説明

光アイソレータおよび双方向光送受信装置

【課題】小型化が可能で消光比が高い光アイソレータを実現する。
【解決手段】本発明は、偏光子と1/4波長板として作用する位相板とが積層されてなるλからλ(λ<λ)の波長範囲の光に対して用いられる光アイソレータであって、前記偏光子は、第1の偏光方向の直線偏光を直進透過させ、第1の偏光方向と直交する偏光方向である第2の偏光方向の直線偏光を回折させる偏光回折格子が少なくとも2枚積層されてなる複層回折型偏光子であって、それぞれの偏光回折格子の格子構造の凸部と凹部とが第2の偏光方向の直線偏光に対して示す光路長差RおよびRが、λの{m+(1/2)}倍からλの{m+(1/2)}倍の範囲(mは0または3以下の整数)の異なる値であることを特徴とする光アイソレータを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光アイソレータおよび双方向光送受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信システムにおいて、光源として用いられる半導体レーザから出射された光が出射光の光路上に配置された光学部品により反射されて生じ、光路上を逆方向に進行する光を戻り光という。戻り光が半導体レーザに戻って入射すると、出力変動・周波数変動・変調帯域抑制・LD破壊といった不安定動作の原因となるため、光源と光路上の光学部品との間に、光を一方向にだけ通す光素子である光アイソレータが配置され用いられる。
【0003】
光アイソレータとしては、磁気光学におけるファラデー効果を応用した光アイソレータが用いられる。ファラデー効果とは印加磁界により光の偏光面が回転する現象であり、ファラデー効果を利用した磁性ガーネット単結晶などをファラデー回転子と言う。ファラデー回転子を用いた光アイソレータ300の基本的な構成例を図6に示す。
【0004】
図6に示す光アイソレータ300は、ファラデー回転子31、ファラデー回転子31に磁場を印加するための磁石33、およびそれぞれの進相軸が互いになす角度を45°として配置された2枚の光吸収型の偏光子30、32を備えていて、これらが外部への磁場漏洩を防止する磁気シールドを兼ねた金属製ホルダー34内に固定されている。
【0005】
図6に示す光アイソレータ300では、偏光子30が配置された側に入射された入射光は、偏光子30により1方向の直線偏光のみが透過され、透過された直線偏光はファラデー回転子31により偏光方向が45度回転され、偏光子32の透過軸方向と偏光方向が一致されて偏光子32へ入射され、偏光子32により透過されて光アイソレータ300から出射される。しかしながら、光アイソレータ300に対して偏光子32が配置された側から入射された光は、まったく透過されない。
【0006】
このような従来技術の光アイソレータでは、磁場印加のための磁石33および磁場漏洩を防止する磁気シールドを兼ねた金属製ホルダー34が必須であり、素子が大型化する問題がある。また、ガーネット単結晶は1μm以下の波長帯の光に対しては1dB以上の吸収損失が発生するため、このような波長帯の光に対して用いることが難しい。
【0007】
また、透過吸収型の偏光子としては、2色性の高分子材料を染色・吸着させ、高度に延伸・配向させることで吸収2色性を発現させる、あるいは、ガラス母材中に分散・延伸された金属微粒子により吸収2色性を発現させる、透過吸収型のシート状の偏光子が用いられるが、このような透過吸収型の偏光子は、透過すべき偏光方向の光に対しても吸収があるため、光吸収損失が発生する問題がある。さらに、光吸収により発熱するため、素子特性の安定化や信頼性確保のため冷却などの対策を要する。
【0008】
このような透過吸収型の偏光子の問題点を解決するために、偏光回折格子を用いた光アイソレータの構成例が特許文献1に記載されている。しかしながら、特許文献1の第1および第2の実施態様として記載された光アイソレータは、所定の偏光方向の直線偏光を直進透過させ、これと直交する偏光方向の直線偏光を直進透過させないが、直進透過された出射光が光路上に置かれた光学素子によって反射される等により生じた戻り光は、光アイソレータにより遮断されずに入射側へ出射される。また、第3の実施態様として記載された光アイソレータは、所定の偏光方向の直線偏光のみを、偏光方向が直交する直線偏光に変換するとともに、液晶セルへの印加電圧により直進透過光量を調整して透過させるが、第1および第2の実施態様と同様に、直進透過された出射光が光路上で反射される等により生じた戻り光は、該光アイソレータにより遮断されずに入射側へと出射される。
