説明

傾斜センサおよびこれを用いた方位計測装置

【課題】 専用の傾斜センサを用いることなく磁気センサから傾斜角を算出することが可能な傾斜センサおよびこれを用いた方位計測装置を提供する。
【解決手段】 3軸型の磁気センサ3,4,5を回転させたときに、第1の演算処理部11が前記磁気センサ3,4,5の出力を換算した磁気データX,Y,Zを生成する。第2の演算処理部12は前記磁気データX,Y,Zを基に楕円状のリサージュ波形を生成し、この長径をXゲインGx、短径をYゲインGyとして求める。相関関係を有するXゲインGxと傾斜角αとがテーブル化されてメモリ部17に記憶されている。制御部16が前記XゲインGxに対応するアクセスコードを生成し、前記メモリ部17にアクセスすることにより傾斜角αが求まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3軸型の磁気センサを利用した傾斜センサおよびこれを用いた方位計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地平面に対してコンパス自体が傾斜姿勢に設定されたときの傾斜角度(地平面に対する姿勢角度)に起因して発生する誤差を考慮して、方位角の検出を行う方法が記載された先行技術としては、例えば以下に示すような特許文献1などが存在している。
【0003】
特許文献1に記載されたものでは、基板と平行な平面に規定される磁気ベクトルの2軸成分を検出する磁気センサ100と、磁気ベクトルの基板とは垂直な方向の成分を検出するホール素子24と、基板の傾斜角度を検出する傾斜センサ22とが一体に構成されており、前記傾斜センサ22が検出した基板の傾斜角度(ロール角やピッチ角)を基づき、前記磁気センサ100から検出される磁気ベクトルの2軸成分、およびホール素子24から検出される垂直成分を補正することにより、適正な方位角の検出を行うというものである。
【特許文献1】特開2002−196055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載されたものは、地球磁極方位を算出するための3軸磁気センサに加えて傾斜補正を行うための傾斜センサを必要とする構成である。このため、コンパス自体を大規模化・重量化させる要因となり、結果として前記コンパスを搭載する携帯機器等の小型化・軽量化の妨げになるという問題がある。
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、磁気センサが取得した磁気データから傾斜角を求めることを可能とした傾斜センサを提供することを目的としている。
【0006】
また本発明は、専用の傾斜センサを用いることなく方位角を検出することができる方位計測装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、互いに直交する3軸方向の磁気成分を検出する磁気センサと、前記磁気センサの出力を取得して演算する演算手段とを備えた傾斜センサであって、
前記演算手段は、少なくとも前記3軸方向の磁気成分を換算して3つの磁気データを生成する第1の演算処理部と、前記磁気データから所定のアクセスコードを算出する第2の演算処理部と、傾斜角に関する複数のデータが記憶されたメモリ部と、前記各部の動作を制御する制御部とを有しており、
前記制御部が、前記メモリ部にアクセスしたときに、前記アクセスコードに対応する傾斜角を呼び出すようにしたことを特徴とするものである。
【0008】
例えば、前記第2の演算処理部は、前記磁気センサを任意の1軸回りに回転させたときに、残りの2軸に関する磁気データから楕円状のリサージュ波形を生成するとともに前記楕円の長径または短径の長さ寸法を算出し、前記長径または短径のうち前記回転とともに変化する一方の長さ寸法を前記アクセスコードとすることを特徴とするものである。
【0009】
または前記第2の演算処理部は、前記磁気センサを任意の1軸回りに回転させたときに、残りの2軸に関する磁気データから楕円状のリサージュ波形を生成するとともに前記楕円の長径または短径の長さ寸法を算出し、前記長径の長さ寸法と前記短径の長さ寸法との比を前記アクセスコードとすることを特徴とするものである。
【0010】
上記において、前記1軸回りの回転が1回転以上であることが好ましい。
