説明

光スペクトラムアナライザ

【課題】 高い波長精度を維持しながら、被測定光に対する連続測定が可能で、広い波長範囲を高速に測定できるようにする。
【解決手段】 被測定光Xとともに光強度が極大または極小となる波長が既知の基準光Rを可変波長フィルタ25に入射させ、被測定光Xに対する可変波長フィルタ25の出射光Xcを第1の受光器50で受け、基準光Rに対する可変波長フィルタ25の出射光Rcを第2の受光器51で受け、第1の受光器50の出力信号Paと第2の受光器51の出力信号Pbとを、可変波長フィルタ25の選択波長の情報に対応づけてメモリ53、54にそれぞれ記憶する。そして、波長情報補正手段56により、被測定光Xのスペクトラムデータの波長情報を、基準光Rのスペクトラムデータと既知波長とに基づいて補正処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変波長フィルタを用いて光のスペクトラム特性を求める光スペクトラムアナライザにおいて、そのスペクトラム特性の波長精度を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光のスペクトラム特性を求める光スペクトラムアナライザは、被測定光を可変波長フィルタに入射し、可変波長フィルタの選択波長を変化させながら、その出射光の強度を検出し、波長対強度の関係、即ちスペクトラムデータを求めている。
【0003】
光スペクトラムアナライザの性能としては、スペクトラムデータの波長精度および分解能が高く、測定波長範囲が広く、波長掃引速度が速いこと等が要求されているが、これらは、主に可変波長フィルタの性能で決まってしまう。
【0004】
光スペクトラムアナライザに従来から用いられている可変波長フィルタとして、ファブリペローフィルタが知られている。
【0005】
ファブリペローフィルタは、図16に示すように、平行に対向する一対の光学素子1、2を有し、その一方の光学素子1の外側から入射された光Paのうち、光学素子1、2の隙間dによって決まる波長成分を他方の光学素子2の外側へ選択的に出射させる所謂キャビティ構成であり、光学素子1、2の隙間dを可変することにより、出射光Pbの波長を変化させることができる。
【0006】
この構成の可変波長フィルタの場合、光学素子1、2の屈折率をnとすると、隙間dと出射光波長λとの間には、2nd=mλ(mは整数)の関係が成立することが知られている。
【0007】
上記構造の可変波長フィルタを実際に構成する場合、光学素子の一方に対して他方を微細に平行移動する機構が必要となる。
【0008】
この移動機構としては、半導体基板等に対するエッチング技術、所謂MEMSの技術を適用して構成したものが知られている(特許文献1)。
【0009】
【特許文献1】米国特許第6373632号明細書
【0010】
図17はその例を示すものであり、平板枠状の基板5の中央に、前記光学素子の一方となる円板6を形成し、さらに基板5の内縁と円板6の外縁の間を、可撓性を有する複数(図17では4つ)の細い梁部7、7、……により連結している。
【0011】
そして、例えばこの円板6に対向する固定電極(図示せず)と円板6との間に電圧を印加して、その静電的な引力により、円板6を前または後ろ(図17では紙面に直交する方向)に移動させて、固定された光学素子との隙間を変化させる。
【0012】
このような可変波長フィルタによって選択された光を受光器に入射して、その強度を求めることで、被測定光のスペクトラムデータを得ることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上記のような光スペクトラムアナライザの一つの問題として、波長精度を維持するために既知波長の基準光を被測定光の代わりに可変波長フィルタに入射して、スペクトラムデータを求め、そのスペクトラムデータの波長軸を基準光の既知波長に基づいて校正することが行われている。
【0014】
しかし、光スペクトラムアナライザを環境変化の激しい場所で使用する場合、その環境変化により光学系が変動して、波長精度が著しく低下する。
【0015】
このため、上記の校正処理を頻繁に行わなければならず、被測定光に対する連続的な測定が困難となる。
【0016】
また、上記のように、可変波長フィルタとしてファブリペローフィルタを用いた光スペクトラムアナライザでは、原理的に波長可変範囲を広くすることができないという問題がある。
【0017】
即ち、前記した隙間dと波長λとの関係から、出射光波長λは、
λ=2nd/m
