説明

充填物検知方法及び充填物検知装置

【課題】センサ素子4の設置環境による影響に左右されることなく正確に接触物を判定することができる充填物検知方法及び充填物検知装置を得る。
【解決手段】センサ素子に物質が接触することにより発生する電圧波形のピーク電圧値PDの周波数位置付近における波形の尖鋭度Qの取得後、ピーク電圧値PDの周波数位置が空気判定周波数AIR以上且つ尖鋭度Qが空気判定尖鋭度QA以上の場合には空気と判定し、ピーク電圧値PDの周波数位置が空気判定周波数AIR未満且つ尖鋭度Qが水判定尖鋭度QW以上の場合には水と判定し、ピーク電圧値PDの周波数位置がベースライン周波数BF未満且つ尖鋭度Qが水判定尖鋭度QW未満の場合にコンクリートと判定し、さらにベースライン周波数BF以上でも空気判定周波数AIR未満且つ水判定尖鋭度QW未満である場合又は空気判定周波数AIR以上且つ尖鋭度Qが空気判定尖鋭度QA未満の場合にはコンクリートと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプレキャストコンクリートで作られた型枠へのコンクリートの充填状況を検知する充填物検知方法及び充填物検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の構造体には、プレキャストコンクリートで作られた型枠(以下、プレキャストコンクリート型枠と呼ぶ)の内部に鉄筋を配し、コンクリートを充填する方法が採られている。近年、デザインの多様化などからプレキャストコンクリート型枠の形状も複雑になり、その複雑な形状の末端部までコンクリートが正しく充填されているかどうかを非破壊検査で容易に検出することができる方法が望まれている。現在商品化されている方法には、センサ素子をプレキャストコンクリート型枠内に配置し、該センサ素子にコンクリートが接触した際に発生する信号を検出して、該信号の特徴からコンクリートが充填されたことを検知するようにしている(例えば、特許文献1又は特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平7−269120号公報
【特許文献2】特開平6−229968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、センサ素子の設置環境による影響で、接触する物質が同じであっても信号の特徴に違いが生ずる場合があり、接触物を誤判定してしまう可能性があるという問題がある。
【0004】
この発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、センサ素子の設置環境による影響に左右されることなく正確に接触物を判定することができる充填物検知方法及び充填物検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的は下記方法及び構成により達成される。
(1) 電気エネルギを機械エネルギに変換するセンサ素子に所定の範囲で周波数が経時的に変化する電気信号を印加し、前記センサ素子に流れる電流の変化を電圧の変化として取得し、取得した電圧波形の周波数特性に基づいて前記センサ素子と接触する物質を判定する充填物検知方法において、前記電圧波形のピーク電圧値と該ピーク電圧値の周波数位置を取得し、取得したピーク電圧値の周波数位置付近の波形の尖鋭度を取得し、取得した尖鋭度を予め定めた判定基準と比較して前記センサ素子と接触する物質を判定する。
【0006】
(2) (1)に記載の充填物検知方法において、取得した前記電圧波形に対し、前記センサ素子の短絡や断線を検知するための基準となるベースライン周波数における電圧値を基準として、該基準電圧値を前記ピーク電圧値から減算することでピーク値を取得し、取得したピーク値と該ピーク値に対応する半値幅とから尖鋭度を取得する。
【0007】