【0009】
【特許文献1】特開2003−066232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述の実情に鑑み、特に光ストレージや光通信分野で用いられる、高出力半導体レーザへの戻り光を低減して、該高出力半導体レーザのレーザ発振強度を安定化させる光アイソレータ、とくに小型化が可能であるとともに、光吸収に起因する熱を生じず、そのため特性が安定で高い信頼性が維持される光アイソレータを提供することを目的とする。また、かかる光アイソレータを用いた双方向光送受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下に記載の光アイソレータを提供する。
1)偏光子と位相板とが積層されてなる、λからλ(λ<λ)の波長範囲の光に対して用いられる光アイソレータであって、前記偏光子は少なくとも2枚の偏光回折格子が積層されてなる複層回折型偏光子であって、前記位相板は、前記偏光子により直進透過された第1の偏光方向の直線偏光を円偏光に変換して出射させるとともに、入射した円偏光を直線偏光に変換して出射させる1/4波長板であって、前記偏光回折格子は、一方向に伸長する凹凸構造が周期的に形成された、常光屈折率nおよび異常光屈折率n(n≠n)の複屈折性材料からなる格子構造を持ち、前記凹部にはnまたはnと実質的に等しい屈折率nの等方性透明材料が充填され、第1の偏光方向の直線偏光を直進透過させ、第1の偏光方向と直交する偏光方向である第2の偏光方向の直線偏光を回折させる偏光回折格子であって、前記複層回折型偏光子は、少なくとも光路長差Rの偏光回折格子と光路長差Rの偏光回折格子とが積層されてなり、光路長差RおよびRが、λの{m+(1/2)}倍からλの{m+(1/2)}倍の範囲の異なる値であることを特徴とする光アイソレータ。ここで、偏光回折格子の光路長差とは、前記光アイソレータを用いる波長の第2の偏光方向の直線偏光に対して、偏光回折格子の凸部と凹部とが示す光路長差である。またmは0または3以下の自然数である。
【0012】
2)前記位相板が、λ=(λ+λ)/2としたときに、略λ/2の位相差を有する位相板と、略λ/4の位相差を有する位相板と、の2枚の位相板を、それぞれの進相軸が、位相板面内の基準の方向となす角度が異なるように積層された多層位相板からなる上記(1)に記載の光アイソレータ。
3)前記複層回折型偏光子を構成するそれぞれの偏光回折格子の、凹凸構造が伸長する方向および/または凹凸構造の周期が互いに異なっている上記(1)または(2)に記載の光アイソレータ。
【0013】
また本発明は、
4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の光アイソレータと、直線偏光を出射する光源と、を備えた光送信装置を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光アイソレータを用いると、半導体レーザなどの光源から出射され光アイソレータに直線偏光の入射光を効率よく直進透過させて出射光として出射させるとともに、出射光が光路中に配置された光学部品の界面等により反射されて生じた戻り光が、光路を逆方向に進行して光源へ戻るのを効果的に遮断することができる。このとき、磁場発生手段や磁場漏洩を防止する磁気シールドを要さないため、光アイソレータを小型化することができる。また、光吸収に起因した発熱が無いため、特性が安定するとともに高い信頼性が維持できる。
【0015】
2)の構成により、戻り光の逆方向への進行を最大に遮断することができる。
3)の構成とすることにより、本発明の光アイソレータに入射された入射光中の第2の偏光方向の直線偏光成分が、多重回折されて直進透過光に重畳されて出射されるのをより効果的に遮断する機能が実現される。
また4)の構成により、戻り光による光源への影響が抑えられるとともに、小型化が可能で、特性が安定化されて高い信頼性が維持できる双方向光送受信装置が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明の光アイソレータの構成を示す概略断面図である。すなわち本発明の光アイソレータ100は、複層回折型偏光子10と位相板20とが積層された構成を有する。