と表され、同一の隙間dに対して出射波長λは、mの値により複数存在し、一義的に定まらない。
【0018】
図18は、m=1〜4までの波長λと隙間dの関係を表しており、所望の波長範囲をλ1〜λ2とし、m=1において波長λ1〜λ2を実現する隙間の範囲をd1〜d2としたとき、隙間がd2に近い部分では、同一の隙間dに対して異なる3つの波長2nd、nd、2nd/3の成分が選択されてしまう。
【0019】
これを防ぐためには、波長の下限をλ1からλ1′=nd2まで引き上げなければならず、可変範囲が大幅に減少してしまう。
【0020】
また、波長選択特性を狭帯域にするためには、一対の光学素子に高い平行度が要求されるが、前記したように、複数の細い梁部7を介して光学素子に相当する円板6を支持する構造では、梁部7の僅かな特性の違いにより、円板6に傾きが生じてしまい、狭帯域特性を得ることが困難となる。
【0021】
これを解決するためは、円板6を移動させるための電極数を増加して、その姿勢を細かく制御する必要があり、構造が複雑化するとともに、高速な波長可変が困難になる。
【0022】
また、構造的に温度や湿度の変化によって円板6の姿勢が変動しやすく、出射波長の精度が低下するという問題もあった。
【0023】
本発明は、この問題を解決し、高い波長精度を維持しながら、被測定光に対する連続測定が可能で、広い波長範囲を高速に測定できる光スペクトラムアナライザを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の光スペクトラムアナライザは、
入射光に含まれる波長成分を選択的に出射するとともに、その選択波長を変化させる可変波長フィルタ(25)と、
光強度が極大または極小となる波長が既知の基準光を出射する基準光源(23)と、
被測定光を前記可変波長フィルタに対して第1の光軸に沿って入射させる第1の入射部(21)と、
前記基準光を前記可変波長フィルタに対して前記第1の光軸と異なる第2の光軸に沿って入射させる第2の入射部(22)と、
前記被測定光に対して前記可変波長フィルタが出射する光を受ける第1の受光器(50)と、
前記基準光に対して前記可変波長フィルタが出射する光を受ける第2の受光器(51)と、
前記第1の受光器の出力信号と前記第2の受光器の出力信号とを、前記可変波長フィルタの選択波長の情報に対応づけて記憶するスペクトラムデータ記憶手段(52〜55)と、
前記被測定光について得られたスペクトラムデータの波長情報を、前記基準光について得られたスペクトラムデータと該基準光の前記既知波長とに基づいて補正処理する波長情報補正手段(56)とを備えている。
【0025】
また、本発明の請求項2の光スペクトラムアナライザは、請求項1記載の光スペクトラムアナライザにおいて、
前記可変波長フィルタは、
前記被測定光および前記基準光を、回折面の溝に直交する向きで受けて回折する回折格子(26、26A、26B)と、
前記回折格子の回折面に対向する反射面(35a、35b)を有し、該回折面の溝と平行な軸を中心に回動自在に形成され、前記被測定光および基準光に対して前記回折格子が出射する回折光を前記反射面で受けて該回折格子へ戻す回動ミラー(35)とを有し、
前記被測定光について前記回動ミラーから戻された光に対して前記回折格子が第1の特定方向に出射する光を前記第1の受光器で受け、前記基準光について前記回動ミラーから戻された光に対して前記回折格子が第2の特定方向に出射する光を前記第2の受光器で受けることを特徴としている。
【0026】
また、本発明の請求項3の光スペクトラムアナライザは、請求項2記載の光スペクトラムアナライザにおいて、
前記回動ミラーは、
前記ミラー本体(36)と、固定基板(38、39)と、前記固定基板の縁部と前記ミラー本体の外縁との間を連結し且つ長さ方向に捩れ変形して、前記ミラー本体を回動自在に支持する軸(37)と、前記ミラー本体を回動させる回動駆動手段(40、44、45、49)とを有している。
【0027】
また、本発明の請求項4の光スペクトラムアナライザは、請求項2まはた請求項3記載の光スペクトラムアナライザにおいて、
前記回動ミラーの一面側と反対面側に反射面が形成され、
前記回折格子は、前記第1の入射部から入力された被測定光を受け、該被測定光に対する回折光を前記回動ミラーの一面側に入射させる第1の回折格子(26A)と、前記第2の入射部から入力された基準光を受け、該基準光に対する回折光を前記回動ミラーの反対面側に入射させる第2の回折格子(26B)とにより構成されていることを特徴としている。
【0028】
