説明

傾斜機能材料の製造方法

【課題】傾斜機能材料を構成する一部の素材溶湯を作製することなしに傾斜機能材料を製造する。
【解決手段】比重の大きいおよび/または粒径の大きな高速移動粒子と、比重の小さなおよび/または粒径の小さな低速移動粒子の2種類以上の粒子を含むスラリーを用い、このスラリーを遠心力場で沈降させ、その後、液相部分を取り除いて、組成傾斜を有するグリーン体を作製し、このグリーン体を焼結することによって固化し、傾斜機能材料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜機能材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
傾斜機能材料とは組成、組織が異なる複数の素材が傾斜し一体的に組み合わされた材料のことである。傾斜機能材料を製造するためには、材料設計に応じて材料内部の組成分布や組織を自由に制御できる技術が要求される。傾斜機能材料の製造技術は、素材と大きさの組合せにより多種多岐にわたる。具体例として、金属粉末とセラミックス粉末とを所定の割合で混合し、その混合粉末をあらかじめ定められた組成分布に従って組成を変えながら積層し、それの焼結を行う粉末冶金法がある。しかし、この手法では組成傾斜が段階的になり、連続的に組成が傾斜した材料の製造は困難である。
【0003】
特許文献1、特許文献2および特許文献3に記載の、遠心力を利用した製造法では連続的組成傾斜が可能となる。遠心力を利用した傾斜機能材料の従来の製造技術は、大きく2つの手法に分けることが出来る。その一つは遠心鋳造を応用した遠心力法である(図1)。第2相粒子を含む金属溶湯を遠心鋳造に供すると、金属溶湯と第2相粒子の密度差によって、第2相粒子が金属母相中を移動する。金属溶湯中に粒子が傾斜分布した状態で移動を終了させれば傾斜機能材料製造法の製造が行え、これを遠心力固相法と呼んでいる。
【0004】
金属溶湯中における粒子の移動速度は次のストークスの式によって支配される。
【0005】
【数1】

【0006】
ここで、dx/dt、rp、rm、g、Dp およびh はそれぞれ粒子の移動速度、粒子の密度、溶融母相の密度、重力、粒子径および見かけの粘性である。この式から分かるように、粒子の移動速度は溶融母相と固相粒子の密度差、重力倍数および固相粒子径の二乗に比例する。金属溶湯に粒子を添加し、遠心力を印加せず重力場での沈降を利用した傾斜機能材料の製造も報告されている。これは、原理的に遠心力法と等しい。溶湯中の第2相粒子が溶解し、遠心力印加場で晶出する場合もあり、これを遠心力晶出法と言う(特許文献4、特許文献5)。いずれの場合も、粒子の移動の終了は金属溶湯の凝固によって行い、この凝固した金属部分は傾斜機能材料の母相となる。それゆえ、この遠心力を利用した技術は、素材の溶湯を作製することが必要である欠点をもつ。また、本技術は、材料内部において組成傾斜が0%から100%である傾斜機能材料をつくることができない。
【0007】
もう一つの遠心力を利用した製造技術は、遠心力を単に加圧法として利用する遠心力加圧法である(図1)。組成傾斜は、通常遠心力印加前につけられ遠心力場での組成傾斜は期待していない。この手法の応用例として遠心力混合粉末法がある(特許文献6)。ただし、この遠心力を利用した技術も、一方の素材の溶湯を作製することが必要である欠点を有し、材料内部において組成傾斜が0%から100%である傾斜機能材料をつくることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−80972号公報
【特許文献2】特開2001−115224号公報
【特許文献3】特開2001−112263号公報
【特許文献4】特開2001−252753号公報
【特許文献5】特開2003−166028号公報
【特許文献6】特願2008−284589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記点に鑑みて、傾斜機能材料を構成する一部の素材溶湯を作製することなしに、傾斜機能材料を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明では、傾斜機能材料を構成する一部の素材溶湯を作製することなしに傾斜機能材料を作製するために、移動速度差のある複数種類の粒子を含むスラリーを用い、これに遠心力を作用させることにより移動速度差を利用して傾斜機能材料を製造することを特徴とする。