは、図9に示すようにクロスライン103の幅より少し細い幅に設計されることが一般的であるが、図9にかかわらず、クロスラインの幅と同じ又はそれより大きく設計することもできる。
【0012】
(パッチアンテナの特性)
本実施例のアンテナでは、パッチから見て背面にあるクロスラインは励振方向に対して対称な形状となっていることから、交差偏波特性の劣化を招かないという利点がある。
【0013】
更に、本実施例のアンテナの設計時にクロスラインの幅を変えることでインピーダンスの実数成分(レジスタンス成分)を調整でき、クロスラインとパッチとの間隔を変化させることでインピーダンスの虚数成分(リアクタンス成分)を調整することが可能である。従って、所望とする周波数において容易にインピーダンス整合を図ることが可能になる。具体的には、クロスラインの幅を狭くした場合にはレジスタンス成分が大きくなり、クロスラインとパッチとの間隔を大きくした場合にはリアクタンス成分が大きくなる。
【0014】
また、図2に関して前述したように、アンテナの励振素子において局所的に電流が集中する箇所が生じた場合には一般的に周波数帯域が狭くなる。これに対して、本実施例においては、給電プローブを用いて電磁結合によって間接的にクロスラインとパッチを励振することにより、クロスライン及びパッチに電流が局所的に集中する箇所を作らないようにすることができる。このような構成により、アンテナの広帯域化を図ることができる。
【0015】
図7に示す偏波共用パッチアンテナのVSWR特性を図10に示す。なお、この場合は2つの偏波とも同じ周波数で共振するようにパッチは正方形とした。クロスラインの線路幅はインピーダンス50Ωのストリップ線路の幅よりも僅かに細い幅に調整されており、パッチとクロスラインと給電プローブ(上面)との位置関係は略等間隔とした。図10から、本実施例による偏波共用パッチアンテナでは、給電プローブ105を給電するポート1及び給電プローブ107を給電するポート2の双方について、VSWRが1.5以下となる帯域が6.8%と広いことが分る。また、図11は、図7に示す偏波共用パッチアンテナのインピーダンス特性を示す。図11から分るように、給電プローブ105を給電するポート1及び給電プローブ107を給電するポート2の双方について、アンテナの共振周波数の近傍においてスミスチャート上におけるインピーダンスの軌跡が小さな輪を描いており、比較的広い周波数範囲でインピーダンス整合がとれることが確認できる。図10及び図11において、ポート1及びポート2の双方とも同じ特性を示しており、グラフ上で同一の軌跡を示している。
【0016】
図12及び図13は、それぞれの偏波に対応する給電プローブを励振した場合のアンテナパターンをピーク利得が0dBとなるように規格化して示したものである。図12及び図13のグラフは略同じパターンを示しており、この偏波共用パッチアンテナは偏波面が90度回転しただけで略同じパターン特性を有すると考えられる。また、交さ偏波成分は主偏波成分の-14dB以下に抑えられており、良好なパターン特性を有していることが確認できる。
【0017】
以上説明したように、本実施例の偏波共用パッチアンテナは広い周波数帯域で動作することが可能である。更に、2つの偏波方向に関して対称性が良い構造を有していることから、本実施例の偏波共用パッチアンテナのアンテナパターンは良好な交差偏波特性を実現することが可能である。
【0018】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されることなく、特許請求の範囲内において種々の変更及び応用が可能である。例えば、パッチの形状は矩形に限定されることなく、円形でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来技術の偏波共用パッチアンテナを説明する図
【図2】従来技術の偏波共用パッチアンテナを説明する図
【図3】従来技術の偏波共用パッチアンテナを説明する図
【図4】従来技術の偏波共用パッチアンテナを説明する図
【図5】図2に示す偏波共用パッチアンテナのVSWR特性を示すグラフ
【図6】図2に示す偏波共用パッチアンテナのインピーダンス特性を示すスミスチャート
【図7】本発明の実施例による偏波共用パッチアンテナを説明する図
【図8】図7に示す偏波共用パッチアンテナを説明する図
【図9】図7に示す偏波共用パッチアンテナの位置関係を示す図
【図10】図7に示す偏波共用パッチアンテナのVSWR特性を示すグラフ
【図11】図7に示す偏波共用パッチアンテナのインピーダンス特性を示すスミスチャート
【図12】図7に示す偏波共用パッチアンテナの給電プローブ105を励振した場合のパターン特性を示す図
【図13】図7に示す偏波共用パッチアンテナの給電プローブ107を励振した場合のパターン特性を示す図
【符号の説明】
【0020】
10 偏波共用パッチアンテナ
101 パッチ
103 クロスライン(十字型のストリップ線路)
105、107 給電プローブ
109 誘電体(発泡材)
111 グランド板
113、115 金属小片
117、119 同軸線路の内導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッチの背面に配置され、パッチの上面から見たときに、第1軸方向に該パッチの第1軸方向の長さと略同じ長さを持ち、第1軸方向と直交する第2軸方向に該パッチの第2軸方向の長さと略同じ長さを持つ十字型の形状をしたストリップ線路;及び
前記ストリップ線路と電磁結合し、前記ストリップ線路を第1軸方向及び第2軸方向に励振するように給電して、前記パッチを励振する給電プローブ;
を有する偏波共用パッチアンテナ。
【請求項2】
前記給電プローブは、前記ストリップ線路を第1軸方向に励振するように給電して、前記パッチを第1軸方向に励振する第1の給電プローブと、前記ストリップ線路を第2軸方向に励振するように給電して、前記パッチを第2軸方向に励振する第2の給電プローブとを有することを特徴とする、請求項1に記載の偏波共用パッチアンテナ。
【請求項3】
前記パッチ及び前記ストリップ線路は、第1軸方向及び第2軸方向に対して対称的な形状を有することを特徴とする、請求項1に記載の偏波共用パッチアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−142876(P2007−142876A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334728(P2005−334728)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】