説明

光ジャイロおよびそれを用いたジャイロシステム

【課題】時計回りに伝搬するレーザ光と反時計回りに伝搬するレーザ光とを重ね合わせなくても回転速度を検出可能な光ジャイロを提供する。
【解決手段】半導体光アンプ1は、レーザ光CW,CCWを発振するとともに、レーザ光CW,CCWを誘導放出によって増幅し、レーザ光CW,CCWをそれぞれ端面1A,1Bから光ファイバ2中へ放射する。結合器3は、光ファイバ2中のレーザ光CWを光ファイバ4中へ99%:1%の割合で分岐させる。光検出器5は、光ファイバ4中のレーザ光CWの光強度を検出し、その検出した光強度をスペクトルアナライザ6へ出力する。スペクトルアナライザ6は、レーザ光CW,CCWの重ね合わせ光を2乗検波して得られるビート信号の周波数に相当する光強度の変化周波数を検出し、その検出した変化周波数を検出器7へ出力する。検出器7は、変化周波数に対応する回転角速度を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転体の回転角速度を検出可能な光ジャイロおよびそれを用いたジャイロシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジャイロは、慣性空間に対する回転を測ることができるセンサであり、絶対回転を測定可能なセンサである。そして、このようなジャイロとして、機械式ジャイロと光ジャイロとがある。
【0003】
機械式ジャイロは、回転体の回転軸が慣性空間に対して常に一定方向を向き続ける性質を用いたジャイロである。しかし、機械式ジャイロは、保守が必要であり、高価であり、振動および加速度に弱い等の理由によって、その適用範囲は、航空機、船舶、ロケットおよび人工衛星等に制限されている。
【0004】
これに対し、最近、サニャック効果を用いた光ジャイロが実用化されている。この光ジャイロは、時計回りの光と反時計回りの光とを光路中で伝搬させ、回転体が回転したことに起因して生じる2つの光(時計回りの光および反時計回りの光)の周波数差が回転角速度に比例することを利用したジャイロである。
【0005】
そして、光ジャイロは、光ファイバジャイロおよびリングレーザジャイロに大別され、光ファイバジャイロには、干渉式光ファイバジャイロ、共振方式光ファイバジャイロおよびブリルアン光ファイバジャイロの3種類がある(非特許文献1)。
【非特許文献1】保立 和夫,“光ファイバジャイロの実用化と次世代技術の展開”,レーザー研究,第26巻第4号,1998年4月,p297−303.
【非特許文献2】L. N. Menegozzi and W. E. Lamb, Jr. Phys. Rev. A, 8, 2103, (1971).
【非特許文献3】E. Landau and E. Lifshits, The Classical Theory of Fields, 2nd ed. (Addison-Wesley, Reading, Mass., 1962)
【非特許文献4】P.メスター,M.サージェントIII著,“量子光学の基礎”,シュプリンガーフェアラーク東京株式会社(1995).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の光ジャイロにおいては、光ファイバ中を時計回りに伝搬するレーザ光と反時計回りに伝搬するレーザ光との重ね合わせ光を検出しなければ、回転速度を検出できないという問題があった。
【0007】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、時計回りに伝搬するレーザ光と反時計回りに伝搬するレーザ光とを重ね合わせなくても回転速度を検出可能な光ジャイロを提供することである。
【0008】
また、この発明の別の目的は、時計回りに伝搬するレーザ光と反時計回りに伝搬するレーザ光とを重ね合わせなくても回転速度を検出可能な光ジャイロを備えたジャイロシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によれば、光ジャイロは、リングレーザと、検出手段とを備える。リングレーザは、第1および第2のレーザ光を発振し、その発振した第1および第2のレーザ光を増幅するとともに、第1のレーザ光を時計回りに回転させ、第2のレーザ光を反時計回りに回転させる。検出手段は、リングレーザが所定の平面内で回転しているときにリングレーザ中を伝搬する第1および第2のレーザ光のいずれか一方のレーザ光の光強度の変化周波数に基づいてリングレーザの回転角速度を検出する。
【0010】
好ましくは、リングレーザは、半導体光アンプと、導波路とを含む。半導体光アンプは、第1の端面と、第1の端面に対向する第2の端面とを有するとともに、第1および第2のレーザ光を発振して第1および第2の端面からそれぞれ第1および第2のレーザ光を出射する。導波路は、半導体光アンプから出射された第1および第2のレーザ光を伝搬させる。また、導波路は、第1の端面から出射された第1のレーザ光を時計回りに回転させて第2の端面から半導体光アンプに導くとともに、第2の端面から出射された第2のレーザ光を反時計回りに回転させて第1の端面から半導体光アンプへ導く。
【0011】
好ましくは、導波路は、光ファイバからなる。
【0012】
好ましくは、導波路は、第1および第2の光ファイバと、結合器とを含む。第1の光ファイバは、第1のレーザ光を時計回りに回転させ、第2のレーザ光を反時計回りに回転させる。結合器は、第1の光ファイバ中の第1および第2のレーザ光のいずれか一方のレーザ光の一部を第2の光ファイバへ導く。そして、検出手段は、第2の光ファイバ中のいずれか一方のレーザ光の光強度の変化周波数に基づいて、リングレーザの回転角速度を検出する。
【0013】
また、この発明によれば、光ジャイロは、活性化領域と、パッシブ領域と、検出手段とを備える。活性化領域は、第1および第2のレーザ光を発振するとともに、その発振した第1および第2のレーザ光を増幅する。パッシブ領域は、第1のレーザ光を時計回りに回転させ、第2のレーザ光を反時計回りに回転させる。検出手段は、活性化領域およびパッシブ領域が所定の平面内で回転しているときに活性化領域からパッシブ領域中へ出射された第1および第2のレーザ光のいずれか一方のレーザ光の光強度の変化周波数に基づいて活性化領域およびパッシブ領域の回転角速度を検出する。
【0014】
好ましくは、活性化領域は、半導体光アンプからなり、パッシブ領域は、半導体光アンプの両端に連結された半導体導波路からなる。
【0015】
好ましくは、活性化領域およびパッシブ領域は、同じ半導体基板上に形成される。
【0016】
更に、この発明によれば、ジャイロシステムは、光ジャイロと、送信装置と、受信装置とを備える。光ジャイロは、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の光ジャイロである。送信装置は、検出手段によって検出された回転角速度を無線信号に変換して送信する。受信装置は、送信装置から送信された無線信号を受信し、その受信した無線信号を復号して回転角速度を取得する。
【発明の効果】
【0017】
この発明による光ジャイロにおいては、レーザ光源によって発振された時計回りに伝搬する第1のレーザ光と反時計回りに伝搬する第2のレーザ光とを重ね合わせる前の第1および第2のレーザ光のいずれか一方の光強度は、第1のレーザ光と第2のレーザ光とを重ね合わせたときのビート信号の周波数によって変化する。そうすると、この第1および第2のレーザ光のいずれか一方の光強度が変化する周波数を検出すれば、ビート信号の周波数を検出したことになる。そして、第1および第2のレーザ光のいずれか一方の光強度の変化周波数と回転角速度との間には、比例関係が成り立つ。その結果、第1および第2のレーザ光のいずれか一方の光強度の変化周波数が検出されれば、その検出した変化周波数に対応する回転角速度が検出される。
【0018】
従って、この発明によれば、時計回りに伝搬するレーザ光と反時計回りに伝搬するレーザ光と重ね合わせなくても回転速度を検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0020】
[実施の形態1]
図1は、この発明の実施の形態1による光ジャイロの構成を示す概略図である。図1を参照して、この発明の実施の形態1による光ジャイロ10は、半導体光アンプ(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)1と、光ファイバ2,4と、結合器3と、光検出器5と、スペクトルアナライザ6と、検出器7とを備える。