また、請求項2に記載の発明では、移動速度差のある複数種類の粒子を含むスラリーを用い、これを液相の上に注ぎ込んだ後に遠心力を作用させ、粒子の液体中の移動速度差を利用して傾斜機能材料を製造することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明では、傾斜機能材料を構成する一部の素材溶湯を作製することなしに材料内部において組成傾斜が0%から100%である傾斜機能材料の作製を可能にするために、移動速度差のある複数種類の粒子を含むスラリーを用い、これを溶融が可能な固体の上に注ぎ込み、その後その固体を溶融させた後に遠心力を作用させ、粒子の液体中の移動速度差を利用して傾斜機能材料を製造することを特徴とする。また、請求項4に記載の発明では、移動速度差のある複数種類の粒子を含むスラリーを用い、これを溶融が可能なあるいは気化が可能な固体の上に注ぎ込み、その固体の下には液体を置き、その後その固体を溶融させた後に遠心力を作用させ、粒子の液体中の移動速度差を利用して傾斜機能材料を製造することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】遠心力による傾斜機能材料製造の原理を示す模式図である。
【図2】Ti粒子(密度4.5Mg/m)とZrO粒子(密度5.95Mg/m)のスラリー中の移動速度を示す図である。
【図3】粒径90〜150μmのTi粒子と粒径38〜75μmのZrO粒子を用い遠心力スラリー法中で製造した傾斜機能材料の粒子分布(組成傾斜)を示す図である。シミュレーションによって求めている。
【図4】遠心力スラリー投入法によって製造した傾斜機能材料における粒子分布(組成傾斜)に及ぼす溶媒帯幅の影響を示す図である。溶媒帯幅は、40mm、60mmおよび100mmである。シミュレーションによって求めている。
【図5】溶媒帯の幅を0mmおよび100mmとしたときの、傾斜機能材料の組成傾斜を示す図である。
【図6】Ti粒子の粒径が63〜90μm、ZrO粒子の粒径が75〜106μmの系を利用して製造した傾斜機能材料の組成傾斜を示す図である。上のグラフがシミュレーション結果であり、下のグラフが実験結果である。
【図7】スラリー投入法の実施例を示す図である。
【図8】溶媒帯として溶融が可能な固体を用いたスラリー投入法の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態は、移動速度差のある複数種類の粒子を混合したスラリーに遠心力を印加することにより、粒子間の移動速度差を利用して組成傾斜を作製し、全ての粒子が遠心力方向に移動した後にスラリーの液相部分を除去して固化することによって、素材の溶湯を用いることなしに傾斜機能材料を作製するものである。
【0014】
本実施形態による傾斜機能材料の作製は、以下の手順でおこなわれる。
(1)スラリーとして、図1に示すような、比重の大きいおよび/または粒径の大きな高速移動粒子(第1の粒子)と、比重の小さなおよび/または粒径の小さな低速移動粒子(第1の粒子よりも比重の小さなおよび/または粒径の小さな第2の粒子)の2種類以上の粒子を含むスラリーを用いる。
(2)このスラリーを遠心力場で沈降させ、その後、液相部分を取り除き、組成傾斜を有するグリーン体を作製する。
(3)このグリーン体を焼結することによって固化し、傾斜機能材料を得る。
【0015】
本実施形態では、移動速度差のある複数種類の粒子として、Ti粒子(密度4.5Mg/m)とZrO粒子(密度5.95Mg/m)を用いるが、これが材料系を決定するものではない。これらの沈降速度を計算により求め、それを図2に示す。図のように、粒径が同一の場合、密度の大きいZrO粒子の沈降速度が速い。これに対し、Ti粒子の粒径が大きく、ZrO粒子のそれが小さい場合には、逆転する場合もある。このスラリーを遠心力場で沈降させ、その後、液相部分を取り除き、組成傾斜を有するグリーン体を作製する。この方法を遠心力スラリー法という。このグリーン体の焼結により傾斜機能材料を得る。
【0016】
まず、遠心力スラリー法中の粒子の運動をシミュレーションにより解析した。シミュレーションに用いたTi粒子の粒径は90〜150μm、ZrO粒子の粒径は38〜75μmであり、この条件では、図2からもわかるようにTi粒子の沈降速度がZrO粒子のそれを上回る。得られた結果を図3に示す。ここで、横軸は規格化した位置であり、1.0および0.0はそれぞれ沈降体の下部(遠心力方向最底辺部)およびその逆である。図のように沈降体の下部に行くにつれ、Ti粒子の体積分率が増加し、組成傾斜が確認できるが、その組成傾斜は0%から100%へとはなっていない。これは、スラリー中、遠心力方向最底辺部においても当初から低速移動粒子(ここではZrO粒子)が存在するためである。
【0017】
したがって、0%から100%へと組成傾斜する材料を得ようとする場合、液相のみの溶媒帯を用意し、それに上述のスラリーを投入する手法が有効である。この遠心力スラリー投入法における溶媒帯幅の影響を調査したものが図4である。図4における溶媒帯幅は40mm、60mmおよび100mmであり、溶媒帯を設けた以外の条件は図3のシミュレーションと同一である。図のように、溶媒帯の幅が長くなるにつれて大きな組成傾斜が得られている。図4に示すように、溶媒帯の幅が100mmあれば、0%から100%の組成傾斜となる。