まず、複層回折型偏光子10について説明する。基板面内の基準の方向をX軸とし、基板面内でX軸と直交する方向をY軸、基板面の法線方向をZ軸とする。透明基板1、2のそれぞれの片面に、常光屈折率nおよび異常光屈折率n(n≠n)の複屈折性材料層を、その進相軸(常光屈折率を示す方向)がX軸方向に揃うように形成する。次にそれぞれの透明基板上に形成した複屈折性材料層を加工して、一方向に伸長する凹凸構造が周期的に形成された、周期がPで段差がdの格子構造5と、周期がPで段差がdの格子構造6と、を形成する。格子構造の断面形状に制約はないが、加工の容易性から矩形形状とすることが好ましい。なお本明細書において透明であるとは、本発明の光アイソレータを使用する波長帯の光に対して高透過であることをいう。
【0017】
格子構造5、6を形成した後、常光屈折率nまたは異常光屈折率nに実質的に等しい屈折率nの等方性透明材料を少なくとも格子構造の凹部に充填して等方性透明材料層7を形成して、透明基板1および透明基板2の基板上に偏光回折格子が得られる。ここで、等方性透明材料とは、屈折率が等方的な透明材料をいい、屈折率が実質的に等しいとは、±10%の範囲内で一致していることをいう。また、少なくとも凹部に充填するとは、凸部の上端面と同一面になるように凹部を充填していてもよく、凹部を満たすとともにさらに凸部の上端面を覆うように充填してもよいことをいう。
【0018】
格子構造に加工される複屈折性材料層を高分子液晶を用いて形成すると、所望の常光屈折率および異常光屈折率をもつ層を進相軸の方向を揃えて形成することができて、また凹凸構造の加工が容易なため好ましい。また、等方性透明材料層7を形成するための等方性透明材料としては、紫外線硬化型アクリル系や熱硬化型エポキシ系などの光学接着材が好ましく用いられるが、本発明の光アイソレータを用いる波長範囲の光に対して透明で所望の屈折率を有するものであれば、これらに限定されず他の材料を適用することもできる。
次に、偏光回折格子が形成された透明基板1と透明基板2とを、それぞれの格子構造とされた複屈折性材料層の進相軸を一致させて積層して、複層回折型偏光子10が得られる。
【0019】
複層回折型偏光子10の作用について、まず等方性透明材料7として複屈折性材料の常光屈折率nに実質的に等しい屈折率nをもつ等方性透明材料を用いた場合について以下説明する。このような複層回折型偏光子に光を入射させると、透明基板1および透明基板2の上に形成された偏光回折格子の格子構造の凸部と凹部とは、格子構造とされた複屈折性材料層が常光屈折率を感じる偏光方向の直線偏光に対して同じ屈折率を示すため光路長差を持たないが(以下、格子構造の凸部と凹部とが光路長差を持たない直線偏光の偏光方向を第1の偏光方向という)、第1の偏光方向と直交する偏光方向(以下、この偏光方向を第2の偏光方向という)すなわち複屈折性材料層が異常光屈折率を感じる偏光方向の直線偏光に対しては屈折率差を示すので、光路長差を発生する。
【0020】
これにより透明基板1および透明基板2の上に形成された偏光回折格子に入射した、第1の偏光方向の入射光は回折されずに直進透過され、第2の偏光方向の入射光はそれぞれの格子構造の、一方向に伸長する凹凸構造が伸長する方向(以下、格子長手方向という)と直交する方向に回折されて出射される。
【0021】
このとき、偏光回折格子の格子構造5、6の段差dおよびdは、それぞれの格子構造の凸部と凹部とが第2の偏光方向の入射光に対して発生する光路長差R=|n−n|×dおよびR=|n−n|×dが、λの{m+(1/2)}倍からλの{m+(1/2)}倍の範囲(mは0または3以下の自然数)の異なる値とされる。この構成とすると、λからλ(λ<λ)の波長帯域の全ての波長の入射光に対して第2の偏光方向成分が直進透過する光量を最小とすることができて高い消光比が得られる。mは0とすると格子の加工が容易となって好ましい。
また、波長帯域の幅(λ−λ)は、λとλの平均値(λ+λ)/2に対して30%以下とすることが好ましい。より好ましくは25%以下である。
【0022】
以上の説明は、等方性透明材料層7を、複屈折性材料の常光屈折率nに実質的に等しい屈折率nをもつ等方性透明材料を用いて形成した場合について述べたが、等方性透明材料7として複屈折性材料の異常光屈折率nに実質的に等しい屈折率nをもつ等方性透明材料を用いた場合は、上記説明において常光屈折率n、異常光屈折率nをそれぞれ異常光屈折率n、常光屈折率nと読み替える以外は同様である。
【0023】