【0021】
半導体光アンプ1は、インジウムガリウム砒素(InGaAs)からなる活性層を有する。そして、半導体光アンプ1は、例えば、1579nmの波長を有するレーザ光を発振するとともに、その発振したレーザ光を時計回りのレーザ光CWと反時計回りのレーザ光CCWとしてそれぞれ端面1A,1Bから光ファイバ2中へ出射する。また、半導体光アンプ1は、光ファイバ2中を1周したレーザ光CW,CCWを誘導放出によって増幅し、その増幅したレーザ光CW,CCWをそれぞれ端面1A,1Bから光ファイバ2へ出射する。
【0022】
光ファイバ2は、半導体光アンプ1の両端にループ状に連結され、例えば、3.019mの長さおよび1.448の屈折率(コアの屈折率)を有する。そして、光ファイバ2は、半導体光アンプ1の端面1Aから出射されたレーザ光CWを時計回りに回転させ、その回転させたレーザ光CWを端面1Bから半導体光アンプ1中へ導くとともに、半導体光アンプ1の端面1Bから出射されたレーザ光CCWを反時計回りに回転させ、その回転させたレーザ光CCWを端面1Aから半導体光アンプ1中へ導く。
【0023】
結合器3は、光ファイバ2中を伝搬するレーザ光CWが99%であり、光ファイバ4中を伝搬するレーザ光CWが1%となるように、光ファイバ2を光ファイバ4と結合する。
【0024】
光ファイバ4は、結合器3によって光ファイバ2と結合され、光ファイバ2中を伝搬するレーザ光CWの一部(1%)のレーザ光CWを光検出器5に導く。
【0025】
光検出器5は、光ファイバ4中を伝搬するレーザ光CWの光強度を検出し、その検出した光強度をスペクトルアナライザ6へ出力する。
【0026】
スペクトルアナライザ6は、光検出器5によって検出された光強度が変化する周波数Δνを検出し、その検出した周波数Δνを検出器7へ出力する。
【0027】
検出器7は、スペクトルアナライザ6から周波数Δνを受け、その受けた周波数Δνに基づいて、後述する方法によって、回転体の回転角速度を検出する。
【0028】
なお、半導体光アンプ1は、光ファイバ2が両端に接続されることによって時計回りに回転するレーザ光CWと反時計回りに回転するレーザ光CCWとを発振および増幅可能であるため、半導体光アンプ1および光ファイバ2は、リング共振器型のリングレーザを構成する。即ち、半導体光アンプ1および光ファイバ2からなるリングレーザは、活性化領域(半導体光アンプ1)とパッシブ領域(光ファイバ2)とからなるレーザである。
【0029】
光ジャイロ10における周波数Δνと回転角速度との関係を調べる実験を行なう場合、光ジャイロ10は、テーブル20上に載せられる。そして、テーブル20は、サーボ機構30によって各種の回転角速度で時計回りまたは反時計回りに回転される。コントローラ40は、テーブル20を各種の回転角速度で時計回りまたは反時計回りに回転させるようにサーボ機構30を制御する。
【0030】
図2は、図1に示す半導体光アンプ1の平面図である。図2を参照して、半導体光アンプ1は、活性層11と、光閉込層12,13と、反射防止膜14,15とを含む。活性層11は、光閉込層12,13によって挟まれ、端面1A,1Bと斜めに接する。
【0031】
光閉込層12,13は、バリア層およびクラッド層等からなり、活性層11に接して活性層11の両側に設けられる。反射防止膜14,15は、それぞれ、端面1A,1Bに接して形成される。
【0032】
図2に示すように、活性層11が端面1A,1Bに対して斜めに配置された構造は、活性層11および光閉込層12,13等を積層した積層体を形成し、その形成した積層体を活性層11が斜めに配置されるようにカッティングすることによって作製される。
【0033】
電流を活性層11に注入してレーザ発振させると、レーザ光は、光閉込層12,13によって閉じ込められ、活性層11を端面1A,1B方向へ伝搬する。そして、レーザ光は、レーザ光CWとして端面1Aから出射するとともに、レーザ光CCWとして端面1Bから出射する。
【0034】
レーザ光CWは、光ファイバ2中を時計回りに1周して反射防止膜15を介して端面1Bから活性層11中へ導入される。そして、活性層11中へ導入されたレーザ光CWは、誘導放出によって増幅され、再び、端面1Aから出射される。
【0035】
また、レーザCCWは、光ファイバ2中を反時計回りに1周して反射防止膜14を介して端面1Aから活性層11中へ導入される。そして、活性層11中へ導入されたレーザ光CCWは、誘導放出によって増幅され、再び、端面1Bから出射される。
【0036】
このように、半導体光アンプ1は、レーザ光CW,CCWを発振して光ファイバ2中へ出射するとともに、光ファイバ2中を伝搬したレーザ光CW,CCWを誘導放出によって増幅して、再び、光ファイバ2中へ出射する。
【0037】
従って、レーザ光CW,CCWは、端面1A,1Bを何回も通過する必要があり、レーザ光CW,CCWの強度を保持するために端面1A,1Bにおけるレーザ光CW,CCWの反射率は、10−5以下に設定されている。また、半導体光アンプ1内における多重反射を防止する必要があるために端面1A,1Bにおけるレーザ光CW,CCWの反射率は、10−5以下に設定されている。
【0038】
このように、端面1A,1Bにおける反射率を低く抑えるために、活性層11を端面1A,1Bに対して斜めに配置するとともに、端面1A,1Bに反射防止膜14,15を形成する。
【0039】
なお、光ファイバ2は、活性層11からのレーザ光CW,CCWがコアに入射するように、半導体光アンプ1の反射防止膜14,15に連結される。
【0040】
図3は、図1に示す結合器3の構成を示す概略図である。図3を参照して、結合器3は、ガイド31,32を有する。ガイド31,32は、相互に接した2つの光ファイバを挟み込むことにより、2つの光ファイバを結合する。
【0041】
光ファイバ4を光ファイバ2に結合する場合、光ファイバ4を光ファイバ2に接するようにガイド31,32間に配置する。この場合、光ファイバ2のコア21は、光ファイバ4のコア41に近接して配置される。なお、光ファイバ4の一方端は、ターミネーター42によって終端されている。
【0042】
光ファイバ2中を時計回りに伝搬するレーザ光CWは、コア21とコア41との近接部において1%がコア21からコア41へ漏れる。そして、コア41へ漏れた1%のレーザ光CWは、光ファイバ4中を伝搬する。
【0043】
このように、光ファイバ4中を伝搬するレーザ光CWは、光ファイバ2中を伝搬するレーザ光CWの一部(1%)である。
【0044】
光ジャイロ10においては、レーザ光CWとレーザ光CCWとを重ね合わせずにレーザ光CWの光強度が変化する周波数Δνを検出して回転角速度を検出する。即ち、光ジャイロ10は、レーザ光CWとレーザ光CCWとを合波する合波素子を用いないでサニャックビート信号の周波数を検出して回転角速度を検出する。
【0045】
そこで、レーザ光CWとレーザ光CCWとを合波する合波素子を用いないでサニャックビート信号の周波数Δνを検出する方法について説明する。
【0046】
この方法は、半導体の相互利得飽和(四光波混)の効果を利用することにより、片方回転の光強度の振動周波数からサニャックビート信号の周波数Δνを観測するものである。
【0047】
光強度がサニャックビート信号の周波数Δνで振動する原理は、レーザ物理の分野でよく用いられているマクスウェル−ブロッホ(Maxwell−Bloch)方程式によって説明することができる。ここで、リングレーザがパッシブな導波路とアクティブな導波路とから構成されていることのみを仮定する。例えば、光ジャイロ10においては、パッシブな導波路が光ファイバ2であり、アクティブな導波路が半導体光アンプ1である。
【0048】
回転角速度Ωで回転するリンクレーザにおけるレーザ光は、回転座標系において導出されたMaxwell−Bloch方程式により記述することができる。Maxwell−Bloch方程式は、レーザ光の状態を記述する一般的な方程式としてよく知られている(非特許文献2〜4)。
【0049】
光が光ファイバおよび半導体光増幅器により1次元的に閉じ込められていると仮定することにより、次式のMaxwell−Bloch方程式が得られる。
【0050】
【数1】