ただし、前記1軸回りの回転が1回転以内であるときには、既知の値として前記メモリ部に記憶されている楕円の長径の長さ寸法と前記楕円上の任意と一点として入力される磁気データとから求めた前記楕円の短径の長さ寸法、または前記長径の長さ寸法と前記短径の長さ寸法との比のいずれか一方を前記アクセスコードとすることが可能である。
【0011】
また本発明の方位計測装置は、前記3軸方向の磁気成分を換算した磁気データと、前記いずれかに記載された傾斜センサが算出した傾斜角とから方位角が算出されることを特徴とするものである。
【0012】
上記において、伏角及び偏角取得手段が設けられており、前記伏角及び偏角取得手段がGPS用の人工衛星から受信した電波から前記測定位置を割り出すとともに、前記測定位置に対応する伏角及び偏角に関するデータがメモリ部から呼び出されるものが好ましい。
【0013】
あるいは伏角及び偏角取得手段が設けられており、前記伏角及び偏角取得手段が携帯電話システムの中継局との間における通信から測定位置を割り出すとともに、このときの測定位置に対応する前記伏角及び偏角に関するデータがメモリ部から又は前記中継局を介して取得されるものが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、3軸型の磁気センサで傾斜センサを構成することができる。このため、専用の傾斜センサを不要とすることができ、このような3軸型の磁気センサを搭載した方位計測装置の小型化および軽量化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は方位計測装置としての3軸型電子コンパスを搭載した携帯端末と方位角との関係を2次元的に示す平面図、図2は3軸型電子コンパスの構成を示すブロック図、図3は傾斜補正の原理を3次元的に説明するための方位解析図、図4Aはx軸回りにピッチ角αだけ傾斜させた状態を2次元的に示す携帯端末の側面図、図4Bはy軸回りにピッチ角βだけ傾斜させた状態を2次元的に示す携帯端末の底面図である。
【0016】
図1は携帯端末1の代表例として示す携帯電話機である。この携帯端末1には3軸型電子電子コンパス(方位計測装置)2が搭載されている。図2に示すように、前記3軸型電子コンパス2は軸方向の磁界の強さを検出する磁気検出手段として機能する3ヶの磁気センサ3,4,5が搭載されている。前記磁気センサ3,4,5は互いに直交する方向に配置されており、前記図1に示すように携帯端末1の幅方向をx’軸、前記携帯端末1の長手方向をy’軸、携帯端末1の板厚方向をz’軸とすると、前記磁気センサ3はx’軸方向、前記磁気センサ4はy’軸方向、前記磁気センサ5はz’軸方向にそれぞれ発生した磁界の強さを検出することが可能とされている。したがって、前記3軸型電子コンパス2では3ヶの磁気センサ3,4,5によりx’y’z’直交座標系が形成されており、地球の回りに発生する地磁気ベクトルHを3軸方向の成分として検出することが可能とされている。
【0017】
なお、前記磁気検出手段を構成する磁気センサとしては、例えば公知のMR(Magneto Resistive)センサ、ホール素子、フラックスゲート型磁気センサ(特開平9−43322号および特開平11−118892号公報参照)、GIG(Granulau in Gap)素子を用いたセンサなどを用いることができる。
【0018】
図2に示すように、前記3軸型電子コンパス2は演算手段10が設けられている。前記演算手段10は、第1の演算処理部11、第2の演算処理部12、第3の演算処理部13、第4の演算処理部14を有している。なお、第1ないし第4の演算処理部11,12,13,14の機能については後述する。
【0019】
また3軸型電子コンパス2は、前記磁気検出手段、前記演算手段10および後述するメモリ部17など動作を制御する制御部16が設けられている。
【0020】
以下の説明においては、携帯端末1の傾き姿勢に応じて変化する前記x’y’z’直交座標系のx’軸とy’軸とが地面に対して平行となる水平面(x’y’平面(地平面))を形成しており、y軸’が真北を向き且つ前記x’軸とy軸’の双方に直交するz’軸が鉛直方向(重力方向)を向いた場合の座標系をxyz直交座標系とする。なお、前記xyz直交座標系は固定された基準座標系を形成しており、前記x’y’z’直交座標系のように携帯端末1の傾き姿勢に応じて変化する座標系とは異なるものである。
【0021】