このような所望の光路長差RおよびRを得るためには、それぞれの偏光回折格子の段差dおよびdを調整したり、それぞれの偏光回折格子を構成する複屈折性材料を変えて第2の偏光方向の直線偏光に対する格子構造5、6と等方性透明材料層7との屈折率差を調整したりされる。例えば光通信で用いられる波長λ=1260nmから波長λ=1620nmの波長帯域の全ての波長の入射光に対して高い消光比が得られる複層回折型偏光子としては、光路長差675nmと765nmの偏光回折格子が積層された複層回折型偏光子が例示される。偏光回折格子を3枚以上直列に積層して複層回折型偏光子を形成すると、該波長帯域の全ての波長の入射光に対していっそう高い消光比が得られるのでより好ましい。
【0024】
格子構造5、6の格子周期PおよびPは、回折効率を高めるために、本発明の光アイソレータを用いる光の波長λより大きくすることが好ましい。格子周期P、Pの上限は、本願の光アイソレータの口径や出射側の取り出しの口径と距離などに応じて適宜決められる。回折光の回折角を大きくして、直進透過光から回折光を分離し易くするためには、格子周期P、Pは50λ以下であることが好ましく、より分離し易くするためには20λ以下であることがさらに好ましいが、これに限定されない。
【0025】
図2に格子構造が形成された透明基板1とおよび2の平面図を示す。図2における透明基板1および2の面内のハッチングは、格子構造5、6の格子長手方向を表していて、透明基板1上の格子構造5では格子長手方向がX軸となす角度がΦ、透明基板2上の回折格子6では格子長手方向がX軸となす角度がΦとされている。複層回折型偏光子に対して入射光が入射されたときに、一方の偏光回折格子で回折された回折光が他方の偏光回折格子でさらに回折された多重回折光がいずれの偏光回折格子によっても回折されずに直進透過された直進透過光に重畳すると、直進透過光における第2の偏光の直進透過成分が増加して消光比が劣化する。すなわち、複層回折型偏光子を構成する偏光回折格子により多重回折光が直進透過光に重畳しないようにすることが好ましい。
【0026】
そのため、格子長手方向がX軸となす角度Φ、Φは、それぞれの偏光回折格子により回折された回折光と、回折されないで直進透過された直進透過光と、が分離されるように、光学系の条件と関連して決定されることが好ましい。すなわち角度ΦおよびΦが互いに異なるようにすることが好ましい。同様の理由により、格子構造5、6の格子周期P、Pは互いに異なるようにすることが好ましい。より好ましくは、格子ピッチPおよびPが互いに異なるようにされかつ角度ΦおよびΦが互いに異なるようにされる。
【0027】
複層回折型偏光子が2枚の偏光回折格子からなる場合は、それぞれの格子長手方向がX軸となす角度Φ、Φの差異、すなわち格子長手方向が互いになす角度を90°とすることが好ましい。
【0028】
次に、このようにして得られた複層回折型偏光子10に積層される位相板20について、図4の俯瞰図を用いて説明する。位相板は、前記偏光子により直進透過された第1の偏光方向の直線偏光を円偏光に変換して出射させるとともに、入射した円偏光を直線偏光に変換して出射させる1/4波長板である。
【0029】
図4(a)に概略構成を示した位相板85は、複屈折性材料からなる1層の位相板86を備えていて、この位相板86は進相軸87がXY面内でX軸に対して45°の角度を成す方向に揃えられていて、振動方向がX軸方向およびY軸方向の直線偏光の波長λで入射光に対する位相差がλ/4となるように厚さが調整されている。
【0030】
図4(b)に概略構成を示した位相板80は、複屈折性材料からなる2層の位相板81および82を備えた多層位相板からなり、λ/2の位相差を発生する複位相板81と、λ/4の位相差を発生する位相板82とが、それぞれの進相軸83および84がX軸となす角度が所定の角度θおよびθとなるように積層されている。
【0031】
図4(a)の1層の複屈折性材料層からなる位相板85、および図4(b)に示した多層位相板からなる位相板80に対して、振動方向がX軸方向に揃った波長λの直線偏光の入射光を入射させると、いずれの位相板を透過した透過光も1/4波長の位相差が与えられて円偏光に変換されて出射されるので、いずれの位相板であっても本発明の光アイソレータに適用することができる。多層位相板からなる位相板80を用いると、波長λからλ(λ<λ)のすべての波長範囲の入射光に対して、1/4波長からのずれの小さい位相差が得られるので、該波長帯域の全ての波長の入射光に対して良好な特性の光アイソレータを実現することができて、より好ましい。
【0032】