【0051】
ここで、sは、リング導波路に沿った座標系であり、n(s),RおよびΩは、それぞれ、リング共振器の屈折率、半径および回転角速度である。β(s)は、リング共振器の損失を表す。式(1)の右辺の最後の項は、分極に対応し、N(s)、κおよびρ(s)は、それぞれ、キャリア密度、結合定数およびマクロな分極項である。N(s)は、半導体増幅器内部でのみ0でない定数とする。レーザ媒質である半導体は、次の式(2),(3)のBloch方程式によって記述される。
【0052】
【数2】

【0053】
【数3】

【0054】
ここで、Wは、分布反転を表し、γおよびγ//は、それぞれ、横の緩和定数および縦の緩和定数である。
【0055】
電場E(s,t)および分極ρ(s,t)は、次式のように、回転するリング共振器の固有モードU(s)により構成される。
【0056】
【数4】

【0057】
ここで、νは、モードjの共振周波数である。
【0058】
サニャック効果が生じることを説明するためには、回転角速度が0である時に近縮退状態にあった2つの固有モードの存在を考慮するだけで十分である。従って、電場E(s,t)および分極ρ(s,t)をそれら2モード(j=1,2)によってのみ構成されていることを仮定すると、次の式(5),(6)のように展開される。
【0059】
【数5】

【0060】
【数6】

【0061】
ここで、Eおよびψは、それぞれ、jで示されるモードの振幅および位相である。νは、ν(j=1,2)に近い任意の周波数とする(ν〜ν〜ν)。式(5)および式(6)を式(1)に代入することにより、各モードの時間発展方程式を得ることができる。
【0062】
半導体レーザは、クラスB(γ>>γ//,<β>)に属する媒質である。そのため、分極に対する方程式は、摂動論により、次式によって表される。
【0063】
【数7】

