説明

充填材含有熱可塑性樹脂成形品と充填材含有熱可塑性樹脂ゲルの製造方法

【課題】 熱可塑性樹脂と、例えばアスペクト比が大きい植物系充填材とからなる、充填材含有熱可塑性樹脂製の成形品であって、十分な引っ張り強度や曲げ強度などの機械強度がありかつ変色が少ない成型品、及びその成型品を得るための充填材含有熱可塑性樹脂ゲルを製造する方法を提供する。
【解決手段】 有機または無機充填材と熱可塑性樹脂とを混合し、その混合物を撹拌機で高速撹拌して摩擦熱で熱可塑性樹脂を熔融させることにより充填剤含有熱可塑性樹脂ゲルを得、そのゲルを撹拌機から取り出して冷却しつつ加圧して所定形状に成形された充填材含有熱可塑性樹脂成型品であって、熱可塑性樹脂の20〜40重量%がポリエチレン系樹脂であり、かつ残りの熱可塑性樹脂成分中の80重量%以上がポリプロピレン系樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充填材含有熱可塑性樹脂成型品と、それを製造するための充填材含有熱可塑性樹脂ゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機充填材または無機充填材と熱可塑性樹脂との複合素材からなるパネルは優れた強度と成形性を有し、各種建築用パネル、例えば二重床の下地材として注目されており、その組成物や成形方法について種々の提案がなされている。特に、充填材として、木材、竹材の粉砕若しくは切削体等の植物片と熱可塑性樹脂との複合素材からなるパネルは優れた質感を有し、廃木材やリサイクルプラスチックの有効利用にも資することから、多方面への利用が進められている。
【0003】
このような複合素材からなるパネルの成形方法としては、例えば、熱可塑性樹脂と、充填材として長辺が1〜10mmを有する木質系材料とをペレタイザーでペレット化し、このペレットを押出機で成形することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法では、樹脂をペレット成形時と押出成形時とで二度加熱しているので樹脂の熱分解が生じ易く、また10mmもの長い木質系材料を使用しているが、ペレット成形混練時と押出スクリュー移送時とで重複して剪断を受けるので、その長尺木質系材料が切断され易く、引っ張りに対する補強効果を満足に発揮させ難い。
【0005】
一方、近来においては、熱可塑性樹脂と木質片とを高速回転の羽根を備えたミキシング装置に投入して撹拌し、その撹拌に伴って発生する摩擦熱により樹脂を溶融させてゲル状とし、この植物片混練樹脂ゲルを取出しプレスにより板状に成形する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2の方法では、この植物片混練樹脂ゲルを得るには、撹拌羽根と材料供給スクリューを有する回転軸を軸受で軸支し、回転軸の一端を継手を介してモータ軸に連結し、回転軸の撹拌羽根部分をチャンバーで包囲し、上端にホッパーを備えた供給ボックスで回転軸のスクリュー部分を包囲し、チャンバーと供給ボックスとを材料のスクリュー移送が可能なように連結したミキシング装置を使用することができる。
【0007】
樹脂はチップ状乃至はペレット状とし、または廃材プラスチックを粉砕し、この樹脂材料と植物片を計量してホッパーから供給ボックスに投入し、回転軸を回転させて供給ボックス内材料をスクリューにより混合しつつチャンバー内に移送する。このようにしてチャンバー内に移送された原料が撹拌羽根により撹拌され、樹脂が摩擦熱によりゲル状に溶融されると共に樹脂と植物片とが混合撹拌される。
【0008】
この場合、樹脂が溶融し始めると回転軸の負荷が減少され、また摩擦熱が樹脂の固相から液相への相変態に費やされて温度上昇が停止されるから、これらの負荷変動時や温度上昇停止時を検出し、この検出後一定の時間経過後にチャンバー内のゲルを自動的に取出すようにすれば、成形性に優れた適度の粘度の植物片混練樹脂ゲルを得ることができる。