また符号Hx、Hy、Hzは、携帯端末1に搭載されたの前記3軸型磁気センサ3,4,5が検知する地磁気ベクトルHの前記xyz直交座標系におけるx軸成分,y軸成分およびz軸成分の大きさ(磁界の強さ)を意味している。また符号Hxyは前記地磁気ベクトルHを前記地平面(xy平面)に投影したときの水平成分を示すとともに、磁北の向きを示している(図1参照)。またHyzは前記地磁気ベクトルHを垂直なyz平面に投影したときの成分を示している(図4A参照)。
【0022】
図1および図3に示す方位角θは、基準とするy’軸と磁北(地磁気ベクトルHの水平成分Hxy)とが成す角である。また方位角θ’は、基準とするy’軸と真北とが成す角であり、本発明の3軸型電子コンパスが最終的に求めようとする角度である。
【0023】
さらに図4Aに示す符号αは、携帯端末1をx’軸(x軸)回りに回転させたときに前記y軸(または地平面(xy平面))と回転後のy’軸(またはx’y’平面)とが成す傾斜角(以下ピッチ角という。)を意味する。また図4Bに示す符号βは携帯端末1をy’軸(y軸)回りに回転させたときに前記x軸(または地平面(xy平面))と回転後のx’軸(またはx’y’平面)とが成す傾斜角(以下ロール角という。)を意味している。
【0024】
ここで、図3に示す符号ηは前記地平面(xy平面)と前記地平面を突っ切る地磁気ベクトルHとが成す角であり、伏角(下向きをプラスとする)を意味している。ただし、前記伏角ηは場所によって異なる値であり、北半球では緯度が高くなるほど大きな値となる傾向がある。
【0025】
伏角ηの値は、地球上の地点(緯度および経度)ごとに決まった値であり、例えば東京の場合にはη=49°である。また偏角(磁北と真北の角度差)Dも測定地点ごとに異なる値であり、日本の正確な偏角のデータは国土地理院が所有しており、そのデータは3ヶ月に一度更新されている。
【0026】
このため、本発明の傾斜センサでは必須の要件ではないが、3軸型電子電子コンパス2としては図2に示すような伏角及び偏角取得手段20を有する構成とするものが好ましい。この場合には各地点ごとに対応する伏角ηや偏角Dをデータ化してメモリ部17に記憶させておくことが可能となる。
【0027】
例えば、携帯端末1に設けられたGPS(汎地球測位システム)を構築する人工衛星を介して現在の測定位置を入手し、これに対応する前記伏角ηや偏角Dを前記メモリ部17から呼び出したりデータを更新したりすることが可能である。あるいは前記携帯端末1が携帯電話機の場合には、通話やメールの際に接続される中継局の位置から携帯電話機が使用されている地域(現在の測定地点)を割り出すことにより、前記同様に前記メモリ部17から前記伏角ηや偏角Dに関するデータを呼び出したり、あるいは前記中継局を介して前記伏角ηや偏角Dに関するデータを外部から直接入手したりすることが可能である。
【0028】
特に、前記伏角ηが判明している場合には、水平方向の2つのセンサ(X軸センサとY軸センサ)と前記伏角ηとから、Z軸方向の磁気成分を算出することができるため、Z軸センサを不要にすることができるという利点がある。
【0029】
以下、本発明である傾斜センサ及びこれを用いた方位計測装置の動作について説明する。
【0030】
まず、最も簡単な場合、すなわちxyz直交座標系の中心に携帯端末1が置かれ、且つ前記ピッチ角αとロール角βが共にα=β=0°の場合における磁北に対する方位角θの検出方法について説明する。なお、ピッチ角αおよびロール角βは共に0°のときには、xyz直交座標系とx’y’z’直交座標系とは一致する状態にある。
【0031】
このとき、前記電子コンパスが検出した地磁気ベクトルHのx’y’z’直交座標系の各成分はxyz直交座標系の各成分と同じであるから、この場合の地磁気ベクトルHの各成分をそれぞれHx、Hy、Hzとすると、前記各成分Hx、Hy、Hzは方位角θと伏角ηを用いることにより、以下の数1のように表すことができる。
【0032】
【数1】

【0033】
前記方位角θは、図1および図3に示すようにy’軸(この場合はy軸と一致する)と地磁気ベクトルの水平成分Hxyとの成す角であるから、以下の数2として表すことができる。
【0034】
【数2】

【0035】
次に、図4Aに示すように、携帯端末1にピッチ角αが発生した場合(なお、ロール角β=0°とする)の方位角θの算出方法について説明する。
【0036】
