説明

光カチオン硬化性組成物

【課題】 高温下、或いは常温で長期間保存してもゲル化せず、且つ高い硬化活性を有する、光カチオン硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】 (a)カチオン重合性単量体
(b)光酸発生剤系光重合開始剤
(c)フェノール系酸化防止剤、好適にはヒンダードフェノール系酸化防止剤、及び
(d)光酸発生能を有しない、pKa値が7以下の有機酸の塩類、好適にはヨードニウム塩系光重合開始剤
を含んでなることを特徴とする光カチオン硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温下においてもゲル化せず、長期間安定に保存可能な光カチオン硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子部品の接着、又は塗料等に光硬化型の樹脂組成物が多用されている。光硬化型の樹脂組成物は、加熱硬化型の接着剤に比べて迅速に硬化し、加熱しないため被着体に熱ダメージを与えることもなく、また、光を照射しなければ固まらないので、硬化までの作業時間の設定が任意であり、さらに、硬化時に溶媒等の揮発も無いなど、多くの利点を有す。
【0003】
光硬化型の樹脂組成物には大別してラジカル重合型のものと、カチオン重合型のものがあるが、硬化性のよい(メタ)アクリル系の重合性化合物を用いたラジカル重合型のものが主に開発、使用されてきた。
【0004】
しかしながら、ラジカル重合は酸素により重合阻害をうけるという欠点があり、硬化時に空気に触れていた部分には未重合層が残存するなどの問題がある。特に硬化膜厚の薄い塗料用途では、窒素ガス等の不活性雰囲気下での光照射を必要とする。
【0005】
また、光硬化性の樹脂組成物は歯科用途にも利用されてる。その例として齲蝕や破折等により損傷をうけた歯牙の修復に用いるコンポジットレジンと呼ばれる光硬化性の充填修復材料や、義歯床の裏装材、歯冠修復用のハイブリッドセラミックス等が挙げられ、その操作の簡便さから汎用されている。このような光硬化性の歯科用材料は通常、重合性単量体、重合開始剤からなり、更にコンポジットレジンやハイブリッドセラミックスにはフィラーが含まれる。重合性単量体としては、その光重合性の良さから(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体が用いられている。
【0006】
しかしながら、上述のようにラジカル重合性単量体は、通常の歯科医院や歯科技工所のような空気雰囲気下で硬化させた場合、酸素による重合阻害を受けるため、重合・硬化させた際には、表面に未重合層や重合度の低い層が残存し、この未重合層のために経時的に着色・変色してしまうという問題がある。そのため、一般には光硬化後、研磨等により表面の未重合層をとり除かなくてはならない。特に天然歯牙と同様な審美性を必要とするコンポジットレジンでは大きな問題となるため、ラジカル重合性単量体を用いた従来の歯科用コンポジットレジンは、口腔内で重合硬化させた後に、表面を充分に研磨しなくてはならない。
【0007】
さらに、(メタ)アクリレート系のラジカル重合性単量体は、重合収縮が大きいという問題も有している。即ち、修復を要する歯牙の窩洞に対して、コンポジットレジン等の充填修復材料を充填後、重合硬化させる際には、充填された充填修復材の表面に光が照射されるが、重合にともなう収縮により、歯の界面から浮き上がろうとする応力が作用し、このため、歯と充填修復材の間に間隙を生じやすくなる傾向がある。この重合収縮応力に対抗するため極めて強固な接着力を発現する各種歯科用接着剤が提案されているが、歯の状態は個人ごと、あるいは同一人でも各歯ごとに異なるため、このような歯科用接着剤を用いても、必ずしもあらゆる歯に対して完璧な接着を得られていないのが実情である。
【0008】
従って、酸素による表面未重合が生じないため表面未重合層を取り除く必要がない歯科材料が求められ、特に歯科用コンポジットレジンである場合、更にできるだけ重合収縮が小さく、歯の状態によっては充分な接着力が得られなくても重合収縮による間隙を生じ難いものが求められていた。さらには、このような接着剤は、高い接着力を得るために複雑な術式を要し、またコストの増大を招くため、その簡略化も望まれていた。
【0009】
このような酸素による重合阻害がなく、また重合収縮の小さい重合性単量体としては、エポキシドやビニルエーテル等のカチオン重合性単量体がある。しかしながら一般に歯科用として用いられている、α−ジケトン化合物やアシルフォスフィンオキサイド系化合物等の光ラジカル重合開始剤はカチオン重合性単量体を重合させることができないため、光カチオン重合性開始剤が必要となる。
【0010】
このような光カチオン重合開始剤としては、ヨードニウム塩類、スルホニウム塩類、ピリジニウム塩類等の、光酸発生剤を用いた光酸発生剤系光重合開始剤が挙げられる。特に、ヨードニウム塩系光重合開始剤は、高いカチオン重合開始活性を持っているため、口腔内で迅速に硬化させなければならない歯科用途で有用である。実際にヨードニウム塩系の光重合開始剤をカチオン重合性単量体と組み合わせて歯科用途に応用した報告がある(特許文献1〜3)。
【0011】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、光酸発生剤系光重合開始剤を配合したカチオン重合性組成物は、50℃程度の温度条件下で比較的早期に、或いは室温下においても、長期の保存に於いて、ゲル化してしまう問題があることがわかった。これは、光酸発生剤が、光照射によって分解し酸を発生する以外に、熱的に分解し、同様に酸を発生してしまうことに起因することが容易に予想される。このため、光酸発生剤系の光重合開始剤を配合したカチオン重合成組成物は、低温で保存しなければならないことが多い。しかしながら、生産ライン等では、室温以上の温度に晒されることが多いため、長期の使用ではゲル化の発生を抑制できないことがあった。
【0012】
また、歯科用材料においては、歯科医院等への輸送の際に普通自動車等で輸送される場合が多いが、夏季には、車内の温度が50℃を超えることも珍しくない。また、50℃より低い温度でも長期間の保存では、同様にゲル化が起こることがあった。
【0013】
したがって、このような光酸発生剤系光重合開始剤を光カチオン重合開始剤として用いる場合には、保存中の光酸発生剤の分解によるゲル化を防ぐために、カチオン重合性単量体とは別に、光酸発生剤系の光重合開始剤、あるいはこれらの溶液を別々に保存し、使用前にこれら二つを混合し、光照射を行うことが多い。しかしながら、このような操作は、混合操作により気泡が入りやすく、更に、咬合圧に耐えうる高い強度を必要とする歯科用材料においては強度の低下を招く。さらに微小な気泡により生じる隙間から、細菌が浸入繁殖して不衛生となり、コンポジットレジンの場合には二次齲蝕の原因となりうる。