【0009】
このようにして木質片含有熱可塑性樹脂ゲルを得、ゲル状の間に成形する方法によれば、樹脂の溶融開始時を容易に検出し得、この検出後一定の時間経過後にゲルを取出すことにより樹脂の過剰過熱を防止でき、しかも、ゲル化時の一回の加熱で済むから、樹脂の熱分解を容易に防止できる。
【0010】
前記木質片に引っ張りに対する補強効果を発揮させるにはアスペクト比20以上の木質片を使用することが有効である。しかしながら、前記の木質片含有熱可塑性樹脂ゲルを成形する方法についての本発明者の鋭意検討結果によれば、かかる長尺の木質片を使用すると、高速撹拌中に木質片が切断されて短寸化されてしまい、所定の引っ張り補強効果を満足に発揮させ難い。その理由は、撹拌羽根の径をスクリューの径に較べて相当に大きくしてその羽根先端速度を45m/秒もの高速にする必要があり、その結果木質片が剪断破断されたり、木質片にクラックが生じることにある。
【0011】
【特許文献1】特開平2003−291116号公報
【特許文献2】特開平11−291248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1〜2においては、ポリプロピレンのように溶融温度の高い熱可塑性樹脂を用いた場合、混練時の発熱で有機もしくは無機充填材が変色することがある。また、混練時間が長くなると充填材が破砕され易くなる。熱可塑性樹脂の溶融粘度が低い場合、充填材と熱可塑性樹脂との界面強度が下がり、得られる成型品の機械強度が低下する。
【0013】
本発明は、有機または無機充填材と熱可塑性樹脂とを撹拌機で高速撹拌して摩擦熱で熱可塑性樹脂を溶融させることにより充填材含有熱可塑性樹脂ゲルを得、そのゲルを撹拌機から取り出して冷却しつつ加圧して所定形状に成形して得られる成型品において、例えば充填剤が植物片の如きアスペクト比が大きい充填材を用いる場合であっても、十分な引っ張り強度や曲げ強度などの機械強度がありかつ変色が少ない充填材含有熱可塑性樹脂成型品を提供し、かつその成型品を得るための充填材含有熱可塑性樹脂ゲルを製造する方法を提供する目的でなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の充填材含有熱可塑性樹脂成型品(発明1)は、有機充填材または無機充填材と熱可塑性樹脂とを混合し、その混合物を撹拌機で高速撹拌して摩擦熱で熱可塑性樹脂を熔融させることにより充填剤含有熱可塑性樹脂ゲルを得、そのゲルを撹拌機から取り出して冷却しつつ加圧して所定形状に成形された充填材含有熱可塑性樹脂成型品であって、熱可塑性樹脂の20〜40重量%がポリエチレン系樹脂であり、かつ残りの熱可塑性樹脂成分中の80重量%以上がポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする。
【0015】
請求項2記載の発明(発明2)は、上記充填材が木材、竹材の粉砕若しくは切削体等の植物片であり、熱可塑性樹脂100重量部に対し、上記植物片が20〜400重量部含まれていることを特徴とする発明1の充填材含有熱可塑性樹脂成型品である。
【0016】
請求項3記載の発明(発明3)は、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂がリサイクルされた材料であり、少なくともいずれかの材料に、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系以外の熱可塑性樹脂が含まれることを特徴とする発明1または2の充填材含有熱可塑性樹脂成型品である。
【0017】
請求項4記載の充填材含有熱可塑性樹脂ゲルの製造方法(発明4)は、有機充填材または無機充填材と、ポリエチレン系樹脂とその他の熱可塑性樹脂とが混合されたポリエチレン系混合樹脂とを攪拌機で高速撹拌し、摩擦熱でポリエチレン系樹脂を熔融させた後、ポリプロピレン系樹脂とその他の熱可塑性樹脂とが混合されたポリプロピレン系混合樹脂を加え、更に撹拌機で高速撹拌して摩擦熱でポリプロピレン系混合樹脂を熔融させることを特徴とする。