(3) (1)又は(2)に記載の充填物検知方法において、前記ベースライン周波数を、前記物質が水である場合の前記ピーク電圧値の下限周波数に設定する条件下で、前記ピーク電圧値の周波数位置が予め空気と決定付けた空気判定周波数以上且つ取得した前記尖鋭度が予め空気と決定付けた空気判定尖鋭度以上の場合に空気と判定し、前記ピーク電圧値の周波数位置が前記空気判定周波数未満且つ取得した前記尖鋭度が予め水と決定付けた水判定尖鋭度以上の場合に水と判定し、前記ピーク電圧値の周波数位置が前記ベースライン周波数未満且つ前記尖鋭度が前記水判定尖鋭度未満の場合にコンクリートと判定し、さらに前記ベースライン周波数以上でも前記空気判定周波数未満且つ前記尖鋭度が前記水判定尖鋭度未満である場合又は前記空気判定周波数以上且つ前記尖鋭度が前記空気判定尖鋭度未満の場合に該当していればコンクリートと判定する。
【0008】
(4) (2)又は(3)に記載の充填物検知方法において、前記ベースライン周波数における電圧値が予め設定した異常値以上の場合に前記センサ素子が異常と判定する。
【0009】
(5) 充填物検知装置において、電気エネルギを機械エネルギに変換するセンサ素子と、所定の範囲で周波数が経時的に変化する電気信号を発生し、発生した電気信号を前記センサ素子に印加する信号発生・印加手段と、前記信号発生・印加手段にて発生した電気信号が前記センサ素子に印加されることで前記センサ素子に流れる電流を電圧の変化として取得すると共に、取得した電圧波形のピーク電圧値と該ピーク電圧値の周波数位置を取得するピーク電圧・周波数取得手段と、前記ピーク電圧・周波数取得手段で取得された電圧波形に対し、前記センサ素子の短絡や断線を検知するための基準となるベースライン周波数における電圧値を基準として該基準電圧値を前記ピーク電圧・周波数取得手段で取得されたピーク電圧値から減算することでピーク値を取得し、取得したピーク値と該ピーク値に対応する半値幅とから尖鋭度を取得する尖鋭度取得手段と、前記尖鋭度取得手段で取得された尖鋭度を予め定めた判定基準と比較して前記センサ素子と接触する物質を判定する判定手段と、を備える。
【0010】
(6) (5)に記載の充填物検知装置において、前記ベースライン周波数を、前記物質が水である場合の前記ピーク電圧値の下限周波数に設定し、前記判定手段は、前記ピーク電圧値の周波数位置が予め空気と決定付けた空気判定周波数以上且つ前記尖鋭度取得手段で取得された尖鋭度が予め空気と決定付けた空気判定尖鋭度以上の場合に空気と判定し、前記ピーク電圧値の周波数位置が前記空気判定周波数未満且つ前記尖鋭度取得手段で取得された尖鋭度が予め水と決定付けた水判定尖鋭度以上の場合に水と判定し、前記ピーク電圧値の周波数位置が前記ベースライン周波数未満且つ前記尖鋭度取得手段で取得された尖鋭度が前記水判定尖鋭度未満の場合にコンクリートと判定し、さらに前記ベースライン周波数以上でも前記空気判定周波数未満且つ前記水判定尖鋭度未満である場合又は前記空気判定周波数以上且つ前記尖鋭度取得手段で取得された尖鋭度が前記空気判定尖鋭度未満の場合に該当していればコンクリートと判定する。
【0011】
(7) (5)又は(6)に記載の充填物検知装置において、前記判定手段は、前記ベースライン周波数における電圧値が予め設定した異常値以上の場合に前記センサ素子が異常と判定する。
【発明の効果】
【0012】
上記(1)に記載の充填物検知方法では、センサ素子に接触した物質によって発生する電圧波形に対して、ピーク電圧値の周波数位置付近における波形の尖鋭度を取得し、取得した尖鋭度を予め定めた判定基準と比較することによりセンサ素子に接触した物質を判定するので、センサ素子の設置環境による影響に左右されることなく正確に接触物を判定することができる。
【0013】
上記(2)に記載の充填物検知方法では、センサ素子の短絡や断線を検知するための基準となるベースライン周波数を決定して、その周波数における電圧値を基準として、該基準電圧値をピーク電圧値から減算することでピーク値を取得し、取得したピーク値と該ピーク値に対応する半値幅とから尖鋭度を取得するので、センサ素子に接触した物質によって発生する電圧波形に対する尖鋭度を正確に求めることができる。
【0014】