【0014】
一方、カチオン重合性単量体およびヨードニウム塩を含む組成物に対して、フェノール系のラジカル重合禁止剤或いは酸化防止剤を添加することで、ヨードニウム塩の分解が抑制され、ゲル化が防止できることが報告されている(特許文献4)。しかしながら、本発明者による検討では、上記のような比較的高温の条件下において、ゲル化を十分に抑制するに至っていない。また、同様な組成物に対して、塩基性物質であるヒンダードアミン類を添加することでゲル化を抑制できることも報告されている(特許文献5〜7)。しかしながらこの場合も同様に上記高温条件ではゲル化を抑制できるには至っていない。
【0015】
【特許文献1】特開平10−508067号公報
【特許文献2】特表2000−520758号公報
【特許文献3】特表2001−520759号公報
【特許文献4】特開2002−69269号公報
【特許文献5】特開2000−516660号公報
【特許文献6】特表2002−500255号公報
【特許文献7】特表2003−292606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以上の背景にあって本発明は、高温下、或いは常温で長期間保存してもゲル化せず、且つ高い硬化活性を有する、光カチオン硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は上記課題を克服すべく鋭意検討を重ねてきた。その結果、光酸発生剤系光重合開始剤を含む光カチオン硬化性組成物に対して、フェノール系酸化防止剤と特定の有機酸の塩類とを添加することで、ゲル化を防止することができ、且つ、重合硬化させる場合には、良好に硬化する性質を、該組成物に付与することができる知見を得、本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明は、(a)カチオン重合性単量体
(b)光酸発生剤系光重合開始剤
(c)フェノール系酸化防止剤、及び
(d)光酸発生能を有しない、pKa値が7以下の有機酸の塩類
を含んでなることを特徴とする光カチオン硬化性組成物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光酸発生剤系光重合開始剤を含むカチオン重合性単量体に対して、(c)フェノール系酸化防止剤、及び(d)前記の有機塩類を添加することで、保存期間中のゲル化を高度に防ぐことが可能である。また、この光カチオン硬化性組成物は、重合硬化時においては、硬化不良を起こさず、良好に硬化させることが可能である。
【0020】
従って、電気・電子部品の接着剤、塗料等の種々の光カチオン硬化性組成物の応用用途のうち、50℃以上の高温条件下に晒されるおそれや、室温以上で長期間保存されるようなおそれがある製品として、好適に使用できる。特に、コンポジットレジン等の歯科用材料は、酸素による重合阻害を受けず、重合収縮も小さいという、カチオン重合の利点が良好に生かせる反面、前記したように輸送中のゲル化の問題も生じやすく、本発明の光カチオン硬化性組成物は極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の光カチオン硬化性組成物の最大の特徴は、(a)カチオン重合性単量体と(b)光酸発生剤系光重合開始剤を含む液状又はペースト状の組成物中に、
(c)フェノール系酸化防止剤、及び
(d)光酸発生能を有しない、pKa値が7以下の有機酸の塩類
の双方を配合することにある。
【0022】
それにより、保存期間中のゲル化を高度に防ぐことができる。他方、重合硬化させる場合においては、硬化不良を起こさせず、良好に硬化させることが可能である。このように保存期間中のゲル化が防止される原因は、以下の理由によると推察される。
【0023】
すなわち、前記したとおり光カチオン硬化性組成物が保存期間中にゲル化する主要因は、(b)光酸発生剤系光重合開始剤が、該保存期間中に熱的に分解し、酸を発生してしまうことにある。これに対して、(c)フェノール系酸化防止剤は、この(b)光酸発生剤系光重合開始剤の分解を抑制する。そして、さらに、該(c)フェノール系酸化防止剤の作用だけでは僅かに分解して生じた酸も、(d)光酸発生能を有しない、pKa値が7以下の有機酸の塩類により良好に補足される。その結果、本発明では、これら(c)成分および(d)成分の相乗作用により、光カチオン硬化性組成物の保存期間中における、酸の存在量が著しく低減され、(a)カチオン重合性単量体の不必要な重合が進行しなくなるものと推察される。
【0024】
本発明の組成物において、重合性成分である(a)カチオン重合性単量体は、光酸発生剤の分解によって生じる酸によって重合する化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。
【0025】
代表的なカチオン重合性単量体を例示すれば、ビニルエーテル化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物、環状エーテル化合物、双環状オルトエステル化合物、環状アセタール化合物、双環状アセタール化合物、環状カーボネート化合物が挙げられるが、特に入手が容易でかつ体積収縮が小さく、重合反応が速い点において、オキセタン化合物及び/又はエポキシ化合物が好適に使用される。
【0026】
当該オキセタン化合物を具体的に例示すれば、トリメチレンオキサイド、3−メチル−3−オキセタニルメタノール、3−エチル−3−オキセタニルメタノール、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン、3,3−ジエチルオキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシ)オキセタン等の1つのオキセタン環を有すもの、1,4−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシ)ビフェニール、4,4′−ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチルオキシメチル)ビフェニール、エチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)ジフェノエート、トリメチロールプロパントリス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等、あるいは下記に示す化合物
【0027】
【化1】