【0018】
請求項5記載の発明(発明5)は、熱可塑性樹脂がリサイクルされた樹脂であり、ポリエチレン系樹脂が40重量%以上含有され、残り重量がポリプロピレン系樹脂とその他の熱可塑性樹脂とが混合された混合樹脂であることを特徴とする発明4の充填材含有熱可塑性樹脂ゲルの製造方法である。
【0019】
高強度な充填材含有熱可塑性樹脂成型品を得る場合に、用いられる可塑性樹脂の主材をポリプロピレン系樹脂とすることで、安価に高強度な熱可塑性樹脂成型品が得られるが、通常、ポリプロピレン系樹脂の成形温度は、通常200度以上であり、耐熱性の低い充填材では充填材の変性が発生する。
【0020】
発明1においては、熱可塑性樹脂中の20〜40重量部がポリエチレン系樹脂とされ、残りの熱可塑性樹脂成分中の80重量%以上がポリプロピレン系樹脂とされる。ポリプロピレンの融点(約165℃)と比較して低融点(約130℃)であるポリエチレンを添加することで、熱可塑性樹脂の熔融温度が下がり、従って熔融開始までの昇温に要する時間が短縮される。従って、充填材として例えば植物片等を用いたとしても、その変色が抑制されるとともに熱可塑性樹脂の溶融までに掛かる時間が短縮される。
【0021】
また、溶融粘度の低いポリエチレンが有機充填材または無機充填材の周囲に優先して配置されることで、充填材表面や内部の空洞部に樹脂が充填されやすく、樹脂と充填材との密着性即ち界面強度が向上する。
【0022】
ポリプロピレン、ポリエチレンは粉体、或いはペレット状であってもよいが、微粉末状であるほど、混練時に充填材の均一分散性が高まるため下限は特に限定されない。尚、粉末状は原材料価格が高いため、適宜ペレットが用いられても良い。
【0023】
本発明においては、熱可塑性樹脂に加えて、充填材として他の添加剤を添加して用いても良い。添加剤は特に限定されず、用途に応じた公知の添加剤を適宜選択して用いれば良い。例えば一例として、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、酸変性オレフィンオリゴマー等の混和促進剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;紫外線吸収剤、紫外線劣化防止剤、酸化防止剤等の各種安定剤;ステアリン酸鉛等の(内部)滑材、顔料、体質顔料等の着色剤;各種フィラ−、防腐剤、難燃剤、抗酸化剤、造核剤等の各種添加剤等が挙げられる。これら添加剤は、それぞれ単独で、或いは複数種を組み合わせて用いることができる。
【0024】
混和促進剤の添加は、木質系原料と熱可塑性樹脂との密着性が向上するので好ましく、ポリエチレンと同等またはそれより低い熔融温度を持つ接着性樹脂が好ましい。混和促進剤としては、分子末端或いは分子中に親水基を形成するものが好ましく、親水基の種類や結合位置については特に限定されない。高分子中に親水基を形成する変性ポリオレフィン系の混和促進剤や疎水性と親水性を有する混和促進剤は、少ない使用量でも優れた効果を発揮するので特に好ましい。
【0025】
その他の添加剤は、耐衝撃性能、耐熱性能、機械強度等の物性向上や、低価格化のために用いられる場合がある。その他の添加剤の添加量は、所望の効果が得られる様に添加物の種類に応じて適宜添加量を調節すればよく、特に限定されない。例えば、添加剤としてMAPP(無水マレイン酸変性ポリプロピレン)を用いる場合、該添加剤の添加量がポリプロピレンと充填材例えば植物片との合計100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3質量部以上であって、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下となる様に適宜添加することが望ましい。添加剤の添加量が少ないと、添加剤による熱可塑性樹脂と木質系原料との密着性向上効果が十分発揮できないことがある。また大量に添加しても顕著な向上効果が得られないことがある。