上記(3)に記載の充填物検知方法では、ピーク電圧値の周波数位置が予め空気と決定付けた空気判定周波数以上且つ尖鋭度が予め空気と決定付けた空気判定尖鋭度以上の場合に空気と判定し、ピーク電圧値の周波数位置が空気判定周波数未満且つ尖鋭度が予め水と決定付けた水判定尖鋭度以上の場合に水と判定し、ピーク電圧値の周波数位置がベースライン周波数未満且つ尖鋭度が前記水判定尖鋭度未満の場合にコンクリートと判定し、さらにベースライン周波数以上でも前記空気判定周波数未満且つ前記尖鋭度が前記水判定尖鋭度未満である場合又は前記空気判定周波数以上且つ前記尖鋭度が空気判定尖鋭度未満の場合に該当していればコンクリートと判定するので、センサ素子の設置環境による影響に左右されることなく正確に接触物を判定することができる。
【0015】
上記(4)に記載の充填物検知方法では、ベースライン周波数における電圧値が予め設定した異常値を以上の場合にセンサ素子が異常と判定するので、センサ素子の異常を検知するための手段を別に設ける必要がないので、コストダウンが図れる。
【0016】
上記(5)に記載の充填物検知装置では、センサ素子に接触した物質によって発生する電圧波形に対して、ピーク電圧値の周波数位置付近における波形の尖鋭度を取得し、取得した尖鋭度を予め定めた判定基準と比較することによりセンサ素子に接触した物質を判定するので、センサ素子の設置環境による影響に左右されることなく正確に接触物を判定することができる。
【0017】
上記(6)に記載の充填物検知装置では、ピーク電圧値の周波数位置が予め空気と決定付けた空気判定周波数以上且つ尖鋭度が予め空気と決定付けた空気判定尖鋭度以上の場合に空気と判定し、ピーク電圧値の周波数位置が空気判定周波数未満且つ尖鋭度が予め水と決定付けた水判定尖鋭度以上の場合に水と判定し、ピーク電圧値の周波数位置がベースライン周波数未満且つ尖鋭度が水判定尖鋭度未満の場合にコンクリートと判定し、さらにベースライン周波数以上でも空気判定周波数未満且つ水判定尖鋭度未満である場合又は前記空気判定周波数以上且つ尖鋭度が空気判定尖鋭度未満の場合に該当していればコンクリートと判定するので、センサ素子の設置環境による影響に左右されることなく正確に接触物を判定することができる。
【0018】
上記(7)に記載の充填物検知装置では、ベースライン周波数における電圧値が予め設定した異常値以上の場合にセンサ素子が異常と判定するので、センサ素子の異常を検知するための手段を別に設ける必要がないので、コストダウンが図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る充填物検知装置の概略構成を示すブロック図である。同図において、本実施の形態に係る充填物検知装置は、同期信号発生器1と、可変周波数発振器2と、増幅器3と、センサ素子4と、抵抗5と、差動増幅器6と、4象限アナログ掛け算器7と、ローパスフィルタ8と、判定部9とを備えて構成される。
同期信号発生器1は、可変周波数発振器2を繰り返し動作させるための同期信号を発生する。可変周波数発振器2は、周波数が所定の周波数範囲(例えば1kHzから20kHz)で連続的に変化する正弦波の電気信号を発生する。この場合、同期信号発生器1から同期信号が出力される毎に初期周波数(例えば1kHz)から繰り返し正弦波信号を発生する。
増幅器3は、可変周波数発振器2からの正弦波信号を、センサ素子4を駆動できるレベルまで増幅し、加振用信号Vrとして出力する。なお、本実施の形態では、同期信号発生器1、可変周波数発振器2及び増幅器3を含めて信号発生・印加手段と呼ぶ。また、抵抗5、差動増幅器6、4象限アナログ掛け算器7、ローパスフィルタ8及び判定部9を含めてピーク電圧・周波数取得手段と呼ぶ。
【0020】
センサ素子4は、電気信号を機械信号に変換して出力するものであり、例えば図2に示すような構造のものが好適である。同図に示すセンサ素子4は、圧電セラミックス40と、圧電セラミックス40を固定する金属板41と、圧電セラミックス40を金属板41と共に収容するケース42と、ケース42を固定する台座43と、台座43とケース42に収容された金属板41との間に介挿され、ケース42へのコンクリートの侵入を防止するシール材44とを備えて構成される。なお、ケース42は圧電セラミックス40の周囲に空間を保てる大きさに形成されている。また、センサ素子4と装置本体とはケーブル45によって接続される。センサ素子4に圧電セラミックス40を使用することで装置を安価にできるとともに精度の高い検査が可能となる。