【0028】
等のオキセタン環を2つ以上有す化合物が挙げられる。
【0029】
上記オキセタン化合物のなかでも、得られる硬化体の物性の点から、1分子中にオキセタン環を2つ以上有するものが、特に好適に使用される。
【0030】
また、エポキシ化合物も、カチオン重合可能な化合物であれば特に限定されることはなく公知のものが使用できる。当該エポキシ化合物を具体的に例示すると、1,2−エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシオクタデカン、ブタジエンモノオキサイド、2−メチル−2−ビニルオキシラン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−7−オクテン、1,2−エポキシ−9−デセン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、グリシドール、2−メチルグリシドール、メチルグリジジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、グリシジルプロピルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、シクロオクテンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、シクロオクテンオキサイド、シクロドデカンエポキシド、エキソ−2,3−エポキシノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセン−1,2−エポキシド、リモネンオキサイド、スチレンオキサイド、(2,3−エポキシプロピル)ベンゼン、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、グリシジル2−メチルフェニルエーテル、4−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、4−クロロフェニルグリシジルエーテル、グリシジル4−メトキシフェニルエーテル等のエポキシ官能基を一つ有するもの、また、1,3−ブタジエンジオキサイド、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3−プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,5−ペンタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンメタノールジグリシジルエーテル、ジグリシジルグルタレート、ジグリシジルアジペート、ジグリシジルピメレート、ジグリシジルスベレート、ジグリシジルアゼレート、ジグリシジルセバケート、2,2−ビス[4−グリシジルオキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−グリシジルオキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、4−ビニル−1−シクロヘキセンジエポキシド、リモネンジエポキシド、1,2,5,6−ジエポキシシクロオクタン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシラート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)グルタレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ピメレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)スベレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)ゼレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)セバケート、1,4−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルオキシメチル)ベンゼン、1,4−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルオキシメチル)ビフェニル、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロパン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)スルホン、メチルビス[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]フェニルシラン、ジメチルビス[(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メチル]シラン、メチル[(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メチル][2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1,4−フェニレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、1,2−エチレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]シラン、1,3−ビス[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、2,5−ビシクロ[2.2.1]ヘプチレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン、1,6−へキシレンビス[ジメチル[2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)エチル]]シラン等のエポキシ官能基を二つ有する化合物、或いはグリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサグリシジルエーテル、更に
【0031】
【化2】