また、本発明の請求項5の光スペクトラムアナライザは、請求項1〜4のいずれかに記載の光スペクトラムアナライザにおいて、
前記基準光源は、
広帯域光を出射する広帯域光源(23a)と、
前記広帯域光を受けて、ピークレベルの波長が既知の複数の光成分を抽出するフィルタ(23b)とにより構成されている。
【0029】
また、本発明の請求項6の光スペクトラムアナライザは、請求項1〜4のいずれかに記載の光スペクトラムアナライザにおいて、
前記基準光源は、
広帯域光を出射する広帯域光源(23a)と、
前記広帯域光を受けて既知波長の光を吸収して出射するガス吸収セル(23c)とにより構成されている。
【0030】
また、本発明の請求項7の光スペクトラムアナライザは、請求項1〜4のいずれかに記載の光スペクトラムアナライザにおいて、
前記基準光源は、
既知波長の複数の単一波長光をそれぞれ出射する複数の狭帯域光源(23d)と、
前記複数の狭帯域光源から出射された単一波長光を合波して出射する光合波器(23e)とにより構成されている。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明の光スペクトラムアナライザは、既知波長の基準光を被測定光とともに可変波長フィルタに常時入射し、そのスペクトラムデータを得て、波長情報を補正しているので、環境変化の激しい場所に設置された場合であっても、被測定光についての波長精度が高いスペクトラムデータを連続的に取得することができる。
【0032】
また、本発明の光スペクトラムアナライザでは、可変波長フィルタとして、回折格子と、所謂MEMS構造の回動ミラーとを用いているので、制御が容易で広い波長範囲を高速に掃引することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した光スペクトラムアナライザ20の全体構成を示している。
【0034】
図1において、第1の入射部21は被測定光Xを後述する可変波長フィルタ25に対して第1の光軸L1に沿って入射させる。また、第2の入射部22は、基準光Rを可変波長フィルタ25に対して第1の光軸L1と異なる第2の光軸L2に沿って入射させる。
【0035】
これらの入射部21、22は、例えば光ファイバのコネクタやコリメートレンズ等で構成される。
【0036】
基準光源23は、後述の波長可変フィルタ25の波長可変範囲内で、光強度が極大または極小となる波長が既知の基準光Rを出射するものであり、例えば図2に示すように、広帯域光Wを出射する広帯域光源23aと、その広帯域光Wを受けて、図3のように各ピークレベルの波長λ(1)、λ(2)、…が既知の複数の光成分r1、r2、…を抽出する光フィルタ23bとにより構成されている。
【0037】
なお、広帯域光源23aは例えばSLD(Super Luminescence Diode)やASE(Amplified Spontaneous Emission)等で構成され、光フィルタ23bは、エタロン(登録商標?)やFBG(ファイバーブラッググレーティング)等で構成される。
【0038】
また、基準光源23として、図4のように、広帯域光源23aから出射された広帯域光Wを受けて、図5のように、既知波長λ(1)′、λ(2)′、…の光を吸収して、光強度が極小となる波長が既知の光を出射するガス吸収セル23cとにより構成することもできる。また、図6のように、既知波長λ(1)、λ(2)、…、の複数の単一波長光をそれぞれ出射する複数の狭帯域光源(例えば半導体レーザ)23d、23d、…と、各狭帯域光源23d、23d、…から出射された単一波長光を合波して出射する光合波器23eとにより構成することもできる。
【0039】
可変波長フィルタ25は、入射光に含まれる波長成分を選択的に出射するとともに、その選択波長を変化させるために、回折格子26と回動ミラー35とを有している。
【0040】
回折格子26は、第1の入射部21から第1の光軸L1に沿って入射される被測定光Xと、第2の入射部22から第2の光軸L2に沿って入射される基準光Rとを、回折面26aの溝27に直交する向きで受けてその回折光を出射する。
【0041】
ここで、第1の光軸L1と第2の光軸L2は平行で且つ回折面26aの一つの溝27を含む平面内にあるものとする。
【0042】
回折格子26は、入射光に含まれ波長成分をその波長に対応した角度でそれぞれ出射するが、この場合のように、被測定光Xと基準光Rとが回折面26aに対して同一角度で入射された場合、被測定光Xに含まれる波長成分と基準光Rに含まれる波長成分のうち、同一波長成分の回折光は、回折面26aから同一の出射角で溝27の長さ方向に平行にずれた光軸に沿ってそれぞれ出射され、回動ミラー35に入射される。