【0021】
図1に戻り、抵抗5は、増幅器3とセンサ素子4との間に直列に介挿され、その両端にはセンサ素子4に流れる電流に応じた電圧が発生する。センサ素子4に流れる電流は周波数の変化によって変化するので、抵抗5の両端に現れる電圧はセンサ素子4の周波数特性を反映したものになる。
差動増幅器6は、抵抗5に発生する電圧を増幅して電圧Viを出力する。4象限アナログ掛け算器7は、増幅器3からの加振用信号Vrと差動増幅器6からの電圧Viを乗算してこれらの電圧に対するノイズの影響を除去する。
ローパスフィルタ8は、4象限アナログ掛け算器7の出力信号から以下で説明するcos(2ωt+α+β)分を除去した信号(出力電圧Vo)を出力する。
【0022】
判定部9は、尖鋭度取得手段及び判定手段として機能し、図示せぬCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、A/D(Analog/Digital)変換器、LCD(Liquid Crystal Display)等の表示器を備えて構成される。
判定部9は、センサ素子4にコンクリートを接触させないときの固有の振動周波数特性を基準として、ローパスフィルタ8を通過した信号から、センサ素子4に対するプレキャストコンクリート型枠内におけるコンクリートの接触・非接触を判定するとともに、センサ素子4に接触した物質を判定し、それらの結果を上述した表示器上に表示する。因みに、センサ素子4の固有の振動周波数特性を一度設定しておくことで、以後メンテナンス時以外、再設定する必要はなくなる。なお、センサ素子4の固有の振動周波数特性は上記したRAMに記憶される。また、上記したCPUを制御するためのプログラムは上記したROMに記憶されている。
【0023】
このように構成された充填物検知装置において、可変周波数発振器2にて発生した正弦波信号が増幅器3で増幅されて加振用電圧Vrとしてセンサ素子4と4象限アナログ掛け算器7夫々に入力される。センサ素子4に加振用電圧Vrが入力されることでセンサ素子4から機械的振動が発生する。また、抵抗5の両端にはセンサ素子4に流れる電流に対応する電圧が発生し、この電圧が差動増幅器6にて増幅されて電圧Viが出力される。差動増幅器6からの電圧Viと増幅器3からの加振用電圧Vrとが4象限アナログ掛け算器7にて乗算され、その出力がローパスフィルタ8にてcos(2ωt+α+β)成分が除去されて出力電圧Voが得られる。
【0024】
出力信号Voは加振用信号の周波数変化に対するセンサ素子4の周波数特性(振幅と位相)を反映した信号になる。このときセンサ素子4の表面に何も接触していなければ、図3に示すように、センサ素子4の持つ固有振動数付近の周波数にピークを持った電圧が現れる。センサ素子4の周りにコンクリートが充填された場合には、センサ素子4の振動特性が変化して、図4に示すように、ピーク電圧の位置と大きさが変化する。
判定部9はこのピーク電圧の変化からコンクリートの充填状況を判定し、その結果を表示器上に表示する。これにより、ユーザは容易にコンクリートの充填を判別することができる。
【0025】
ここで、上記作動原理を、数式を用いて説明すると以下のようになる。
この場合、Vr=Asin(ωt+α)、Vi=Bsin(ωt+β)とする。但し、A,Bは振幅、ωtは周波数、αとβは位相のずれとする。
Vr×Vi=Asin(ωt+α)×Bsin(ωt+β)
=AB[cos(β−α)−cos(2ωt+α+β)]/2 …(1)
【0026】
式(1)のcos(β−α)の部分は、位相差に合わせて変化する直流成分であり、ここに電圧Viの振幅成分も含まれる。また、cos(2ωt+α+β)の部分は、元の加振用電圧Vrと電圧Viの2倍の周波数の信号である。必要とする周波数特性の情報は、電圧Viの振幅(大きさ)であるので、式(1)のcos(β−α)のみで良い。したがって、ローパスフィルタ8を通過させてcos(2ωt+α+β)の成分を除去すればよい。このようにして出力電圧Voには周波数特性が電圧の形で現れる。