【0064】
従って、分布反転に対する方程式は、次式のようになる(非特許文献4)。
【0065】
【数8】

【0066】
パッシブな導波路(光ファイバ)の長さLがアクティブな導波路の長さlよりも十分に長い時(L>>l)、実効的な光の損失は、パッシブな導波路における損失βによって決定される。つまり、<β>は、<β>〜βである。従って、γ//>>βの特徴があれば、クラスAにおける特徴を持つことができる(半導体光アンプ1および光ファイバ2からなるリング共振器型のリングレーザは、この条件を満たす)。
【0067】
例えば、β〜10(s−1)(光ファイバ)、β〜10−1011(s−1)(半導体増幅器)およびγ//〜10(s−1)(半導体)の場合でも、半導体光アンプ1のようにL(〜1−10m)>>l(〜1mm)であれば、<β>〜β<<γ//の条件を満たすことができるため、クラスAレーザの特徴を持つ。従って、分布反転は、光の状態が定常に緩和する十分前に、ある収束した状態を取ることができる。よく使用されている摂動論によれば、分布反転は、次式のようになる。
【0068】
【数9】

【0069】
よって、式(9)を式(7)に代入し、次の式(10)の関係式を用いることによって、モードj=1,2に対する分極を式(11)のように求めることができる。
【0070】
【数10】

【0071】
【数11】

【0072】
次に、式(5)と式(6)とを式(1)に代入すると、次の式を得ることができる。
【0073】
【数12】

【0074】
【数13】

【0075】
【数14】

【0076】
ここで、Ψ=ψ−ψ(位相差)である。Δν=ν―νである。即ち、このΔνが、サニャックビート信号の周波数である。
【0077】
式(12)〜(14)における係数は、次式のように記述される。
【0078】
【数15】

【0079】
【数16】

【0080】
【数17】

【0081】
【数18】

【0082】
【数19】

【0083】
【数20】

【0084】
【数21】

【0085】
位相差Φが条件Φ>>|F(Φ)|を満たさない場合、よく知られているようにロックイン現象が生じてしまい、dΦ/dt=0となる。しかし、この条件を満足する場合には、Φ(t)=Δνtとなる。この場合において、式(12)および式(13)で示すように、各モードの振幅E,Eは、変調項を通して周波数Δνで振動することになる。特に、E=E=tの場合、つまり、利得中心にあるモードに対しては、次式が成立する。
【0086】
【数22】

【0087】
ここで、a=(α−β)、b=s+2c、d=4|Θ|,e=|ξ|、tanδ=−Δν/2a、tanδ=−Δν/aである。
【0088】
時計回り(CW)の回転波の振幅ECWと反時計回り(CCW)の回転波の振幅ECCWとは、次式によって得られる。
【0089】
【数23】

【0090】
従って、式(22)を式(5)に代入して式(23)を計算することによって、CW方向とCCW方向との回転波の振幅ICW(CCW)を次式のように得ることができる。
【0091】
【数24】