この多層位相板からなる位相板の構成の具体例としては、波長λ=1260nmから波長λ=1620nmの波長範囲(λ=(λ+λ)/2=1440nm)の光に対して用いる位相板として、位相差がλ/2=720nmの位相板81と、位相差がλ/4=360nmの位相板82とを、それぞれの進相軸がX軸となす角度θおよびθが75°および15.5°となるように積層した構成が例示される。このような構成により、前記波長範囲のすべての波長に対して実質的に1/4波長の位相差を発生する位相板が得られ、X軸方向に振動方向が揃った直線偏光の入射光に対して、楕円率が0.98以上とほぼ完全な円偏光の出射光が得られる。位相板81と82の進相軸が互いになす角度(θ−θ)は55°〜65°であればよいが、58°〜62°とすると、上記波長範囲において発生する位相差の、1/4波長からの差がさらに小さく抑制されるのでより好ましい。すなわち、このような多層位相板からなる位相板80を用いると、波長λ=1260nmから波長λ=1620nmの波長範囲のすべての波長に対して、光源11の発光点への戻り光を遮断する光アイソレータが実現できる。
【0033】
位相板の複屈折性材料層は、前述の偏光回折格子における複屈折性材料層と同様に高分子液晶を用いて形成することが好ましい。高分子液晶を用いて多層位相板からなる位相板の複屈折性材料層を形成する場合には、例えば透明基板3および4の対抗する面上に、積層されたときに進相軸(常光屈折率を示す方向)が上述の所定の方向に揃うように複屈折性材料層を形成し、その後、積層一体化される。高分子液晶は複屈折が大きいため、層厚さを厚くすることなく位相板相当の位相差を発生させることができる。また、可視波長域および近赤外波長域においても光吸収が小さいので、該波長帯の光に対して用いても優れた効率が得られ、使用可能な波長の制約が少なくなる。
【0034】
高分子液晶に代えて、ポリカーボネートなどの樹脂フィルムを一軸方向に延伸して複屈折性を発現させた位相差フィルム、水晶やLiNbOなどの複屈折結晶を特定の角度方位および厚さに切断した複屈折結晶板などを複屈折性材料層8としてとして用いてもよい。複屈折結晶板を用いる場合、透明基板4は必ずしも必要ではなく、複屈折結晶板を複層回折型偏光子10に直接接着固定してもよい。
【0035】
上述の複層回折型偏光子10と位相板20とを、そのX軸およびY軸を一致させて積層することにより、本発明の光アイソレータ100が得られる。本発明の光アイソレータ100の作用を、光軸を含む平面で切った図3の概略断面図を用いて説明する。
【0036】
半導体レーザなどの光源11から出射された、X軸方向に振動方向が揃った直線偏光は、まず光アイソレータ100内で光源11側に置かれた複層回折型偏光子10に入射する。複層回折型偏光子10のそれぞれの偏光回折格子は、複屈折性材料からなる格子構造に、複屈折性材料の常光屈折率または異常光屈折率と実質的に等しい屈折率をもつ等方性透明材料が充填されているので、偏光回折格子に常光偏光として作用する直線偏光は回折されることなく直進透過され、第2の偏光方向の直線偏光は回折される。
【0037】
そのため光源11から出射されて光アイソレータ100に入射した第1の偏光方向の直線偏光の入射光は、図3中に実線で示したように、複層回折型偏光子10により回折されることなく直進透過されて、そのままの偏光状態で位相板20に入射する。位相板20に入射した直線偏光は、位相板20により円偏光に変換されるとともに直進透過され、レンズ、ビームスプリッタ、フィルター、光ファイバーなどの光学素子12が配置された、光アイソレータ100の出射側の光路上へ出射される。光アイソレータ100に対して第1の偏光方向と直交する偏光方向の第2の偏光方向の直線偏光の入射光(図示せず)は、複層回折型偏光子10により回折されて、直進透過光が導かれる出射側の光路から外される。
【0038】
光アイソレータ100から出射され、光学素子12が配置された光路上に出射され、光学素子12の表面や内部において発生した反射光は、戻り光として図3中に点線で示したように上記光路を逆方向に進行して位相板20側より光アイソレータ100に入射する。この戻り光は、光アイソレータ100から出射された往路の光に対して回転方向が逆回りの円偏光となっているので、位相板20により光源からの出射光と直交する偏光方向すなわち第2の偏光方向の直線偏光に変換されて、複層回折型偏光子10に入射する。第2の偏光方向の直線偏光は複層回折型偏光子により回折されるので、戻り光は光源11の発光点に入射しない。図3においては、単一の光学素子12のみが記されているが、光学素子が光路上に複数配置されていたり、各光学素子の表面あるいは素子内面において反射光が発生したりしても、戻り光は光源11の発光点に入射しないように同様に遮断される。
【0039】