【0043】
回動ミラー35は、回折格子26の回折面26aに対向する反射面35aを有し、回折面26aの溝27と平行な軸Lcを中心に回動自在に形成され、被測定光Xおよび基準光Rに対して回折格子26が出射する回折光のうち、反射面35aに直交する回折光Xa、Raを同一光軸で逆向きに折り返し回折格子26へ戻される。
【0044】
この折り返し光Xb、Rbは、回折格子26に入射され、その入射角と波長によって決まる角度でそれぞれ出射されることになる。
【0045】
また、回動ミラー35の角度が変わると、反射面35aに直交する回折光Xa、Raの波長と、その折り返し光Xb、Rbの回折格子35への入射角が変わることになるが、回折格子26に対する回動ミラー35の位置を適宜設定しておくことで、回折格子26に対する回動ミラー35の角度が変わった場合でも、折り返し光Xb、Rbに対して回折格子26が出射する回折光Xc、Rcの出射角が変わらないようにしている。
【0046】
一方、回動ミラー35は、所謂MEMS(Micro Electro
Mechanical System)技術により形成され、半導体基板のエッチング技術を利用して小型に且つ高い寸法精度で構成されている。
【0047】
図7は、回動ミラー35の構成例を示したものである。図7において、ミラー本体36は横長矩形の平板状に形成され、その一面側に反射面36aが形成されている。ミラー本体36の上下には、横長矩形の固定基板38、39が平行に配置されている。
【0048】
上側の固定基板38の下縁中央とミラー本体36の上縁中央の間および下側の固定基板39の上縁中央とミラー本体36の下縁中央の間は、互いに一直線状に並んだ軸37、37によって連結されている。
【0049】
この軸37の幅および厚さは、長さ方向に所望の回動角度範囲において捩れ変形し、またその変形状態から復帰できるように設定されており、この上下一対の軸37の捩れ変形により、ミラー本体36は、固定基板38、39に対してその軸37を中心に往復回動できるようになっている。ただし、ミラー本体36、軸37、37および固定基板38、39からなるブロックを、一枚の半導体基板に対するエッチング処理で形成しているので、軸37の厚さは、ミラー本体36、固定基板38、39の厚さと共通である。
【0050】
また、このようにミラー本体36、軸37、37および固定基板38、39で一体的に形成されたブロックは、回転駆動力を静電的に与えるために導電性を有している。
【0051】
なお、ここでは2つの互いに分離した固定基板38、39を用いているが、この固定基板38、39の両端間を連結して枠状に形成した一つの固定基板の内側に、2本の軸37を介してミラー本体36を回動自在に支持する構造であってもよい。
【0052】
固定基板38、39は、絶縁性を有する支持基板40の一面側に互いに平行に設けられたスペーサ41、42の上に重なり合うように固定されている。また、支持基板40の一面側で、ミラー本体36の背面の両端に対向する位置には、電極板44、45が固定されている。
【0053】
そして、この一対の電極板44、45とミラー本体36を含むブロックの間に、駆動信号発生器49から、例えば図8の(a)、(b)のように、互いに電圧レベルが反転する駆動信号Va、Vbを周期的に印加すれば、電極板44、45とミラー本体36の背面両端との間に、静電的な吸引力が交互に生じ、ミラー本体36が例えば図8の(c)のように、ほぼ正弦的に往復回動する。なお、この駆動信号Va、Vbは、例えば、駆動信号発生器49の内部で生成された周波数の高いクロック信号Cを分周することにより得ている。
【0054】
ここで、駆動信号Va、Vbの周波数を、ミラー本体36の形状や重さ、軸37のバネ定数などで決まるミラー本体36の固有振動数に対応した値に設定すれば、少ない駆動電力で大きな回動振幅が得られる。
【0055】
また、前記したように、この回動ミラー35は、MEMS技術によりミラー本体36を含めて全体的に非常に小型且つ軽量に形成され、しかも、ミラー本体36の形状を限定する要素はないので、この例のように軸37に対して左右対称に形成できる。したがって、振動を生じることなく、ミラー本体36を数100Hz〜数10kHzで高速に往復回動させることが可能であり、高速な波長掃引が実現できる。
【0056】