【0092】
式(24)の右辺の括弧内は、定数であり、E(t)は、式(22)から明らかなように、サニャックビート信号の周波数Δνによって変化するので、レーザ光CWとレーザ光CCWの振幅ICW(CCW)(=光強度)は、サニャックビート信号の周波数Δνによって変化する。
【0093】
従って、レーザ光CWとレーザ光CCWとを合波しなくても、レーザ光CWおよびレーザ光CCWのいずれか一方の振幅ICW(またはICCW)を観測することによって、サニャックビート信号の周波数Δνを検出することができる。
【0094】
このような検出が可能な理由は、式(12)および式(13)の振幅変調項が存在するからである。この項は、パッシブな領域の長さLとアクティブな領域の長さlとの比L/lに比例した値を持つ。従って、この振幅変調項は、リングレーザがアクティブな媒質のみによって構成されている場合には消え、サニャックビート信号の周波数Δνによる振幅変調は生じない。リンクレーザがパッシブな領域とアクティブな領域とから構成されていることが、サニャックビート信号の周波数Δνによる振幅変調項を生じさせる重要な要因である。
【0095】
以上より、レーザ光CWおよびレーザ光CCWのいずれか一方の振幅ICW(またはICCW)を観測し、式(22)および式(24)を用いてΔνを計算することによって、サニャックビート信号の周波数Δνを検出できる。
【0096】
従って、スペクトルアナライザ6は、光検出器5からレーザ光CWおよびレーザ光CCWのいずれか一方のレーザ光の光強度ICW(またはICCW)を受け、その受けた光強度ICW(またはICCW)に基づいて、式(22)および式(24)を用いて周波数Δνを計算することによって、サニャックビート信号の周波数Δνを検出する。
【0097】
光ジャイロ10をテーブル20上に載せ、サーボ機構30およびコントローラ40によってテーブル20の回転角速度を変化させてレーザ光CW,CCWを重ね合わせないときのレーザ光CWの光強度ICWに基づいてビート信号の周波数Δνを検出した実験結果について説明する。なお、実験においては、しきい値電流の1.03倍の電流(62.5mA)を注入して半導体光アンプ1を発振させ、レーザ光CW,CCWを生成した。
【0098】
図4は、ビート信号のパワーと周波数との関係を示す図であり、図5は、ビート信号の周波数と回転角速度との関係を示す図である。
【0099】
図4において、横軸は、ビート信号の周波数を表し、縦軸は、ビート信号のパワーを表す。なお、図4は、光ジャイロ10を270度/sの回転角速度で回転させたときのビート信号のパワーと周波数との関係を示す。また、図5において、横軸は、回転角速度を表し、縦軸は、ビート信号の周波数およびパワーを表す。
【0100】
図4を参照して、270度/sの回転角速度においてビート信号のピーク値が観測された。
【0101】
従って、光ジャイロ10においては、レーザ光CW,CCWを重ね合わせないときのビート信号を観測できることが解った。
【0102】
図5を参照して、直線k1は、周波数と回転角速度との関係を示す。ビート信号の周波数は、回転角速度に対して直線的に変化する。より具体的には、ビート信号の周波数は、回転角速度が負である領域においては、回転角速度に対して直線的に低下し、回転角速度が正である領域においては、回転角速度に対して直線的に高くなる(直線k1参照)。そして、直線k1における比例係数(スケールファクター)は、3.9588(kHz・sec/deg)である。
【0103】
従って、ビート信号の周波数Δνを検出することによって回転角速度を検出できる。なお、直線k1においては、−100deg/sec〜+80deg/secの範囲においてビート信号の周波数が観測されていないが、これは、1/(Δν)雑音に埋もれているためである。
【0104】
ビート信号の周波数Δνは、理論的にΔν=(4A/(nλP))Ωによって表される。
【0105】
但し、Aは、光ファイバ2によって囲まれる領域の面積であり、nは、光ファイバ2の屈折率であり、λは、レーザ光CW,CCWの波長であり、Pは、レーザ光CW,CCWのパス長であり、Ωは、回転角速度である。
【0106】
そして、図4および図5に示す実験においては、A=0.3998m、n=1.448、λ=1578.0nm、およびP=3.019mに設定された。これらの値を式Δν=(4A/(nλP))Ωに代入して比例係数を計算すると、4.045(kHz・sec/deg)の比例係数が得られる。
【0107】
従って、実験的に得られた比例係数(3.958)と、理論的に得られた比例係数4.045との誤差は、2.2%であり、光ジャイロ10は、サニャック効果を利用した光ジャイロであることが解った。
【0108】
検出器7は、スペクトルアナライザ6からビート信号の周波数Δνを受けると、その受けたビート信号の周波数Δνに対応する回転角速度を直線k1を参照して検出する。これによって、光ジャイロ10において、レーザ光CWとレーザ光CCWとを重ね合わせなくても回転角速度を検出できる。
【0109】
図6は、実施の形態1による他の光ジャイロの構成を示す概略図である。実施の形態1による光ジャイロは、図6に示す光ジャイロ10Aであってもよい。光ジャイロ10Aは、図1に示す光ジャイロ10の結合器3を結合器8に代え、光ファイバ4を光ファイバ9に代えたものであり、その他は、光ジャイロ10と同じである。
【0110】
結合器8は、光ファイバ2中を伝搬するレーザ光CCWが99%であり、光ファイバ9中を伝搬するレーザ光CCWが1%となるように、光ファイバ2を光ファイバ9と結合する。
【0111】
光ファイバ9は、結合器8によって光ファイバ2と結合され、光ファイバ2中を伝搬するレーザ光CCWの一部(1%)のレーザ光CCWを光検出器5に導く。
【0112】
図7は、図6に示す結合器8の構成を示す概略図である。図7を参照して、結合器8は、ガイド81,82を有する。ガイド81,82は、相互に接した2つの光ファイバを挟み込むことにより、2つの光ファイバを結合する。
【0113】
光ファイバ9を光ファイバ2に結合する場合、光ファイバ9を光ファイバ2に接するようにガイド81,82間に配置する。この場合、光ファイバ2のコア21は、光ファイバ9のコア91に近接して配置される。なお、光ファイバ9の一方端は、ターミネーター92によって終端されている。
【0114】
光ファイバ2中を反時計回りに伝搬するレーザ光CCWは、コア21とコア91との近接部において1%がコア21からコア91へ漏れる。そして、コア91へ漏れた1%のレーザ光CCWは、光ファイバ9中を伝搬する。
【0115】
このように、光ファイバ9中を伝搬するレーザ光CCWは、光ファイバ2中を伝搬するレーザ光CCWの一部(1%)である。
【0116】
光ジャイロ10Aにおいても、ビート信号の周波数Δνと回転角速度との関係は、図5に示す直線k1によって表される。そして、光ジャイロ10Aにおいては、光検出器5は、光ファイバ9中を伝搬するレーザ光CCWの光強度ICCWを検出し、その検出した光強度ICCWをスペクトルアナライザ6へ出力する。そして、スペクトルアナライザ6は、光検出器5から受けた光強度ICCWに基づいて、式(22)および式(24)を用いてサニャックビート信号の周波数Δνを検出し、その検出した周波数Δνを検出器7へ出力する。検出器7は、スペクトルアナライザ6から周波数Δνを受け、その受けた周波数Δνに対応する回転角速度を直線k1を参照して検出する。これによって、光ジャイロ10Aにおいて、レーザ光CWとレーザ光CCWとを重ね合わせなくても回転角速度が検出される。