以上説明したように本発明の光アイソレータ100は、所望の偏光方向の直線偏光の入射光のみを出射側に対して出射させるとともに、出射側の光路上に配置された光学系で発生した戻り光が、入射光の光路を光源側へ逆方向に進行するのを遮断する機能をもつ。
【0040】
本発明の光アイソレータは、複層回折型偏光子として、前述のそれぞれの偏光回折格子の光路長差RおよびRが、λの略(1/2)倍からλの略(1/2)倍の範囲で異なる値となるようにされた複層回折型偏光子を用い、また、位相板として、前述の多層位相板からなる位相板を用いることにより、波長λからλ(λ<λ)のすべての波長範囲の入射光に対して、第1の偏光方向の直線偏光成分が複層回折型偏光子により直進透過され、位相板により円偏光に変換されて出射される割合をより高め、第2の偏光方向の直線偏光線分の直進透過をより小さく抑えることができる。また、出射された直進透過光が、光路上の光学素子で反射される等して生じた、回転方向が出射光と逆回りの円偏光の戻り光が、光路を逆方向に進行して光アイソレータの出射面から入射しても、位相板により第2の偏光方向の直線偏光に高い変換効率で変換され、次いで複層回折型偏光子により効率よく回折されるので、戻り光が入射光の光路を逆方向に進行するのをより効率よく抑制することができる。
【実施例】
【0041】
以下本発明を実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。例1は本発明の光アイソレータの実施例であって、例2は本発明の光アイソレータを用いて構成された双方向光送受信装置200の実施例である。
【0042】
[例1]
本例の複層回折型偏光子を、図1を用いて説明する。
まず偏光回折格子を作成する。波長1260〜1620nmの光に対して透明な石英ガラスからなる透明基板1、2、3および4を用意する。まず透明基板1および2の片面にポリイミドを塗布焼成し、X軸方向にラビング処理をおこなって、モノマ液晶を一方向に配向させる配向膜(図示せず)を形成する。次に、それぞれの透明基板の配向膜上にモノマ液晶を均一かつ所望の膜厚となるように塗布し、紫外線照射によりモノマ液晶を光重合、硬化させて、進相軸がX軸方向に揃った常光屈折率n=1.55および異常光屈折率n=1.70で、厚さがそれぞれ4.8μmおよび5.6μmの高分子液晶層を形成する。
【0043】
次に、フォトリソグラフィーとエッチングの技術によりそれぞれの高分子液晶層を加工して、一方向の直線状に伸長する矩形断面の凸条が互いに平行かつ周期的に形成された格子構造5および6を形成した。格子構造5および6の周期的に形成された矩形断面の凸条)は、格子ピッチP、Pがそれぞれ20μm、25μmで、凸条の高さすなわち段差d、dはそれぞれ4.8μm、5.6μmである。また、それぞれの格子構造の凸条が伸張する方向がX軸方向となす角度Φ、Φは、それぞれ0°、90°とする。
このようにして形成された格子構造5、6の凹部を埋めてさらに凸部をも覆うように、屈折率n=1.55の均質な透明樹脂からなる紫外線硬化型アクリル系樹脂を充填し、格子構造を挟んで透明基板1、2および3をX軸方向を一致させて積層する。次いで紫外光照射により充填した紫外線硬化型アクリル系樹脂を光重合、硬化させて、等方性透明材料層7を形成するとともに、透明基板1、2および3を積層・一体化して、偏光回折格子が積層された複層回折型偏光子10が得られる。
【0044】
次に、多層位相板からなる位相板を作製する。積層された透明基板3および透明基板4の面上に、上記と同様にしてポリイミドからなる配向膜(図示せず)を形成する。ラビング処理は、配向膜形成面を対向させたときにそれぞれの透明基板の配向処理方向がX軸となす角度θおよびθが、透明基板3では75°、透明基板4では15.5°となるようにおこなう。
次に、透明基板3および透明基板4の面上に、均一な厚さの高分子液晶層を、上記と同様の手順により形成する。透明基板3および透明基板4の高分子液晶層の厚さはそれぞれ4800nmおよび2400nmとする。形成された高分子液晶層の進相軸の方向は、それぞれの透明基板を高分子液晶層を形成した面を対向させたときにX軸となす角度θおよびθが、透明基板3では75°、透明基板4では15.5°となる。その後、X軸を一致させるとともに高分子液晶からなる複屈折性材料層8を挟持させて透明基板3および4を積層・一体化して多層位相板からなる位相板20を得るとともに、本例の光アイソレータ100が得られる。透明基板1および透明基板4と空気との界面には反射防止膜を形成する。
【0045】