【0027】
図3及び図4で示したように、プレキャストコンクリート型枠内等の空間内にコンクリートが充填されると、ピークの周波数とレベルが変化することで、その状況を検知することができる。さらに、センサ素子4に接触した物質によって発生するピーク電圧値と該ピーク電圧値の周波数位置から空気、水、コンクリートを判定することができる。この場合、判定部9は、センサ素子4の設置環境による影響でピーク電圧値が小さくなった場合でも接触物を誤判定することがないように、取得波形のピーク電圧値の周波数位置付近の波形の尖鋭度を求め、求めた尖鋭度を予め定めた判定基準と比較することより接触物を判定するようにしている。以下、ピーク電圧値の周波数位置付近の波形に対する尖鋭度の求め方について説明する。
【0028】
図5は、取得した電圧波形の一例を示す図である。判定部9は、取得した電圧波形のピーク電圧値の周波数位置(X軸方向)と波形の尖鋭度から空気、水、コンクリートの判定を行う。判定部9は、尖鋭度Qを次のようにして求める。まずピーク電圧値PDと該ピーク電圧値の周波数位置を求める。次いで、式(1)よりピーク値Pを求める。すなわち、センサ素子4の短絡や断線を検知するために決定したベースライン周波数BFにおけるベースラインBの値を基準にピーク値Pを求める。そして、ピーク値Pの1/2の半値P2を求めた後、半値P2における周波数F1,F2を求め、この値より半値幅Fを求める。これらの数値から式(2)より尖鋭度Qを求める。
P=PD−B …(1)
Q=P/F …(2)
【0029】
図6に、上記のベースライン周波数BF、ベースラインB、ピーク電圧値PD、ピーク値P、半値P2、半値周波数F1、半値周波数F2、半値幅F及び尖鋭度Qの各値を示す。
判定部9は、以下のようにして、空気、水、コンクリートを判定する。但し、条件として、ベースライン周波数BFを、充填物が水である場合のピーク電圧値の下限周波数位置に設定するものとする。
【0030】
(1)空気判定:ピーク電圧値PDの周波数位置が予め空気と決定付けた空気判定周波数AIR以上且つ尖鋭度Qが予め空気と決定付けた空気判定尖鋭度QA以上の場合
(2)水判定:ピーク電圧値PDの周波数位置が空気判定周波数AIR未満且つ尖鋭度Qが予め水と決定付けた水判定尖鋭度QW以上の場合
(3)コンクリート判定:ピーク電圧値PDの周波数位置がベースライン周波数BF未満且つ尖鋭度Qが水判定尖鋭度QW未満の場合、ベースライン周波数BF以上で空気判定周波数AIR未満且つ尖鋭度Qが水判定尖鋭度QW未満の場合又は空気判定周波数AIR以上且つ尖鋭度Qが空気判定尖鋭度QA未満の場合
(4)センサ異常:ベースライン周波数BFにおける電圧値が予め設定した異常値UN以上の場合
【0031】
図7に判定データの一例を示す。
判定周波数AIR=8000Hz
空気判定尖鋭度QA=6
水判定尖鋭度QW=5
異常値UN=5V
また、図8に尖鋭度の判定マップを示す。
【0032】
図9は、尖鋭度取得処理を説明するためのフローチャートである。
同図において、まずピーク電圧値PDと該ピーク電圧値PDの周波数の位置を検出する(ステップST10)。ここで、ピーク電圧値はA/D変換して量子化されており、記憶部に蓄積されたデータ系列内の量子化された最大値であり、ピーク電圧値の周波数位置はピーク電圧値の蓄積位置(アドレス)から得て計算する。次いで、ベースライン周波数BFでのベースライン電圧Bを検出する(ステップST11)。ベースライン電圧Bの検出後、ピーク電圧値PDからベースライン電圧Bを減算することでピーク値Pを求める(ステップST12)。次いで、取得したピーク値Pの半値P2を求める。この半値P2はピーク値Pを2で割ることで得られる。ピーク値Pの半値P2を取得した後、半値P2の周波数F1,F2を検出し(ステップST14)、検出した半値周波数F1,F2から半値幅Fを求める(ステップST15)。この場合、半値幅FはF2からF1を減算することで求まる。そして、取得した半値幅Fとピーク値Pとから尖鋭度Qを求める(ステップST16)。この場合、尖鋭度Qはピーク値Pを半値幅Fで割ることで求まる。