また、回動ミラー35を任意の角度で一時的に停止させる動作モードの場合には、駆動信号発生器49からいずれか一方の電極板に一定電圧を印加すればよく、その電圧を変えることで、回動ミラー35の角度を可変できる。
【0057】
なお、回動ミラー35の構造は上記のものに限定されるものではなく、種々の形状変更が可能であり、また、駆動方式も前記した静電的な力だけでなく、磁石やコイルを用いて得られる磁気的な力を用いてもよい。また、圧電素子等を用いて機械的な力を与えてもよい。
【0058】
このような構成の回動ミラー35から出射された折り返し光Xbに対して回折格子26が第1の特定方向Aに出射する回折光Xcは、第1の受光器50に入射され、折り返し光Rbに対して回折格子26が第2の特定方向B(この場合、第1の特定方向Aと平行)に出射する回折光Rcは、第2の受光器51に入射される。
【0059】
第1の受光器50および第2の受光器51は、それぞれの入射光の強度に対応した強度信号Pa、Pbが出力する。
【0060】
これらの強度信号Pa、Pbは、2チャネルのA/D変換器52によってデジタル信号列Da、Dbに変換され、第1のメモリ53および第2のメモリ54に対して時系列に記憶される。メモリ53、54に対するアドレスAの指定は、アドレス指定手段55によってなされる。
【0061】
アドレス指定手段55は、可変波長フィルタ25の駆動信号発生器49から出力されるクロック信号Cと駆動信号Va(Vbでもよい)とを受け、例えば、駆動信号Vaの立ち上がりタイミングから立ち下がりタイミングまでクロック信号Cの計数を行い、その計数結果をアドレス値Aとして出力する。
【0062】
波長情報補正手段56は、被測定光について得られたスペクトラムデータの波長情報を、基準光について得られたスペクトラムデータと既知波長とに基づいて補正処理する。
【0063】
この補正処理としては種々の方法が考えられるが、最も単純な方法は、図9の(a)に示すように、メモリ54に記憶された基準光Rのスペクトラムデータに対して、その強度が極大となる点のアドレスAm(1)、Am(2)、…を求め、そのアドレスAm(1)、Am(2)、…がそれぞれ既知波長λ(1)、λ(2)、…に相当するものとし、波長差Δλ(i)=λ(i+1)−λ(i)を、アドレス差ΔAi=Am(i+1)−Am(i)で除算して、アドレス1ポイントあたりの波長変化量を求め、アドレスAm(i)、Am(i+1)の間の各アドレスに波長を割り当てる補間処理である。
【0064】
この補間処理により、メモリ54の各アドレスと波長との関係が求められるが、上記のように基準光Rと被測定光Xとが可変波長フィルタ25の回折格子26に対して同一角で入射され、且つ第1の受光器50と第2の受光器51とが回折格子26に対して同一角度の方向に設けられているので、上記の基準光Rについて得られたアドレス対波長の情報はそのままメモリ53についても適用できる。
【0065】
したがって、図9の(b)のように、メモリ53に記憶された被測定光Xについてのスペクトラムデータが図示しないスペクトラム表示手段に読み出される際に、波長情報補正手段56で得られたアドレス対波長の情報をそのスペクトラム表示手段に与えることで、正確な波長軸上に被測定光Xについてのスペクトラム波形を表示させることができる。
【0066】
上記波長情報補正手段56による波長補正処理は、波長掃引毎に行うことができるので、たとえ、環境変化の激しい場所に設置された場合であっても、被測定光について常に波長情報が校正された正確なスペクトラムデータを得ることができる。
【0067】
なお、実際には、波長掃引毎に無条件に上記波長補正処理を行う必要はなく、初回の掃引で基準光Rについて得られたスペクトラムデータからアドレス対波長の情報を求め、2回目以降の掃引については、前記したアドレスAm(i)と既知波長λ(i)との対応関係が変化するか否かを判定し、対応関係が変化しない場合には、アドレス対波長の情報の更新はしないでよい。
【0068】
波長情報補正手段56による波長補正処理は、上記のようなアドレス対波長の情報を更新する方法の他に、アドレス指定手段55あるいは駆動信号発生器49に対するフィードバック制御によっても実現できる。
【0069】
例えば、前記同様に、初回の掃引で基準光Rについて得られたスペクトラムデータから前記同様にアドレス対波長の情報を求め、2回目以降の掃引については、前記したアドレスAm(i)と既知波長λ(i)との対応関係が変化するか否かを判定し、対応関係が変化しない場合には、アドレス対波長の情報の更新はしない。
【0070】