【0026】
発明2においては、上記充填材が木材、竹材の粉砕若しくは切削体等の植物片であり、上記植物片は、熱可塑性樹脂100重量部に対して20〜400重量部含まれている。植物片を添加することで、得られる成型品の機械強度の向上とともに木質感が向上する。
【0027】
植物片が先に溶融するポリエチレンに優先して取り込まれ、後から溶融するポリエチレンが直接植物片に接触し難くなり、充填材自体の摩擦による発熱が抑制されるために充填材が過昇温されることがなく変性が起こり難い。充填材自体の摩擦時間も短縮されるので、充填材の破壊も抑制される。
【0028】
ポリプロピレンの成形温度は通常200度以上であり、植物片は200度以上の高温にさらされると脱水が進み、変色もしくは炭化が発生する。熱可塑性樹脂中の20〜40重量部をポリエチレンとすることで、前述の通り熱可塑性樹脂の熔融温度が低下し、植物片の変色や炭化が抑制されるとともに、樹脂の溶融までに掛かる時間が短縮されるため、植物片の破壊も抑制される。
【0029】
植物片の充填量が、熱可塑性樹脂100重量部に対して20重量部未満だと、得られる成型品の機械強度の向上が少なく良好な木質感も得られない。また、植物片の充填量が、熱可塑性樹脂100重量部に対して400重量部より大であると、充填材含有熱可塑性樹脂ゲル製造時の摩擦による発熱が不十分となり、混練溶融が困難になる。
【0030】
植物片としては、木材、竹材の粉砕若しくは切削体や、種子若しくはその殻若しくは脱穀残留体、植物繊維の何れか一種又は二種以上の混合物からなる植物由来素材を使用でき、木材、竹材の粉砕若しくは切削体としては、建築物の構築/解体時に発生する廃木材、間伐材、製材屑等の廃木材を利用して森林資源の消費を抑制することが好ましい。
【0031】
発明3においては、充填材含有熱可塑性樹脂成型品に用いられる熱可塑性樹脂として、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂の少なくともいずれかの材料にポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系以外の熱可塑性樹脂が含まれているリサイクルされた材料を用いることで、石油資源の消費を抑制することができる。
【0032】
発明4の充填材含有熱可塑性樹脂ゲルの製造方法においては、有機充填材または無機充填材と、ポリエチレン系樹脂とその他の熱可塑性樹脂とが混合されたポリエチレン系混合樹脂とを攪拌機で高速撹拌し、摩擦熱でポリエチレン系樹脂を熔融させた後、ポリプロピレン系樹脂とその他の熱可塑性樹脂とが混合されたポリプロピレン系混合樹脂を加え、更に撹拌機で高速撹拌して摩擦熱でポリプロピレン系混合樹脂を熔融させる。
【0033】
有機充填材または無機充填材と熱可塑性樹脂とを撹拌機で高速撹拌して熱可塑性樹脂を熔融させ充填剤と混合させる方法は、従来の熔融混合機が用いられれば良い。
【0034】
溶融混合機としては、熱可塑性樹脂と充填材例えば植物片とを混合する際に発生する摩擦熱で熱可塑性樹脂を溶融して充填材を熔融した熱可塑性樹脂と混合した混合物とする装置であれば、一般的な装置で構わない。即ち、例えば一例として、溶融混合用チャンバー内に挿通された回転軸に、摩擦熱により熱可塑性樹脂を溶融させるための複数の撹拌羽根が設けられ、その前工程で混合された熱可塑性樹脂と充填材例えば植物片とを該チャンバーに送り込んで撹拌羽根を回転することで、溶融した熱可塑性樹脂に充填材が混合された溶融混合物を得る溶融混合機(例えば、K−ミキシング機、コーハン社製(商品名))を用いる方法等が挙げられる。この方法では、熱可塑性樹脂と充填材例えば植物片とを、いずれも特に予備乾燥等の前処理を行うことなく、しかも植物片等が細長い形状のままが微細な粉末にせずに溶融混合が可能である。