前記携帯端末1(電子コンパス2)をx軸回りに回転させたときに前記x’y’z’直交座標系において検出される地磁気ベクトル(磁気センサ3,4,5が検知した地磁気ベクトル)Hの各成分をHx’,Hy’,Hz’を所定の換算係数k(≠0)を用いて電圧量に換算した値を磁気データX(=k・Hx’),Y(=k・Hy’),Z(=k・Hz’)とする。また前記地磁気ベクトルHを前記xyz直交座標系で表したときの成分をHx,Hy,Hzとすると、前記磁気データX,Y,Zと前記成分Hx,Hy,Hzとの関係はx軸回りの行列変換式を用いることにより、以下の数3で表すことができる。なお、前記地磁気ベクトルHの成分Hx’,Hy’,Hz’から磁気データX,Y,Zへの換算は前記第1の演算処理部11が行う。
【0037】
【数3】

【0038】
因みに、ピッチ角α=0°(ロール角βもβ=0°とする)の場合には、数3にα=0°を代入することによって以下の数4が成立する。これはxyz直交座標系とx’y’z’直交座標系とが完全に一致していることを意味している。
【0039】
【数4】

【0040】
携帯端末1にピッチ角αが発生した場合の方位角θは、前記数2と数3とから以下の数5として表すことができる。
【0041】
【数5】

【0042】
上記数5より、方位角θを求めるにはピッチ角αを知る必要があることがわかる。同時に、方位角θを求めるに際しては、伏角ηおよび偏角Dは不要であることもわかる。
【0043】
図4Aに示すように、前記ピッチ角αは水平面(xy平面)に対する携帯端末1(x’y’平面)の傾斜角であるため、傾斜センサを用いて前記携帯端末1(x’y’平面)の傾き角度を求めることにより、前記方位角θを求めることが可能である。
【0044】
しかし、本願発明のように専用の傾斜センサを有しない構成の場合には、以下に説明する手法を用いることにより前記ピッチ角αを求めることが可能である。
【0045】
図5ないし図8に示すAは携帯端末1をz軸回りに1回転(360°)させた場合における回転角度θzとこのとき検出される磁気データX,Y,Zとの関係を示すグラフ、Bは磁気データYを横軸にとり且つ磁気データXを縦軸にとることにより形成されるリサージュ波形、Cは磁気データYを横軸にとり且つ磁気データZを縦軸にとることにより形成されるリサージュ波形を示している。また図5はピッチ角(傾斜角)α=0°の場合、図6はピッチ角(傾斜角)α=15°の場合、図5はピッチ角(傾斜角)α=45°の場合、図5はピッチ角(傾斜角)α=60°の場合をそれぞれ示している。なお、ピッチ角αはx軸回りの傾斜角度である(図4A参照)。また図9はピッチ角αとゲインGx,Gzとの関係を示すグラフ、図10はピッチ角αと比Gx/Gy,Gz/Gyとの関係を示すグラフである。
【0046】
図5に示すように、ピッチ角α=0°の場合には、携帯端末1をz軸回りに1回転(360°)させたときに、検出される複数の磁気データZ(磁気センサ5が検知したz’軸方向の地磁気ベクトル成分Hz’の換算値)は一定値を示すが、磁気データX(磁気センサ3が検知したx’軸方向の地磁気ベクトル成分Hx’の換算値)は余弦波状を示し、磁気データY(磁気センサ4が検知したy’軸方向の地磁気ベクトル成分Hy’の換算値)は正弦波状を示す。このため、図5Bに示すように、複数の前記磁気データXと磁気データYから形成されるリサージュ波形E1は円形になる。また図5Cに示すように、複数の前記磁気データYと磁気データZから形成されるリサージュ波形E2はZ=m(mは0以外の任意の定数)の直線となる。
【0047】
次に、図6Aに示すように、前記ピッチ角αがα=15°となるように携帯端末1を傾けた状態でz軸回りに1回転(360°)させにすると、このとき検出される複数の磁気データZは余弦波を示すようになり、磁気データXは余弦波状に変化するものの前記図5Aに比較してその振幅が小さくなることがわかる。なお、前記磁気データYはピッチ角α=0°のときと同じ状態の正弦波である。この結果、図6Bに示すように、複数の前記磁気データYと磁気データXから形成されるリサージュ波形E1は縦軸方向に少し押し潰した格好の楕円に変形させられる。一方、図6Cに示すように、複数の前記磁気データYと磁気データXから形成されるリサージュ波形E2は縦方向に短径を有し、横方向に長径を有する楕円に変形させられる。
【0048】
図7A,図8Aに示すように、以下同様に前記携帯端末1のピッチ角αをα=45°、60°と徐々に大きくすると、磁気データXの振幅が減少させられる代わりに、前記磁気データZの振幅が増大させられて行くことがわかる。また前記磁気データYはピッチ角α=0°、15°のときと変わらず、ほぼ一定の振幅の正弦波を維持することがわかる。
【0049】