本例の光アイソレータ100に対して、波長λ=1260nmから波長λ=1620nmの波長範囲の直線偏光を複層回折型偏光子10側の面から入射させると、図3に示したように、光源11から出射された光のうち、光アイソレータ100複層回折型偏光子10の高分子液晶の常光屈折率を感じる偏光方向の直線偏光、すなわち常光偏光成分は、複層回折型偏光子10によりほとんど回折されずに入射光の該偏光成分のうち97%が直進透過されて多層位相板からなる位相板20に入射し、多層位相板からなる位相板20により円偏光に変換されて出射される。また偏光方向が常光偏光と直交する異常光偏光成分(図示せず)は、複層回折型偏光子10によりほとんどが回折されて直進透過光は0.05%以下となる。
次に光アイソレータ100に対して、多層位相板からなる位相板20側の面から、同波長範囲で前述の出射光と逆回りの回転方向の円偏光を入射させると、多層位相板からなる位相板20により異常光偏光に変換されて複層回折型偏光子10に出射され、複層回折型偏光子10によりほとんどが回折されて直進透過光は0.05%以下となる。
【0046】
以上により本例の光アイソレータは、所定の偏光方向の直線偏光のみを円偏光に変換して、出射面から高透過率で直進透過させるとともに、出射面側から入射した円偏光と逆回りの回転方向の円偏光をほとんど直進透過させない光アイソレータとして機能することがわかる。
【0047】
[例2]
図5は本発明の光アイソレータ100を登載した双方向光送受信装置200の構成例のブロック図である。
図5の双方向光送受信装置200において、半導体レーザ光源11から出射された波長1260nm〜1360nmで振動方向がX軸方向の直線偏光は、コリメートレンズ13により平行光とされ、光アイソレータ100、波長1260nm〜1360nmの光を透過させ波長1480nm〜1500nmの光を反射する光学フィルター121、および、波長1260nm〜1360nmの光を直進透過させ波長1480nm〜1500nmの光を反射するダイクロイックビームスプリッタ122を透過して、コリメータレンズ123により光ファイバー124の入出射端面124Aに集光され、光ファイバー124中を伝送される。
【0048】
また、光ファイバー124中を伝送されて双方向光送受信装置200に到達した波長1480nm〜1500nmの光は、光ファイバー124の入出射端面124Aから出射され、コリメータレンズ123により平行光とされ、ダイクロイックビームスプリッタ122で反射されてコリメータレンズ14により光検出器15の受光面に集光されて電気信号に変換される。ダイクロイックビームスプリッタ122で反射されずに直進透過された波長1480nm〜1500nmの光は、光学フィルター121によりさらに反射されるので、半導体レーザ光源11へは至らない。
双方向光送受信装置200では、このような光学部品と半導体レーザ光源11の電気制御回路(図示せず)および光検出器15の電気信号処理回路など(図示せず)がパッケージ16内に配置固定されている。
【0049】
ここで、半導体レーザ光源11から出射された直線偏光の光は、光アイソレータ100を透過後に円偏光に変換されて上述の光路を経て双方向光送受信装置200から出射されて光ファイバー124内を伝送される。このとき、光アイソレータ100以降の光路中に配置された、光学フィルター121、ダイクロイックビームスプリッタ122、コリメータレンズ123、光ファイバー124などの光学素子の素子表面あるいは素子内面での反射により、戻り光が発生する。また、光ファイバー124においても、入出射端面である124A、124Cや光ファイバ−同士が接合された接合界面124Bにおける反射により戻り光が発生する。
【0050】
このような戻り光が、半導体レーザ光源11から光ファイバー124に向かう光路を逆方向に進行してコリメータレンズ13により半導体レーザ光源11の発光点に集光されると、半導体レーザ光源11のレーザ発振を不安定化させる原因となる。しかし、本例の双方向光送受信装置200では、光アイソレータ100により、該戻り光は効率よく回折され、図5の点線で示す様にコリメータレンズ13により半導体レーザ光源11の発光点と異なる位置に集光される。すなわち本例の双方向光送受信装置200では、半導体レーザ光源11への戻り光が遮断されるため、送信用の光信号を生成する半導体レーザ光源11のレーザ発振が安定化されて、動作信頼性の高い双方向光送受信装置が実現される。また、本発明の光アイソレータ100はファラデー回転子を用いた従来の光アイソレータに比べ小型化できるため、このような双方向光送受信装置を小型化することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の光アイソレータは特性が安定で高い信頼性が維持され、さらに小型化が可能である。そのため、通信用の光源と組合せて用いる光アイソレータとして好ましく用いることができる。また、複層偏光子と位相板を形成する複屈折性材料として高分子液晶を用いると、可視波長域および近赤外波長域において光吸収を小さくできるので、使用可能な波長の制約が少ない光アイソレータが得られる。