【0035】
この溶融混合機を用いる方法は、外部から熱を供給する必要が無いので、装置内壁に原材料を接触させ続ける必要が無く、開放系での溶融が容易である。そのため、植物片から発生する水分(蒸気)が容易に装置外へ排出されるために、植物片の乾燥が不十分でも問題ない。二軸押出機で熔融混合する場合は、充填材例えば植物片の含水率を1%以下に抑える必要があるが、本発明の熔融混合方法を用いれば含水率が10%でも混合が可能である。
【0036】
発明5においては、発明4に用いられる熱可塑性樹脂がリサイクルされた樹脂であり、ポリエチレン系樹脂が40重量%以上含有され、残り重量がポリプロピレン系樹脂とその他の熱可塑性樹脂とが混合された混合樹脂とされている。
【0037】
容器包装リサイクル材のようにリサイクルされたプラスチック材料は多種な成分を含み、ポリエチレン成分のみを取り出すことは困難であるが、本発明の熱可塑性樹脂の混練溶融方法は、樹脂溶融粘度の変化の影響が小さく、溶融温度の異なるプラスチック材料が含まれていても同時に溶融混合させることが可能となる。
【0038】
従って、充填剤と熱可塑性樹脂中に40重量%以上含まれるポリエチレン系樹脂とを混合し、先ず、ポリエチレン系樹脂の熔融物に充填材例えば植物片が溶融するポリエチレン系樹脂取り込まれ、後から残り重量%だけ加えて熔融されるポリプロピレン系樹脂が直接充填材に接触し難くなり、充填材自体の摩擦による発熱が抑制されるために充填材が過昇温されることがなく変性が起こり難い。充填材自体の摩擦時間も短縮されるので、充填材の破壊も抑制される。
【0039】
また、溶融粘度の低いポリエチレンが充填材の周囲に優先して配置されることで、充填材表面や内部の空洞部に樹脂が充填されやすく、樹脂と充填材との密着性即ち界面強度が向上する。
【発明の効果】
【0040】
有機充填材または無機充填材と熱可塑性樹脂とを混合し、その混合物を撹拌機で高速撹拌して摩擦熱で熱可塑性樹脂を熔融させることにより充填剤含有熱可塑性樹脂ゲルを得、そのゲルを撹拌機から取り出して冷却しつつ加圧して所定形状に成形された充填材含有熱可塑性樹脂成型品において、発明1は、熱可塑性樹脂の20〜40重量%がポリプロピレンよりも融点が低いポリエチレン系樹脂、残りの熱可塑性樹脂成分中の80重量%以上がポリプロピレン系樹脂とされているので、熱可塑性樹脂がプロピレン樹脂単独の場合よりも熔融温度が下がる。
【0041】
従って、成形のために、熱可塑性樹脂と充填材とを撹拌機で高速撹拌して摩擦熱で熱可塑性樹脂を溶融させて充填剤含有熱可塑性樹脂ゲルを得る際、熱可塑性樹脂が熔融し始めるまでの昇温に要する時間が短縮される。それ故、充填材として例えば植物片等を用いたとしても、その変色が抑制されるとともに熱可塑性樹脂の溶融までに掛かる時間が短縮される。それゆえ、本発明の充填材含有熱可塑性樹脂成型品は、十分な引っ張り強度や曲げ強度などの機械強度がありかつ変色が少ない充填材含有熱可塑性樹脂成型品となるという効果がある。
【0042】
発明2は、発明1の充填材含有熱可塑性樹脂成型品に用いられる充填材が、木材、竹材の粉砕若しくは切削体等の植物片であり、熱可塑性樹脂100重量部に対し上記植物片が20〜400重量部含まれているので、発明1の効果に加え、得られる充填材含有熱可塑性樹脂の成型品は更に機械強度の向上するとともに木質感が向上するという効果がある。
【0043】
発明3は、発明1または2の充填材含有熱可塑性樹脂成型品に用いられる熱可塑性樹脂として、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂の少なくともいずれかの材料にポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系以外の熱可塑性樹脂が含まれているリサイクルされた材料を用いるので、発明1又は2の効果に加え、石油資源の消費を抑制することができるという効果がある。