【0117】
図8は、図1に示す光ジャイロ10を用いたジャイロシステムの構成を示す概略図である。図8を参照して、ジャイロシステム100は、光検出器7に代えて無線装置60を用いて光ジャイロ10を構成し、その構成した光ジャイロ10にリモートコントローラ70を追加した構成からなる。
【0118】
無線装置60は、デジタイザ61、コントローラ62およびアンテナ63からなる。また、リモートコントローラ70は、パーソナルコンピュータ71と、アンテナ72とからなる。
【0119】
デジタイザ61は、スペクトルアナライザ6からビート信号の周波数Δνを受け、その受けたビート信号の周波数Δνをコントローラ62へ出力する。コントローラ62は、ビート信号の周波数Δνに基づいて、上述した方法によって回転角速度を検出する。そして、コントローラ62は、その検出した回転角速度を所定の方式に変調してアンテナ63を介して送信する。
【0120】
アンテナ72は、無線装置60からの電波を受信し、その受信した電波をパーソナルコンピュータ71へ出力する。パーソナルコンピュータ71は、アンテナ72からの電波を復調等して光ジャイロ10において検出された回転角速度を得る。
【0121】
このように、ジャイロシステム100においては、光ジャイロ10は、検出した回転角速度を無線信号によって送信する無線装置60と、無線装置60からの電波を受信し、光ジャイロ10で検出された回転角速度を取得するリモートコントローラ70とを備えるので、光ジャイロ10がテーブル20上で高速に回転しても、光ジャイロ10によって検出された回転角速度を静止しているリモートコントローラ70において取得できる。
【0122】
なお、ジャイロシステム100においては、光ジャイロ10に代えて光ジャイロ10Aが用いられてもよい。
【0123】
また、上記においては、光ファイバ2中を伝搬するレーザ光CW(またはレーザ光CCW)の1%が光ファイバ4(または光ファイバ9)へ漏れると説明したが、この発明においては、これに限らず、光ファイバ2中を伝搬するレーザ光CW(またはレーザ光CCW)の1%〜10%が光ファイバ4(または光ファイバ9)へ漏れるようにしてもよい。
【0124】
[実施の形態2]
図9は、実施の形態2による光ジャイロの構成を示す概略図である。実施の形態2による光ジャイロ10Bは、図1に示す光ジャイロ10の半導体光アンプ1、光ファイバ2,4、結合器3および光検出器5を半導体素子110に代えたものであり、その他は、光ジャイロ10と同じである。
【0125】
半導体素子110は、レーザ光CWおよびレーザ光CCWを発振し、その発振したレーザ光CWを時計回りに伝搬させ、発振したレーザ光CCWを反時計回りに伝搬させるとともに、レーザ光CWおよびレーザ光CCWのいずれか一方のレーザ光の光強度を検出してスペクトルアナライザ6へ出力する。
【0126】
図10は、図9に示す半導体素子110の斜視図である。半導体素子110は、基板111と、半導体光アンプ112と、半導体導波路113,114と、光検出器115とを含む。そして、半導体導波路114は、その一方端がターミネーター1141によって終端されている。
【0127】
基板111は、例えば、n型ガリウム砒素(GaAs)からなる。半導体光アンプ112、半導体導波路113,114および光検出器115は、基板111上に形成される。
【0128】
半導体光アンプ112は、半導体導波路113の円周の一部に設けられる。半導体導波路113は、概略的に略円形形状を有し、断面形状が四角形である。そして、半導体導波路113は、半導体光アンプ112の両端に接する。半導体導波路114は、概略的に円弧の形状を有し、断面形状が四角形である。そして、半導体導波路114は、半導体導波路113に接し、他方端が光検出器115に接する。
【0129】
光検出器115は、基板111に垂直な方向に積層されたp型GaAs/GaAs/n型GaAsからなる。
【0130】
図11は、図10に示す半導体光アンプ112の断面図である。半導体光アンプ112は、クラッド層1121,1123と、活性層1122と、コンタクト層1124と、正極電極1125と、負極電極1126とを含む。
【0131】
クラッド層1121、活性層1122、クラッド層1123およびコンタクト層1124は、基板111上に順次積層される。正極電極1125は、コンタクト層1124上に形成される。負極電極1126は、基板111の裏面に形成される。
【0132】
クラッド層1121は、例えば、n型Al0.8Ga0.2Asからなる。活性層1122は、3層の井戸層220と、4層の障壁層221とからなる。そして、3層の井戸層220および4層の障壁層221は、交互に積層される。井戸層220は、例えば、GaAsからなり、障壁層221は、例えば、Al0.2Ga0.8Asからなる。即ち、活性層1122は、量子井戸構造からなる。
【0133】
クラッド層1123は、例えば、p型Al0.8Ga0.2Asからなる。コンタクト層1124は、例えば、p型GaAsからなる。
【0134】
半導体光アンプ112は、正極電極1125および負極電極1126から電流が注入されることによって、レーザ発振し、一方の端面112Aからレーザ光CWを出射し、他方の端面112Bからレーザ光CCWを出射する。
【0135】
図12は、図10に示す半導体光アンプ112および半導体体導波路113の一部の断面図である。半導体導波路113は、半導体層1131〜1133からなる。半導体層1131は、例えば、n型Al0.8Ga0.2Asからなり、半導体層1132は、例えば、GaAsからなり、半導体層1133は、例えば、p型Al0.8Ga0.2Asからなる。
【0136】
半導体層1131は、基板111上に形成され、半導体層1132は、半導体層1131上に形成され、半導体層1133は、半導体層1132上に形成される。また、半導体層1131は、半導体光アンプ112のクラッド層1121に接して設けられ、半導体層1132は、半導体光アンプ112の活性層1122に接して設けられ、半導体層1133は、半導体光アンプ112のクラッド層1123に接して設けられる。そして、半導体層1132は、n1の屈折率を有し、半導体層1131,1133の各々は、n1よりも小さいn2の屈折率を有する。
【0137】
半導体光アンプ112は、レーザ光を発振し、その発振したレーザ光を端面112Aからレーザ光CWとして半導体導波路113中の半導体層1132へ出射するとともに、端面112Bからレーザ光CCWとして半導体導波路113中の半導体層1132へ出射する。そうすると、半導体層1132の上下には、半導体層1132よりも屈折率が小さい半導体層1131,1133が設けられているため、半導体層1132中へ出射されたレーザ光CW,CCWは、基板111に垂直な方向において光学的に閉じ込められる。また、半導体導波路113は、基板111の面内方向において空気と接するので、半導体層1132中へ出射されたレーザ光CW,CCWは、基板111の面内方向においても光学的に閉じ込められる。従って、半導体層1132中へ出射されたレーザ光CW,CCWは、光学的に閉じ込められて半導体導波路113中を伝搬する。
【0138】
なお、図10に示す半導体導波路114は、図12に示す半導体導波路113と同じ構成からなる。