【0033】
図10は、尖鋭度による接触物の判定処理を説明するためのフローチャートである。
同図において、まずベースライン電圧Bが異常値UN以上であるかどうか判定し(ステップST20)、異常値UN以上の場合(即ち、ステップST20の判定で「Yes」の場合)は、センサ素子4が短絡又は断線状態にあると判定して、その旨を表示する(ステップST21)。該表示後、本処理を終了する。これに対して、ベースライン電圧Bが異常値UN未満である場合(即ち、ステップST20の判定で「No」の場合)は、ピーク電圧PDの周波数位置がベースライン周波数BF以上かどうか判定する(ステップST22)。この判定において、ベースライン周波数BF未満である場合(即ち、ステップST22の判定で「No」の場合)、尖鋭度Qが水判定尖鋭度QW未満かどうか判定し(ステップST23)、水判定尖鋭度QW未満である場合(即ち、ステップST23の判定で「Yes」の場合)は、接触物がコンクリートであると判定して、その旨を表示する(ステップST24)。該表示後、本処理を終了する。これに対して、尖鋭度Qが水判定尖鋭度QW以上の場合(即ち、ステップST23の判定で「No」の場合)は、判定外と判定して、その旨表示する(ステップST25)。該表示後、本処理を終了する。
【0034】
上記ステップST22の判定において、ピーク電圧PDの周波数位置がベースライン周波数BF以上の場合(即ち、ステップST22の判定で「Yes」の場合)は、ピーク電圧値PDの周波数位置が判定周波数AIR以上かどうか判定し(ステップST26)、判定周波数AIR未満である場合(即ち、ステップST26の判定で「No」の場合)は、尖鋭度Qが水判定尖鋭度QW以上かどうか判定する(ステップST27)。水判定尖鋭度QW未満である場合(即ち、ステップST27の判定で「No」の場合)は、接触物がコンクリートであると判定して、その旨を表示する(ステップST28)。該表示後、本処理を終了する。
【0035】
これに対して、尖鋭度Qが水判定尖鋭度QW以上の場合(即ち、ステップST27判定で「Yes」の場合)は、接触物が水であると判定して、その旨を表示する(ステップST29)。該表示後、本処理を終了する。
【0036】
上記ステップST26の判定において、ピーク電圧値PDの周波数位置が判定周波数AIR以上の場合(即ち、ステップST26の判定で「Yes」の場合)は、尖鋭度Qが空気判定尖鋭度QA以上かどうか判定する(ステップST30)。この判定において、尖鋭度Qが空気判定尖鋭度QA未満である場合(即ち、ステップST30の判定で「No」の場合)は、接触物がコンクリートであると判定して、その旨を表示する(ステップST31)。該表示後、本処理を終了する。これに対して、尖鋭度Qが空気判定尖鋭度QA以上の場合(即ち、ステップST30の判定で「Yes」の場合)は、接触物が空気であると判定して、その旨を表示する(ステップST32)。該表示後、本処理を終了する。
【0037】
このように、本実施の形態の充填物検知装置によれば、センサ素子4に接触した物質によって発生する電圧波形のピーク電圧値PDの周波数位置付近における波形の尖鋭度Qを取得し、取得した尖鋭度Qを予め定めた判定基準と比較することによりセンサ素子4に接触した物質を判定する。すなわち、ベースライン周波数BFを、充填物が水である場合のピーク電圧値の下限周波数位置に設定した条件で、ピーク電圧値PDの周波数位置が空気判定周波数AIR以上且つ尖鋭度Qが空気判定尖鋭度QA以上の場合には空気と判定し、ピーク電圧値PDの周波数位置が空気判定周波数AIR未満且つ尖鋭度Qが水判定尖鋭度QW以上の場合には水と判定し、ピーク電圧値PDの周波数位置がベースライン周波数BF未満且つ水判定尖鋭度QW未満の場合にコンクリートと判定し、さらにベースライン周波数BF以上でも空気判定周波数AIR未満且つ水判定尖鋭度QW未満である場合又は空気判定周波数AIR以上且つ尖鋭度Qが空気判定尖鋭度QA未満の場合にはコンクリートと判定する。これにより、センサ素子4の設置環境による影響に左右されることなく正確に接触物を判定することができる。