また、アドレスAm(i)と既知波長λ(i)との対応関係が変化した場合には、その変化が掃引の位相変化であるか、振幅変化であるか、あるいはその両方を含むかを判定する。
【0071】
ここで、掃引の位相変化とは、図10の(a)の駆動信号Vaの位相に対して回動ミラー35の回動位相が図10の(b)のように、全体的に遅れたり進むことであり、振幅変化は、図10の(c)のように、回動ミラー35の回動振幅が大きくなったり小さくなることである。
【0072】
例えば、駆動信号Vaの位相に対して回動ミラー35の回動位相が全体的に遅れた場合、基準光Rのスペクトラムデータの各極大点のアドレスAm(i)′がそれぞれ元のアドレスAm(i)より全体的に増加する。
【0073】
また、駆動信号Vaに対して回動ミラー35の回動振幅が大きくなった場合、基準光Rのスペクトラムデータの各極大点のアドレスAm(i)′のうち、掃引中心波長より長い既知波長分についてはそれぞれ元のアドレスAm(i)より大きくなり、掃引中心波長より短い既知波長分についてはそれぞれ元のアドレスAm(i)より小さくなる。
【0074】
したがって、2回目以降の掃引において得られた各アドレスAm(i)′がそれぞれ元のアドレスAm(i)より全体的に増加した場合には、回動ミラー35の回動位相に遅れがあると判定し、そのアドレスの平均的な増加分だけ減じられたアドレスAが、アドレス指定手段55からメモリ53、54に入力されるように制御して、基準光についてのスペクトラムデータを常に初回のスペクトラムデータと一致させる。
【0075】
また、2回目以降の掃引において得られた掃引中心波長より長い既知波長分の各アドレスAm(i)′がそれぞれ元のアドレスAm(i)より大きくなり、掃引中心波長より短い既知波長分の各アドレスAm(i)′がそれぞれ元のアドレスAm(i)より小さくなった場合には、回動ミラー35の回動振幅が大きくなったと判定し、そのアドレスの最大の変化量に対応した分の電圧を減じた振幅の駆動信号Va、Vbが、駆動信号発生器49から回動ミラー26に入力されるように制御して、基準光についてのスペクトラムデータを常に初回のスペクトラムデータと一致させる。
【0076】
また、上記2つの現象が重なった場合には、上記処理を併用して、基準光についてのスペクトラムデータを常に初回のスペクトラムデータと一致させる。
上記のようなフィードバック制御は、波長補正処理としては若干の遅れを発生させるが、掃引毎にアドレスの補間演算処理を行う必要がないので、高速掃引の場合にも対応できるという利点がある。
【0077】
上記した光スペクトラムアナライザ20では、可変波長フィルタ25の単一の回折格子26に対して基準光Rと被測定光Xとを入射させていたが、図11に示す光スペクトラムアナライザ60のように、2つの回折格子26A、26Bを用いて可変波長フィルタ25を形成することも可能である。
【0078】
ここで、第1の回折格子26Aは、第1の入射部21から所定入射角で入射された被測定光Xを回折面26aで受けて、その回折光Xaを回動ミラー35の一方の反射面35aに入射し、その折り返し光Xbを受けて第1の特定方向Aへ出射し、第1の受光器50へ入射させる。
【0079】
また、第2の回折格子26Bは、回動ミラー35の回動中心に対して第1の回折格子26Aを180度回転させた位置に配置されており、第2の入射部22から前記所定入射角で入射された基準光Rを回折面26aで受けて、その回折光Raを回動ミラー35の他方の反射面35bに入射し、その折り返し光Rbを受けて第2の特定方向Bへ出射し、第2の受光器51へ入射させる。
【0080】
なお、上記のように両面反射型の回動ミラー35は、前記図7の支持基板40の中央に穴をあけることで実現できる。
【0081】
この構成の光スペクトラムアナライザ60のように、第1の回折格子26Aと第2の回折格子26Bが回動ミラー36の回動中心に対して点対称となる位置に配置され、しかも、第1の回折格子26Aに対する被測定光Xの入射角と第2の回折格子26Bに対する基準光Rの入射角は等しいため、回動ミラー35が回動した場合に第1の受光器50と第2の受光器51に入射される光の波長は常に等しい。つまり、前記実施例の光スペクトラムアナライザ20と光学的に等価である。
【0082】
したがって、前記同様に、基準光Rについてのスペクトラムデータが極大(または極小)となるアドレスと既知波長とにより、被測定光のスペクトラムデータの波長情報を補正することができる。
【0083】
上記のように2つの回折格子26A、26Bを用いたものでは、回動ミラー35の軸方向の高さを小さくすることができる。