【0018】
これは、実験でも確認できている。溶媒帯の幅を0mmおよび100mmとし、実際の材料での実験を行った。ただし、遠心力は印加せず、重力場での沈降とした。沈降後、液相を取り除いた後、乾燥させ、放電プラズマ焼結法にて焼結した。ここで、放電プラズマ焼結法は、先進材料合成分野で注目されている新しい焼結法である。圧粉体粒子間隙に直接パルス状の電気エネルギーを投入し、火花放電現象により瞬時に発生した放電プラズマの高エネルギーを効果的に利用する。図5は得られた材料の組成傾斜を示す。溶媒帯が0mmの試料ではTi粒子の傾斜は0%〜70%であるのに対し、溶媒帯が100mmの試料では0%〜100%の組成傾斜が達成できている。この結果は、ミュレーションと良い一致を示している。
【0019】
同様に、Ti粒子の粒径が63〜90μm、ZrO粒子の粒径が75〜106μm の系でもシミュレーションと実験を行った。この系では、高速移動粒子がZrO粒子となる。図6に溶媒帯を100mmとした時のシミュレーション結果および実験結果を示す。今度は沈降体の下部に行くにつれ、ZrO粒子の体積分率が増加する。この系においても溶媒帯を設けることにより0%から100%までの幅広い組成傾斜が得られることがわかる。
【0020】
スラリーをこの溶媒帯に投入するとき、液相に特別な流れを生じさせてはいけないために注意が必要である。例えば、図7に示すような装置を用いれば可能である。ここで、上部にスラリーを入れる。下部は液体のみの溶媒帯となる。バルブを解放することにより、溶媒帯の液相に特別な流れを生じさせずにスラリーの投入が可能となる。しかし、この手法では、回転場での作業は困難であり、遠心力場での製造には向かない。
【0021】
この溶媒帯として溶融が可能な固体を用いる。図8は、溶媒帯として溶融が可能な固体を用いたスラリー投入法の実施例を示す図である。まず、回転する金型に溶融可能な固体を入れる。ここで、金型の形状は円筒状に限ることはなく、また、重力場の場合には回転させる必要もない。次に、スラリーをこの上に注ぎ込む。その後、その固体を溶融させた後あるいは溶解させながら遠心力を作用させれば、粒子の液体中の移動速度差を利用する傾斜機能材料製造における組成傾斜の制御が可能となる。ここで、溶融が可能なあるいは気化が可能な固体の上に注ぎ込み、その固体の下には液体を置いても良い。その場合は、その後その固体を溶融させた後に遠心力を作用させ、粒子の液体中の移動速度差を利用する傾斜機能材料製造における組成傾斜の制御が可能となる。
【0022】
本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用可能である。例えば、スラリーとして液相部分がないものを用いてもよい。その場合、スラリーに遠心力を作用させることによって組成傾斜を作製した後、固化することによって傾斜機能材料を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動速度差のある複数種類の粒子を含むスラリーを用い、これに遠心力を作用させることにより移動速度差を利用して傾斜機能材料を製造することを特徴とする傾斜機能材料の製造方法。
【請求項2】
移動速度差のある複数種類の粒子を含むスラリーを用い、これを液相の上に注ぎ込んだ後に遠心力を作用させ、粒子の液体中の移動速度差を利用して傾斜機能材料を製造することを特徴とする傾斜機能材料の製造方法。
【請求項3】
移動速度差のある複数種類の粒子を含むスラリーを用い、これを溶融が可能な固体の上に注ぎ込み、その後その固体を溶融させた後に遠心力を作用させ、粒子の液体中の移動速度差を利用して傾斜機能材料を製造することを特徴とする傾斜機能材料の製造方法。
【請求項4】
移動速度差のある複数種類の粒子を含むスラリーを用い、これを溶融が可能なあるいは気化が可能な固体の上に注ぎ込み、その固体の下には液体を置き、その後その固体を溶融させた後に遠心力を作用させ、粒子の液体中の移動速度差を利用して傾斜機能材料を製造することを特徴とする傾斜機能材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−162805(P2011−162805A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23389(P2010−23389)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度採択課題、文部科学省、知的クラスター創成事業「東海広域ナノテクものづくりクラスター」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】