【0038】
また、本実施の形態の充填物検知装置によれば、ベースライン周波数BFにおける電圧値が予め設定した異常値UN以上の場合にセンサ素子4が異常と判定するので、センサ素子4の異常を検知するための手段を別に設ける必要がない。これにより、コストダウンが図れる。
【0039】
なお、上記実施の形態では、単一の周波数範囲の正弦波を用いたが、周波数範囲を切り替える周波数範囲切替器(図示略)を設けて、複数の周波数範囲の正弦波を択一的に選択できるようにしても良い。この場合、可変周波数発振器2は、周波数範囲切替器にて切り替えられた範囲の周波数帯で正弦波信号を繰り返し発生させる機能を有することになる。このように複数の周波数範囲の正弦波を択一的に選択できるようにすることで、プレキャストコンクリート型枠の構造や材質等の物理的な特性に応じて測定に最適な周波数範囲を選択することができ、これによって、より精度の高い測定が可能となる。
【0040】
また、上記実施の形態では、コンクリートのプレキャストコンクリート型枠等の閉鎖空間内への充填状況の検出について述べたが、他の木製型枠や鋼材で作られた型枠内への充填状況の検出等に使用できることは述べるまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、センサ素子の設置環境による影響に左右されることなく正確に接触物を判定することができるといった効果を有し、コンクリートのプレキャストコンクリート型枠等の閉鎖空間内への充填状況を検出する充填物検知装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施の形態に係る充填物検知装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1の充填物検知装置が有するセンサ素子の概略構成を示す図である。
【図3】図1の充填物検知装置での測定結果の一例を示す図で、プレキャストコンクリート型枠内にコンクリートが無い場合の出力電圧波形図である。
【図4】図1の充填物検知装置での測定結果の一例を示す図で、プレキャストコンクリート型枠内にコンクリートが有る場合の出力電圧波形図である。
【図5】図1の充填物検知装置における接触物検知時の電圧波形の一例を示す図である
【図6】図5の電圧波形における各値の内容を示す図である。
【図7】図1の充填物検知装置で使用される判定データの一例を示す図である。
【図8】図1の充填物検知装置における尖鋭度の判定マップの一例を示す図である。
【図9】図1の充填物検知装置の尖鋭度取得処理を説明するためのフローチャートである。
【図10】図1の充填物検知装置の尖鋭度による接触物の判定処理を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0043】
1 同期信号発生器
2 可変周波数発振器
3 増幅器
4 センサ素子
5 抵抗
6 差動増幅器
7 4象限アナログ掛け算器
8 ローパスフィルタ
9 判定部
40 圧電セラミックス
41 金属板
42 ケース
43 台座
44 シール材
45 ケーブル
PD ピーク電圧値
P ピーク値
P2 半値
BF ベースライン周波数
B ベースライン
F 半値幅
F1、F2 半値周波数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気エネルギを機械エネルギに変換するセンサ素子に所定の範囲で周波数が経時的に変化する電気信号を印加し、前記センサ素子に流れる電流の変化を電圧の変化として取得し、取得した電圧波形の周波数特性に基づいて前記センサ素子と接触する物質を判定する充填物検知方法において、
前記電圧波形のピーク電圧値と該ピーク電圧値の周波数位置を取得し、取得したピーク電圧値の周波数位置付近の波形の尖鋭度を取得し、取得した尖鋭度を予め定めた判定基準と比較して前記センサ素子と接触する物質を判定する充填物検知方法。