【0084】
図12は、回動ミラー35に対して2つの回折格子26A、26Bを面対称に配置した光スペクトラムアナライザ70の構成例を示している。
【0085】
ここで、第1の回折格子26Aは、第1の入射部21から所定入射角で入射された被測定光Xを回折面26aで受けて、その回折光Xaを回動ミラー35の一方の反射面35aに入射し、その折り返し光Xbを受けて第1の特定方向Aへ出射し、第1の受光器50へ入射させる。
【0086】
また、第2の回折格子26Bは、回動ミラー35の回動中心に対して第1の回折格子26Aを180度回転させた位置に配置されており、第2の入射部22から前記所定入射角で入射された基準光Rを回折面26aで受けて、その回折光Raを回動ミラー35の他方の反射面35bに入射し、その折り返し光Rbを受けて第2の特定方向Bへ出射し、第2の受光器51へ入射させる。
【0087】
この構成の光スペクトラムアナライザ70の場合も、第1の回折格子26Aに対する被測定光Xの入射角と第2の回折格子26Bに対する基準光Rの入射角は等しいが、第1の回折格子26Aと第2の回折格子26Bが回動ミラー36に対して面対称となる位置に配置されているので、図13のように、回動ミラー35の角度変化に対して、第1の受光器50と第2の受光器51に入射される光の波長の掃引方向が逆で、回動ミラー35の回動中心を基準にして対称特性となる。
【0088】
したがって、基準光Rについてのスペクトラムデータの各アドレスを変換する、即ち、各アドレスをアドレス最大値Mから減算したり、第1のメモリに対するアドレス指定をアドレス最大値Mから、M−1、M−2、…、0の順に行うことで、被測定光Xのスペクトラムデータとを対応させることができ、このアドレス変換処理後に、前記同様の補間処理を行うことで被測定光のスペクトラムデータの波長情報を校正できる。
【0089】
上記各実施例は、回折格子に対する基準光Rと被測定光Xの入射角を等しくしていたが、例えば図14の光スペクトラムアナライザ80のように、回折格子26に対する基準光Rの入射角と被測定光Xの入射角とが異なるようにしてもよい。
【0090】
ただし、この場合、回動ミラー35の角度変化に対して、図15のように第1の受光器50と第2の受光器51に入射される光の波長掃引特性が異なってしまう。
【0091】
ここで、波長掃引の中心は、受光器位置に依存し、波長掃引の広さは回折格子に対する光の入射角に依存するので、予め被測定光に対する波長掃引範囲を包含するように、基準光についての波長掃引範囲を設定しておき、被測定光の代わりに基準光Rを入射して、第1の受光器50の出力から得られた基準光Rのスペクトラムデータと第2の受光器51の出力から得られた基準光Rのスペクトラムデータとの波長同士を関連づける式を求めておく。
【0092】
そして、被測定光Xが入射されている状態で、基準光Rについてのスペクトラムデータの波長情報に変化があったときには、その変化と前記式とから、被測定光Xのスペクトラムデータの波長情報を校正すればよい。
【0093】
なお、上記各実施形態では、被測定光の入射手段が一つの例であったが、被測定光について多チャネル化してもよい。
【0094】
多チャネルの場合には、各チャネルの掃引範囲を等しく設定する構成だけでなく、掃引範囲が異なるように設定する構成であってもよく、いずれの場合であっても、前記した各実施例のように、基準光Rを常時入射しておくことで、各チャネルについての波長情報を正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の実施形態の全体構成図
【図2】実施形態の要部構成例を示す図
【図3】要部の出力スペクトラム図
【図4】実施形態の要部構成例を示す図
【図5】要部の出力スペクトラム図
【図6】実施形態の要部構成例を示す図
【図7】実施形態の要部構成例を示す図
【図8】駆動波長掃引のための駆動信号と角度変化の対応図
【図9】波長情報の補正処理を説明するためのスペクトラム図
【図10】波長掃引特性の変動例を示す図
【図11】2つの回折格子を用いた実施形態を示す図
【図12】2つの回折格子を用いた別の実施形態を示す図
【図13】波長掃引特性を示す図
【図14】他の実施形態を示す図
【図15】波長掃引特性を示す図
【図16】光スペクトラムアナライザに用いられている従来の可変波長フィルタの構造図
【図17】従来の可変波長フィルタの要部の構造図
【図18】波長と隙間との関係を示す図
【符号の説明】
【0096】