【0044】
発明4は、充填材含有熱可塑性樹脂成型品を得るための充填材含有熱可塑性樹脂ゲルを製造するに当たり、有機充填材または無機充填材と、ポリエチレン系樹脂とその他の熱可塑性樹脂とが混合されたポリエチレン系混合樹脂とを攪拌機で高速撹拌し、摩擦熱でポリエチレン系樹脂を熔融させた後、ポリプロピレン系樹脂とその他の熱可塑性樹脂とが混合されたポリプロピレン系混合樹脂を加え、更に撹拌機で高速撹拌して摩擦熱でポリプロピレン系混合樹脂を熔融させるので、充填材例えば植物片が、先に溶融するポリエチレン系樹脂に優先して取り込まれ、後から溶融するポリプロピレン系樹脂が直接充填材に接触し難くなり、充填材自体の摩擦による発熱が抑制されるために充填材が過昇温されることがなく変性が起こり難い。充填材自体が摩擦される時間も短縮されるという効果がある。
【0045】
また、溶融粘度の低いポリエチレン系樹脂が充填材の周囲に優先して配置されることで、充填材表面や内部の空洞部に樹脂が充填されやすく、樹脂と充填材との密着性即ち界面強度が向上する。従って、十分な引っ張り強度や曲げ強度などの機械強度がありかつ変色が少ない充填材含有熱可塑性樹脂成型品を得ることが可能な、充填材含有熱可塑性樹脂ゲルを製造することができるという効果がある。
【0046】
発明5は、発明4に用いられる充填材含有熱可塑性樹脂ゲルの製造に用いられる熱可塑性樹脂がリサイクルされた樹脂であり、ポリエチレン系樹脂が40重量%以上含有され、残り重量がポリプロピレン系樹脂とその他の熱可塑性樹脂とが混合された混合樹脂とされているので、発明4の効果に加え、石油資源の消費を抑制することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
次に、実施例をもって本発明を説明する。
【実施例1】
【0048】
熱可塑性樹脂として、ポリエチレン系樹脂(出光興産社製 530E)60g(30重量部)と酸変性オレフィンオリゴマー(三洋化成社製)10g(5重量部)と木粉(製材屑)200g(100重量部)を、溶融混練機(コーハン社製 k−ミキサー)を用いてポリエチレン系樹脂を溶融し、溶融したポリエチレン系樹脂に木粉が混合された熔融混合物を得た。
【0049】
この熔融混合物に、ポリプロピレン系樹脂(出光興産社製 J750P)140g(70重量部)を加え、更に混合を続けてポリプロピレン系樹脂を溶融させ、溶融した熱可塑性樹脂、即ちポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂と他の添加物との熔融物に木粉が混合された充填剤含有熱可塑性樹脂ゲルを得た。
【0050】
この時、最初に充填剤とポリエチレン系樹脂との混練を開始してから、後で加えたポリプロピレン系樹脂が全て溶融するまでの時間を混練時間として計測した。得られた塊状の充填剤含有熱可塑性樹脂ゲルを冷却プレス装置を用い、冷却しつつ加圧して一辺200mmの角プレート状の成型品を得た。得られた角プレートの木粉の変色の程度を目視により判断した。また、この角プレートを切出し、JIS K7113(1号試験片)に従い引張試験を行い弾性率を測定した。なお、変色の程度の判定は目視で行い、得られたプレート状成形体が白色に近ければ小とし、暗褐色に近ければ大とした。
【実施例2】
【0051】
木粉の代わりにタルクを用いた以外は、実施例1と同様にして充填剤含有熱可塑性樹脂ゲルを得、同様に混練時間、木粉の変色程度、弾性率を測定した。
【実施例3】
【0052】
木粉の代わりに(木粉:タルク)が重量比で(80:20)である混合充填剤を用いた以外は、実施例1と同様にして充填剤含有熱可塑性樹脂ゲルを得、同様に混練時間、変色程度、弾性率を測定した。
【実施例4】
【0053】