【0032】
等のエポキシ官能基を三つ以上有するものが挙げられる。
【0033】
上記エポキシ化合物のなかでも、得られる硬化体の物性の点から、1分子中にエポキシ官能基を2つ以上有するものが、特に好適に使用される。
【0034】
また、オキセタン化合物及びエポキシ化合物以外のカチオン重合性単量体を具体的に示すと、環状エーテル化合物としては、テトラヒドロフラン、オキセパン等が、双環状オルトエステル化合物としては、ビシクロオルトエステル、スピロオルトエステル、スピロオルトカーボネート等が、環状アセタール化合物としては、1,3,5−トリオキサン、1,3−ジオキソラン、オキセパン、1,3−ジオキセパン、4−メチル−1,3−ジオキセパン、1,3,6−トリオキサシクロオクタン等が、双環状アセタール化合物としては、2,6−ジオキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,7−ジオキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン、6,8−ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタン等が、環状カーボネート化合物としては、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート等が挙げられる
これらのカチオン重合性単量体は単独、または二種類以上を組み合わせて用いることができる。とりわけ、1分子平均a個のオキセタン官能基を有するオキセタン化合物のAモルと、1分子平均b個のエポキシ官能基を有するエポキシ化合物のBモルとを混合し、(a×A):(b×B)が90:10〜45:55の範囲になるように調製したものが、硬化速度が速く、水分による重合阻害を受け難い点で好適である。
【0035】
本発明の硬化性組成物において、(b)光酸発生剤系光重合開始剤は、光照射によって励起されることにより、光酸発生剤が分解され、その結果、酸を発生し、これが重合開始種となってカチオン重合を開始させる化合物である。このような光酸発生剤系重合開始剤としては、ヨードニウム塩系光重合開始剤、スルホニウム塩系光重合開始剤、ピリジニウム塩系光重合開始剤、トリハロメチル−S−トリアジン系光重合開始剤等が挙げられる。
【0036】
光照射によって励起される化合物は、分解して酸を発生する光酸発生剤そのものであってもよいが、光酸発生剤は通常、近紫外〜可視域には吸収の無い化合物が多く、重合反応を励起するためには、特殊な光源が必要となる場合が多い。そのため、近紫外〜可視域に吸収をもち、光照射によって励起された結果、光酸発生剤の分解を引き起こす化合物を増感剤として組み合わせた光重合開始剤であることが好ましい。更に、光照射による光酸発生剤の分解の高効率化のために上記増感化合物以外の化合物を組み合わせて用いても良い。
【0037】
これら光酸発生剤系重合開始剤のなかでも、重合活性が高いことから、ヨードニウム塩系光重合開始剤、スルホニウム塩系光重合開始剤が好ましく、ヨードニウム塩系光重合開始剤がより好ましい。このようなヨードニウム塩系光重合開始剤としては、例えば、特開2004−149587号公報や特開2004−196949号公報に開示されているような、増感化合物として、縮合多環式芳香族化合物を用いる光重合開始剤、特表平10−508067号公報に開示されているような、増感化合物としてα−ジカルボニル化合物を用いる光重合開始剤、特開2004−196775号公報に開示ざれているような、酸化型の光ラジカル発生剤と縮合多環式芳香族化合物の双方を併用する光重合開始剤などが挙げられる。さらに、特開平11−199681号公報、特開2000−7716号公報、特開2001−81290号公報、特開平11−322952号公報、特開平11−130945号公報、特表2001−520758号公報等に記載のヨードニウム塩系光重合開始剤を用いることができる。以下、このようなヨードニウム塩系光重合開始剤をより詳細に説明する。
【0038】
本発明の光カチオン硬化性組成物に配合されるヨードニウム塩系光重合開始剤の成分であるヨードニウム塩としては、従来公知のものが何ら制限なく利用可能である。具体例を例示すれば、ジフェニルヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、p−イソプロピルフェニル−p−メチルフェニルヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、p−tert−ブチルフェニルフェニルヨードニウム、p−メトキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p−メトキシフェニル)ヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、p−フェノキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p−ドデシルフェニル)ヨードニウム等のカチオンと、クロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート等のアニオンからなるジアリールヨードニウム塩系化合物が挙げられる。
【0039】
これらのなかでも、カチオン重合性単量体に対する溶解性の点から、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネートをアニオンとして有する化合物が好適に使用でき、また、アニオンの求核性が低く、重合速度が速い点から、ヘキサフルオロアンチモネート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレートをアニオンとして有する化合物が好適に使用できる。更に、アニオン由来する毒性がより低い事から、テトラキスペンタフルオロフェニルボレートが最も好適に利用できる。
【0040】
また、本発明の光カチオン硬化性組成物に配合されるスルホニウム塩系光重合開始剤の成分であるスルホニウム塩化合物は、具体例としては、トリフェニルスルホニウム、p−トリルジフェニルスルホニウム、p−tert−ブチルフェニルジフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−フェニルチオフェニルスルホニウム等のクロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート塩が挙げられる。
【0041】
これら光酸発生剤は必要に応じて、単独または2種以上混合して用いても何等差し支えない。これら光酸発生剤の使用量は、光照射により重合を開始しうる量であれば特に制限されることはないが、適度な重合の進行速度と得られる硬化体の各種物性(例えば、耐候性や硬度)を両立させるために、一般的には上述したカチオン重合性単量体100質量部に対し、0.001〜10質量部を用いればよく、好ましくは0.05〜5質量部を用いるとよい。
【0042】
また、光酸発生剤と組み合わせて用いる増感剤としては、例えばアクリジン系色素、ベンゾフラビン系色素、アントラセン、ペリレン等の縮合多環式芳香族化合物、フェノチアジン、ジアリールケトン化合物、α−ジケトン化合物又はクマリン化合物等が挙げられる。これらは単独で用いても、適宜2種又はそれ以上組み合わせて用いてもよい。
【0043】
上記増感剤のなかでも、重合活性が良好な点で、縮合多環式芳香族化合物が好ましく、さらに、少なくとも1つの水素原子を有する飽和炭素原子が縮合多環式芳香族環と結合した構造を持つ縮合多環式芳香族化合物が好適である。
【0044】
このような少なくとも1つの水素原子を有する飽和炭素原子が縮合多環式芳香族環と結合した構造を持つ縮合多環式芳香族化合物を具体的に例示すると、1−メチルナフタレン、1−エチルナフタレン、1,4−ジメチルナフタレン、アセナフテン、1,2,3,4−テトラヒドロフェナントレン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラセン、ベンゾ[f]フタラン、ベンゾ[g]クロマン、ベンゾ[g]イソクロマン、N−メチルベンゾ[f]インドリン、N−メチルベンゾ[f]イソインドリン、フェナレン、4,5−ジメチルフェナントレン、1,8−ジメチルフェナントレン、アセフェナントレン、1−メチルアントラセン、9−メチルアントラセン、9−エチルアントラセン、9−シクロヘキシルアントラセン、9,10−ジメチルアントラセン、9,10−ジエチルアントラセン、9,10−ジシクロヘキシルアントラセン、9−メトキシメチルアントラセン、9−(1−メトキシエチル)アントラセン、9−ヘキシルオキシメチルアントラセン、9,10−ジメトキシメチルアントラセン、9−ジメトキシメチルアントラセン、9−フェニルメチルアントラセン、9−(1−ナフチル)メチルアントラセン、9−ヒドロキシメチルアントラセン、9−(1−ヒドロキシエチル)アントラセン、9,10−ジヒドロキシメチルアントラン、9