20、60、70、80……光スペクトラムアナライザ、21……第1の入射部、22……第2の入射部、23……基準光源、25……可変波長フィルタ、26、26A、26B……回折格子、35……回動ミラー、49……駆動信号発生器、50……第1の受光器、51……第2の受光器、52……A/D変換器、53……第1のメモリ、54……第2のメモリ、55……アドレス指定手段、56……波長情報補正手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光に含まれる波長成分を選択的に出射するとともに、その選択波長を変化させる可変波長フィルタ(25)と、
光強度が極大または極小となる波長が既知の基準光を出射する基準光源(23)と、
被測定光を前記可変波長フィルタに対して第1の光軸に沿って入射させる第1の入射部(21)と、
前記基準光を前記可変波長フィルタに対して前記第1の光軸と異なる第2の光軸に沿って入射させる第2の入射部(22)と、
前記被測定光に対して前記可変波長フィルタが出射する光を受ける第1の受光器(50)と、
前記基準光に対して前記可変波長フィルタが出射する光を受ける第2の受光器(51)と、
前記第1の受光器の出力信号と前記第2の受光器の出力信号とを、前記可変波長フィルタの選択波長の情報に対応づけて記憶するスペクトラムデータ記憶手段(52〜55)と、
前記被測定光について得られたスペクトラムデータの波長情報を、前記基準光について得られたスペクトラムデータと該基準光の前記既知波長とに基づいて補正処理する波長情報補正手段(56)とを備えた光スペクトラムアナライザ。
【請求項2】
前記可変波長フィルタは、
前記被測定光および前記基準光を、回折面の溝に直交する向きで受けて回折する回折格子(26、26A、26B)と、
前記回折格子の回折面に対向する反射面(35a、35b)を有し、該回折面の溝と平行な軸を中心に回動自在に形成され、前記被測定光および基準光に対して前記回折格子が出射する回折光を前記反射面で受けて該回折格子へ戻す回動ミラー(35)とを有し、
前記被測定光について前記回動ミラーから戻された光に対して前記回折格子が第1の特定方向に出射する光を前記第1の受光器で受け、前記基準光について前記回動ミラーから戻された光に対して前記回折格子が第2の特定方向に出射する光を前記第2の受光器で受けることを特徴とする請求項1記載の光スペクトラムアナライザ。
【請求項3】
前記回動ミラーは、
前記ミラー本体(36)と、固定基板(38、39)と、前記固定基板の縁部と前記ミラー本体の外縁との間を連結し且つ長さ方向に捩れ変形して、前記ミラー本体を回動自在に支持する軸(37)と、前記ミラー本体を回動させる回動駆動手段(40、44、45、49)とを有していることを特徴とする請求項2記載の光スペクトラムアナライザ。
【請求項4】
前記回動ミラーの一面側と反対面側に反射面が形成され、
前記回折格子は、前記第1の入射部から入力された被測定光を受け、該被測定光に対する回折光を前記回動ミラーの一面側に入射させる第1の回折格子(26A)と、前記第2の入射部から入力された基準光を受け、該基準光に対する回折光を前記回動ミラーの反対面側に入射させる第2の回折格子(26B)とにより構成されていることを特徴とする請求項2または請求項3記載の光スペクトラムアナライザ。
【請求項5】
前記基準光源は、
広帯域光を出射する広帯域光源(23a)と、
前記広帯域光を受けて、ピークレベルの波長が既知の複数の光成分を抽出するフィルタ(23b)とにより構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光スペクトラムアナライザ。
【請求項6】
前記基準光源は、
広帯域光を出射する広帯域光源(23a)と、
前記広帯域光を受けて既知波長の光を吸収して出射するガス吸収セル(23c)とにより構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光スペクトラムアナライザ。
【請求項7】
前記基準光源は、
既知波長の複数の単一波長光をそれぞれ出射する複数の狭帯域光源(23d)と、
前記複数の狭帯域光源から出射された単一波長光を合波して出射する光合波器(23e)とにより構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光スペクトラムアナライザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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