この結果、図5B、図6B、図7Bおよび図8Bに示すように、前記ピッチ角αが増大していくと、横軸が示す磁気データYの大きさは変わらないものの縦軸が示す磁気データXが徐々に小さくなっていくため、複数の磁気データYと磁気データXとから形成されるリサージュ波形E1は円形の状態から徐々に縦方向に押し潰された楕円に変形させられて行くことがわかる。
【0050】
同時に、図5C、図6C、図7Cおよび図8Cに示すように、前記ピッチ角αが増大していくと、横軸が示す磁気データYの大きさは変わらないが、縦軸が示す磁気データZは徐々に大きくなるため、複数の磁気データYと磁気データZとから形成されるリサージュ波形E2は、直線の状態から徐々に円形に近づき、さらには縦長状の楕円に変形させられることがわかる。
【0051】
そこで、前記第2の演算処理部12は、前記第1の演算処理部11から与えられる回転角度θz=0°のときの磁気データXの値、すなわち磁気データXの最大電圧値であり前記楕円の短軸(縦軸)の長さ寸法(短径)を算出しこれをXゲインGxとする演算と、同様に回転角度θz=0°のときの磁気データZの値、すなわち磁気データZの最大電圧値であり前記楕円の長軸(横軸)の長さ寸法(長径)を算出しこれをZゲインGzとする演算を行う。なお、円は楕円の短径と長径の長さ寸法が等しい特殊な場合であり、前記楕円の概念に含まれる。
【0052】
ここで、前記ピッチ角αと前記磁気データXのXゲインGx、および前記ピッチ角αと前記磁気データZのZゲインGzとは図9に示すような相関関係(一対一の関係)を有する。このため、前記図9に示す前記磁気データXのXゲインGxとピッチ角αとの相関関係、および前記磁気データZのZゲインGzとピッチ角αとの相関関係をテーブル化して前記メモリ部17に記録しておくことが可能である。
【0053】
そして、制御部16は、前記携帯端末1をz軸回り1回転させたときに、前記第2の演算処理部12が算出した前記XゲインGxまたはZゲインGzを取得すると、図9に示すように前記XゲインGxからアクセスコードx0またはZゲインGzからアクセスコードz0を生成するとともに、前記アクセスコードx0またはz0を用いて前記メモリ部17にアクセスし、前記メモリ部17に記憶されている複数のピッチ角αの中から前記アクセスコードx0またはz0に対応するピッチ角α0を呼び出し、これを第3の演算処理部13に出力する。
【0054】
そして、第3の演算処理部13は、前記ピッチ角α0と磁気データXを上記数5に代入することにより、携帯端末1の方位角θを算出する。さらに第4の演算処理部14が、このようにして求めた方位角からその測定地点における偏角Dを差し引くことにより、真北に対する方位角θ’を求める。
【0055】
上記のように、本願発明では3ヶの磁気センサ3,4,5を用いて磁気データX,Y,Zを演算してメモリ部17にあらかじめ記憶されているピッチ角α0を呼び出す構成としたため、専用の傾斜センサを不要とすることができる。すなわち、前記磁気データX,Y,Zを検出する磁気センサ3,4,5、第1の演算処理部11、第2の演算処理部12、制御部16およびメモリ部17はピッチ角(傾斜角)αを求める傾斜センサとして機能している。
【0056】
またピッチ角αを求める他の方法として、以下に示すような手法を用いるようにしてもよい。
【0057】
この手法では回転角度θz=90°または270°のときの磁気データYの値、すなわち図5ないし図8に示すように磁気データYが最大電圧値のときにおける前記楕円の長径または短径を形成する横軸方向の長さ寸法を算出しこれをYゲインGyとして、このYゲインGyと上記XゲインGxとの比(長径と短径との比)Gx/Gy、または前記YゲインGyと上記ZゲインGzとの比(長径と短径との比)Gz/Gyを求める。
【0058】
ここで、前記ピッチ角αと前記比Gx/Gy、および前記ピッチ角αと前記比Gz/Gyとの間には、図10に示すような所定の相関関係(一対一の関係)を有することが確認されている。このため、前記図10に示す前記ピッチ角αと比Gx/Gyとの相関関係、または前記ピッチ角αと比Gz/Gyとの相関関係をテーブル化して前記メモリ部17に記録しておくことが可能である。
【0059】
そして、制御部16は、前記携帯端末1をz軸回り回転させたときに、前記第2の演算処理部12が算出した前記比Gx/Gyまたは比Gz/Gyからこれに対応するアクセスコードを生成するとともに、前記アクセスコードを用いて前記メモリ部17にアクセスすることにより、上記同様に前記メモリ部17から前記アクセスコードに対応するピッチ角α0を求めることができる。そして、このようにして求められたピッチ角α0は、上記同様に第3の演算処理部13に出力される。