−アセトキシメチルアントラセン、9−(1−アセトキシエチル)アントラセン、9,10−ジアセトキシメチルアントラセン、9−ベンゾイルオキシメチルアントラセン、9,10−ジベンゾイルオキシメチルアントラセン、9−エチルチオメチルアントラセン、9−(1−エチルチオエチル)アントラセン、9,10−ビス(エチルチオメチル)アントラセン、9−メルカプトメチルアントラセン、9−(1−メルカプトエチル)アントラセン、9,10−ビス(メルカプトメチル)アントラセン、9−エチルチオメチル−10−メチルアントラセン、9−メチル−10−フェニルアントラセン、9−メチル−10−ビニルアントラセン、9−アリルアントラセン、9,10−ジアリルアントラセン、9−クロロメチルアントラセン、9−ブロモメチルアントラセン、9−ヨードメチルアントラセン、9−(1−クロロエチル)アントラセン、9−(1−ブロモエチル)アントラセン、9−(1−ヨードエチル)アントラセン、9,10−ジクロロメチルアントラセン、9,10−ジブロモメチルアントラセン、9,10−ジヨードメチルアントラセン、9−クロロ−10−メチルアントラセン、9−クロロ−10−エチルアントラセン,9−ブロモ−10−メチルアントラセン、9−ブロモ−10−エチルアントラセン、9−ヨード−10−メチルアントラセン、9−ヨード−10−エチルアントラセン、9−メチル−10−ジメチルアミノアントラセン、アセアンスレン、7,12−ジメチルベンズ(a)アントラセン、7,12−ジメトキシメチルベンズ(a)アントラセン、5,12−ジメチルナフタセン、コラントレン、3−メチルコラントレン、7−メチルベンゾ(a)ピレン、3,4,9,10−テトラメチルペリレン、3,4,9,10−テトラキス(ヒドロキシメチル)ペリレン、ビオランスレン、イソビオランスレン、5,12−ジメチルナフタセン、6,13−ジメチルペンタセン、8,13−ジメチルペンタフェン、5,16−ジメチルヘキサセン、9,14−ジメチルヘキサフェン等が挙げられる。
【0045】
また上記以外の縮合多環式芳香族化合物としては、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、ナフタセン、ベンズ[a]アントラセン、ピレン、ペリレン、クリセン等が挙げられる。
【0046】
これら縮合多環式芳香族化合物のなかでも、本発明の歯科用硬化性組成物を口腔内で用いることを考慮すると、可視光で重合を励起することが可能となるように、可視域に吸収を有する化合物であることが好ましく、可視域に極大吸収を有する化合物であることがより好ましい。また、これら縮合多環式芳香族化合物は必要に応じて複数の化合物を併用しても良い。
【0047】
該縮合多環式芳香族化合物等の増感剤の添加量も、組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常は前期した光酸発生剤1モルに対し、増感剤の化合物が0.001〜20モルであり、0.005〜10モルであることが好ましい。
【0048】
さらに増感剤として、上記縮合多環式芳香族化合物に加えて、酸化型の光ラジカル発生剤を配合すると、より一層重合活性が向上し好ましい。酸化型の光ラジカル発生剤は、光照射による励起によって活性ラジカル種を発生させる機構が酸化剤的な作用による(自らは還元される)光ラジカル発生剤をいう。例えば、・光照射により励起してラジカルを発生する化合物であって、励起により水素供与体から水素を引き抜いてラジカルを生成する、所謂、水素引き抜き型タイプのもの、・励起により自己開裂を起こしてラジカルを発生し(自己開裂型ラジカル発生剤)、次いで該ラジカルが電子供与体から電子を引き抜くタイプのもの、・光照射により励起して電子供与体から直接電子を引き抜いてラジカルとなるもの等が挙げられる。
【0049】
これら酸化型の光ラジカル発生剤は特に制限されず、公知の化合物を用いれば良いが、光照射を行った際の重合活性が他の化合物に比してより高い点で、水素引き抜き型の光ラジカル発生剤が好ましく、なかでも、ジアリールケトン化合物、α−ジケトン化合物又はケトクマリン化合物が特に好ましい。
【0050】
ジアリールケトン化合物を具体的に例示すると4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、9−フルオレノン、3,4−ベンゾ―9−フルオレノン、2―ジメチルアミノ―9−フルオレノン、2−メトキシ―9―フルオレノン、2−クロロ―9−フルオレノン、2,7−ジクロロ―9―フルオレノン、2−ブロモ―9―フルオレノン、2,7−ジブロモ―9―フルオレノン、2−ニトロ−9−フルオレノン、2−アセトキ−9−フルオレノン、ベンズアントロン、アントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ジメチルアミノアントラキノン、2,3−ジメチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1,5−ジクロロアントラキノン、1,2−ジメトキシアントラキノン、1,2−ジアセトキシ−アントラキノン、5,12−ナフタセンキノン、6、13−ペンタセンキノン、キサントン、チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、9(10H)−アクリドン、9−メチル−9(10H)−アクリドン、ジベンゾスベレノン等を挙げることができる。
【0051】
α−ジケトン化合物の具体例を例示すれば、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、アセチルベンゾイル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4’−ジメトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等が挙げられる。
【0052】
またケトクマリン化合物としては、3−ベンゾイルクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)7−メトキシ−3−クマリン、3−アセチル−7−ジメチルアミノクマリン、3−ベンゾイル−7−ジメチルアミノクマリン、3,3’−クマリノケトン、3,3’−ビス(7−ジエチルアミノクマリノ)ケトン等を挙げることができる。
【0053】
これら酸化型の光ラジカル発生剤は、単独または2種類以上を混合して用いて使用できる。また、添加量も組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常は前記した光酸発生剤1モルに対し、光ラジカル発生剤が0.001〜20モルであり、0.005〜10モルであることが好ましい。
【0054】
更に、上記成分以外にも光酸発生剤の分解を促進させるために、p−ジメトキシベンゼン、1,2,4−トリメトキシベンゼン、フェニルアラニン、4−ジメチルアミノ安息香酸エステル等の電子供与性の化合物を含んでいても良い。
【0055】
次に、本発明の組成物において、(c)フェノール系酸化防止剤は、従来公知のもが何ら制限無く利用でき、例えば、4−メトキシフェノール、ハイドロキノン等も良好に使用可能である。
【0056】
少量でゲル化防止の効果が高度に発揮されることから、ヒンダードフェノール系酸化防止剤に属するものを用いるのがより好ましい。ここで、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とは、フェノール性水酸基の結合する芳香族炭素に隣接する二つの芳香族炭素の少なくとも1つが、第2級アルキル基、或いは第3級アルキル基によって置換されているものを言う。
【0057】
上記第2級アルキル基としては、イソプロピル基、1−メチルエチル基、1−エチルプロピル基、シクロヘキシル基、1−エチルヘキシル基、1−エチルオクチル基等の炭素数3〜10、より好適には3〜6のものが好ましく、さらに、第3級アルキル基としては、t−ブチル基、2,2−ジメチルエチル基、2,2−ジメチルブチル基、2−メチル−2−エチルプロピル基、1−メチルシクロヘキシル基、2,2−ジメチルオクチル基等の炭素数4〜10、より好適には4〜6のものが好ましい。
【0058】
上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、上述のように樹脂用の酸化防止剤として知られるものが使用できる。これらのなかでも、フェノール性水酸基の結合する芳香族炭素に隣接する二つの芳香族炭素の少なくとも1つが、第3級アルキル基によって置換されているものが、より優れた効果が得られる点で好ましい。このようなヒンダードフェノール系酸化防止剤を具体的に例示すると、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2−t−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、或いは下記式に示す化合物
【0059】
【化3】