【0139】
図13は、図9に示す半導体素子110の平面図である。半導体光アンプ112は、半導体導波路113の円周の一部に配置され、半導体導波路113は、半導体光アンプ112の両側の端面112A,112Bに接するように配置される。
【0140】
半導体導波路114は、その一方端がターミネーター1141によって終端されており、半導体導波路113に接するとともに、他方端が光検出器115に接するように配置される。そして、半導体導波路113と半導体導波路114との接触部は、半導体導波路113中を伝搬するレーザ光CWの一部を半導体導波路114へ導く結合器116の機能を果たす。
【0141】
半導体光アンプ112は、レーザ光CW,CCWを発振するとともに、その発振したレーザ光CWを端面112Aから半導体導波路113中へ出射し、発振したレーザ光CCWを端面112Bから半導体導波路113中へ出射する。また、半導体光アンプ112は、半導体導波路113中を時計回りに伝搬して端面112Bから入射されたレーザ光CWを増幅し、その増幅したレーザ光CWを端面112Aから半導体導波路113中へ出射する。更に、半導体光アンプ112は、半導体導波路113中を反時計回りに伝搬して端面112Aから入射されたレーザ光CCWを増幅し、その増幅したレーザ光CCWを端面112Bから半導体導波路113中へ出射する。
【0142】
半導体導波路113は、レーザ光CWを時計回りに伝搬し、レーザ光CCWを反時計回りに伝搬する。
【0143】
半導体導波路114は、半導体導波路113中を伝搬するレーザ光CWの一部をレーザ光CWとして光検出器115へ伝搬する。
【0144】
光検出器115は、半導体導波路114中を伝搬してきたレーザ光CWの光強度ICWを検出し、その検出し光強度ICWをスペクトルアナライザ6へ出力する。
なお、半導体光アンプ112は、半導体導波路113が両端に接続されることによって時計回りに回転するレーザ光CWと反時計回りに回転するレーザ光CCWとを発振および増幅可能であるため、半導体光アンプ112および半導体導波路113は、リング共振器型のリングレーザを構成する。即ち、半導体光アンプ112および半導体導波路113からなるリングレーザは、活性化領域(半導体光アンプ112)とパッシブ領域(半導体導波路113)とからなるレーザである。
【0145】
図14から図16は、それぞれ、図9に示す半導体素子110の製造方法を示す第1から第3の工程図である。また、図17は、図14に示す工程(c)および図16に示す工程(i)における半導体素子110の平面図である。
【0146】
半導体素子110の製造が開始されると、有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によって、半導体層121〜124が基板111上に順次形成される。半導体層121は、n型Al0.8Ga0.2Asからなり、半導体層122は、GaAsとAl0.2Ga0.8Asとを交互に積層した積層構造からなり、半導体層123は、p型Al0.8Ga0.2Asからなり、半導体層124は、p型GaAsからなる(図14の(a)参照)。
【0147】
その後、レジストが半導体層124上に塗布され、その塗布されたレジストをパターンニングしてレジストパターン120が半導体層124上に形成される(図14の(b)参照)。この場合、レジストパターン120は、半導体光アンプ112が形成される領域のみを覆うパターンである。
【0148】
そして、レジストパターン120をマスクとして半導体層122〜124をエッチングし、レジストパターン120を除去する。これによって、半導体光アンプ112、半導体導波路113,114用の半導体層1131および光検出器115用のn型Al0.8Ga0.2Asが基板111上に形成される(図14の(c)参照)。
【0149】
図14に示す工程(c)が終了した時点においては、半導体光アンプ112および半導体導波路113,114用の半導体層1131が基板111上に形成されている(図17の(a)参照)。
【0150】
図14に示す工程(c)の後、GaAsからなる半導体層130が基板111の全面にMOCVD法によって形成される(図15の(d)参照)。この場合、半導体層130の膜厚は、活性層1122の厚さと略同じである。
【0151】
引き続いて、半導体導波路113,114および光検出器115が形成される領域の半導体層130の表面に、レジストパターン140が形成される(図15の(e)参照)。
【0152】
そして、レジストパターン140をマスクとして半導体層130をエッチングし、レジストパターン140を除去する。その結果、半導体光アンプ112、半導体導波路113,114用の半導体層1131,1132および光検出器115用のn型Al0.8Ga0.2As/GaAsが基板111上に形成される(図15の(f)参照)。
【0153】
その後、p型Al0.8Ga0.2Asからなる半導体層150が基板111の全面にMOCVD法によって形成される(図16の(g)参照)。この場合、半導体層150の膜厚は、クラッド層1123の厚さと略同じである。
【0154】
引き続いて、半導体導波路113,114および光検出器115が形成される領域の半導体層150の表面に、レジストパターン160が形成される(図16の(h)参照)。
【0155】
そして、レジストパターン160をマスクとして半導体層150をエッチングし、レジストパターン160を除去する。その結果、半導体光アンプ112、半導体導波路113,114用の半導体層1131〜1133および光検出器115用のn型Al0.8Ga0.2As/GaAs/p型Al0.8Ga0.2Asが基板111上に形成される(図16の(i)参照)。そして、正極電極1125がコンタクト層1124上に形成され、負極電極126が基板111の裏面に形成される(図16の(i)参照)。これによって、半導体素子110が完成する(図17の(b)参照)。
【0156】
半導体素子110においては、半導体光アンプ112がアクティブな領域であり、半導体導波路113,114がパッシブな領域である。従って、半導体導波路113,114中を伝搬するレーザ光CWの光強度ICWは、上述した式(24)によって表され、ビート信号の周波数Δνによって変化する。
【0157】
その結果、光ジャイロ10Bにおいても、重ね合わせる前のレーザ光CWの光強度ICWを検出することによって回転角速度を検出できる。
【0158】
なお、上記においては、半導体導波路113は、略円形形状を有すると説明したが、この発明においては、これに限らず、半導体導波路113は、略三角形、略四角形および略五角形等の多角形の形状を有していてもよい。
【0159】
また、半導体素子110は、半導体導波路113中を伝搬するレーザ光CCWの一部を光検出器115へ導く半導体導波路を半導体導波路114に代えて備えていてもよい。
【0160】
更に、この発明によるジャイロシステムは、図9に示す光ジャイロ10Bを備えていてもよい。
【0161】
その他は、実施の形態1と同じである。
【0162】