本発明の光アイソレータを用いると、双方向光送受信装置の小型化が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の光アイソレータの構成例を示す概略断面図。
【図2】本発明の光アイソレータに用いられる複層回折型偏光子を構成する2つの偏光回折格子が形成された透明基板の平面図。
【図3】本発明の光アイソレータの作用とともに構成を示す概略断面図。光軸を含む平面で切った図3の模式的断面図
【図4】本発明の光アイソレータに用いられる位相板の概略構成例と作用を示す俯瞰図。
【図5】例2の双方向光送受信装置の構成例を示すブロック図。
【図6】従来の光アイソレータの構成例を示す俯瞰図。
【符号の説明】
【0053】
1、2、3、4 透明基板
5、6 格子構造
7 等方性透明材料層
8 複屈折性材料層
10 複層回折型偏光子
11 半導体レーザ光源
12 光学素子
13、14、123 コリメータレンズ
15 光検出器
16 パッケージ
20 位相板
31 ファラデー回転子
32 偏光子
33 磁石
34 金属ホルダ
80 位相板
81、82、86 位相板
83、84、87 複屈折性材料層の進相軸
85 多層位相板からなる位相板
100 光アイソレータ
121 光学フィルター
122 ダイクロイックビームスプリッタ
124 光ファイバ−
124A、124C 光ファイバ−の入出射端面
124B 光ファイバ−の接合面
300 ファラデー素子を用いた光アイソレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子と位相板とが積層されてなる光アイソレータであって、
前記光アイソレータはλからλ(λ<λ)の波長範囲の光に対して用いられる光アイソレータであって、
前記偏光子は少なくとも2枚の偏光回折格子が積層されてなる複層回折型偏光子であって、
前記位相板は、前記偏光子により直進透過された第1の偏光方向の直線偏光を円偏光に変換して出射させるとともに、入射した円偏光を直線偏光に変換して出射させる1/4波長板であって、
前記偏光回折格子は、一方向に伸長する凹凸構造が周期的に形成された、常光屈折率nおよび異常光屈折率n(n≠n)の複屈折性材料からなる格子構造を持ち、前記凹部にはnまたはnと実質的に等しい屈折率nの等方性透明材料が充填され、第1の偏光方向の直線偏光を直進透過させ、第1の偏光方向と直交する偏光方向である第2の偏光方向の直線偏光を回折させる偏光回折格子であって、
前記複層回折型偏光子は、少なくとも光路長差Rの偏光回折格子と光路長差Rの偏光回折格子とが積層されてなり、
光路長差RおよびRが、λの{m+(1/2)}倍からλの{m+(1/2)}倍の範囲の異なる値であることを特徴とする光アイソレータ。
ここで、偏光回折格子の光路長差とは、前記光アイソレータを用いる波長の第2の偏光方向の直線偏光に対して、偏光回折格子の凸部と凹部とが示す光路長差である。またmは0または3以下の自然数である。
【請求項2】
前記位相板が、λ=(λ+λ)/2としたときに、略λ/2の位相差を有する位相板と、略λ/4の位相差を有する位相板と、の2枚の位相板を、それぞれの進相軸が、位相板面内の基準の方向となす角度が異なるように積層された多層位相板からなる請求項1に記載の光アイソレータ。
【請求項3】
前記複層回折型偏光子を構成するそれぞれの偏光回折格子の、凹凸構造が伸長する方向および/または凹凸構造の周期が互いに異なっている請求項1または2に記載の光アイソレータ。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の光アイソレータと、直線偏光を出射する光源と、を備えた光送信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−225905(P2007−225905A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47028(P2006−47028)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】