【0060】
等が挙げられる。さらに、これらのヒンダードフェノール系酸化防止剤の中でも、フェノール性水酸基の結合する芳香族炭素に隣接する二つの芳香族炭素の、両方が第3級アルキル基によって置換されているものが最も好適に利用される。
【0061】
これらフェノール系酸化防止剤は、必要に応じて複数の化合物を併用しても良い。
【0062】
フェノール系酸化防止剤の添加量も、組み合わせる他の成分やカチオン重合性単量体の種類によって異なるが、本発明の効果を十分に得られ、かつ硬化後の硬化体物性に悪影響を与え難い点で、通常は前記した光酸発生剤1モルに対し、フェノール基が0.001〜1モルであり、より好適には0.005〜0.8モルであることが好ましい。
【0063】
さらに、本発明の組成物において、(d)有機酸の塩類としては、光酸発生能を有しない、pKa値が7以下の有機酸に起因するものが制限なく使用される。ここで、光酸発生能を有しないとは、(b)成分で使用する光酸発生剤に属する塩類と区別するものであり、具体的には、200nmよりも長波長の光を照射したときの酸発生の量子収率が0.001未満であるのものを言う。酸発生の量子収率の測定は、例えばJ Polym Sci Part A: Polym Chem 2003, 41, 2570に記載の方法によって測定できる。
【0064】
また、これらの有機酸の塩類を構成する有機酸のpKa値が7以下であることにより、該塩類は、カチオン重合性単量体中で安定に存在することができる。この有機酸のpKa値が7を超える場合、対応する有機酸塩の塩基性が強くなり、カチオン重合性量体と反応してしまう恐れがある。有機酸のpKa値の測定が困難である場合は、有機酸塩の0.1M水溶液、或いは分散液を調製し、該水溶液、或いは分散液のpH値が10以下であれば、本発明の(d)有機酸の塩類として十分である。
【0065】
なお、pKa値が7以下の無機酸に起因するものの場合、カチオン重合性量体中に対する分散性が著しく低下し、硬化体の曲げ強度等の物性が低下してしまうため、本発明には不適である。
【0066】
このような有機酸としては、例えばトリフルオロアセチルアセトン誘導体、カルボン酸類、スルホン酸類、スルフィン酸類、ホスホン酸類、アルキル硫酸類、モノアルキルリン酸類、ジアルキルリン酸類が挙げられる。これらのなかでも、pKa値が6以下の有機酸類が好ましく、pKa値が5以下の有機酸類がより好ましい。
【0067】
有機酸の塩類を構成する有機酸が、モノアルキルリン酸のような二塩基酸、或いはそれ以上の複数塩基酸の場合、その第一解離に基づくpKa値が7以下であることで、本発明の(d)有機酸の塩類として用いることができる。
【0068】
更に、入手が容易であり、本発明の効果が高いことから、カルボン酸類、アルキル硫酸類、スルホン酸類、またはモノアルキルリン酸類の塩が好ましく、アルキル硫酸類の塩がより好ましい。アルキル硫酸類の塩において、アルキル基は、水酸基、アルキル基、アリールオキシ基、ハロゲン等の置換基を有していてもよく、さらに、基の主鎖の途中にエステル基、カーボネート基、アミド基、ウレタン基、エーテル基等が介在するものであっても良い。
【0069】
一方、該有機酸の有機酸イオン部と塩を生成するカチオン部としてはアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、亜鉛イオン等の金属イオン、またはアンモニウムイオン、モノアルキルアンモニウムイオン、ジアルキルアンモニウムイオン、トリアルキルアンモニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、テトラアルキルホスホニウムイオン、トリアルキルスルホニウムイオン等の有機カチオンが利用できる。
【0070】
より好ましい金属イオンとしては、入手容易であり、本発明の効果が高いことから、アルカリ金属イオン、またはアルカリ土類金属イオンがより好ましく、アルカリ金属塩が特に好ましく、ナトリウム塩が最も好ましい。
【0071】
一方、より好ましい有機カチオンとしては、本発明の効果が高いことから、トリアルキルアンモニウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオンが好ましく、弱酸性を示す場合が多い窒素原子上の水素原子を有さないテトラアルキルアンモニウムイオンが、本発明の効果がより高く発揮さけることから特に好ましい。このようなテトラアルキルアンモニウムイオンとしては公知の物が何ら制限無く利用できる。そのアルキル基としては、炭素数1〜15のもの、より好ましくは炭素数3〜10のものが好適である。例えばテトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルトリメチルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0072】
これら有機酸イオンと塩を生成するカチオン部の中でも、重合性単量体中に均一に溶解可能であり、本発明の効果が特に顕著に発揮されることから、テトラアルキルアンモニウムイオンが最適である。
【0073】
これら有機酸の塩類は、上述したカチオン重合性単量体に均一に溶解しなくても、その効果を十分に発揮できるものであるが、カチオン重合性単量体中への溶解性、分散性を向上させるためには、有機酸中の、酸性官能基以外の部分における炭素数が6以上、より好適には8〜30の有機酸の塩が好ましい。更に好ましくは陰イオン界面活性剤として用いることのできる有機酸塩である。
【0074】
このような有機酸の塩類の具体例を挙げると、カルボン酸塩のカルボン酸イオン部として、
【0075】
【化4】