【0060】
この方法では、楕円の長径と短径との比からピッチ角αを求めるようにしたため、例えば各磁気データX,Y,Zにオフセットが重畳した場合であっても、前記オフセットをキャンセルすることができ、その影響を低く抑えることが可能となるため、上記XゲインGxまたはZゲインGzのみからピッチ角αを求める方法に比較して、精度を高めることが可能である。
【0061】
ところで、上記においてXゲインGx、YゲインGyおよびZゲインGzを高い精度で求めるためには、少なくとも携帯端末1を1回転(360°)させることが必要である。
【0062】
しかし、携帯端末1で方位検出を行うたびに、操作者に360°以上の回転を強いることは現実的ではない。また操作者に1回転させた場合であっても正確な円または楕円を得ることは期待できない。
【0063】
そこで、以下には操作者にこのような煩雑な回転動作を強いることなく前記XゲインGx、YゲインGyおよびZゲインGzを取得することが可能となる方法について説明する。
【0064】
図11は作図法を用いてゲインを求める第1の方法を説明するための図である。なお、図11は図5Bないし図8B又は図6Cないし図8Cに相当するリサージュ波形(楕円)である。
【0065】
図11に示す楕円は、横軸側のAB=2aの長軸と、縦軸側のCD=2bの短軸を有している。ここで、前記YゲインGyは横軸側の長軸ABの半分の長さ寸法aに相当し、前記XゲインGxまたはZゲインGzは縦軸側の短軸CDの半分の長さ寸法bに相当する。
【0066】
上記図5Bないし図8B又は図5Cないし図8Cに示すように、前記磁気データYのYゲインGyは横軸側の長さ寸法aであり、これは常に一定の値をとる既知の値である。よって、あらかじめYゲインGy(長さ寸法a)は前記メモリ部17に記憶しておくことが可能である。このとき、前記磁気センサ3,4,5からこの楕円上の一点Pを通る磁気データX,Y,Zが検出されたとする。
【0067】
この状態から楕円の短径を求めるには、まず既知の値である長さ寸法aの2倍に相当する長軸AB(=2a)を引く。次に、前記長軸ABの垂直二等分線CDを引く。次に、前記一点Pを中心にAB/2=aの長さ寸法からなる円弧を形成し、このとき円弧と前記垂直二等分線CDとが交差する点をQとする。最後に、線分PQと長軸ABとの交点Rを求める。すると、線分PRが、楕円の縦軸方向の長さ寸法(短軸長または短径ともいう)bとなる(PR=b)。
【0068】
すなわち、上記の方法では、楕円の横軸側の長さ寸法(長軸長又は長径ともいう)aと楕円上の一点が判明していれば、楕円の短軸長(短径)bを求めることが可能であり、つまりは楕円の短軸長(短径)に相当する前記ZゲインGzおよびYゲインGyを求めることができる。
【0069】
上記方法では、携帯端末1を1回転させなくとも、すなわち前記一点Pに相当する磁気データX,Y,Zを取得することにより、容易にXゲインGxおよびZゲインGzを求めることができる。このため、携帯端末1をわずかに回転させたときに得られる楕円上の複数の点を示す各磁気データX,Y,Zから楕円の短軸長(短径)の平均値、すなわちXゲインGxおよびZゲインGzの平均値を容易に求めることができる。さらには、既知のYゲインGyと前記XゲインGxとの比Gx/Gyの平均値、または前記YゲインGyと上記ZゲインGzとの比Gz/Gyの平均値を容易に求めることができる。よって、携帯端末1を1回転させなくとも、精度の高いピッチ角(傾斜角)αを求めることが可能となる。
【0070】
また前記XゲインGx、YゲインGyおよびZゲインGzを取得する第2の方法としては、以下に説明するような非線形最小二乗法を用いるものであってもよい。図12はリサージュ波形を示し、ゲインを求める第2の方法を説明するための図である。なお、図12は図5Bないし図8B又は図6Cないし図8Cに相当する楕円である。
【0071】
この方法では、携帯機器1をxy平面上でz軸回りに回転させたときに、複数の磁気データYと磁気データXとから形成されるリサージュ波形E1が、円弧状軌跡の一種である楕円軌跡になると仮定して行うものである。
【0072】