【請求項2】
取得した前記電圧波形に対し、前記センサ素子の短絡や断線を検知するための基準となるベースライン周波数における電圧値を基準として、該基準電圧値を前記ピーク電圧値から減算することでピーク値を取得し、取得したピーク値と該ピーク値に対応する半値幅とから尖鋭度を取得する請求項1に記載の充填物検知方法。
【請求項3】
前記ベースライン周波数を、前記物質が水である場合の前記ピーク電圧値の下限周波数に設定する条件下で、前記ピーク電圧値の周波数位置が予め空気と決定付けた空気判定周波数以上且つ取得した前記尖鋭度が予め空気と決定付けた空気判定尖鋭度以上の場合に空気と判定し、前記ピーク電圧値の周波数位置が前記空気判定周波数未満且つ取得した前記尖鋭度が予め水と決定付けた水判定尖鋭度以上の場合に水と判定し、前記ピーク電圧値の周波数位置が前記ベースライン周波数未満且つ前記尖鋭度が前記水判定尖鋭度未満の場合と前記ベースライン周波数以上でも前記空気判定周波数未満且つ前記水判定尖鋭度未満である場合又は前記空気判定周波数以上且つ前記尖鋭度が前記空気判定尖鋭度未満の場合に該当していればコンクリートと判定する請求項1又は請求項2に記載の充填物検知方法。
【請求項4】
前記ベースライン周波数における電圧値が予め設定した異常値以上の場合に前記センサ素子が異常と判定する請求項2又は請求項3に記載の充填物検知方法。
【請求項5】
電気エネルギを機械エネルギに変換するセンサ素子と、
所定の範囲で周波数が経時的に変化する電気信号を発生し、発生した電気信号を前記センサ素子に印加する信号発生・印加手段と、
前記信号発生・印加手段にて発生した電気信号が前記センサ素子に印加されることで前記センサ素子に流れる電流を電圧の変化として取得すると共に、取得した電圧波形のピーク電圧値と該ピーク電圧値の周波数位置を取得するピーク電圧・周波数取得手段と、
前記ピーク電圧・周波数取得手段で取得された電圧波形に対し、前記センサ素子の短絡や断線を検知するための基準となるベースライン周波数における電圧値を基準として該基準電圧値を前記ピーク電圧・周波数取得手段で取得されたピーク電圧値から減算することでピーク値を取得し、取得したピーク値と該ピーク値に対応する半値幅とから尖鋭度を取得する尖鋭度取得手段と、
前記尖鋭度取得手段で取得された尖鋭度を予め定めた判定基準と比較して前記センサ素子と接触する物質を判定する判定手段と、
を備える充填物検知装置。
【請求項6】
前記ベースライン周波数を、前記物質が水である場合の前記ピーク電圧値の下限周波数に設定し、
前記判定手段は、前記ピーク電圧値の周波数位置が予め空気と決定付けた空気判定周波数以上且つ前記尖鋭度取得手段で取得された尖鋭度が予め空気と決定付けた空気判定尖鋭度以上の場合に空気と判定し、前記ピーク電圧値の周波数位置が前記空気判定周波数未満且つ前記尖鋭度取得手段で取得された尖鋭度が予め水と決定付けた水判定尖鋭度以上の場合に水と判定し、前記ピーク電圧値の周波数位置が前記ベースライン周波数未満且つ前記尖鋭度取得手段で取得された尖鋭度が前記水判定尖鋭度未満の場合と前記ベースライン周波数以上でも前記空気判定周波数未満且つ前記水判定尖鋭度未満である場合又は前記空気判定周波数以上且つ前記尖鋭度取得手段で取得された尖鋭度が前記空気判定尖鋭度未満の場合に該当していればコンクリートと判定する請求項5に記載の充填物検知装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前記ベースライン周波数における電圧値が予め設定した異常値以上の場合に前記センサ素子が異常と判定する請求項5又は請求項6に記載の充填物検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−8707(P2008−8707A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178012(P2006−178012)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】