【0076】
アルキル硫酸塩のアルキル硫酸イオン部として
【0077】
【化5】

【0078】
スルホン酸塩のスルホン酸イオン部として
【0079】
【化6】

【0080】
モノアルキルリン酸塩のモノアルキルリン酸イオン部として
【0081】
【化7】

【0082】
等の、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、またはマグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム塩が挙げられる。
【0083】
これら有機酸の塩類は、必要に応じて複数の化合物を併用しても良い。
【0084】
有機酸の塩類の添加量も、組み合わせる他の成分やカチオン重合性単量体の種類によって異なるが、本発明の効果を十分に得られ、かつ硬化後の硬化体物性に悪影響を与え難い点で、通常は前記した光酸発生剤1モルに対し、有機酸の塩類が0.001〜1モルであり、より好適には0.005〜0.8モルであることが好ましい。
【0085】
本発明の光カチオン硬化性組成物には、上記各成分に加えて、該組成物のより細分化された用途に応じ、本発明の効果を損なわない種類及び配合量の範囲で、他の配合成分が含まれていてもよい。
【0086】
例えば、本発明の硬化性組成物を歯科用充填修復材料として用いる場合には、充填材(フィラー)が配合されていることが好ましい。
【0087】
当該充填材としては、歯科用充填修復材料に配合される有機、無機あるいは有機−無機複合充填材のいずれも配合することが可能であり、
有機充填材としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体、架橋型ポリメチルメタクリレート、架橋型ポリエチルメタクリレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等の有機高分子からなる粒子が挙げられる。
【0088】
無機充填材を具体的に例示すると、石英、シリカ、アルミナ、シリカチタニア、シリカジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等の無機粒子が挙げられる。また、有機−無機複合充填材としては、これら無機粒子と重合性単量体を予め混合し、ペースト状にした後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機−無機複合粒子が挙げられる。なお、無機充填材として、ジルコニア等の重金属を含むものを用いることによってX線造影性を付与することもできる。
【0089】
これら充填材の粒径、形状は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されている、球状や不定形の、平均粒子径0.01μm〜100μmの粒子を目的に応じて適宜使用すればよい。また、これら充填材の屈折率も特に限定されず、一般的な歯科用硬化性組成物の充填材が有する1.4〜1.7の範囲のものが制限なく使用できる。
【0090】
本発明の光カチオン硬化性組成物に上記充填材を配合する場合の配合量も、該組成物がペースト状となる範囲であれば特に限定されないが、歯科用充填修復材料として用いる場合には、無機及び/又は有機−無機複合充填材を採用し、これを前記カチオン重合性単量体100質量部に対して、50〜1500質量部、好ましくは70〜1000質量部とすることが好ましい。
【0091】
さらに、これら無機充填材、有機−無機複合充填材等の充填材は各々単独で用いても良いし、材質、粒径、形状等の異なる複数種のものを併用しても良い。硬化後の機械的物性に優れる点で、歯科用充填修復材料として用いる場合には、無機充填材を主とすることが特に好ましい。
【0092】
また、本発明の光カチオン硬化性組成物には、必要に応じて(メタ)アクリレート系単量体等の付加重合型のラジカル重合性単量体を配合することも可能である。ラジカル重合性単量体を配合することにより、さらに見かけの硬化時間を短くすることができる。但し、付加重合型のラジカル重合性は酸素により重合阻害をうけるため、あまり多量に配合することは好ましくない。
【0093】
ラジカル重合性単量体を配合する場合のその配合量は、カチオン重合性単量体とラジカル重合性単量体の合計100質量%に対して、30質量%以下とすることが好ましく、10質量%以下とすることが好ましい。
【0094】
このようなラジカル重合性単量体を具体的に例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ウレタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系単量体等を挙げることができる。
【0095】
本発明の硬化性組成物を歯科用組成物に用いた場合、上記した成分に加えて、歯科用硬化性組成物、特に歯科用充填修復材料の配合成分として公知の他の成分が配合されていてもよい。
【0096】
このような成分としては、紫外線吸収剤、染料、帯電防止剤、顔料、香料、有機溶媒や増粘剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0097】
本発明の光カチオン硬化性組成物は、上記した歯科用途に制限されず、接着剤、塗料等使用することができるが、特に歯科用充填修復材料として好適である。
【0098】
本発明の硬化性組成物の製造方法は特に制限されるものではなく、公知の硬化性組成物の製造方法を適宜採用すればよい。具体的には、暗所において、本発明の硬化性組成物を構成する、カチオン重合性単量体、光酸発生剤系光重合開始剤、フェノール系酸化防止剤、有機酸の塩類、及び必要に応じて配合されるその他の配合成分を所定量秤取り、これらを混合してペースト状とすればよい。このようにして製造された本発明の光カチオン硬化性組成物は、使用時まで遮光下で保存される。
【0099】
本発明の光カチオン硬化性組成物を硬化させる手段としては、用いた光酸発生剤系光重合開始剤の重合開始機構に従い適宜、公知の重合手段を採用すればよく、具体的には、カーボンアーク、キセノンランプ、メタルハライドランプ、タングステンランプ、蛍光灯、太陽光、ヘリウムカドミウムレーザー、アルゴンレーザー等の光源による光照射、或いは加熱重合器等を用いた加熱、またはこれらを組み合わせた方法等が何等制限なく使用される。光照射により重合させる場合には、その照射時間は、光源の波長、強度、硬化体の形状や材質によって異なるため、予備的な実験によって予め決定しておけばよいが、一般には、照射時間が5〜60秒程度の範囲になるように、各種成分の配合割合を調整しておくことが好ましい。
【実施例】
【0100】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこの実施例によって何等限定されるものではない。尚、本文中、並びに実施例中に使用した化合物の名称および構造を下に示す。
【0101】
1.カチオン重合性単量体
【0102】
【化8】

【0103】
2.光酸発生剤系光重合開始剤
2−1.ヨードニウム塩
【0104】
【化9】

【0105】
2−2.スルホニウム塩
【0106】
【化10】

【0107】
2−3.増感剤
【0108】
【化11】

【0109】
DMBE p−ジメチルアミノ安息香酸エチル
3.フェノール系酸化防止剤
【0110】
【化12】

【0111】
4.光酸発生剤でない有機酸の塩類
【0112】
【化13】

【0113】
上記有機酸の塩類はいずれも、その化合物の極大吸収波長の光照射を行っても酸を発生せず、量子収率の測定はできなかった。
【0114】
また、それぞれを構成する有機酸のpKa値は、SDD及びTEDSの場合に4〜5、SDS及びTBDSの場合に−3〜−2、SBSが−4〜−1、DPDSの場合、第一解離に基づくpKa値が0〜1、同じく第二解離に基づくpKa値が5〜6である。
【0115】
5.その他の成分;ヒンダードアミン系安定剤
【0116】
【化14】

6.充填材
球状フィラー:3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランで処理した球状シリカ(粒径0.2〜2μm)を用いた。
【0117】
また実施例、比較例における各種物性の評価方法を以下に示す。
【0118】
(1)硬化性
(1−1)充填材を含まない場合
各実施例、比較例で調製した組成物を、内径1.6cm、深さ1.1cmのポリプロピレン容器に0.9gを入れ、硬化厚膜を4mmとした。ついで歯科用の光照射器(TOKUSO POWER LITE、(株)トクヤマ社製)を用い、照射距離0.5cmで光照射を1分間行った。このとき、照射後の組成物全体が十分に硬化するものを○、硬化体が柔らかい、或いは未硬化部分が有りべたついている、或いは全く降下していないものを×とした。
【0119】
(1−2)充填材を含む場合
各実施例、比較例で調製した組成物を、練和紙上に取り出し、充填材を含まない場合と同様にして光照射を行った。このとき、光照射後の組成物が十分に硬化し、硬化体が容易に手で割れないものを○、容易に割れるか、或いは全く硬化しないものを×とした。
【0120】
(2)ゲル化までの保存日数
(2−1)充填材を含まない場合
各実施例、比較例で調製した組成物を、遮光条件下50℃恒温装置内で保存した。この硬化性組成物を、1日置きに恒温装置から取り出し、暗所下において室温まで放冷した後、該硬化性組成物の性状を観察した。この際に、同一のカチオン重合性単量体のみからなる(重合開始剤を含まない)組成物と比較し、流動性が大きく失われて粘度が上昇しているか、流動せずゼリー状になった日数をゲル化までの保存日数とした。
【0121】
(2−2)充填材を含む場合
各実施例、比較例で調製した組成物を、遮光条件下50℃恒温装置内で保存した。この硬化性組成物を、1日置きに恒温装置から取り出し、暗所下において室温まで放冷した後、該硬化性組成物の性状を金属製スパチュラで検査した。金属製スパチュラで附形することが出来ず、該充填材料が割れてしまう、或いは硬化し、金属製スパチュラでは割ることが出来ない状態になった日数をゲル化までの保存日数とした。
【0122】
製造例1(TBDSの合成)
5.76g(0.02mol)のSDSと5.56g(0.02mol)のテトラブチルアンモニウムクロライドを100gの蒸留水に溶解し、1時間攪拌した。更に攪拌を続けながら、200gアセトンを少量ずつ加え、その後1時間攪拌した。攪拌後、反応液をろ過し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、水及びアセトンを留去した。得られた濃縮物を100mlのアセトンに溶解し、不溶物をろ過により取り除き、得られたろ液を再びロータリーエバポレーターで濃縮し、更に真空下にて一晩乾燥した。粘調液体としてTBDS(9.7g、収率95.5%)が得られた。以下に元素分析結果とH−NMRの測定結果を示す。
元素分析値(括弧内は計算値)C;65.82(66.22)、H;12.43(12.11)、N;2.55(2.76)
H−NMR(500MHz、CDCl、ppm)4.01(t、2H、−CH−O−)、3.29(t、8H、−CH−N−)、1.68−1.62(m、8H、−CH−CH−N−)、1.49−1.41(m、8H、−CH−CH−CH−N−)、1.37−1.26(m、20H、CH(CH10−CH−O−)、1.01(t、12H、CH−(CH−N−)、0.88(t、3H、CH−(CH11−O−)
実施例1
60質量部のOX−1及び40質量部のEP−1からなるカチオン重合性単量体100質量部に対して、光酸発生剤系光重合開始剤として1.5質量部のIMDPI、0.2質量部のDMBAn及び0.6質量部のCQを、フェノール系酸化防止剤として、0.1質量部のBHTを、有機酸の塩類として0.1質量部のSDDを加え、6時間撹拌した。
【0123】
この組成物の硬化性とゲル化までの保存日数を評価した。結果を表1に示した。
【0124】
実施例2〜7、比較例1〜11
実施例1において、配合するフェノール系酸化防止剤、有機酸の塩類を表1に記載したように変化させた以外は実施例1と同様にして組成物を調製し、その硬化性とゲル化までの保存日数を評価した。結果を併せて表1に示した。
【0125】
【表1】