すなわち、以下の数6に示す楕円方程式の基づく関数F(x,y)に、例えば磁気データ(X,Y)に対応する座標であるとともに前記リサージュ波形E1を形成する複数の座標P0(x(0),y(0))、P1(x(1),y(1))、P2(x(2),y(2))、・・・を代入したときに、関数F(x,y)=0を満たす係数a,x0および係数b、y0について、楕円による論理解と実際の磁気データ群(x,y)の誤差を比較し、結果が収束するまで計算を繰り返す。
【0073】
【数6】

【0074】
ただし、図12に示すように係数a、bの一方が楕円の長径を他方が短径を示し、係数x0、y0は楕円の中心座標(中心点)を示している。前記係数a,x0を求めるときには前記係数b,y0を既知の値とし、また前記係数b,y0を求めるときには前記係数a,x0を既知の値として行う。
【0075】
なお、非線形最小二乗法の解法は、ヤコビアン行列から正規直交行列を形成し、ガウス・ニュートン法で前記係数a,x0または前記係数b,y0を収束させる方法を用いることが可能である。
【0076】
そして、このような方法で求めた中心座標(x0,y0)と係数a,bとを用いることにより、XゲインGxとYゲインGyとが求められる。またYゲインGy及びZゲインGzについても、前記同様に複数の磁気データYと磁気データZとから形成されるリサージュ波形E2から求めることできる。
【0077】
そして、このようにして求められたXゲインGxとYゲインGyとからこれらの比Gx/Gy、またはYゲインGyとZゲインGzとからこれの比Gz/Gyを用いることにより、上記同様に携帯端末1を1回転さなくとも、即ちわずかに回転させるだけで精度の高いピッチ角(傾斜角)αを求めることが可能となる。
【0078】
なお、上記実施の形態では、演算手段10が第1ないし第4の演算処理部11,12,13,14に分かれて構成されたものを用いて説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、一の演算手段10であること、すなわち一つの演算手段10が第1ないし第4の演算処理部11,12,13,14を兼ねる構成でよいことはもちろんである。
【0079】
また上記実施の形態では、傾斜角αの例として携帯端末1をx軸回りに回転させたピッチ角を示して説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、y軸回りに回転させたロール角であってもよい。またz軸回りに回転させた場合について説明したが、その他のx軸又はy軸回りに回転させた場合、および3軸周りに同時に回転させた場合であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】方位計測装置としての3軸型電子コンパスを搭載した携帯端末と方位角との関係を2次元的に示す平面図、
【図2】3軸型電子コンパスの構成を示すブロック図、
【図3】傾斜補正の原理を3次元的に説明するための方位解析図、
【図4A】x軸回りにピッチ角αだけ傾斜させた状態を2次元的に示す携帯端末の側面図、
【図4B】y軸回りにピッチ角βだけ傾斜させた状態を2次元的に示す携帯端末の底面図、
【図5】Aはピッチ角α=0°において携帯端末を回転させた場合の回転角度と磁気データX,Y,Zとの関係を示すグラフであり、Bは磁気データYと磁気データXとにより形成されるリサージュ波形、Cは磁気データYと磁気データZにより形成されるリサージュ波形、
【図6】Aはピッチ角α=15°において携帯端末を回転させた場合の回転角度と磁気データX,Y,Zとの関係を示すグラフであり、Bは磁気データYと磁気データXとにより形成されるリサージュ波形、Cは磁気データYと磁気データZにより形成されるリサージュ波形、
【図7】Aはピッチ角α=45°において携帯端末を回転させた場合の回転角度と磁気データX,Y,Zとの関係を示すグラフであり、Bは磁気データYと磁気データXとにより形成されるリサージュ波形、Cは磁気データYと磁気データZにより形成されるリサージュ波形、
【図8】Aはピッチ角α=60°において携帯端末を回転させた場合の回転角度と磁気データX,Y,Zとの関係を示すグラフであり、Bは磁気データYと磁気データXとにより形成されるリサージュ波形、Cは磁気データYと磁気データZにより形成されるリサージュ波形、
【図9】ピッチ角αとゲインGx,Gzとの関係を示すグラフ、
【図10】ピッチ角αと比Gx/Gy,Gz/Gyとの関係を示すグラフ、
【図11】作図法を用いてゲインを求める方法を説明するための図、
【図12】リサージュ波形を示し、ゲインを求める第2の方法を説明するための図、
【符号の説明】