上述した実施の形態1においては、半導体光アンプ1と、光ファイバ2,4とを用いた光ジャイロ10,10Aについて説明し、実施の形態2においては、半導体光アンプ112と、半導体導波路113,114とを用いた光ジャイロ10Bについて説明したが、この発明による光ジャイロは、一般的に、レーザCW,CCWを発振および増幅する活性化領域と、活性化領域からのレーザ光CW,CCWをそれぞれ時計回りおよび反時計回りに回転させるパッシブ領域と、活性化領域およびパッシブ領域が所定の平面内で回転しているときに活性化領域からパッシブ領域中へ出射されたレーザ光CW,CCWのいずれか一方のレーザ光の光強度の変化周波数に基づいて活性化領域およびパッシブ領域の回転角速度を検出する検出手段とを備えるものであればよい。
【0163】
この発明においては、光ファイバ2,4は、「導波路」を構成し、半導体導波路113,114は、「導波路」を構成する。
【0164】
また、無線装置60は、「送信装置」を構成する。
【0165】
更に、リモートコントローラ70は、「受信装置」を構成する。
【0166】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0167】
この発明は、時計回りに伝搬するレーザ光と反時計回りに伝搬するレーザ光とを重ね合わせなくても回転速度を検出可能な光ジャイロに適用される。また、この発明は、時計回りに伝搬するレーザ光と反時計回りに伝搬するレーザ光とを重ね合わせなくても回転速度を検出可能な光ジャイロを備えたジャイロシステムに適用される。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】この発明の実施の形態1による光ジャイロの構成を示す概略図である。
【図2】図1に示す半導体光アンプの平面図である。
【図3】図1に示す結合器の構成を示す概略図である。
【図4】ビート信号のパワーと周波数との関係を示す図である。
【図5】ビート信号の周波数と回転角速度との関係を示す図である。
【図6】実施の形態1による他の光ジャイロの構成を示す概略図である。
【図7】図6に示す結合器の構成を示す概略図である。
【図8】図1に示す光ジャイロを用いたジャイロシステムの構成を示す概略図である。
【図9】実施の形態2による光ジャイロの構成を示す概略図である。
【図10】図9に示す半導体素子の斜視図である。
【図11】図10に示す半導体光アンプの断面図である。
【図12】図10に示す半導体光アンプおよび半導体体導波路の一部の断面図である。
【図13】図9に示す半導体素子の平面図である。
【図14】図9に示す半導体素子の製造方法を示す第1の工程図である。
【図15】図9に示す半導体素子の製造方法を示す第2の工程図である。
【図16】図9に示す半導体素子の製造方法を示す第3の工程図である。
【図17】図14に示す工程(c)および図16に示す工程(i)における半導体素子の平面図である。
【符号の説明】
【0169】
1,112 半導体光アンプ、1A,1B,112A,112B 端面、2,4 光ファイバ、3,116 結合器、5,115 光検出器、6 スペクトルアナライザ、7 検出器、10,10A,10B 光ジャイロ、11,1122 活性層、12,13 光閉込層、14,15 反射防止膜、20 テーブル、21,41 コア、30 サーボ機構、31,32 ガイド、40,62 コントローラ、42,92,1141 ターミネーター、60 無線装置、61 デジタイザ、63,72 アンテナ、70 リモートコントローラ、100 ジャイロシステム、110 半導体素子、111 基板、113,114 半導体導波路、121〜124,130,150,1131〜1133 半導体層、120,140,160 レジストパターン、220 井戸層、221 障壁層、1121,1123 クラッド層、1124 コンタクト層、1125 正極電極、1126 負極電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2のレーザ光を発振し、その発振した第1および第2のレーザ光を増幅するとともに、前記第1のレーザ光を時計回りに回転させ、前記第2のレーザ光を反時計回りに回転させるリングレーザと、
前記リングレーザが所定の平面内で回転しているときに前記リングレーザ中を伝搬する前記第1および第2のレーザ光のいずれか一方のレーザ光の光強度の変化周波数に基づいて前記リングレーザの回転角速度を検出する検出手段とを備える光ジャイロ。
【請求項2】
前記リングレーザは、
第1の端面と、前記第1の端面に対向する第2の端面とを有するとともに、前記第1および第2のレーザ光を発振して前記第1および第2の端面からそれぞれ前記第1および第2のレーザ光を出射する半導体光アンプと、
前記半導体光アンプから出射された前記第1および第2のレーザ光を伝搬させる導波路とを含み、
前記導波路は、前記第1の端面から出射された前記第1のレーザ光を前記時計回りに回転させて前記第2の端面から前記半導体光アンプに導くとともに、前記第2の端面から出射された前記第2のレーザ光を前記反時計回りに回転させて前記第1の端面から前記半導体光アンプへ導く、請求項1に記載の光ジャイロ。
【請求項3】
前記導波路は、光ファイバからなる、請求項1または請求項2に記載の光ジャイロ。
【請求項4】
前記導波路は、
前記第1のレーザ光を前記時計回りに回転させ、前記第2のレーザ光を前記反時計回りに回転させる第1の光ファイバと、
第2の光ファイバと、
前記第1の光ファイバ中の前記第1および第2のレーザ光のいずれか一方のレーザ光の一部を前記第2の光ファイバへ導く結合器とを含み、
前記検出手段は、前記第2の光ファイバ中の前記いずれか一方のレーザ光の光強度の変化周波数に基づいて、前記リングレーザの回転角速度を検出する、請求項3に記載の光ジャイロ。
【請求項5】
第1および第2のレーザ光を発振するとともに、その発振した第1および第2のレーザ光を増幅する活性化領域と、
前記第1のレーザ光を時計回りに回転させ、前記第2のレーザ光を反時計回りに回転させるパッシブ領域と、
前記活性化領域および前記パッシブ領域が所定の平面内で回転しているときに前記活性化領域から前記パッシブ領域中へ出射された前記第1および第2のレーザ光のいずれか一方のレーザ光の光強度の変化周波数に基づいて前記活性化領域および前記パッシブ領域の回転角速度を検出する検出手段とを備える光ジャイロ。
【請求項6】
前記活性化領域は、半導体光アンプからなり、
前記パッシブ領域は、前記半導体光アンプの両端に連結された半導体導波路からなる、請求項5に記載の光ジャイロ。
【請求項7】
前記活性化領域および前記パッシブ領域は、同じ半導体基板上に形成される、請求項5または請求項6に記載の光ジャイロ。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の光ジャイロと、
前記検出手段によって検出された前記回転角速度を無線信号に変換して送信する送信装置と、
前記送信装置から送信された無線信号を受信し、その受信した無線信号を復号して前記回転角速度を取得する受信装置とを備えるジャイロシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−102057(P2008−102057A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285832(P2006−285832)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「シームレスな位置情報検出を実現する高精度角速度センサチップの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】