【0126】
上記表1に示したように、フェノール系酸化防止剤と有機酸の塩類の双方を配合した場合には、硬化性に優れ、50℃での保存下でもゲル化までの保存日数は極めて長かった。それに対し、フェノール系酸化防止剤、又は有機酸の塩類の一方のみを配合した場合(比較例2〜9)には、どちらも配合しない場合(比較例1)に比べればゲル化までの保存日数は長くなるが、各実施例に比べれば大幅に短く十分な保存性が得られなかった。
【0127】
また、比較例10はヒンダードアミン系安定剤を配合したものであり、比較例11はフェノール系酸化防止剤とヒンダードアミン系安定剤の両方を添加したものであるが、フェノール系酸化防止剤と有機酸の塩類の双方を配合した場合ほどの長い保存日数を得ることは困難であった。
【0128】
実施例8、9、比較例12、13
実施例1において、配合する光酸発生剤系光重合開始剤を表2に記載したように変化させた以外は実施例1と同様にして組成物を調製し、その硬化性とゲル化までの保存日数を評価した。また、同じ光酸発生剤系光重合開始剤を使用し、フェノール系酸化防止剤、有機酸の塩類は配合しない組成物も調整し、同様に硬化性とゲル化までの保存日数を評価した(比較例12、13)。結果を併せて表2に示した。
【0129】
【表2】

【0130】
実施例10〜16、比較例14〜24
60質量部のOX−1及び40質量部のEP−1からなるカチオン重合性単量体100質量部に対して、2質量部のTPS、1質量部のDMBAnからなる光酸発生剤系光重合開始剤を用い、フェノール系酸化防止剤、有機酸の塩類、及びその他成分を、表3に記載したように変化させた以外は実施例1と同様にして組成物を調製し、硬化性とゲル化までの保存日数を評価した。結果を併せて表3に示した。
【0131】
【表3】

【0132】
上記表3に示したように、光酸発生剤系光重合開始剤としてスルホニウム塩系重合開始剤を用いた場合においても、フェノール系酸化防止剤及び有機酸の塩類の双方を配合することにより、優れた保存安定性を得ることができた。
【0133】
実施例17
実施例1において、表4に示す割合で、カチオン重合性単量体、ヨードニウム塩系光重合開始剤、フェノール系防止剤類及び有機酸の塩類を用いた以外は実施例1と同様にして液状組成物を調製した。この液状組成物に対して、充填材として球状シリカを含有率70質量%となるように加えて、メノウ乳鉢で混合し、該混合物を真空下、脱泡して気泡を取り除き、充填材を含むペースト状の組成物を得た。
【0134】
この組成物について、硬化性とゲル化までの保存日数を評価した。結果を併せて表4に示した。
【0135】
比較例25〜29
実施例17おいて、表4に示した割合で充填材を配合させた以外は実施例17同様にして、充填材を含むペースト状の組成物を調整し、その硬化性とゲル化までの保存日数を評価した。結果を併せて表4に示した。
【0136】
【表4】

【0137】
上記表4に示したように、充填材が含まれる場合でも、フェノール系酸化防止剤及び有機酸の塩類の双方を配合することにより、いずれか一方しか配合しない場合(比較例26,27)よりも遥かに優れた保存安定性を得ることができた。また、比較例28はヒンダードアミン系安定剤を配合したものであり、比較例29はフェノール系酸化防止剤とヒンダードアミン系安定剤の両方を配合したものであるが、フェノール系酸化防止剤と有機酸の塩類の双方を配合した場合ほどの優れた安定性を得ることは困難であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カチオン重合性単量体
(b)光酸発生剤系光重合開始剤
(c)フェノール系酸化防止剤、及び
(d)光酸発生能を有しない、pKa値が7以下の有機酸の塩類
を含んでなることを特徴とする光カチオン硬化性組成物。
【請求項2】
(c)フェノール系酸化防止剤がヒンダードフェノール系酸化防止剤である請求項1に記載の光カチオン硬化性組成物。
【請求項3】
(b)光酸発生剤系光重合開始剤が、ヨードニウム塩系光重合開始剤である請求項1又は2に記載の光カチオン硬化性組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の光カチオン硬化性組成物からなる歯科用材料。

【公開番号】特開2007−131841(P2007−131841A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279059(P2006−279059)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】