【0081】
1 携帯端末(携帯電話機)
2 3軸型電子コンパス(方位計測装置)
3,4,5 磁気センサ(磁気検出手段)
10 演算手段
11 第1の演算処理部
12 第2の演算処理部
13 第3の演算処理部
14 第4の演算処理部
16 制御部
17 メモリ部
20 伏角及び偏角取得手段
D 偏角
H 地磁気ベクトル
Hxy 地磁気ベクトルの水平成分
Hx 地磁気ベクトルHのx軸成分
Hy 地磁気ベクトルHのy軸成分
Hz 地磁気ベクトルHのz軸成分
Hx’ x’軸方向の地磁気ベクトル成分(測定値)
Hy’ y’軸方向の地磁気ベクトル成分(測定値)
Hz’ z’軸方向の地磁気ベクトル成分(測定値)
x’,y’,z’ 携帯端末に固定された直交座標系(x’y’z’直交座標系)
x,y,z 直交座標系(x’y’平面が地平面、z’軸が鉛直方向となる時の携帯端末に固定された座標系)
X,Y,Z 磁気データ(地磁気ベクトル成分Hx’,Hy’,Hz’の換算値)
α 携帯端末のピッチ角(傾斜角)
α0 ピッチ角(傾斜角)の算出値
η 伏角
θ 磁北に対する方位角
θ’ 真北に対する方位角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する3軸方向の磁気成分を検出する磁気センサと、前記磁気センサの出力を取得して演算する演算手段とを備えた傾斜センサであって、
前記演算手段は、少なくとも前記3軸方向の磁気成分を換算して3つの磁気データを生成する第1の演算処理部と、前記磁気データから所定のアクセスコードを算出する第2の演算処理部と、傾斜角に関する複数のデータが記憶されたメモリ部と、前記各部の動作を制御する制御部とを有しており、
前記制御部が、前記メモリ部にアクセスしたときに、前記アクセスコードに対応する傾斜角を呼び出すようにしたことを特徴とする傾斜センサ。
【請求項2】
前記第2の演算処理部は、前記磁気センサを任意の1軸回りに回転させたときに、残りの2軸に関する磁気データから楕円状のリサージュ波形を生成するとともに前記楕円の長径または短径の長さ寸法を算出し、前記長径または短径のうち前記回転とともに変化する一方の長さ寸法を前記アクセスコードとすることを特徴とする請求項1記載の傾斜センサ。
【請求項3】
前記第2の演算処理部は、前記磁気センサを任意の1軸回りに回転させたときに、残りの2軸に関する磁気データから楕円状のリサージュ波形を生成するとともに前記楕円の長径または短径の長さ寸法を算出し、前記長径の長さ寸法と前記短径の長さ寸法との比を前記アクセスコードとすることを特徴とする請求項1記載の傾斜センサ。
【請求項4】
前記1軸回りの回転が1回転以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の傾斜センサ。
【請求項5】
前記1軸回りの回転が1回転以内であるときには、既知の値として前記メモリ部に記憶されている楕円の長径の長さ寸法と前記楕円上の任意と一点として入力される磁気データとから求めた前記楕円の短径の長さ寸法、または前記長径の長さ寸法と前記短径の長さ寸法との比のいずれか一方を前記アクセスコードとすることを特徴とする請求項2または3記載の傾斜センサ。
【請求項6】
前記3軸方向の磁気成分を換算した磁気データと、前記請求項1ないし5のいずれか一項に記載された傾斜センサが算出した傾斜角とから方位角が算出されることを特徴とする方位計測装置。
【請求項7】
伏角及び偏角取得手段が設けられており、前記伏角及び偏角取得手段がGPS用の人工衛星から受信した電波から前記測定位置を割り出すとともに、前記測定位置に対応する伏角及び偏角に関するデータがメモリ部から呼び出される請求項6記載の方位計測装置。
【請求項8】
伏角及び偏角取得手段が設けられており、前記伏角及び偏角取得手段が携帯電話システムの中継局との間における通信から測定位置を割り出すとともに、このときの測定位置に対応する前記伏角及び偏角に関するデータがメモリ部から又は前記中継局を介して取得される請求項6記載の方位計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−300880(P2006−300880A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126687(P2005−126687)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】