熱可塑性樹脂として、上記ポリエチレン系樹脂をポリエチレンリサイクル材として、これを80g(40重量部)とし、後で加えるポリプロピレン系樹脂は実施例1と同じポリプロピレン系樹脂としてこれを120g(60重量部)とした以外は、実施例1と同様にして充填剤含有熱可塑性樹脂ゲルを得、同様に混練時間、黄変程度、弾性率を測定した。
【0054】
(比較例1)
比較のために行った実施例(比較例という。)を以下に示す。熱可塑性樹脂を実施例1と同じポリプロピレン系樹脂のみとし、このポリプロピレン系樹脂200g(100重量部)と実施例1と同じ酸変性オレフィンオリゴマー10g(5重量部)と実施例1と同じ木粉200g(100重量部)を、実施例1と同じ溶融混練機を用いてポリプロピレン系樹脂を溶融し、ポリプロピレン系樹脂と他の添加物との熔融物に木粉が混合された充填剤含有熱可塑性樹脂ゲルを得た。
【0055】
この時、最初に充填剤とポリプロピレン系樹脂との混練を開始してからポリプロピレン系樹脂が全て溶融するまでの時間を混練時間として計測した。得られた塊状の充填剤含有熱可塑性樹脂ゲルを実施例1と同様にして一辺200mmの角プレート状の成型品を得、実施例1と同様に、木粉の変色程度と弾性率とを測定した。
【0056】
表1に、各実施例及び比較例の、上記原材料の配合と混練時間、変色の程度及び弾性率の測定結果を示す。
【0057】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機充填材または無機充填材と熱可塑性樹脂とを混合し、その混合物を撹拌機で高速撹拌して摩擦熱で熱可塑性樹脂を熔融させることにより充填剤含有熱可塑性樹脂ゲルを得、そのゲルを撹拌機から取り出して冷却しつつ加圧して所定形状に成形された充填材含有熱可塑性樹脂成型品であって、熱可塑性樹脂の20〜40重量%がポリエチレン系樹脂であり、かつ残りの熱可塑性樹脂成分中の80重量%以上がポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする充填材含有熱可塑性樹脂成型品。
【請求項2】
上記充填材が木材、竹材の粉砕若しくは切削体等の植物片であり、熱可塑性樹脂100重量部に対し、上記植物片が20〜400重量部含まれていることを特徴とする請求項1記載の充填材含有熱可塑性樹脂成型品。
【請求項3】
ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂がリサイクルされた材料であり、少なくともいずれかの材料に、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系以外の熱可塑性樹脂が含まれることを特徴とする請求項1または2記載の充填材含有熱可塑性樹脂成型品。
【請求項4】
有機充填材または無機充填材と、ポリエチレン系樹脂とその他の熱可塑性樹脂とが混合されたポリエチレン系混合樹脂とを攪拌機で高速撹拌し、摩擦熱でポリエチレン系樹脂を熔融させた後、ポリプロピレン系樹脂とその他の熱可塑性樹脂とが混合されたポリプロピレン系混合樹脂を加え、更に撹拌機で高速撹拌して摩擦熱でポリプロピレン系混合樹脂を熔融させることを特徴とする充填材含有熱可塑性樹脂ゲルの製造方法。
【請求項5】
ポリエチレン系混合樹脂またはポリプロピレン系混合樹脂がリサイクルされた材料であり、ポリエチレン系混合樹脂とポリプロピレン系混合樹脂とを混合した混合樹脂において、ポリエチレン系樹脂が40重量%以上含有され、残り重量がポリプロピレン系樹脂とその他の熱可塑性樹脂とが混合された混合樹脂であることを特徴とする請求項4記載の充填材含有熱可塑性樹脂ゲルの製造方法。


【公開番号】特開2006−206726(P2006−206726A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19983(P2005−19983)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】